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Clock(trial)

『今夜、君の元へ』


――放課後 空き教室

佐天?(体操着)「……あの、上条さん。あたし、こういうの良くないと思うんですよ、はいっ」

佐天?(体操着)「だって、ホラ――え?」

佐天?(体操着)「『ここは使われてない第三倉庫だから、誰にも気づかれない』……っ!」

佐天?(体操着)「待って下さい!あたし、あたしっ!アリサさんに許されない……はい?」

佐天?(体操着)「『フハハハハハ!南斗六星の帝王にして聖帝たるこの俺は、誰の許しも請わぬ!』……!?」

佐天?(体操着)「まさか、まさかあなたは――聖帝サウ、ザー!?南斗六聖拳”将星”の男!」

佐天?(体操着)「『滅びるがいい……愛とともに!!』」

佐天?(体操着)「逃げてぇー、ケェーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーンッ!?」

上条「――取り敢えず落ち着け、な?お前がウェイトリィ兄弟の頭悪い方だっつーのは分かってるからさ」

上条「順番に突っ込んでいくと、普通の学校に第三倉庫なんて、ない。つーかどんだけ備品余ってんだ。捨てんだろ。邪魔じゃねぇか」

上条「次に俺はサウザ○さんじゃねぇな?なんで唐突に持って来ちゃったの?イチゴ味が売れてるから乗っかっとけみたいな感じ?あ?」

上条「てゆーか状況的にまとめような?どうしてサウ○ーさんが佐天さん体育倉庫へ呼び出した挙げ句、ケンシロ○と戦うの?」

上条「佐天さん関係ないじゃない。戦うんだったらケンシ○ウさんとサシですればいいじゃない。てか一般人巻き込むなよ!迷惑だから!」

上条「あと君ポジション的にリ○ちゃんなの?完全に傍観者だよね?話振っといて丸投げだもんね?」

上条「最後に佐天さんはそんな事言わな――」

上条「……」

上条「……な、なんでショートパンツ?」

アルフレド(佐天?)「うんアレだよな。なまじっかキャラを知ってるだけに、完全に否定出来ず話を逸らせようとしたのは評価するぜ」

アルフレド「てゆーか自分でも割と忠実にエミュレートした部類へ入るんだが……」

上条「確かに言いそうだけども!可愛いけど残念な子だから!」

アルフレド「てかさ、『明け色の陽射し』じゃなくって『あ系ロリ陽射し』だと思うんだよ、俺は」

上条「おっと時間稼ぎは止めて貰おうかっ!決してバードウェイさんが怖くて言ってるんじゃないけども!」

上条「つーかテメーその話題俺へ振って、『あ、確かに!俺も前からそう思ってた!』って言うのと思うの?バカなの?死ぬの?」

アルフレド「てゆーか12歳児をボスにしてる魔術結社ってどうなんだ?魔術師以前に人として大丈夫なのか?」

上条「あー……うん、まぁ?マークさん達は幸せそう……でしたよ?見た感じだと――ってお前」

上条「さっき『明け色の陽射しは知らない』みたいな事言ってただろ。なんでボスの個人情報把握してんだよ?」

アルフレド「あぁそれは『新たなる光』の方。ロリ幼女がボスやってる方は、先代の頃から俺らとやり合ってる――し」

アルフレド「つーかヒマだったら『龍脈』辿って情報仕入れてたんだよ」

上条「……またお前碌な使い方してねぇんだろ?」

アルフレド「……アリサちゃんのパンツくんかくんか……あっ」

上条「冤罪過ぎるわっ!それっぽく言ってんじゃねぇよ!?」

アルフレド「大丈夫だぜ!思春期の男なら一度は通る道だ!」

上条「その道、一般的には外道って言うよな?てか誰も彼も異性の下着を手に入れられる環境じゃないだろうし!」

上条「つーかお前本当に魔術結社のボスなのか?割と前から思ってたけどさ」

上条「アホみたいにフットワークが軽いし、ぶっちゃけアホだろ?なぁ?」

アルフレド「あーダメダメカミやん。また俺のペースに呑まれてんぞー?いいのかー?」

アルフレド「折角ARISAとのデートを袖にして来てんだから、もっと楽しい話をしようぜ。俺にとっては、だけど」

上条「……あん?知られると何かマズいのか?」

アルフレド「いんや別にぃ?現実からどれだけ顔を背けても、現実はダッシュで追いかけてくると思うがね、まぁいいさ」

アルフレド「俺が止めとけって言ったのは、まず間違いなく理解出来ないだけだから、無駄だと思ってさ」

アルフレド「でもま、聞きたいんだったら言うぜ。”俺はそういう風に造られてる”んだしぃ、それは仕方が無いからな」

アルフレド「つってもまー、大して面白い事も無ぇんだわ、これが」

アルフレド「……つーかさ、つーかね、テメェで言ってて悲しい事この上ねぇんだけどもだ」

アルフレド「”俺の顔なんて誰も知らない”ぜ?いやマジで悲しいんだけどさ、多分誰一人として見た事ぁないレベル」

アルフレド「てか失礼だよなー、誰が貌(かお)の無いスフィンクスやっちゅーねん!あそこまでシャクレてへんわ!シュッとしとぉわ!」

上条「大阪人になるの禁止」

アルフレド「マーリンの真似した――てか、あれ正確には大阪でも京都でもなく、神戸弁たぜ」

上条「キャラ作り全部パチモンじゃねーか!」

アルフレド「まぁまぁカミやん。そうしないと、”そういうこと”にしないと蜂蜜酒(ミード)の女王は現世へ出て来られないのさ」

アルフレド「下乳魔神が50%の確率に縛られているのと同様、メドヴーハもまた力に対して義務を負う存在。好き勝手出来る筈も無し」

アルフレド「……まぁ俺と違って、”出口のない迷路を造ってはいけない”とか、”手札を開示したままゲームをしなくてはならない”なんて楽しい制約は架されてねーけども」

上条「さっきから――というか、ここへ喚んでから変な単語が入るが、何か意味あるのか?」

アルフレド「あぁブラフだねぇ、それはきっと多分恐らく」

アルフレド「時間稼ぎのために無為で無駄で無益な会話だ。そこに込められているのは何も無い筈、だ」

アルフレド「ミードを呑むのはハスターかビヤーキーか?あのもふもふの正体をバラしてやってもいいが、それで興に欠ける」

上条「……?」

アルフレド「それともカミやん、”オティヌスのような魔神が過去に居なかった”とでも思うのかい?この世界をぶっ壊ギャー!な奴らが、一度足りとも存在しなかったと?」

上条「それは――マタイさん達と話した”終末”論か。一度も滅びてない世界を根拠に神話はフィクションだっていう」

アルフレド「居たんだよ。世界を穢す魔神が居れば、当然世界を護る魔神だってな」

アルフレド「地を這う蟲が天を飛ぶシャンタク鳥の懊悩には気づくまい?いいか、突け!突くがよいランドルフよ!」

上条「――千夜一夜物語」

アルフレド「ん?王の気を引くために毎夜物語を聞かせた次女の話がなんだって?」

上条「あの話は最終的に『子供が出来たら王様は丸くなりましたよチャンチャン』で終わるけど、今はお前の妄想に付き合ってる暇はねぇよ」

上条「魔神云々の話は個人的にも気になるが……それよりも話を進めろ、本題のだ」

アルフレド「おっぱいっていいよねっ!」 グッ!

上条「そんな話してねーわ!あとその皮着て無駄にエロい単語言うなっ!」

アルフレド「あー……俺の顔が売れてないって話だっけか?まぁ自慢にもなんないんだけどさ」

アルフレド「少なくとも”銀(ズィルバー)”のマタイ=リース前教皇、”魔神”オティヌスみてーに顔が売れてるって訳じゃねぇのよ」

上条「『必要悪の教会』も……お前らなんか知らない、つってたっけ……?」

アルフレド「ま、それが現実側に居る”俺”の話で、こっちからはこっち側の役割――てか義務を果そうか」

アルフレド「一々説明すんのメンドイんだけどよ、しねぇと存在自体が固着出来ねぇから」

アルフレド「カミやんがGMだったなら、わざわざ一から説明する必要も無かったんだが……まぁ、いい」

上条「いや別にそこまで詳しくは訊いてない。それよりも――」

アルフレド「昼の話だろ?ちょっと待てって順番ってもんがある」

アルフレド「結論だけ聞いたって、過程を理解出来なきゃ意味無ぇんだけどよ……いいだろ、サービスだ」

アルフレド「繰り返すが、ここは『鳴護アリサの夢』なのは確定、そしてまた――」

アルフレド「――『冥界』でもある」



――空き教室

上条「どうしてそれが分かった?龍脈の記憶か?」

アルフレド「待て待て。カミやんはそっからまず勘違いしている、っつーか順序立てて俺に話をさせねーからそうなるんだ」

アルフレド「お前、龍脈を『なんでも出来るスッゲー力!』とか考えてんだろうが、んなこたぁーないぜう」

上条「ぜう?」

アルフレド「噛んだんだよ突っ込むなよ――全知全能には程遠いし、蓄えられてんのは知識であって情報ではない……あー、例えばだ」

アルフレド「上条兄妹()が昨日の夜の会話は記録されてる。何を言ったのか、何をやったのか、何も出来なかったのか」

上条「外角高めに攻め込んでくんな」

アルフレド「ただ誰が何を考えているとか、何をしたいだとか、そういうのは『記録』として残らないため、閲覧するのは無理だと」

上条「……俺が日記でも書いていれば?」

アルフレド「その日記の記憶を呼び出せば分かる――し、今、カミやんがやってるように適当なNPCとして召喚して聞き出すのもアリ」

アルフレド「ある意味、俺はファウスト博士に呼び出されたメフィストフェレス……つって分かるか?」

上条「お前が今、姿借りてる子から聞いた……どこだったか、いつだったかは忘れたけど」

アルフレド「流石は『龍脈使い』。無意識の内に接続してやがるのか、それは結構!世界は順調に壊れつつある!」

上条「あぁ?」

アルフレド「今のは”ここ”の本題とは別――で、戻すけど、そのファウスト先生ってのは民間伝承なワケだ」

アルフレド「ドイツの都市伝説、と言っても過言ではなく、大体16世紀ぐらいに編纂された書物には姿を見せる」

アルフレド「で、だ。こっからが大切なんだが、昔っから悪魔召喚の儀式はあるわな?ソロモン王、旧約聖書には既に書かれている由緒正しい魔術の一系統」

上条「個人的には、まぁロマンを感じなくもないが……」

アルフレド「『エロイムエッサイム、我は求め訴えたり』、か?まぁ連中も俺と同じで人間が大好きだからなぁ。力を貸してやりたくなる気持ちは分らないでもない」

アルフレド「でも実際には呼び出した悪魔に大嘘吐かれたり、逆に食い殺される事件が頻発した――ん、だが」

アルフレド「これを『龍脈』で解釈すればどうなる?」

上条「えぇっと――」

アルフレド「――と、時間が惜しいからさっさと話を進めるぜ」

上条「聞いた意味ねぇな!有り難いけどもだ!」

アルフレド「悪魔ってのは”ユーザーインターフェース”に過ぎないんだよ。言ってみればネットに繋いだパソコンと同じだ」

アルフレド「『龍脈』に人間が直接繋いでもワッケ分からんから、間に何か噛ませて分かりやすくしようぜ!って、『発明』されたんだわ」

上条「悪魔を”発明”?発明ってどういう事だよ?」

アルフレド「悪魔を喚んだお話にはテンプレがあるよな?例えば生きてる内は力を貸すが、死んだ後には魂寄越せとか言うの」

アルフレド「他にも『知識が欲しい』って願ったにも関わらず、召喚法自体が間違ってて嘘八百教わるのとか」

アルフレド「更に酷いのになってくると、正体は悪魔なのに『僕は悪いスライムじゃないよ!』って偽る奴とか」

上条「あー……有りがちだよなー、そういう話。最後のは何か違うが」

アルフレド「でもこれおかしくね?てゆーかバカじゃねーの?って思わね?」

上条「なんでだよ?悪魔は――というか、少なくとも言い伝えられてる悪魔は、なんかこう、力や知識を持ってるんだろ?」

上条「だったらそういう連中から知識や力を借りたいのは、当然じゃないのか?」

アルフレド「うん、『それじゃ別に悪魔である必然性はない』よな?」

上条「うん?」

アルフレド「だからさ。別に悪魔でなくたって良くね?神霊に天使、聖霊に精霊。人間へ味方してくれる連中はごまんと居る筈なのに」

上条「あー……成程。そりゃそうだよな――ってまたお前!本題から逸れてるし!」

アルフレド「逸れてねーよ、ストレートだよ!つーか魔術云々の説明はクソ長いわ、しかも概念だけ素人へ教えるんだから時間かかって当たり前なんだよ!」

上条「信用出来ねー」

アルフレド「……いやだから。、俺にも魔術師――ではないけれども、一度決めたルールは破れないとかあんだって!……ったく信用ねぇなぁ」

上条「おい、ユーロスターん中での大量殺人犯。忘れてんじゃねーぞコラ、あ?」

アルフレド「俺達は”法的には”一回死んでるし?そこら辺は免責して欲しいところだがねぇ?」

上条「心配要らん。『人権?なにそれおいしいの?』って連中がね、腐る程居るから……ッ!」

アルフレド「やだそれ超コワイ――てか、お前が話逸らしてどーすんだよ。元へ戻すとだ」

アルフレド「昔は――『精霊』を喚んでいたんだよ。所謂原始信仰、アミニズム時代の話だ」

アルフレド「まだ神は神という形を取れず、万物に精霊が宿ると信じられていた時代、マッドマンは精霊を喚び、語りかけようとした――」

アルフレド「――が、失敗した。何故ならば精霊は気まぐれで、人の望みを容易に叶えてはくれなかったからだ」

アルフレド「だから人間は精霊を捨て『神』という概念を生み出した」

アルフレド「次の時代、人々は全知全能である神を慕い、敬い、憎み、そして神への道を至ろうとした」

アルフレド「いと高き御方の侍従を守護天使として従え、エロヒムの息子を喚ぼうした――」

アルフレド「――が、これもまた失敗した。何故ならば神の御業は偉大すぎて、到底人の手には余るものだったからだ」

アルフレド「だから人は神へ背を向け『悪魔』という概念を生み出した」

アルフレド「その結果どうなったのかは、カミやんは知ってる筈だな?」

上条「……」

アルフレド「中世に勃興した錬金術然り、古代に消えた獣化魔術に夢魔術と同じく、召喚魔術も今のセオリーからは遠く取り残されてしまったんだわ」

アルフレド「つーのもアレだ。『召喚魔術は動作が極めて不安定』って側面を持ってるからだ」

アルフレド「悪魔を召喚出来たとしても、まずまともにこっちの言う事は聞かない。どころか逆に命を奪おうとするのが当たり前」

アルフレド「また”世界の真理”とやらを教えてくれと頼んで、嘘八百吹き込まれるのも日常茶飯事。なぁ?せめて契約ぐらいは守って欲しいところだが」

上条「……完全に脱線してねぇかな、これ?」

アルフレド「前フリが長くて恐縮なんだが――あ、じゃ、こうしようぜ!実は俺カミやんに言ってなかったんだけど、”この教室の時間の流れは遅い”んだよ」

上条「そう――って待て待て!さっきは普通に流れてたじゃねぇかよ!」

アルフレド「いやなんか俺が龍脈に繋いだせいじゃねぇの?何か”外の時間の10分の1ぐらいになって”んぜ?」

上条「嘘くせー」

アルフレド「だから”この俺は嘘を吐けない”って設定になってんだよ。いい加減納得した方がお前のためでもあるんだがな」

上条「……まぁいいや。それで?」

アルフレド「今までのを龍脈で解釈すると――てか、今上げた例、精霊に神に天使に悪魔だっけか?あれ全部『龍脈』へ繋がるためのインターフェースだよな?」

アルフレド「携帯でもパソコンでも、最近は時計型端末でもいいさ。とにかく『凄い力を持つモノにあやかって、力と知識を手に入れよう』的な話さ」

アルフレド「けど、人類がほぼ有史以来続けてきたにも関わらず、上手く行かなかったよな?所謂『世界の真理』とやらの知識を知る事は出来なかった」

上条「……科学や物理学に取って代わられてるよなぁ、そこら辺は」

アルフレド「いやーだからな?失敗し続けてきたのは理由があるんだよ、理由がな」

上条「や、でもさ。お前が言ってんのが本当だったらば、万単位、下手すればもっと多くの魔術師が龍脈に繋いで、情報を探ってんだろ?」

アルフレド「だなー」

上条「それでも悉く失敗してきたってのは、難易度が超ムズいとかじゃねぇの?大体龍脈の制御自体キツいって話じゃんか?」

アルフレド「あー、違う違う。そこっからまず間違ってる、間違ってるんですよ上条さん」

上条「佐天さんのフリ禁止」

アルフレド「――だって『龍脈の中に答えなんかあるワケねーじゃん』か?」

上条「…………………………はい?」

アルフレド「いやだから。龍脈ってのは全知全能じゃない、それっぽく見えるけどな」

アルフレド「この星が死ぬ時は枯れるし、枯れるまで遣えばこの星は死ぬ。また”貴様ら”が『天の龍脈』と呼んでいるビヤーキーの流れ。あれだって星が死ねば効力は無くなる」

アルフレド「無限に近いが有限なんだわな――なんですよねぇ」

上条「……」

アルフレド「でも、”それ”はただ記憶と力を溜め込んでるだけの何か、に過ぎないって話ですよ。意識も無ければ自我も無く、方向性すら無いエネルギーの塊」

アルフレド「例えば……そうですね。上条さんちで出た昨日のお夕飯あるじゃないですか?ご飯に手作りハンバーグ、あ、デミグラスではなくてトマトソースがベースの」

アルフレド「より正確にはグネーデル風お肉マシマシなんですけど、アリサちゃんは気づいてくれなかったですもんね?」

上条「……正解」

アルフレド「そういう”記憶”は蓄積されるんですけど、けどそれってただの知識であって真実とか真理とか、そう言うもんじゃ無いんですよ、えぇえぇ」

上条「それじゃ――何を見た?何を知ったんだ?」

上条「神様や悪魔を呼び出そうたとして、知識を求めた人達は誰に何を教え込まれたんだ?」

アルフレド「それもまた『龍脈の記憶』を不完全なままに知っただけ。『万能薬の作り方』を知りたい医者には『誰かが残した万能薬”っぽい何か”』のレシピを」

アルフレド「それを鵜呑みにしたパラケルススは多くの患者へ水銀を呑ませて殺したぜ。おー、コワイコワイ」

アルフレド「また『不老不死』を求めた貴族の女には『不老不死になれる”だろうと言われた”』方法を」

アルフレド「バートリ=エルジェーベトは女子供を鋼鉄の処女へ架けて血を搾り取り浴びるようになった……ま、最期にはそのオモチャで処刑されたらしいがね」

アルフレド「――だからこの世界に絶対不変の真理なんてものは無い。あったとしても龍脈の中には存在しない」

アルフレド「何故ならば龍脈とは『ただ記憶と力を溜め込んでいるだけ』だからだ」

アルフレド「……言い方を変えるとすれば、”誰かが知っていた事しか知らない”んだ。未知の現象を捌くような能力では決してない、オーケー?」

上条「……でも、それっておかしくないか?現に今、世界は全部眠っちまってるワケだろ?」

アルフレド「それもまた”そーゆー風に設定された”からだよ。矛盾すっかもしんねぇけど、魔神セレーネはギリシャ神話を忠実に再現しているだけ」

アルフレド「万能薬も不老不死も再現自体は可能……ただし、『それに見合う代償を支払う』のが前提」

上条「あぁ……それが龍脈の支配とかに繋がる、か?」

アルフレド「土地や国を支配して、権力者の思いのままに呪的要素を取り入れよう、って思想は古くからある。風水(Feng-shui)なんかそうだ」

アルフレド「だから『龍脈を繋がってる間は不老不死』だとか、『リンクしてる間だけ病が治る』みたいな感じ?」

アルフレド「レディリーみたいな”成功例”は滅多にねーんだわ」

アルフレド「そういう基礎的な所を疎かにして超々ショートカットを使用としたって失敗するよねー、が結論なんだが――さてさて」

アルフレド「以上の話を下敷きにして話を進めるが――この世界、どうにもこうにも”手抜き”だって思わないか?」

アルフレド「曖昧な設定にいい加減な人間関係。ぶっちゃけ矛盾点を上げればキリないぐらいの杜撰さ」

アルフレド「『龍脈』の記憶を生かしきれれば、つーかそのものの中なのにこれは一体どういう事だ――」

上条「アリサの『夢の中』だから、か?」

アルフレド「――正解。もっと正しく言えば『冥界に居る鳴護アリサが見ている夢』だって話さ」

上条「……俺が連れ戻しに来たんだから、アリサが居るのは不自然じゃない。むしろ居ないと困る。けど」

アルフレド「そうだな。それは正しい」

アルフレド「上条当麻――”神浄討魔”でも無意識下に潜むイドの怪物からは逃れられない」

アルフレド「ほぼ全ての人類が闇夜を恐れるように……”ここ”――つまり『冥界』もまた、そんな在り来たりのものになる筈だった。ならなければいけなかった」

アルフレド「実際に幾ら規格外とは言っても『冥界下り』が、”深夜の学校”という分かりやすいイメージとして創造されたのだからな」

上条「だって言うのに、俺が今ヌルい学生生活をしてる居るのも」

アルフレド「そうだな。鳴護アリサがそう望んだからだ」



――空き教室

上条「『常夜(ディストピア)』だっけか?セレーネが使ってる大規模術式、あれの影響がここまで来てる?」

アルフレド「とは違うな。系統自体は似たような感じだが、もっと脆くて弱々しい印象を受ける」

上条「って事は、アリサ、か?」

アルフレド「魔神セレーネの欠片なんだ。似たような力の一つや二つ、使えてもおかしくはない――し」

アルフレド「魔術師が――というか”原初の魔術(プリミティブセンス)”に言葉も術式も必要は無い。ただの純粋な思いが――」

アルフレド「――『奇跡』を産んだんだ」

上条「……まぁ、そう、なんだろうな」

アルフレド「類人猿から一歩踏み込んだ辺りで、もうそういう原始信仰は興っていた。そこら辺は各地の壁画でも眺めるか、土器でも探せばいい」

上条「本物の『冥界』はどうなってるんだ?」

アルフレド「あぁちょい待ち……えーっと――――――っ!?」

上条「うん?」

アルフレド「……アクセス権限がありません、だな。どっかの誰かが邪魔してるっぽい」

上条「アリサか?」

アルフレド「ここで”佐天ちゃんが全部の黒幕でしたー”なんつったら逆にスゲーよ。むしろ尊敬するわ」

アルフレド「……まぁ”冥護アリサ”にとっちゃ、当然の役目かも知れねぇが」

上条「……なんでアリサは――」

アルフレド「まー、そこまでは知らね。てゆーか俺よりもカミやんの方が知ってそうだけど、なぁ?」

上条「……」

アルフレド「そもそもこの夢自体、カミやんをハメるためだけに展開してた、ってのも怪しい話だし?……あ、そうだ!」

上条「解決策が?」

アルフレド「俺と同じようにさ、『鳴護アリサを造って聞けばいい』んじゃね?」

上条「っ!」

アルフレド「好きなよーにあれこれ聞けるし、嘘だって吐けないからカミやんが知りたい事、なんだって分かるぜ?……あー、いいアイディアだな、それ」

アルフレド「そうすれば『本物』のアリサちゃんと話す時も有利になると思うぜ?いやマジでさ」

上条「……本物の?」

アルフレド「俺も含めてだけどさ、ここに居んのは全員NPCじゃん?外側だけ似せた何か。魂の籠ってない、行動だけを模倣させたシロモノだわな」

アルフレド「文字通り『夢』の中の存在であって、薄っぺらいもんさ」

上条「や、でも、土御門――俺の友達は現実と殆ど変わりはなかったぞ?」

アルフレド「でもここは現実じゃない。龍脈から引っ張り出された記憶を基に構成されたBotだ。モシ”本物っぽく”見えるんだったら、それはただ単に術式が凄いだけだわな」

