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胎魔のオラトリオ・第三章 『悪夢館殺人事件』


――フランス 某病院正面玄関

建宮「――ってな訳で右手は完全にくっついたのよな。良かったのよ」

上条「……なんだろう。全治半年が二日で退院出来るのって、複雑なんだが……」

建宮「まぁそこいら辺は『この病院は学園都市と提携していた』的な裏設定がある事にすればいいのよ」

上条「無茶言うな!シャットアウラが持ち込んだ機材のお陰だよ!」

建宮「ちゅーか、俺も勇んで乗り込んで来た割には今一役に立たなかったのよな」

上条「んなことないって。アリサの事守ってくれただろ」

建宮「ぶっちゃけフランベルジュを一度も振らずに終ったのよ」

上条「あー……」

上条(一昨昨日あった襲撃、夜の部の方。建宮やレッサー達の方は超ヌルゲーだったらしい)

上条(病院で暴れた生成りは学園都市製の音波兵器?高周波?で無力化するわ、スタジアムの真蛇はライブ用に設置してあったスピーカーの一括でスタンさせるわ)

上条(……ま、どっちも『前以て相手の出方が分かっている』状態なので出来たっつーか。対策を取られて当たり前か)

上条(ちなみに両方とも、学園都市の多目的ホールで会った『木原』って女の子が用意したんだそうで)

上条(……何だろう?思い出すと寒気が……?)

建宮「まー、我らも真っ正面からカチ合ったら、ちと辛いのよ」

建宮「姿を隠す場所の多い森や林、船に乗ってる時に攻撃されたら大抵は終るのよな」

上条「だよな。向こうは水中でも平気なんだからなー」

上条「SLGでの水中特性Sのユニットみたいなもんか?特定の場面やシチュで使うと超強い」

建宮「相性の問題なのよな。我ら魔術師は大抵銃や高度な現代兵器に弱いのよ」

上条「誰だって撃たれれば死ぬじゃねーか。火縄銃だったらともかく」

建宮「あ、それ勘違いなのよ。拳銃よりも火縄銃の方が殺傷能力は高いのよな」

上条「え、そうなのか?」

建宮「マジでマジで、なのよ。弾の口径がデカい上、銃弾そのものが柔らかいのよ」

上条「それの何が問題だよ?」

建宮「んー……普通の弾は『硬い』から骨にでも当たらない限り、そのまま体外へと抜けていくのよ」

建宮「それが重要な臓器へ当たれば致命傷。けれど他の武器でも同じなのよな」

建宮「対して柔らかい弾はよ、体内へ入ると『柔らかさ故に変形して砕ける』のよ」

上条「うわぁ……」

建宮「似たような効果を狙ってソフトポイント弾が作られたぐらい、殺傷能力は高かったのよな」

建宮「昔とは医療体制が違うっつっても、直撃すれば拳銃よりもダメージは遙かに高いのよ」

上条「ま、まぁ現実社会で向けられたりはしないよ、ね?」

建宮「当然、魔術武器が銃だって連中も居るのよな。東北のマタギ衆は拝み屋も兼ねているのよ」

建宮「遭うとすれば現代の拝み屋が祓い屋、呪い士つった所よな」

上条「銃って聞くと現代戦のイメージがあるけどな」

建宮「種子島が入ってきたのは400年以上も前なのよな。その間術式へ取り込んだり対策を練るのは当然」

建宮「逆にあれだけの脅威を放置するのは怠慢なのよ」

上条「意外だな。伝統がどうとか、拘りそうなもんだと思ったけど」

建宮「我らは『実戦派』なのよ、昔から。そしてこれからもよ――この日本で魔術師の数が減っているって話を憶えているのよ?」

上条「あぁ。昔は有名所だったのに、今はただの観光名所になっちまったんだっけ?」

建宮「『平和すぎる』せいなのよな。テメェらが何もしなくて――つか、経文読んで銭が入るから、それ以上はしなくなっただけ」

建宮「そんなぬるま湯に浸かった、しかも周囲から格だなんだと持ち上げられて、奢らない訳がないのよ」

上条「僧兵、だっけ?昔は戦ってたような気が……?」

建宮「荘園制と武士の台頭の関係は知っているのよ?」

上条「習った、な。確か、貴族が豪族へ荘園の管理や運用を任せておいて、段々と力をつけてきたんだっけ?」

建宮「それ”も”正解。他にも『僧兵などの寺社勢力へ対抗するために武士を雇っていたら、重用しなくてはいけなくなった』のも正解なのよ」

建宮「つーか比叡山なんか、足利と織田の時代に二回も焼き討ちされているのよな」

建宮「『弱者救済』ってぇ言い分もあるんだろうが、強訴で内裏へ乱入して天皇や貴族を脅迫した事実は変わらないのよな」

上条「でも苦しんでる人が居て、助けるために仕方が無い、んじゃ」

建宮「『本当に苦しんでいる人間は声すら上げられない』のよ、実際の所」

建宮「僧兵っつてるが、彼らが持っている武器、メシ、カネはどこから来るのよ」

建宮「テメェらの荘園から――その『弱者』から出ているとは考えないのよな?」

建宮「……ま、十字教でも教皇が国王を破門するみたいに、信仰を利用してアレコレやってたのは確かなのよ、歴史的にも」

建宮「んが、『それ』が歴史的に有益だった試しは数えるほど」

建宮「むしろ『時勢を読めず、必要な変化を受け入れられずに取り残された』事が往々にしてあるのよな」

建宮「現実を見ず、現実を知らず、現実を言えず、現実を理解出来ず」

建宮「妖怪の『ノヅチ』ってのが仏教説話へ組み込まれてからは、こう言われるのよな」

建宮「『形大にして、目鼻手足もなくして、只口ばかりあるものの、人を取りて食うと言え』とよ」

上条「他人の話を聞かないで口ばっかり達者だった?……誰かから聞いたような……」

建宮「また『人の足に噛みつく』――つまり『人の”悪し”に噛みつく』ってな具合に皮肉られてるのよな」

建宮「これが意味する所は鎌倉自体から『口先ばかりで綺麗事しか言わない連中』と揶揄されていたのよ」

建宮「そもそも念仏唱えて世界がハッピーになるんだったら、お巡りさんは要らねぇって話なのよ」

上条「変化について行けなくなったか」

建宮「……ま、だからこそ我らのような集団が生き残った、も言えるのよな」

建宮「連中が心底尊敬出来るような信仰であれば、我らはとうに存在意義を失っていたのよな」

上条「……俺はお前らと出会えたのは嬉しいけど、そりゃな」

建宮「我らは、いや我らだけじゃなくとも、新しい技術や概念に背を向けなかった連中は居たのよ」

建宮「その結果、鉛玉ぐらいだったら、ま、元素を適当に弄ったりスケープゴートを作ったりで無効化出来るのよ。一応は」

建宮「んが炸薬を撒き散らす無反動砲や榴弾、果てはナパーム辺りでひたすら物量で押されれば厳しいのよな

上条「能力者も似たようなもんだろ。個人戦闘じゃそこそこやれるが、対組織だと逃げんのすら難しい」

建宮「だがしかし!安曇の獣化魔術、『人間の理性を保ったまま、動物の身体能力を扱える』となれば」

上条「超人的な反射神経で対抗出来る?」

建宮「『対人”掃討”戦闘』のスペシャリスト相手に、どれだけ通じるのかは未知数なのよ」

建宮「けど人間がする動きを超越し、上下Y軸を無視して襲撃してくる相手は『想定外』なのよな」

建宮「他にも、機械化するよりもコストは安く抑えられ、住人を無差別に巻き込むのを前提とすれば、兵士は尽きないのよな」

上条「……テロにピッタリだよな」

建宮「ま、今回は運が良かったのよ。相手の得意な場所で、能力を十全に発揮出来ずに――」

上条「建宮?」

建宮「おかしい、のよな?どう考えてもよ」

上条「何が?」

建宮「あの巨乳イヤー・ウィッグ(エルフ耳)ねーちゃんの言ってたのは、これか……?」

上条「ベイロープって言え。その説明だけで分かる俺もどうかと思うが」

建宮「昼間にあった『アレ』の襲撃、続いて夜中の『安曇』の奇襲。どちらも戦略的には正しいのよな」

建宮「だが戦術的には合っていない、どーにも納得が行かないのよ」

上条「どういう意味で?」

建宮「戦術と戦略の違いは分かるのよ?」

上条「えっと、戦術が個々の戦闘での基本方針。でもって戦略が他の戦闘をひっくるめた全部の方針?」

建宮「その理解で正しいのよな。イカレた連中を例えてみると」

建宮「昼夜二回、昼間の襲撃で消耗していた所へ、もう一回攻撃をかける。これは『戦略』としては正しいのよ」

建宮「夜討ち朝駆けは兵法の常道。ましてや相手の油断を誘っておいて一撃を入れるのは定番中の定番なのよ」

建宮「ただし、それを安曇阿阪――ゲリラ戦・水中戦闘のエキスパートにやらせるのは、『戦術』としては下策、というか素人考えなのよな」

建宮「急襲には割と適正はあるんだろうが……ふむ?」

上条「相手がその、おかしいからって理由じゃ説明出来ないか?」

建宮「少年、勘違いをしているのよ、それは」

建宮「確かにの世の中、『コイツどう考えてもンァッ! ハッハッハッハー!』なヤツは居るのよ」

上条「きちんと使ってるじゃねぇか若者言葉……いや、若くもないか?オッサンばっかか?」

建宮「どう考えてもイカレた道理と常識の中に住んでいる、ってのは割と多く――んが!」

建宮「仮に『アイツは気狂いだ』と理解するのを諦めてしまったら、対策も対応も取れないのよな」

上条「いやぁ、でも難しいんじゃね?俺には理解出来ないっつーかさ」

建宮「確かにそれも真理なのよ。『気狂いの真理は気狂いにしか分からない』、まぁそれは間違ってないのよな」

建宮「だけれども、なのよ。その理屈で言えば『俺は女じゃないから分からない』とか、『俺は犬じゃないから分からない』が通用してしまうのよな」

建宮「結局、どこまで行っても自分を完全に理解出来るのは自分以外にはいないのよ。他の誰かに理解されようとしても100%絶対に有り得ない」

建宮「だからこそ『理解しようとする』行為が大切であって」

上条「……あぁ、お前らはそういう生き方してんだよな」

建宮「ま、理解したからっつって、共感するかどうかは別の話なのよ」

建宮「場合によっちゃお互い住み分けたり、正面からぶん殴ってやる方が『救い』になる事もあるのよな」

上条「だな。可哀想だから、って同情するのは簡単だけど、だからって問題を放置したり、そいつが問題起こすのを放置して良い訳がねぇしな」

上条「自分が不幸だからって、他人を不幸にしてもいい理屈なんて無い」

建宮「それだけじゃなく佯狂――気狂いを装っていたとすれば?」

建宮「裏で色々画策しているのを悟られないようにするため、わざと狂っているフリをするのよ」

上条「……そうか。その可能性もある、か?そうか、そうだよ!」

建宮「思い当たる所があるのよ?」

上条「安曇は言ったんだ!『学園都市でアリサを連れてこいと命令したら、別人の下顎を引き抜いてきた』って!」

上条「けどよくよく考えてみりゃ、『獣化魔術の専門家』がンな初歩的なミスをするもんか!」

建宮「……そもそも安曇阿阪は何のために学園都市で魔術を使ったのか、って疑問もあるのよな」

建宮「あれだけ突出した身体能力を持っているのであれば、独りで鳴護アリサ誘拐も難しくはないのよ」

上条「攪乱にしたって、あれはもう『警戒してくれ』って言ってるようなもんだし」

建宮「加えてウェイトリィ兄の『空間移動術式』を使えば、大抵はイケるのよ」

上条「ツアーは半分終ったってのに、向こうの出方が全然分からねぇよな……」

建宮「いんや。あんまり悲観するのも良くないのよ、良くないのよな」

上条「なんで二回言った?」

建宮「お前さんはよ、どうやっても独りで戦ってんじゃないのよ。今は頼もしい仲、間?」

建宮「……」

建宮「……が、居るのよな!」

上条「途中で疑問系になってんじゃねぇよ!?俺だって『あれ、もしかして?』とかたまに思うけども!」

建宮「ま、まぁ黒髪おねーちゃんはその内デレるのを期待して――って、ここからはついて行けなかったのよな」

上条「流石になぁ。つーか建宮、本当に行っちまうのか?」

建宮「イタリアはローマ正教の大本山、我らがついていくのはちと難しいのよな」

建宮「――とは、いえ。『我らの同朋を守るため』であれば否やはないのよな!」

上条「……お前、それ『天草式十字凄教へ入ればいいんじゃね?』つってねぇかな、なぁ?」

上条「お前らを見る分に、それもアリっちゃアリな気もするけど」

建宮「ジョーダンなのよ。ジョーダン。信仰とは信じる事であり、強要するのは以ての外なのよ」

上条「……そか。それじゃまた」

建宮「おうよ!」

上条「……」

建宮「……」

上条「……いや、帰らねぇの?」

建宮「――時に少年、我ら天草式は日本まで安曇氏族の話を聞きに行っている、と言ったのよな?」

上条「ん、あぁ五和が行ってんだけど、向こうが乗り気じゃねぇんで大変だって話だったっけ」

建宮「……その、五和が聞き出す前に話が終ってしまったのよ……」

建宮「そのせいで五和さんが激おこちゅんちゅん丸だって情報が入ってるのよな!」

上条「あー……ちゅんちゅん丸?」

建宮「風の噂じゃ、『あー、アフロ抜きてー、この憂さ晴らしにアフロ引っこ抜きてー』」

建宮「『あ、そういや知り合いにアフロいたっけかな?よし、アイツの毛根ごと引っこ抜こう!』」

上条「誰情報?一人で行かせたっつってなかたっけ?」

上条「あと五和はそんな事は言わない」

建宮「祟り神様のお怒りをどうやって静めれば……そうよ!」

建宮「こうなったら『堕天使エロメイド』と『マジカルカナミン・大きいお友達でも変身セット!』をプレゼントすればご機嫌なのよ……ッ!!!」

上条「抜かれちまえ。その爛れた発想ごとアフロ持って行かれてしまえ!」

上条「つーかお前、前々から思ってたんだが、聖職者プラス教皇代理だって言ってる割には煩悩の塊だよね?」

建宮「ふっ……所詮他人とは価値観が合わないのよな!」

上条「そっちか?確信っぽい話してんかと思ったら、結局そっちへ持ってくのか?あ?」

建宮「現在天草式では『堕天使エロメイド派』と『大精霊チラメイド派』で日夜論争が戦っているのよ!」

上条「あれ?『場合によっては殴り合いも必要』ってその話?」

建宮「ちなみに少数派閥として『対馬脚線美ぺろぺろ派』と『香焼よく見たら可愛くね?派』も侮れないのよな!」

建宮「一騎当千とは彼らのためにあるような言葉なのよ!」

上条「一人じゃねぇか。ニッチすぎるだろそいつらの趣味」

上条「なんつーか……あれ?香焼って男の子じゃなかったっけ……?」

建宮「男の娘なのよ?」

上条「なーんかすれ違いがあるような……ま、いいや俺には関係無いし」

建宮「ま、そんな訳で俺はここらで失礼す――」

PiPiPiPiPiPi、PiPiPiPiPiPi……

建宮「……」

上条「鳴ってんぞケータイ」

建宮「通信霊装なのよ」

上条「主旨は同じだろ。出ないの?」

建宮「あぁっと……五和さんだったら……そうなのよ!」

上条「……なに俺にケータイ押しつけてんの?つーか、ストラップの部分、カナミンフィギュアが高速振動してる」

建宮「お前さんが出れば万事解決なのよ!なっ?」

上条「出るぐらいはいいけどさ」

建宮「『救われぬものに救いの手を』よな!」

上条「お前それギャグシーンで使っていい台詞じゃねーぞ?」

建宮「お前さんはよ!五和さんの酒癖の悪さとぶち切れた恐ろしさを知らないのよな!」

上条「そうなのか?てか五和って幾つなの?神裂もあれで18って言うし、どっちが上?」

建宮「おっと!ここで不用意に歳の話をして、『女教皇』と五和に怒られるって罠なのよ!」

上条「いーから、出ろ。マジで怒らすから、緊急かもしんねーだろ」

建宮「……ぬぅ、『折角だし五和さんに声を聞かせてあげよう』とか、コッソリ考えてた俺の思惑を見抜くとは……!」

上条「お前それ絶対とってつけたっぽいんだけど……まぁ、そこまで言うんだったら」

建宮「あ、ストラップを引っ張ると話せるのよ」

上条「フィギュアの首引っ張るのか……あ、『右手』で触ると壊しちまうから――そうそう、そっち持ってて――『あ、もしもし?』」

上条「『いやまぁ、建宮から聞いたけどお疲れさまー、ってか大変なだったろ?』」

上条「『あ、そいじゃ、アレだよ。今度みんなで遊びでも行くか?そっち戻ったら案内とかも出来るだろうし――』」

ステイル『――今、僕の状態を率直に言うと、だよ』

ステイル『全身に湿疹が出て吐き気と寒気と偏頭痛がしているんだが、アレかな?これは新手の嫌がらせか宣戦布告だと思っていいのかな?』

上条「建宮ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!?」

建宮「じゃっじゃーん!ドッキリ大成功なのよーーーーっ!

