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Clock(trial)

男「俺は、いつかテメーを殺すぜ?」

 
――スコットランド グラスゴーターミナル駅 ロンドンシティ向け列車乗り場

アンジェレネ「――そ、そんな訳でですねっ。わ、わたしは上条さんを守るため、襲い掛かってくる敵を千切っては投げ千切っては投げ!」

上条「待て。そんなシーンあったか?てか敵の魔術師出てきたか、今回?」

上条「ザックリ言えば、道に迷って穴に落ちてバーベキューやって帰って来た、だけだからな?」

アニェーゼ「シスター・オルソラとの話と大分乖離してますがね。果敢に戦ったのは主にハギス相手って聞いてますけど」

ルシア「あまり、というか少し苦手ですね。肉の臭味が」

上条「ハーブ振ってあんだけどな。昔ながらの製法だとキツいかもしれない」

アンジェレネ「た、体調の悪そうなシスター・オルソラがお残ししないように!わたしが身をはってですね!」

アニェーゼ「”ていして”じゃないですかね。ジャパニーズ的には」

上条「大丈夫だよ。少しぐらい変な日本語使った方が人気ですから」 ポンッ

アニェーゼ「私の肩に気安く触んねぇでください。金取りますよ?」

上条「おい不用意なこと言うな!課金するアホが出てくるんだからな!」

アニェーゼ「私の肩にそんな価値があったとは驚きです。料金いくらにしましょうかね」

アンジェレネ「と、という訳で!お仕事は帰るまでがお仕事ですよっ!気を抜かずに!」

ルチア「意気込みは買いますが。その、少々空回り気味なのも……」

上条「まぁまぁ。前よりはポジティブになったし、いいんじゃないか?」

ルチア ジーッ

上条「なんだよ」

ルチア「……不適切なことはしてないんですよね?」

上条「信用ねぇなおい」

ルチア「いえ、流石に信用は以前よりも少しだけ。実績を出した人間を評価しないのは狭量の罪になりますから」

上条「そりゃどうも」

ルチア「ですが『一夏の思い出は少女をオトナにさせる』と参考文献には」

上条「参考文献がティーンズ紙だろそれ!?しかもなんかこう嘘八百あることないこと書くタイプの!」

上条「あとその記事書いてんのは基本オッサンかオバサン達だ!実体験とは程遠いぞ!」

ルチア「読んでいて気になったのですが、『ウェーイ』とは一体……?」

上条「鳴き声だな。ヒト科ヒト属ホスト系イキってる男子亜種の。最近じゃレアになってきた」

ルチア「何故肌を焼く必要性があるのでしょうか?」

上条「それはね。歳喰ってから全部シミになって、『あ、この人カタギじゃねぇなぁ』ってセルフ識別させるためのアイコンなんだよ」

上条「というか日本のティーンズ紙なんか読んでも日本文化が分からないよ?そりゃごく一部の要らん知識は増えるかもだが」

アニェーゼ「日本で売ってる旅行ガイドでも酷いのはたまにあるんですがね」

上条「そんなのあんの?無難かつ定番な観光コースだけ紹介してるもんだとばかり」

アニェーゼ「それが大手で、個人が出してるようなのあるじゃあないですかい?」

アニェーゼ「こう、『小さくてお洒落な小物が並んでる裏通りの雑貨屋さん☆』的なのが並んでる、一見通向けの」

上条「あー、書店で見たわ。大手が出してる本の横に並んでた」

アニェーゼ「観光地のすぐ近場の、かつ人通りの少ない場所でさして流行ってもいないのに営業を続けられる店。入りたいと思います?」

