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Clock(trial)

『月に吼える(Cry for the MOON)』


――倉庫

レッサー「ではまずロ×の定義から決めましょうか!私はたてす――」

上条「してないな?俺達が休憩入る前にそんな、マタイさんでも助走をつけて殴るレベルの不道徳な話は?」

レッサー「『エルフだから幼く見えるけど年上なんだもん!』は嫌いじゃないです!嫌いないじゃないですけど、こう脱法的な匂いがしますよねっ!」

レッサー「かといって最近雨後タケのように増殖しつつある×リドワーフも如何なものかと!」

レッサー「ドワーフとはオトコの世界!ガチでムチなウホッ!なヒゲの世界に幼女が入ってくる余地などありませんなっ!」

ランシス「……でも、キライじゃない?」

レッサー「むしろ好きです!ろ×ぷにが重武装してるのって萌えるじゃないですか!」

上条「おい先生。アンタの生徒、何とかしろ」

マーリン「いやぁ、ドワーフは許しとぉてもええんちゃうかな?そうでもせんと人気出ぇへんよ」

上条「意見を求めてんじゃねぇよ!?止めなさいよお弟子さんを!」

マーリン「白雪姫に出とぉ七人の妖精も本来はドヴェルグやし。もう少し知名度があったって」

マーリン「ネズミのアニメになってもぉてから、可愛いイメージが先行しよぉるし」

上条「別に人気出たって良い事なくね?日本に伝来して女体化&アイドル化したアーサー王とか、碌な事にはなってないよね?」

マーリン「ええんちゃうかなー。王様も手ぇ叩いて喜びはるよ、多分」

上条「ベイロープさん、そろそろお願い出来ますかね?」

ベイロープ「……本当にゴメンなさいね?不出来なっ!バカ二人がっ!」 ギリギリギリギリギリッ

レッサー・マーリン「「あいたたたたたたたたたたたたたたたたたたたっ!?」」

フロリス「そしてネタ振ったのに制裁から逃れる子が」

ランシス「……いえーい」

マタイ「楽しそうで結構な事であるな」

上条「すいまっせんこの人達、脳の病気なんですよHAHAHA!!!」

マタイ「皮肉を言った訳ではなく、またそういうのも佳いであろうと言う事だな。あまり根を詰めるのも宜しくはない」

マタイ「魔術的な話ばかりで息が詰まるだろうから。適度な息抜きに関してはどうこう言わんさ」

上条「あ、いえそれは別に……ま、正直ワケ分からん話も多いですけど、慣れました」

上条「そっちサイドの話はイギリスに居た頃から、憶測含めてずっとしてきたんで……」

マタイ「そう、か……が、朗報と言って佳いのかは知らないが、セレーネの魔術がどうという話はもうここ以外、またこれ以上長々と語られはしないだろう」

上条「なんでまた?」

マタイ「私達が最後の七人だ。よって次の戦いで、セレーネに敗北を期すれば再チャレンジする事無く世界は滅ぶからだな」

マタイ「幸いなのは負けても命奪われる事無く、永遠に死すら超越して夢見続ける事だが」

上条「責任重大ですねー……」

マタイ「失敗した所で、この場合、この壇上へ立ち、戦う資格を持っているのも私達しかおらん」

マタイ「従って文句を言われる筋合いもないし、失敗した所で責められる事も無い。気楽にすれば佳い」

上条「そういう達観もどうかと思うんだが――もとい、ですが」

マタイ「さて……では話の続きとしようか。『魔神セレーネの現状』は何となく分かったであろうが」

上条「地球にある龍脈、それにプラスして星辰?にある龍脈からも力を引っ張ってきている」

上条「なので馬鹿げた魔術、『常夜(ディストピア)』なんてのを維持出来る……ですよね?」

マタイ「そうだな。彼奴は”理論上は可能だが、とても実現性が低い”事を見事成し遂げた訳だ」

上条「二つの龍脈、どっちからも最大出力で力が流れ込む一瞬……言ってみれば”最も力が溢れる状態”」

上条「その瞬間に『時を停める』事で、最高の状態をキープしている……つーか馬鹿げてる気がするな……」

マタイ「その通りだ。実際にも馬鹿げている――の、だが」

レディリー「それを果せたのは、偏にセレーネの魔神としての”特性”なのよね」

上条「特性?」

レディリー「あなたもさっき言ってたでしょ――”人格”って」

上条「違くないか?人格と性格は……ま、近いような気もするが」

レディリー「そうね。”人の場合は”そうかしらね?」

マタイ「だが我々の相手、”最初から魔神として生まれ落ちた相手”にとってすれば同じようなもの……だろう?」

レディリー「そう思うわね、私は」

上条「どう違う?」

マタイ「その話をする前に、君は私が以前話した『テレズマや位相の力には矛盾がある』と言う事を憶えて居るかな?」

上条「ベーオウルフだかってベイロープにちょっと似た英雄の話、だっけ?。確か……」

上条「昔々あるところに英雄が居ましたー。彼はスッゴイ武器を使って巨人や竜を殺し、王様になりましたー、的な話」

上条「その英雄が持っていたスッゴイ武器、その特性っつーか、まぁ持っていた効果を踏んだ剣の術式はある」

上条「当然霊装もあるし、魔術として成立もしている。その魔術の源、パワーソースになってんのは――」

レディリー「――位相の力――」

上条「――なので、やっぱり『ベーオウルフの神話世界』があって、その世界なり何なりから来ている筈なんだが……」

上条「……そうすると『ベーオウルフ当人が使っていた剣、それはどこの世界のどんな位相の力なんだ?』って矛盾が出て来ちまう、だよな?」

マタイ「然り、だ」

上条「正直、アタマ痛い……」

マーリン「あー……他に例えるんなら、カリバーンって知っとぉ?ワイらの王様の剣やねんけど」

上条「あぁ有名だよな、ゲームでもよく出てる――って、エクスカリバーじゃなかったっけ?」

マーリン「とも、混同されとるんやけど。実はアレ使ぉ前にカリバーンっちゅう剣持っとぉたんよ」

マーリン「有名な岩に刺さっとぉ剣の伝説聞かへん?『この剣抜きよったら英雄やでこれしかしぃ!』みたいな」

上条「あるある。ネタ武器で岩に刺さったままの剣も含めて」

マーリン「王様の剣は岩に刺さった剣がオリジンやっちゅー話もあるし、またその剣は一回折っとぉて別にあの剣を手に入れたっちゅー話もある」

上条「……マーリンじゃなかったっけ?」

マーリン「忘れるやんっ!ワイだって脳の容量に制限はあんねんで!」

上条「レッ――フロ――ラン……ベイロープ?」

レッサー「待ちましょうか?今何で私・フロリス・ランシスの顔を華麗にスルーして、ベイロープへ説明を求めのたのか、じっくり理由を教えて貰えませんかね?」

上条「真面目かどうか」

レッサー「ならしょうがないですよねっ!真面目じゃないですもんねっ!」

フロリス「BooBoo!」

ランシス「心外……」

ベイロープ「はいはい。文句は後で聞くから――てか、先生は大体こういう感じよ」

上条「またいい加減な……」

マーリン「しゃーないやんな。ワイやってマーリン本体やないんやし忘れる事だってあるわいな!」

上条「……どっちかっつーとキャラの方に問題がありそうなんだが……それで?岩に刺さった剣がどうしたって?」

マーリン「あーうん、そいでな。このカリバーンの魔術もあるんよ?術式にしとぉたり、霊装として組んどぉよ」

マーリン「ワイの王様の佩剣の力を借りよ思うんは結構有名なんやけどね……ま、これ魔術的に言ぉたら……」

マーリン「『アーサーの伝承っちゅー世界が先に居ぉて、そっから位相の力を拝借しよる』……これは分こぉ?ええかな?」

上条「大丈夫。しっかりついて行ってる……と、思う」

上条「魔術師連中が神話を再現して、えっと別の世界から位相の力を得たり、十字教の魔術でテレズマを使うって話だろ?」

マーリン「そうやね。それで合っとぉ、合っとぉんやけども――」

マーリン「――『ほいじゃ、この剣誰が刺しよったん?』とか疑問に思わへんかな?」

上条「誰が……?」

マーリン「別に岩に刺そぉた剣でなくてもええんよ。泉の妖精から貰ぉた剣でも同じ事やねん」

マーリン「少のぉても伝説級の剣やねんね?やったら誰それの神さんの剣でしたー、っちゅー話かも知れへんやんか?」

マーリン「やったら別に、王様の剣としてや無ぉて最初からその神さんの佩剣として使ぉたらええやん?やないと二度手間やんか?」

上条「……すまん。分からん」

マーリン「上条はんが言ぉた『位相の力』あるわな?岩に刺さっとぉ剣ことカリバーンも、当たり前のようにその『位相の力』で再現出来よぉねん」

マーリン「王様の伝説を踏襲する事によって、カリバーンの特性を持っとぉ魔術が使えんねんな。ここまでは分ぉ?」

上条「あぁ、何とか」

マーリン「『でもカリバーン、最初っからカリバーンやったっちゅー訳でもないやん』か?」

マーリン「ンな名剣ホイホイ岩に刺さっとぉて放ったらかしかい。なんでやねん、アホかつちゅー話よ」

上条「そこも、まぁ分かる。アーサー王が使うぐらいの剣だったら、他の騎士や神様が前の持ち主でもおかしくは無いだろうし」

マーリン「ワイが言いたいんのは”そこ”やね。そこの矛盾が激しい言いたいねんな」

マーリン「なんちゅうかなー。ワイ――ちゅーよりもマタイはんとレディリーはんも同じ考えなんやろうけど――が出した、龍脈へ対する一つの考察。それは――」

マーリン「――『龍脈の中に記憶も溶け込んでへん?』やね」



――倉庫

上条「記憶が……溶け込んでる?」

マタイ「前にも言ったように、『天使の力と位相の力は、龍脈が姿を変えただけの別ベクトルの力では無いのか?』へ戻る」

マタイ「英雄が存在し、その記憶が蓄積されればそれに準じた世界が生まれる――の、ではなく」

マタイ「『龍脈の中に記憶と共に蓄積されていく』、のではないかと私は思う」

上条「あー……英雄は過去何人も存在し、そういった連中の武器や逸話を昇華させた魔術がある……」

上条「……これはつまり『英雄が力を持つ位相』の存在を示している……けれども!」

上条「そうするとその英雄当人は、一体どこから力を得ているのか……?」

マーリン「その疑問へ対する答えの一つが『位相の力の正体=龍脈』っちゅー説やんね」

上条「話が唐突すぎないかな……これ」

レディリー「いや、そうでもないわよ」

上条「お前までそう言うのかよ……」

レディリー「言うわね。だってそうじゃないと『クトゥルーの位相』なんてありえないじゃない?」

上条「……はい?」

レディリー「クトゥルーがあるかないかで言えば、”ある”のは分かるでしょ?クトゥルーの流儀に倣って魔術も行使出来る――」

レディリー「――これが意味しているのは『”クトゥルーの位相”とやらどこかにあって、そこから力を引き出している』のよね」

上条「……あぁ。そうじゃないと力が使えないだろうし」

レディリー「でも、けれど、だからといって『20世紀に半ばになるまで、人類はクトゥルーを知らなかった』のも確かよ」

レディリー「――だって『クトゥルーはラヴクラフトの創作』だから」

上条「……フイクションの魔術でも、魔術が使えるってのはおかしくないか……?」

レディリー「ふふ、おかしいわね――でも、”それは今に始まった事じゃない”でしょ?今更何を言ってるのかしら」

上条「なんだよ」

レディリー「フィクションがどうの、って言えば『全部が全部創作』じゃない」

上条「――っ!?」

レディリー「神も、悪魔も、天使も、全ての神話という神話がどれ一つ例外なく現実にあった出来事では無いわ」

レディリー「もしそうであるのならば、この世界は何度か滅びていないとおかしい――大抵の神話にある終末によって、ね?」

マタイ「……立場上、その物言いは止めてくれる助かるのだが……」

マーリン「まーまー。堅い事言わんと」

レディリー「でも『魔術はある』のよ。あなたが散々見て来たように、様々な国の、様々な人達が、何千年も前から使い続けてきたの」

レディリー「当然、『位相の力とテレズマ』も含めてね」

上条「……なぁ、ちょっと整理してみたいんだが、いいかな?」

マーリン「ええよ。時間は幸いなんぼでもあるしな」

上条「まず前提条件として、また絶対の条件としても『魔術はある』んだよな。それは、分かる」

上条「その力の源として必要なのは”魔力”。その一番基本的なやり方は個人が持つ――っつーか生命だかを転換させて精製する」

上条「他にも龍脈から引っ張ってきたり、後は今言ってた『位相の力』があると……」

上条「……で、その位相の力は俺達が普通は認識出来ない、言ってみれば別世界の力であって、そこから魔力を取り出すみたいな感じ?」

上条「副作用としては生半可な知識ですれば、発狂する危険性も含んでいる、か」

上条「……ただこの『位相の力』は正直、よく分からん……」

上条「”クトゥルー”みたいに、20世紀の作家が書いた物語の位相世界が出来てしまう事もあるし――」

上条「――”英雄的な行為”をした人間が居れば、その人間に対応する位相がまた生まれる……ん、だよな?」

マーリン「日本にも日本武尊(やまとたけるのみこと)っちゅー英雄居ったやん?あの子ぉは神様ちゃうよね?」

上条「どうだろうな……?直接どこそこの神様とは関係なかった、筈」

マーリン「タケルが天叢雲剣(あまのむらくものつるぎ)を使ぉて、火攻めを凌いだっちゅー逸話が出来た」

マーリン「そっから叢雲は草薙剣言われ火伏の象徴となりぃの、タケルの名前で耐火の術式生まれよぉた」

上条「俺が知ってる科学とは大分かけ離れている……」

上条「物理や化学なんかそうだが、まず世界には法則があってそれをどうやって調べるか、って話だからな」

上条「エントロピーの増大?それとも人の思い?……自分でも言ってて混乱してきた……」

レディリー「忘れなさい。考えても答え合わせが出来るとは限らないのだから」

レディリー「それよりも『現実にある』以上、それをどう使うかが問題でしょ?」

上条「……そうだな。少なくとも今は、アレコレ世界の真理を探すターンじゃねぇか」

レディリー「――と言って直ぐに悪いのだけれど、その『真理』とやらの仮説はあるのよね。そう、それが――」

マーリン「『全部の不思議パワーは龍脈ちゃうん?』って話やねっ!」

上条「言い方!」

マーリン「や、言いつくろぉても仕方がないてすやん?ワイらは少なくともそぉゆぉ風に術式組み立てとぉし」

レディリー「逆説的な話になるけど、”龍脈に記憶が蓄積される”って仮定すれば納得出来るのよ。色々とね」

上条「そうか?位相も龍脈も同じだとしても、あぁ勿論仮にだけどな。仮に」

上条「『龍脈は扱いづらいけど、強い』のに対して、『位相は扱い易い、でも発狂するかも!』じゃ性質全然違うよな?」

マーリン「それは『溶媒』の問題やとワイは思っとぉ」

上条「溶媒?」

マーリン「溶媒違ぉかな?なんちゅーたらええのか……対価?リターン?」

マーリン「ともあれワイが想像しとぉんのはアレや、『龍脈は力の取り出し方によって、対価も変わる』って話や」

マーリン「龍脈をどうこうしょ思ぉたら、まず大掛かりな儀式魔術が必要やんか?風水なり、時間なり、天気も関係しよるわ」

マーリン「しかも扱いづらい分だけ、ワイらが支払う対価は少なくて済むやん」

マーリン「に、対して『位相の力』自体はお手軽やん?こう、元となる自身のマナをスターターにしぃの、そっから魔術起動出来るしぃ」

マーリン「でもそのお手軽な上に、制御もし易い分、龍脈よりも圧倒的に魔力を喰うねんよ」

マーリン「ベテランでもヘタ踏んどぉたら廃人になったっちゅー話聞かへん?」

上条「あー……俺の知り合いの錬金術士に、一人」

マーリン「そうなってまうんは『力を引き出す際に記憶をキーにしとる』んやないかって」

上条「記憶を?」

マーリン「さっき言ぉたカリバーンの魔術使ぉとするやん?そしたらまず『記憶』を使って龍脈にアクセスするねんな」

マーリン「やけど龍脈っちゅーんは膨大や。力も記憶も、下手すれば天地開闢からのずっと溜め込んどぉさかい、一々見とぉたら狂うわな?」

マーリン「やからそこで必要になってくるんが『記憶』なんよ。分かる?」

上条「……記憶……?」

マーリン「アレやね。上条はんには馴染み深いと思うんやけど、奇しくも『インデックス』――”索引や見出し”みたいなもんやね」

マーリン「辞書で語句を探すんやったら、一々最初から順番に目ぇ通さへんよね?や、まぁそうゆう人もおるかも知れへんけど」

マーリン「まぁ、まずは単語の頭と合ったスペルを引きぃの、次は二番目の文字と合ぃのー……っちゅー風に探すわな。それと一緒やん」

マーリン「ネットで分からない事調べよ思ぉたら、まず適当なワード入れて検索するやんか?アレも同じで」

マーリン「『特定の魔術知識を持っていれば、その知識に対応した力を素早く狂わず引き出せる』ってな」

上条「……分かる、ような気がする」

マタイ「私はそこまでは考えていない。方向性を決めるものだと思っている」

マーリン「なんなん?」

マタイ「個人の魔力をコップに入った水、そして龍脈に流れる魔力は海と考えている」

マタイ「量も違えば性質も違う。よって個人が使うためには方法を選ばなければならない」

マタイ「ひしゃくに掬うなり、バケツに汲むなり、場合によっては水鉄砲に溜めたり、濾過した後に田畑へと引き込むのもある」

マタイ「あまりに膨大故に、そうやって”記憶”をトリガーにしなければ制御も覚束ない。そう私は考えているよ」

上条「レディリーは?」

レディリー「私は『鍵』だと思っているわ。更衣室にあるような鍵とロッカーね」

レディリー「ロッカーを開けるためには鍵とそのロッカーの場所が分からなきゃいけないわよね?そんなカンジよ」

上条「……成程。理解……は、完全に出来ないが説得力はあるような気がする」

マタイ「流石に最終的な結論こそ違えども、大まかな方向性は一致した訳だが――さて」

マタイ「以上の推論から更に仮定をし、ようやく君の疑問へ応えられるのだが……セレーネの性格の話だったか」

上条「あ、はい。なんか大分昔の気もしますが」

マタイ「あれも同じだ。龍脈に溶け込んでいる性質上、学習したり変化を来すのは難しいだろう」

上条「そもそも『そういうモノ』として龍脈に記憶が刻まれているから、か?」

レディリー「セレーネは幾つか他の女神と混同されている話は知ってるかしら?」

レディリー「地母神キュベレイ、弓箭神アルテミス、ラミアの母ヘカーテ。他にもローマ神話へ組み入れられてディアナやルナとも呼ばれたわね」

レディリー「……尤も十字教では悪魔に堕とされて魔女ヘカーテとされてようだけれど?」

マタイ「異教の神々を貶めるのはいつの時代、どこの信仰でも変わりはせぬよ。私達にだけ責任を求められても困るが」

レディリー「――と、ボーヤが泣きそうになっているのは置いておくとして、どれだけ名前を変えられようと、人格を歪められそうになっても彼女は変わらないの」

レディリー「ギリシャ神話にあるがままの魔術を組めば、彼女は今も変わらず力を貸してくれるわね」

上条「あー……実はそれ、俺も不思議に思ってたんだよ」

レディリー「何かしら?」

上条「ギリシャ文明、昔は反映したんだろ?人口は知らないが、まぁ今の時代にまできっちり残ってるぐらいには発展していた」

レディリー「エルギン・マーブル然り、アテネのパルテノン神殿も十字教の聖堂として改造されたのだけれど。まぁいいわ、それで?」

上条「でもさ、今、現実、少なくとも生活している人間の中、ギリシャの神様達を崇める人って少ないよな?」

上条「居ないとは言わないけども、『ゼウス様に祈りを捧げてウンヌンカンヌン』的な、俺がイメージするような信仰をしてる人はごく少数じゃねぇかなって」

マタイ「であるな。今のギリシャはギリシャ正教会と呼ばれ、東方正教会の流れを汲む人間が殆どであるか」

上条「信じる人が居ないのに、その神様が絶大な力を持ってるのっておかしくないかな?」

上条「ギリシャもエジプトも、あくまで文化として研究対象にしてる人間は多いんだろうが……そこはどうなんだろう?」

マタイ「それもやはり『力は刻まれた時点から増減しない』と仮説を立てておるよ」

上条「増減しない……って事は、一回『○○は××である』って記憶されちまったら、完全固定?」

マタイ「なのであろうな。そうでなければ現代で信者など殆ど居らぬギリシャ神話にエジプト神話、それらをモチーフにした魔術師が存在出来なくなってしまう」

レディリー「私もギリシャ神話を主とした『予言巫女(シビル)』なのだけれど、それなりの魔術師としてやっているわ」

レディリー「それ――オティヌス、だったかしら?世界を滅ぼす力を持つ魔神の一柱」

レディリー「今は信仰としてほぼ成立していない北欧神話、信者の数と正比例するのだったら脅威にはならないわよね?」

上条「成程。だから『固定』か……」

マーリン「やねぇ。だから”アレ”も天災みたいなもんやと思った方がええよ」

マーリン「見た目はキレイなねーちゃんやけども、神話にある通りの性格のままカミサマはカミサマっちゅー話やんね」

上条「……オティヌスは違うよな?好き放題やってるし」

マーリン「あれは『受肉しとぉ人間が神と呼ばれる魔術師になってもぉた』やん?」

マーリン「ベースが人間やから、『神話の中のオーディン』とはかけ離れとぉ行動を取れるねんな、うん」

マタイ「ある意味、『神に至る道』は一般的な魔術師としての本懐とも言えようが……かといって黙って見ている訳には行かないか」

レディリー「あ、オティヌスと戦う前に約束は果たしてね?」

上条「分かってるよ!どうせこっちが一件落着しても敵は敵だからなっ!」

マタイ「ともあれ。神の性格、人格については以上と言った所であるか」

マタイ「……勿論これはこの世界、この時間軸での”推論”に過ぎはしないのだが、な……」

上条「ありがとうございました……てか、話し合いって選択肢が無くなっちまったんだよなー……」

レディリー「『セレーネとしての性質に沿った形での対話』で、あるならば可能でしょうけど、彼女に魔術を止めて貰うのは無理でしょうね」

レディリー「だってこれはセレーネにしてみれば”善意”なのだから」

マタイ「人の形しとぉだけで、あれはただの魔術の結果に過ぎんわ。下手な仏心出さんと、退治するのが一番やね」

上条「もふもふのぬいぐるみに言われても説得力は皆無だが……あと、もう一つだけ、大事な事聞いてもいいかな?」

マーリン「Please?」

上条「――で、アリサはどうすれば助けられるんだ?てかどういう状況?」

ほぼ全員「……」

上条「世界救うのは大事だと思うし、手を抜くつもりも無い。無いんだが……俺にとっては同じぐらいアリサも大切だ」

上条「だから、その……」

マーリン「あー、分かっとぉよ。上条はんの友達大事言うんのも分かるわ」

マタイ「意外だな。マーリン卿であれば見捨てると思ったが」

マーリン「ちょっと!?人聞きの悪い事言わんといてぇよ!ワイやって義侠心ぐらいもっとぉ!」

マーリン「アホみたいに交尾好きな王様を最期まで面倒看とぉたの誰やと思うてるんっ!?」

レッサー「いよっ、マーリン大先生!フォローの達人いつもありがとうございますっ!」

レディリー「最初からランスロットを王様に立てれば良かったんじゃないかしら?」

ラシンス「……盲点だったッ……!」

レッサー「よしましょうよっ!?アーサーさんだってきっと頑張ってたんですからっ!」

フロリス「通用した、と思う?」

ベイロープ「無理でしょうね。ペンドラゴンの血筋を持っていなければ、ただの簒奪者よ」

上条「なんでお前ら仲間割れしてんだ」

マーリン「ま、まぁ細かい話は後々するよって――で、アリサはんの事やねんけど。あれなー、多分なー」

マーリン「『濁音協会にとってすれば、アリサはんが消えるのも計画の一環』やったんちゃうかな、ってセンセ思うとんのよ」

マタイ「……そうか。その可能性が……」

上条「え?どういう話?」

マーリン「アリサはん――と、上条はんが『龍脈イジれる力があるかも?』みたいな話はしとぉ……あぁ、してるんやね?じゃ話は早いわ」

マーリン「今までの話聞いとぉ、上条はんどないな解決策出したらええと思う?」

上条「話変わってないか?」

マーリン「ええから。言うてみ?」

上条「あぁうん、それじゃ素人考えだけども――やっぱ『龍脈』じゃね?」

上条「セレーネの術式を維持してるのも、下手をすれば存在自体に関わってるのも龍脈みたいな感じだし?それをどうにか切り離せば――って」

マーリン「マタイはんとレデイリーはんは?」

マタイ「右に同じく」

レディリー「私達の力で押し切れない以上、それがベターでしょうね」

マーリン「んむ、ワイも同じ考えやね。天空と地上、どっちか片方からでも断線させるだけで相当有利に立てる……筈やねんけどもー」

マーリン「当然それが面白ないわー、っちゅう連中からしたらアリサはんは天敵やんな」

上条「アリサが?」

マーリン「なんやかんやでセレーネが完全体になっとぉのも、アリサはんのステージのせい――あ、責めとぉんやないよ?客観的事実としてな?」

マーリン「少なくとも『幻想殺し』っちゅー異能で、あれもかれも全否定する上条はんよりかは」

マーリン「『奇跡』で方向性を持たせた力を振うアリサはんの方が脅威やねんな。敵さんにしてみたらば、や」

上条「だからアリサを封じた……?」

マーリン「あくまでも結果論やけども――裏を返せば、魔神セレーネ討伐にアリサはんの力は絶対に必要やっちゅー話や」

上条「もふもふっ……!」 モフモフモフモフモフモフモフモッ

マーリン「ちょ、やめてぇなどこ触っとぉ――ッ!?」

レッサー「……ぐぎぎぎっ!私ですらあんなもみくちゃにされた事なんて無いのに……!」

フロリス「や、されたら大問題ジャン?」

レディリー「……その、いいかしら?」

マタイ「私で佳ければ、聞こう」

レディリー「ずっと不思議に思ってたのよ。私が戻ってきてから、とてもビックリしたのだけど」

レディリー「そもそも、って言えばいいのかしら?それとも今更なのかも知れないけど――」

レディリー「――『どうしてアリサが戻ってる』のよ?」

マタイ「とは?」

レディリー「『エンデュミオンの奇跡』を仕掛けた人間が言っていい事じゃ無いのだけれど、あの『奇跡』の代償は重いわ」

レディリー「ラグランジュポイントからの大質量落下、万単位で死人が出る筈だった未来を変えたのよ?当然あの子の負担も相当のもの――」

レディリー「こっちへ戻ってきてから調べたけれど、一度は完全に消えたのよね?シャットアウラと一つになって」

レディリー「なのにどうしてあの子はまた一人の人間として生まれたの?どうやって?誰が?」

上条「『奇跡』だからじゃね?俺やインデックス、シャットアウラやビリビリみたいなアリサの友達やファンの人が”願った”結果とか?」

レディリー「……」

上条「納得出来ないって顔だな。マーリンさんはどう思う?」

マーリン「……もうワイお嫁さん行かれへんよ――責任取ぉて結婚して!」

上条「戻って来い。真面目な話をしてるんだから」

マーリン「ワイも割かし真面目やねんけど……そやんねー、んー?」

マタイ「……まさか――!」

上条「どうした?」

マーリン「あー……気付きよぉたなぁ。流石って褒めてええのか分からんけども」

レディリー「……私から言った方がいいかしら?どうせ憎まれるのは慣れているし」

マタイ「……いや、私が言うべきであるな。彼との約束もある事であるし――と、上条当麻君」

上条「は、はい?」

マタイ「あくまでもこれは私の推測、あまり根拠の無い与太話なのだと思って聞いて欲しいのだが――」

マタイ「――『鳴護アリサ君は”魔神セレーネの欠片”』ではないのかね……?」



――倉庫

上条「………………………………はい?今なんて?」

マタイ「鳴護アリサ君を、彼女存在自体を我々の流儀で定義するのであれば、真っ当な人間とは言えないだろう」

マタイ「むしろ龍脈の力で構成された、ある種の魔術によって維持されている存在である、と」

上条「……」

マタイ「……気を悪くしたのであれば――」

上条「あ、いや別に?分かってた事だし?」

マタイ「――謝罪し……何?」

上条「あ、いやアリサの存在がどうこうを知ってたって訳じゃ無いけど、アリサは『88の奇跡』の時に生まれたんだ」

上条「正直、何を今更って感じなんだが……?」

マタイ「ではなく。私は、私達はアリサ君が魔神のように、予めプログラムされた存在であると言っ――」

上条「あぁそれはない。ないない、そんな訳ねぇって」

マタイ「……?」

上条「アリサさー、初めて会った時盛大にコケてさ?こう、路上でキーボードをアンプに繋いでライブやってたんだけど」

上条「そのコードに躓いてパタン!ってな。着痩――いや!インデックスさんに制裁を貰いましたけどもだ!」

マーリン「上条はん?なんのお話を――」

レッサー「黙って聞きましょうよ、我が師マーリン」

レッサー「……”これ”が私の宿敵にして愛しい人ですからね、えぇ」

上条「後はステイル達に襲われてたから、俺んちで匿う事になったんだけども――なんだろうな?こう、家の鍵閉めないで風呂入るのって有り得ないよな?」

上条「い、いや!俺は悪くないんだよ!むしろ被害者と言えるだろうし!」

レディリー「何を、言っているのかしら?」

上条「他にもな。意外とあぁ見えて臆病かなと思うだろ?でも『エンデュミオン』でしっかり自分の役割もこなすような、そんな子なんだよ」

上条「……そんな子、なんだよな」

上条「”それが全て演技だった”訳がねぇだろう、なぁ?違うか?」

上条「何の力も無く――少なくとも本人はそう思ってて、たたアイドルになりたいために一生懸命頑張ってる女の子が、だ」

上条「俺にはただフツーに生きるだけの女の子だったよ?それ以上でも以下でもねぇ」

上条「……魔神がどうした、龍脈が何だってんだよ。アリサが人形?……冗談じゃねぇ」

上条「アリサは、アリサだ……ッ!生まれがどうであれ、生き方がどうであっても!そこだけは変わらない――」

上条「――俺の、友達だ……ッ!!!」

マタイ「だが――」

上条「もう一回言うぞ?……あぁいや何回だって言うし、本人にも言ってやるつもりなんだが――」

上条「――魔力の塊だろうが!龍脈の記憶だろうが!そんなのは関係ねぇ!アリサは、アリサだからだ!」

レディリー・マタイ「「……」」

マーリン「(……なぁ)」

レッサー「(はいな?)」

マーリン「(勝ち目、あるん?)」

レッサー「(無かったら諦めます?)」

マーリン「(……やんなぁ……)」

上条「……あぁゴメン。なんか熱くなっちまった」

マタイ「……いや、謝罪をすべきなのはこちらの方であるが……本当に、今日という日は88年生きていても、如何に未熟であるか気付かされるな」

レッサー「流石上条さんっ!その無闇矢鱈に広いストライクゾーンは伊達じゃないですよねっ!」

上条「聞いてなかったよな?お前は、俺の話を、聞いては、いなかったよね?」

レッサー「『人間かどうか<性欲』?」

上条「誰かこのおバカの幻想殺してあげてー、出来れば物理的にバールのようなモノで一つー」

レディリー「……ま、ボーヤの性癖はともかく、アリサの存在意義もさておき……少し、不自然よね」

上条「性癖は冤罪極まりないんだが……不自然てのは?」

レディリー「アリサは『”奇跡”を望まれ生まれた』のよ。最初は」

レディリー「人間が”助かりたい”と思う、最も古くてシンプルな魔術と言い換えてもいいわ」

レディリー「『エンデュミオン』も同じ。大勢の人の『願い』を受け取り、アリサは奇跡を再び起こし、その存在は霧散した――」

レディリー「……筈、なのに。けれど『エンデュミオンの奇跡』が叶った後、誰が何を望むと言うのかしら?」