上条「タチ悪ぃよ!つーか向こうは『あ、こんにちわ。今日も暑いですねー』感覚で炎剣ブチ込んでくるんですからねっ!」

建宮「いやぁ二人の間はなーんかギスギスしてるみたいだし、たまーには荒療治もいいと思ったのよな!」

ステイル『……事情は察したから、取り敢えずそこのバカアフロに替わってくれないかな?』

ステイル『あ、「僕と君が仲良くする」って幻想もついで殺しといて』

上条「……よし、アフロ食い縛れ!建宮!」

建宮「待つのよな!?あくまでも建宮さんは善意でした事なのよ!」

上条「俺が!その幻想を――」

建宮「つーか『アフロ食い縛る』ってどういう意味なのよ!?」

パキイイィィィィィィィッン……

上条「ま、グーパンチしただけなんですけどね」

建宮「ぜ、全力で人をドツいといて……言う事が、それ、なのよ……?」



――10分後

ステイル『――さて、建宮斎字を病院送りにし損ねたのは残念だけど、まぁ現状分かった事を伝えようか』

上条「ちょっと待てステイル!お前はホンモノか?」

ステイル『うん?……あぁ、安曇阿阪が声色変えてたんだっけ。本人確認なんて今更してもどうかと思うけど』

上条「好きな女の子のタイプは?」

ステイル『尊敬する女性はエリザベス一世、好みのタイプは聖女マルタだ』

上条「……ふぅ、本人か」

建宮「お前さん達、実は仲が良いのよな?」

ステイル『ふざけるな、灼くよ?』

建宮「ふっ、フランスに居る俺をどうやって?」

ステイル『寮のハードディスクを、物理的に』

建宮「ごめんなさい」

上条「いい大人が『ごめんなさい』!?」

ステイル『時間の無駄だからさっさと本題へ入らせて貰うよ。二度手間が省けるとはいえ、君とは話したくない』

上条「二度手間?」

建宮「『君と話したくない』をスルーするのはいい判断と思うのよ、うん」

ステイル『建宮斎字にも話さなきゃいけなかったからね。同じ場所に居てくれて助かったよ』

上条「あのー?俺がみんなに伝える面倒は……?」

ステイル『君の爛れた交友関係には興味は無いね。どこでどうしようと勝手だよ』

上条「言い方!」

建宮「んで、『必要悪の教会』の悪名高い屍体解析で何か分かったのよ?」

ステイル『僕らはただ「有効活用」しているだけであって、文句を言われる筋合いはない』

上条「……たまーに、学園都市の上の人らとお前ら、気が合うんじゃねぇかって思うわ」

建宮「徹底した合理主義が魔術か科学にハマるのか差でしかないのよな。救われない話なのよ」

ステイル『うるさいよ君達――と、まぁ僕らを評価してくれるのは有り難――く、もないか。別に』

上条「どっちだよ」

ステイル『期待を裏切って悪いと社交辞令上言っとくけど、安曇阿阪からは何も情報を得られていない』

建宮「まだ、なのよ?」

ステイル『いいや。”もう”分からないと言うべきだろうね』

上条「珍しいな。インデックスやシェリーとかも揃ってるっつーのに」

ステイル『……まぁ、屍体というのは「物」だからね。それから残された情報を取り出すのは難しくはない』

ステイル『術式で言えば「古い文献から読み取る」ものを応用しているんだが』

上条「……お前ら、やっぱ上層部同士ツーカーになれんだろ。なぁ?」

ステイル『検死解剖も一昔前――いや、今だって「死体を殺すつもりか!?」って反対する奇特なバカもいるんだから、あんまり言ってあげるなよ』

建宮「そんなに来世とやらが約束されているのなら、どうしてさっさと一人で逝かないのよ?」

ステイル『ねぇ?「本当に儲かる話」と同じで、実践して貰いたいものだよ、全く』

上条「おまいらコメントに困るからマジでいい加減にしてくれませんかね」

建宮「それでイシスの話に戻るのよな」

上条「エジプトの神様だよな?特定の頭文字を並べて略したんじゃないよね?」

ステイル『結論から言えば、安曇の脳を読もうとした魔術師が狂った』

上条「……はい?」

建宮「あー……あんなピカデリーな記憶にアクセスしたら、そりゃ壊れるのよな」

ステイル『いや……彼らに問題は無かった。と言うかまぁ、僕らにも「同類」が居るっていうかね』

上条「同類?安曇と?」

ステイル『ま、同好の士をたまたまひっ捕まえたんで、司法取引みたいな感じで読ませたんだよ。そうしたら残念、という訳さ』

建宮『術式に間違いがあったのよ?』

ステイル『こっちの問題じゃなく、あっちの問題さ。何というかな、こう――』

ステイル『――右脳が二つ入ってたんだよ、つまりは』

上条「……なんで?」

建宮「特異体質、なのよ?」

ステイル『フランス側に問い合わせてみた所、同じモルグ――遺体安置所で、「右脳がない死体」が二つ見つかったんだそうだ」

ステイル『そこから盗んで取り替えた、というか、すり替えた、と言うべきか迷うね』

ステイル『司法解剖の結果とかは君らのモバイルへ送ったから、ダイエットしたければ読めばいいよ』

上条「遠回しに超グロいっつってんな」

建宮「犯人は?」

ステイル『監視カメラにはモルグへ検死官A――アルフレド=Wと言う男が入って行った所が映って、出て来てはいない』

上条「W……?」

建宮「アルフレド・ウェイトリィの”W”?」

ステイル『たまたま同姓同名のそっくりさんが遺体漁りに来て、脱出イリュージョンを敢行した――』

ステイル『――なんてオチでも無い限りは、まず本人だろうね』

上条「どんな偶然が起きてもそれだけはねぇだろ」

ステイル『そんな訳で安曇阿阪の体はあるが中身も怪しい。加えて他にも足りないパーツがあるらしくて、目下調査中』

ステイル『幸いなのは屍体へ手を入れられる前に、検死官共が無断で撮ったCTスキャンが一枚あるが、それだけだね』

建宮「まぁ待つのよな。安曇阿阪は確か」

ステイル『ウェイトリィ兄が死んだ、とは言っていたけどね。敵の言い分を信じるなんてマヌケにも程がある』

建宮「……それはそうなのよな。だがしかし」

ステイル『君までなんだい?魔術結社の代表代行なんだから、そこのバカに影響されるとバカになるよ?』

上条「テメコラ言葉を選べよ!俺だって傷つくんだからねっ!」

建宮「認めちゃってるのよな……」

上条「……待て待てステイル。違う、そうじゃない」

上条「死んだ、って思われるんだったらどうして姿を現したんだ?」

ステイル『何?』

上条「油断させるんだったら、俺達に知られるのはマズいだろうが。何でまた防犯カメラに堂々と映っちまってんだよ?」

ステイル『……さぁ?頭のイカれた連中のする事に理由を求めるのは酷じゃないのかな』

上条「『相手の心情になりきって次の手を読む』って発想はねーのかよ、お前」

ステイル『僕が?どうして?』

ステイル『向こうが人だろうが狗だろうが、向かってくる相手には炎をブチ込むだけだよ』

ステイル『大体、「相手の気持ちになってみよう」とか「理解し合おう」っていう輩はね』

ステイル『例外なく「お前達は俺達を理解する義務があるが、俺達はお前達を受け入れない」ってのをそれっぽい言葉で言っているだけだから』

ステイル『「相互理解」とやらが本当にするのであれば、まず自分が譲歩してから相手へ求めるのであり、逆だけ推し進めても理解なんてされないよ』

上条「……Oh、正論が来やがったよ」

建宮「目的意識の差なのよな」

ステイル『ともあれ安曇阿阪はこちらで預かって――ん?』

上条「どした?」

ステイル『……あぁいやいやこれは極東で育った珍しいサルとの会話実験であってだ、君には何の関係も』

上条「電話口の向こうで誰と喋ってるか分かるぜ」

建宮「つーかこっちを隠す気が更々無い上、清々しいほど悪意がダダ漏れしているのよ」

上条「いやでもステイルに恨まれるような覚えは」

建宮「自覚がないのが余計に相手を怒らせるのよな」

ステイル『――だから!君はこの件に関わるなって――』

上条「……アリサはインデックスも友達だからなぁ。危険だっつーのは分かるけどさ」

建宮「今回の場合は相性が悪いのよ。連中の目的が『禁書目録の中のネクロノミコン』だって可能性も充分にあるのよな」

ステイル『分かったよ!あの人類モドキには僕から伝えて――何?言いすぎ?』

上条「よぉし!言ってやれインデックス!つーかたまには痛い目見やがれ!」

建宮「あ、オチ読めたのよ」

ステイル『……そうじゃない?「らっきーすけべはいい加減古い」?』

上条「あれあれぇ?DISられてんのは俺の方かなー?」

建宮「と言うか今まで無事で刺されなかった事の方が驚きなのよな」

上条「やだなー建宮さんまるで俺がヒドいヤツみたいじゃないですかー」

建宮「ちゅーかこれマジ忠告だけど、いい加減にしないと五和に後ろからブッスリ刺されるのよな」

上条「憶えがねぇよ!?つーか彼女居ない歴=年齢の俺がどうしてこんな羽目になってんだよ!?」

ステイル『「あべ・さだ」?アヴェ・マリアの親戚かい?』

上条「イヤアアァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァッ!?」

建宮「それ、遠回しに『この件にカタがついたら、憶えとくんだよ?』って話なのよな。なむあみだぶつ……」

上条「お前がどんな環境でストレス溜めてんのか分かんねぇけど、俺がハブってる訳じゃねぇさ!関係無いでしょーが!」

ステイル『いや、うん?僕としては擁護をする気なんか全くないんだよ。あぁ先に言っておくけどさ』

上条「ステイルさんが俺の擁護を……!?」

ステイル『なんかね、彼、女の子五人に囲まれて仲良くやってるみたいだから』

上条「お前本当に擁護する気ねぇな!?むしろ煽ってんもんな!」

建宮「いやだがしかし嘘じゃないのよ。核心とも言えるのよな」

ステイル『……分かった。そうするように言ってとくから――ほら、あの気持ち悪い毛羽毛現が来る前に、神裂に遊んで貰えばいい』

上条「誰?けうけげん?」

建宮「『最大主教』と言う髪の長い女がイギリス清教のトップらしいのよ」

上条「らしい、ってお前。会ってもねぇの?」

建宮「所詮は派遣の辛い所なのよな」

上条「なんか、ヒドいな……」

建宮「だがしかし足湯へ入ってる秘蔵写真がここに!」

上条「ホンットに酷いな、主にお前らが」

建宮「あ、一枚欲しいのよ?」

上条「貰うけどさ」

ステイル『――と、言う訳で派遣らしく出張を頼みたいんだけどね』

建宮「任せるのよな!五和と鉢合わせしないんだったらどこへでも行くのよ!」

ステイル『残念。出張先は日本だそうだよ、しかも先に行ってる子と一緒にフィールドワーク頑張って』

建宮「ノオオオォォォォォォォゥッ!?」

上条「イジメ良くないと思いまーす」

ステイル『あぁ違う違う。僕からのオーダーじゃなくって、あの子からのだよ』

ステイル『「情報が足りなさすぎるから集めてこい」っていう話さ』

上条「足りない、ってお前。安曇はもう倒したろ?」

ステイル『……君の事は最初っがバカだバカだ思っていたけど、まさかここまでバカをこじらせていたのとは思わなかったよ、このバカ』

上条「最後の一回は要らねぇな!つーかバードウェイにもそこまで言われ――無かった、よ?」

ステイル『ま、年下の幼女から詰られるのは、また意味合いも違うだろうしね。いいんじゃないかな?フリーダムに生きれば』

上条「……テメー何が何でも俺に変な性癖を持たせようとしてやがんな!」

建宮「……ぬぅ!年上のお姉さん系に反応しなかったのはそういう裏事情が……!?」

上条「反応してたよ?ただ、ほら、それってあんまおおっぴらに言うようなこっちゃないじゃんか?」

ステイル『ま、こちらもオッサンへ嫌がらせをする程暇じゃない。濁音協会対策だね』

ステイル『君みたいな門外漢――いや、バカにどうやって説明すればいいのか迷う所だけど……』

上条「門外漢でよくね?なんで今バカって言い直した?あ?」

建宮「察してやるのよ。ちょい前まで禁書目録が騒いでたんで、嫉妬の炎メラメラなのよな」

ステイル『そうだな……ほら、よく「西洋妖怪大集合」みたいなのあるよね?悪の大物が揃って攻めてきたぞー、ってヤツ』

上条「あー、あるな。お前が妖怪って単語を知っている事が驚きだが、それはスルーするとして」

ステイル『でもあれ「こいつらどうやって知り合ったのか?」とか疑問には思わないかな』

上条「たまたま知り合った、とか?」

ステイル『パブのおっさん同士がサッカー話で意気投合するんじゃあるまいし、その結論は浅慮すぎるだろう』

ステイル『先に言っとくが勿論BBSや出会い系のも有り得ないからね』

上条「いやでも俺、路地裏でバードウェイと出会ったよ?インデックスは落ちてきたし、ビリビリも元は街中で――」

ステイル『幼女ウツボカズラとブラック・ロッジを一緒にするな!』

上条「例えがいつになくヒデェよ!?あとオリアナやオルソラとかも遭ってますぅ!」

建宮「対象範囲が広いのはタチが悪いだけなのよな」

建宮「……まぁ、そのアレなのよな。魔術結社ってぇのは存在すら曖昧なのが殆どなのよ」

ステイル『名前が広く知られるというのは、それだけ相手に対策や警戒をされるのと同義だからね』

ステイル『ましてや「双頭鮫」や「野獣庭園」のような道を踏み外した連中は、人一倍他との接触を避けるよ』

上条「けど実際に手を組んでんだぜ?何かの接点、もしくは利害の一致があったって」

ステイル『そこさ。それを調べる』

建宮「そうよな……薩長連合も坂本龍馬って武器商人が居なければ成らなかったのよな』

上条「そうだな――え?武器商人?」

建宮「薩摩藩に兵器を卸してた人間が仲介役を担う――武器の売買が絡んでたってぇ代物なのよ」

上条「攘夷運動に関わった脱藩者じゃなかったのか?海援隊とかって」

建宮「その資金はどこから出ているのよ?脱藩して後ろ盾もない若造がヒト・モノ・カネを集められた理由は?」

上条「言われてみれば……」

建宮「あの当時アレがベターな選択肢だったのは間違いのよな。後ろ暗いと言われても、必要だったのよ」

建宮「――んが、ちょい前に『マッハGOGO参勤交代!』ってぇ映画があったのよな?」

上条「ん?あぁ、どっかの小藩が幕府の嫌がらせで高速の参勤交代する話だっけ?」

建宮「その話はフィクションなんだが、藩自体は存在した藩なのよ」

建宮「戊辰戦争でも東軍として僅か12歳の藩主自らが戦場に立った、雄藩であるのは間違いなのよな」

上条「随分話と違う」

建宮「……神君家康公様々、葵のご紋を代々崇めておきながら、いざ薩長が攻め上がると、戦いもせずに傍観した連中は『侍』と呼ぶのよな?」

建宮「石高たった1万5千石の弱小藩?幕府にイビられる弱い藩?」

建宮「戦ったのよ、そいつらはな。テメェらの誇りにかけて、賊軍どもと正面からよ」

建宮「笑いたければ笑うがいいのよな。時流も見切れずに無駄死にした連中だとよ」

建宮「実際その藩にゃ戦火で城も城下町も残っちゃいねぇし、今も観光資源に乏しい街なのよな」

建宮「元々弱藩だって事で大したモンもなかったんだが。まぁそこら辺はよ」

建宮「――んが、そのキレーな城や城下町、寺や城が丸々残っている『大名』さん達はよ、一体どこいら辺が『侍』だって話なのよ?」

建宮「城は飾りか?刀は骨董品か?兵士は置物か?」

建宮「抜くべき時に抜かなかった刃、それのどこが侍だって話よな」

建宮「ちなみに今でも当時の藩主、内藤公は慕われており命日には鎌倉の菩提寺へ有志が参るのよな」

上条「菩提寺?」

建宮「……内藤家には子孫が途絶えてしまったのよな。だから無縁仏にならないよう、今でも湯長谷藩の末裔が弔いを欠かさないのよ」

建宮「恐らく『子孫も居ないし抗議も来ない』とか、テキトーな理由でその藩が目を付けられたのよ」

上条「……なーんかなぁ。そうやって真面目な連中を笑いものにするっていうのが、うーん?」

建宮「野母崎のメル友が地元出身らしくてよ。件の映画、旧湯長谷藩じゃ全然盛り上がってないのよな」

上条「出やがったな謎のメル友!」

建宮「そいつんのチのじーちゃんのじーちゃん、高祖父は戊辰で生き残ったんだが、西南へ行ったっきり帰って来ないのよ」

上条「そりゃ……うん」

建宮「そん時の高祖母の台詞が、『阿呆だから余所に女こさえて帰るに帰って来れなくなったんでしょ?だって阿呆だもんあの人』だそうだ」

上条「つえーなばーちゃん!その時代に!」

ステイル『……歴史的な偉人や英雄も、経済的な視点から眺めてみるのもいいかもしれないね』

ステイル『”Boshin War”が実質上日本最後の内乱――ではある。その後急激に近代化を進め、他国からの評価も高い』

ステイル『勿論「脅威」の意味も含まれはするがね』

ステイル『ただ急速に発展したって事は、国策として進められていた事業が結実した裏返しでもある』

ステイル『鉱山開発をIshin側の財閥が受注していたり、今にすれば不透明な部分は多いよね?』

ステイル『中世の十字教もウンザリするぐらい酷いよ。イギリス清教とローマ正教に加えて、それぞれの世俗主義って敵が出る』

ステイル『教会が様々な分野へ幅を効かせていたんだから、それをなんとかしようって運動だね』

ステイル『政教分離と言えば聞こえはいいんだが、それはそれで問題がね』

建宮「資本主義を突き詰めて、植民地やら重商主義に走ったのよ。『バカな王を追放したら、もっとバカな王様が来た』と」

ステイル『……とにかく、革命だなんだ、英雄がどうだ、と言うけれどもその裏には大抵「スポンサー」が居る訳だよ』

上条「濁音協会にも金を出している奴が居る、って?」

建宮「この場合はカネじゃなく『利益』なのよ」

ステイル『鳴護アリサは確かに魔術師的には興味深い逸材――人材だよ。それはね』

上条「お、インデックスに泣かれるから態度変えた人はっけーん」

ステイル『ウルサイな!そういう意味で言い直したんじゃない!』

建宮「……どっちも大人げないのよな……」

上条「お前が言うなよゴスメイド」

建宮「ちっちっちっ。子供はカナミンコスを着ないのよな!」

上条「確かに!……あれ?おかしくね?カナミンって子供向けじゃ……?」

ステイル『……あぁもう面倒臭いから結論を言うけど、彼らには彼らなりの目的があるのさ。金だったり人だったり物だったり』

ステイル『唯我独尊を地で行く魔術師の中で、しかも更にタチが悪いブラック・ロッジが善意やボランティアで結束すると思うかい?』

上条「つまり?」

建宮「『連中を結びつけたヤツ』が居たのは確実なのよ。そして呉越同舟したからには『共通の利益』とやらが存在するのよ」

ステイル『同床異夢かどうかはまだ分からないけど、話を聞くにウェイトリィ兄が要のようだね』

ステイル『彼は一体どんな手段で接触して、何をエサに他の結社を釣ったのか?』

建宮「そこいらを特定、もしくは方向性が分かればあちらさんの目的が分かるのよ」

ステイル『魔術的に分析されてしまえば、対策も容易となるって寸法さ』

上条「それと建宮が日本に飛ぶ理由は?」

ステイル『あの子曰く、「みしゃぐじ神はまだ何かあるかも」、んだそうだね』

ステイル『現在分かっている属性が、「蛇」、「石」、「人身御供」の三つ』

建宮「より正しくはそれらから派生する『水』や『不死』も含まれるのよ」

ステイル『でもこれはおかしいと思わ――ないよね、君は。君は素人なんだから無理だもんね』

上条「……聞くだけ聞いて欲しかったり、うん」

ステイル『安曇氏族の(クラン・ディープス)の神とミシャグジ神と入れ替わった、って話は聞いたよね?』

上条「あぁ」

ステイル『じゃ、どうやって?』

上条「どう、ってそりゃ……どう?何かおかしいのか?」

建宮「古代の場合、以前からの信仰が新しい人間達によって書き換えられる場合、『討伐』か『合一』されるのよ」

建宮「……あ、民俗学的な用語じゃないので注意して欲しいのよな」

ステイル『前は神話とかでよくあるよね?竜やONIを倒し、その英雄が祖先となりましたって話』

建宮「でも実際にゃ竜や鬼は古い先住民が信仰していた神で、後から来た連中の価値観が広まって悪神とされるのよ」

上条「日本にもスサノオがヤマタノオロチ倒した話があるな。あれも元々は神様だって事か?」

ステイル『とも、言い切れないけどね。人が流入して文化が混ざるのもよくある』

建宮「日本だと上人(しょうにん)が魑魅魍魎を退治する話が多いのよ」

ステイル『ま、十字教の悪魔が異教の神ばっかりだった、が一番わかりやすい例かな?』

上条「……いや、でもさ?安曇氏族の方は、『白い蛇を倒しました』みたいな事は言ってなかったよな?」

ステイル『その通り。だからきっと安曇氏族は「合一」したんだろうね』

ステイル『以前から崇められていた神と、我々の崇めているモノが同じでしたねって考え方』

上条「ンな単純な」

建宮「御柱祭に人身御供の側面が残ってる以上、ミジャグジ神はこっちなのよな」

上条「いやぁ……うん、ごめんな?」

ステイル『そうだね、君の新しいお友達へ聞いた方が早いと思うよ――』

ステイル『――「アルテミスの猟犬はどこから来たのか?」ってね』

上条「アルテミスの、猟犬?」

ステイル『って事で建宮には日本で引き続き頼むよ。今は少しでも情報が欲しい』

ステイル『……正直、画像とかを見せてあげられなくてね。ストレスが溜まるのも無理はないんだ』

建宮「了解したのよ。女の無理難題で使いっ走りするのも男の甲斐性なのよな」

上条「待てよステイル。インデックスが何だって?」

ステイル『画像――連中に関する写真や動画の類は一切シャットダウンしてるんだよ。それが何か?』

上条「どうしてまた?」

ステイル『えっと……なんて言えば分かるかな……イコノグラフィー――と、言っても分からないだろうし』

上条「シェリーから……聞いた、な?確か」

上条「画像の中に魔術的な記号を埋め込んで、地雷みたいな霊装や、術式として機能させる……だっけ?」

ステイル『よく知っているね?というかあのクソ売女と君って、そんなに仲良かったっけ?』

上条「そりゃお前――お前、そうだっけ?」

ステイル『ま、いいんだけど――で、当然連中の中二病をこじらせたマークやら遺留品、あの子には一切見せていない』

上条「俺達が平気でも『ネクロノミコン』を記憶しているインデックスには悪影響がある?」

ステイル『そうだね……本当は関わらせたくなんて無かったんだけど、最初から』

ステイル『分かっているよな、上条当麻?』

上条「……あぁ!」

建宮「――てな訳で俺は日本へ行くのよな。他になんか連絡はあるのよ?」

ステイル『そうだね……あ、一つだけ』

建宮「何よな?」

ステイル『君じゃなくって冴えない方だ』

上条「はい?」

ステイル『終った話だが、「生成り」の発生条件は事前に奴の血を飲むのが発動条件らしい』

ステイル『病院の給水タンクからほんの僅か、人間――っぽい血液が採取された』

上条「うげ……」

ステイル『あぁ魔術的には珍しくもないよ。「葡萄酒を我が血、パンを我が肉」って有名なイニシエーションあるじゃない』

建宮「それを通過儀礼っつーのは……まぁ、突っ込まないのよ」

ステイル『ある程度の魔術的な耐性があれば防げるんだが、この先も連中は水や食べ物、果ては空気へ仕込むかもしれない』

上条「タチ悪いな!発想がストーカーだよ!」

建宮「ま、ある意味正しい意味でのストーカーなのよな」

ステイル『だもんで君の「右手」で定期的に解除しとけばいいんじゃないかな、って』

上条「………………うん?」

ステイル『話を聞けよ。だから君が彼女達に触れてだね、魔術効果を打ち消しとけば、って話さ』

上条「……マジか……ッ!つまり――」

ステイル『こっちから言えるのはこのぐらいかな。取り敢えずは』

ステイル『旅費だなんだはいつもの通りに。後、写真を撮ったら、感想を必ず文章で付け加え――』

上条「――つまり、おっぱいかっ!?」

ステイル『違うね?僕はそんなハレンチな事一言足りとも言っちゃいないけど』

上条「仕方がない……っ!うん、うんっ!こういう時、『上条』なら仕方がないんだよね……ッ!」

ステイル『っていうか君、誤解する気満々だよね?あとそれは別の子の持ちネタじゃないのかな?』

上条「全人類の半数が恋い焦がれるおっぱいソムリエの夢が今……!!!」

建宮「その話を詳しくなのよ!」

ステイル『正気に戻れバカども。っていうか、そのカテゴリから僕を外すんだ』

上条「おっぱいが嫌いな男の子なんていませんっ!――ハッ!?お前もしかして……!?」

ステイル『好みのタイプの話はした筈だよ何か?』

建宮「貧乳派は意外と多いのよ」

ステイル『はい君死んだ。君の寮のハードディスク今死んだよ』 ピッ

建宮「待つのよ!?今のは軽ーい天草式ジョークなのよな!」

上条「切れてるし。いやでも流石にネタじゃねーの?」

建宮「くっ!こんな事なら女教皇のあんな姿やこんな姿、少年にお裾分けしていれば良かったのよ……!」

上条「……」

建宮「……少年?」

上条「諦めるなよ、建宮!まだ勝負は終っちゃいないさ!」

建宮「な、何か名案があるのよ?」

上条「取り敢えず他の天草式に連絡を取って、HDの中身だけを入れ替える!そうすれば破壊されてもデータは無事だ!」

建宮「……成程!『意外にスケベ』と二つ名を持つのは伊達じゃないのよな!」

上条「あぁ!……待って?それ誰に言われてんの?俺、誰からむっつりスケベ扱いされてんのかはっきりさせよう?」

建宮「キーワードは……着物……ッ!!!」

上条「着けない、ってのは――」

建宮「都市伝説じゃないのよな!」

PiPiPiPiPiPi、PiPiPiPiPiPi……

上条「お、また電話」

建宮「連絡事項の漏れでもあったのよな?」

上条「有り得るな。つーかさっさと謝った方が良いんじゃねぇの」

建宮「つっても貧乳派と我ら巨乳派には越えられない壁があるのよ」

上条「俺を巨乳派へ入れんな。嫌いじゃないけどさ」

建宮「ここは一つ『貧乳も悪くない』的な、お互いの健闘を称え合う方向で頼むのよ!」

上条「俺が!?……いやまぁ、やれっつーんならやるけど」 ピッ

上条「『あー、もしもし?えっと、今言った話なんだけどさ、その』」

上条「『おっぱいに貴賤は無いって言うか、例外なくアリって言うかさ』」

建宮「(それじゃダメなのよ!もっと熱く貧乳を語るのよな!)」

上条「(……いやだから自分でやれっつーのに……ったく)」

建宮「(寮のエロ画像のご臨終させないためにも相互理解が大切なのよ!)」

上条「(……俺に任せとけ!)」

上条「『最高だよな!ナイチチは人類が生み出した史上の存在だよ!』」

上条「『貧乳バンザイ!貧乳最高!むしろ俺が貧乳――いや!』」

上条「『――俺達が、貧乳だ……ッ!!!』」

上条「……ど、どう?」

五和『……ごめんなさい無駄に大きくてすいませんっていうかご不快ですよね!』

上条「『五和さァァァァァァァァァァァァァァァァァン!?』」

五和『大丈夫ですからっ!私、多分強く生きていけますからそれじゃっ!』

五和『あ、長野って樹海の近くでしたっけ……』 プツッ

ツーッツーッツーッツーッ……

上条「テメコラ建宮ァァァァァァァァァァ!?違うでしょーが!相手ステイルじゃなかっただろうが!」

……

上条「逃げやがったなあんチクショー!?つーか全部テメーの仕込みかコラぁぁぁぁっ!」



――病院前

フロリス「――って何やってんのさ、メーワクだよ。人ンちの前で」

鳴護「玄関から見ると一人でジタバタしているように見える、かな?」

上条「敵の魔術師の罠に填まったんだよ!割とマジな意味で!」

レッサー「分かります分かります。少年が大人になる過程で誰しもが通る道ですよね」

上条「おいやめろ!中二病に理解あるフリをするんじゃない!お前は俺のかーちゃんか!?」

レッサー「義母萌えだというのであればやぶさかで無し!」

上条「人の家庭を壊すな。常に父さんピンチなんだから!」

ベイロープ「……あぁ遺伝だったの、それ。納得」

ランシス「最強の遺伝子、的な……?」

上条「人の家系に妙な業を背負わすな!つか手続き終ったのかよ?」

鳴護「手続き?入院中の荷物まとめてたんだけど?」

レッサー「向こうさんのご厚意でロハで済みましたけどね。有り難いやら割に合ってないやらで」

鳴護「ご、ごめんね?付き合わせちゃって」

レッサー「おぉっと!そいつぁ言いっこ無しですよアリサさん!」

レッサー「一度拳を交えたらもうそれは親友(ダチ)!お互いの健闘を称え合いノーサイドで行きましょうンねっ!」

上条「拳?お前なんかやったのか?」

レッサー「朝、着替える時にですね」

上条「詳しく頼む」

鳴護「レッサーちゃんストーーーーーーーーーーーーーーップ!」

鳴護「あれは事故だし!てかさっきナイショだって言ったよね!?」

ランシス「……ヒント、着やせ」

レッサー「中々ご立派なモノをお持ちでした、えぇえぇ」

レッサー「んまっ!ウチのベイロープには及ばなかったんですけどねっ、ベイロープには!」

ベイロープ「歳が違うんだから当たり前だっつーのよ」

上条「てかなんでレッサーがベイロープ自慢してんだ……」

フロリス「(ま、察してあげなよ。もし勝ってたら自慢しまくりだって事さ)」

上条「(……了解)」

レッサー「聞こえてもますしウルッサイですよそこっ!あと距離が近いんで離れて下さいなっ!」

レッサー「どうせアレてしょーが!?内緒話するフリしてちゅーつもりなんでしょうがこの泥棒キャットめ!」

レッサー「私の目が黒いうちにはキャッキャッウフフなんてさせませんからねっあぁ羨ましい!」

フロリス「ちょっ!?ハードル上げるの禁止だって!」

ランシス「……てかもうそれフリになってる……」

上条「……何の話だよ、それ」

鳴護「当麻君はモデるんだねー?いいなー、可愛い子に囲まれてー」

上条「可愛いって部分を否定するつもりはねぇが、こいつアロサウルス瞬殺するんだぜ?」

ベイロープ「聖人とかトップランカーに比べれば子猫みたいなもんだわ」

ベイロープ「こっちの渾身の一撃を向こうはノーモーションで連発してくるし」

フロリス「うっわヒドっ!こんな華奢なオンナノコ捕まえて、言う事がそれかーい?んー?訂正しろっこのヤロっ!」 ギュッ

上条「抱きつくなっコラっ!?だーかーらーっ!お前はスキンシップが過剰なんだっつーの!」

レッサー「……何でしょうね、こう。危機感って言うか、明らかに周回遅れの雰囲気がヒシヒシと感じるんですが……」

ランシス「ファイトー……デレたツンは強いけどー」

レッサー「励まされている気がしませんね! 」

ベイロープ「――って訳だから、アルビノの恐竜は『白い竜』。ウェールズに現れる二匹の竜の一匹であって」

ベイロープ「この子の『Y Ddraig Goch、ア・ドライグ・ゴッホ』との相性は最悪だって話」

鳴護「あの、聞いて無いと思うよ?」

ベイロープ「……副作用なのよ、これ」

上条「あー、離れろ!」

フロリス「チッ」

レッサー「あぁいけませんいけません。ここは私が消毒をですね」

上条「……てか、何やってんだよ俺ら?何待ちなの?」

レッサー「……あのぅ、ツッコミの義務としてはボケをスルーしちゃいけません、って学校で習いませんでしたか?」

上条「ウチじゃ教えてねーよ!でもちょっと通いたいなその学校!」

鳴護「えっとね。お姉ちゃんがキャンピングカーを用意してくれるんだって」

ベイロープ「公共機関に乗ると襲撃されるから、目立たないように行くのよ」

レッサー「ベイロープ、最後の四文字をリピートして下さい。ファンサービスも必要かと」

ベイロープ「黙れおバカ。方向性が分からないのだわ」

上条「キャンピングカー……逆に目立たないかな?」

ランシス「んー……文化の違い?こっちだと学生が旅行で使う、よ」

レッサー「時間はあるけど金が無い学生が。レンタカーで借りてヒッチハイカーを拾って小遣い稼ぎしながら行くのか通ってもんでしてね」

フロリス「それもうホラー映画のフラグとしか思えないジャンか」

上条「あー、分かる分かる。キャンピングカー=全滅フラグかってぐらい定番なんだよな」

レッサー「J-Horrorなんかでも、白い着物に長い黒髪ってアイコンになってるじゃないですか?定番って言いますか、お約束みたいなの」

レッサー「『よくあるシチュ』だからこそ、身近な恐怖のテーマとして打って付けなんですよねー」

上条「納得」

鳴護「あ、来たみたい!ほらっアレ――」

上条(アリサが指差したまま固まった。どうした?と俺達はそっちへ視線を向ける)

上条(その先には当然話に出たキャンピングカーの姿が――って、俺も言葉を失った)

上条(車の前部はランドクルーザーみたいな、やや平べったい顔をしている。その上にコブのように突き出たひさしのようなモノがある。何?)

上条(想像していたよりも、荷台スペースは大きい。それこそ10トントラックよりかは短く、幅はもっと広いか)

上条(こういうのモーターホーム?とか言うんじゃなかったっけ。キャンプをするよりか住居に近い感じがする)

上条(ん、だが。多分まず間違いなくアリサが固まったのは、それに驚いたせいじゃない。確信を持って言える)

上条(キャンピングカーは全体的にクリーム色をしている。まぁそれは良いだろうさ。別に珍しい色でもない)

上条(……だが!問題なのは!ほぼ全部に描かれた――)

上条「――ARISAの痛車じゃねーかよ……ッ!!!」

上条「車のフロントに『アンコールありがとーのARISA』、サイドにはCDのジャケ――ポラリスの布っぽいのの中に居る絵面だし!」

上条「そして背面にはなんで『ソフトクリーム食ってるARISA』って、オッサンの発想じゃねーか!?」

鳴護「お姉ちゃん……」

フロリス「うっわー……」

レッサー「個人的にはこのセンス嫌いじゃないです。学園都市、恐るべし!」

上条「オイテメ降りてこいシャットアウラ!妹好きこじらせるにも程があるわっ!」

シャットアウラ「――うむ?どうした?衣装が気に入らなかったのか?」

上条「宣伝してどうすんだよ!?お前やっぱ頭良いけどバカだろ、なぁっ!?」

シッャトアウラ「だから『Shooting MOON』ツアーを盛り上げるためにだな」

上条「襲ってくれってんと同じだよ!つーかなんで俺が一々ツッコミ入れなきゃいけねぇんだ!」

上条「出てこいクロウ7!どっかに居やがんだろ!?アンタがついてんのにどうしてこうなった!?」

シッャトアウラ「ち、やかましい奴め」 カチッ

シュゥゥゥゥゥゥゥッ……

上条「あれ――表面の画像が変わってく……?」

レッサー「ネタ抜きで学園都市の技術でしたか」

ランシス「……ぶっちゃけ超技術の無駄遣い」

ベイロープ「限りなく同感なのだわ」

フロリス「――あ、でも次は水着ジャン。露出度30%マシだね」

ベイロープ「増しっていうか、減ってんじゃない?」

鳴護「お姉ちゃんっ!?これ確かNG出した画像なのになんで残ってんの!?」

レッサー「いや別に言うほど際どかぁないと思いますよ?ビキニタイプとしちゃ布地も広いですし」

ベイロープ「フツーは不特定多数に水着見せないのだわ。控えろ変態」

レッサー「失敬な!この純真な乙女に向かって何たる暴言!」

ランシス「……ぶーぶー……」

フロリス「ちゅーかレッサーとフロリスって、学芸都市の路地裏でマッパになんなかったっけ?」

レッサー「一緒にしないで下さいな!私は好きな殿方以外に肌を晒すつもりはありませんよ!」

ベイロープ「もうネタなのかボケなのかわっかんないわね」

フロリス「それ、どっちもボケだから」

上条「……」

鳴護「……なに、当麻君?」

上条「着やせ」

鳴護「お姉ちゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁんっ!!!」

シャットアウラ「貴様アリサを性的な目で見たなあぁっ!!!」

上条「見てないよ!?仮に見たとしてもお前のせいじゃねーか!」

シッャトアウラ「むぅ……ライブ衣装もダメ、水着もダメなら……後は個人的に撮った寝顔ぐらいしか……ッ!」

鳴護「……あの?お姉ちゃん?ツアー終ったらお話があるからね?」

ベイロープ「てかいい加減注目集めまくりなんだけど、車体の画像消せないの?」

シャットアウラ「あぁ、すまない。つい調子に乗ってしまってな」

上条「”つい”じゃないよね?最初から画像用意してたもんな?」



――10分後

上条(俺達は病院の地下駐車場、それも隔離された一角へと移動していた)

上条(そこにあったのはFS31――キャンピングカーの車種、正確にはそれを改造したらしい――が五台停められている)

レッサー「……何なんです、これ?まさか一人一台とか白物家電みたいな事は言わないでしょうね?」

上条「なんでお前が高度成長期の日本の家庭事情を知っている?」

レッサー「お、お嫁に行く国ですしねっ!」

ベイロープ「嘘吐くな。婿入り以外目的果たせないのだわ」

レッサー「ベイロォォォォォォォォォプッ!どうしてあなたはバラしてしまうかと!」

上条「またとんでもなく底が浅いな……で、本当の所は?」

シャットアウラ「先程も言ったが宣伝目的もあるが、それ以上に『囮』だな」

フロリス「あー、ハイハイ。そーゆーコト」

上条「うん?」

フロリス「まずワタシらがこの中の一台に乗って次のローマへ行きます。オケ?」

上条「そんぐらい分かるわ!」

フロリス「でも一台だとSearch & Destroy?(見つかったらヤられちゃうよね?)、おけ?」

上条「戦いは避けられないだろうな、そりゃ」

フロリス「で、ここでダミーの車を四台走らせる。そーすりゃ本命がどれに乗ってるか分からないって話さ」

上条「……おけ。分かった」

シャットアウラ「概ねその通りだ――では早速乗って貰おうか」

レッサー「いえっさー」

上条「待て待て。俺らはそれで良いとして、他の車が狙われるんじゃねぇかよ」

シャットアウラ「足の速いメンバーを選定しておいた。逃げに徹すれば逃げ切れるだろうな」

鳴護「いいのかなぁ……これ」

ベイロープ「他に名案がある訳じゃなし、これで行くっきゃないでしょうね」

レッサー「ま、最初から危険があるのは覚悟の上ですからねぇ。あんまり心配しすぎるのも返ってプロに失礼ですよ」

鳴護「……うん」

上条「ま、考えてもしょうがないし。無事終ってからさ、手伝ってくれた人には改めてお礼しよう」

上条「俺達のために頑張ってくれてる人らがいるんだ。その努力を無駄にしないためにも、ライブ、成功させようぜ?」

鳴護「そう、だねっ」

レッサー「あれ、おかしいですね?私の方が正論を言った筈なのに、今上条さんの好感度が上がった音がしましたよーな?」

ランシス「……無理、何言っても上がる仕様だから」

上条「勝手な事言ってんなそこ。さっさと乗るぞ」

シャットアウラ「――お前はまだダメだ」

上条「まさかの乗車拒否っ!?」

シャットアウラ「違う馬鹿者――おい!」

クロウ7「上条さんはこちらへどうぞ」

上条「あ、柴崎さん」

クロウ7「初めましてクロウ7です。よろしく」

上条「何?何の冗談?」

クロウ7「身分偽装して再入国してんだから察しろつってんですよ、オーケー?」

上条「……ブラックだな黒鴉部隊。てか体のパーツが壊れたって聞いたんだけど」

クロウ7「……オーバーホール終ってないんですよ。えぇ。換装したのはしましたけど」

上条「心の底からお疲れ様です……」

クロウ7「いえお気遣いなく――で、なんですが、上条さんにはこちらをどうぞ」

上条「サイフとトランクケース?誰の分?」

クロウ7「サイフの中身は現金とクレジットカードです。経費ですので自由にお使い下さい」

上条「マジで?いいの?多すぎないか?」

クロウ7「お忘れですか?アリサさん、超健啖家じゃないですか」

上条「あー……そんな設定あったなぁ」

クロウ7「その分もコミで入ってます。無くすと困るので、出来れば他の方に預けて頂ければ自分達の心労が減ります」

上条「扱いがガキじゃねぇか!ま、分かってるけどねっ!」

クロウ7「で、もう一つのトランクは」

上条「着替え、男物のだ。俺、きちんと持ってきてるぜ?」

クロウ7「上条さんはむしろついででしてね、ほら」

クロウ7「あちらのお嬢さん方はほぼ手ぶらでしょう?今からどこかで買うとしても、危険がありますよね」

クロウ7「ですからこちらでご用意した着替えを、今車の中で選んで頂いている、と」

上条「いやいや。俺はいいけど、サイズとか好みとかあるんじゃ……?」

クロウ7「ですから、大量に。スーツケース数箱分」

上条「あー……」

クロウ7「車内は今、パンツだらけになってるので、上条さんはしばくこちらで待機、と言う流れです。えぇ」

クロウ7「ちなみにリーダーは『放置した方が困るだろ』と仰っていましたが」

上条「アリガトウ柴崎さんっ!幾らなんでも下着だらけの中で気まずい思いはしたくないよ!」

クロウ7「えぇ、ですからリーダーへは『どんな下着を着けるのか知られると、よからぬ妄想をされますよ』とアドバイスを」

上条「テメェやっぱ根に持ってんだろ、なぁ?アンタの言う事聞かなかったのがそんなに気に入らなかったのかよ!?」

クロウ7「発信器付きの携帯電話、『非常時に位置が分かるから手放さないで下さいね?』と何回も念を押したのに、病院へ忘れたのはどちら様でしたか?」

上条「うっ」

クロウ7「あちらのお嬢さんがアリサさんの携帯を知らなければ、死人が出ていましたからね。注意して下さいよ」

上条「……ごめんなさい」

クロウ7「あとついでにお知らせの紙です。どうぞ」

上条「コピー用紙……?何々、『ARISAのロシア公演についてのご報告』?」

クロウ7「主旨だけを言えば、政情不安で中止になりました」

上条「……そか」

クロウ7「驚いていませんね」

上条「ん?あぁ驚いているけど、柴崎さん最初に『中止になるかも』つってたしさ」

上条「アリサが危険になるぐらいだったら、まぁいいかな、とか思っちまうよな」

クロウ7「スケジュール的には学園都市へ帰ってから凱旋ライブを予定しています。なので間が空いてしまう訳ですが」

クロウ7「比較的安全なイギリスかイタリア辺りで会場が確保されれば、そちらで開催するかも知れません」

上条「学園都市必死だな」

クロウ7「……必死ですよ、えぇ。『穏健派』にとってすれば、戦争が終った今こそ最大の好機ですからね』

上条「まさか――また上層部が絡んでるのかよっ!?」

クロウ7「絡んでいますよ、ですから『穏健派』がね」

上条「信じられるのか、そいつ?」

クロウ7「親船最中、という方をご存じで?」

上条「知ってるな。一回撃たれた人だ」

クロウ7「今回のプロジェクトは彼女達が主導で――あ、これは全てオフレコでお願いしますよ?」

上条「話せねぇって、誰にも」

クロウ7「一応、上の方にもそういう方が居るようで。『共存』は出来なくとも『住み分け』が出来るだろうとね」

上条「うーん……?」

クロウ7「今のは裏方の話、お気になさらず――そしてこちらが、自分の独り言」

クロウ7「上条さん、どうしてアリサさんが歌手になりたかったのか、ご存じでしょうか?」

上条「歌が好きで、他に誇れるようモンもなかったとか言ってたような……?そんな事は無いんだけどな」

クロウ7「仰る通りですね……まぁ身元不明の上、孤児院で育ってきた環境を考えれば、何か輝けるものを持ちたくなる気持ちも分かりますよ」

上条「……否定はしないけど、その考えも」

クロウ7「以前、レディリー前会長から鳴護アリサの調査を依頼された時の話です」

上条「柴崎さんが?シャットアウラじゃなくて?」

クロウ7「はい、恐らく前会長はリーダーとアリサさんの関係をご存じだったのではないかと。ですから自分に」

クロウ7「その時は『プロデュースするアイドルの身元調査』ぐらいにしか考えておらず、リーダーにも詳しくは報告しませんでした」

上条「随分ザルだな」

クロウ7「それを言うのであれば、アリサさんと因縁がある『黒鴉部隊』を雇った所からでしょうね」

クロウ7「今にして思えば、リーダーがアリサさんを弑そうとするのも、何か意味があったのかも知れませんよねぇ」

上条「意味?どんな?」

クロウ7「その、確実に手出し出来なくなる手段は幾らでもあったのに、わざわざ生かして、しかも自分の手の届く所へ置きました」

クロウ7「これが『ついうっかり』で済ませるような、甘い業界ではないでしょう?」

上条「姉貴が妹を殺すのが、『エンデュミオン』の術式に組み込まれていたって?」

クロウ7「……流石に自分の専門ではありません。もし宜しければお友達に聞いてみて下さいませんか?」

上条「アリサの前でするような話じゃねぇけど……ま、タイミングが合えば、うん」

クロウ7「ありがとうございます――で、話を戻すんですが」

クロウ7「身辺調査をした際、孤児院に残っていた『子供の頃の夢』みたいな、お絵かきを見てしまいましてね」

上条「あー、ガキの頃に描かされるアレか」

クロウ7「上条さんは『ハーレム制度の復活』でしたっけ?」

上条「捏造してんじゃねーよ!つーかそんな子供居たら怖いわ!」

クロウ7「ですが着々と童心の夢が現実味を帯びて来ていませんかね?」

上条「違う!これはちょっと不幸な事故が重なっただけだ!」

クロウ7「中東辺りじゃ、洒落抜きでカリフ制の復活が囁かれていますが……まぁアリサさんの話です」

上条「ボケる必要なくね?」

クロウ7「――で、なんですが」

上条「『アイドルになりたい』か?」

クロウ7「違います――あ、いや、そうも書かれていましたが、それは”手段”でした」

上条「アイドルが手段?CD売ってお金持ちになりたいとか、芸能人と友達になりたいとかか?」

クロウ7「……いえ、それも違いまして。その――」

クロウ7「――『おかあさんに、あいたい』と」

上条「それって……つーか、アリサには、親なんて」

クロウ7「えぇ、はい。そう、ですよね?」

上条「……そういや言ってた――『一番叶えたい夢は、もう叶わない』って……!」

クロウ7「……その、上条さん」

上条「……出来るかな、俺に?」

クロウ7「あなたでなければ出来ないでしょうね、きっと誰にも」

クロウ7「これは自分の勝手な見解ですが、あなたは、決して最強なんかじゃない」

上条「……」

クロウ7「『右手』があったとしても――いえ、むしろあるからこそ過信し、時として賢明ではない行動を繰り返しては、何度も何度も死にかけてきました」

クロウ7「救えなかった人だって居ますし、逆に他人を危険に晒した事も一度や二度では無い筈です。ですが――」

クロウ7「――その『弱さ』故に、他人との絆や信頼を大切にし、築いて来られました。それはあなたにしか出来なかった」

クロウ7「ですから、どうか!アリサさんを……ッ!」

上条「……何を今更。別に俺は強いからってケンカして来た訳でもねぇし、弱いからって逃げ出した事もねぇよ」

上条「つーかさ、俺は別に珍しい事をやってきたんじゃねぇ。普通の連中が普通にやってる事だからな」

上条「ま、なんだ、アレだよ――」

上条「――困ってる友達助けるのに、理由なんか要らないだろ?」

クロウ7「……上条さん」

上条「あ、ごめん。やっぱり臭かった?」

クロウ7「いえいえとてもご立派な決意でしたよ、はい。少し感動しました」

上条「いやぁそこまで言われると照れるけど」

クロウ7「それでですね、ちょっとここ、このタイピンへ『コラッ!』って大声出して貰えますか?」

上条「いいけど、なんで?」

クロウ7「お早く、ささ」

上条 スゥ

上条「……コラーーーーーーーーーーーーーーーーーっ!!!」

ガタンッ!!!

シャットアウラ『――――――――――――ッ!?』

上条「キャンピングカーの方からシャットアウラの悲鳴……?なんで?何かあったのか?」

クロウ7「お気になさらず。事前に『男同士の内緒話』だからって、聞かない約束をしていたにも関わらず」

クロウ7「ボリュームを最大まで上げて聞いてた”お嬢様”が居ただけですから、えぇ」

上条「ふーん?」

クロウ7「……全く、相手にならないな。これは」

上条「何の話?」

クロウ7「――あ、リーダーが激怒して降りてきました」

シャットアウラ「貴様という奴はいつもいつもいつもいつもォォォォォォォォォォォッ!!!」

上条「俺かっ!?なんで怒ってんの!?」

クロウ7「上条さん、女性に対して失礼ですよ」

上条「あぁなんだ、アノ――」

シャットアウラ「――殺す!やはり貴様は私の敵だぁぁッ!」

上条「罠だっ!?今の回答は誘導された形跡があるぞっ!」

クロウ7「おっとかみじょうさーん、くるまのなかはじょせいたちがおきがえしてますよー」(※超棒読み)

クロウ7「いまつっこんだらあられもないすがたじなゃないですかー、だめですよー、ぜったいにだめですからねー」(※超々棒読み)

上条「やだこの人露骨にフッてるじゃない」

シャットアウラ「死ねぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!!!」

上条「お前も人の話を聞きやがれーーーーーーーーーーーっ!?」

ボスッ――ギィッ……パタン

レッサー「――お、らっしゃいませー上条さん!来ると思っていましたよ」

鳴護「と、当麻君……?」

フロリス「ちょ!?まだ見せるつもりは――っ!?」

ベイロープ「よーし歯を食いしばれクソ・マスター。全力ビンタで勘弁してあげるのだわ」

ランシス「……うん?どうしたの?」

レッサー「あ、ランシスは隠す所無いですから良いですもんね」

ランシス「――死の爪船(ナグルファル)……ッ!!!」

レッサー「ぎゃーーーすっ!?窓に窓に!炎天のビフレストを死者の軍勢が渡ってきますよっ!」

ベイロープ「あーもう収拾がつかない……!」

上条「違うんだっ!?これはシャットアウラにぶっ飛ばされてラッキースケベしたんであって!」

上条「決して!俺の自由意志で突っ込んだんじゃないさっ!そりゃもうなっ!」

シャットアウラ「……さて、遺言を聞こうか?」

上条「俺の!せいじゃ!ねぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!!!」

上条(……うん、まぁこんな感じでね。まぁまぁ、はい。俺達のキャンピングカーの旅は始まったんだが)

上条(おかしいよね?何か不必要なオチを強いられてる感がヒシヒシと、うん)

上条「……」

上条(……俺、ラッキースケベで死ぬんじゃ……?)



――キャンピングカー

上条(ってな訳で俺達は荷物をまとめてキャンピングカーへと乗り込んだ)

上条(次の目的地はローマ。ローマ正教のお膝元でヴェントが待っている、らしい)

上条(一度は敵味方……ん−、複雑ではある。アックアにしろヴェントにしろ、テッラもそうだしフィアンマもか)

上条(一度派手にケンカした相手に遭うのは、どーにも何かモニョるっつーか?)

上条(形としちゃこっちの無関係な生徒を巻き込んだり、向こうの十字教徒も反学園都市でコントロールしてだ)

上条(……たかだか一都市を潰すのにそこまでするような『常識』。ある種、『濁音協会』と通じるんじゃねぇのか?)

上条(テメェらの目的のために、誰巻き込もうが平然としてるってのは、やっぱ気に食わなくはある)

上条「……」

上条(……って最初は思ってたんだけどさ。やっぱり)

上条(ちょい前にレッサーが「あ、今通り過ぎた所がアビニョンですねー」とかるーく言い切った)

上条(因縁のあるアビニョンを全くスルーしてしまったんだが、感想としちゃ『他とあんま変わんない?』か)

上条(……まぁ、拘って解決するようなもんじゃねぇし。少なくとも向こうは和解する意志があるから、アリサを受け入れようって)

上条(俺一人が変な気分なのも良くはねぇか。あんま嫌がっても仕方が無いし、態度に出たら失礼だし)

上条(割り切る事にしよう、うん)

上条「――良し!」

レッサー「あ、じゃあじゃあ結婚しますか?」

上条「取り敢えず挨拶感覚で求婚すると、引くからね?」

レッサー「なんと!?これはしたり!まるで恥女が居るような言い方じゃないですか!」

ベイロープ「おい、恥女。そこに立っているとテレビが見えないのだわ」

レッサー「言われていますよランシスさんっ!早く退いて下さいねっ!」

ランシス「レッサー……鏡鏡」

レッサー「おっと今日もキメキメじゃないですか私っ!輝いてる、シャインっ!」

上条「いいから退いてやれよ。ベイロープのこめかみがピクピクしてっから」

フロリス『ちょっとー、なーんか楽しそうだなー』

レッサー「聞いて下さいよランシス!?ベイロープったらヒドいんですよ!」

フロリス『あっそ』

レッサー「最初から聞く気が無い!?」

フロリス『なーに?どしたん?』

レッサー「そうですね――あれは私がジュニアハイスクールに入った頃のお話なんですが……」

上条「戻りすぎ戻りすぎ。つーかそんな話は絶対にしてなかった」

レッサー「学校の近くに『スリーピー・ホロゥ(眠りのうろ)』って樹があったんですよ、これが」

レッサー「場所的には寄宿舎の外れの外れ、てかそもそも寄宿舎自体が学院からすりゃ端っこの方でしてね」

レッサー「しかも私らが住んでる寮がまたこれボロいっちゅー話ですよ、えぇ」

レッサー「扉は鍵閉めても開きますし、冬は隙間風が入ってきて寒いのなんのって」

レッサー「ですから私が夜中コッソリ抜け出すのなんて、そりゃ難しくもありませんでしたよ」

上条「え、マジでこの話続ける流れ?」

レッサー「『噂』、があったんですよ」

レッサー「大人は誰も知らない。子供達の間だけで語り継がれている。そんな、物語」

上条「……」

レッサー「上級生から下級生へ、そして下級生が上級生になった頃、また語り継がれるというロンドのようなループを描く……」

ラシンス「……こぉぉぉぉぉぉぉっ……しゅこぉぉぉぉぉぉぉぉっ……」

上条「おいSEを口で入れるんじゃない!」

レッサー「それが『スリーピー・ホロゥ』の伝説ですね」

レッサー「樹ってぇ奴は不思議なもんですよね、えぇ。日本でも『綺麗なSAKURAの下には屍体が埋まってる』みたいな話があります」

ランシス「梶井基次郎……の、”創作”……」

上条「あ、フィクションなんだ?」

レッサー「そりゃそうですよ。だって実際に屍体が埋まってたら、栄養過多で枯れちゃいますもん」

レッサー「――だからまぁ?『当然木が枯れた』なんてのは、一体何を埋めやがったんでしょうねぇ、ってコトになりますけど」

上条「……」

レッサー「――で、話を戻しますが私達の学院の外れ、樹があったんですよ」

レッサー「枯れた大きな樹でしてね。こう、指を空へ向けるみたいな感じで、枝が伸びているんです」

レッサー「いや私の両手だけでは足りませんねぇ。そう何人、何十人の腕が生えているような感じの」

レッサー「幹の太さは……そうですね、細い枝に比べて随分とずんぐりしてましたね」

レッサー「十人ぐらいが手を繋いで、ようやく一回り出来そうな感じでしょうか」

レッサー「ちなみに『スリーピー・ホロウ』の”ホロウ”とは『洞(うろ)』って意味です」

レッサー「あんま使わない単語ですが、くぼみとか浅い穴とか、そんな意味でしょうかね」

上条「眠りの、って事は」

レッサー「……えぇ眠っているんですよ、そこでね――上条さん!」

上条「な、なんだよ?」

レッサー「おっと失礼、テンション上がってしまいました。いやいやすいませんね」

上条「いいけどさ。何?」

レッサー「今さっき、『桜の下には屍体はない』って言いましたよね?よね?」

上条「言ったな」

レッサー「何故?」

上条「そりゃお前、『栄養が多すぎるから』だろ。つーかなんで確認するんだよ」

レッサー「せいかーい!……で、二問目!」

レッサー「じゃ『スリーピー・ホロゥはどうして枯れた』んでしょーか!さぁ張り切って答えて下さいな!」

上条「――え」

レッサー「え、じゃないですよぉ。あなたはもう答えを知っているでしょう?ね?」

ランシス「……きっきっきっきっ……まっまっまっまっ……」

フロリス『あ、ホッケーマスクの息づかいだ』

レッサー「『枯れた桜』の下には何が埋まってるんでしたっけー?ヒントを上げてるんだから、正解して欲しい所ですよねー」

レッサー「言えません?言いたくありませんか?……なら仕方がない!私が代わりに言う事にしましょう!」

レッサー「なんとぉっ!その樹が枯れた原因は――」

ベイロープ「だぁかぁらっ!邪魔だとぉ!言ってぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっいるのだわぁぁっ!!!」

レッサー「ひぎゃーーーーーーーーーーーーすっ!?ハァイランドォ(巻き舌)が攻めてきたぞぅぅーーーーっ!?」

上条「……ここまで引っ張ってそんなオチかよっ!?」

鳴護「――どうしてたの?何か大声出して――」 パタン

鳴護「――ってレッサーさんが折檻され!?」

鳴護「……」

鳴護「あ、いつもの事だった」

上条「最近アリサさんもちょっとずつキャラおかしくなってきたよね?」

鳴護「やだなぁ当麻君。あたしなんて全然フツーだよ、フツー」

上条「目の前の惨状、具体的には『見せられないよ!』になってるのに、スルー出来るって普通じゃないからな?」

フロリス『てーかさ、その樹、レッサーがスコップで掘ったから枯れたんじゃなかったっけか?』

ランシス「あったあった……『魔術師がいるかも知れませんよっ!』って」

上条「犯人お前じゃねーかよ!?てか俺に最初から答えの情報が知らされて無かったし!」

レッサー「ちっちっち、甘いですよね上条さん。とんだ甘ちゃんだと言えましょうか!」

レッサー「ミステリーでありがちな『最初から犯人が登場している』なんて事、現実世界でありっこないでしょうが!」

レッサー「大体『閉ざされたロッジで殺人事件が!?』ってなった場合、外部からの侵入者に決まってますってば」

レッサー「探偵役が、いの一番に内部犯行説を言い出すなんて、人間不信にも程があると思いませんか?」

上条「台無しだよ。それ言ったら推理モノが全て終るじゃねぇか」

レッサー「てか復讐しようと思ったら、確実性と隠匿制を考えて通り魔がベストだと思います」

レッサー「クローズドサークルでするなんて、犯人特定して下さいつってるようなもんじゃないですかー、ねー?