上条「そのぐらいだったらあんじゃね?日本でも鎌倉の隠された名店とか!……いや、行ったことないけど」

アニェーゼ「観光地ですから地価はアホみたいに高く、しかも立地がいい分だけ地上げ屋も黙っちゃあいない」

アニェーゼ「こっちの警察、特にイタリアじゃ地元のマフィアとグルなのはよくある話で、一枚噛んでる感が濃厚……」

アニェーゼ「そんな状況で、そんな隠され系名店へ入る勇気は?」

上条「入りたくないです」

アニェーゼ「カード払いできるスキミング専門店、気がついたらバッグがなくなってる古式ゆかしい窃盗店」

アニェーゼ「あとは単純に街の顔役が、表向きやってる商店ってケース、ですかね?」

上条「お前らの国の闇は深くて広いんだよ!どこでもいつでも口開けて待っていやがって!」

アンジェレネ「じ、地獄の先生ですよねっ」

上条「今も現役なんだぜ、その人。先月ぐらいから鬼と戦うターンになってた」

アニェーゼ「こっちの、てゆうかイギリスの大麻の話はしてましたよね?」

上条「あぁ寮入った最初に。持ってるだけじゃ口頭注意ぐらいで終わるんだっけ?」

アニェーゼ「そんな国の警察が、自分んトコ以外の国民の微罪のために真面目に働くとでも?」

上条「たまに思うんだけどさ、お前らってちょっとアレだよね」

アニェーゼ「言葉を濁して断言しないのは悪かない判断ですが、注意して下さいよ。変な隠れ家店入って財布スられるのはマシな方」

アニェーゼ「『あ、ここ空いてるなー』と地元の人間ですら近寄らない通りへ入って、という話は珍しくもないのですんで」

ルチア「シスター・アニェーゼは極端すぎます。よって補足しておきますと、人が集まる街にはよからぬ考えを持つ者も集まります」

ルチア「そんな神をも怖れぬ愚か者達が、善良なる人々を騙すのですから」

上条「外から入ってきた人が無茶やらかすのか。多国籍も大変だよなぁ」

アンジェレネ「い、いえあのー、我らがローマにもですね、観光客用のお土産でボッタクリを販売するシスターがいるよーな、いないよーな……」

上条「なんだ今の体験談だったのか」

オルソラ「――いいえ、観光資源の多い国に住んでいれば、気づかぬうちに事情通でございまして」

上条「よくまぁ君ら……いやごめん。マフィアも後ろ向いて猛ダッシュで逃げる組織なんだっけか、君ら」

オルソラ「ブラックさで横に並び立つのはイギリス清教とロシア成教でしょうか?」

アニェーゼ「ローマ正教も長年のジジショ×問題でガッタガタですしね。私らが帰る頃に果たして場所があるかどうか……」

上条「いればいいじゃないイギリスに!お前らの帰る場所はここにあるよ!」

アニェーゼ「なお三大ブラック十字教で優劣を付けるのであれば、未だ女性が神父様になれず、厳密には神学生すら断れるローマ正教が頭一つ抜けっちまいまして」

上条「なぁ、お前らの心には何個棚があるの?アメリカのご陽気なオッサンにチクチク文句言ってるけど、あんま資格ないからね?」

オルソラ「いえいえ、伝統とフェミニズムを同列に語るのはよくないと申しましょうか」

オルソラ「人権を重んじるのと多様性を許容するのは、決して両立できないものでもなく、ましてや困難ということもございませんので」

上条「言葉の意味はよく分からないが、俺が騙されようとしてるのは分かる。まぁいいやオルソラだし」

アンジェレネ「そ、その引き下がり方もいかがなものかと……」

ルチア「と、言いますか、シスター・オルソラ?」

