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Clock(trial)
胎魔のオラトリオ・最終章 『ダンウィッチ・シティ』 −中編−

――『明け色の陽射し』 ロンドンにあるアジトの一つ

レッサー「――うーむ。結論から言えば真っ黒でしょうかねぇ、こいつぁ」

バードウェイ「どれ、見せてみろ」

レッサー「なんて言いましょうか、素人ですらどこから突っ込んで良いのか困るレベルですよ」

バードウェイ「……30代の若人がCF、しかも立て続けに10人だと?馬鹿げている」

バードウェイ「疑ってくれと言ってるようなもんじゃないかね、これは」

レッサー「でっすねぇ。しかもジギタリスすら常備してなかったせいで、応急処置も出来ずにそのまま、と」

バードウェイ「よくもこんなチャチな書類で保険金が下りたもんだが……あぁ”だから”か」

レッサー「ですね。逆に杜撰すぎて下りなかったもんで、当――上条さんのお父様へお鉢が回って来たのでしょう」

バードウェイ「他にもホメオスパシー系が『なんて良心的なんだ!』と思えるような内容、感動すらも覚えるな」

レッサー「って事はやはり?」

バードウェイ「ま、二種類の詐欺に関してはクロ。だがそれが連中の仕業とは限るまい?」

レッサー「いやぁそれがですねぇ。担当医の名前、読んで下さいな」

バードウェイ「……あぁ。聞いた名前だな、どこかで」

レッサー「ですなー。あからさま過ぎて罠を疑うレベル」

バードウェイ「むしろ罠ではない、と言うのが不自然なぐらいだが……さて?」

レッサー「……えぇ!」

バードウェイ「……」

レッサー「……」

バードウェイ「なぁ、一ついいか?」

レッサー「あい?」

バードウェイ「私が折角内部資料を解説してやってるのに、あの馬鹿者はどこで何をしてるんだっ……!?」

レッサー「あー……あちらを」

上条「――マジ?この食材使って良いのかっ?」

マーク「勿論ですとも。何せ上条さんのためにご用意させて頂いたものですから」

上条「え、俺?なんで俺のために?」

マーク「ウチのクソガ――もとい、ボスがね。実は『そろそろあの馬鹿者が来てもおかしくないな!』なんて言ってまして」

上条「あ、そうなんだ?占いスゲーな」

マーク「約十日前から」

上条「凄くなかったな!?九日は外してんじゃん!?」

マーク「いえいえ、ほらユーロトンネルで大暴れしてましたよねぇ?アレ見てボスが」

マーク「『……成程成程。ARISAの護衛か……これは流石に一人の手には余るだろう……ククク』」

上条「やだ脳内再生率ハンパじゃない」

マーク「『どうせ私達、”明け色”に泣きついてくるんだろうが、そう安売りはせん!たまには痛い目を見るがいいさ!』って宣いやがったんですが」

マーク「でも実際にご一緒なさったのは、そちらのお嬢さん方でしょう?だもんでボス大恥、ザマーミロ的な?」

上条「あ」

バードウェイ「……」

マーク「しっかも挨拶ぐらいしてくれても良いのに、スルーしてさっさとイタリアへ向かいましたよね?それでもう、ボス激怒」

マーク「未練タラッタラで、上条さんから『助けて!?』的な連絡が入るかも?ってずっとソワソワしてましてね」

マーク「そうしていたら『網』に上条さん達がロンドンへ来るって――って、どうしたんですか?何か、いやーな顔してますけど?」

上条「マークー、後ろ後ろー」

マーク「何ですかそれ。日本のモーストフェイバリットコメディアンじゃあるまいし――」

バードウェイ「マァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァク……ッ!!!」

マーク「違いますってボス!?これは危険がピンチですから!?」

上条「気持ちは分かるが混乱しすぎだろ」

マーク「てか上条さんっ!なんで言ってくれなかったんですかっ!?」

上条「だって遅れだもの。お前が悪っそうな物真似してた時、既にボスからタゲられてたし?」

マーク「確かにそれは不回避ですけど!?ソレだってもう少し傷が浅いウチに止め――」