上条「だからミステリファンにケンカ売んなっつーの!謝れ、きちんとシナリオ書いてる人らに謝って!」

ベイロープ「……ま、今のもある意味セオリー通りね。語り部が犯人だっつー事で」

鳴護「くろーずど?」

ベイロープ「クローズド・サークル(閉ざされた空間)ってシチュエーションなの。あー、なんつーかな」

ランシス「『この中に犯人が居る……っ!』って言っても、外部から誰かが入って来られる状況だったら、ムリ……」

鳴護「そこまで密室に拘る必要性が感じられないんですけど」

レッサー「そうですね、例えるならば――」

レッサー「――日本の殿方が『SUCU・MIZU』に拘るのと一緒でしょうかねぇ」

上条「それ絶対違う。あとピンポイントでオッサン撃つの止めてあげて?」

ベイロープ「つーかレッサー邪魔よ。いい加減退きなさいな」

レッサー「おっ、失礼しました――ってBBC?BSですかね」

ベイロープ「んー、ウクライナの話がどーたらって話ね」

上条「ロシア公演は中止になったんじゃ?」

鳴護「行きたかったんだけど、仕方が無いよねー」

レッサー「あー、ダメですよ。ダメダメです。ここで行ったら確実に政治利用されますから」

フロリス『だーねぇ。この先もフリッフリの服着て歌いたいんだったら、政治的にはNeutralの方が良いかも』

鳴護「あの、だからね?歌手枠に応募した筈が、何故か衣装はフリフリが置いてあっただけで、別にあたしが着たいって訳じゃ決して」

鳴護「ってか別にあたしはフリフリ着て踊りたかったんじゃないですし!」

ランシス「つべでPV見たけど、結構ノリノリ……?」

鳴護「テンション上がっちゃったんだもん!そりゃ歌だって歌うよ!」

レッサー「まー、お気持ちはお察しですがねー――てか、そもそもこのツアーそのものが紛れもない政治利用な訳ですし、はい」

レッサー「マレーシアの民間旅客カマすなんて最悪しやがりましたしね、暫くは待つのも大切ですよ」

上条「そっち……じゃない、こっちはどんな感じなんだ?EUの見解みたいなのは?」

レッサー「そうですねぇ。ブリテンのキャメロン首相はカエル食い野郎――あ、違ったすいませんね、噛みました」

上条「違う!わざとだ!」

レッサー「ナイスアララギ!――で、SurrenderMonkey(土下座するサル野郎)はですね」

上条「酷くなってるな?悪意しか無いもんな?」

レッサー「ウチの首相がフランスへ『テメコラロシアに揚陸艦売ってんじゃねぇぞ?あ?』つってますね」

鳴護「よーりくかん?」

レッサー「ぶっちゃけホワイトベー○ですね」

上条「説明が面倒になったからってぶん投げるなよ!?」

レッサー「いやいやマジです。あれ強襲揚陸艦って設定なんですってば」

ランシス「……ほんとーに?」

レッサー「まぁあそこまで万能じゃありませんけどね。要は『上陸作戦の主要機能を一艦でカバー出来る』艦船つー事です」

鳴護「あのー、質問いいかな?」

レッサー「好みのタイプは上条さんですっ言わせんな恥ずかしいっ!」

鳴護「うん、知ってた」

上条「……つーかさ、誰かあの残念すぎる子へ、迫れば迫るほど俺がドン引いてるって教えてあげて?」

フロリス『ぶっちゃけ面白いし、スルーする方向で』

ランシス「……そもそもレッサーが、人の言う事聞くと……?」

上条「ごめんな、俺が悪かったよ」

レッサー「なんかDSIられてる感がしますが――それでどうしました?」

上条「DSIじゃなくてDISな?DSの機種じゃねぇんだから」

鳴護「普通の船じゃダメなのかなって」

レッサー「はっ、これだから素人は困りますよねっ!」

上条「あー、俺も思った。揚陸艦?だか使わなくても、車が路肩へ乗り付けるみたいな感じでいいんじゃね?」

レッサー「全く以て仰る通りです!大体揚陸艦とか護衛艦とか掃海艇とか最初に言い出したのは誰なんでしょうねっ!」

ベイロープ「態度変わりすぎよ、おバカ」

鳴護「いえあの、あからさますぎて微笑ましいって言いましょうか、はい」

ランシス「……あと巡洋艦を護衛艦とか、排水量のバカデカい護衛艦とか言って作るのもイクナイ」

上条「言葉の意味は分からないが、海自は頑張ってるんだからいいじゃない!言葉の意味は分からないけど、突っ込んであげなくってさ!」

上条「戦前の空母並みの排水量を持ってる護衛艦だっていいじゃない!だって護衛艦だもの!」

ランシス「どう見てもいずも型は……だよ?」

レッサー「――はぁいっ!では鳴護アリサさんからのお便りに回答しますとねっ!艦船は浅瀬へ突っ込むと船底が着いちゃうんですよねっ!」

レッサー「例えば遠浅の海が広がっていたりすると、敵の真ん前で身動きが取れなくなって詰みます。ネタ抜きでデカい的状態」

レッサー「だもんである程度の浅さでも平気で突っ込んだり、揚陸用の兵器を直ぐに展開出来る艦船か揚陸艦と一括りにしてるんですよ」

上条「へー、詳しいな妙に」

レッサー「今、『平気』と『兵器』をかけてみたんですが、どうですかね?」

上条「誰も気づいて無かったんだから察しろよ、な?」

ベイロープ「別に詳しかないけどね、ニュースで用語が出たら調べたりするでしょ?」

ベイロープ「つーかフランスが今作ってる揚陸艦、ロシア太平洋艦隊、ぶっちゃけウラジオストクに配備されるっつってんだわ」

フロリス『一番艦の名前が「ウラジオストク」だから対日用の艦船だって見え見えジャンか』

上条「待て待て俺ら関係あんのかよ?」

レッサー「ソビエト時代に太平洋艦隊は資金難で低下しましたからね。補充しようと考えるのは当然でしょう」

レッサー「ちなみに作ってる二番艦の名前が『セヴァストポリ』って、ウクライナのクリミア半島にある都市の名前です」

レッサー「もう黒海で運用する気満々じゃないですかーヤダー」

ベイロープ「まぁ、同じ名前の潜水艦も持ってるし、今更だって気もするけどね」

レッサー「そんな感じの揚陸艦、正確にはミストラル級をフランス野郎が引き渡すって先々週辺り問題になってたんですよ」

上条「経済制裁追加してんのに?」

レッサー「それは先週。制裁の中には天然ガスの差し止めは含まれていないんで、どうなるかは分かってないんですけどね――はっ!?」

鳴護「どうしたの?」

レッサー「余談ですけど『フランス人』って言葉自体が『日和見野郎』って意味を持ってますから、そのまま呼んだ方がいいんじゃないですかね?」

上条「本当に余談だな。つーか話に掠ってもなかったが」

上条「つーかレッサー、お前ホントにフランス嫌いな?」

レッサー「いえ、嫌いじゃありませんよ?『フランス人よく自殺しねぇな?』とか尊敬してるぐらいです」

上条「それ、『どうして死なないの?』ってるよね?」

レッサー「てーか勘違いされるとすっげー腹立つんですが、11世紀のノルマン朝はフランス系の王室なんですよ」

レッサー「フランスの地方貴族がブリテン征服して、そのまま居座ったのが始まりです」

上条「そうなのか?なのにフランス嫌い?」

ベイロープ「なんつーかな。ノルマン朝・プランタジネット朝・ランカスター朝・ヨーク朝まで」

ベイロープ「大体500年弱フランス系の王朝だったのよ。つってもまぁ、『子孫』だからノルマン除いてはフランス人が国王になったんじゃないけど」

レッサー「この間、100年戦争やらなんやらでブリテンとフランスは戦争しまくりです」

フロリス『最初はね−、独立戦争みたいなノリでやってたんだけどさーぁ』

ランシス『……段々、やる気になってきた、みたいで……』

フロリス『おっ、助手席へよーこそ。ナビ頼む』

ランシス『いえっさー……』

上条「アメリカの独立戦争みたいなもんか?イギリスからの税金や施政権を勝ち取るために、みたいな?」

レッサー「そのブリテン人の前でよく言いやがりましたねっ!罰としてキスしますよっ!」

ベイロープ「自重しろ恥女――ま、そんなこんなで致命的になったのが、つーかしたのがヘンリー八世ね」

フロリス『ワタシの故郷、ウェールズの君主の家系だーよねぇ』

レッサー「聞き覚えありません?特に上条さんちの当麻さん、あなたは過去にこの名前を聞いてる筈ですよ」

上条「えっと、その……誰?アリサ知ってる?」

鳴護「……せ、世界史はねっ!あんま得意じゃ無いって言うか!」

レッサー「くっ!?その『胸の前で拳を握ってファイティングポーズ』の嫌らしさったら!騙されてはいけませんよ上条さん!」

レッサー「その乳は悪魔の乳です!無造作に寄せて上げているように見えて、計算に違いありませんから!」

ランシス『……レッサー……語るに落ちる、って言うか』

ベイロープ「『全英大陸』、憶えてる?」

上条「カーテナを持つ者が神の代理人になって、イギリス領土の中で絶大な力を誇れる、だっけ?」

ベイロープ「主旨は大体その通り。補足をすれば『神の代理人として外国勢力からの干渉を防ぐ』と」

レッサー「当時はローマ正教がめっちゃブイブイ言わせてた時代てしたんで」

レッサー「つーか神聖ローマ帝国もぶっ建ててましたからねー。こっちもイギリス清教を興して対抗したっつー話で」

上条「対抗、ねぇ」

レッサー「まっ、そのヘンリー八世、フランス国王も自認してまして、何度か攻め込んでるんですけどねっ!」

上条「大概だなお前ら」

フロリス『――ってのが、”オモテ”の話さ。裏はもっとドロドロしてんの』

レッサー「当時はローマ正教が聖職者の任命と破門を一手に行ってきました。これがどういう意味を持つか分かりますかね?」

上条「分からないな!」

鳴護「開き直った!?」

レッサー「声が大きくて素晴らしい回答ですねっ!」

鳴護「……あのねレッサーちゃん?きちんと突っ込むのも優しさだから、うん」

鳴護「言った本人、『あ、これ俺のキャラじゃねえな』って意外と凹んでるかもだし」

ベイロープ「カノッサの屈辱――神聖ローマ帝国のハイリンヒ四世が破門されて、教皇に平伏した事件」

レッサー「日本で言えば寺請制と本末制度の悪い所をミックスした感じですかねぇ」

上条「えっと……?」

鳴護「寺請制はキリシタンの人達じゃないですよ、って証明するために日本人がどこかのお寺の檀家さんにした制度、だよね?」

レッサー「えぇ。ですから阿漕なボーズの所では戒名代をケチると、寺請制から外され、キリシタン扱い――実質の罪人扱いなんてのがありました」

レッサー「本末制度とは全ての寺社へ『本山と末寺』、つまり『親と子』関係を徹底させるもんでしてね」

レッサー「同様に中世ヨーロッパでも叙任権闘争という争いが起きたんですよ」

ベイロープ「色々と端折ると『私有地にある教会の人事権争い』つートコかしら」

上条「なんでまた任命権如きでそんなにモメるんだよ?私有地の話だろ?」

レッサー「いや、ですからアホみたいに財産持ってたんですって、教会が」

レッサー「俗に『シモニア』って、金で聖職者の位階が売買されたり、相手に不当な労働、逆に便宜を謀ったりする例が横行しましてね」

レッサー「なんつーか『荘園制』って言うんでしたっけ?土地を権力者が保有し、他人に開拓させる、みたいなの」

上条「爛れてんなぁ。ローマ正教」

レッサー「ハイリンヒ王としちゃ自分の所の教会や土地は、自分達の意志で動かしたいんで、司教や管理人を勝手に任命しちゃったんですよ」

レッサー「それにぶち切れた教皇が国王を破門。王は謝りに行ったけど三日三晩放置されたのが『カノッサの屈辱』ですね」

レッサー「あ、でもハイリンヒ王はドイツへ戻るとすぐさま反対派を粛正し、軍隊連れてローマ囲んだりしましたからね」

上条「ふーん。そういった権力闘争、みたいなのがあって」

ランシス『……それを覆そうとイギリス清教を作った……』

ベイロープ「ま、大体150ぐらい経つと清教徒革命が起きるから、自浄作用はそこそこ、みたいな感じよね」

ランシス『……シモニアは罪だってずっと教えられてるから……まぁ、ローマよりは、マシ……』

上条「ローマ正教も大概だよな」

レッサー「いやいやいやいやっ!日本も負けちゃいませんって!『Mount Hiei(比叡山)』何回焼かれてると思ってんですか!」

上条「織田信長だけじゃねぇの?」

ベイロープ「足利義教(1435年)、細川政元(1499年、2回目64年ぶり)、織田信長(1571年、3回目72年ぶり)ね」

上条「高校野球みたいに言うなよ!つーか焼かれすぎじゃねぇか比叡山!」

レッサー「なんて言いましょうか、洋の東西を問わず、宗教家が力を持つのは土地・カネ・人、ですからねぇ」

レッサー「比叡山にしたって膨大な土地の私有、そこから汲み上げられる利益、更には末寺から上がる上納金でウッハウハでしたし?」

上条「上納金ねぇ」

レッサー「まだね、これが好きで傘下に居るってんなら分かるんでしょうけど」

レッサー「時には政府へ強訴して、縁も縁もないテンプルを無理矢理末寺へ加えたり、やり放題な訳でして」

レッサー「そりゃあ神仏分離令でぶっ壊されますよね」

上条「……つーか詳しいですねー、レッサーさんども」

ベイロープ「ん?あぁ常識のウチ……とは言わないけど、その、聞いた事無い?」

ベイロープ「『人類の意識は深い所で繋がってる』って説」

上条「えぇと、あー……世界中で洪水伝説があるみたいなもん、か?」

ベイロープ「文化が伝播したかどうかはともかく、ルーツが同じかどうかもさておくとして」

ランシス『……ミトコンドリア・イヴは同じだから……人はアフリカから来た……』

ベイロープ「『人類の文化はある種の普遍性を持っている』って考え方があるのよ」

ベイロープ「『男神女神の国産み』、『英雄の竜殺し』、『洪水で滅亡する世界』とか。固有名詞は変わるけど、どこの世界にだってあるわよね?」

上条「ベタ、って言い方が正しいかは分からないけど、まぁあるよな」

ベイロープ「それらの普遍性を踏まえた上で、『人類の文化にも共通項があるんじゃないか?』って宣う学問があるの」

上条「文化――歴史って意味だよな?この場合は……うーん?」

レッサー「あ、そこ『全然違うじゃねーか』とか思いませんでしたか?」

上条「日本とイギリス、どっちも島国ぐらいしか共通点無いだろ」

レッサー「いやですからずっと言ってるじゃないですか――『十字教の腐敗』って」

鳴護「……あ、そういう事」

上条「どういう事?」

鳴護「えっと、日本でも織田信長?の比叡山焼き討ち、とかあったよね?もしかしてアレと同じ事が?」

レッサー「当然起きてますね。ローマ正教からの脱却にイギリス清教が出来たのがまず大きな楔を打ち込み」

レッサー「普仏戦争で教皇領を失い、ドイツ帝国のビスマルクが留めを刺したってぇ感じですかね」

レッサー「何が皮肉なのかって、彼が宰相だったプロイセン公国、彼が首相だったヴァイマル共和国」

レッサー「その後に来たのがナチスってオチが着いたという話が」

レッサー「近代化によって教会が権威を失った、どこか民衆から恨まれたり襲撃されたのが『共通』してるんじゃね?と」

ベイロープ「ブリテンでは清教徒革命、他の地域でもプロテスタントへの移行。要は見限られたのよね」

上条「いやいや俺達は別に――」

鳴護「神仏分離令、だよね?」

レッサー「正解。アリサさんにはレッサー印の勝負下着をプレゼント!」

ランシス『なーんか呪われてそう……』

レッサー「失敬な!そりゃ若干ぐぬぬな気持ちがあったりしますけど、これは敵に塩を送ってる所をアピールする目的が!」

フロリス『……浅いなぁ。ネタでやってないから余計に、うん』

上条「あれ、確か『廃仏毀釈』って習った憶えが……?」

上条「『仏教廃止だぞー』って政府が煽ってなんだかんだ、って教わったぞ」

レッサー「じゃお伺いしますけど、だったらなんで残ってんです?」

上条「残るって」

レッサー「ブッティズムのテンプル、日本でも国宝に指定されてますよね?結構な数だったと記憶してますけど」

上条「そりゃ……何でだろ?」

レッサー「もしも徹底されていたら残っていませんよねぇ。ならどうして残っているんですかー?」

上条「……なんでだろ?」

レッサー「えぇまぁ面倒ですから結論から言いますとね。基本的に当時恨まれてたトコが集中してぶっ壊されてんですよ」

レッサー「Edo時代に寺請制と本末制度で民衆からの不満を買いまくってた訳ですなー、怖い怖い」

上条「なら明治政府が扇動したみたいな説は?」

レッサー「状況証拠しかありませんけど――上条さん、日本には『オジゾーサマ』がありますよねぇ」

レッサー「なんであれは丸々残ってんですか?あれもブッティズムの像なのに」

レッサー「『人が守ってる神殿が壊されているのに、道端の石像が無事』って。私だったら反撃しない石像を壊しますけどねぇ」

レッサー「道端に鎮座している道祖神や庚申塔の類、特に地蔵菩薩・如意輪観音・馬頭観音・馬明菩薩・光明供等々」

レッサー「ほぼそのまま残っているのは何故でしょうね?」

レッサー「同様に名のある寺院が打ち壊され、反対に『村の鎮守様』みたいな小さな所は無傷」

上条「襲われるだけの理由があった?金銭とか」

レッサー「それも可能性の一つですかね。ま、それが正しければ『持ってる所全てが襲われていなければおかしい』とも思います」

レッサー「そんな訳であっちもこっちも宗教が腐敗してはぶっ壊されてます。それをまとめた学者はこう思い付きました」

レッサー「『人間が人間として在り続けるためには、幾つかの時代を生き抜き、段階を踏まねばならない』」

レッサー「私達のサイドの『イニシエーション(通過儀礼)』と似た考え方でしょうかねぇ」

上条「……出来ればもっと簡単に」

ベイロープ「『あ、もしかして人類が人類であるために、必要な手順じゃね?』」

上条「必要?どこが?」

レッサー「ま、人類って種が『ここ』まで来るには様々な敵が居ましたよね。それを時代ごとに分けて定義しただけです」

レッサー「一つめが『発生の時代』。マグマと硫酸の海で『ゆらぎ』から生命が生まれた時代を指します」

鳴護「『ゆらぎ』?」

フロリス『んーとねぇ、生命の揺り籠の中には生き物の材料は満たされてたんだけど、それだけジャン?』

フロリス『何もかもそろってんたんだケド、何も無かった世界。その「均衡」を崩したのが「揺らぎ」だって話さ』

上条「『揺らぎ』つっても……風?対流?」

ランシス『……「月」だって説がある……』

上条「海の満ち欠けか!」

鳴護「そうすると月は私達のお母さん、なのかな」

ベイロープ「月が出来た頃には今よりもずっと近くにあったし、地球の地軸の傾きも補正してるって説もあるしね」

レッサー「そもそも月自体、地球の一部だったって話、聞いた事ありません?」

上条「あ、知ってる。地球に大きい隕石がぶつかって、それで地球の一部が飛び出たって」

レッサー「ですです。アポロ計画で月の組成分析が始まって、今じゃそれが定説になっちゃってますがね」

レッサー「……だとすると地球が月のママンってぇ事なんでしょーかね……?」

上条「詳しいな、お前ら」

ベイロープ「こっちの業界でも月は大きな意味を持つのだわ。地球の双子なのか、子供なのか、ただのご近所さんなのか扱いは変わる」

ランシス『どっかのバカが蛇遣い座言いだして大混乱……』

上条「あー、あったなぁそんな事」

ベイロープ「ブリテンの新聞にネタ記事で出たのが広まって、ってパターンなの」

フロリス『提唱したのが「星座占い否定派の占い師」なんだから、タチが悪いっつの』

レッサー「話が盛大に逸れてますけど、二つめが『闘争の時代』ですな」

上条「前世紀の世界大戦?」

レッサー「いやいや確かにアレも戦いは戦いですけど、人類って種自体の危機ではなかったでしょう?もうちょい前ですよ」

レッサー「単細胞生物から分化、脊椎動物としての形質を獲得として、哺乳類というユニークを得た感じ、でしょうか」

上条「形質を獲得?」

レッサー「『人が人として在るために』ですからね。人が爬虫類や昆虫に恐怖するのも、白亜紀にご先祖様が喰われまくったせいだ、って仮説も」

ラシンス『……人に非ずとも、生物は遺伝子の乗り物……』

レッサー「おっ、ラシンスさん上手い事を仰いますよね!『だからあなたの遺伝子を下さい』とは中々に気の利いたプロポーズですよね?」

上条「それを本気で言っているなら、お前は、どこか、おかしい」

レッサー「いやだなぁ、好きな殿方には特別と思われたい乙女心の成せる業じゃないですかぁ」

上条「特別に警戒されるだけだからな?×印を大きくされるだけだからね?」

レッサー「でもって三つめ!『文明の時代』!」

上条「あー、何となく分かる。文字や発明、建物とか全般?」

レッサー「でーすねぇ。人類は第三時代で大きく他の生き物を引き離しました。それに異論は無いでしょうか」

上条「まぁやり過ぎじゃね?とか、身近な人間に思わないでもないけどさー……」

ベイロープ「それはマ――あなたが歩いた道にはないでしょうが。考えるだけ無駄なのだわ」

上条「……まぁ、そうなんだけどさ」

レッサー「……あのぅ、さっきから、っちゅーかこないだから不思議に思ってたんですがね」

レッサー「お二人の距離、妙に近くありませんかね?私の気のせいでしょうかね?」

レッサー「てーかベイロープ、元々こちら側の情報開示に否定的だったのに、今日はむしろ率先して説明しているような……?」

ベイロープ「――で四番目が『神殺の時代』」

レッサー「誤魔化されませんよ?後で追求しますからねっ!」

鳴護「ま、まぁまぁ。神様……?倒しちゃうの?」

レッサー「……えぇまぁそこで、先程の腐敗した宗教権力をぶち殺す、と言う話へ繋がるんですよねー」

上条「俺の黒歴史掘り返すの止めてあげて!?」

レッサー「人類は硫酸の揺り籠から発生し、弱肉強食の闘争を生き延び、文化を生み出し、宗教からも独り立ちする」

レッサー「以上の四つの時代を経て人間は人間たり得る、んだそーで」

上条「つーか良く知ってんな。この話科学サイドのだろうに」

レッサー「何言ってんですか上条さん。あからさまに宗教じゃないですか」

上条「……はい?いやでもさ、月の成り立ちがどうのとかって話じゃねぇの?」

レッサー「それ自体は科学ですけど、それを恣意的にカテゴリー分けして崇めるのは宗教なんですよ、えぇ」

レッサー「そうですねぇ……寒い地方の生き物、特に犬なんかは耳が小さくなる傾向がありますよね」

フロリス『じゃないと凍傷で壊死しちゃうかんねー。ま、人が連れてった品種は尻尾と一緒に切り落とすんだケド』

ベイロープ「逆に砂漠なんかだと耳は放熱も兼ねて広くなるの。ネコ化の動物なんてそうでしょ?」

鳴護「あー、ドキュメント番組で見ました」

ベイロープ「他にもコリー知ってる?毛の長い犬で、名犬ラッシーで割と有名」

上条「そのぐらいは知ってる。モッサリとしてて結構デカい犬な」

ベイロープ「ウチの――シェットランド諸島原産のシェットランド・シープドッグは、外見そっくりで半分ぐらいの大きさにしかならないの」

ベイロープ「何世代も厳しい気候で育ったから小型化した、ってのが学者の言い分ね」

上条「話を聞くに……進化したんだろ?だったら科学サイドの話じゃねーの?」

レッサー「あのですねぇ、なんつーか勘違いされている方が多いんですけど――」

レッサー「――『進化』って別に必然性はないんですよ、はい」

上条「はい?」

レッサー「ゾウ、居ますよね?おーはなが長いのねー、で有名なの」

上条「その歌は日本だけだと思うが」

鳴護「象さんの鼻が長いのは進化、だよね?」

レッサー「ですが『意図的にやった』んじゃないんですよ。たまたまです、たまたま」

ベイロープ「『環境に適応した訳ではなく、偶然環境に有利な変種が生まれ個体数を増やした』が、正解」

上条「へー。それじゃ人間が二足歩行するのも、体毛が薄くなったのも」

ランシス『視点が高い方が周囲を警戒出来たり……石器を使うのに有利……』

フロリス『他の動物の毛皮を着たり脱いだりすれば、幅広い環境に適応出来るからだーねぇ』

上条「んじゃ俺らがここに居るのも、偶然?」

レッサー「人間が発生した事に意味があるのか?」

レッサー「それは必然であるのか?」

レッサー「――どちらも答えは、NOです!」

レッサー「特に必然と呼ばれるような何かは無く、生物の多様性の産物には違いありません――ですが!」

レッサー「私が今言った四つの時代――『四時代学説(オラトリオ・ドグマ)』はごく一部の文化人類学者が提唱されている『宗教』なんですよねぇ」

上条「え、いや」

レッサー「考えてもみて下さいよ。四時代の一と二は良いでしょう。実際にそれらが無ければ、人間は生存競争で生き残れませんでしたしね」

レッサー「んが三と四、『文明を得て信仰から脱却』するのって、それつまり『文明を持っていなければ人間じゃない』つってんですかね?」

上条「あー……土着の人らとか」

ベイロープ「同じく『信仰から離れないと人間として独り立ちしてない』なんて、ウチの国の皮肉屋でも言わないのだわ」

レッサー「私達――と、一括りにするのは好きじゃないんですけど、所謂先進国の中にはある考え方があります。それは」

レッサー「『○○国は人権意識が低いが、我々とは積み重ねてきた歴史が違うのだから仕方がない。成熟するのを待とう』と」

レッサー「一見正論っぽい聞こえますけど、これ『人間として劣っているからまともな思考が出来ない』と言っているに等しい暴論です」

ベイロープ「より正しく言えば自分達がどんだけ他の文化を見下しているか、って事になるんだけどね」

レッサー「ですから『四時代学説』とは宗教なんですよ。必然性など無かったものへ、無理矢理規則性を当て嵌めただけの」

レッサー「『神が居ない信仰』……まぁ、皮肉っぽい言い方をすれば、ナチスのアーリア人学説と同じでしょうかねぇ」

フロリス『優生学を基軸にした話――これがまたタチが悪いんだよねー』

レッサー「まとめますとね。確かに人類にはある程度の共通項はあるんですよ、特に神話や文化で類似している部分は多々あります」

レッサー「魔術師は他の国の術式へ対して、自分達の用いてる術式のセオリーに当て嵌めて対抗策を取ったりしますしね」

レッサー「でもそれを科学でやろうとするとタチの悪い宗教に早変わりする、と」

レッサー「過剰な人類賛歌は人類を史上のモノと錯覚させ、やがては先鋭化しますでしょ?」

上条「しますでしょ、って言われてもな。つーかさ、これ何の話だったっけ……?」

レッサー「あー、話が飛び飛びになってしまいましたねー。最初は『全英大陸』についてお話ししようと思ってたんですけど」

レッサー「別に調子に乗ってペラペラ喋ってた訳ではなく、『四時代学説』は関係があるんですよ」

上条「関係?何と?」

レッサー「『濁音協会』の教典、十字教徒にとっての聖書みたいなものですかね。怒られそうな例えですが――

レッサー「――『胎魔教典(オラトリオ・カノン)』は『四時代学説(オラトリオ・ドグマ)』を基にして書かれています」



――キャンピングカー

上条「なんだって?って事は、連中は元々――」

レッサー「いえ、そんな事よりもベイロープを追求しましょうよ!サクサクってね!」

上条「大事な話をしてんだよ!?つーかここまで引っ張っといてスルーか!」

フロリス『んー?って言われてもワタシらが掴んだ情報ってこのぐらいだしなぁ』

鳴護「調べてたの?」

フロリス『うんにゃ。全部センセイの受け売り――てか何十年か前、サフォークに連中が出てヤったんだってさ。その時のハナシ』

ベイロープ「『必要悪の教会』は潰すのに執心して背景とかは考えないだろうから、って先生らレポート送って貰ったのだわ」

上条「へー、ちょっと読みたいな」

ランシス『……ラテン語、だけど……?』

上条「さ、残念だなっ!英語だったら読めたのに!英語だったら!」

鳴護「当麻君……」

フロリス『なんかもう痛々しい通り越して哀れだよねー』

ベイロープ「ん、まぁ要約したのが今の話だから、別に今更読む必要は――って何レッサー?」

レッサー「……ですからベイロープが妙に甲斐甲斐しいような……?」

レッサー「最初半分ネタで言っていたのに、んーむむむむむむ……?」

ベイロープ「普通だっての。疑いをかけられても晴らしようがないのだわ」

ベイロープ「フツーよ、フツー?何も変わってないわ」

上条「マジで?体調崩したとか、慣れない集団生活でストレス感じてるとかあるんじゃないのか?」

ベイロープ「まぁ変わったわよね」

レッサー・フロリス・ランシス「……?」

レッサー「……なんでしょうね、これ。一秒前に私へ『つべこべ言ってんじゃねぇ』と宣言したにも関わらず、あっさり翻しましたし」

フロリス『素直になった?しおらしくなった?』

ランシス『……?』

鳴護「……あからさまに、当麻君を贔屓してる、って感じかな」

ベイロープ「してないわよ。勝手な事言うんじゃないの」

上条「だよなぁ?」

ベイロープ「してるわよ、それが何?」

鳴護・フロリス・ランシス「……」

レッサー「あー……なんか読めたようなー……上条さん、ちょいとお耳を拝借」

上条「なんだよ」

レッサー「(四億と五千年前から愛してましたっ……!!!)」

上条「(お前は生物が陸上へ上がる前から好きだったのか――で?)」

レッサー「(最近スルーされるようになって悲しいです……あぁ以前の『も、もしかしてマジ告白かもっ!?』と慌てふためくリアクションをもう一度!)」

上条「(やっぱり俺をからかってただけじゃねぇかコノヤロー)」

レッサー「(ま、それはさておき。今から私がベイロープへ質問しますんで、繰り返して貰えません?)」

レッサー「(私の推測が当たっていればそれで判明すると思います)」

上条「(何か意味があるとは思えないが……)」

レッサー「(付き合ってくれないとご両親の所へ押しかけますよっ!)」

レッサー「(『当麻君に騙されて身も心も調教されました!』と、若干のフィクションを交えながら、えぇ)」

上条「(――よしやろう!さっさと終らせよう!)」

レッサー「(何が何でも『面倒はゴメンだぜ』という姿勢がステキですよねっ!)」

フロリス『もしもーし?どったん?トラブル?』

レッサー「いえちょいと悪巧みを――ベイロープさんっ!質問があります、Pardon?」

ランシス『どうして英語の使い方間違うの……?』

ベイロープ「どうぞ。こっちに答えられない事なんて無いわよ」

レッサー「では第一問。てか実は去年の秋頃から疑問に思ってたんですけど」

上条「なんだその無駄に長い溜め時間は」

レッサー「『新たなる光』――『N∴L∴』のロゴのジャケット作ったじゃないですか?」

フロリス『あったよねー。先生から「ワイのお祝いやで?今度は仲良ぉせなあかんよ」って』

鳴護「……謎の関西弁が入るよね、たまに」

上条「興味あるんだが、突っ込んだら蛇が出て来そうで怖い……」

レッサー「シャツ何枚かとスカート・スパッツ、あとスタジャンみたいなの貰ったんですが――」

レッサー「――どうしてベイロープはジャケット着てないんです?」

ベイロープ「ん?どうして、って言われても深い意味は無いわよ、特には」

レッサー「私達とオソロ着るのに抵抗ある、ってんじゃないですよね。シャツ着てますもんね」

ベイロープ「そうよ。恥ずかしいんだったら、こっちの服も着てないわ」

レッサー「はいここで、マナ2消費して『上条当麻』をフロントへ送り、『さっきの約束』能力を発動!」

上条「人をカードゲームのモンスターっぽく使役すんな……で、なんでジャケット着ないんだ?」

ベイロープ「その――っ!キツい、のよ……!」

上条「はい?」

ベイロープ「胸がキツくなっちゃって前が閉まらないの!」

レッサー「デーブーデーブーっ!ひゃっかんデーブー!お前のかーちゃんひーしょーじょーっ!」

ベイロープ「アナタって子はあぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」

レッサー「うっぎゃぁぁぁああぁぁぁっ!?テンパったおっぱいが私のおっぱいをおっぱいだ!」

フロリス『あと、普通のおかーさんは非処女だと思う』

ランシス『大工の嫁でもない限りきは……うん』

鳴護「……何か今、おかしな現象があったような……?」

レッサー「奇遇ですねぇアリサさん。私も同感です――では第二問!」

ベイロープ「あ、コラっ、逃げるな!」

レッサー「ズバリ、今のカップとサイズはおいくつで?」

ベイロープ「よし死ね!」

鳴護「セクハラの直球――当麻君?」

上条「い、幾つ、かな?」

フロリス『運転席からは見えないけど、セクハラオヤジはっけーーーん』

鳴護「それはちょっとどうかな、って思うよ」

上条「違うんだ!?これはレッサーが『同じ質問を繰り返せ!』って無茶ブリをだな!」

ベイロープ「――87、E、よ……っ!!!」

上条「血を吐くような表情で言う事じゃねぇな!?嫌だったら言わなきゃいいだろうが!」

レッサー「ふーむ。何となく分かってきましたよー――では最後の質問です」

レッサー「『何でこんな状況になっているのか、思い当たる点と理由を述べよ』ですね」

ベイロープ「あ、こらレッサー!」

上条「俺も知りたい。どうしたんだ、ベイローフ?何かちょっと変だぞ?」

フロリス『変……こんだけおかしいの「変」で済ますって』

ランシス『ま、ベイロープのキャラは……うん』

ベイロープ「……多分、てかはっきりとは言えないけど……」

ベイロープ「『銀塊心臓(プレイブハート)』の、副作用、だと思うわ」

フロリス『あー、やっぱりかー』

ランシス『だと、思った……』

レッサー「――え、使ったんですかアレ!?」

鳴護「魔法のお話?」

上条「えっと、確か……『心臓を他人へ託し、戦闘能力を上げる』みたいな話だっけ」

ベイロープ「歴史的にアレコレを省けばその通り。その副作用の一つが、多分、『コレ』よ」

レッサー「逸話じゃ『主君の心臓を掲げ、仲間の士気を上げる』みたいな感じですが、転じて『心臓を預け、その人のために戦う』みたいな」

レッサー「……アレ?そんな副効果ありましたっけ?」

ベイロープ「私が知りたいのだわ!気がついたらフォローしたり近くに居たり、妙な責任感が出て来たって言うか!」

ランシス『……ベイロープ、思い込みやすいから、うん』

鳴護「まとめると……騎士の誓い、みたいなのを魔法的に立てちゃったから、何となく引っ張られてる、かな?」

ベイロープ「……まぁ極端に簡略化すれば、そんな感じよ……」

レッサー「……」

ベイロープ「レッサー?どうしたの、あなたなら指差して大喜びすると思ったのに」

上条「ある意味信頼されてんな」

レッサー「……くっくっく、にゃーるほど。そういう事でしたか、へーぇ?ふーん?はーん?」

レッサー「ベイロープ!あぁベイロープ!今なら許して差し上げますコトよっ!」

上条「なんでお姉様口調?」

鳴護「それ、フィクションの中にしか存在しないんじゃ……?」

ベイロープ「なによ急に」

レッサー「今まで溜まりに溜まった私の恨み!ケツに始まってケツを毎日毎日虐められる毎日は今日終りを告げるのですよ!」

フロリス『言い方が卑猥だなー。てかワタシら直そうって言ったジャンか』

ランシス『女子校なんてこんな感じ……らしい』

ベイロープ「……つまり?何が言いたいのかしら?」

レッサー「あなたはもう私にとって脅威ではないと言う事ですよ、はっ!」

レッサー「ちょっとばかりおっぱいがデカくて、髪の毛がキラキラサラサラしてて、性格も男に媚びないからモテるからと言って調子に乗りやがりましたね!」

上条「それは調子乗っていいんじゃないか?つーか同性から好かれるタイプっつーか」

レッサー「んだが!今日であなたにケツをしばかれる日は終ったのです!」

ベイロープ「……だから、何だと、聞いて……っ!」

レッサー「よぉし上条さん言っちゃって下さいな!先程打ち合わせした通りにリピートアフターミー!」

レッサー「『もうレッサーさんの言う事には服従しなさい』と!さぁ声高らかに告げちゃってくださいなっ……!!!」

上条「……あぁ、そういう事」

鳴護「あのぅ、レッサーちゃん?悪い事は言わないから、今のウチに、ってかまだ致命傷になる前に謝った方が良いって言うかね?」

レッサー「邪魔しないで下さいな!今日という日は『明るい日』って書くんですから!」

フロリス『それ「明日」。今日は「今の日」』

上条「……えっと、ベイロープさん?命令良いですかね?」

ベイロープ「……どうぞ?」

レッサー「よーし!今日があなたのおっぱいの命日ですよ!」

上条「『レッサーに教育的指導』をよろしく」

ベイロープ「……イエッサ……ッ!!!」

レッサー「裏切られたァァァァァァァァァァァァァァァァァっ!?」

上条「反省しろ馬鹿野郎」

レッサー「くっくっくっ、ペイロープは我が四天王の中でも最も小物です!いい気になっちゃいけませんからね、上条さん!」

レッサー「『幻想殺し』に墜とされるとは、奴は四天王の面汚しでしょうか!」

ランシス『……でもある意味一番の大物……おっぱいとか』

レッサー「四天王にはまだまだ第二第三の刺客が……!」

上条「もう少しキャラ設定固めてから喋れ、なっ?」

フロリス『あ、ごめんレッサー。こないだも言ったケド、ワタシも裏切った方だから、ヨロシクー』

レッサー「また軽ぃですねっ!?……ってアイタタタタっ!?ヘッドロックは、ヘッドロックは地味に痛いです!」

上条「ズタボロじゃねぇか『新たなる光』」

鳴護「何度も何度も言うようだけど、当麻君は反対した方が良いと思うんだよね?人生振り返る、って言うかさ」

レッサー「てーかフロリスもいい加減にして下さいな!?私達の鋼の絆はどこ行ったんですっ!?」

レッサー「……って、STFは止めましょう?あれは素人が掛かったら抜けられませんよ!」

フロリス『いやでもなんかさーぁ、いい歳してオンナノコ同士で連むのって、イタくない?』

レッサー「薄々誰もが思っていたのに、敢えて言えなかった一線を越えてきましたねコノヤロー!ほぼ同意ですけども!」

ランシス『同性同士でツルんでて、気がついたら付き合い悪くなってる……恋人が出来たから、みたいな?』

上条「身につまされる例えだぜ……!」

鳴護「……あれ?今不特定多数から『ぶん殴れ』って意志が届いたような……?」

レッサー「上条さんの鬼っ!悪魔っ!高千穂っ!魔術結社ぶっ壊しといて言う事がそれですかっ!?」

レッサー「やはりここは責任って入社してみては如何でしょうかねっ!」

上条「結論は同じじゃねぇか」

レッサー「って訳でですね!そろそろベイロープも技を解いてほしいなー、なんて思ったりしますけど!」

ベイロープ「ゴメンね、レッサー?『命令』だから私がしたくてやってんじゃないの」

レッサー「嘘だっ!?だって嬉々としてやってるじゃないですか!」

レッサー「……あぁ、若さとはこれほどまでに嫉妬を買うのでしょうか……!」

上条「よし、出力上げていこうか」

ベイロープ「いやー仕方がないわねー、命令されたんだから仕方かないなー」 ギリギリギリギリギリッ

レッサー「ごめんさないもうしません許して下さい私のケツのHPはもうゼロ――」

レッサー「――んぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁすっ!?」



――キャンピングカー

レッサー「とある文化人類学の研究者はこう言いました――『人と幾つかの闘争の時代を繰り返す事で、人になり得たのだ』」

レッサー「『人はどこからか来て、どこかへ旅立つであろう――ならば』」

レッサー「『歩いてきた道があり、神はどこにおわす?』」

レッサー「『我々の”後”なのか、それとも”先”なのか?』」

レッサー「『この長い長いDNAを運んだ先にあるのは、一体……?』」

上条「おい、シャチホコみてーなポーズでそれっぽい事言っても、ネタにしか見えねーからな?」

レッサー「うっさいですよガイア!人が折角Aパートを無かった事にしようとしているのに!」

ランシス『……それ外野』

鳴護「お尻が痛くてフツーに座れないのは分かるけど、無かった事には出来ないと思うよ?」

レッサー「優しいですよねっアリサさん!褒美に私のケツをペロペロする権利を差し上げましょうか!」

鳴護「いえ、あの要らないです」

フロリス「それ、フツーにケンカ売ってるだけだから」

上条「ベイロープ」

ベイロープ「おっとこんな所に新しいイスが」

レッサー「ひきぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃっ!?なにやってんですかっあなたのケツ下には私のケツがディ・モールトっ!!!」