オルソラ「はい」

ルチア「ボックス席用で軽食を買ってくる、と仰っていた筈ですか……」

オルソラ「あらあら、ルチアさん。いくら私がうっかりさんでも、買い物を忘れはしないのでございますよ?ほら、ここに」

ルチア「はい。『これ何人分?』と一瞬思うような大量のサンドイッチセットは……まぁ、シスター二人が大喜びしそうですし、置いておくとして」

アンジェレネ「た、食べますよーっ!まっかせてくださいなっ!」

上条「はいそこ話の腰を折らない」

オルソラ「これはでございますね、売店のお婆さまを手伝って差し上げたら、廃棄寸前のものだといただきまして」

上条「はいそこ巻き戻らない。いいかー、君たち?本当の天使ってのはこういうのなんだからな!」

アニェーゼ「童×の発想ですね」

ルチア「いえ、入手ルートは気になっていたのでいいのですが、その」

ルチア「あなたが先程両手に抱えていた荷物が、どこにも見えないようなのですが……?」

アニェーゼ「あぁ。『騎士派』の方々から預った資料、でしたっけ?」

オルソラ「……」

上条・アニェーゼ・ルチア・アンジェレネ「……」

オルソラ「あらあら、困ってしまいますね」

上条「『あらあら』じゃ、ねーよっ!?天然スッゲーところで炸裂させたなオルソラっ!?天使かっ!?」

アンジェレネ「て、天使ではないと思います。どっちかって言えば『アンジェレネ』って名前の方が近いは近いかと」

上条「てかアレ大事だろ!?俺たちが調べた全結果が入ってんだからさ団長っ!」

アンジェレネ「そ、そうですよねっ!探さないとっ!」

アニェーゼ「『――あー、もしもし。グラスゴーにいるシスター全員へ緊急連絡ー緊急連絡ー』」 ジジッ

アニェーゼ「『シスター・オルソラの手荷物をロストした模様。至急捜索体勢に入ってくださいなーっと』

上条「……片道分のバスしか借りられなかったんだっけか」

ルチア「ほぼ観光旅行で終わりましたが何か」

アニェーゼ「『なお、最初に見つけたシスターには上条さんが自腹でスイーツを奢るかも知れません』」

上条「また勝手に話進めやがって!?分かったよチクショー!俺が最初に見つけりゃいいんだよなっ!」

アニェーゼ「何言ってんですか。上条さんはここでお留守番なもんで、我々を少しでも労っていただこうってぇ主旨なんですけど」

上条「労うのも自腹切るのもいいんだけど、なんで俺ここで待機させられるんだよ?荷物番必要なほどみんな大荷物じゃないだろ」

アニェーゼ「特性の問題ですね。ユニット相性的な」

上条「相性?俺が駅だと地形効果デバフ受けるっけ?

アニェーゼ「あぁいえ、あなたが出張ると確実にもう一イベント起きるので……」

上条「まぁそうだけどな!なんかゴメンネっ!気ぃ遣わせちまったようでだ!」

ルチア「シスター・アニェーゼ」

アニェーゼ「はいはい。それじゃここで、大人しく、誰にも迷惑をかけずに、してやがってくださいな」

アニェーゼ「知らない人にはついていかない。女の子だからって良い格好見せようとしない。美少年は男装フラグ」

上条「注意が一々ごもっともでご機嫌ですねコノヤロー」

アニェーゼ「か弱いシスターのために、大人しくしててくださいね?それじゃ」 スッ

上条「……あーい」

上条「……」

上条「……あぁもうなんだろうな。なんかデッカイ事件起こしてやろうかな!」

男「――ィクスキューズゥミ、ズゥエングッアンダスタ?」
(悪いな、英語分かるかい?)

