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Clock(trial)

胎魔のオラトリオ・最終章 『ダンウィッチ・シティ』 −前編−


――キャンピングカー 昼

レッサー「――と、言う訳でっ!掴みますよ胃袋を!」

レッサー「男性にあると言われている四つの袋!これを征した者が勝負に勝ぁつ!」

ランシス「えっと……」 ピトッ

レッサー「AHAHAHAHA?私の額に手ぇ当たってますよー?」

ランシス「あててんのよ?」

レッサー「じゃあしょうがないですよねっ!確信犯ならねっ!」

ベイロープ『誰かー?運転で今ちょっと忙しいから、ボケ二人へ代わりに突っ込んでやってー?』

上条「……」

鳴護「当麻君、ご指名みたいだよ?ほらほら」

上条「ちょっと待とうかお前ら?ベイロープが運転してるとツッコミが一人しか居なくなるのは、まぁ良いと思うんだよ」

上条「てか話の流れからするに、ツッコムのも俺の仕事みたいな?……まぁ、百歩譲って慣れたよ、それはな」

上条「でも何で俺が『レッサー係』みたいになってんだよ!?ツッコミついでに後片付けしなっきゃ、みたいな空気はナニっ!?」

上条「お前らのチームなんだから付き合ってあげればいいじゃない!ボケもきちんと処理してあげて!?」

鳴護「えぇっと、うん、分かるよ?あたしはね?」

上条「AahRISAさんっ!」

鳴護「そんな外国のアーチストみたいな饒舌に発音されても困るけど……でも、ほら、見て上げて?レッサーちゃん?」

レッサー チラチラッ

鳴護「『四つの袋があります!』からボケが流されて悲しそうにこっち見てるよ?」

上条「だったらツッコんでやりゃいいんじゃねぇかよ!最近のアイドルはお笑いだってするし!」

上条「つーかな!俺が一番ハラ立ってんのはレッサーじゃねぇよ!面倒臭ぇとは思うけども!」

上条「運転放棄しないでツッコミ放棄しているベイロープ!レッサーと一緒に俺”で”遊ぶ気満々のランシス!」

上条「そして着やせしながらも基本天然のアリサ!それは別にいいんだよ!」

鳴護「その情報要らないよね?天然じゃないし、あたし」

上条「何が一番ムカつくかって騒動が起った瞬間、たった今までモノポリーで俺の不動産を奪ってたヤツが真っ先に寝たふりしやがったって事だよ!」

フロリス「……ウーン……ムニャムニャ……」

鳴護「あ、海外でも寝言は『ムニャムニャ』なんだねー」

上条「疑おう?もうちょっとアリサさんは計算さんを疑って上げて?」

上条「ボケてるのにスルーするどころか受け入れるって、ある意味公開処刑だからね?」

ランシス「……がんばー。そろそろレッサーが我慢の限界に来てるとみた」

鳴護「限界を超えると?」

ランシス「んー……?まぁ、脱ぐ?意味も無く」

上条「――おぉっとレッサーさん!袋は四つじゃなくって三つだな!こやつめアハハハー!」

レッサー「……そこで速攻否定されると私の乙女心が折れそうになるんですがっ!」

ベイロープ『乙女は、脱がない』

レッサー「ですが私のリサーチした結果ですと、本を開いて二ページ目にはですね」

上条「薄い本な?どうしてお前がそれを知ってんのかは知りたくもない、つーか予想つくが!」

フロリス「アレを『乙女』だと断言するレッサーのメンタルないなー」

ランシス「カテゴリ的には、まぁまぁ……言えなくも?」

上条「そこっ残念な子に理解を示さない!この子が伸び伸び育っちゃってるのはアンタらの責任もあるんですからねっ!」

鳴護「当麻君、子供の教育方針で言い合ってるお母さんっぽい」

ベイロープ『……私と先生が常日頃どんっっっっっっっっっっっだけっ!苦労してっ!いるかっ……!』

上条「……そりゃ、うん、良くやってるよ?分かってるからさ?」

上条「だからもう少しだけ力抜いてハンドル握れ、な?さっきから微妙に車体がフラフラしてっから」

レッサー「――日本の殿方を射止めるため!奥さんは三つの袋をしっかり握ると言い伝えられています!」

フロリス「へー、そなの?」

上条「あー……結婚式で仲人のオッサンがひと笑い取る、定番のネタっちゃネタだよ」

鳴護「でも最近だと『せくはらー』とか言われて、自重するお父さん多いって」

ランシス「オチ読めたしぃ……」

上条「まあシモでオトすんだろうな−、とは思うけどな」

レッサー「まずは第一の袋――清野袋(せいのふくろ)!」

上条「待てやコラ!最初からボケるってどういう事!?」

鳴護「せいのふくろ……?」

レッサー「アーモリー県にある地名です。キャノンのモーション操作系工場がある所ですねー」

ベイロープ『……ねぇ?そこまでしてボケたかったの?』

ベイロープ『多分辞書かなんかで調べたり、ググってまで探したのよね?○○袋』

レッサー「イエッサ!他には米ヶ袋(よねがふくろ)もありましたっアーモリー!」

鳴護「アーモリー、じゃなくって青森なんだよね?きっと」

上条「袋関係の地名多いな。米処だから?」

ベイロープ『言っとくけど日本……稲作の品種改良と農法近代化が始まるまでは、東北じゃ安定した米の生産なんて出来なかったわよ』

ベイロープ『てか現代に至っても、収穫前に天災が起きれば一年間の努力が水の泡――って、何よ?』

ランシス「詳しいね……?」

ベイロープ『「野獣庭園(サランドラ)」が生まれ育った地盤を調べるのは当然でしょうが』

ベイロープ『大抵同族食ってのは、極めて困窮した経済状況か逼迫した食糧事情が絡んでくるものなのよ。人間以外でもね』

フロリス「よっ、流石はリーダー!きちんと考えてる!」

レッサー「待ちましょうか。取り敢えずこの私からリーダーを奪うにはですね、まずジャンケンで10回勝負に勝った上で、ケイドロで勝利した後――」

上条「イギリスにもあったんかケイドロ」

鳴護「あたしの学校だと『増やし鬼』、だったような?」

上条「別の遊びじゃねぇのか、それ――てかさ、結構前から思ってたんだが」

ランシス「78のB」

上条「お前ホンッとにブレねぇな!?つーか律儀に夢の中での公約果たしやがった!」

ランシス「『団長』もキルスコアに……」

上条「……あ、俺『解決したら何でも叶えてくれる権利』、行使する前に話が終ってた――じゃ、ねぇよ。そんな話はしてない」

上条「お前らのリーダーってレッサーで良いの?それで本当に後悔しないの?」

フロリス「んーむ?後悔するしないで言えば、たまーにするケド」

ラシンス「……別にリーダーとか決めてなくて、あくまでも魔術”系”のサークルみたいな」

ベイロープ『厳密な意味で私達、イニシエーションやら聖体拝領はしてないのだわ』

鳴護「いにしえ?」

フロリス「魔術師は基本マグス――日本語訳だと『導師』とか『師匠』から教わるんだよ。ま、独学でどうにかなるようなもんじゃないしー?」

ランシス「中には先天的に能力を発揮出来るような『原石』――」

ベイロープ『十字教じゃ「聖人」って呼ばれる人でもなきゃ、無意識的に術式を行使出来ないの』

鳴護「へー……凄い人も居るんだなぁ」

フロリス「――ベイロープ?」

ベイロープ『んー……ま、今は、ね』

ランシス「おっけー……」

上条「今妙な意思疎通が計られてた……?」

ベイロープ『――で、私達は?ご覧の通りにいい加減な結社未満の存在だから』

ランシス「レッサーが『リーダー私がやってあげますよっ!べ、別にあんたのタメじゃないんだからねっ!』と……」

上条「後半要らなくね?1%も盛ってないのは何となく分かるけど」

鳴護「えっと……ユルいよねっ、良い意味で」

上条「見なさいよ!ウチのアリサさんだってだって珍しく言葉を選んだんだからねっ!」

フロリス「やっだなぁ、ARISAちゃん程じゃないぜ?」

鳴護「……あれ、暴言を吐かれているような……?」

上条「お前アリサに冷た――く、もないな。割かしフツーか」

フロリス「『好き』の反対は『無視』だーよねぇ」

上条「……成程。そんなこんなで『リーダーやりたいです!』宣言して、まぁどうぞどうぞ?みたいな、ゆっるーい感じなのな」

レッサー「――最後にフランス大使館へ『さっさと王族ぬっ殺したのにベルサイユ宮殿観光資源にしてるのどうなの?!』」

レッサー「『入り口の説明パネルに”王族処刑してその10年後にナポレオンを皇帝にしたバカどもの巣”って書いた方がいいですよ?』

レッサー「って電凸かまして国際問題に発展させれば、まぁ一人前ですね」

上条「お前はお前でリーダー勝負からズレてきてる。ってか碌な事してねぇな!」

ランシス「マジでするから始末に負えない……」

鳴護「お察しします」

ランシス「でも私も嫌いじゃない。むしろ一緒にする」

鳴護「お察ししません」

フロリス「まー、そんなワケでリーダーはレッサーなのさ。つっても仕事持ってくるのは先生かベイロープが多いんだケド」

ランシス「あと、ま、基本方針も話し合い、だし?」

ベイロープ『現場でどう動くか、ってのも大筋決めた後に個々人が動き回るだけだしね』

レッサー「待って貰いましょうか!それ以上私を追い詰めると大惨事になりますよ!」

上条「具体的には?」

レッサー「なんかもう、ガイアが私へ全裸になれと囁いてる感じですか」

上条「俺、ガイアさんギリシャの神話の神様だ、ぐらいしか知らないけど、そんな事言わないと思うよ」

ランシス「どっちかって言えば……アルテミス、かな?言うとすれば」

ベイロープ『キュベレとフェンリルのハイブリッドよね』

鳴護「まぁまぁ、それで?レッサーちゃんは何が言いたいのかな?」

レッサー「や、まぁ大したこっちゃないんですけど、私達が旅を始めて結構経ちますよね?」

フロリス「だーよねぇ。『ARISAのサイン貰いましょう!なぁに大丈夫です、知り合いジャーマネやってますから!』って」

フロリス「着替えも準備も無しで、気狂い魔術結社とドンパチやるハメになったってのに」

レッサー「まぁ人生罪オーガ馬と言いますし」

上条「『塞翁が馬』な?ちょっと見てみたいぜオーガ馬」

フロリス「ひっつよう最低限の霊装しか持ってないしー?だからって『鞄』で取り寄せる準備もねぇんだっつの」

上条「あれって距離制限あったんじゃ?」

フロリス「Hay boy! Will you combine pants put on to the school with pants when it dates the boyfriend? Aha?」
(おい少年!お前は学校へ履いていくパンツと彼氏とデートする時のパンツを一緒にするんか?あん?)

上条「……ベイロープさん?」

ベイロープ『意訳すると「学校に持っていく鞄とデートの時のは違うよね?」かしら』

鳴護「パンツって単語が入ってた気が……?」

レッサー「あん時は隠密性重視でしたからねー。制限を外しゃもっとロング行けます」

上条「――つかさ、お前らベストの状態じゃないのに魔術結社とやり合えたんだ?そっちの方がスゲー……」

ベイロープ『常在戦場。騎士――じゃなく、魔術師だけに決まった事って訳でもないわよ』

レッサー「ウクライナを見れば少々頭のネジが緩んだ――もとい、外れて無くしてぶっ壊れた人間でも理解出来ると思いますが」

レッサー「『よーいドン!』で始まる戦争なんてどこにもないんですよね−、これが」

フロリス「『ウクライナ正規軍とガチでやり合えるゲリラ兵』なんて、明らかにソチ五輪の大分前から用意したに決まってんジャン」

上条「ウクライナの正規軍がショボイって話じゃねぇの?」

ベイロープ『ウクライナ空軍はロマノフ朝時代から航空産業が発達してた上、ソビエト崩壊時に持ってた機材や人材をそのまま得ているのよ』

ベイロープ『だもんで東側諸国へ航空兵器を売却したりして、ウザかったウザかった』

ランシス「……裏を返せばそれだけ他国にとっても脅威でー」

フロリス「精度については、ん?な部分もあるケド、航空産業に関しちゃ輸出出来るレベルだったと」

レッサー「そしてロシア軍が警戒しすぎた結果、マレーシア旅客機撃墜へ至ります。合掌」

レッサー「出会った二人が突然恋へ落ちる事もあるように、昨日まで平和と融和だった世界が、一転混沌へ叩き込まれるのはある話」

レッサー「ましてや『万全の状態』で始まったりするのなんてとてもとても。いきなり戦場に叩き込まれるのも良くある話」

上条「……否定出来ない……!」

鳴護「……思い当たる節の多い当麻君の今後が、そこはかとなく心配になるよねっ!」

レッサー「てな訳で、いつどこで誰と勝負しても良いように、私は常日頃勝負パンツをですね」

上条「待て恥女。パンツの話はしていない」

フロリス「てか魔術師同士のガチンコの話から、一瞬でエロい話へ持っていく、だと!?」

ベイロープ『いや別にエロくは』

ランシス「……ま、でもタイミングはベスト……スコットランド独立騒動で煩かったし」

ラシンス「こっちに移動したのは悪くない、と」

レッサー「ですなー、私達があのまま残っていればちょっと面倒だったかも知れません」

上条「お前らなら嬉々として投票邪魔しそうだが?」

レッサー「やっだなぁ上条さんテロリストでもあるまいし。まさかそんな大それた事」

上条「うん、イギリスのクーデター実行犯の一人は、流石に別格だよね?」

レッサー「クーデターですって!?よぉしっそんな野蛮なヤツぁレッサーちゃんが懲らしめてあげましょうかっ!」

ランシス「てか、レッサーは悪いとなんて全っ然思ってない……」

レッサー「さぁこの私の前にっテロリストを差し出して下さいなっ!さくさく殺っちゃいますよっ!」

上条「戻って来て下さいベイロープさん!ツッコミ役が俺一人じゃ足りませんからっ!」

フロリス「Heyやめるんだ!ベイロープ本当に戻ってくるんだから!」

ベイロープ『あ、ごめん。なんだって?』

上条「都合の悪い事は聞き流すスルースキルを獲得してるっ!?」

レッサー「いやいや流石にボケを潰すのはイクナイと判断しただけに過ぎませんよ。ジョークに一々構っては居られないと」

フロリス「話戻すけどタイミングは良かったかーもねぇ。ねー?ベイロープ?」

ベイロープ『面倒なだけなのだわ』

上条「あぁスコットランド出身なんだよな」

レッサー「いやいやいやいやっ、今運転席で他人事みたいな顔してやがる女は元スコットランドの王族ですからねっ!」

ベイロープ『おいレッサー!』

上条「マジで?」

鳴護「お姫様ー?あー、言われてみれば」

レッサー「由緒正しいスチュアート朝のお姫様()ですよっ!お姫様っぷーくすくす!」

レッサー「っても王位継承権は今のウィンザー朝のババアが持ってますし、放棄もしているんですがねー」

レッサー「世が世なら、な、なんとぉぉっ!この騎士気取りがお・ひ・め・さ・まっ!」

ベイロープ『……その口を閉じるのだわ』

レッサー「にゃーはっはっはっー!どれだけ吠えようとも!あなたの牙は私には届きませんよ!運転席のベイロープさんにはねっ!」

レッサー「てーかですね、今時姫騎士なんてオークさんか触手さんに前から後ろからエロいコトされるのがお仕事であっですね」

レッサー「マジで目指すなんて有り得ないじゃないですかーやだー」

鳴護「……ね、ちょっと聞いて良いかな?前から少し気になってたんだけど」

フロリス「あに?」

鳴護「明らかに、というかもう最初から崩すためのハンマー置いてあるのに、なんでレッサーちゃんはジェンガを積もうとしているの?」

鳴護「てか常識に考えれば――」

レッサー「さぁっ!悔しかったらかかってカモンっ!運転席を離れられるのであれば――」

キキィィィィィッ!