上条「俺達、じゃダメなのか?他の可能性も……あぁ、アリサは一回消えちまったけど、実は完全に消えなきゃいけない程じゃなかった、とか?」

レディリー「そうよね。龍脈にアクセス出来る”かも知れない”あなたが居れば、それも簡単なのでしょうけど……でも、違うわ」

レディリー「あの時点ですら制御はおろか、自覚すらしていなかったあなたが『奇跡』を起こす可能性。ゼロじゃないでしょうけど、難しいわよね」

レディリー「だとしたら第三者の介入だと考えた方がおかしくはないわ」

上条「『濁音協会』……!」

マーリン「ウチの子ぉらにはメール出したんやけども、幹部連中が繋がっとぉラインは『月』やったんよ」

フロリス「(あ、さり気なく事実を捏造してるヒト、ハッケーン)」

レッサー「(後で皆で千切って、ARISAの2ndアルバムの特典にでもしてやりましょう)」

マーリン「安曇阿阪――ちゅーか安曇一族は海洋民族であって、優れた海上移動能力を持ってたんよ」

マーリン「当然、移動するには月の満ち欠けから天候、また方角云々を知るためにも星座や月の運行を熟知しとらん話にならん」

マーリン「また自然石信仰そのものが、”満月の形をした自然石を崇める”事もあり、それがミシャグジ神とも言われとぉ」

上条「石の神様だってのは教えられたが、その形が月を示していた?」

マーリン「獣化魔術、所謂狼男に月は付きモンやんか?ある意味必然っちゃ必然やな」

マーリン「エジプト魔術師も時と夜の神であるトート神関関係やし、世界樹も月を内包するっちゅー逸話もあるわいな」

マーリン「よってウェイトリィ兄が天の龍脈使ぉて、何や似たような連中に声かけたんちゃうかな」

上条「アリサがあのバカ共に利用されたとして……その、立ち位置って言うか、役割みたいなのは何だったんだろうな」

上条「誰かが言ってた『アルテミスの猟犬』って言ってたが、何か関係してるのか?」

レディリー「アルテミスは狩人の神でもあり、その猟犬はとても獰猛で賢く、生贄を好んだのよ」

レディリー「その方法は人間を獣へ変えた上で、自身の弓で刈るか、猟犬に襲わせていた……」

マタイ「だから我々は、というか君達も含めて『濁音協会』がアルテミスの猟犬だと思い込んでいた訳だ」

マタイ「善良なる者を狩る、無慈悲で荒ぶる女神の手先だと」

マタイ「しかしそれは違った。彼らが、彼らこそが生贄であり、鳴護アリサが猟犬だったのだよ」

上条「意味が……分からないんだが」

マーリン「四時代学説、オラトリオドグマやったか」

マーリン「『発生の時代』――マグマと硫酸の海で『ゆらぎ』から生命は生まれ」」

マーリン「『闘争の時代』――牙も爪も持たぬ人類は潜り抜け」

マーリン「『文明の時代』――他の生物を出し抜いて霊長を自負し」

マーリン「『神殺の時代』――で、自らの母親をも手にかけた」

マーリン「一見『人類が人類たらしめている』ってだけの話やねんけども、何の事はないわー」

マーリン「要は『これ全部魔神生み出すための儀式魔術』やったんやねーHAHAHA!」

上条「言葉が軽いわっ」

マーリン「鳴護アリサはんっちゅー、”魔神の欠片を宿した存在”へ自分らを間接的に殺させる事によぉて、連中セレーネを産み出そうとしとぉ」

マーリン「……ある意味『胎魔のオラトリオ』でもあんなぁ。魔神のための聖誕歌、アレルヤーアレルヤー、主は来ませたりーと」

レディリー「……『エンデュミオン』から新たに生まれた存在が居るとすれば、それはきっとセレーネ以外に居ないでしょうしね」

マーリン「魔術的には『アレ』――ショゴスやったっけ?――を核にしぃのでセレーネを受肉させとぉ」

マーリン「同時進行で幹部共の命を捧げぇので、アリサはんの魔術的価値を高めぇのしよぉると」

マーリン「んでライブの最中、月蝕を使ぉてアリサはんが月とパスを繋ぎよったら、それを横から掠め取ぉ、やね」

上条「……掠め取った、か……ふーん?」

マーリン「お?どないしましたん上条はん。エラい悪い顔してまっせ?」

上条「いや、思ったんだけどさ。今スゲー魔力が地上に流れ込んでんじゃん?こう、ぶわーっとさ」

マーリン「その擬音どころで済まない勢いなんやけど……そいで?」

上条「連中がやったように、それを俺らが横からかっ攫うってのは出来ないかな?そうすればアリサももう一回、こっちの世界へ引っ張り出せると思うんだけど」

マタイ「確かに道理は叶っているし、至極正しくはあるな。その発想は実に佳い」

上条「だったら!」

マタイ「だが、結論から言えば――難しいと言わざるを得ない」

上条「なんでだよっ!?マタイさん達スッゲー魔術師じゃなかったのかよ!?」

マタイ「言ってみれば規格の違いだな。術式によって力を得られる位相が異なれば、それに介入するのは極めて困難であるのだよ」

マタイ「ある程度属性――”人格・性格”とやらが合えばまだ話は変わるのだが」

上条「相性の問題……みたいな感じ?」

マタイ「そうだな。儀式魔術であれば”式”を書き換える事で流用は出来る」

マタイ「アテネ神を崇めていたパルテノン神殿が、後に十字教や回教の聖堂として利用されたように可能は可能なのだが……」

マタイ「今まさに運用中の魔力へ干渉したり、別の目的のために遣うのはあまり例が無いな」

上条「インデックスは割と簡単にやっていた気がするんだけど?しかも魔力無しで」

マーリン「猫に育てられとぉ虎は大きゅうなっても自分は猫やと思うんやってな。人んちで飼ぉた犬も同じや」

マーリン「誰も彼もが真実をそのまま教えるとは限らんし、相手が子供やからって事実を話すとは限らんよって」

上条「何の話……?」

マーリン「あ、独り言やさかい気にせんとぉいてぇな。記憶を吹き飛ばされた相手が”竜”なんてぇのは偶然に決まっとぉやん、いややわー……ま、それはエエとして」

マーリン「現実問題、全然の別モンをどぉこぉしよ言うんは無謀やけども、同属性を利用した介入なりは、理論上可能っちゅー話やね」

上条「あ、なんだ出来るんだ」

マタイ「魔神セレーネが持つ属性、相性、人格、性格……とにかくそういったものは……そうだな」

マタイ「『夜』、『王』、『月』……これならばまだやりようはある。難しいが不可能ではない」

マタイ「だがしかし――『死して永遠に夢見る』。この特性はセレーネ特有のものであり、これに合わせるのは至難の業だろう」

マタイ「……仮に探し出したとしても、ヒュプノスまたはクトゥルーの魔術師……まともではないだろうしな」

上条「そんな……マタイさんでもなのか……?」

マタイ「私は十字教全般を嗜み程度にしか修めておらん。ギリシャ系魔術は知識として持つに留まっているだけだ」

上条「レディリーは?レディリーならきっと!」

レディリー「私は可能ね……ただアリサを助ける力にはなれても、龍脈そのものをどうこうするのは無理かしら」

上条「ギリシャ系の魔術師なのにか?」

レディリー「教えてあげるわね。使用可能な魔術が”一つの神話系体系全て”って言うそっちのボーヤが異常なの」

レディリー「私の魔術の特性は『予言巫女』なのよ」

レディリー「神託を得、未来予知を行い、助言を与えるのは得意でも、具現化した魔神相手に正面切って相手取る自信は無いわね」

レディリー「だから――そうね。アリサに関しては、タルタロスの門を開くぐらいしか手を貸せないけれど」

上条「タルタロ……?」

レディリー「ギリシャ神話の”冥界”。竪琴弾きのオルフェウスが死んだ妻を迎えに行った、あの世よ」

レディリー「一説に拠ればオルフェウスは我が託宣の神の息子であるとも言うし、そりぐらいは、ね」

上条「冥界……別位相の世界って事か?」

レディリー「本来はそうなんでしょうけどね。けれど”位相の力=龍脈”説に拠るのであればまた意味は違ってくるのよ」

レディリー「別世界が存在せず、ただ龍脈の中に力と記憶が蓄積されているのなら、”誰か”がそこへ行ってアリサ――」

レディリー「――『鳴護アリサの存在』をこちらへ引き上げる必要があるわ」

レディリー「まさかとは思うけど……ここまで来てダダを捏ねたりはしないわよね、お・う・じ・さ・ま?」

上条「当然だ。アリサには直接会って言いたい事が溜まってるんでな」

レディリー「私が手を貸せるのはその程度かしらね」

上条「いや充分だよ。アリサを迎えに行けるんだったら、合流してからセレーネを殴ればいいんだよな?」

レディリー「簡単に言うわね」

上条「問題は魔神が引っ張って来てる二つの龍脈だよな……でもまぁアリサを連れ帰るのはなんとか目処が立った訳だしっ!」

上条「……いよっし!何とか勝ち目も見えてきた!みんな、ありがと――」

レッサー「ジャストアモーメンッ!!!お待ち下さいなっ上条さんっ!嗚呼上条さんっ!」

レッサー「シメの台詞へ入ろうとしている所で恐縮ですがっ!誰か大切な人をお忘れではないですかねっ!具体的には――私とか!」

上条「あ、ごめんな?今少し立て込んでるから、もう少しだけ待ってて、な?」

レッサー「止めてくれませんか?そのネタ抜きに問答無用で子供扱いするの止めてくれませんかね?」

上条「いやいや、俺知ってるもの。マタイさんやレディリーと違って、『新たなる光』は散々共闘してきたじゃんか?」

上条「ベイロープは……”角”」

ベイロープ「『知の角笛(ギャッラルホルン)』よ」

上条「フロリスは背中の”翼”」

フロリス「『金の鶏冠(グリンカムビ)』ジャン?」

上条「ランシスのは”爪”」

ランシス「……『死の爪船(ナグルファル)』」

上条「んでもってレッサーが”尻尾”」

レッサー「『高く駆ける者(グネーヴァル)』ですな」

上条「どう考えても北欧神話メインじゃなかったのかよ」

レッサー「……ふっふっふ!”ふ”が三つ!」

上条「すいません、そろそろベイロープさん任せちゃって構いませんかね?」

レッサー「丸投げ良くないと思いますっ!上条さんのお仕事はツッコミなんですから自覚を持って下さいなっ!」

上条「だからお前らって北欧神話メインだろ?だったら……」

上条「……あれ?おかしくねぇか、それ」

レッサー「ようやっと気付いて頂けたようで幸いです!つーかこのままハブられたどうしようかと思いましたが!」

上条「お前らの先生、つーかマーリンさんなんだよな?だったら教わる魔術も――」

レッサー「神の配剤といいましようか、それとも見えざる手が働いたのかは存じませんが、最期の最期で面目躍如ってカンジでしょーかねぇ」

レッサー「やはり”これ”は『私達の物語』だったってだけの話ですか、えぇはい」

上条「レッサー……?」

レッサー「私達にとっちゃ北欧神話ってのはブラフでしてね。本来得意としている魔術を、ただただ北欧式にアレンジして見せかけてるだけなんですよ」

レッサー「ご指摘にあった四人が持つ霊装にした所で、元を辿れば『一つの霊装をバラした』ってシロモンですしねー」

レッサー「あまりにも今の私達の手には余るんで、わざわざ別の役割を持たせた上で管理している、ってだけの」

マーリン「まぁ自分らにネタバレさすんのもアレやろし、ワイから紹介させて貰うとや――」

マーリン「ウチの子ぉらは”Rex Quondam Rexque Futurus”――『The Once and Future King(かつての、そして未来の王)』――」

マーリン「――王冠を。一度はその栄光を戴いたんやけど、戦さ場にて命を散らした騎士達、そして――」

マーリン「――未だアヴァロンにて死すら超越しながら眠りについとぉモノ――」

マーリン「――ブリテンに仇なす敵が現れとぉたら再び戴冠する。それは――レッサー、アンタの魔法名名乗りぃ」

レッサー「でわでわ改めまして、ご紹介ありがとうございますっレッサーちゃんですが、その名もなんと――」

レッサー「――魔法名、『Arthur829(永劫の旅路の果てに再び戴冠する王)』」

マーリン「今代のアーサー王やんね。うん」

上条「…………………………は?」



――倉庫

レッサー「どうですかっお客さん!ここへ来て我ら『新たなる光』の株は大高騰!一躍ヒロインへ躍り出ましたよっ!」

レッサー「折角魔神が出て来たって言うに!このまま『あ、あれまさかあの術式か……ッ!?(掠れ声)』要因になるかとヒヤヒヤしていたんですが!」

レッサー「シ○の暗黒卿や合法塩漬けロリババ×が出てきてさぁ大変!戦力的には雷○役に収ま――あのぅ、ちょっといいですかね?」

上条「うん?……あぁ、熱はないようだな」 ピタッ

レッサー「先程から何故に上条さんは私の額へ手を当ててらっしゃるのかと――はっ!?」

ランシス「……知っているのか○電……!?」

レッサー「うむ!これはもしや極東の島国で行われている求婚の儀式、”KABE-DONG”の亜流!」

レッサー「ルート確定したエロゲー&乙女ゲーでよくある、”DEKO-PITA”に違いない……ッ!」

上条「しっかりやってんじゃねぇ雷○役。しかも確かにデコ熱計りはそういうシチュで使われるけどな!」

上条「……や、そうじゃない、そうじゃないんだよレッサー?うん、お前はよくやってくれたんだ。俺はそう思ってる」

上条「だからな、こう、取り敢えずはこの戦いが終わったら精神――じゃなく心療内科行こう、なっ?」

レッサー「優しくしないで下さいよ!つーか多分旅が始まって初めてマイルドな対応がこれですかコノヤロー!」

レッサー「でも、そういう所キライじゃないですっ!結婚して下さいっ!……ブリテンのためにっ!」

ラシンス「(あ、ヘタレッサー日和った……)」

マーリン「(身体的接触に耐えられなくなっとぉな。初心やんねぇ)」

フロリス「(あーあ。ここでギャグに走るってどんだけ)」

ベイロープ「(しっ!聞こえるわよ)」

レッサー「しっかり聞こえてますからねっドチクショー!てか私の味方は居ないんですかっ!」

上条「まぁ冗談はともかく、心の病は現実を見つめ直す所から始める必要があるぞ?だから、一歩一歩着実にだな」

レッサー「ですから人をキチガ×扱いは止めて下さいな!違いますから!そーゆーんじゃないですから!」

レッサー「確かに!私はアーサー名乗りましたけど、別にそれは生まれ変わりとかアーサー王の子孫とか中二病拗らせたんじゃないですからねっ!」

上条「お前も相当ヒドい事言ってるんだが……それじゃ何?ただ魔術として、アーサー王系魔術師って意味なのか?」

レッサー「広義としてはそれで合っていますけど、狭義に於いてはその通りではないですかねぇ――」

レッサー「――より正しくは『英霊の特徴を人工的に移植した』魔術師です」

上条「人工的に?」

レッサー「えぇと『位相の力=龍脈』論、これは実はそれなりの認知度があったのは確かなんですけどもー」

レッサー「それを実際に移したのがそこのもふもふ、我が師マーリンなんですね」

マーリン「おおきにっ!まいどっ!」

上条「……てかこれ、何?UMAみたいな謎生物なの?それとも霊装の一種?」

レッサー「魔力を感じますし、自我っぽいのがあってに学習もしますからね。少なくとも私達レベルの魔術師を導ける以上、ただのホラ吹きではありませんが」

レッサー「ま、それはともかくこのもふもふは自称1000年前からその理論に目をつけ、実践してきたらしいんですよ、はい」

レッサー「そうですねぇ……『聖人』って居ますよね。イギリス清教の神裂さん、『神の右席』のアックア、王室派のメイド聖人」

上条「やだ最後の超見たい」

レッサー「上条さんならばお分かりでしょうが、彼ら・彼女らは先天的な性能に満ち溢れた存在であり」

レッサー「並の魔術師では到底叶わない高みにあると言えるでしょうなー」

上条「それが”才能”ってんだから羨ましい限りで。神裂も堂々としてりゃいいのな」

レッサー「で、その聖人がどうして天賦の力を行使出来るのかはご存じで?」

上条「えっと、あー……ごめん。説明されたかも知んないけど憶えてねぇわ」

レッサー「十字教に関しては『神の子に似た身体的・魔術的特徴を持っている』のが条件ですかねぇ」

レッサー「例えば聖痕であったり、特異な生まれであったり――日本にも古くは『厩戸御子(うまやどのみこ)』という方がいらしたとか」

レッサー「ま、そちららその筋のプロが居ますんで、興味があれば訊ねるのも宜しいでしょうが――さて!問題はここからです!」

レッサー「『聖人』とは強力無比な魔術師。現代兵器が台頭する中ですら『核兵器よりも始末が悪い』と言われる程の存在ですよ」

レッサー「当然、『”聖人”になろうとした魔術師』も居てもおかしくありませんよね?ねっ?」

上条「なろうとした?」

レッサー「聖人を聖人たらしめているのは『神の子の特徴に似る』という一点」

レッサー「またアックア氏のような、史上最大の聖人である『ベツレヘムのマリア』の加護も受けた二重聖人であり――」

レッサー「――これは『聖人に似るのも聖人としての資格を得られる』裏返しでありますなー」

レッサー「そしてまた当然、十字教の魔術は今日も平常運転をカマしやがっているので、十字教の位相世界が存在するのも確定」

レッサー「私達の世界とは僅かにズレた世界があり、そこに存在する”神の子”と似た特徴を持つが故に力を得られる……と、ここまではよくある話です」

レッサー「ま、聖人的なものを量産するお話は古今東西からたまにあったらしく、そしてまた例外なく成果を出せずに歴史の闇へ消えていきました」

レッサー「ローマ正教さん辺りは何か情報を持っているでしょうが、少なくとも今まで量産が確認されていないため、失敗してるんでしょー、ねぇ?どうです?」

マタイ「黙秘する」

レッサー「そんなこんなで聖人は聖人だけが独占していたんですが――そこへ先程も言いましたが、『位相の力を龍脈ではないか?』と思ったキチ――我が師ですな!」

マーリン「レッサー、後で少しお話しょか、うん?」

レッサー「位相の力の根源とされているものが、実は龍脈の記憶であり、私達魔術師はそこへアクセスしているに過ぎない、という”仮説”」

レッサー「もしその仮説が正しいのであれば、『聖人が聖人たり得る絶対条件、”神の子”と似るとはなんやの?』と思いました」

レッサー「でー、まー、なんだかんだで試行錯誤を繰り返した結果ー、擬似的に『聖人のようなもの』を造り出す事に成功します」

レッサー「それが『初代アーサーを含めた私達』と相成ります」

上条「……理論、飛びすぎてないか?」

レディリー「擬似的な聖人……もしかして『記憶』かしら?」

レッサー「せいかーいっ!流石は合法ロ×!」

上条「合法の時点で×リじゃねぇよ」

レッサー「そして流石はペ道を究めんとする男!『犯罪じゃないと燃えないんだぜ!』と宣う男らしさに痺れないし憧れもしません!」

上条「人の発言捏造すんな!あとそのペ道は一方通行で戻って来れない修羅道だなっ!」

レッサー「上条さんの性癖はともかく、マーリンは『龍脈から力を引き出すのには、対応した記憶を用い検索している』との自説を立てます」

レッサー「よって彼が取った方法とは――」

レッサー「――『龍脈の記憶を魔術師へと書き込み、魔術の行使をより容易にした』と……ま、具体的にはどうしたかって言えばですね」

レッサー「『円卓の騎士として戦った記憶を持って』いるんですよ、私達はね」



――倉庫

上条「記憶を……?」

レッサー「えぇまぁ、円卓の騎士として戦ったという記憶が。どうにも曖昧ですし、実感は余り湧いていないんですが」

上条「何か危なそうな響きなんだが、大丈夫なのか?」

レッサー「やっだなぁ上条さんっ!当たり前じゃないですかっ!」

上条「だ、だよな?」

レッサー「危なくない訳がない、に決まってますよ」

上条「――え?」

レッサー「獣化魔術って憶えてます?こう、ケモナーに大人気な?」

上条「日本だけな?しかも特定の球団ファンだけだよな?」

レッサー「最近は一般ユーザーにまで着実に裾野が広がっているようですし、聖書にもノアさんという元祖ケモナーが居ます!」

レッサー「ま、あれのウンチク――てか、『どうして獣化すると正気を失うのか?』で、推論出しましたよね?色々と?」

上条「確か……安曇は『人間の本質が獣』で、俺の想像が『ハードウェアのエラー』って感じか」

レッサー「『人間の脳では獣の肉体を制御しきれない』でしたよね。ですがそこから踏み込みます」

レッサー「獣化の最終形態は”獣”へ転ずる事そのもの。ま、狼だったり熊だったり、エルクやバッファローへと姿を変えるのが究極なんだそうですよ」

レッサー「ここら辺はネイティブの精霊魔術と祖霊呪術を参考にどうぞ……てか、不自然だと思いません?」

レッサー「何故、心身共に獣へ転じたのに生きているのか、と」

上条「えぇと……?」

レッサー「今の化学では人の脳味噌を他の動物へ移植出来ません……ま、狂った超科学の学園都市でも無い限りは、ですが」

レッサー「同様に近親種であっても頭脳を取り替えるのは出来ないんですよ。科学サイドでは、ですが」

レッサー「何故なら『脳が他種族のフォーマットとは違うから』です」

レッサー「しかし魔術サイドでは獣化を用いれば哺乳類はおろか、爬虫類や両生類へなる事は出来ます。脳の規格は違うというのに、どうして?」

レッサー「一体どこをどうすれば、人の脳でも異なったフォーマットに耐えられるんでしょうね?不思議パワーでちょいちょと、的な?」

上条「――もしかして、それも――”記憶”かっ!?」

レッサー「えぇはい、ぶっちゃけ獣化魔術も『龍脈から動物の記憶』的なものを取り込んでるんじゃねぇかなーと」

レッサー「四足歩行の仕方、牙の使い方、目の見方……そう言った様々なものを、クラウドみたいにインストールしてるんではと」

レッサー「ユングの『集合的無意識』はご存じですかね?」

レッサー「『人間の無意識の奧底に人類共通の素地、つまり集合的無意識が存在する』と宣ったオッサンです」

上条「なんだっけかな……『世界の神話に共通項が多いのも人類が繋がってる』とかなんとか……ゲームの知識だけどさ」

上条「古今東西、太陽の神様が一番偉かったり、生死の概念がどこでも似たり寄ったりしていたり、とか」

レッサー「ま、文化人類学的には概ね否定されているんですが――ここで一ぉつ!私達の世界に魔術は歴然と存在しますっ!」

レッサー「人類のまほろばから、言ってみれば槍持ってウホウホ言っていた時代には儀式魔術の跡が確認されているんですよ!」

上条「ニュアンスがアレだけど……それで?」

レッサー「いや、ですから『その頃から龍脈使ってたから、イメージが均一化したんじゃね?』ですかね」

レッサー「アフリカで太陽崇め始めた部族が居て、当然位相世界――”と、言う名の神話の記憶”が龍脈へと刻まれます」

レッサー「その記憶が呪術師と呼ばれていた魔術師、また上条さんのやアリサさんのような龍脈使いによって『知られる』と」

レッサー「シンクロニシティ――これもまたユングによって提唱された説であり」

レッサー「『人類は集合的無意識下で遣り取りしている。従って世界各地で同時多発的に似たようなムーブメントが起きる』的な?」

レッサー「都市伝説なんかそうですよねー。あっちもこっちも似たようなお話はありますしー?」

上条「……それが、アーサー王伝説とどう関係が?」

レッサー「えぇ、ですから『アーサー王物語も都市伝説の一つ』なんですよね、はい」

上条「……は?何?ごめん、意味が分からない」

レッサー「『ブリテンにアーサー王という王は居ない』んですよ。大切なのでもう一度言いますが『アーサー王は居ない』と」

上条「や、でもさ!」

レッサー「少なくとも遺跡の類、また聖遺物も残されては居ませんしー。何と言ってもアーサーが戦った”と、される”ローマ皇帝」

レッサー「ルキウス=ティベリウスという皇帝は存在しません……あ、モデルになった方は居ますけどね」

レッサー「ですが――『アーサー王は在る』んですよ」

レッサー「古くは5世紀ぐらいに確認されており、広まったのは9世紀。そして爆発的に認知されたのは12世紀まで待たねばいけませんが」

レッサー「『ブリテン救国の英雄』、『最初にして最後の王』、『聖剣王』……そう、様々な伝説や逸話を持ち、二つ名をほしいままにし」

レッサー「円卓の騎士と呼ばれる勇壮無比な騎士達を持つ偉大な王――」

レッサー「――という『伝説が在った』」

上条「……」

レッサー「時に上条さん。日本の英雄ヤマトタケルの伝説はご存じで?」

上条「草薙の剣がどーたら、ぐらいしか知らない、けど」

レッサー「逸話はダース単位で残ってるんですが、まぁ一例を挙げますと――」

レッサー「――兄を殺し熊襲建兄弟を女装して殺してヤマトタケルの号を貰い出雲へ行っては出雲建と太刀合わせした後に意味も無く殺し草薙剣を貰って東征を命じられ草を払って何故か草薙剣を置いて伊吹山の神と戦い死んだ――」

レッサー「――って感じです。まぁ英雄譚としてはベーシックなもんですが――」

レッサー「――さて、これ『一人』で出来ますかね?」

上条「出来る、んじゃねぇのか?だって神話の話だろ?だった盛られてても仕方がないっていうかさ」

レッサー「全部がノンフィクションだとは言いませんがねぇ。それでも不思議だとは思いませんか?」

上条「どこがだよ?」

レッサー「車はおろか、街道すら満足も整えられていない時代にどうして一人が活躍出来るんです?無理ですよね?」

上条「神話だろ?少しぐらいの矛盾は――」

レッサー「いえですから。神話ってのは少なからずその当時の史実を含んでいるんですよ。ある程度はね」

レッサー「なので何割は似たような事実はあった。しかし一人の人物が成したのは不自然。以上から導き出される答えとして」

レッサー「『ヤマトタケルとは官名ではないか』という学説があります」

上条「官名?」

レッサー「人物の名ではなく、そういう役職があったと。荒事専門、暗殺誅殺を得意すると兵士でしょうかね」

レッサー「その人物が名乗っていたのが『ヤマトタケル』だったのに、後々それが人名として見なされていった、と」

レッサー「そしてお話は華麗にアーサー王へと戻るんですが、彼もまた似たような存在ではなかったのかと」

レッサー「彼の物語は強大な敵へ仲間と立ち向かい、そして死ぬ。たったそれだけの物語――」

レッサー「――王ではなく、権力や時には教会、異民族へ猛然と反逆し、死した英雄達――」

レッサー「――彼らの生き様、そして死に様が『アーサー王伝説として統合し、”アーサー”を創り上げた』んですよ」

上条「アーサーは一人じゃなかった?」

レッサー「はい。その当時、中世で起った様々な騎士物語が蓄積され、一つの形を取り、名前を得た」

レッサー「それがたまたまアーサー王でした」

レッサー「その証拠に――という言い方もどうかと思いますが――彼の仲間である円卓の騎士達も、元々は別の神話や英雄譚から来ています」

レッサー「例えば『双剣の騎士ベイリン』。彼はデンマークの英雄ベーオウルフをモチーフにした存在であり」

ベイロープ「……」

レッサー「はたまた『湖の騎士ランスロット』。彼はギリシャ神話の『冥界下り』をも内包する旧い英雄です」

ランシス「……」

レッサー「そして『淑女の騎士フローレンス』は――」

フロリス「……」

レッサー「――はいっ!てな感じでねっ!」

フロリス「ぶっ飛ばすぞコノヤロー」

レッサー「仕方がないじゃないですか!フローレンスはほぼ失伝してるんですから!」

マーリン「あれはガヴェインがクー・フーリンのルーツを持っとぉ以上、戦場でかち合わせた息子……や、ないんかなと思われとぉ」

上条「何?」

レッサー「ま!そんなこんなでアーサー王伝説も!人々の間に認知された以上魔術大系として存在するんですよ!何か文句でも!?」

上条「なんでキレてんだよ」

レッサー「――ま、このウチの先生が似たような術式を魔術師へ教えてきた、って背景もありますがね」

レッサー「……アーサーとは”希望”なんですよ。かつてガリアに支配され続けたブリテンの民の象徴」

レッサー「一度は全ての異民族を打ち払い、ブリテンに大いなる平和と統一をもたらした最初の王」

レッサー「……そして命潰えた後も、永劫に等しき時をアヴァロンにて死して眠り――」

レッサー「――再び我が国へ危機が訪れれば、甦って戴冠する最後の王……っ!」

上条「……なーる。お前が、お前らがアーサー王ってのは納得行かないんだが……」

レッサー「ちゅーかですね上条さん、ええ上条さん。なんでかなー?どうしてなのかなー?とか思いませんでしたか」

レッサー「『どうしてコイツらたかが小っさい魔術結社なのに、カーテナ・オリジナルの場所知ってんの?』とか」

レッサー「『ブリテン三大派閥の”騎士”派に賛同してんの?』みたいに」

上条「そこも”騎士”繋がりか……!」

レッサー「私もこのもふもふ、自称マーリンを怪しいとは思いましたけど、マジモンのカーテナ情報持ってた時点で『アタリ』ですからねぇ」

レッサー「そもそもあのクーデター未遂の思想、『王足りうる者が王座につく』って思想自体、私達寄りっちゃ寄りですな」

レッサー「それになにより、私は別にアーサー王が何であろうと、そして偽物であろうがなかろうが、知ったこっちゃないんですよね」

レッサー「この国を護り、戦う力があればホンモノであろうがニセモノであろうが、別にどうだっていいんですよ」

上条「それが――記憶を失っても?」

レッサー「失う、ってのも少し違いますかね。段々と混線してるだけですから」

上条「混線?」

レッサー「私が子供の頃、好きなものは山羊のチーズでした。知ってます?臭いチーズなんですが」

上条「聞いた事だけはある、けどさ」

レッサー「それ、実は”私食べた事が一度もない”らしいんですよ。笑っちゃいますよねー、あっはっはっはー!」

上条「……」

レッサー「えぇまぁこんな感じで、私がアーサー関係の術式や霊装を多用すると『書き換え』が進んでいくらしいんですよ。いやー、困っちゃいますよね?ね?」

レッサー「使いすぎると最終的に、龍脈へ溶け込んでいるアーサーの王の記憶と置き換わるそうですが……」

上条「……俺は」

レッサー「はいな?」

上条「俺は、どうすればいい?」

レッサー「別に何も?」

上条「助けて、やれないのかよっ!?」

レッサー「いやですから。直ぐにどうこうって訳ではないですし、魔術に習熟すれば記憶の侵食は収まるらしいですよ?」

上条「だからって!」

レッサー「――お待ちを上条さん、あなたは私にこう言わせたいんですか?こんな下らない事を私の口から言わせて聞きたいと?」

レッサー「――『私は私』ですよ」

上条「……ッ!」

レッサー「記憶が少々イカれようが、アーサーに侵食されようが、それは私が望んでした結果です」

レッサー「それにホラ!良い事だってあるじゃないですか!」

上条「良い事、なんか……!」

レッサー「私が力を持っているおかげで、アリサさんを助ける事が出来る。助けようとする事が出来る」

レッサー「世界中の人間がリタイアしてる中で、私達だけが望みを持てる――」

レッサー「――これ、ラッキーだと思いません?せんせん?」

上条「……」

レッサー「『夜』と『月』、そこからの帰還という属性に対しては『アヴァロンからの凱旋』」

レッサー「『死して永遠に夢見る』――もまた、『永劫の果てに戴冠する王』で代用可能……」

レッサー「それにアーサー王が眠る墓所には月である異説もありますし、丁度いいっちゃいいですかなー」

レッサー「つーワケで承りましょう。魔神セレーネが繋いでいる龍脈、星辰からのレイラインの乗っ取りとぶった斬りを」

レッサー「あ、私達こう見えても『斬る』事に関しては得意ですからご心配なく!」

レッサー「こう見えて割と有名な『聖剣』何本か持ってますんで!」



――倉庫 深夜?