上条「オーケーオーケー、少しだけ」

男「チョコ持ってねえかい兄ちゃん?あんま高くないヤツで、原産地もどこだっていいわ」

上条「チョコ?売店で売ってっけど、ほらそこで」

男「あぁいやもっと珍しいヤツだよ。無えんだったら、持ってるダチ紹介くれりゃいいからよお」

上条「珍しいチョコ……あぁまだあったな。これでよかったら」 ガサッ

男「ありがとな。いくらだい?」

上条「今のレートだと84ペンスぐらい?」

男「安っ!?テメーどんだけヤバいとっから仕入れてんだよ!?」

上条「これは国から持って来た。友達のやってる雑貨屋に行けばあるらしいけど、少し高くなるんだよなー」

男「ヤベエよ、テメこれ100gは入ってんのに1ポンドしねえっつーのはよ……バイヤーのダチか?特大にヤベエ」

男「つーか変な混ぜもんしてんじゃねえだろうな?安いからって純度低いなんざ詐欺だぜ」

上条「おっとそれ以上Meij○への中傷は許さないぞ!1975年から43年走り続けてるきのこの○を悪く言うな!」

男「お?」

上条「あ?」

上条・男「……」

男「本物のチョコじゃねえかよこれ!?」

上条「いやチョコくれよって言ったのはアンタだろ!?」

男「ちっげえよ!チョコってのはドラッグのスラングに決まってんだろ!?なんで売店で売ってんのにチョコ買うバカがいんだよ!?」

上条「いやそれ俺も言ったし!てか知らねぇよグローバルスタンダードでのドラッグの扱いなんてさ!」

男「駅でボーッと突っ立ってるアジア人の学生なんざ大抵売人に決まってんだろうが。バカかテメー?」

上条「やだイギリスおっかない。てか人違いだったらチョコ返せよ、俺が日本から持って来た貴重なヤツなんだからな」

男「あぁいや、売ってくれよ。珍しいんだったら、あー喜びそうなガキもいるなあ」

上条「子供さん連れてんの?」

男「ジーサンみてえなクソガキで可愛げの欠片もねえがよ。ったくどこで間違えちまったのか、引き取らなきゃよかったぜ」

上条「……苦労したんだな、あんた」

男「テメーが考えてるようなシングルファーザーの子育て奮闘記じゃねえんだわ。もっとゴアでスプラッてんだわ」

上条「あー、じゃ子供にあげるんだったらやるよ、それ。こっちじゃ日本人街に行かないと中々買えないんだと思うし」

男「悪いなアジア人」

上条「いいってことよ、えっと」

男「ドイツ人だ」

上条「それじゃ、ドイツ人」

男「おう」



――ロンドン行き特急 一等客室車内

男「……」 ガチャッ

ヌァダ「遅かったな。まだこの船は出んのか?」

男「いや俺も色々やったんだわ。上に掛け合ったり脅してみたり、泣いて叫いて異星人がやって来るから逃げろって」

男「だが機関士もバカじゃなくてな。『暇だったら食堂室行けば?』ってエールもらってスゴスゴと帰って来た」

ヌァダ「こうも堂々と嘘を吐かれると罰する気にもならんな。まぁ座るがよい」

男「なあ王様よお」

ヌァダ「アゲートと呼ぶがよい。あちらにも中々粋な人間がいるようで何よりだ」

男「”イキ”?」

ヌァダ「異名の一つよな、”Agate-ramアゲート・ラム”」

男「輝く艦対空ミサイル?」

ヌァダ「破城槌の一つ、らしい。まぁ直接呼ばれた覚えはないが」

男「呼ばれる……なんだっけか、神父どもの組織からか。どっから情報仕入れてんだよ」

ヌァダ「一枚岩の組織などあり得ぬ。右手が上を目指せば左手が下を向くのも必定よ」

ヌァダ「威厳に触れれば自ずと膝を折り頭を垂れる。人徳とはこのことだな」

男「正気かこのクソ王様」

ヌァダ「――と、思いたいところだが、わざと情報を流しているのだな。泳がされているだけに過ぎんよ」

男「あっちの掌の中ってことかよ」

ヌァダ「で、なければ手配中の男が堂々と一等客船へ乗れるものか」

男「だから船じゃねえって……なめられたもんだぜ。だから警官もいなかったのかよ、クソが」

ヌァダ「逆だ。貴様はともかく、私は銃程度では相手にならん。身をもって知ってるだろうがな」

男「その節はどうも。隊の連中を雑草みてえに刈り取りやがって」

ヌァダ「大ブリテン十字教の本拠地はカンタベリー、こちらよりもより近いロンドンへ引き寄せた方がまだよし、という判断だろう」