アルフレド「あー……アレだ、『スワンプマン』って知ってるか?思考実験の一つなんだけどさ」

アルフレド「男が沼地へ足を踏み入れた時、落雷が落ちました。男は絶命しますが、何かの化学反応が起きて泥から男と全く同じ組織、記憶を持つ沼男が生まれます」

アルフレド「彼は『あれ?俺なんでこんな所に居るんだろう?』と少し訝しがりながらも男の家へ帰宅し、服を着替えて眠り、翌朝には男の職場へ通勤するでしょう、ってヤツ」

アルフレド「上条さんはこの沼男――スワンプマンをどう位置づけるんですか?男とは別の存在?それとも意志を引き尽く存在とでも?」

アルフレド「あなたが出会って話した土御門元春センパイには魂があったのか、なかったのか、さぁどっちの料理ショ○?」

上条「……」

アルフレド「おっと!魂のあるなしを私に聞くのは止めてくださいね?あったという記憶も無数にあるし、なかったという記憶も同じだけあるんですから!」

アルフレド「ぶっちゃけ、ここに居るのは全員スワンプマンですよ。上条さんは意識を繋いでるから例外としても、他の全ての生き物は『似ているだけの何か』」

アルフレド「特に鳴護アリサなんてその最たるものでしょう?」

上条「アリサが?」

アルフレド「違和感、ありましたよね?現実に住み、あなたが話して触れ合った鳴護アリサと”アレ”は同じでしたか?」

アルフレド「違いますよね?そうじゃ、なかったですよね?ねぇ、上条さん?」

アルフレド「あたしが今、佐天涙子の外見と口調を真似してるのと同じく、”あれ”もまた龍脈から記憶を取り寄せて再生させているだけの――」

アルフレド「――言ってみればスワンプマンに過ぎないんですよ」

上条「……けどっ!」

アルフレド「『アリサだったらこんな事しない』って、何回思いました?一回?二回?それとももっと?」

上条「夢、なんだから仕方がな――」

アルフレド「の、割にはシャットアウラさん居ませんよねぇ?インデックスさんも、新しくお友達になったレッサーさん達もですか」

アルフレド「全部、自身の、都合の良いように、設定し、そして楽しんでいる」

アルフレド「上条さんのお友達のアリサさんって、そんな身勝手な方でしたっけ?」

上条「……」

アルフレド「えぇ分かってます分かってます。否定したいお気持ちは分かってますよ、所詮はNPCに過ぎないあたしが言うのもなんなんですがね、お察ししますよー」

アルフレド「でもですね、そういって上条さんが悩んでいる間にも地上ではグーグー寝こけている方々が居るって事、忘れてやしませんかー?」

上条「皆が」

アルフレド「ですです。だからどっちみちこの世界は終わらせる必要があるんですな、いやー辛い!ヒーローは辛いですねっ!」

上条「……どうすればいいんだ」

アルフレド「簡単じゃないですか、つーか今まで散々やって来たじゃないですか」

アルフレド「いつものよぉぉぉぉぉぉぉぉにいぃっ!あなたが為(し)て来たよぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉにぃぃぃっ!」

アルフレド「すれば!いいんじゃ!ないですかねっ!」

上条「この、世界も?」

アルフレド「正しくは偽りのアリサを、ですね」

上条「……」

アルフレド「……ま、繰り返しますが気持ちは分かりますけどね。あたしも人類大好きなんで、手に掛けるのはあまり……まぁ大好きですけど」

アルフレド「暇だったんであなたの旅の記録を見てきましたが、旅の間中、色々な話を聞いたでしょう?見てきましたよね?」

アルフレド「例えばネオ・ペイガニズム、例えば不法移民問題に環境テロリスト、例えば善意の独立主義者、例えば無力な平和主義者」

アルフレド「種々様々な問題の根底にあるのは『幻想が現実を絞め殺しに来ている』って結論でしょうか」

上条「幻想が、現実を……」

アルフレド「美しい世界、平和な世界、希望の世界、理想を持つのは大いに結構。むしろそれがないと前向きには生きて行けない――かった、んですが」

アルフレド「いつの間にか目的と手段を取り違えて幻想を見るようになった、と」

アルフレド「現実を積み上げていつしか幻想に辿り着こうとしていたのが、幻想を造り出して現実にしようとした」

アルフレド「だがそれだけ幻想を掲げようが、ご立派なお題目を掲げようが、無理なものは無理だし希望は叶わないからこそ美しい」

アルフレド「その結果が”これ”だ。理想主義者が現実主義者を罵り、貶め、穢そうとする」

アルフレド「『俺達の理想が叶えられないのは連中が邪魔をしているからだ!』……って理論、よく聞くだろう?」

アルフレド「『自分達の現状が悪いのは誰かのせいであり、改善すべきなのは自分達以外の誰か』」

アルフレド「よくある『他者の意見を取り入れろ』って言ってる奴に限って、人の話を全く受け入れようとしないのと同じ」

アルフレド「……そんな世界になっちまったんだわ、これが」

上条「……」

アルフレド「――でも、そんな奴らの世界は”優しい”んだよ」

アルフレド「現実に起きている汚いアレコレ、深刻で致命的な物を直視せず、直視出来ずに自身の妄想と願望で塗り固めた城を建てる」

アルフレド「その中で生きるのはさぞかし楽しいだろう。綺麗事だけを言って、相手に偽善を押しつけて生きるのは」

アルフレド「俺にはただの墓穴にしか思えないがね。爛れきり、腐りかけた躰で月を見上げながら口笛を吹く死体の唄だ」

上条「この世界も……優しすぎる」

アルフレド「ん?……あぁ、あぁ、そうだなぁ」

上条「俺とアリサは……まぁ、傍目に見ればケンカしながらも仲の良い兄妹だし、不幸らしい不幸も起きはしない」

上条「外の情報が入ってこないから分からないけど、多分もしあるとすれば平和な世界が広がっているんだろう、きっと」

アルフレド「全てが全てスワンプマン――ある意味ショゴスと同じく、外見だけ人よく似せた、人モドキの暮らす世界がかい?」

上条「だからって!」

アルフレド「だから、だよ。外の現実世界の人間、眠ったままにしてーのか?あ?こっちの世界の魂の無い何かに遠慮して?」

アルフレド「――虫酸が走るぜ、上条当麻。貴様はそんなに弱いものではなかっただろう?」

上条「……」

アルフレド「散々、ずっとずっとずっとずっとずっと!あの時もこの時も『幻想』を殺してきたんだろう!?違うかっ!?」

アルフレド「それが誰かを救うために!貴様自身も傷つきながら『右手』を振って来たんだ!それと同じだよ!」

上条「俺が――」

アルフレド「……なぁ、上条当麻。私は貴様達に敬意を抱いている。それは、本当の話だ。この貌(かお)に賭けたっていい」

アルフレド「私は永遠に嘲笑いながらも、それでも心のどこかでは羨望していたのだろうさ――」

アルフレド「――その、強さと可能性に」

上条「お前は――」

アルフレド「だから、という証拠にはならないかも知れないが、私から言えるアドバイスはこれ以上はないよ。今語った事が全てだ」

アルフレド「引き延ばそうと思えば幾らでも出来たのに、それをしなかったのは私の誠意だと思って欲しい。信じるも信じないも自由だがね」

アルフレド「後は貴様がその拳を振うだけ……いや、それもしなくていいかもしれない。何せ、ここは『夢』の中だからな」

アルフレド「鳴護アリサへ『ここは夢だ、お前はアリサなんかじゃない』――と、そう告げるだけで全ては終わるだろう

上条「……?」

アルフレド「あー、『夢の中で夢だと気づいたら目が覚める』って体験した事が無いか?それと同じ原理だよ」

アルフレド「中には明晰夢もあるが……この場合は関係ねぇだろうしな」

上条「……話、色々とありがとうな」 スッ

アルフレド「いいって話だ。まだ決心がつかないんだったら、いつでも来ればいい。相談ぐらいには乗ってやらなくもねぇ」

上条「……なぁ」

アルフレド「はいな?」

上条「俺がアリサを否定したら、今のアリサは消えて無くなるのか?」

アルフレド「夢から覚めればそこに居た人間は消えるのと同じだ。お前が感じてるのはただの感傷に過ぎない」

アルフレド「……ま、割り切れ、っつー方が無茶かもしんねぇけどさ、でも――」

上条「分かった……それじゃ」

アルフレド「あぁ、”また”逢おうぜ?」

………………パタン



――昇降口 夕方

上条「……」

上条(アルフレドの言った通り、時間は殆ど経ってない。割合話し込んでたのに、下校時間にはまだかなり余裕がある)

上条(知り合い――じゃ、ないんだけど――声を掛けてくる生徒もチラホラと)

上条(……けど、こいつら全員俺の概念で言うところの”人”じゃない訳で。現実世界、つーか地上に居る”ホンモノ”は今頃ずっと眠り続けている、と)

上条(とは言ってもゼロから造り上げた人格じゃなくって、現実のどこかで生きて生活していた人ら)

上条「……」

上条(……答え合わせをした後に言うのはフェアじゃ無いが、何となくはそうじゃないかな、とは思っていた)

上条(”ここ”がアリサが望んだ世界、見たい夢の中でだって。少しの違和感はどうしても拭えなかったんだけどさ)

上条(俺が”兄”、アリサが”妹”……これはきっと、あの日フラれた件が影響しているんだろう)

上条(恋人は……つーか彼女居ない歴=年齢の俺が言うのもなんなんだが、まぁ、その延長線である夫婦だって別れるケースはある)

上条(”死が二人を分かつまで”と誓い合った二人が別れるのは、一体どんな気持ちが……苦しいに決まってるだろうけど)

上条(でも、それでもだ)

上条(兄妹は、肉親という血の繋がりがある関係は、早々壊れたりはしない。それは当たり前の話だ)

上条(俺も兄妹が居ないから分かんないけどさ……記憶を失っても父さん母さんとの絆が絶たれなかったように)

上条(家族の繋がりは強固なもの――だと、信じたい)

上条(……けど、アリサはそうじゃない)

上条(生まれが特殊な上、『アイドルになりたい』って願いも、本当は『お母さんに会いたい』って裏返しだ)

上条(俺が、俺達が当然のように持っているモノすら、アリサは持っていなかった。だから――)

上条(アリサが俺に求めてる役割は”そう”なんだろうか……?それが夢だって言うのか?)

上条(恋人ではなく、ただの兄妹としてつかず離れずに居られる間柄)

上条「……そんな――」

上条(――そんなささやかな夢さえ、見続けるのがいけないのかよ……ッ!?)

上条(とてもいじましくて、誰かに話したら笑われちまいそうな、欲の無い生き方がアリサにとっては大切なんだよ!)

上条(それを――そのささやかな幸せを!他愛の無い『幻想』を!)

上条「――俺が――」

上条(――殺せる、のか……?)



――校門 夕方

上条(赤い夕焼けが目に染みる……少し寒いか。なんつっても外は10月なんだし)

上条(……でも昨日までは意識した憶えすらない……俺の心理が反映してたりな?……あのアホに訊けば良かったかも)

上条(なるべく余計な事を考えないように校門を抜けようと――したら、そこには見知った顔があった)

鳴護「あ、当麻君」

上条「アリサ?」

鳴護「ぐ、偶然だよねっ!」

上条(校門の横の柱へ背を持たれながら、小さく手を振る――っていうかさ)

上条(少しでも目立たないように端っこの方へ行こうとしてるんだが、何やってんだこの可愛い生物)

上条「あー……っと、待った?」

鳴護「うん、けっこ――じゃないよっ!全然だし!」

上条「手」

鳴護「て?」

上条「出して、手」

鳴護「……こう、かな?」

上条「……ん」 ギュッ

上条(差し出されたアリサの手を握る……それはとても冷えていて、ずっと長い間待っていてくれたと分かる)

上条(包み込んだ掌がじんわりと温かく、これは、この温もりが――)

上条(――『幻想』だって言うのかよ……ッ!)

鳴護「……当麻君?泣い――て?」

上条「ん!?……あぁごめん、少し夕日が目に染みた、んだ――たぶん」

鳴護「そ、そう?大丈夫」

上条「――帰ろう。俺達の家へ」

鳴護「でも当麻君、その」

上条「うん?」

鳴護「……ううん、ないでもないよ――たぶん」

上条「……その、さ?」

鳴護「うん?」

上条「今日、ちょっと大事な話がある、んだよ」

鳴護「うん」

上条「だから帰ったら――あ、いやご飯食べて少し経ったら、ぐらいかな?あんま遅くなるのもなんだしさ、やっぱり」

上条「その、アリサの部屋行っていいか……?」

鳴護「……うん」

上条「そっか。それじゃ夕メシは俺が――」

鳴護「――あたしが!」

上条「あぁ」

鳴護「……わたしが、作らせて欲しいかな、って」

上条「……うん、頼む」



――自室 夕食後

上条「……」

上条(重すぎる空気のまま、俺達は食事を終えた。なんかアリサも察しているようで、会話らしい会話もなく)

上条(……つーか何食ったか憶えてない……なんだっけか?まぁいいけど)

上条(約束したのは食事の後、だから。そろそろ行ってもいいんだが――どうしても先延ばしにしたい。気後れする、っていうかな)

上条(……そういや、初春さんと約束したっけ?何か相談があるって)

上条(時間はいつでも良いって言ってたが、今の内に聞いといた方がいいか……あぁこれも現実逃避なんだろうが) ピッ

上条(携帯のブラウザ起動してー、風紀委員のページへ移動してー……チャットルーム、幾つかあるな。何々……?)

上条(『定期相談会★122』、『【黄泉川先生】おっぱい【殴られたい】』、『【この仕事】ヒャッホゥ【ブラックすぎないか?】』……)

上条(『白井さんに罵られるスレ★666』、『初春さんの花ちょっと取って見た』、『最近”ですの!”ってガキに言われるんだけどあれ何?』)

上条「……」

上条(大丈夫か?ウチの風紀委員のアタマ大丈夫か?こんなんで学園の平和は守られてるの?)

上条(夢、だからだよね?ホンモノはきっとこんなにアホアホしくないよね……?)

上条(えっと……『K条さんいらっしゃーい!』……うん、ここだね。ここしかないもんね)

上条(あとスレタイっつーかルームの名前、誰考えたのか分かっちゃったもの。残念な子だよね、まず間違いなく) ピッ

上条(てかこのチャットは入室しないとログも含めて閲覧出来ないのか、ってログインするのにはどうしたら――あれ?)

UH『あ、お疲れ様ですー。お待ちしてましたー」

STN『遅いですよー、もーっ!』

上条(――て、俺操作してないのに?てかUHが初春さん、STNが佐天さんだよな)

上条(実名ほぼそのまんまだが……初春さん居るし、セキュリティは問題ないんだろう)

KJ『こんばんは、てかこれ勝手に繋がったんだけど、そういうもんなの?』

UH『えぇはい、そうだと思います、よ?』

STN『え?初春、上条さんのお兄さんのIPは把握済みだって言ってなか――』

上条(なにそれコワイ――って、STNさんのログが瞬時に消されていく!?)

UH『ないですよね?全然そういうことはないですからね?』

KJ『だ、だよね?携帯からのアクセスは電話会社の管轄だもんね、素人が出来るこっちゃないよね?』

UH『はい、そうですよ。風紀委員がルール違反なんてする訳ないじゃないですかー』

上条(この会話に佐天さんが絡んでこない時点で恐怖しか感じないんだが……アレだよな?これもきっと夢の中だけの設定だよね?)

上条(てか佐天さん、なぁ?あのカオスなアホ魔術師に顔付き合わせて話したから、どうにも違和感があるっていうかさ)

上条(可能性は無いって分かってるんだけど、成り済ましてるかもって思っちまうんだよな)

STN『――で、お兄さん!大っ事なお話なんですけど!』

KJ『はい』

STN『KJってキングジョ○の略みたいでカッコイイですよねっ!』

上条(良かった。本物だ)

KJ『話それだけなら帰っていいかな?今ちょっと取り込んでてさ』

UH『待って下さい!まだ始まってもいませんから!』

KJ『てかUHさん、勤務中なのに喋ってて大丈夫なの?』

STN『あ、初春は電子世界に関してはマルチタスクいけますんで、交通網監視しながらちょちょいのちょいってもんですよ!』

KJ『凄い凄いってはよく聞くんだけど、直接見た事はないからなぁ』

KJ『それはいいとして、本題は?』

UH『はい、その文化祭についての事でご相談がありましてですね』

STN『あたし達のクラスはメイド喫茶するって決まったんですよ』

KJ『中学生にしちゃ俗っぽかないかな?てかよくそれ女子が反対しなかったよな』

上条(大抵こういうのはヤローの悪ふざけと無駄に強い一致団結で決まるんだが……いや、俺もクラスで提案されたら、ノリで一票投じるだろうけど)

UH『いえ、女子も”メイド服着たい!”って方がかなりの人数……』

KJ『未来に生きてるよな!悪い意味で!』

UH『てゆーかSTNさんが居る時点で、”校内一悪ノリするクラス”みたいな認識でですね……』

KJ『……あぁ。中等部の職員室で先生方が頭抱えてる姿が目に浮かぶ……!』

UH『――ま、それはいいんですよ!大惨事にならないようにわたしが監督しますから!』

KJ『それもうフラグですよね?』

UH『でその、ご相談ですけど。喫茶店での出し物です』

KJ『?』

STN『喫茶店って、”キッ!佐て――』

【――STNさんが退室させられました――】 ピッ

上条(初春さんが怒った!?)

UH『はい、出しものです。折角なのでメイドさんの服を着て色々やってみようかと』

UH『その一環で、ですね――上条さんに歌って頂きたいな、と思いまして』

KJ『上条さん――あぁいや、アリサに?』

UH『はい、っていうか上条さんとても歌お上手じゃないですか?前からカラオケご一緒させて貰った時から思ってたんですけどね』

KJ『へー?』

UH『あと、校内コンクールで伴奏もされてましたし。なので出し物としてどうかなー、と。はい』

KJ『あー、メイド喫茶であるようなミニライブみたいな感じ?』

UH『はい。他のお店との差別化を図るためにも、是非』

上条「……」

上条(これには……どう答えればいいんだ?)

上条(どうせ今日中には終わる世界、終わらせなければいけない世界だ。だから『話しておくよ』って安請け合いすんのが正しい、筈だ)

上条(俺が今会話してる”これ”も忠実に再現した何かであって、本人では無いから)

上条(幾らそっくりでも初春さんじゃないんだ)

上条「……」

上条(……でも、それじゃなんか納得がいかない。いく訳がない)

KJ『俺に相談してきたのは、アリサが渋ってるから?』

UH『えぇ、そうですね』

KJ『嫌がってる相手にさせるのは、俺も気が引けるんだけど……?』

上条(そう、だよな。少なくともこっちの世界のアリサは、歌がそんなに好きじゃないみたいだし)

上条(昔はそうだったのかも知れないけど、今はそんなに、って感じだ……本当のアリサじゃないんだから、仕方がないのかも知れないが)

UH『……なんて言ったらいいのか、よく分からないんですけど……』

【――STNさんが入室しました――】 ピッ

上条(あ、また来た)

STN『――と、やっと繋がりましたよ。何してんですかねぇ、つーか何やってんですか』

KJ『いや、君のは自業自得だし』

STN『むしろここまで尽しているというのに、相変わらずつれないお返事で――さてさて』

STN『なので時間も惜しいので簡潔に言いますけど――アリサさんの歌、すっげー上手いってご存じですか?ある意味プロ級の』

KJ『それは……多分俺が一番知ってる』

STN『えぇまぁそうでしょうとも。上条さんならそうなんでしょうが――でも、歌ってイヤイヤやってて、あそこまで上手くなるもんですかね?』

KJ『え?』

STN『才能ってあるじゃないですか?特定のジャンルに強かったり弱かったり、適正みたいなもんですかね』

STN『それってスタートラインが違うってだけの話じゃないですか?』

STN『成長すればする程、上へ行けば行く程伸び悩みもしますし、限界に悩む事だってあるでしょう、はい』

KJ『どういう話?』

STN『でもそれ”だけ”――ただ歌が上手いだけで続けられるもんですかねぇ、ってぇお話ですよ』

STN『誰かに敵わないからしないとか、誰かに伝えたくてするって話でもなく。どんだけ歌が好きで歌うのが好きなんだコノヤロー!』

KJ『うん?』

STN『例え目的が他にあっ――としても――――は、それで――』

STN『歌が好きなのを――――――誇る――――――――――――――』

【――ゆっくりしていってね!!!――】 ジジッ

プツッ

上条「……切れた?ネットにも繋がらない?」

上条「……」

上条(大体の主旨は分かったけど……佐天さんは何が言いたかったんだろ?)

上条(つーか俺を”上条さん”、アリサを”アリサさん”って呼んでたが……まぁいいか)

上条(なんだかんだでこの世界のアリサにも、心配してくれる友達が居る……それは絶対に喜ばしい事なんだろうが。だけど)

上条(俺は、そんな優しい世界を殺さなくてはいけない、のか……?)