バードウェイ「――る、と思っていたか?」

マーク「……いえ、ですけあばばばばばばばばばばばばはばばばばばっ!?」

バードウェイ「ほーら、お前”も”大好きな虐殺ウサギだぞー?」

レッサー「良い感じにスパークしてやがりますね。アメリカの処刑はこんな感じでしょうか」

上条「……なんだろう?俺には縁も縁もないのに、何故か寒気が……?」

レッサー「そういう時には人肌で暖め合うのがセオリーですなっ!」

上条「イギリスの常識が世界で通用すると思うなよっ!?」

バードウェイ「そんな常識持った憶えはない。捏造しないで貰おうか」

上条「あー……なんか、ごめんな?挨拶もしなくって」

バードウェイ「終った話だ。貴様に人並みの社交性を求めた私が愚かだったさ」

上条「終ってないよね?根に持ってるもんね?」

バードウェイ「……私だって少しばかり期待はしていたのだからな、少しだけ、だが。勘違いはするなよ?」

上条「……バードウェイ」

バードウェイ「お前がどんなマヌケ面を晒して無様にDOGEZAを決めるか、心の底から楽しみにしていたのと言うのに!」

上条「期待の方向性が違うなっ!?発想からして歪んでやがる!」

上条「……まぁいいや、メシ作っちまうから。二人とも手ぇ洗ってこい」

バードウェイ「わかった――行くぞ、どうした?」

レッサー「素直になれよツンデレ」

バードウェイ「黙れ、殺すぞ」



――食事後

上条「で、なんでバードウェイさん居んの?」

バードウェイ「成り行きだよ。路頭に迷う馬鹿者共を見捨てておくのも気が引ける」

上条「マークの証言と180度方向性が違うんだが……まぁいいや」

上条「それよりもお前らが父さんの鞄を勝手に開けてる件について!」

レッサー「や、ほら、なんかエルフの女騎士っぽい人に拉致られてましたでしょ?なのでお荷物は預かるのが筋じゃないかと」

上条「どこ行きやがった父さん!?仕事放り出してまで!」

レッサー「それで手数料的なお駄賃のような意味合いで、まぁちょろっと見るぐらいは良いんじゃねぇかな、と」

上条「……いやぁ、うん。それはちょっとスルー出来ねぇなぁ」

バードウェイ「ま、気にするな。彼には彼の仕事があり、私達とは道が異なるだけだ」

上条「同じだよね?サフォークって言う所まで同じだったもんね?」

バードウェイ「どっちみち同行は出来なかっただろう?お前は父親を危険地帯へ向かわせるつもりだったのか?」

バードウェイ「何のかんのと理由をつけて断念させるか遅らせる、違うか?」

上条「まぁ、そうなんだけどな」

レッサー「そんなにお堅いこたぁ言いこっなしってヤツですよ、えぇ。大事の前の小事とは言いましたでしょう」

上条「……父さんがどっかの誰かに拉致られたのが、『小事』?」

バードウェイ「携帯電話はどうした?先程何か話していただろうに」

上条「あー……衛星電話らしくてさ。会社に連絡して欲しいって頼まれたんだよ」

レッサー「ほら!やっぱり無事――」

上条「――『当麻、エルフって本当に居たんだな!』っつってんだけど、これ、無事か?」

レッサー「あー……」

上条「どう考えても頭イタイか、もっとイタイ状況に陥ってると思――なに?」 トスンッ

バードウェイ「――では話を始めようか」

レッサー「ぐぎぎぎっ!幼女を胡座の上に乗せるなんて!上条さんの変態っ!」

上条「お前一部始終見てたじゃねぇか!?どこに俺の自由意志があったと!?」

レッサー「嫌がる素振りも見せないなんてドンだけ好きモンなんですかっ!」

上条「や、別にいいかなって」

レッサー「幼女の仄かにミルク臭い体臭を胸の奥へくんかくんか吸い込んでガイアの息吹を感じつつ!」

レッサー「丁度お尻辺りにツンツンしながら、『ホラ、俺の妖怪さんがどこかに居るか、ウォッチしてご覧?』とか言うつもりなんでしょう!?」

上条「レッサーさん、それ妖怪じゃなくて『”幼”怪』。べとべとさん親戚のペ×ペ×さんの話じゃね?」

レッサー「『幼怪体操、しようか?』」(キリッ)