上条「……」

上条(魔神セレーネへの対抗策を話し終わった俺達は、それぞれ別の部屋で仮眠を取る事になった)

上条(相変わらず時計は18時6分を指したままで停まっているし、あれからどれだけ経ったのかは分からない……)

上条(欠伸を噛み殺した俺を見て、『これ以上悪くなる事はまず無いでしょうしね』とレッサーが言い出してお開きになった)

上条(女性陣は仮眠室へ、俺は会議室で毛布一枚に包まっている)

上条(マタイさんは……うん、あれだよ。今この部屋には居ない)

上条(『少し露払いをしてくる』ってね、うん。なんでも『ショゴス』が姿を変えたザントマン?的なものが徘徊してるんだとか)

上条(……大きい鎌持って黒いローブ着て……どう見ても死神です、ありがとうございました)

上条(夜中コンビニ行く時に出会ったら泣いて謝るわ!もしくは『あ、お迎えが来たな』って覚悟決めるわ!)

上条(本人曰く、インデックスの着てた”歩く教会”と同系統のローブなんだそうだが、俺触ったらハニーフラッシ○すんのかな?)

上条(……まぁいいや。元気なじーちゃんで)

上条「……」

上条(話し合いも一応はまとまった、と思う。ある意味完璧だと言える……ッ!)

上条(1.まず全員で乗り込みます)

上条(2.状況に応じてガンバレ!あ、なるべく死なないように!命は大事だよねっ!)

上条「……」

上条(……突っ込まないで上げて!?だってこれ以上決めようがないし!)

上条(俺がレディリーの術式かけて貰って、何か冥界下りをするのは確定)

上条(と、同時にレッサー達が”X”の魔術をかけてセレーネと龍脈の切り離しにかかる……本人曰く、斬り離し、だそうだが)

上条(その間、マタイさんとマーリンさんはセレーネとアルフレド達の相手……)

上条(……簡単ですよねー……言うのだけは)

上条(決まってるのはこの倉庫じゃなくあっちの光の柱の近くで、要は龍脈のより側でやった方が成功率が上がる――)

上条(”かも知れない”ん、だそうだ。あくまでも楽観的予想に基づく判断……いやまぁ、何となくは分かるけどさ)

上条(どんだけ細い綱渡りをしようとしているのか、その高さはどれくらいなのか、そう俺は聞くだけ聞いてみた)

上条(『考えるな!感じるんですよ!』と、不死身の病人もビックリの精神論が帰って来たが……)

上条「……」

上条(話し合いはまとまった、というか強引に押し切られた、つった方が正しいのか)

上条(目的があり、解決方法がある、だからする。それだけの話なんだが)

上条(レッサーたちの話を聞いて、どうにも後髪引かれるっつーか、納得しがたいって言うのか)

上条(”覚悟”決めてる相手に俺が文句つけるのは……いや誰だってそうか)

上条(グレムリン――”元”グレムリンの魔術師トール。フロイライン=クロイトゥーネん時に共闘した)

上条(善悪に拘らない――言っちまえば『そんなのどうだっていい』ってあっさり切り捨てるような連中と違って、気のいい奴だった)

上条「……」

上条(……いや、今にして思えばそれも何か違うのかな?たまたまアイツが気に食わないから、ってだけでさ)

上条(まぁけど、トールみたいな自称グレムリンのナンバーツーであっても、”代償”を支払ってる)

上条(溶断ブレード?だかって伸ばした光の筋、『右手』でも消せない程の出力の術式……)

上条(何でもかんでも焼き切る、超々長いバーナーだったが……それも自分自身の出力じゃ耐えきれないらしく、両手はベッキベキに折れてた……)

上条(なんとかかいくぐってワンパン入れたけど……その後、ワッケ分からない一発貰って俺はダウン。トールじゃなかったら確実に殺されてたが)

上条(全能神のとしてのトール、だっけか?……普通の雷神トールですらそんだけの代償支払ってんだから、きっと相当なモノなのは間違いない)

上条「……そう考えるとオティヌスもどうなんだろうな?魔神って言われるぐらいの魔術師になるためには、一体何を捧げたんだが――」

上条「……」

上条(人は生きるために色んなものを犠牲にしている、とは言う)

上条(食べ物を最初に、次に衣服や住居、そして大抵『それら感謝しなくてはならない』って結論へ落ち着く)

上条(それ自体は尤もだし、同意するのは当たり前だが……でも同時に、誰かは何かを犠牲にしてる)

上条(生きていくためにはお金が必要。だから労働を対価に差し出す。これは、正しい)

上条(親が子を育てる――最近は違うって人も居るみたいだが――のも、これも正しい)

上条(国が国家を維持するため、公共の利益を行うために国民へ負担を求める。それもきっと正しいんじゃないか思う)

上条(……けど、さ)

上条(レッサー達、俺の知り合いやら友達が、体張って戦うってのか、なんか、納得がいかない)

上条(インデックスの時、御坂の時、姫神の時、シェリーの時、一方通行の時、オルソラの時、アニェーゼ達の時……)

上条(どの時だってこの世界は俺達に優しくなんかなかった。誰かの、何かの思惑で振り回されたり、押し潰されそうな奴は居る)

上条「……」

上条(……でも。だからこそ俺は”でも”という言葉を使いたい)

上条(世界の犠牲になってる奴が居る。悲鳴すら上げられないで、身を縮こませている子供が居る)

上条(”でもそれを助けるために戦わなきゃいけない”ってのはあるのか?)

上条(あぁいや。俺一人だったら何も考えずに突っ込むさ。今までも、そしてこれからも)

上条(……ただ、俺の知り合いが傷ついてまで、ってのは正直見ていたくはないんだよなぁ……)

上条(誰かが傷つくんだったら俺が傷つけばいい。誰かを囮にするんだったらば俺がなればいい――)

上条(――と、バードウェイに言ったら頭イタイ人扱いされたが……まぁ、本音ではある)

上条(俺がすり減る分にはいいんだ。それは”覚悟”しているからな。だけど……)

上条(俺と同じように、”覚悟”を決めた連中が居て、そいつらが俺みたいに突っ込んで、苦しんで、とてもじゃないが見合った対価を得られない、ってのは……)

上条(……見ていて、とても辛い)

上条(だから俺は一人でロシアへ向かったんだし、バゲージもそうした。学園都市で一緒に走ったのもトールだけ……)

上条(……一人で抱えきれる問題なんてたかが知れてる。何でもかんでも一人でやろうなんてのは無謀だ。分かってる)

上条「……」

上条(……今、こうしている間にも。ほんのささやかな眠りが一時中断しているだけで……)

上条(理不尽な世界に押し潰されそうとする人間は確実に居るだろう……そんな確信なんてしたくはねぇんだけどさ)

上条(そうすると、誰もがずっと等しく眠り続けるのは『祝福』で間違いない、か)

上条「……」

上条(生きてれば嫌な事なんざ分単位であるし、どっかへ逃げ出したいって思う事もしょっちゅうだ)

上条(……ロシアから帰って来た俺を待っていたのは、小萌先生の怒濤の補習地獄……!あれは思い出したくもない!)

上条(……や、流石に俺のしょーもない悩みと一緒にするのはどうかと思うが、うん)

上条(って事はもないのか?誰でも”日常”って現実と戦ってる訳だし、他人にすれは笑っちまうような事でも、当事者は大真面目だったりするしな)

上条(だからアリサが”消え”たのも理解も出来るし共感も出来る……はいそうですか、って受け入れられるのは論外としても)

上条「……」

上条「……夜、早く明けねぇかなぁ……」



――常夜 『光の柱』近く

マタイ「……」

アルフレド「『月がキレイですね?』」

マタイ「あれ程不自然な月の光に感慨を覚えはせんよ。不気味以上の感想を持たん」

アルフレド「やだネタにマジレスされてる!」

マタイ「その手の台詞は好いた相手に言うのが佳いであろうな。この世界に居れば、だが」

アルフレド「違いねぇ。てかようこそ前教皇猊下、わざわざ足をお運び恐悦至極に存じます」

マタイ「正しくは『名誉教皇(Papa emerito)』であるな。表面だけの礼儀などいらぬ」

アルフレド「つーかあんたの後任大丈夫?同性愛の肯定とアルメニア人虐殺持ち出して調子ぶっこいてるけどさ」

アルフレド「他に人居なかったの?あんなゴミみたいな野郎じゃなくてさ」

マタイ「佳い。失敗し失望となるのであればそれもまた佳いであろう」

マタイ「十字教とて聖人も居れば狂人も俗物もその幾倍もおったわ。気を急いだ若者に振り回されるのも、時として必要な事である」

マタイ「木についた虫を焼き殺してはならん。枝を振って落とすのが最善であるが故に」

アルフレド「……おー怖ぇ。俺達は狂ってるが、あんたらもどうしてるわ」

アルフレド「アレだろ?要はバカ一人、Goatをモルグへ送ってマナ溜める、みたいな話だろ?エゲツねー、ローマ正教エゲツねーわ」

マタイ「たかが一代の失敗如きどうという事も無し。我らローマ正教は最初の信仰の徒よ」

アルフレド「……でっすよねーっ!反シオニストの一番前で旗振ってたのって十字教ですもんねーっ!分かりますっ!」

アルフレド「リメンバー魔女狩りにリメンバー奴隷狩り!ブレない十字教さんマジかっけぇっ!」

マタイ「否定はせんさ。それが我らの歩いてきた道であるからな」

マタイ「――が、過去に過ちをしたからと言って、今この場に於いて正義を行わない理由はならんな」

アルフレド「ヒデェな。俺達はただ親切でやってるってだけなのに」

マタイ「そこだ。そこが分からんのだよ、貴様らは何が目的だ?」

マタイ「『世界を滅ぼす手段がある』――そう、これ自体は珍しくもない。フィクションに限って言ってもよくある話だ」

アルフレド「だなぁ。どっちかっつーと冷戦中の映画でよくある展開――きっと、これから”は”増えるだろうがね」

マタイ「なので『世界を守りたければ』と言って脅迫するのが常であろうな」

マタイ「が、貴様らは何もしない。なんの警告も無しに世界を滅ぼした。何故だね?」

アルフレド「え、なに?マジで聞いてんの?うわっ!マジか!」

マタイ「驚くような話ではないと思うがな」

アルフレド「だってさ!フツー聞かねぇじゃん?だって言ったら対策立てられちまうし!」

アルフレド「アレだよな、何かラノベで敵と戦う事になって、『ふはははは!この攻撃はナンチャラカンチャラの神の力を〜』って言うかい?」

アルフレド「どう考えても頭にエラー抱えてるかバッファが足りねぇと思うんだが、どう思うよ?、なぁ――」

アルフレド「――『団長』ッ!!!」

団長『はっあーーーいっ☆』 グォンッ!!!

マタイ「――」 パシッ

団長『――い?』

マタイ「『”――AMEN(かくあれかし)”』」

ヒュゥンッ

団長『い、いっいっいっいっいっいっいイイイイイイイイイイイ……ッ!?』

アルフレド「……え、一撃……で?」

マタイ「流石は『ジョン・ポールの断頭鎌』。鉄仮面ごと斬れる……」

マタイ「……あぁ、それともこの仮面自体がどこかの為政者がつけていた物なのかね?」

マタイ「だとすれば相性としては『簒奪する者への反逆』を持つ、この鎌では少々オーバーキルだったかな。残念だと言えよう」

アルフレド「これが、教皇級かよっ!?」

マタイ「ん?あぁいや、そういう訳でないのだよ。アルフレド=ウェイトリィ君、それはきっと君の勘違いだ」

マタイ「ここで少々暴れても誰も死なぬ。我々の破壊に巻き込む事も巻き込まれる事もないのだよ」

マタイ「そう言った意味では貴様らの売女に感謝しなくてはならないかも知れんな」

アルフレド「おーい。素が出てるぜ、元ナチスの対空部隊さんよぉ」

マタイ「失敬、子供達の目がないもので、つい」

アルフレド「てか俺は!?俺達だって善良じゃねーけど立派に生き――」

マタイ「――『ショゴス』なんだろう?」

アルフレド「――て、いるんですけど、って思ったりなんかしちゃったり?」

マタイ「貴様らの肉体は一度滅びた。復活出来ぬように、念入りに、何度も、灰にした上で、だ」

マタイ「が、しかし貴様はそこに居る。そこに在る。記憶もそのまま、以前と変わらぬ魔術を行使すらやってのける」

マタイ「だというのに『常夜』の影響下からは逃れられている。何か防御の霊装や、例外事項となっている素振りもない」

マタイ「かといって『全てに平等』である売女が、わざわざ貴様らだけ優遇するとも思えん。何か秘密があるのは明白であるな」

マタイ「なので、この夜の元でも活動している『ショゴス』ども――今はザントマンとなり、売女の眷属扱いなのかね。恐らくは」

マタイ「貴様らはそのショゴスで肉体を造り、龍脈からの記憶を複製させた……といった所であろうな。違うかね?」

アルフレド「……マジすか。てーかこのジジイ現役の頃よりタチ悪いじゃねぇか!」

マタイ「最初は……そうだな。貴様らは龍脈から力を遣っていたのだろう?他の魔術師とそう大差は無いように」

マタイ「しかし運が悪かったのか、はたまた”月女神の贈り物(ルナティック・ギフト)”があったのか。貴様らは『祝福』を受けた。関わり過ぎのだ」

マタイ「『深淵を覗き込む者は深淵からも覗かれる』の、言葉の通り、貴様らも『月の魔術』の影響を受けすぎた。その結果行き着いたのが――」

マタイ「――『魔神セレーネの眷属化』。つまり生きながらにして彼女の思想を植え付けられた存在と成り果てた」

マタイ「ネットワークで繋がれた現代のように”意識の混同と統一化”を果した……どうかね?」

アルフレド「……」

マタイ「魔導を志す者が、悪魔の道へと足を踏み外す話はよくある。私も腐る程貴様……君達のような魔術師を見て来たよ」

マタイ「同情もしよう、哀れみも持とう、そして救済の手を君達へ差し伸べよう」 チャキッ

アルフレド「随分物騒な手ぇなんですけど!どう見ても凶器にしか見えないし!冷たく尖っててイヤラシイ!」

マタイ「手の冷たい人間は心が温かいと言うだろう?」

アルフレド「ナイス教皇級ジョーク!HAHAHAHAHAHAッ!」

マタイ「遺言はそれで佳いか?それともHAIKUを詠むかね?」

アルフレド「どっちもノーサンキューだ!……つーかまぁ、大体合ってるけど。観察力ハンパねぇぜ」

マタイ「隠す気も無くよく言う。どうせまたショゴスが居る限り、時間を置いて復活するのであろう?」

アルフレド「ん、まーそれも正解……では、あるんだが残念!あんたの推測は一つだけ間違ってるぜ?」

マタイ「ふむ?」

アルフレド「答えは無しだ!ヒントも無しだ!」

アルフレド「精々気がついた後に地団駄踏んで悔しがりな!」

マタイ「――もう佳いかね?君の後にもう一仕事しなければならん」

アルフレド「ここまで来てまさかの雑魚敵扱いっ!?」

マタイ「案ずる事なかれ。人は灰に、物は土に――」

マタイ「――そして貴様らが向かう先は、ただただ無限の漆黒のみの昏い昏い場所だ」

マタイ「『”Dies ire, dies illa solvet seclum in favilla teste David cum Sibylla”』」
(怒りの日、その日はダビデとシビュラの預言は成就し世界が灰燼へ帰す)

マタイ「『”Quantus tremor est futurus, quando judex est venturus, cuncta stricte discussurus. ”』」
(審判者は現出し、全てが厳しく裁かれる。その恐ろしさは如何程か)

マタイ「『”Kyrie eleison. Christe eleison. Kyrie eleison. ”』」
(主よ、哀れみたまえ。神の子よ、哀れみたまえ。父よ、哀れみたまえ)

マタイ「『”Agnus Dei, qui tollis peccata mundidona eis requiem.”』」
(この世の罪を取り除く神の小羊よ。彼らに安息を)

マタイ「『”Agnus Dei, qui tollis peccata mundidona eis requiem.”』」
(この世の罪を取り除く神の小羊よ。彼らに安寧を)

マタイ「『”Agnus Dei, qui tollis peccata mundidona eis requiem sempiternam. ”』」
(この世の罪を取り除く神の小羊よ。彼らに永久の安らぎをを)

マタイ「『”Sanctus, Sanctus, Sanctus. Dominus, Deus Sabaoth. Pleni sunt celi et terra gloria tua.”』」
(聖なる、聖なる、聖なるかな。万軍の神よ、主よ。天と地はあなたの栄光に満ち溢れ)

マタイ「『”――Megiddo”』」
(――滅びの日よ、ここに)

アルフレド「まさか!?メギドのひか――」

――ヒュゥッ………………ガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガカガガっ!!!



――倉庫

……ドゥォ……ンン……

上条「……お?」

上条(どこかで爆発音……なんだろう?)

レッサー「大変です上条さんっ!ステージの方で魔力の反応が!」 ガチャッ

上条「なんだって!?――待て待て、少し待とうかレッサーさん?」

レッサー「あい?」

上条「君、殆どタイムラグなしで来たよね?もしかして扉の外で待機してなかった?」

レッサー「さすおにー」

上条「略すな。それとお前みたいな妹を持った憶えはない!」

レッサー「てか扉の外でスタンバってましたが何か?」

上条「正々堂々開き直られてもアレなんだが……なんでまた?」

レッサー「上条さんへイタズラ(性的な意味で)しようとする輩からガードするために決まってるじゃないですか!」

上条「俺らの国ではな、『絵に描かれた虎を退治しろ』って無茶振りをされたお坊さんの話があってだ」

レッサー「あ、知ってます知ってます。屏風ごと焼き払うんでしたっけ?」

上条「惜しいっ!それをやらかした人は織田信長って人だよ!」

レッサー「何度か触れましたが、神官が武装すると碌な事になりませんからねぇ」

レッサー「――って、そんな事より危険がピンチですよ上条さんっ!どこかのNTRり大好き女があなたの貞操を狙っています!」

上条「鏡鏡……うん、レッサーさんは洗面所まで行って鏡見てきた方が良いんじゃないかな?」

レッサー「ではあなたの瞳に映った私を見ると言う事で一つ!」

上条「待て!脱ぐな!スカートに手をかけてないでドアの所まで下がれ!あと一秒前の台詞を思い出してあげて!」

レッサー「さっすが私の愛する上条さんっ!結婚してイングランド国籍になって下さいっ!」

上条「ホンッッッッッッッッットにブレねぇなそういうトコが!悪い意味で!」

レッサー「という訳で上条さんの童貞を守るために、まず私が頂くという事でお一つ。はい」

上条「前にも使ったネタだからね?自重しようか?」

マーリン「(……や、今さっき、『ブリテン』やのぉて『イングランド』ちゅーた辺り、緊張しとぉよね?)」

ラシンス「(……ん。いつもブリテンブリテン言ってるのに……)」

レッサー「ウッサいですねっ!私にだって噛む時ぐらいあるでしょーが!」

ベイロープ「はいはい、レッサーもそこまでしなさいな。それより現状確認ね」

上条「『新たなる光』の四人、じゃなかった五人は居る」

フロリス「でもジーサンは居ない――あ、犯人分かっちゃったカモ?」

レディリー「消去法で分かるわよね。もう一人のボウヤが居ないって」

ランシス「……んっ……魔力派が……あはっ……!」

レッサー「変態だーーーーーーーーーーーーーーーっ!?」

上条「だから鏡見ろつってんだろ。てか助けに行かないと!」

レッサー「いやぁ助けって言うか、マタイさんが仕掛けたんだと思いますけどねぇ」

マーリン「上条はんには分からんかもやけど、多分アンタ以外でセレーネに一番ブチ切れとぉんはあのお人やしなぁ」

上条「なんでまた?そりゃ世界をイジられて怒ってんのは分かるけどさ」

レッサー「にゃんだかんだで十字教の本質は『唯一神』至上主義ですからねぇ。異教の神々は即敵ですし」

上条「や、でも北欧神話の話とか普通にしてなかったか?」

レッサー「殺虫剤の開発者が必ずしも虫好きだとは限りませんよね?」

上条「……納得した」

マーリン「盗聴を警戒して打ち合わせなしで突っ込んだんちゃうかな。『法王の結界』ちゅーても相手が相手やし」

レッサー「ま、予定より少しだけ前倒しになりましたが、向かいましょうか決戦へ」

上条「おう!――って俺は?俺このまま外出て良いんだっけ?」

マーリン「確実に『常夜』の影響を受けよぉな」

上条「ダメじゃんか。てかお前らよく平気だな」

レッサー「右手の、これ、ほらこれこれっ。分かりますかね?」

上条「人差し指に指輪……?あ、宝石の中で炎が揺れて――魔術、だよな?」

レッサー「えぇ、『英知の灯台(Fire of Surtr)』。名前は仰々しいですが、ただ持ち主の魔力を消費して光るだけの霊装です」

レッサー「消費も極小なので、駆け出しの魔術師が魔力維持の練習するのによく使われる――ん、ですが」

レッサー「どうやら『常夜』の性質上、”明りを灯している相手”には効きが弱いようでして」

上条「明り?」

マーリン「向こうさんの術式が『夜』言ぉ事やんね。やから火のついたタイマツや燭台さえ持ってさえいれば、即影響を受けへんのよ」

上条「……だったら起きてる人、結構居るんじゃないのか?」

マーリン「日常的に火のついた長モン持っとぉ人、ワイは人としてどぉか思うんやけど……」

レッサー「ちなみにレディリーさんとマタイさんは、お洋服そのものがある種の結界になってますし、我が師マーリンは――」

マーリン「なん?」

レッサー「――なんかこう、もふもふした超パワーかなんかで『幻想殺し』もキャンセルしてますし、いいんじゃないですかね」

マーリン「待ってぇな?ワイの扱いおざなりちゃうん?お?」

マーリン「こう見えてもアレやねんよ?今でこそマーリン言われとぉけど、昔はこう見えてもブイブイ言わせとぉ――」

上条「で、俺はどうすればいいのかな?魔術は使えないし」

マーリン「あるぇ?最近誰もセンセをリスペクトしてへんね?なんで扱い適当なん?」

レッサー「えぇ、ですので。”これ”をどうぞ」

上条「これ?――ってサイリウム、だっけ?」

レッサー「上条さんを回収した際、お持ちでしたのでついでに持ってきました。流石にタイマツ片手に乗り込むのは辛いでしょうしね」

上条「……懐中電灯とかマグライトじゃダメなのか?」

レッサー「白熱電球であれば、中のクロム線が燃焼している――と、言えなくもないですが、LEDライトは辛いかも知れませんね」

レッサー「魔術の属性的に、というか”夜の闇”を打ち払うには灯の点った道標が必要ですから」

上条「でもサイリウムって確か化学反応じゃ……?」

レッサー「それを言うのであれば燃焼だってそうでしょう?現象に意義を見いだすか、行動に意義を生ませるのか違いでしょーかね」

レッサー「あ、多分ポケットに突っ込んでるだけで効力あると思いますんで、それでお願いします」

上条「了解。あ、効果時間が切れたら?パッケージには……大体6時間って書いてあるけど」

レッサー「文字通りタイムリミットでしょうね、それが」

上条「厳しいが……ま、いつもやってる事だな」

レッサー「ですね。ではでは参りましょうか」

上条「……あぁ!」



――LIVE会場近郊

上条「……」

上条(空へ出た俺達を歓迎する者――”モノ”は誰も居なかった)

上条(幸いにしてマタイさんが文字通りの露払いをしてくれたんだろう。感謝しないと)

上条(青ざめた月の光――けどそれは空から降り注いではいなかった)

上条(月があると思われる場所には、夜空を隅で塗り固めたような漆黒の穴が口を開けている)

上条(その中心部から伸びる光の柱、光源らしい光源はそれ以外にはなかった)

上条(街の至る所を覆う世界樹?だか言う、茨の蔦は会場やステージ近辺でプッツリと途絶えていた、んだが)

上条(まるで蔦だけを吹き飛ばした魔術のように……”まるで”じゃなく、事実その通りなのかも知れないが)

フロリス「センセー、これってジーチャンが?」

マーリン「十字教の対個人系”最悪”の術式やな」

ランシス「……最悪?」

マーリン「まず相手に気取られんよぉ結界張っとぉ閉じ込めますぅ。次にそん中へ超々高熱の塊召喚してぇの、結界ん中で反射反射さしよぉ」

マーリン「逃げ場を失ぉた熱が延々結界ん中で反射しよぉから、魔力消費の割りにエゲつない術式としては有名なんよ」

マーリン「そもそも魔術的な熱量やから、燃料も酸素も要らんし核融合もせぇへん……『メギドの火』言ぅたかな?十字教の名前やと」

レディリー「ちなみに十字教の術式へ組み込まれる前は『ファラリスの雄牛』、または『モロクの聖竈』と呼ばれていたわね」

上条「……不用意に検索したら精神的ブラクラ踏みそうな響きだよなっ!」

マーリン「人は『常夜』の影響下やし無傷なんは当然として……建物に溶けた跡はないなぁ?」

上条「建物の時間も停まってんじゃないのか?停まった時間の中にいるから、変質はしない、的な理由で?」

レッサー「あーはい。ラノベの古代都市でありそうな設定ですよねぇ」

レディリー「魔術師的にも再現は可能よ?コスト的にも到底見合わないってだけで」

マーリン「クロノスからノルン三女神まで時間信仰から転じとぉ神さんは多い――てか、魔神セレーネは三日月のシグマを聖印に持っとぉし」

マーリン「三相女神に当て嵌められとぉ役割は『末子』。茨姫で糸紬で刺された逸話もミックスされとぉ」

レディリー「……あぁ成程。世界を覆い尽くす茨は何かと思っていたけれど、意外にロマチックな理由だったのね」

マーリン「時の一つ二つ停められとぉても今更やけど、ロマンあるかいな?」

レディリー「素敵じゃない?だってお姫様を起こす王子様がこちらに居るのだから」

レッサー「王子様()」

上条「人を指さすのは良くないと思うんだよ、うん」

レディリー「あなたがアリサを助けに行く役目でしょう?他に誰か王子様が居るのかしら?」

上条「柄じゃないって意見は?」

レッサー「どうしてお嫌であれば、そうですねぇ……魔術的にも相性が良さげなのは――」

レッサー「誘拐された王妃グィネヴィアを救い出したランスロット卿――の、魔術を得意とするランシスに任せますけど、どうします?」

レッサー「ま、高確率で百合の花が雄々しく咲き乱れちゃったりする展開が待ってるかも、ですが」

マーリン「あー、『助けろとは言ったが手を出すなとは言われていない』、やったっけ?」

ランシス「……それほどでも……!」

ベイロープ「反省しなさい、ね?」

上条「……と、当然俺が行くに決まってるさ!あぁっ!」

フロリス「そしてそこの百合厨、満更でもない顔しないよーに」

レッサー「……今にして思えば(性的な意味で)ラシンスはアリサさんに懐いていましたし、運命だったのかも知れませんね……ッ!」

上条「台無しだよ。お前が小声で”性的な意味で”つってる時点で全てがぶち壊しだからな?」

マーリン「グィネヴィアを攫ぉたんは冥府の王子っちゅー異伝も残されとぉし、そこいら辺なんかシンクロする部分があったんかもなぁ」

上条「それじゃもしかしてランシスが俺のベッドへちょくちょく潜り込んできたのも?」

ランシス「……あ、ごめん。それ性癖」

上条「お前っレッサー以上にフリーダム過ぎるわっ!」

フロリス「一応、『同衾する男女の間に剣を置く』のはトリスタンとイゾルデの逸話の再現なんだケド……」

ベイロープ「この子が考えてる訳ないわよね」

レッサー「あのぅ、それよりもですね?今上条さんが仰った『私以上にフリーダム』がどうしてツッコミとして成立するのか、というのをですね」

レッサー「てーか『レッサーよりも』がツッコミの対象になる時点で、私のハートがブロークン的なアレなんですけど」

マーリン「反省しぃよ?アンタもぉちょいクレバーにならんと」

ベイロープ「先生、レポートは?」

マーリン「誰にでも失敗ぐらいはやらかすよって!ウン、いやマジで!」

上条「盛り上がってる所悪いんだが、そろそろ行くぞー?」

レッサー「っと失礼しました」

上条「――よし、それじゃ改めて行こうか!」

レッサー「作戦名――『行き当たりばったり』!」

上条「……ま、いつもの事なんだがなっ!」



――『Shooting MOONツアー』ライブ会場 特設ステージ

上条(マタイさんが放った――と、思われる――魔術のおかげでステージ上の異物、茨の蔦や根は一掃されている)

上条(アルフレドに『団長』、マタイさん……魔神の姿も見えない)

上条(あるのはただ光の柱だけ――だが、何か染みのような……?棒きれが刺さっている……?)