上条「……」

上条(……そろそろ、行こう、か)



――青冷めた光の柱の下

レッサー「――――――あだッ!?」 バチッ

フロリス「Oh, おかえりー、どーだったー?」

ランシス「……流石のフロリスも心配?」

フロリス「べ、別にそんなんじゃないしー?これはタダの社交辞令だし!」

レッサー「だ、誰も私の心配をしやがらねぇとはどーゆーことですかコノヤロー……!」

ベイロープ「はいはい。そういうのいいから、さっさとポジションへ戻る」

レッサー「ベイロープまでこの仕打ち!?」

ベイロープ「いやだからヤバめなのよ。割とマジで」

レッサー「MAJIDE?」

ベイロープ「セレーネが私達へ危害を加えるつもりがないのが幸いしてる、って状況。もしも別の魔神だったら消し飛ばされてるわね」

レッサー「……だとしてもなーんか超ヤッベェ気がするんですけど!大丈夫なんですかねっもふもふっ!?」

マーリン「あー、うん。心配はあらへんよ!弱気になっとぉアホ見んで!」

マーリン「一応こっちにはアルビオン最大の災厄と、”最期にして最高”の『シビュレの巫女』がついとぉ!」

マーリン「ギリシャ系、北欧系、ティル・ノ・ナーグ系とドンと来ぃや!なんやったらカバラや十字教やったって対抗魔術カマしたるわ!」

ランシス「……あ、それフラグ……」

マーリン「でも飛行機だけは勘弁な!――ってランシスぅ、アンタまたワイがボケ終わる前にツッコミしたらアカンて言ぉたよね?前にも言ぅたよね?」

セレーネ『あら?あらあらあら?』

セレーネ『鬼ごっこするには人が足りないわね。ヨーゼフはどこへ隠れてしまっているの?』

セレーネ『……きひっ!探しましょう!わたしだけじゃない、他のぼうやも呼んで楽しく、ね?』

セレーネ『ケンカをしては駄目よ、仲間外れもしちゃいけないわ』

レディリー「……待って!?あなたは何をしようとしているのよッ!?」

レディリー「そんな、そんな事をしてしまっては!『境界』が――」

レディリー「――この世とあの世の堺が壊れれば、死人が現世へ甦るのよ!?」

セレーネ『「”That's, the beach is on the beach in the the North Sea. The name is called the beach of Nazuki. ”」』
(即、北海の浜に磯あり。名は脳(なづき)の磯と言ふ)

セレーネ『「”Height is one height. The pine tree is prepared up. ”」』
(高さ一丈許。上に松の木を生ず)

セレーネ『「”The villager has the cave from the beach to the beach in the west though it comes and goes in the morning and evening and the person drags his tree branch. ”」』
(磯までは、邑人朝夕に往来する如く、又木の枝も人の攀引する如くなれども、磯より西の方に、窟戸あり)

セレーネ『「”It's six shakus the height area for each. It's poriferous in the cave. The person doesn't put it. It knows neither depth nor shallowness. ”」』
(高さ広さ各六尺許。窟内に穴あり。人入ることを得ず。深浅を知らず)

セレーネ『「”The person who mischievously visits the vicinity in the cave in this beach dies without fail. ”」』
(夢に此磯の窟の辺に至る者は必ず死す)

セレーネ『「”Therefore, it holes and it decreases the remark about the slope and the nether world of the hell until being arrive soon when the layman old――. ”」』
(故に俗人古より今に至る迄、号(ナヅ)けて黄泉の坂、黄泉の穴と言へり――)

マーリン「うん、詰んどぉわ。出雲国風土記なんてワイよぉ知らんしなぁ」

レッサー「でっすねぇ。つーかあなたが対抗策打てる魔術系統バラしたんで、日本の古神道系へシフトしたんじゃないですか?」

マーリン「おおっと流石は魔神やんねっ!それはうっかりさんやったわー、失敗してしもぉたわー」

レッサー「こやつめー!あははー!」

レッサー・マーリン「「にゃーはっはっはっはっはっー!!!」」

ベイロープ「――現実逃避しているHENTAI師弟コンビ!さっさと対策出しなさい!」

マーリン「無理やて!だってアレ超広範囲の黄泉帰り術式なんやって!」

マーリン「この世界を限定的に『冥界』へ繋ごぉ、概念だけしか知られてへんかった術式なんよ!」

レッサー「――ぶっ放します、”X”?」

マーリン「相殺出来るかも、やけど――そぉやったら上条はんアリサはん帰って来とぉたら、切り札も無ぉなるねん」

マーリン「……しゃーないなー。コレばっかりはワイの宿命みたいなもんやかさい。ワイがなんとかせんとアカンやろなー」

レッサー「……もふもふ……ッ!」

マーリン「”Less-Arthur”、そこは『マーリン』言うべきやないの?んん?」

マーリン「お約束ってあるやん?人がこう折角この筐体の全魔力遣ぉて抑え込もうとするんやったら、もっと悲劇的なシーンちゃうかな?」

マーリン「ま、エエわ!ホンマにっ!センセはアンタらみたいなデキの悪い生徒の面倒看きれませんわっ!」

マーリン「ワイは一足早くアヴァロン向かっとぉから!アンタらはゆっくり来ぃや!分かっとぉ!?エエな!?」

レッサー「先生っ!」

マーリン「……ま、後は任せたで――と、そうそう、上条はんに伝えといてくれるか」

マーリン「『えいえんは、あ――』」

セレーネ『――死人は墓から這い出て家路へ就き、生者は両手を広げて迎えるの!そう、それはとてもとても素敵に違いないわ!』

マーリン「――ってぇまだネタ喋っとぉ最中やないのっ!?」

セレーネ『蜂蜜酒の女王、アルビオンの旧い旧い支配者さん、あなたの出番はここで終り――さようなら、サヨウナラ、然様なら』

セレーネ『「”All high heaven fields are dark, and nakatsu-kuni of Ashihara is already dark. ”」』
(爾(かれ)高天原皆暗く、葦原中つ国悉(すで)に闇し)

セレーネ『「”As a result, it goes in an eternal night...... ”」』
(此に因りて常夜往く……)

マーリン「アカ――」

キィン――――――ギギギギギギキギギィィイッンッ……!!!



――アリサの部屋

コンコン、コンコン

鳴護「――はい」

上条「えっと……上条だけど」

鳴護「うん、知ってた。てかそうじゃない方が怖いかも?」

上条「友達がお邪魔していい時間帯には少し遅いしなぁ。お泊まりとかだったら別だけど――入っていい?」

鳴護「あ、はいどうぞー」

上条「お邪魔しまーす……って、暗いな。電気点けないのか?」

鳴護「うん、今夜は、その――」

鳴護「――月が、綺麗だから」

上条(暫く目を凝らしていると……ベランダから差し込む月の光に圧倒される)

上条(下手な街灯よりも明るく、そして俺が現実で見たモノよりも大きく)

上条(”偶然”満月だったのか、それとも毎日が”こう”なのか……)

上条「……」

上条(……そう言えば俺、こっち来てから月見た憶えがねぇよな?つーか夜の記憶が殆ど――)

鳴護「……当麻君?」

上条「――ん?あぁ、いやゴメン、なんでもない。多分俺の勘違いだと思う」

上条(今更辻褄の合わない事の一つや二つ、あっても構ってはいられない。意味があるのかも怪しいし)

鳴護「座る所……ベッドでいいかな?」

上条(俺を出迎えてくれたアリサは部屋着――では、なく)

上条(いつか、最初に出会った時着てた、袖が長いワンピース?にデニム。流石にキャスケは被ってないが)

上条(びみょーに、部屋着としちゃ気合いが入ってるような……?)

上条(つーかさ。年頃の兄妹とは言え、男女がベッドの上で二人っきりって……考えすぎか?こんなもんなの?)

上条(現実でも散々知ったが、アリサの距離感は独特だよなぁ。勘違いしそうになるって言うかさ)

上条(……あぁいやアリサの、じゃなく――)

上条(――”アリサに似た何か”であって、アリサそのままではないんだ……)

上条「……」

上条(――本当に?)

上条(……てかアリサは――”この”アリサはここが夢だって知ってるんだろうか?)

上条(いやー――知らない、よな?アルフレドは『本人に夢だと気づかせる』事で、この世界を壊せるっつってたし)

上条(それを……俺の『手』で壊す、ってのは、一体どんな皮肉なんだか)

鳴護「あのー、当麻君?さっきからフリーズされると、一体何のお話なんだろう、って流石にちょっと不安になるんだけど……?」

上条「あーゴメンゴメン。なんかさ、アリサの部屋に入るのも久しぶりかなって思ったらさ」

鳴護「つい昨日も入ったし、メンズブラ買うって話もあったよね?」

上条「そ、そうでしたっけー?あははーっ!」

上条(ヘタクソか!?つーか俺こんなに会話下手だったったけ?)

上条(緊張してんのは間違いないだろうが、もうちょっとこう、自然に話を持ってけないか?自然にだ)

上条「あーっと、その……アリサ!」

鳴護「はい?」

上条「最近、そう――学校!学校とかどうかな?」

鳴護「なんでお父さん風……?てか毎日一緒に行ってるよね?」

上条「あー、ほら、なんだ?」

鳴護「いや聞かれても……」

上条「頑張ってるかね!あははー!」

鳴護「……当麻君、不自然にも程がないかな?何かスッゴイ緊張してるのが、初対面の人でも分かりそうなぐらい挙動不審だよ?」

上条(マズいな……なんか会話会話……当たり障りのない――)

上条「――そうだ!学園祭!」

鳴護「”そうだ”って言うのが気になるけど……あぁうん、あるよねぇ、学園祭」

上条「そっちじゃメイド喫茶するんだって?」

鳴護「あー……………………それ?」

上条「何ですか何なんですか今の長いタメは?」

鳴護「や、何の話か何となく分かっちゃったから――アレだよね?展開としてはアレしかないもんね?」

鳴護「どうせまた佐天さんにアレコレ吹き込まれたとしか……」

上条「と、友達を疑うのは良くないんじゃないかな?うんっ!」

鳴護「そしてそうじゃなかったら、当麻君が妹のクラスの出し物を正確に把握しているっていう、ある意味過保護な保護者さんになっちゃうけど……?」

上条「初春さんから相談を受けました、はい」

鳴護「直ぐにお友達を売るのもどうかと……」

上条「ま、誰から聞いたのかはいいとしてだ!具体的には何をするのかねっ!」

鳴護「テンションで乗り切ろうとするのは悪い癖、かも?」

上条「俺の話はいい!それよりもメイドさんに興味があるんだが!」

鳴護「当麻君当麻君、誤魔化そうとしてメイドさん好きの変態さんになっちゃってるからね?」

上条「……てかメイド喫茶っでどーよ?何となくは想像つくけど、どこをどう拗らせたら、中学の学祭でどんな悪魔合体だ」

上条(それがアリサの願望だってんなら、メイドさんになりたかった?……いやぁ、佐天さんNPCの仕業っぽいよなぁ)

鳴護「大体想像つくと思うけど、佐天さんがね」

上条「……あぁもうその単語で大体想像つくもの。何となく」

鳴護「『安西先生!バスケがしたいです!』って」

上条「あ、ごめんな?やっぱつかなかったわ。つーか喫茶店の話はどこ行ったの?」

鳴護「で、気がついたらいつの間にかクラスの半数以上の賛成票を握っていて」

上条「……民主主義って、たまーにやらかすよなぁ。都市伝説のレミングスみたいな、厄介な自殺願望でも抱えてんのかね」

鳴護「初春さん情報によれば、『メイド服が着たい女子が意外にノリノリだった』という分析も……!」

上条「へー……?ちなみアリサさんは?」

鳴護「だ、大事だよねっ!友情っ!」

上条「しっかり賛成に回ってんじゃねぇか」

鳴護「だってホラっ!『学園祭でメイド喫茶に決まったからイヤイヤ着た』って体裁なら着れるもん!」

上条「意外と計算高ぇな中学生。いや、STさん(仮名)の悪影響がここにまで……?」

上条(アリサ達のメイドさんは見てみたい気がする。ちょっとだけ、ほんのちょっとだけだが)

上条(誤魔化すように笑うアリサはとても自然で、ただの女の子にしか見えない)

上条(……それも俺の知ってる彼女にしか……)

鳴護「と言うか初春さんもね、『学年が上がってからツッコミ役が増えて楽になったとかも思ったら、実はボケだった』って……どういう意味なんだろう……?」

上条「割とストレートに毒吐かれてんだと思うが……で、だ。こっからが本題なんだけどさ、その」

上条「アリサは今の生活、幸せ……か?」

鳴護「幸せなんじゃないかな?最近当麻君もお手伝いしてくれるようになったし」

上条「あぁいやそういう意味じゃなくて、なんつーかな、こう、もっと観念的っていうか?」

鳴護「……哲学的なお話、なのかな?」

上条「でもなくて――そう、例えばこれも初春さん達に相談されたんだが、学祭でミニライブ的な事もやりたいんだそうで」

鳴護「あのさ、当麻君?ちょっと、ちょっとだけでいいから想像して欲しいんだけどね」

鳴護「学園祭でメイドさんをしながらノリノリで歌うのって、痛々しくないかな……?」

上条「そう言われると否定しにくい感じになるが……まぁ、それは置いておこう。学祭の話はともかくだ」

上条「そっちじゃなくて――その、歌なんだけど」

鳴護「あー……当麻君、なんか引っ張るねー。この間からさ」

上条「昔、いつだったかは忘れたけどさ。アリサ、『アイドルになりたい!』って言ってたよな?」

鳴護「あー、あったあった。懐かしいよ」

上条「その夢さ、今からでも追いかけてみる気とか、ないのか?」

鳴護「……えっと当麻君?もしかして佐天さんの言葉、気にしてたりするのかな?」

上条「……そういうワケじゃねぇけどさ」

鳴護「や、別にわたしは当麻君のお世話をするために、歌を辞めたわけじゃなくて。なんて言ったらいいのかな、んー……っと?」

鳴護「当麻君だってアレだよね?ちっちゃい頃に野球選手になりたいー、みたいな事言ってたもんね?」

上条「言った……ような?」

鳴護「でも今は素振りとかしてないし、野球用具一式は実家に置いて来ちゃったし」

鳴護「それと同じ、かな?」

上条「……そう、かな?」

鳴護「そうだよ……うん、きっと、そうじゃないといけないなんだよ」

上条「いけないのかな?」

鳴護「大人になる、ってそういう事なんじゃないかな。って当麻君に言うのもおかしいかも、だけど」

上条「ん、続けて」

鳴護「……”夢”は誰だって持ってるし、誰だって叶えようとするよね。それは良い事なんだろうなー、とは思う。うん、思うよ」

鳴護「でも、どこかで、いつかは諦めたり、もっと現実的なものを追いかけたりするすんじゃな――」

上条「はい、ストップ。そこまでー」

鳴護「まだ途中なんだけど……うん、おかしな事は言ってないつもりだよ。ふつーの人だったら当たり前の事だし」

上条「そうだなぁ。正直、俺もその考えは正しいと思うんだが。だけどさ」

上条「もっとシンプルに聞きたい答えてほしい」

鳴護「……どうぞ」

上条「――アリサは『歌』が好きか?」



――アリサの部屋

鳴護「それは……」

上条「今から話す事は支離滅裂っつーか、ワケ分からない話になっかもしんねぇけど、まぁそこは流して欲しい。つーか、ください」

鳴護「う、うん」

上条「なんつーかな、一緒に暮らしてて思った。違和感って言うのかな?」

鳴護「……わたしと一緒には、イヤ……?」

上条「ん、そっちじゃなくて。つーかそっちには文句がある筈もねぇ……ある意味ファンに撲殺されそうな予感もするが」

上条「……んな話じゃなく、こう、なんかおかしいな、物足りないな、って感覚」

上条「あるべき所に収まる物がなくなってて、なんか不自然に隙間が空いてる、ていうか?」

上条「きっちり並べた本棚なのに、一冊だけ本が貸し出されてる?真ん中辺りが抜けてる感じ」

鳴護「言いたい事は何となく分かるよ。わたしが『あんまり趣味に時間を割いてない』ってお話なんだよね?」

鳴護「それだったら男女で違いがあるし、それに家事が終わった後には課題とかもしなきゃいけない、し?」

鳴護「だから当麻君が言ってるのは、違ってる、と思う」

上条「……あぁそうだな。勘違いかもしれないな、俺の」

上条「俺は普段アリサが何やってるのは知らないし、歌に代わる”何か”があってもおかしくないんだろう」

鳴護「て、ゆうか、無趣味な人はあたしの周りでも結構――」

上条「――ま、それはそれとして、だ。最初の質問に答えてくれねぇかな」

上条「『歌』は好きか、って質問にだ」

鳴護「……えっと」

上条「……ごめん。なんか嫌な聞き方になっちまったが、責めてるつもりはないんだよ。本当に、ごめん」

鳴護「……ん、いい、けど」

上条「ただ、その……アリサにはさ。ずっと前から言いたかった事があるんだ」

鳴護「うん?」

上条「”あの時”、俺が届かなかった――手を、伸ばせなかったから。だから」

上条「それを今、言いたい……聞いて、くれるか……?」

鳴護「……はい」

上条「嘘は吐いたっていい」

鳴護「――え?」

上条「取り繕うために、曖昧な態度で何となく笑ってたっていいんだ」

上条「辛い現実から逃げ出したって構わないんだよ。現実と戦いたくなければ、それでもさ」

上条「それがアリサにとっての”幸せ”だって言うんだったら……俺はいいと思う」

上条「少なくとも――『”こんなもの”は正しくなんかない!』なんて言って、問答無用でぶち壊すような真似はしない」

上条「……誰かに騙されてもない限りは、だし。何も考えずに、楽な方楽な方へ来たってなら問題はあるけど――そうじゃ、ないんだよな?」

上条「考えて考えて、アリサが悩み抜いた結果だってんなら、俺はその考えを尊重するよ」

鳴護「……」

上条「でも、どんなに嘘が上手くなっても、愛想笑いが得意になっても」

上条「辛い現実から逃げ回るのが癖になっちまっていてもだ」

上条「絶対に、嘘を吐いたり、誤魔化したり、逃げちゃいけないものが、あるんだ」

上条「……あぁ別に、それを『俺に嘘は言わないでくれー』みたいな、在り来たりの上っ面だけの言葉を掛けるつもりはねぇよ」

上条「そんな無責任な事、気軽に言ってていい事じゃない。つーかホイホイ言うような奴は逆に信用出来ない」

上条「そうじゃなくて、俺がアリサに分かって欲しい事は――」

上条「――『お前の好きなものから、逃げるな』って事だよ」

鳴護「逃げ、る……?」

上条「好き、なんだよな――”歌”?歌うのが、さ?」

上条「だったらさ、逃げないで、誤魔化さないで、アリサが好きな歌に正面から向き合おうぜ」

鳴護「でも、それはもう終わっ――」

上条「俺は……俺はアリサを応援してやりたいとは思ってるし、『助けてほしい』って言われたら助ける。それは絶対だ」

上条「アリサの友達、イン――佐天さんや初春さん、御坂に白井も多分なんだかんだ言いつつ、助けてくれると思うぜ?」

上条「特にアレだ。御坂なんかツンデレだから、文句言い言い駆けつけるんだよな、絶対」

鳴護「それは当麻君にだけだと思うけど……」

上条「……けど!厳しい事を言うようだけども!」

上条「俺なんかの力はちっぽけだし、応援するって言ったって大した事は出来ない」

上条「『能力』もそうだし、社会的にはどこまで行ってもただの学生――稼ぎもない扶養家族の身分だ」

上条「俺が持ってる全部を投げ打って――友達や学校、家族とか知り合い全てを切って、アリサ一人だけの力になるのは……」

上条「……出来ない、とは言わない。言わないが――それをしちゃダメだと思う」

上条「だから――そう、だからだ」

上条「アリサが最終的に、誰よりも親身になって、誰よりも一生懸命に、誰よりも長い間応援出来るのは――」

上条「……やっぱり『アリサ』自身なんだと思うよ」

上条「辛くて挫けそうになった時、何もかも嫌で投げしそうになった時、最終的に気張って支えてあげられるのは」

上条「他の誰でもなく、アリサ自身がしなければいけない事なんだ」

上条「だから、嘘を吐かないでほしい。自分の好きなものを否定しないでほしい」

鳴護「……」

上条「……俺は、アリサの歌が好きだよ。楽しそうに歌っているアリサも好きだ」

上条「あー……っと、多分こんな事言っても分からないんだろうけどさ?アリサが歌ってくれる事で、もっともっと多くの人を幸せに出来る可能性もある」

上条「例えば……アイドルになるって夢を叶えたり、ツアーやってイギリス人の女の子達と仲良くなったりしてさ」

上条「きっと楽しくなる。そういう未来が来ると思う!確実に!」

上条「この世界は、アリサが思っているよりか、ずっとずっと優しくてさ?」

上条「きっとアリサが、本気出して頑張れば!願いは――」

上条「――『奇跡』は起きるんだよ!きっと!」

鳴護「……当麻君」

上条「……きっかけは違ってたのかも知れない。『歌が好きだから歌う』って事じゃなくてさ」

上条「つーかそうなんだろう。本人申告なんだしな」

上条(アリサの”おかあさん”を探すための手段として、たまたま歌を選んだのかも知れない)

上条(”アイドルになる”のは手段であって、本当にアリサが欲しかったモノは別にあったのかも知れない)

上条「……けど!だからって!目的を好きになっちゃいけないって事もねぇだろ!」

上条「……佐天さんが言ってたぜ?『あんだけ上手いのは、歌が好きじゃないと取り組めない』とか、珍しく真面目な話」

上条「好きだったろ、歌うのは?好きになったんだろう、歌うのが!」

鳴護「――っ!」

上条「だったらさ!胸張って堂々と!『あたしは歌が大好きなんだ!』って言えばいいんだよ!」

上条「人と人が繋がる目的だったそうだよ。最初はただのファンだったかも知れないし、通りすがりの人間だったって事もあるだろう」

上条「でもそれが、何回も何回もあって話をして、お互いに気に入れば最終的に友達へ落ち着く事だってある」

上条「始まりはなんだっていいんだ。結果だってどうだっていい」

上条「もっと、こう、もっとだ!アリサは好きに生きてくれても構わないんだ!」

鳴護「……」

上条「……悪い。話が脱線してるし、何言ってんのかも分からねぇと思うが、これだけは。これだけは言わせて欲しい」

上条「――そう、だから俺は――」

上条(”アリサ”と会話して良かった。これで俺はようやく――本当に、ようやく決心する事が出来た)

上条(……アリサだけじゃない。佐天さん、初春さんに土御門……どんだけの人に背中を押されて、どうにか結論を出せた)

上条(……格好悪ぃ。つーか”ホンモノ”のヒーローだったら大して悩まず、スッパリ決めるんだろうけどさ)

上条(悩んで悩んで足掻いてみっともなく騒いで……そしてどうにか、”当たり前”の話へ気づいたなんて)

上条(やっぱり俺は頭が悪いし、英雄になんかなれっこねぇさ)

上条(……そう言った意味じゃ、レッサーだったらコンマ二秒で”この”結論へ達しそう……羨ましい、正直)

鳴護「……当麻君?」

上条「――『この世界”も”護る』よ、アリサの夢が叶えられるように」

上条「アリサが幸せに生きていくために、戦うさ」

上条(目の前の”アリサ”を助けるために)

上条「……何が世界を救うだクソッタレ!」

上条「他人を犠牲にしてまで救われる世界なんて、何も救われてねぇのと一緒だろうがよ!」

上条「そんなクソみてーな『現実』は――――――」

上条「――――――――――――――俺がぶち殺す……ッ!!!」



――アリサの部屋

鳴護「当麻君――当麻君は、優しいんだか厳しいんだか、分からないよ」

上条「悪い。なんか上手く言えなかった」

上条「けど言わなくちゃいけない気がするんだ。不格好な言葉だけど、今、全部を――」

上条「――自分に正直になってやれ、アリサ」

上条「そのために、この世界が必要だって言うのなら、アリサはここに居ればいい」

上条「それが幸せなら――世界の一つや二つ、救うだけの価値はある」

上条「それが俺の戦いだよ」

上条(――って、言うのは簡単だよな、ホントに)

上条(さてさて、俺がこれからしなきゃいけないのは……まず学校に忍びこんでーの、アルフレドを叩き起こしてーの)

上条(現実へ戻る方法と、あとは魔神セレーネを何とかする方法を教えて貰う!それで解決だ!)

上条(つーかあのアホ、『過去にも厄介な魔神が居ましたー』みてぇな事言ってやがったよな?テンパってて聞き逃したが)

上条(セレーネレベルでヤバい奴だったとして、今まで世界が終わらず続いて来た――つまり、裏を返せば『何らかの方法で撃退した』って話だ)

上条(その方法を聞き出せば、対魔神戦でも応用が利く……と、いいなぁ。つーかさ?)