鳴護「――って、普通はブレーキかけるだけだよね?」

フロリス「まぁ、『レッサーだから』以外の答えはない、かな?」

ランシか「……ま、考えたら負け。感じても……分からない」

レッサー「NOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOッ!!!?」

ベイロープ「あなたって子はァァァァァァァァァァァァァァァッ!!!」

上条「あ、丁度スーパーに停まったみたいだし、何か食料買ってくるわ」

フロリス「――ならワタシも付き合ったげるさ」 ギュッ

上条「だからくっつくなっつーの!……ってお前も」

ラシンス「んー?」 ギュッ

鳴護「……当麻君?」

上条「いや違うんですよ鳴護さん、これはね?あのーこいつらが俺で遊ぼう的な発想でしてー」

上条「あくまでも俺は受け身って言うか、決してフラグ管理を怠ったつもりもなく」

レッサー「では私もちょっくらイーツ的なものを探しに――」

ベイロープ「――レッサー?」

レッサー「じゃ、ないですよねっ!ジョークですともっえぇっ!」

上条「あ、俺ら外してくるからごゆっくり」

レッサー「いやそのお気遣いなく?ってかむしろ早めに戻って頂かないと、私の貞操的なもの――アイタタタタッ!?」

鳴護「ベイロープさん、何か欲しいものありますー?」

ベイロープ「あ、いや気にしなくて良いわよ?こっちはこっちで楽しくやっとくから」

レッサー「楽しいのはベイロープさんだけですよね?私は恐怖に打ち震えるだけじゃないですかねっ!?」

上条「……まぁ、ごゆっくり」

レッサー「ちょ待っ――」

パタンッ

『……ひぎぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃっ……!?』

鳴護「ね、当麻君?」

上条「聞こえない聞こえない、俺は何も聞こえない」

鳴護「現実逃避してないで、レッサーちゃんの叫びが断末魔っぽい響きなんだけど」

鳴護「あたし達が戻ってきたら一人だけしか居ないとか、そういうのはないよね?」

フロリス「――つーワケでワタシ達五人の旅もいよいよ佳境だよねー」

鳴護「もう既に一人減ってた!?」

ランシス「リーダーからの命令……プレッツェル食べたい」

上条「へいへい、あるといいなー」

鳴護「えぇっと、次のリーダーも内定済み……?」

フロリス「ヘイ、アリサもジェラード食べる?バニラでいーよね?」

鳴護「あ、トッピング選べるんだったらバニラとチョコとミントとチョコチップとストロベリーでっ!」

上条「盛れんのかよそれ」



――キャンピングカー

レッサー「……ひぎぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃっ……!?」

ベイロープ「……」

レッサー「……」

ベイロープ「……行ったみたいね」

レッサー「ふっ!どうやらこの私の迫真の演技に騙されたようですねっ!」

レッサー「ちゅーか流石ベイロープさん、年の功より亀の甲!」

ベイロープ「あ、シバくのはシバくわよ?」

レッサー「なんてこった!?チャプターが変わったからリセットする仕様じゃないんですか!?」

ベイロープ「いや、さっさと本題へ入りなさい」

レッサー「つーか私が食事を作ろうって話なのに、まだ本題にすら入れないってのは一体……」

ベイロープ「よし、ケツを出すのだわ」

レッサー「――で、本題なんですけどね!その」

レッサー「アリサさんについてです」

ベイロープ「良い子よね。ウチに欲しいぐらいだわー」

レッサー「これで私とキャラが被らなきゃ、その線もあったんでしょうがね」

ベイロープ「性別と年齢近いぐらいしか共通項ないわよ。てか時間ないんだから簡潔に話なさいな!」

レッサー「脱線させたのベイロープだと思うんですが――今回の件、どーにも妙な感じがしませんか?」

ベイロープ「と言うと?」

レッサー「敵さんの動き全般、ほぼ全てに散見される戦略性の無さ、でしょうか」

ベイロープ「具体的には」

レッサー「ユーロトンネルでの『アレ』を退治するには、高火力での兵器で灼かなければ叶わない」

レッサー「たまたまそこへ乗り合わせたベイロープが、しかも一人囮として居残って勝ちましたね」

ベイロープ「そうね。随分前の出来事に感じるわ」

レッサー「『知の角杯』、しかも『銀塊心臓』なんて奥の手を遣い――そうですねぇ、下手な聖人クラスの威力まで高まりますよね?」

レッサー「そこまでしないと勝てない相手……まぁ、これは偶然としておきましょう」

ベイロープ「何か変な言い方よね」

レッサー「次に『Kingdom that eats frog(カエル食い王国)』」

ベイロープ「自重しなさい。つーかそのスペルでフランスだって分かる私もどうかと思うけど」

レッサー「あちらでも『野獣庭園』の『安曇阿阪』達の襲撃を受けました――が」

レッサー「同じく”偶然”に居合わせたフロリスによって撃破。やったね!」

ベイロープ「いや、だから」

レッサー「下位種とはいえ曲がりなりにも『竜』へ獣化し、相対したのが『DragonSlayer(竜殺し)』の霊装を得意とするフロリスに、ですよ?」

レッサー「これは『偶然』でしょうか?」

ベイロープ「……」

レッサー「んでもって一昨日っ!イタリア国境入る直前ぐらいに奴らは夢の中でかかって来やがったぜBaby!」

レッサー「だがしかぁしっ!ランシスの『魔剣』でスッパリ解決さHAHAHAHAっ!」

レッサー「――『負』の魔剣で『聖』なる術式を――」

ベイロープ「――まるで示し合わせたように?」

レッサー「さて、私達が同じ立場だったらどうでしょうね?」

ベイロープ「私には奥の手があるけど、フロリスじゃ脱出は無理でしょうね」

ベイロープ「普通の魔術師だったら、術式をかけられた瞬間に『詰む』のだわ」

レッサー「上条さんは良い感じに『勘違い』されてますけどねぇ。つーか多分目が肥えすぎてるだけっつー気もしますが」

レッサー「『並の魔術師』じゃなく、『その筋ではトップクラス』の魔術師ばっか見てるから、まぁ誤解したまんまですか」

レッサー「下手に深刻ぶるよりはそっちの方がずっとマシですけども――さてさて」

レッサー「『アレ』はさておき『安曇阿阪』と『団長』、どちらもハマったら全滅レベルの難敵です」

ベイロープ「『物理攻撃』、特に対人戦や対魔術師戦で堅めた相手には、まさに死角からの攻撃となる……」

レッサー「物理的に――って言葉が正しいかどうかさておくとして――ブーストした”だけ”の術式じゃ厳しいと」

ベイロープ「作為的、よね。ここまで来ると」

レッサー「そもそも『アレ』に関しても、ユーロトンネルの中で助かった部分があるんじゃないですかね」

ベイロープ「逆じゃないの?逃げ場が無い――あ、そうか」

ベイロープ「私達に逃げ場が無いって事は、『アレ』だって逃げる所が無いのよね?」

レッサー「地下鉄、メインストリート、デパートに博物館。どこへ放しても大惨事確定でした」

レッサー「無限に分裂しながら逃亡すれば、収集なんかつく訳が無い――ですが」

レッサー「反対に密閉空間の中で戦えば進化の方向性も限定される、と」

ベイロープ「方向性?」

レッサー「えぇっとですね。基本的に洞窟の中にいる節足動物は多足類が多いんですよ」

レッサー「空を飛ぶよりも地面を這った方が入り組んだ地形に対応出来ますし、捕食もし易いと」

レッサー「爬虫類や魚類であっても目が退化した代わりに、別の感覚器官を発達させた種族は多いんです」

レッサー「……んが!日光の元で進化させるとその方向性がどこへ行くのか見当もつきませんよ」

レッサー「羽を生やして天敵から逃れたり、人そっくりに擬態して欺くのか」

レッサー「蟻のようなコロニーを作られたら手がつけられません」

ベイロープ「あぁ成程ね」

レッサー「……ま、そっちに関しても思い当たる点はあるんですが――アリサさん、どうです?最初の質問へ戻りますが」

ベイロープ「どっかの甲斐性無しに入れあげてる以外は、まぁ将来が楽しみよね」

ベイロープ「最初は……無理にテンション上げてたみたいだけど、最近じゃ極々自然体になって――ってのは、多分」

ベイロープ「あなたが聞きたい答えじゃないのよね?」

レッサー「えぇ、私も概ね同意見ですが、一部分は特に同意したい所ですし」

レッサー「気のせいかも知れませんけど、最近妙に明るくなったと言いましょうかね。何となく……違ってきてませんか?」

ベイロープ「別人にすり替わった?有り得ない」

レッサー「それはそうなんですけど……どーにも、普通すぎて」

ベイロープ「遠回しにDISってる?」

レッサー「いえいえ真面目な話。やはり存在の定義からして、なのでしょうかね」

ベイロープ「『奇蹟』」

レッサー「ですんでちょいと先生へお伺いを立てて貰えませんかね?私達だけの知識ではどうにも」

ベイロープ「了解。てか」

レッサー「……えぇまぁ機会を見て話すべきでしょうね。そうしないとアリサさんの命――いえ、存在意義に関わるかも知れませんから」

レッサー「これがアカの他人であれば『ゆっくり生きていってね!』で済ませたんですがねー」

ベイロープ「ま、情は移るわよね……ね、レッサー?ずっと悩んでたんだけど」

レッサー「何です?急に、てか即断即決のあなたにしては珍しい」

ベイロープ「話する少し前ぐらいから悩んでた――って言うと大げさだけどね」

レッサー「おっ!相談ですか?私がスバッと解――」

ベイロープ「アルゼンチンバックブリーカーとカナディアンバックブリーカー、どっちが程良いダメージを残せると思う?」

レッサー「私への処刑の話でしたかっ!」

ベイロープ「あの子達が帰って来た時に無傷だったらおかしいから、仕方なく、ね?」

レッサー「嘘だ……ッ!ベイロープさんは嘘を吐いてませんかねっ!?」

ベイロープ「大丈夫大丈夫?全然全然?人の履歴をバラしやがってとか、根に持ってはないわよ、うん」

レッサー「てーかもう完全にフラグじゃないですかありがとうございましたっ!」

ベイロープ「……私が政争に巻き込まれるってのは、まぁ生まれだし仕方が無いんだけど。慣れてるっちゃ慣れてるし」

レッサー「Bitch of the Wales(ウェールズの売女)ともその繋がりでしたっけ」

ベイロープ「……もし何かあったら、どっこからでも首突っ込んでくるバカを”二人”知ってるのだわ……」

レッサー「あー……奇遇ですねぇ。私も一人そんな奇特な方を知ってますわー、えぇ」

ベイロープ「つーコトで背骨一本で許したげるから、ほら早く」

レッサー「じゃしょうがないですね――なんて言いませんよっ!ペナルティ重くないですかねっ!?」



――キャンピングカー

レッサー「……」

鳴護「あのぅ、レッサーちゃんが逆ツチノコみたいなポーズで固まってるんだけど……?」

ベイロープ『――で、あーまぁ、何よえっと……あぁ、スコットランドの話だっけ?』

フロリス「一応55:45ってスコアで否定にはなったみたいだケド」

ランシス「ベイロープ、利用されそう……?」

ベイロープ『血縁関係があるって言っても、王朝時代は断絶してる訳だから。心配は要らないわよ』

上条「でもなんか利用されそうじゃないか?」

ベイロープ『イングランド人の文学者、「地獄への道は善意で舗装されている」が、有名なサミュエル・ジョンソン』

ベイロープ『彼が残した言葉の一つに、「愛国心は卑怯者の最後の隠れ家」という言葉があるの』

ランシス「日本では何故か『愛国心はならず者の最後の拠り所』と訳される……」

ベイロープ『が、これはサミュエルが「スコットランド出身の首相へ対し、支持率が下がってきたからって愛国心利用してんじゃねぇぞ」と言ったのが残ったのであって』

ベイロープ『今まさにスコットランドじゃ「愛国心」――スコットランドへの帰属意識をわざと高めてる”ならず者”が居るのよ」

ランシス「……一応先進国で、しかも文化水準もトップクラスのブリテンから独立て、何のジョーク?」

フロリス「まー、でもそんなモンじゃないかね?どこの国も分離主義者がダダこねて空手形を切りまくってるカンジ?」

フロリス「声がデカくて論説戦になっても『相手の言っている事が理解出来ない』人間が多くなっちゃってるカンジ?」

ランシス「……ゲーテ曰く、『論戦で絶対に勝つ方法とは、相手の主張を一切受け入れず、最後まで自分の話を繰り返せば良い』と」

上条「……はーい、質問」

ベイロープ『何?』

上条「今スコットランドの首相つったよな?つーかニュースじゃ、300年ぐらい前に併合されたっつーか」

レッサー「ちなみにその時に即位したのがベイロー――アイタタタッ!?首がっ!?」

ベイロープ『ナイス』

ランシス「いぇーい……」

フロリス「それ言っちゃうと色々問題になるから、止めとこうねー?」

鳴護「一体何が……?」

上条「そのサミュエルって人は」

ベイロープ『同じく300年ぐらい前の人よ』

上条「スコットランド、300年前から首相搬出するって事は、イギリスに馴染んでるってコトじゃねぇの?」

フロリス「前の首相、トニー=ブレアもスコットランド系だぜ」

上条「ニュースで見たけど、イギリスとスコットランドの人口比って10:1ぐらいなんだろ?」

上条「それでも首相出るんだから、別に政治的に孤立してたり、経済的に置いてきぼりになってるとか、主張おかしくねぇか?」

レッサー「……いや、ですからおかしいんですよ。最初っからね」

レッサー「独立派の主張は『スコットランドは搾取されている被害者なんだ!』がデフォなんですが――具体的にどうこう、ってのは何一つ」

レッサー「『ロンドンに搾取されている!』が良い例なんですけど――普通、首都って人もモノもカネも集まりますよね?」

レッサー「日本で言えば東京と地方自治体、遣える予算や公共サービス、やっぱり都会の方が有利ですもんね」

上条「そりゃそうだろ。つーか当たり前だろ」

レッサー「北海油田――文字通り海上油田の開発を続けてきたのは、ブリテンの国策としての成果ですし」

レッサー「それを国が『ブリテン国民』へ還元するのは当たり前では?」

ランシス「……反対に『スコットランドだけ』に還元したら非難囂々」

鳴護「あ、難しい単語知ってるんだー?」

ランシス「使いたくなった」

ベイロープ『補足するとアバーディーンってスコットランドの漁村も、油田開発の恩恵を受けて豊かな都市になっているのよ』

フロリス「日本で例えると……そうだねー、ある未開の土地を開発し終わったら、自称先住民族の子孫が湧いて出て、賠償金を支払えー、かな?」

上条「開発したのはイギリスで、でも独立派は寄越せと?」

ベイロープ『一事が万事こんな感じ。正直付き合ってられない』

レッサー「しっかもですねぇ、連中『ポンド使わせる訳ねーだろボケ!』と怒られてビビったらしく」

レッサー「選挙戦の最後の方に『国家元首はエリザベス2世のまま』とか超日和りやがったんですよー……あぁぶち殺してぇ」

鳴護「レッサーちゃん、キャラキャラ」

レッサー「おっと私とした事がついうっかりしちゃったのよな!」

上条「戻せ戻せ、クワガタアフロのオッサンになってんぞ」

鳴護「エリザベス女王さん?って確か」

レッサー「――もといエリザードでしたね。やー、何か今日は変な電波飛んでるなー?」

上条「あのノリの良いおばさんが国家元首……今と変わんなくね?」

ベイロープ『だったら”民族のため”に独立する意味が無いわよね?』

上条「あー……うん。独立派がクズってのはよく分かった」

フロリス「ちっちっちっ!甘いぜ、奴らはもっと怖いんだ!」

ランシス「……怖いってか、まぁ果てしなくドン引き?」

ベイロープ『私達、っていうかスコットランドの一部のバカどもはね。エリザード、もといエリザベス――あぁもう面倒臭い!』

ベイロープ『正式名称エリザベス2世が「スコットランドには居なかった」を根拠にして、2世って呼ぶな運動をしてるのだわ』

上条「ええっと?」

ランシス「スコットランドとイングランド、途中から一つの国になった」

ランシス「だから戴冠する君主は『イングランド王兼スコットランド王』、となる……おけ?」

鳴護「です、よね?日本じゃあまり馴染みがない、ですし」

フロリス「何となくでいーよ。ワタシらも深くは考えないし――で、今の女王が2世、つまり過去にも同じ名前の王様が居たと」

ベイロープ『――でも「スコットランドには居なかった。だから2世と呼ぶな」ってね』

上条「なんつーか……大概だな、それ」

レッサー「えぇまぁ連中裁判を起こして負けたんで、以後スコットランドでも2世と使われるんですがね」

レッサー「ですが、ブリテンの郵便ポストには国王の名が刻まれるのに、スコットランドでは無名のままって事態に」

ランシス「一部の人達が、壊したり、名前を削り取るから……」

上条「はぁー、大変なん――って待て待て、ちょっと待て」

上条「その、スコットランド独立派が、そこまでして嫌がってるエリザードさんを」

レッサー「『心配ないですよっ!スコットランドが独立しても何も変わりませんって!』」

レッサー「『だって君主はあのっ!私達の王様であるエリザベス”2世”さんなんですからねっ!』」

ベイロープ『――を、マジで。何ら一つフィクションで無しにカマしやがったのよ……!』

レッサー「まーさーにーっ!『ならず者の最後の逃げ場は愛国心である』を地で行ってますねー」

上条「……それ、本末転倒じゃね?スコットランドがイギリスから独立したがってるのは、まぁ良いと思うさ」

上条「ぶっちゃけ幾ら自由っつっても、独立する自由があるかどうかはさておき、理解は出来る」

上条「でもそのために今まで散々攻撃していた相手、つーかその様子じゃ無礼な事しまくってたエリザードさん持ち上げるって……」

レッサー「更に補足しておきますと、ブリテンじゃ王族に爵位が授けられます。どこどこ公爵とか伯爵とか」

レッサー「んで割り振られる領地――つっても名目だけですが――が決まってるんですが、なんと!」

レッサー「現在のエディンバラ公爵はエリザード旦那、しかも彼が死んだ暁には彼の長子――つーかリメエアさんが継承するってまとまってます」

レッサー「少なくとも『ブリテンの次の王はエディンバラ公が選ばれる』っつー配慮してんですがね、こっちは」

鳴護「お話聞くに、粗末には扱われてないよね……?」

レッサー「少なくともイギリス領インド帝国よりか格段に大事に扱ってますよっ!」

上条「おーいガンジー!こいつをいっぺんぶん殴ってくれ!」

フロリス「あぁまぁ良い機会だし、こないだはハンパになっちゃったのを、も一度言うとだね」

上条「途中?何かあったっけ?」

フロリス「フランスの王様がブリテンの王様でもあった、みたいなの」

上条「あーはいはい、あれな」

フロリス「……こほん。ぶっちゃけ『ブリテンの王族』の定義はバッカみたいに広いんだ」

上条「広い?」

レッサー「始めてお目にかかった頃、そちらさんは『王族だけを標的にする暗殺術式』だとパニクってらっしゃいましたよねぇ?」

上条「あぁカーテナ争奪戦の時、キャーリサがカマしたやつな」

鳴護「当麻君、さっきからイギリスの女王様とかを妙にフランクに話すよね?呼び捨てるよね?」

上条「違うんだよ……!いや、想像してる通りだとは思うけど!別に俺が好きこのんで首突っ込んだ訳じゃ!」

フロリス「だから『王族だけ』をターゲットにしたら、対象範囲がとてつもなく広いんだーよねぇ、これが」

レッサー「まずは国内に居る王族と元王族。そしてフランス革命で生き残った、言ってみりゃブリテン王室の元になった人達の子孫」

ランシス「……あと植民地。『大英帝国時代に王族だった』人も巻き込まれる……」

ベイロープ『ウチみたいな没落貴族は腐る程居るのよ』

上条「……あぁ、なんか適切な言葉が出て来ない。なんかモニョる!」

レッサー「素直にバカじゃねーの?と言っても構いませんよ?言ったら罰ゲームですけど!」

上条「今更不用意な事はしねぇが……あー、ルーツがフランス。でもってウェールズや北アイルランド、スコットランドの血も入ってる」

上条「しかも植民地時代には他の地域の大々的な王――皇帝になって、現地の植民地とも親戚関係になった、と」

レッサー「あ、『エリザード旦那はギリシャ王族』も付け加えておいて下さいな」

フロリス「今のウィンザー朝開祖ショージ五世のママは、デンマーク王女兼インド皇后だっしー」

ランシス「彼女の妹はロシア皇后になったけど……ロシア革命で家族を無惨に……」

鳴護「日本と違って、ひたすら混血やら婚姻が進んでる、って事?外国との?」

レッサー「まぁそんな訳で『ブリテンの王族だけを狙った術式』があったとしても、恐ろしく対象範囲は広くなってしまいます、えぇ」

レッサー「王位継承権だけを持つ、のであればまだ有効でしょうが、血がどうこうという判別方式でしたら、大量に人が死ぬ事になりますから」

上条「でもあの時、その、俺達が怪しんでいた王族だけ狙う術式があったとしてだ」

上条「キャーリサじゃなくフランスが黒幕だったら、本当に使って……あ」

レッサー「気づきましたか?いや僥倖僥倖。上条さんもこっちの知識に染まって何よりですな」

上条「認めたくはねぇがな……」

鳴護「どういう事?フランスには王様が居なくって、イギリスの王様を――ってするんだったら有効だよね、って話だよね?」

レッサー「……憎いっ!その無意識に『だよね』を二回重ねて上目遣いで首を傾げるその仕草を計算無しでやれる所が……!」

フロリス「落ち着け恥女。取り敢えずシャツ脱ごうとスンナ」

ランシス「……ハウスっ」

レッサー「わふーっ」

上条「ウッサいぞ外野。えっと、俺も良くは分かってないんだが、仮にイギリスの王族だけ狙えるとしよう」

上条「もしも『血』とか『過去の婚姻関係』で絞ったら、対象が大量になっちまうし?」

上条「フランスに友好的な国も巻き込んだりしたら、回り全部が敵に回す可能性だってある」

鳴護「あー、政治家さんの中にも『元○○王室の関係者』とかいそうだね」

上条「フランスにとっては、あぁもし黒幕が連中だったとすればって前提で」

上条「連中が国益であって、エリザードさん達殺しましたハイ終りとはならない。その後どうするのかが問題」

上条「物証突きつけられて四面楚歌にされてもするだけのメリットがあるか、と」

レッサー「……ま、ドーバーの原子力潜水艦から核使おうとしやがったらしいですし、少なからず冤罪でもないんですがね」

フロリス「つーかさー、ユーロトンネル爆破に関しちゃ、間違いなくフランス野郎が関わってたんだし」

ランシス「……あれ、スルーしちゃいけないと思う……」

フロリス「つーかユーロトンルネ爆破も結局。現在に至るブリテンとフランスのいざこざは、イギリス清教とローマ正教の代理戦争って側面があるのさ」

レッサー「こんな感じで、私達の歴史は入り組んでる訳でして、はい――『王族をトリガーに発動する国家単位の破壊を行う術式』でしたか」

レッサー「あったら最初っから使いそうなもんですけどねー」

上条「俺達は最初、お前ら『新たなる光』がその術式を起動しようとしてた、って勘違いしてたよな。でも」

上条「あれ、本当の所はどうなんだ?あったの?」

ベイロープ『レッサー』

レッサー「分かってますってば、そうガミガミ言わないで下さいよ。ベイロープは私のママンですか?」

レッサー「……」

レッサー「もしかしてっ!?あなたが生き別れになった私の――ママンっ!?」

ベイロープ『……後でケツの肉、握り潰す……っ!』

レッサー「助けてぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!?」

鳴護「レッサーちゃん……」

フロリス「あ、レッサーのオカンはおバカやらかす度に学校に呼ばれてたから」

ランシス「……その時に言った台詞が『バカな子ほど可愛いのよ!』……って」

上条「遺伝じゃねぇか。ある意味元凶とも言えるが」

フロリス「ワタシから補足しとくけど、はっきり言って『曖昧』」なんだよねぇ、そこら辺も」

フロリス「今の王様もウィンザー朝。ドイツ出身のザクセン公国の流れを継いでるし?」

ラシンス「……だから『ブリテン国王の死』にはフランス・ウェールズ・スコットランド・ドイツの血のどれかが入っていれば、条件を満たす……」

ランシス「もっと言えばブリテンにはもっと旧い『王』が居た、し?」

上条「範囲、広すぎだよなー」

フロリス「えーーーーーーっと……あぁそうそう、古代バビロニアでは『供犠王(King sacrifice』」って制度があった」

フロリス「”Escape”の前に現在の王は退位、罪人を王へ即位させるんだよ」

鳴護「エスケープ?逃げる、の?誰から?」

ランシス「『Solar eclipse, Lunar eclipse』……日蝕と月蝕」

ベイロープ『太陽や月がなくなってしまう、それを再び甦らせるためには王の命が必要』

ベイロープ『だけど一々殺していたんじゃ割に合わない。だったら殺されても当然のヤツを、事前に王につけておこう』

レッサー「ま、日本に多い『穢れ払い』と同じドグマでしょーかね?」

レッサー「『悪いモノが来たら、誰かに押しつけてその他多数を救おう』って考え方ですか」

ラシンス「もっと突き詰めれば、人身御供……」

上条「事前に予測出来てたのがスゲーよ。バビロニアって確か、紀元前……?」

ランシス「約1900年前から、千年ぐらい続いた王朝……」

フロリス「そん時にゃサロス周期が発見されてて、日食月食は100%予知されてたワケで……ま、8時間ズレる時もあったケド」

レッサー「詳しくは省きますけど、アンティキテラ島の歯車ってご存じで?」

鳴護「あ、知ってる!古代ミステリーとかのオーパーツ!」

レッサー「つい最近まで用途が不明だったのですが、復元作業が進んだ結果、あれは月の満ち欠け、天体の運行」

レッサー「更には日食や月食が起きる日時も、正確に算出出来るものだったようです」

レッサー「復元された盤面にはシグマ――月の女神セレーネのシンボルが月を。太陽は太陽神ヘリオスの象徴であるイータが入っています」

レッサー「その機械に使われてた歯車の歯の数、それが223枚。古代バビロニアで確立されていたサロス周期の概念が入っていた、と」

上条「制作年代は?」

フロリス「紀元前150年から100年ぐらい、って言われてる。ま、少なくともバビロニアとギリシアには文化の継続があったとさ」

ランシス「文化の伝播……信仰の変遷。バビロニアでのキュベレ神が、今度はアルテミスへ姿を変えるし」

レッサー「アルテミスというよりはセレーネの方が正しいと思いますよ。旧い、月の神」

ベイロープ『ま、そんな訳で昔から「貴人を殺して災害を防ごう」って魔術儀式があったのだわ』

フロリス「でも実際、一々やってちゃ非効率だっちゅー話さ」

ベイロープ『だから一時的に貴族や国王へ引き上げといて、さぁ処刑!みたいな事』

ベイロープ『その術式が存在してれば、ブリテンでもそういう対抗手段をとった思うわよ。あれば、ね』

ラシンス「だから、うん……ない、よ?」

上条「……なーんか違和感があるんだけど、まぁ突っ込んだら負けなんだろうな――あ、そうだ」

レッサー「な、なんでしょうか?……はっ!?」

上条「確実にお前が思ってる質問とは違うよ!……つーか常々思ってたんだけどさ」

上条「『カーテナ・オリジナル』って一度失われたんだよな?」

レッサー「清教徒革命の時にですね。あん時ゃもう必要ないと思いましたから」

上条「なんでお前ら、オリジナルが埋められてた場所知ってたの?」

上条「タダの魔術結社未満で、少なくともバードウェイ達みたいな老舗って訳でもないのに、どうして?」

レッサー・ベイロープ・フロリス・ランシス「……」

上条「……え、聞いたら駄目だったか?」

レッサー「……えーっと、ですねぇ。まぁ、何と言ったらいいでしょうか、困るのですが――」

レッサー「一言で言えば『神様の見えざる手が働いた』的な?」

上条「デラタメだよな?良く分かんないし、これ以上突っ込むのもアレだから言わないけど、雑だよね?」

レッサー「ウッサイですよ!私達だって頑張ってるんだから奇蹟の一つや二つ起きたっていいじゃないですか!」

上条「てか俺にキレるなよ」

レッサー「ちゅーかどうしていつの間にかこんな話題になったんですかっ!?私が折角張り切ったというのに!」

鳴護「張り切った……?あ、何か言いかけてたよね」

レッサー「……えぇまぁ今更話を蒸し返すのもちょいと照れるんですが」

上条「――って言ってる割にはスキップしてキッチンに移動してんな?」

レッサー「我々の旅、結構続いてますでしょ?長い――とは言いませんが、少なくとも『濃い』のは間違いなく」

上条「ま、そうだよな」

レッサー「んで、気づいたんですが――」

レッサー「――『私達、上条さんだけに料理を任せていて、女子的にどうなの?』と」

上条「レッサーつぁん……!!!」

レッサー「おおっとどうされましたかっ珍しい!?」

上条「……あのなぁ、そりゃな?俺だってさ、ホラ料理は嫌いじゃないよ?」

上条「むしろ最近、上の学校で経営学勉強しながら調理師免許取って、いつかお店を出したい!みたいな考えもあるんだよ」

上条「料理作るのは好きだからな。強いられるとしてもだ」

鳴護「わー、当麻君りっぱー」

上条「んでもっ!違うじゃない!そうじゃないじゃない!」

レッサー「え、えぇっと?どう、しました?」

上条「なんで女の子五人も居るのに、誰一人として料理しようとしないのっ!?女の子の手作りとか憧れるよねっ!」

ベイロープ『あー……』

フロリス「分かる。ケドさ。ウン」

ランシス「……うんうん、まぁ」

レッサー「……あー、それじゃどうしましょうか?私から言います?それともアリサさんから?」

鳴護「私!?はっきり言うのは、ちょっとプライドが……」

上条「……何?何なの?半分以上おふざけだってのに、なんかリアクションが予想と違う……?」

レッサー「んでわっ代表して私が!……こほん、上条さん、心して聞いて下さいね?」

上条「……そんなに深刻?」

レッサー「つー話でもないんですが……あー、例え話をしましょう。例え話」

レッサー「子供の頃にハマってものってありません?ゲームでも良いですし、ベースボールなんか流行ってましたっけ、日本じゃ」

上条「んー……どうだろ?あんま憶えてねぇが……」

レッサー「あ、別に言わなくても結構ですよ。ありましたよねー、的な感じで」

レッサー「でもそのハマってるものって、やっぱり上には上がありますよね?」

レッサー「ゲームでも野球でももっと得意で、しかも熱を入れてやってる人が居ます。そりゃ世界は広いんですから当たり前」

レッサー「んで、仮にハマってたものよりも数段の上の人が出て来たとして――」

レッサー「――その人の前で、腕前を披露する気、なります?」

上条「んー……と。まぁ、ちょっと萎縮するっつーか、気後れする、よなぁ」

上条「ガキの頃ってのは特に世界も狭いから、そうなっちまうような気がする」

レッサー「以上の例えを『料理』で再構成してみて下さい。速やかに」

上条「料理……?」

レッサー「えぇまぁ私達、ぶっちゃけ学生ですし?アリサさんも食事量がハンパ無いので自炊してたと思うんですよ、えぇ」

鳴護「大食いタレントさんと一緒にされるのはちょっと」

フロリス「自覚しよーぜ」」

レッサー「私達も寮ですからね。身の回りはメイドでも居ない限り、自分達でしなきゃいけませんからね」

上条「学園都市でも結構自炊派いるぜ?親元離れてて小遣いも限られるからな」

レッサー「えぇえぇ、そうでしょうとも。そうなんですよね、きっと」

レッサー「ですから私達も少なからず自信的なモノはありましたとも、はい」

上条「ありまし”た”?」

レッサー「……へぇ?上条さん、ここへ来てまだそんな態度なんですか、そうですか」

上条「……え」

レッサー「『メシマズ国』とか『メインメニューは六種類』、『カレー紳士』等々、散々ネタにされ続けてきた我々ですが」

レッサー「……まぁ、それでも?郷土愛と地元料理、結局ブリテン人の口に合うのはブリテン料理――そう、思ってきました」

レッサー「ですが!なんですかっ!?なんなんですかっ!?」

上条「ごめんなさいっ!?つーか俺が何したって言うんだよ!?」

鳴護「反射的に当麻君もどうかと思うよ?」

上条「――はっ!?『取り敢えず謝っとけば即死攻撃はあんま飛んでこない』って処世術が身について……!?」

ベイロープ『大概よね』

レッサー「ホラそこ脱線しない!人の話をきちんと聞きましょうっ!」

レッサー「大体昨日の料理!一体全体何なんですかっ!?」

上条「き、昨日の……?確か――」

上条「――あぁラビオリとラバーブレード――海藻のごった煮とエビのカクテル、だったよな?」

レッサー「あんなねぇ、あんな……!」

上条「イギリスの家庭料理だろ!お前らがそろそろ地元メシ食いたがってると思って、作ってみ――」

レッサー「あんな美味しいモノはブリテン料理じゃ無いんですよ……っ!!!」

上条「はいっ!…………………………はい?」

レッサー「あんなんはブリテン料理じゃありませんよ!散々煮込んだのにパサパサしてないし!ブレードは塩臭くないっ!」

レッサー「エビに至っては食べても砂が入ってないじゃないですか!?」

上条「ナメてんのか?お前が一番イギリス料理にケンカ売ってないか、あぁ?」

レッサー「うんもう面倒だからぶっちゃますと、ヤローのクセにやったらメシ作るのが上手い方が居て、恥ずかしくって料理を披露出来ないんですよ!」

上条「すいませんっしたっ!!!……って、あれ?悪いか、俺?」

レッサー「――だが、しかぁし!私は、このレッサーちゃんは違いますよ!」

レッサー「今日こそは私が!上条さんを料理で上回ってやりましょう!」

上条「……や、あのな?俺は別に料理の上手い下手とか関係なくってだよ?」

上条「女の子が作ってくれるんだったら、文句言うつもりなんて更々ねぇし。そもそもプロの人だって、常に全力の料理ばっか食べてる訳じゃないんだからな?」

上条「カップメンやファーストフードの味が恋しくなるし、実家に帰ってかーちゃんの濃い味付けに涙したりとか、フツーだからな?」

レッサー「……ほぅ?始まる前から上から目線……勝負をしないおつもりですか?」

上条「勝負も何も。俺は作ってくれるだけで有り難いって」

レッサー「ダメですねっ!女のとしてのプライドがある以上、殿方に女子力で劣ったとあっては末代までの恥です!」

上条「待て待て。人を女子力58万みたいに言うな」

上条「あとさっきから凹んで沈黙している他の皆さんの心中も察してあげて、なっ?」

レッサー「逃げるんですか上条さん!」

上条「いや逃げるとか……まぁ、するっつーんならやっけどさ」

レッサー「あ、罰ゲームは『負けた方が勝った方と結婚する』で」

上条「あ、ごめんな?やっぱ俺勝負しないわ」

レッサー「この私の狡猾な罠を見切っただと!?」

上条「辞書でこの単語の意味調べてこい……って、あれ?」

レッサー「どうしました?」

上条「や、その、お前にプロポーズされんの久しぶりじゃね?」

レッサー「そ、そうでしたっけ?」

上条「前は一日一回してたじゃん?それがここ二三日はないなーって」

鳴護「その『遊びに行かない?』的な頻度もどうかと思うよ?」

フロリス「慣れちゃってるのも不憫だよねぇ。ま、関係ないケド」

レッサー「――と、言う訳で早速張り切ってやりましょうか!」

上条「スルーすんなよ」



――キャンピングカー

レッサー「で、料理対決はジョークとして、まぁたまには私のお料理なんかも披露したいなー、と」

上条「……あぁうん冗談なんだよね?良かったー」

フロリス「レシピは?」

レッサー「ウサギのミートソースです」

上条・鳴護「「……ぇっ?」」

レッサー「待ちましょうかジャパニーズ?何か不満でもおありで?」

鳴護「ウサギ、食べ、るんだ?」

レッサー「日本でも食べていたって聞きましたけど」

上条「江戸時代な。仏教の影響で獣肉はあんま食わなかった、らしい」

上条「今も……料理としては残ってねぇかなぁ?少なくとも俺は食べた事が無い、と思う」

フロリス「郷土料理、みたいな感じでもないの?」

上条「蜂の子的なアレな料理は残ってっけど、ウサギ料理は聞いた事すら無い。言われてみれば何でだろ……?」

ベイロープ『代用品が出来たんじゃないかしら?チキン・ポーク・ビーフにフィッシュ』

ベイロープ『ウサギを育てて食べるよりも安くて効率的よね』

鳴護「あー、だから代用品のない鯖寿司とか残ってる、のかな?」

上条「発酵食品は地元の文化と一緒になってっからな」

レッサー「んじゃどうします?念のため用意してたチキン辺りで代用しても同じですけど?」

上条「いや、ウサギ肉で頼む。食べ慣れてないだけで興味はある」

鳴護「同じく、です」

レッサー「わっかりました。そいでは取り出したるこのウサギ肉!」

上条「……えっと」

鳴護「手のついてるチキンの丸むしり、みたいな?け、結構そのままなんだねっ!」

レッサー「え、日本じゃ違うんですか?」

上条「あー……部位ごとにブロック単位でパックに詰めて売ってる。だから、その」

上条「そんな”まま”のは見ない、かな。うん」

ランシス「方式としては日本が特殊……普通は”まま”で売られてる方が多い」

フロリス「アジアの露天なんかは生きた鶏をその場でシメてるし?」

レッサー「ま、お気になさらず。では――この寸胴鍋へっ!」

上条「デカっ!?つーかそんなの置いてあったか!?」

レッサー「ウサギにっくドーーーンっ!」 ザポンッ

鳴護「え!?骨は!?割とアレ、首があったら動き出しそうなぐらいに原型留めてたよねっ!?」

レッサー「まぁまぁ見てて下さいってば。このまま終る訳がないでしょう?」

鳴護「だ、だよね?ギャグじゃないんだもんね!」

レッサー「次に用意するのは皮付きのタマネギ、ニンニク、ネギ。新鮮ですよー」

上条「お、おぅ」

レッサー「これも全部おっなっべっへドーーーーンっ!!」 ザボンッ

上条「皮はっ!?剥かないのっ!?」

レッサー「――最後に取り出した大量のトマト!あーんどハーブ!これも――」

レッサー「ぜーんぶドーーーーーンッ!!!」 ザボザボザボザボッ

上条「表出ろテメー!食べ物で遊ぶのは流石に――」 ツンツン

上条「――ランシス?何?今ちょっとレッサーの幻想をだな」

ランシス「……ネタじゃない」

上条「はい?なんて?」

ランシス「本当のあるの、この料理」

上条「ちょっと何言ってるか分からないですね」

フロリス「現実逃避は止めろ。マジでジョークじゃないんだ。つーかブリテンの有名な料理家がこれ作ってんの」

上条「やだなーフロリスさんまで」

ベイロープ『甚だ遺憾だけれど……本当、よ』

上条「………………マジで?これが?」

鳴護「ま、まぁまぁ?まだだよ!まだ終ってないし、きっとこれからミラクルが起きるのかも!」

上条「ん、あぁ、そう、だよな?まだ材料ぶち込んだだけだもんな!」

上条「そういや前なんかで『皮の部分に栄養素がたっぷり含まれている』みたいな話聞いたし!レッサーの戦いはまだまだ続くんだよな!」

レッサー「それ完全に打ち切りフラグなんですが……まぁ良いでしょう。確かに行程としては100分の1も経過してませんし」

上条「あ、そなんだ?だったら別に」

レッサー「では次の行程へ移ります。このランシス――じゃなかった寸胴鍋を」

ランシス「『Are not you negligently applying the match? Wild Boar?』」 ジャキッ
(いい加減ケリをつけようじゃないか猪野郎?)

ラシンス「『Did not you say by power at "Alondite" though doubted saying you and beforehand? Aha? 』」
(つーかお前、前々から思ってたんだが『魔剣』の時もノリで言ったんじゃないのか?あぁ?)

上条「だから荒れるな!つーかお前も室内で抜くな!」

レッサー「で、煮ます。パチッとな」

上条「あー、イギリス料理は煮るのが多いんだっけか?」

レッサー「……」

上条「……」

鳴護「……」

上条「……いや、待つのは良いんだけどさ。どのぐらい?」

レッサー「13時間です」

上条「よし解散っ!」

フロリス「ベイロープぅ、どっか食べ物屋さんあったら停まってよ」

ベイロープ『おけ。リクエストは?』

レッサー「待って下さいよ!?さっきから何なんですかっ文句ばっかり!」

上条「じゃ言うけど!13時間ってなんだよ、13時間って!?せめて2時間3時間だったら話は分かっけど、半日以上て!?」

ベイロープ『あー……その、言いにくいんだけど』

フロリス「……ネタじゃないんだよ、ウン。ネタじゃないんだな、これが」

ランシス「ブリテンじゃふつーふつー……」

上条「おかしいの俺か!?」

レッサー「ね、上条さん?気持ちは分かりますよ、えぇ。カルチャーギャップと言いますか」

レッサー「高度に効率化された社会に於いて、スローライフが異様に見えてしまうかも知れません」

上条「いやあの、もう効率的以前に『これ料理?』って感じなんだが……」

レッサー「ですが!裏を返せば料理一つにここまで手間暇をかけられる!そういった心の余裕がゆとりなんですよ!」

上条「『余裕=ゆとり』だからな?それっぽい事言ってるつもりなんだろうが、失敗してるからな?」

上条「……いや、まぁ言いたい事は何となく分かる。料理に時間を割けるのって、大切だもんな」

上条「効率やけ追い求めるんだったら一昔前の宇宙食みたいになって、味気ないシロモンだって話か」

レッサー「――で、13時間煮込んだものがここにあります」

上条「良い話してたよね?お前の話に合わせてそれっぽい事言ってたよね?俺の気遣い返してくれないか?」

レッサー「この『魔法の寸胴鍋』を使えば13時間が13分に短縮出来ます!」

上条「個人的にスッゲー欲しい鍋だ!?」

鳴護「当麻君、ツッコミ段々ズレてきてる」

上条「い、いや違うんだよアリサ?確かに『13時間!?』とは言ったけどな」

上条「でも丁寧に煮込めば煮込む程、ダシ――スープに具材の旨味が出てくるんだ」

鳴護「あー、煮込んだカレーも美味しいよねぇ」

上条「確かに効率は良くない!良くないだろうけどさ!」

上条「でもっ13時間も煮込んでるんだったら、きっととても美味い出汁が取れて――」

レッサー「あ、煮汁は邪魔なんで捨てますね」 ザーーッ

上条「レッサァァァァァァァァァァァァァッ!?」

フロリス「待て。手順通りだから!ネタじゃなく!」

上条「……なぁ?これ本当に料理人が考えたレシピなの?」

ランシス「……誇張一切無しで、有名な人」

レッサー「んでお次にゴム手袋を填めまして」

上条「ゴム手?水回りの掃除でもす――」

レッサー「柔らかくなったトマトを――ドーーンッ!」 グシャッ

上条「おまっ!?つーかあれっ!」

ベイロープ『……うん、大体言われたままね。大体は』

レッサー「皮付きタマネギをゴム手のまま皮を取って――そっのまっま、ドーーーーンっ!!」 グシャッア

鳴護「!?」

レッサー「ニンニクもネギも!ほーら簡単に手ですり潰せるぜ!」 グッチャグッチャ

レッサー「そして次にウサギ肉からゴム手のまま骨を取り除く!柔らかくなってて簡単だぜヒャッハー!」

レッサー「――で、グチャグチャになったものを、全部まとめてフードプロセッサーへかけて――」 ウィィィィンッ

レッサー「ペースト状になれば――はい完成!ウサギ肉のミートソースの出来上がりですっ!」

上条「……あの、レッサーさん?」

レッサー「パスタと混ぜて良し!パンに挟んで良し!万能調味料ですなっ!」

上条「お、おぅ……」

鳴護「あー、じゃ一口貰っても?」

上条「アリサさん?」

レッサー「さ、どうぞどうぞ!上条さんも是非っ!」

上条「ん、まぁ見た目が――いやなんでもない、頂くよ」

鳴護「……」 ハムハム

上条「……」 パクパク

レッサー「……どうです?」

鳴護「……あ、美味しい」

レッサー「ですよねっ、良かったー」

上条「……まぁ、うん、美味しい、な?」

上条「脂っぽさが皆無でヘルシーだと思うよ。うん」

レッサー「美味しいなら美味しいとはっきり言ったらどうですかコノヤロー!」

上条(料理の基本は 『旨味』と『脂』で、その両方が吹き飛んでるなんて言えない……!)

レッサー「いやですよぉ泣く程美味しいだなんて!この『幻想ゴ・ロ・シ』!」

上条「人の能力っぽいのをジゴロみたいな言い方は止めて貰おうか」

上条(いやでもこれしかし、どうやってオチをつけたもんか――) チラッ

フロリス・ランシス スッ

上条(目ぇ逸らせやがった!?ベイロープ、ベイロープさんはっ!)

ベイロープ『あ、道混んで来たから切るわね』 プツッ

上条(混んで来たから、の意味が分からない!?むしろそのためのボイスチャットじゃないの!?)

上条(だったらアリサ!このパーティ唯一の良心であるアリサならきっとやってくれる!)

ランシス(――って思ってるんだろうけど、それ、フラグ)

鳴護「えっとね、レッサーちゃん」

レッサー「はいっ!」

鳴護「えぇっと、うん、まぁ、なんていうか」

鳴護「……お、お料理の事は当麻君かが詳しいんじゃないかな?」

上条(良心が丸投げしやがったぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!?)

フロリス(だーよねぇ)

レッサー ドキドキ

上条「あぁっと、まぁ、アレだよ――」

フロリス「――の、前にレッサーの名誉のため言っとくケド」

フロリス「ブ――イングランドじゃ、これが、マジで、存在する」

レッサー「待ちましょうか?今ブリテンって言いかけてどうしてキャンセルしたんですか?」

レッサー「そしてまた我らが大英帝国の業を一身にイングランドへなすりつけませんでした?」

フロリス「気のせい気のせい」 チラッ

上条「(おけ――なぁ、ランシス?)」

ランシス「(……遺憾ながら、まぁ、有名な料理人がドヤ顔でこの料理を……)」

ランシス「(だから、レッサーは悪くない……し!私達の家庭料理も、まぁこんなもん?)」

上条「(……人気なの、その人?)」

ランシス「(……かなり)」

上条「(んー……日本でこれやったら二日で潰れるレベルの調理方法なんだがな……さて)」

ランシス「(ちなみに私は結構この味が好き)」

上条「(え?この出し汁全廃棄したパッサパサのが?)」

ランシス「(……”だった”とだけ)」

上条「(うん?)」

ランシス「(茶碗蒸しと肉じゃがの味を知った後には……もう!)」

上条「(……あのな?別にガスコンロありゃ誰だって作れるからな?)」

上条「(建宮の差し入れの醤油と鰹節、みりんだって手間かければ手に入るし)」

ランシス「(それは傲慢な考え……ナンプラー(魚醤)とタピオカミルク渡されて、はいどうぞって言われて料理できる……?)」

上条「(魚を照り焼きした後にほぐして、骨とワタは鍋で煮てスープにする)」

上条「(取った身をご飯に混ぜてタピオカミルクと煮ればいいじゃん?)」

ランシス「(……)」

ランシス「(プリンとレモネード渡され――)」

上条「(悪かったよ!無駄に女子力高くてごめんなさいよっ!)」

上条「(あとプリンとレモネードは完成されてる!そっから進化させようがねぇよ!)」

ランシス「(……だからー、レッサーの自尊心を傷付けない方向で一つ。よろしくー)」

上条「(……頑張っては、みる)」

レッサー「おっぱい勝負じゃ負けましたけどねっ、女子力ならまあこんなモンですよねっ!」

上条「勝ち誇ってんじゃねぇよ。いや、確かに勝負かけたのは評価するけど」

上条「あー……っと、レッサーさん?」

レッサー「はいっ!」

上条(あー……でもなんて言おう?不味くはないんだ、美味しくもないってだけで)

上条(だからっつって、わざわざ手間暇かけて作ってくれたのを扱き下ろす……そりゃ、人がやって良い事じゃねぇしな)

上条「……」

レッサー「おぉっと上条さん?焦らすのも嫌いじゃない!嫌いじゃないですよっ!」

上条「取り敢えずボケる癖をナントカしやがれ。話が進まないから――で、なくってだ」

上条(下手に取り繕うのも、逆にレッサーは鋭そうだし……よし!)

