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Clock(trial)

次回予告3



 生温い雨に打たれながら少年は自らの無謀を知る。
 たかだか、そうたかだか『世界を救う』程度の力では到底及ばぬ高みがある事を。
 無様に路上へキスをしながら、切れた頬を伝う血をぬぐう事すらせずに、ただ思い知らされる。

「現実を受け入れろ。何も切り捨てずに何も手に入られる訳がない」

 二刀の戦士が――本来の得物すら使わせる事が出来なかった――吐き捨てる。その中には大分憐憫が含まれていて。

「……次、あったら容赦はしないわよ――例えあなたが誰かを助けるのだとしても」

 側に立つ魔導師の声は懇願じみていた……誰に願うのか?何を願うというのか?
 非情に徹すればここでこの命を絶つのが正解――だが、それをせず見逃している時点で……。

「……無ぇよ、二度目なんか、ない……ッ!」

 少年は肘から切断された『右手』を泥水にぐちゃり、とツッコミ、支えにして立ち上がる。
 いつかの如く、そう『世界にそう仕組まれた』ように再生する気配は微塵もない。
 足下の水溜まりをより赤く、紅く染め上げるだけ。

「……ここで寝てたら、それで終っちまう。そんなのはもう嫌なんだよ!」

 今までもそうしてきたように、これからもきっと。

「『右手』があろうがなかろうが、俺のすべき事は変わらない――」

「……そうか、なら死ねよ」

 音よりも速く、光に肉薄する程の速さで双剣は放たれた。
 主へ確認はしない。それはきっと優しさなのだろう。手心を加えて主が傷つかないように。
 そしてまた剣の軌道は正確に急所へと向かっている。それもまた慈悲だ。痛みすら感じる前に絶命するであろうと。

 物語はここで終る。ただの人間が殺されて終わり。
 それもまた必然だ。この物語は彼の居るべき物語ではないからだ。

 彼に従うサーヴァントなど存在しないのだから――そう。

 ――たった”今”までは。

 ギャリギャリギイィィィィィィィィィィィィィィィィンッ!!!

 鋼が鋼を弾き、周囲に昼間よりも明るい火花が溢れ出す。
 あぁ少年の命を救ったのは、そう――。

 ――槍、だ。

「――退くぞ!」

「待ってよ!?何が起きて――」

『――おいおい、つれないじゃないかニンゲン』

 ぞくりとする程の圧力を持った声。まだ若く女のものだと知っても尚、魔導師は判断を誤る。

「新しいサーヴァントね!だったら正体を――」

「――だから、ダメだ――ッ!」

 脱兎の如く逃げ出した二人を追うとはせず、血と泥の溜まった水溜まりから”それ”は全身を表す。
 千切れた少年の右手を眺め、次に自身の失われた片眼に触れた。

『いいザマじゃないか。前よりもずっと男前だ』

「力を――力が欲しいんだ!」

『ほう?』

「誰かを救える!誰かを助けるための力が!」

『……あぁそうか。それで私が喚ばれたのか』

 くっくっと喉の奥で最悪の魔神は嗤い――次の瞬間、少年の喉元へ”槍”を突きつけていた。

『勘違いするなよ、貴様?私は大人しくサーヴァントになってやるつもりなど――』

「俺を、やろう」

『……何?貴様なんて言った?』

「強い戦士を集めてるんだろ、お前は?だったら俺が死んだら俺の躰も魂も、どっちもくれてやるよ」

『……』

「……戦士、って言っちゃ本職の人らに悪いし、物足りないだろうが……それでどうだ?」

『――宜しい。ならば付き合おう!貴様が死んで我が戦さ場へ至る時まで、私が従ってやる!』

「……ありがとう」

『勘違いするなよ。これは正統な対価の元に交わされた契約だ、礼など言われる筋合いはないよ』

「……そか、なら――逝くぞ、オティヌス」

『――あぁ逝こう、我が主よ』


――『上条「聖杯戦争……?」 オティヌス「戦って、死ね」』、へ続く

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