男「アウェイとホームってか」

ヌァダ「誤算であるのは私もカンタベリーとは相性がよいのだ。地形効果で特Sぐらいか」

男「買ってやった携帯で即ゲームしてんじゃねえ。つーか敵を引き入れてどうするつもりだよ?」

ヌァダ「そも、私は敵か?」

男「クソ隊長どもぶった切ったのは誰だよ」

ヌァダ「私だな。剣を回収するついでに、大ブリテンで不埒を働かん無礼者も斬り捨てた、だったか?」

男「……」

ヌァダ「成程。向こうの術式を乗っ取った。そうだ、それは事実だ。本来の順番はともかく」

ヌァダ「だが、それだけだ。王権が乗っ取られた――と、主張する訳にも行くまい?対内的にはさておき、対外的に魔術の話を出しようもない」

ヌァダ「そして私も別に異常者という訳ではない。少なくとも対話を求めてくれば無碍にもできんし、向こうが臣下の礼を取るのであれば吝かではない」

男「……何したいんだよ、テメーは」

ヌァダ「ミードを呑み、女を抱き、よき戦に興じる。人生においてこれ以上の醍醐味などない」

男「まあ、そうだがよ。墓の下へ帰りやがれ円卓騎士崩れアーサリアン

ヌァダ「いつか手合わせ願いたいものだな」

男「つってもよお、便利なもんだな魔術ってのは。俺が銃で撃たれてノーダメージってこともできるのか?」

ヌァダ「可能だ。というか昔から良くあったな、矢傷を避けるために風の守りや形代を用意するのだ」

ヌァダ「まぁそうだな。鉛玉の一発ぐらいであれば簡単な部類へ入る」

ヌァダ「――が、しかし前提がある。良き師と良き環境を整え、魔術ばかりに時間を費やして才能があれば数年、なければ10年」

男「独学ですれば?」

ヌァダ「完璧な入門書か指南書があった上、そして本人の適性があればその倍。なければ10倍だな」

男「寿命で死ぬじゃねえか」

ヌァダ「そんなものだ。効率的には程遠く、そもそも使い勝手が良ければ科学ではなく魔術が普及していただろうに」

男「ガキの頃見た映画でも似たようなこと言ってやがったな、そういや」

ヌァダ「そして仮に飛んでくる害意あるものを撃ち落とす術式を作ったとしよう」

ヌァダ「だが最初の一発は止められても、次弾三弾と続けては難しい」

男「重火器の前じゃ誤差か」

ヌァダ「全体的に無効化する術式や霊装もできるのはできるがな。そこに労力を割くよりも効率的な何かを選ぶ」

ヌァダ「戦場で先陣を切るのは戦士の誉れであるが、その戦士を射殺すのは英雄の定め。何がしたいかを見定めるのが肝要よ」

男「10年は長げえよなあ。俺には無理ってことか」

ヌァダ「まぁそう腐るな、少し待つがよい。適当な鉱石はないか、これでよいか」 ベリッ

男「内装引っぺがしてんじゃねえわ。テメーこれステンレスの肘置き……あーあ弁償されんぞ」

ヌァダ「知らぬ存ぜぬを通せばよい。素手で引き千切った証拠がないのだ」 ギュッ

男「ロザリオ?俺あんま熱心な十字教徒じゃねえんだが」

ヌァダ「ケルト十字の護印よ。クルセイドが大ブリテンへ来る以前からあった十字だ」

ヌァダ「飛翔する悪意を撃墜する術式を込めた。ただし一度だけだがな。くれてやろう」

男「ありがてえが、一回だけかよ。大した事ねえんだな王様よお」

ヌァダ「”一回”ならば落ちてくる飛行機やその破片も防げはする。直後の爆発もまぁ問題なかろう」

ヌァダ「しかし数秒が数分と遅れれば”一回”に含まれるかは身をもって確かめるがよい」

男「アバウトな仕様じゃねえか」

ヌァダ「戦士の無事を祈念し、ヤドリギの祝福と呪いを施すのはドルイド僧どもの仕事なのだ。無聊を慰めると思えばよかろう」

男「俺が持ってても使えるもんなのか?」

ヌァダ「護印が勝手に周囲を護る。貴様が死んでいてもお構いなくな」

男「俺からすりゃ便利に思うんだが、使い勝手が悪いねえ?」

ヌァダ「そうだな。セッティングを間違うと大変なことになる」

男「セッティング?」

ヌァダ「目的が何か、と定めそれに対してどう実現したらいいのかを怠らぬことだ」

男「当たり前じゃねえかよ。ン年もアブラカタブラ唱えて間違うなんざあってたまっか」

ヌァダ「いやいや。それがそうとも言えぬのだ。たまには不可思議な話も漏れ聞こえる」