上条「リアルで『ひぎぃ』初めて聞いた……多分最後になるんだろうが」

レッサー「てーか重いですよ!その安産型でセクシィなケツをどかしなさいなっ!」

ランシス「……パニクって罵倒だか褒め殺しだか、分からなくなってる……」

上条「――んで、結局連中の教義はなんだったんだよ?何したかった?」

ベイロープ「『今』じゃなくて、10年以上前に活動を続けていた連中だから、参考になるかは分からないけどね」

鳴護「カルト、ってヤツなんでしょうか?」

ベイロープ「はっきり言えばそうなんだけど――今のネオ・ペイガニズムもそんなに変わらないのよ」

上条「ペイガニズム、ペイガニズム……えぇっと、昔の信仰を無理矢理復活させよう、って話だっけか?」

ランシス『正しくは「それっぽく」、ってつく……』

フロリス『カルトの定義自体曖昧だからねー。「狂信的な」だったら、あの国のあの宗教とか該当するしー?』

上条「おい、危ない事言ってんじゃねぇ!」

ベイロープ「『信者を騙して資産を巻き上げる』が定義だとすれば、バチカン銀行持ってるローマ正教も該当するわね」

ランシス『DANKA……から、カイミョーダイを巻き上げる日本の宗教もカルト……?』

上条「日本にまで飛び火させやがった!?」

レッサー「んま、そういう柵から抜けたくって飛びついたのが、今のペイガニズムでしょーかねぇ。最近は宗教の体を取ってない宗教、ありますでしょ?」

レッサー「『砂糖水で癌が治った!』とか、『自然のままに生きるのが人間の本来の姿なんだ!』とかとか」

レッサー「個人が個人でやるにはまだ勝手なんでしょうが、親がハマったら子供も洗脳パターンですからねぇ」

レッサー「Naturalistを『装った』変態性癖に巻き込まれて、児童虐待に巻き込まれるのもよくある話かと」

ランシス「原始人だって、服ぐらい、着てた……」

ベイロープ「で、脱線しそうだから話戻すけど、S.L.N.――正確には連中の『前』は一般的なカルトじゃなかったのよ」

上条「魔術結社って事か?……あれ、でもステイルが否定してたような?」

上条「『金儲けのためにクトゥルーを騙った』とか言ってたぞ」

フロリス『あー……アマいなぁ、甘々だってば、それ。騙される方もどうかと思うけどさ』

上条「なんだよ。ステイルが嘘吐いたっつーのかよ?」

上条「そりゃまぁ昔は色々あったけどな、今じゃしっかり共闘した仲でな」

レッサー「男同士での友情!芽生える愛情プライスレス!」

上条「ベイロープ」

ベイロープ「おっとこんな所にロデオマシーンがっ……!」

レッサー「ひぎゃーーーすっ!?これはもうロデオって言うよりは逆キャメルクラッチでは!?」

鳴護「間接が有り得ない方向へ曲がってる!?」

上条「あ、レッサーさんは訓練した魔術師だから出来るんであって、よい子の皆さんは真似しちゃ駄目だぞー?」

レッサー「なんですかそのリアクション芸人を追い込むみたいな前振りはっ!?」

フロリス『聞けよ話。つーか赤信号に突っ込むぞコノヤロー』

上条「逃げてぇぇぇっ!?フランスの歩行者さん早く渡っちゃってーーーーっ!」

フロリス『つーか『必要悪』の魔術師さ、『10年以上前に潰した』っつってなかった?』

ランシス『……時期的にウチの先生がしたのと一緒、だよね』

上条「言ってた。ステイル達の先輩達の時代みたいだな」

レッサー「ステイル・タチなんですねわかりま――げふっ!?」

ベイロープ「あ、ごめんね?続けて?」

鳴護「顔色一つ変えずに絞め続けるベイロープさん、怖いんですけど……」

フロリス『じゃあじゃあ、「どうしてタダのカルトなのに異端審問会が動いてる」んだっての』

上条「へ?」

ランシス『カルトが違法行為へ手を染めても、取り締まるのは警察……』

フロリス『バッカだなぁ。魔術師動員したんだったら、それそーおーの必然性があったって事だーよねぇ』

上条「ステーーーーーーーーーーーーーイルッ!?テメまた騙しやがったな!」

レッサー「『だがそんな所も嫌いじゃないぜ――いや!』」

レッサー「『むしろ愛し――げぼぐはぼごおおっ!?』」

ベイロープ「ちょっと待って……んねっ!今オトす、からっ!」

鳴護「レッサーちゃんの顔色が青を通り越して土気色になってるんですが……?」

上条「つー事は、なんだ。10年前の『濁音協会』も実は魔術結社で、って話かよ!?」

ペイロープ「『必要悪』は何故隠したのかのは分からない。終わった件だと高をくくったのか、自分達だけで始末をつけるつもりか」

上条「始末、って」

フロリス『他国では活動しない、って標榜してるけど実際には動きまくりだしねぇ?天草式とか』

上条「……まーた勝手にやってんのか。やってるよなぁ、あいつらの性格考えると」

ランシス『日本、行ってるんだよね……?それもきっと、本格的に攻撃する前に探りを入れてる……』

上条「あっちは俺に情報入れてる、と思ってたけど、実は小出しにしていたり?」

レッサー「いや、今までの所は無いでしょうね。なんせ、下手に情報隠されるとこちらでの対処は遅れますから」

フロリス『安曇阿阪の『蛇』属性に関しちゃ、ワタシが一番天敵だからねーぇ。対処も出来たし」

ベイロープ「『野獣庭園』の構成員を無力化させたのも、事前情報あって然りなのだわ」

フロリス「そんなワケでワタシ達に負けられると面子に関わるしー、情報を出し渋ったりはしないと思うよ、うん」

レッサー「でも逆に『相手を殲滅出来るチャンス』が来れば、断りもせずに粛々とするでしょうなー」

上条「有り難いような有り難くないような……」

ベイロープ「イギリス清教の組織だからね。ブリテンの国益に沿っている部分は多々ある――し」

ベイロープ「国家そのものの建前としちゃ『大多数の幸福』に動いているのは間違い無いのね。結果論か目的論か、怪しいのはさておき」

上条「『必要悪の教会』の話は分かった。『濁音協会』が粛正対象にあった魔術結社だってのも」

上条「んで結局、連中はなにやらかしたんだ?やろうとしてた?」

レッサー「『神様の降臨』です」

上条「――はい、かいさーん。お疲れ様でしたー」

レッサー「待って下さいよ!?なんですっ人が折角ボケたい衝動を抑えてマジレスしたってぇのに冷たい反応はっ!」

上条「夕飯作っけどリクエストある人ー?」

フロリス『パスタ!ラザニア!』

フロリス『……ボロネーゼ。あ、日本だとミートソース、だっけ?』

上条「アリサは?」

鳴護「お、おにぎりかな?ちょっと多めに」

上条「りょーかい」

ベイロープ「手伝うのだわ」

上条「助かるよ」

レッサー「全員でスルーっ!?今流行りのギルト内イジメですかっ!?」

上条「どういう状況だ。つーか魔術結社をネトゲーと混同するなよ」

レッサー「で、でも好きな殿方に弄られるのであれば……嫌いじゃないですよ、えぇっ!」

上条「どうしよう、段々手がつけられなくなってきた」

ベイロープ「まぁレッサーの言ってる事は本当よ。連中の経典、『胎魔経典(オラトリオ・カノン)』にはそれっぽい話が書かれている」

ベイロープ「日本語で書くと……こう、かしら」 ピッ

鳴護「『退魔』じゃないんですね?あと、『オラトリオ』も『カノン』も、確か聖歌だったんじゃ?」

ベイロープ「オラトリオは『聖譚曲』。カノンは……教会法、しきたり、みたいな意味合いで使っているのよ」

ランシス『……同行していた日本の魔術師のレポートもあるし、私達のレポートへ微妙にノイズが入ってる、かも……』

フロリス『先生から貰ったテキストには両方のが載ってたからねー。ラテン語版と参加した魔術師がそれぞれの国の言語で書いた版と』

レッサー「……すいませーん?あのですね、皆さんは謝罪って言葉をご存じですかねぇ?私に対して言うべき台詞があるんじゃないですかー?」

上条「よく分からないんだが――レッサー!」

レッサー「は、はいな?」

上条「つーまーりー?」

レッサー「説明しましょう!仕方がないですね全く!私が居ないと説明一つロクに出来ないんですからっ!」

フロリス『(れっさー……チョろい)』

ランシス『(これまたどっかでドジってNTRる展開になるんじゃ……?)』

ベイロープ「(あなたが言うな)」

レッサー「昔っからですね、魔術には究極の目的があったんですよ。なんだと思います?――はいっ、アリサさん!」

鳴護「え、あたしっ?」

レッサー「何他人事のフリしてんですか、『早く終わってご飯食べたいな−』みたいな顔してるんじゃないですよ!……って、まさか!」

レッサー「この上まだ腹ぺこ属性まで獲得するつもりでっ!?これ以上キャラ属性増やしてどうするつもりですか!?つーか私に一つぐらい下さいよ!」

鳴護「人を食いしんぼみたいに言わないで!?違うよね、当麻君っ?」

上条「……ちょ、ちょっと、食べる方じゃないかな?女のとしちゃ、よく食うかも、うん?」

鳴護「当麻君が裏切った!?」

上条「いや気にするほどじゃないって!俺の知り合いの女の子と同じぐらいだから!」

ベイロープ「え?食事の量が”アリサ:私達”でトントンになってるわよね?」

鳴護「皆さんダイエットでもしてるのかな−、なんて……違う、んですか?」

上条「レッサーさん、はいはい、はーいっ!問題に答えたいでーすっ!」

レッサー「良いお返事ですよ上条つぁん!では振り切って回答どーぞ!」

鳴護「あ、あの?出来ればウヤムヤにしたくないっていうか、ね?」

鳴護「この前出た食べ歩き番組でも、途中から『ARISAの限界は!?』みたいな主旨に変わっていったし……アイドルとしての方向性が、うん」

フロリス『(……アイドルいやって言ってる訳には、馴染んでるよねぇ)』

ランシス『(アイドル、って……食べ歩きしたっけ……?)』

上条「お金だと思います!やっぱり食うに困らないって最高ですよねっ!」

レッサー「ブッブー!もっと正確に」

上条「え、違うの?んじゃ……不老不死、とか?」

レッサー「それもハズレです!ちゅーか両方とも合ってますけど、もっと別の言い方で!」

鳴護「……万能の力を得る、みたいな感じかな?ほら、おとぎ話に出て来そうな魔法使いのイメージで」

レッサー「ぐぎぎぎぎっ!やりますねアリサさん!流石は某掲示板テレビ実況板で『カヂ大食いタレント十傑』にノミネートされるだけの事はあります!」

鳴護「初耳だけど!?あと心外すぎるよ!」

上条「暇人のネタ書き込みじゃねぇか」

フロリス『あとレッサーの無意味なチェックにちょっと引くわー……』

レッサー「アリサさんので大体合ってます。『万能の魔法使い』、それを言い換えると、さて?」

上条「すっごい魔術師?」

レッサー「お金も寿命も生死も思うがまま!この世に恐れる物はナイナイ!そんな存在は――!?」

上条「ものっそい魔術師?」

レッサー「第三次世界大戦で『右方のフィアンマ』はこう称されました!はい、どーぞ!?」

上条「頭イタイ魔術師?」

レッサー「――はいっ!と言う訳でね、昔から魔術師は大なり小なり『万能』を目指しましたよ、そりゃもうねっ!」

上条「あれ?お前諦めてシメに入ってないか?」

フロリス『せめて掠らせそう、な?チャンス三回で段々遠くなるってどういう了見?』

レッサー「人間の煩悩は百八つとブッティズムでは教えられていますが、とどのつまり要約してしまえば――」

レッサー「永遠の若さが欲しい、力が欲しい、死にたくない、ぐらいでしょうかねぇ」

上条「ま、三つ揃ってれば大抵は何とかなるしなぁ」

レッサー「で、その三つが備わった魔術師はもう魔術師とは呼ばれないでしょうね。あまりにも『人間』の範疇から離れ過ぎています」

レッサー「どれだけその頂きへ立てたかは分かりませんけど、彼らはきっとこう呼ばれたでしょうね――」

レッサー「――『神』と」



――キャンピングカー

上条「――ちょっと待ってなー、今パスタ茹でっから」

レッサー「あんだけ溜めたのにまたスルーですかねっ!?」

レッサー「てかいい加減私の扱いが酷いとPTAに直訴しますよっ!」

上条「謎の組織だなPTA。月極グループと同じで、そのウチ都市伝説として一人歩きしそうだぜ」

ベイロープ「待って。いやマジ話なのよ、大マジ」

ベイロープ「魔術師っては突き詰めると『神を目指す』って思想が根底にあるのよ」

上条「……え?じゃお前らも?」

フロリス『いやぁ流石にズバリそのものになりましょう、ってキチはそうそう居ないと思うぜー?今の時代は』

フロリス『そうじゃなくってさ、前にも話したジャンか――「獣化魔術」』

上条「ありゃハードウェアを変えて、肉体的なブーストしましょう、みたいな発想じゃなかったっけ?」

フロリス『ひょーめんてきにみーれーばー、ま、合ってるっちゃ、合ってる、かも?』

上条「なんで疑問系よ」

フロリス『だけどねぇ、「そいじゃなんで獣になろう思ったのか?」って思わない?どぉどぉ?』

フロリス『もしも当時の人間達が、獣へ下に見ていたらわざわざ獣化してまて力を得ようとは考えなかったんじゃないかな?』

ランシス『ネイティブアメリカンは「レッドマンを門に見立てて媒介にし、祖霊(トーテム)と繋がろう」だから……』

レッサー「そもそも錬金術ってご存じですか?賢者の石とかっつーの」

上条「あぁ。一回ケンカした」

レッサー「……キャリアは凄いのに、どうしてこう無関心なんでしょうかねぇ……?」

鳴護「ケンカ、良くないよ!」

レッサー「そしてまた恐らく生死を賭けた争いに、『めっ!』するアイドル……可愛いなチクショウ!」

ランシス『……レッサー、脱線脱線……』

レッサー「おっと取り乱しました!ポロリしちゃいましたよ!」

上条「その擬音はこんな時には用いないからな?つーか公の場所で言うなよ?絶対、絶対だからな?」

ランシス『どう聞いてもフってるようにしか聞こえない……』

レッサー「あー……西洋の古典魔術は強くオリエント思想を受けていましてね。具体的にはエジプトからメソポタミア辺り」

レッサー「ソロモン王の使役した72柱の悪魔なんて、思いっきりそこら辺の神様をぶち込んだりしていますし」

ランシス『……ネトゲーで「フェニックスは悪魔」って言うと、マジ引かれる……』

フロリス『「Lemegeton(ソロモンの小さな鍵)」にもしっかり載ってんにもねー、よしよし』

レッサー「時に上条さん、『錬金術の究極の目的は金を創り出す』ぐらいはご存じですかね?」

上条「『かね』と『金』をかけた、とか言うなよ?」

レッサー「……べ、別に悔しくなんて無いんですからねっ!?いい気になっちゃいけませんからっ!」

上条「涙拭けよ……予想以上に罪悪感がヒシヒシと」

ベイロープ「よく勘違いされてるんだけど、『金を錬成する』のが目的なのは間違いないのよ。けどその『何故しようとしたか?』は知らないわよね?」

鳴護「そりゃやっぱりお金が欲しいから、でしょうか?」

レッサー「いえいえ。当時の魔術師達にとっては『金を錬成するのが目的そのもの』だったんですよ。資産云々はまた別の話です」

上条「金……あ、もしかして金自体に魔術師的な意味があるのか?」

上条「エジプトっつったらさ、王様の仮面やらの遺産――」

ランシス『副葬品』

上条「――までガッチガチにキンキラしてるよな?」

レッサー「仰る通りですよ!流石は上条さん結婚して下さいなっ!」

上条「散々外していたのにこの持ち上げ方は褒め殺しにしか聞こえないな!」

鳴護「実質ばかにしているようにしか聞こえないよねー」

ベイロープ「……あー、おバカを補足しておくとね。古代エジプトの連中は伊達やジョークでミイラを作ったんじゃない」

ベイロープ「もしもそうなら、あんな大量の金塊を文字通り『死蔵』するよな真似はしないのだわ」

上条「生まれ変わりを本気で実践しようとしていた?」

ベイロープ「内臓を取り出してカノプス壺へ入れ、体をミイラにして復活の日を待った――では彼らに足りない『肉』はどうやって調達する?」

フロリス『その答えが――「黄金は神の肉体」ちゅー考え方だね』

上条「……つまり、『神様になるのに肉体は別の物で再構成すりゃオッケーじゃん!』みたいな感じ?」

鳴護「学園都市にもありそうな考え方だよねぇ」

上条「ありそうっつーか、あったっつーかな」

レッサー「その影響を受けまくったのがヨーロッパの錬金術士達ですなー」

レッサー「古くはメルクリウス派の魔術師達、プトレマイオスの天球観測所の人形ども」

レッサー「自分達こそがカドゥケスの黄金杖を受け継ぐんだ!と息巻いてたんですがね。ま、ノリと勢いだけは評価しますけど

上条「アウレオルスの『黄金錬成(アルス・マグナ)』は完成してたと思うんだけど」

レッサー「よく分かりませんけど、『神になった』って事でしょうかね、その人は?」

レッサー「どんな手段かは存じませんが、こっちのサイドに知られていないって事は失敗したんじゃ?違いますか?」

上条「……あのまま行けば……いや、無理か。万能に近い能力でもメンタルが弱すぎた」

ベイロープ「『獣化魔術』の話の時もしたけどね、結局『イノベーション』なのよ」

鳴護「蒸気機関車が出来て馬車が廃れ、自動車が出来て機関車も廃れ、と同じですか?」

ベイロープ「そうそう。今までは――少なくとも中世ヨーロッパまでの主流は『神へと至る手段』としての『魔術』がポピュラーだったのよ」

フロリス『補足っとくと「近づこう」も含まれるケドねー」

上条「……つまり、なんだ?『右方のフィアンマ』みたいな、『世界を俺様が救済してやろうクハハハ!』がメジャーだったんか……」

レッサー「実際に『救済』一歩手前までは行っていましたしねぇ。ある意味結果を出している訳ですよ、はい」

レッサー「他にも中国の仙道――道(タオ)の金丹作って仙人になりましょう、なんかはそのまんまですしねぇ」

レッサー「一時期はホンっト盛ん”だった”んですよ」

上条「過去形なんだな」

レッサー「はいな。流石に十字教があんな隠し球を持っていたのは意外ですが、あれは例外でしょう」

レッサー「有名どころでは『黄金の夜明け』の『黄金』も神を意識して命名したんでしょーがね」

レッサー「『イノベーション』――剣から銃の時代へ変わったように、魔術も時代が経つに連れて目的や手段も大きく様変わりしていきます」

ベイロープ「イギリス清教の魔術師、シェリー=クロムウェルが得意とする『イコノグラフィ』――」

上条「図像学」

ベイロープ「――は、『絵画の中へ埋め込まれた宗教・魔術的な象徴の解読』なんだけど、これ実は順番が逆なのよね」

上条「逆?」

フロリス『んー、「絵画は元々宗教的な目的で造られていた」んだって話さ。洞窟の壁画とか、明らかに信仰入ってんジャン?』

ランシス『スペインのアラタミラ洞窟壁画とか、ピラミッドなどの墳丘墓の壁画、とか……』

レッサー「昔々は紙自体が超貴重品でしたからねぇ、えぇ。石に彫ったり金属へ刻んだり、魔導書もなくて石版にしたもんですよ」

レッサー「で、現代に生きる魔術師達は『神になろう』なんて目的は……ま、少数派ですね。アンケート取った訳ではないので、推測ですけど」

レッサー「今じゃ術式だけでなく持ち運べる霊装を複数用意し、状況に応じて使い分けるのがメジャーでしょーかね」

レッサー「……ですがねー。なんつーかひっじょーに鬱陶しいんですが、魔術師じゃない分野に増え始めたんだよ、その『神様』が」

上条「……もしかして『ネオ・ペイガニズム』……?」

レッサー「Exactly――てか、前言いましたよね?『ネオ・ペイガニズムとは十字教の神に絶望した者がハマる』って」

ランシス『……神に失望して、逃げ出した先で自分達の理想の神を造り上げる……本末転倒』

上条「一応既存の宗教じゃなかったっけ?」

ベイロープ「っていう『体裁』の別物ね。嘗て崇めていた血すらも流れていない、偽物よ」

レッサー「よくHuman Sacrifice(人身御供)を指して『なんて残酷で野蛮な風習なんだ!』的な風潮がありますが――」

レッサー「いや、だったら十字教徒の神の子は『人の罪を一身に背負った』んであり、生贄と何が違うっちゅー話ですな」

上条「はーい先生!しつもーんでーす!」

レッサー「先生のバストはDですけど?」

上条「聞きたくな――い事はないけども!そっちの話じゃねぇよ!」

レッサー「ちなみにベイロープ→アリサさん→私→フロリス→ランシス→学園都市第三位の序列となっております」

鳴護「人の個人情報勝手に!?」

フロリス『え、何言ってんの?ホームページとフェイスブックに載ってたし』

鳴護「え?あたし、知らない……?」

ランシス『……アイドルのブログは大抵事務所が更新している……』

上条「あとどうしてお前らが御坂の個人情報を把握してんだよ」

ランシス『んー……路上でマッパになった同士……?』

上条「詳し――あ、ごめん、やっぱいいや」

ランシス『おい、どうして食い付かないのか説明して貰おうじゃないか、あ?』

レッサー「ランシスのキャラ作りがバレる前に話を戻しますが、何でしょう?」

上条「安曇氏族の話を聞くと、生贄は『率先して捧げてはいなかった』んだよな?」

レッサー「あの場合は、ですね」

上条「でも南アメリカで、ほら、アステカとかインカとか、あんじゃんか?あれは生贄が目的じゃないの?」

レッサー「うーむむむむむむ……あのアステカ・インカ文明にはまだまだ謎が数多くありましてね」

レッサー「マチュピチュなどの高地遺跡を見る限り、あの規模で人口を維持出来ないんじゃね?みたいな学説が」

上条「えーっと?どゆこと?」

ベイロープ「マチュピチュは標高2400mの高さにある都市なんだけどね。もしもあの都市に規模に合った人数で住んでいたら、人口を維持出来ないのよ」

ベイロープ「あれだけの高地で恒常的に採れる農作物が無いから」

レッサー「インカ・アステカ帝国は低地に農地を持ってましたから、そっちから移送したってのが現在支持されていますがね」

レッサー「ただ同帝国では、他の地でも結構な頻度で人身御供が行われており、それ自体は人口調節――一種の間引きも兼ねていた、とする学説もありますよ」

上条「最初は必要に迫られていたのが、段々宗教的な意味を持つようになった?」

ランシス『……けど、ドルイド信仰は積極的に戦争してまで、生贄を欲しがってた、し?』

ベイロープ「その学説聞く度に思うのだけど、『もしもドルイド達に人口的な余裕があったら戦争を起こさない』じゃないの?」

ベイロープ「自分達のコミュだけで完結出来る――要は、余剰人口があったんだったら、わざわざ戦争仕掛けてまで人欲しがる意味が無いのよ」

レッサー「ま、戦争自体も、そのコミュにあった適正人口を保つ手段かも知れませんがね――で、ですが」

レッサー「今言ったようにHuman Sacrifice一つとっても、民族の歴史や生活、そして環境の多大な影響を受けている訳なんですよ、えぇ」

レッサー「それを全部すっ飛ばして、しかもまず間違いなく信仰の核であった『生贄』要素を排除して騙られる『ネオ・ペイガニズム』」

レッサー「自分達に都合の良い部分を切り取って、時には余所から引っ張ってきたりして、キメラみたいな醜悪な代物」

レッサー「それが『本物』である筈がありません。正統な魔術師から見れば噴飯ものでしょうな」

上条「……結果、勢力を伸ばしたのが、『クトゥルー』なのか?」

レッサー「その殆どは怪しい新興宗教でしたがね。S.N.L.――10年以上前に存在したヤツは、そこそこの”黒”魔術結社だったらしいですよ」

上条「その教義は?連中は何をやらかそうとした?」

レッサー「――ここまで長々と話して、何となく察しはついてるんじゃないですかね?それとも気づいてないフリですか?」

上条「……」

レッサー「嘗ての魔術師が目指した栄冠、そもそも彼らは最初からそう予告していたじゃないですか……ま、そういう意味では一貫していますが。憎ったらしい事に」

レッサー「『濁音協会』がやろうとしていた事、そしてやろうとしている事は今も同じ、そう――」

レッサー「――『Lord is coming!(主は来ませり!)』ですよ」



――キャンピングカー 朝

上条「……」

上条(キャンピングカーの朝は早い……事も、無い)

上条(……ざっくばらんに、超簡単に内装をもう一度把握しておこうか)

上条(元々は”FS31”って市販の車へ手を加えた仕様らしい。通称『モーターハウス』」

上条(広さは……そうだなぁ、リビング兼キッチン兼バストイレ部分が二坪半?細長いけど)

上条(で、車の一番後ろにはダブルベッドが置ける二坪の個室……だったんだが)

上条(アリサ用に一坪半が割かれ、俺用の部屋は細いベッドがあるだけ……最初見た時、トイレ?って思ったぐらいだぜ!)

上条(しかも何故か俺の部屋だけ『外』から鍵がかかる仕様だよ!やったね!)

上条「……」

上条(……うん、信用が、ね?信頼関係って難しいよな……?)

上条(……ま、まぁまぁまぁまぁっ!でも凄いんだよ!停車するとだな、住居部分の床がスライドして広くなるんだよ!)

上条(前の部屋は四坪ぐらいになるし、アリサの部屋だって二坪だ!凄いよな!)

上条「……」

上条(……俺の部屋は狭いままなんですけどねっ!もう少し気を遣ってくれてもだな)

上条「……」

上条(……悪い事したか、俺……?心折れそうなんだけど……えぇっと……)

上条(あぁ、レッサー達は前の部屋のソファを倒してベッドにしている。あと車体の上にある出っ張りがダブルベッドになってるし)

上条(車の運転席へは住居部分からも行ける造り。マイクとスピーカーもあるんで、住居と運転席で会話も出来る……)

上条(備え付けのトイレとバスタブも完全防音設計。ぶっちゃけ有り難いっちゃ有り難――いよ?別に残念だとか思ってないよ?全然全然?)

上条(更に!何とキッチンが超凄い!)

上条(IHコンロにスチームレンジ!しかも市販されてるヤツじゃなくて、学園都市製の最新型だ!)

上条(何とな、最新式のレンジにはホームベーカリー機能がついているんだよ!)

上条(小麦粉その他を入れてスイッチポン!そのまま数十分待つだけで、何とフッカフカのパンが出来上がるんですって!パンが!)

上条(毎日新しいパンが自宅で食べられる!しかも材料さえあれば無限にパンが錬成される……!)

上条「……」

上条(……寮、帰った時、辛いだけじゃねーか……オーブンだけでも貰えないか頼んでみよう……)

上条「……」

上条(……まぁ、その、なんだ。問題がね、一つあってだよ)

上条(キャンピング”カー”なんだよな。車は車だ)

上条(ウチよりも設備・広さ共に上であっても住居じゃなくって車なんですよね、はい)

上条(だから、まぁ、ね?当然なんだよ、当然なんだけど運転する人が必要な訳で――)

上条「……」

上条(今はレッサー達が交代で運転しているんだよ、うん、まぁ、多分もう俺がキョドって訳には気づいたと思うけど)

上条(旅が始まって2日目か。俺は景色が見たからったら、助手席へ載せて貰った時の話だ)

上条(山道を平然と100km超で走らせるフロリスへ、俺はこう切り出したんだ)

上条『しかしアレだな。ヨーロッパってやっぱ変わってるよな』

フロリス『どったの突然?ちゅーかワタシらDISってんのか?あ?お?うん?』

上条『キレる意味が分からんが……じゃなくて、自動車免許取れんの早いんだなって思ってさ』

上条『レッサーやランシスは俺より年下だろ?フロリスは同じぐらいだし、ベイロープは18ぐらい?』

フロリス『あー、うん、大体合ってるねぇ。年齢は』

上条『しっかし全員免許持ってて良かったよなー。よくよく考えてみりゃ、俺達免許取れる歳じゃないし、誰かが運転しなっきゃだし』

フロリス『……は?免許?取れるワケないジャンか、何言ってんの?』

上条『――へ?』

フロリス『つーか知らない?ベイロープなら取れんのかな……あー、取りたいけど、カネ無いっつってたっけ、こないだ』

上条『……えっとぉ、その、お聞きしたいんですがぁ……?』

フロリス『「お伺いしたい」が、正しい聞き方だぜジャパニーズ?』

上条『お伺いしたいんですけど!是非に!』

フロリス『トップ82のアンダー66のCカップだよ言わせんな恥ずかしい』

上条『そりゃ恥ずかしいだろうさ!貴重な個人情報をありがとうな!』

フロリス『ちっちっち、こう見えてもウエストの細さにゃ自身があるっつーの!』

上条『違うもの!?俺そんな話はしてないもの!?』

上条『てか君らは無防備すぎますよ!?もっと危機感持ちなさいな!』

上条『まずそれ以前に今っ!生命の危機に瀕しているんじゃねぇのかっ!?』

フロリス『ウッサいなぁ。昨日からずっと事故ってないジャンか』

上条『結果論じゃん!?つかそれ春先に無免で事故るDQNの理論だ!』

フロリス『まー、感謝したまえよ?こんな事もあろうかと前々から訓練――』

フロリス『……』

フロリス『――よっし!スピード落とそうか!』

上条『テメコラ何言いかけた?俺の予想じゃ、「訓練しようと思ってたんだけど、やっぱ忘れてた」じゃねぇの?あ?』

フロリス『まーね。ま、気にすんなよ、全員無免許だから』

上条『おまわりさんは?ポリスメンに逢ったら逮捕されるよきっと?』

フロリス『あー、そん時はさ。ダッシュボートの下、見てみ?』

上条『お、おう……なんだこれ、輪ゴムで紙束が止められてる?』

上条『映画とかでよく見る感じの、モンモン入った粉物業者が取り扱ってるアレじゃねぇの、これ?』

フロリス『ちょっと取って?……そそ、これこれ』

上条『……なんかもうオチが読めちゃったよ!定番過ぎるし!』

フロリス『それをこう、胸元に挟んでだねぇ――』

上条『おいバカ止めて!?運転中に寄せて上げるポーズでおっぱいを強調するな!?』

フロリス『――ホラ、取ってみ?』

上条『罠だーーーーーーーーーーーーーーっ!?』

上条『騙されないぞこの悪魔め!きっとそこへ手ぇ突っ込んだら人生詰むに決まってるさ!』

フロリス『ってのはジョークだけどさ。こっちの警官ってゲイばっかだかんね』

上条『あ、でもフロリスさんボリューム的に余裕がないっていうか、逆に俺が余裕が取り戻せたって言うか』

フロリス『甘いぜ!ワタシはまだ変身を一回残しているのさ!』

上条『へー?ふーんはーん?あぁそうですかー?』

フロリス『信じてないねー?後悔しても知らないよー?』

上条『やって貰おうじゃねぇか!ある意味男の憧れるシチュエーションの完全版とも言える、その姿から踏み込めるもんならさ!』

フロリス『あ、下に落ちちゃったぜ』

上条『……下?……下ってどこ?視線からして座席じゃないよな?』

フロリス『ん、取って……いいよ、よ?』

上条『おいバカ上目遣いで見るんじゃねぇ!?帰って来い俺の理性!あれは絶対に罠に決まってるから!』

フロリス『あーもう、ブラの隙間に入っちゃったジャンか。ハンドルから手ぇ離せないから取ってよ。ホラホラ、ハリハリー!』

上条『……くっ!?「ハンドルから手を離せない」なんてそれっぽく聞こえて、全く理屈になってない理屈が凄く尤もらしいぜ!』

フロリス『ちょっと何言ってるか分かんないですね。テンパってるのはよく分かるケド』

上条『「そ、それじゃちょっとお邪魔して……?」なんて言うと思ったか!?』

フロリス『オケオケ。中二病発症者みたいに、左手で右手を抑えてるけど、特に深い意味は無いと』

上条『俺の話はいい!それより君たちは本当にガードが甘すぎる!』

フロリス『てか、マジ取ってよ。なんか挟まっちゃって擦れてイタイし』

上条『あ、そ、そう?フリじゃなくて?』

フロリス『そそ、だからこれ必要なんであって、抜け駆けとかそういうんじゃナイナイ。ナイアルよ?』

上条『そ、そっか?だよな、人助けなんだもんな?じゃ、ちょっと失礼し――』

レッサー『ちょぉぉぉぉぉぉぉぉっっっっと待ったぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!』

フロリス『お、ナイスタイミング』

上条『違うんだ!?これはきっと敵の魔術師の攻撃が!』

レッサー『それは罠ですよ上条さん!あからさまに罠に決まってるじゃないですか!えぇもう狡猾なっ!勉強になるじゃないですか!』

フロリス『はぁ』

レッサー『そんな中途半端な乳を選ぶんじゃなく、この私の将来性間違い無しのおっぱいで間違いを犯しましょうか!』

上条『うん、だからね?日本では草食系男子とかって言われてるけどさ、別に肉食止めたってワケじゃ無いんだよ、これが』

上条『明らかに毒物混入されてる肉や、蛆が湧いてる腐肉を食卓に載せられて、「さ、新鮮で美味しいですよ?」って言われても食べないだけであって』

上条『回転寿司で干涸らびたネタが延々回ってる側で、同じ値段で握ったばっかりのネタがあれば、誰だってそっち取るに決まってるからな?』

上条『年甲斐もなく美魔女だかなんだか、自分の事客観的に見られないっつーのに』

上条『上から下までブランドものでキメて、バームクーヘン並の顔面工事したって、それはミノカサゴの警戒色にしか見えねぇんだよ!』

上条『夢を見るなとは言わないし、似合ってないとも言わない!好きな服着るのも化粧するのも自由だよ!勝手だよ!』

上条『けどな、せめて!「若い子と同じ格好したら、周囲からどう思われるか?」ぐらいには自力で気づけ!な?』

上条『お前らが参考にしてるであろうアパレル紙は、「小金持ってて生活感に乏しいカモ」ってしか認識してねぇんだからな!?』

レッサー『……実感こもってますねぇ。トラウマでもあったんでしょうか』

フロリス『ババ――えぇっと、Ms.が痛々しいと周囲から浮くかんねー?仕方がない仕方がない』

レッサー『おや?もしかしてこれは「全然関係ない話を振って、何となくごまかそう」って流れじゃないんですかね?私の気のせいでしょうか?』

ベイロープ『――よし、ちょっと、頭冷やそうか?』

上条・フロリス・レッサー「……ごめんなさい」

上条「……」

上条(……あるぇ?何か結局ウヤムヤにされて、免許がどうなのか聞けなかったような……?)

上条(持って無いっぽいのは確実だけど……)

上条「……」

上条(だ、大丈夫さ!こっちは現役の魔術師が四人もついているんだし!)

上条(『若さ≠実力』なのは、嫌ってぐらい思い知らされてるしな!)

上条「……」

上条(……えぇと、だ。何の話だっけ?俺は一体何が言いたかったのか……?)

上条(……そうだよ、回想なんてしてる場合じゃない!俺は現在進行形でピンチに立たされているんだ!)

上条(……分かってたさ、あぁ!どれだけ現実から逃げたって、現実が追いかけて来るって事はな!)

上条「……」

上条(……さて、そろそろ俺の現状を話そうか)

上条(シャットアウラが用意してくれたキャンピングカーは概ね好評だった)

上条(俺達のパーソナルスペース――プライバシーもある程度確保してくれた上で、快適……うんまぁ、快適だよ?俺の扱いがぞんざいな事以外は)

上条(外装も怪しげなARISA痛車に変更出来る。他にも、戦車装甲も貫通する対物狙撃銃にも耐えられる!)

上条「……」

上条(……どんな状況?それもう色々終わってる感が、うん)

上条(……まぁ、キャンピングカー、っつーか。この手の車には欠点があってだ)

上条(やっぱり『燃費』が悪いんだそうで。ファミリーワゴンを重装甲にした感じ?だから余計に重くなっちまう)

上条(学園都市製の技術を使っても、一般的な車と同じぐらいが精々なんだと)

上条(それにプラスして生活用品の重さ。家具や衣料品もそうだけど、一番やっかいなのは『水』だ)

上条(フロにトイレにキッチンに洗濯で。10代の男女六人をカバー出来るのは精々二日、節約して三日が限界らしい)

上条(だもんで、俺達は適度にオートキャンプ場を回っては水を買い、ついでに一泊したりな)

上条(……吶喊走行しちまえばいいんじゃね?と俺は言ったんだが、そうする悪目立ちするのは確実な訳で)

上条(結局、普通の旅行者のように適度な遅さで行くのが怪しまれないと)

上条「……」

上条(……ま、慣れたとは言え、昼夜問わずにずっと移動しっぱなしだと、ストレス感じるしな?道理っちゃ道理だ)

上条(俺違が今しているように、夜は適当な場所へ停めて一泊したりっつーか)

上条「……」

ランシス「……すー……」

上条(今は、あー……朝の6時半、起きるには丁度良い時間だよ。時間はな)

上条(日本と違って緯度が高いから、こっちは日が出ている時間が長い。イメージとしちゃ……そうなぁ)

上条(日本での夕方五時ぐらいの明るさ、あれが夏だと夜九時ぐらいまで続く。昼間が長い……そんなテーマで不眠症になった映画があったような?)

上条(反対に冬は夜が長く、寒さも厳しいんだわ。思ったよりも雪は降らないけど)

上条(ちなみ俺が一番カルチャーギャップ感じてんのは『水』)

上条(イギリスやEUで蛇口をひねって出てくる水は大抵硬水。勿論俺達がキャンプ場で買ってんのもそれ)

上条(鉱物含有量が多く日本人が呑むとエグみを感じる。正直、飲みにくい)

上条(こっちの料理人はわざわざ軟水の天然水を探したり、特殊な処理を加えて料理に使ったりするんだ。少なくとも俺が見てきた限りじゃ)

上条(だからあちこちで水のボトルを持ち歩くのが一般的……軟水が水道水の日本だと、あんま意味ないんだけどなぁ)

上条(「ガイジンよく水のペットボトル持ってる格好良い!」的な、ファッション感覚なんだろうが。逆ダサい)

上条(補にも……ネタでもジョークでもなく、硬水使った洗濯は時間がかかる。全自動式の洗濯で約二時間だ、二時間。嘘じゃないぞ?)

上条(……車にも大型のランドリーみたいなのついてんだけどな、ホラ?一緒に洗う訳にはいかないじゃん?心理的にも?)

上条(……そこはベイロープが率先して手伝ってくれてるから、今んトコラッキースケベは起きてない……あぁ)

上条「……」

ランシス「……くー……すぅ……」

上条(てな感じで朝だ!今日も元気に一日が始まるよ、やったね!)

上条(近くの朝市まで足を伸ばそうか!野菜と牛乳を買って、ついでに肉も売ってればラッキーさ!)

上条「……」

上条(……いやいや、大丈夫だよ?全然全然?俺は落ち着いているさ、これ以上無いってぐらいには)

上条(よぉし思いだぜ俺!昨日の夜は何があったのかを!)

上条(そうすりゃ、さっきから俺の横でくーくー寝息を立ててるランシスさんが理解出来る筈!なぁに楽なミッションさ!何ともないぜ!)

ランシス パチッ

上条(あ、目開いた)

ランシス「………………くぅ……」 ギュッ


 その瞬間、俺は重大な勘違いをしていた事に気づいた――いや、もしかすると知っていたのかも知れない。そうだ、きっと。
 一度知ってしまえば引き返せない道、ってのはあると思う。やり直しがきくとか、潰しがきくとか、そういう話じゃなくって。もっと単純な話。

 俺がさ、戦い続けてきたのは別に大した考えがあった訳じゃない。
 世界平和?人類愛?そんなもんとは常に無縁だったかな、少なくとも俺は見た事がないが。

 目の前の友達や関わった奴、そいつらが理不尽な世界や生き方をしてんのが気に入らねぇ。たったそれだけの下らない自己満足で何度も何度も死にかけてきた。
 ……どう言いつくろったって、俺は俺のために拳を振り上げてきたんだよ。あぁ。

 けれど、でも、しかし。

 俺は、気づいた気づいちまったんだ!
 俺が守ってるつもりだったんは、実は守られているんだって。そんな単純な話なんかじゃないと!

 俺は言いたい。いや、もっと早く気づくべきだった!今まで蔑ろにしていた事が、どれだけの罪であったのかを知るべきだった!
 それをして何が変わる訳ではない。けれど、けれどだからこそ俺ははっきりと言わなきゃいけないんだ……!