上条「あー……やっぱ考えたんだが、俺さ――」

レッサー「よっしゃ!ドント来なさ――」

上条「――俺、レッサーがメシ食ってんのが好きなんだよっ!」

レッサー「――い!?」

ランシス「あっちゃー……」

フロリス「おぉっと!お気の毒ですが地雷原へトラクター乗ってく勇者だ……!」

上条「だからなっ?こう、作って貰ったのは嬉しいけども!」

上条「やっぱりホラっ作る喜び的なねっ!一人で食べるのは味気ないし、誰か喜んでくれる人が居たら良いよなっつー事だよ!」

レッサー「それはつまり――結納ですねっ分かりますっ!!!」

上条「そんな話はしてなかったな?」

レッサー「い、いやいやっ!『俺の手料理を毎日食ってくれるお前が好きだ!』みたいな、ジャパニーズ特有の遠回しなプロポーズでしょうが!」

上条「いやまぁ、する人も居るらしいけどさ。そんなたいそうなモンじゃなくってだ」

上条「ほら?レッサーだけじゃなくって、アリサにベイロープにフロリスにランシス。みんなが食べてくれるのは有り難いよな、って」

レッサー「ご」

上条「ご?」

レッサー「五重婚とは……!……くっ!中々やりますねっ!」

上条「甲斐性ありすぎるだろ、なぁ?確かに全員可愛いとは思うが、お前俺の事どんだけ節操ないって思ってやがる!?」

レッサー「禁書目録さん、御坂美琴さん、神裂火織さん――」

上条「良し!落ち着くんだっ!色々とツラいからこの話題は先送りにしておこう!」

レッサー「戦わなきゃ、現実と!」

上条「現実か?一介の高校生が世界の命運賭けて戦うのが本ッッッッ当に現実だっつーのか?あ?」

上条「たまーに思うんだが、俺なんか夢見てる気がするんだよ。もしくは壮大なドッキリ仕掛けられているとか」

レッサー「あぁありますあります。『実は自分の人生が壮大なリアリティ番組で、実は全て誰かに監視されてる』的な妄想」

上条「映画でもあったっけかな。コメディのようで笑えない話の」

レッサー「まー、実際にキャスト用意して試そうってんなら、親兄弟や周囲の人間まで十年単位で用意しなくちゃですからねー」

レッサー「コストに見合ったリターンがあるとはとても」

上条「……ま、俺の妄想は良いんだよ!それよりも――」

レッサー「あぁいえ、上条さん。分かってますよ、分かってますってば」

上条「え」

レッサー「最初のリアクションで『美味くも不味くもない中途半端』ってのか、何となく分かっちゃいましたからねー。無理にフォローされなくても結構ですよ」

レッサー「むしろ気を遣わせてしまって申し訳ないな、と」

上条「ん、あぁいや?そんな事ない!ただ慣れてないのはしょうがないだろ?」

上条「一生食いたいかはともかく、そんだけ誰かのために時間かけてメシ作ってやれるってのは、幸せだと思うぜ?そいつがな」

レッサー「……ですね。そういった意味じゃ、私はこの料理嫌いじゃないかもです」

上条「まぁ、な」

レッサー「しかしまぁ驚きですよねぇ」

上条「なにが?」

レッサー「まさかテレビで見ただけのネタ料理をここまで褒めて頂けるとは!」

上条「やっぱりじゃねぇかっ!?やっぱお前俺で遊んでただけだろうが!」



――イタリア ローマ市街地某所

上条「……色々あってイギリスとフランスの各都市は回ってきたが――」

上条「――スゲーなローマ、主に人の多さがな!」

上条「地方の通勤ラッシュ並みの混雑が延々続いてるレベル……」

鳴護「えと、旅行の栞によれば……『人口約270万人の都市で、元ローマ帝国の首都です』と」

鳴護「『ですが神聖ローマ帝国(笑)の没落と共に、諸国家へ別れて散り散りになりました』」

ベイロープ「……カッコ笑いカッコ閉じ……?」

鳴護「『前の戦争でWOP野郎はさっさと降伏しやがったので、連合軍の爆撃を免れ、結果として古い建物が数多く残っています』」

鳴護「『とはいえ治安は良くないので、決して裏路地へ入ったり、ツンツン頭の男とは二人っきりにならないように注意して下さい』」

上条「その栞、俺貰ってないよね?つーか妙に攻めてくるよね?積極的に打者へ当てに来てる辺り、誰が作ったかもう分かったが!」

上条「てか海外のゴロツキがたむろってる路地裏と俺って同格なの?言っちゃ何だけど未使用だよ?ほぼ新品だし?」

レッサー「中々エッジの効いた内容ですねっ。宜しければ見せて貰えません?」

鳴護「どうぞどうぞ――てか、私達の街が240万人で。ローマには観光で来た人も受け入れてるから、もっと多いんじゃ?」

ベイロープ「それが正解。しかもやったら滅多に人混みが多いのは、やっぱ街のせいなのよ」

上条「観光名所だから?」

フロリス「それはハーズレー。『古い市街が残ってる=現代の社会インフラが取り入れられてない』ワケさ」

ベイロープ「それも補足すれば道路・歩道共に道幅が狭い……つか年間780万人の観光客が押し寄せれば無理ないわ」

ランシン「良く言えば風情がある……悪く言えば……?」

レッサー「『人がゴミのようだ!』」

ランシス「……正解」

ベイロープ「そこはまだ『ゴミゴミとしている』にしときなさい」

上条「あ、いや建物や街並なんかはいかにも『それっぽい』感じなんだが、整然としてねぇから違和感が」

レッサー「列があったら取り敢えず一列に並ぶ、レミングスの末裔には分からないでしょうねー」

上条「ルールを守るのは自分のためだ。回り回って戻ってくるのが分かるから、俺達はそうしてるだけだっーの」

フロリス「んで?ここに集めてどうすんのさ?」

上条「だな。キャンピングカー郊外に停めて荷物だけ持って集合――って流石に不安になるよな」

フロリス「さっさ観光したいし、ね?」

上条「前っから思ってんだが、レッサーが悪目立ちしてるだけで、お前も相当大概だよな?」

フロリス「ナイナイ?観光気分で日本旅行とか、ゼンゼン?うん」

レッサー「悪目立ち……」

ランシス「大丈夫、目立ってるのに代わりはない」

レッサー「じゃあ良いでしょうかねっ」

ベイロープ「おい、問題児三人。いい加減にしないとケツをしばき倒すのだわ」

鳴護「まぁまぁ。それよりもこれからどうなるんでしょうね?」

ベイロープ「どうもこうも。し明後日にはローマでコンサートよね」

鳴護「はい」

ベイロープ「だったらそれまで、どこか安全な場所でカンヅメが妥当じゃないかしら」

ベイロープ「ローマ正教のお膝元でドンパチやらかそうって程、連中はバカ……」

ベイロープ「……」

ベイロープ「有り得るか。それも」

レッサー「ですなー。『Blitz tactics(電撃作戦)』でカマすのは常道。てか基本ですし」

上条「大丈夫だろ?だってローマ正教みたいな、やったら人員豊富な所が護ってくれるんだったらばさ」

フロリス「いやぁ、それがさー?ウェイトリィ兄弟の『双頭鮫』てばシシリー系マフィアだっつったジャン?」

上条「シシリー?」

ベイロープ「英語だと『Sicily』、イタリア語だと『Sicilia(シチリア)』」

鳴護「ちゃらら、らららら、ちゃらららー?」

上条「ゴッドファーザーのテーマ……あぁ本場なんだっけ、シチリア」

ランシス「が、まさにイタリアの南に浮かんでる島」

上条「……なーる。安全地帯に来たつもりが、向こうさんのホームにも近づいてるって事なのな」

レッサー「加えて前教皇マタイ=リースさん時に色々不祥事が出て来ましてね」

レッサー「具体的にゃ司教レベルでの性的虐待、バチカン銀行がギャングのマネロンに使われていた疑惑付き」

上条「おい大丈夫か?つーかここローマ正教のお膝元だっつってんだろ!」

レッサー「『私、レッサー、脱衣の天才だ!教皇だってぶん殴ってみせらぁ!でも分離主義者だけは勘弁な!』」

上条「お前はぁぁぁぁぁぁぁぁっ!?」

ランシス「……ムダムダ。レッサー、フツーにぶん殴りにいくと思うよ?」

フロリス「てかそれはレッサーだけじゃないよね、別に」 チラッ

ベイロープ「あー……」 チラチラッ

上条「そんな目で見られてたなんて……」

鳴護「てかなんで特攻野郎○チームのネタをレッサーちゃんが知ってるの……?」

ベイロープ「はいはい静かにー。話はきちんと聞く!」

上条「……いいのか?ベイロープさん、完全に保護者の立場と投げやり感になってんだけど、本当にそれでいいのか?」

レッサー「――で、激おこした教皇、てかローマ正教。なんと『マフィアの破門』をしくさったんですよ」

上条「破門?」

レッサー「『震えるぞビィィィィィィィィトォッ!!!』」

ランシス「それ波紋違い……」

上条「ベイロープ?」

ベイロープ「ちょっと待ってね。今『槍』出すから」

レッサー「すいまっせんっごめんなさいっ私が悪かったですもうしませんっ!?」

鳴護「速攻で謝るんだったら、しなきゃいいんじゃ……?」

フロリス「山があったら登るだろ、Lady?」

鳴護「あたしインドア派なんで。お部屋で曲作ってる方が好きかな」

フロリス「んー……新しいキーボードあったら、カタログ欲しくなるよね?」

鳴護「分かるっ!ロールキーボードが出るとあの、ぺこぺこ感を試したくなるっ!」

上条「……この旅でアリサの妙な一面を発見してきたが、それ共感するヤツ居るのか……?」

ランシス「着やせとか?」

上条「こ、個人の大切な個性じゃないかッ……!」

レッサー「――さて、そろそろベイロープの眼の色が警戒色に――いやウソですごめんなさいなんでもないです――真面目に言いますと」

レッサー「今、ローマ正教とシチリアマフィア、ちょっとした冷戦中でしてね」

ベイロープ「一応『裏』からの影響力を削ごうって建前。実際の所はどうか怪しいんだけど」

上条「まぁ、な。マフィアよりもデッカイ闇がゴロゴロしてる訳だし」

レッサー「だもんで、数年前であれば『マフィアとも仲良しさっ!』なんで、『双頭鮫』を自制してくれたんでしょーが、それは期待できないと」

フロリス「てか逆ジャン?シシリーが怒ってるから、ダンウィッチの双子が雇われたって線は?」

ランシス「時系列的には破門された方が早い……ん?そこまで、するかな?」

レッサー「繋がりは知ったこっちゃありませんがね。少なくとも敵対行動を取っても、仲間から突き上げは食らいにくいでしょうね」

PiPiPiPi……

鳴護「あたしのケータイ……『もしもし?あ、お姉ちゃん』」

鳴護「『今、みんなで――うん、六人だよ?今、意図的に誰一人ハブかなかった?』」

上条「おっと!最初っから鋭いジャブが飛んできたぜっHAHAHAHA!」

レッサー「大切にされてるのか、警戒されてるのか、微妙な乙女心と言えなくもないですかねぇ」

上条「乙女心……つーかシャットアウラって幾つよ?88の奇蹟ん時に小学生ぐらいだったから、下手すると中学生?」

上条「どう見ても良家のお嬢様が、どこをどうやったら企業の外付け保安部になってんだか」

鳴護「『こっちに来てる?合流……はいいんだけど、人多すぎで』」

鳴護「『――え?いつもの格好だから直ぐ分かる?』」

上条「いつものってどんな格好だよ。俺らシャットアウラの私服見た事無いし」

ランシス「……あ」

フロリス「あれ、かなぁ……?外れて欲しいケド」

上条「どれど――マジかっ!?」

ベイロープ「……黒い対刃・対弾ジャケットに、金属片で補強したロングコート……」

レッサー「攻殻機動○のコスプレですかね?いやー、気合い入ってますねー」

上条「浮いてるよ!?つーか遠くからでも目立つし!若干回りの観光客も遠ざかってんじゃねぇか!」

上条「てか私服じゃねぇなぁ!いつものって『いつもの戦闘服』って意味か!?」

ランシス「似合ってるのは、うん」

ベイロープ「ま、本人がいいってんならいいでしょうけど――問題は」

フロリス「どーにか、辛うじて同行者と言えなくもない、びっみょーな距離を取って歩いてるShimazaki?」

上条「それ中の人……あー柴崎さん、顔強ばってんじゃねぇか!そこまでして付き合わなくっても!」

鳴護「お姉ちゃん……ま、まぁ真面目な人だから!二人とも!」

フロリス「……あのさ。思ったんだケド」

レッサー「どしましたか?」

フロリス「ワタシら、あの二人に連行されんだよね?こう、コスプレしたねーちゃんの関係者だって羞恥プレイを強いられるんだよね?」

レッサー「あ」

ランシス「……うーん」

上条「……いやでも、それは仕方がな――」

レッサー「――と言う訳で私達はちょっくらローマ観光と行きますんで!上条さんとアリサさん達は、ここから別行動に――」

ベイロープ「――に!になる訳が!ないでしょうがぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」

レッサー「ビヒギャアアアアァァァァス!?ハイロゥンドォが攻めてきたぞぉぉぉぉぉぉっ!?」

鳴護「レッサーちゃん、余裕結構あるよね?いつも思うけど」

上条「変態だからな」

鳴護「あー……」

シャットアウラ「何を騒いでるんだお前達!目立って仕様が無いだろう!」

上条「お前もな?観光地で特殊部隊の装備そのままって正気か?」

シャットアウラ「何が?」

鳴護「えっと、お姉ちゃん。こっちで話そう、ね?」

シャットアウラ「それは構わないが」

クロウ7「いやダメです。先様がお待ちですから」

ベイロープ「サキサマ?」

クロウ7「お疲れ様でした皆さん。よくぞご無事で」

上条「大げさ、って訳でもないか。だって――」

クロウ7「あ、詳しい話は後ほど伺います。それよりも移動致しますので着いてきて下さい」

フロリス「どこ?ホテル借りたの?」

クロウ7「借りていません。正確には今から国境を越えます」

上条「え!それじゃイタリアから出んの?」

シャットアウラ「そうじゃない。イタリアの『中』にある。お前も聞いた事ぐらいはあるだろう?」

ベイロープ「まさか!?ローマ正教の総本山!?」

シャットアウラ「そのまさかだ。『向こう』が招待してくれたんだ、無碍にする訳にはいかない」

上条「なに?どういう事?」

シャットアウラ「世界最小の独立国にして、信徒20億を超える宗教の本拠地――」

シャットアウラ「――パチカン市国が歓迎してくれるんだそうだ、良かったな?」



――バチカン市国 カンドルフォ城

鳴護「意外と、って言ったら失礼かも知れないけど、質素、かな?」

レッサー「ここ、カンドルフォ城は教皇の別荘ですからねぇ。対外用の文化財バチカン美術館で公開していますし」

レッサー「各国関係者と秘密裏に会談する時なんかに使われている――と、囁かれてます」

ベイロープ「公私で言ったら間違いなく”私”だし、飾ってお披露目するような場所じゃないの」

鳴護「へー……」

フロリス「つーか思ってたよりも、狭い?つーかちっこい?」

鳴護「えっとケータイ――は、ないんだっけ」

レッサー「『電子機器は信じられない』との理由から没収なんてねぇ?」

鳴護「だよねー」

レッサー「学園都市がビッグデータの収集と称して、各種盗聴やってない訳ないですもんねっ!」

鳴護「え!?信じられ方が思ってたのと違うっ!?」

ランシス「……補足すると、東京デスティニーランドよりも狭い……ふひっ」

鳴護「なるほどー……なるほ、ど?」

レッサー「テーマパークと比べるのは、ある意味正しいっちゃ正しい気もしますがね」

フロリス「そんな所に余所者が踏み込んで良いのか、ってのはランシスのプルプルしてる所からお察しだと」

ランシス「……う、うんっ……敵対的な、ものはない……あふ……」

鳴護「……平気?辛くない?」

ランシス「ちょっと、弱い……気を遣って貰うなくていいのに……ひひひっ」

ベイロープ「余計な事を言うな恥女その二」

レッサー「まるでその言い方だとイチが居そうな感じですよねっ!」

ベイロープ「自覚があるんだったら黙ってろイチ」

鳴護「お姉ちゃん達が入れなくって、レッサーちゃん達が居られるのは、なんか、なんかこう納得行かないんだ、うん」

フロリス「あー、そりゃ所属する側の違いじゃないかね。そっちとこっち」

ベイロープ「ローマ正教は魔術サイド、特に十字教関係では最硬最強よ。他の魔術師にとっても鬼門」

レッサー「変な素振りでも見せたら、即座に瞬殺されるでしょうなぁ」

ランシス「けど科学サイドにはこっちの常識が――あぅんっ――通用しな、ぁぁくっ!」

鳴護「無理しなくていいからっ!?色々とお見せできない顔になってる!」

レッサー「科学サイドの仕掛けがあったとして、見破るのは困難です」

レッサー「それに比べれば得体の知れない私達であっても、同じサイドに居る限り、楽に対処出来ると踏んだんでしょう」

鳴護「てかイタリアから特に何もなく入れちゃうし、ちょっと意外」

ベイロープ「文字通り『教皇級』の術式がガンガンかかってるのと、あと警備的な問題かしらね」

フロリス「ショーギにアナグマって戦術あったジャン?キングをガッチガチに固めるの」

鳴護「名前ぐらいは聞きますけど」

レッサー「外から誰も入って来られないようにしちゃうと、反対に外へも出られなくなるんですよ。いざという時に身動きが取れない」

レッサー「それに、ホラッ!Love&Peaceの精神で武装放棄じゃないですかねっ!」

ランシス「(……んっ本当の、所は?)」

ベイロープ「(ジハーディストを”騙る”テロリスト達が、ここをターゲットにしない訳がないわよね)」

フロリス「(それでも一切テロ情報が出ないってコトは、つまり?)」

ベイロープ「(『存在しなかった』のであれば、問題にならないわ。そゆコト)」

レッサー「(楽には死ねないでしょうが、まぁ無辜の一般人巻き込もうとしてんだから当然です)」

レッサー「(……むぅ、それとも逆ですかね?)」

レッサー「(わざと一般人にも開放しておいて、何かあったら確実に巻き込まれるようにしておく)」

レッサー「(そうすりゃ反撃する際に宗派を超えて世論も味方に出来る、と)」

フロリス「(よっ、レッサー腹黒紳士っ!)」

レッサー「(いやぁ、それ程でも)」

鳴護「そっかぁ、みんなが仲良く出来るのは良い事だもんねっ」

レッサー「その笑顔がっ!悪意の欠片もない笑顔が私の良心を……ッ!!!」

フロリス「諦めろ。ヨゴレとアイドル比べる方がどうかしてるぜ」

レッサー「アリサさんをヨゴレだなんて酷い言いぐさなんですかっ!?」

ベイロープ「座ってろリアクション芸人枠」

鳴護「……私もね、アイドル板で『最近仕事がふなっし○とカブってる』って意見が……」

レッサー「すんませんっマジですいませんでしたっ!」

鳴護「ふなっ○ーには会いたいよ!会いたいけどキャラ被るし!」

ランシス「これが、天然」

レッサー「……なんでしょうねぇ、こう。ブロンズとゴールドの格を見せつけられてる気が……」

フロリス「天然の宝石とメッキはまた別だよねぇ」

レッサー「アリサさんをメッキだなんて酷い言いぐさなんですかっ!?」

ランシス「ループ禁止……」

鳴護「んー……レッサーちゃん、ちょっと良いかな?単刀直入に聞くけど」

レッサー「はいな?なんでしょうか?」

鳴護「っと、その前に当麻君はまだ帰って来てないよね?」

ベイロープ「トイレにしちゃ長いけど、ここなら敵襲はない筈よ。敵襲”は”」

フロリス「女の子を連れてくるに10ユーロ」

ランシス「乗った……おっさん引っかけてくる」

鳴護「……信頼されてるよねぇ、色んな意味で」

レッサー「あ、じゃ私は男の娘で一口――で、なんですかね?」

鳴護「もしかして――当麻君に、告白、した?」

レッサー「ぶぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅっ!?」

鳴護「あ、むせた」

レッサー「い、イヤイヤイヤイヤイヤっ!?待ちましょうか、えぇっ待ちましょうとも!」

レッサー「てか何ですかっ突然藪から棒にっ!『bat in the bush』って話ですよねっ分かりますっ!」

鳴護「言葉の意味はよく分からないけど、混乱しまくってるのは分かるよ」

レッサー「つーかどんな思考をしてたらそーゆー結論になるんですかっ!」

鳴護「そういうって、うーん……最初っから、かな?」

レッサー「言いがかりは止めて貰いましょうかっ!出るトコ出ますよっランシスと違ってね!」

ランシス「おい、さりげなく私をネタにするのは止めて貰おうじゃないか?あ?」

鳴護「――って感じに、レッサーちゃん照れるとボケて誤魔化そうとするもんね?」

レッサー「違っ――」

鳴護「他にも、ユーロトンネルの中で柴崎さんへ”クルマ”を出すように迫ってた時、必死だったじゃない?」

鳴護「ベイロープさんがとっても大事なのは分かったんだけど、”魔術結社”のレッサーちゃんだったら……そうだなー?」

鳴護「まず実力を見せてから相手が断れないようにして話を運ぶ――どう、かな?間違ってる?」

ベイロープ「正解」

レッサー「黙ってなさいなハイロゥンドゥ!」

フロリス「珍しっ!レッサーがツッコミへ回った」

レッサー「あーたも黙っててプリーズ!こいつぁ私の沽券に関わる問題ですからっ」

レッサー「てか、それはアリサさんの勘違いってもんでしょう。あの場面、私達としちゃ『学園都市』との距離を保ったまま」

レッサー「その上で『利用してやる』ためにゃですね、こう必要最低限の礼儀を示しておくのが良し」

レッサー「他は存じませんが、私は少なくともブリテンの国益のためだけに――」

鳴護「あー、ダメダメ。そんなんじゃ誤魔化されないよ。だって見てるもんね?」

レッサー「見てる、ですか?」

鳴護「うん。自分じゃ分からないかな?もしかして無意気かも知れないけど、こう、じぃっと当麻君を見てるなぁって」

レッサー「……そりゃま、見る、ってか見ますよね?別にそれは――」

鳴護「はっきり言った方がいい?」

レッサー「えっと……仰る意味が分かりかね――」

鳴護「例えば!当麻君が誰かと話している時だよっ!」

鳴護「『いい加減こっち向いてくれないかなー?』みたいな感じだよね?」

レッサー「そ、それはっ!」

鳴護「他にも、そうだねー……あ、中々こっちを見てくれないと、ボケて気を引こうとするよね?」

鳴護「構ってくれないと『鎌ってよ、ねぇねぇっ!』みたいな感じで、気を引こうとした――」

レッサー「にゃあああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!?にゃああああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!」

鳴護「はい、まず一人と」

フロリス「床ゴロゴロしてるレッサー初めて――じゃないけど、見た……」

鳴護「んーと、ね。フロリスさんもだよね?」

フロリス「――え、ワタシ!?てーかこっちまでとばっちりが!」

鳴護「なんだろう、フロリスさんは見るとかじゃなくって、何気なくタッチする感じかな?」

鳴護「仲の良い女友達みたいに――やろうとして、時々恥ずかしくって固まったりしてるんもんね?」

フロリス「ベイロープっ!?ここは危険だっ!」

ベイロープ「こっち来んな!これ、どう考えても私まで撃たれる展開なのだわ!?」

ベイロープ「――って、待って。私は別に二人と違って何か特別な事はしてないわよ、これと言ってね」

ベイロープ「っていうか呼び方にしても、それは術式の副作用であって、私の意図した所は大分違う結果に――」

鳴護「あ、ベイロープさんは当麻君の半径2m、きっかり距離取ってますよね?」

ベイロープ「」

鳴護「今もお手洗いについて行こうか、散々迷ってましたよねー」

ベイロープ「……ッ!」

鳴護「で、最後は」

ランシス「……待って欲しい」

鳴護「ランシスちゃん?」

ベイロープ「が、頑張るのだわランシスっ!よくシチュが分からないけど、ランシスまでアレだったら『新たなる光』全滅よ!」

フロリス「……いやぁ、ランシスの場合前科が……」

ランシス「むしろ私は積極的にベッドへ潜り込んでいる……ッ!」

鳴護「うん、知ってた」

ベイロープ「おい、今度は嫁ごと叩き斬るのだわ」

フロリス「なんでこんなのに不覚を……ウン」

鳴護「てゆーか、あたしの所にも結構な頻度で誤爆してるもんね?」

ランシス「……アリサの体温、丁度良い……」

鳴護「……うん、嬉しいのは嬉しいんだけどさ。精神衛生上ね?可能性としては限りなくゼロっていうか、マイナスに突入してるのは分かるんだけど」

鳴護「それでも最初に『あれっ!?』ってするのは仕方がない訳だし」

レッサー「ちょぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっと待ったぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!」

鳴護「あ、復活した」

レッサー「待って下さいなアリサさん!ってうか@-RISAさん!」

鳴護「芸名関係あるかな?プライベートの話しかしてないよね?」

鳴護「てか何か売れないネットアイドルみたいな響きが……気のせい?」

レッサー「そこまで言い切れるのはおかしかありませんかねっ!?どんだけ観察眼持ってんだっつー話です、えぇっ!」

レッサー「仮に100歩譲ってあなたが正しいとしても、どうやってそこまで知ったと言いましょうかっ!」

ベイロープ「勝手に肯定すんなっつーよ」

鳴護「え?見れば分かるよ。だってみんな同じ眼をしてるもん」

フロリス「みんな、って」

鳴護「あたしと同じように、同じ人を見てれば――」

鳴護「――嫌でも、分かっちゃうから」



――カンドルフォ城

上条「……」

上条(……荘厳な宮殿、そして珍しくぼっちな俺……まぁ、結論から言おう。いや、言わざるを得ない!)

上条「……迷ったー……」

上条(いや違うんだよ?これはね、俺がドジっ子属性的なものを得たんじゃなくてだ)

上条(待つように言われた部屋から出て、近くに居た衛兵さんにトイレどこ?って聞いたんだ。身振り手振りで)

上条(通じたかどうか心配だったんだが、衛兵さんが着いて来いみたいなジェスチャーをしたんで、後を追っていけば)

上条(ちょっと入り込んだ所にありましたよトイレ!やったねっ!)

上条「……」

上条(……ここまでは良かったんだよ、ここまではな)

上条(別に紙がなかったとか痴漢に間違われたとか、そういう在り来たりの話じゃねぇ……言ってて悲しいが、違う)

上条(トイレから出た俺を襲った現実とは……!)

上条「……衛兵さん、どこ行った……?」

上条(案内してくれたのは有り難いけどなっ!昔らか言うじゃんかっ生き物の世話は最後まで見ましょうって!)

上条(このだだっ広い宮殿に!俺のアパート全部よりも広いであろう所から、前の部屋を探せって?無茶ブリ過ぎる!)

上条(アレでしょ?どうせ「適当に部屋を開ければ!」とかドアを開けたら、着替え中のヴェントさんとか居るんでしょ?)

上条(普段のデーハーな化粧じゃなくってすっぴんで!清楚な下着がDカップなんだろ!)

上条(この鬼っ!悪魔っ!高千穂っ!もう騙されないぞ!トラップがあるなんて読んでるし!)

上条(分かってるよ!俺はもうその手の話にウンザリしてんだっザマーミロっ!!!)

上条「……」

上条(……良し、落ち着け俺。冷静になって考えようぜ?)

上条(現実的にこの状況を打開出来る方法……ググって答えが――あ、携帯取り上げられてんだった。学園都市製だからって)

上条(シャットアウラと柴崎さんも同じ理由で入国不可……まぁ仕方がない、のか?)

上条(えぇっと、迷子になった時、山で遭難した時には……そうそう!その場を動くな!鉄則ですよねっ!)

上条「……」

上条(……建物の中で迷ったとか格好悪すぎる……!)

上条(つーかな、つーかさ?ただでさえなんかおかしいんだよ、最近)

上条(視界の隅で「え?視線を感じる?」と思ったら、レッサー達と目が合ったり)

上条(自意識過剰なんだろうが、なーんか、こう……うん?)

上条(インデックスや御坂達と遊んでるようなテンションになるっつーの?不安定でイライラ――はっ!?)

上条(……俺、嫌われてる、のか……ッ!?)

上条「……」

上条(……良し!落ち着いた!クールに行こうぜ!よぉく考えろ!)

上条(俺、別に嫌われるような事なんかしてないし!理由がなっきゃ――)

上条「……まさか」

上条(ラッキースケベ起こしているじゃねかよぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!?割と頻繁に!)

上条(つい最近も着替え中のベイロープ見ちまったり!フロリスの肩叩いたら「きゃっ!?」って悲鳴上げられるし!)

上条(ランシスに至ってはがベッド寝惚けて潜り込んできたり!レッサーなんか――)

上条「……?」

上条(そういやレッサーは、ない、よな……?旅が始まってからずっと、そういうのは別に)

上条(ロシアでパンツ見せられそうになった以外には、これっつって特に……ない、ような?)

上条「……はぁ」

上条(……振り返ってみれば事故とはいえセクハラだもんなー……反省しないと)

上条(――ま、いいや。どっちみち今考えても仕方がねーし。今はどうやって部屋へ帰るか――)

汚れた服の女の子「……」

上条「……ん?」

上条(あ、この子に道を聞けば良いか――言葉が通じれば、だけど)

上条(服からして現地の子っぽい……英語、通じるかな……?)

上条(だがしかし!俺には土御門という親友(トモ)が居るっ!)

上条(メールで「困った時には取り敢えずこう言っとけばいいにゃー」と教えて貰った……!)

上条「……」

上条(……あれ?でもユーロトンネルの中だと不発に終ったんじゃ……?)

上条(――まぁいい!今は土御門を信じよう!)

上条(確か道に迷った時にはこう聞けば――!)

上条「『Could you please show the road? ――The road where my life acquaints oneself with you as one! 』」

女の子『――!?』

老人「――直訳すると『道を教えて下さい――あなたと僕の人生が一つに交わる道を』」

老人「更に意訳するのであれば『結婚して下さい』を、やや遠回しに述べているのであり、あまり幼子に対して使うべき台詞ではないな」

上条「やっぱりかチクショーっ!?分かってた!何となく分かってたよ!」

老人「当人同士が良ければ文句も言いがたいが、とはいえ最近出来た年若い友人を失うのは辛い」

老人「出来れば双方共に成人してからが筋というものだろう」

上条「や、あの。ネタにマジレスされるとそれはそれで辛いっていうか……」

女の子『――?』

老人『――, ――』

上条(――と、日本語で話しかけて来たおじさん――というよりか、おじいさん?は女の子と二・三語話し、向こうへ行かせる)

上条(日本語使うって事は探しに来てくれた人か……良かった……心の底から良かった……!)