ヌァダ「ある船団の話なのだが、その船の船長は船団全ての重さを敵へ肩代わりさせる術式を使えるのだ」

男「ハンパねえな。射程距離にもよるが、強力だしやっぱ便利じゃねえか」

ヌァダ「だがしかし射程は精々数ヤードから10ヤード程度。使われた記録は船内の敵へ対してだけだ」

男「バカだろそれ作った野郎。船内で重力付加かけたら、船底ぶち抜いて穴空くだろ」

男「それも敵船にぶっ放して数ヤードの至近距離で沈めようもんなら、テメーの船も巻き込まれて最悪沈没、普通は航行もできなくなんぞ」

ヌァダ「あぁそうだな。これでローマ十字教の切り札なのだから、何ともお粗末なものだ――」

ヌァダ「――と、一笑に付すのは簡単だがな」

男「ああ?」

ヌァダ「貴様はどう考える?”これ”がたまたま愚かな術者がついうっかりで作ったのか、それとも何か別の作為があったのか」

ヌァダ「答えるがよい。追従だけの役立たずでないと証明するがよい」

男「ザッケンなクソ王様。この世界の表側で最高にクソッタレな職場に居たんだ、大体は想像もつくぜ……使い方、だろ?」

ヌァダ「ふむ」

男「全体像が分からねえ以上、推測でしかねえが。その使い方はライフルの先端握って鈍器として殴るような歪さだ」

ヌァダ「では、どのような?」

男「外敵。例えば敵に拿捕されたり、盗まれたりする前に自沈させっちまうんだろうぜ」

ヌァダ「自沈であればもっと簡単な術があるのではないか?火を放ったり船体を砕いたりとかな」

男「沈め方……そうだ、理想の沈め方をさせてえんじゃねえか?焼いたり砕いたら船は完全に使えなくなっちまう」

ヌァダ「それは重さでも同じことよ。船体が歪み竜骨が折れれば、死ぬのは必定」

男「つってもよお。無理矢理壊すよりはまたダメージ抑えられっと思うんだわ。積み荷への被害も少しはマシだろうし」

ヌァダ「……ふふ、よいぞ傭兵。それでこそ雇った甲斐があるというものだ」

男「そいつはどうも。で、正解は?」

ヌァダ「知らぬ」

男「おいクソ王様」

ヌァダ「知らぬものは知らぬのだ。そしてそれを解き明かすのは私の役目ではない」

男「役目?」

ヌァダ「『天網恢々疎にして漏らさず』。演者は出揃った。ならば後は脚本通り進めなくば演者は舞台から引き摺り降ろされる」

男「まあいいがよ。ああそうそう、言おうと思ってたんだがな」

ヌァダ「言うがよい。許す」

男「俺は、いつかテメーを殺すぜ?」

ヌァダ「来るがよい。許そう」

男「……理由も聞かねえのかよ」

ヌァダ「理由などは誰にでもどこにでもあるものだ。大方仲間の敵討ちであろうよ」

ヌァダ「違げえよ」

ヌァダ「幕下ばっかへ集うのは高徳の輩だけに非ず。諫臣も奸臣も清濁併せ呑まずして何が王よ」

男「そいつあどうも。俺も改心できる日が来るといいな」

ヌァダ「とはいえ生半な術では傷を付けることすら困難。機を伺うがよい。約定が果たされ、この私が玉座より退いたときを狙うがよい」

男「……クソ魔術師野郎が生きてやがったらな……」

ヌァタ「子供の姿をしていては殺せぬ、という訳もないようだな」

男「バカにしてのんか。紛争地で一番厄介でワラワラ出てくんのが少年兵だ」

ヌァダ「子供を手にかける良心の呵責はないのかね?」

男「ハッ!正規兵がタマナシ揃いだから汚れ仕事は俺たちに回ってくんだよ!」

ヌァダ「この時代でも蛮族を雇うのか。ローマ帝国はそれで滅んだというのにな」

男「テメーの時代とは訳が違うぜ。しこたまドラッグ打たれてレジャー感覚で人狩ろうして来やがる」

男「人道主義なんてクソ喰らえだ。少年兵が愛と勇気と平和が大好きだっつーんのなら、飼い主噛み殺してさっさと逃げてんだろうぜ」

ヌァダ「戦場へ立てば子供も大人もあるまい」

男「無理強いされてんのにか?」

ヌァダ「無理を”強い”られたときに戦わなかった其奴が悪い」

ヌァダ「戦場で敵に槍を向けるのが嫌ならば、槍を渡し送り込む相手に向けるが筋なのだ」

男「……価値観が馬乗って槍担いでる騎士サマとどっこいどっこいなのに、意外と正論突いてんだよな」

ヌァダ「そも、平和とは”都合の良い状態”であって定義など無し」