上条「……ちっぱいも――」

上条「――アリ、だな……ッ!!!」

レッサー「長々と考え込んで出した結論が『おっぱいに貴賤はない』、ですかコノヤロー」

上条「レッサー!?これは違うんだっ!?」

レッサー「何ですか違うって!?上条さんの不潔っ!えっちっちーーーっ!」

レッサー「どう見てもランシスが上条をだいしゅきホールドしてる以外には見えませんが何かっ!?」

上条「そんな用語はないと言っておく。つーか、これ前にもアリサのベッドへ潜り込んで大騒ぎしたばっかだろ」

レッサー「女の子と男の子じゃ意味合いが違いすぎますよっ!?説明しなきゃ分かりませんかねっ!」

上条「いやまぁ、そりゃそうだけどな」

レッサー「女同士だったら百合でも、男女だったらノーマルじゃないですか!?レア度がダンチですよっ!」

上条「そんなカテゴリー分けはしてない。お前も混乱してんじゃねぇか、落ち着けよ」

ランシス「……んーむぅ……ナニ……?」

レッサー「なにやってんですかランシスっ!?そこは私の特等席だってのに、いつの間にっ潜り込みやがったんですかっあぁ羨ましい!」

上条「俺のベッドは俺のもんだと思うよ?どんな超理論をしてもな」

ランシス「あー……うん、ごかいごかい」

レッサー「五回!?五回もやってたんですかっ昨日はお楽しみでしたよねっ!」

上条「してねぇわ!」

レッサー「前から後からと口で三回!残りはどこでしたんですかっ!?」

レッサー「むしろこっちに回しなさいな!既成事実だけ作れれば用済みなんですからねっ!」

上条「……あれ?朝からレッサーさんの信頼度が下がっていくぞ?」

ランシス「胸……?」

レッサー「え?ついてましたっけ?」

ランシス「私のバストに文句があるんだったら聞こうじゃないか、あぁ?」

レッサー「貧乳はステータスだとか言いますけどねっ、それは敗者の戯言に決まっていますよ!だって持ってたら自慢しますもんね!」

上条「お前いい加減にしとけ、な?『新たなる光』で内部抗争とか起こしたくないだろ?」

レッサー「私が調べた所に拠りますと、『人体の約70%はおっぱいで出来ている』と言っても過言ではありません!」

上条「過言過ぎるよな?なんでおっぱいが水分みたいになってんの?」

上条「つーか謝れ!杉田玄白先生に謝って!?人体構想がそんなに単純だったら、解体新書書いてないもの!」

レッサー「同じく私調べですが、『ミドルティーン男性は、脳の約70%がおっぱいで占められている』と」

上条「過言じゃねぇな?それ確かに過言じゃないけども!俺らはいっつもそんな事しか考えてねぇけど!」

ランシス「……どういう調べ方をしたのか気になる……」

フロリス「……あーもーウルサーイ!何時だと思ってんのさ!?」

ベイロープ「別に早いって訳じゃ無いでしょーが。ほら、さっさと顔洗う」

上条「……」

鳴護「――あ、おはよー当麻君……ってどうしたの、頭抱えて?」

上条「……何でお前ら朝からクライマックスなんだ……?」

鳴護「あー……うん、多分なんだけど、ね」

鳴護「『毎日が修学良好』みたいな感じ?」

上条「一々ツッコミで全部拾う身にもなれよぉぉぉぉぉぉぉっ!?なあぁっ!」

上条(……と、こんな感じにね。全力ツッコミをする一日がまた始まる、と)



――オートキャンプ場 食堂

レッサー「てか、前々から気になってたんですけど――鳴護アリサさん」

鳴護「えっと……はい?改まって、何かな?」

レッサー「芸能界、てか業界のお話聞かせて貰っても構いませんかね?私、実は興味津々でして」

上条(朝食作るのもタルくて、昨日泊まったキャンプ場でメシ食い終わった後、唐突にレッサーが切り出した)

上条(正直、俺も聞きたかったんだが、ウザがられると思って自重してた)

上条(……ま、そんな余裕が無かったのも確かなんだけども)

フロリス「あー、ワタシもワタシも!」

ランシス「……」 コクコク

ベイロープ「自重しなさいな。あんま聞かれてもウザいでしょうが」

鳴護「あ、いえ、構わないですよ。こっちも色々教わってますし、おあいこって事で」

ベイロープ「……こっちの『業界』は知らないんだったら、それに越した事は無いんだけど、ね」

鳴護「歴史とか苦手なんで、結構楽しいですよ?」

フロリス「まーね。オカルトって突き詰めれば、宗教と文化をミキサーにかけて濾したよーんモンだし?」

ランシス「歴史年表叩き込むより、背景にある文化と一緒に憶えられるから……お得」

鳴護「じゃ、何を話せば良いんですか?業界って歌手って意味ですよね?」

レッサー「あ、いえ、アイドルでお願いします!」

鳴護「アイドルじゃないよ!?枠的には『歌唱力も高い』って褒められてるもん!」

上条「歌唱力”も”っつってる時点で、『本格派!』と言う名のアイドル枠だと思う」

レッサー「なんつーかですね。私もこう見えて、この業界へ入らなかったらアイドルになりたかったんですよ、えぇ」

フロリス「……そーなの?初めて聞いた」

上条「ま、見た目と性格のギャップ考えれば、人気は出そうだよな」

レッサー「ですよねっ!実はおしとやかなのにエロ可愛い小悪魔系美少女のレッサーちゃん、世界ツアー組んじゃいますよねっ!」

上条「そんな事は言ってない。お前のどこにおしとやか要素があるっつーんだ」

ベイロープ「フランスでやらかして国際問題になるわよね、間違いなく」

ランシス「ドイツ公演でハーケンクロイツ掲げて投石されそう……」

レッサー「やだなぁナチなんて眼中に無いですよ。良い感じで復活しそうなのに水を差しに行くなんてとてもとても」

レッサー「私ゃただ『ギュンター=グラスを差別するなヒットラーの尻尾ども!』って中指立てて来るだけで」

鳴護「えぇっと、誰?」

ベイロープ「気にしなくて良いわよ?『人格に関係なくレッテル貼って攻撃するのは戦前戦後と変わってねぇな』とか、関係ない話だから」

レッサー「――んでぇっ!どうなんですかっ、アイドルとしては!」

鳴護「そんなフワフワっとした聞かれ方しても……」

レッサー「ふなっし○の中の人って居るんですかね?」

上条「あれは中の人のキャラで売ってんだから、そこは突っ込まないであげて!」

鳴護「アイドルですらもう関係ないし……」

レッサー「では真面目に……ズバリ、私生活どうなってんですか?」

鳴護「それもうアイドル関係ないよね?プライベートだもんね?」

上条「つーかアイドルの下り全否定じゃねぇか!」

レッサー「あー、すいませんすいまっせーん聞き方が悪かったです」

レッサー「そうではなくてですね、プライベートな時間ってあるんでしょうか、と?」

鳴護「あー……スケジュール大変だよね、って意味?」

レッサー「ですです。ほら、よく秒刻みで予定が組まれてる、みたいなのあるじゃないですか?まだ学生さんなのにスゲェな!的な」

鳴護「えー、ないよ?学校でお勉強しなくちゃだし、学生の間は学業中心だって事務所の方針で」

上条「事務所ってかシャットアウラじゃねぇの?」

レッサー「ほっほぅ。ボイトレされてるのは毎日聞いてますが、平日はあのぐらいだと?」

鳴護「んー、どうだろうねぇ。あたしは歌中心だから、暇な時間――授業中とか、曲書いちゃってたりするしなー」

ベイロープ「授業中は『ヒマ』じゃないのだわ、多分」

フロリス「えー、興味ない授業は持て余すジャン?」

鳴護「あ、あはは。まぁまぁあたしの授業態度はともかく、他のアイドルさんはもっと大変みたいだよ」

上条「大変?歌とか作らない分、楽っぽい気がすんだけど」

ランシス「……そして意外にノリノリである」

上条「ウッサいよ。外見は華やかな業界だし、興味はあるっつーの」

鳴護「そうだねー、お芝居かな?演技の練習」

レッサー「……マジですか?」

鳴護「なんで驚くかな」

レッサー「いやだって、ホラ?あるじゃないですか、こう、『お前棒読みさせたらモンド賞も狙えんじゃね?』みたいな、素人丸出しのヤツ」

レッサー「人混みで石を投げれば当たるレベルの頻度で、ゴミみたいな演技をするアイドルなんて居るのに……あれも『練習』してるってんですか?」

上条「言いたい事は分からないでも無いけどな。つーか海外でもそうなのか?」

レッサー「映画とか見てて気になりません?結構多いですよ、誰とは言いませんが『ンボボボボオォ』の主役とか」

上条「吹き替えか字幕だしなぁ。てか喋りにそこまで注目はしない」

フロリス「てーかね。さっきからアイドル連呼してんだケド、『アイドル』は日本で使われるだけであって、こっちじゃ言わないし」

フロリス「なんか、こう、曖昧な感じのカテゴリだよね?歌なのか、演技なのか、ダンスなのか、統一感無ーい」

ランシス「日本の『アイドル』に近いのは……アヴリル?ジャスティン=ビーバー?」

鳴護「アヴリルさんはオーディションの時、デモテープ送ったよー」

レッサー「こっちだと俳優は俳優、歌手は歌手って住み分けしてますからねー」

上条「日本でもしてるよ、住み分け?ただちょっとブラックバスみたいに、増えすぎて手がつけられなくなってるだけで」

レッサー「演技ならアクター、歌ならシンガー、踊りならダンサー……なんか、こう不思議な感じですよねぇ」

ベイロープ「ま、こっちでもたまに勘違いした役者が出るのだわ。誰とは言わないけどモデル上がりに多い」

上条「やっぱ棒読みなのか?」

レッサー「棒です、まさに棒。『Wooden Actor(木製役者)』って言われてますからね」

上条「あー、海外でも『ヘタクソ』の概念自体はそう変わらないのな」

ベイロープ「反対に演技過剰だと『Ham Actor』とかよね」

上条「大根じゃなくハム役者?」

フロリス「映画とかで気になんないのは、ホラ、日常的に聞き慣れてるかどうかジャン?聞き覚えがあるか無いかってヤツさ」

ランシス「……日本語のイントネーションしか知らない人が、英語を聞いても違和感がナイ、みたいな……?」

上条「外国もあるんだな、そういうの」

鳴護「……えっと、これ、オフレコで?大丈夫かな?」

レッサー「キタァァァァァァァァァァァァァァッ業界話!私はこれを待っていましたよっ!」

鳴護「前にね、ミュージカルのお仕事で劇団の人に演技を教えて貰った、ていうか取材した時の話なんだけどね」

鳴護「『演技は声量と抑揚でする』って、団長さんは言ってたかな」

上条「……当たり前じゃね、それ?言われるまでも無いっつーか」

レッサー「ですなー」

鳴護「えーっと、うん、例えばの話ね?例えばの?」

鳴護「これは別に特定の女性アイドルや俳優さんを差してる訳じゃなくって、一般的なアイドルの話だからね?」

上条「一般的なアイドルは……まぁ、突っ込んだらいけないんだよな、きっと」

鳴護「あたし達が普通にお話しする時は、別に声作ったりはしないじゃない?そのまんまのテンションで喋るし」

レッサー「声、作るんですか?」

鳴護「なんて言うかな……こう、みんな裏声で話すっていうか、妙に高いトーンの子ばっかって思わない?」

上条「言われてみれば確かに……」

鳴護「イメージとしては『ずっと裏声で話してるから、どんな演技でも棒読みにしかならない』かな?」

レッサー「あー……はいはい、分かります分かります。妙にハイトーンで『浮く』演技してる方っていますよねぇ」

鳴護「アイドルとしての日常会話が『作ってる声』だから、歌も演技も融通が出来ない、って言ってました、はい」

鳴護「アイドルで『歌う時にとか声質がガラッと変わる』人とか、えぇ」

上条「はーい、質問。どうしてわざわざ『作る』必要があるんだ?地声でもいいんじゃねぇの?」

鳴護「劇団の先輩曰く、『声が高い方が可愛らしく聞こえるんじゃ?』だ、そうです」

上条「……なに、つまり『可愛いんですよ!』を表現するためのギミックってだけかよ?なんか、納得行かねぇな」

ベイロープ「……マスター、『Pretty(可愛らしい)』と『Beauty(美しい)』の違い、分かる?」

上条「どっちも褒め言葉?」

レッサー「ちょっとタイムしません?今、明らかに不自然な代名詞が……?」

ベイロープ「あくまでも私の実生活、つーか個人の体験の域を出ない話なんだけど、『Prettyは子供にしか使わない』のね」

フロリス「え?大の大人にも使うジャン?」

ベイロープ「えぇ、使うわね。ただし『恋人や家族とか、極めて親しい仲』であればの話だけど」

鳴護「もしかして『プリティ』は『子供っぽい可愛さ』って意味なんですか?」

ベイロープ「そうね。正しくは『基本、子供にしか使わない』みたいな」

ベイロープ「というか英語圏で大人へ対して『可愛らしい』と言うのは、バカにしているニュアンスがあるのだわ」

鳴護「そう言われてみれば思い当たる所もありますね。こっちのファッション誌見てると、大人の人が『可愛い』格好してるのは、あんまり無いですし」

フロリス「んーむ。意識の違いなのかもねぇ?Prettyな物は好きだけど、実際に身につけるかっつったら、どーだろ?」

ランシス「大人になったら、みんなBeauty方向を目指す、よね……?」

上条「……成程。日本じゃ、大人だろうがあんま関係ないか」

上条「大学生は勿論、OLのお姉さんぐらいでも可愛い系の服着るからなー」

レッサー「いい歳のババ――女性が『女子会』と臆面も無く言う文化圏ですからねぇ」

上条「オイやめろ!言うのは勝手だよ!言うだけであれば自由にさせときゃいいじゃない!」

ベイロープ「つーか、ぶっちゃけ『Girlie Fashion』、どうなの?」

鳴護「女の子向けの雑誌から出てますんで、まぁ、うん?女の子だし、良いんじゃないかな?」

フロリス「『ARISA』はそっち系の路線だもんね。Prettyをも少し大人しめにした感じ?」

鳴護「あ、スタイリストさんにお任せしてるんで、詳しい事は、あんまり……」

レッサー「……中の人はこんなもんでしょうかねぇ。同世代のファンは必死で真似するってぇのに」

上条「いやまぁ、アリサだしなぁ?」

鳴護「酷い事を言われてる感じがするけど……」

鳴護「だからこう、演技でも『可愛らしさ』を前面に出せば、ある程度はやっていける、みたいな?」

鳴護「一度人気が出ちゃったら、そのスタンス――てか、キャラを変えられなくってズルズルと、的な、かな?」

フロリス「世知辛い……なんて微妙な世界なんだぜ」

鳴護「ま、まぁでも?ある程度はキャラっていうか、声も作るよね?声を張ったり、歌を歌うには地声じゃ出来ないし」

鳴護「でも場当たり的な発声方法じゃ、抑揚や声量をコントロール出来ないから、劇団へ入ったら『自然』に大声を張れるように目指すんだって」

レッサー「にゃーるほど。聞いていい話なのかは微妙な所ですが、嫌いじゃなかったですよ!良い感じに嫌な話で!」

フロリス「劇団上がりの役者の方が『自然な』演技をするってのも一理ある、って事かー」

鳴護「団長さんから聞いた話だし、『信憑性はあんまないよ』と笑ってたけどね」

上条「(冗談っぽく本音言うパターンだよな、これ?)」

ベイロープ「(よね。わざわざ当のアイドル相手に言う必要ないんだし、何か思う所があったんでしょうけど)」

ランシス「……アリサ、お芝居しないの?」

鳴護「せ、台詞って憶えるの難しいね、うんっ!」

上条「あー……」

鳴護「当麻君、言いたい事はハッキリ言うべきだと思うよ?」

レッサー「……ぺっ」

鳴護「なんでそこでツバ吐くかな!?」

レッサー「何かもう、勝てる気がしないんですよ!これだけ長々と話しておいて!全部持ってったじゃないですか、えぇっ!」

鳴護「もってった?何を?」

上条「アリサは知らなくていい――てか、そのままで居てくれ。頼むから」

レッサー「天然にも程があるってもんじゃないですか!?どれだけキャラ強いんだって話ですよ!」

フロリス「ウッサいよー、ヨゴレの人」

レッサー「ヨゴレてないですよっむしろ輝いてます!Shineッ!」

ランシス「……うんもうそのリアクションでお腹いっぱい……」

ベイロープ「まぁレッサーは放置するとして、ミュージカルみたいなのはどう?歌姫設定なら、あんま憶えなくても平気でしょ?」

鳴護「心配されてるのか、頭心配されてるのか分からないんですけど……その、劇団が潰れちゃいまして」

上条「ふーん?そりゃタイミングが悪かったよな」

鳴護「団員の人が『クモに襲われる』って言い残してから、行方不明になるパターンが続いたみたいで、うん」

上条・レッサー・ベイロープ・フロリス・ランシス「……」

鳴護「変わった話もあるよねー?学園都市の中なのに、どうしてオカルトの話が出るんだか」

レッサー「……えっと、上条さん?」

上条「大体分かってる!……まぁ、その、言わないでやろう?何となく事態は呑み込めたし」

フロリス「格好良い所見せたかったんだよね、多分、その人達は。裏があったのかどうかは分からないケド」

ランシス「……保護者の琴線に触れて……ご愁傷様……」

鳴護「何?何の話?」

上条「あー、うん、まぁアリサは周囲から大事にされてるよね、って事だな」

鳴護「えー、過保護過ぎるよー?」

レッサー「ま、その話は置いておくとして、他になんかありません?タレント特有のアレコレとか」

鳴護「えっとねー……あ、この間食べ歩き番組に出た時か。佐天さんが教えてくれたんだけど」

上条「……不吉な名前が聞こえたけど、俺は絶対に突っ込まないからな!いいか、絶対だからな!」

フロリス「どう見ても見事なフリですThank you for saying(ありがとうございました)」

鳴護「エンデュミオンの時、御坂さんにお世話になって、友達繋がりでお友達になりました、はい」

上条「分かりやすく言えば『後先考えないレッサー』だよ」

レッサー「へぇ?極東の島国にそんなスーパービューティーが居たとは!?」

上条「ビューティ要素皆無じゃねぇか。誰も何も言ってねぇし」

鳴護「学園都市のローカル番組でXX学区の商店街へお邪魔しましたー、って番組に出させて頂いたんですけど」

上条「そしてお前も『奇蹟の歌姫』属性ガン無視じゃね?なんだよ商店街って」

鳴護「え、エンディング曲は歌ったもん!」

上条「ちゅーかそれタイアップ――」

鳴護「商店街のね、隅っこにある空き地でマイク持ってね」

上条「――ですら無かった!?つーかそんな仕事断れよ!?」

鳴護「お友達から頼まれましたんで、はい」

上条「……いや、まぁ、そりゃそうかもだけど」

鳴護「あ、そういえば佐天さん、最後に言ってたっけ?アレ何だったんだろ……?」

上条「可愛いけど残念な子、何言ってたん?」

鳴護「『夏ですねーいやぁー暑いですよねー涼しくなりたいですよねー?』」

鳴護「『おっと!こんな所にハンディカムが!TAKAみちのく製の製品があるなー?』」

上条「それ俺に『第二シリーズやりません?』つってるだけだよ!スッゲー外堀から埋めて来たな!?」

上条「てかいい加減スポンサーさんの名前は覚えよう、な?それ新日のプロレスラーの名前になってるから」

レッサー「ぐぎぎぎき……やりますね、SATENさんとやら!なんと見事な話の持って行き方!」

上条「超露骨なフリじゃねぇか。見えっ見えで隠そうとすらしてねぇトラップだよ」

レッサー「私だったら『じゃ、やっとく?』って即オーケーしそうですよ!」

ベイロープ「あなただけよ、あなただけ」

ランシス「……てか、レッサー、ノリが良いだけ……」

レッサー「ふっ!学生時代『安請け合いさせたらブリテン1!』と呼ばれた私が、そんなフリを見過ごすワケないじゃないですかっ!」

フロリス「最近だよね?こないだ教室で言われてたジャン?」

上条「なぁ、もしかしてなんだが、レッサーのそっちの学園内での評価ってさ」

ランシス「……『可愛いけどとても、とぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっても残念な子』……」

上条「あー……意外でもなんでもねぇけど、あー……」

ベイロープ「性格上、男女どっちからも好かれるのよ?でもねー…… 」

レッサー「相手にとって不足は無し!かかって来なさいな!」

フロリス「ってのが、だね。見たまんまってかさ」

鳴護「レッサーちゃん主旨がズレまくってる……」

レッサー「私はまだ二回の変身を残していますんでっ!」

上条「変身ってナニ?しかも二回も」

レッサー「――って、すいませんやっぱ二回でした、はい。寝起きですんでねー」 チラッ

上条「……ねぇレッサーさん?お前今どうしてシャツの中覗いて、変身回数確認したの?」

レッサー「最近またおっきくなってきたんで、寝る時には乳バンド着けないんですよ、はい」

上条「無駄に重力の影響を受けると思ったら、そんなトラップが……っ!?」

ランシス「……少しでも分けて欲しい……」

レッサー「きちんと着目してるのがオトコノコだと思いますっ!」

ベイロープ「黙れ恥女。話が進まないのだわ」

上条「まぁ柵川中学の核弾頭の話は掘り下げないでおこう!ツッコミが足りなくなるからな!」

ベイロープ「んで、その子がどうしたのよ」

鳴護「今言った感じで、学園都市のローカルケーブルTV局のお仕事へ出させて頂きまして。佐天さんと一緒に商店街をブラつく感じで」

上条「見たいような見たくないような……察するにボケがスルーされまくって、収集つかなくなってんじゃ……?」

鳴護「その時に食べ歩きのコーナー、お肉屋さんでコロッケを食べた際のリアクションにダメ出し貰っちゃったんですよー」

上条「違うよね?アリサさんやってのってバラドルの路線だよね?」

上条「てーか佐天さんシロウトなんだから、なんで彼女のダメ出し真に受ける必要があんの?ねぇなんで?」

鳴護「あ、いえいえ!とてももっともなアドバイスだったんで、凄いなぁって」

上条「……一応聞くけど、どんなの?」

鳴護「タレントさんがグルメ番組で、何かを食べてる時ってあるよね?例えば――」

レッサー「『……これがあの、幻のチョメチョメなんですか!?マジで?本当に?存在したってんですか!」

上条「どうして小芝居入れた?必要か?それホントに必要か、あ?」

レッサー「『やー、話にゃ聞いてたんですけどねー!……まさか、ンンッまさかッ!』」

レッサー「『ではワタクシお先に相伴に預かりたく――』」

鳴護「って言って、一口食べます!」

上条「君らこんなに仲良かったっけ?それとも事前にネタ合わせしてやがったのか、なぁ?」

レッサー「『――ンンマァイ……ッ!!!舌先で踊る躍動感!鼻腔へ抜ける芳醇な香り!』」

レッサー「『そして次へ次へとスプーンを止まらせない、飽きない美味!どれをとっても空前絶後!』」

レッサー「『まさにこれは……ッ――』」

レッサー「『――味のフランス革命だ……ッ!!!』」

鳴護「みたいにリアクションするよね?、今のはちょっと大げさだけど」

フロリス「……ちょっと?今のが”ちょっと”なの?」

ベイロープ「どう見ても頭のネジが弾け飛んだガッダの小説としか」

ランシス「……一瞬でここまでノれるレッサーに驚愕を禁じ得ない……!」

上条「アンジェレネの『一人鉄人ごっこ』は余所でやれ!俺達を巻き込むな!」

鳴護「いやぁ、当麻君!当麻君は分かってないよ!」

上条「え、ここで俺怒られる要素あんの?」

鳴護「やってみれば分かるけど、放送事故にならないよう、素早くコメント出さなくちゃいけないんだからねっ」

上条「まぁ、そうだよな。つーかそれじゃ味わってるヒマないんじゃねーの?」

鳴護「佐天さんが教えてくれたのは、『この時に焦ってコメントしようとして、口の中に食べ物が入ったまま喋ると、好感度が下がる』って」

上条「予想以上に現実的な指摘だった!?」

鳴護「言われてみればそうなんだよねー。グルメリポーターの先輩達も、溜めてる時間に全部呑み込んじゃうしなー」

上条「鳴護さんは一体どこへ行くの?歌姫設定がいつの間にか完全バラドル路線移行してるね?」

鳴護「ご飯も頂きながらお仕事出来るなんて凄い事だよっ!」

レッサー「……話を振った私が言うのも何なんですけど、アリサさん仕事選んだ方が良いんじゃないですかねぇ?」

レッサー「事務所の方はコワーイお姉さんが居るとしても、もう少しフォローが必要なんじゃ……?」

上条「……本人がアイドル――じゃない、シンガー希望なのにバラティ枠にハマってるっつーか……」

上条「てかそもそもアリサの性格上、バラエティ向けなんじゃねぇかって気もするしな」

レッサー「かも知れませんねぇ。私のような『ちっょと陰のあるミステリアスな女』と違い、『天真爛漫なド天然』は万人受けしやすいですから」

上条「なぁベイロープ、イギリスの辞書だと『ミステリアス』って単語に『恥女』って書いてあんのか?」

ベイロープ「あなたは今宣戦布告をしているのだわ」

フロリス「どっちかってーと、『Freaks(変態)』?」

レッサー「仲間から変態呼ばわりって――」

上条「あ、ごめん言い過ぎた」

レッサー「――嫌いじゃない!裏切られるのも中々悪い気分ではありません!」

上条「変態っ!変態っ!変態っ!?」

フロリス「さっすが経験者は語る。次は出来れば混ぜてほしーな」

ランシス「……うん、まぁ次はガンバレー……負けるなーCameron」

鳴護「あとあたしは天然じゃないんだけどなー、って何回言ったら」

上条「まぁまぁ。他人からの評価はそれぞれだし、少しぽわっとしてるぐらいの方が可愛いよ?」

鳴護「じゃ、じゃあいっかな……?」

レッサー「……タチ悪ぃですなー。上条さんいつか刺されますよ、ホンっっっトに」

上条「フォローしただけじゃんか!?嘘を吐いてすらいねぇし!」

フロリス「ちゅーさ、ベイロープ。フィードバックが」

ベイロープ「……ま、人間いつか死ぬわ。それだけの話」

ランシス「……ベイロープの方がリーダーっぽい、よね?」

上条・鳴護「――え?」

レッサー「よっし待ちましょうそしてお伺いしましょうかンねっ!あなた方がどうして今!今今今っ!口を揃えて疑問を呈したのはなにゆえに!?」

ランシス「――あ、そういえば」

フロリス「どったん?」

ランシス「向こうの方で、観光客向けの朝市がやるって、張り紙してた……」

ベイロープ「いいわね。軽く覗いてかない?」

上条「マジで?俺ちょっとこっちの食材に興味あったんだよね」

フロリス「あー、野菜とか気をつけないボられるよー?……いよっし、ワタシがついてってあげよう!」

フロリス「感謝するんだぜ?なっ?」

上条「へーへーそりゃどー――ってだから!お前は腕に抱きつくなと!」

フロリス「えー、いいジャンか。減るもんじゃないし?」

上条「俺のSAN値が減るんだよっ!ファンブルしたらどうしてくれるっ!?」

鳴護「当麻君がまた女の子と仲良くなってる……めもめも」

上条「あ、アリサさん?何か食べたいものかとかないですかね?出来ればメモの内容忘れるぐらいので」

上条「こっちの食材で代替出来るんだったら、チャレンジしてみるから」

鳴護「あ、いいのかな?作って貰ってて悪いんじゃ?」

上条「俺も日本の味が懐かしいしなー。口実にして食いたいってのもある」

鳴護「そう?だったら親子丼なんか――」

上条「お、それじゃ三つ葉の代わりにハーブを――」

フロリス「だったら――」

レッサー「……」

レッサー「……おや?おかしいですよね?何か違いますよね?」

レッサー「どうして私がハブられてるっつーか、そもそも『なんだこりゃあ!?』状態なんですけど……」

ランシス「……大丈夫、うん」

レッサー「ランシス……っ!分かってました!心の友よ!」

ランシス「……まぁ、また下克上……」

レッサー「そんなコトだろうとは思ってましたよっ!またあなたがNTRするんでしょうがねっ!」

レッサー「てか不自然に話題を振ったのはあなたじゃありませんでしたか?一度話し合いましょう?」

レッサー「『爪』でね、しっぽりと二人だちょぉぉぉぉぉぉっとお話ししましょう?」

ランシス「……あ、ヤバ――ふひっ」

レッサー「は――?」



――

 ザァァァァァァァァァァァァァァァァァッ……。

 空を覆う黒雲から涙のように雨が落ちる。降る、というような生易しい勢いではない。
 一粒一粒がショットガンのような勢いを持ち、軌跡が細長く見える程の速さで撃ち付けられる。

(――何、だ、これは……何が、一体――どうして……)

 息をするのも困難な豪雨の中へ突然放り出されて、半ばパニックになる体に思考が追いつかない。
 こうしている間にも体から徐々に熱が奪われ、次のアクションを取るが困難になっていく。
 突然すぎる展開に判断力が追い付かず、雨の勢いに流されないように足を踏ん張る――その行為に大した意味など無く、ただ無為に体力を削がれる。

「――っ――――――……?」

(……人の、声……?)

 水のカーテンの向こう側から響――き、はしないが、気配と息づかいのようなものがする。

「おま――――――は――リサ――――っ!?」

(ダメだ!)

 誰何しようにも雨音で消されてしまって届かない!シルエットと服の色から『新たなる光』の誰かなのは間違いないだろうが。

(――埒があかな――)

 ぐっ、と上条の手が引かれる。『右手』を思ったよりも力強く。
 瞬間、ほんの一瞬だけ。安曇阿阪の凶行が脳裏を掠め、振りほどきそうになるが――それはしなかった。

 何故ならば――その手が思っていたよりも華奢で、しかも僅かに震えていたのだから。



――?

 土砂降りの雨の中を上条ともう一人は進む。少しだけ勢いが弱まった雨を避け、覗かせる風景は黒々とした森の中だった。
 日本のそれと違い、欧州の森は陰鬱としていて、只々暗く。針葉樹林がなだらかな起伏に沿って整然と生えている。

(……てか、どこだよ、ここは……?)

 ……ゴロゴロゴロ……。

(マズいな雷も鳴り出しやがった……!せめてどっかで雨宿りが出来――んっ!?)

 カクン、と繋いでいた手が”後ろ”へ引っ張られる。彼女――おそらくは――立ち止まり、一点を見ていた……と、容易に想像がついた。
 ある意味では違和感極まりなく、だがしかし『お約束』では当然のように登場する。

 人の手も碌に入っていない、黒く生い茂った森林の中。ぽつんと異彩を放っていたのは――。

「――洋館……?」

 カッ、と雷が近くの木へ直撃して樹木全体が燃え上がる。
 暗がりに湧き出た炎に照らし出され、洋館は異様な姿を晒していた。



――洋館 エントランス

 ギィィィイイッ……。

上条(……ほんの少しだけ館へ入るのを躊躇したが、俺達に選択肢はなかった……)

上条(夜以上に暗くなる空、強まる風雨。ずぶ濡れの衣服のままで、ワケ分からんウロつくのはマズい――)

上条(――と、思ったんだがな。それもどうやら怪しいようで)

上条(館の中へ入った俺の感想は、雨風を凌げる場を得た喜び――なんかじゃなかった)

上条(安堵の気持ちとか、ホッとするとか、そういうのは無縁の、ただただ『違和感』だろう)

上条(室内は予想に暗い。外が深夜のように闇に閉ざされている以上、中も当然薄暗い)

上条(ランプのような室内灯が一定の間隔で並んでいるものの、所々刃こぼれしたかのように途切れている)

上条(……現代機器に慣れちまった俺には慣れない……いや、あれは!)

上条(その、仄暗い灯りに映し出されている肖像画!どこかの庭園を背景にして鉄仮面を被ったままの人物がだ――!)

上条「……『団長』……!」

上条(『濁音協会』の『団長』!確か『殺し屋人形団(チャイルズ・プレイ)』とかって魔術結社のボス!)

上条(どう考えても俺達は向こうの思い通りになってる、って話か!)

上条(……けどまぁ……)

ランシス「――怖い……っ!」

上条「……大丈夫だ!俺がついているから!」

上条(あの雨の中、俺の手を引っ張ってくれた同行者の前で、弱気になんかなれない……!)

ランシス「……仮面を被ったまま、肖像画を描いて貰う天才的なボケの才能が怖い……!」

上条「そこ?確かに恐怖は感じるけど、何?芸人としての視点で怖いって事なの?」

ランシス「……あと、今時ベッタベタな台詞で安心させようとした相方も怖い……」

上条「俺ですよね?あれ、もしかして俺の善意を踏みにじってないかな?」

ラシンス「なんだかんだで巨乳以外もイケる口なのも……!」

上条「なぁ君は遠回しに俺へ『死ね』っつってんのかな?あんま俺ナメんなよ?こう見えてもストレスには強い方だからな?」

上条「てか違うよね?そんな展開じゃないよね?ここはもうちょっと――」

ランシス「……っ!?」

上条「なに?またトラップなんだろ?つーかお前、結構口悪いわボケるわ――」

ランシス「……」

上条「ってお前、まさか――マジ、なのか?本当に調子が悪――」

上条「冷たっ!?お前体スッゲー冷たいじゃねぇかよ!?」


???「あのぅ、お客様?お客様ですよね?如何なさいましたか?」

上条「誰だ――って誰だっていい!着替えと何か、暖かい飲み物でも!」

上条(俺は八つ当たりのような勢いで、脈絡なく――いやある意味合ってるが――現れた人物へ命令する)

???「かしこまりました、お客様。ではこちらへどうぞ、火を入れた暖炉と温かいウミガメのスープをご用意しておりますよ」

上条(そいつ――いや、メイド服を着た女性はスカートの端を持ち、まるでドレス服の淑女がするみたいに礼をする)

メイド「ようこそいらっしゃいました――『悪夢館(Nightmare residence)』へ」



――悪夢館 一号室

上条「……」

メイド「――上条様、お連れ様のお着替えが終わりましたよ。どうぞ中へ」

上条「あ、はい、ありがとうございます」

メイド「敬語など不要で御座いますよ。では」 パタン

上条「……」

ランシス「……」

上条(……さて、どうしたもんか)

上条(ランシスは倒れた……っていうか、顔真っ赤で凄い熱だ)

上条(濡れた服を脱がすのは……流石に俺がする訳にも行かないんで、メイドさんに代わって貰ったと)

上条「……あぁクソ……!」

上条(どう考えてもここはアウェイで敵地のど真ん中だっつーのに……参ったな)

上条(状況が掴めない。場所もそうだが、アリサ達がどうしてるのかっても気になる)

上条(下手に動いて事態が悪化するかも?それとも動くのが正解か?)

上条(……魔術サイドに疎い俺だけが残されたっても――)

ランシス「………………んっ」

上条「ランシス……?良かった、気がついたんだな」

上条「待ってろ。メイドさんが温かい飲み物用意してくれるって――」

ラシンス「……て」

上条「て?」

ランシス「……右手、早く……」

上条「あ、あぁ……?」

パキィィイイイッン……!

上条「……魔術?」

ランシス「……危ない所だった……」

上条「もしかして――敵の魔術師の攻撃かっ!?」

ランシス「……ネタ乙。全然ハズレって訳じゃないけど」

上条「え、ナニソレ?どうゆうコト?」

ランシス「……これは、呪い……大きすぎる『力』を得てしまった代償……」

上条「ランシス……?」

ランシス「必要だから、そうした。それだけの話……」

上条「……あぁ、うん。お前らの覚悟は間近で見てきたから、野暮な事は言うつもりはねぇけどな。今更っつーかさ」

上条「傍目には『無謀じゃね?』って思うんだろうが、いざ横で戦うのを見てりゃ分かる事もある。理解も出来る」

上条「無茶な霊装や術式だって、生きる死ぬかの一線の中、少しでも生き残るために、って感じでだな」

ランシス「……ん」

上条「――けどな、ランシス?俺は黙って見てるつもりもねぇからな」

上条「無茶だって思ったら首突っ込むし、必要だと分かっててもぶち壊しにする事だってするさ!だから――」

ランシス「……詳しく説明しろ?」

上条「嘘吐かれたって分かんないけどなー。出来れば事実を話して欲しい」

ランシス「……」

上条「……」

ランシス「……ナイショ、ね?絶対に」

上条「約束する」

ランシス「……レッサーや、他のみんなにも、だよ?」

上条「あぁ!……いやヤッパちょっと待て」

ランシス「……なに?守れる自信がない、の……?」

上条「それはない。ないんだが、その、な?」

ランシス「……あ、盗聴されてても平気。聞かれても対処は出来ないから……」

上条「まぁ、プロがそう言うんだったら……うん」

ランシス「私の霊装は『負』なの……」

上条「『負』?」

ランシス「……マイナス、陰、邪悪……って特性」

上条「……黒魔術って事か?よく分からん」

ランシス「んー………………」

上条「……なに?」

ランシス「………………ふひっ」

上条「なんで半笑い?」

ランシス「……ごめんごめん、手」

上条「お、おぅ」

パキィィンッ……

上条「……おー、う?」

ランシス「……ふぅ。疲れる……」

上条「手、握ってた方が良いんじゃねぇの?」

ランシス「……う、ん?」

上条「霊装――ナントカの帯着けてるんだったらマズいだろうが、今着替えちまってるしな」 ギュッ

ランシス「……」

上条「……うん?」

ランシス「…………………………ぽっ」

上条「アレ?今どっかで聞き慣れた擬音がしたぞ……?」

ランシス「……は、まぁ――置いといて」

上条「何を置いたの?なんかそれ後回しにすると後悔しそうなんだけど、いいんかな?」

ランシス「……十字教の術式や魔術は『正』や『聖』……『プラス』の属性が殆ど……」

上条「プラス――プラスマイナスのヤツか?」

ランシス「『聖○○の逸話を再現した術式』、みたいな感じ……が、メジャー」

上条「ま、教会なんだから変な真似は……なんかイマイチ自分で言ってて『説得力皆無だな』って、うん」

ランシス「同じく、防御的なものも『プラス』属性……おーけー?」

ランシス「……『武器の聖別(To the blessing roughness arms)』や『着衣の祈り(Chaste and modest and virtue)』……」

ランシス「大体が『プラス』属性……」

上条「イメージとして何となく、分かるような……?」

ランシス「……『電気使い』へ電撃で攻撃しても効果が薄い……?」

上条「よく分かった!」

ランシス「私の使う霊装は、逆。マイナスの方……」

ランシス「……属性的には『負』だから、十字教とかの『正』のベクトルを持った相手にはよく効く……例えば」

ランシス「円卓の騎士が一人、『双剣の騎士』が放った『災いの一撃』……」

ランシス「古城に奉られていた『聖槍』を使ったのに、出た効果は――」

ラシンス「敵へ『永遠に癒えない傷』を与え、古城は崩れ落ち、周囲の草木は死に絶える――陰惨なものだった……」

ランシス「……まさに『負』の霊装……」

上条「じゃ、それを持ってるのが」

ランシス「『それ』を私”は”持ってない……多分、奥の手に取ってるおっぱい」

上条「なにその語尾?俺の知ってる人?それとも”るっぽい”の言い間違い?」

ランシス「でも、その話を聞いて私はひらめいた……『敵が聖人だったら、それ相応の手段がなければいけない』って」

ランシス「……事実、聖槍が傷を与えた相手は、アリマタヤのヨセフの子孫だったのだから」

上条「ヨセフ?」

ランシス「『神の子』の遺体をピラトから受けた聖人……あんまり詳しくはチョメチョメ」

上条「突っ込んだら負けなんだろ?理由は知らないが!」

上条「――つーかまとめるとだ。ランシスはまともな術式ばっかじゃ通用しない、しにくい相手が居ると」

上条「だもんでそいつらに対抗するため、『負』の霊装だか術式をコッソリ用意してるって話?」

ランシス「せーいかーい……うん」

上条「なんでまだ隠れてまでやってんだよ――とか、魔術師に言うのは今更なんかな」

ランシス「……代償がとてつもなく重い、の」

上条「そうなのかっ?そこまでして――」

ランシス「……ベイロープも言ってた筈。これは『覚悟』の問題」

ランシス「命を大切にして、リバウンド――日本語で『逆凪』を最小限に留めるために、弱い術式しか持たなくって……」

ランシス「……いざ戦闘になったら、死ぬ、よね?それは本末転倒……」

上条「トールみたいな事言ってんなぁ」

ランシス「グレムリンの……?」

上条「ちょっとニュアンスは違ったが。『最強が目の前にあって、届きそうだったら背伸びしてでも手ぇ伸ばす』だっけか?」

上条「手段があって目的があったらやっちまえ、みたいな……あれ、逆か?」

ランシス「……私達的には合ってる……」

上条「……でもお前らとは違うよ。トールは強くなって何がしたいとは言ってなかったな。人助けも『経験値』みたいなフザケた事も言ってた」

上条「お前らは目的が仲間を守るって前提があんだから、もっと胸張ってりゃいいんだよ、なっ?」

ランシス「……小さいのに?」

上条「それはそれで嫌いじゃな――違うな?胸の話はしてなかったな?」

ランシス「意外と雑食系……?日本人はHerbivorous(草食)だったんじゃ?」

上条「賞味期限が切れた弁当を『新鮮です!』って自信満々に出されてもな?困るっつーか引くって言うか」

上条「だから俺達も相手を傷つけないように、『あ、自分草食系っスから!』って優しい嘘を強いられているんだ!察しろよ!』

上条「てかランシス、お前誤魔化そうとしてねぇかな?話逸らそうとしてない?」

ランシス「……ちっ」

上条「よーし分かった『右手』を離そうじゃねぇかっ」 パッ

ランシス「――あ」

上条「つーかだな。そもそも『副作用おせーて?』って話なのに、どうし――」

ランシス「……………………ふひっ」

上条「……はい?」

ランシス「け、けっきょく……魔力が足りな――くしゅっ、いひひひひっ」」

ランシス「こりゃもうどーしようも……あは、ひゃう……んうっ」

上条(なんだこれ超エロい……?)

ランシス「周囲の竜脈から『迂回路(ビフレスト)』っ、んぁ……はぅ……ふぁはっ」

上条「え?おまっ!?何これっ!?」

ランシス「ひゃうっ!んう……んぁ……はぅ、ふぁは……んふぅ……ひひっ」

上条「ちょ、待ってろ!?」 パシッ

パキィィィィンッ……!