老人「トーマ=カミジョー、で合っているか?」

上条「あ、はい。俺です」

上条(……てか、なんだ?この人からの威圧感が)

上条(魔術じゃないし、能力でもなく。オーラ?人望?みたいなのがヒシヒシと)

老人「ヴェントが言っていた――女が側に居るから直ぐ分かる、と」

上条「……間違っちゃいないけど、納得行きませんね、それ」

老人「畏まらなくても結構だ。今の私はただの人に過ぎない――さて、では行こうか」

上条「はい――分かった」



――カンドルフォ城 会議の間

老人「遅れて済まなかった。少々道が混雑していてな」

上条「いやぁ、どーも」

ランシス「……私の勝ちー」

フロリス「ちっ」

レッサー「て、また大物が来やがりましたか」

老人「ようこそバチカンへ。非公式ながら出来るだけの歓迎はしよう」

鳴護「ありがとうございます。鳴護アリサです」

老人「知っている。昨年の祈年祭でのアヴェ・マリアは素晴らしかったよ」

鳴護「あ、おじーちゃんもファンなんだ?ありがとー!」

フロリス「アリサアリサー、顔顔ー」

鳴護「なんかついてる?」

ランシス「じゃなくって……その人の顔、見た事なーい?」

老人「……」

鳴護「んー……あっ!分かった!」

ベイロープ「そうそう」

鳴護「スターウォー○でシ○の暗黒卿やってたイアン=マクダーミ○さん!」

ベイロープ「……ねぇ、そろそろアリサもシバいていいかしら?この子の将来考えると、誰かがコラってしてやった方がいいと思うの」

上条「マジで!?サイン下さいっ!」

レッサー「やっちゃって下さいな……天然モノはタチが悪い!」

老人「似ていると言われるが、私ではない。私はマタイ=リース、前教皇と言えば分かるかね?」

鳴護「マタイさん?」

上条「あー……ローマ正教の一番偉い人」

マタイ(老人)「だった、が正しい。今の私は一人の信徒に過ぎない」

フロリス「って割には、あちこちで『教皇級』の魔術師が動員されてる、って話を聞くんだケド?」

マタイ「人違いではないのか?似ていると言っても、それこそマクダー○ド氏が魔術師である可能性も捨てきれまい」

レッサー「意外に狸ですか。『右席』に振り回されていたイメージが強かったんですがね」

マタイ「耳が痛い言葉だが、その通りだと言えよう」

レッサー「っていうかさっきからお茶の一つも出ませんし!ローマ正教は礼儀がなってないんでしょうかねっ!」

マタイ「……運ばせよう。誰か!」

上条「なぁ、俺達以前の問題として、あそこのアホを何とか教育し直す方が優先順位高くね?」

フロリス「出来ると思うかい?ウン?」

上条「そう返されると『ごめんなさい』以外の言葉が出て来ない……!」

レッサー「人を残念な子扱いは止めて貰いましょーか!」

鳴護「今のやりとりがあったにも関わらず、全力で否定出来るレッサーちゃん、メンタル強すぎるよね?」

ランシス「一応リーダー()だし……って、魔術、切っちゃった……」

マタイ「君たちを護るのには必要は無いだろう、『新たなる光』」

レッサー「おっ?私達も有名になったもんで――」

マタイ「――未だ、その円卓は埋まらぬままであろうが、な」

レッサー「……訂正します。狸どころか蛇が出て来たようで」

マタイ「蛇は止めて貰えると心易い。『最初の二人』を堕落し給もうたのは誘惑があったが故に」

フロリス「蛇ねぇ?『だったら最初から創らなきゃ良かった』とか、考えないのかなー?んー?」

マタイ「いと高きあの御方の御心を察するのは不遜にして不敬。代理人に過ぎない我らに出来るのは御言葉を伝えるのみ」

上条「えぇっと……何?何かピリピリしてる?」

ベイロープ「気にしなくて良いわよ。ただの水掛け論みたいなものだから」

ベイロープ「……ただちょっと、二千年ぐらい続けてるってだけで」

鳴護「そ、それよりもっ今日はお招きありがとうございましたっ!」

マタイ「礼は有り難く受けるが、こちらにも考えあっての事。気にする必要はない」

レッサー「(てーかアレですね。『右席』の件で後手後手に回った印象しかありませんでしたが、間違いでしたか)」

フロリス「(だ、ねー。多分じーちゃんが居たから『あの程度』で済んだんであって)」

ランシス「(あのレベルの魔術が居たら……完全に乗っ取られている……筈)」

ベイロープ「(何にせよ、礼儀を尽くしなさい。礼儀を)」

レッサー「(礼儀をさせたら私の左に出るものは居ませんよっ!お任せをファッキンっ!)」

ベイロープ「(だから!あなたのおぉっ!そーゆートコがああぁぁぁぁぁぁっ!)」

レッサー「(うぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁすっ!?)」

鳴護「や、あの完全に聞こえちゃっているっていうかね、うん?もう少し内緒話もっていうか」

マタイ「構わんさ。失敗するのも若さの特権だ」

マタイ「他に何もなければ続きを話したいと思うのだが――ある、ようだな」

上条「……あー、まぁあるような?つか腑に落ちないって言うか」

レッサー「まぁまぁ上条さん、お気持ちは分かりますがね」

上条「レッサー」

レッサー「はい、あなたの恋人レッサーちゃんですよ」

上条「なった憶えはねぇがな!」

レッサー「――上条さんにも上条さんの『正義』があります。そりゃ当然の話ですがね」

レッサー「あちらさんにも『正義』ってのはあります。そうでしょう?」

マタイ「正しいかどうかは私達が判断する事ではなく、『信念』は確固としてあるつもりだ」

レッサー「一時は殺してまでどうこうしようとしていたのは確か、ま−、上条さんのこったからどーせ女か女か女のために怒ってんでしょうが」

上条「待て。間違ってはねぇがその表現だと女たらしみたいに聞こえる!」

レッサー「え?」

ベイロープ「あー……」

フロリス「あん?」

ランシス「……う、ん?」

鳴護「えーっと、うーんっと……」

上条「本気で待とう?君らと俺とで深刻な認識の齟齬が起きているからねっ!?」

レッサー「ま、そこら辺は横に置くとして――少なくとも一年ぐらい前までは、本気でやり合ってた仲がこうして同じテーブルに着いています」

レッサー「過去を水に流せ、とは言いませんが、話し合いの余地は充分にある筈。違いますか?」

上条「……どうしよう、予想以上に正論が来やがった……!」

レッサー「失敬な!私はいつも良い事しか言いませんて!」

上条「自覚しとけ恥女」

レッサー「……」

上条「……あ、ごめん。わざわざ説教してくれたのに、なんか」

レッサー「……その、ですね。聞いてくれます?あまり関係はないかも知れないんですが、良い機会ですから」

上条「ん、あぁ聞くよ。折角だし」

レッサー「『ユカタン半島』ってひらがなで書くと何か萌えません?」

上条「本当に関係ねぇなっ!?てか今その話題を振る必要があるんかいっ!」

レッサー「『ゆかたんはントウ』」

上条「あ、ゆかたんがントゥッてしてるような感じに……?」

レッサー「私のイメージとしては野生のゆかたんが多数生息している事から、この名がつけられたと思うんですよねぇ」

上条「謝れ!日本全国のゆかたんに謝って!」

レッサー「ちなみに『ゆかたん』の名前の由来として、現地人の『お前が何を言っているのか分からない』が元になったという説が」

上条「その台詞日常生活ではあんま使――うなぁ、最近は特に」

レッサー「『ゆかたん』?」

上条「オイ、こっち見ろ!テメーやっぱ適当な事ばっ――」

レッサー「いやいやマジ――」

鳴護「あー、やっぱりツッコミが居るとボケが生き生きしてるよねぇ」

ベイロープ「ちなみに語源云々は説の一つにそういうのがあるのは本当」

フロリス「確かにまぁ謎地名だよねー」

ランシス「響きは可愛い」

マタイ「……済まないな。気を遣って貰って」

ベイロープ「あぁ気にしないで。私達も喧嘩を売りに来たんじゃなく、ゲストの付き添いだから」

マタイ「それでも、だ。君たちの口から平和を説かれるとは、世も変わったな」

フロリス「まーね。面倒なのは面倒だから嫌いだしぃ?ワタシらも出来れば表舞台に出たくもないし」

マタイ「そう願いたいものだ。出来れば『アレ』も穏便に返還して欲しい所だが」

ランシス「ベイロープ……?」

ベイロープ「『アレ』を最後に触ったのは私だけど、制御出来なくてどこかへ消えたのよ」

ベイロープ「『影』として術式に取り込みはしたものの、オリジナルにはとてもとても」

マタイ「ではウェールズにまだ?」

フロリス「あー、行方不明。手に入るんだったらとっくに回収してるっつーの」

ランシス「それ以前に『こっち』にあるんだったら、周囲に影響を与えない訳が……」

マタイ「と、すれば誰か強力な魔術師か魔神が持っているのか……ふむ」

ベイロープ「もしくはローマ正教辺りが秘密裏に回収した後、知らないと言い張ってるって線もあるかしらね?」

マタイ「……違いない。よくある話だ」

マタイ「閉じた蕾みの中に隠れているのは、あながち蓮の華だけとは限らないだろうしな」

ランシス「……あ、レッサー?」

レッサー「っていうか何ですかっ!何なんですかっ!?ローマ正教はお客様にヌルい茶を飲ませるんですかねっ!」

上条「一分前に言った事を思い出しやがれ!つーか自分の言動には責任を持てよ!」

マタイ「……やはり猪は変わらじ、か」

ランシス「それもまた……良し!」

フロリス「ランシスは少しだけで良いから反省しようぜ、な?」



――カンドルフォ城 会議の間

レッサー「で、本題なんですけど、ユカタン半島を早口で言うと、『ゆかたんはトゥッ!』って聞こえません?」

上条「終ってるよね?そのネタそのものも前ので終ってるし、それ以上膨らませる事も出来ないよね?」

レッサー「『ユカタン』?」

上条「Pardon?みたいな言い方すんな」

レッサー「現地の人が『お前が何を言ってるのか分からない』って言ってる時点で、もうガイドとしては致命的だと思うんですが」

上条「ゆかたん――ユカタン半島の話はここまでだ!ネタで巻き込むのは身内だけにしときなさい!」

レッサー「イエッサー!」

マタイ「……いいかね、そろそろ時間が惜しくなってきたんだが」

上条「はいっすいまっせん!どうぞ!」

レッサー「おっと上条さん、そんなヤローに気ぃ遣う必要はないですよ」

レッサー「『Congregation for the Doctrine of the Faith(教理省)』出身の魔術師なんですからねっ!」

上条「あ、すいませんねー?今ちょっとベイロープさーん、手ぇ貸して貰えるとー」

レッサー「待ちましょうか!?その女は洒落にならないのでおフザケはここまでにしますから!」

ベイロープ「あー……うん、本当よ。その人が教理省長官に長年就いてたってのはね」

鳴護「教理……?」

フロリス「直訳すると『信頼の教義のための会衆』――んが!古くは『検邪聖省』って呼ばれてた部署」

上条「例えばどんな仕事?」

ランシス「……昔々、異端審問会をやっちゃってたトコ。アレ過ぎて聖務聖省とか、何度か改名してる」

上条「あー……うん、何か分かっちゃったかも。てか積極的には聞きたくない!」

ベイロープ「そこの”長官”職を24年、非公式に籍を置いてた頃から換算すると……まぁ半世紀近く?」

ベイロープ「そしてまた前々教皇が崩御した時には、枢機卿主席っていう実質上のナンバーツーに居た人物」

レッサー「思いっきりぶっちゃけちゃいますと、『必要悪の教会』のヒラ魔術師が、半世紀以上戦い続けたら教皇になった、でしょうか」

上条「コメントし難いよ!何か色々とガチだって事は理解出来るけどさっ!」

上条「てかどう見ても『そっち系』の空気がすると思ったら、ネタじゃなくってマジだってのが!」

ベイロープ「最前線で半世紀戦い続けてきたのは、裏を返せば『それだけの実力を兼ね備えていた』のと同義」

ベイロープ「歴代でも屈指の魔術師なのは間違いないわ」

鳴護「へー、それじゃインデックスちゃんと同じなんですねー?」

マタイ「彼女と関係があるかないかで言えば、ある。ただほんの数日顔を合わせてただけではあるが」

マタイ「バチカンに眠る『禁書』の書庫を開放した時に少しだけ、な」

上条「あ、じゃインデックスの知り合いなんだ?」

マタイ「向こうは憶えてないだろうが、否定はしたくはないよ」

レッサー「(ありゃ?思っていたよりか良心的?)」

フロリス「(ジーサンと孫ってポジじゃないかにゃー?フィアンマにドツかれて耄碌してんだろーすぃ?)」

ランシス「(……いやでも、魔力尋常じゃない……)」

マタイ「少しだけ歴史の話になるが、正史に残る『禁書目録』は私の所属していた教理省――当時『異端審問会』であった検邪聖省が編纂したものだ」

上条「……なに?って事はアレか!?お前達が――」

マタイ「編纂した、と言ったな。1557年のローマで我々は『非道徳な書物』をまとめ、リストを作った」

マタイ「興味があるなら美術館へ行ってみるといい。第1版から32版まで揃っているから」

上条「……ごめん」

マタイ「――まぁ、本物が飾ってあるとは限らないし、『正史』に事実そのままを書くのもまた別の話だが」

上条「俺の謝罪を返せコノヤロー」

ベイロープ「あの、ちょっといいかしら?」

マタイ「差し障りのない事であれば」

ベイロープ「これは純粋な興味なのだけど、本当に今代の禁書目録はローマ正教の秘術全てを記憶してるの?」

ベイロープ「ブリテンとフランス、てか第三次世界大戦でのイギリス清教とローマ正教の代理戦争を見るに」

ベイロープ「そんな切り札があるんだったら、もっとワンサイドゲームになっててもおかしくないわよね?」

フロリス「だーよねぇ。フランスがヘタレなきゃ良いカンジに拮抗はしてたし」

マタイ「その問いへ対する答えは三つ。事実が二つに推測が一つ」

マタイ「一つ。その当時は 『切り札』である禁書目録が機能不全を引き起こしていた」

マタイ「豊富な知識があっても提供する相手が居なければ意味は無い」

マタイ「二つ。『相手の術式』を理解し、また『対処方法』を知ったとしても実行に移せるとは限らない」

マタイ「例えば……俗な言い方をすれば、『ストライクゾーンへ入ってくるボールを棒きれで場外まで飛ばす』事が3割出来れば億万長者」

マタイ「理屈では簡単だが実行へ移せるかは難しい」

上条「……本当に俗だな……」

マタイ「そして三つ。今代の禁書目録へ対し、我々ローマ正教が知識を出し惜しみした事は無い。誓って言おう」

レッサー「大きく出ましたね、これまた」

マタイ「だがしかし『禁書目録』に収められているものは、当然『禁書』の類だ」

マタイ「『あからさまな嘘』や”と、判断されたもの”である『偽書』は対象外」

マタイ「偽書ならば――読むに値しない偽物であれば、彼女へ記憶させる意味は無いだろう?」

上条「(……なぁ、レッサーさん?)」

レッサー「(あいあい)」

上条「(なーんか、こう予想以上に圧倒されるっつーか、スゲェよな?この人?)」

レッサー「(えぇまぁ実はこの人、『選挙で選ばれた』って言われてるんですが……)」

上条「(コンクラーベだっけ?日本語の『根比べ』と語感似てて面白いよねってテレビで言ってた)」

レッサー「(……あくまでも噂ですけど、一度辞退してるらしいんですよ。選ばれたにも関わらず)」

上条「(どうしてまた?ローマ正教のトップ、なりたくなかったのか?)」

レッサー「(『教皇になったら戦えない』とか何とかで)」

上条「(あー……)」

レッサー「(でもその手腕を請われ渋々一線から引いた……って聞いたんですが、あながち根も葉もない噂ではないかもしれませんねぇ)」

レッサー「(伊達に極東のネット世界で『老魔法王』の二つ名は冠していませんぜ)」

上条「(暇人だけな?コラ職人だけとも言うが)」

レッサー「(ちなみにこっちでのあだ名は『教理の番犬』、つまり超保守派ですなー)」

上条「(つーかさ。フィアンマが裏切ってロシアに着いちまったじゃん、前の戦争)」

上条「(あれ別に、この人の下で『右席』全員がフツーに戦ってりゃ、イギリスか学園都市、どっちか陥落してるよな?)」

レッサー「(……有り得る話ですねぇ。ウィンザー朝辺りはぶっ飛んででもおかしかないかも知れません)」

レッサー「(……ま、そん時にゃ古い燭台へ新しい光を再び灯すだけの話――)」

レッサー「(――Rex Quondam Rexque Futurus)」

上条「(うん?英語にしちゃ響きが――)」

レッサー「(いんや何でも。でもそいつぁないと思いますよ)」

上条「(ま、仮定の話だけどさ)」

レッサー「(いえ、そうではなく。フィアンマの野郎、最初から最後まで『俺様の手による衆愚の救済!』だったじゃないですか?)」

上条「(あー……そうだなぁ)」

レッサー「(ンな精神破綻者が一時的にとは言え、自分の見下している人間の下へ着く筈が無いでしょう)」

レッサー「(力を持ったから歪んだのか、はたまた歪んだから力を得られたのか、ひっじょーに興味深い所ではありますがねぇ)」

レッサー「(妄想で整地した土台の上へ、理想って名前の家を建てようとする姿は、見てて痛々しいものでしたよ、はい)」

上条「……」

レッサー「(全く迷惑なテロリストがあっちにもこっちにも居ますよねっ!)」

上条「(お前もな?お前らもな?)」

上条「(つーか四人居て、先生?含めて五人も居たのに誰か止めような?)」

レッサー「(や、まぁ正直、ある種のテスト的な意味合いもあったんですがねぇ)」

上条「(テスト?)」

レッサー「(えぇまぁテスト。辛うじて及第点でしたが)」

マタイ「――内緒話も結構だが、いい加減次の説明へ移りたいのだがな」

上条「はいっ、すいませんでしたっ!」

レッサー「良い所で止めますよねぇ――ってか何かありましたっけ?」

マタイ「とは言っても業務連絡程度。イタリア滞在中の警備はこちらで引き受ける事ぐらいか」

上条「えっと……元教皇さんが……?」

マタイ「マタイでよい。今はただの隠居の身に過ぎない」

ベイロープ「一応補足しとくけど、魔術師の術式や霊装のカテゴリ分けには『教皇級』があるのよ」

ベイロープ「ニュアンスとしちゃ『聖人未満、ただし生身の魔術師が届く”かも”知れない最高峰』って意味よね」

上条「……うん?それじゃもしかして超強いの?このおじいさん」

フロリス「あくまでも一般論だケド、魔術師のピークはTeensからTwentiesだって説があるんだ」

フロリス「基本、『魔力の精製』に必要なポテンシャルが、一番充実してるだろう年頃」

フロリス「ま、それ以上になっても経験や知識でカバーするから、定説なんかじゃないんだケドねー?」

鳴護「えっと……フィギュアスケーターや体操選手が成長し切っちゃうと、手足が長くなりすぎて不安定になる、って話は聞いた事が?」

マタイ「方向性としてはそれで正しいよ。聖歌隊に声変わりする前の子供を揃えるのも似てない訳ではない」

ランシス「……普通、教皇になるのは良くても壮年の終り頃。老年がまぁ当たり前」

ランシス「ピークがとっくに終わっているのに、歴代教皇の活躍が凄すぎて『教皇級』なんて呼ばれるぐらいだから……お察し」

マタイ「持ち上げすぎだろう、それは」

レッサー「――っと言ってますがねぇ、実際の所ローマ、特にバチカンはあちこちに術式・霊装がベッタベタ設置してありまして」

レッサー「それら全てを自在に操れる『教皇級』さんが護りに徹したら、どれだけの人間が勝てるか怪しいもんです」

上条「珍しいな?『私達なら楽勝ですって!』ぐらいは言いそうなのに」

レッサー「そこまで自信過剰ではありませんよ。四人じゃ無理でしょうな」

マタイ「過大な評価は嫌味に繋がる。大昔にローマ皇帝ティベリウスを弑した英雄殿も居た筈だが?」

レッサー「やっだなぁもうっジジイになったってのに、現実とフイクションの区別がつかないなんてお若いんですからっ!」

上条「すいません、この子病気なんです」

レッサー「上条さんが裏切りをっ!?」

ランシス「……いいぞ、もっとやれ」

マタイ「よいよい。私の方が勘違いをしていたようだ」

マタイ「あれも確か『偽書』であり、『創作』に過ぎない。そうでなければいけないのだったな」

上条「うん?」

マタイ「……まぁ、彼女たちの物言いはやや誇張が混じるが、そう的外れでもない」

マタイ「ここは元よりローマ近郊で彼らが事を起こすのは不可能だよ。仮に何か起こったとしても、私達の名に誓って君たちを守ろう」

マタイ「慣れない長旅で疲れただろう?部屋は用意してあるから、ゆっくりと休むが良い」

鳴護「ありがとうございます――ってか、本当にこちらにお世話になっちゃっても良いんでしょうか?」

鳴護「完全な部外者ですし……さっきからメンチを切りまくってる子が」

レッサー「おっと、この調度品中々の一品ですねぇ、へー、流石は天下のローマ正教」

レッサー「で、一体どこから盗んだ物なんですかー?イスラム?アフリカ?それともアジア?」

レッサー「それはさておきジャン=バルジャンってご存じですか?私はあんま好きじゃないんですが」

上条「レッサーさん黙っててあげて!いい加減にしないと全員つまみ出されるんだから!」

ベイロープ「シメに銀の燭台を持ってくる辺り、嫌がらせの芸が細かいのだわ……」

マタイ「言い方は良くないが私達にも打算はある。だが、それ以上に今回の件に関しては業を煮やしている」

マタイ「ユーロトンネルで無辜の人間を手にかけ、フランスでも大勢を巻き込んだブラック・ロッジ……」

マタイ「イギリス清教との抗争のせいで低く見られがちだが、本来私達はそういった『正しくない』者へ道を説くのが信条でもある」

マタイ「……また、それでも手を出してくるのであれば、介入する大義名分が出来る訳だが」

フロリス「……こえー、教理省元長官こえー」

ランシス「……てかイタリアは魔女狩りだし、異端審問会がまさに、それ」

鳴護「ありがとうございます」

マタイ「当然の事をするまでだ」

上条「すんません。俺からもちょっといいですか?」

マタイ「ああ。畏まらなくていいと言った」

上条「マタイさん、魔術に詳しいんで――だ、よな?」

マタイ「人並みよりは、少々」

レッサー「過小評価してもローマ正教で屈指。十字教の知識量と技術で言えば20億人中最高レベル」

レッサー「前の大戦でもバチカンに居ながら『ベツレヘムの星』の機能を大きく削ぎ落としたってのに、何言ってんですかねこのジジイ」

ベイロープ「内容は概ね同意するけど、こじれるから黙んなさい」

上条「そういえば――フィアンマの『右手』が途中からボロボロになってったのも!」

マタイ「私だけではない。『我々』が一役買っただけの事」

上条「……それでも助かった――助かりました、ありがとう」

マタイ「……全てを水に流されるのも、それはそれで辛いのだがね……」

上条「何?」

マタイ「いや、何でもない。それより聞きたい事があったのではないか?」

上条「『濁音協会』について、てか術式とか霊装とかを教えて欲しいんだよ」

マタイ「イギリスには禁書目録が居るだろう?」

ベイロープ「それが今回の件にはほぼノータッチなのよ。『ネクロノミコン』が頭の中にあるからって」

マタイ「……成程。直接関わらないのが賢明ではある。とはいえ」

フロリス「失われた獣化魔術、存在しない筈のイレギュラーが敵に回ったり」

ランシス「……かと思えばマイナー過ぎる術式にハマるし」

ベイロープ「そもそもの旅の始まりが魔術サイドかどうかも怪しい謎生物よ。手に余りすぎるのだわ」

マタイ「興味深い話だ。役に立つかは分からないが、私の知識で良ければ相談に乗ろう――が」

マタイ「まずは部屋へ荷物を置いてきたらどうだ?その間に食事の準備でもさせよう」



――食事後

レッサー「じゃまずローマ正教の聖職者が全員童貞かって質問から始めましょうか」

ベイロープ「何が何でも嫌がらせしようって気迫は認めるけど、食事後にその話題は重すぎるわ!」

レッサー「って事は……今このテーブルに着いているのは全員未使――アタタタタッ!?」

ベイロープ「何を言おうとしたのかは分からないけど、それ以上言ったら酷いわよ?何を言おうとしたかは分からない、け・れ・どぉっ!」

レッサー「明らかに分かってるじゃないですか?!てか最年長だからってそんなに気に病む必要はないですからっ!」

ベイロープ「ちょっと失礼するわね?あ、気にしないで続けて続けて?」

レッサー「私に対しては失礼じゃないんですかね?具体的には今まさに私の頭をかち割ろうとしているアイアンクローとか!」

レッサー「い、いや私も実は反省してるんですよねっ?ノリだとはいえ『ベイロープ婚約者説』とか、『スール説』とか、色々流したのはねっ!」

レッサー「でもあれは男の運の悪い、っていうか明らかに男を見る目がないベイロープさんを守るためのものであって!」

レッサー「私達としては、こう、アレですよっ!大切な仲間を守るために的な話ですから!」

レッサー「ていうか今まさにタチの悪い男にしっかり捕まってる状況――」

レッサー「――だからもうちょっと!ほんの少しだけで良いから!優しさをHandに反映させてあげて下さいなっ!」

レッサー「じゃないと私の頭がザクロのよう――」

パタン……

レッサー『……アッ――――――――――――┌(┌^o^)┐―――――――――――――!? ……』

上条「えっと……うん」

鳴護「流れるような手際で、レッサーちゃんが連行されて行った……」

ランシス「悲鳴を上げる元気があるから、大丈夫……」

フロリス「そういう問題?」

マタイ「――一応弁解めいた事を言っておくが、1542年、ローマへ設置した異端審問所は各国の異端審問会の審議と監督」

マタイ「そして出版物の”審議”と禁書目録の作成。と、個人を断罪するものではなく、教会としての見解を出す役割であった」

上条「スルーするの?してのいいの?」

マタイ「当時最も有名なのが『ガリレオ・ガリレイ裁判』だが」

鳴護「あ、地動説を唱えたら怒られちゃった人」

マタイ「ローマ正教として認められないものは認められない、と認定する機関であり、直接を沙汰を下すような事はしていない、と弁明させて貰う」

上条「でもガリレイ処罰してるよな?」

マタイ「後年、ガリレイ裁判が異端審問所主導だったのか、それとも政争の類であったのかという議論が沸き起こっておる」

マタイ「理由は幾つかあるが、禁書登録されたガリレイの『天文対話』が”ローマ教皇庁から発行許可があった”からだ」

上条「え、なのに異端?」

マタイ「その通り。教皇庁が是としたにも関わらず、異端審問所がそれを以て異端だと認定した」

フロリス「要はバチカンでの政争だって事ジャン。くっだらなー」

マタイ「その通りだな。しかも禁書指定したというのに、当時プロテスタントだったネーデルランドで『天文対話』は発行されているし」

マタイ「私も一度、『当時の価値観としては裁判自体は正統なものであった』と言った。後に彼の業績を賞賛しておいたが」

上条「もしかして……魔術絡み?」

マタイ「その質問には答えられない――が、一つ雑談をしようか。鳴護アリサ君」

鳴護「は、はいっ!?なんでしょうかっ!」

マタイ「知識は力である。中世以前の聖書がギリシア語で書かれており、教会が知識を独占していた」

マタイ「読み書きを出来る人間、つまり政治に関わる者、関われる者を限定してしまえば、という考え方……ま、時としてミルメコレオをも生むが」

マタイ「そして魔術も然り、一部で独占していれば他方への抑止力も兼ね備える。真理に近ければ近い程有効な手段だ」

ランシス「……当時の教会は地球が動いているのを知ってて、魔術師のために隠していた……?」

マタイ「何の話をしているか私には分からないが、天動説を元に組まれた術式と、地動説を元に組まれた術式、どちらが脅威であるかは容易く知れる」

鳴護「……あのぅ?」

マタイ「ん、あぁ君に聞きたかったのだが、星空を見ていると何かこう、引き込まれるような感覚に囚われる事はないか?」

鳴護「囚われる、ですか?」

マタイ「吸い込まれるような、とか、目が離せなくなる。些細な事でも構わない」

上条「なんでアリサに聞く……?」

マタイ「後で教えるよ。どうだ?」

鳴護「んー……どう、でしょうねぇ。夜空を見るのは好きですし、星関係で曲も作ってますから」

上条「ファーストアルバムが『ポラリス』だっけ?」

鳴護「星座はよく知りませんけど、まぁ――好きな方、でしょうか」

マタイ「……ふむ、そうか。セプテントリオンとオリオン……分かった」

マタイ「話を戻そう。ともかく異端審問所は聖務聖省もしくは検邪聖省、そして教理省と名前を変えてきた」

マタイ「名前は変わっても役割自体は変わらず、好ましい事ではないが」

上条「魔女狩り、とか?」

マタイ「だからローマでの異端審問会は極めて勢力が弱かった、と言っている。ガリレイ一人極刑へ追い込めず、また著書も隣国で発売」

マタイ「結果としてローマ正教の力を貶める事はあっても、増加には繋がらなかった」

マタイ「どちらかと言えば内部での粛清や方向転換が多かったがな」

上条「内部?」

ベイロープ「――いつの時代も『カルト』が出るのよ、決まってね」

フロリス「おっ、おかえりー」

ランシス「レッサーは……?」

ベイロープ「……疲れたみたい。部屋でぐっすり眠ってるわ」

上条「優しい顔で厳しい嘘を吐くベイロープさんハンパねぇなっ……!」

マタイ「例えばフリーメイソンか。信仰に似た『何か』であり、十字教とは認められないと私は宣言している」

マタイ「現代でもメジュゴリエの聖母やヴァッスーラ……ボフのような者を追放しなければならん……!」

鳴護「えぇっと……?」

ベイロープ「順番に自称聖母の降臨、自称預言者、でもって『解放の神学』の提唱者の一人よ」

上条「あー……頭イタイ人、やっぱ居るのね……」

マタイ「私は、というか我々は他の信仰を否定はしていない。誰が何を崇めるのも勝手ではある」

マタイ「だが何故皆示し合わせたように十字教を名乗るのか?まるで自分達が正統の後継者である如く振舞う」

フロリス「ぶっちゃけ『お前が言うな』って気もするケドねー?」

マタイ「その誹りは正しいものである。聖ペトロの意志を受け継いだ”だけ”の我々が、果たして正統な代弁者であるか否か」

マタイ「過去、人を導く立場にあった者であれば、悩まずに居たものは一人足りとて居ないだろう」

レッサー「……一応、嫌々ながら擁護しますとね、ローマ正教さんはそこら辺の矛盾を『妻帯禁止』で解決してきたんですよ」

レッサー「『彼らには子孫がおらず、遺伝子的に何を残す訳ではない』」

レッサー「『従って彼らが座すのは清貧の華である』と」

上条「レッサー……!生きていたのかっ!?」

レッサー「エピローグ辺りの脇役向けの台詞、止めて貰えません?や、まぁ一度は言ってみたい気もしますけど」

レッサー「ちなみにたった今マタイさんが仰った宣言、実は2007年の『教会論のいくつかの側面に関する問いに対する回答』で、もっと強烈に宣ってます」

レッサー「そうですねぇ……長くなるんで要約しますと」

レッサー「『ローマ正教以外ペトロの使徒名乗ってんじゃねぇぞファッキン!』ですかね」

上条「そんな中指突き上げながら宣言はしない」

マタイ「大体合っているな」

上条「合ってんのかよ!?大概だなローマ正教も!」

マタイ「いや、彼らの言い分は分かる。歴史的な経緯を鑑みて、我々に同調出来ないのもまた理解はする」

マタイ「100歩譲って『教会権威に頼らない社会』とやらの構築もまた、良しとしよう」

マタイ「……だが行き着く先が今の有様。カルトと拝金主義、そして何故か乱立する指導者の群れを見る限り、嘆かわしいとしか」

レッサー「……あんま言いたくないですけど、ウチの教会さんも『ピューリタン革命!やったぜ今日からマルキストだ!』っつってのは、まぁまぁ評価は出来ますよ?」

レッサー「『王権の象徴』たるカーテナを捨てて、あん時ゃ感慨深いもんがあったってぇ話でしたよ、えぇえぇ」

フロリス「ドタバタで収集がつかなくなった、と思って気がついたら実権握ってるのはイギリス清教だしー?」

ランシス「……教会の首長がブリテンの統治者を兼ねる……何のギャグ?」

レッサー「王権が廃れれば、それはそれで独り立ちする事も吝かでは無いなー、と一瞬でも思った我々がバカでした」

マタイ「庇護者が庇護者のままであり、またブリテンの指導者は為政者としては決して凡庸ではないよ」

マタイ「ただ『プリンス・オブ・ウェールズ』を墜とされた時点で、全てが過ちだったと気づくべきだったが」

ベイロープ「耳が痛いわね」

マタイ「時に日本人の二人はクリスマスは好きかね?」

鳴護「まぁ、割と――当麻君?どうしたの?」

上条「……いや別に?何でもないよ?」

マタイ「幸いがなければ幸いを持てる者を祝福すればよい。他人を尊ぶのもまた幸いなるかな」

上条「まぁ、分からないでもないが……あー、でも言っちゃなんだけど、日本人はなんちゃってだぜ?」

上条「クリスマスの意味も『キリストが生まれた日』」も怪しくて、『サンタさんが来る日』ぐらいにしか考えてないと思う』

マタイ「充分だよ。十字教圏でもそういう所は多い。それでも君たちは『HappyChristmas(神の子の聖誕式、おめでとう)』と言ってくれるのだろう?」

上条「多分、字面だけだろうが、一応は」

マタイ「……昨年のアメリカ大統領のスピーチは『HappyHoliday』だったんだよ」

上条「……はい?」

鳴護「えっと、アメリカって十字教徒さん多くありませんでしたっけ?どちらとも」

マタイ「『HappyChristmasは信仰の自由を否定するものだ』として、近年では忌諱される傾向にある」

上条「……すんません、クリスマスって十字教の祝日ですよね?」

ラシンス「正しくは……アイルランド、ケルトの冬至と新年の復活を願った日」

ベイロープ「――っていう説もあるけど、まぁ今では十字教がメジャーよ」

上条「反対してる奴らバカじゃねーのか。人様の祝い事に『信仰の自由』って」

上条「別に嫌なら参加止めて黙ってりゃいいのに、何ケチつけてんだよ」

マタイ「アメリカの場合。完全な祝日になっているのも一因ではある。あるが……」

上条「いや、でも確かアメリカも伝統的な十字教国家なんだろ?だったら十字教の大切な日を祝日にするのもアリだとは思うし」

マタイ「……と、まぁそのような出来事が世界中で起きている有様だ。嘆かわしい」

レッサー「他にも、ローマ正教は妊娠中絶や安楽死、同性愛について一貫して否定してますけど、それで非難囂々でしてね」

レッサー「いや嫌なら好きにすれば良くねと。確かに教義上色々言いますけど、今じゃ反対にローマ正教が時代遅れだとか言われてんですな」

鳴護「その内、『イエスが男性なのは差別だ!』とか言いそう……」

マタイ「ハリウッドで映画を作る際、特定出身の人間を悪役にしてはならず、一定の比率で出さねばならない内規がある」

マタイ「ニック・フューリーが別の人種になっていたり……まぁどちらか差別だという話さ」

上条「前からちっと思ってたんだが――欧米、頭悪いだろ?なぁ?」

ベイロープ「多少の揺り戻しと自浄作用として、保守政権が台頭して居るのだわ」

レッサー「彼らの主張は至極真っ当、『自国民の社会福祉の優先』、ただそれだけですからねぇ」

レッサー「排他的な動きだと言ってみても、国民が住まうべき所は自国であり、国籍を持たなければゲストに過ぎませんから」

マタイ「……その流れ自体は歓迎せざるものであるが、適度に距離を保つのも軋轢を招かぬ真理である」

マタイ「過度に深淵を覗けば深淵からも覗かれているのと同じく」

フロリス「今の教皇猊下、まーさーにー、”そーゆー”系だもんね」

上条「フロリスが他人に敬称を……!?」

フロリス「ぶっ飛ばすぜジャパニーズ?」

マタイ「――さて、愚痴はさておき。ガリレイの話へ戻ろうか」

上条「そっちかよ。てか戻るような話――」

マタイ「――『使徒十字(クローチェディピエトロ)』、君は憶えているかな?」

上条「学園都市を乗っ取ろうとしたヤツか……!」

ランシス「……何、それ?」

マタイ「『聖霊十式』と呼ばれ、我らが有している霊装の事だ。少しばかり強力ではあるが」

上条「都市一つを洗脳するのが、『少し』?」

ベイロープ「ペテロの呪いの十字架……あぁ何となく分かったわ」

マタイ「まさに『あれ』の起動条件は『星辰』――太陽系や星座の並びであるのは既知だろう。魔術的に解説すればだな……」

マタイ「魔法陣ぐらいは……知っているだろうか?」

上条「んー……あぁ、知り合いの陰陽師が使ってた。記号と文字を組み合わせて発動させるのだろ?」

レッサー「それは『魔”方”陣』であって、ジーサンが言ってるのは『魔”法”陣』です。厳密には別モノ」

ベイロープ「『場』の流れを得意とする一派には『方陣』が得意……まぁ、でも?」

マタイ「いや、その理解でも構わないだろう。そうそう魔方陣の使い手と相対するなんて事は有り得ん」

上条「ベイロープさん、後で良かったら詳しく教えて頂けません?」

レッサー「だがここに律儀にもフラグを回収する方が……!」

上条「だって笑い事じゃねぇんだもんっ!南アメリカから北欧ロシアにEUまで結構やり合ってんだからな!」

フロリス「そして今はクトゥルーだしねー?日頃の行いかなー?」

上条「俺はっ!誰に後ろ指指されるような事なんか――」

鳴護「あ、そういえばインデックスちゃんがね」

上条「ごめんなさい」

マタイ「……ともあれ魔法陣と魔法陣の違いは置いておくとして、強力な術式程により大きな魔法陣が必要となってくる」

マタイ「とはいえ儀式魔術であれば、法陣を書かずに済ませる場合も少なくはないが」

上条「はい、質問です」

マタイ「どうぞ」

上条「『術のデカさ=威力』だったら、あの使徒十字は――」

マタイ「『天球に描かれた星辰が魔法陣』となり、都市一つに極めて強い影響を与える」

上条「うへー」

マタイ「だから――『だから我々はガリレイの地動説を禁じた』のだ」

上条「え……っと、そこか?そこへ繋がる、ってのは」

マタイ「天動説でもある程度はカバー出来ていたが、地動説ベースに術式を組まれると威力が桁違いだ。従ってプトレマイオスの説を支持せざるを得なかった」

レッサー「んー……つまり、アレですかね?ローマ正教自体はずっとずっと昔から地動説だと知ってた」

レッサー「じゃなっきゃ『使徒十字』のような極めて複雑で精密に、天球を使った大規模霊装なんて作れないでしょうからね」

レッサー「だが余所様に天球を利用されるのが嫌で、わざと天動説を信奉していたと」

マタイ「そう、だな。聖書に書かれているのも根拠になってはいるが、故意に情報隠しをしたのは間違いではない――し」

マタイ「また、それが過ちだとは思っていない。当時、我々はオスマントルコ帝国の脅威に脅かされていた」

マタイ「まともに対話をする”だけ”ですら力が必要な時代があった……今もそう大差ないがね」

鳴護「……さっきから聞いちゃいけない話が飛び交ってるよな……?」

マタイ「プライベートであればジョークの一つも言うだろう――と、鳴護アリサ君、手を」

鳴護「はい?」

マタイ「上条当麻君も、右手を――そうそう」

上条「あ、はい」 ギュッ

上条(と言って、マタイさんは俺とアリサの手を取って握手させる……)

上条(アリサの手を改めて握って恥ずかしかった――のも、あるが、マタイさんの手が傷だらけだってのが印象深い)

上条(ステイルが半世紀以上戦い続ければ、こうなるんだろうか……?)