ヌァダ「臆病な愚王が享楽にふけるのを見、民が王殺しをする――その題目が『平和な世界を作る』のであり」

ヌァダ「秀でた梟雄が危険視されて周辺国に滅ぼされる――それもまた『平和のため』だという」

ヌァダ「まぁ究極の所、『貴様が気に食わない。だから死ね』以上の何物でもない」

男「シンプルでいいな、それ」

ヌァダ「あぁ貴様の上司も私相手に躊躇わなかったか。その点は評価をしよう」

男「突っかけたのをか?」

ヌァダ「異物は即排除。判断も速く見事であった。相手の力量を見抜けぬ点を除けばだが」

ヌァダ「まぁ、私へ頭を垂れて慈悲を請うのが最善だ。私も話が通じぬ蛮族という訳でもなし」

男「頸狩ってただろ。俺以外全員刎ねてただろ」

ヌァダ「貴様が一番腕が立つようだったからな」

男「……クソ。俺の人生どうなっちまったんだよ……!」

ヌァダ「世界を敵に回したのだったか。そしてなお命があるのならば余禄と思うがよい」

男「ヨロク?」

ヌァダ「本来ならば手を出すべきでない相手に手を出し、命長らえている。それを幸運と捉えずしてなんとするか」

男「サッカーのロスタイムじゃねえんだぞ。そんなに割り切れるかクソガキが」

ヌァダ「うむ。ならば私を使えばよいではないか」

男「テメーを?アメリカ様と交渉でもしてくれんのか?」

ヌァダ「交渉はせん。対等の相手でもない」

男「だったらよお」

ヌァダ「名前、何と言ったか?」

カールマン(男)「レイモンド=カールマンだよ馬鹿野郎。何回か名乗ってる」

ヌァダ「新大陸の王へこう伝えるのだ――『我が名はカールマン、故あってとある偉大な王に仕える身だが、その情報を欲しくはないか』とな」

カールマン「……分からねえな。アメリカからすりゃ死に損ないの俺と歩く災厄、天秤にかけるまでもなく飛びついてくるだろうが」

カールマン「テメーにとってはなんの利益になる?裏切ってなんか得でもすんのか?」

ヌァダ「裏切りは許さぬとも。慈悲深い王は度量を示す必要があるが、悪意に関しては例外である」

ヌァダ「得――徳などもない。彼のオリエント王ほど重んじる訳でもないしな」

カールマン「狂ってんのか?」

ヌァダ「――傭兵よ。貴様にとっての戦はどうだ?どんな戦であれば楽しめる?」

カールマン「俺は一方的なのがいい、一方的なのだけでいい。こっちの被害がなければないほど楽で良いがね」

ヌァダ「臆病者め」

カールマン「ほっとけや。俺の方が一般的だわ」

ヌァダ「私は違う。拮抗すれば拮抗するほど心躍る。奇しくも貴様が言った天秤がだ」

カールマン「けどよ。アメリカまで敵に回したら」

ヌァダ「どうせならば全世界を敵に回すというもの。それでようやく”私”との天秤が釣り合う」

カールマン「スゲエなこいつ狂ってるNice-joke!!!

ヌァダ「人の身であった頃には叶わぬ夢であった故に。いや……この身もこの現も胡蝶の夢と大差はないのだが……」

カールマン「司法取引か……アメリカはダメかもしれねえが、イギリス相手だったら恩は売れんだよな」

カールマン「どうせ殺したって死なねえバカ売って良心なんざ痛まねえし」

ヌァダ「あぁ”その”役は貴様だったのか。成程、興味深い」

カールマン「あ?」

ヌァダ「死なぬ者などおらん。殺せぬ神などいないのだ」

ヌァダ「英雄も聖人も、弑され簒奪されるために産まれて来たのだ。この私も含めてな」

カールマン「よく分からねえが、テメーは無敵じゃねえのかよ?」

ヌァダ「無敵などではない。だから右腕を切り落とされ、王位を追われたのだ」

カールマン「ふうん?……ああそうだ王様。チョコあるが食うかよ?」

ヌァダ「おぉ気が利くな。どうもこの体になってからは飲食を忘れるのだ」

ヌァダ「しかし――これは、なんだ?マッシュルーム方のチョコレート、か?珍妙な、どんな意味が?」

ヌァダ「まさか形を変えることによって魔術的な記号を持たせようとする試みなのか……っ!?」

カールマン「そろそろ出発すっから黙れクソ王様。通路通ったヤツ引くから」


−終−


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