上条(あんだけ大口叩いて、『やっぱアリサ連れ戻せませんでしたテヘペロ』つったらレッサー達に半殺しされそうな予感……!)

上条(なんて言おう?途中で心配になって引き返してきた?あ、道に迷ったってのもアリだな)

上条(それはそれで半殺しが全殺しに移行しそうな気もする。つーか俺だったらそうするわ。ツッコミ所満載だもの)

上条(だがしかぁし!俺には上条家伝来のDOGEZAがある!)

上条(……ってバカな話じゃなく、それで”この”世界は救われるだろう)

上条(ただ……気になる事があるとすれば、俺が居なくなった後の俺――”この世界での上条当麻”の扱いだ)

上条(まぁNPCが何事もなく埋め合わせるんだろうが……それはそれでなんか変な気分だ。イヤだっつーかさ)

上条「……ともあれ、アリサは気にしなくていいからな?」

鳴護「当麻君――」

上条「何も心配すんな。自分が幸せになる事だけを考え――」

鳴護「――――――『お兄ちゃん』」

上条「――てぇ?」 トスッ

上条(思いの外、軽い衝撃――と、俺はアリサの顔を見つめながら、そんな事を考えていた)

上条(顔?なんで正面にあるんだ?俺達は並んでベッドに座ってた筈なのに――)

上条「……アリサ?」

上条(――なんて、ベッドに押し倒された俺は現実逃避をしていたんだが)

上条(……ぽたぽたと生暖かい雫が俺のシャツを濡らし、そこでようやく現実に追い付く)

鳴護「当麻君っ、当麻君っ、当麻君っ!」

上条「オーケー、落ち着きましょうかアリサさん?具体的には、落ち着こうな?俺もお前も?」

上条(残念、追い付いてはいなかった!)

上条「てかアリサ、泣いて――?」

鳴護「わたし――あたしねっ!ずっと――歌ッ――歌を……っ!」

鳴護「好き、なのにっ!……大好きで大好きでっ!」

鳴護「でもっ!それじゃっ!――」

上条「……あーうん、そう、だよな。そうなるわな」

鳴護「……」

上条「ん、どし――」

チュッ

上条「んぐっ!?」

上条(一瞬だけ、とても良い匂いのするアリサの体が俺に触れ、離れる)

上条(残ったのは――唇に残る――)

上条「ってちょっと待て!?俺達こっちじゃ兄妹設定だぞっ!?」

鳴護「――ぅ」

上条(アリサは小さく何かを言ったが、よく聞き取れなかった。だがその代わりに)

パキィィインッ……!!!

上条「ちょっ!?世界が――」

鳴護「ありがとう――『お兄ちゃん』」



――還らざるアドニスの園 月下にて

上条「――壊れる!?」

上条「……」

上条「……うん?」

上条(目眩と酩酊感……レディリーに冥界へ繋いで貰った時によく似た感覚)

上条(前後だけでなく上下も覚束ない……てか横になって寝てる、のか?俺は?)

鳴護「――あ、急には立っちゃダメ!ずっと寝てたんだから!」

上条「……そう、か?」

上条(俺の顔の直ぐ近くで聞こえるアリサの声……えっと、どういう事だ?)

上条(俺が横になってるのは確定。で、見上げるとアリサの顔――と、満月が浮かぶ夜空。いつの間に屋外へ出たんだ?)

上条(頭の下、枕が非常に柔らかいし、見上げたアリサのおっ――げふんげふん!って事は膝枕ですね!やったよ!)

上条(じゃ、ねーわ。男の憧れるシチュだけれども、どういう状況?)

上条「えっとアリサさん?」

鳴護「――た」

上条「”た”?」

鳴護「た、他意はないよっ、うんっ!全然全然全然っ!これっぽっちも!」

上条「うん、何が?」

鳴護「親愛の情的なアレだから!感極まってフライングしちゃったとか、そういうことじゃないんだからねっ!」

上条「お、おぅ。よく分からんが、分かった」

鳴護「……分かってない。全然分かってないよ当麻君っ……!」

上条「あい?」

鳴護「ううん、別になんでもないよ?」

上条「そ、そうか?何かちょっとキレてるっぽいんだが――まぁいいか」

鳴護「あたし的には良くないんだけど……」

上条「つか起きるわ。よっと」 スッ

鳴護「ぁっ」

上条(上体を起こして――思ったよりも長く膝枕されてたようで、体がバキバキ鳴る――周囲を見渡すと、そこは花畑だった。しかも同じ花だけの)

上条(いやぁ……花畑よりも並びも大きさも混沌としてるから、自生してるだけなのかな?それにしたって地平線まで同じ光景が続いている)

上条(圧巻には違いないが、どこか寂しく――何か切なく、怖い。具体的に、と訊かれても答えようはないんだが)

上条(てかこの花、どっかで見覚えが――あぁ、テーブルの上に飾ってあった花か!)

上条「パンジー!」

鳴護「アネモネ、かな」

上条「そうだ!そんな名前だった!」

鳴護「……うん、当麻君にそーゆーのは期待してないけど……うん、しないつもりだけど」

鳴護「これ別名”アドニス”って言って、冥府の花でもあるんだよ」

上条「へー、そうなんだー?綺麗な花なのにな」

鳴護「綺麗、だからじゃないかな。綺麗過ぎるから、きっと」

上条「……ん?『冥府の花』?」

鳴護「うん」

上条「じゃここが?」

鳴護「『冥界』、かな?」

上条「……”あの”世界は……?」

鳴護「終わったよ。目覚めた、とも言うけど」

上条「……」

鳴護「……当麻君?」

上条「――クソっ!」 ガッ

鳴護「当麻君っ!?」

上条「俺は――俺はっ!救えなかった、のかよ……ッ!」

鳴護「……」

上条「あの世界を!アリサが幸せになれる世界をっ!」

上条「約束したのに!心配しなくていいって!”あの”アリサとっ!」

上条「俺は”また”アリサを助けられなか――」

鳴護「当麻君――」 ギュッ

上条「アリサ……?」

鳴護「そんな事ないよ、あの子は――」

鳴護「――あの子は”あたし”だから」

上条「アリサ、と?」

鳴護「夢の中で当麻君が大事にしてくれた女の子は”ココ”に居るよ」

鳴護「”あたし”は”わたし”で、”わたし”は”あたし”」

上条「……?」

鳴護「臆病な”あたし”と意地っ張りな”わたし”。どっちも同じ『アリサ』だから」

鳴護「当麻君はきちんと、助けてくれたよ?」

上条「でも俺っ!」

鳴護「前にも言ったよね――”わたし”が」

鳴護「『わたしはずっと、当麻君の事だけを考えているから』」

鳴護「『喜びよりも、悲しみよりも、ただあなたの事だけを想っているから』――だから」

鳴護「あっちでもこっちでも、当麻君がどれだけあたしを思って、わたしのために行動してくれたのか、知ってるよ」

上条「じゃ――俺がやって来た事は」

鳴護「無駄じゃない。当麻君の思いは届いているよ――ここに」

上条(そう言ってアリサは自分を抱き締めるように手を握る)

上条(……あぁ、そうか。”あの子”もアリサだったんだな)

上条(”夢”を見るだけじゃなく、その登場人物として物語に出ていた女の子)

上条(そんな彼女を、俺は救えた……!)

鳴護「でもね当麻君。当麻君はズルいと思います!」

上条「……何が?」

鳴護「フツー、こういう展開になったんだったら、『一緒に着いて来い!お前が必要なんだ!』じゃないのかなぁ?」

上条(ジョーク、なんだろう。アリサの声は拗ねているようで、構って欲しい響きがあった。そう、それは――)

上条(『夢』の中で出会った、あの少しだけ意地っ張りな女の子によく似ていた)

上条「あー……それな。実は俺も思ったんだよ、ちょっとはな」

上条「なんかこう、そっれぽい台詞言って、『右手』でどうこうすればいいんじゃねぇかなー、的な感じに」

鳴護「……アバウト過ぎないかな、それ?」

上条「けど、それじゃきっとダメなんだよ。ダメだと思ったんだ」

上条「アリサが、アリサ自身の思いで、判断して帰るって思ってくれないと」

上条「……今は良いかもしれないけど、いつか必ず破綻しそうな気がして、さ?」

鳴護「……うん、ごめんなさい」

上条「無理矢理に手ぇ引っ張るよりか、自分の足で歩いて欲しかったんだよ」

上条「俺が――俺達がアリサを助けるのは当たり前だし、これからも」

上条「……でも結局、アリサが現実を変えたり、自分を変えようと思ってるんだったら、さ?」

上条「まず自分から『変えよう!』って動かないといけないんだ。それは」

上条「……嫌な言い方だけど、誰かの善意に縋って生きたり、誰かの言う通りに生きてるのって、生きてる意味があるか?」

上条「一歩一歩、自分の速さでっつーかさ……あぁ、すまん、俺も上手く言えない」

鳴護「……ううん。何となく分かるから」

上条「つーかさ、一体何が起きてたんだ?最近のアリサの不安定さ?なんて言ったらいいのか分かんねぇんだけども」

上条「”あたし”と”わたし”の二人のアリサが居たって事か?二重人格的な?」

鳴護「んー、そんなに大げさなもんじゃないよ。どっちも同じ『アリサ』なんだから」

上条「……そっか」

上条(アリサがそう言うんだったらそうなんだろう……てか、何となくは想像もつくし)

上条(”あたし”の方のアリサは素直で良い子だった。アホ曰く、『気持ち悪いぐらい不自然』に)

上条(見てて心配になるぐらいまで溜め込んで、不満を爆発させるような……まぁ、俺も悪かったんだが)

上条(対して”わたし”の方のアリサは比較的ズバズバ言うし、あんま素直になれてない感じ)

上条(俺に対してもワガママ言ってきたり――あの程度をワガママと言えるのかはさておき、そんな性格)

上条(誰だって――『人間』であれば持っていて当然の二面性に過ぎない。その程度の違いだ)

上条(どっちが正しく、また悪いって訳でもなく)

上条(どちらかが欠ければ不安定になるような、ただそれだけの話)

鳴護「――さて、それじゃレッサーちゃん達も頑張ってるみたいだし?」

上条「だな。つーか地上大丈夫かな?帰ったら滅んでましたー、的なドッキリは勘弁だぞ?」

鳴護「……誰が心配?」

上条「そりゃレッサーだけど?主に頭の問題で」

鳴護「むー……レッサーちゃんにポイント稼がれる感じがするー……」

上条「うん?」

鳴護「ううん、なんでも?――あ、そうだ、当麻君」

上条「はい?」

鳴護「”わたし”に『好きなものは好きだって言っていい』って言ったよね?あの時言ったもんね?」

上条「あぁ言った。けどそれが?」

鳴護「……ほんとーーーーーーーーーーーーっにっ!言ってもいいんだよね?好きだ、大好きだって?」

上条「当たり前だろ。つーか遠慮してんなよ」

鳴護「……分かった。それじゃ楽しみにしてて、ね?」

上条「あぁ!……あれ?何か寒気が?」

鳴護「それじゃ、当麻君!」

上条(アリサが伸ばして来た手を自然に取る)

上条(その手は――どこで繋いだ手とは決定的に違い、とても温かく……あぁ、そうか)

上条(これは――『幻想』じゃねぇんだな……!)

鳴護「一緒に、帰ろ!」

上条「そうだ――な?」

ゴボッ、ゴボゴボゴボゴボッ!!!

上条(”それ”は脈絡無く、アドニスの花畑に現れた)

上条(大雨の日に溢れる下水のように、狭い空間を縫って現れる”それ”)

上条(周囲の花々を薄汚く染め上げる程に、黄色い水溜まりが姿を現す)

鳴護「当麻君?」

上条「――俺の後ろへ」

鳴護「う、うんっ」

上条(アリサを後ろへ庇い、俺は”それ”を書面に見据える……ほんの少し目を離しただけなのに、また姿を変えようととしていた)

上条(黄色い水溜まりは大きく伸び上がり、人の背丈程の大きさになった――かと、思えば、ブルブルと震えて伸びたり縮んだりを繰り返し)

上条(表面を覆っていた液体を振るい落とし、不格好ながらも人の姿を模した形を取る)

上条(……顔の無い人間を、人と呼ぶのであれば、だが)

泥人形?「ゴボ……ゴボ……ッ!」

上条「こいつ……スワンプマン、か?」

泥人形?「――正解、だぜ……”カミやん”」

上条(不明瞭なまま、”そいつ”は俺の名を呼んだ……てか、この喋りは)

上条「……アルフレド……?」

アルフレド(泥人形?)「とんでもねぇ、あたしゃ神様……ゴボゴボッ」

上条「無理してボケようとすんな!」

鳴護「えっと、誰?」

上条「アルフレド=ウェイトリィ――の、NPC?何つったらいいのかな……あぁ」

上条「アリサが夢の中で他の人達を造ってただろ?あれと同じように、俺もこいつを呼んで色々アドバイスして貰ってたんだ」

上条「本人って訳じゃないし、別に害を与えるとかそういう事もしなかったよ」

鳴護「……当麻君、それは」

上条「てか夢の中全部憶えてるんだったら、俺とこいつが空き教室でダベってたの、知ってんじゃないのか?」

鳴護「……空き教室?」

上条「あぁ。買い物に行けなくなった日の話――ってアリサ?」 グッ

鳴護「知らない、わたしは知らないよ、そんな事!」

上条「ま、そりゃそうか。全能って訳じゃないんだろうし」

鳴護「そうじゃなくて!その日の当麻君は教室でお友達に相談されてたんだよ!」

上条「――はい?」

鳴護「それにっ!この人が夢の中の存在だったんなら――」

鳴護「――どうして今、”外”に居るの……?」



――アドニスの園

上条「え?でもこいつ、龍脈の事とか教えてくれたぞ?アリサを助けるためにアドバイス、っつーか」

上条「……ま、結果的には全部ガン無視しちまったけどさ」

アルフレド「んー、カミやんさ。俺を信じてくれんのは嬉しいんだが、最初に言ったよな?」

アルフレド「『俺はお前達の敵』だってさ。フランスの駅の話、憶えてねーかい?」

上条「あぁ知ってる、けど。お前は俺が造り出した――」

アルフレド「そうそう。確かに俺はお前が造り上げた存在だな、だからこうして不格好な姿しか取れない」

アルフレド「だがねー、カミやん。カミやんには言ってなかったけど、俺の特性の一つには”Crawling Chaos”っつーメンドクセー特性があんだよ」

アルフレド「そいつぁ”嘘が本当になり、本当が嘘になる”んだ、つ・ま・り!」

アルフレド「『嘘が吐けない』という本当が嘘になったんだよ!」

上条「そう、なのか?いやでもお前は色々助言を――」

アルフレド「嘘を尤もらしく吐く方法は幾つもあるが、その中の一つには『真実の中へ嘘を埋め込む』ってな手段がある。情報操作の基本だぜ」

アルフレド「そいつを利用して都合の良いようー事を運ぼうとしたんだが……まぁなんだ。お前なんで夢ん中のアリサを肯定したんだよ?」

アルフレド「あそこでぶち壊してもこの世界は終わったのに、情でも湧いたかい?」

上条「あー……それな。俺もどうかと思うんだが、我ながらっつーかさ」

アルフレド「俺のプランを見破った?……そんな雰囲気じゃねぇしなぁ」

上条「プラン?」

アルフレド「いや、俺の計画じゃ『龍脈を殺す』つもりだったんだわ、これが」

上条「――――――は?」

アルフレド「んーまず龍脈って力は膨大じゃん?それを打ち消そうとしても、この星が生きてる限りは無理だってな」

アルフレド「だから俺は考えた――『だったら龍脈自身の力を利用して。自殺させてやればいい』ってな」

アルフレド「要はアレだ。体のデカい奴とケンカするんだったら、無理矢理ぶん投げちまえば、そいつが自重でダメージ受ける感じ?」

アルフレド「ゲームで言えばつえー魔法を使う敵に、魔法反射でぶっ殺そうって発想だわな」

上条「それと俺の力にどんな関係が?」

アルフレド「うん、だからさ。カミやんにアリサを否定させる、ただそれだけなんだよ」

アルフレド「冥界みてーな、龍脈の深部に近い所でそれをやらかせば、龍脈自体が死に絶えんじゃね?と」

上条「……俺にそんな大層な力は無ぇよ」

アルフレド「てかカミやんは現実世界で散々やった来たじゃねーか、その『右手』で」

上条「……?」

アルフレド「存在意義の否定、存在理由の否定。鳴護アリサが自身の意義を否定して消えたように、龍脈もまた否定すれば消えんじゃね?」

アルフレド「――ま、『右手』を媒介に自殺させようとしたんだが、大失敗だなーもー!大赤字にも程がある――つーかさつーかさ、カミやんさ」

アルフレド「なんで鳴護アリサを殺さなかったんだ?ただ否定するだけで良かったのに」

アルフレド「俺の正体を見破った――てぇ、顔じゃねぇよな」

上条「……あぁそれか。完全に騙されてたし、怪しいとは思ったけど……言い訳だしなー」

上条「騙す騙されないで言えば、俺は小学生にも騙される自信があるっ!」

鳴護「当麻君……」

アルフレド「私が……小学生と同じ扱いかね……」

上条「つーかアルフレド、俺はお前が『何』なのかも知らねぇ」

上条「ここまで引っ張る上、魔術師サイドに殆ど情報が漏れてないんだから、相当だってのは分かる」

上条「そんな相手があれこれ、事実と嘘をバーゲンセールみてー引っ張り出してきて並べたんだ。騙されない自信はない!」

鳴護「や、だから当麻君は胸張って言う事じゃ、ね?ないから、うん」

上条「でも結局さ、この世界ってのはシンプルに出来てると思うんだよ」

上条「騙す騙されない以前の話で、それがどんなに理不尽だろうが、絶対に守らなきゃいけない一線ってのもあるんだ」

上条「俺が子を守ったり、子が親を守ったりすんのと同じ」

上条「目の前で転んだ相手へ手を差し伸べるのに、理由なんて要らないのと一緒」

上条「夢の中だろうが、現実だろうが――」

上条「――俺が”友達”を否定する事は、ない。絶対にだ」

鳴護「……」

上条「お前は誰かを騙すのが得意なんだろう。でも、これだけは憶えとけ」

上条「どんなに嘘を重ねようとも、俺達は正しい選択肢を――」

アルフレド「――人が人を殺すのに、何が必要だと思う?」

上条「なんだよ急に」

アルフレド「凶器?……それは違う。凶器なんかなくても人は殺すだろう」

アルフレド「それとも狂気?……それも違う。狂気なんかに縋らなくても、人は正常に人を殺すだろう」

アルフレド「人が人を殺す理由――それは『善意』だ」

アルフレド「『俺は正しい。俺達は正しい。責任は全て向こうにある』――どっかで聞いた事はねーかい?」

アルフレド「イギリスの政治家、アーサー=ポンソンビーは第一次世界大戦中、政府が行ったプロパガンダを10の要素にして発表した」

アルフレド「『一、我々は戦争をしたくはない』」

アルフレド「『二、しかし敵側が一方的に戦争を望んでいる』」

アルフレド「『三、敵の指導者は悪魔のような人間だ』」

アルフレド「『四、我々は領土や覇権のためではなく、偉大な正義のために戦う』」

アルフレド「『五、そしてこの大義は神聖なものである』」

アルフレド「『六、我々も誤って犠牲を出す事がある。だが敵はわざと残虐行為に及んでいる』」

アルフレド「『七、敵は卑劣な兵器や戦略を用いている』」

アルフレド「『八、我々の受けた被害は小さく、敵に与えた被害は甚大』」

アルフレド「『九、芸術家や知識人も正義の戦いを支持している』」

アルフレド「『十、この正義に疑問を投げかける者は裏切り者だ』」

アルフレド「……ま、こいつぁ極端な例だが、俺はカミやんへこう囁いたんだよ。憶えてるかい?」

アルフレド「『”世界のため”にアリサを殺せ』ってだ」

アルフレド「疑わなかったろう?納得したろう?」

アルフレド「『何かのために誰を殺す』――”善意による同族殺し”をだ!」

上条「……」

アルフレド「お前は正しい道を行った――だが、お前でなければどうなった?どうしたと思う?」

アルフレド「悲劇のヒーロー気取りで嬉々として殺していただろうな!この世界ごと!」

アルフレド「私の顧客は全世界にごまんと居るぞ!そして皆が皆賢人ばかりとは限らない!」

上条「――悪い、アルフレド」

アルフレド「あん?」

上条「お前の言葉はもう俺には届かない」

上条「人は、ってかまぁ誰だって完璧な奴は居ない。どんな聖人君子だって、悩みもするし失敗もするさ」

上条「歴史が証明しているように、最善を求めた挙げ句、最悪の結果になっちまう”可能性がある”のも知ってる」

上条「……でもだからっつってさ、何も選択しない、何も選ばない――」

上条「――『前へ進もうとしない』のは、ただの自殺と何が違う?」

アルフレド「へぇ」

上条「……気持ちは分かる。俺も器用な人間なんかじゃないから、いつだって間違って、失敗ばかりやらかしちまう」

上条「それで迷惑かけんのもしょっちゅうだぜ……いや自慢は出来ねぇが」

上条「けど!そんな俺を、ダメだからって叱ってくれたり、グチグチ言いながらも背中を押してくれる奴らが居る」

上条「こんなバカな俺のために必死になって戦ってくれる仲間が居る」

上条「……俺はそれがたまらなく”幸せ”なんだと思う。なんだ、じゃないな。絶対にか」

上条「もう迷ったりは出来ないんだ。散々みっともないとこ、見せちまってるから」

アルフレド「……」

上条「俺達を――”人間”をナメてんじゃねぇぞ……!いつまでもいいようにされてる程、俺達は弱くはない!」

アルフレド「結構!それはそれで大いに結――ゴボッ……クソ、時間切れ、ゴボッ」

上条(泥の体が、貌の無い泥人形がゆっくりと崩れていく……)

上条「会いたくはねぇが……また、会うんだよな?」

アルフレド「俺の性格だとこの”先”で待ってる筈――つーかカミやん、気合い入れて行けよ?」

上条「何がだよ」

アルフレド「オルフェウスを筆頭に、黄泉帰りで失敗したのは帰り道だ」

アルフレド「禁則事項は幾つかあって、『見るな』『交わすな』『振り返るな』……が、この場合は無視しても――ゴボッ」

アルフレド「通路の――先――扉――ある」

アルフレド「そこへ――かぎ、を――」

バシャアァァッ

上条(人は土へ還り、物は砂へ還る……マタイさんの言葉だったっけか)

上条(俺が教えて貰った『龍脈』の話。どれもこれも”そう解釈している”だけの話であって、結論じゃあない)

上条(全ての記憶が蓄積されている――それは、裏を返せば俺達の魂みたいなものが、最終的に行き着く場所なのではないか?)

上条(……ま、妄想にしか過ぎないが――もし、そうであれば、この泥人形の魂はどこへ行くのか?)

上条(最初から無かったのと、失われたのでは全く違う。俺の目には”あった”ようにしか映らなかったが……)

鳴護「――当麻君、そろそろ」

上条「……あぁ。今度こそ――帰ろう!」



――青冷めた光の柱の下

……イィギギィン……ッ!