ランシス「んぅっ……あ、あんっ…………ふぅ……」

ランシス「……もうちょっとだったのに……」

上条「何が――っていいっ言わなくて!何となく分かる!」

ランシス「……見た?」

上条「お前の左手が下の方へ行っていたなんて、全然全然?まっトく完璧に気づかなかったよ?」

ランシス「……噛んでるし……そう、これが私の霊装の恐るべき副作用……!」

ランシス「『負』――『滅び』の力を得る代わりに、私の体は呪われた……っ!」

上条「……なんとなーく分かったけど、具体的には?」

ランシス「えぇと……魔力が足りませんでしたー、周囲から補給しようー、それだと鋭敏な濃度感知が必要ー」

ランシス「感覚で分かると便利じゃんー?あ、でも痛いのは嫌だしー……あ、そうだ。だったら痛覚以外で反応すればいいよねー……?」

上条「痛覚以外?」

ランシス「……直接的に?間接的に?」

上条「じゃ間接的でお願いします」

ラシンス「……魔力に当てられると、くすぐったい、の。すっごく」

上条「ダメじゃね?それ自分の術式や霊装使う時もアレって事だよな?」

ランシス「『周囲の魔力を感知して肌に伝える』術式で、目的が『霊装をアクティブ状態で保持』だから、戦闘の時には切る……」

ランシス「んー……バッテリー効率を考えれば、いつも充電してて、必要な時に電池を入れてる……かも?」

上条「過充電もよくはないんだが……ま、分かったよ」

上条「――いやごめん分かってなかった。根本的な所がだ」

ランシス「ん……?」

上条「どうしてお前がこの館に入った時に倒れたのか?そして今、俺が手を離したら、その『魔力酔い』になっちまう、ん、だ……」

ラシンス「……あ、自分で気づいた……?」

上条「まさか……この館が原因なのか!?」

ラシンス「まだ『普通』の量の魔力だったらどうとでもなるんだけど……ここはちょっと、異常」

ランシス「……館そのもの?壁や天井や家具、あの女の人からも『ピリピリ』来る……」

上条「全部が魔力を帯びてる?」

ランシス「……最低でも『発して』はいる、うん」

ランシス「何らかの霊装なのかも知れないし、術式を発動しているのかも――」

上条「そか。それじゃ俺と一緒でよかったな?」

ラシンス「――うん?」

上条「他の面子とだったらずっと『魔力酔い』でシンドかったろ?巻き込まれたのは災難だが、最悪って訳じゃねぇよ」

ランシス「……そう?」

上条「てか、魔力を感知出来るヤツが居るんだったら心強いし。少なくとも俺はラッキーだったって思うぞ」

ランシス「……ん、私も」

上条「も?」

ラシンス「ラッキー(性的な意味で)だった、よ……?」

上条「あれおかしいな?何か悪寒が……?」

ラシンス「……あ、濡れた服は早く脱がないと」

上条「着替えたよ?どう見ても今俺が着てんのはカッターシャツだよな?」

上条「微妙に撫で肩だから、上にもう一枚欲しい所だが!」

ランシス「……あ、それ和製英語。正しくは『Collar Shirt(襟シャツ)』……」

上条「へー、そうなんだー?」 ジリッ

ランシス「……今、私から離れたらスンゴイ事になる、よ……?」

上条「どんな脅迫の仕方だっ!?ダメージあるのお前じゃねぇか!」

ランシス「……ん、まぁ、ジョークを真に受けられると悲しい……」

上条「あ、あぁ、ゴメンな?今ちょっと『アウェイでオウンゴール狙いの味方が居る』みたいな状態かと思って」

ランシス「……ま、こうなったら仕方が無いし、不可抗力、うん」

上条「まぁ仕方がない……か?」

上条「……」

ランシス「……なに?」

上条「くすぐったい、んだよね?」

ランシス「……間接的に言えば、そう」

上条「……直接的に言うと?」

ランシス「……全、身が性感た――」

上条「よおっし!それじゃまず館の見取り図から書こうかっ!脱出するにしろ、探すにしろ必要だしねっ!」

ランシス「……振っといてスルーよくない……」




――悪夢館 一号室(仮)

上条「……てかさ、地理的にはもうすぐイタリア国境だっつーのに『悪夢館』とか、日本語ぺラッペラのメイドさんとか、違和感ありまくりじゃねーか」

ランシス「あっちの術式の中、だよね……?」

上条「そうじゃない方が怖いわっ!どっかの野良魔術師が意味も無く攻撃――」

ランシス「……心当たり、ある……?」

上条「……うんまぁ、今更ながらに『グレムリンともやり合ってたっけ?』ってな。今更だけどさ」

ランシス「んー……それは心配しなくていーよ、多分」

ランシス「今まで『上条当麻』が標的にされたのって、ないよね……?」

上条「最初の一発以外はな。あれだって直撃すりゃ危なかったんだよ」

ランシス「オティヌスに負けてるしー……相手にされてないんじゃ?」

上条「……だなぁ。それでバードウェイに嫌な思いさせちまったし」

ランシス「……ご褒美、だと思うよ……?」

上条「良い話してたよね?それはアレか、浜面的には、みたいな意味か?」

ランシス「……じゃなくって。『きちんと叱ってくれる人』が居るのは、とっても幸運……」

ランシス「……本当に親身にならなきゃ、言えない事だってある……」

上条「耳が痛い話だが――さて、見取り図を書いてみた。つーかやっつけだが」

ランシス「手書きならこんなもの……そもそも週間2万語+本業+Cプラプラ勉強してるのに、あんま無茶プリされても……」

上条「つっても玄関とここ――勝手に『一号室仮)』しか往復してないもんだから、殆ど白紙のまんまだ」

ラシンス「二階建て、だよね……?外から見れば」

上条「ぱっと見は、な。地下室とかあるかもだが――さて、これからどうするかだけど」

ランシス「……出来ればここで潰してはおきたい。でも……」

上条「可能かどうかは別問題。なら、逃げるのは?」

ランシス「……森の中を堂々巡りするだけ、多分」

上条「……なぁ、根本的な問題なんだけどさ。そもそもココ、現実か?」

ランシス「幻覚の可能性はある。あるんだけど……」

上条「俺の『右手』だけじゃ心理操作は完全に打ち消せない。一回効いた後で頭に触れればキャンセル出来るっぽいけどな」

上条「他にも『普通の状態へ戻す』みたいで、例えば失われた記憶とかは無理――って聞いたな?」

ランシス「……これが誰かの造った『夢』で、私達の意識だけを飛ばしていると……ちょっと、マズい」

上条「と、言うと?」

ランシス「体はどこか眠ってて、その体が見ている夢の中で殺されると、現実の体もロクな事にはならない……」

ランシス「死んじゃう夢を見ると――とか、聞くよね?」

上条「やたそれ超面倒臭い」

ランシス「……うん、面倒臭いよ?だから『なんでこんな面倒な術式をかけたのか』って事に繋がる……」

上条「面倒ってそっちかい――術式が?面倒?」

ランシス「……わざわざ夢の中で殺さなくても、体を殺した方が早いよね……?」

上条「当たり前だろ……当たり前、なのか?」

ランシス「……前にも私達が言った気がするけど、『強い魔術はスタンダードとして定着する』の……」

ランシス「……錬金術然り、北欧系魔術然り……」

上条「お前らも十字教圏なのに北欧系だもんな。俺の知り合いもルーン使いが一人」

ランシス「……違う。私達は『北欧系にアレンジして』るだけ、本質は別……」

上条「――へ?」

ランシス「……逆に『使えない魔術』として獣化魔術は廃れた……し」

ランシス「だから、もし……『相手の夢の中へ入って”楽に”殺せるような術式があれば、もっとメジャーになった』はず、うん……」

上条「ふーん?それじゃさ、失われた謎の魔術師!……とかって可能性は?」

ランシス「?」

上条「安曇阿阪は『安曇氏族(クラン・ディープス)』って正統な魔術師一族の流れを受けついた傍流――て、日本語がおかしいが、そんな妙な奴だった」

上条「その前の『アレ』は魔法生物っぽい科学サイドの生物兵器だった。それを踏まえて」

上条「だから意外と『今じゃ失われた古のナントカ』みたいな、敵じゃないのか?」

ランシス「……」

上条「あ、ごめんな?素人考えだから、あんまり――」

ランシス「……それ、あってるかも知れない。てか、正しい」

上条「え、マジで?当たっちゃった?俺凄い?」

ランシス「褒めてあげたい――んーっ?」

上条「……」 ガシッ

ランシス「……手、どけて」

上条「ごめんな?なんか顔近づけて怖かったから」

ランシス「ちょっとご褒美のキスを……」

上条「ノーサンキューだっ!ジャパニーズは草食系で売ってるもんでねっ!」

ランシス「……さっき違うって言ってたのに……」

ランシス「……で、その想像は合ってると思う。現に、というか……私達は有り得ないぐらいの魔術攻撃を受けてるワケで」

上条「これってやっぱ、そっちのセオリーからしてもイレギュラーなのか?」

ランシス「んー……?流行り、じゃないよ、昔は呪殺にもよく使われた……ん、だけど」

ランシス「……あまりにも非効率すぎて、うん」

上条「なんでまた?超強そうじゃね?」

ランシス「……相手の夢へ入る――つまり、術者も寝る必要がある。隙アリアリ……」

ランシス「しかも……私みたいに、常時起動の霊装や術式をかけていれば、そのまま持ち込む事が可能……」

上条「例の奥の手ってやつな」

ランシス「……本当に正面切って戦える力があれば、最初からそうする……」

ランシス「……それをしない、出来ないのは、それなりの理由が……ある」

上条「ふーむ。その理由がきっと『鍵』なんだろうな」

ランシス「今回は……事前に情報が限りなく少ないから、やっかい」

ランシス「『野獣庭園』は『下位竜(レッサードラゴン)』だったし……」

ランシス「フロリスの『ウェールズの赤い竜(ア・ドライグ・ゴッホ)』はまさに天敵……」

上条「……建宮やステイル達にもっと感謝しとくんだった――あれ?」

ランシス「……?」

上条「ふと気になったんだが、お前らの名前って偽名だよな?コードネーム、みたいな感じの?」

ランシス「…………………………違うよ?本名本名」

上条「やったらタメやがった上に目が泳いでんな。てか『レッサー(Lesser)』なんて名前初めて聞いたわ!パンダかっ!」

ランシス「……レッサーは、ほら、変態だから……?」

上条「そっかー、変態かぁ、じゃあしょうがないよね――って納得しねぇよっ!」

上条「一瞬、『あ、そうだっだよな』って腑に落ちかけたが!」

ランシス「……」

上条「ベイロープも魔術名ベイなんとかっつってたし、フロリスもフローなんとかって言ってたような……?」

上条「多分本名か魔術名をもじったんだろうけど、お前らってなんかこう、よく分からない団体だよなー」

上条「イギリス王室が失ったカーテナ、探し出して掘り出すぐらいの魔術持ってて、しかも『必要悪の教会』を出し抜けるぐらいの力持ってさ」

上条「『魔術師未満のサークル気分』――で、済ませられるような話じゃなくね?」

ランシス「……くー……」

上条「オイっ寝るな!大事な話をしてんだよ今っ!」

ランシス「……朝、早かったから眠くて……」

上条「あー……思い出してきた。メシ食った後に朝市行こうとして――」

上条「……どうだったっけ、あれ?」

ランシス「私もそこまでしか憶えてない……」

上条「あの前後に魔術を喰らったと……うーん、どうしたもんだか」

ランシス「『夢が夢だと気づいて目を覚ます』……のが、セオリー」

上条「条件満たしてんじゃん」

ランシス「他にも、えぇと……幻術系では『確信を持って相手の正体を言う』、みたいなのがあって……」

ランシス「ここの館のルールに沿って、何かしなくちゃいけない、と思う……」

上条「『死ね』とかってルールだったらどうすんだよ?」

ランシス「そう設定するんだったら、最初からしている……」

上条「『永遠に閉じ込めておく』みたいなのは?」

ランシス「術式の維持に膨大な魔力と準備が必要……余程節約するか聖人級の魔術師でもない限り、ムリ」

上条「……よっし。大まかな枠組みは見えてきたか」

ランシス「……ま、クローズドサークルでする事って言ったら……人狼か、もっと古典的な――」


『――キャアアァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァッ!!!――』


上条「――悲鳴!?」

ランシス「……そう来るよね。個人的には人狼の一回やってみたかった……」

上条「行くぞ!」

ラシンス「……仕込みだと思う、けど?」

上条「そうじゃなかったらどうすんだよっ!」

ランシス「……自己責に――って、手引っ張っ――」

上条「手ぇ離されたくなかったら、来いっ!」




――正面エントランス

上条(ランシスの手を握ったまま、全力で音のした方向へ走ってきた!……つもり、ではある)

上条「……」

上条(探偵モンだとここは最速で駆けつけるんだろうが、あっちはフィクションの話)

上条(ちょっとした多目的ホールばりの広さで、悲鳴の出所は大体検討をつける異常は無理ゲーだって!)

上条(……せめて携帯がありゃ音波感知ができ――)

上条「……」

上条(……普段からアプリ着けっぱなしにするとね、バッテリーがね、うん?)

ランシス「……手、痛いかも……」

上条「ん?あぁごめん、強く引っ張っちまったか」

上条「……いやでもお前、俺の全速力フツーに着いてきたような……?」

ランシス「……移動効率が悪い……別の移動方法を提案する……」

上条「移動?」

ランシス「西側――私達が来た側じゃなく、そっちの東側の通路のドアは全部閉まってる……」

ランシス「あれだけ『通った』声だから、きっと遮蔽物の無い所……ドアは閉められてない」

上条「上か!」

ランシス「いやだから引っ張――」




――二階

上条(階段を上ってきたのは良いけれど、正面から左右、見渡す限りドア・ドア・ドア――)

上条「……こん中から探すのはちっと難しくねぇか……?」

ランシス「……でも、ない」

ランシス「一号室(仮)まで聞こえて、しかも 『籠もってない』声だから――」

上条「……近くにあって、尚且つ開いてる部屋――あそこか!」



――??の部屋

上条「どうしたっ!?何があっ――」

ランシス「……?」

上条(部屋に入った俺達は言葉を失った。『絶句する』なんて単語が頭に浮かんだのは、相当混乱してるって事なんだろう)

上条(多分ここは――主の部屋だ)

上条(整った調度品の数々、趣味の良い――か、どうかは分からない――ベルベットのカーテンの窓の外では、未だに雷雨が届いていたが)

上条(ベッドの側に倒れている人影は二人……あぁいや、一人と一つって言った方が正しいのだろうか?)

上条(……片方は、さっきのメイドさん)

上条(日本の大通りで客引きしているようなヤツじゃなくって、きちんとした長いスカートとエプロンドレス?の、まぁプロって感じ)

上条(バッキンガム宮殿で、護衛やってたメイドさんと似たような雰囲気ではある)

上条「……」

上条(……問題なのはもう一つ……少し前まで『一人』と数えるべきだったんだろうが)

上条(室内でもロングコート姿で襟を立て、分厚い鉄仮面で頭を覆った変質者――)

上条(――『殺し屋人形団(チャイルズプレイ)』のボスである『団長』が――)

上条(――何故床に突っ伏した姿勢のまま、身じろぎもしないんだ……ッ!?)

上条「……おい、立てる……か?」

メイド「――え、あ―」

上条(……こっちの、『これ』はおかしい。生きているのであれば少しは呼吸なり鼓動なり、反応を見せる筈だろ……!)

ランシス「……どいて……えっと」

上条「――大丈夫だ」

上条(『団長』が急に襲い掛かってこられても対処出来るよう、俺は右手を軽く握ってメイドさんを背へ庇う――ん、だが)

上条(杞憂だった、ってのが結論。それが何故か?)

ランシス「……これ」 ズリッ

メイド「――ひっ!?」

上条(ランシスが襟首を掴んで立たせようとする、その瞬間ズルリとコートだけが捲れた)

上条(何故か『団長』は上着を脱いでおり、頸の後ろから背中が見え、そこには――)

上条「――何も、無い……?」

上条(ポッカリと空いた空洞は、今にも朽ちそうな古木のウロ――英語じゃ『hollow』を彷彿とさせる)

上条(本来そこへ収まって無くてはならない脊椎・肉・脂がごっそり抜け落ち、抉り取られた不思議な何か)

上条(血の一滴も飛び散らさず、現実感に乏しい肉の断面を今も晒し続けているのを見て)

上条(……あぁもうコイツは息絶えるんだな、とようやく俺は理解してしまった)




――1階 食堂

メイド「……お茶を、どうぞ」

上条「その、無理しなくてもいいんだぞ?」

メイド「あ、いえ、はい。働いていた方が、その」

上条「まぁ、好きなようにしてくれ。気持ちは分かるから」

メイド「……ありがとうございます」

上条(呆然とするメイドさんを正気付かせた後、俺達は一階の食堂へと戻ってきた)

上条(場所的には一階東側の大きな部屋。つってもこっちは使用人達が集まる部屋であって、内装は質素極まりなかったが)

上条(併設してあるキッチンで何か飲み物でも入れよう――とは、思ったんだけど、茶葉の場所も知らない俺じゃ役に立てず)

上条(……結局はメイドさんに入れて貰っちまった訳で……まぁ、美味しいアッサム?だったけど)

上条(ちなみに『団長』の遺体にはシーツを掛け、部屋には鍵をかけて来た。『現場保存』は常識の範疇ではある)

上条「……ま、この世界じゃどこまでマトモか分かんねぇんだけどな」

ランシス「……それは言ったらダメ、結局、手持ちのカードで勝負するしかない……」

上条「深いっすねー。ランシスさん」

ランシス「ってスヌーピーに書いてあった……!」

上条「深ぇなスヌーピー!?それとも俺の知ってる犬とは別種かっ!?」

メイド「あのぅ……私はどうすれば……?」

上条「ん、あぁごめんごめん。ちょっと聞きたい事があるんだ。つーか」

ランシス「(多分この事件を”解決”する事が……鍵、だと)」

上条「(りょーかい。まぁやってみようぜ)」

上条「えっと、そいじゃまずメイドさん、なんであの部屋へ行っ――」

ランシス「――犯人は、お前だ……っ!」

上条「手順すっ飛ばすなよ!?てかせめて話を聞こうぜ!?」

ランシス「……いや、なんかもう……容疑者総当たりで行けばいっかな、って……」

上条「探偵もの全否定っ!?」

ラシンス チョイチョイ

上条「ん、なに?」

ランシス「(刑事の取り調べは二人でする……片方が威圧的になって、もう一方が庇うように)」

ランシス「(……そうすれば容疑者は庇う側を『助けてくれる人』と勘違いして……おけ?)」

上条「(……なんか要らん知識が増えるなぁ……まぁ、おけ)」

メイド「……私が?団長を殺した犯人、ですか……?」

上条「そこは『団長』なんだ?別に偽名でも良くね?」

ランシス「ん……あの部屋は開いてた?閉ってた?」

ランシス「……そもそも用事はなに……?」

メイド「はい、お客様方がいらしたのでご報告に伺かうとしたら、鍵が閉っておりましたので」

ラシンス「……不自然、はいギルティ……」

メイド「待って下さい!何度声をかけても返事がなかったので!」

ランシス「主人の部屋に勝手に入るの……?」

メイド「まだ時間も早いので伏せっておられるのかと、それでとっさに!」

上条「鍵はどこから?普段から持ってんのか?」

メイド「マスターキーは、はい、こちらに」 ジャラッ

上条(重そうな鍵束。鍵の数は一、二、三……20は無いな)

メイド「いつもは家令が管理しているのですが、今日は外出しておりまして。私が代わりに任されております」

上条「家令?」

ランシス「……すっごい執事……」

上条「せめて執事長ぐらいは言えよ」

ランシス「……肌身離さず持ってる……訳、ないよね。邪魔だもんね」

メイド「はい、私の部屋に置いてありました……あ、でも部屋に鍵はかけていません」

ランシス「……犯人はお前だ……!」

上条「だから早いっつーの」

メイド「……私が鍵を開け、部屋へ入ったら……あんなっ!」

上条「あー、その後に俺らが来た、か……矛盾はないよなぁ」

上条「あ、それじゃさ。ほら、俺達の他に容疑者、ってか泊まってる人は居ないのか?」

メイド「はい、団長のご友人様方がお二人ほど……ですが」

メイド「元々の予定ではもうお一人いらっしゃる筈でしたが、雨で電車が遅れたと伺っております」

ランシス「……おおぅ、ミステリものではお約束……!」

上条「お約束言うな……うーん、って事はそいつらも犯行は出来た――」

ランシス「――とは、限らない。やっぱりあなたが犯人……」

メイド「そんなっ!?わたしが団長を殺したって言うんですかっ!?」

上条「どうやって?あの傷口を女の人一人で作ったのか?」

ランシス「……でも、この状況で真っ先に疑われるべきは、この人……違う?」

上条「そりゃ……そうだな。『団長』殺した後に叫べば出来ない事じゃないが」

メイド「じゃあなたは『私が団長を殺した』と?そういう結論で良いんですね?」

ランシス「……うんまぁ、総当たりで言ってけば、いつか当たる」

上条「意外にクロいな!意外でもねぇと最近分かってきたが!」

メイド「……」

ランシス「……どう?ハズレ……?」

メイド「……ンーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーっ!残っ念!」

上条「メ、メイドさん?」

メイド「残念ながら『私は団長を殺していない』んですよぉ、いやぁ残念でしたっ!」

上条「お前キャラ変わりす――」

メイド「――で、正解出来なかったランシス様には罰ゲームっ!」

ズプッ

ランシス「……か、え?」

上条(その瞬間、俺は見た)

上条(いつの間にかランシスの側まで回っていたメイドさんが、何の躊躇もなくその右手を開き――)

上条(――ランシスの脇腹を躊躇無く抜き手を突き刺した所を!)

上条「テメェえぇっ!」

メイド「おかけになって下さいお客様。ただ今ランシス様の心霊手術の真っ最中で御座いまして」

メイド「手元が狂うと大切な臓器を傷つけてしまうかも知れません――こんな風に」

ランシス「あ……くっ!?」

上条「……お前……!」

メイド「『Sit down, Please?(座るんだ、ボウヤ?)』」

上条「……」

メイド「そうそう。良い反応ですね。私大好物で御座いますっと」

ヌニュウゥッ

上条(そう言ってメイドは手を引き抜き、距離を取る。その手には何か!)

上条(子供の拳ほどの大きさ、赤黒い肉界が載っている……?)

上条「……罰ゲーム?どういう事だ……ッ!?」

メイド「だってお客様全員へ『犯人はお前だ!』、なんてされると困ってしまいますもの」

メイド「チート防止のためにペナルティを課すのは当然でしょ?ね?」

上条「おま――」

ランシス「『……Loki who is the god of the clown.. laug――』」
(……道化の神であるロキよ、嗤――)

上条(霊装を発動させるのか!?)

メイド「おっとタイムです。ちょっとお待ち下さい、ランシス様?」

メイド「確かにその、ロキ神の術式で私を倒すのは簡単でしょう。抵抗致しますが」

メイド「けれどその、こちらの手の中にはあなた様の『腎臓』が、文字通り握られてる訳でしてね」

上条「ハッタリだ!ここは夢の中――」

メイド「『夢の中で死ねば現実でも死ぬ』――同様に」

ランシス「……夢の中で怪我を負えば、現実の体もシンクロする……?」

メイド「嘘だとお思いでしたどうぞお試し下さいませ。私達『殺し屋人形団』の術式が、その程度だとお考えなら」

メイド「即死はしないでしょうが即入院。尚且つ『そこ』から足が着くのは避けられないでしょうが……さて?」

ランシス「……ルール、教えて……?」

上条「ランシス!」

ランシス「……乗る、しかない……!わざわざ臓器を潰してない、って事は、元へ戻せる……!」

メイド「仰る通りで御座います。では今からルール説明を致しますので、おかけになって暫しお待ち下さい」

上条「待て!どこ行く気だよ!?」

メイド「お紅茶が冷めてしまいましたので、入れ直そうかと。あ、上条様リクエストなど御座いますか?」

上条「あんたが煎れたもんでなきゃ、なんだっていい」

メイド「畏まりました。では失礼致します」



――食堂

ランシス「……っく!」

上条「大丈夫かっ……?」

ランシス「……ん、少しだけ痛い、から……」

上条「とても平気そうには見えねぇぞ……ほら、我慢すんなよ」

ランシス「胸が……ちょっと苦しく……んっ!」

上条「胸?胸が苦しいのか?……あれ、腎臓って確か腰の裏辺りじゃ……?」

ランシス「……さすって貰えれば、うん」

上条「そう、だったら――」

メイド「――すいません。私の『心霊手術(Bare-handed anatomy)』は、体外へ取り出しても、意図的に切断しないと入ったまま扱いでして」

メイド「あ、これアルフレドの時空間魔術の応用なんですけどね」

上条「どういう意味だっ!?」

メイド「ランシス様、痛いとか仰ってますけど全然痛くない筈ですよ?物理的には繋がったままですから」

ランシス「……ちっ」

上条「ランシスさんー?どういう事?ねぇ?」

メイド「本当に腎臓抜いた場合に起きる症状は、濾過機能低下により余剰な体液放出をする事での心不全、高カリウム血症と頻尿なので」

メイド「乳腺が痛いとか、おっぱいをさすさすしてほしい、みたいなのは典型的な美人局ですのでくれぐれもご注意下さい」

ランシス「……おのれ『殺し屋人形団』!……なんて恐ろしい敵……!」

上条「お前だな?この期に及んで余計な仕事増やそうとしたのはお前だよな?」

メイド「第一先ほどからお手を繋がれてて、とても仲の良いカップルとしかお見受け出来ませんけれど」

ランシス「……あ、意外に悪い人じゃない……?」

上条「……あれ?ここってそんな穏やかに話して良い場面か?」

ランシス「……殺すつもりなら最初からしてる、筈……それをしなかったのは、出来なかった、だけ……」

ランシス「……多分、『結果的に殺す』しか出来ないんだと思う……間違ってる?」

メイド「ご慧眼です――では、改めまして上条当麻様、ランシス様」

メイド「本日は当館、『悪夢館(Nightmare residence)』へようそこおいで下さいました」

メイド「我ら『殺し屋人形団』一同、心より歓迎申し上げます」

上条「そりゃどーも。それで?このまま無事に帰してくれはしないんだよな?」

メイド「凡愚の身ながら折角趣向を凝らしました故、どうぞ心ゆくまでお楽しみ下さいますよう」

ランシス「言ったってムダ。多分、人形かNPC……」

上条「ノン……なに?」

ランシス「ノンプレイヤーキャラクター……中の人が居ないタイプのアバター……もしくは疑似人格……?」

上条「今みたいな受け答えしてんのにか?」

ランシス「んー……裏で操ってる人が居て、その人が動かしてるだけだから……ま、半自動……」

メイド「それでは『悪夢館』に置けるルールを説明させて頂きます。まず皆様の勝利条件は『真相の解明』で御座います」

ランシス「……真相?犯人じゃなく……?」

メイド「何度答えを間違われても構いませんが、間違う度にペナルティとして回答された方の臓器をお預かり頂く事となっています」

上条「臓器って……どんなグロいアトラクションでもねぇよ!」

メイド「ご心配なく。肉体から離れましても繋がっております。そういう『設定』の夢ですので、生活に支障は御座いません――が」

メイド「『夢で死ぬと現実でも死ぬ』の通り、そのまま夢が終わってしまえば保証は致しかねます。予めご了承下さい」

ランシス「……で、景品とかは貰える……?」

メイド「何かお望みのものでもあればご用意致します。勿論、現実で」

ランシス「……じゃ、『あなたの本体の場所』……」

メイド「畏まりました。上条様は如何致しましょう?」

上条「俺は保留で」

メイド「ではそのように」

ランシス「時間制限とか、そういうのは……?」

メイド「特に設定は御座いません。現実の体の方は眠っている状態で御座います」

メイド「ただし移動に関しては『他のお客様が居る部屋には同意が必要』であり」

メイド「また現在鍵のかかっている私室に関しても、『第三者の立ち会いが必須』」とさせて頂きます

上条「ゲスト?あぁ他にも二人居るっつったっけか」

ランシス「……私室?」

メイド「物置や書庫、資産を補完してある部屋だと思って下さい」

ランシス「重要なものが隠されている、とか……?」

メイド「常識的に言ってお二人が探偵役とは言えゲストはゲスト、もしかしたら加害者である可能性もあると言う事で御座います」

上条「……まぁな。ミステリもので探偵や相方が犯人だって事は結構あるしな」

ランシス「第三者、って事はあなたじゃなくても……?」

メイド「ゲストの方が同意されるのであれば、鍵はお貸ししましょう」

上条「勿論室外は」

メイド「下手すると『混線』する可能性があるため、GM側としてはあまり行かれない方が宜しいかと存じます」

ランシス「……BAN!……されるとどう、なるの?」

メイド「意識が無意識の海に溶けて消えるでしょうね」

上条「怖っ!?」

メイド「では今後の方針をお聞かせ願えませんか?ゲストを呼んでくるのでしたら、そのように致しますが」

ランシス「……質問。妨害とか、するの?」

メイド「証拠隠滅という意味では致しません。ただし私は日常業務――お二方やゲストのお世話、館の維持管理をしなくてはいけませんので」

上条「その仮定で『偶然片付ける』事はあると?」

メイド「はい。ですが、事件のあった部屋、また関係のありそうな場所は『警察が来るまで手を触れられない』のは当然でしょうね」

上条「ぶっちゃけ教えて欲しいんだけど、警察、来るの?」

メイド「……この雨と雷ですしねぇ。線路も崩れたとラジオでやっておりましたので、早くて2、3日はかかるのではないでしょうか?」

メイド「到着が遅れているお客様も、もしかしたら一緒においで下さるかも知れませんね」

上条「どうだ?」

ラシンス「んーむ……?ミステリの定番としては怪しい警部が到着、場を引っかき回す……」

ランシス「探偵が問い詰めると……実は遅れていた客の成り済ましだった、かな?」

上条「あー、あるある。どっかの天さ――天才とかな」

ランシス「……物語が行き詰まって新キャラ投入するラノベ……!」

上条「ラノベじゃねーぞ!確かに昔の探偵小説は今読むとアレっぽいのいっぱいあっけどさ!」

メイド「では如何なさいます?」

ランシス「……あなたは私達について来る……?」

メイド「ご希望であれば。無ければ通常業務へ戻りたいかと」

上条「今までの話に嘘は?」

メイド「『クレタ人は嘘を吐かないとクレタ人は言った』で、御座いましょうか」

上条「嘘吐きが嘘を言ってないとは言わないし、この先もどうかは分からない?」

メイド「信頼とは美徳であると存じます」

上条「大規模な術式に巻き込んだ奴の台詞じゃねぇな」

ランシス「んー……じゃ、取り敢えず他のゲストに会いたい……」

メイド「畏まりました。では暫くお待ち下さい」



――1階 食堂

アルフレド=W「あ、どーも」

上条「テメェかよ!?もっと他に人居なかったんかっ!?」

アル(アルフレド=W)「オイオイ他人様の顔見た瞬間にご挨拶じゃねぇか、あ?」

アル「挨拶って大事じゃないんですかねっ!おはようからおやすみまで重要なコミュニケーションだと思うんですけどおぉっ!?」

上条「少なくとも敵対してる相手に使うような挨拶は――言ってやれ」

ランシス「……『Shit Happens(災難だと思うんだぜ)』……」

上条「で、充分だコノヤロー」

アル「ウルセぇな、俺だって来たくて来た訳じゃねぇんだっつーの。何か今、みんな忙しくってヒマ持て余してたらな、『団長』が」

アル「『あ、ヒマならちょっと手伝って貰えませんかこのクソヤロー?』って」

上条「意外と喋るんだな。あの顔で」

アル「だよなぁ?意外と喋るんだよ、あの顔で」

アル「こないだなんかな、えっと24時間テレビで小児癌の子供が亡くなったってのをやっててだ」

上条「……おい、危ねー話じゃねぇだろな?」

アル「男の子が頑張って生きたのは良いよ?その子のママが看護婦になったってのも美談だわな」

アル「でもな、その子の写真をバックにして、一体何やるかと思ったら『全然関係ないババアが蕩々と歌う』んだぜ?スタジオで?」

アル「いやいや違うよね?そうじゃないよな?男の子生前ポケモンが大好きらしく、病室には一面ポケモンだらけなんだよ」

アル「だったらポケモンの曲流すのが男の子喜ぶんじゃねぇの?雰囲気ぶち壊しかも知んねーけどさ」

アル「少なくともその子が聞いた事もないような歌歌われてもなぁ、みたいな」

アル「で、そん時『関係ねぇよ、なんで来たババア?』って『団長』が隣で突っ込んだわ」

上条「関係ねぇな!話の本筋に全く必要ねぇ話ダラダラ語りやがって!」

上条「しかもいい歳したおっさんが一緒にチャリティ番組見んなよ!魔術結社のボスじゃねえの!?」

アル「とんでもねぇあたしゃボスだよ」

上条「帰れっ!お前からまともな話が聞ける訳がねぇっ!」

ラシンス「……タイム、仲が良いのは分かったから、イチャイチャしない……」

上条「した憶えはねぇし!テメェも『いやぁそれほどでも』とか恥ずかしがんじゃねぇ!」

アル「ちなみにもう一人の客もクリストフだから、俺と一緒で何も知らん!」

上条「バカじゃねぇの?なんでお前ら狂ってるの?死ぬの?」

上条「ユーロトレインん時も思ったけど、杜撰すぎるわ!あそこで事故ってたらお前も死ぬし!」

アル「……死ねればいいんだけどなぁ、マジで」

上条「何?」

ランシス「……それじゃ尋問するけど……いい?」

アル「どうぞー?つっても何も知らねぇぞ、いや本当で」

アル「『この部屋で待機して下さい』って奴に言われて、そんだけだし」

アル「途中、お前らの声が聞こえて、『あ、うわ面倒臭せー』とか思ってたぐらいか」

上条「メイドさんの悲鳴は聞こえた?」

アル「あー、なんかしたなぁ」

ランシス「……駆けつけなかったの?」

アル「なんで?」

上条「……お前適当過ぎるだろ……!?もうちょっとロールプレイしろや!」

アル「いやいやいやいやっ!俺悪くねぇって!だって突然すぎるわ!」

アル「寝た瞬間ここだぜ?事前に詳しい説明も無し、事後のフォローも無しで手伝えってそれどんなブラック企業だっつーの」

上条「ウルセぇよブラックロッジ(黒魔術結社)。お前らより黒い所はウチの学園ぐらいだよ」

ランシス「クリストフは……動いた、みたいだった?」

アル「いや……ドアの開け閉めの音はお前らしか聞かなかった、筈だな」

上条「ちなみに何してたんだ?」

アル「やる事ねーし、ラジオぐらいしか電気機器もねぇから不貞寝だ」

上条「……夢の中で寝れんのかよ?」

アル「俺は出来たけどなー」

ランシス「……あなたの術式で犯行は可能……?」

アル「待て待て、ちょい待てよマニア向け体型」

ランシス「『Loki who is the god of the clown.. laugh!』」
(道化の神であるロキよ、嗤え!)

ランシス「『The shout of the giant who shakes the earth crowds――』」
(大地を揺るがす巨人の咆吼を――)

上条「ホントに待ちやがれ!?霊装発動させてんじゃねぇよ!」

アル「ロキ?……ナグルファルか。また嫌らしい霊装隠し持ってんなぁ」

アル「まぁ俺の話を聞けってば。つか気になってたんだけども、『犯行』とかってナニ?何か事件でも起きたん?」

上条「マジで言ってのかよ、それ」

アル「時系列思い出してみろよ。登場人物がお前らと野郎、あと俺らだけだったら誰が教えてくれるんだっつーの」

ランシス「……『団長』が殺された……」

アル「――はい?マジすか?いやあの、マジで?」

上条「疑うんだったら見に行くか?もう一回現場調べる必要もあるだろうし、来いよ」

ランシス「第三者……だし、いっか」



――2階 団長の私室

上条(鍵を開けて俺達は入る――が、屍体はそのまま、なくなってたりもしない)

アル「……うっひゃー……なんつーか、マジか?つーかこれ死んでんの?」

上条「触るな触るな……グロいぜ」

アル「……なんだこりゃ、だなぁコイツぁ」

ランシス「死因はなんだと思う……?」

アル「あー……頸椎?首と胴体の付け根からゴッソリ持って行かれんな」

アル「断面図も人体標本のようにクッキリと綺麗なお仕事だ」

上条「人間業じゃねぇが……あ、お前には出来るか?」

アル「出来ない事ぁ無い。無いんだが……今、この状態じゃ無理ぽ」

上条「魔術師なんだろ?」

アル「……あんな、カミやん俺らの流儀に散々付き合ってきたのに、それ言うかね」

アル「俺達は基本不可能を可能にするような、ギネス級のバカがわんさり居んだけど、目的ってもんはあらぁな?あ、能力者でも一緒だけどよ」

アル「『○○したい』って目的がまずあって、それに合わせて努力するってぇのがフツーなんだわ」

上条「お前ら今更言われるまでもねーよ」

アル「だったら『こんな殺し方をするような魔術ってなんだ?』とか思わねぇのかよ」

ランシス「……」

アル「なんでわざわざ頸椎エグる必要性がある?」

アル「人体急所にゃ間違いねーけど、体の真後ろ、どうやっても狙いにくいじゃんか」

上条「……確かにそうだな。こんな魔術をかける意味が理解出来ない」

アル「同じ面積エグるんだったら、顔面狙ってブチ抜いた方が早ぇわな」

ランシス「……いいの?私達が有利になるよ……?」

アル「俺が本当の事を言ってれば、そうなるかも知れねぇよな」

上条「お前は『団長』がどんな魔術を使っていたのか、分かるか?」

アル「死んだ屍体と生きている屍体を加工するエキスパートだな」

上条「生きている屍体って」

ランシス「ブゥードゥー……?」

アル「さぁ?本人からは何も聞いてないから分からん」

ランシス「……」

上条「……これだけ鋭利に切り取っておいて、血の一つも飛ばさない……」

上条「キャトル・ミューティレーション?」

ランシス・アル「「な、なんだってーーーーーーーーーーーーーーっ!?」」

上条「息ぴったりだな電波系ども」

ランシス「……酷い」

アル「あー、ないない。アレ確か目とか性器とかくり抜く奴だろ?似てるっちゃ似てっけどよ」

アル「極端な話、目とか性器くり抜かれても即死はしない――し、下手すれば死なないぜ?」

上条「それじゃ何?あの家畜の屍体って、目立つ外傷があったのとは別に、致命傷になるなんかがあったって事か?」

アル「『傷口からは殆ど出血の跡が無かった』のは、裏を返せば『その傷がついた時には死んでいた』つー話だわな」

ランシス「……服、脱がせようか……?」

上条「気は進まねぇけど……するしかないんだよ」

アル「待てよ、服ぐらい自分で脱ぐぜ!」

上条「引っ込んでろ外野!どうしてこの流れでお前の服を脱がせようって話になるか!?」

アル「暇なんだよ!相手してくれよ!」

上条「面倒臭ぇな!だったらそこの本棚でも調べとけ!」

アル「任せろカミやん!」

ランシス「……あ、触りたくないからって逃げた……?」

上条「俺だって嫌だが、あのバカに任せるのはもっと不安で仕方がねぇよ!」

ランシス「それじゃ……」

上条「あぁ」

ランシス「……どうぞ?」

上条「……ですよねー、男の仕事ですもんねー」

ランシス「……あとでご褒美上げるから、うん」

上条「いや。要らねぇけど」

アル「あ、じゃあじゃあ俺が!」

上条「ぶっ飛ばすぞ変態?つーかテメー夢の中でやったって良いんだからな!」

ランシス「本棚は、どう……?」

アル「十字教関係が3割、医学書が2割。後は神聖文字(ヒエログリフ)っつー古代エジプトの文字で書かれた本ばっか」

アル「古いのはパピルスも混じってる……あぁ、これが夢じゃなきゃ高く売れるんだろうがなー」

ランシス「何が書いてあるのかは……?」

アル「詳しく見てないから何とも」

上条「つまり『団長』がエジプト関係の魔術師だって事か?」

アル「さー?どーだろうねー?」

ランシス「質問、あなたが今までに見た『団長』の術式はなに?」

アル「名前は知らねぇが、多分身体強化系の術式?」

上条「フランスの駅で見たアレか」

アル「それそれ。限界がどのぐらいは知らね。後は『心霊手術(Bare-handed anatomy)』か」

アル「素手で人体からガン細胞引き抜いたりする見世物あんだろ?あれの『ホンモノ』だな、これが」

アル「安曇阿阪から脳を抜いたのも奴の仕事だ」

上条「……ちょい前にライブで見たけどな」

上条(なんて言いつつ『団長』のシャツを脱がしにかかる……いや、予想以上に嫌な行為だわ、これ)

上条(敵だったからそれなりに恨みもあんだけどな。実感がないって言うか、そんな感じで)

上条(――そこで、相変わらず手を繋いだままのランシスが、何かの紙を……?)



上条(……『アルフレド、ホンモノ?』……?)

上条(……あぁ了解。その可能性はあるよな。よく似てるが、向こうが用意したNPCだって可能性も十分ある)

上条(こっちに背中を向けたまま本棚を調べる――というよりは物色するアルフレドは俺達のやりとりに気づきはしない)

ラシンス カサッ

上条(少しだけタイミングを置いてランシスはメモ用紙を裏返す。えっと、何々……?)