マタイ「……ふむ。そうか」

上条「あのー、もう離しても?」

鳴護「え?」

上条「恥ずかしいよ!」

レッサー「中二wwww」

上条「お前もベイロープに握ってて貰え」

レッサー「意味合いが違いますよね?青い春と書いて青春と読む爽やかな一ページではなく、拷問的な意味ですよね?」

マタイ「あぁ好きにすればよい……ふむ、どこから話したものか悩むが――」

マタイ「――まず『消えなかった』のを喜ぶべきだろうな」

鳴護「あたしが、ですか?」

上条「……ちょっと待てテメェまさか!」

マタイ「最初に言うが『消えない確信があった』のは間違いない。過去、幾度か君たちは触れ合っているんだろう?」

上条「そういう言われ方をすると誤解を招きそうなんだが……」

鳴護「誤解、かなぁ?」

上条「黙っておこうな!偉い人なんだから!」

マタイ「足は靴に合わせるのではなく、靴を足に合わせるべきだな」

上条「……その心は?」

マタイ「責任は取りたまえ」

上条「よーし?教皇だって俺は容赦しねぇからな!?意味も無くイジられるぐらいだったらば!」

レッサー「嫌いじゃないですその蛮勇!さっ、ガンガってぶん殴って第四次世界大戦を勃発させましょーよ!」

レッサー「次はフランス野郎を完膚なきまでに叩きのめしましょうンねっ!」

マタイ「――と言った具合に、争いは何も生まんよ。遺恨以外は」

上条「……どうしよう?もしかして俺は今物凄く遠回しに忍耐を試されてんだろうか……?」

ベイロープ「どういう意味よ?」

上条「『濁音協会』の事を聞いてんのに、なんでアリサの”体質”の話になんだっつーの」

マタイ「鳴護アリサ君を狙っている以上、君の言う”体質”とやらが目的ではないのかね?自明の理とも言うが」

マタイ「……と言うよりも、その様子だと学園都市でもイギリス清教でも、きちんとした検査を受けていないように見受けられるが……?」

鳴護「はい、その……怖くて」

マタイ「怖い?」

鳴護「あたしがニン――」

マタイ「人の定義などはそれぞれであり、ましてや誰が決めて良いものではない」

マタイ「例えばES細胞から創られた『ヒト』に人権はあるか?ならクローン細胞は?」

マタイ「母の胎内から遡るのか?それとも女性が生まれた時に?」

上条「生まれた時?」

レッサー「ヒトの女性の場合、生まれた瞬間からずっと卵細胞を持ってんですよ。後から造られる事はしません」

マタイ「定義など幾らでも出来るが、最終的に決めるのは――やはり自分自身ではないか」

鳴護「あたしが、ですか?」

マタイ「自我を持ち、友を得て、家族と呼べる人間が居る――それすらも叶わない人間は決して少なくはない」

マタイ「また聞くが、仮に『ヒトではないからと言ってどうする?』と」

マタイ「誰かに『ヒトではないと言われたから』と生き方を変える――のであれば、それもまたおかしな話だ」

鳴護「……」

マタイ「私が見る限りではここに居る人間達、また少々過保護すぎるきらいがある家族、そのどちらも『だから何だ?』と笑うであろう」

マタイ「そのような『絆』を持つ者が、ヒトかどうかは些細な問題に過ぎない」

上条「まぁ……そんなもんだよな」

鳴護「……当麻君」

上条「悩んでるのは何となく分かってるし、だからって悩むなって言うつもりはねぇけどな」

上条「アリサが誰だろうが、何だろうが、俺やインデックスは友達だし、シャットアウラは家族だ」

上条「それだけは忘れんなよ、な?」

鳴護「……うんっ!」

マタイ「……なんだろうな。至極真っ当且つ、割と背教的な事を言ったにも関わらず。全てをかっ攫われた感がするのだが……」

レッサー「えぇまぁ良くある事としか。珍しかないです、残念な事に」

マタイ「ま、それもまた良かろう――なら君の”体質”や関係する事について、ここに居る人間にも話しても構わないだろうか?」

マタイ「ほぼ全てが推測になる上、少々ならずとも不快な話が混じる。その上でも」

鳴護「はい、お願いします!」



――カンドルフォ城

マタイ「最初に断っておくが、知らねばならないものを知らないままにしておく、という選択肢は割と良くある」

マタイ「政治、経済、外交、歴史……『知らない』のであれば、テレビのコメンテーターが言ったお粗末なロジックに酔いしれ、共に怒る事は容易い」

マタイ「自らを社会正義だと一片の疑いもなく思い込み、間違っているのは誰それだ――それもまた生き方であるよ」

マタイ「……だが、現実の話としてだ。病を患っている者が、初期症状が出ていないからと言って放置していれば……碌な事にはならない」

マタイ「正確に、そして正しい治療法を取れば完治はしないまでも、長い時を生きられる――」

マタイ「――私が若い頃に出始めたエイズなんかがそうだ。教義上色々と言いたくはあるが、それはさておき」

マタイ「今では感染が確認されれば45年――30歳で見つかったとしても、75歳まで延命出来る治療法が確立されている」

マタイ「その年齢は先進国であっても割と高齢に位置する。それに関しては科学の発達と努力をした者達全てへ感謝すべきだ」

鳴護「あたしも、ですか」

マタイ「病と一緒くたにするつもりはないし、また実際にそうでもない」

マタイ「だがしかし、他者との違いを認識した上で、『人』として暮らした方がより安心出来るだろう」

マタイ「現実と向き合い、戦う勇気を持つ君にへ私は少なからず敬意を表そう」

鳴護「止めて下さいっ!?あたしなんて、全然ですからっ!」

鳴護「いっつも他にみんなに助けて貰ってばっかり――」

上条「……まぁ分かるけどな、悪いなって思うのは」

上条「一人前にゃまだまだで、側でスゲェスゲェ言ってる側だから。俺も」

鳴護「……うん」

上条「ま、でも今は甘えようぜ?素直に」

上条「俺達が恐縮がったって仕方がねーし。借りはいつか絶対に返すかは、さておくとして?」

鳴護「……うーん、それでいいのかなぁ?」

上条「良いも悪いもねぇさ。肩肘張って一人で生きていけます、なんつったらシャットアウラ号泣すんだろ」

上条「甘えとけ甘えとけ。アイツだって居なくなったと思ってた家族が増えて、嬉しいに決まってる」

鳴護「……お姉ちゃん」

レッサー「流石ですっ上条さんっ!」

レッサー「所属している学園都市とお世話になってるイギリス清教と天草式十字凄教をブッチしてロシアに単身乗り込んだ人の台詞とは思えませんねっ!」

上条「黙ってようか?今俺、ちょっといい話をしてんだから!」

レッサー「イチャイチャするんだったら私とすりゃいいじゃないですかっ!私のターンなのに!」

上条「憶えがねぇよ!ターンってなんだっ!?」

マタイ「……私も暇ではないのだが……」

ベイロープ「すぐ終るから、ちょっとだけお願いします」

マタイ「――さて、では結論――と言っても推論だが――から言おう」

マタイ「鳴護アリサ君の体質は『レイ・ライン(光の道)』から来ている」

鳴護「レイライン?」

上条「えぇっと、『龍脈』だっけ……?」

マタイ「そちらに馴染みがあるのであれば以後そう呼ぼう。君は、君という存在は龍脈によって『構築』されている」

マタイ「……いや、その言い方もおかしいのであろうな。少なくとも『老化』しているのだから、あくまでも誕生に関わっただけか……?」

レッサー「根拠はどちらから?」

マタイ「上条当麻君の『右手』に触れても平気な点だ。その異能の特性は何か?」

上条「『異能力を打ち消す』のと、『出力し続ける能力を完全に打ち消すのは出来ない』」

レッサー「プラスして『力』の方向性を曲げたりとかも出来ませんでしたっけ?」

上条「一応出来るけど……なんつーか、その場のテンション?狙って出来るようにはなってない感じ」

マタイ「スイッチのオンオフは?」

上条「無理。試した事もない」

マタイ「ならばまず間違いなく、アリサ君は『龍脈から力を永続的に受け続けてきている』存在だろう」

アリサ「……私が、ですか?」

マタイ「勘違いして貰っては困るが、聖人も似たようなシステムで力を得ている」

フロリス「……あれ?聖人は天使の力(テレズマ)じゃなかったっけ?」

マタイ「だから『似たような』だ……というか、似すぎている」

ベイロープ「要領を得ないのだわ。アリサは龍脈から力を得ている根拠は、打ち消されなかっただけ?」

マタイ「だけではない。アリサ君を産み落とした術式――そう、『88の奇蹟』だ」

上条「レディリーか……!?」

マタイ「レディリー=タングルロード――彼女が大規模に仕組んだ術式は二つ。彼女の目的については?」

上条「死にたい、んだっけ。後から聞いた話だけどな」

マタイ「その通り。彼女はクルセイドの一人が持ち帰ったアンブロジアを口にし、”死ねない”体となった」

鳴護「死なない、じゃなく、死ねない?」

マタイ「境遇については同情をするが、しかし現実にレディリーは魔術結社の長として名を馳せている。詳しい説明は省くが」

上条「すいません、アンブロジアって何ですか?」

ランシス「……ギリシア神話に出てくる神々の食べ物……口にすると不老不死になれる」

ベイロープ「一説にはアキレウスが無敵になった膏薬の原料、またデメテルが冥界で食べた果実とも言われてるわ」

フロリス「シチュからして後者じゃないかな。どっから持ってきたのかはわっかんないケド」

マタイ「そんな彼女が死のうとして作り上げた術式、にも関わらずそこで生まれたのがアリサ君だ。それが4年前の『88の奇蹟』」

マタイ「そしてまた去年起こしたのが『エンデュミオンの奇蹟』……ま、願いは叶わなかったのだが」

マタイ「さて、共通項は何か?」

上条「宇宙……!」

マタイ「では、少しだけ頭を休めるとして、そうだ……君たちがもし不老不死になったとしよう」

レッサー「嬉しかないですねぇ、それはきっと」

マタイ「だから永い永い終りのない人生に飽き、自ら死を選ぼうとする」

マタイ「けれども不死の体では死ねない。さて、どうする?」

上条「随分漠然とした話だな……魔術師じゃねぇから分からん」

上条「でもま、『自分がどうして死なないのか?』って所からスタートするんじゃないのか?」

ベイロープ「ってこっちに振られてもね。生憎、命を使う――遣う術式は多いけど、伸ばすのは専門外だわ」

フロリス「ちゅーかワタシらにとっては鬼門じゃなーい?基本戦闘ばっかで、寿命を延ばしましょうとかやってないし?」

ランシス「先生が”あぁ”だから、限りなく近い術式はあるん、じゃ?」

ランシス「……てか”キャリス”なん」

レッサー「――ですねっ!切った張ったは十八番として、こっちのは――ってアリサさん?」

鳴護「もしかして――ってか全然見当違いかも知れませんけど」

マタイ「ふむ」

鳴護「『私と同じく、龍脈から力を供給されていた』、ですか?」

マタイ「私の推測と同じだ。そして恐らくレディリーもそうだったのだろう」

レッサー「待って下さいな。それと宇宙とどう関係が――ってまさか!?」

マタイ「場所、そして名前。その両者から推測するに――」

マタイ「――彼女は宇宙空間で術式を発動させ、地球から自身へ注ぐ龍脈をキャンセルしようとした、のではないか」



――カンドルフォ城

上条「……スゲェスケールのでかい話が来たな、また」

マタイ「龍脈が力を発揮出来るのは地形や地磁気、とにかく地球があっての前提だ」

マタイ「その影響力を削げる、極限まで離れた場所――それが宇宙空間だったと」

レッサー「……あぁ成程。だから『88の奇蹟』と『エンデュミオン』なんですね」

上条「お前っ!?今ので分かったのかっ!?」

レッサー「若干失礼なまでの驚きっぷりに腹が立ちますが……まぁ、良いでしょうっ!解説してさしあげましょうかっ!」

ベイロープ「まず『88の奇蹟』は乗客・乗務員が88人だったって事なんでしょ?」

レッサー「ちょ!?私の見せ場は!?」

鳴護「はい、その筈でした」

フロリス「まんま『星座数と同じ』だーよねぇ、これ」

ランシス「……一人一人を星座に見立てて、擬似的な天球を造り上げる、かと」

上条「天球?」

ベイロープ「星座版の事ね。地球から見える星の動き」

鳴護「それと事故を起こす事と、どう繋がるんですか?」

フロリス「星座の殆どは『ギリシア神話の神々が、○○の死を悼んで星座にした』って話、聞かない?」

レッサー「……ヘラクレスに殺されたカニや獅子なんかが有名ですかねぇ」

ランシス「トレミーの48星座……あ」

マタイ「それを考案したのもまた、天動説のプトレマイオスだ。偶然だかね」

ベイロープ「……だ、もんで。この場合『星座に上げる』ってのは、まぁ……アレするって意味よね」

フロリス「そもそも機体の名前が『オリオン号』――優秀な狩人だったが、自身の猟犬を狩られて怒ったアルテミスに殺される」

フロリス「死後、オリオンは星座になって……そのまま、っていうかな」

上条「……俺、殴っときゃ良かったな」

マタイ「地上からの影響を防ぐために、また逆に天球――星辰からの魔力を取り入れるため、場所を宇宙に定めた」

マタイ「が、最初に彼女は恐らく失敗したのだろうな。しかし全く駄目だった訳ではなく、手応えも感じていたか」

マタイ「そうして造ったのが宇宙エレベーター、『エンデュミオン』だ」

上条「軌道エレベーターだっけ?」

レッサー「えぇ、ラグランジュポイントまで物資を送れるドデカいエレベーター……あれ?」

ランシス「何……?」

レッサー「軌道エレベーターが地上と垂直になるのは赤道付近だけで、日本から伸ばすと斜めになるんじゃ……?」

上条「流石は学園都市の技術だ!物理法則なんてなんともないぜ!」

マタイ「ま、今更彼らの技術をどうこう言わんよ。それよりも、その名前だ」

鳴護「『エンデュミオン』……」

ベイロープ「ギリシア神話でゼウスの孫、エーリスの王」

ベイロープ「ある時、山の頂で眠っていたエンデュミオンを、月の女神セレーネが見初め、恋へ落ちる」

ベイロープ「しかし不老不死のセレーネは、エンデュミオンが段々と老けるのを悲しみ、ゼウスへ彼を不老不死にするように頼んだ――が」

ベイロープ「ゼウスは彼を永遠の眠りへ尽かせ、不老不死にしたのね」

上条「……そんな名前を持つ、『塔』か」

マタイ「レディリーの境遇に似ていると言えるかも知れない」

マタイ「エンデュミオンは神の力によって不老不死となり、そこから脱却を図るために――」

鳴護「一度造り上げたエンデュミオンを、壊す……?」

マタイ「それも龍脈の影響の少ない宇宙で、だ。そこへ組み込まれた魔術的な記号は『塔』と『歌』」

マタイ「アリサ君にさせたかったのは多くの魔力を集めるため……まぁ、巫女のような役割だろうか」

マタイ「証拠……と呼ぶには軽々過ぎるが、レディリーの術式は失敗、そしてエンデュミオンの残骸の中、未だ眠っているのだろう?」

マタイ「まさに『不老不死のまま眠り続けるエンデュミオン』のように」

ベイロープ「……乗り越えようとした術式を失敗して、逆に取り込まれる。矛盾はないのだわ」

フロリス「ミイラ取りがミイラってヤツだよねー」

ランシス「『おかーちゃんはミイラ』……」

上条「……?」

ランシス「……『Mammy is Mummy』……ッ!!!」

上条「あ、このお菓子美味しいから食べて良いぜ?出来ればゆっくりな?」

レッサー「……うーむむむむむ。今んトコは矛盾らしい矛盾もありません、ありませんが――そうですねぇ」

レッサー「では逆に、『龍脈の影響の薄い所』なのに、アリサさんが生まれたのは何ででしょうかねぇ?」

マタイ「一つにレディリーの施した術式、それも星座に纏わる何か、セレーネ、もしくはアルテミス関係だと思うが」

マタイ「二つに『高度故に龍脈が純化している』のではないかと私は思う」

上条「純化?」

マタイ「高い山の上へ登ると酸素が美味しい、とは言うかも知れない。実際には薄くなってはいるが、都市より不純物は少ない」

マタイ「また過去の例で言えば、深山に神霊が宿る、という話は聞かないかな?」

上条「あるな、割と多く」

マタイ「山奥へ入って何かに祈って願いを叶える――これはつまり、逆に深山では術式が使い易くなっているのではないか?」

フロリス「日本の修験道、ワタシらのウィッチ。どっちとも山深い場所で暮らしてるかー」

マタイ「以上二つの要因により、アリサ君は『願い』を叶え”させ”るために生まれた、と」

マタイ「従って君の能力は『龍脈』を恣意的に操れる能力だと、私は推測している」

鳴護「歌は?どうしてあたしの歌がっ!」

マタイ「そもそも『歌』というものは宗教的な儀式の一環だったのだ」

マタイ「神へ捧げる歌、雨を請う歌、戦いへ赴く歌。絵画などよりもずっと昔から、人類と共に在っただろう」

マタイ「人が声を合わせて一つの旋律を作り、または優れたる音階に耳を傾け、祈りを捧げる」

マタイ「言わば『奇蹟』の方向性を決定づける力、とでも言おうか」

ベイロープ「聞いていい?『異能』を起こせる理屈はそれで良いとして、どうして『奇蹟』なの?」

ベイロープ「人の願望を叶えるのであれば、もっとゲスいのも一杯あるのだわ」

マタイ「命の危機に瀕していれば、人は心の底から助かるように祈る。また他人がそうであっても同じであろうな」

ベイロープ「……誰だって目の前で事故が起きそうになったら、『助かれ!』って思う?」

マタイ「然り。人の本性は完全ではないにせよ、善には違いない」

マタイ「そして上条当麻君の『右手』は『異能力を打ち消すのではない』のかと」

上条「いやいやっ!実際にっ、ほらっ!」

マタイ「時折打ち消せなかったり、ニュートラルへ戻すと言った行為が出来るのも――」

マタイ「――アリサ君と同じく『龍脈へ干渉する力』と考えれば、説明がつく」

上条「俺も、同じ……?いやでもっ打ち消すのって!」

マタイ「推測に過ぎないが――というほぼ全てがそうなのだが、君はきっと『奇蹟』というものを信用などしていないんだろう?」

上条「俺が?どうして言い切れるんだよっ!?」

マタイ「アリサ君は『奇蹟』を信じた。よって『奇蹟』をある程度使えるようになった」

マタイ「しかし君は、その生い立ちから『奇蹟』なんて起こらないと思い込んだ」

レッサー「否定するから使えない、ですか……でもそうすると順序が逆では?」

マタイ「幼き頃には誰であっても魔法や異能には興味があり、実在を確信しているだろう。サンタがそうであるように」

マタイ「しかし歳を経るに連れ、好きであり憧れはしても存在するとは考えにくい」

マタイ「……ま、極々一般的な成長を遂げただけ、とも言えるか」

上条「……俺の場合、『不幸』で色々あったらしいからな」

マタイ「考えようによってはそれで良かったかも知れん。『龍脈』を自在に操れるとなると聖人と変わらんからな」

上条「神裂と同じ、ってのはちょっと憧れるけどなー」

フロリス「や、まー気持ち分かるけケド、あっちはテレズマだしねー」

マタイ「いや、同じだ」

上条「はい?」

フロリス「んーむ?」

マタイ「だから『天使の力』と『龍脈』は同系統の力を、別の名で呼んでいるに過ぎん」

上条「えぇっと、ちょっといいか?それ、スッゲー大変な事言ってる気がするんだが……?」

レッサー「仰る通りですよ。天動説が地動説でした、ってぇ暴露する並の爆弾発言です」

マタイ「断っておくが、あくまでこれはローマ正教ではなく私の私見。マタイ=リースの非公式発言であり」

マタイ「この世界軸、この時間に於いての推測の一つに過ぎない」

ベイロープ「いやでも、違う、わよね?『天使の力』と『龍脈』は」

鳴護「あのぅ?」

レッサー「そうですなぁ、説明しますと――」

マタイ「……すまない。話疲れたので、私は休憩を入れさせて貰うよ」

鳴護「どうぞどうぞ。あ、じゃお茶を入れますねー」

上条「――って俺がやる!だからそっちは頼んだ!」

ベイロープ「任されましょう。はい、こっちへどうぞ?」

鳴護「……なんか釈然としないんだけど……」

マタイ「適材適所。大工の孫は辺りを灯すだけだな」

ランシス「その例えは……うーん?」



――カンドルフォ城

レッサー「そいではアリサさんっ!今からご説明致しますねっ!サクサクっと!」

鳴護「はいっ!」

ベイロープ「……や、そんなに恐縮しなくっても良いんだけどね。大した話じゃないし」

上条「魔術理論って大事じゃねーの?」

フロリス「個々の事例に首突っ込むと、おそろっしく細分化して混沌とするケド、概要をサラってする分には、まぁ?」

ランシス「十字教だけで新書1冊書ける……」

上条「オカルトの話なのにか?」

ベイロープ「表の世界じゃキワモノ扱いされてるけど、実際には世界史や宗教史、あと自然科学とかも関わってくるから大変なのよ」

ベイロープ「そもそも流行り廃りがあるように、魔術だってその当時の立派な文化の一形態なんだから、学者が軽んじて良いものではないわ」

レッサー「んではまずっ!この世界とは別に、重なり合った世界があるのはご存じですかっ?」

鳴護「うん。魔術がどうこうって話の時に、聞いてる、かな?」

鳴護「『世界を壊す手段がある』、けど『実際に壊された事はない』って」

レッサー「ですです。つーかどこの神話であっても終末論は在りますからねぇ。もしそれが全て実現してたら、何回地球ぶっ壊れてるって話ですよ、えぇ」

レッサー「んで、何度か登場した『天使の力』ってのは『あちら側の世界から流れ込む力』だと思って下さいな」

鳴護「あれ?その力ってヤバんだよね」

レッサー「ヤッバイですよー?超ヤバいですもん、魔術理論の構築無しに知ったら発狂するくらいに」

レッサー「でもこれ需要はあるんですよ。なんつっても強力ですから、とても」

ベイロープ「あー……っと、私達が魔術を使う際には、例えば呼吸法であったり、血を流したり、制約をつけたり」

ベイロープ「『肉体的な方法から魔力を精製する』のね」

鳴護「はぁ――でも、魔力が自前で取れるんだったら。別に『天使の力』、要らないんじゃ?」

ベイロープ「出力が桁違いなのよ。なんつーか内燃機関と外燃機関の違いっていうかな」

ランシス「人が素手で穴を掘るのと、道具を使うとじゃ、違う、よね……?」

ランシス「……スコップとショベルカー、道具でも全然変わるし」

フロリス「そん時にスコップを用意したり、重機をコントロールするのがワタシらの魔力だって話」

鳴護「……分かった、ような?」

レッサー「ま、実際に術式を使う訳ではなし、何となくで良いですよ。誰かさんと違って魔術師とガチンコするってぇ訳じゃないですからね」

上条「こっちは強いられてんだよ!いつの間にかねっ!」

レッサー「まぁ『人も魔力を持つが、結局外部のを使った方が威力は高くなる』ぐらいのお話で」

ベイロープ「その分制御も難しくなるし、習得も難しくなるけどね」

レッサー「ちなみに『天使の力』とは言っていますが、別に十字教に限った話ではなく、他の宗教でもフツーに使われますからね」

上条「あぁ言ってたな。北欧神話とかでも、『別座標の世界』があって、そっちから力を得てるって」

レッサー「私達の『爪』・『帯』の霊装なんかそのまんまですよねぇ。原理はテレズマで動こくようにチューニングされてますから」

鳴護「北欧系の武器なんだよね、それ。なのに『天使の力』?」

レッサー「です。日本のブッディズムであっても『テレズマ』なんです。実際にそう呼ぶかは別にして」

フロリス「『別時空に存在する力全般』かな?定義っちゅーのもアレだケド」

レッサー「この平行世界は神話の数だけ――あれば、いいわよね。下手をすればそれ以上あるかもだし」

レッサー「クトゥルー系の魔術師が『まだ発見されていない世界からのテレズマ』を行使している可能性も否定出来ません」

レッサー「ちなみに、この力を生まれながらにして行使出来る人間を、『聖人』と言います」

マタイ「……『原石』がより正しいがな……」

レッサー「『天使の力』はそんなトコでしょうかね。『龍脈』はゲームとかと同じで、地球全土を駆け巡る力の流れ……みたいなもんです」

フロリス「『Feng Shui(フェン・スゥ)』とも言われて、EUでもネオペー系中心に大人気さHAHAHA!」

ランシス「……最近はインドのヨーガも広まって……お腹イッパイ……」

鳴護「へー、聖人さんって凄いんですねぇ」

上条「だよなぁ?」

レッサー「(……マタイさんが遠回しに『オマイラも地脈の聖人だよ』ってたのを理解してない方々が居るんですけど、ぶん殴っても良いですかね?)」

フロリス「(ま、自覚がなくてもいいジャン?生き方は変わらないだろうし?)」

マタイ「――解説ありがとう。では後は私が引き継ごう」

マタイ「以前から薄々思っていた事だが、テレズマには矛盾がある。例えば――そうだな。ベーオウルフの霊装があったとしよう」

上条「どちらさんで?」

ベイロープ「デンマークの叙事詩、英雄ベオウルフ。巨人や龍を殺して王になる、典型的な騎士道物語よ」

レッサー「BOO!BOOOOO!」

ベイロープ「気持ちは分かるけど、向こうが気ぃ遣ってくれたんだから自重しなさい!」

上条「つーかベーオウルフってベイロープと似てね?」

ベイロープ「だから!スルーしなさいっと!言ってるのだわっ!」

上条「なんで俺怒られんのっ!?」

マタイ「気にしない事だな、オリジンはそこだろうから。ともあれ」

マタイ「彼の剣、『フルンティング』を再現する術式、もしくは霊装があったとしよう」

マタイ「だがこれをおかしいとは思わないか?」

上条「神話――つか伝説に残るぐらいの武器なんだろ?だったら別に、それを模して使おうってのはそっちの常識じゃないのか?」

マタイ「ならば『そこへ込められるテレズマはどこから来た』んだ?」

上条「……はい?」

マタイ「例えば彼女らの霊装、『爪』は北欧神話を模している――ように、見える。実際にどうかは知らないがね」

マタイ「従って霊装もまた『北欧神話からのテレズマ』を主にして動いている。どうだね?」

ランシス「そう……」

マタイ「ここでベーオウルオの話だ。なら『彼の武器を模するなら、一体どのような世界からテレズマが来る』のだろうな?」

上条「どんな、って……そりゃ、やっぱりベオウルフの世界じゃねぇの?」

マタイ「ベーオウルフは10世紀前後に存在した”かも”知れない英雄の話だ。『あちら側ではなくこちら側』の」

マタイ「だというのに『どうしてあちら側に世界があり、そしてまた望めばテレズマを得られる』のだろうか?」

上条「……それって!」

レッサー「例えばですねぇ。日本でも英雄さん居たじゃないですか、源義経やら八幡太郎義家とか」

レッサー「反対に祟り神として奉られた崇徳院上皇、平将門公やアテルイ」

レッサー「彼らの力を求める術式、彼らの力を持つ霊装。これらは一体どこから力を得ているのか、興味深い所ですよねぇ」

ベイロープ「補足すれば『ホープダイヤ』や『Sacred Death(ジョン=ポールの首刈り鎌)』みたいに呪われた品は多いわ」

ベイロープ「でもそれは一体どこの誰が作ったの?そして何を元に動いてるのか?」

マタイ「他に……オルレアンの乙女、ジャンヌ=ダルクは知っているだろう」

マタイ「彼女の名の元に発動する霊装や術式は多いが、彼女は神話の世界の住人ではなかった」

マタイ「……尤もテレズマを使える聖人ではあったらしいがね」