上条「どんな体操?あ、もしかして青信号の車道で踊ってたのは、『行っとけ!』みたいな比喩が込められていたの?」

上条「てか前から思ってたんだが。そんな素人じゃ考えつかないような発想をする方が、どっちかっつーとおかしくねぇかな?」

上条「明らかに堅気の人の発想じゃねぇもの!どう見てもその筋の玄人だもの!」

レッサー「余談ですが、『イノケンティウス』と『芋けんぴ薄っ!?』って似てません?」

上条「フリーダム過ぎるわっ!?天丼の三段目には同じ系統のネタ持ってくるのがセオリーでしょぉぉぉぉっ!?」

上条「確かに芋けんぴはほんのちょっと似てるけどさ!ここで前振りもなく飛び出すネタじゃないし!」

バードウェイ「……おいお前達。さっきから黙って聞いていれば、人を特殊性癖用のカテゴリーへ入れないで貰おうか」

バードウェイ「多少幼さを残すとはいえ、明らかなレディに暴言を吐くのもいい加減にし給えよ」

上条「だって子供じゃん?普通の女の子だったらしないし?」

レッサー「せめて膨らみを抑える乳バンドをつけないと、おっぱいはおっぱいと呼べませんねぇ、はい」

レッサー「今ぐらいの膨らみだと――”おっ”ぐらいが適当かと。あ、多少オマケしてですよ?」

バードウェイ「――よし、表へ出ろ。猪の牙をへし折ってやる!」

上条「コラ暴れんな!大人しくしとけ!」 ナデナデ

バードウェイ「はーなーせっ!気軽に撫でるんじゃないっ!」

上条「あー、レッサーいいから話進めてくれ」 ナデナデ

バードウェイ「……っ……!」

レッサー「嫌なら別に退けばいいんじゃないですかね、どっちも」

上条「何?」 ナデナデ

バードウェイ「……」

レッサー「この『幻想殺し』……なんかこう、イラっと来るって言いましょうか。や、まぁいいんですけど」

上条「だから俺の能力にはそんな意味は無いと何度言ったら」 ナデナデ

バードウェイ「……くっ、殺せ!」

上条「アレ!?いつの間にか妙な能力獲得してたのっ!?」

レッサー「幻想とロ×を開発する能力……!なんて恐ろしい……!?」

上条「怖いけど、それある意味で幻想殺せてないよね?あとむしろ殺されるのは俺の社会的立場だよね?刑法的な意味で」

レッサー「――さて!これ以上は条例が怖いので突っ込みませんが!書類の内容から説明しますけど――」

上条「条例?どこの条例?非存在が存在しちゃう系の条例なの?」

レッサー「えぇっとですね。書類に拠ればこの方――というか医療団体は二つの嫌疑がかけられています」

レッサー「一つはスタバでも言った国民保健サービスで不正診療をし、要求してるといった所でしょうな」

上条「疑似医療行為だっけ?」

レッサー「ですな。お父様が仰っていた通りっちゃ通りでした――んが!」

上条「……」

レッサー「んーーーーーがーーーーーーっ!!!」

上条「そ、それでっ!?」

レッサー「でもその資料は『参考資料』でして、本命は別にあったみたいです」

上条「医療報酬じゃなくて?」

レッサー「えぇ。だってそっちは儲けが少ないですからね。だもんでそんなに派手にはやってないかと」

上条「充分大事だと思うが……それじゃ何を?」

レッサー「まぁぶっちゃけ保険金詐欺ですな」

上条「……もしかして?」

レッサー「ご想像の通りの、いやーな感じの方ですね。保険金かけて『事故死や病死』する的な話」