上条(『true→アイシテル、false→キスしたい』)

上条「屍体を前にしてかっ!?このタイミングで言い出すのは変態でも居ないっ!?不自然極まりねぇよ!?」

アル「……なに?どったの?」

上条「あ、いやこれは」

ランシス「……続き部屋に帰ってから、ね?」

アル「……ケッ!爆発しろリア充が!」

上条「違――わねぇけど!お前に言われるのは何か違げーだろ!」

ランシス チラッ

上条(分かってる)

上条「つーかお前すっかりキャラ変わりやがったな!ユーロトンネルの時はもうちっと真面目なキャラだったぞ!」

アル「……いや、俺は昔からこんなものだったぞ……(殺)」

ランシス「……妖怪キャラカブリ良くない……」

上条「俺が悪かったから元へ戻せ。会話のテンポ悪くなっから……あの時はお前がアリサ”に”助けて貰ってたから、イイヤツだと思ったんだがな」

アル「借りがあるがなかろうが、踏み倒すのが俺達の流儀だぜ?悪党に善意を期待する程、滑稽な事はねぇな」

上条「……あっちに戻ったら決着付けるからな」

上条(はいはいニセモノ確定っと。良く出来たアバターでも、記憶は完全に再現されてねぇと)

上条(よしじゃ早速ランシスに伝え――)

上条「……」

上条(――罠だっ!?つーか会話が不自然過ぎるわ!)

ランシス「……どしたの……?」

上条「誰かさんの張ったトラップに行くべきか悩んでんだよチクショー!?」

アル「男だったら戦わなきゃいけない時があるんたぜ、兄弟?」

上条「お前らの同朋なんて死んでもゴメンだが、その心は?」

アル「取り敢えず一回ヤってから考える!」

上条「ラテン系のノリが世界中で通用すると思ってんじゃねぇよ!それで済むんだったら弁護士は食いっぱぐれるわ!」

上条「……て、脱がし終わった、けど」

ランシス「……何もない、よね……?」

アル「どれどれオッサンに見せてみろ――て、確かに何にもねぇな」

上条「外傷は頸の後ろの1箇所だけ。死因の見当はつかない、な。医学の心得はないし」

アル「いや、その判断で間違ってねぇよ。死因らしい死因が見当たらない」

アル「体には圧迫痕も殴られた跡も無ぇ、綺麗な屍体だぜ」

アル「食い込んでる鉄仮面を外さなきゃ断言は出来ねぇが、毒物を飲まされたら口から吐き出す――その跡も無い」

上条「分かるのか?」

アル「あぁコイツぁまともじゃねぇ、どう考えてもおかしい」

アル「そもそも普通、死んだ後には死後硬直つって筋肉が硬化する現象が起きるんだわ。ミステリもんじゃ定番だよな?」

ランシス「現実の間違いじゃ……?」

アル「まー、あれもそんなに早く起きるもんじゃねぇんだが――こいつが殺されたとすりゃ、少しずつ固まってる最中。だってのに」

上条「――あ、マネキンみたいにすんなり服を脱がせられた!」

アル「始まってすらいねーんだよ、死後硬直」

ランシス「室温の差?」

アル「バラしてみねーとよく分からんが、屍体にしちゃおかしいってのが俺の見解」

上条「……いいのか?そんな事言っちまって?」

アル「……あんなカミやん、昔さ、RPG作るゲームってのが流行ったんだわ」

上条「あー……聞いた事、あるような?」

アル「仲間の強さ決めて、敵はどんな攻撃するとか、ステータスだとか決めんだけど――」

アル「――必ず勝つようなゲームやったって、面白くもなんともねぇだろ、な?」



――1階 1号室(仮)

上条「……」

上条(物語と違って、探偵が万能と言う事は有り得ない。欲しい時に欲しい知識が得られる――なんて事はまずなく)

上条(あの後、アルフレドを部屋に帰し、戻ってきたメイドさんと他の部屋を探し回ったが、証拠らしい証拠は出て来なかった)

上条(時計は止まったままで分からないんだが、ランシスがそろそろ疲れた顔をしていたので今日はもう休む事にした)

上条「……」

上条(気晴らしにラジオを付けてみたが、そこから流れるARISAの歌は途切れ途切れのもので……)

『私の虚は満たされない』

『バラを差して飾ったとしても、この心は埋められない……』
『貴方を傷つけ、流れる血潮を飲み干したとしても、喉の渇きは心を裂く』

『墓穴の底から見上げる月はキレイで』
『暗く冥いハコを照らす』
『朝の来ない夜に抱かれ、眠ろう』

『パンドラは閉じられない』
『いらないモノを幾ら詰め込んだとしても、フタが開く』
『貴方を殺めて、溜まった肉を受け入れたとしても、ムネはカラッポだろう』

『墓穴を見下すソラは醜い』
『明るく穢れたハコを映す』
『明けない夜を堪え、眠ろう』

『今はまだ届かない手を伸ばして……』

上条(――とまぁ鬱になるっちゅーぐらい暗い歌詞だ)

上条「……でもアリサ、こんな歌あったっけ……?」

ランシス「……考えててもしょうがない。取り敢えず、寝よ……?」

上条「おお、おぅっ!」

ラシンス「……緊張してる?」

上条「ぜ、全然全然っ!?俺はいつも平常心だぜ!」

ランシス「なんかもうツッコムのも面倒……」

上条「疲れる……あぁまぁ疲れるよな、そりゃ」

上条「外は相変わらずの雷雨で真っ暗、時間感覚はマヒしっぱなしだし、どっから監視されるか分かったもんじゃないし」

ランシス「……確実にされてる、よ……?今でも」

上条「だわな。フツーだったらそうする」

ランシス「……だから内緒話をする……ちょっと待ってて……?」

ランシス「『Loki who is the god of the clown.. laugh!』」
(道化の神であるロキよ、嗤え!)

ランシス「『The shout of the giant who shakes the earth crowds it about the dead who change the revolt to foolish Cyclops!』」
(大地を揺るがす巨人の咆吼を、愚かなキュクロプスに反旗を翻す亡者の群れを!)

ランシス「『"The dead dye the sky to the previous notice of the flame in red, and do not raise its fist even if it dispels one's melancholy!』」
(天空は炎の先触れに赤く染まり、死者は憂鬱を晴らそうと拳を上げん!)

ランシス「『Give the mistletoe Now blind to the hero! To dispel thine disgrace, all!』」
(さぁ盲目の英雄へ宿り木を持たせよ!全ては汝の屈辱を晴らすために!)

ランシス「『The dead will come! The dead came! All are mangling!』」
(死人が来るぞ!死人が来たぞ!全てはぶち壊しだ!)

ランシス「『――神々の黄昏が来た!』」
(――Ragnarok, Now!)

ランシス「……最大稼働、『死の爪船(ナグルファル)』」

上条「ここで霊装かよっ!?」

上条(ランシスの両手の爪が赤紫色の鈍い光りを放ち、そのまま30cm程伸びた!)

上条(どう見ても禍々しいそれをこちらへと向け――)

上条(……本当に、というか、そもそも、というか、最初っから、というか)

上条(『彼女は俺の知っているランシス』なのだろうか……?)

上条(この旅行中、なし崩し的に仲良くなったベイロープやフロリスとは違う。俺は彼女の事を殆ど知らない)

上条(だから『彼女』が正真正銘、本物のランシスであるかどうかなんて――)

ランシス「……どう、怖い?」

上条「そりゃ……急、だったしな」

上条「てか、何するんだ?突然霊装なんか持ち出して」

ランシス「……それはきっと、言っても意味が無い」

上条「ん?なんで?」

ランシス「私が何を言おうとも……信じるかどうかはあなたにかかってる、し……?」

ランシス「……口先だけでどんな綺麗事を言っても、本質は変わらない……」

上条「……だな。それはきっと、その通りだ」

上条(どんだけ安心だ安全だ、っつても。言った相手が信用出来ない相手なら、どんなご立派な言葉も上滑りするってだけの話)

上条(……じゃ、俺はランシスを――目の前のランシスの姿をしてる相手を信じられるか……って言ったらまぁ)

上条「……一つだけ、聞きたい」

ランシス「……なに?私のカップ……?」

上条「興味無い――事はねぇが、それは現実に戻ったら拝みこんで聞くさ」

ランシス「んー……?」

上条「お前の故郷の話を聞かせてくれよ。多分それで分かる」

ランシス「……あれ?言った事、無かったよね……?」

上条「ん、まぁそうだけどさ。時間が許してくれるんだったら」

ランシス「……じゃあまぁ、簡単に」

ランシス「……私の故郷は北アイルランド。とても寒くて厳しい所……」

ランシス「夏は短くて陽射しも弱い……冬は雪が降らなくて、飲み水に困る……」

ランシス「……ケルト発祥の地――とか、一時期持て囃されてたけど、今じゃそうでもないって説が有力らしい」

上条「ケルト?」

ランシス「……うん。妖精や精霊、幽霊みたいな神話が多く、て……」

ランシス「ウィル・オー・ウィスプって知ってる……?」

上条「鬼火だっけか?」

ランシス「……私も昔ね、寮の裏手に光る玉を見つけて、学校で喋ったの。でも」

ランシス「……誰も信じてくれなくって、ちょっと悲しかった……」

上条「まぁ……かも知れないよなぁ」

ランシス「……でもその日の夜、『なんであなた早く言わないんですかっ!』って、一緒に探しに行ってくれたのは……」

上条「……すげーなレッサー」

ランシス「……私、虐められてたから……」

ランシス「長い間……北アイルランドはイングランドにテロをしてた……そのせいもある」

ランシス「誰かが起こした戦争で、誰かが死んだ責任を取れ、とか……たまに言われるけど」

ランシス「……殴ってくれるのは……うん」

上条「……」

ランシス「……私は北アイルランドが好き。人が住むには、少しだけ厳しい所だけど……」

ランシス「けど、今のみんなと出会えて……とても、好きになった」

ランシス「……もし私が北アイルランド出身じゃなかったら……きっと、あの夜も怖くて震えてただけで」

ランシス「レッサー達と友達には、なれなかった、かも……?」

上条「……なぁ、俺達この世界から帰ったら記憶がなくなったりはしないよな?」

ランシス「?……大丈夫、だと思う……よ?」

上条「そか。だったら次からは――」

ランシス「……うん?」

上条「――俺もぶん殴る側に回っから、そん時は呼んでくれよ?」

ランシス「……大丈夫。もう必要無いし……」

ザシュッ……!!!



――???

上条「……」

上条(体が動かない……てか、いや、あるのか?体?)

上条(夢を見てるような……夢の中で夢を見る?電気羊どこじゃねぇな、これ)

上条(ランシスの霊装で攻撃された所までは憶えてる――な?現実、とは違うが、ありゃ一体何を――)

?『――私に、裏切り者になれ、と……?』

上条(……喋ってるのは、俺か?視線の先にいるのは誰だ?)

?『あなたはそんな……そんな残酷な命を下されるというのか――』

?『――『王』よ……っ!』

上条(俺……てか、コイツが話している相手は『王』……?)

上条(……霞かがって見えないが……)

王『あー、いやいや気持ちは分かりますがね。相性の問題でしてね、単純に』

王『私達が倒した竜だって、ありゃ「魔」のカテゴリへ入っていた訳で』

王『デミウルゴスが切り離した闇の側面。多神教が一神教へ生まれ変わるための儀式』

王『本来であれば一つの神が持っていた闇の部分を排除し、人格――神格を得た、と言いましょうかね』

上条(王様随分フレンドリーじゃねぇか)

王『ですがまぁ、それ故に。この「剣」にとっちゃ相性は抜群だったんですがね、えぇえぇ』

?『だから!私に!仲間を斬れと!?』

王『……そうですね。斬って下さい』

王『出来れば、この私も――ま、そちらは別口が予定済みですがねぇ』

?『……王よ……!』

王『そうすれば貴方の剣には「仲間殺し」――つまり、「魔」が宿る』

?『そこまでして!どうしてそこまでして「魔」を取り入れる必要がおありか……!?』

?『あなたの「聖剣」!そして「聖杯」で打ち負かせぬ悪などあろう筈が……!』

王『……次の相手は「神」だからですよ。先生の予言に拠ればそう出たと』

王『創聖の力を持ち、世界の有り様すら容易く変えてしまうような、紛れもない存在』

王『彼女相手に私の剣では力不足……』

王『まっ、大ハズレだったらどーしまょうねー?あっはっはっはー!』

上条(突っ込みてぇ、「勝手だな!?」って全力でぶちのめしたい……!)

王『――と、それとは別件なんですが、その、アレがですね?』

王『やはり好きな相手と添い遂げた方がいいんじゃないかなー、なんて思ったりもする訳でしてね?』

?『……王!』

王『あぁご心配なく。私はどうせ本質的な意味で死ねやしませんから』

王『今、この身が死に至ろうとも、それはあくまでも暫しの休息の時に過ぎません』

王『リンゴの園にて死して夢見る永劫の日を重ね――そしていつの日か、きっと』

王『我が王国に危機が及べば、寝床から叩き起こされて、戦場へと馬を駆りましょう』

王『ただそれだけの話ですよ。それだけの、ね?』

?『……』

王『貴方や斬った騎士達も、どうせまた呼んでもないのに駆けつけるでしょうから』

王『それとも……貴方は私にこう言わせたいと――』

王『――最も勇敢で騎士の中の騎士L――よ、我が下命を聞けぬのか、と』

?『……あい分かりました我が王、キャメ――の――よ!』

?『我が忠誠を試されるのであれば、それに応えぬなど騎士の恥!どんな命をも見事成し遂げて見せましょうや……!』

王『……ごめんなさい……貴方に汚れ仕事を押しつけてしまって……!』

?『何を仰る。他人には好きに言わせておけば宜しい――が、もし』

?『逆賊の汚名と引き替えに褒美を賜れるのであれば……ただ一つお願いしたい義か』

王『……えぇ。私に叶えられる事であれば』

?『ならばどうか!貴方の命を受け殉死した騎士、そして私が今から命を奪う騎士――』

?『――次に集う時は彼らの早参をどうかお認め下りますよう……!』

王『また物好きな。どうせB――卿やF――卿の、帰参――』

上条(ノイズ……?段々小さくなっ――)

王『好きにす――L――卿。貴方は戦い――果てぬ――国を――』

王『集う――そう、それが――』

王『――私の、円卓へ……!』



――???

上条「……」

上条「……なんだ。今の夢は」

ランシス「……あ、ゴメ……混線した……」

上条「ランシス……ここは?」

ランシス「夢の中の夢……術式が成功していれば、だけど」

上条(視線がどうも横向きになってる――あぁ横向きになってるのか)

上条(どことも知らない狭い部屋の一室で、俺達は向き合って横になっている……正直、恥ずかしいぐらいに近い)

上条(それもその筈、俺は右手で彼女の左手を握り、俺の左手は――)

上条「……なんだ、これ?……剣?」

上条(俺達二人の間には抜き身の剣――それも、漆黒を固めて作ったような、禍々しい色をした剣が一振り)

上条(俺とランシスはその柄を握り合っている……)

上条「えっと、これは……?」

ランシス「……これは誓い……『私』の話じゃなく、『これ』もカーテナじゃないけれど……」

ランシス「……こうすれば、あの時も……」

上条「カーテナ?キャーリサが振り回してた、イギリスの聖剣、だったよな?」

ランシス「時間が勿体ないから、話を進める……結局、『犯人』は誰か分かった……?」

上条「お、おぅ!そうだよな、まずそっちの心配だよ……な?」

ランシス「……ここは大丈夫。夢の中で、夢を見るように隔離してある……先生が得意だった術式」

上条「……色々文句もあるが、基本スペック高いんだな。お前らの『先生』」

ランシス「『あっち』で監視してる人達には、ただ眠ってるとしか映らない……オーケ?」

上条「了解」

ランシス「……じゃまず、何が起こっているのか、を」

上条「魔術的な誘拐、っつーか意識を奪う?まぁとにかく不思議パワーで俺達はこの館に連れてこられた」

上条「どうしたもんかと悩んでいたら『団長』が殺されて、それを見つけるのがゲームだと言われてる……」

上条「……なぁ、今思ったんだけど『団長』は死んだんだよな?」

ランシス「あの部屋にあった屍体が本人のなら、まぁ……」

上条「だったらこの、あぁいやあっちの『館』を維持してるのって、誰だ?」

ランシス「普通に考えれば構成員……?……少し捻ればアルなんとか?」

上条「だよなぁ?順当に考えればメイドさんが最有力候補――あ、そうそう、伝えるの忘れてたけど、あのアルフレドはニセモンだった」

ランシス「……メモにはこっそり伝えるサインを書いたはず……」

上条「言えるかボケっ!?あんな切迫した状況で愛の言葉を囁くのはフランス人か変態じゃねーか!」

ランシス「……ちっ」

上条「……いや、てーかさ思ったんだけど、なんであれ『アルフレドである必要があった』んだろうな?別に他の奴でも良かったのに」

ランシス「……必要?顔なじみのアバターの方が作り易いんじゃ……?」

上条「いや、だからな?俺達に謎解きゲームなり、探偵ゴッコを本気でさせるんだったら、アルフレドと同程度の医者?か元警官?とかでも充分だし」

上条「なんでまた野郎のニセモンなんて作る必要があった?どういう必然性がある?」

ランシス「……考えられるのは……『実在する人間を取り込んでる』って思わせたかったのかも……」

上条「なんで?だったら別にアルフレドじゃなくって、そこら辺の一般人を巻き込むフリをすれば良かったんじゃ?」

ランシス「……このシチュエーション自体、最初からあからさまに不自然だった、よ?」

ランシス「肖像画もそう……『団長』やメイドの演技も、過剰だった……」

ランシス「……だから『この世界”は”作り物だけど、登場人物”だけ”は本物』だと……」

ランシス「私達に思わせたかった……」

上条「……それをする事にどんなメリットが――」

ランシス「……想像は、出来る」

ランシス「例えば、こんな無茶な術式、他人の意識を取り込めば取り込むだけ、制御が難しくなるし……」

ランシス「何より遣う魔力がインフレ……」

上条「と、するとメイドさんもNPC……いや、でも待てよ?おかしいって違和感が」

ランシス「?」

上条「話から察するに、『館』に居るのは俺達を除いて、NPC――『殺し屋人形団』の誰かが操ってる人形なんだよな?」

ランシス「……多分」

上条「『それがバレるのがどうして拙い』んだ?」

ラシンス「……どういう意味……?」

上条「例えば……そうなぁ、最初から全部が全部作り物めいてただろ?シチュにしろ、演技や台詞もだ」

上条「だったら別に、登場人物がマネキンに服着せたとかで良くないか?デフォルメした人形でも充分――」

上条「……」

ランシス「……途中で、どうしたの?」

上条「……必要だったから、か?……いやいや、そうすると」

上条「リアルなNPCじゃないと、俺達は『勘違い』しない……そう、か?」

ランシス「……」

上条「そう考えると筋が通――」

ランシス「……よっ、と」

キィィィィィィィィィィィィィィィィッ!!!

上条「ひぃぃぃっ!?耳が!耳が耳がっ!?」

上条「――ってテメー何引っ掻きやがった!?」

ランシス「剣を、こう……『死の爪船(ナグルファル)』で、きぃぃっと」

上条「大事な剣に何やってやがんだよ!?」

ランシス「……別に、夢の中だし……?」

上条「意外に現実的だった!?」

ラシンス「……あ、でも壊れたら現実にフィードバックする……」

上条「たまーに思うんだけど、なんでお前ら魔術使えるのに後先考えねぇの?B・ハロウィンの時も思ったけどな?」

ランシス「……で?何か分かった……?」

上条「……何となく、だけど。一通りの理屈はついた気がする」

上条「どうして本物と錯覚させるNPCを使うのか?」

上条「そいつらが本物のフリをしなくちゃいけないのか?」

上条「『団長』の体の痕跡や殺したのは誰か?」

ランシス「……ホント?」

上条「……『充分に発達した科学は魔法と見分けがつかない』って、誰かの言った台詞だけど」

上条「『効率を追求しすぎた魔術と科学は同じ方向へ進化する』――つー、話だよ」

上条「ま、なんだ?つまりは――!」

ランシス「謎は全て解けた……ッ!!!」

上条「それ俺の台詞だっ!?」

ラシンス「犯人はこの中にいる……ッ!!!

上条「え?ここへ来てまさかの二択っ!?」



――『悪夢館』 1号室

メイド「大変です上条様っランシス様っ!アルフレド様が――」

上条「――『部屋の外から声をかけても返事がない』?」

ランシス「……それども『食事の時間に姿を見せなかった』……?」

上条「セオリーからすりゃ、そろそろ次の事件が起きないと読者は飽きる頃だけどさ」

ランシス「……最初にライバル宣言した奴、もしくは友好的な協力者がリタイアするのもよくある話……」

ランシス「大体ゲストキャラのヒロインは死ぬか犯人かの二択……」

ランシス「……ま、専門用語で『当て馬』」

メイド「えぇと、どういう事でしょうか。これは?」

上条「ここは狭い。取り敢えず説明すっから場所を移動しようぜ……そうだな、食堂がいいか」

メイド「書庫でスタンバってるアルフレド様は如何致しましょうか?」

上条「の『屍体』だろ?別に中の人が奴って訳じゃねぇんだから、ほっとけ」

ランシス「……一応見ておく……?」

上条「必要無い、時間の無駄だって。俺達の推測が当たってるのなら」

上条「どうせ『団長』と同じく、『鋭利な刃物で頸椎を抉られ、且つ血の一点も流れていない屍体』なんだろうから」



――1階 食堂

上条「んじゃまぁどっから話したもんか。ま、解決編って事になんだろうけどさ」

ランシス「この話の黒幕は……あなた」 ピシッ

メイド「……それ、昨日やりましたから。他の臓器も取って欲しいのであれば、そのように致しますけど?」

メイド「『私が犯人である』――との問いに関して、否定致しましたから」

ランシス「……それは違う。『事件の犯人』”ではない”と言うだけ……」

ランシス「でも、このお話の狂言回しは……メイドさん、違う?」

メイド「具体的には、どのような?」

上条「おかしな話、つーか違和感は最初っからあった訳で」

上条「あんたが一貫して『殺人』とか『犯人』なんて、『自分からは言い出さなかった』のもおかしい」

上条「俺達の言葉を受けて否定する以外じゃ、全くっていうぐらい使ってなかったろ?」

メイド「そうでしたでしょうか?気が動転しておりましたので、あまり憶えておりません」

ランシス「……に、加えてこのゲームの勝利条件が『真相の解明』であって、『事件や犯人捜し』なんかじゃなかった……」

ランシス「これはきっと……私達にミスリードをさせるため……うん」

メイド「ミスリード、で御座いますか……承知致しました。そこまで自信がおありであれば、世間話ではなく『回答』として伺います」

メイド「勿論不正解だった場合には『ペナルティ』が適宜加えられますので、どうかご注意下さいませ」

上条「注意ねぇ?こっちをバラしたくてうずうずしてるようにしか見えねぇが――んじゃ、順番に行くぞ」

ランシス「……ホワイトボードみたいなの、ある……?」

メイド「時代設定と舞台背景としては矛盾致しますが、まぁ――こんな事もあろうとか、こちらにご用意して御座います」 ガラガラ

上条「ご丁寧にどーも。便利だな夢……しかもこれチョーク用のじゃねーか」

ランシス「……おっさんが泣いて喜ぶ昔の学校……」

上条「ウチの学校は今もこのタイプだよ!悪かったな未だに使っててさ!」

上条「……まぁ気を取り直して――この『事件』、大まかに分けて謎が三つある」

1.密室
2.殺害方法(凶器)
3.遺体の傷

メイド「その通りで御座いますね」

上条「それじゃまず密室だ。マスターキーは一つ、部屋の持ち主が持つ鍵は――」

ランシス「……あ、聞くの忘れてた」

メイド「部屋の中にありましたが、というか無かったら指摘しております」

上条「どのようにして密室を作り上げたのか――!」

上条「……いやごめん、全っ然分からなかった」

ランシス「……な、なんだってーーー……」

メイド「……上条様……?」

上条「待て!抜き手のまま近づいてくるな!?せめて話は聞きなさいよっ!」

メイド「あ、いえこれはただの職業病ですのでお気になさらず」

上条「どんな仕事?検視官か猟奇殺人鬼以外にないよな?」

メイド「冗談で仰っているのであれば、質が悪う御座いますよ」

上条「いや、なぁ?だって考えても見ろよ」

上条「魔術師なら鍵の一つや二つ、どうにでもしそうじゃね?最新式の網膜認証システムとかじゃなかったら」

ランシス「ん……?盗り外せば、可能……」

上条「おっと猟奇的な発言は慎んで貰おうか!主に俺が正気でいられるためには!」

上条「……密室にしたってなー。魔術じゃなくても合鍵だ針金だなんだで開けられるもんだし?」

上条「中のロックしてる部分を動かすとか、構造自体を変えちまうとか」

上条「外から入って来る、透明のままで居る、転移を使う……選択肢は腐る程ある」

上条「他にも常識的に考えようぜ?例えば鍵穴一つにしたって、針金で開けたとするな?」

上条「多分探偵役の奴が『不自然に引っ掻いたような痕跡が……!』とか、言うのかもしんねぇけど」

上条「『こっそり開けようとしてる側にとっては想定内だよね?』って」

メイド「えっと、仰る意味が……?」

ランシス「人を殺す……衝動的か計画的なのかは分からないけど、まぁ仮に盗みに入ったとして主人と鉢合わせ……」

ランシス「もみ合ってる内に誤って殺す、のは杜撰な計画でも可能は可能……」

ランシス「……でも逆に『違法行為をしているのだから、最初から痕跡がバレッバレなのはおかしい』……って」

ランシス「鍵穴にしろ、殺すつもりはなくっても……完全犯罪を目指すだろうから、わざわざバレやすい方法は取らない……」

上条「つーかさ、『この世界はフイクションの探偵ものじゃない』んだ。それが大前提」

上条「俺の言っている意味、分かるか?」

メイド「……すいません、理解出来ません」

上条「フィクションの探偵っては『事件の解決させるために居る』もんだろ?」

上条「だから半端ねぇコネがあったり、同世代だけじゃなく人類レベルで卓越した頭脳を持ってたり、天才的な相棒が側に居たりする」

上条「つまり『登場した瞬間に事件を解決出来る能力を持ち合わせている』んだわ」

ランシス「……ヤな言い方をすれば、凄惨な事件も、悪逆な犯人も、悲しみに打ち震える被害者の家族ですらも……」

ランシス「『探偵を華々しく活躍させるためのギミック』、にしか過ぎない……」

ランシス「……他を全部無能にして、常識すらも踏まえていない――踏まえ”られ”ないような衆愚へ落とし……」

ランシス「『探偵がどれだけ有能で素晴らしく』、引き立てるためだけに……」

上条「……ま、そこら辺は他のジャンルも似たり寄ったりだと思うがなー」

メイド「それとお二人のお立場とが、どう関係されてると?」

上条「ん、まぁ難しいこっちゃなくてだ。俺は、素人だ」

上条「持ってる知識は高校生の大半と大差ないし、犯罪についても、医学についても、トリックなんかは特に専門外だ」

ランシス「……私も、本のジャンルとはしては好きだけど……それだけ」

上条「つまり、つまりだ。俺達が言いたいのは――」

上条「――『最初っからこのゲーム、解けるだけのパズルが用意されてない』って話」

ランシス「……だから私達は『真っ当な方法』での解決は諦めた……」



――食堂

メイド「それはまた……ギブアップ宣言なのでしょうか?」

上条「違う。お前のミスだって言ってる。パズルのピースが足りてないんだよ」

上条「必要最低限の情報すら貰えず――それでも解決は出来るだろうな、『探偵』なら」

上条「何故なら『探偵が登場する物語は解決が約束されている』からだよ」

上条「……俺達とは、違う人種だな」

ランシス「……でも、別の方法でなら道はあるかも知れない、それは……」

ランシス「『あなた』の術式の解読……」

メイド「私の、でしょうか?『団長』ではなく?」

上条「惚けるなよ、つーか正確には『お前達』っつった方がいいのか?なぁ?」

メイド「NPCは確かに団員が扮しておりますが」

ランシス「……『団員』の中には『団長』も含まれるよね……?」

メイド「……」

上条「ここで、もう一つ疑問を別口で整理してみる」 カッカッ

1.何故「夢」なのか?」
2.実在の人物を模す意味は?
3.最終目的は何か?

上条「俺達――てか殆どランシスの持ってた魔術知識がベースだけど、大体は見当がついたんだ」

上条「んじゃ順番に追いかけてみると――」

ランシス「……『夢』系の術式は前準備が必要……の、割に、相手は霊装も術式も持ち込めるし、術者本体が無防備になる……」

ランシス「……しかも莫大な無力を消費する上、巻き込む人間が多ければ多い程、制御も困難、消費も桁違い……」

ランシス「造り出す仮想世界……この『館』みたいに、リアルな設定にすると更にヒドい」

ランシス「補足しておくと……『団長』ぐらいの、近接戦闘も出来るタイプなら……直接単身で乗り込んで来られると、ちょっとヤバい」

上条(と、ランシスのダメ出しを箇条書きにする) カッカッカッ

a.事前の準備が面倒。術者本体が無防備
b.相手は霊装を(身につけていれば)持ち込める。術式も使える
c.魔力消費高め+人が増えると比例して上がる
d.リアル設定にすればするほど面倒臭くなる

上条「――と、まぁデメリットだらけで。『今』の魔術サイドじゃメジャーじゃないんだよな?」

ランシス「……うん。獣化魔術と同じ、廃れた技術……」

上条「でも『殺し屋人形団』にとっては、そこまでしてもこの術式を使う理由があった」

上条「以上を踏まえて2の疑問。『登場人物に実在の人物を出す意味』なんだが」

上条「あ、ちなみに昨日会ったアルフレドはブラフかけてニセモノだと判明済みだぜ」

上条「ユーロトンネルの中、奴はアリサに助けて貰ったんじゃなく、助けた側。しかも助けられたのは俺だよ」

上条「外見や性格もよく似てると思ったが、似てるだけで本物じゃない。んでランシス」

ランシス「……あれだけ『精巧なニセモノを登場させる必要性が理解出来ない』、よ……?」

ランシス「知り合いの方がイメージはし易いけど……他の人に違和感ないレベルで再現させるのは、相当の観察と調節が必要……」

上条「極端な話、『団長』やアルフレドを出さなくても、ふなっし○のぬいぐるみでも置いて、ナイフ刺しときゃ意味は同じだった筈だ」

上条「『さぁこれは殺人犯が居ますよー、頑張って解決しましょうねー』ってな感じに」

上条「人狼っつったっけ?あれみたいにな」

ランシス「……逆に『これがお芝居じゃないガチ事件です』って思わせるんだったら、リアリティは必要不可欠……だけど」

上条「最初から『これは真相を解き明かすゲームです』って明言してんだから、下手に凝る必要はないってね」 カリカリ

e.不自然なリアリティのキャスト達

上条「で、ここで最初に戻る――メイドさん、あんたがどうして『断定する言葉を使わなかった』って話に」

ランシス「……『殺人事件が起きた』とか、『死人が出た』とか……そういう事は、決して言わなかった……」

メイド「ですが、そう判断されたのは、部屋を見たお二人ではありませんか?」

上条「その通り。『判断したのは俺達』だ。ここ重要だ」

ランシス「……もひとつ大事……」

上条「なに?」

ランシス「今も……『現場』や『遺体』って言葉を使わなかった……」

上条「あー、成程。回りくどい言い方しか出来ないもんな」

上条「言質を取られないようにするため、具体的にどうこうは言えない縛りがある」

上条「……で、ここで質問だ、メイドさん」

上条「『団長』の部屋、あそこにあった”モノ”。多分あんたが悲鳴を上げた原因でもある」

上条「”アレ”はあんたの目にはなんて映った?」

上条「俺達が『団長の屍体』だと思った”アレ”。あんたはどう思う?一体何に見えた?」

メイド「……」

ランシス「……嘘が吐けないけど、沈黙は許される……まぁ、ミスリードを誘っておいて、今更な気もするけど……」

上条「言いたくないんだったら別に無理に言う必要はない」

上条「どっちみちこのゲームの勝利条件は『真相の解明』だから、正解だったら正解って言う義務がある――」

上条「――よな?正解なのに正解扱いされないとか、まさかそこまでデタラメじゃねぇよな?」

ランシス「……ん、まぁ向こうがルールを守らないのなら……うん」

上条「……まぁ、いいや。話を戻す、えっとだな」

上条「最初に書いた三番目、『最終的な目的は何か?』って……ま、真相の答えだな」

ランシス「……『犯人を捜せ』じゃない……『事件を解決しろ』でもなく……」

上条「何故か『真相の解明』だ。おかしいだろ、っつー話」

上条「……正直言って、俺達に探偵さんが持ってるようなスキル。例えば医学だったり、話術だったり、博識だったりとか?」

上条「そういう知識があったら、逆に正解へはたどり着けなかった。そんな気がする」

上条「いつも得体の知れない相手の、ワッケ分からん魔術師と能力者の攻撃を受けてなきゃねっ……!慣れっこだもんねっ!」

ラシンス「……よしよし」 ナデナデ

上条「……あんたは何かを隠してる――だけじゃない、誤解させようとしていた」

上条「言い方もそうだし、もっと相応しい呼び方も無視している。それは何のためだ?」

ランシス「精巧に造られた屍体……アルなんとかと寸分違わないNPC……それが用意された理由、推測すると――」

ランシス「――最初っから殺人事件なんて、起きてなかった……!」

メイド「……?」

上条「そもそもで言えば、アレだよ。『団長』は死んでなんか居なかった」

上条「もしそうだったらこの館自体の維持なんか出来なかったろうさ。なぁ――」

上条「――『団長』さんよ?」

上条(そう言って俺は奴をはっきり見据える)

上条(俺の真っ正面ら立ち、先程から下を向いて俯く”演技”をしている――)

上条(――『メイド』をだ!)

メイド「……私が、『団長』だと……?」

ランシス「……そ、あなたが『殺し屋人形団(チャイルズ・プレイ)』のボス……」

メイド「では最初の部屋で見た光景は――」

上条「だから殺人じゃねぇんだよ。ありゃタダの『霊装』だ。違うか?」

メイド「あれが?しかし傷付けられていたように見受けられましたが?」

ランシス「……違う……あれはきっと『元々そうだった』から」

ランシス「……エジプトでミイラを作る際に、心臓以外の臓器は体から抜き出す」

ランシス「それをミイラと一緒に『カノプス壺(Canopic jar)』ってツボに入れて、ミイラの側へ置く……」

ランシス「いつか……ミイラが復活した時に必要だから……」

上条「多分、それの応用なんだろ?発想の転換っつーか、狂っているっつーかな」

上条「『団長の本体はカノプス壺』じゃねぇのか?」

メイド「?それはどういう意味でしょうか?」

メイド「仮にその術式だったとしても、それが一体『真相』へ繋がると?」

上条「んー…?なんつーか、学園都市でも似たような話があってだな……あんまり思い出したくはないが」

上条「体の殆どを機械にしちまって、脳の一部分をカードリッジにまで削減しやがって」

上条「そいつを切り替える事で、何人かの人格を一つの体で使い分ける――みたいな話だ」

ランシス「……効率、悪くない……?」

上条「逆にボディさえ無事なら、連続して作業とか出来るって考えじゃねぇの?……理解しちまったら終る気もするし」

上条「――んで、今回のは真逆。狂ったまでに効率重視しやがった学園都市と、あんたが似たような思考へハマっただけ」

ラシンス「……最初から、この『館』の登場人物はたった三人」

上条「上条当麻、ランシス、あとメイドさん――正確には『団長』だ」

メイド「では私室で倒れていたのはどなたでしょうか?」

上条「あれは『人』じゃない。『団長』の霊装だ」

メイド「アルフレド様の――」

ランシス「……それも『団長』が霊装で演じてた、それだけ」

メイド「では私も?」

上条「お前の『体』は霊装。ただし、多分あと何日か経つと死ぬ予定だったんだろ?」

上条「そん時も頸の後ろに、抉り取られたような痕跡の屍体――の『フリ』をする、と」

上条「学園都市とは違う。ありゃ『一つの体を複数の脳で稼働させよう』って話だった」

上条「お前は反対、『一つの脳で複数の体を切り替えて使う』っつー話」

上条「だから『アルフレドとあんたが一緒に動いていた』事がない。何故なら体は何個かあっても、持ってる脳は一つだからだ」

ランシス「……『抉り取られた傷』……も、そこへ『本体』を装着する仕組みなんだよね……?」

ランシス「あなた――『団長』の本体である『カノプス壺』が」

上条「つまり、以上をまとめると――」 カリカリカリッ

A.館では誰も死んでいない
B.屍体に見えたのは『団長』の霊装
C.その本体は『屍体』の頸の後ろ――『抉り取られた跡』に装着する『カノプス壺』

ランシス「……ついでに言えば、あなたは最初から解決させるつもりなんてなく……だから」

ランシス「……起こってもいない殺人事件……起きたような言い回しをし、あたかもここで事件が起きているかに見せかけたかった……」

メイド「……」

上条「ついでに3――『最終目的は何?』について、あぁこれは完全な憶測でしかねぇけど」

上条「それも『消費効率』なんじゃねぇかと考えてる」

ランシス「……私達に問題を解かせない……つまり、それは『絶対にここから出したくない』って意味だし……?」

ランシス「……こっちの臓器を人質にとって、ずっと立て籠もっていられる――と、思ったら大間違い」

ランシス「これだけ大きな術式、しかも非効率極まりない……」

ラシンス「……だから仮に私達を上手く騙せたとしても、永遠に維持はムリ……だし」

ランシス「だからあなたは『効率的』な術式を組んだ……そう、例えば」

ランシス「『効果範囲を最小限まで絞る』、とか……」

上条「逆に、だ。あんたがテキトーなぬいぐるみや、俺達の知らない第三者をNPCにしたとしよう」

上条「そうすると、そいつらを知らない俺達は『こいつらNPCじゃね』って疑う。ぬいぐるみだったら余計にな」

上条「そうすりゃ『なんでコイツここまで魔力切り詰めてんの?』って疑われて、そこから『解決の出来ない事件』だってバレる」

上条「だからアルフレドのNPCまで用意して、『あ、コイツの魔力ケチってなくね?』と思わせたかった、と」

ランシス「……以上が『真相の解明』……私達の出した、答え」

ランシス「……どう……?」

メイド「……上条当麻様、ランシス様――」

上条「っ!」

ランシス「……」

メイト「――見事、『正解』でございます……!」

上条「よっしゃ!」

ランシス「……うんっ!」



――食堂

メイド「いや、意外で御座います。僅か二日で真相に至るとは」

メイド「ですが……幾つか足りない所がありましたので補足したいかと存じます」

ランシス「……いいから、体、返して……」

メイド「というかですね。クリストフの『体』を造ったのに、お披露目する機会が一度も御座いませんでした」

上条「そっちの都合だろ」

メイド「いや、双子ですので同じボディを使い回すつもりでしたが」

上条「造ってなくね?」

メイド「ですから『それ』も効率重視なんですよ。霊装を何個も持ち込むと、余分に魔力を消費致しますので」

メイド「その点、双子であれば同じ体を使い回して置けば『効率的』でしょう?」

上条「凄いのかバカなのか……」

メイド「両方でしょう。お話を伺うに学園都市の方々も中々狂っていて好みですよ」

ランシス「……返して」

メイド「より正確にはもう一つだけ間違いもあるのですが……まぁそちらは謎のままにしておきましょう」

上条「負け惜しみにしか聞こねぇが。つか、ランシスの腎臓返せよ」

メイド「ではそのように」 パチッ

上条(ランシスへ近寄りもせず指を鳴らすメイドさん)

ランシス「……?」 ポンポン

上条(と、両手で体を叩いているが、分かるんだろうか?……分かる訳ねぇだろうが)

メイド「――都市伝説の一つにこんなお話が御座います。『親切な医者』というタイトルでしたか」

メイド「ある時、道を歩いていたら調子が悪くなります。すると近くに居た男性が『私は医者だ。診て上げよう』と彼の診療所まで連れて行かれ」

メイド「そこでレントゲンを撮ると『○○が大変だ!これは直ぐに出術をしなければ!』」

メイド「当然お金も持ち合わせていないし、急な話で戸惑いますが。医者はこう言いました」

メイド「『私は大勢の人を助けたい。君からびた一文金銭を取るつもりはない』」

メイド「その後、その日の内に手術が行われ、無事に退院します――が!」

メイド「家に帰って体重計に乗ると、何と昨日とは20kgも痩せているではないですか!」

メイド「どういう事だ、とその医者へ詰め寄ると、彼は平気な顔でこう言いました」

メイド「『言ったじゃないか。”大勢の人を助けたい”って』と」

ランシス「……臓器、抜かれてた……?」

メイド「似たような話は以前から御座います。30年程前には宇宙人、最近は違法臓器の密売とかで」

上条「……で、その心は?」

メイド「酷い事をする人間も居ますね」

上条「お前だよっ!?まさに今!ちょい前まで答えの出ないクイズやらして内臓抜いてたし!」

メイド「あ、いえいえ臓器は結構重いので、体重計に乗って頂ければ軽重で分かると思いますよ、というお話で御座います」

メイド「ランシス様、お気になるようでしたら、丁度いい事に体重計がここに一つ用意しておりますが」

ランシス「……あれは敵の罠……っ!」

上条「まさかっ……!?」

ランシス「旅の間お料理が美味しくて、最近ほんのちょっとだけダイエットしようとか考えてない……!」

ランシス「まさかこれを見越してわざわざ美味しい食事を出していた……!?」

メイド「――『彼』が味方だと、一体いつから思っていました……?」

ラシンス「……くっ!?」

上条「『くっ!?』じゃねーよ!即興でなに人を『実は潜り込んでいた敵』みたいにしやがんだ!仲良いなお前ら!」

上条「……いやいや、そうじゃねぇよ。そんな話じゃなくてだ」

上条「てかさっさと俺達を帰してくれよ、つーか術式解除しろ。今すぐやれ」

メイド「おや上条様、帰してくれ、とは一体?」

上条「惚けんなよ。『真相の解明』をしたら、って約束しただろうが」

メイド「お言葉ですが、私一言足りとも『真相を解明したら術式を解く』なんて約束、した憶えなど御座いませんよ?」

上条「お前……ふざけてんのかっ……!?」

メイド「違いますね、上条様。それは違ごう御座います」

メイド「私達は『狂っている』んですから、くれぐれも誤解などなさいませんよう、謹んで申し上げたく存じます」

上条「……こっちで白黒つけたいんだったら、付き合うけどな?」

ランシス「……ストレス、意外と溜まってる、し?」

メイド「遠慮致します。こちらの『体』は戦闘向けではありませんので――というか、そもそも、お二人は大変な勘違いをなさっているようで」

上条「……なに?」

メイド「『悪夢館(Nightmare residence)が解除出来ると誰が言った』のでしょうか?」

上条「……は?それって――」

ランシス「……ない、の?」

メイド「試せば分かるかと存じます――しかし!」 ズプリッ

上条「――っ!?逃げ――」

上条(とぷん、と。彼女――『団長』の姿は床に沈み、消える)

上条(俺が『右手』を使う前に、そしてランシスが『死の爪船(ナグルファル)』を一閃させる前に!)