レッサー「『敵よりも味方を殺すのが得意』なフランス野郎にぴったりですがね」

レッサー「そもそも、って言うのであれば『カーテナ』なんかまさにそうじゃないですか」

レッサー「あの人妻好きのマザコン野郎――もとい、トリスタンの剣だったとはいえ、何であそこまで威力があるんでしょうか」

上条「お前その人になんか恨みでもあんの?」

レッサー「やっつけで作ったセカンドがあの威力ですし、一体どこからどんなテレズマが流れるって言うんでしょうかね?」

マタイ「カーテナは戦術級の核並の威力を見せた……まぁ、元々、トリスタンはそれ自身の伝承を持っていたのだから、矛盾はしないが」

上条「イギリスの王様だけが使える特別な力とかじゃないのか?」

レッサー「いやいやそれ”も”あるでしょうが、それ”だけ”じゃないですね」

レッサー「もしカーテナの力が『ブリテンの王権を基に』って前提があるんだったら、オリジナルとセカンドの違いはなんです?」

レッサー「どちらも『当時の王から正式に認められた』という背景があるにも関わらず、あぁまで威力に差が出るのは何故?」

レッサー「……むしろオリジナル自体は、ピューリタン革命で一度王権ごと否定されています。チャールズ一世の処刑と共に」

レッサー「ある意味国体としての体を失った以上、ブリテン国民がカーテナを見限ったように、カーテナもまたブリテンを見限った――筈、なんですけど」

レッサー「……どーにもあのお人好しのファッキン野郎の事ですから、情が移ったんでしょうねぇ」

マタイ「トリスタンとカーテナの例が出たので言っておくが、中世のアーサー王伝説とは本来とても曖昧なものだ」

マタイ「実在したのもあやふやで、尚且つ話のパターンが幾通りもあり、また時代を重ねる毎に新しい騎士譚が加わっている」

マタイ「彼の円卓に座す騎士達――代表的な所でガウェイン、ランスロット、トリスタン、ベイリン辺りは、全く別の物語がアーサー王物語へ組み込まれた」

フロリス「……Oh, ....」

ランシス「……どんまい。よくある……てか、一応、うん?」

レッサー「後付けで色々統合されたんでしょーね。ある意味日本の空海上人と同じ」

レッサー「彼が日本へ持ち込んだ『不動明王』という神――か、HATOKE?――まぁ面倒なんで概念としておきましょうか」

レッサー「元はサンスクリット語で『アチャラナータ』で、元はインドのシヴァ神がルーツ……なん、ですが」

レッサー「今じゃ日本の神様として、密教から各種の信仰にまで様々な術式や霊装に登場します」

レッサー「はてさて、では不動明王の力を利用したテレズマはどこから?」

マタイ「――と、言った具合にだ。テレズマと言っても非常に曖昧なのだよ」

上条「複雑っていうか、曖昧っていうか……なんだろうな、混沌とし過ぎてる……」

鳴護「卵から孵った鶏が、また卵を産んで増えていく感じかも」

上条「んじゃアーサーの世界のテレズマ――ってか、別空間みたいのもあるのか?」

レッサー「えぇありますね。使っている魔術師も居ますし」

上条「……頭痛ぇな」

マタイ「――さて、以上の事を私は常日頃違和感を憶えていた――まぁ私だけではないようだが」

レッサー「ウッサいですね」

マタイ「ともあれ、そこで出した一つの仮説が『天使の力とは龍脈の別ベクトルではないか?』という推論だ」

鳴護「別の、ベクトルって?」

ベイロープ「お財布からコインが落ちるのと、太陽の後ろにあって見えない筈の星が観察出来るのは、同じ力の仕業って事」

ランシス「……前は地球の重力、後ろのは太陽の重力レンズ……」

上条「元々二つは同じもので、俺達――じゃなく、魔術師が勝手に勘違いしてたって事?」

マタイ「然り。そして龍脈に流れているのは『力』だけではなく、『記憶』も含まれるのではないか、とも」

上条「誰の?人間の?」

マタイ「人間を含めた全てのだ。有機物・無機物問わすに」

上条「……いやいやおかしいだろ!有機物はまだ脳があって、そこへ記憶が溜まるのは分かる!けど!」

マタイ「その通りだ。人の『概念』としての記憶はそうだ――が、最近は遺伝学の分野で新しい報告が出て来たようだ」

マタイ「『人の能力は生まれ育った環境だけではなく、親の素養や記憶も遺伝する』と」

ベイロープ「……『人が本能と呼んでいる部分が、実は継承され続ける記憶』かしら?見た記憶があるわ」

マタイ「そうだ。複雑な行動様式を持つ動物、昆虫などが筆頭であると言える」

マタイ「『Digger wasp』――は、日本名ジガバチの事だ」

マタイ「彼らは地面に巣穴を掘り、そこへ針で刺しマヒさせた獲物を持ち込みんだ後に、卵を産み付ける」

マタイ「これを『本能だから』と一括りにして良い話だろうか?」

上条「複雑、ってか……そーゆーもん、としか」

マタイ「和名の由来は『似我蜂(ジガバチ)』、巣穴に放り込んだ後、『似我似我(ジガジカ)』――つまり『我に似よ我に似よ』と羽音を立てると」

マタイ「彼らに言語もないのに、どうやって子孫へ伝えた?」

レッサー「まぁ確かに。『本能』だけで解決してはいけないような行動も、多々ありますからねぇ」

レッサー「三大欲求に関してはモロにそれが反映されてる気が」

マタイ「……ま、生命の謎を解き明かすのは科学サイドへ任せるとして、今はこちらの話だ」

マタイ「私は龍脈に我々の『記憶』が蓄積されていると推測している」

上条「言いたい事は分かったが……それと、魔術がどう関係する?」

マタイ「イギリスの王権の象徴たる『カーテナ』、あれは円卓の騎士であったトリスタンの剣だ」

マタイ「しかしトリスタン自身は11世紀頃に成立した物語の主人公、元はアーサーと縁も縁もない」

マタイ「だが、現実にカーテナは『トリスタンの武具』という形で、どこからか大量のテレズマを獲得している」

マタイ「この流れを単純化させると……ある英雄が居たとしよう。名前を仮にアックアとする」

上条「知り合いじゃねぇか!分かりやすいけど!」

マタイ「彼は攫われたイギリス王女を救い出したり、国の危機には駆けつけたりする。勿論使う術式や霊装は、過去の英雄達のものだ」

マタイ「彼もまたそこへと列せられるような活躍を上げ、死後その名前と功績は英雄譚として讃えられる――そして『アックアの神話』が生まれる」

マタイ「彼の名前を冠し、彼の力を再現し――そして『彼の存在する平行世界からのテレズマ』を得られるであろうな」

上条「……」

マタイ「従って私は『異層次元など存在しない』という推論を立ててる。その記憶も力も、溶け込んでいるのは龍脈だと」

マタイ「そうすれば――『○○の力を取り出す』際、付随する記憶が流れ込んできて発狂しそうになる説明がつく」

上条「……なんか、こう色々と聞いちゃいけない話が出て来たような……?」

上条「つーか朝イチでカツ丼食うようなヘビィな話なのに、レッサーさん動揺してませんね?」

レッサー「んーまぁ?えぇ、似たような概念は以前から――っていうか、古代の魔術観と同じですからね」

レッサー「内容自体は珍しくも。ただ仰ってる方が方なんで、驚きはしましたが」

レッサー「前々から不思議には思っていたんですよ。『異界からの知識が猛毒』ってのは一体何なんだろうな、と」

レッサー「今でこそ私達人類が世界で文明を築いていますが、もし何かの歯車がズレてナメクジが取って代わったとしましょう」

レッサー「原始的な文明を経て、私達と同じ進化の道を歩んだと仮定して、魔術師が出たとしましょうか。『天使の力』を使える程の」

レッサー「その時、”Xe”が幻視る異界の神様、テレズマの供給先に存在する者達もまたナメクジの姿をしてんでしょうかね?」

上条「……”Xe”?」

ランシス「……カナダでやろうとしている代名詞。heとsheで『男女差別だから』っつって”Xe”。ま、ぶっちゃけ……」

フロリス「メジャーリーグ級のバカ」

ランシス「……って事」

マタイ「ナメクジは雌雄同体だから、こういう時には使えるかも知れんがね」

レッサー「よくある男神女神の昼ドラ的な不倫騒動も、雌雄同体でもっとごっちゃになってるとか」

レッサー「……卵が先か鶏が先か、”彼ら”も我々の創作物である気がするんですよねー」

マタイ「信じようと信じまいとそれは自由だ。各種ある説の一つだと思っている――」

マタイ「――が、『S.L.N.』はそうではないのかもしれん」

マタイ「アリサ君が持つ『奇蹟』、それは今のままでも魅力的には違いない」

マタイ「だが魔術的には然程珍しいものではない、とも言える」

鳴護「そう、なんですか?危険じゃなく?」

マタイ「危険かどうかで言えば、そうでは無い方へ入るだろうな」

ベイロープ「その手の『呪歌』は昔から研究されているのよ。『賛美歌』なんかそのままでしょ?」

マタイ「主の祝福を禍ツ歌と同系列で語らないで貰おうか」

鳴護「シュワッキマセリ?」

フロリス「そいつぁオラトリオだーよねぇ、日本語だと聖誕歌」

マタイ「誤解を承知で言わせて貰えるならば、『奇蹟』という幅があまりにも広すぎて、意図的にどうこうするには難しい」

マタイ「雨を防ぐには傘を差せばよい。風を避けるには建物へ入ればよい」

マタイ「家を建てるには大工へ頼み、先を急ぐのであれば馬車に乗るだけだ」

レッサー「崩落する塔の落下場所を変えるにしろ、別の術式があれば出来ない事はなっちゃない、ですか」

鳴護「……ちょっと安心したような?そうじゃないような」

上条「アリサ?」

鳴護「あたし”だけ”の力とか、怖くないかな?」

上条「んなモン個人差だろ。歌がどうとかも個性の一つって話」

マタイ「実に正しい見解だ――が、向こうはそうは考えていないだろう」

マタイ「方向性は見えないが……いや、漠然とは見えている。それが」

ベイロープ「――『エンデュミオン』、か」

上条「ギリシア神話だろ?しかも星関係の話だっつーんなら、濁音協会と関係が――」

ランシス「……クトゥルーは『死して夢見る』モノ……」

フロリス「エンデュミオンは『死せず夢見る』神様、かぁ」

上条「……多分これ、偶然の一致とかじゃねぇんだよな」

レッサー「連中が喚び起こそうとしているのは『エンデュミオン』……しかし、そいつぁまた」

マタイ「……あぁ、方向性が掴めん」

ベイロープ「エンデュミオンを起こすのが目的か、それとも目を覚まさせる行為に何かあるのか?」

ランシス「……それも『エンデュミオンがクトゥルーと一致していれば』って前提の話だし」

フロリス「実は全然カンケーない神様だったら笑うよーねぇ。笑えないケドさ」

上条「その、『起こす』と何か問題があるのか?今更なんだけどさ」

上条「神様――俺達が知ってる神話の中に居るような奴ら、一応人格?みたいなのと一緒に別次元に居るんだろ?」

上条「……あぁいや龍脈に『記憶』として溶けてるんだっけ」

マタイ「仮説に過ぎないさ。彼らに人格があるかどうかは分からないが、もしも神話の通りであったならば、こちらへ介入をする筈だが」

レッサー「でっすよねー?ロキさんとかルシファーさんとか、黙ってられない厄介な連中がごまんと居ますからねー」

レッサー「少なくとも過去降臨した記録が無いって事は、彼もまた全能にして白痴という存在なのかも知れませんが」

上条「だったら連中が起こそうとしているエンデュミオンだかクトゥルーだかは、あくまでも『概念』って事、だよな……?」

上条「オティヌスみたいな『魔神』がポンっと現れる訳じゃないんだよ、ね……?」

一同「……」

上条「よし待とうか!魔術師さん達!俺の言葉を否定して安心させてくれませんかねっ!?」

マタイ「……絶対に無い、とは言いがたいな。可能性は低いが」

フロリス「なんつっても、超個人主義の魔術師の中でもキワモノ揃いだしぃ?」

ランシス「古い――『旧い魔術』には大量の人身御供を捧げて、神を降ろす話がイッパイ……うん」

上条「待って待って?お前らなんでそこでフラグを積み上げてんの?ジェンガと積み木を一緒にしてない?ねぇ?」

レッサー「前にも言いましたが、古代から近世まで魔術師が目指したのは『神へと至る道』ですから」

レッサー「『不老不死』も当然ステップの一つとして有り得る、と」

ベイロープ「むしろエンデュミオンの不死性を奪って力をつける、と考えると」

マタイ「それもまた有り得る話だ。むしろ自然とも言える」

鳴護「えぇっと、あの質問!いいでしょうか?」

マタイ「どうぞ」

鳴護「神様、なんですよね。エンデュミオンさん?」

鳴護「でしたら『お願いします!』って頼んだら、また眠ってくれたりとか……しませんか?」

マタイ「理屈で言えば可能。が、しかし確率で言えば極めて低い」

ベイロープ「神自体は荒ぶるのがデフォな上、それぞれの主神クラスでも理不尽なのが殆どよ」

ベイロープ「日本だってそうでしょ?国産みの神の片方が冥界へ下って死神になったの」

ランシス「……話し合いで済むんだったら、わざわざ『神殺し』の武器とか存在しない、し?」

レッサー「ですねぇ。ま、それはそれでランシス超オイシイ展開とも言えますが!」

ランシス「『Go out to the table. After all, was the former joke?』」
(表へ出ろ?やっぱりお前冗談だったんだよな?)

上条「……勝てんのかよ、それ」

レッサー「何言ってんですか、勝つに決まってるでしょうか」

上条「マジで?」

ラシンス「……北欧神話では神や巨人がバタバタ死んでる……つまり『神殺し』の術式は結構あったり」

レッサー「有名処では光り輝く英雄”神”バルドルを、盲しいた”人間”のヘズが刺し殺してますからねぇ。方法は幾らでも」

フロリス「エンデュミオンはエーリスの王で武芸にも秀でる……とはいえ人間の範疇だし?」

フロリス「『不老不死』じゃなくなったらイケるイケる」

ベイロープ「――それに勝ち負けどうこうじゃなくて、戦うべき時に戦うだけ。勝負をしない理由にはならないのだわ」

上条「またポジティブだなお前ら!いい加減にしなさいよ!」

マタイ「楽観視は決して宜しくはない。けれど必要以上に悲観視しては見える未来も臨めまい」

上条「いや、そうなんだけどもさ」

レッサー「そもそもで言えば、『異教の神を悪魔に貶めて信奉者ごと虐殺しまくった』十字教の元指導者様が何とこちらに!」

ベイロープ「はーい、アリサは見ない。眼が穢れるから」

鳴護「レッサーちゃん、今チラっとハンドサイン見え……?」

マタイ「君は戦争がしたいのかね?私でも流石にShocXXXぐらいは知ってる」

上条「取り敢えず態度と言葉は選ぼうか?下手すればこちらさんに伝家の宝刀抜いて貰うかもしんねぇんだからな!?」

フロリス「ちょくちょくネタのフリをしてデッドボール当ててるよねぇ。ブレないっつーか」

ランシス「……ちなみに人前で使ったら骨折られても文句は言えない……」

レッサー「しかも相手を間違えるとアッーーーーーーーーーー!?されるのでオトクですねっ!」

上条「真面目に!真面目にやろうぜなあぁっ!?」



――カンドルフォ城 個室 夕方

上条「……」

上条(話し合いはグダグダのまま何となく終った……てか、方針が大雑把すぎるわ!)

上条(……や、まぁ魔術知識すらない俺より、プロが『待ち』でいいって結論づけたんだが)

上条(連中の目的がここへ来てようやく絞れてきた。正直ありがたい)

上条(やっぱり、というか当然のように。話の中心に居るのは――”居させられた”のはアリサか)

上条(……ま、幾ら何でもだ。ここまで来て『嘘でしたーサーセン』とかは――)

上条「……」

上条(――ある、わなぁ?あのデタラメな人間未満なら……!)

上条(……いやいや、落ち着け。考えろ。俺はずっとそうやってきた筈だ)

上条(LIVEまでの日程には余裕がある、し。ロシア公演分もローマですると決まった)

上条(ま、それは結果として和解の象徴になるからって喜んでたが……ロシアはしょーがないよなぁ。やっぱ)

上条(ここで『濁音協会』が襲撃をかけてくる可能性は無――く、はないが、限りなくゼロに近いらしい)

上条(前の戦争で疲弊したとはいえ、20億の信徒を抱える最大宗派ローマ正教。正面からケンカを売れる組織はまず居ない)

上条(もしも真っ向なり搦め手で来るにしても、それだけの戦力を持っているならユーロトンネルで仕掛けてきた筈で)

上条「……」

上条(シャットアウラの『希土拡張』で追い払って――の、直後に安曇が単独行動と)

上条(あいつが言うには『アルフレドは死ん』……だ、だっけ?なんかもっと曖昧な言い方をされた気が……?)

上条(確か転移魔術か爆発でバラバラになってた。だから安曇は『濁音協会』から抜けてって言ってたか)

上条(んでもフランスの検死解剖をした病院へ、潜り込むアルフレドの姿が目撃されてる。つか喋った人も居ると)

上条(安曇が嘘を吐く必要性は薄い。だから『バラバラになった』のは本当だろう。うん)

上条「……」

上条(でも『死んでなかった』、としたら……?)

上条(『野獣庭園』の魔術は『捕食者としての種族反映』が主目的。環境に適応して食物連鎖の頂点に立つ……って、妄想)

上条(……どんだけ強い捕食者の群れであっても、同じコミュだけでは多様性を欠く)

上条(『殺し屋人形団』は『独りで完結した生命』……つーか悪い夢だ)

上条(脳だけがギリギリ生きていて。思い出したくもねぇ――が)

上条(どっちも『不死』に関係するんじゃねぇのか、これ?)

上条(『獣化』はアイツらにしてみれば『手段』じゃなくて『目的』だとすれば――)

上条(――『同朋』を手っ取り早く作るため、の)

上条(同じ思考回路と変わらない生き方を何十代、何百代と繰り返して。外側から見ればある種の『不死』、と言えなくもない)

上条(反対に強すぎる『個』を誇り、肉体を取り替える。どっか聞いた話……あぁそうか)

上条(エジプトのフェニックスは500年を生き、老いると炎の中へ身を投げ生まれ変わる。ってゲームをしていたインデックスが言ってた)

上条(『団長』もエジプト系の魔術師だし、関係はあったのかもな。グロいけど)

上条(と、考えると『アレ』はどういう位置づけになるんだ?まさか無関係って事はないだろうが)

上条(仮に学園都市の兵器だとして、魔術師的な意味を持たせられれば、意味を持つ……)

上条(……ま、俺が気づいているぐらいだし、ステイル達だって当然分かって――)

上条「……」

上条(連絡、来てねぇな!そういやさ!)

上条(フランスの病院前で別れたっきり、進展が無い……?)

上条(なんて、甘い組織じゃねえよな。最初っから10年前の『濁音協会』が魔術結社だって知ってて隠してやがったし)

上条(日本に飛んだ建宮からの連絡も俺には来ねぇ、まーた裏でコソコソやってんだよなぁ、きっと)

上条「……」

上条(あ、そういや建宮から預かった通式用霊装あったっけ?預かったっつーか、逃げやがって言うか)

上条(右手で触んないように、鞄ん中突っ込んで) ゴソゴソ

上条「これこれ」

上条(ケータイとカナミンフィギュアのストラップ。電池はバッテリーごと入ってなかった)

上条(連絡取りたいが……起動方法もサッパリ分からん。レッサー達に頼んでも、多分使ってる術式とは仕様が違うだろうし)

上条(てかそもそも『能力者』の俺が魔術を使える訳が――)

上条「……」

上条(――いや、そうでもない、のか?マタイさんの仮説が正しいとすれば、俺とアリサは『地脈使い』って事になる)

上条(つーか魔術師も使ってる力、特に『異相からの力』もそうだって話。あくまでも『可能性がある』程度だが)

上条(魔術師ねぇ?俺が?)

上条(アリサの『歌』はなんかまぁ、神がかってる感じ。納得出来るような、理解は出来る)

上条(……俺の『幻想殺し』は俺が否定するから打ち消すしか出来ない……か)

上条(神様を信じてないから、『奇蹟』を否定するから……ま、分かる気はする、けど)

上条(アンチスキルに撃たれた時も傷自体は腹だったし、そこだけを治癒する魔術なら効果は出来る筈)

上条(もしも『俺の体全般をキャンセル』出来るんだったら、アウレオルスに一回記憶をイジられた事の辻褄が合わない)

上条(後、それに)

上条「……龍」

上条(一回目はただの偶然。アウレオルスに追い詰められた――追い詰めたアイツが幻視した『竜』)

上条(恐怖心から有り得ない妄想を見た――でも、『二度目』は直ぐに来た)

上条(大覇星祭ん時、削板とビリビリ止めたあの場所で――)

上条(――俺の『幻想殺し』から出たのは『八つの頭を持つ龍』――)

上条(――これは『打ち消す”だけ”の力』なんかじゃねぇ……!)

上条「……」

上条(そういや、削板だっけ?ビリビリから聞いた、学園都市に7人居るレベル5の一人)

上条(暴走したビリビリを『別の世界から来た存在』……能力者が口にする台詞っぽくねぇな)

上条「……と、まぁ悩んだ所で答えは出ない」

上条「パズルを解くんだったら、今持ってるピースだけで動く……」

上条(俺の手札は『右手』と、あともう一つ)

上条(連中が活動していたイングランドのサフォーク地方のダンウィッチ)

上条(連中が”居た”所……調べるぐらいは出来るかもしれ――)

コンコン、コンコン

上条(ノック?誰だ、つってもアリサかレッサー達なんだろうが)

上条(本命アリサ、対抗ベイロープ、大穴ランシス、伏兵フロリス、地雷レッサー)

上条「……」

上条(あれ?誰が来るかって予想なんだよな?何か別の意味を持ってる感が……)

上条(そもそも俺は誰だったら嬉しいんだろ……?)

上条(ま、考えない事にしよう!多分直ぐ結論を出さなくても大丈夫っ!)

上条(それよりも今はお客様をお迎えしようぜっ!考えるな俺!余計な事はっ!)

上条「はい、どうぞ」

マタイ「――少し邪魔をする」 ギィィッ

上条「予想外だった来やがったよ!?つーか選択肢には無い!」

マタイ「何かの話かは分からないが、期待を裏切って済まなかった」

上条「ん、いえすんません。こっちこそ」

マタイ「現実からどれだけ上手く逃げ出したとしても、現実は君を追いかけてくるが」

上条「把握してんじゃねぇか完璧に!」

上条「しかもなんか聖書の一節っぽい言い回しが余計にダメージ入るわ!」

マタイ「死神が汝の影を踏んだとしても、それは幸いなるかな。汝はまだ汚れを知らないのだから」

上条「え、何?俺、遠からず刺されるって話なの?」

上条「しかもテメェ遠回しに俺がアレだって揶揄してねぇかな?被害妄想?」

上条「もしかしてなんだけど、レッサーに散々嫌味言われてたの気にしてんのか?あん?」

マタイ「それで?私はいつまで立っていればいいのだろうか」

上条「……えぇまぁ、どうぞ?」

マタイ「失礼する」

上条「いや別にいいんですけど、つーかアリサ達だと思った……」

マタイ「食堂で何かやっていたようだが、何をやっているのかまでは知らない」

上条「んー……?飯でも作ってんじゃないですかね」

マタイ「それは重畳。佳きかな」

上条「……つーことは、アレか?ビックリドッキリイギリス飯が出てくるのか……?」

マタイ「イギリス料理は言われる程酷いものではないと思うがね。私は割と好きだ」

上条「あ、そうなんですか?やっぱ美味いトコは美味いのかなー?」

マタイ「ロンドンで食べたタンドリーチキンは絶品だった」

上条「それインド料理。や、でも日本のカレーと一緒で郷土食になっちまって」

マタイ「他にもエジンバラで食べたタンドリーチキンも悪くはない」

上条「料理カブってね?」

マタイ「後は……そうだな。オーモリーの繁華街にあるこぢんまりとした家庭」

マタイ「そこで相伴に預かったタンドリーチキンもまた、懐かしい味だった……」

上条「タンドリー過ぎねぇかな?他にもメニューあったよね?イギリス料理とかイギリス料理とかイギリス料理とかさ」

マタイ「この歳で冒険するのは少し辛いものかある」

上条「てか明らかにイギリス飯をDISってる……まぁ、いいか。それで?」

マタイ「私の魔術師時代の話で、『必要悪の教会』から逃げながらの食事だからな。時間が満足に取れなかった」

マタイ「あの時、我々を壊滅手前まで追い込んだ髪の長い女、今頃どうしているだろうか」

上条「俺はその人知らないけど、多分似たような立場で宜しくやってると思うよ?」

上条「てかそんな話じゃねぇよ。いいから用件をお願いします!」

マタイ「ん、あぁ。荷物をまとめていたようだし、どこかへお出かけかね?」

上条(ヤベ、バレてる!?)

上条「あぁっと、だ。これは――」

マタイ「そちらの事情には詳しくないので好きにすれば良い。急いでいるのであれば手短に話そう」

マタイ「『龍脈』について少々話し忘れた事柄がある」

上条「……ってまたそれ」

上条(悩んでた所だ。随分またピンポイント、いやラッキー、なのか?)

上条(アリサ達には『八竜』の話はしてねぇし……隠してるって訳じゃない。ないんだが。なんかこう、言いづらい……)

上条(あんな、『バケモノ』が俺の中に――)

マタイ「神話や伝説、英雄が登場する物語に『龍』はつきものだ。オリエントから西は基本的に『竜』だが」

上条「『竜』と『龍』?」

マタイ「どちらも英語では『Dragon』。しかし漢字で表すと意味が異なる」

マタイ「『竜』は『知性に乏しい動物』としての意味が強い。恐竜が例だろうか」

マタイ「『龍』は『知性ある神格』を意味しており、中国の皇帝の何代かは『龍』を象徴としている」

マタイ「歴史的に最古の一つされる女禍と伏羲はそれぞれ竜体――蛇体の神だ」

上条「蛇、か」

上条(蛇の神様……?どっかで聞いたか……?)

マタイ「竜と蛇の境目など無かったからな。蛇が大成すれば竜と化し、竜が王となれば龍王へ転じる」

マタイ「歴史的に最古の一つとされるシュメール、そのルーツはティアマトにアプスから始まった」

マタイ「二匹の竜から人類が生まれ落ちた、そう伝えられているな」

マタイ「……科学の無い時代、特に魔術が原始的な生活を支えていた時代の話だ」

マタイ「その当時の魔術師が使っていたのは『龍脈』を遣った大規模なものであった、と考えられている」

マタイ「世界各地に点在する巨石文化、そして龍脈の上に造られた東西のピラミッドや神殿」

マタイ「それらは全て龍脈をコントロールするために用いられた」

上条「ふーん?分かるような、分からないような?」

マタイ「君の国ではあまり残っていない。しかし龍脈を人々が制御下へ置いた、という話は有名だった筈だ」

上条「龍、竜……?」

マタイ「スサノオの八岐大蛇退治、そう――」

マタイ「――『八つの頭を持つ”竜”』を退治した、という伝説だな」



――カンドルフォ城 個室

上条「えっと、これって」

上条(俺の『右手』、なんだよなぁ。やっぱり。ってかどっから調べやがった!?)

マタイ「どうしたかね?何か疑問でも?」

上条「……やー、あのさ?なんでまたその話を俺に、って思っちゃってさ」

マタイ「他意は無い。ただあの場で話すのを忘れていただけだよ」

マタイ「歳はあまり取りたくないものだな。最近物忘れが激しくてね」

上条(『嘘だっ!』って突っ込みてー!?)

上条(だったらわざわざ俺だけに講義するんじゃなく!場を改めてもっかい言えば良いし!)