レッサー「……『ジョン・ボールの断頭鎌』ですね。一体何があった――の、かは想像つきますけど」

上条「刃の殆どが柱へ食い込んで、棒みたいになってんな……もしかしてマタイさんが倒したってのは?」

マーリン「あの程度で殺せるんやったらワイらで終わらせとぉ――し、セレーネ殺す”だけ”はせぇへんよ」

上条「なんで?」

マーリン「あ、レッサー、フロリス、ランシスとレディリーはんは術式の準備宜しゅう。今のウチにしときぃ」

マーリン「ベイロープも――気張って来ぃや、踏ん張り所やからな?」

マーリン「ちゅーか師匠置いて弟子が先にアヴァロン行くよぉな親不孝はしたらアカンよ?」

ベイロープ「先生の場合、ほぼ全員看取った側だと思うけど……はい、戻って来るわ」

上条「マーリンさん?」

マーリン「ん?まあこっちの話や……えっと魔神クラスの戦闘力やったら、わざわざ龍脈破壊せんでもセレーネは殺せるんよ」

マーリン「なんや言ぅてもセレーネの神としての位階は、アルテミスやヘカーテよりも格段に落ちとぉ。天草式の『神殺し』なら勝算もあると思うわ」

マーリン「当然マタイはん――先代教皇はそれに類する『神殺し・神堕とし』の術式は使える筈やしね」

上条「んじゃなんで?」

マーリン「……ただなぁ、当然セレーネ倒した後、龍脈の流れは元へ戻るんよ。それは分ぉ?」

上条「良い事だろ。それは」

マーリン「やんなぁ。やけど――アリサはんは帰って来ぃへんよ?それでもええのん?」

上条「それは……っ!」

マーリン「幸い、今は龍脈が活発に動いとぉ。やから助け出す――こっちの世界へ『引っ張り出す』んやったら、これ以上の機会は無いんよ」

マーリン「やからマタイはんが気ぃ遣ぉてくれたんちゃうかな、ってワイは思っとぉ」

上条「そう、か」

上条(約束――したんだよな、確か。『アリサを守って欲しい』って)

マーリン「……ま、『神殺し』の術式そのものの成功率の低さから言っても、ワイらがするように搦め手、龍脈から崩した方が勝算も高いんやけけど――」

上条「けど?」

マーリン「――あぁ、うん。なんや変なオブジェやな思ぉたらそぉいう事かい」

上条(彼女――もふもふ――の視線の先にあるのは光の柱……ではなく、それに刺さった死神の鎌)

上条(今更なんだろう?と、思っていると――)

上条(――柱に打たれた鋼鉄の楔を掴む手が柱の”中”から現れる――)

上条(――そう、光の柱の突き刺さっていた大鎌を引き抜く、その細い手は――)

上条「――セレーネ……ッ!」

セレーネ『――ヨーゼフ?わたしの可愛いヨーゼフはどこに行ったの?』

セレーネ『かくれんぼはもうお終い。鬼はあなたを捕まえるわ』

セレーネ『泣き虫ヨーゼフ。あなたはいつも笑ったままベソをかいていたわね』

セレーネ『だからもう還りましょう?あなたが生まれた馬小屋へ、わたしに背負われ泣き止んだままで』

上条(アリサの姿のママで無邪気に笑うセレーネ……だがどこか、空虚な深淵を覗いてるかのような寒気がする……!)

上条(言葉ヅラでは子が親を心配している感じだし、薄く笑った顔には母性みたいなものがある――だが)

上条(逆に言えば”それしか”無い。人の母親である前に、一人の人間である筈なのにどこか作り物じみている)

上条(……あぁ、こいつは”からっぽ”なんだろう。アリサとは違って)

マーリン「早ぉ!レディリーはんのトコへ!」

上条「了解!マーリンさんも気をつけて!」

セレーネ『当麻?この声は当麻――と、あなたはだぁれ?』

セレーネ『死の臭い。嗅ぎ慣れた血と産道の臭い……あぁこれは、これはアルビオンの』

セレーネ『旧い旧い地母神の欠片がどうし――』

マーリン「嫌やわぁ、そんなん言いっこなしやんね?乙女の過去を詮索するなんて、ええ趣味やないんよ」

レッサー「乙女()」

マーリン「レッサーウッサいよ!ワイが珍しゅうシリアスになっとぉねんから邪魔せぇへんといて!」

マーリン「てかさっさと術式の準備組ぃよ!上条はんとアリサはん戻って来ぉたら即ぶった斬るんやし!」

セレーネ『アーサー?アーサー達も来ているのね!……あぁ良かった、心配していたのよ』

セレーネ『お友達も来ているのね?わたしの可愛い子供達、さぁわたしにお顔を良く見せて頂戴?』

マーリン「待ちぃな。ワイの子供達へ手ぇ出したら許さへんよ」

セレーネ『あなたの子供……?』

マーリン「今更話し合いはなしや、魔神セレーネ。アンタが顕現した以上、もう倒す以外に子供達を救う方法は無いんよ」

セレーネ『子供達を?……あなたは一体何を言っているのかしら?』

マーリン「話して分かるとも思えん――少しだけ、アンタの”時間”、盗ませて貰ぉな」

マーリン「『”Fragment of the goddess to die in Connacht orders it. ”』」
(Connachtに死す女神の断章が命じんで)

マーリン「『”Fill the cup with the blood of the fairy king who hangs out Triskelion. ”』」
(三脚巴を掲げる妖精王の血で杯を満たしぃ)

マーリン「『”Goddess that worships the authority, evil, frenzy, and the three pillars must raise the roar. ”』」
(権威、悪、狂気の三柱を崇める女神が咆哮を上げぇよ)

マーリン「『”Red Honey kind with a bad hobby must melt to the earth and utter one's first cry. ”』」
(趣味の悪い赤蜂蜜種は大地へ溶けてもぉて産声を上げぇよ)

マーリン「『”Through the house give glimmering light, By the dead and drowsy fire.”』」
(館の中がまだ薄明るいけども、もう火は消えかかって眠そうになっとるやんか)

マーリン「『”Every elf and fairy sprite Hop as light as bird from briar, ”』」
(さぁさぁ、妖精どもはみんな跳ね廻れ跳ね廻れ、茨から鳥が飛ぶように)

マーリン「『”And this ditty, after me Sing, and dance it trippingly.”』」
(そうしてワイが音頭を取るから、それについて歌って、身軽に踊るんよ)

マーリン「『”First, rehearse your song by rote To each word a warbling note.”』」
(まずはお前さん、素面で歌ぃ。一言一言に節をつけぇの)

マーリン「『”Hand in hand, with fairy grace Will we sing, and bless this place.”』」
(皆が手を取り合って、霊妙な声で歌を唱って、この家を祝福してや)

マーリン「『”Trip away, make no stay, Meet me all by break of day.”』」
(駈けて行きぃや。ぐずぐずせんと。夜が明けるとまたみんな一緒になるさかい)

マーリン「『"Change, Coagulate, and time doesn't advance ahead――. "』」
(流転しぃや、凝固しぃよ、時は必ずしも前に進むとは限らないよって――)

マーリン「『”――A Midsummer Night's Dream”』」
(――真夏の夜の夢)

……ザリザリザリザリザリザリッ!!!

セレーネ『――――――――――――――――――?』

マーリン「コノハトの大地下墳墓から喚び寄せた影の鎖やんね。月齢に応じ、新月に近ければ近い程”影”の鎖は強度を増すんよ」

マーリン「本来満月の日には出しても意味はないんやけど、月蝕やったら下手な夜よりも威力は増すっちゅーねん」

レッサー「ナイスっもふもふっ!流石はAdob○一押しだけはありますねっ!」

マーリン「おおきにっ!応援ありがとうなっ!このまま完封しとったるわっ!」

セレーネ『――ぼうや、わたしの――』 ミシッ、ミシミシミシミシミシミシッ

マーリン「……あ、ゴメン。やっぱダメやったわー、何となくやけどそんな予感してたわー」

レッサー「ですよねぇ。私も『あ、フラグ立ったな』って言ってて思いましたもん」

ベイロープ「いい加減にしなさい変態師弟コンビ。全部終わったらケツを引っぱたくのだわ」

マーリン「や、ま、まぁ時間稼ぎやったら充分……ちゃうかな?うん、多分多分っ!イケるでしかし!」

上条「……なぁ、アイツら大丈夫か?俺がアリサ連れて帰ってきたら全滅してましたー、みたいなオチは嫌だからな?」

レディリー「いいんじゃない?あなたが絶望に悶える顔はとても楽しそう……ッ!」

上条「いい加減にしやがれ合法ロ×!違法×リのバードウェイにだってそんな暴言吐かれた事は――」

上条「……」

上条「……な、ないよ?うん、無いと思うな?」

レディリー「気が合いそうね、『明け色の陽射し』の子だっけ?」

レディリー「ま、冗談よ。魔術師マーリンの名に相応しく、古代ケルト系の影の女神の術式は見事としか言えないわ」

上条「その割には……なんかこう、なぁ?」

レディリー「魔神相手に時間を稼げるんだから、それ相応の実力って事――さて、それじゃここへ横になってくれるかしら」

上条「あぁはい……これでいいか?」

レディリー「それじゃ気を楽にして。今、あなたの精神を龍脈――冥界へ繋げるから」

上条「繋げる?」

レディリー「詳しく話すのは私の役目じゃないし、また『予言巫女(シビル)』として正解を知らせるのも禁じられているわ」

上条「よく分からないんだが……」

レディリー「そうね……『答えを知っている者には回答権が永遠に失われる』、って言えば分かるかしら?」

レディリー「シュレディンガーの猫のように、箱の中身を観測してしまえば、それはもう結果を固定してしまう事に繋がるの」

レディリー「”私が知る冥界”と”あなた達の知る冥界”のイメージが混ざれば、それはもうクノッソスよりも手がつけられないわ」

レディリー「そもそも、入っているのはシュレディンガーじゃなく、ウルタールの猫かも知れないしね?」

上条「……うん?」

レディリー「これ以上は何も言えないのだし、あなたの騎士さんへ任せるべきでしょうけれど――そう、ね」

レディリー「だから私はあなたへ掛ける言葉はこれだけ。そう、たったこれだけ――」

レディリー「――あの子の『幻想』を殺してあげて、ね?」

上条「それ俺、割と得意な方だ」

レディリー「良いお返事よ、素敵だわ――それじゃ、目を瞑って頂戴」

レディリー「『”It's considerable Endymion that expands in the sky, and it dies and it is a sleep lover. ”』」
(天空に伸びる大いなるエンデュミオン、死して眠りし恋人)

レディリー「『”It's delivery musician's harp to his god. ”』」
(彼の神へ届け楽師の竪琴よ)

レディリー「『”Labyrinth that dives on ground is internal organs of the giant who permanently lies. ”』」
(地に潜る迷宮回廊(ラビュリントス)は永久に横たわる巨人のはらわた)

レディリー「『”Sea of entrails is exceeded, and the galley carries heroes to the death. ”』」
(臓腑の海を越えて、ガレー船は英雄達を死地へと運ぶ)

レディリー「『”Whenever the musician Orphean plays the harp, the gate of the nether world gives jarring. ”』」
(楽師オルフェウスはその竪琴を爪弾くたび、冥界の門は軋みをあげる)

レディリー「『”Music sheet must be drawn by the twinkle of a star, and the star that floats on the night sky must tie. ”』」
(星の光で五線譜を描き、夜空に浮かぶ星辰をつなぎ止めろ)

レディリー「『”It deprives the excitement of heavens it and the excitement to the pantheon blood. ”』」
(天上の熱狂と血が神々への熱狂を奪う)

レディリー「『”The offering will awake the thorn from the rent before long. ”』」
(供物はやがて綻びから茨を芽吹かせる)

レディリー「『”It turns and it is possible to turn, and the thorn must be spun and it is necessary to twist up to spinning into Ariadne's string. ”』」
(回れ回れ、糸紬は茨を紡いでアリアドネの糸を縒りあげよ)

レディリー「『”Become an Orphean guidepost gotten off in Tartarus. ”』」
(タルタロスに降りるオルフェウスの道標となれ)

レディリー「『”Ah and the traveler must hang out torch. The light of wisdom doesn't reach even the bottom in a yellow fountain. ”』」
(嗚呼、タイマツを掲げろ旅人よ。英知の光は黄泉の底にまでは届かない)

レディリー「『”Travel from which the half of thine's body was requested started now. ”』」
(汝の半身を求める旅は今始まったのだ)

レディリー「『”It's possible to rage, and it rages. The earth becomes a soil from sand, and it transmogrifies it from Taiki to young leaves about trees. ”』」
(逆巻け、逆巻くのだ。大地は砂から土になり、木々は大樹から若葉へと姿を変えよ)

レディリー「『”The tower where the heaven is defiled changes and the spiral is drawn. As for all, the inversion takes the place of all in the inversion. ”』」
(天を穢す塔は転じて螺旋を描け。全ては逆しまに、逆しまが全てに取って代わる)

レディリー「『”An eternal musician descends on the netherworld. The person who plays the lyre obtains the temporary death. ”』」
(永遠楽師(オルフェウス)は冥府へ下る。竪琴弾きは仮初めの死を得る)

レディリー「『”The bridge has already been built. The stairs to which it goes down the memory of descending on the earth in the pillar. ”』」
(橋は既に架けられた。大地へ下る記憶を柱に降りる階段が)

レディリー「『”The appearance can be shown, it is possible to show, and show――. ”』」
(その姿を現せ、現せ、現せ――)

レディリー「『”――Opposite tower of Endymion (Endymion reverse)”』」
(――エンデュミオンの逆さ塔(エンデュミオン・リバース))



――『エンデュミオンの逆さ塔(Endymion reverse)』

上条(一瞬の酩酊感、数秒の浮遊感、そしてブレーキなしで線路へ突っ込んだような目眩がエンドレス)

上条(ジェットコースターの線路が途中でブチ折れて、勢いそのまま空中に投げ出された感じ……)

上条(空を飛んでいるのか、地面へ落ちているのか……二つの感覚は似ているようで、結末は正反対だ)

上条(……まぁ、俺は落下してるんだろうけどさ――なんて、少し心配になるぐらい、奇妙な浮遊感を体験した後)

上条(倒れこんで前のめりになり、床へ手を着いた……床?) ペタッ

上条(てか横になってた筈なんだが……なんで立ってたんだろうか?不思議パワーかなんか?)

上条(……取り敢えず『目的地へ着いたは良いものの、勢いつきすぎて死んじゃいましたテヘペロ』的な事故にはならずに済んだ、と)

上条(レディリーの魔術が成功したんだったら、アリサの居る場所に繋がってないとおかしいんだけど……暗くてよく見えないな)

上条(前の方、ずっとずっと前にどっかで見覚えのある、白と緑色の非常灯がある。そう、両手振ってダッシュしてるポーズのヤツ)

上条(……うん、つーかだな。さっきから俺が触ってる床自体、ほぼ毎日のように見てるっつーか、通ってるっつーかさ)

上条「……」

上条(ポケットへ入れといたサイリウムを灯り代わりにして、周囲を照らしてみると……)

上条(俺の予想通りの光景が広がっていた――なんて、どっかの探検隊みたく気取るつもりはないが、ぶっちゃけるならば!)

上条「……夜の、学校だよな……?」



――深夜の学校?

カツ、カツ、カツ、カツ……

上条(サイリウムをトーチ代わりに取り敢えず探索してみよう。取り敢えずは)

上条(なんつーか殺風景通り越して無機質な極々当たり前の学校の風景が広がっている……なんで?どして?)

上条(見た感じ、ウチの学校とは少し違う造りになってるみたいで、教室の入り口にあるクラス表記――1のAとか――は)

上条(……書いてはないか。ちゃんとタグは付いているんだが、真っ白のまま表記されていない)

上条(出入り口の扉には半透明のガラスが張ってあって、クラスの中を何となく伺う事が出来るが)

上条(……このシチュで誰か残ってたら超恐ぇよ!つーか居ないよ!居たってオバケか何かに決まってるだろうし!)

上条「……」

上条(……いやいや、待てよ。なんでお化けが怖いんだろう?)

上条(オバケは確かに神出鬼没だし、つーか時には命を狙われるから怖いんだよな、うん)

上条(最近の流行りは『ンボオオオォォ』らしいが……まぁ、やってられないよな。そりゃさ)

上条「……」

上条(……でも、オバケには実体が無いよな?少なくとも撲殺的なアレとか、焼殺的なアレとか、針刺してスパーン的なアレはない)

上条(てか基本、怖がらせるだけしか出来ないんであって……)

上条「……」

上条(魔術師の方が怖いじゃねぇか!誰とは言わないが!マジモンでタマ取りにかかってくる分、実体持った魔術師の方がタチ悪ぃわ!)

上条(あー良かった。魔術師の敵が居て良かったわー。だからオバケなんて怖くはないわー)

上条「……」

上条(……虚しいな。他に、他には何か無いのか?)

上条(他に――あ、下り階段と……なんだこれ?意味不明のアルファベットが壁に)

上条(”Tartarus-B001”?たーたーうす、ってなんだろ?新しい食いモン――な、ワケはないだろうから、ここの場所の名前?)

上条(”001”は施設の番号?階数だったらココが一階って意味になるか)

上条(……ま、降りてみる……)

上条「……」 カッカッカッ

上条(階段は途中に踊り場があって折り返しの付いたタイプだ……あぁ、ちなみに)

上条(窓はそこかしこにある。階段だけじゃなくて廊下にも)

上条(……でもただあるだけだ。外は完全な暗闇、光源の一つも無い感じ)

上条(下手に鍵開けて出たらどうなるのかも怖いが……考えないにしよう、と) カッ、カッ

上条(んで、降りてきた先で俺が見た文字は)

上条「”Tartarus-B002”……?なんで増えてんだよ?」

上条(間違いなく下り階段だった筈だが、どうしてプラスされて――あぁそうか、Bは地下室のBか!」

上条(そういやボスに『地下室は”Basement”の略でBだからな?』って教わったっけか。忘れてたなー)

上条(……なんでそんな話したんだろ……?……ま、今は急ごう)

上条「……」

上条(……うん、アレだよな。俺今大変な事に気づいちまったんだけどさ)

上条(普通、ホラ?”0○”みたいな書き方する時って、最初から全体数が分かってるって事だよな?)

上条(何か画像ファイルや資料を用意する時にとかさ、通し番号っつーの?使う順番や整理しやすいように、ファイル名の頭に番号振るじゃん?)

上条(例えば”00 立ち絵透過画像A”、”01 背景B”みたいな感じでさ)

上条(……や、まぁ問題はファイル数なんだよな、ファイル数。うん)

上条(最初から9個のファイルだったら、頭につける番号は1から9までで構わない)

上条(けど二桁になるようだったら、01、02って振った方がパソコン的には後々分類し易い……ん、だけどさ)

上条「……」

上条(……俺が今居るのは”002”階。そう、ゼロゼロがつく……って事はアレだよ。この表記の仕方だとな)

上条(『最低でも三桁、100階を超えるぐらいにまで地下は続いてる』ってオチじゃねぇだろうな……?)



――Tartarus-B053

カッ、カッ、カッ、カッ、カッ

上条(嫌がらせのように延々続く階段を降りて来ている。大体体感時間で2、3時間かなー?)

上条(最初のウチはダッシュで駆け下りてたんだが、途中からは体力の消耗――いざ何かあった時、ヘロヘロじゃどうしようもない――を考え、今は小走り程度だ)

上条「……」

上条(東京タワーには大展望台ってのがあるんだ。大体地上120mぐらいの高さで、特別展望台よりも下にある)

上条(そっから下には専用の階段がついていて、降りたい奴は階段でゆっくり降りられる――ただし!その数は590段!)

上条(途中でエレベーターとかも利用出来ないんで注意しろ、って但し書きが貼ってあるらしい。割と親切……親切か?そうかな?)

上条(でー、だ。話は変って『エンデュミオン』が建てられる前まで世界一高い建物として、ギネスに載っていたのが”バージ・カリファ”ってビルだ)

上条(……てかなんで俺がそんな雑学知ってんだろ?頭の中に浮かんでくる……ま、土御門辺りが喋ってたんだろ。ともかく)

上条(それでそのビル本体の高さが636m、160階建て。あー、という事は大展望台の5倍ちょいの高さだわな)

上条(階段数を変換するんであれば、5×590……2950段。つまり160階を駆け下りるんだったら、そんだけ苦労すると)

上条(んでもって仮に!仮にだけど階数表記がカンストする999階まで降りるとしたら……えっと)

上条(……約18400段……?高さで計算するとぉ――)

上条(――3970m?富士山プラス200mじゃないですかやだー)

上条「……」

上条(や、まぁ下りだし?休憩挟みながら行けば無理じゃないよ?時間は食うけどな?)

上条(ただ、帰り道。アリサ連れて登れるのか?この階段を?)

上条(あっちの世界じゃレッサー達がセレーネの時間稼ぎをしてくれてっけど、間に合うのか……?)

上条(お約束だと『時間の流れが外とは違う!』的な調整やら主人公補正が入るんだろうが、俺は主人公って訳じゃねぇし)

上条(アリサがどこに居るのか、そもそもここがレディリーの言っていた場所なのか、それすらも分かってはいないと)

上条(『答えを知っている者には回答権が永遠に失われる』……なんかの謎かけっぽく言われたのが、多分ヒントになってんだろうけどなー)

上条(……まぁ、魔術も使えない上、完全アウェイである以上、足使って探す以外に方法はないんだよ、多分)

上条(てかここ地下53階まで降り居てきたのはいいんだが……実際に目に見えて変ってるのは階数表記以外にはない)

上条(容量が足りずマップの使い回ししてるRPGのように、どんだけ降りても変わる様子が見られない……あー、クソ。考えてても仕方がないか)

上条(本当に降りてるのかどうか、壁に落書きでもすりゃ分かるかもだが……どうしたもんかな?)

上条「……」

上条(……むぅ。立ち止まってても仕方がない。どっかの教室にでも入っ――)

……。

上条(――て?なんだ?何か今聞こえたような……?)

…………。

上条「……子供の、声……?」



――Tartarus-B053 『   』教室

ギギギィ……

上条(声の出所を辿るのは予想以上に難儀した。あちこちから聞こえる”ような”感じで、変な風に木霊した結果なんだろうが)

上条(三回ばかり空の教室を覗いた後、階段から数えて四つ目の――相変わらず名前は空欄だった――教室を開けると、彼女は、居た)

少女「……どこぉ……」

上条(俺の方へ背を向けて、顔は見えない……てか暗いからな。こっち向いてたとしても分かったかどうかは怪しい)

上条「……?」

上条(こんな所に……子供が一人で?たった一人で、非常灯の灯りもない教室に?)

上条(えっと、これはもしかして――)

少女「どこぉ……あたしの、あたしの――」

上条(少しだけ嫌な予感に捕らわれていると、少女はいつの間にか俺の目の前にまで迫り――)

少女「――あたしの”おかお”はどこへ行ったのぉぉぉぉぉぉぉぉっ!?」

上条(――顔の左半分が鋭利な刃物で切断されたように欠け、真新しい断面から血を流す女の子が、ニタリと笑っていた……!)

少女「ね、お兄ちゃん知らない?あたしのあたしの、おかお、半分だけどっか行っちゃったんだよ」

上条「……」

少女「ねぇねぇ、あたしのあたしの――」

上条「――ん、あぁ、悪い。ちょっと待ってな」

少女「え?」

上条「ハンカチ――は、ないか。ティッシュは……あ、珍しく持ってたな」 ゴソゴソ

上条「はいこれ。あ、傷口を押さえとけ、気休めだけど止血ぐらいにはなるから」

上条「つーか暗くてよく見えねぇな。ほれ、廊下行くぞ」 グィッ

少女「……はい?」

上条「いや、だから大怪我してんだろうが!何かの能力だか魔術だか知らねぇけど!どうしてそんなになるまで放っといたんだよ!」

少女「……ご、ごめんなさい?」

上条「てか保健室とかってねぇのかな?……あぁクソ!こんなんだったら他の教室も虱潰しに探しとけば良かった……!」

少女「や、その、こわく、ないの……?」

上条「怖いに決まってんだろ。何言ってんだよ?」

少女「だ、よね――」

上条「……気づいて良かったよ。あのまま泣いてんのに気づかなくて、そのまま下行ったらどんだけ怖ぇか分かったもんじゃねぇさ」

少女「はい……?」

上条「カギが遠慮なんかしてんな!ケガしてんだったら尚更だよ!」

少女「……」

上条「とにかく!さっさと応急手当するから着いて来――」

少女「……ありがとう……」 スゥッ……

上条「いやいや、俺まだなんもしてねぇし。つーかまだ助けられっか分かってないからな?」

上条「地上まで行けば知り合いのカエル先生が絶対に何とかしてくれるんだが……携帯で呼べないかな?救急車の代わりに」

上条「てか先生も寝てるんだっけかー、確か。でも先生なら『患者さんのためなら起きてなきゃね?』ぐらい言って平気っぽいケドなー」

上条「ま、なんにしろ一人で悩むよりかマシだろ?頼りになんないかも知んないけ――ど?」

上条「……?」

上条「あれ……?どこ行った……?」

上条「てゆーかたった今まで手ぇ握ってた筈なのに……」

上条「……」

上条「あ、なんだ!ただの転移能力者(テレポーター)だったんだな!そっかー、いや納得納得!」

ベイロープ「違うと思うのだわ。それは、それだけは絶対に」

上条「マジで?」

ベイロープ「うんまぁ、マジで。てーかタルタロスの迷宮回廊(ラビュリントス)歩いてたら顔面無くなった能力者と出会うってどんな確率なの?」

上条「家に帰って来たらベランダにシスターさんが引っかかってたり、マッ○でダベっていたら巫女さんが通りかかってさ」

上条「ちょっと裏路地を歩けば御坂妹に遭遇するし、父さんが天使を降ろしちゃうよ!やったね!」

ベイロープ「あ、ごめんなさい?その話長くなるんだったら、後からして貰ってもいいかしら?」

ベイロープ「てか部分部分だけ抜き出すと、とてもシャバでは聞こえないような単語か……」

上条「偶然って怖いよねっ!神様も俺を狙い撃ちだよ!」

ベイロープ「そーゆーのいいから現実を見なさい、現実を」

上条「現実……ってか、ベイロープさん?だよね?」

ベイロープ「”さん”は要らないって言ったでしょ」

上条「なんでここに居んの?」

ベイロープ「そりゃ死んだからに決まってるでしょ」

上条「死ん――てかもう全滅したのかっ!?レッサー達もあっさりと!?」

ベイロープ「あー、違う違う。そうじゃなくってね、私の場合は魔術の副作用――ていうか、言ったような憶えがあるんだけど」

ベイロープ「ていうかそもそもここは、擬似的に造り上げられた冥界であって、死んでも魂が還る場所ではないの」

上条「え?どゆ事?」

ベイロープ「だから『銀塊心臓(ブレイブハート)』で、私の心臓はあなたに預けておいたでしょう?」

上条「…………………………はい?」

ベイロープ「んー、取り敢えず移動しながら話しましょうか。時間も有限なのだし」



――Tartarus-B058

ベイロープ「最初に断っておくけど、私はあなたが『冥界下り』の術式をかけられた直後に死んだのよ」

ベイロープ「だからあの後どうなったのかは知らない。タイムラグは10秒ぐらい……」

ベイロープ「でも『こっち』へ送り込まれたのは数十階分離されている、ってコトは時間の流れ方が相当早いようね」

ベイロープ「私達に取ってすればいい話でしょうけど――って、聞いてる?」

上条「聞いてねぇよ!?」

ベイロープ「よし!引っぱたくから四つん這いになりなさい!」

上条「そっちじゃなくて!俺そんなドギツいペナルティあるなんて聞いて無かったって意味で!」

ベイロープ「力を得るには対価を支払って当然。それは私達の業界じゃなくても同じ事よ」

上条「いや、でもさ!」

ベイロープ「あー……ランシスがどうしてアンアン言ってるのは知ってる?『罪人の馬車』って術式なんだけどね」

上条「あぁ知ってる、な。確か『魔剣』だかを扱うには魔力が足りないからって、その魔力を集めるために常時感知してる、だっけ?」

ベイロープ「ランスロットの『アロンダイト』は聖剣にして魔剣の性質を持つ、特別な霊装だかに仕方がないっちゃないのよね」

ベイロープ「『死の爪船(ナグルファル)』も広範囲へバステとデバフバラまく霊装だから、余計に魔力喰らいだし」

ベイロープ「ま、”ランスロット”の術式が、威力も高いけど魔力も遣う、って特性を持っているように、私がリンクしている”ベイリン”も癖がある」

上条「レッサーがアーサーって聞いた時にはテンション上がったが、ベイロープもやっぱりアーサーの仲間だったのか?」

ベイロープ「『デンマークの英雄ベーオウルフ』――”が、アーサー王物語に取り込まれた”のが私の騎士。双剣の騎士ベイリンね」

ベイロープ「逸話は色々あって、『聖槍を敵に使ったが、敵だけじゃなく城・土壌が永遠に呪われ』たり、最期は実の弟と相打ちになって死んだり」

ベイロープ「どうにも『命を賭ければ賭けただけ威力を増す』らしいわ」

上条「……はた迷惑な……!」

ベイロープ「あ、それに別に本当に死んだ訳じゃないから。あなたが仮死状態になったから、それに引っ張られて来ただけだと思うわ」

ベイロープ「どうせ冥界で死人に襲われてるだろうから、護衛には丁度いい――」

ベイロープ「――って思ってたのにっ!どっかのおバカはっ!誰彼見境なくフラグを立ててるしっ!」 ガクガクガクガクガクッ

上条「落ち着っ!?てっ!?俺がっ!?首がっ!?折れっ!?」

ベイロープ「折角先生からシリアスに送り出して貰ったのに、もう台無し……!」 スッ

上条「オーケー落ち着こう?多分ココはあの世っぽい所なんだけど、その鉄の爪で殴られた死んじゃうと思うから?ねっ!?」

上条「……てかそれ、根本的な解決になってなくないか?俺が死んだらベイロープも引っ張られるんじゃ?」

ベイロープ「……魔術的には『一回死んだ』から、もう『銀塊心臓』は解除されているわ。多分」

上条「といいんだかなぁ……」

ベイロープ「ま、来た以上、あなたは私が護るわ。トー……マイマスター!」

上条「解けてんだよな?魔術チャラになったのにマスター呼ぶのはおかしくないかな?」

上条「つーかその呼び方、前から突っ込もうと思ってたけどお前がマスター言いたいだけじゃねぇのか?あ?」

ベイロープ「スコットランドの貴族で、どっちかって言うと『姫様』って傅かれる方だったから、その……騎士に憧れる、みたいな?」

ベイロープ「ウチは基本的に”女系”継承だから、色々と実家が面倒臭いのよ」

上条「独立問題で揺れてるしなぁ」

ベイロープ「『スコットランド万歳!我ら民族の悲願を!』とかホザく連中は居るんだけれど、男爵位は金銭で売買出来るし」

ベイロープ「綺麗事だけを宣って現実を一切省みなさいバカどもに、小さい頃から振り回されてみなさい。誰だって護る側に回りたくなるから」

上条「分かるよーな気がしないでもないが……まぁいいや。俺も一人で歩くのは不安に思ってたし、有り難いよ」

ベイロープ「前教皇猊下が露払いをしてくれた以上、『新たなる光』も少しは役に立たないとね――と、来たわ、私の後ろへ」

上条「おうっ!――いや、俺も戦うし。つーか来たって何が?俺58階まで来るのにたった二人しか会わなかったんだけどさ」

ベイロープ「それは……”そう認識した”以上、世界は変わる」

上条「認識?」

ベイロープ「ヒント、あの世につきものと言えば?」

上条「……死んだ人?」

死人達『おおぉ、おぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉうぅぅ………………』

上条「――って言った側から!?今まで出てこなかったのに!」

ベイロープ「でも――”死人は所詮死人に過ぎない”わ」

ベイロープ「”生前どれだけ強かろうと、今は龍脈の中に存在する記憶”……だから」

ベイロープ「だから”私の『知の角笛(ギャッラルホルン)』で容易く撃ち払える”……ッ!!!」

ズバチィイッ!!!

上条(ベイロープの構えた『槍』からルーンを纏った雷が辺りを包み込む!)