レディリー「……生きてるかしら、『新たなる光』さん?」

ベイロープ「……一応は、ね。レッサー!」

レッサー「あいあい、フロリスとランシスの生存も確認。ちゅーか無傷ですなぁ、”我々”は」

ベイロープ「どういう事よ?」

レディリー「……マーリンが相殺させようとした魔力の余波、こっちまで来ていたのよ。偶然だろうけどね」

レディリー「私と違って、あなた達は死んだら死んじゃうでしょ?だから、肩代わりしてあげたのよ」

ベイロープ「先生はっ!?」

レディリー「ここに居ないんだから、もう、どこに居ないんじゃないかしら?知らないけど」

ベイロープ「……っ!」

レッサー「ベイロープ、今は」

ベイロープ「……えぇ、分かってる」

レディリー「……お取り込み中に悪いのだけれど、時間が無いから私の話を聞きなさい」

レッサー「時間、ですか?」

レディリー「障壁貼るのにちょっと無茶しちゃってね。内臓全部”持って行かれた”みたいなのよ」

レディリー「呪術を返す時によくある”逆凪”。死ねはしないんだけど……多分、ボウヤが帰ってくるまでは、眠、って――」

レディリー「……」

フロリス「――ほい回収っと!」 ドサッ

ランシス「……どうする?」

レッサー「どうもこうもないでしょうね。レディリーさんは古参の魔術師の一人」

レッサー「……とはいえ、元々が占術系でして直接戦闘は不向き。人形造ってサポートさせるのがメインだと」

レッサー「ぶっちゃけご自分の仕事――上条さんを冥界へ送り込んで下さった時点で、ノルマはこなしてるっちゃこなしてますしねぇ」

ランシス「しかも不死身だから、放って置いても死なない……!」

ベイロープ「はいストップ。手伝ってくれた人に鞭打つの禁止ね!」

フロリス「むしろこのヒトの場合、ポックリ逝ってくれたほーがご褒美だーよねぇ、ウン」

レッサー「ある意味、『さっさと一抜けしやがった』状態でもありますが――さて、どうしましょうかねぇ、これ」

レッサー「曲がりなりにも一流以上の魔術師が二人……もとい、一人と一匹が数分しか時間稼ぎ出来ませんでしたしねぇ、えぇえぇ」

レッサー「いやー参っちゃいましたよねーっ!あーはっはっはっはっはーっ!」

ベイロープ「……なんかもう、頭痛くてツッコム気にもなれないのだわ……」

フロリス「てかマジでどーすんだぜ?ワタシらにできる事ってもうなくね?」

ランシス「霊装は”X”の準備で稼働中だし、起動に魔力遣っちゃってる、し……」

レッサー「起動しようと思えば出来るんですけど……問題は後始末ですかねぇ、壮大な」

フロリス「ウン?後始末って?」

レッサー「えぇっとですね、セレーネは大丈夫……」

ランシス「術後の硬直でフリーズしてる……」

ベイロープ「……先生が使ったのは『呪い返し』の亜種だったんでしょ。だから元々の威力が高ければダメージが増える」

レッサー「流石は故・もふもふ。やっつけ仕事やらせたら円卓一ですな!」

ベイロープ「勝手に殺すな。あとやっつけ言うな」

レッサー「いやぁ、実はですね。倉庫でもふもふから聞いてたんですけど――なーんか今、自転が停まってるっぺーんですなー、はいー」

フロリス「自転?」

ランシス「地球の回転だよね……」

フロリス「や、知ってるケド!なんで?つーかマジで?」

レッサー「や、ですから今。月は月蝕のままで固定状態ですから、地球か月の自転は停まったままなんですよ」

レッサー「そうじゃないとフツーにズレますからね、天球の位置が」

フロリス「月が固定されているだけって可能性は?」

レッサー「と、すると他の天体が干渉する可能性がありますし、10月8日の18時6分でフリーズしてると考えられる、と」

ランシス「月が固定されてるだけでも、ウィッカには大打撃……」

ベイロープ「そして星空が見えないから確認出来ないけど、最悪なのは公転周期からも外れてれば……人類どころか生命滅亡よね」

フロリス「どゆこと?」

ベイロープ「地球から太陽を無くすとどうなる?」

フロリス「……終わるよねぇ、そーしたらさ」

レッサー「えぇ、ですから『アリサさんの帰還』――要は、”元へ戻せる”可能性がある方へ賭けたんですがねぇ」

フロリス「つーことはアレか?中途半端にセレーネを倒しても、その後始末で人類滅びるって話なん?」

ベイロープ「それに今、セレーネが接続している龍脈は二つ、星辰の龍脈と大地の龍脈」

ベイロープ「これがまだ片方だけならば、断線させて存在自体を消す事が可能でしょうけどね」

レッサー「これがまだ『幻想殺し()』が手元にあれば話は違うんでしょうけど!」

ベイロープ「カッコ笑いをつけない。あれでも私達の生命線なんだから!」

レッサー「従って、現状我々が出来る事は皆無に等しく、ただただダベる事が精々なのですが――」

レッサー「向こうさんはやる気なんですよねぇ、こういう時に限って」

セレーネ『……どうして……』

セレーネ『どうして、わたしの言う事が聞けないのかしら……?』

レッサー「話が通じるとは思えませんがね、人類最後の一人として啖呵を切らせて貰いましょうか。セレーネさんとやら」

セレーネ『よい子はもう夢の中、起きているのはあなた達だけなのよ』

レッサー「夢ってのは目的であって手段とは違う。見るのは勝手ですが、それにハマって現実を忘れるようじゃまだまだ」

セレーネ『それともぼうや達は悪い子なの?かあさんとっても悲しい、悲しいわ』

レッサー「夢に生きるのもいいでしょう。否定はしませんよ。少なくともこの可能性に満ち溢れた世界では、それもまた自由の一つです――が!」

セレーネ『……そうよ、こうしたらどうかしら?みんな、仲が良いみたいだし――』

レッサー「夢なんていう下らないモノで私達の可能性を殺すな!」

セレーネ『でも少し――痛いかも知れないけれど――』

レッサー「あなたには分からないでしょう!?人類が積み上げた英知と希望を!泥と血に塗れながらも掴み取った王冠を!」

セレーネ『――許して、ね?駄目なお母さんを許して……』

レッサー「人類の歴史に楽な道など一つもありませんでしたよ!どの時代でもどの世界でも、見ている先は違えでも必死に前へ進んできたって言うのに!」

セレーネ『可愛いボウヤ達を――』

レッサー「そんな独り善がりの『幻想』は――」

レッサー・セレーネ「『――殺して――』」

セレーネ『――しまう、かあさんを許して?』

レッサー「――差し上げましょう、我が名『Arthur829(永劫の旅路の果てに再び戴冠する王)』にかけて……ッ!!!」

セレーネ『「”Der Ho"lle Rache kocht in meinem Herzen, Tod und Verzweiflung flammet um mich her!”」』
(地獄の復讐が我が心に煮え繰りかえり、死と絶望がこの身を焼き尽くす!)

セレーネ『「”Fu"hlt nicht durch dich Sarastro Todesschmerzen, So bist du meine Tochter nimmermehr.”」』
(あなたがザラストロに死の苦しみを与えないならば、お前はもはや私の娘ではない)

セレーネ『「”Verstossen sey auf ewig und verlassen, Zertru"mmert alle Bande der Natur, Wenn nicht durch dich Sarastro wird erblassen!”」』
(勘当されるのよ永遠に、永遠に捨てられ、永遠に忘れ去られる。血肉を分けたすべての絆が。もしもザラストロが蒼白にならないなら!)

セレーネ『「”Ho"rt Rache, - Go"tter! - Ho"rt der Mutter Schwur.”」』
(聞け、復讐の神々よ!母の呪いを聞け!)

セレーネ『「”――Der H_lle Rache kocht in meinem Herzen
(――夜の女王のアリア)

レッサー「……と?何も起きませんねぇ、これは」

フロリス「ドヤ顔で言っといて失敗したんジャン?」

ベイロープ「だったらどんだけ楽かって話よね」

ランシス「……?」

レッサー「て、さっきから空見上げてどうしましたか?」

ランシス「おかしい……?」

フロリス「ウン?……あーあー、星のない夜空なんだケド、なーんかおっかしいカンジ?するよね?」

レッサー「そう……でしょうかね?私の目にはそんなに違いは分かりませんが」

ベイロープ「――そうじゃない!”何か”が!」

レッサー「空が――落ちてくる……!?」

セレーネ『……きひっ!ぼうや、わたしの可愛いぼうや達!』

セレーネ『心配しなくていいのよ。”今度”は良い子に生まれてきなさい、ね?』

セレーネ『それともみんなはそのままがいいのかしら?』

セレーネ『それでも心配は要らないわ、すぐに黄泉帰らせてあげるから』

セレーネ『だから、ほんの少ぉし、少しだけチクッとするかも知れないけれど』

セレーネ『目を閉じて、お祈りしましょう?――かあさんと一緒に、ね?』

セレーネ『愛しているわ――――――――ぼうや』

セレーネ『世界よ終われ!あなたは美しい!』

セレーネ『過去既にあったモノも、今嘗てあったモノも、永遠の虚無に等しいわ!』

セレーネ『さぁ、わたしが護ってあげる!わたしの揺り籠でずっと揺蕩いなさいな!』

セレーネ『きひっ!きひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひ……ッ!!!』



――夜の学校?

上条(延々続く無限回廊と文字通りの階段マラソン……今日もまたドラム缶を押す一日が始まる――)

上条「――ってまたここかよ!?知ってたよ!何となくそんな気はしてたけども!」

鳴護「ま、まぁまぁ!当麻君のイメージなんだから仕方がない、し?」

上条「イメージ?」

鳴護「うん。『ここはそうゆうところなんだよ』ってインデックスちゃんが」

上条「……インデックス居ないんだが……『龍脈』にアクセスしてる?」

鳴護「えっと……『むかしから知識を求めて異界へ旅立つお話はあってね、そこで賢者や仙人、時には神や悪魔と遭うんだけど』」

鳴護「『”龍脈”が彼らに代って役割を果すとすれば、それは流れ込む過去の記憶が人の姿を取って辻褄を合わせてたのかも』って」

上条「俺ら的には”現実じゃないどこか”へ迷い込んだつもりでも、実際には『龍脈』に繋がって情報を取っていただけ、か?」

鳴護「『勿論!誰も彼も出来る事じゃないんだよ!不用意にやろうとすれば発狂するし』」

鳴護「『たまたまありさや、魔術的に死んでた人が居たからであって、素人にはおすすめしないんだよ』……素人?」

上条「……ベイロープん時も思ったが、なんだかなぁ」

鳴護「『っていうかありさ!言っちゃ駄目だってば!』……うん?」

上条「イギリスから戻ったら美味いメシでもお見舞いしてやるから、色々な意味で諦めとけ」

鳴護「えぇっとー、インデックスちゃ――もとい、匿名希望Iさんが言うには、だけどね」

上条「アリサさんもそこはもう情報公開していいんじゃないかな?逆にここで見ず知らずの誰かにアドバイスされてる方が怖いからね?」

鳴護「例えば!そこの扉を『この扉を潜れば現実へ帰れる!』って”当麻君が心の底から思え”ば、その通りになったんだって」

上条「お、マジで?ラッキーっ!」 ガラガラッ

上条「……」

鳴護「……」

上条「帰れ、ないんですけど……?」

鳴護「や、だからね?過去形だから、その通りになっ”た”ってだけで」

鳴護「今はある程度イメージが固まったから、ネタばらし出来るけど。うん」

上条「なんでまた?俺に言えばいいじゃん、最初っからさ」

鳴護「あー……なんかね、こう、なんでもポジティブに考える人とか、経験を積んだ魔術師さんだったら問題ないんだって」

鳴護「でも、フツーの人は、『あ、オバケ出るかも!?』って思った瞬間に出るし」

鳴護「『もしかして出口がないじゃん!?』って疑っちゃうと、もう出られなくなるんだ――よ」

上条「なにそれこわい――てか、いいのかネタばらししちまって?」

鳴護「もう魔術的には安定している――というか『完成』した後だから、これ以上大きく変わりはしないだろうって」

上条「……言われてみれば、ベイロープとアホがしきりに俺を言い聞かせてたような……?」

鳴護「……で、当麻君的には出口、どこら辺にあると思う?まだ遠いのかな?」

上条「んー……近い、と思う。最大の難関、アリサの説得も済ませたし、後は帰るだけだからな」

上条「そろそろ階段も上らなくていいような気がする。そうだな、この階をずっと進めば、帰れると――」

――ィィンッ――

上条「――思、う?なんだ今の?何か聞こえなかったか?」

鳴護「はい?あたしには何も――」

……ァァ……………………ア――

鳴護「……人の声、だね。それも一杯、ていうか周囲に……居る、かも」

上条「……もしかして俺?またやっちまったのかよ!?」

アルフレド「――違う。”これ”はそういうもんじゃねーんだよ」

上条「……もういい加減飽きた。ウェイトリィ兄弟のアホの方」

アルフレド「随分なご挨拶だよなぁ。まー、俺も同感だけどさ」

上条(影から――文字通り”影”から――ぬぅっと三体の人陰が立ち上がる)

上条(二次元の薄さが徐々に厚みを持って人型に――って、待ってやる義理はねぇっつーの!)

上条「そこを、どけぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!」

団長『はっ、はあぁーーーいっ!』

バスッ!

上条(俺の右手はまた『団長』に易々と受け止められ、もう一つの影に飛び掛かられる前に後ろへ下がる!)

安曇「……ふむ、そう邪険にされては心が痛む、な」

上条(相変わらず少年か少女か分からない安曇阿阪。それに鉄仮面を被ってアニメ声メイド口調の『団長』……!)

上条「……幹部揃い踏みじゃねぇか!つーかお前ら死んだんじゃなかったのかよ!?」

アルフレド「あぁ死んだよ!俺達は完膚なきまでに死んださ!」

アルフレド「でも”ここ”は冥界だぜ、カミやん?死人が居て当然だろう?」

上条「だからって!急に出て来やがって邪魔するのか!」

アルフレド「――に、プラスして、たった今現実世界で魔神セレーネが『黄泉穴渡り(ナヅキノドウ)』を発動したぜ!」

アルフレド「神託巫女と蜂蜜酒の女王に邪魔されたが、発動が遅延しているだけで効果は出ている!俺達が証拠だ!」

上条「なづき……?」

アルフレド「十字教風に言えば『審判の日、その日(Apocalypse now)』かね?つーか聞いた事ねぇかな?」

アルフレド「終末の日には墓から死者が蘇って、善人も悪人も等しく神の裁きを受けるって――所謂黙示録かね」

上条「死者の――ってお前まさか!?」

アルフレド「あの世とこの世の境界は崩された!死人は墓から這い出るぞ!生者と仲良くパヴーァーヌを謳い上げろ!」

アルフレド「母親は戦場から戻った息子の死体へキスをし、子供は病気で死んだ犬の屍体を抱き締める!なんて、なんて美しい世界だ……ッ!」

アルフレド「――そう!”魔神の術式に善悪などない”んだよ!それが善人だろうと、悪人だろうとこうやって復活する!」

アルフレド「楽しい、あぁ楽しい世界の始まりだ!」

上条「……おい」

アルフレド「――て、ゆーかさ、カミやん。なぁカミやんよ?」

アルフレド「お前がぶち壊してくれたお陰で、この下らないボードゲームを続けようとしやがったせいで!」

アルフレド「俺の計画が台無しになった……クソッタレ、あぁあぁクソッタレが!」

上条「……」

アルフレド「折角”生かしておいてやった”のに!鳴護アリサの首を絞める大役を任せてやったのに!」

アルフレド「お前は!どうして役目を放棄しやがったんだよ、なぁ『幻想殺し』!?」

上条「……”あっち”でのお前にも言ったんだが、お前の言葉はもう届かないよウェイトリィ」

上条「それと――カミやん言うな」

アルフレド「あっあー、アレか?鳴護アリサ取り戻して調子ぶっこいてますかー?へー?」

アルフレド「上条さんはーアレですよねー?『右手』が効かなっきゃただの学生さんですよねー?」

アルフレド「『龍脈の力を得て記憶から再生し続けてる』俺らに、効くと思いますかー?」

上条「効くも効かねえもねぇさ」

アルフレド「あぁ?」

上条「お前が、お前らが俺達の前に立ちはだかるんだったら、全部ぶっ飛ばすに決まってんじゃねぇか!」

安曇「……ふふっ!」

団長『やだー、かっこいいー』

アルフレド「よっしゃ!はい、お前死んだ!つーか直ぐぶっ殺す!」

アルフレド「ブラック・ロッジのボス三人相手にして勝てるとでも思ったか――行くぞ!」

団長『りょうっかいっでーすっ!』

安曇「……ふむ――」

上条(前へ進み出るアルフレドと『団長』……やべぇ、勝つ自信なんかこれっぽっちもねぇよ!)

上条(今回の事件、殆ど俺はサポート役に回ってばっかで、連中にトドメ刺したのは『新たなる光』だし!)

上条(――そう、俺が半ばパニクっていると、先手を切ったのは――)

安曇「『”綿津見ニオワス大神ヘ奉ル”』」
(しょくじのじかんだな)

安曇「『”同胞ノ血ヲ以テ盟約ト成セ、我ラガ安曇ノ業ヲ顕現セン”』」
(では、いただきます)

上条(安曇の口が大きく裂け、子供ぐらいなら一呑みに出来そうな程、縦に伸びた!)

バキィッ、ガリガリガリガリカ゚リッ……ツ!!!

上条(その勢いそのままに、”最も近くに居た”者を噛みつき、貪り、引き千切る――)

アルフレド「オイ、阿阪安曇――」

上条(――そう、安曇がなんの躊躇もなく攻撃し、貪り食ったのは――)

アルフレド「――テメェ、なにやってんだコラァァァァァァァァァっ!?」

上条(――紛れもなく、”アルフレド”の左腕だった……!)

ズゥゥンッ、パリリイィンッ……!

団長『――!?』

上条(安曇はいつの間にか爬虫類へ変えた足で、『団長』も蹴り飛ばす!)

上条(背後からの奇襲に抵抗も出来ず、彼――か、どうかは知らないが――は、窓ガラスを突き破り、漆黒の闇に包まれた”外”へと叩き出された!)

安曇「だから、安曇阿阪だと言っている。以前にも言ったとは、思う」

アルフレド「何してくれんだよ、何してくれやがってんだよ、あぁっ!?」

アルフレド「テメーも俺達と同じ魔術結社の一員だったろうがよ!ブラック・ロッジのだ!」

安曇「そうだな、一言で言えば――」

安曇「――『交尾』、だな」

アルフレド「……?」

安曇「あぁ、ニンゲン――ではなく、カミジョウトウマ、か」

安曇「時間稼ぎをしてやろう、と安曇は言っている。よって先へ行け」

上条「お、おぅ……?」

アルフレド「質問に答えろ!」

安曇「分からないのか?そんな事すら説明が必要か?……ふぅ」

上条「……俺も知りたい。なんでお前が裏切るみたいな感じになってんだよ?」

安曇「知らないのか?その程度の事すら言わなければ分からないのか?……かくもニンゲンとは度し難い」

安曇「ならば見知りおけ。さして難しい事でもない故に」

安曇「安曇はな、魔術師だ。それも”ぶらっく・ろっじ”と呼ばれる、自己中心的な魔術師の中ですら、より欲求に”すとれぇと”だ」

安曇「喰いたければ、喰う。抱きたければ、抱く。自己の欲求のみに生きる存在だ」

安曇「たまたま”今まで”は利害が一致したに過ぎん。これからは違うという事だな、うん」

上条「利害?」

安曇「我が一族が金よりも欲している”モノ”は『血』だ。より強くより濃い、強者の種を取り入れなければならん」

上条「ヘー、そうなんだー?」

安曇「うん、そういう訳で先へ進むとよい――”だぁりん”」

上条「おうっ!………………おう?」

安曇「横文字は発音しにくいな。『お前さま』、の方がよかったのか?」

鳴護「……当麻君?」

上条「待て待て待て待て待て待て待てっ!?テメェ何言い出しやがった」

安曇「お前は安曇を下した、よって強者である、ここまでは理解出来るか?」

上条「あ、あぁ!」

安曇「よって『交尾』をする権利をやろう。というか、しろ。むしろ無理矢理にでも、する」

上条「だめだこいつなんとかしないと!つーか発想が獣レベルじゃねぇか!?」

安曇「獣だが?」

上条「ウン、ですよねー。お前ら徹頭徹尾類人猿レベルですもんねー」

安曇「――と、いい加減先へ行け」

上条「いやだから――」

安曇「いいか?時間稼ぎ、だからな?いくら安曇であっても、”でうす”相手にそれ以上は厳しい、と言っておこう」

上条「でうす……?」

上条(安曇が視線を外さぬ先にはアルフレドの姿があった――だが、しかし)

上条(傷口からは蔦のような触手が伸び、腕のような姿を取り戻しつつある様は悪夢めいている――っていうか!)

上条(”これ”はなんだ?安曇や『団長』、ショゴスの時にも”異質”を感じたが――)

上条(――こいつは何かが違う!本当に俺達の世界の生き物なのかよ……!?)

安曇「……ま、交尾はその内、貰いに行くとしよう――だから」

上条「……悪い」

安曇「構わない、と安曇は言おう」

安曇「生命は死んだらそこで終わりだ、終わりでなければいけないんだ」

安曇「そうでなければいつまで経っても若葉は伸びず、子供は産まれなくなるだろう」

安曇「……”それ”は安曇の”るぅる”、に反している。それだけだ」

上条「――アリサ、行こう……!」

鳴護「……ありがとう、ございます」

安曇「気にするな、行け」

カッカッカッカッカッカッカッ……



――夜の学校?

上条「――いい加減、しつこいんだよ……ッ!」

パキィィインッ……!

死人『アァァアアァァァ……ゥ』

上条(恨めしげな声を上げ、道を塞いでいた死人の群れが崩れる)

上条(……アルフレドから逃げる中、姿を隠していた”死人”が俺達へ群がってきた!)

上条(一人一人の動きは遅く、また全員が向かってくる訳でもないから、どうにか捌けてるって感じだ)

上条「アリサ、アリサっ!大丈夫かっ!?」

鳴護「ぅ、うんっ!なんとかっ!」

上条(元々荒事に慣れてないアリサを連れての強行突破は苦しい――クソ、どうしたらいいんだよ!)

上条(もたついてたら奴に追い付かれちま――)

男「――おや?そこに居るのはどこかで見知った顔ですねー?」

ザウンッ!!!

上条「また新手かっ!?」

上条(預言者が海を割るように、笛吹きが子供を連れて行くように)

上条(俺の前に立ちはだかっていた障害、亡者の群れはたった一払いで霧散させやがった――)

上条(――”小麦粉の刃”っていう、矛盾したシロモノで!)

上条「お前――っ!」

男「おや?お前ではありませんよー。私にはね、立派な名前があるのですから」

テッラ(男)「――そう、『左方のテッラ』という名前がですねー」

上条「死んだ、って聞いたんだけどな」

テッラ「えぇ、アックアにバッサリと。いけませんねー、やっぱりゴロツキはゴロツキでしょうか」

テッラ「借りは返したい所なんですがねー。ここからイタリアは流石に遠いでしょうし……」

上条(最悪だ!ここへ来てこいつが俺の前に現れるなんて!)