上条「……いや、あの、本当なんか、スンマセン」

マタイ「何を言っているか分からぬが、よい。そういう事もあろうが――さて」

マタイ「これはまた別の仮説となってくるのだが、神話に登場する『竜』は多い。またそれを打ち倒す英雄もだ」

マタイ「……そこで一つ、疑問に思うのだが――『全ての神話の竜は果たしてフィクションであったのか?』と」

上条「……はい?」

マタイ「アックアの神話の例であれば……そうだな、アックアは物語の中で悪魔のような恐ろしい女に猛然と立ち向かっていった」

マタイ「彼の英雄譚にはそう記されるだろう」

上条「キャーリサですよね?俺もちっとトラウマ残ってるが」

マタイ「彼女はフィクションかね?」

上条「だったら良いなー、ってイギリス駆け巡ってる最中に何度思った事か!」

マタイ「で、あろうな。アックアにせよ、あの女にせよ、当事者からすれば真実の物語だ」

マタイ「――が、百年後、数百年後。アックアの神話を聞いた者はそう思わないだろう」

マタイ「『これはきっと何らかの寓意を示している筈だ。だって現実に人では有り得ない事をしているから』と」

マタイ「アカデミズムに毒された民俗学者であれば、『先人の教え』、そのままを繰り返すだろう」

上条「あー……魔術が廃れればありそうな話だ」

マタイ「その話と同様、嘗ての物語、つまり私達が『神話』と呼んでいるものが『実話』だったとしたら、どうするかね?」

上条「……いやいやっ!竜がマジモンで居る訳ねぇし!」

マタイ「その通りだな。今の地球は恐竜が生存出来た環境だとは言えない」

マタイ「かといって『天使の力』――つまり異相空間からの知識であれば、『こちら側』に実在したとも言いがたい」

マタイ「……だが、それもそれで矛盾しているのだよ」

上条「”実在できっこないんだから、違う空間の知識”って仮定がどうして?」

マタイ「だから、発狂するだろう?準備も素養も持ち合わせていない者が触れれば」

マタイ「そんなギリギリで得た知識を、それこそ吹聴するかね」

上条「あ」

マタイ「ましてや魔術師の特性――いや、人類の習性として富の独占は古代から社会主義まで変わらなかった」

マタイ「だというのに、そうも易々と知識が伝播されるのは異常だと言えるだろう」

上条「……神話、ってのは王権神授説だっけか?確か、統治者が自分達の権威を高めるためにしたっつー話」

上条「でも荒唐無稽にしちゃ、どこもかしこも似ている気がする……」

マタイ「だから恐らく、私達が『竜』と呼ぶ存在は居なかったのだろうな。現実には」

マタイ「だが『何か』は存在した。そして英雄と呼ばれる人間達が退治した」

上条「『何か』、とは」

マタイ「――『龍脈』――」

上条「……ですよねー、そう来ますよねー」

上条「……」

上条「分かりませんがっ!?」

マタイ「神話では荒ぶる竜を抑えるために、よく人身御供が捧げられた」

マタイ「これは治水祈祷の一環――シークエンスとして組み込まれていると言っても良い」

上条「安曇が言ってたな。『元々蛇神への生贄は事故で死んだ人』だった、って」

上条「……待てよ?そうすると『龍脈』と『蛇神』は『災害の体現化』なのか……?」

マタイ「『龍脈』を人の手で操るというのは、多分に地形から手を入れねばならない」

マタイ「強すぎる力を抑えるためには、治水事業をして氾濫を繰り返す水脈を抑えたり」

マタイ「また手のつけられないような場所であれば、『禁足地』や『禁猟区』として入らずのタブーを設けたりもした」

上条「これは例えば、例えばの話なんだけど」

マタイ「――ここで最初の話へ戻るが、八岐大蛇も荒ぶる龍脈であったと推測される」

上条「聞けよ話。言わせてくれないのはむしろ感謝するが!」

マタイ「大抵の首は一本、多くても二つ。それが八つ集まるとは手に負えない龍脈なのだろう」

マタイ「……日本には、古来より『九頭竜(クズリュウ)』の伝説が多い」

上条「地名で聞いた事がある」

マタイ「私が知っているだけで、九つの頭を持つ竜の伝承が10ヶ所以上に存在する。勿論退治したという伝説とセットでだ」

上条「……成程。そう考えると”竜=龍脈”って考えも間違ってないような……?」

マタイ「『龍脈』である以上、竜とは切っても切れない縁がある、ぐらいの理解でも構わない。何にせよ証明されていない仮説だ」

上条(って事は、アレか?俺の『右手』には相当量の龍脈を操るだか、打ち消す力があって)

上条(その力が膨大だから『八つの頭を持つ竜』って形で現れた、と)

マタイ「これは余談だが、というか完全にジョークなのだがね」

マタイ「狂えるアラブ人、アヴドゥル=アルハザードが書き残したネクロノミコン。それに登場する邪神の名前は知っているかね?」

上条「何度も聞いた。クトゥルーだろ?」

マタイ「日本の作家がジョークで言い出したのだよ。『アルハザードは聞き取れなかっただけで、実はしっかりとした単語だったのでは無いか』と」

上条「単語?どういう意味?」

マタイ「『Dragon』と『Dracula』、似ているだろう?流暢な発音をされれば混同してしまう程に」

マタイ「……ま、元々は同じものであったが」

上条「あー、分かる分かる!単語の語尾を略すから聞き慣れてないと間違うヤツな!」

マタイ「当然、他の文化圏にもある。『橋』と『箸』とか」

上条「や、でもクトゥルーだろ?他の単語と間違うようが――」

マタイ「『九・頭・竜(ク・トウ・リュウ)』」

上条「――ッ!?」

マタイ「作家曰く、『触腕に見えたものは九つの頭、不定形に見えたのは躰が腐敗しているからだ』との話だ」

マタイ「大航海時代、時折船に打ち寄せられた『シー・サーペント(海竜)』の屍体は、殆どが酷く腐っていた」

マタイ「翻って現代。残された記録を元にして、海竜の正体を探ってみれば多くは鯨、もしくはダイオウイカの屍体だという結論が出た」

マタイ「イカが竜に間違われるのだ。竜がイカに間違われているのもおかしくは無い――さて、どう思うかね?」

上条「…………………………ユカタン」

マタイ「それもまた、佳い」



――カンドルフォ城

マタイ「――私から話す事は以上だ。邪魔をして済まなかったね」

上条「あ、いえ別に。つーかこっちこそ、ありがとう、ございます」

マタイ「いやなに、伝えるのを忘れたのはこっちだ。礼を言われる筋合いは無い。無いが……一つだけ、頼まれてはくれないか?」

上条「ん、あぁ俺に出来る事なら」

マタイ「玄関――門の所に車を待たせているのだが、生憎都合がつかなくて行けなくなってしまった」

マタイ「良かったら私に代って断りを入れて来て欲しい」

上条「あー、はい。別に構いませんけど。そんなんで良かったら」

マタイ「……」

上条「……はい?まだ何か?」

マタイ「……私の名前を出せば市内観光でも空港でも、好きな所へ行けるだろうが」

マタイ「君はしないのだろう?”そういう”事は。絶対に?」

上条(これ、もしかして……ダチョウ的な?『押すなよ!絶対に押すなよ!』みたいなアレか?)

上条「……いやホンっと何かもうすいません。何から何まで」

マタイ「佳い、と言った。こちらは君に一つ借りがある身。とても返せたとは思っていないが」

上条「借り?」

マタイ「ヴェントへ君の抹殺を命じたのは私だ」

上条「……あぁ、そうだっけ。でも良くしてくれてんだし、別にチャラで良いって」

上条「アリサの『歌』も危険じゃ無いって言ってくれたし……マタイさん?」

マタイ「……そうだな。私は確かにそう言った――危険ではない、と」

マタイ「ただより正確を期すれば『危険”どころ”ではない』んだよ、上条当麻君」

上条「……何?」

マタイ「確かに『歌』を媒介にする術式は数多い。術式起動の詠唱や呪文もまた歌という属性を占めている」

マタイ「だがアレほど純化した『歌』ともなれば、まさに神話の時代にまで遡らないと例を見ない」

上条「待て――待ってくれよ!?それじゃさっきのは嘘だったって言うのか!?」

マタイ「大質量の建造物一つの落下軌道を変える――それ自体は困難ではあるが、不可能では無い。準備の人員と時間を取れれば容易だ」

マタイ「だがしかし『一個人が歌の力だけで退ける』となれば……だ」

マタイ「そもそも、と言うのであれば、彼女が凡庸な”体質”の人間であれば、『S.L.N.』から目をつけられもしなかった。が」

マタイ「たかだか数万、精々数十万人分の『意志の力』を媒介にして、『奇蹟』を起こしてしまったのだから」

マタイ「……悪かった、いや事態をややこしくしているのは科学の力だ」

上条「なんで?アリサも俺と同じ無能力――」

マタイ「いやいや異能の事では無い。通信インフラ――ネットの普及だ」

マタイ「古代、統治者であった異能者はその力を民衆へ見せつけただろう」

マタイ「アリサ君のように『歌』で奇跡を起こした例も当然ある」

上条「だったら別に!」

マタイ「――だがそれも、精々影響を及ばせるのは数千程度。桁違いだ」

上条「……アリサが特別だって話か?」

マタイ「まだ分からないのかね?ネットだよ、ネット。世界中に張り巡らせた電子の網」

マタイ「普通であれば遠くの国で発動した魔術がネットを通して感染する、のは有り得ない出来事である」

マタイ「だがアリサ君の『龍脈』もまた文字通り、世界と繋がっている。どこに居ようが某かの関わりはある」

マタイ「よってその気になれば、億単位の人間の『願い』を凝縮させ、『奇蹟』を起こしてしまう可能性だってある」

上条「ローマ正教も、敵に?」

マタイ「私達は私達の味方だ。ない、とは言いきれないが……私はそうはならないと思うよ」

上条「どういう意味だよ!?」

マタイ「彼女を弑するモノがあるとするならば、恐らくそれは彼女の善性だろうな」

上条「善性……?」

マタイ「いや老人の戯言さ。悲観ばかりしていると碌な事にはならない」

マタイ「テッラを見過ごし、フィアンマに気付けなかった者に、未来を語る資格は無いのだろうな」

マタイ「20億の信徒を一度は束ねた身であっても、この有様だ。情けない」

上条「……」

マタイ「済まなかったな。再度呼び止めてしまって」

上条「――その、マタイさん。一つだけお願いが」

上条「何かお仕着せがましくて嫌なんだけど、『借り』に思ってるんだったら」

マタイ「出来る事ならば」

上条「俺が居ない間、アリサを宜しくお願いします……!」

マタイ「約束しよう。けれどそれは最初の約束事に含まれているので、借りを返せるとは言えないな」

上条「そっか、それじゃ……その、良かったら、で良いんだけどさ」

上条「安曇と『団長』の遺体、元の国へ帰す、ってのは無理かな?」

マタイ「……出来なくは無いが……敵なのだぞ?」

上条「敵”だった”としてもだよ。死んだ後ぐらいには、故郷へ帰っても良いんじゃねぇかなって」

マタイ「……ふむ。道理ではある。灰にした後でも良いのであれば、何とかしよう」

上条「灰……火葬?」

マタイ「と言うよりは復活しないように、また魔術的な記号を持たないように、だ」

上条「分かりました。それでよろしく」

マタイ「汝の進む道に灯明を。願わくば困難が避けて通る事を――」



――カンドルフォ城 前

上条「……」

上条(……すげー人だったなー。何つーか、うん、何つったらいいのか分からんが)

上条(ローマ正教としての立場があるのに、『気をつけろ』ってわざわざ警告してくれた辺り、やっぱ元教皇って感じはする)

上条(危険って言われても、アリサは何も悪くない訳で――なんて言い分を通用する相手じゃないし)

上条(学園都市に居ればまだ、他からの要らないお節介は避けられる……)

上条(最悪引退……いや、曲を作るだけに専念するとか?作詞作曲全部やってるって言うし)

上条(でもそれじゃ『歌うのが好き!』だってアリサの思い否定しちまうよなぁ、やっぱ)

上条(……ユニット組ませるとか?例えば柵川中の核弾頭さんとか、ノリノリでやってくれそう?)

上条(他にも……要はLIVEすんな、って事だよな?知らず知らずの内に『奇蹟』を起こす可能性があるから)

上条(『人数』が問題ってんなら、シークレットライブにすりゃ大した問題も起きないし?)

上条「……」

上条(あ、なんだ。深刻ぶる事はなくね?問題が起きるのが分かってれば、対処は出来る)

上条「……そう『分かっていれば』、か。だからマタイさんはわざわざ警告してくれたと」

上条「……」

上条(『借りを返す』とか言ってたけど、どっちの話だっつーの。ま、いいや)

上条(んな事よりも俺は俺の出来る事――あぁ、あったあった)

上条(フィアットかー……『スゲェ外車だ!』とか思ったけど、こっちのメーカーだから普通か?)

運転手「――てーかイタリアだから国産車ですよね、完全に」

運転手「一時期は車が売れずGMへの売却も考えたらしいんですが、その後に出した軽自動車のパクり――コンパクトカーが大人気」

運転手「今は持ち直して充分にやっていますが、次世代技術の開発に乗り遅れてしまったため、恐らくエコカーでは後れを取るかと」

上条「何かすいません中途半端な知識でねっ!」

運転手「いえいえ、さ、どうぞどうぞ中へ」

上条「あ、はい」 パタン

上条(なんで流暢な日本語?しかも若い女の子――嫌な予感しかしねぇな!)

運転手「お客さん、どちらまで?」

上条「空港までお願いします」

運転手「あ、それじゃこちらのタクシーチケットにサインをお願いします」

上条「チケット?客が名前書くなんて聞いた事無いんですけど」

運転手「あー、領収書みたいなもんですから、えぇ。仕様だから仕方がないです」

上条「そっか仕様なら仕方が――って違うよね?これ違くね?」

上条「この緑で印字された用紙、『婚姻届』ってモロ日本語で書いてあんだけど、これ別の書類だよね?」

運転手「えぇですから『ア、アンタの人生を運んで上げるんだからねっ!』って意味です!」

上条「そんなツンデレ聞いた事ねぇよ!?なんでタクシーの運ちゃん相手と一々エンゲージする必要がある!?」

運転手「ツンデレタクシー、流行ると思うんですがねぇ」

上条「それタダの接客態度の悪いタクシーだろ。会社に抗議来まくりだぞ。つーかさ、何?」

上条「こんなとこで何遊んでんのレッサーさん?」

レッサー(運転手)「流石です上条さん!この私の華麗なる変装を見破るとはねっ!」

上条「変装してないよね?君、いつもの格好そのまんまで運転席座ってたよね?」

レッサー「――と、言う訳でこちらにサインをですね」

上条「……いや、お前んとこの名前に『レッサー』って明らかな偽名が書いてあんだけど、受理されねーだろ」

上条「そもそもで言えばお前は俺を利用したいんであって、入籍が目的じゃねぇだろうが!」

レッサー「えっ?」

上条「えっ?」

レッサー「え、えぇえぇそうですともっ!私はブリテンの国益が一番であって、上条さんの事なんか好きじゃありませんからっ!」

上条「……あれ?迫真のツンデレだな……?」

レッサー「――と、言う訳でしてね、こちらの同意書にサインして魔法使いになって下さいな」

上条「ループ禁止。あと多分この紙にサインした人は、100%の確率で魔法使いとしての資格を失うと思うぜ?」

上条「つーかお前なんでここに?」

レッサー「いやですよぉ上条さん。私を出し抜けるとお思いで?」

レッサー「以前ロシアへ行った時にも、私から逃げられなかったじゃないですか?」

上条「あー……あん時は助かった、けどさ」

レッサー「ロンドンまでの直通便は出ているでしょうが、そっからどこをどう行ったらダンウィッチへ行けるか分かります?」

レッサー「むしろトラブルやラッキースケベに巻き込まれず、すんなり目的地へ行ける自信がおありで?」

上条「ないですよねっ!これっぽっちもねっ!」

レッサー「どうせロンドンへ着けば着いた先でTo LOV○るでしょーしねぇ」

上条「その発言はおかしい。あと”とらぶる”でその単語が一発返還出来るATO○も何か違う」

上条「……いやでも、お前よく分かったよなぁ。それとも霊装かなんかで監視してたの?」

レッサー「またまたー。術式が効かないのはご存じでしょうに」

上条「だったらどうやって?」

レッサー「そりゃ勿論、私はあなたをずっと見てるからに決まってますよ」

レッサー「フィアンマに出し抜かれた後、周囲の人間、誰一人気づかせる事無くロシアへ向かった――」

レッサー「――そんなアナタを……」

上条「……レッサー?」

レッサー「…………あぁ、成程。そういや、そうでしたか。こいつぁまた、中々どうして悪かない、かもです」

レッサー「思えばその時にはずっと”見て”たんですねぇ、上条さんの事」

レッサー「今に想い出してみれば、そういえば、という所は幾つもありましたっけ……」

上条「何の話だ?」

レッサー「いいや別に?そのうちお話しする機会は持てると思いますが」

上条「ふーん?まぁ、今はイギリス行きだよな」

レッサー「ですねぇ。ま、時間はありますので追々に」

上条「よし、それじゃ行こうぜ!」

レッサー「えぇ、行きましょうか」

レッサー「――ま、それはさておき、こちらの航空券チケットの名前欄へサインを」

上条「お前もう帰れよ!?つーか同じ紙じゃねぇか!もっとヒネりなさいよっ!」



――ロンドン ガトウィック空港

上条「うおー……体、バッキバキだ……」

レッサー「伊達に『Eco-Army(環境狂徒)』とついてはいませんねぇ」

上条「だな。エコノミーって――お前今発音違くね?」

レッサー「気のせいですよ。気のせい。Queensはアメリカ英語に慣れてると聞き取りづらいらしいですから」

上条「そんなもん、か?詰め込み型の英語教育の弊害がここに……」

レッサー「あ、ちなみに『日本の英語は実用的ではない!』とホザくバカが一定周期で出没しますが」

レッサー「あれ、海外の論文読む時にキッカリとした文法知ってないと手も足も出ませんからね。真に受けても損しますんで、注意して下さいな」

レッサー「常識で考えるか現地で暮らせば分かる事ですけど、日本だって学校や役所のテキストと日常会話は違うでしょ?」

上条「文語体と口語体の違い?」

レッサー「に、近いでしょーかね。そもそも英語英語つったって、誰しもが同じだけ使えるのは『幻想』でしてね。訛りが酷かったり、語彙が少なかったり」

レッサー「そうですね……ハリウッド映画を字幕でご覧になった事は?」

上条「何回かある。テレビの深夜映画で」

レッサー「直訳と一緒にスクリーンに映っていると、『あ、なんか字幕と比べて台詞少ねーな』みたいなのありません?」

上条「こないだ見たホラー映画で、ヒロインの子が『あっちから来たわ!?』が『There!?』だった」

レッサー「慣用句、『over there(あっち)』を更に略して『There』でしょうかね。あのトラック映画のセンス、嫌いじゃないです」

レッサー「てか、大体『分かりやすい単語と単文のオンパレード』ですよね?ま、実際の話し言葉より更に単純化した作りになってんですが」

レッサー「その理由としては『子供から大人まで、また英語を大して知らない人間にも分かりやすいような脚本』だからです」

レッサー「誰でも理解出来るようにレベルを下げている、と言っても過言ではないかと」

レッサー「大人でも新聞とテレビみたいな『バカでもわかった”つもり”になれる媒体』にしか触れない人、結構居ますからねぇ」

上条「おい止めろ!今度は誰にケンカ売るつもりだ!?」

レッサー「いやですから、別に普通の人はそれでいいじゃないですか。だって政府の公文書や学術論文に触れる機会はないですし?」

レッサー「『ただ意思疎通が出来るレベル』であれば、少しの英単語憶えとけば何とかなります――と、言いたいんですが」

レッサー「実際にこちらの新聞のWEB版を読めば分かりますけど、専門用語もさることながら割と難しい言い回しは出てくる訳で。タブロイドでも無い限り」

レッサー「『日本人が習う英語は日常生活では使えない!』のが真であれば、『新聞を読むのは日常生活の一部ではない』の証左になってしまいますよねぇ」

上条「結局どっちなの?意味あんの?ないの?」

レッサー「私は日本人ではないのであんまり実感は?ただ『大人が子供に話を合わせるのは簡単だが、その逆は難しい』とだけ」

レッサー「更に付け加えるのであれば、宣うバカどもの大半が、学術論文や外電には縁も縁もない人間ばっかって事ですよ」

レッサー「ていうか、そもそも、元々は」

レッサー「『大抵の国では英語を使わないとまともに本が読めない』って事情もあるんですが、まぁそれはいいでしょう」

レッサー「……あんまり掘り下げるとブーメランが刺さりますし」

上条「つーかそれ、お前らの植民地のせいじゃねぇの?あぁ?」

レッサー「失敬な!アメリカさんだって今や世界の最先端じゃないですかっ!」

上条「……お前、アメリカ独立戦争って知ってる?」

レッサー「し、知りませんねー?ネコ耳だなー?」

上条「ネコ耳じゃなくて初耳な?お前日本語バカにすんのもいい加減しろ、な?」

上条「てかアメリカの自由の女神、イギリスから独立した時にフランスから貰ったって習ったぞ」

レッサー「……えぇえぇ、そん時からあのクソヤローはブリテンの邪魔ばっかしやがってますよっ!悪いんですかっ!?」

上条「当時の国際情勢として植民地は合法なんだっけ」

レッサー「『劣等な人種を導いてやらねばならない』をまともに信じていた時代ですから。ま、今でも形を変えて残っては居ますが」

レッサー「ありますでしょ?――『自分達が正義だと思い込んで、悪い奴らを皆殺しにする』ってぇ話は割と」

上条「……魔術師と能力者、スタート地点は違ってもゴール地点はどうして同じなんだろうな?」

レッサー「向いてるベクトルは同じだからじゃないですかね?中世に『神』を目指した錬金術師達」

レッサー「表に居続ければ『科学』となり、裏へ潜れば『魔術』となる、ですか」

レッサー「医療科学の最先端はアンチエイジングにIPS-cell。どちらも人類の寿命を延ばしてくれるでしょう……が」

レッサー「言い方を変えれば『不老』であり、魔術サイドが追い求め続けてきた目的の一つですがねぇ」

上条「不老不死、出来んの?」

レッサー「戦いましたよね?ついこないだも」

上条「『団長』……」

レッサー「あれは肉体の大半を捨ててシリンダーの中の”脳”だけになる。ある種のSFチックな術式でしたが」

レッサー「……ただアレ、『よく見たらコレ霊装じゃね?』ってぇ気もしますがね」

上条「人体改造しすぎだろ。似たようなの科学サイドでも居たけどな」

レッサー「概念としちゃ魔術サイドの方が先ですよ。エジプトのミイラと復活なんかまさにそれです。ただ中途半端でしたが」

レッサー「レディリーさんのように『人としての機能全てを保ったまま』は極めて高難度です。それが出来たら神話になるレベル」

レッサー「でも『体の一部だけ』とか、『意識の一部だけ』はたまーにありますし。聞いた事ありません?地縛霊的なの?」

上条「あれも術式なのか?趣味悪ぃよな」

レッサー「便利は便利かも知れませんがねぇ、私はちょっとゴメンでしょうか」

レッサー「なんつっても学習できない以上、予めプログラミングされた状況にしか対応出来ませんしぃ?」

レッサー「だったら遺言書いた方が地球に優しいってもんですよねっ」

上条「……幽霊って、環境の敵なの?」

レッサー「さぁ?どうなんでしょうね?」

上条「お前が断言したじゃん!」

レッサー「あー、いやいや。これ割と核心的なお話ですがね、魔力って基本自分で精製するじゃないですか」

上条「聞いたなー、ここ数日はそればっかだよ」

レッサー「でも幽霊、体ないんで魔力作れないですよね?ねね?」

上条「そう、だな。言われてみれば」

上条(って事は風斬も?拡散力場の力で存在しながら、記憶はどこかに依存しているのか?)

レッサー「だからまぁ?そう言った不思議存在が実在するとしても、『外部』――つまり『龍脈』からの力をエネルギーにしてんじゃないかと」

上条「聞いた事ある。『霊道』だっけか」

レッサー「これぞまさに『霊・ライン』なんっつっちゃったりしてー、あははーこやつめー!」

上条「――さて!そろそろ体もほぐれたし、バスターミナルへ行こうぜ!」

レッサー「待ちましょうか?女の子に恥ずかしい思いをさせるなんて紳士じゃありませんからっ!」

上条「いやぁ、流石に今のはオッサンでも言わないもの」



――バスターミナル

上条「――てか向こうを出たのは夕方なのに、あんま時間が変わってない?」

レッサー「日付変更線は一本、地理的にも近いですからね。んで、どうしますか?」

上条「どうって?あ、足を何にするかって話?」

レッサー「も、含めてのご相談ですけど。今日はどうすんですか?」

上条「え?まだ夕方――を、ちょい回ったばっかりなのにか?」

レッサー「学園都市も18時ぐらいを過ぎると公共の交通機関がなくなるんじゃ?」

上条「まぁあっちは建前上、学生集めて勉強のための都市って事になってるからな。でも都会は別だ」

レッサー「うーん?でももうサフォークまでの便がありませんよ?」

上条「……はい?」

レッサー「正確にゃあるんですが、あれは事前に予約が必要でして。私達には乗れませんし」

上条「まだ深夜じゃねぇのに?」

レッサー「日本の首都と一緒にしないで下さい。サフォーク州は人口約70万の地方都市です」

上条「70万ならかなり多いだろ、それ」

レッサー「同じ大きさのサイタマーの10分1程度。ま、EUじゃ普通なんですけどね」

上条「その例えがよく分からんが、とにかく足がないのは理解した。んー、どうしたもんか……」

レッサー「ここに一泊、もしくは行ける所まで行く、の二択でしょうな。後者はお勧めしませんが」

上条「その心は?」

レッサー「飛び入りで、しかも外国人を泊める所は大枚はたかないとまず無理です」

上条「大概だな、イギリス」

レッサー「……あのですねぇ上条さん、ロシアでは何とかなりましたけど、あんまり外国をナメてるとマジで死にますからね?」

上条「いやぁ言い過ぎだろ、それ。だって海外で何かあったニュースになるし、そんな数多くないだろ」

レッサー「そりゃ『死体』が出てくれば問題になりますがね。『行方不明』とか『失踪』だったら話題にもなりませんし」

レッサー「人が多いと相乗的にアイタタな人間も増えますから。カモにされやすいジャパニーズは要注意」

上条「……見方が穿ってんなー、お前は」

レッサー「綺麗事だけ言ったって役には立ちませんからね。んで?」

上条「……」

レッサー「どーしました?」

上条「今気づいたんだが、未成年二人でホテルに泊まれるのか……?」

レッサー「ホンットに今更ですね。結論から言えば『場所による』としか」

レッサー「バックパッカー向けの一泊数百円フロ無しメシ無し扉無しは、わざわざ身分証なんて出させませんし」

上条「無いモン多すぎるだろ!?扉はつけてあげて!」

レッサー「もしくは真っ当な所でもチップを弾めばイケます。ま、そこまでして身分隠す意味があるのかどうか分かりませんけど」

上条「レッサーさん、君のお名前なんつーの?」

レッサー「やっだなぁ上条さん!レッサーちゃんに決まってるじゃないですかっ何言ってやがるんですかねっ!」

上条「何か意味はあんだろうから、あんま突っ込まねぇけど……うーん?」

レッサー「てか海外のゲイには日本人が大人気で――」

上条「――ここはやはり地元のレッサーさんにお願いしましょうかねっ!よっ、生粋のイギリスっ子!」

レッサー「任せて貰いましょうかっ!ではまずモーテルに行って明るい家族計画を話し合いましょうねっ!ささお早くっ!」

上条「既成事実を作ろうとすんなよっ!?つーかその計画はきっと明るくはねぇもの!」

レッサー「おんやぁ?何か勘違いされてません?せんせん?」

上条「な、何がだよ?」

レッサー「『モーテル』ってのは『モーターホテル』の略であって、旅行者達が車のまま出入り出来るようなホテルの意味ですよ」

レッサー「エロい事するホテルだなんてハレンチなっ!んもうっ上条さんのエッチスケッチハイタッチ!」

上条「昭和だな?お前らに日本語教えたヤツ、昭和以前の生まれだよね?」

上条「はー、そうなん?俺、てっきりモーテルっつったらエロい所だけかと」

レッサー「てかフツーのホテルでもしますし、専門という意味はありません。これもマジの話です」

レッサー「……ただまぁ先生のメル友が愚痴ってたんですが、帰国子女の子と遠出した際」

レッサー「『あ、少しあそこで休んでいきませんか?』と言われ、思考が停まった過去があったという……!」

上条「ちょっと何言ってるか分からないですね」

レッサー「ま、二次元にしか興味無いんで、事なきを得たんですが!」

上条「事無いけど、それある意味大事になってるよね?つまりその家は断絶って意味だもの」

レッサー「ま、適当に車でも借りるか、私らのアジトへ行くかの二択としましょうか」

上条「モーテルは……ちょっと気が引けるよなぁ」

レッサー「大丈夫、上条さんの貞操は私の貞操を賭けても守りますから!」

上条「命じゃねぇの?レッサーさん、仰ってる事が恥女ですよ?」

レッサー「もし万が一!上条さんの貞操が危うくなった場合!この私が責任持って先に頂きますっえぇ!」

上条「あ、俺知ってる。等価交換ってヤツだよね。もしくは”無理心中”」

レッサー「てか上条さんだって女体に興味の一つや二つおありでしょう?だったらこう、もう少し弾けてもいいんじゃないんでしょうかね」

上条「まぁ……あるけどさ、っつーかバスターミナルで話すようなもんじゃねぇよ!」

レッサー「や、別に誰も聞いてませんから。ねーちんに話してご覧なさいな?ほれほれ」

上条「どう見てもお前年下……」

レッサー「やっぱりロ×じゃないとダメだとか?」

上条「やっぱりの意味が分からない!てかどこのどいつだ上条×リ説広めやがったのは!」

レッサー「ヒロインの胸がペッタンコの時は足繁く遭遇していたのに、育ってからは記憶の彼方へと追いやったと評判の上条さんではないですか!」

上条「ってか誰情報がちょっと教えてくれないかな?俺そいつの幻想とかぶち殺しに行かないといけないからさ」

レッサー「『巨乳好きというのも実はカモフラージュで、実は貧乳こそ神が与えたもうた奇蹟なのよ!と言っていたのよな』」

上条「そっか……今度は天草式も敵なのか……」

レッサー「そんな疑惑を払拭するためにも!」

上条「だから近寄るな腕を取るなおっぱいを押しつけようとすんな!若い娘さんがはしたない真似すんじゃありません!」

レッサー「でも嫌いじゃないでしょ?」

上条「大好きに決まってるさ!おっぱいに貴賤はない!」

レッサー「どう見ても節操が無いだけですありがとうございました――で、ホントの所はどうなんです?」

上条「おっぱいの話?」

レッサー「恋愛の話です。私は別におっぱいでも構いませんっつーかむしろウェルカムですが!」

上条「俺はノーサンキュー……いやだから、ストレートに言うと」

レッサー「ストレートじゃない?肌の白さと病みっぷりが堪らない、ですか」

上条「それ掛け算だよね?お前の俺を誰と掛けたの?何となく分かるけど」

上条「俺だって男だし、つーか女の子に話すようなこっちゃないんだが、ほら、ドキってする瞬間あるじゃんか?」

レッサー「ありますあります、性欲持て余すんですよねっ」

上条「オブラートに包んでんでしょーが!?もっと気ぃ遣いなさいよ!」

上条「だから!その、『あ、ちょっと良いな?』みたいなので一々付き合ってらんねーだろ!そっちはタダのエロだし!」

レッサー「つまりムラッとくる頻度は結構あるものの、それで別にコロッと行ったりはしないと?」

上条「そうそ――違うな?そこまで身も蓋もない言い方はしてない!」

レッサー「いやぁ別にノリで付き合っちゃっても良いと思うんですよねー――って誤解されんのは嫌ですから最初に言っておきますけど」

上条「おいお前今度はどんな暴言吐くつもりだ……?」

レッサー「『新たなる光』、全員処女ですんでご安心を」

上条「その情報は激しくレアだが俺が聞いていい話じゃねぇっ!?つーかどんな方法で知った!?」

レッサー「ヒント!『女子校』」

上条「レッサーさん、詳しくお願い出来ませんか?スール的なお話なんですよね?」

上条「――ってお前ら共学じゃん!騙されないからな!」

レッサー「途中までノリノリだったくせに……まぁある霊装で『魔女』にしか発動出来ないものがありまして」

レッサー「十字教の言い伝えでは『魔女は生まれた時から処女では無い』というえらーくエロいもんがあり、そっち関係です」

上条「なんだその、日本の年齢制限ありゲームの設定みたいなのは」

レッサー「いい加減念を押すのも面倒になってきましたが、マジです。マジである話です」

レッサー「これもまたガチな話なんですが、魔女狩り中の聖職者が『こいつら冤罪だったらどうすんの?』と訊ねられた際」

レッサー「『もしそうでもあの世で神様が救ってくれるからヘーキっしょ?』と宣ったクソバカ十字教徒が歴史に名を残しています」

上条「お前ら人様をモンキーモンキー言うけど、言えるだけの資格はねぇよな!?結構蛮族だよね?」

レッサー「で、こないだソレ試したら全員ダメでした。良かったですよねぇ?」

レッサー「私的には、なんだかんだでランシスが一番早く居ボーイフレンド作りそうな気がしますが」

上条「……この会話、もう止めねぇ?いい加減色々とマズ過ぎるだろ」

上条「つーかな。そもそもっていうか前から聞こうと思ってたんだが」

上条「レッサー、お前俺が好きなの?」

レッサー「前世の頃から愛してましたっ!」

上条「……ありがとう。ペラッペラの言葉でも嬉しいよ……」

レッサー「信じてませんね?いったいどうやったらこの私の真摯なBeeeeeat!が伝わると言うんでしょうか!」

上条「真摯じゃないから伝わらないんだと思うよ?」

上条「特に巻き舌でビィィィィト!っつった辺り。どう聞いても波紋流す気満々だもの。新日の中邑かと思ったし」

レッサー「何だったらフランスの大統領をぶん殴って証明して差し上げましょうか!?」

上条「それ、お前がしたいだけだよね?フランスを国家レベルでガチ嫌ってるだけだもんね?」

レッサー「よぉぉっし!それじゃ意味も無く全裸になって駆け回るのも辞さない覚悟です!」

上条「それもお前がしたいだけだよね?つーか辞しろ、自重しろや恥女」

レッサー「全裸になれる勇気……!」

上条「ヤダ格好良い!?……か?何か騙されて――うん?」

レッサー「どうしましたか?昔お付き合いされていた方がロンドンに?」

上条「止めろ。ムダにフラグを立てるんじゃない!……いや、そうじゃなくて」

上条「……なーんか、こないだからレッサーに違和感があんだよな。なんだこれ?」

レッサー「実はですね、ブラを」

上条「待とうか?場合によっちゃコンビニで下着買ってこい!」

レッサー「と、言う訳で子供は何人ほど欲しいですか?」

上条「高校生相手に重すぎるわっ!?お前だって中二ぐらいじゃねーか!」

男「――おーーーい!当麻、当麻じゃないかーーー!」

上条「……誰?――って父さん!?」

レッサー「『性的な話をしていると親御さんが来る』、テンプレではありますかねぇ」

上条「気まずいよ!?つか流石にそこまでは!」

刀夜(男)「そこでいたいけな少女相手に家族計画を話しているのは当麻じゃないか!」

上条「どっから聞いてたんだ父さん!?しっかり把握してるじゃねぇか!」

刀夜「息子の事なんて父さんはお見通しさ!それよりもどうしてここに?」

刀夜「ヨーロッパに課外学習中だって聞いたけど、ロンドンに居るんだっけ?」

上条「あ、ヤバ」

レッサー「――初めましてお父様っ!上条さんのホストファミリーやってる者です!」

上条(ナイスだ!レッサー!)