メイド「あっははははははははははははははははははははっ!勝ちました!ゲームには負けましたが、私のっ勝ちですっ!」

上条「姿を見せやがれ!」

メイド「ここは『私』の造った夢の世界!物理法則は概ね現実に即していますが、ねじ曲げられる意のままにっ!」

メイド「何が『廃れた術式』か!何が『メジャーじゃない』だ!」

メイド「こんなにも強い!素晴らしいのに!思いのままに動く、私の世界がだ!」

メイド「さぁ私の中で永遠に迷い続けろよ『幻想殺し』!答えなどない!真実すらもねじ曲げる『夢』の中で!」

上条「クソッ……!これじゃ――」

ランシス「……私はランシス、魔術結社『新たなる光』の魔術師……」

上条「……ランシス……?」

ランシス「……魔法名、『Lancelot225(弑逆の騎士は行動で示す)』……!」

メイド「その『爪』は私へ届きませんよ?もうとっくに、あなた方の射程距離からは逃れられていますから」

ランシス「……うん、まぁ、そうだよね?ここからじゃ私の『死の爪船』は届かない……」

ランシス「……けど『今』は、だから」

メイド「と、言いま――あ――」

上条「あん?」

メイド「――くっ!?」

上条(今まで余裕だった『団長』の声が、急に……?一体何があって……?)

ランシス「……えぇと、私の先生はパパが夢魔(アルプ)で大変だったって言ってた……」

上条「夢魔?悪魔って奴か、そりゃ」

ランシス「ママが『夜更かしする子はパパに攫われるわよ?』……可哀想」

上条「即物的だな!しかも仲良さげじゃねぇか!」

ランシス「だから私に『夢』関係の魔術を教えてくれてたし……その時に、言ってた」

ランシス「『夢』って魔術は、どうやっても廃れる運命にあるんだ……って、それは何故か」

ランシス「夢を自由に操れる……それは逆に『現実と乖離する』、そう意味している……」

ランシス「……確かに、素敵な夢を見たり、物語の主人公みたいに、思い通りの生き方を出来る……楽しいかも、知れない」

ランシス「でもきっと……楽しすぎる夢は、二度と目覚めたくはなくなる……」

メイド「な、なんだこれはっ!?私の身に、何が、起きて、いる……っ!?」

ランシス「そうやって『自分が正しいと常に錯覚』すれば……正しい認識なんか出来なくなって……」

ランシス「全部が思い通りに行く世界で……そういう『甘さ』は」

ランシス「……命取り、かも?」

メイド「お前がっ!?私に、何を、したっ……!?」

ランシス「……私の『死の爪船』はニブルヘイム(影の国)に居る、死人達の爪で造られている船……」

ランシス「……神々の黄昏で巨人や死人を乗せてアースガルドへ導き、世界を終焉へと至らせる……」

ランシス「……だからゲルマン系の人達は、黄昏を遅らせるために死者を埋葬する時には、爪を切る習慣がある……これ、余談」

メイド「私の肌が!取り替えたばかりなのに皮膚が剥がれてシミが湧く!?これは何だっ!?」

ランシス「『死の爪船』は『老い』を運ぶ……その爪に切り裂かれたモノへ」

メイド「ゲフっ、ゴッホゴホゴホゴフッ!?気管がっ、どうして異常を見せ、る……?」

ランシス「『死の爪船』は『病い』を運ぶ……その爪に貫かれたモノへ」

メイド「か、体が……動か……ぐっ!?」

メイド「胸の奥を締め付ける鎖のような……!?」

ランシス「『死の爪船』は『憂い』を運ぶ……その爪に触れたモノへ」

メイド「馬鹿な……!?一度も触れてなど……!」

ランシス「……この霊装は私が着けている『爪』が本体じゃない……こっちは『影』……」

ランシス「『影の国』で造られた船だから……『爪』の本体は『影』の方……」

上条「もしかして――その爪の『影』に触れるのが発動条件なのか?」

ランシス「……攻撃なんてずっと前から、していた……」

ランシス「……食堂へ入った時から、何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も……ッ!」

ランシス「あなたが私達の話を聞いてる内に、ずっと……!」

メイド「……自分の臓器が惜しくないというのか……!?」

ランシス「……あぁ、わかった。ずっとに不思議に思ってたけど」

ランシス「……あなたはきっと、自分が大事、死にたくない、ずっと生きていたい……だから、自分のスペアを造った」

ランシス「だから『そんなモノ』に執着する……の」

メイド「生きていたいだろ!?誰だって死ぬのは怖――」

ランシス「……私は、違う……!」

上条「ラシンス……」

ランシス「死ぬ”なんか”よりもずっと怖い事は、いくらでもある……私は、知ってる……」

メイド「……無茶苦茶だ……!お前達こそ狂ってる……!」

ランシス「かも、しれ――」

上条「――いや、おかしいのはやっぱお前の方だよ、『団長』」

メイド「何?魔術も使えないお前が何を……!」

上条「だな、そこは否定しないし、出来ないんだが。少なくともお前よりかは知ってると思うぜ?」

上条「人間はどうやっても死ぬんだよ。寿命だったり、事故だったり、戦いで死んだり」

上条「……まぁ、納得出来るかどうか別にしても、そりゃ当たり前の話って訳で」

上条「でもな、『それ』は大体どこでも、いつの時代でも同じじゃねぇのか?」

上条「人間、決められただけの寿命、持って生まれたカードで、精一杯生きていくんだよ!誰だってな!」

上条「俺達よりか長生きなんだろうが、そんな事も知らねぇで!分からないまま無駄に生きてお前は!」

上条「もしも誰からも、誰か一人だけでも受け入れられるんだったら、今お前の回りには仲間がいる筈だろうが!」

上条「……魔術のセオリーなんて分かんねぇし、理解も出来ないんだと思う。つーか素人舐めんな!何言ってるか分かってねぇかも知んねぇけど!」

上条「だから――ランシスは異常なんかじゃねぇよ!テメェの命賭けられる――」

上条「――大切な、仲間を持ってるフツーの人間だ!」

ランシス「……」

上条「なっ?そうだろ?」

ランシス「……う、うんうん」 コクコクッ

メイド「……」

ランシス「……ホントの事言えば――この世界、私は嫌いじゃなかった……」

上条「なに?なんでだよ」

ランシス「打算だと思うけど、しようと思えば……例えばグログロでゴアゴアなスプラッタ、出来たよね……?」

上条「……想像したくもねぇけどな」

ランシス「……そうすれば、きっと私達にも余裕がなくて。解決は長引いた……筈」

ランシス「……まぁ、手も繋げたし、独り占め……?」

上条「その例えはオカシイ!?」

ランシス「……うん、まぁ悪いけど……そろそろ帰らなくちゃならない、から」

ランシス「こんな私でも待っている人が居る……世界へ」

上条(ランシスはそう言うと、ずっと起動している『死の爪船』を床へ刺す)

上条(ちなみにこの間、つーかさっき起きてからずっと。俺は彼女の手を握っていなかった。それはつまり)

上条(彼女が『封印していたモノ』を解き放つ準備が出来ている訳で――)

上条(――ランシスは、謳う)

ランシス「『We sing soldier's song. 』」
(我等は歌う 兵士の歌を)

ランシス「『Singing voice exaltedly stirred up. 』」
(意気揚々と奮い立つ歌声)

ランシス「『Burn and while enclosing the flame that stands. 』」
(燃え立つ炎を囲みながら)

ランシス「『It is stars in heaven in overhead. 』」
(頭上には満天の星)

ランシス「『A approaching fight cannot finish being waited for, and while waiting for the light at daybreak. 』」
(来るべき戦いを待ちきれず、夜明けの光を待ちながら)

ランシス「『We sing in the silence at night. 』」
(夜の静けさの中 我等は歌う)

ランシス「『Soldier's song. 』」
(兵士の歌を)

ランシス「『……My sword exists for the friend――』」
(……我が剣は友のために在り)

ラシンス「『――Aroundight expressed in loud voices!』」
(――声高らかに謳おう魔剣よ!)

上条(詠唱が終ると共につぷり、とランシスは自らの影の中へ手を――『爪』を潜り込ませる)

上条(数秒程まさぐる動きがした後、何の抵抗もなくするりと引き抜かれたのは――)

上条(――剣の形をした、おぞましい『何か』だった)

上条「……っ!?」

上条(血がついてる訳でもなく、ただ黒く暗い何か。剣と呼ぶには恐ろしい程の何かを圧縮して造ったような、そんなモノ!)

上条(夢の中の夢――で一度は目にした筈が!同じものとは思えない程に異様だ!)

上条(……俺は知らず知らずの内に『右手』で、自分を庇うように上げていると気づき)

上条(だか、しかし)

ランシス「これは『負』の剣。友を斬り、主の血を吸った罪深い聖剣……」

ランシス「でも、それだから、それゆえに……あくまでも『聖』なる儀式だった、オシリス神の術式に効果は覿面……」

ランシス「……多分のこの『夢』も、エジプトの死後に行われる……『死者の心臓を秤にかける』術式……」

ランシス「……だけど」

上条(『魔剣』を翳すランシスの表情が、僅かに曇ったのを見て)

上条「……ヤベぇ。かっけぇな、それ?」

ランシス「…………え?」

上条「『魔剣・特異点・お兄様』は三大中二病じゃね?俺もパラディンになってガッカリしたクチだし?」

上条「なんつーかロマンだよな!『魔剣』!」

上条(バカはバカなりに意地を見せる)

ランシス「……ダメ、これは……うん、最初は嫌いだったけど、それは……」

ランシス「……でも今は……私の、剣、だから……!」

上条(その瞳に力が宿り、口元に笑みが戻った事で珍しく失敗しなかったのだな、と確信する!)

ランシス「……レッサーになんて言おう……?」

上条(……間違ってないよね?俺、選択肢ミスってないよね?)

ランシス「……ま、一度ある事は二度あるし……?」

上条「よーしランシスさん!俺達の世界へ帰ろっかヒアウイゴーっ!」

ランシス「……なんか間違ってるし……」

ザシュッ………………!!!

上条(『魔剣』の一振りで周囲へ闇が氾濫してい――)



――キャンプ場

ランシス「……あ、ヤバ――ふひっ」

レッサー「は――?」

レッサー「……」

レッサー「……はて?今、膨大な魔力に呑み込まれたような……?」

ランシス「……あー、長かった。てか溜めた魔力、殆ど遣っちゃった……」

レッサー「えぇと、もしかして?」

ランシス「……ん。ザックリしてきた……多分、オシリス神の術式で、『夢』」

ランシス「『殺し屋人形団』の、『団長』……」

レッサー「相性ではあなたが一番有利でしたもんね。まぁ巻き込まれたとは言え不幸中の幸いでしたか」

レッサー「そいつぁ大変お疲れ様でした――よし!上条さんをf×ckする権利をやろう!」

ランシス「……ん、貰っとく」

レッサー「なーちゃってーAHAHAHAHAHAN?ツッコミ役が誰にも居ないからボケばっかで話が進まないじゃないですかー」

レッサー「っていうかですね、このパーティ天然着やせボケという、ある種究極の男の願望的な存在が居て、私の存在価値がイマイチ――」

レッサー「――ってランシス?ランシスさん?あなたイマ何か聞き捨てならない事を言っちゃったりしませんか?ねぇ?」

ランシス「――レッサー……?」

レッサー「な、なんです?」

ランシス「……ごめん、ね?」

レッサー「だから!ゴメンってなんですかっゴメンって!?」

レッサー「ベイロープからフロリスからランシスまで!どうして私へ謝るのかと濃い乳時間問い詰めたい!」

ラシンス「……それ、『小一時間』の打ち間違い……」

レッサー「どんな風俗ですかっ!?興味あるじゃないですかっ!」

ランシス「……そっち?」

レッサー「現実逃避に決まってるじゃないですか!言わせんなよコノヤロー!」

レッサー「てかこれ一歩間違ったら修羅場で死屍累々!しかも私が先にツバ着けといたのに全員で裏切るし!」

ランシス「……あ、そういえば解決したらご褒美貰えるんだっけかな……?」

レッサー「聞いて下さいよ私の話をっ!?つーか『新たなる光』の信頼関係ボロッボロじゃないですか!?」

レッサー「ねぇっ!?確かにキチガ×カルテットの半分は墜としましたけど!あまりにも私達が払った代償が重いじゃないですか!」

レッサー「つーかあなた前の前の前の前の時にも言いましたけど、結構手ぇ早ぇっつーか、計算高かないでしょうかねっ分かりませんっ!」

ランシス「あ、ごめん。先行ってるね……」

レッサー「イクってどういう事ですか!?先にイクって卑猥な!つーか私もイキたいんですけどどうすればいいんですかねっ!?」



――朝市

鳴護「レッサーちゃん、なんか騒いでる……」

ベイロープ「何やってんのだわ、あの恥女」

フロリス「薄い本にありそうな卑猥な台詞を連呼してる……誰得?」

上条「ま、まぁまぁ!日本語だし誰も気づかないって!」

フロリス「昔っから仲が良いからねーあの二人、色んな意味でうんうん」

上条「仲が良いのは結構だが――あれ?」

鳴護「どしたの?何か気になった?」

上条「あぁうん、朝市なんて始めて来たし。気になるのは大体全部なんだけどさ。そうじゃなくって」

上条「今、俺達は夢を見ていたような……?」

フロリス「夢?起きたばっかジャンか」

上条「あぁいや、そうじゃなくって、そういう話でもなくてだ」

ランシス「……どったの……?」

上条「ランシス?あるぇ?ちょい前まで俺達――」

ランシス「……あ、あっちの方にジャムの露天が……」

上条「聞けよ話!?」

フロリス「おっ行く行く!オレンジの買ーおっと」

ベイロープ「ブラッドベリーあるといいけど」

鳴護「へー、手作りなんですねー?」

ランシス「……ん、農家の奥さんが趣味でやってたりする」

上条「聞きなさいよ人の話をさっ!何みんなでスルーしやがる!?」

フロリス「ぶっちゃけ夢がどうこう言い出したらフツー、引く」

上条「……ですよねー」

おばさん「いらっしゃい!ウチで採れた果物をジャムにしたんだよ。一つお土産にどうだい?」

鳴護「わー、瓶に手書きのラベルですかー。なんか可愛い」

フロリス「保存料もとか入ってないから安全だぜ?……ま、足も早いんだけど」

上条「日本語上手いな、お前ら」

ベイロープ「あんまりツッコムのは野暮よね」

ランシス「……ん?」

上条「珍しいのでもあったか?」

ランシス「この瓶……」

上条「……ラベルの代わりにメモが貼り付けられてる、と。何々――」

上条「――『I'm here! 』……?」

上条「……うん?何かの待ち合わせのメモと混じったのか?」

ランシス「ちょっと、それ貸して……?」

上条「いいけど――って重っ!?結構あんぞコレ!」

ランシス「問題ない、こっちじゃ『帯』も霊装も身につけてる――」

ランシス「――あ、手が滑った」

ガシャーーンッ!!!

上条「おまっ!?今絶対に振り上げてたし!手が滑ったってレベルじゃねぇな!?」

ランシス「……ごめんなさい、おばちゃん……弁償する」

おばちゃん「ん?いーのよ、別に瓶の一つぐらい。その代わりに何か買っていきな」

ランシス「……うん、ありがとう」

上条(ランシスが叩き付けて割った瓶から、真っ黒なヘドロっぽいジャムが辺りへ飛び散った。何?何の果物?)

上条(……かと思えば日光に当たった側からジューっと蒸発していく……ドライアイス?メタンハイドレイト?)

おばちゃん「……変だよねぇ。そんなジャム、ウチにおいてあったっけ……?」

レッサー「お、こっちのこれお高いんじゃないですかね?向こうの店では半額でしたよー?」

おばちゃん「残念だったね悪ガキ!この朝市じゃジャム売ってるのはここだけだよ!」

レッサー「やりますねっ露天のおばちゃん――はっ!?まさか月極(げっきょく)グループの使いかっ!?」

鳴護「レッサーちゃん、それ”つきぎめ”」

フロリス「てーかさ中二病発症させるの禁止」

ベイロープ「自制しろ一応リーダー」

レッサー「一応って!?自制をするのが一応なのかっ、それともリーダーなのが一応なのかっ、場合によっちゃ裁判沙汰ですよっ!」

ベイロープ「どう考えても前でしょーが一応リーダー」

レッサー「つまり今のは、一応が『どう考える』へかかるのか、それとも『リーダー』を修飾するのかっ、いやぁ言葉って難しいですねぇ」

鳴護「今度は漢字おじさんになってる」

フロリス「おーい、帰って来ーいレッサー?現実から逃げても、大抵現実は追いかけてくるんだぜー?」

上条(ベイロープに精神的な意味でシバかれそうになってるレッサー、それを見て笑うアリサとフロリス)

上条(その光景を見て『帰って来られた』と俺は一人で安堵の息を吐く――ついでに)

上条(何故か俺の『右手』と手を繋いでいる”彼女”へ、野暮だろうと思ったが、こう聞いたんだ)

上条「な、ランシス」

ランシス「うん……?」

上条「あれは、夢か?それとも現実?」

ランシス「……んーとねーえ、それはー……」

上条「それは?」

ランシス「――『アイシテル』」



――胎魔のオラトリオ・第三章 『悪夢館殺人事件』 −終−



――揺蕩う微睡みは羊水の中に

 その中に、あたしは浮かんでいました。
 とても温かくて、安心出来て、心が満たされてて。

 お布団の中で微睡んでいるような、休日の朝に時間を気にせず、二度寝出来るような。

 ずっと前から知っていて……?そう、これはきっと、”私”が知らない、知らずに居たもので。
 もしも名前を付けるのであれば、『おかあさん』、なのかも知れません。

 人は生まれる前からずっとおかあさんに一緒に居るから。この世界へ生まれ落ちる際には悲しくて泣いちゃうんだって。
 もしも『ここ』がそうであるならば、何となく気持ちは分かっちゃうような……?良くないのかも知れないけど。

 ……。

 えぇと、確かあたしは……”私”と一緒にエンデュミオンを……止め、んだっけ。
 ”私”と一緒になって――うん、そうだった。

 地上への落下は避けられたのかな?インデックスちゃんや当麻君は怪我しなかったかな?
 御坂さん達も――。

 ……。

 ……なんだろう、凄く、眠くて……。
 意識が……意識が、溶け――。

 このままじゃ……”あたし”が消え――っ!?

 ……。

 ……あぁでも、”あたし”はニンゲンじゃなかったんだっけ……?
 『奇蹟』を望む一人の女の子の願いが――”あたし”を創って。

 ”私”の殆どは元へ戻っ……だから、残った”あたし”は。
 借り物の命だった、あたし、には――。

 ……。

 ――ヤダっ!生きていたいよ……!死にたくなんかない……!

 もっと、もっとインデックスちゃんとお喋りしたいし!
 御坂さん達とも遊びに行く約束したのに!
 このまま消えるなんて……イヤっ!

 ……。

 ……助け……当――。

『……』

 ………………意識が……戻っ……て……?

『……』

 溶け出していた”あたし”がまた、一つに……これは……そうじゃ、ない?あなたは……?
 あの世界に――もう一度”あたし”を生まれて――産んでくれる……?

『……』

 ……待って!あたしまだあなたに何も!
 あなたは!あなたがあたしの――!

 ――おかあ――。

 ザザザザザザザザザザッ――。



――日本 『安曇氏族(クラン・ディープス)』本部

五和「……いいですか、建宮さん?あちらは日本全国数万社の『安曇神社』を間接的に束ねる方です」

五和「くれぐれも、くーれーぐーれーもっ!失礼のないように!分かってますよねっ!?」

建宮「……あぁいやうん、五和さんの仰る事はご尤もだと思うし、俺も最近悪フザケが酷かったのは悪かったのよ?ま、そこいらは反省してるのよ」

建宮「でもなんつーか、教皇代理っつーか、魔術的にも立場的にも先達な訳であり、そもそも『安曇氏族』とは知り合いだった俺」

五和「ホラいらっしゃいましたよ。平伏して下さいっ」

建宮「あ、はい」

安曇棟梁「――畏まらなくていい。立場は違えど魔術師同士、鯱張る必要はない」

建宮「なのよなー」

五和「教皇代理!」

安曇棟梁「……また今回の件、安曇達の与り知らぬ所とはいえ、一族が迷惑をかけた。謝罪しよう」

建宮「おう、受け入れるのよ。天草式十字凄教教皇代理、建宮斎字の名の下に安曇氏族はこれ以上名誉を失わないと宣言するのよな」

五和「建宮さん……」

建宮「政治にはある程度のプロレスも必要なのよ」

安曇棟梁「顔見知りであっても知らんぷりをする事もまぁ……場合によっては有効だろう。さて」

五和「驚かれないんですね、その」

建宮「以前ちょいとした縁で少々なのよな……ま、その話はいつかするとして、今は大事な話をするのよ」

安曇棟梁「と、言われてもな。五和殿にも話したが、我らは可能な限りの情報を開示している」

安曇棟梁「その上、日本の公文書や神社本庁が所蔵している歴史書や神話の類は、禁書目録が記憶している筈だ」

安曇棟梁「これ以上情報を寄越せ、と言われても正直我らには思い当たる所がない」

五和「と、仰るばかりで」

建宮「……うーむむむ、なのよ」

安曇棟梁「そもそも、で言うのであれば……いや、安曇阿阪の『ミシャグジ神』」

安曇棟梁「我らが入植し、彼の神を習合させたのは今から1400年以上も前の話」

安曇棟梁「安曇阿阪は我らの氏族名を名乗っているが、我らとは術式体系からして違う。教えられる事などない」

建宮「ま、そう……なのよな。常識的に考えてもそう言われるのは分かっていたのよ」

五和「ですよねー。無茶ブリですもんねー」

建宮「――が!これはあくまでも一般論なのよ、と前置きをしての話」

建宮「よしんば知っていたとしても、『自分達は”野獣庭園”とは無関係です』っつースタンスを取るために、知らず存ぜぬで通すのがベターなのよな」

建宮「多分『秘術』の一つや二つあるんだろうが、そりゃどこの魔術結社でも同じ」

建宮「下手に手の内をバラすとなれば、対抗策も打たれる……のよ?」

五和「……棟梁さん?」

安曇棟梁「……では私も一般論だが、私の昔の知り合いがこう言っていたな」

安曇棟梁「『救われない者には救いの手を』、だったか。単純な言葉だが、それ故に難しくもある。実行に移すには」

安曇棟梁「その馬鹿者どもは利益にも何にもならない事を進んでする人間達だった」

安曇棟梁「……まぁ正直、羨ましくもあったが。その姿勢には少なからず共感と尊敬を集めていた――が」

安曇棟梁「気がついたら居なくなってたんだが?」

建宮「……あー……」

安曇棟梁「今ではどこか遠くの島国で、文字通りの『狗』に成り下がっていると聞く」

安曇棟梁「そんな相手を警戒こそすれ、胸襟を開けと言うのは無視筋だ」

建宮「……おいおいお前さん、ちぃと言葉が過ぎるのよな?」

五和「教皇代理!」

建宮「分かってるのよ五和。俺はこれぐらいでブチキレたりはしないのよ」

五和「そいつ、殺します!」

建宮「分かってなかったのはお前の方よな?つーか頭を冷やすのよ」

安曇棟梁「……お前達の性格上、この国を離れてでも救いたい者があったのだろう?個人的には理解しないでもないが」

安曇棟梁「だがこの国に産まれ、この国で生き、この国の土へ還る覚悟を決めた人間にとって、甚だ不愉快である、とも」

建宮「覚悟の上なのよ。言い訳も否定もするつもりはないのよ。嘲りたければ、裏切り者と罵るのも好きにすれば良いのよな」

建宮「我らはただ、我らの生き様を続けるだけのなのよ」

安曇棟梁「好きにしろ。九州は元々我らが根拠地でもある」

安曇棟梁「要が消え、濁った泥沼から湧く五月蝿は我らが打ち払う。好きにすれば良いさ」

建宮「恩に着るのよ」

五和「……あのぅ、もしかして、なんですが……?」

建宮「少年とヤンキー神父の関係に似ているのよな、俺達は」

安曇棟梁「例えが分からないが、縁があるとすれば腐れ縁だな。面白い話でもない……さて」

建宮「ちゅー事でいい加減全部ゲロって欲しいのよ」

安曇棟梁「無理だ、というか、無駄だな。それは」

安曇棟梁「我々の氏神――安曇大神の情報は開示してある。分かっているんだろう?」

建宮「綿津見――海神なのよな」

安曇棟梁「そうだ。海の神であり、航海の神でもある」

五和「古事記に出てくる『阿曇磯良(あずみのいそら)』ですよね」

安曇棟梁「五和殿、その、神域で御名をみだりに呼ぶのは」

五和「すいませんっ!……ていうか、ここも神域ですか?」

建宮「建物の屋根の形、あれは崩してあるが寝殿造の寝殿なのよな」

安曇棟梁「……まぁ、今はここにおわす訳ではなし。また一々怒りもしないだろうが」

建宮「あぁ俺らが聞きたいのは彼の神じゃなく、『ミシャグジ神』の方なのよ」

安曇棟梁「何故だ?」

五和「えっ!?そうだったんですかっ!?」

建宮「……五和さん?お前さん一体今まで何をしていたのよ?」

五和「え、えっとですね?」

安曇棟梁「女衆から朝晩料理を熱心に習っている、と評判だな」

五和「ち、違うんです!これは日常の中にある術式を取り入れるためにですね!」

五和「決して『こうなったら胃袋から掴むしか……!』なんって疚しい気持ちじゃ!えぇもう本当に!」

建宮「……まぁ良いのよな。出来ればウチのお嬢様にも見習って欲しいぐらいだが」

安曇棟梁「ミシャグジ神か……」

建宮「イギリス清教の関係者が妙に気にしてるっちゅーか、『濁音協会』の横の繋がりを知りたいそうなのよ」

安曇棟梁「つまり?」

建宮「もしかして『崇める神』繋がりなんじゃねぇか、と当りを付けた寸法なのよな」

安曇棟梁「ミシャグジ神の持っている属性から、相手の傾向を読むか……ふむ」

安曇棟梁「……我らの神は海神であり、そこから派生して航海、暦、天候の神でもあるな」

五和「航海は分かりますけど、暦と天候はどうして?」

建宮「昔の航海術は月や星、天体の動きで自分達の位置を把握していたのよ」

安曇棟梁「船乗りが北極星を頼りに船を動かしたのと同じ。北関東一帯で崇められる彼の蕃神も、元々は古い天候の――」

ジジッ

安曇棟梁「その流れを汲んで、我が神は月の神であったとも言われてはいる」

五和「海の神様が、空に浮かぶ月に関係あると?」

建宮「まーるいお月様も、天へ昇る前は地平線の下――海の向こう側に隠れているのよな?」

五和「……成程。昔は世界が丸いなんて考えもしませんでしたもんね」

安曇棟梁「その神とミシャグジ神は習合され、合一の存在となった。然るにある程度の共通性があり――」

建宮「どうしたのよ?」

安曇棟梁「……なぁ建宮斎字。断片的にしか聞いていない、我らはな」

安曇棟梁「だが、だからこそ。部外者だから言える事があるとも思う」

建宮「何なのよ」

安曇棟梁「連中は『クトゥルー』を崇めていると表しているんだったな?それは本当にか?」

建宮「ん?あぁまぁ一応は、なのよ。専門家はブラフだって結論に行き着きそうなのよな」

建宮「そうじゃなければわざわざ日本へ戻って、知り合いへ頭を下げには来ないのよ」

五和「いや建宮さん、下げてませんよね……?」

安曇棟梁「……そうか。ならばこれは思い過ごしなんだろうな、忘れてくれ」

建宮「何なのよ?笑ったりはしないから、言うだけ言ってみるのよな」

安曇棟梁「……」

五和「手かがりになればラッキーかも知れませんし、教皇代理が笑ったら私がぶっ飛ばしますから!ねっ?」

建宮「五和さんっ!?」

安曇棟梁「……相変わらずお前の所は家族なのだな……まぁ、いい」

安曇棟梁「ただ、これは突拍子もない話。与太話として聞いて欲しい」

建宮「勿体つけるのよな」

安曇棟梁「我らが情報を得ているのは、五和殿から聞いた範囲でしかない。『野獣庭園』がミシャグジ神の術式を持っている事」

安曇棟梁「そしてまた連中がクトゥルー系の魔術師だと標榜している事か」

建宮「他の連中の話をしても良いんだが、そうなると本格的に巻き込むのよ」

安曇棟梁「是非もない――と、言いたい所だが、北関東から東北にかけて別口の魔術結社が暗躍している」

安曇棟梁「そちらの対応で手一杯――な、上に『学園都市』の案件である以上、下手に手が出せない」

建宮「……ま、立場は違えども向いている方向は同じなのよな、きっと」

安曇棟梁「で、あくまでも少ない情報からパッと浮かんだ、あくまでも部外者の与太話なんだが」

五和「……随分回りくどいですね」

建宮「立場上断言する訳にはいかないのよ、察するのよな」

安曇棟梁「我が神は海神、大海原の底に座し、我が国を守り給うモノだ」

建宮「なのよな」

安曇棟梁「当然『習合』されたミシャグジ神も『海』の属性を持っている。ここまでは分かるな?」

建宮「さっさと結論を――」

安曇棟梁「それじゃ、ルルイエはどこにある?」

建宮「……っ!?」

五和「……はい?」

安曇棟梁「こうしている間も死して夢見る邪神は居る――在るのかも知れない」

安曇棟梁「人間が到達出来ない深い深い海の底に」

建宮「待つのよ!それじゃまるで――」

安曇棟梁「『――ミシャグジ神はクトゥルーと同一の存在』じゃないのか?」



――悪夢の残滓

カツ、カツ、カツ、カツ……

アル「……」

アル「……つーかな、アレだよ。カミやんにも言いたいんだけどな」

アル「てーかまぁ?俺自身も無茶な事を言ってる自覚はある。あるんだよ、一応はな。でも」

アル「折角人が体張って『SUKE-KIYO』やってたっつーのに、無視って酷くないか?なぁ?」

アル「スルーってどういう事?折角人が日本からDVD取り寄せて探偵映画研究したのに、無視て!」

アル「てかあの映画『殺すにしても無駄リソース割きすぎじゃね?』って誰も突っ込まなかったのかよ!原作は読んでねーけども!」

アル「他のシリーズも基本活躍するのが少年て!いや大人が働けよ!小林君にほぼ丸投げってどういう事!?」

アル「……それでいいのか日本?そこまでする必要があったのか?」

アル「小学生になったってっても元々は高校生だぞ?逮捕権も捜査権も認可制じゃねぇのかよ……凄ぇなニッポン……」

アル「あの世界の神様が……『もうボスは登場している……!(キリッ)』」

アル「……」

アル「光彦逃げてー!?灰原ファンから死ね死ね言われてる光彦君逃げてー!」

アル「……」

アル「そういやこないだエロゲーをやっていたら、歩美ちゃんの中の人がだな」

アル「てか早く神採系の新作をだな」

ジジッ

アル「……あぁクソ、愚痴ってる場合じゃねぇなぁ」



――1号室(仮)

アル「……」

アル「シーツは………………」 ポンポン

アル「……まぁ、この状況でヤッてねぇよな。このシチュで手を出さないのも尊敬するっちゃするが」

アル「ゴミ箱……あぁいやそうじゃねぇ。こっちだこっち――」

アル「――って重っ!?何でこんなに重いんだ!?設置型っつー訳じゃねぇだろ!」

?『……』

アル「窮屈ってぇ言われても、なぁ?まだ完全に分化してねえんだから、筺ん中に入んのは当たり――なに?分かってる?」

アル「だったら――あぁまぁ文句の一つも言いたくはならぁな。ニンゲンだもの、みつを」

アル「んで、どうだった?間近で見た感想は?」

?『……』

アル「あー……うん、まぁ?分かるけど!」

アル「アレがデフォであって、下手に手を出したらルート決定すんだろ言わせんなよ恥ずかしい」

?「……」

アル「……その通りだぜ。もう少し、あとほんの少しで!俺達の願いは達せられる!」

アル「第一の時代を以て誕生は成り、この暗い闇の中へ嬰児は生まれ堕ちた!」

アル「第二の時代を以て競争を過ぎて、爪と牙の世界で高らかに産声を上げる!」

アル「第三の時代を通り、機械は電気羊の夢を見ないと証明された!」

アル「ルルイエにて死して夢見る我らの王よ!夜の闇から我らを助ける慈悲深き”シィ”よ!」

アル「このクソッタレな世界に永久のシジマ(静寂)を……ッ!!!」

?「……」

?「『彼ら、空を睥睨せよ。”私”は容易く星を射落さん』」

?「『竜尾が弧を描き、歌姫は反逆の烽火を上げる』」

?「『――静謐な黒き大海原よりルルイエは浮上し、私は再び戴冠せり』」

?「『久遠に臥したるもの、死することなく――』」

?「『――怪異なる永劫の内には、死すら終焉を迎えん――』」

?「『――我が“SLN”の名の下に』」

?「『……』」

?「…………………………………………………………………………きひっ」



――次章予告

――キャンピングカー 移動中の運転席

レッサー「あのぅ、ベイロープさん?ちょっといいですかね?」 ゴソゴソ

ベイロープ「遊んで欲しいんだったら後ろ行け、後ろ」

レッサー「いやあの、そーではなくちょっとご相談がありまして」

ベイロープ「……どうしたのよ。お金?お小遣い足りなくなっちゃったの?」

レッサー「その反応も失礼だと思うんですが……そーでなく、その」

ベイロープ「いいけど。あ、今マイク切るわね」 カチッ

ベイロープ「てかまた?もしかしておっぱいが大きくなったとかネタじゃないでしょうね?」

レッサー「い、いやいやっ!そういうのではなく!てかあれはあれで大真面目な話だった訳ですし!」

ベイロープ「……あの頃のレッサーは可愛かったなぁ」

レッサー「今も可愛いじゃないですかっ、シャインッ!」

ベイロープ「だかにそーゆートコがダメだっつってんの」

レッサー「や、そうではなく……今度こそ、きちんとした病気、だと思うんですよ」

ベイロープ「まぁ前のもネタじゃないと言えばそうなんだけど」

レッサー「はい。これでボケだったらケツを百叩きして貰っても構いませんよ!」

ベイロープ「……それ前振りにしか……いや考えすぎよね、多分」

レッサー「やあっだなぁそんな訳ないじゃないないないですかーベイロープさーん」

ベイロープ「今、あからさまにナイが大量発生していた気がするんだけど?」

レッサー「はっ!?期待されたらついボケてしまうこの体質が恐ろしい……!」

ベイロープ「前っから言おう言おうと思ってたんのよ、あなたはもう少し自粛しなさい、ね?」

レッサー「そこに熱湯風呂があって前の人が『押すなよ!?絶対に押すなよ!?絶対だからな!』と言われれば、誰だって押しません?」

ベイロープ「芸人だけね?友達とバンジーかスカイダイビングに行った時にそれしたら、まず間違いなく絶交されるわよ」

レッサー「いやでもこないだランシスとバンジーしたら、バンジー後に親指立ててましたが?」

ベイロープ「あなた達は、おかしい。てか昔っから影でコソコソと何やってんだか」

ベイロープ「んで?」

レッサー「実は少し前から胸が痛くって」

ベイロープ「よし、ケツを出せ。デトロイト・テクノのビートを刻んでやるのだわ!」

レッサー「違います違います!ギャー!?『鋼の手袋』出してやる気になっておられる!?」

レッサー「てかテクノとは意外な趣味ですねっ!?」

ベイロープ「なんか『ビョーク好きでしょ?』って言われるのよ、外見だけで」

レッサー「あー……そんな感じですね」

ベイロープ「こっちはアシッド時代、ジャングル入った頃からのリッチー=ホァウティン聞いてんだっつーのよ!文句ある?」

レッサー「イメージと合わないですよねー」

ベイロープ「てがビョークはアイスランドよ!スコットランドを北欧繋がりで括るな!」

ベイロープ「てかボケじゃんネタじゃん真面目じゃないでしょーがっ!!!」

レッサー「ま、待って下さい!?まだ話に続きがありまして!」

レッサー「別に成長痛だって訳じゃないですから!明らかに違いますし!」

ベイロープ「……なに?まだなんかあんの?」

レッサー「その、痛みだけじゃなくってですね、こう、きゅうっ、と」

ベイロープ「……痛いんじゃない」

レッサー「いえ、なんて言いましょう。痛いんじゃなくって、締め付けられるように」

ベイロープ「カップが合ってない?……て、結局同じじゃないの」

レッサー「ですからそういう事ではなく!……ドキドキ、的なのもありますし?」

ベイロープ「動悸か……それだったら医者に診て貰った方がいいんじゃないの?素人にどうこう言ったってしょうがないっつのーに」

ベイロープ「……それとも『呪い』かしら?基本私達の口に入る物は『幻想殺し』が触ってるから」

ベイロープ「空気感染、も術式としてはあるかー……向こうは廃れた魔術のエキスパだから、伝染病関係かも?」

ベイロープ「ローマ正教に借りを作るのは嫌……ま、適当な魔女でも紹介して貰って解除――」

レッサー「いやですよっ!恥ずかしいじゃないですか!」

ベイロープ「恥ずかしいて。別に女医さんか魔女なら平気でしょうに」

ベイロープ「私へ相談するぐらい深刻ってんなら、さっさと看て貰って安心した方がいいのだわ」

ベイロープ「大した事なきゃ笑い話で終るし、そうじゃなくても早期治療が最善だし」

レッサー「だからっ!そうじゃなくて……言うのが、ですよ!」

ベイロープ「……んー?要領を得ない話……」

レッサー「……」

ベイロープ「……あれ?」

レッサー「聞いてますか?ねねっ?」

ベイロープ「もしかして『恥ずかしい』って、『医者に症状を話すのが』って事か?」

レッサー「他にある訳ないじゃないですか!」

ベイロープ「……」

レッサー「……」

ベイロープ「……なぁ、もしかして、なんだけど」

レッサー「な、なんです?」

ベイロープ「胸の痛み、動悸、あときゅーっとするだっけ?」

レッサー「えぇはい、そうですが」

ベイロープ「それってもしかして、あのツンツン頭を見てると――」

レッサー「あーーーっ!ああーあーあーーあーあーああーあーっ!」

ベイロープ「……あんたねぇ」

レッサー「……はい?」

ベイロープ「取り敢えずケツを出せ。全力で引っぱたくから」

レッサー「何でっ!?」

ベイロープ「お約束だからよ」

レッサー「ならしょうがないですよねっ!」

ベイロープ「ツッコミなさいよ」



――最終章『ダンウィッチ・シティ』予告 −終−

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