上条(確かフランスでも、偶然爆撃かなんかに気を取られてる隙が出来てんであって、正面からやって勝てた訳じゃない……)

上条(どうする?……ま、ぶん殴る以外には選択肢は無――)

ボトッ

上条(背後から肩を掠めて”何か”放られる)

ボトボトボトボトッ

鳴護「えっと――?」

上条「――アリサっ見るな!」 サッ

鳴護「う、うん……?」

上条(アリサの視線を逸らせた事に安堵しながら、俺は投げられた”それ”から目を離せない)

上条(……少し前まで、敵になったり味方になったりと掴めない奴だった。そう――)

上条(――安曇阿阪を”構成していたパーツ”が、無造作に転がっていた……)

アルフレド「………………かーみーやんっ、あっそびっまっしょっ!」

上条(背後から掛けられる声に肌が粟立ち理解を拒む!人と言うよりは虎か何かに追いかけられてるような……いや、猛獣の方がマシか)

上条(前をテッラ、後をアルフレド――クソッタレ!どうしたもんか!)

上条(近くの教室へ逃げ込んでも死人の群れに囲まれば、時間稼ぎにすらならない!)

上条(俺がアリサを抱えて悩んでいる間にも、前にいるテッラは近づき、アルフレドの尋常じゃない気配が這い寄ってくる!)

上条(逃げ場はない!近くの教室へ駆け込もうにも中は死人で一杯だろう!)

鳴護「……当麻、君……」

上条「……大丈夫だ、アリサ。約束したろ?」

テッラ「……」 ブゥンッ

上条(テッラは小麦粉で出来た刃を振り上げる。俺はきつくアリサを抱き締め、少しでも安心させるように)

上条「お前は、俺がまも――」

金髪「――はいはい、雰囲気出してる所にごめんねって訳よ?」

ガラガラッ、グイッ

上条・鳴護「――はい?」

テッラ「――『光の処刑』」

ガガガガガガガガガガッ!!!

上条(刃が廊下を突き進み死人諸共アルフレドを巻き込み――)

上条(――その、犠牲になる筈だった俺達は、間一髪、教室の中へ引きずり込まれて、難を逃れた)

金髪「はいはい、おつかれー。怪我してないって訳?」

上条(この、金髪の女の子の手によって)

上条「ありがとう、助かった、よ?」

金髪「なんで疑問系?そこは『ありがとうございますっ!』でいいって訳じゃないの!?」



――夜の学校? 廊下

ガガッ、ブゥン……!

アルフレド「……っ!?」

テッラ「やれやれ。異国の異教徒を助けるのは本意ではありませんがねー」

アルフレド「……テメー、『左方のテッラ』!」

テッラ「はい、初めまして」

アルフレド「……でだよ」

テッラ「何か?言葉はもっと明瞭に発すべきかと思いますよー」

アルフレド「なんでテメーがそこに居やがるんだよ!?あまつさえ『幻想殺し』を助けるなんぞ有り得ねぇだろうが!」

アルフレド「死人如きが!生者を助けるなんざ聞いた事がねぇよ!」

テッラ「死人……あぁやはりこの身は朽ちていたのですか。神の国へ入れるとばかり思っていましたが、まだその日ではないのでしょうねー」

テッラ「最期に見たのはアックアの顔……そのせいだと思いませんか?ねー?」

アルフレド「俺の質問に答えろ狂人が!」

テッラ「狂人?誰がです?」

アルフレド「テメーだよ!十字教徒以外の人間をモルモット扱いで殺してたお前の話だ!」

テッラ「心外、それは心外ですよー。異教徒はね、一度死んだ上で煉獄へと赴き――」

テッラ「”ここ”で魂に付着した罪を洗い流す事で、漸く神の国へ入れる資格を持つ訳ですから」

テッラ「例えあの少年――十字教へ楯突いた愚かな人間であっても、罪は許された訳でしょう?私が救うべき存在なのですよー」

アルフレド「話が、通じねぇっ!」

テッラ「それにこの術式は、あくまでも死人を甦らせる”だけ”のもの――つまり、そこに意識を操る意図は無いようですからねー」

テッラ「こうして『神の敵』と相対するのも可能な訳でして、ねー?」

アルフレド「……テメーは、確か」

テッラ「そうですねー、あなた方の前身――先代の『濁音協会』を殲滅したのはこの私でしてねー。お忘れですか?」

テッラ「あなた方を壊し、そして私を壊してしまった借りは返しませんとねー」

アルフレド「カミやんどこまでも運の良い野郎だなぁ、オイ……まぁいいぜ」

アルフレド「たかだか一介の魔術師如き、さっさと磨り潰してカミやんと遊ぼう」

テッラ「いやー、それはどうでしょうかねー?――『光の処刑』、ご存じで?」

アルフレド「あん?小麦粉の優先順位を入れ替える術式だっけか、だからどーした?」

テッラ「その言葉で確信しましたねー――”あたなは龍脈に通じてはいるが、全てを知る立場にはない”と」

アルフレド「……そぉいやテメェ、カミやんの記憶喪失も見破ったんだっけか?ただの狂人じゃねぇのか、嫌らしい」

テッラ「ですから心外ですよー。私はただの敬虔な信徒に過ぎないのですから――と、謙遜してもしようがないので、話を進めますがー」

テッラ「どうして皆さん、『その程度』の能力だと思われるんでしょうかねー?」

アルフレド「……あん?」

テッラ「『神の右席』の内、『前方のヴェント』は無差別殺傷術式”天罰術式”を持つ。またアドリア海の女王の真の持ち主でもありますかねー」

テッラ「『後方のアックア』は”聖母の慈悲”により、ありとあらゆる魔術的な制限を免責します。チート過ぎるような気もしますがねー」

テッラ「『右方のフィアンマ』は”聖なる右”にて、いと高きあの御方の奇跡を、不完全ながらも行使する事か出来ますねー。あぁ羨ましい」

アルフレド「それがどーしたよ」

テッラ「そして私、『左方のテッラ』は”光の処刑”により、あらゆるものの優先順位を変える事が出来ますねー」

テッラ「例えば小麦粉でギロチンを作ったりして――と、よく言われるんですがねー、それは誤解なんですよねー。ていうか」

テッラ「”たかだかその程度の能力”で、右席に選ばれる訳ないじゃないですか。少し考えれば分かりそうなものですがねー」

テッラ「よく人からは誤解されやすいんですよ、心外ですがねー」

アルフレド「……」

テッラ「私の研究テーマは『”神の子”が人の手で処刑された』点にあるんですよー?分かります?」

テッラ「魔術的にも遙かに劣る人が、どうやって”神の子”を害しめさせたのか、と。ね?おかしいでしょう?」

テッラ「だから私は研究を続けましたねー――そう、”あなたがた”のために」

テッラ「より小さき者が冒涜じみた”あなたがた”へ対抗するための手段……゜と、言えば格好良いかもしれませんが」

テッラ「許せないだけですねー。いと高きあの御方以外の存在が、神を名乗るなどと言う事が!」

テッラ「だから『優先順位』を変えてしまえば良い!そうすれば小さなナイフでも”あなたがた”を殲滅しうる武器になる!」

アルフレド「お前――『神殺し』の術式か……ッ!?」

テッラ「……私はねー、魔神よ。一度壊れてしまったんですねー、狂ってもしまいましたねー」

テッラ「人である事を捨て、人で在り続ける事を止めましてねー?」

テッラ「だが――壊れたからといって貴様らへの憎悪は止まず!狂ったからといって貴様らのへの敵意は衰えず!」

テッラ「あの御方の名を騙る紛い物に滅びを!」

アルフレド「……かかって来いよ。”狂信者(Judas)”」

テッラ「貴様に煉獄へ落ちる資格も無い、永劫の地獄で苦しみを味わうがよい……ッ!!!」



――夜の学校?

金髪「――よいせっ、と!」

バシュゥッ、チュドドォォォォウンッ!

上条(金髪の子がスカートの中から取りだしたミッソー――ミサイル?ペンシルロケット?――で、死人を薙ぎ払っていく)

上条(どこに収納してんだって話だが、まぁ能力なんだろう!流石は学園都市だよ!やったねっ!)

上条(ていうかアレだな。この状況を例えるならばだ、『バイ○でデフォ装備が弾数無限ラケラン』状態)

鳴護「当麻君、その……そろそろ目を開けてもいいかな……?」

上条「あ、ごめんな。もうちょっとだけ待って貰っていいかな?今その、うん……情操教育的にアウトっぽくてさ」

上条(見た目、殆ど俺達と変わらない死人をFPS感覚でデリート……うん、緊急事態ですからねっ!今はなっ!)

上条「つーかお前誰よ?」

金髪「ヒドっ!?初対面じゃないのにっ!」

鳴護「当麻君……?」

上条「待って下さいよアリサさん?これは、そう言うんじゃなくてですね。えっと」

上条「あ、もしかしてこの間デパートで会った――」

金髪「あ、それそれ」

上条「俺に『連帯保証になって下さい!』って言ってきた子だよな?」

金髪「それ違う訳よね?てかそんな事あったの?」

上条「割と、うん……時々は、かな……?」

金髪「そーじゃーなーくーて!デパートで、ほらっ、あたしの妹にプロポーズした時に!」

上条「あーっ!お前あん時のハイキックくれやがった金髪!」

鳴護「プロポーズ?……え!?この子の妹さんだったら――」

金髪「八歳よね。あー、今年の誕生日で九歳か」

鳴護「あー……」

上条「してねーよ!?誤解を招くような発言は慎んで貰おうかっ!」

上条「あとアリサさんの『あー、そーなんだー』みたいなリアクションおかしくないかな?なんで『少し納得』みたいな感じなの?」

鳴護「あれだけモーションかけてるレッサーちゃんに冷たいと思ったら、やっぱり?」

上条「あのですね、こう、ある学説に拠れば『男は省みない』的な説もあるんですけどね、はい」

上条「でもリアルな世界で言えば、明らかに見えてる地雷を踏みに行くのは……ま、まぁ少数派だって事かな!」

金髪「つまりアンタって訳よねっ!」

上条「ぶっ飛ばすぞコノヤロー!自慢じゃねぇがそんな機会すらなかったわ!」

金髪「まー、アレって訳よね、あたし、死んでんのよ」

上条「……あぁ。何となくはそんな気がしてたけど。どっか魔術師より能力者っぽい感じがしてたし」

金髪「あたしもよく分かんなくてさ?学園都市歩いてたらあのキチガ×の人に、『あなたは十字教徒ですか?』って」

上条「死んでも頭イタイのは治らなかったか……!」

金髪「何日か前から『境』――こっちをあっちを繋ぐ、ゲート?境界?みたいなのが緩くなっちゃってた訳。んで、あたしらみたいなのがフラフラっと」

上条「大丈夫だったのか、それ?」

金髪「大丈夫って何が?」

上条「いや、今現在俺らはゾンビー的なものに猛攻撃を受けてる訳だが、お前は他に死人とは違うのかよって」

金髪「アンタさ、お腹空いたら人でも食べたくなるヒト?」

上条「ねぇよ。つーか大抵の野郎は餓死選ぶわ」

金髪「それと一緒って訳。あたしはあたしだし、死んでようが生きてようが変わらないって訳」

金髪「”こいつら”は不完全に術式が成ってしまったからー、みたいな事言ってたっけ?」

上条「……」

金髪「何?心配してくれるって訳?」

上条「いや……まぁ、するじゃんか?やっぱり?」

金髪「……色々思う所はあった訳だけど、まぁいいんじゃない?妹にも会えたし、ね」

金髪「それと自分のお墓へ『嫌がらせっ!?それとも新手のジェンガっ!?』って引くぐらいの量の鯖缶が積んであれば、まぁまぁ悪い気持ちはしなかった訳よねっ!」

上条「……そか」

金髪「あー、でも心残りがあるとするんだったら、麦野に一言だけ言いたい事があった訳だけど――」

上条「麦野?もしかして浜面んトコの麦野さんか?」

金髪「浜面知ってる訳?」

上条「ダチだな」

金髪「あー、元スキルアウトの?言われてみれば三下っぽい雰囲気って訳よね!」

上条「違げぇよ。なんだ三下っぽい雰囲気って」

金髪「不幸そうな所」

上条「……俺、ほぼ初対面の相手から指摘される程、ヒドいか……?」

鳴護「えっと……うんっ、頑張ろっ!ふぁいおーっ!」

金髪「そっちの子も追い打ち入れてる訳だし」

上条「あー、それじゃ浜面に伝言させようか?あんま長くなかったら」

金髪「……それじゃ――こほん、『えっと、麦野。あたしずっとずっと思ってた訳なんだけど――』」

金髪「『――ぶっちゃけ、上から下まで同じブランドで固めるのって、超絶ダサいと思う訳よ』」

上条「最期の挨拶それかよっ!?」

金髪「あ、あたし達にはあたし達にしか分からない繋がりがある訳だしっ!」

上条「やー……でも麦野さん、大人の女だし、なぁ……?言っても問題は無い、のか……?」

金髪「あ、騙されてる訳っ!乳かっ!?あの乳に騙されたのかっ!?」

上条「それはハマーに言ってやってくれよぅ!なんかこう、いつ浮気的なものをやらかしそうで怖いし!」

金髪「麦野に粗相したら、全殺しされそうで……と」

金髪「ってゆうか”そろそろ出口の筈”なんだけど――どうって訳?」

上条「どれどれ……あー、あるなぁ。銀色の、なんだろ……門っぽいのが」

金髪「(いよっしゃっ!成功って訳よね!)」

鳴護「(当麻君も色々と心配になるメンタルだと思う……てか話したのに!)」

上条「幸い周りには死人も居ないな?なんでだろ?」

鳴護「えーとー……うん、『出現位置が術式の核にした人間の思い通りなんだから』、だって」

上条「よく分からんが、結果オーライだなっ!」

鳴護「や、だからね?当麻君もあたしのこと子供扱いするけど、中身はそんなに変わらないんじゃないかって」

上条「良し!それじゃ――」

金髪「あ、ごめん。あたしはここまでって訳だから」

上条「ん?一緒に帰れ――は、しないんだっけか」

金髪「行こうと思えば行ける訳なんだけどね。実際、行き来してたし?」

金髪「ただその、『扉』が開いて、そのままってのは問題ある訳よ。アンダスタン?」

上条「死人が……溢れる、か?」

金髪「さっきのオッサン曰く、『善人も悪人も関係なく、賢者も気狂いも分け隔てなく甦る』から、放っとくとヤヴァイ訳だし」

上条「お前は……いいのか?」

金髪「そう思ったら墓前に鯖缶でも上げる訳。あ、いっちばん高いのね?ブランドものがいいなー」

上条「……探してみるよ――それじゃ」

金髪「――ん、また”お盆”に逢いに行くって訳、よ!」



――銀色の扉

上条(永遠に続くかと思われた長い長い廊下の終焉……ぶっちゃけ突き当たり)

上条(そこにあったのは銀色の扉――なん、だが)

上条「……なんか安っぽくね……?俺の想像していたのとは少し違うような?」

鳴護「き、急遽作ったから!きっと冥界さんも時間が無かったんだと思う!思うよっ!」

上条「ま、帰れるんだったらなんだっていいけど――それじゃアリサ、心の準備はいいか?」

鳴護「……ん」 コクッ

上条「うっし!セレーネをぶん殴りに――」 ガチャッ

鳴護「うん?」

上条「……」 ガチャッ、ガチャガチャッ

鳴護「え、もしかして……?」

上条「……鍵、かかってる」

鳴護「えぇっ!?」

上条「落ち着けアリサ!こんな時には冷静にならないと駄目だっ!」

鳴護「当麻君……うんっ、そうだねっ!」

上条「今ちょっと交番行って、鍵が落ちてなかったかどうか聞いてくるから!」

鳴護「待って?当麻君、あたしより混乱してるのは分かったから!待とうかっ!?」

上条「どーすんだよ!?俺鍵なんて持ってねぇし!つーかあんのはサイリウムぐらい……」

鳴護「誰かに、何か言われなかった?アドバイスみたいなの、とか」

上条「アドバイス、アドバイス……あー、そう言えばアルフレドのNPCが『銀の鍵』って言ってた気が……?」

鳴護「銀色の門だし、それだよ!きっと!」

上条「……いや、だから俺は何も持って――違う、アリサは?」

鳴護「わたし?」

上条「なんかこう、それっぽいもの持ってないのか?なんだっていいから」

鳴護「急に言われても、待ってて――――――あ」

上条(アリサが”鳴護アリサ”になった瞬間、世界に生まれた時に手にしていたもの)

上条(そしてそれは『奇跡』を起こし、シャットアウラとの再会の切っ掛けにもなった――)

上条「――ブローチ……っ!」

鳴護「……うん。そう、だね」

上条「本物は俺が預かってるぞ。戻ったら返さなきゃ、な?」

鳴護「……」

上条「……アリサ?」

鳴護「……このブローチね、一回だけ捨てようとしたんだ」

上条「えっ?」

鳴護「身元の手がかりになのは分かっていたけど、それでも……辛くて」

鳴護「捨てられたんじゃないか、って思っちゃうんだよ。やっぱりさ」

鳴護「……でも、捨てた筈のブローチを拾ってくれたのは院長先生だったよ」

鳴護「昔はもっと厳しくてね、滅多に笑わない人で、みんなからも怖がられてて」

鳴護「……そんな人があたしになんて言ったと思うかな?叱られた?笑われた?……ううん、違う」

鳴護「先生は泣いてくれたの。あたしが泣かないから、代わりにだって」

鳴護「『傷つけてごめんなさい、あなたが辛いのに気付けなくてごめんなさい』って……ね?そんなことされちゃ困るよね?」

鳴護「……二人でわんわん泣いたあの日に――院長先生はわたしの『おばあちゃん』になった」

上条「……あぁ」

鳴護「それから――それから、少しずつだけど鳴護院の子達とも仲良くなって、古いオルガンを弾くようになって」

鳴護「……そうしてあたしの”世界”はちょっとずつ、おっかなびっくり広がっていった――」

鳴護「あたしは――ううん、わたし”も”一人なんかじゃなかったよ。繋がりは、あった……っ!」

鳴護「一人じゃなかった……っ!みんなや、お友達が居たよっ!居たんだよっ!」

鳴護「このブローチのお陰でっ!あたしは家族を探そうって切っ掛けになったんだもん!」

上条「……アリサ」

鳴護「……帰ろう、当麻君。あたし達の世界へ――」

鳴護「――あたし達の居なきゃいけない世界へ!」

上条「……うん」

上条(アリサがブローチを扉へ押し当てると、扉はゆっくりと開いていく)

上条(光が俺達を包み――)

上条「……」

上条(――光に包まれながら、同時にここへ来る時感じた浮遊感にウンザリしながら、俺はとある事を考えていた)

上条(アリサと合流してから、インデックスは――正しくは、その”知識”を優先的にアリサへ流して助けてくれた)

上条(けど、ここへ来て、最後の最後でアドバイスをくれなかった。何故?)

上条「……」

上条(……もしかして”これ”も俺達が帰るには必要な手順だったのか?アリサに”こう”させる事が?)

上条(待ってるのは俺だけじゃなく、俺”達”だって、自覚させるためのが、だ)

上条「……」

上条(……ただ、もしその仮説が正しいとすれば一つだけ疑問がある)

上条(だったらどうして――あのアホが助言をくれたんだ……?)



――青冷めた光の柱の下

レッサー「ランシス!」

ランシス「……空から堕ちてくるのは透明な魔力の塊、方向性を持たない無色のテレズマ……!」

ランシス「けどっ、量が多すぎる……!」

ベイロープ「具体的には?」

ランシス「……うーん……月から視認可能なクレーターが、出来るレベル?」

フロリス「マジか!よしジャパニーズ背負って逃げようぜ!」

レッサー「――と、お待ちなさいなフロリス。ちゅーかあなたはこんな時にまで逃げグセがですね」

フロリス「言ってる場合じゃないケド!HurryHurry!!!」

ランシス「……逃げられるような範囲だと、思う?」

フロリス「……ワタシの『翼』でも?」

ランシス「ん――ていうか、ぶっちゃけ、あと五秒で堕ちてくる、し……」

ベイロープ「全員『爪』を展開!”X”を維持しながら結界を張るわよっ!」

ランシス「四、三……」

レッサー「ベイロープ、それ私の台詞ですよねっ!?」

フロリス「言ってる場合じゃネーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーッ!!!」

ラシンス「……いち、ぜ――」

キゴゴゴゴゴコゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ――――ッ!!!

レッサー「なんですコレ――潰され――」

ベイロープ「いいから黙っ――」

フロリス「……イヤー、これ詰んでんじゃ――」 バキンッ!!!

ランシス「……あ、『爪』折れ――」

ベイロープ「だからっ!常日頃のメンテナンスをしな――」 バキンッ!!!

フロリス「へーんだっ!ベイロープ――カーチャン――」

ラシンス「……お母さんは全員非処――」 バキンッ!!!

レッサー「あ、ヤバ。これ全員死にま――」

―― バキンッ!!!

レッサー(……ふーむ。私の人生ここで終わりですか、ま、こんなもんですかねぇ)

レッサー(悪い意味で『最後の王』になってしまったのは泣けばいいのか、それとも笑えばいいのか……)

レッサー(ま、取り敢えず笑っときましょうか、にゃっはっはっはっー!……あー、クソ面白くない)

レッサー(に、しても間に合いませんでしたねぇ、上条さん。あのスケコマシ、言うだけは格好良いんですから、えぇ)

レッサー(アリサさんが帰って来たら”ドギツいの”一発カマすつもりだったんですが……ま、アリサさんにとっては幸運かも?)

レッサー(騙された方か悪いっちゃ悪い気もしますがね、どうせだったら最後まで騙して頂きたい!是非に!)

レッサー(つーかアレですよ?こう、物語にはお約束ってもんがあるじゃないですか?)

レッサー(や、魔術師的に――てゆーか円卓の騎士の術式使ってる身としちゃ、あんま『お姫様になりたい!』な願望は薄いんですが)

レッサー(やっぱり、こう、あるじゃないですか?憧れみたいなの)

レッサー(お姫様がピンチになってレッツリーンカーンパーリィ!さぁ家族が増えるよっ!やったねっ!)

レッサー(だがしかぁし!騎士が颯爽と現れ助けてくれる!……みたいなの)

レッサー(理想。そうですねー、最後ですしねぇ?希望を並べるのもいいでしょうかね)

レッサー(外見は別に好みはありませんよ。人並みであればそれだけで)

レッサー(ただまぁ欲を言うのであれば、黒髪でツンツンしてるのが良いかもしれません。私も黒髪で、お揃いですしね)

レッサー(性格も別に好みはありませんよ。サイコキラー的なハッピー属性でなければそれで)

レッサー(ただまぁ希望を上げるとすれば、バカで不幸で空気読めなくて、無力の癖に突っ走るような、そんなバカが好みですね)

レッサー(……ある意味、私とお揃いでしょーしね。やはり性格が一致してなければ)

レッサー(……で、そのクソヤローは、散々焦らした後に、美味しい所だけ持っていって)

レッサー(そうですなー、きっとこう言うんでしょうね)

上条「――――――――――悪い、少し遅くなったっ!」

レッサー「そうそう、こんな感じ――」

レッサー「……」

レッサー「――こんな感じっ!?」

上条「……このまま世界が終わるとかっ!全員夢見てれば幸せだとかっ!」

上条「一人だけを犠牲にして、その他大勢が救われる、なんて――」

上条「――そんなふざけた『幻想』は――」

パキイイイン………………ッ!