刀夜「あ、これはどうも愚息がお世話になっております。私、当麻の父親の上条刀夜と申します」

レッサー「いえいえっとんでもありません。私は上条さんのムスコのお世話をしたいと常々――」

上条「ちょっとタイムな?父さん、待っててくれないかな?」

上条「俺、ちょっとこの子幻想殺してこないといけないから、時間貰える?」

刀夜「こら当麻!日本語が達者では無いだけだろう!失礼な事を言うもんじゃ無いよ!」

刀夜「些細な言い間違えぐらい、男子たるもの笑って済ませ」

レッサー「いや、ぶっちゃけ体だけでも良いって言ってんですけど、中々ガードがお堅いんでねー」

刀夜「……」

上条「待ってくれ父さん!これはこの子が勝手に言ってるだけで!」

刀夜「し、詩菜さん……!当麻が!当麻がいつの間にか大人に……!」 ピッ

上条「おいコラ母さんに連絡取るんじゃねぇ!つーか何を報告するつもりだ!?」

刀夜「いや、お赤飯的な」

上条「男の場合でも作るのか……?」

レッサー「ま、ジョークはともかく、宜しくお願いしますお義父さん」

上条「レッサーさん、字、字ぃ間違ってるよ?いい加減にしないと後で幻想殺すからな?」

刀夜「君にお義父さんと呼ばれる筋合いは無いねっ!」

上条「父さんもなんでここで否定から入るの?それ娘さんの彼氏に言う台詞じゃ無いかな?」

刀夜「一度言ってみたかった……あ、でも」

上条「な、なに?」

刀夜「もしかしたら言えるかも知れないな!確率は半々だし」

上条「聞きたくねぇっ親のそういう話は特に!」

レッサー「仲が宜しくて結構ですねぇ。私なんて、ほら、当麻さんテレちゃって」

刀夜「こらこら、当麻ー。あんまり恥ずかしいからって邪険にするもんじゃ無いぞ?」

上条「コイツ外堀から埋めてきやがった!?」

レッサー「あ、いや、いいんですよ。私なんか当麻さんにとっては、何でも無いんですから。きちんと弁えてますからっ!」

上条「……なにその『弄ばれた挙げ句、捨てられるの前提で付き合ってる』みたいなの……?」

レッサー「事実ですよね?」

上条「何にも無かったのは間違いないけどな!」

刀夜「……」

上条「と、父さん?これは違うんだよ、このバ――子は俺で遊んでいるだけで!」

刀夜「……少しお話ししようか、当麻?オシャレなカフェもあるみたいだし」

刀夜「まぁ、母さんに報告するかどうかは、内容次第かなぁ」

上条「俺はっ!無罪だぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!?手ぇなんか神様に誓って出してねぇさ?!」

レッサー「……ま、”だからこそ”なんですけどねぇ」



――ガトウィック 南ターミナルのスターバックス

刀夜「……ふーむ。話を聞くに当麻は悪くないみたいだね」

上条「言ったよね?俺最初に無罪だって!」

刀夜「ただね、もうちょっと女性の機微を理解した方がいいと思うんだよなぁ。私は」

上条「いや父さんに言われる筋合いは……」

レッサー「てーかお二人には言う資格は無いと思いますよ、えぇ」

刀夜「迷惑をかけなければいいってもんじゃないだろ?お前は男の子なんだから、女性を守って然るべきだ」

上条「まぁ、うん」

レッサー「あ、そちらに関しては過不足無くして頂いてます。若干過剰かも知れませんけど」

レッサー「……ただその、ちょっと言いづらいんですけど」

上条「何だよ?俺別にいかがわしい事なんかした覚えねーぞ?」

レッサー「言っても?」

上条「どうぞどうぞ」

刀夜「当麻、それはフリだぞ?」

上条「えっ?」

レッサー「たまーに長時間トイレに籠もる時があるんですが、あれは一体ナニをしているんでしょうかねっ!?」

上条「突っ込まないであげて!?確かにそれはある意味後ろ暗いけども!」

刀夜「××だね」

上条「オイ!なんで堂々としかもちょっと誇らしげに答えてんだ父さん!?

刀夜「あ!詩菜さんに連絡しないと!」

上条「ケータイ寄越せ?ぶち壊されたくなかったらな!」

レッサー「仲、よろしいんですねぇ」

上条「お陰様でたった今暴力沙汰になりそうだけどな!」

刀夜「何を言ってるんだい?これから君も――」

刀夜「――”家族”になるんじゃないかッ……!」

上条「なんでその話に繋がるの?仲間になりたそうにしてたから?」

レッサー「お義父さま……!」

上条「お前も付き合うよな!父さんテキトー言ってるだけから!」

刀夜「君にお義父さんと呼ばれる筋合いはないよっ!」

上条「え!?ここでもっかい突き放すの!?」

レッサー「……ぬぅ、中々やりますな!当麻さんをここまでのツッコミ使いにまで育て上げただけの事はある!」

レッサー「さぞや名のあるボケ家庭だとは薄々気づいていましたが、まさかこれほどとは!」

上条「俺の価値ってツッコミだけ?確かに特殊な家庭環境がなければ、ここまでスルーせずに拾うのもどうかと思うが」

刀夜「まぁそこはそれ夫婦仲の異様に良い家族であれば」

上条「……なぁ?俺が荒んでたのって家庭環境が原因じゃねぇの?」

上条「『夜の街を徘徊していた』的なのは、父さん達を見てると居たたまれないだけじゃねぇのか?あ?」

レッサー「ちなみに話を戻しますとベイロープ辺り、『放っておくのだわ』と言いつつ、顔真っ赤なのが超可愛いですな」

上条「まさに今居たたまれないのは俺だから!?レッサーさんもう少し空気を読んであげて!?」

レッサー「ダチョウ的な意味で?」

上条「一般教養だっ!」

刀夜「……そうか、当麻が元気でやってるようで何よりだよ。語学の方も達者になったんだろうね?」

上条「語学?なんで?」

レッサー「(カミジョー、設定設定ー)」

上条「ん、あぁっ!勿論だぜ!そりゃもうペラペラさ!」

レッサー「……オノマトペ、古っ」

上条「ウッサいな!昭和だって良かった事一杯あっただろ!」

刀夜「そうか、それじゃ、えっと――」

上条「(マズe!この展開じゃ父さんが英語で話しかけてくるパターンだ!)」

上条「(全然分かってなかったら疑われちまう!)」

レッサー「(おっと当麻さん!ここは私の言うとおりに喋って下さいな!)」

上条「(レッサー……信じて、いいのか?)」

レッサー「(今更じゃないですか!この私のナニ誓いますとも!)」

上条「(何か引っかかるが、頼んだ!)」

刀夜「『How about the business of the London market?』」
(ロンドン市況の景気はどうですか?)

上条「『Will you have the daughter from such a talk?』」
(そんな話よりもあなたに娘さんは居ませんか?)

刀夜「『Should I become independent Scotland?』」
(スコットランドは独立すべきですか?)

上条「『Money is decided to the aim. Please do not let me say because I am shameful. 』」
(金目に決まってんだろ。言わせんな恥ずかしい)

刀夜「『What idea do you of the immigrant have?』」
(移民についてのあなたはどんな考えを持っていますか?)

上条「『I love little girl with the fair hair. 』」
(金髪ロリはぁはぁ!)

刀夜「……」

上条「(良し!意味は分からなかったが何とか誤魔化せたぞ!)」

レッサー「(……ちょっと罪悪感が……)」

刀夜「……ま、まぁイギリスジョークまで言えるんだったら、結果は出てる、かな……?」

レッサー「ポジティブ過ぎんのもどうかと思いますよねぇ――んで?」

上条「何?」

レッサー「いえ、当麻さんではなく、もう一人の上条さんの方です。どうしてまたイングランドまでいらしたのか、と」

上条「ん、あぁそうだよな。父さん確か証券会社のアドバイザーやってんじゃなかったっけ?そっちの仕事?」

刀夜「当麻、私達には守秘義務というのがあってだね。仕事上で知り得た情報を気軽に話す事は出来ないんだよ」

刀夜「もしもそれを漏らしてしまえば、不自然に利益を得たり、損をする人達が出てくるかもしれないからね」

刀夜「幾ら親子であっても気軽に話せない事だって――」

上条「『――あ、もしもし?母さん?当麻だけど』」 ピッ

刀夜「当麻?今、父さん良い事言ってたよね?」

上条「『今、イギリスのロンドンで父さんとお茶してんだけど、これ何の仕事?』」

上条「『え?そんな事より女の影?見える所には居ないなぁ』」

刀夜「よし当麻!父さん今から機密情報でも何でも喋っちゃうから、取り敢えず携帯を切ろうか!」

レッサー「……似たモン親子。上条さんもいつか尻に敷かれるんでしょうかね」

上条「まっさか!ある訳がない!」

レッサー「現状見るに――」

上条「良し!話を聞かせて貰おうじゃないか!」

刀夜「だね!」

レッサー「ホンットに似てやがんなこの親子」



――10分後

レッサー「サフォークの保険金調査、ですか。こいつぁまた……」

上条「……なぁ?」

刀夜「具体的には言えないけれど、イングランド――っていうか、イギリスはNHSの国だからさ。どうしてもね」

上条「えぬえいちえす?」

レッサー「国民健康サービス、の略でしょうか」

レッサー「ぶっちゃけ『ブリテン国民or合法的に滞在している外国人は格安か無料で医療が受けられる』って話ですな」

上条「へー?そりゃ凄いな……あ、でも」

レッサー「えぇお察しの通り問題は山積みに。良い面もありますがね」

刀夜「日本と違って、診察を受ける際には予約が必要でね。早くて数日、長いと数週間とか割とあるんだよ」

刀夜「あ、勿論緊急性のあるものは別だけどね」

上条「……風邪引いたら、直ぐ病院、とかじゃねーのな?」

レッサー「えぇですから、死なないようにってか、『つなぎ』として薬局やネットで薬を買い、凌ぐ事が迫られます」

刀夜「日本でも『ネットで専門的な薬を売らせろ!他の国では実施されているのに!』と引き合いに出されるけど」

刀夜「余所の国では長い待ち時間があるからだね」

上条「日本じゃ長いっつっても、一日の終りには看てくれるもんな」

レッサー「ちなみに『私的診療』として、特別料金で待ち時間なし!みたいなのも横行してますね。ナイショですけど」

刀夜「他にも住んでる地域によって医療レベルや料金がバラバラだって現実もある」

上条「なんでまた?」

刀夜「大都市の医学部と町医者の違いかな?どうしても前者の方がより高度になるだろう?」

レッサー「で、この保険制度、『基本的に住んでる地元の診療所しか選べない』ってぇデメリットがありまして。田舎だとアレなんですよ」

上条「欠陥、とまでは言わないが……なんか、なぁ?」

レッサー「待機時間も今では改善されましたが、それを嫌う人間が海外まで行って医者にかかったりします。場合によっては無保険で」

上条「辛いだろそれ!?」

レッサー「あの世へお金は持っていけませんからねぇ、えぇえぇ」

刀夜「後は……不正な診療報酬の要求かな?エセ医療って知っているかい?」

レッサー「せめてホメオパシーぐらいは言ってあげましょうよ。やってる当人は大真面目なんですから」

上条「あー、雑誌の広告に載ってたな。そんな単語」

レッサー「『××を摂取すると○○病になる!よしならば××を薄めに薄めた△△を摂取すれば抵抗力が!』ってぇ話」

上条「治るの、それ?」

レッサー「逆に聞きますけど、それで治るんだったらエイズもエボラも根治治療されてると思いませんか?」

刀夜「まぁ、正しくはホメオパシー”も”含む疑似医療行為だね。うん。『自然のまま』を優先して現代医学の否定」

刀夜「自然分娩へ拘った挙げ句どうしようもなくなって救急車を呼ぶ」

刀夜「当然臨月の、しかも受診回数がゼロ回のクランケを受け入れる所なんかない。当たり前だよ。最後の最後で泣きつくなんて」

刀夜「しかしその結果だけを過剰に宣伝し、『日本の医療体制は崩壊した!』と宣伝しまくった羽織ゴロも居たね」

上条「……あれ、そういう話だったのか?」

刀夜「『と、いうケースもあった』のが正しいかな。全てじゃない」

刀夜「臨月かそれに近い状態だったら、首の上に頭が乗っている人間であれば、入院させて様子を見る」

刀夜「……そして何よりも『親』として失格なんだよ。その人達は」

レッサー「ま、そういう事例もあるって事ですね――てか、その関係で?」

刀夜「これ以上は流石に言えないけどね」

上条「そっか。父さん、こんな仕事もやってんのか」

刀夜「本職は証券会社だからね。今回は急な話だったんだけど、当麻に会えたしラッキーかな?」

レッサー「(ね、上条さん上条さん)」

上条「(はい?)」

レッサー「(私の下着は青のローレグですなんですけど)」

上条「(今必要か?その話父さんの前で内緒話する意味は無いよね?)」

レッサー「(噛んでません!わざとです!)」

上条「(うん、知ってた)」

レッサー「(何かきな臭いですね)」

上条「(なんでだよ?要は医療保険詐欺じゃねぇか)」

レッサー「(えぇ、お義父様が調査されているのはそうでしょうけど、それはあくまでも『枝葉』ではないかと)」

上条「(枝……木があるって事か?)」

レッサー「(詐欺をするからには『した連中』が居る、もしくはかも知れない可能性がある訳でして)」

レッサー「(証券マンがわざわざ出張る程の事案じゃありません)」

上条「(正しくは『証券取引室』で、証券会社じゃないんだけど……言われてみれば、確かに)」

レッサー「(サフォークでは何らかの『異変』が現在進行形で起きており、その一端が詐欺となって表面に現れたんじゃないかと)」

上条「(異変?)」

レッサー「(まだ確証がないのでお話し出来ません。何とかしてお義父様がお持ちの資料、見られませんかねぇ)」

上条「(流石に仕事の中身までは無理じゃねぇかなぁ……)」

上条「あー……つーかかなり言わせちまった気がするけど、大丈夫なの?結構人が居るんだけど」

レッサー「あぁスタバって何かPC持ち込んで作業してる人居ますけど、あれ『フリ』だから問題ありません」

上条「フリ?」

レッサー「だって普通に考えればどこの業界にも社内秘の一つや二つある訳でして」

レッサー「にも関わらず、こんな所で堂々と扱うのは神祖級のバカかやってるフリに決まってるじゃないですかーヤダー」

上条「まぁ……言われてみればオープンカフェとかでして良い事じゃないよな」

レッサー「ってかそもそも『超』貧弱なLAN回線で何やろうってんですか?公共LANだから情報盗まれまくりますし」

レッサー「つーかこんな所で仕事やったとしても、普通の神経を持っていれば集中なんか出来る訳がないですし。だから『フリ』ですよ」

レッサー「大方ニートか無職か失業者が『こんな所でも仕事出来るんだ俺カッコイイ!』って酔うためにやってるだけですから」

上条「あの……そのぐらいに、うん。何かさっきよりも気持ちお客さんの数が減ってきてるし!」

上条「いいじゃないアピールしたって!格好つけぐらいはさせてあげても!」

レッサー「や、でも恐らくはアピールする以上、対象的なモノはある訳でして。具体的には『店員さん』とか」

刀夜「ここの店員さんは世界各国、『顔も審査基準に入ってるよね?』と思いたくなるぐらいだからね。それ目当てで」

レッサー「でもそういう店員さん達、似たような社会人気取りのドリーマーを腐る程見てきてる訳でして――多分!」

レッサー「『お、また来てやがるよこのクソ野郎。チラチラこっち見ながら長居してっから気持ち悪ぃんだよなぁ』程度にしか、はい」

上条「謝って!?全国の純粋な気持ちでスタバ来てるお客さんに謝んなさいよっ!?」

刀夜「作家さんなんか、煮詰まるとビジネスホテルとかに籠もるしね。なんでわざわざ公共スペースでしなきゃいけないんだって話だよ」

刀夜「『雑音の中でも集中出来る俺!』を、やりたいんだろうけど。そもそも『そんな所で集中出来るんだったら自宅でも大丈夫』だからね」

刀夜「むしろ移動時間を考えるとマイナス要素しか見当たらない、っていうね」

上条「父さんも加勢しないで?明らかに気まずそうな顔して引き上げるお客さん増えてるし!」

上条「……なんかもう居たたまれなくなってきた。俺、追加注文頼んでくる」

レッサー「だったら私も」

上条「あ、お手洗いにも行きたいから」

レッサー「じゃそっちも一緒に」

上条「そうだな。一緒に入ればエコだもんな――ってバカ!なんて言わねぇよ!?なんで一緒なんだよ!?」

上条「そもそもエロにはなってもエコにはならないな!」

刀夜「……当麻、ノリツッコミまで立派になって……!」

レッサー「エコとエロをかける辺り、中々どうして機転も利きますしねぇ」

上条「ウッサいな!着いてくんなよ!絶対に!絶対だからな!」

レッサー「……あれ、着いて来いって言ってんでしょうか?」



――スタバ

刀夜「――で、君は『そっち側』の関係者で合っているよね?」

レッサー「違いますけど?」

刀夜「……あれ?間違った?」

レッサー「――ってのは冗談ですけど、やっぱり分かりますかね?」

刀夜「そ、そうだよね?なんかそれっぽい感じがしたから……あぁ!そうそう!」

刀夜「前にね。ウチの家族で旅行に行ったんだよ」

レッサー「はぁ」

刀夜「その時、カンザキさんっていう、妙に女っぽいシナを作る巨漢の外国人さんと一緒になってさ」

レッサー(イギリス清教の『聖人』、神裂火織……いえ確かに長身ですけど、『巨漢』?男性へ使う単語じゃないでしたっけ?)

刀夜「その男の人と同じ感じがするんだ」

レッサー(流石は上条さんの父親。国際的な投資銀行のアドバイザー――所謂『知的傭兵』は伊達ではない、ですか)

レッサー(……ま、往々にして鷹が鷹を生む事はあれど、鳶が鷹を生む事はまずないですからね。妥当は妥当だと)

レッサー「それで?わざわざ人払いまでかましてどんなお話が?――まさかっムスコの彼女に手を!?」

刀夜「誤解にも程がある!?どこの世界に自分の子供よりも年下へ手を出す……」

レッサー「って話は良くあります。むしろデフォです」

刀夜「……だね。私の顧客にも恋人を一杯持ってる方が、割と多いよ」

刀夜「で、その、私が聞きたいのは、だけどさ」

レッサー「えぇお察しの通りです。『こちら側』のお話です」

刀夜「どんな話か、聞いても?」

レッサー「なーに大した話じゃありません。よくある話っちゃ話です」

刀夜「そ、そう?だったら良かったんだが」

レッサー「ただちょっと世界の滅亡を目論む悪の秘密結社が居て、そいつらと戦ってるだけですから」

刀夜「……」

レッサー「一応幹部四人の内、半分はぶっ飛ばしましたけどね」

刀夜「……えぇと、なんだね、こういう時何と言うべきか、迷うんだが」

レッサー「はい」

刀夜「人としてはいけないかも知れないのだけれど、当麻を外す訳にはいかないん、だよね?」

レッサー「んー……まぁ、なんとかなるとは思いますよ、『なんとか』は」

刀夜「なんとか”する”のではなく、なんとか”なる”のかい?」

レッサー「えぇはい、”なる”です。」

レッサー「世界のどこかで誰かが殺されていても、それは『なんとか』なるでしょうね」

レッサー「私達が抱えてる問題を、いつか誰かが、無償で何の瑕疵も無く、見返りも求めずに解決してくれる――」

レッサー「――っていう『可能性は決してゼロじゃない』んですから。そう信じるのも結構でしょうな」

刀夜「……私も仕事柄国際情勢には詳しい方だけれど、それは」

レッサー「はい、皮肉で言ったんですよ」

レッサー「今回の事件、上条さんが絶対不可欠という訳ではありません。むしろ否応なしに巻き込まれた被害者、と言って差し支えないでしょう」

レッサー「ですので最初から居なければ――そうですねぇ、死人はざっと今の数万倍程度手に収まったかと」

刀夜「数万……!?」

レッサー「ユーロトンネルは年単位で封鎖、下手すれば両出口一帯が『毒ガス』で大量に事故死扱い」

レッサー「お次はフランス市内が閉鎖されて戒厳令が布かれ、ユーロ経済は大混乱――で、済めば御の字ですかね」

レッサー「このないだのは……直接影響はないですか。ただこの先も体を奪われる被害者が永遠に出るだけで」

レッサー「そんな風に『なんとか”なる”』筈でした――ですが!」

レッサー「上条さんは嫌々ながらも引き受け、途中何度も離脱する理由と機会を得たにも関わらず、しませんでしたよ」

レッサー「そうして『なんとか”して”』きたんです」

レッサー「偽善者達が平和な国”だけ”で平和を叫び、独裁国家やテロリストの靴を舐めるのは真逆」

レッサー「『する必要なんてこれっぽっちもなかった』――と、言うと上条さんに怒られそうですけどねぇ」

レッサー「『たまたま巻き込まれたお友達を助ける』ってぇだけの、シンプルで且つどうしようもないぐらいの正論」

刀夜「……そうか、当麻は」

レッサー「部外者がこう言っちゃ何なんですがね、上条刀夜さん」

レッサー「あなたがすべきなのは初対面の女の子相手に、ふざけてご機嫌を取る事ではありませんよ、えぇ」

レッサー「恐らく息子さんの『不幸』に気遣っているんでしょうが、それは、違う」

レッサー「あなたがすべきなのは、まず胸を張る事」

レッサー「そして同時に誇りに思う事――あなたのご子息が助けた人達を、です」

刀夜「……」

レッサー「親御さんとしては到底納得行くものではないでしょうし。ご心配なく、とは口が裂けても言えません」

レッサー「何よりもまず、私は事実を口にしてすらいませんが――ただ一つだけ、宣言はしておきましょう」

レッサー「『Arthur829(永劫の旅路の果てに再び戴冠する王)』の名前に誓って、上条さんは助けます」

レッサー「……ま、保険代わりだと思って頂ければ」

刀夜「……父親としては、そんな危険の場所へは行って欲しくない、って思うんだけどねぇ」

刀夜「……やっぱり我が侭なんだろうか?」

レッサー「まさか。人として当たり前の話です。子供を心配しない親が居れば、そらちを恥ずべきでしょう」

レッサー「とはいえ決断されるのは上条さんご本人です。未成年で、しかも学生でしかない。だから理不尽だ、と仰るのかも知れません」

レッサー「ですがしかし、決断なんていつどこでだってやって来るものです。予告無しに来るのが普通でしょうし」

レッサー「何にせよ上条さんは自らの意志で戦さ場へ足を運んでいます。納得しろとは言いませんが、せめて理解はしてあげて下さいな」

刀夜「……君は、当麻とは長いのかな?」

レッサー「うーむむむむむむむ……?トータルで言えば二週間ちょい、ってぇトコでしょーかね」

刀夜「そうなの?そんな風には見えないけど」

レッサー「最初は殺すつもりが逆に命を助けられて、次は第三次世界大戦中のロシアへ逃避行しただけです」

刀夜「00○のシリーズにありそうな話だよね、それ」

レッサー「ある意味核心を突いていそうなご指摘ありがとうございました、えぇ本当にもう……ってか、そういう話ではなく!」

レッサー「繰り返しますが、あなたはただ胸を張ってるだけで良いんですよ。誰に対しても引け目を感じる所なんかありゃしませんって」

刀夜「……そうか。ありがとう」

レッサー「いえいえ、お気になさらず――あ、でもあなたに問い正したい所が一つだけ」

刀夜「なんだい?」

レッサー「不幸がどうこうじゃなくて、もぉぉぉぉぉっとタチ悪ぃ、『アレ』」

刀夜「うん?だから何?」

レッサー「あ、トイレから出て来たんでちょい見てみましょうか」

当麻『……えぇっと、注文注文』

ドンッ!

当麻『あ、ごめん――じゃなくてソーリー?』

刀夜「どこかのレディと肩が当たったね。謝ってる」

レッサー「普通はここで終るんですよ。普通ならば」

レディ『――』 グッ

刀夜「うん?当麻が女性に胸倉捕まれてる?」

レッサー「何か言ってますが、聞こえないので私が読心術を」

レディ『――シッ!静かに!このまま動かないで!』

上条『何?動かないでってどういう意味だよ?』

レディ『黙ってて!少しだけで良いから!』

バタバタバタバタバタ……

刀夜「おや?突然店内に黒服の集団が入ってきた?」

レッサー「どう見ても訓練された人間――”っぽい”ヒト達ですねぇ」

レッサー(歩くとギシギシ音がする辺り、球体関節の”人形”なんでしょうが)

……バタバタバタバタバタ

刀夜「――と、思ったら直ぐに出て行ったね。誰かを探しているんだろうか?」

刀夜「てかあからさまに怪しいトイレの前で抱き合ってる二人をスルーしてるよね?」

レッサー「はい、まぁ、えぇっと。仕様です」

上条『なんなんだよ突然――ってイタっ!?』

レディ『気安く触れないでよこの変態っ!』

上条『……はぁ?お前何言ってんの?』

レディ『……じゃあね』

カツカツカツカツ……

刀夜「行っちゃった。何なんだろう、あれ?」

レッサー「――いや、まだ終っていませんよ!見て下さい上条さんの足下を!」

上条『……うん?なんだこれ、宝石?』

上条『――じゃねぇな、これ。内側から光ってる……』

刀夜「フラグだよね?私が言うのも何なんだけど、相当面倒臭い部類へ入るフラグに決まってるよね?」

レッサー「……えっと、まぁ見て下さいよ。まだ話は終ってませんから」

上条『さてっと、交番に届けたもんか――っとあん?』 グッ

女の子『……』

刀夜「いつの間にか現れた女の子が当麻をシャツを掴んでる……」

レッサー「……えぇ、私にも感知出来ない程の早業ですよ、はい……」

上条『どしたー?迷子かー?パパかママと一緒じゃないのか?』

女の子 ブンブン

上条『そっか、それじゃ警察――いや、空港だから迷子センター行くしかねーな』

上条『つっても子供――あぁ、すいません、店員さん、この子が飲めそうなメニューってある?』

上条『キャラメルとミルク……そうそう、コーヒー入ってないの』

刀夜「当麻!随分立派になって……!」

レッサー「てか英語しか使えないのに、キャラメルとミルクの単語だけで注文する上条さんのメンタルって……」

上条『お待たせー。どうぞどうぞ、飲みなよ』

女の子『……?』

上条『大丈夫、お兄ちゃんが払ったから。な、店員さん?』

女の子『……』 ゴクゴク

上条『あーあとすいませんけど、この子連れて行けるような所ってあります?迷子センター的なの』

上条『何?カード?クレジットカード寄越せ的な話?』

上条『首?……あぁ社員証みたいに下げてるのね。オーケーオーケー』

上条『よし、それじゃちっと見せて貰って――』

上条『……?』

上条『――どっか、行った……?』

刀夜「……何かまた一瞬で消えたんだけど、これはどういう事なのかな?」

レッサー「多分、選択肢的なアレでしょうな。やっぱり」

レッサー「落とし物をどうするか、はたまた念のため迷子センターへ行くか行かないかでルートが変わるのかと」

刀夜「ルートって何?日本語ではなんて言うのかな?」

ボス『――と、言う訳でな。少し顔を貸すんだよ、勿論拒否権はないぞ!』

上条『何?なんでお前暫くぶりにあった瞬間命令口調なの?つーかどっから現れやがったボス!?』

刀夜「おやおやー?今度はまた新しいフロイラインが出て来たねぇ。かなーり非合法的な感じの」

ボス『それは違う!それは違うぞ愚か者めが!』

ボス『お前は目を開いているのか?本当に?そう言い切れるものか?』

ボス『たったこれだけの真実へ行き当れずに、目が見えると思ってるのかバルドルめ!身の程を知りたまえ!』

ボス『光は暗闇を照らすものの怪物が出る!見えなければ存在しなかったものを”識る”のが、果たして賢明と呼べるのだろうか?』

ボス『蓮の華が開くのは、それ即ち適した主が現れる時に決まってるだろうが!』

ボス『さぁ、宣言せよ!キャメロットの猪とは違う!世界の綻びを魔神の喉元へ突きつけてやれ!』

上条『……えぇっと通訳の方ー?誰かこの電波系金髪ロリの子の言語を翻訳してあげてー?』

上条『つーか隠れて見てねぇでさっさと出て来やがれマーク!』

通訳『あ、すいません。ボスは12才児なのに中二病を発症してるもんで』

通訳『意訳すると、「次の方どうぞ」、ですね』

上条『次?次って何?』

修道女『おんや?上条さんじゃねぇですかい。どうしたんです、こんな所で?』

上条『また出やがった!?今度は何?何なの?』

修道女『相変わらずボケボケっとしたお顔をしてやがって何よりです……全くこっちは大変だってぇのに、暢気なもんですね』

通訳『事件でも起きたのですか?』

修道女『そっちでも把握してるでしょーに。例のアレ、「亡霊騎士団(ワイルド・ハント)」の連中ですよ』

修道女『つーか暇だったら手伝っちゃくれませんかい?生憎こっちは万年人手不足でしてね』

刀夜「……えっと……」

レッサー「……えぇまぁ、はい。既に何となーくお察しかとは思いますが」

刀夜「当麻の周囲に、段々と女の子が集まって来て……る、よねぇ」

レッサー「面倒なんでぶっちゃけますけど――上条刀夜さん!」

刀夜「あ、はい」

レッサー「『不幸』がどうこう言う前に、もっと反省すべき所はありませんかね?」

レッサー「具体的には『アレ』をどうにかしろっつってんですよ!」

レッサー「遺伝にしても程かあるでしょうが!?この短時間に何人とフラグ立てれば気が済むんですかっ!?」

レッサー「不幸不幸と言う割にはラッキースケベを連発しますし、本当に不幸なんですかねっ!?」

刀夜「……はい、なんかもう、色々とすいません。でもコレばっかりは遺伝だから」

レッサー「遺伝?DNAの中に悪魔が居るってんですか、あ?」

刀夜「私の父さん、当麻の爺ちゃんも、まぁ似たような感じだから」

レッサー「よく断絶しませんでしたね?主に痴情のもつれや嫉妬で」

刀夜「詩菜さんと結婚した時は大変だったよ……」

レッサー「すいません、目の前の上条さん見てるだけでお腹イッパイなんで、その話はキャンセルして貰っても構いませんかね?」

刀夜「あ、君さ」

レッサー「はい?」

刀夜「『当麻さん』から『上条さん』へ戻っているよ?

レッサー「ウルセェですよクソ親父。つーかこういう所だけ鋭い親子って……」

刀夜「まさに遺伝だね!」

レッサー「……誰かこの人達のゲノム殺してくれませんかねぇ……?」

10代後半の少女「――おや、そこに居るのは確か」

レッサー「はい?どちらさんで?」

刀夜「――あぁ君は確か、パブに居た――」

10代後半の少女「あの時は驚いたぞ。まさかの人の身で『危険域』から抜け出るとはな」

刀夜「いやいや、おじさんの経験だよ。君とは違って少しだけ長く生きているからね」

10代後半の少女「……長さで言えば我らの方が種族として長命なのだがな。ま、生き方が違うか」

10代後半の少女「ともあれそなたには世話になった。その借りを返したいと思っていた所だ」

刀夜「あーいやいや、。別にお礼される程のもんですもないさ。それに私はもう貰っていますからね」

10代後半の少女「……?した憶えなどないが?」

刀夜「言ってくれたじゃないですか――『ありがとう』って」

10代後半の少女「……っ!」

刀夜「チャーミングなお嬢さんにそう言われたら、お釣りが足りないっても――おや?」 ガシッ

10代後半の少女「……ダメだな、私は。どうやってもそなたを諦めきれないらしい」

刀夜「フロイライン?どうかしましたか?」

10代後半の少女「一緒に来てくれ!森が大変なんだ――」

刀夜「ちょ!?ちょっと待って――」

……

レッサー「……あれ?本当にどっか行った……?てか今の女性、耳がヤケに尖っていたような……?」

レッサー「エルフの女騎士がスーツ着てたらあんな感じ……」

レッサー「……」

レッサー「……」 ポクポクポクポク

レッサー「……!」 チーンッ

レッサー「えぇっとぉ、鞄にー」 ガサゴソ

レッサー「ねんがんの、ないぶしりょうを、てにいれたぞ!」 キリッ



(以下、中編へ続く……)

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