上条(俺達の降りる階段の先、そして背後に迫っていた得体の知れない何を軽々と吹き飛ばし――)

上条(――僅か数秒にも満たない時間で、周囲の死人を殲滅する……)

ベイロープ「さ、行きましょう?」

上条「……宜しくお願いします」



――Tartarus-B066

上条「てか聞きたい事が腐る程あるんですけど」

ベイロープ「あ、ちょっと待っ――」

バリバリバリバリッ

ベイロープ「――と、何?」

上条「お、おぅ……」

上条(死人――亡者の群れを雷で一掃して、また俺達は歩き始める)

上条「聞きたい事は一杯あるんだけどさ、まずここはどこなんだ?あの世?冥界、って言うのか」

上条「オバケ――てか、死んだ人が出るのは何となく分かるけども、どう見てもここは夜の学校。しかも日本風だし?……や、海外の学校なんて知らないが」

上条「てか確か50階ちょいまでは誰とも遭遇しなかったのに、どういう理屈だろう?深度的な話か?」

ベイロープ「本当に一杯ね、えぇっと……まず、異界とか隠世、天国と地獄、日本じゃタカマガハラやニライカナイは知ってる?」

上条「概念だけは。全部『あの世』って括りなんだよな?」

ベイロープ「そうね。人が死んだらその魂が逝くとされている所であったり、神々が住まう地であったり」

ベイロープ「天国やアヴァロン、妖精王オベロンが住む”常若の国(ティル・ノ・ナーグ)”、浄土にエインヘリャル――勇敢な戦士の魂を集めたグラズヘイム」

ベイロープ「これらを仮に”楽園型冥府”と呼ぶとしましょうか」

ベイロープ「反対にタルタロスやコキュートス、ゲヘナやパンデモニウムにヘイヘイム。そっちは地獄型冥府ね」

ベイロープ「日本の『常世(とこよ)』、”常に変わらずの世界”は楽園型……けれど元々の原型は『常夜(とこよ)』――”常に夜の世界”」

ベイロープ「これは地獄型冥府から楽園型へ転じた例であり、ブッディストの史観が原始信仰と交わっ――」

ベイロープ「……」

上条「どったの?」

ベイロープ「……『知らない筈の知識を知ってる』、か。流石に数多くの魔術師が目指しただけはあるわね、これは」

ベイロープ「カダスへ旅だった愚者カーター。彼が何を求めたのかは理解出来なかったけれど……その代償は『知識』」

ベイロープ「賭けた命、失った正気程に対価が釣り合うとは思えない……まぁいいわ」

ベイロープ「で、多くの場合、それら『異界』は”ここではないどこか”に存在すると考えられてきたのよ。空の果て、海の向こう、地の底とかね」

ベイロープ「でも科学が発達して、人が行ける場所は格段に増えたし、足を運べないような所でも何があるのかは分かってしまった」

ベイロープ「空の果てには宇宙が広がり、海の向こうには別の大地が在り、地の底には個体のまま太陽の表面温度に等しい鉄があるだけ」

ベイロープ「”プレスター=ジョン(異邦より来たる十字教王)”は居ない、って分かっただけ進歩っちゃあ進歩かも知れないわね」

上条「すいません。全っ然わっかんないんですけど?」

ベイロープ「あぁゴメンなさい。えっと、結論から言えば『異界はある』のよ」

ベイロープ「天国であったり地獄であったり、妖精が住む国も、エルフやドワーフの隠れ里も存在はするのよ。それが――」

上条「……『龍脈の記憶』か?」

ベイロープ「そうね。そう考えた方が説明がつく事の多いの」

ベイロープ「古今東西で似たり寄ったりの終末論、そしてどこの国でも共通して語られる『あの世』のテンプレート」

ベイロープ「天国も地獄も、その物理的には存在する余白はなく、ただ概念としてのみ存在し、”情報”として語られるに過ぎない――の、だけれど」

ベイロープ「きちんとした手順を踏めば、いえ下手をすれば偶然迷い込んでしまう事もあるわ。それが『異界』って存在」

上条「けど実際には存在しない、し。後、前にも言ってた『位相世界』だっけか?それらも龍脈の側面にしか過ぎない、って説がある」

上条「だとすれば俺が、俺達が居るこの場所はどこなんだ?どう見ても深夜の学校で肝試ししてる感が強いんだが……」

ベイロープ「大雑把に言えば『異界』で、もっと正解に言えば『冥界』なのは間違いないわ」

上条「ここが?学園モノRPGの学校ダンジョンにしか見えないのに?」

ベイロープ「付け加えるとトー……『マイマスターが思った冥界』が正しい」

上条「なんで俺の名前にオプションつけたの?もしかして今までマスターマスター言ってたのって恥ずかしいだけか?あぁ?」

ベイロープ「真面目な話よ!」

上条「そうだな!……そうかな?」

ベイロープ「オルフェウスの冥界下りの話はどこまで?」

上条「死んじまった恋人助けに冥界まで乗り込むんだけど、結局ダメだった、ぐらい?」

ベイロープ「それを『龍脈』という単語を使って、魔術的に解析すると?」

上条「えーーーーっと、だな。まず”異界は物理的に存在しない”のが、前提だっけか」

上条「でも俺達がこうしているように、つーか”魔術的には存在する”のも分かってる」

ベイロープ「そうね。それで”位相世界は龍脈の一形態”だとすれば……?」

上条「……『冥界を含む異界は”個々人が龍脈にアクセスし、情報を得て見た夢”』……か?」

ベイロープ「と、先生には教わっているわね」

上条「相変わらず謎のもふもふだぜ……!」

ベイロープ「龍脈からこぼれ落ちたマナの破片?だから時々『フィクションのマーリンの性格・性質をトレース』したりするし」

ベイロープ「オリジナルのマーリンが造り上げた術式だか霊装なんでしょうけど、あなたの『右手』でも消えなかった、という事は」

上条「『常に魔力が供給されている』?」

ベイロープ「正解……ちょっと期待したんだけどね」

上条「何を?てーか扱い悪くないか?」

ベイロープ「あの子達と先生の間で苦労する私は……っ!」

上条「ま、まぁまぁ!それはきっとレッサー達が大人になったら改善すると思うさ!」

ベイロープ「……あの子達が”オトナ”になるとでも?」

上条「良し!そんな事よりも現状を把握するのが大切ですよねっ!ですもんねっ!」

ベイロープ「ま、それは別に諦めてるからいいんだけど……ではなくて、冥界の話ね」

ベイロープ「なんて言うのかしら、こう、所謂『異界探訪譚』は様々だけれど、あくまでも『冥界下り』は手段であって目的じゃないのよ」

上条「手段?」

ベイロープ「そう。オルフェウスは恋人エウリディケを甦らせるのが目的であって、冥界へ下るのは死んだ彼女を連れて帰るため。ここまではいい?」

上条「だな」

ベイロープ「でももしこれが、”他に死者蘇生の手段”があれば、わざわざ冥界まで来たりはしないのよ」

上条「神話にツッコむのもどうかと思うんだけど……」

ベイロープ「いやそうじゃなくて。彼がしたのは『儀式魔術師の一種だった』ってのが、こっちの見解ね」

ベイロープ「人は、特にオルフェウス自体は魔術師でも何でもなく、ただ優れた楽師であるだけの存在だったわ」

ベイロープ「冥界から戻って来た後はオルフェウス教団を立ち上げるけど……まぁ、少なくとも冥界へ下るまではただの人よ」

上条「……悪いんだが、何を言いたいのか――」

ベイロープ「と”同じよう”に。ギリシャ神話にはある悲恋が伝えられているの。それが――」

ベイロープ「――『セレーネとエンデュミオン』」

上条「あー、うん。そうだけどさ。それとどういう関係が?」

ベイロープ「セレーネはエンデュミオンが老いるのを悲しみ、自らの手、もしくはゼウスへ頼んで死して眠る存在へと引き上げた」

ベイロープ「『死者の復活よりも難しい奇跡をアッサリと行っている』のは、分かるかしら?」

上条「あーはいはい、成程。そういう事かよ。何となく話は見えてきた……つまりだ」

上条「オルフェウスって”人”は大切な相手を生き返らせるため、わざわざ死後の世界まで行かなきゃいけなかった。これに対して」

上条「エンデュミオンは”神”によって、割とすんなり不老不死の力を手に入れる事が出来た……」

上条「この両者の違いなんなんでしょうかー、って話か?」

ベイロープ「その通りね。エンデュミオンは、まぁ分かるでしょう?」

ベイロープ「魔神セレーネやより上位存在であれば、地上で起きてるような事をやらかすのも可能――あくまでも”神”だから」

ベイロープ「けれどオルフェウスはどこまで行っても楽師でしか過ぎない。実際に仲間を助けるために命を落とし――」

ベイロープ「……?」

上条「うん?」

ベイロープ「『楽師オルフェウスの死後、彼の竪琴の腕を惜しんだアポロンにより星座へと列せられた』……って、誰かが言ってる」

ベイロープ「『だからアポロン神の巫女たるシビルが、冥界下りの術式を使える』のね」

上条「誰と話してんだ、さっきから?」

ベイロープ「えぇごめんなさい。話が途中だったわね――と、結論から言えば『”冥界下り”自体が一つの儀式魔術』なのよ。要は」

上条「そりゃ……そう、じゃないのか?生身の人間が死んだ人らの世界へ行く、ってのは」

ベイロープ「違う。そうじゃなくて――思い出して、『この世界の神話のほぼ全てがフィクションである』のと同様に、『位相世界も存在しない』わよね?」

ベイロープ「だったらどうして、そのわざわざ存在しない筈の世界へ行かなければいけないの?」

上条「位相世界――俺達が天国とか地獄とか呼んでいる世界、それらは無かったと」

ベイロープ「そうね。少なくとも存在はするが干渉をかけてくる事はなかったわね」

上条「が、実際には同じく過去の魔術師、もしくはそれっぽい力を持つ奴らが行った話が残っている……」

上条「例えばオルフェウスは死人の復活だが……後一歩の所で失敗した」

上条「だが同じように。死人なり不老不死っていう力を、ゼウスなりセレーネなりは大したデメリットも労力を支払わずに行使している」

上条「この差は何だ?神様と人の違い?それとも立ち位置の違い?」

ベイロープ「仮に、セレーネ達魔神も元は魔術師だったとすると?」

上条「――『魔術師としての力量の違い』、か!?」

ベイロープ「龍脈は力と記憶が流れ込んでいる――それも地球開闢からずっと。下手をすれば過去だけじゃなく平行世界も網羅しているアーカイバ」

ベイロープ「途轍もなく大きい図書館のようなモノだと……あぁそう、”あなたのように”そう言った方が正しいのかしらね」

上条「うん?」

ベイロープ「教えない。教えたら噛みつくって言ってるし、『ありさのために働くのは当たり前なんだもん!』だって」

上条「……そりゃ怖いな。つーかここでまたお前の世話になんのかよ」

ベイロープ「で、その子が流してくれる知識に拠れば、超々大図書館は知識の宝庫なのは間違いないのよ。全ての答えがあり、また力がある」

ベイロープ「だからその記憶――”魔神”と呼ばれる存在達は、意識的または無意識的に龍脈の力を行使出来るんじゃないかって」

上条「成程。だから神様的な奴らはホイホイ復活とか出来て……でも、オルフェウスは違うんだよな?」

ベイロープ「そうね。何の知識も何も持たない素人が放り込まれても、どれをどうしたら分からないし、予定に下手を打ってしまうかも知れない」

ベイロープ「そうして途方に暮れている所で、龍脈を理解するために発動”させる”魔術が『冥界下り』なのよ」

上条「論理が……跳びすぎてないかな?」

ベイロープ「ゲームでチュートリアル、あるわよね?RPGだったらシステム面を教えたり、戦闘方法や軽く世界観をレクチャーするの」

上条「あるある。『初心者クエスト』だよな。大抵盗賊かゴブリン倒しに行くヤツだ」

ベイロープ「それと同じ。『楽に死人を復活出来ないから、きちんと手順を踏んだ』のが冥界下りの魔術ね」

上条「復活させるための、チュートリアル?」

ベイロープ「オルフェウスの話を単純にすると――」

ベイロープ「『1.死人の世界へ行く』」

ベイロープ「『2.死人の中から相手を選択する』」

ベイロープ「『3.サルベージして生き返らせる』――って流れになるけど……」

上条「……あれ?その流れって、パソコンでファイル探すのと同じじゃね?」

ベイロープ「そうね。パソコンだったら検索機能で呼び出せるけど、龍脈は違うでしょ?」

ベイロープ「そのために『冥界』って概念を造り出した上、『下る』事で特定の情報を選別し、『連れて帰る』行為で肉体の再構成を謀る、と」

上条「つまり、夜の学校っぽい冥界を造りだしたのも――」

ベイロープ「龍脈を操る力が無い、または力を行使出来ない人間にとってすれば、龍脈の知識は猛毒よね」

ベイロープ「下手に触れてしまえば、忽ち発狂してしまうような禁断の知識よ」

上条「……位相世界がそうだったよな。『平行世界からの力を行使するために、神話的な知識をひたすら学んで汚染を防ぐ』……」

ベイロープ「理屈はそれと同じなのでしょうね。膨大で得体の知れないデータを扱うために、わざと可視化させ、日常の延長線のような”世界”を構築する」

ベイロープ「効率の面”だけ”で言えば、コマンドラインインタプリタ方式のインターフェースが最も良かった……」

ベイロープ「けれどそれじゃユーザーにかかる負担が大きすぎるため、後にグラフィカルユーザインタフェースへと切り替えられ、多くの人間の扱いを容易にしたと」

上条「すいません。ちょっと何言ってるか分かんないです」

ベイロープ「科学サイドがそれでいいの?本当に?」

上条「つまり……この世界は俺が造ったようなモンなのか?『冥界下り』って術式――つーかアリサを助けへ行くための手順を、楽に踏めるように」

ベイロープ「魔術サイド的には『橋を架ける』とも言われるわね。北欧神話のビフレストがそう」

上条「理屈は分かった、ん、だけどさ。俺の造った世界にしちゃ矛盾がチラホラ見えるんだが」

上条「まず……死人は?あいつらまで望んだ憶えはないんだけどなー」

ベイロープ「それは龍脈の記憶に残っていたモノが呼び起こされた――の、だし」

ベイロープ「そもそもで言えば『夜の学校にはお化けが出るかも?』とか思わなかった?もししたのであれば、それに引っ張られるわ」

上条「誰だって思うんじゃねぇかなぁ、それは……てか、この冥界ってヤツが俺の想像だったら、もっと簡単に行けた筈じゃないのか?」

上条「延々階段下りマラソンするんじゃなくて、こう、エレベーターか何かで、すーっと行けるような感じで」

ベイロープ「『答えを知った者は回答権が失われる』。この場合、最初から冥界の話を聞いていたら、素直に世界を造れた?」

上条「……」

ベイロープ「繰り返すけど『冥界へ下る』というプロセスは、それ自体が儀式魔術の一部であり、龍脈の力を御し切れない者にとっては絶対に必要なのよ」

ベイロープ「魔術の制御に長けた、聖人か教皇クラスの術者でもない限り、最初から最善の答えを掴めるなんて有り得ないでしょ」

ベイロープ「もしも最初に『龍脈と接続したら自由に出来る世界が広がっているから、最短でアリサを助けに行ける』って聞いてたら、実行に移せた?」

上条「そう言われると……無理、なのかなぁ?」

ベイロープ「『何でも自由に叶う力』は魅力的ではあるけれど、諸刃の剣でもあるのだわ」

ベイロープ「夜の学校へ迷い込んで、『この世界には出口がないのかも知れない!?』なんて思い込んだまま固着すれば、死ぬまで閉じ込められるのよ」

上条「怖っ!?本気で怖っ!?」

ベイロープ「信じたり、奇跡を願う想いは、人が言葉を獲得するよりもずっとずっと昔――原初の魔術と呼べる代物よ」

ベイロープ「だからこそ、術者である当人が『心の底から思い込まなければいけない』し、逆に疑えば魔術は効力を失うの」

上条「あー……前にケンカした錬金術師に、そういうの居たなぁ……」

ベイロープ「ま、アレよね。”世界はもう完全に固まった”し、アリサの記憶が何階ぐらいにあるのか、”何となく分かっている”んでしょう?」

上条「さっき『知の角笛』使った時もそうだけど、妙に強調してやいませんかね?何か不自然なぐらいに?」

ベイロープ「いいから!どんな感じで!?」

上条「そう、だな。何となくではあるけど、近づいて来てるような気がしないでもない」

ベイロープ「具体的には?」

上条「地獄の999階マラソンかと思ったけど、多分……100階までには、行けそう……だと思う!根拠はないが!」

ベイロープ「”この世界はあなたが造ったのだから、その考えは正しい”わよ」

上条「だと、いいんだけど――ベイロープ?」

ベイロープ「……」

上条「どうしたんだ、急に立ち止まって――まさか、敵かっ!?」

ベイロープ「ん?いいえ、そういうんじゃなく、ないんだけど……ま、適材適所ってあるわよね?」

ベイロープ「あまり気が進まないのだけど……仕方がないかなって思うわ」

上条「はい?」

ベイロープ「先に言っておくと、私は先に帰るわね。だって”この先には死人が出ない”のだから」

ベイロープ「少なくとも”他の人間にも介入はされない”だろうから、私の道案内はここで終わるのだわ」

上条「そっか……ありがとう、色々と教えて貰っちまって」

ベイロープ「……正直、助けになりたいのは山々なんだけど、これ以上第三者が首を突っ込んでも害にしかならない――って先生が言ってたし」

上条「いやいやっ!とんでもないっこちらこそっ!」

ベイロープ「――で、悪いんだけど、手、出してくれない?」

上条「手?」

ベイロープ「そうそう、『右手』を、ね……えっと――」

上条(ベイロープは俺の前で片膝をつくと、こっちの右腕を取って引っ張る)

上条(何?って疑問に思う前に――)

上条(――俺の『右手』とベイロープの唇が軽く、触れた……)

ベイロープ「それじゃ、またあっちで逢いましょう――トーマ!」

パキィィイィンッ………………!

上条(消え行く彼女へ、俺は黙ったまま頷いた……!)



――青冷めた光の柱の下

ベイロープ「――か、は……っ!」

レッサー「『おお、ゆうしゃ”べいろーぷ”よ、しんでしまうとはなさけない』」

ベイロープ「ネタはいい!状況説明!」

ランシス「んー……一分ぐらいしか経ってない、と思う」

上条「……」

ベイロープ「器を壊されては……ないようね。セレーネはっ!?」

フロリス「あっちでセンセーとレディリーが対処中――なんだケド、異変っちゃあ異変が一つ」

ベイロープ「何――って、これ?障壁なの?」

フロリス「ワタシらが”X”の準備を始めて、ジャパニーズが冥界行ったらすぐ、ぐらいかな?」

ベイロープ「私達を逃がさないように……じゃ、ないか。魔力が十字教の、って事は」

レッサー「あのジーサンの仕業でしょうな。周囲に集まってきたショゴスを近づけないためにだと」

フロリス「ワタシらがこっち来たから、不要なリソース振り切ったんだろうケドさ。何で隠れたままなんだぜ?」

レッサー「術式が発動している、しかも我々がセレーネを囲んだ後で、であれば自動起動の線はないでしょうから……」

レッサー「どっかで隠れて様子を伺っている可能性は高いですかね」

ランシス「私達が失敗した時の……後詰め?」

レッサー「ともすれば私達諸共粉砕するんじゃねぇか、ってガクブルもんですがね」

フロリス「うえー、メンドー」

レッサー「間に上条さんアリサさんいらっしゃるんで、無茶な事はしないでしょうが――で、ベイロープ。あっちの首尾はどんなもんでしたか?」

ベイロープ「……ん、えぇ上々よ。悪くはなかったわ」

フロリス「ジャパニーズに”刷り込み”するんだっけか?」

ベイロープ「そうね。あれだけ言っておけばイメージも安定するでしょうし、取り敢えず道は繋がったと思う」

レッサー「上条さんの魔術知識が無い所へ、専門家のフリをして都合の良い冥界をインプリントする……」

レッサー「流石は意外とコスい伝説を数多持つ我が師マーリン!そこに痺れる憧れる!」

ラシンス「……よっ、弟子の教育を大抵間違えた男……っ!」

フロリス「アンタらが言うな。つーか反省しろ」

レッサー「まぁまぁともあれ、わざわざタルタロスまで出張お疲れ様で御座いましたよ。えぇえぇ」

レッサー「『双剣の騎士ベイリン』が一度死んで下さったおかげで、儀式魔術の段取りもスムーズに行きましたし。お陰様でね」

レッサー「とはいえ、こっちも術式の組み立ても佳境になってきたんで、少し休んだら手伝っ――とぉ?おんやー?」

ランシス「……ん?」

レッサー「気のせいだったらアレなんですけど……ベイロープ、あなたタルタロスで何かありましたね?」

ベイロープ「……」

レッサー「あ、言いたくないんだったら聞きませんけど。どうせ龍脈関係でいやーんな記憶を幻視たせいでしょうから」

ベイロープ「……いや、違うの。そうじゃないのよ、その」

フロリス「珍っ!?ベイロープが言い淀むなんて、どんな事件だっ?」

ラシンス「しー……茶化すの禁止」

ベイロープ「えぇ……私は、あなた達に謝らないと、いけないのよ……っ!」

レッサー「ど、どうされました?いやマジで様子がおかしいですよ?」

ベイロープ「――私、あなた達に約束したわよね?『あなた達が一人前になるまで面倒看る』って!」

ベイロープ「それまでずっと恋愛しないって!そう誓ったの、憶えてる!?」

フロリス「(……ウン?言ったっけか、そんなん?)」

レッサー「(私もぶっちゃけ初耳じゃねぇかなって思うんですけど、どうですかね?)」

ランシス「(あった……ほら、ベイロープが悪い男に騙されそうになって、レッサーがぶち壊した時……)」

フロリス「(何回目?いっちゃん近いンじゃないよね?)」

ランシス「(……それは忘れた……)」

レッサー「(うーむむむ?そういやそんな記憶もあるような、ないような?)」

レッサー「……」

ランシス「(……どう?)」

レッサー「(やっぱりないですねっ!一々ネタにマジレスしてられませんし!)」

フロリス「(や、でもさ。ここで”Have you injured the head?(ちょっと何言ってるのかわっかんないですね)”って言ったら、ベイロープブチキレるっしょ?)」

フロリス「(顔真っ赤にして半分怒ってるカンジだしぃ?)」

ランシス「(そう?……なんか恥ずかしくってモジモジしてるような……)」

レッサー「(――まーかせて下さいな!ここは一つ、『空気を読まない女Best3』に四年連続で入った私に!)」

フロリス・ラシンス「「だから、そーゆートコだよ」」

ベイロープ「……何?」

レッサー「いえいえなんでも御座いませんともっ!お気になさらずにねっ!」

レッサー「そんな些細な事よりも!聞くだけ聞きましょう――それでどうしました?」

ベイロープ「そんな、そんなっ大切な約束をしたのに!私はあなた達に黙って抜け駆けを――」

レッサー「あい?」

フロリス「ヘ?」

ランシス「……?」

ベイロープ「――マスターの手の甲へ!口づけをしてしまったの……!」

レッサー・フロリス・ランシス「「「ヘー、ソウナンダー」」」

ベイロープ「別に手を握るだけで良かったのよ!?あの場面、あの場所で!『右手』がきちんと働いているって、効果を証明するためにはね!」

ベイロープ「だけど、私は、皆を、裏切っ――」

レッサー「――ベイロープ」 ポンッ

ベイロープ「……?」

レッサー「顔を上げて下さいな、ベイロープ」

ベイロープ「……けど」

レッサー「裏切る・裏切らないの定義は色々ありますけど――私は、少なくともここに居る仲間達は、そんな事であなたを裏切り者だと呼びません……ッ!」

レッサー「だって――だって仲間じゃないですか!ナ・カ・マっ!」

ベイロープ「……レッサー!」

フロリス「そ、そうだよねー、ウン!べ、別にキスぐらいするし!全然裏切りなんかじゃないって!」

ランシス コクコク

ベイロープ「あなた達……!」

レッサー「はいフロリスさん今イイ事言いやがりましたねっ!なんつっても若い男女なんですから、キスの一つや二つや三つしますよねっ!普通ですよっ!」

ベイロープ「そ、そうなの?」

フロリス「あー……ホラ!親愛的な意味でだよ、ウンっ!きっとそうだって!」

レッサー「そ、そうですよっ!抜け駆けだって仰いましたけども!そんな事ぐらいで我らの友情が揺らぐモンですか!」

レッサー「むしろアレですな!後から事実が発覚したとしても!それはどうかノーカウントでお願いしますっ!」

ベイロープ「……ありがとう!」

フロリス(※抜け駆け一番手)「い、イイよ?うん、全然全然?」

ラシンス(※抜け駆け二番手)「……まぁ……そういうこともある。テンション上がると、しゃーないー……」

レッサー(※抜け駆け三番手)「ですよねっ!分かりますっ!」

マーリン「――なぁ、なぁて。ちょっとエエかな?」

レッサー「おっとどこからか幻聴が?私のガイアが囁いてるんですかね?」

マーリン「あんまガイアはん仕事さすのどうかと思うわ。ちゅーか休ましたりぃ、な?」

マーリン「てかジブンら、さっきから聞いとぉけど、なんや楽しそうないの?うん?」

マーリン「てーかレッサー?さっきワイの悪口言ってへんかった?気のせいかな?」

マーリン「余裕あんやったら、もぉちょっとこっち手伝って欲しいんやけど……」

レッサー「すいませんっ!スグに術式展開に移りますんで!」

マーリン「……ま、最悪の最悪、上条はんアリサはんが帰って来る前に発動せなアカンかもしれへんから、そのつもりで」

ベイロープ「そんなに切羽詰まってるの?」

マーリン「やー……そうやね。ま、なんつったらいいのか分からんけど、分からんけども――」

セレーネ『きひっ!きひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひっ!』

マーリン「敵さんがエッラいやる気でなぁ」

セレーネ『ぼうや達はかあさんの邪魔をするの?こんなにもわたしはあなた達を愛してるのに』

セレーネ『それともごっこ遊び?もうそんな歳だったかしら……子供が大きくなるのは早いものね』

セレーネ『それじゃ遊びましょ。あなたの好きなごっこ遊びで、母さんは何の役をすればいいのかしら?』

セレーネ『おとぎ話の鬼の役?それとも悪い王子様の役?七人の小人さんも可愛らしいわね?』

セレーネ『それとも――あぁ、アァ、嗚呼!レディリー!あなたは――そう!茨姫の王女様だったのね!』

セレーネ『だったらわたしはこう言えばいいのかしら。ご本の通りに、悪い悪い魔法使いを演じればいいのね』

セレーネ『そう、そうね、”魔法名”よね?ぼうや達がごっこ遊びをする時、名乗っていたのは』

セレーネ『お名前と……番号?わたしも?わたしも必要なの、それ?』 ジジッ

セレーネ『……うふふ。母さんはね、母さんは世界に一人しか居ないから、番号は要らないの。どう?凄いでしょう?』

セレーネ『わたしはセレーネ、オリンポスに住まう三日月のシグマ――』

セレーネ『――ペルポネーソスに墜り至る、子供達の妣(はは)――』

セレーネ『――――――”Selene(月は無慈悲な夜の女王)”……!!!』



――Tartarus-B099

……カツカツカツ、カツ

上条「――さて」

上条(降りに降りて来た99階。いや、1階からスタートだから正確には98階か)

上条(時間の感覚はずっと前にどっかへ行ってる。急いで来たつもりではあるんだが)

上条(ここを降りれば100階に降りるのと同時に、俺はアリサの記憶へと繋がる……らしい)

上条(ただ……どんな形になるんだろうな?出会って手ぇ引っ張ってさぁ終わり、って簡単には行かないような気がする)

上条(この冥界は俺がイメージした、要は”連れてくる手順を踏むための仮想世界”……魔術サイドの話でバーチャルな概念もどうかと思うが)

上条(と、すれば当然この先にもそれ相応の世界があってだ、それなりの手段を取る必要性がある、と)

上条(……まぁ、無理矢理攫う訳にはいかないだろうし、それだけだと多分解決にはならないし?)

上条(こればっかりは『右手』でぶん殴ってもなぁ?てーかそれをやっちまったらタダの暴力だわな)

上条(一応――俺は”否定する”目的にだけ、ぶっちゃけると『幻想を殺す』方面以外には使ってなかった『幻想殺し』)

上条(でも今『冥界下り』の術式の中でも、働くのは働いている……あぁ『団長』とやり合った時の夢と同じか)

上条(思い起こせばアウレオルスん時だって、『全てをキャンセルする力』”だけ”だったら全部無効化していた訳で)

上条(俺の認識に能力が左右されていたんだろーなー、うん)

上条「……」

上条(ま、なるようになるだろ!悩んでも仕方がない!)

上条(――あの世だろうが、『夢』ん中だろうが、どこだって行って――)

……プツッ……



――朝 自室

チュンチュン、チュン……

上条「………………」

上条「……ね、寝てた……?いや、寝ちまってたのかな?」

上条「寝オチした、にしちゃしっかりパジャマへ着替えてる……し」

上条「……」

上条「……あれ?俺パジャマ派じゃなかったよな?Tシャツ派なのに何で着て――」

ガチャッ……

鳴護「――あ、当麻君?起きてたんだ、おはよー」

上条「お――は、よう?」

鳴護「朝ご飯作っちゃってるから、顔洗って降りて来てねー」

……パタンッ

上条「……」

上条「えっと……外国の話だ。英語圏ではスズメの鳴き声をChirpで表すらしい。あ、マジ話な?」

上条「てか小鳥だけじゃなく、虫の音も同じ単語で一括りにしてるらしく、やっぱり俺らとは感性――つーか文化の違いか」

上条「他にも、ホラ。夏の夜とかに鳴く虫の声ってあるじゃんか?スズムシとかクツワムシとかのリーリー、ガチャカヂャってのさ」

上条「あれ全般が雑音にしか聞こえないんで、虫嫌いには日本の田舎は敬遠されて――」

上条「……」

上条「……オーケー落ち着こうぜ?レッサーに聞かされた驚愕の小話を思い出している場合じゃない!もっと大切な事がある!」

上条「ツッコミ所は色々あるが――最大のポイントは!」

上条「……すぅ……」

上条「――――――アリサが料理、だと……ッ!!!?」



――リビング

上条「……」

上条(洗面所で顔を洗った後、良い匂いがする方へやってきたんだが……)

上条(そこはキッチン一体型のダイニング、テーブルの上には簡単な料理が並んでいる)

上条(てかまぁトーストとサラダ、炒めたベーコンに、ポーチドエッグ――熱湯に卵を落として固めた簡易ゆで卵――なんだが)

上条(旅行中に俺が散々作ったメニューと同じ、違いは……あぁ机の上にある鉢植えぐらい?)

上条(ベランダに置いた方がいいんじゃないかな、と思ったりなんかもする)

上条「赤い……パンジー?」

鳴護「アネモネ、って言うんだけど……昨日お花屋さんで貰った時にも聞いてたよね?」

上条「そ、そうだったかなー?」

鳴護「そうだよ、てか当麻君が『これがいいんじゃ?』って言うから――」

上条「あぁうんごめんなっ!その話は後から聞くから!今はメシ食べちまおう、なっ!?」

鳴護「また勢いで誤魔化そうとしてるし……いいけど」

上条「お、おー!アリサの作った手料理は美味しそうだなー!」

鳴護「そ、そっか、な?……もう、早く食べちゃってねっ」

上条(怒ってる――の、とは少し違うかな。語尾がちょっと弾んでるし?)

上条(……ま、迂闊な事は言わないよう注意するとして、まずはメシ。メシなぁ……)

上条(……俺がこんだけ戦慄してるのには理由があるんだよ、割と真っ当な……)

上条(アリサ――つーかARISAのオフィシャルグッズ作ろうって話が持ち上がったんだ。ツアー会場で売れるような、って要望で)

上条(『食べ物の方が回転率が早いですし、”料理が出来て家庭的”アピールにもなります!』ってな。誰とは言わないがしっかりマネージャーの一存で)

上条(ケーキやら軽食やらのレシピ作りを”手伝った”のが、俺って事になってる……まぁ、ほぼ原案から監修まで俺がやったんだけども!)