上条「――――――――俺がぶち殺す!!!」



――青冷めた光の柱の下

フロリス「……おせーぞジャパニーズ。もう少しで本気で逃げる所だったし」

ベイロープ「あなた、本気で逃げようとしてなかった……?」

フロリス「く、口だけだし!」

レッサー「……」

ランシス「レッサー?」

レッサー「……遅いですよ、クソヤロー」

上条「あぁすまん。色々あった」

レッサー「あなたもそうですが――だけではなく、そちらの」

鳴護「……」

レッサー「言いたい事はクソ程もありますが……まぁ今は置いておきましょう」

レッサー「目を瞑って下さいな。一発ドギツいのでチャラにしてあげますから」

上条「おいレッサー!アリサだって――」

レッサー「あなたは黙ってて下さいな。結果だけ見れば”こう”なってる以上、ある程度の落とし前を必要かと」

上条「けど!」

鳴護「いいの当麻君!あたしが悪いんだから!」

鳴護「全部が悪いとは思ってないけど……ここで、この場所で皆が戦ってる間、わたしが居なかったのは事実だから!」

上条「……そうか」

レッサー「いよーしっいい覚悟ですっファッキ×野郎!そこで目ぇ瞑りなさいなっ!」

鳴護「う、うんっ」

レッサー「あ、もうちょい屈んで貰えます?あぁそうそう若干猫背になる感じで、えぇ」

上条「……すいませんレッサーさん、出来るだけ穏便に」

レッサー「んでわっ!覚悟は宜しいかっ!?」

鳴護「はいっ」

レッサー「――では、頂きます」

鳴護「はい――むっ!?」

レッサー「チュッ……ん、ちゅっじゅっちゅぅっ、じゅじゅっ」

鳴護「んーーーーーーーーーっ!?んんんんんんんんんんんんんんんんーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーっ!?」

鳴護「レッ――舌入っ、ちゅっ、じゅっ――んあっ、ぁふっ」

鳴護「当麻く、んっ!助けっ!たすけ――」

上条 パシャッ、ピロリロリーン

鳴護「とうまく――――――ちゅぱっ!?」

レッサー「――――――――――――ぷはぁっ!現役アイドルJCの唇、大変美味しゅう御座いましたっ!」

上条「変態だーーーーーーーーーーーーーーーーーーーっ!?」

ラシンス「写メ撮ってなかった……?」

上条「それはそれ、これはこれ」

フロリス「説明になってねーゾー?ンー?」

上条「百合が好きで何が悪いかっ!!!」

フロリス「開き直りやがったコイツ!?」

鳴護「レッサーちゃん、舌、舌……ぶちゅーって……」

ベイロープ「相当ダメージ……というか、トラウマを負ったようだけど、大丈夫?」

ラシンス「これだったら、普通に平手打ちされた方が……まだマシ、だよね」

鳴護「もう、あたし、お嫁に行けない……ッ!」

レッサー「まっ、今日は初めてを奪った所で勘弁して差し上げますが!」

レッサー「次に友達ほっぽり出しやがった際には!ウチのムッツリスケベに襲わせますから覚悟して下さいなっ!」

ラシンス「いぇーい……」 グッ

上条「……」 ソワソワ

ベイロープ「おい、ソワソワしないの百合厨疑惑」

鳴護「え、ていうか初めて?」

レッサー・フロリス・ランシス・ベイロープ「「「「えっ?」」」」

ほぼ全員「………………」

上条「な、なんでそこで俺を見んの?」

レッサー「ズバリ――犯人はこの中に居る……ッ!」

上条「――よ、よおおぉぉしっ!魔神セレーネめ!よくも俺の仲間を傷つけやがったな!」

上条「俺が来たからには指一本触れさせないぞ!な、ないぞっ!」

フロリス「力業で誤魔化そうとしてるしー」

レッサー「何でしょうね、こう、パニクった時の私ってあんな感じなんだな、とつくづく思い知らされるって言いましょうかね」

ランシス「……というかレッサーもだけど、勢いで誤魔化せてるとでも?」

ベイロープ「これ、犯人の自供と同義だと思うのだわ……」

鳴護「当麻君当麻君っ!バレてるっ、バレちゃってるよっ!」

上条「お黙んなさいよ外野っ!アリサさんそれフォローになってねぇからな!」

上条「つーかアリサは”わたし”と一つになってから言動がレッサー寄りになってきてるから注意しないと!」

レッサー「その言い方は私の乙女なハートがブロークンマグナ○なんですけど……ま、状況をご説明致しますと、見たまんまでしょうかね」

レッサー「マタイさんは外から”ショゴス”が乱入しないよう結界張り――をしていたんですが、今ので破れましたな」

レッサー「レディリーさんは少し前の魔術から我々を庇って昏倒中。残念ながら死ねなかったかと」

上条「ふーん……あ、もふもふは?」

レッサー「えぇっと、その……」

上条「……あぁいやゴメン。何となく分かったよ」

レッサー「魔神セレーネは大技ぶっ放して硬直中、ただしそろそろ動ける筈――」

セレーネ『――きひっ、きひひひひひひひひひひひっ!』

レッサー「――と、ご覧の通りで!」

上条「……了解!それで、俺は何をすれば――」

――――ヴゥンッ……!!!

レッサー「――と、また空が堕ちて……ッ!」

ベイロープ「複数攻撃判定が出るタイプの術式か!」

上条「空?……何も見えないけど……?」

レッサー「あ、上条さん上条さん、そこでちょっとバンザーイして貰えません?バンザーイって」

上条「こ、こう?」 スッ

レッサー「あー、いいですねー、イイ感じですねー。そのポーズから左手を曲げて、右手の肘を支えるように……そうですそうです」

上条「……中二的なポーズになってないか、これ?」

レッサー「はいっ、ではそのまま頑張って下さいなっ!てーか失敗すれば人類滅びますんでっヨロシクッ!」

上条「おうっ任せ、ろ?」

ガァッ――――――――――ズズズズズズズズズズズズズズズズズズッ……ッ!!!

上条「あだだだだだだだだだっ?!何コレ!?これナニーーーーーーーーーっ!?」

上条「重い重い重いっ超重い!腕が折れ、るっ!」

レッサー「そういやむかーし聞いたんですがね。月と地震い――地震には密接な関係があるらしくて」

レッサー「地平線上へ消える月は、毎日毎日地上へ落下しているという世界観が在り、地震とはその結果なんだそーで」

フロリス「その心は?」

レッサー「さっきのがP波で、今来てんのがS波。当然後者の方が強いって事ですかねー」

レッサー「別の説を上げるとすれば、最初の一撃は二撃目を放った”余波”であって、セレーネ的には攻撃でもなんでもなかったんじゃねーかと」

フロリス「あ、なーる。だからさっきのは打ち消せて、今度のは潰されそうになってんジャン」

ベイロープ「つまりトーマは、その第一撃目をドヤ顔で」

ランシス「『――俺がぶち殺す!!!』」 ドヤァッ

レッサー・フロリス・ベイロープ プッ

上条「この鬼っ!悪魔っ!高千穂っ!人が命賭けて支えてるのにネタしなくていいじゃないっ!」

鳴護「ていうか、そろそろシャレにならないんじゃ……?」

レッサー「そうですね。そろそろ結界張るのに遣った魔力も戻って来ましたし、我ら『新たなる光』の対神殲滅集団術式をご覧に入れましょう」

レッサー「あ、これナイショなんで?特にイギリス清教には黙ってて下さいな」

レッサー「私達がコレ”使える”時点で、王権やら正当性やら小難しい事になりますんで」

レッサー「では――ベイロープ!」

ベイロープ「行けるわ」

レッサー「フロリス!」

フロリス「オッケー」

レッサー「ランシス!」

ランシス「……ん」

レッサー「今こそジェットストリームアタッ○の出番ですよっ!」

ベイロープ・フロリス・ランシス「「「こんな時までボケんなっ!!!」」」

上条「ぜぇ、ぜぇ……そ、そして、一人、……多い……!」

鳴護「早くしてあげて!?当麻君がツッコミに手を回せる余裕がなくなってきてるからっ!」

レッサー「……ははっ、何言ってんですかねー、アリサさんは」

鳴護「はい?」

レッサー「余裕に決まってるでしょう?そんな三下相手に私達が負ける筈はありませんよ――何故ならば!」

レッサー「『全員』揃っているからです。このクソ楽しかった旅の中、散々苦労してきたメンバーがここに居る」

レッサー「なら負ける訳はないでしょう。フルメンバーの私達が負ける事は有り得ませんよ、はい」

鳴護「……ん、そうだね」

レッサー「それではでわでわ、魔神セレーネ――」

レッサー「――あなたを、滅ぼします……ッ!」

上条(レッサー、ベイロープ、フロリス、ランシスはそれぞれ月から伸びている光の柱を囲み)

上条(手に持っているのは霊装だ。四人が装備していた物を取り外し、手にしている)

上条(ベイロープ『角』を掲げて、こう唱えた)

ベイロープ「『”Heimdall who has the corner cup of wisdom.. look!”』」
(知の角杯を持つヘイムダルよ、見よ!)

ベイロープ「『”The giant of the flame that extends in Bifrost of the fire and the wolf that swallows the sky!”』」
(火のビフレストを渡る炎の巨人を、天空を喰らう狼を!)

ベイロープ「『”Troops of the melancholic dead from Bifrost of the shadow!”』」
(影のビフレストからは憂鬱な死者の軍勢どもを!)

ベイロープ「『”Ah play Gjallarhorn. The sound turns into thunder and echos through Midgard!”』」
(さぁ吹き鳴らせギャッラルホルン!その音は雷鳴と化して蛇の中庭に響きわたらん!)

ベイロープ「『”The previous notice that reports fighting. Summon all soldiers!”』」
(戦いを告げる先触れを!全ての戦士を喚び起こすのだ!)

ベイロープ「『”――Ragnarok, Now!”』」
(――神々の黄昏が来た!)

上条(次にフロリスが『翼』を掲げ、こう宣言した)

フロリス「『”Know Gullinkambi to doze the morning glow!”』」
(朝焼けに微睡むグリンカムビよ、知れ!)

フロリス「『”Roar of the giant from whom we invade Asgard, Lick your lips by the venomous snake that lies in the courtyard! ”』」
(我らがアールガルズへ攻め込む巨人の咆哮を、中庭に横たわる毒蛇の舌なめずりを!)

フロリス「『”The horn that the main plays solemnly tells the age of the struggle!”』」
(主が吹き鳴らす角笛は粛々と闘争の時代を告げん!)

フロリス「『”Now cockscomb of gold must flap!, Remind me of propriety in the battlefield the brave man of a great Odin!”』」
(さぁ羽ばたけ金の鶏冠!偉大なるオーディンの勇者へ戦さ場での礼節を思い出させよ!)

フロリス「『”The fight started! Raise soldiers who report the end and war cries!”』」
(戦いは始まった!終焉を告げる戦士達よ、鬨の声を上げろ!)

フロリス「『”――Ragnarok, Now!”』」
(――神々の黄昏が来た!)

上条(続いてランシスが『爪』を掲げ、こう呟いた)

ランシス「『”Loki who is the god of the clown.. laugh!”』」
(道化の神であるロキよ、嗤え!)

ランシス「『”The shout of the giant who shakes the earth crowds it about the dead who change the revolt to foolish Cyclops!”』」
(大地を揺るがす巨人の咆吼を、愚かなキュクロプスに反旗を翻す亡者の群れを!)

ランシス「『”The dead dye the sky to the previous notice of the flame in red, and do not raise its fist even if it dispels one's melancholy!”』」
(天空は炎の先触れに赤く染まり、死者は憂鬱を晴らそうと拳を上げん!)

ランシス「『”Give the mistletoe Now blind to the hero! To dispel thine disgrace, all!”』」
(さぁ盲目の英雄へ宿り木を持たせよ!全ては汝の屈辱を晴らすために!)

ランシス「『”The dead will come! The dead came! All are mangling!”』」
(死人が来るぞ!死人が来たぞ!全てはぶち壊しだ!)

ランシス「『”――Ragnarok, Now!”』」
(――神々の黄昏が来た!)

上条(最後にレッサーが、見慣れた『尻尾』を掲げ――)

レッサー「『"Goddess Guna to run in the sky must start. "』」
(天空を駆け上がる女神グナーよ、疾走れ!)

レッサー「『"It is neighs of wolf's fang, giant's fist, and children of the flame that approach the chaser. "』」
(追手に迫るは狼の牙、巨人の拳、炎の子らの嘶き!)

レッサー「『"If it colors, it approaches the scarlet, and the coming madman doesn't destroy everything, the earth doesn't raise the groan. "』」
(大地は緋色に色づき、迫り来る狂人が全てを滅ぼさんと唸りを上げん!)

レッサー「『Soldiers of it is possible to stand up Ordin. The honor that scatters in the battlefield is yours. 』」
(さぁ立て父の戦士達よ!戦場に散る名誉はお前達のものだ!)

レッサー「『"Kill the enemy, kill the companion, and kill and carry out even the end. "』」
(敵を殺し!仲間を殺し!終末すら殺しつくせ!)

レッサー「『”――Ragnarok, Now!”)』」
(――神々の黄昏が来た!)

上条(それぞれ四人が掲げた――差し出した霊装は掌を離れて宙へ浮く)

上条(ボウッと赤い光が霊装を包み、次第に光の形が変化していく――あれは?)

レッサー「『”The story ends here. The age of the myth rang the death knell! ”』」
(物語はここで終る。神話の時代は終わりを告げた!)

レッサー「『”Odin disappeared as it was drunk by the wolf, and a primitive giant disclosed his entrails. ”』」
(オーディンは狼に呑まれて姿を消し、原始の巨人は臓腑をさらけ出した!)

レッサー「『”Therefore ..so.., ..doing.. ..the oak... ”』」
(たがしかし、だとしても、それ故に――)

レッサー「『”The world doesn't end. Do not end. ”』」
(――世界は終らない!終わりなどしない!)

レッサー「『”It is untied from the chain of an old pantheon, and the world is divided by the fine dust. ”』」
(旧き神々の鎖から解き放たれ、世界は千々に分かたれる)

レッサー「『”Even if the pantheon age (Ragnarok) brings the end, it is a previous notice that signals the coming in the next age. ”』」
(神々の時代が終焉をもたらしたとしても、それは次の時代の到来を告げる先触れである)

レッサー「『”Now it is a crow of can the dance as for the sea of the imaginary number. ”』」
(さぁ、虚数の海を舞えカラスよ!)

上条(……カラス、だ)

上条(『翼』、『尻尾』、そして『爪』の霊装がカラスと重なり、標本骨格のような姿を形作る)

上条(けど……『角』の収まるべき所はない。これはきっと――不完全なのだろう)

上条(……そう、俺が不安に感じている間に、カラスがレッサー達へ問いかける)

赤いカラス「『”It falls into the person dripping of grief that drops in the world of the calm and the world of the struggle and Holy Chalice is filled. ”』」
(凪の世界に落ちる嘆きのひとしずく、闘争の世へ落ちて聖杯を満たせ)

赤いカラス「『”Fall into a large wave of rejoicing buoying it up in the stormy world and the world of harmony and dye Longinus. ”』」
(嵐の世界に浮き立つ歓喜の大波、和合の世へ落ちて聖槍を染めよ)

赤いカラス「『”It must fall into the apple unevenly that plays in the world of the tohubohu and the world of making desperate efforts and X must hang. ”』」
(混沌の世界に戯れる不揃いの林檎、狂奔の世へ落ちて聖剣を掲げろ)

赤いカラス「『”My name makes to the offering and is god of death's bride . If it makes to good and evil is not done, it wants my body. ”』」
(我が名は贄にして死神の花嫁。我が体は善にして悪を成さんと欲す)

赤いカラス「『”――Report hero's name. ”』」
(――英雄の名を告げよ)

レッサー「『”The magician expresses it so in the story when old. ”』」
(古の物語で魔術師はこう謳う)

ベイロープ「『”The thing of dynamic rogue and 2 swords that there is a knight who toward the battlefield on the hand. ”』」
(豪快無頼、双剣を手に戦さ場へと向かった騎士が居た事を)

フロリス「『”Neither an incomplete genius nor the promised success are obtained and thing where knights who ..life.. drop exist. ”』」
(大器未完、約束された成功を手にせず命落とした騎士が居た事を)

ランシス「『”The thing of the rebellion usurpation and the lord where the knight who usurps everything exists to the hand. ”』」
(反逆簒奪、主君を手にかけ全てを簒奪した騎士が居た事を)

レッサー「『”Hero matchless and thing it keeps the oldest and with the last kings”』」
(英雄無二、最古にして最後の王が居る事を)

レッサー「『”Now we keep ..can legend.. living in the legend ....our ..magician.. body.. death... ”』」
(さぁ語り継げよ魔術師!我らの肉体は死すれども、伝承の中に我らは生き続ける!)

ベイロープ「『”In catnap that infant hears of”』」
(幼子が耳にするうたた寝の中に)

フロリス「『”In tales of adventure that shake boy or chest”』」
(少年か胸を震わせた冒険物語の中に)

ランシス「『”In hero paean that poet is put on wind and sung”』」
(詩人が風に乗せて謳う英雄譚の中に)

ベイロープ「『”In lullaby that mother puts child to bed”』」
(母が子を寝かしつける子守歌の中に)

フロリス「『”In battlefield where father fights with enemy”』」
(父が敵と戦う戦場の中に)

ランシス「『”Inside of inheritance that elderly person left"”』」
(老翁が残した遺産の中に)

上条(光が大きく――そして、その輪郭が徐々に変わっていく。カラスからもっと別なモノへと)

上条(『翼』は背中へ、『尻尾』は臀部へ、『爪』は手足の先へ)

上条(……今まで余剰パーツであった『角』は――)

上条(――当然、その雄々しい頭部へと導かれる……)

上条(……あぁ、俺はこれを知っている!『影』だけだが、とっくに目にしていた!)

上条(あの追い詰められたサッカー場で!天空から古の竜モドキを一蹴した――)

上条(――『ペンドラゴンの”赤い竜”』を……ッ!!!)

深紅の竜「『”The cross rots and rots away. ”』」
(十字架は腐って朽ち果てる)

深紅の竜「『”The dead threaten the person who forgets even dying and is alive. ”』」
(死人は死すら忘れて生者を脅かす)

深紅の竜「『”However, no wither the thing of doubt ..no withering the thing of forgetting.. never. ”』」
(されど忘れる事無かれ!ゆめゆめ疑う事無かれ!)

深紅の竜「『”It's Avalon and it is a king sleep barrel in Kudo. ”』」
(アヴァロンにて久遠に眠りたる王よ!)

深紅の竜「『”It is not suitable to kill thine even if dying. Even the death doesn't face the end in a grotesque, eternal outskirts. ”』」
(死を以てしても汝を殺す事は能わず!怪異なる永劫の果てには死すら終焉を迎えん!)

深紅の竜「『”This calls and sings the name out in a loud voice only the story and now of us. ”』」
(これは我らの物語、今こそ名を呼べ歌い上げろ!)

深紅の竜「『”The gate of Avalon is opened. Our king returns. ”』」
(アヴァロンの門は開かれる!我らの王が帰還する!)

深紅の竜「『”Ah, and call our king giving and the name by being and hear the begged clamor. ”』」
(さぁ来ませり我らの主、その名を呼び請う民草の声を聞け!)

レッサー「『”It asks thine. ”』」
(汝らに問う)

レッサー「『”I'm the last monarch who does chiefly by Britain and dozes in Avalon. ”』」
(我はブリテンの主にしてアヴァロンでたゆたう最後の君主)

レッサー「『”Britain is liberated, it makes to the hero who takes Gaul by storm, and I of a reverse-thief. ”』」
(ブリテンを解放し、ガリアを攻め落とす英雄にして逆賊の僕)

レッサー「『”What is my name called?”』」
(我が名を何と呼ぶ?)

ベイロープ「『”Oh the lord I serve, and the Grail is dedicated dear. ”』」
(おぉ主よ!俺が仕え、聖杯を捧げた愛しき方よ!)

ベイロープ「『”Suitably to dedicating the sword that makes to the road middle and has become interrupted. your name. ”』」
(道半ばにして途切れてしまった剣を捧げるに相応しい。あなたの名は――)

ベイロープ「『”Arthur!”』」
(『アーサー!』)

フロリス「『”Ah lord family also who is my father's best friend”』」
(あぁ主よ!僕の父の親友でもある家族よ!)

フロリス「『”Suitably to dedicating the revival sword ..will deprivation of the command of fellows of the rebellion.. even several-time. your name. ”』」
(反逆の輩に命奪われようとも、幾度でも蘇り剣を捧げるに相応しい。あなた様の名は――)

フロリス「『”Arthur!”』」
(『アーサー!』)

ランシス「『”…… Lord It makes to my friend and it is enemy of fate”』」
(……主よ!私の友にして宿命の敵よ!)

ランシス「『”Suitably to lowering my sword to the temporary ..killing, times how many getting tired, and worth... your name. ”』」
(何度殺して飽き足らず、仮初めに私の剣を下げるに相応しい。お前の名は――)

ランシス「『”Arthur!”』」
(『アーサー!』)

レッサー「『”――It's exactly so ! exactly so !. ”』」
(――然り!よって然り!)

レッサー「『”My name risks to Arthur Pendragon's child and is a wild boar in Cornwall. ”』」
(我が名はアーサー!ペンドラゴンの子にとしてコーンウォールの猪!)

レッサー「『”It's 'Arthur829 (king who crowns it to eternal The End of the Road again”』」
(『Arthur829(永劫の旅路の果てに再び戴冠する王)』なり!)

上条(深紅の竜が更に姿を変え……四振りの神々しい剣となり、光の柱の前へ浮かぶ)

上条(……レッサーの前に現れたのは、柄を上にして持てば黄金の十字架のような――)

上条(――『聖剣』、だ)

レッサー「『”The old one boasts of an older thing, and the rotting one remains though it rots. ”』」
(古きものはより古きを誇り、朽ちるものは朽ちるがままに――)

レッサー「『”However, the flame of a candlestick old ..the piling of sleep at 1000 nights.. doesn't disappear. ”』」
(――されど千夜に褥を重ねようとも、旧き燭台の火は消えず――)

レッサー「『”The wail of repaying dies I pray in 'Enemy of Britain' of the public peace. ”』」
(――『ブリテンの敵』に報いの慟哭を、願わくば安寧の死を――)

レッサー「『”Soldier ..under the name of 'New round table'.. ..the collection food... ”』」
(――『新たなる円卓』の名の下に集えよ、戦士)

レッサー「『”It's a gathering knight to my round table. Introduce itself. ”』」
(我が円卓へ集いし騎士よ!名乗りを上げよ!)

ベイロープ「『”'Balin189 (The knight of two swords must retrieve the disgrace)' is here. ”』」
(Balin189(『双剣の騎士よ汚名を濯げ!)』が、ここに)

フロリス「『”Florence243 (lady's protection knight)' is here. ”』」
(『Florence243(淑女の守護騎士)』が、ここに)

ランシス「『”'Lancelot225 (The knight of murdering shows by the action)' is here. ”』」
(『Lancelot225(弑逆の騎士は行動で示す)』 が、ここに)

レッサー「『”It doesn't suffice. My round table has not been filled yet. ”』」
(足りず!我が円卓は未だ満たさず!)