上条(そん時に『アリサってどのぐらい料理出来んだ?』って流れになるよな?てか日常会話として聞くさ。礼儀みたいなモンだから)

上条(……やー、あのな?アリサの名誉のために言っておくとだ。決して不味いとか、そもそも料理が苦手って話ではない。そこはな?)

上条(よくある『素材へ対する冒涜』的なトンデモ料理とはかけ離れた、実に”ある意味”家庭的な料理であったと俺は言おう)

上条(また同時に味自体も悪くはない――所か、フツーに美味しい。俺は好きな味だし、多分日本人なら『まぁアリだよね?』って言うぐらいの腕だよ)

上条(自炊派の学生さんらしく!俺も少なからず共感したけどもだ!)

上条(ただなぁ……その、なんつーかさ、ほら?アリサはインデックスと同じだろ?体質的にって言うか?)

上条(人様よりも遙かに食うんだが……その、アリサもだから、な?)

上条(『取り敢えず得意料理作ってみよっか?』的な話になって、アリサが作ったのは――)

上条(――『お好み焼き”丼”』だったんだよ……ッ!!!)

上条「……」

上条(ダメだもの、炭水化物の上に炭水化物乗ってけるもの、まさに食のテンドン……あぁ用法的には正しいのか)

上条(アイドル像を確実にぶち壊す、ある意味『幻想殺し』以上のブツが出て来やがった!みたいな)

上条(……ま、そりゃな?趣味ででもやってない限り、普通の女子中学生がスイーツ作れる筈も無いし)

上条(……色々とイメージがアレなんで、今回は自粛する方向で俺が代役を買って出た、と)

上条「……」

鳴護「ん、食べないの?ていうか、さっきからお料理を前にして挙動不審なんだけど……」

上条「あ、あぁ!頂きますっ!」

上条(――ていう経緯を知ってるから、『朝イチでアリサの手料理!?』と驚愕したんだが……目の前にあるのは普通の朝食だ。”普通”の)

上条(メニューもまぁ無難だし――ポーチドエッグは日本じゃあんま見ないけど――量も常識の範囲内だ)

上条(アリサも”体質”上、ウチの欠食児童ばりに食べる必要があった筈なんだが……)

上条(……まぁいい!ここは一つ食べるしか――)

上条 モグモグ

鳴護「どう、かな?」

上条「……あれ?普通に美味しいぞ?」

鳴護「朝から暴言!?ていうか何っ!?グルメ漫画ごっこでもしてるのかなっ!?」

上条「――分かった!分かったぞ!」 ガタンッ

鳴護「や、あの当麻君?ご飯食べてる時にバタバタするのは埃立っちゃうかなー、なんて」

上条「お前――」

鳴護「は、はい?なんでテンション高いの?」

上条「――鳴護アリサじゃないな!?正体を現せっ!」

鳴護「あ、はい。違いますけど」

上条「ですよねー、そりゃ同じに決まってますよ――って今なんつった?」

鳴護「え、だから違うよって――」

鳴護「――だってあたし、”上条”アリサだもん」



――通学路

上条 テクテク

鳴護 テクテク

上条(結論から言うとアリサはアリサじゃなかったんだよ!……何を言ってんか分からないと思うが!)

上条(心配ない!俺だってこれっぽっちも事情を把握出来ていないからな!)

上条(あの後、華麗に『待ってくれ!これはきっと敵の魔術師(以下略)』によって事なきを得たが!とっさの判断にしては頑張ったよ?)

上条「……」

鳴護 チラチラッ」

上条(事なきを得たかな?さっきからアリサさんが心配そうにこっち見てんだが?誤魔化しきれてないよね?)

鳴護「ね、当麻君、アタマ大丈夫?」

上条「その聞き方は傷つくなっ!他意がないのは分かってるけども!」

鳴護「え、何が?」

上条「……ん、あぁイヤ大丈夫大丈夫!何かちょっと混乱してるだけだからさ」

鳴護「……むー」

上条「アリサさん?」

鳴護「……知らないっ」

上条(……何だろうな、ご機嫌斜めだ……?何か地雷踏んじまったのかな?)

上条(しかし怒らせた割には俺の制服の裾を掴んでたりするんだが……なんで?)

上条「……」

上条(えーっとだな。ここは普段の通学路だ。俺がいつも通ってる道の)

上条(周りには同じように登校する生徒達で溢れている。きもーち早めに家を出たんで、少しだけ人が少ない気がする。少しだけだけど)

上条(で、当然俺が着ているのは制服。アリサも同じく制服)

上条(仲良く学校へ向かっている――ってなんでだよ?ウチの学校、中等部は無かったよなぁ?)

上条(制服のタイプはウチの女子と似たセーラー。や、まぁセーラーなんてどこでも似たり寄ったりだけどさ)

上条(……どっかで見たような気がしないでもなかったり?……まぁいいか。イヤーな予感がしない訳でもないが)

上条(てーゆーかココどこだよ?てっきりアリサの夢かなんかと思ってたら、なんかこう、違くね?イメージしてたのよりさ)

上条(てっきりアレだ。鬼かゾンビや不死身の病人がヒャッハー!してる世紀末的な世界で、そっからアリサを見つけるモンだと思ってんだが……)

上条(もう見つけちゃったよ!つーか一番最初に出会った第一冥界人?がアリサさんだったよ!)

上条(しかも何?同棲?同棲的なカンジなんですかね?)

上条(……こう、『アイドルとヒミツの同棲生活!』みたいな、円盤やビジネスって書いてある漫画雑誌にありがちな展開?)

上条(極めて個人的には憧れなくもないけども……なんだろうな、寸止めラブコメしてる場合じゃねぇだろってツッコミがですね。はい)

上条(ていうかコレ、俺の妄想なんか?アリサ一人連れ戻すために造った世界はコレか?)

上条(父さんが余所様に『やったね!家族が増えるよ!』って展開じゃ無いんだよね?夢なのにリアリティ追求してないよな?)

上条(下手に突っ込んだ事聞いて、それが地雷になってるかは分からない。とんだマインスイーパか、それとも海戦ゲーム)

上条(俺達の関係性が分からないし、聞いて警戒させんのも良くはない……と、すりゃ)

上条(そう、だな。取り敢えずは様子見の方向で。穏便に、あくまでも波風を立てないでだ)

上条「……?」

上条(……あれ?そういやこんな展開以前にもあったよう――)

佐天「おっはよーーーーーーーーーございまーーーーーーーーーーーーーすっ!!!」

上条「来やがったなっ柵中のパンジャンドラムっ!?なーんかフラグ立ててる予感はしてたんだよっ!?」

佐天「上条さんも、上条さんのお兄さんもどーもですっ!てゆーかテンション高いですなー?」

上条「誰のせい?誰が原因だと思って――はい?」

佐天「『何かいいことでもあったのかーい?』」

上条「やめろ。何が何でもボケようとするんじゃなくてだ――お兄さん?」

佐天「はい?お兄さんはお兄さんじゃないんですか?――ハッ!?まさか」

上条「ネタはいい。誰がお兄さんだ、誰が」

佐天「ユー」 ピシッ

上条「……誰の?」

佐天「ハー」 ビシッ

鳴護「……はぁ」

上条「アリサの、って事は――」

上条「……」

上条「――俺はアリサの兄貴だったのか……ッ!?」

佐天「あの、すいません?上条さんのお兄さん、アタマ大丈夫ですかー?割とマジで聞きますけど」

鳴護「当麻君、朝からにこんな感じだから……うん」

初春「やー、でも前からと言えばそんな気もしますしねー?あ、おはようございます」

上条「その認識もヒデェな!?あ、おはようございますっ初春さん!」

初春「はい、おはようございます」

佐天「どうもですっ!」

上条(三人とも同じセーラー……棚川中学の、だと思う)

上条(てー事は、アレか。アリサも佐天さん初春さんと同じ学校なのは確定か)

上条(友達だから妥当な所ではあるんだが、常盤台よりかは、まぁ……?)

上条(あとアリサの関係は『兄妹』か。それにしては『当麻君』呼び?……いや、俺兄弟居ない――と、思うから分からいが)

上条(割と穏当な所ではある、か?変人扱いと引き替えに確認出来ただけ、良かったっちゃ良かった、の、かも知れない)

上条(に、しても俺の印象酷いな!通学路で奇声上げても『前からこんな感じ』で、流されるなんて……!)

上条(ゆ、夢の中だし!デフォルメ入ってるから!大げさになってるだけだから!)

鳴護「――君?当麻君っ、聞いてるのかなっ!?」

上条「は、はいっ!?」

鳴護「二人ともわたしの友達なんだからデレデレしないの!みっともないんだからねっ!」

上条「は、はいっゴメンナサイっ!」

鳴護「大体ねー、当麻君って人は可愛い子を見たら――」

佐天「(ね、初春初春?)」

初春「(なんですか佐天さん?)」

佐天「(上条さんのお兄さん、あたし達と会わせたくないってんなら時間ズラせばいいと思うんだよねっ!)」

初春「(しっ!佐天さん空気読んで下さいよっ!?)」

佐天「(ていうか毎日毎日、仲良く一緒に投稿している時点で、ある種のツンデレ的な!)」

初春「(それご兄妹に使っていい言葉じゃないですからね?弁えましょう、ねっ?)」

佐天「まぁまぁ朝から雷落とさなくってもいいじゃないですか、別にあたし達は上条さんのお兄さんには興味無いですし?」

上条「分かってはいるんだが、断言されるのも嬉しくはないな」

佐天「んー、あたし的にはもうちょっと甲斐性的なものが欲しいかなー、なんて思ったりしますよ」

佐天「具体的には上条さんに家事一切任せて、頭が上がらない所なんて特にっ」

初春「ですかねぇ。上条さん、家事を理由に中々遊べないんで、改善して頂けばなと。はい」

上条「その設定を突かれると何も言えないんだが……料理ぐらいだったら手伝おうか?」

鳴護「えー、当麻君のお料理ー?」

上条(……なんだろうな。この夢の設定、現実戻った時にアリサが憶えてたら相当モニョりそうな内容だよな)

上条(真面目に考えれば、学園都市の生徒は一人暮らしが多い分、家事全般ある程度こなせて当たり前になってるし)

佐天「――で、放課後に御坂さん達と遊ぶ約束になってるんですよ。上条さんもどうですかー?」

上条「え、ビリビリが?」

佐天「そっちの上条さんではなく、妹さんの方で。あ、来たいってならウェルカムですけど?」

上条(佐天さんに上条さん言われると、反射的にどうしても俺の事だって思っちまうな)

鳴護「当麻君、直ぐ御坂さんや白井さんと暴れるからダメだよ!ゼッタイ!」

上条「って事で妹からもNG喰らった所で、今日ぐらいはのんびり遊んで来たらどうだ?」

上条(自宅、どうなってっか調べてみたいしな)

鳴護「えー……当麻君、わたしが居ないとコンビニのお弁当かファーストフードで済ませようとするし……」

上条「いいじゃねぇか、あのジャンクな味が無性に恋しくなるんだよ!」

上条「お前らだって『これ、何から採った着色料か知ってる?』みたいな色のアイス食うだろーに!」

初春「女の子のスイーツは例外です!断じて!」

佐天「よっ!ナイスフォローっ!」

鳴護「ナイスって程じゃないと思うけど……うん、じゃ分かったよ」

上条「遅くなるんだったら迎えに行くし、あんま迷惑を掛けんなよ?」

佐天「ご心配なく!あたしが掛ける担当ですから!」

上条「佐天さん、俺前から思ってたんだけどさ、自覚あるんだったら治そう?な?」

上条「あんま俺も人のこと言えないけどさ、踏んだ地雷の処理ぐらいは人任せにしないてだな」



――教室

キーンコーンカーンコーン、キーンコーンカーンコーン……

吹寄「起立、礼っ!」

小萌「はい、お疲れ様なのですよー。まだ二時限残ってますけど、頑張って下さいねー」

小萌「特に!誰とは言いませんが問題児の自覚があったり、単位がぎりっぎりの子達はっ!」

土御門「おっおぅ!言われてるんだぜぃ、カミやん?」

上条「あっはっはっはーっ、ヤダなぁ土御門君!どう考えてもお前の事じゃねぇですかコノヤロー!」

小萌「はいソコ!お互いに責任のなすり付けあいをしている二人なのです!注意して下さいねっ!」

上条・土御門「「へーい」」

小萌「ではさっさとお昼ご飯を食べて元気をチャージして下さいね」 ガラガラッ

上条(――と、ようやく昼休みになったんだが)

上条(この世界には幾つか、いや幾つも欠けているものがあった)

上条(今の遣り取りにあった不自然さ……まず青ピが居ない。欠席じゃなく、在籍自体してなかった)

上条(同じく姫神、そして俺の知ってる殆どのクラスメイトが居ない……いや、居るには居るんだが)

クラスメイトA「上条ー、メシどうすんだー?弁当?学食行くんだったら一緒に食わね?」

上条「や、持ってきてないから購買部行くわ」

クラスメイトA「そっかー、んじゃまた今度なー」

上条「おーう」

上条(――と、どっかの誰かに話しかけられたんだが……俺はコイツのことを知らない)

上条(もっとはっきり言えば、このクラスでは土御門と吹寄、小萌先生以外、誰一人として知らない人間へ入れ替わっていた)

上条(にも関わらず、向こうはこっちを普通のクラスメイト扱いしてくる訳で。ハブられるよりかはいいけどな)

上条(あとおかしいのはそれだけじゃない。この学校、元々俺が通っていた学校は高等部しかない。まぁ普通の高校だよ)

上条(それが何故か中高一貫校なってーの、しかもアリサと棚川中の二人が通ってる設定だわな)

上条(しかも校舎同士が繋がってるらしく、また生徒の行き来も制限されていない……)

上条(それが何で分かるかって言うとだ――)

土御門「おーいカミやーーーーーんっ!妹さんが来てるぜぃ!」

鳴護「し、失礼します……」

上条「おー、どうしたアリサ?何か忘れモンか?」

鳴護「当麻君っ、お弁当忘れてたし!」

上条「……ん?あぁありがとうな、つーか悪いな、わざわざ持ってきて貰って」

鳴護「い、いいけどっ……うん」

佐天「あのぅ、すいません?『だったら登校中に渡せばいいんじゃねぇかな?』ってツッコミは切らしてるんですかね?」

佐天「あと『目立ちたくないんだったら呼び出せば?』はスルーなんでしょうか?」

初春「佐天さんっ空気読んで下さい、ねっ?朝から言ってますけどもっ!」

鳴護「と、当麻君がダラしないからいけないんだもんっ!」

佐天「いや”もん”って……萌えますが!」

初春「ですからですね、そのー」

上条(――と言った具合に、割と結構な頻度で会いに来てるんだわ、これが)

上条(嬉しくない事はないんだが、その……周囲からの生暖かい視線、殺意と怨嗟の籠って視線が痛いっつーか)

上条(青ピが居たら今頃助走をつけて殴りに来ている筈だよ、ホント)

鳴護「えっと、わたし達もこれからご飯なんだけど……一緒に、する?」

上条「あー、悪いけどちっと用事が」

鳴護「そっか。それじゃまた後で」

上条「あぁ。弁当ありがとうな?」

佐天「『べ、別に当麻君のためなんかじゃないんだからねっ!勘違いしないでよねっ!』」

初春「……すいません。佐天さんがいつもいつも」

上条「……いえ、お察しします」

土御門「ナイスツンデレッ!」 グッ

上条「……こっちもすいません。その、アレなクラスなんで、はい」

初春「……はい。そちらもお察ししてますので……」



――屋上

上条(アリサの捨てられた子犬のような視線を何とか撥ね除け、俺は目的の相手を屋上へ呼び出していた)

上条(……ま、呼び出すも何も、教室から一緒に歩いて来たんだけどさ)

土御門「……ごめん、カミやん」

上条「うん?」

土御門「オレ、オレっ!ずっと前からカミやんの事が――ってオーケー待とうか、なっ?」

土御門「空気読まなかったのは謝るから、俺の幻想を殺そうとしないでくれ!具体的には『男女平等パンチ』を降ろせ?」

上条「……悪いが今、一杯一杯なんだよ!八つ当たりっぽいのは謝るが、真面目に付き合ってくれ!真面目に!」

土御門「カミやんが追い込まれてる、って事は――やっぱ魔術師関係か?本当に不幸の女神に愛されてるんだぜぃ」

上条「……残念。今度の敵は月の神様なんだよ」

土御門「うん?」

上条「あー、まぁそれは良いんだ。良くはないが置いておこう」

上条「事情を説明するのは……今日は先に質問だけさせてくれ。下手すると時間が無いからな」

土御門「分かった。それで俺は何を答えればいいんだ?」

上条「今日は何日だ?」

土御門「XX月XX日だ」

上条「えっくすえっくす……?本気で言ってんのか?」

土御門「流石の俺でもシリアスな場面でボケ倒す度胸はない。カミやんが”時間が無い”つってんだから、相当ヤバい状況だろうしな」

上条「……悪い。それじゃ明日は何日だ?」

土御門「XX月XY日。つーかこれぐらいだったらカレンダー見た方が早いぜぃ」

上条(土御門のスマートフォンには字面通りの文字が月日欄へ入ってる……壮大なドッキリを仕掛けない限り無理だろう)

上条「それじゃ……10月8日に俺と電話で話した内容は憶えてるか?」

土御門「じゅう……なんだって?いつ?」

上条「10月の8日。俺から電話を掛けたんだ」

土御門「いつの話だ?俺は何をしてた?」

上条「いや、聞いてんのは俺なんだが……まぁその反応で分かった。それじゃ次、えっと……『濁音協会』って知ってるか?」

土御門「知らな――いや、聞いた事はある。イタリアを中心に暗躍していた魔術結社の筈だが、もう大分前に潰されたな」

上条「アルフレド=ウェイトリィの『双頭鮫』、”団長”の『殺し屋人形団』、安曇阿阪の『野獣庭園』――」

土御門「前から順番にイタリア系、都市伝説系の魔術結社だな。最後のには……関わるな、つっても無駄なんだろうがな」

上条「そいつらの近況とか、何か知らないか?」

土御門「それだったら『必要悪の教会』に訊いた方がいいと思うぜぃ?流石に存在自体が疑問視されてる連中までは、噂程度しか知らない」

土御門「憶測で物を言うのも出来るんだが……相手が相手だから、あんま変な先入観持っちまうと足下を掬われるぞ」

上条「……それでもステイル達の初期情報とほぼ同じってのは、スゲーと思うが……あぁ、最後に一つだけ」

土御門「おう、ドンと来い!」

上条「――お前、今どこに住んでんだ?」



――教室 授業中

上条「……」 カリカリカリ

上条(一生懸命に板書を取る――ん、じゃなく、土御門から仕入れた情報を整理している、と)

上条(分かってはいたし、覚悟もしてたんだが、『あれ』は俺の知ってる土御門とは微妙に違うっぽい)

上条(まず”土御門は俺のお隣さんじゃない”事だ)

上条(朝起きてメシ食ったあの家、大体の造りや壁紙は元居た俺のマンションにそっくりだ)

上条(実際玄関を出てみれば……いつもと同じ光景。まぁマンションも部屋も同じだったと)

上条(けど、前の部屋は二人暮らし出来るような広いスペースはなく――どうやら、隣三軒分をぶち抜いた造りになってるっぽい)

上条(なので当然、以前住んでいた住人である土御門兄妹は別の所に住んでいた。それも”ずっと”住んでいた設定になっている)

上条「……」

上条(一瞬『お家賃、お高いんでしょう?』と考えてしまった俺は穢れちまったのか……!まぁいいや!スルーしよう!)

上条「……」

上条(……で、だ。他に分かった事は、この世界の住人である土御門――面倒だから土御門B――も魔術サイドの知識を持っている)

上条(当たり前っちゃ当たり前の話ではあるんだが……けど、これは非常に大きな意味を持っている、と思う)

上条(何故ならば『俺は土御門が魔術師知識に詳しい』だなんて、”一言も漏らした事はない”からだ)

上条(勿論魔術師だって正体バレはしてないし、精々『歴史に詳しい』とか、『英語に詳しい』程度しか言った憶えはないと)

上条(だって言うのにだ。土御門Bはきちんと魔術知識を持ってるし、有効に活用している)

上条(しかも一部、ごく限られた人間しか知らない話……よって土御門Bは、俺の知ってる土御門の”記憶”を持っている)

上条「……」

上条(――だ、けどもだ。土御門Bがオリジナルしか知らない、もしくは持っていない知識があるのは良いさ。ガワだけ似せた別人って事もないだろうし)

上条(そうすると矛盾する部分がある――『どうして”濁音協会”が瓦解した事実を知らないのか?』と)

上条(土御門みたいに、情報管理に命を賭けてる連中ならば知っていた当たり前。しかも俺は電話で本人に相談している)

上条(”アレ”が本人で無い可能性もあるが……まぁそうだとしても、どこかで土御門は裏事情へ耳を澄ませている訳で)

上条(……自信過剰を承知で言えば、俺の動向には気を配ってくれてるんじゃねぇかな、とも思う。アイツの性格なら、きっと)

上条「……」

上条(はっきり言おう)

上条(『この世界はアリサが造った』と、俺は踏んでいる)

上条(俺のクラスメイトがたった二人しか再現されていないし、小萌先生”以外”の先生も知らない人達にすり替わっているからだ)

上条(……旅の間にアリサへ話した憶えがあるんだよな、俺のクラスはどうなのか?みたいな雑談だったか)

上条(そん時に名前と軽く説明したのか土御門に吹寄、あと小萌先生もだ……青ピもしたような気がするんだが……まぁいいか)

上条(そんな訳で、俺のクラスにも関わらず、本当のクラスメイトが二人しか居ないってのは『情報不足』なんだと思う)

上条(この世界を造ってる――てか、アリサが知ってる範囲から逸脱しているから、なんかこう適当に辻褄を合わせた感じ)

上条(本来居るべき人達、現実世界でのクラスメイトや他の先生達が配役されていないのは、偏にアリサが知識を持っていないから――なん、だけども)

上条(多分、それは合っていると思う。この世界はどういう構造なのか分からないが、アリサにとって都合の良い願望みたいなので出来てる、か?)

上条(けどなぁ。そうすると矛盾が幾つか出て来るんだよなぁ。なんつーかキャラの作り込み?駆け出しの作家に説教する編集みたいな言い方だが)

上条(土御門達は俺が少し話しただけでも違和感は全然ない。むしろホッとするような安心感があるぐらいだ)

上条(でもそれを――『そこまでの再現度』をアリサの記憶によって出来るか、って言えば無理だと思う)

上条(多分憶えているのは名前ぐらい、精々『こんなキャラなのかも?』程度なんだろう。てか普通は一々調べたりもしないだろうし)

上条(土御門が魔術サイドに詳しいのは、アリサが知りようもない事実……だっていうのにな)

上条(他にも”夢”にしては、少々セコイっつーか、『お前本当にそれでいいのか?』的な設定も見え隠れする)

上条(細かい所では家事全般のベテラン設定、性格も天然か無くなってしっかりしてる感じか)

上条(……あと食事量も。密かに気にしてたんだろうなぁ……戻ったらイジるの自制しよう)

上条(そして何よりもツッコミ所なのは『俺の妹』だって所だよ!何で妹!?)

上条(メリット皆無じゃねぇか!自分で思ってて悲しいけどもだ!)

上条(それとも家族が居ない分、兄貴分として懐かれてるのかな……?……ま、そんな所だろう、きっと)

上条「……」

上条(ともあれ以上が現況だわな。状況証拠からしてアリサの見ている夢の中にいるっぽい)

上条(アリサを連れて帰れれば俺達の勝ち……けど無理矢理引っ張って行って良いものなのか?)

上条(……俺も夢を見ていたから、分かる。居心地が良くて、少し不条理で、それでいて不安の無い世界……)

上条(そこから『抜け出させる』ためには、どれだけの覚悟が要るか……)

上条「……」

上条(『夢』は願望の集まりだと思われている。潜在的無意識がどーたら、アーキタイプ?がどうこうは横に置くとして、この夢はそうだろう)

上条(と、すれば間違いなく、この場所で俺が担ってる役割――それもまたアリサが望んだ結果だって事だ)

上条(逆算と一緒。結果と数式から問題を割り出すように、きっと答えは既に揃っている。必要な『鍵』が)

上条「……」

上条(……現実でアリサが抱えていた悩みも、きっと――)

上条「――よし!やってやるっ!」

教師「カミジョー、授業中」

上条「はいっ!すいませんでしたねっ!」

上条(……締まらないなぁ、俺は)



――夕方 自宅

上条「たっだいまー……と」 カチャ

上条(放課後になって、いつものように商店街を通って帰って来た訳だ。まぁ取り敢えず家事でもやろうかと……やってる場合じゃねぇような気もするが)

上条(『あ、そういや冷蔵庫の中身見ないで買ったら、食材無駄にするんじゃね?』と、結局何も買わずに)

上条(……ま、一応収穫らしい収穫も無い訳じゃなくてだ。途中にある楽器屋件CD屋へ寄って、探してみた)

上条(店員さんにも訊いて、バスん中で携帯使って探してみても『ARISA』って歌手は居ない事になってる……)

上条(嬉しくはねぇが……この『状態』をアリサが望んでるって話なんだろうか?)

上条(頑張ってアイドル――てか歌手になるよりも、俺とダラっと暮らす方が『望み』なのか?)

上条(それでいい、ってアリサが思うのは勝手だと思うし、俺が口を挟むようなこっちゃない事も知ってる。知ってはいるつもりなんだが……)

上条(……けど、やっぱりアイドルとしてのアリサが居なくなってしまうのは、少し寂しいな……)

上条「……」

上条(――と、悩んでても仕方がないな!今は……洗濯物を取り込んでから、メシの支度――)

上条「……」 ガラガラッ

上条(ベランダで揺れてる洗濯リング――正式名称は知らないが、輪っかに洗濯バサミがついてるの――から衣類を外してー、と)

上条(ちなみに海外では洗濯物を室内に干すのが一般的。治安の問題か?)

上条(自販機が置いてあるのは警察署と病院、あと空港と駅ぐらいにしかない。それもあえて紙幣を使えなくして盗難防止にするそうで)

上条(日本のHENTAIもどうかと思うが、欧米は何つーか獣レベルに退化しつつあるんじゃねぇか、と時々思う。いやネタ抜きでさ)

上条(てゆーかですね。こう、旅行の間、家事全般を取り仕切っていた俺にとって、パンツとブラの一つぐらい何だって話ですよね)

上条(そう――お母さん!まるでこうお母さんのような広い心で!疚しい心なんか一切無いよ!本当だよっ!)

上条(だから、だからですね、こうアリサのパンツと随分大きめのブラを手にとっても!いやーんな気持ちになんかならないしぃ!) カサッ

上条「……」 チラッ

上条(……?あれ……?何か違和感が……なんだろう?)

上条(このブラ、ホックの数が三つだと……!?今までは二つしか無かったのに……!)

上条「……」

上条(説明しよう!ブラジャーの規格には色々あるけれども、その中でホック数はカップと密接な関わりがあるんだ!)

上条(止めるカップの大きさに比例して、ホック数の大小は変わる――ぶっちゃけAは一つなんだ)

上条(だってホックさんへ対する負担が小さいからねっ!Aはおっぱいの”お”ぐらいしかないから、ホックさんが頑張らなくても済むんだよ!良かったねボスっ!)

上条(でもほら、なんだ!カップ数が上がるにつれ、ホックさんの負担は増大していく……従ってホック一つだけでは力不足……!)

上条(だから大体Aは一つ、D以下は二つ、って具合に決まっていて――旅の間中ずっとアリサのホックは二つだったんだ……筈!)

上条(だというのに今!今のホックさんの数は三つ……この現実から導き出される答えとは――)

上条(――『アリサはまだ成長している』んだよ……ッ!!!)

上条(普段ゆったりとした服ばっか着てるからろ、一部で『着痩せ』説が佐天さん巨乳説ばりに噂されてはいたが……!)

上条(まさか夢の中で厳しい現実に直面するとは思いもしなかったっ!やったねっ!)

上条(このおっぱいソムリエ(※志望)の上条当麻にかかれば、この程度の謎は容易く解決出来るのさ!)

上条「……」

上条(……なんだろうこのテンション……?徹夜明け?徹夜明けなのか?)

上条(てかバードウェイをイジって後からアババババハ言わされないだろうな?あの違法ロ×妙に鋭いしさ)

上条(ま、まぁさっさと取り込んで、アリサの部屋まで持っていこうな、うん)



――マンション?

上条(簡単に、新しくなったアパートの中を見て回る。特に自室を中心に)

上条(俺の部屋は現実での部屋と全く同じ。ただ他にもアリサの部屋やリビングもあると)

上条(所謂共用スペースに置いてある物で目立つ物は特にない)

上条(妙に現実的っていうか、どうせ夢なんだから乾燥機やスチームオーブンぐらいはあったっていいと思うが……俺もアリサも小市民だからなぁ)

上条(可能性としては”俺”に合わせた生活レベルかも知れないが……まぁいいや)



――アリサの部屋

上条「……お邪魔しまーす、よっ……と?」 ガチャッ

上条(畳んだ洗濯物を届ける――という口実で――ため、アリサの部屋へ来てみた)

上条(まぁ……フツーの部屋だな。拍子抜けするぐらいアッサリとしている)

上条(勉強机に本棚に、後はベッドやクッションその他。俺の部屋と違うのは壁紙の色が暖色系ぐらい、だろうか?ぱっと見は)

上条(クローゼットはあるけど、流石に中までは調べるのは……うん、ちょっと、だよなぁ?切羽詰まってきたら仕方が無いかも知れないけどさ)

上条(他には何か――ん?なんだこれ?)

上条(ベランダへ続くサッシ窓の手前に……望遠鏡、か?)

上条(形からして天体望遠鏡、けどアリサって星空見るような趣味持ってたっけ、か?聞いてないだけで、隠れた趣味なのかもだが)

上条(そう言えば――ARISAのファーストアルバム、『ポラリス』か。あれは天体の名前なんだよ、とインデックスに教わった気がする)

上条(アルバムの名前つけんのは流石に本人だろうし、って事はアリサは結構天体に詳しかったりしたのか?初耳過ぎる)

上条(アリサが黙っていた理由……今は思い付かないな。それよりか――うん?)

上条(入り口からは死角になっていたベッドの下に何かある、な?なんだろ?)

上条(……これがもし俺だったら『管理人さんセット!』が出てきて大惨事になるんだが……持ってないよ?俺は持ってないけどね?いやマジで?)

上条(……少なからぬ罪悪感を誤魔化しつつ、俺はベッドの下にあった”それ”を引っ張り出す)

上条(意外と手触りは柔らかくて、重い?てかキルティングの袋?)