レッサー「『”The Grail lacked 2,000, and Longinus disappeared in the dark of Ti 'R na n-O' g. ”』」
(聖杯は千々に欠け、聖槍はティル・ナ・ノーグの闇へ消えた!)

レッサー「『”Do not reach to beat off his enemy even if my reckless courage is done. ”』」
(我が蛮勇を以てしても、彼の敵を打ち払うには届かず!)

レッサー「『”Coming in haste is a spirit of the war dead. It is soldier who doesn't have the name that dies and returned to the soil of the homeland in which it disappears either. ”』」
(ならばはせ参じよ英霊どもよ!死して故国の土へ還った消えた名も無き兵士共よ!)

レッサー「『”Become the foundation of the king hero who bundles thine spirit of the war deads. ”』」
(汝ら英霊を束ねる英雄王の礎となれ!)

レッサー「『”It returns from the nether world and the enemy of Britain is not destroyed. ”』」
(冥界より還り来たりてブリテンの敵を撃滅せん!)

ベイロープ「『”My friend Sir Galahad must come. Thine sword is here. ”』」
(来たれ我が友ガラハッド。汝の剣を、ここに)

フロリス「『”My father Gawain must come. Thine sword is here. ”』」
(来たれ我が父ガウェイン。汝の剣を、ここに)

ランシス「『”My friend Tristan must come. Thine sword is here. ”』」
(来たれ我が友トリスタン。汝の剣を、ここに)

レッサー「『”Come to my Sir brothers Guillaume. Thine sword is here. ”』」
(来たれ我が同胞ギヨーム公。汝の剣を、ここに)

ベイロープ「『”My independent king brothers Wallace must come. Thine sword is here. ”』」
(来たれ我が同胞ウォレス独立王。汝の剣を、ここに)

フロリス「『”My brothers Gruffydd great emperor must come. Thine sword is here. ”』」
(来たれ我が同胞グリフィズ大帝。汝の剣を、ここに)

ランシス「『”My king friend James must come. Thine sword is here. ”』」
(来たれ我が友ジェームズ老僭王。汝の剣を、ここに)

上条(レッサー達が英雄の名前を呼ぶたび、光の柱の周囲へ”剣”が。また一振り、そしてまた一振りと出現し――)

上条(――十、百、千……天へ昇る光柱へ切っ先を向け、包囲の輪を強固にしていく)

レッサー「『”Hero's king must come. ”』」
(来たれ英雄王)

ベイロープ「『”Fairy's king must come. ”』」
(来たれ妖精王)

フロリス「『”Spirit's king must come. ”』」
(来たれ聖霊王)

ランシス「『”Spirits of the dead's king must come. ”』」
(来たれ精霊王)

レッサー「『”The king of the ghost must come. ”』」
(来たれ幽霊王)

上条(万、十万、そして夥しい数の『剣』を前に。『最後の王』が高らかに宣言する……!)

レッサー「『”We must hang to the evil murdered in our country out the sword. ”』」
(我が国に弑逆する悪へ我らが剣を掲げよ!)

レッサー「『”Hero's soul Think death by fighting to be boast”』」
(英雄共の魂よ!戦って死ねる事を誇りと思え!)

レッサー「『”Destroy the sword of Sabaoth and destroy wickedness――”』」
(万軍の剣を以て邪悪を滅ぼせ――)

レッサー「『”――――"Million Arthur"――――!!!”』」
(――――『万軍英雄(ミリオンアーサー)』――――ッ!!!)



――青冷めた光の柱の下

ヒュゥッ――――ズガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガ……ッ!!!

上条(百万の剣が!過去に在った英雄達の剣が!天へ伸びる青冷めた光を蹂躙していく……ッ!)

上条(ある剣は正面から薙ぎ払い!またある剣は音も立てずに刃を差し込み!またとある剣は狂ったように乱舞する!)

上条(光の柱は一つ、また一つと欠けていく――そう、月が満ち欠けするように、ぽっかりと空虚な穴を晒す)

上条(一方的な暴虐が限界を超えれば、起きるべき事が起きるのは必然か)

――ガッシャァァァーーーーーーーーーーーンッ――!

上条(……半ばまで断たれた光の柱は、断片となって地表へと降り注ぐ……)

上条「その様子はまるで流星雨……って、大丈夫なのか?」

レッサー「……問題、ない、でしょう……ありゃ、ただの魔力の残滓ですから」

上条「レッサー!……レッサーさん?お前っ!?」

レッサー「なんですか、人の顔見て?」

上条「髪の色が……金色に……?」

レッサー「あぁこれは『オジリン・アーサー』のイメージがブロンドらしく、”覗き過ぎる”とこうなるんですよ」

レッサー「なーに、放っておいても二、三日で元に戻りますんで」

上条「そうか、だったら――」

上条(……待てよ?その説明が正しいんなら、レッサーがいつも染めてる前髪は……)

上条「……」

レッサー「ほぉら、ボケっとしてないでセレーネぶん殴りに行って下さいな!きちんと天の龍脈ぶった斬ったんで、ノルマは果しましたよっ!」

レッサー「……私達はもう少ししないと、流石に、ですから」

上条「……了解。後は俺――いや」

上条「俺”達”に任せてくれ」

レッサー「えぇ、お任せします――って、俺”達”?」

上条「んー……まぁ、見ててくれ。アリサ!」

鳴護「うんっ」

レッサー「うえ!?ちょ、ちょっと待って下さい!アリサさんも行かれるんですかっ!?」

上条「こっち帰ってくる途中で話し合ったら、そうなったんだよ」

レッサー「保険金でも掛けましたか?……ハッ!?もしくは認知したくなくて抹殺するおつもりでっ!?」

上条「ぶん殴るぞテメェ」

レッサー「や、どう考えても無理ゲー過ぎでしょう。確かにアリサさんの『奇跡』は魔術史へ名を残すレベルですけど」

レッサー「直接戦闘、しかも前線でガチる系ではありませんでしょうに」

鳴護「多分、だけど……わたしが行かなきゃいけないような気がする、んだ」

レッサー「どうしてまた?」

鳴護「……何となく?」

レッサー「……はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ……どうしたもんでしょーなー、これ」

ベイロープ「――レッサー」 ブンッ

レッサー「はいな――って、これは私の『尻尾』」 パシッ

ランシス「わたしの……『罪人の貨車』に、残ってた魔力を詰めてある……」

フロリス「なんかあったら、引っ掴んで、ニゲロ」

レッサー「……流石のレッサーちゃんもお疲れなんですが……まぁ、いいでしょう!キス一回で引き受けますコトよっ!」

上条「支払いはアリサ持ちで」

レッサー「賜りましたっ!」

鳴護「また当麻君が裏切ったよっ!?」

上条「アリサの安全のためだからな!決して疚しい気持ちがある訳じゃない!」

レッサー「また素敵な感じに全力で嘘吐いてやがりますなっ!」



――月蝕の夜

セレーネ『……』

上条(大規模術式を遣った反動か、それとも無理矢理龍脈を切られた反動か。目に見えて憔悴している)

上条(その場に居るだけで押し潰されそうになるプレッシャーは大分弱まり――と、言っても『神の右席』レベルよりも強い――どこか陰を落としている)

上条(……あぁそういや、『堕ちてくる空』はいつの間にか消えてたな。あれが残ってたらヤバかったが)

上条(と、言う事はあの術式は星辰の龍脈から力を得ていた――つまり、今は完全に断線している、ってか)

上条(『魔神』としちゃ、まだ地の龍脈を自由に遣える分、脅威は脅威なんだろうが……)

上条(……まぁ、いい。俺はアリサが失敗したら飛び出そう)

鳴護「――っ!」

レッサー「てーかアリサさんに先行させて良かったんですか?あんまり精神衛生上宜しくないっちゅーかですかね」

上条「……あぁ。ステージで助けられなかった時の話か。気持ちは分かるが……アレだ」

レッサー「どれですか」

上条「見せようぜ、取り敢えず」

セレーネ『……どうして?どうしてみんなはわたしを受け入れてくれないの……?』

セレーネ『みんな、大切なわたしの子なのに……!大事な大事な、わたしのぼうや達……!』

セレーネ『辛いでしょう、この世界は?厳しいでしょう、この世界は』

セレーネ『だから、そう、だから』

セレーネ『わたしの揺り籠でお眠りなさい……そうね、それが一番――』

鳴護「――」

レッサー「ちょっ!?近づき過ぎじゃないですかねっ!」

上条「いいんだと思う、あれで……や、違うか」

上条「あれじゃないと駄目なんだよ、きっと」

セレーネ『あなたは……アリサ!わたしの可愛い――』

鳴護「――――――――――”ありがとう”」

レッサー「………………はいぃ?」

セレーネ『アリサ……どうしたの、アリサ?』

鳴護「わたしが――”あたし”がこっちの世界、現実世界へまだ戻って来られたのって、あなたが助けてくれたんだよね……っ?」

鳴護「あたしが集めた『奇跡』じゃ、到底足りなかった。だから、一度は諦めようとした――のに!」

鳴護「あの時!背中を押してくれたのはっ!――あなた、なんだよねっ?」

レッサー「……何のお話で?」

上条「アリサは前にも一回消えてるんだよ。忘れたのか?」

上条「学園都市へ落下する大質量の塊、『エンデュミオン』を逸らすために一度」

上条「……あの時、『助かりたい!』って願った人達の思い――”想い”を集めて『奇跡』を起こした」

上条「……でもアリサは、あの体に込められた力を全部遣っちまったらしくてさ。一度は消えちまったんだ」

レッサー「や、でも!」

上条「……そうだ。アリサは戻って来たんだよ、『エンデュミオンの奇跡』から、少し時期はズレるけど」

上条「でも、これはおかしいって本人は思ってたんだと」

レッサー「おかしい、ですか?……いやいやっ、アリサさんがご自分の『奇跡』を使えば不可能ではないでしょう?」

上条「あぁ。アリサの『奇跡』は”不特定多数の意識を汲み取り現実を改竄する”力だ」

上条「少数の祈りでも理論上は出来るが……そうなるとごく細やかなものに限られる」

上条「……確かに。アリサのファンは最低でも万単位。『88の奇跡』を考えれば、全員で祈れば可能かもしれない』

レッサー「でしたら、それでいいんでは?」

上条「あの時、『アリサが消えたって知ってる人間は数人しか居なかった』んだよ。だから数万人が祈りを捧げる事は、ない」

上条「補足する――ん、だったら、アリサが自分のために『奇跡』を起こすと思うか?」

レッサー「……それ、上条さんが『右手』で世界征服始めるぐらいの確率ですよね」

上条「だけどアリサは帰って来た。『奇跡なんかじゃない』って」

上条「そこら辺の理屈は……アリサ自身も分かってなかったらしくて、そこら辺はなぁなぁで済ませてたんだが――」

レッサー「ここへ来て『濁音協会』との抗争が始まる、ですか」

上条「そう。連中曰く、アリサは魔神の欠片、なんだと」

レッサー「それは……」

上条「あぁ、そうだ。『龍脈』の力によって生み出された存在だ。最初っからそうだと言えば、その通りな気もするが――」

上条「でも、それはさ?逆に考えられないかな?」

レッサー「逆?何をリバースするんですか?」

上条「『セレーネはアリサを助けるために、魔神としての生を与えた』ってさ?」

セレーネ『――そうね、アリサ。わたしの可愛いぼうや』

セレーネ『あなたはかあさんの娘よ。生と死が交差する”塔”で、あなたを見つけて、産んだのはわたし……』

鳴護「あなたが、わたしの……」 ギュッ

上条(今まで一切噛み合わなかった会話が、初めて対話らしきものが成立する!……や、それも違うか?

上条(今にして思えば、セレーネはアリサを特に気にかけていた気がするし、アリサが消える直前も、二人の会話だけは成り立っていた……?)

セレーネ『あらあらまぁまぁ?アリサ、どうしたのアリサ?』

セレーネ『当麻に虐められたの?それとも他の妹にからかわれたのかしら?』

セレーネ『悪い子はかあさんが叱ってあげる。だから、泣くのを止めて頂戴、ね?』

鳴護「……」

セレーネ『それとも――アリサは”ここ”が合わないのかしら?』

セレーネ『あなたが生きるのに厳しいのだったら、またわたしの中へ戻って、おやすみなさい?ね?』

レッサー「……あのクソババアっ!まだアリサさんを――」

上条「待て!」

鳴護「……あの、ね。あたし、あなたに伝えたい事があるんだ」

セレーネ『なぁに、アリサ?言ってご覧なさい?』

鳴護「こっちの世界はね、とても、辛いんだよ。生きるのは辛いし、楽しくない事だって……幾らでもあるよ」

鳴護「思い通りになる事は少ないし……本当に、うん」

セレーネ『そう、だったら――』

鳴護「――でも!辛いけどっ!厳しいけどっ!あたしは、もうっ、大丈夫だからっ!」

鳴護「見て!お友達も出来たんだよっ!当麻君にレッサーちゃん!ベイロープさんにフロリスさんにランシスちゃんもっ!」

上条・レッサー「「……」」

ベイロープ・フロリス・ランシス「「「……」」」

鳴護「あたし、はっ!もう、大丈夫だからっ!」

鳴護「あたし”達”はっもう大丈夫だからっ!」

鳴護「辛い事があっても!厳しい事があっても!」

鳴護「もう一人で――歩いて、行ける……からっ!」

鳴護「だから、あなたは――っ!」

セレーネ『……泣かないで、アリサ。わたしの可愛い娘、アリサ』

鳴護「……っ!」

セレーネ『わたしは”こんな”だけれど、あなたは正真正銘”私”の子よ?それは忘れないで?』

鳴護「……うんっ」

セレーネ『体に気をつけてね?無茶をしちゃ駄目よ?あ、あと、お姉ちゃんも気に掛けてあげて?あの子も弱い子だから』

鳴護「うん、うんっ!」

セレーネ『……なら、かあさんは帰るわ。元の場所へ』

セレーネ『アリサは――みんなは、立派になったものね。もう、子供だって言ってられないのかしら?』

セレーネ『当麻も――お兄ちゃんなんだから、アリサのワガママを聞いてあげなきゃいけませんよ?』

上条「……分かってるさ」

セレーネ『それじゃまた――そうよ、あぁアリサ、あなたは歌が上手いのよね?』

鳴護「え、う、うん」

セレーネ『だったら最期にお歌を聴かせて頂戴――』

セレーネ『――この世界を”動かす”歌を』

鳴護「わたしに……出来る、かな?」

セレーネ『出来ますとも!だってあなたはわたしの子なんだから』

鳴護「……ん、やってみる」

セレーネ『慌てないでいいのよ?ゆっくりと、停まった糸車を回すように』

セレーネ『全ては、また、逆巻く――』

鳴護「『十六夜の月の下、月影が出来るのは二人』」

鳴護「『降り注ぐ蒼覚めた色は、煌々と』」

鳴護「『宵に伏す顔はそれでも甘さが見え』」

鳴護「『重ねた手に、冷えた手と手を繋ぐのはぬくもり』」

鳴護「『ずっと触れていたい、それは願いで』」

鳴護「『ずっと見つめていたい、それは望み』」

鳴護「『輝けるのは、続いていく君?』」

鳴護「『それとも私?』」

上条(大地に深く根を張った世界樹が、建物を覆った茨の蔦が、逆再生のように折り畳まれ、枯れていく……)

上条(静寂に包まれた世界から、徐々にざわめきが響き始める……)

鳴護「『絡みつく、月と太陽の輪廻』」

鳴護「『何度生まれ変わっても君と出逢うよ』」

鳴護「『だから君も見つけて――『あたし』の事を』」

鳴護「『ずっと触れていたい、それは願いで』」

鳴護「『ずっと見つめていたい、それは望み』」

鳴護「『絡みつく、月と太陽の輪廻』」

鳴護「『幾度繰り返しても君に恋する』」

鳴護「『だから君も探して――『わたし』の事を』」

上条(月蝕のまま閉じた円環は再び開き、漆黒一辺倒だった”月”は――)

上条(――微かに端の方から光を放ち、この悪夢が終わりだと告げている……)

セレーネ『……じゃ、さようならアリサ――わたしの可愛い子』

鳴護「……っ!」

上条「アリサっ!」

鳴護「うん……ありがとう、あたしを産んでくれてっ!本当にありがとうっ!」

鳴護「――――――”おかあさん”……ッ!!!」

……パキィィィィィィィイインッ……!!!

上条(停まった世界が、凍り付いた世界が、今)

上条(生命の歌と共に動き始める――!)



――2014年10月8日18時10分 『Shooting MOON』ツアー・学園都市凱旋ライブステージ

佐天『改めましてサプライズ!ついに来やがった本日の主役ぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅっ!』

佐天『”夜の女王”さんの登場でぇーーーすっ!はい拍手ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーっ!!!』

上条「…………あ、あれ…………?」

佐天『――て、あんれー?どっか見たよーな、つーか具体的にはあたしの知り合いっぽい人が居ますねぇ?』

上条「……オイ、ちょっと待て、これまさか――」

佐天『突然舞台に現れた集団の正体とは一体っ!?』

佐天『っていうかこれ打ち合わせにないんですけど、大丈夫ですかー?アンチスキル呼んだ方がいいのかなー?』

上条「――丸投げしやがったよあの魔神!元に戻してほしいとは思ったが、現状復帰させるにも程があんだろ!?」

佐天『アリサさん号泣してますし……感動のご対面なんでしょーかねー、もしもーし?』

上条(よし、考えろ俺!きっと打開出来る言い訳が浮かぶさ!信じろ、信じるんだ!)

上条(現状、ステージの上に居る奴らを完璧に説明する方法は――) チラッ

鳴護(※号泣)

ベイロープ・フロリス・ランシス(※疲労困憊×3)

レディリー(※昏倒)

上条「――よし!諦めようぜ!」

レッサー「待ちましょう、取り敢えず待ちませんか上条さん?」

レッサー「何を諦めたのかは存じませんが、今レッサーちゃんをスルーしませんでしたか?今今今っ!」

上条「お前に収拾が付けられるとでも?」

レッサー「その今にも唾棄しそうな蔑んだ顔も嫌いじゃないですがっ!ここは一つワタクシに任せてみてはどうでしょうかっ!」

上条「自信、あんの?」

レッサー「任せてつかーさい!こう見えて私は三年連続校内ランキング、『顔はいいが関わり合いにはなりたくない女ナンバーワン!』に耀いていますから!」

上条「今の危機的状況とそのランキング関係なくね?……あ、でもお前の学校が割とまともでホッとした」

レッサー「……上条さん、あぁカミジョーサン!」

上条「なんで外人っぽく言った?」

レッサー「私達が長い長い旅を通じて、様々なものを学びましたよね?それを思い出してくださいませんか?」

レッサー「良い事も悪い事も、我々は共に生活して知ったではありませんかっ!」

上条「そう、だけどさ」

レッサー「例えばアリサさんが、体洗う時は肌弱いんでスポンジ使ってるとかをですね」

上条「そ、それは知らなくていい情報だな?」

レッサー「人は万の言葉よりも一つの行動が信頼を生む筈でしょう!?違いますかっ!」

上条「あー……まぁ、そこまで自信があるんだったら、任せるけど――あ、佐天さん、ごめん。マイク貰える?」

佐天『あ、はい。どーぞ……あれ?この女の子、あたしと同じ芸風を感じるぞ……?』

上条「気のせいだ!?スタン○能力者は引かれあうとか言ってるけど、本当だったらDI○が来日してる筈だし!――と、ほら、レッサー!頼む!」

レッサー「期待を裏切りませんから!――『あー、あー、マイクテストーマイクテストー』」

レッサー「『フランス野郎は国連の援助物資で女子供を買うクソヤロー、クソヤロー』」

レッサー「『フランス女が売女しか居ないからって、余所の国まで同じだと思ってんじゃねーぞテストテストー』」

上条「止めてあげて?速攻で国際問題引き起こしてアリサさんの名前に泥を塗らないであげて!」

レッサー「『では――』」

上条「……」

観客『……』

レッサー「『――――――』」

上条「……うん?どーした――」

レッサー「『ぜっ、全員動くなァァあああああああああああああああああああッ!!』」

上条「お前それ一番やっちゃいけないヤツぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅっ!?」

ラシンス「(……や、だから。レッサーが言いたいのは)」

フロリス「(『芸人としてのお約束を裏切らない』って意味ジャンか)」

ベイロープ「(はいはい、無駄話はそこまで。アリサとレディリー回収して引っ込むわよ)」

鳴護「(あのー、あたしもですか?)」

ベイロープ「(顔、泣き腫らしたアイドルなんて居ないでしょ?あと衣装も着替えないとね)」

鳴護「(あ、はい)」

フロリス「(てゆーかさ、アレ計算?天然?)」

ランシス「(……レッサー、意外とヘタレだから、多分……素)」

鳴護「(そう言えば旅の途中も、プラトニックが多かったような?)」

ベイロープ「(……言わないであげて――と、そうそう、アリサ)」

鳴護「(はい?)」

ベイロープ「(お帰りなさい)」

鳴護「(……はい、ただいま帰りました)」

フロリス「(あー……その、なんだ。ワタシが言うのもなんなんだけどサ。イヤだったら別に逃げたっていいんだぜ?)」

フロリス「(それで思い詰めるよりか、ずっとマシでしょーに)」

ランシス「(……ん、でも今度逃げたらわたしが……ぐへへへ)」

フロリス「(変態ダーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーっ!?)」

鳴護「(……もう、あの夜の恐怖体験はゴメンだよ……うん)」

ベイロープ「(この子はある意味、無言実行だからレッサーよりもタチが悪いのだわ……)」

レッサー「『――フランスが大負けしたワーテルローから今年で200年だよっおめでとうっ!今世紀中には滅ぼしたいですねっ!』」

上条「おいマイク離――逃げるなっ!」

上条「誰かーーーーっ!?誰かこのバカのマイクの電源落とし――」

シャットアウラ「――何をしているか貴様ァァァァァァァァァァァァァァァァァァッ!!!」

佐天『あ、激怒したスタッフの人だ』

上条「待て!?違うんだシャットアウラ!これはお前が考えてるような事じゃない!ちゃんとした理由があるんだよ!」

シャットアウラ「……言うだけ言ってみろ、聞くだけは聞いてやる」

上条「これはな、敵の魔神の攻撃――」

シャットアウラ「――ふんっ!」 バスッ!

上条「そげぶっ!?」 バタッ

上条(……シャットアウラの加減なしの一撃を食らい、俺はゆっくりと意識が狩れ取られていく……)

上条(その、目に映ったのは、大笑いするレッサー、ほぼ逃走を完了しているフロリス、レディリーの微妙な所を持って抱きかかえてるランシス――)

上条(――アイアンクロウをバカに噛まそうとしているベイロープ、そして――)

上条(――いつものように心配そうに見ているアリサの姿だった……)

上条(……ま、そんな日常を守るためだったら、世界の一つや二つ、どうって事はな――)

上条(――い……)

上条「……」

上条(……いや、やっぱ世界救ったのに、貰ったのがボディーブローって割に合わなくないか……?)



――闇、海より還り来たる −終−


(『エピローグ』へ続く……)

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