上条(家庭科の実習で作った、なんて言ったら良いのか迷うフワフワの生地、あるよな?それで出来た薄べったい長方形の袋だ)

上条(アリサの手縫いなんだろう。ペガサスと星のアクセントがついて、ほんの少し縫い目が曲がってたりするけど、どこか優しい感じがする)

上条(そんな見た目に反し、結構ずっしりくる袋の横についてるチャックを開くと――)

上条(――中に入っていたのは『キーボード』だった)

上条(初めて会った時、そしてLIVEで使っていたのとも違う。二回り程小さく、そして年期を感じさせる造りになっている)

上条(でも、俺はその楽器に見覚えがある。あって当たり前だ)

上条(……旅の最中、アリサが大切そうに、そして熱心に何度も何度もキャンピングカーの中で曲の練習をしていた)

上条(……その時に弾いていたキーボードだから)



――リビング 夕食中

上条・鳴護「「――頂きます」」

上条(あれからちゃっちゃと夕食の支度をしていたら、アリサは帰って来た。特にイベントも起きずに)

上条(スキルアウトに絡まれました助けてー、みたいなイベントが起きんのかと思えば、そういう事もなく)

上条(つーか現実の学園都市とは違って、電車やバスが夜10時ぐらいまで運行してるんだと。当然人の目も多い訳で)

上条(そもそも風紀委員×二人にビリビリが居て滅多な事が起きる筈が――)

上条「……」

上条「――極々一部で『女上条』とも囁かれてる、悉くフラグを踏み抜く柵中のフライングパンケーキさんがね、うん」

鳴護「パ、パンケーキ?食べたいの?」

上条「うん?……あ、いや独り言、かな?」

鳴護「疑問で返されても……っていうか、当麻君お料理上手かったんだねぇ、ビックリしたよ」

鳴護「これだったら当麻君にお手伝いして貰うのもいいかもねー」

上条「んーアリサの見よう見まね、だな。俺はアリサのご飯の好きだしっ!」

鳴護「ありが、とう?ん?んん?なんか上手く言いくるめられているよう、な?」

上条「真面目な話、アリサはしたい事とかないのか?部活でもいいし、委員会とかどうだろ?」

鳴護「急にどうしたの?朝から様子がおかしいんだけど」

上条「……流石に朝のアレで反省したっつーかさ。アリサに負担ばっかかけちまうような、碌でもない兄貴にはなりたくないんだよ」

上条(と、いう建前を前提にして話を進めてみる。アリサに自由な時間を与えた方が、何をしたいのかってのが見えてくるだろうし)

鳴護「うーん、あたしは別に負担だなんて思わないんだけど……」

上条「まぁまぁ。暫くは試しに色々やってみようぜ、な?」

鳴護「むぅ……あ、そうだ、その、違ってたらゴメンね?ゴメンなんだけど、あたしのお部屋、入った、の、かな……?」

上条「あぁ。畳んだ洗濯物届ける時にちょっと。嫌だった?」

鳴護「ううんっ!イヤじゃない、イヤなんかじゃない、けど、その」

上条(あれ?意外に怒られないが、なんか変な反応だよな)

上条(よくある年頃の娘さんの話で聞く、『わたしの部屋に入るなんて信じられない!?』みたいな拒絶じゃない)

上条(うん、やっぱりそこはだな。俺とアリサの信頼関係っつーか、なんだかんだで付き合いも長いしさ)

上条(ましてや今は兄妹だって設定なんだから、当然だよなっ!)

鳴護「えっと……当麻君っ!」

上条「おぅっ!」

鳴護「……下着、あんまり使わないでね?着られなくなるから?」

上条「より最悪の方向で勘違いされてんじゃねぇかっ!?誰だ『信頼されてる』とか言った奴ぁ出て来やがれっ!?」

上条「つーかアリサさんも微妙に理解を示さないで!?逆に居たたまれなくなっちゃうから!」

鳴護「や、別にいいと思うんだよっ!当麻君の女装姿、きっと可愛いと思うから!」

上条「着ねーよ!?なんで着る方向になってんだ、つーかそれはそれで方向性の違う変態だろ!」

鳴護「そ、そうなのかな?だったら何に使うの……?」

上条「え?」

鳴護「え?」

上条「……」

鳴護「……」

上条「――そ、そうだよねっ!世の中には女装が好きな変態さんがいるもんねっ!俺は違うけど!」

上条「そいつはきっと女装したいために女物の服が欲しいんだと思うよ!詳しい事は分からないけどさ!」

鳴護「あ、やっぱり」

上条「俺は違うっつってんだろコノヤロー」

鳴護「えっと、当麻君が着ちゃうと伸びちゃうし。胸回り以外はサイズも小さいと思うんだけど」

上条「えっ?」

鳴護「えっ?」

上条「……」

鳴護「――と、言う事で今度あたしが佐天さん初春さん達と一緒に選んでくるからっ!」

鳴護「きっと当麻君にもメンズブラ似合うと思うよっ!」

上条「なんだその人生の公開処刑。死ぬよね?その面子にお知らせしたら、確実に社会的にも抹殺されるよな?」

上条「多分ビリビリにも情報漏れて、合法的な殺人に発展する可能性すらあるんだからなっ!いやマジで!」



――夜 自室

上条「……ふぅ」

上条(何故かしっかり出ている宿題を片付け、俺はベッドへ倒れ込んだ)

上条(ある意味、世界を救うよりも優先度の高い誤解は解けた……いやー、割と危なかったんだけどさ)

上条(……正直、『レベルの高い変態さんはprprするんですよ』なんて言えない……っ!)

上条(他のご家庭の親御さんの気持ちが少しだけ理解出来たような……主に性教育について)

上条(言いにくいんだよなぁ、やっぱ。男は黙ってても悪い意味で調べるけど、女の子はそうでもない――割に)

上条(可愛い子はマジモンの変態に騙される可能性が高いから、早めに釘を刺して置いた方が賢明ではあると)

上条(つーか何で俺こんな事で悩んでんだ?関係ないよね、本題とは)

上条(……さて、情報を整理しよう)

上条(まず『胸回り以外はサイズも小さい』……つー事は、あれだ?)

上条(平均的な高校生の胸回りよりも、アリサの方が大っきいという事に……!)

上条(つまり!日本全国6000万の男子諸君が憧れるシチュ、『裸に男物のワイシャツ』をもしアリサが実行すればだ!)

上条(何と言う事でしょう!胸の所がたゆんたゆんでパッツンパッツン――って違う違う、そっちじゃねぇよ。何でシモの方へ全力ダッシュしてんだ)

上条(あ、ある意味大切な情報だけど!夢のある話でもあるなっ!)

上条「……」

上条(あー……疲れてんなぁ、俺。正直寝そう、つーか寝たい。そもそも夢の中で熟睡出来るんだろうか……?)

上条(えぇっと……何考えるんだっけ――あぁ情報の整理?つっても大した話が出そろった訳じゃないしなぁ)

上条(家事を手伝うよっつったら、そんなに否定もしなかった。つーか満更でもない感じ)

上条(嫌がってた訳じゃないから方向性としては合ってる……筈、だな)

上条(後は……あぁ望遠鏡の事聞く忘れた。明日でいいか)

上条(星、星ねぇ?そんなにアリサが詳しいイメージはない……と?)

上条(あーっと『ポラリス』だったっけ?ファースアルバム、ケータイで調べてっと) ピッ

上条(何々……『ポラリス (Polaris) は、こぐま座α星、こぐま座で最も明るい恒星で2等星。現在の北極星である』か)

上条(ここでまたセレーネに関するアレコレが出てきたら、超イヤんな感じだったが、そんな事もないと)

上条(あーでも、こぐま座ってギリシャ神話から取られてんだっけか?……いやでも、熊だぜ、熊?月の女神と関係がある筈が――) ピッ

上条(『詳しくはおおぐま座を参照』……対になってんのかな?) ピッ

上条(『森のニンフにカリストという活発な娘がいた。大神ゼウスがカリストに恋をし、
二人の間にアルカスという男の子が生まれた』)

上条(『これを知ったゼウスの妻のヘラは怒り、カリストを恐ろしい熊へと変える』)

上条(『やがてアルカスは立派な青年に成長し、ある日彼が獲物へ向かって弓を引く。それは熊にされた自身の母親、カリストだった』)

上条(『これを見たゼウスは驚き、矢がカリストを射殺す前に二人とも天へ上げて星座とした』)

上条(『母親カリストがおおぐま座、、息子アルカスがこぐま座。母は慕うように息子の周囲を回転する』か、酷い話だが、まぁ神話ってそんなモンだよな)

上条(この場合、ポラリスはこぐま座、息子の狩人の方だな――って何だ?まだ続きがある?)

上条(『※一説にはカリストは女神アルテミスの侍女でありながら純潔を破ったため、アルテミスが罰として熊に変えた』……)

上条「……」

上条「……もう、寝よう……」



――零れ堕ちそうな満月の下

 一面に咲くアネモネ――『アドニス』とも呼ばれる花畑。地平の果てまで続く緋色の絨毯。
 ただ二人、染みのように花園を穢すのは年若き男女。
 横たわった少年は青ざめた光に照らされ、物言わぬ骸を彷彿とさせ――。
 ――また彼の側に寄り添い、少々硬めの髪を撫でる少女は、誰に聞かせるでもなく呟く。

「わたしはずっと、あなただけを考えているから」

「喜びよりも、悲しみよりも、ただあなたの事だけを想っているから」

「――だから、大丈夫」

 呟きは闇に溶け、風は静寂を運ぶ。アドニスが身じろぎでもしない限り、それらは破れる事もなく。

「ありがとう――当麻君」

「”わたし”を探しに来てくれて――」

「――”捕らわれて”くれて、本当にありがとう」

 花々は匂い立つばかりに咲き誇る。ギリシャでは『冥府の花』とも呼ばれる、その花言葉は迷信じみている。
 記憶に無い筈の、到底知りようもなかった知識が少女の口から語られる。

「『儚い夢』、『薄れゆく希望』、『暫しの恋』、『真実』、『君を愛す』……そして」

「『嫉妬の為の無実の犠牲』……うん、そう、だよ。きっと、これは、そうなんだと思う」

 天空に浮かぶ月はその姿を変ず、見渡す限りのアドニスの園へ足を踏み入れる者も居らず。
 静寂と静謐、痛々しいまでの沈黙が支配する場で、少女はただ飽きるでもなく少年の髪を撫で続ける――。

「大好きだよ、ずっとずっと側に居るから、ね」

 ――終わる事のない『幻想』の中で少年は微睡む――。

「……当麻君」

 ――そう、世界が終わるまで。ずっと。



――朝

鳴護「頂きます」

上条「はい、召し上がれ――と、俺も頂きます」

カチャカチャ

鳴護「……むー……」

上条「何ですかアリサさん?朝からムームー言ってオカルトか?」

鳴護「……何だろうね、味付けから調理まで、あたしレベルを追い抜いてるって言うかな」

鳴護「こう、お母さん的な熟練度と手際の良さを感じるんだけど……練習でもしてた?」

上条「ふっ、まさかの才能があったって事だよなっ!」

鳴護「……家事の?」

上条「……無いよりはいいんじゃないですかね。無いよりは」

鳴護「そりゃあった方がいいとは思うけど……うんっ!素敵な才能だよ、ね?」

上条「HAHAHA!!!微妙に空気読んでんのがイラっとすんなチクショー!心遣いは有り難いけどもだ!」

鳴護「ていうか当麻君は女の子のフラグ関係に全部の運を遣ってるよね、割と本気でそう思うよ」

上条「止めろ!前にも言ったが俺の人生をキャラメイク失敗した残念な子みたいに言うんじゃねぇ!」

鳴護「……前に言われたんだ、それ?」

上条「……あぁっ!」

上条(――さて、会話の内容から分かって貰えた――筈はねぇだろうな、と思うが!なんでこう穏やかにメシ食ってるのかと言えばだ!)

上条(まぁ……なんだ、結論から言えば『イベントが起きない』んだよ!)

上条(ここへ来てから今日で三日目の朝、アリサとの極々フツーの日常生活をしているだけだ。いやホントに)

上条(スタバへコーヒー買いに行ったり!夜のコンビニへチーズ(※パルメザン)を買いに行っても何も起きない!)

上条(ていうかアレは市内で女子高生殺人事件が起きたのに、フラフラ出歩く新約のオマージュだよ!突っ込んだら負けだし!)

上条(……や、まぁ?平和なのはいい事だ、いい事なんだけども……その、平和すぎてどっから切り込んだもんか、って悩みがだな)

上条(試しにアリサへ話を振ってみよう。割とストレートに)

上条「あー、アリサ。お願いがあるんだけど」

鳴護「はい?」

上条「――俺と一緒に帰らないか?」

鳴護「ん、いいよー。それじゃ校門前で待ってる?それとも当麻君の教室まで行こっか?」

鳴護「当麻君んトコのホームルーム長いんだよねぇ。小萌先生は人気あるんだけどさ」

鳴護「あ、でも吹寄先輩が『二バカが脱線させるからねっ!』って言ってたよ?当麻君も反省しないと」

上条「あれ!?その設定ってこっちでも有効なの!?」

鳴護「せっ、てい?」

上条(――お分かり頂けただろうか?大体こんな感じだ。マジボケで返されてるのか天然なのかよく分からん……両方かもだけど)

上条「違うんだ!これきっと敵――」

鳴護「あーでもなー、今日から学園祭の出し物の打ち合わせする、みたいな事言ってたから」

鳴護「予定変わりそうだったらメールするね?」

上条「最近俺のボケをスルーするようになってきたよね?……てか学園祭?一端覧祭じゃなくて?」

鳴護「イチハナ――うん?」

上条「あぁいやいやこっちの話」

上条(って言う間にイベントだよな、これ)

上条「何するんだ――ってのを決めるのか」

鳴護「だねぇ。佐天さんはお化け屋敷、初春さんは食べ物屋さんがしたいんだって」

上条「佐天さんは想定内ではあるんだけど、初春さんは予想外だなっ!」

上条「……あー、けどそうでもない、のか?なんだかんだで風紀委員やってるし、運動量は凄いだろうから結構食うのか?」

鳴護「ゆ、友情は裏切れないよねっ!」

上条「うん、その反応で大体分かったわ。別に良いと思うけどさ」

鳴護「当麻君達は決まったの?」

上条「まだ話も出てない……んが、まぁ屋台辺りに収まるんじゃねぇかなぁ、多分」

鳴護「文化祭で屋台なの……あ、クレープとか?」

上条「――ま、どうせやるんだったら楽しみたいからな」



――空き教室 授業中

上条(まぁ……何だ。事態はこれっぽっちも前に進んでない訳だわな、これが)

上条(流石に三日も居るとこの世界のルールらしきものは何となく把握してる。把握だけだが)

上条(基本的にループしてるんじゃなく、”XX年XX月XX日”みたいな、季節無視した毎日が続いている)

上条(どこかでまた振り出しに戻るのか?それとも螺旋のように終わらないのか?)

上条(……結末の定められているテレビみたいに、いつプッツリとスイッチが切られてもおかしくはない……と、いう以前の問題で)

上条(”あっち”では時間の流れこそ違うが、今も戦ってるのは間違いないんだ、それは)

上条(……だが、”こっち”の世界で俺が出来る事は限られている。つーか白旗上げたいぐらいに全っ然分からねぇし!)

上条「……」

上条(魔術サイドの流儀を学ぼうにも、今から図書館へ行ったって間に合わない。つーか役に立つモンが置いてある可能性も無いだろうし)

上条(よくある、”テスト前になってあん時勉強してりゃ良かった!?”みたいな。同レベル括るのもどうかと思うが)

上条(……つーかさ、フイクションだったらこんな時、都合良く『実は○○は××だったんだよ!』的な解説キャラが現れてくれる筈なんだが)

上条(……残念な事に、夢っぽい感じでもフィクションには違いないと……俺もヒーローって柄じゃねぇしな)

上条(何でも一人で解決出来て、誰も傷つけずに悪者だけ倒してくれて、超絶頭が良くてモッテモテの……)

上条「……」

上条(……考えるだけでヘコむなっ!何とか俺にも分けてくれませんかねっ!特に最後の所なんかねっ!)

上条(――と、まぁ愚痴ってはみたものの、無いものは仕方がない)

上条(確かに”図書館”は無いし、魔術サイドの流儀――特に龍脈どーたらに詳しい奴が都合良く教えてくれる、なんてご都合主義も起きる訳がない)

上条(――突然だが『この世界はアリサが造っている』と仮定しよう)

上条(この高校も土御門B達も、アリサがそう望んだから――”居る”と思っているから、こうして現実の設定をほぼ踏襲してる)

上条(でもその”設定”、土御門のキャラやら持ってる知識は、絶対にアリサが知りようのないものだった……と、すれば)

上条(『やっぱり龍脈の記憶に接続して、土御門Bの情報を得ている』んじゃねぇかなと)

上条(あー、アレだ。大分前に先輩からプラプラ?みたいな名前のプログラムの話を聞いたんだよ)

上条(そのプログラムではオブジェクトなんとか?って方式を取ってるらしくて、データを一元的に管理してるんだと)

上条(RPG作るとして戦闘シーンでの敵のHP変えたら、他のデータ――例えば敵図鑑や仲間にした時のHPも一緒に変更してくれる、みたいな)

上条(また逆に独立させるのも出来るらしいんだが……まぁ意味は分からないんだけどねっ!それはともかくっ!)

上条(アリサが、というかこの世界に『龍脈に置いてあるデータを元に造られた人間』が居るのは確定だと思うんだよ。誰が創造主役なのかはさておき)

上条(だとすれば俺も、俺が龍脈を扱えるのであれば同じ事が出来る……筈!多分!きっと!)

上条「……」

上条(……ただなぁ、”誰”を呼ぶかってのが、なぁ?)

上条(一連の事件に頭っから突っ込んでるのは『新たなる光』の四人)

上条(詳しそうなのはマタイさんにレディリー……ただ、二人ともアリサとは顔見知り程度であって親しくはない)

上条(んで、もふもふinマーリンさんも役に立ちそうなんだが……そもそも『アリサはマーリンの存在自体知らない』ワケで)

上条(……なんでこうアリサとの関係性を気にするかと言えば、やっぱりここは彼女の夢だと思うんだよ、俺は)

上条(そんな所へ、『今まで顔も知らないorあまりよく知らない第三者』を無理して呼べるんだろうか……?)

上条(そうすると……まぁそもそも少ない選択肢が、更に限られていくんで……気が進まない)

上条「……はぁ」

上条(つってもな、時間も無いし、進展もない以上遊んでる訳にも行かない――よし!)

上条「『右手』……こおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉ……ッ!!!」

上条「龍脈よ!俺の希望に!俺に力を貸してくれっ!」

佐天「……」

上条「頼む!『幻想殺し』!俺は、俺はっ!アリサの幻想をぶち殺さなくちゃならないんだよっ!」

佐天「……」

上条「だから”アイツ”を!嫌で嫌で仕方がないけども!”アイツ”を呼ぶのを手伝っ――」

佐天「……」 パシャッ、ピロリロリーン

上条「――て、欲しいんですけど……?」

佐天「あ、ゴメンゴメン?気にしないで、続けて下さいな、ね?」

上条「何やってんだぁあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!?棚中のふなっし○!?」

佐天「あ、今スレ立ててるからちょいお待ち下さいなっ!」

上条「待って?!本気でシャレにならないからそれ!炎上した挙げ句本人特定されちゃうから!」

佐天「【この画像格好良くしてくれ】K上T麻△100【もう格好良いだろ】」

上条「やめろよぉ!俺はもう半泣きなんだから追い打ちすんなよぉ!」

上条「てゆーかそのスレ100まで続いてんのか!?どんだけ俺注目されてんだよ!」

佐天「ナイス空回りwwwwww」

上条「佐天さんそのぐらいに、ね?それ以上はいい加減俺の男女平等パンチが捗るっていうかさ」

上条「つーかなんでこんなとこに居んの?絶対痛々しい感じになるだろうから、わざわざ授業サボってやってんのにだ!」

上条「ある意味俺の坂張りみたいな剛運で!どうして最悪のタイミングで来やがった!?神様に愛されてるにも程があるわっ!」

佐天「いやいや、違うでしょー。そっちから呼んどいてなんつーか言い草ですか」

上条「呼んだ?……待て待て、俺が呼ぼうとしてんのは佐天さんじゃない――」

佐天「分かりましたか?理解出来ましたか?」

上条「――お前、誰だ?」

佐天?「私は常に悪を欲し、却って常に善を為す、彼の力の一部です」

上条「……?」

佐天?「やぁ、久しぶりですねランドルフ!相変わらず銀の鍵を探しているのかな?んん?」

佐天?「賢人バルザイですら届かぬ極みへ、死して夢見る邪神のねぐらへようこそ!歓迎はしませんが、ゆっくりしていきなさいよ!」

上条「この――ワッケ分からん気狂いの台詞――お前はっ!」

アルフレド(佐天?)「やぁカミやん、私を呼ぶだなんて何かいい事でもあったんですか?」



――空き教室

上条「どうして佐天さんの外見してんだよ!?魔術か!?あとキャラも何か違うし!?」

アルフレド「待て待て待て待て。そんなにいっぺん聞かれても答える口は一つだけなんだから」 ピツ

上条「その割には悠長にアップローダへ画像上げてるよね?些細な嫌がらせに手を抜かねぇな!」

アルフレド「まず最初の疑問から答えるとだ――『オブジェクト指向はそんなに万能じゃない』」

上条「そんな話はしてないよ!何かちょっと通っぽく言ってみたかっただけじゃんか!」

アルフレド「――ま、ここはおっかねぇ下乳魔神に監視されてねぇから、好き放題出来るっつー話なんだが」

上条「下乳魔神?」

アルフレド「この姿は俺用のグラフィックが存在しねぇから借りたんだよ。ほら、なんつーの?」

アルフレド「昔のゲームで色変えた敵が出て来るよな、アレと同じで」

上条「なんだその超ゲーム理論。ソフト解析したら、画像入ってなかったみてぇな話じゃねぇか」

アルフレド「正解!カミやんにはみんな大好きJCの自撮り写メをプレゼント!」

上条「佐天さんの外見使って遊んでんじゃねぇ!あと修飾語が多分間違ってるわ!」

アルフレド「あ、エロいこと考えた?でもこの姿、制服の下は再現されてないから、脱げねぇんだわ」

上条「……頭痛い……」

アルフレド「あとやっぱ術者――この場合カミやんの力&イメージ不足だわな。”ここ”へ介入するんだったら、もっと強引にしないと」

アルフレド「つーかさ、何で俺よ?カミやんには愉快の仲間達が一杯居るんじゃんか?」

アルフレド「魔導図書館に魔導書解析のプロ、他にもアンブロシア食った巫女さんハァハァ差し置いてさ?」

上条「巫女さんに余計なオプションつけんじゃねぇよ!気持ちは分からないでもないが――あー、その、なんだ」

上条「インデックスに――とは、最初に思ったんだが、今回の事件の当時者じゃないだろ?」

上条「実際にお前らと戦った経験でも無いし、龍脈云々の話もマタイさんやレディリーから聞いた訳でも無いし」

上条「お前らの情報だけ渡されて『はい、きちんと判断してくれ!』っのは無茶振りが過ぎる」

上条「だったら……まぁ、現在進行形で敵だとは言え、事件の中核から何から知ってるお前から話訊いた方が早ぇだろ、と」

アルフレド「――成程、交尾だな?」

上条「違うっつってんだろバーカ!ボケる回数が外見に引っ張られてんぞ!つーかいい加減元の姿へ戻れよ!」

アルフレド「え、女子中学生嫌いか……ッ!?」

上条「好き嫌いの二択で言ったら好きな方だが、絶対にお前の”好き”って意味じゃない」

アルフレド「俺が本当の事を言うって保障は?そもそも敵味方で協力してやる義理もねぇ筈だわな」

上条「そりゃお前、『夢』だからだよ。ここは」

アルフレド「ふむ」

上条「だから『俺の目の前に居るのは本当のアルフレド=ウェイトリィじゃない』んだ」

上条「この世界に居る土御門Bや小萌先生達みたいに、『龍脈の記憶から再現した存在』なんだよ」

アルフレド「ふむふむ」

上条「そして何よりもここ、『夢』みたいなもんだ。多分アリサに管理者権限がある世界」

上条「その世界へ介入出来るのは実証済みだし、何よりも”こうやって”お前を再現出来ている――つまり!」

上条「ある程度の縛りをこっちで『そうなる』って思っちまえば、お前は好き勝手出来ない!どうよ!」

アルフレド「俺もこの夢に出ているNPCで、カミやんの都合の良いように動け、って事な?了解了解」

上条「俺自体に龍脈を読み込んで、知識を得る力は……多分あったとしても使いこなせはしないんだろうしな」

上条「なんかこう、一発逆転みたいな感じで『試してみたら出来ました!』みたいな展開有りっこないんだよ!少なくとも俺の人生においてねっ!」

アルフレド「荒んでんなーカミやん。まぁ言いたい事は尤もだし、その通りだと思うがさ」

アルフレド「……つーか”本人がそう思い込”んじまったら、”それが現実に反映する”特性持ってる以上、ネガティブな思いは負の連鎖へ繋がるんだが……」

上条「だからこうして専門家をお呼びしましたっ!どうだっ!」

アルフレド「カミやんさ、今自分が何言ってるか分かってるか?」

アルフレド「難しく言えば『友情パワー』、簡単に言えば『丸投げ』だからな?」

上条「……いやぁ、一人解決できることなんてたかが知れてるじゃん?」

アルフレド「や……まぁ、やれって言うんだったらするけど……いいか」

上条「――と言う訳で!キリキリ答えて貰おうかっ!嘘は吐くなよっ!」

アルフレド「あー……最初に断っとくけどさも、どこまで行っても『俺は俺の知識しか持ってねぇ』んだよ」

上条「はい?」

アルフレド「なんつーかさ、今NPCやってっけども俺オリジナルの持ってる知識量を超えたりはしない――あー、写本みたいなもんか」

アルフレド「原書をどんだけに忠実に写そうが、オリジナルを越えた知識は無い、みたいな感じで」

上条「あぁ――待てよ、そしたら土御門Bの情報が古いのはどうしてだ?」

アルフレド「最新verだと都合が悪い――この場合、夢の持ち主にとって――情報でも抑えてんじゃねーの?だから無意識的に古い奴を引っ張ってきた」

アルフレド「ま、”龍脈に情報を更新出来ない状態”になってるだけかもしれねぇが――次」

アルフレド「テメーで言うのも何なんだが、俺達は今敵味方になって戦ってるわな。元々仲良しって関係でもねぇ」

アルフレド「だから嘘が吐けないとしても、都合の悪い情報を隠したり、言うべき事を言わなかったりすんのは可能なんだよ」

アルフレド「――つーか、まぁ?”そっち”はむしろ俺の得意分野だし?正直、負ける気がしねぇんだわ」

アルフレド「カミやんには人選からやり直すのをお勧めするぜ。マーリン辺りで手ぇ打っといたらどーよ、あぁ?」

上条「あぁ分かってる。伊達にバードウェイや土御門に鍛えられてはない」

アルフレド「あん?」

上条「お前が言った説明――『本当の事を全て言わない』のは、今言った台詞にも該当するんだよな?」

上条「例えば――『お前らにとって都合が悪い事を話したくない』んで、”他の奴から聞いてくれ”みたいな?」

アルフレド「……そうだぜ。それも当然含まれてんだ――が、正直”そっち”を全部バラせって命令はお勧め出来ねぇんだ」

アルフレド「何だったら試してみ?ウチの幹部連中の正体バラせー、的な感じに」

上条「それじゃお言葉に甘えて、『団長』は」

アルフレド「――正式名称トゥトゥ=アンク=アムン、俗称ネフレン=カ。俺の眷属の一柱だわな」

上条「とぅとぅ?」

アルフレド「日本じゃアレだ、ツタンカーメンっつー名前で呼ばれるエジプトの王様だぁな」

上条「……おい、『嘘は吐けない』つってんのに嘘全開じゃねぇか!」

上条「映画にマンガで引っ張りだこの超有名人が、どうして魔術結社のボスなんかやってんだよっ!?」

アルフレド「いやいやマジで!本当なんだってば!最期まで聞けよ、なっ?騙されたと思ってさ?」

上条「騙された、っつーか騙す気満々としか……」

アルフレド「いやー、なぁ。アイツもあぁ見えて苦労してんだわ。なんつっても有史始まって以来の宗教改革を断行した王様なんだから」

上条「ツタンカーメンがか?」

アルフレド「あいつの、トゥトゥの時代にゃ神官共がつえー勢力を持ってたんだわ。アテン信仰、太陽神信仰の一派なんだけども」

アルフレド「で、トゥトゥは別口のアメン神を持ち上げて、生臭共から権力を取り上げようとしたんだが――見事に失敗」

アルフレド「挙げ句にその二代後、ホルエムヘブ――当時将軍だった野郎が王女を娶り、トゥトゥの親父さんの代から存在自体を抹消しやがった」

アルフレド「ここら辺の逸話がまさに『暗黒のファラオ』つー話になって、いつの間にか『忌々しい生贄の儀式をした!』噂が一人歩きしてんだが……」

アルフレド「……皮肉にも歴史から存在を消されたお陰で、盗掘の被害に遭わずに済んだ、って面もあんだよ」

アルフレド「そのせいで世界一有名なファラオになったんだから、人生ってヤツぁわっかんないもんだねぇ」

アルフレド「ちなみに俺的な解釈としては、アメン神の”父親”――つまり『神の父』扱いにして、”神父”という呪的意味を持たせている」

アルフレド「『存在自体が”ない”神父』なんて、笑っちまうよなぁ、なぁ?」

上条「……」

アルフレド「なぁカミやん、そんな訳でだ、そんな訳でさ」

アルフレド「分かったかよ?理解出来たかよ?”俺達”サイドの話をさ?」

アルフレド「どこが真実?どれが事実?俺が嘘を吐いてないって言う証拠は?」

上条「分かる訳――ねぇだろ!そんなものがっ!?」

アルフレド「あぁ細かい証明や説明しろっつーんだったら、俺はするぜ?イジワルしてる訳じゃねぇんだからな、そこは」

アルフレド「折角こっちへ来たんだ。何分でも何時間でも何日でも何年でも、カミやんが魔術の秘奥を納得するまで懇切丁寧に教えてやんよ」

アルフレド「俺って優しいよなぁ?よくクリストフからも言われるよ、『良い性格してますよね』って」

アルフレド「でもな、けどな、そうするとな――”あっち”で待ってる連中はどうなるんだ?間に合うのか?なぁ?」

上条「……」

アルフレド「――っていうか上条当麻さんよぉ、あんまり”俺”を舐めてんじゃねーぞ?あぁ?」

アルフレド「嘘を吐けないからって騙す方法なんぞ腐る程あんだよ。分かるか?引っかき回す方法なんてもんはな」

アルフレド「俺に勝ちたいんだったら、対情報戦のスペシャリスト『明け色の陽射し』か、似たような存在である『木原』でも連れ来やがれ」

アルフレド「たかだか16、7年の人生程度じゃ力不足にも程がある」

アルフレド「そもそも、第一、前提からして”これ”はどういう事だと思う?俺は今何を言っているんだ?」

アルフレド「俺がわざわざお前を挑発するような事を言ってる――”この”事象はどういう目的があると思うんだ?なぁ?」

アルフレド「怒らせて意固地にさせて俺の話を吹き込むため?それとも善意の忠告?もしくはただの時間稼ぎって線もあるな」

アルフレド「そもそもの前提、『俺が正気だって』証明が誰がしてくれるんだ?狂人の妄想である可能性は否定出来ないよなぁ?」

アルフレド「他にも”俺”がお前の創造物だって証明は誰がする?オリジナルが乗り込んで来た可能性だってあるだろうに」

アルフレド「つーかアリサから目ぇ離してていいのかよ?今こうしている間にもショゴスの群れが向かって――」

上条「――いや、だからな。アルフレド=ウェイトリィ」

上条「お前が親切で言ってるのか、それとも何か悪っるい計算で言ってるのか。その判断は俺には多分つかないと思うんだよ」

上条「こちとらただのケンカ慣れしただけの高校生だ。人の顔色伺って真偽見極める何て芸当、出来る訳がねぇさ」

上条「確かに俺一人で聞いたんだったら、嘘吐けない条件だって騙されるかも知れないな。それは」

上条「……でも、問題は、つーか論点はそこじゃないんだよ」

上条「俺が大事にしているのは『アリサを助ける』事だ……あぁ勿論世界も助けたいけどな……何つったらいいのかな、えっと……」

上条「『蜘蛛の糸』って分かるかな?日本文学だから知らないか……」

アルフレド「天界から神が罪人助けるために縄を垂らすんだろ?類型フォークロアに”地獄のニンジン”があるから知ってる」

上条「何その民話スッゲー興味ある……が、そうじゃなくてだ」

上条「今、俺は”そういう”状態なんだよ。周り見渡しても完全アウェイでどうしたらいいのか分からない」

上条「そこへ助けになる”かも”知れない糸が降りて来たら、それが細かろうと、茨で編まれてようが掴むよな?」

上条「ただ、それだけの話なんだよ」

アルフレド「……」

上条「……つーか、どうなんだろうな?俺のイメージ次第では『協力的なアルフレド』みたいな設定も出来る筈……か?」

上条「まぁ、あんまり愛想が良くても胡散臭いか。そうだよな」

アルフレド「………………クク」

上条「お?」

アルフレド「カハハハハハハハハハハハハハハッ!そうだぜっ!それでいいんだよカミやんっ!そうでないと困るっ!」

アルフレド「質問が悪かったのだなランドルフ!……あぁ、あぁ!否だ!お前はランドルフなどではなかった!」

アルフレド「あのせせこましい旅人でないのかっ!……クク、そうか、そうだなっ!貴様はオルフェウスだ!正真正銘のな!」

アルフレド「恋人の記憶を弦にして妻恋歌を奏でる楽師!神秘学の入り口でもたついたあの間抜けとは違ったか!アッハハハハハハハハハハハハハハハハハハっ!!!」

上条「大丈夫か、お前……?」

アルフレド「あぁこれだから!これだから私は貴様達を見捨てられないんだ!」

アルフレド「この忌々しく愛しい可能性――『銀の鍵』がっ!『耀くDeltoidal icositetrahedron』を持った少年よっ!」

アルフレド「暗黒の産んだ驕れる奇跡は妣の闇夜と古い位階を争い、空間を搾取しようとする!」

アルフレド「ただし幾ら骨折ってもそれが出来ぬのは、奇跡が捕われて物体に粘り着いているからだ!」

アルフレド「物体から流れて物体を美しくし、そしてその行く道は物体に妨げられる!」

アルフレド「あれでは私の見当だと奇跡が物体と一緒に滅びてしまうだろうよ!遠からぬ内にな!」

上条「……?」

アルフレド「ならば止めて見せろよ少年よ!魔神に穢された世界を存続させる未来があっても構わないだろう!」

アルフレド「この『無――」

プツッ、ツーッ、ツーッ、ツーッ、ツーッ、ツーッ………………



――空き教室

上条「……」

アルフレド「――おーいカミやん。聞いてるかー?おーーーいっ!」

上条「――お、おぅ?寝てませんっ!起きてますっ!」

アルフレド「先生に指されたんじゃねーよ。つーか人が折角気分良く話してんのに爆睡しようとするのって、人間的にどうなんだ?えぇ?」

上条「ご、ごめん……?いやでも今」

アルフレド「俺もヒマじゃねぇ――事も、ねぇけどさ、カミやんの時間は有限なんだから、有効に遣った方がいーんじゃね?」

上条「お前は違う、のか?」

アルフレド「さっきも言ったが、”今の俺はNPCと一緒”なんだわ。例えるならばRPGで『○○村へようこそ!ゆっくりしていってね!』つってんのと同じ」

アルフレド「だからこっちの世界で悪さしようとしても出来ない――に、プラスして容量が足りない」

上条「さっきも言ってたな。バッファがどうとか」

アルフレド「幾ら龍脈の力を遣えるからっつっても、無限に行使出来る訳じゃない……ま、一見すると無限に近い有限の枠はあるんだが」

アルフレド「それでも”無意識”にアレもコレも出来るような、片手間でどうにかなるようなもんじゃねぇよ。流石にな」

アルフレド「少なくとも『夢』って形で、テメーに都合の良いように形作ってるなんざ、必要最低限の行使すら”出来てない”んだ」

アルフレド「その証拠に”上条当麻が世界の強制力を受けつけていない”んだし」

上条「俺が?」

アルフレド「分かりやすく言えば、今カミやんはこの夢の持ち主にとって都合の悪い事をしている訳だ。無理矢理目ぇ覚まそうってな」

アルフレド「でもそれは本人が望んでいる訳じゃない――だから本来ならば『強制力』が働いて、そんな事出来なくされられっちまう」

上条「……随分協力的だな」

アルフレド「そこは”上条当麻がそう設定した”んだろうぜ?俺は特に他意はねぇが――ともあれ」

アルフレド「俺の場合も”上条当麻がそう設定した”以上、この教室にこの姿で縛られるんだよ」

アルフレド「だからまぁ、質問があれば随時受け付けるが……何度も言うように、俺はお前に協力してやるつもりはない」

アルフレド「そこら辺を覚悟したんだったら、幾らでも頼ってくれても構わないんだぜ?」

上条「……上等!こっちは折角掴んだ解決への筋道なんだ、離してたまるかよ!」



――空き教室

上条「――じゃ、核心から聞かせて欲しいんだが」

上条「こっちの世界、つーか”冥界”っておかしくねぇかな?あぁいや、実はこんなモンでしたーって話かもしんないけどさ」

上条「俺が想像していた”冥界”のイメージとは大分違うし、そこら辺はどうなってんだ?」

アルフレド「あ、見て見てカミやんっ!女子が校庭で大縄跳びやってるっ!」

上条「聞けよテメェ!人が折角『時間が無いんだったら巻きで行こう!』って気にしてんだからな!」

アルフレド「やっぱアレじゃんねー?『女子にはブルマしか認めない!』みたいな派があるらしいけど、俺はハーフパンツ派だわ」

アルフレド「てかブルマ見た事無い奴が殆どだっつーのに、フィクションでこれでもかとブルマ押しは何なんだろう?」

上条「だから聞きなさいよっ、ウェイトリィ兄弟のアホ担当の方っ!」

アルフレド「ん?……あぁすまん。少し興奮しちまったぜ」

上条「何か『取り乱しました』みたいに言ってるけど、字面通りの意味で変態だからな?」

アルフレド「みんな大好きっJCっ!いえーいっ!」

上条「佐天さんの顔と声で言うなっ!佐天さんはこんな事言わない――かも知れなくもないかも知れないがっ!」

上条「――ってJC?ここ高校だぜ?」

アルフレド「中高一貫校だからじゃねーの?日本だと都市部の土地高いってんで、他の学校と共同で使うトコもあるらしいぜ?」

上条「いやだからなんでお前が日本の教育現場を知っているのかと」

アルフレド「お、アリサちゃんだわ。おっぱい揺れてる」

上条「え、マジで?」

アルフレド「あ、ほれ。今跳んでるピンク髪のポニテてんんてポニテもいいよなぁ」

上条「あー……あれ?」

鳴護『……!』

佐天『……!?』

アルフレド「どしたん?」

上条「あーいや、今アリサがジャンプしてる時さ、こう両手を胸の前へ持ってきて、グッ!ってしてるよな?」

上条「こう、ちょっとしたボクサーがガード固めるみたいに、拳を握って方ぐらいの高さで持っていく、カンジの」

アルフレド「昔風に例えると”ぶりっこのポーズ”……知らねぇか。知らねぇだろうなー、それじゃ」

アルフレド「今風に言えば『ファイトだ!まだ戦えるだろ!』っつってる松岡修○のポーズだわな」

アルフレド「『コロンビア!』の腕伸ばす前でも通じそうだが……それが何よ?」

上条「よく見てみれば、たまーに他のコも似たようなカッコして跳んでるし、あれって何か意味あんのかな?」

アルフレド「あー、それ……何つーか、聞きづらいトコに気づくよな」

上条「いや、それほどでも」

アルフレド「褒めてはねぇ、ねぇんだが。あー……」

上条「ヒントっ」

アルフレド「『新たなる光』だとレッサーちゃんとベイロープちゃんはする、他はしねぇか。する必要が無ぇっつーかな」

上条「……んん?」

アルフレド「俺の知ってる範囲で言えば……禁書目録はしない、御坂美琴もしない、木原円周もしない」

アルフレド「”する”のは『必要悪』の魔導書解析シスター、同じく聖人サムライガール」

上条「なんだそのナゾナゾみたいなのは……?」

アルフレド「『新たなる光』のボスさんはしない。噂じゃぼんっきゅっぼんっ!らしーんだが、俺のナイアが違うと囁いてる」

上条「どこ情報?ガイアも大概だけど、ナイアさんって誰?つーかボスも情報操作杜撰すぎやしません――か」

アルフレド「分かったかい?」

上条「まさか――サイズ、か?要はおっぱいのっ!?」

上条「いやでもしかし、それと両手を”ぐっ”てするのと因果関係があんのか……?」

アルフレド「――ンンンンンンンっ!正解っ!」

アルフレド「考えてもみろっ……おっぱいは――揺れるんだよ……ッ!!!」

上条「あん?そのぐらいは誰だって知ってるわっ」

アルフレド「……そうだな。それは、そうさっ!ある意味世界の真理でもある――だが、それ故にだ!」

アルフレド「”おっぱいがたゆんたゆんすればする程、女子にとっては運動が困難になる』んだ……ッ!」

上条「それが――まさかっ!?」

アルフレド「そう、その通りだよ『幻想殺し』!陸上女子を筆頭に一流アスリートには中々巨乳は居ないっ!」

アルフレド「何故ならばそれはデカすぎる女性の象徴が、運動する時は邪魔になるためだ!」

上条「すると?」

アルフレド「――つまり、女子が胸の前で”ぐっ”てしてジャンプするのは、おっぱいが不必要に揺れるんでっ!」

アルフレド「こう、左右から寄せて上げて押さえる事によって弾まないようにしているんだよ……ッ!!!」

上条「な、なんだってーーーーーーーーーーーーーーっ!?」

鳴護『……』

佐天『……』

アルフレド「……」

上条「……」

アルフレド「……なぁ、カミやん?」

上条「……なんだよ」

アルフレド「キス、しよっか?」

上条「なんでだよっ!?どの流れでそうなるっ!?」

アルフレド「いや折角二人っきりだし、何となく流れでさ」

上条「鏡見ろ変態。テメー今誰の皮被ってやがるっ!」

アルフレド「それだっらたカミやんも俺と同じだなっ!」

上条「違うよ?違うからな?一体何の事だか分からないけど、違うと思うよ、うん」

上条「もしも仮にそうだとしてもだな、日本人男性の約7割がですね」

アルフレド「いいじゃん別に。一回だけ、一回だから、なっ?」

上条「しねーよ!そもそもお前ヤローじゃねぇかよっ!?」

アルフレド「あ、もっとロ×の方が良かった?ごめんなー」

アルフレド「ただこれ以上ロリ×リっとした体型となると、名無しのモブしかいねぇけど――それでも良いかな?」

上条「良い訳がねぇな?一体どこの世界で『そ、それじゃヨロシク!』なんて言い出す奴がいんだよ、あぁ?」

アルフレド「21世紀の日本では『男の娘』ってジャンルがだな」

上条「ウルセェよ!現代日本のある意味病巣を全体の縮図であるかように語るなっ!」

アルフレド「つーか別に俺は好きでこの格好してるんじゃねーぞ?カミやんのイメージ不足で『龍脈』の力を扱いきれなかったのが、”第一”の原因」

上条「だからって幾ら何でも佐天さんの姿になんなくっても……?”第一”?」

アルフレド「あの子もまぁ、俺と特性が似通ってんかんなぁ。『幻想殺し』の亜種と言えなくもねぇ」

上条「佐天さんが?」

アルフレド「俺の推測だが……例えばコイン投げて表が出る確率は50%、2分の1だわな」

アルフレド「裏が出るまで連続してコイントスする実験を、そこいらの通行人にやって貰ってーの」

アルフレド「10回連続で表が出る確率は1024分の1、つまり1024人に1人出ればラッキーでーすねHAHAHA!!!」

上条「要点を言え、要点を」

アルフレド「だからアレだ。コイントスして10回中10回表を出す奴が居るんだよ、可能性だけは」

アルフレド「それと同じく、あの子――つーか、この子も確実にフラグ踏み抜く体質じゃねぇのか」

アルフレド「『立ち入り禁止』の立て札がついてる建物へ入るバカは居なくはない。確率的には近所のガキから肝試しまで結構居るだろう」

アルフレド「ただ、そん中で10回全部表出す奴は、他の所でトランプ引いたら100%ジョーカー掴むって話だよ」

上条「ある意味俺と同じだよなー……不幸が重なる不幸体質」

アルフレド「ま、嘘なんだけどな!」

上条「嘘かよっ!?意味の無ぇ嘘吐くなよ!」

アルフレド「いいやぁ、意味はきちんとある。その証拠に、ホレ」

キーンコーンカーンコーン、キーンコーンカーンコーン

アルフレド「な?」

上条「時間稼ぎかチクショーっ!?てかする意味あんのかよ?」

アルフレド「知らね。個人的な嫌がらせだし」

上条「お前さっきから――」

アルフレド「ま、いつでもココでスタンバってるからゆっくりしてきてねっ!その間に世界が終わってるかもだけど!」

上条「……ここに居るって言ったら?」

アルフレド「好きにすりゃいいんじゃね?ただカミやんのお友達の性格からすると、探しに来そうだし」

アルフレド「そん時に”JC”と”密室”で”二人っきりのひ・み・つ授業”なんてバレたら、超絶楽しそーだぜ」

上条「鬼っ!悪魔っ!高千穂っ!お前のとーちゃんモーナー×っ!」

アルフレド「おっとカミやん!アイスに罪はない筈だぜ!」

上条「……頭痛い……あ、そうそう。一応釘刺しとくけどさ。お前この教室から出るなよ?」

アルフレド「何?監禁プレイ的な?」

上条「違げーよ。佐天さんは自分のそっくりさん見てもぶっ倒れないと思うが、その」

上条「――『あ、ドッペルゲンガー発見!よつしゃーーーーーーーーー!!!』とか何とか言って、持ち前の狂運使って追い回しそうだから……ッ!」

アルフレド「するだろーなぁ。この子の性格だったらば」

上条「不便かも知れないけど、メシとトイレは俺が何とかするから」

アルフレド「やべぇ監禁プレイ超興奮する!」

上条「だから佐天さんの外面で言うなっつってんだよ!JCなんだから自制しろっ!」

アルフレド「あーイヤイヤ気遣ってくれんのは有り難いんだが、俺はNPCでしかも”上条当麻が造ったモノ”なんだわ」

アルフレド「だから”飲食不要”だし、”普通の人間とは違う”ぜ?」

上条「もしかしてこの教室も……?」

アルフレド「あっちじゃ存在しなかったか、他のクラスだった筈だろ?なのに空っぽだってのは、”他のNPCには認識出来ない”って訳だ」

上条「へー。夢みたいにご都合主義だな」

アルフレド「いやだからさ、つーかまだ気づいてなかったのか?鈍いにも程があんだろ、そのウチ後ろからブッスリ刺されるぜ」

上条「それは地元で体験済み――らしい。てか何だよ鈍いって?」

アルフレド「――ここ、『鳴護アリサの夢ん中』だっつーのによ」



――昼休み

キーンコーンカーンコーン、キーンコーンカーンコーン……

上条「……」

上条(……何かどっと疲れた……SAN値が減ったって感じでさ)

上条(あの野郎よりにもよって佐天さんっつージョーカー引きやがって!外見がアレな分カオス増量中だよ!やったね!)

上条(てーか他に人選は無かったのかと小一時間……居ないんだよな、きっと)

上条(まぁ……なんか途中から協力的になってるみたいだし、あれで納得するしかないだよなー、これが)

上条(――てか”ここ”がアリサの夢ん中?『冥界』じゃなく?)

上条(思い当たる節は幾つもあって『ま、こういうもんなんかな?』で納得しちまってたけど、違うじゃねぇか。それも全っ然)

上条(しかも人が教室引き返すタイミングで言いやがって!授業がまともに入らなかったし……)

上条「……」

上条(……あー、まぁアレだし。元々授業は聞いてなかったって話もあるんだが、それはさておき)

上条(今はあのヤローからどうやって騙されずに済むか、対策を練るのが大切だな、うん)

上条「……」

上条「助けてー土えもんっ!?」

土御門(デス声)「『どぉしたんだぜぃカミ太くぅん?またミサアンに虐められたのかぁい?』」

上条「振っといて言うのもなんだが、意外に上手いな……じゃなくて、相談したいんだがいいか?」

土御門(デス声)「『てれれっれってれー、”バールのようなモノー”!』」

上条「解決しねぇよ!?一瞬スっとするし解決した気にはなるが、根本的な問題はより根深くなるよ!即逮捕懲役的な意味で!」

土御門(デス声)「『”こんにゃくー”』」

上条「元春君?教室だからね?確かにそれ使えば落ち着くだろうけどもさ」

土御門「で、何?教室では言えないような話か?」

上条(あぁ成程、気を遣ってくれた――待て待て、これ他の連中には『エロ関係の話をしてくる』っと取られるんじゃ……?)

上条「……いや、気持ちは有り難いがここで大丈夫。つーか大した話じゃないんだが――」

上条「――詐欺師に騙さない方法ってあるかな?」

土御門「あるけど、カミやんには無理ですたい」

上条「言い切りやがったなチクショー!?」

土御門「だって相手の目線や会話パターンから真偽を読んだり、色んな伝手を使って情報の裏取りするなんて出来る?」

土御門「プロ中のプロは”こっち”の方法で見分けようとしても、嘘を心底本当だと思い込むから、嘘発見にも引っかからないんだぜぃ?」

上条「……ごめんなさい」

土御門「つっても俺がしゃりしゃり出たり、他の連中の力が借りられるんだったらそっちを頼るだろーすぃ……あ、それじゃ心掛けだけでも教えとっか」

上条「身につくかどうかはともかく、お願いします」

土御門「って一個だけだから、難しく構える必要は無い――でだ」

土御門「『腕の良い詐欺師は基本的に嘘を吐かない』んだ。知ってた?」

上条「――――――――は?」

土御門「その『何言ってんだコイツ?』的なツッコミを無視すると、つーかカミやん、詐欺師が詐欺師って呼ばれるのはどうしてだか知ってるか?」

上条「そりゃ……お金や財産を巻き上げるから?」

土御門「それは”結果”であって由縁じゃないにゃー。てかお昼食べたいからさっさと結論言うとだ」

土御門「――『嘘を吐いて”騙す”』のが、本質だ。いいか?大事なのは”騙す”点だからな?」

上条「嘘を吐くんじゃなくて?人を騙すんだったら嘘を吐かないと無理だろ?」

土御門「違うぜぃ。それも”手段”であって目的じゃない――例えばカミやんが誰かを騙して金を巻き上げるとする」

上条「しねーよ」

土御門「例えが悪いんだったら、こう、あるだろ?『参考書が欲しいからお小遣い出して』みたいに親へ泣き付くとか」

上条「あぁ聞くなぁ、そういうバカ話。実行に移すかは別にして」

土御門「そん時さ、尤もらしい嘘吐くよな?『学校でみんな持ってるんだ!』とか、『持ってないと仲間へ入れて貰えない!』とか」

上条「その例は失敗してるようにしか……」

土御門「だよなー、だったらカミやんはどうする?」

上条「んー……正直に言うのが一番なんだろうけど……出来ないからそうしてるんであって――」

上条「明日の授業で使うんだ!、みたいな?」

土御門「そうだな、そうやってそれっぽい――つまり『有りそうな』話をでっち上げるんだ」

土御門「これは”嘘”を吐いた話。ご両親がしっかりしてれば騙されないだろうし、事実関係を調べれば嘘だってバレちまう」

土御門「だが”ここ”までは素人の話。ホンモノは更に凄い。なんつっても――」

土御門「――”嘘を吐かない”んだから」

上条「あー……何となく分かってきた」

土御門「基本的に事実だけを積み上げていくんだよ。相手に信用させるため、疑われないためにだ」

土御門「そうやってある程度信頼を積み上げた後、致命的な所、ここぞという所で大嘘吐いて騙すのが一流の詐欺師」

上条「……納得」

上条(『濁音協会』もそうだったよな、確か。自分達が死ぬ事すらも計算尽くで、俺達を欺くためにやった事だ……)

土御門「『海外の恵まれない子に支援の手を!』つって募金箱持ってんのは三流。『うわー、こいつら胡散クセー』って思われて終わり」

土御門「『ペットボトルのキャップを集めてワクチンを!』は二流か。途中で金を回さなくなったし」

上条「あー、居たなぁ」

土御門「『私達は国連です!国連の下部組織です!』でお金を集めるのは一流。”募金を全部チャリティーに遣うとは言ってない”連中だにゃー」

上条「……その例えが正しいかどうかはさておき、言いたい事は、分かった」

土御門「他にもよくあんのは『事実の一部分だけを殊更に強調』すんのが流行りだにゃー。なんつってもワンフレーズでバカにも簡単に使えるし」

土御門「刺されて出血多量で死にかかってる奴の耳元で、『輸血をする感染症になるリスクが高まる!過去のデータでは0じゃない!』って煽る」

土御門「ソイツを刺した犯人が包丁持ってウロウロしてんのにはノータッチ。全然関係ないリスクばっか取り上げ――ん、のも、また情報操作の一環だしぃ?」

上条「……確かに」

上条(思えばアルフレドも『時間が無い時間が無い』って必要以上に連呼していたような……)

上条(もしも『タイムリミットを待つ方が奴にとって利益になる』んだったら、わざわざ俺に教えたりはしない、か)

土御門「とにもかくにも、腕の立つ詐欺師程事実しか言わない。嘘がバレたら元も子もないからな」

上条「……土えもんさ、随分詳しいけどそっちの人じゃないんだよね?『口先の魔術師』とか呼ばれてるなんて事無いんだよな?」

土御門「まー似たようなモンだにゃー。本来有るべき理を曲げて都合の良いように解釈・変遷するってお仕事だしぃ」

土御門「とにもかくにも、詐欺師が詐欺師だって言われる由縁は、必ずどこかでボロが出るんだぜぃ。現実との乖離が破綻を来す」

土御門「具体的には結婚詐欺師が結婚した話は聞かないし、和牛売って儲かった例も皆無」

土御門「だから連中は破綻するのを知ってるから、どっかで必ず『致命的な一撃』をこっちへ入れて来るんだわ」

土御門「ま、どこでその『致命的な一撃』を入れて来るのか、カミやんには分からないと思うぜぃあっはっはっはっー!!!」

上条「今までの説明全否定っ!?」

土御門「ただなーカミやん、これは多分カミやんにしか出来ない事があるんだ」

上条「……なんだよ。『右手』でどうこうしろって話じゃないだろうな?」

土御門「それはただの『手段』だ。もしも他の誰かにくっついてたら、きっとそれはただの右手へ成り下がったんだろうが」

土御門「それよりも詐欺師ってのは”自分の持っていきたい方向へ話を進める”んだ」

土御門「自分の思い通りの展開へ持っていくために、あれこれ話を誘導すると」

上条「……例えば?」

土御門「カミやんは今、喉が渇いていない。また近くに飲める水道があるから心配もしていない」

土御門「でも詐欺師は水を売りたい。だったらそいつはきっとこう言うんだ」

土御門「――『この水は霊験あらたかな富士山系から汲まれたものです!古の修験者のみが口にしていたと言われる!』」

土御門「『どうです、?そこのあなた!今ならばお安く提供しておりますよ!不幸が治るかも!』」

上条「じゃ、じゃ一本だけ買っちゃおうかなっ?」

土御門「みたいな感じ。あ、ちなみに日本製のミネラルウォーターの34%が山梨県だからろ、大なり小なり富士山系の水脈を使ってる」

上条「騙された……のか?」

土御門「いんや何も騙してなんかないぜぃ?富士山で密教系験者が居たのは本当、連中が水を飲んでたのもそうだし」

土御門「治る”かも知れない”んだから、嘘は何一つ吐いてない」

上条「あー……」

土御門「この話のキモは『水を飲みたくなかったカミやんに水を買わせた』――思想誘導だな。難しく言えば」

上条「対抗する手段は?」

土御門「そうだな、カミやんに出来そうな――いや、にしか出来なさそうな事であれば、『考えを曲げない』事だぜぃ」

上条「うん?」

土御門「詐欺師はあれこれ自身に取って都合の良いように言ってくる。騙す相手に間違った選択肢を掴ませるためにだ。ここまではいいな?」

上条「あぁ」

土御門「だったら『信念をねじ曲げない』事で、相手の望む選択肢をぶち壊す――どうだ?」

上条「……あぁ確かに。それ多分、俺出来そうだわ」

土御門「だろ?」

モブ「おーい、カミジョー!妹さん来てんぞー!?」

上条「分かったー!……ありがとう、土御門」

土御門「気にすんなよ、エインヘリャルの勤めを果したまでだ」

上条「映、倫?」

鳴護「もうっ、当麻君またお弁当忘れて!」

佐天「や、ですからそれ朝言えばいいんじゃないかなー、なんて思ったりなんかするんですけど?けどー?」

初春「佐天さん空気読んで下さいっ」

上条「相変わらず癒やしなのかカオスなのか分からん……!」



――昼休み 屋上

上条・鳴護・佐天・初春「「「「ごちそうさまでした」」」」

佐天「あーそうそう、お兄さん聞きましたよー。おウチで家事手伝いするようになったんですよね?」

上条「まぁ……少しは反省したって事で一つ」

初春「ご家庭の事は色々とおありでしょうけど、家事は出来て越した事は無いと思いますよー」

上条「あんま突っついてくれるなよ。俺だって流石に悪いと思ったからさ」

鳴護「そうだねぇ。当麻君が手伝ってくれるから、有り難いは有り難いんだけどね……」

佐天「――はっ?!まさかこれは思春期の娘さんにありがちな、『パパの下着と一緒洗って欲しくないんだもん!』ですかっ!?」

上条「そんな事ねぇよ!……な、ないよね?」

鳴護「あ、そういうのは全然全然?昨日もわたしの下着畳んでくれてたし?」

佐天「よっ!このっ変質者っ!」

上条「佐天さんその言い方はどうかと思うんだ?つーか曲がりなりにだけど、家族同士の間柄だしさ」

上地要「てか君キャラブレなさすぎだよね?どこ行っても賑やかしするのが宿命なの?」

鳴護「ただ、その、昨日今日始めたばかりの当麻君のお料理が、わたしの作ってたご飯よりも美味しい、ってのはちょっと納得行かないかも……!」

佐天「あ、それアレじゃないんですかね?化学調味料的なものを大量に混入しているとか?」

上条「そこまでして見栄張りたくはないな。何よりも体に悪そうだ」

初春「あ、でしたら別のものが入ってるなんてどうでしょうか?」

上条「人を炎上寸前のツイアカみたいに言わないでくれるかな?」

初春「そうですねぇ、例えば”愛情たっぷり”みたいな?」

佐天「ナイスフォローっ!」

上条「いやぁ、入れてない事ぁないけどさ」

鳴護「でも、それだったらあたしの方が美味しい筈じゃないかな?」

上条・佐天・初春「「「えっ?」」」

鳴護「えっ?」

全員「……」

佐天「――と、言う訳で見事にオチた所でご提案が!」

上条「アリサさん反省しような?アンタッチャブルな子ですら踏み込むの躊躇ってんだからね?」

鳴護「ごめん、意味がよく分からないんだけど……」

上条「目ぇ逸らしてる時点で気づいてるよな?てかほら、こっち見なさい!顔真っ赤にしながら言っても説得力無いですよっ!」

鳴護「し、しーらないなー?」

上条「だーかーらっ!」

佐天「……なんだろうね、この兄妹。『所構わずイチャイチャしてんじゃねぇよ』って突っ込めたら気が楽なんだけど……」

初春「ほぼ言ってますよ、それ」

佐天「つーかもしお兄さんさえ宜しければっ!放課後メンズブラ買いに行くのついてっていいでしょーかっ!」

上条「却下だ!てゆーかその誤情報どっから持って来やがった!?」

上条「一体どこのアリサさんがデマ流しやがったんですかねぇ!?」

鳴護「うん?でも昨日のあたしのブラ……で、朝のアレだから、そうかなーって」

佐天「すいません、詳しく訊いてもいいんですかね?どうにも禁断っぺぇ臭いがプンプンするんですけど!」

上条「人様にお聞かせ出来るような楽しい話じゃないですかね、はい」

初春「……犯罪的なお話でしたら、私がお力になれると思いますよ?」

上条「どう考えても信用されてないっ!?」

鳴護「それ、御坂さんへ直で連絡行くんだよね?……うわぁ、御坂さん当麻君に厳しいから」

上条「止めてあげて!?主に俺が死んじゃうから!」

キーンコーンカーンコーン、キーンコーンカーンコーン……

佐天「と、お時間ですねー。そいじゃまた放課後ー」

鳴護「当麻君もお勉強頑張ってね」

上条「あぁ――って待ってくれ」

佐天「はい?」

初春「話の流れから佐天さんじゃないかと……」

鳴護「……えっと、大切なお話?」

上条「でもない。あー、その朝の話だけどさ、今日ちょっと予定入っちまって」

鳴護「……むー」

上条「ごめんな?いつか埋め合わせするから」

鳴護「あーうん、分かったー。それじゃご飯もわたし作っちゃってもいいのかな?」

上条「悪い、それも頼む。遅くなりそうだったら連絡するからさ」

佐天「ちなみにご予定ってのはなんですか?早く終わりそうだったら待ってますけど?」

佐天「てかブラ初心者なんですから、お一人で悩むのはよくないですもんねっ!ゼッタイっ!」

上条「うん、早く終わってもメンズブラ買いには行かないからね?」

鳴護「どうせ小萌先生にお呼ばれとかそーゆーのでしょ?行こっ!」

佐天「あー、怒らせちゃいましたねぇ」

上条「君が多少なりとも煽っていたような気がするんだが……」

初春「……すいません。いやホンっっっトに、えぇはい――と、すいません、お兄さん」

上条「はい?」

初春「ちょっとご相談したい事がありまして、今晩連絡取っても宜しいでしょうか?」

上条「ん、あぁっと?初春さんが?俺に?」

初春「はい。連絡と言っても”風紀委員”用のチャットがあるので、そこで」

上条「……分かった。何時頃?」

初春「今日は早番ですんで、日付を跨ぐ前でしたらいつでもオーケーです――ってどうしました?」

上条「いや、こんな時『浮気ですかっ!?いやーえっちすけっちわんたっちー!』って騒ぐ子が静かだな、と思ってさ」

佐天「初春、言われてるぞー?」

上条「佐天さん、俺ずっとずっとずっと前から言おうと思ってたんだけど、君あんま頭よくないよね?」

上条「果てしなくボケ体質かだって思ってたんだけど、それ以前に問題があるもんね?」

佐天「やー、今のは流石にわざとですけど、結論的には初春と同じなんで」

上条「ふー、ん?」

初春「それじゃまた後で、失礼します」

佐天「んじゃまたでーすっ、いあいあ」

上条「あぁ」



(以下『今夜、君の元へ』へ続く……)

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