上条「ガチじゃねぇか……!」

レッサー「考えてみればお父様は民間の方なんでしょう?なら、同じく民間保険会社の依頼を受けたんでしょうな」

レッサー「国民保健サービス云々はあくまでも参考。っていうか、もしそっちか主目的だったら国が動いている筈です」

上条「……敵、ヤクザかよ……」

レッサー「『だったらまだ良かった』んですがねぇ。生憎それがそうでもないらしくて」

上条「またまたー、ヤクザ以上にタチ悪いのってそうそう居る訳がないじゃないですかー」

レッサー「完全に熱湯風呂的なお約束へ入ってますけど――ま、こちらをご覧下さいな」

上条「診断書……?ほ、ホラ俺ドイツ語とか見せられてもね!」

上条「いや残念だわー、英語だったら読めたのにー」

レッサー「え?なんでブリテンでドイツ語なんて使うんです?」

レッサー「日本と違ってドイツから医療技術仕入れた訳じゃないですからね、勿論英語で書いてありますけど?」

上条「……ごめんなさい」

レッサー「いえいえ。分かります分かります、好きな子の前だと格好つけたくなっちゃいますもんねー」

上条「不本意な解釈をされてる……!?ポジティブで結構だが!」

レッサー「それにお見せしたいのはホラ、下の医師の署名欄」

上条「どこ?」

レッサー「ここですよ、こーこ」

上条「また達筆に筆記体だが……えぇっとW=ウェイトリー……ウェイトリィ!?」

レッサー「ブリテン風の発音だとウェイトリ”ー”ですね」

上条「関係者?それとも本人?」

レッサー「こっちの資料には60過ぎの初老の男性だと書いてありますねぇ。なので本人ではないかと」

レッサー「とはいえ、偶然の一致として片付けるにはおかしい――ん、ですがねぇ」

レッサー「その前に少し情報を整理しません?気になる事がありまして」

上条「ん、あぁ良いけど。大した情報は持ってないぞ」

レッサー「それは上条さんの『主観』であり、情報の価値のあるなしは別問題です。でわでわ質問!」

レッサー「髪はロングが好き?それともショートの方がいいでしょうか?」

上条「似合ってりゃなんでも。あんま奇抜じゃなければ別に」

レッサー「……」

上条「……」

レッサー「……上条さんっここはツッコむ所じゃないですかねっ!?」

上条「逆ギレじゃねぇか!?『あ、やっぱそっちか!』とは思ったけど、一応答えてんじゃん!?」

レッサー「……どーにもこう、マンネリ感が拭えませんが……まぁ気を取り直しまして真面目に!」

上条「本当だな?フリじゃないんだよな?」

レッサー「ってかもうそれ自体が『押すなよ!?』って感じになっちゃってんですが。あんまりボケても話が進まないので、えぇ」

レッサー「『濁音協会』――通称『S.L.N.』、一度は滅びてんですよね?」

上条「って言った、よな?ステイルからのまた聞きだが」

レッサー「ずばり、『いつ』の話?」

上条「10年前、ローマ正教が関係してるらしい」

レッサー「『必要悪の教会』は?」

上条「イギリスのサフォークにも居たらしくて、知り合いの先輩達がカタをつけたって」

レッサー「にゃーるほど、うむむむ……」

上条「それが何か?」

レッサー「おかしくないですか、それ?」

上条「矛盾は無い……よな?あ、マタイさんに直接訊きゃ良かったか」

レッサー「ではなく。『必要悪の教会』が、ですよ」

上条「うん?」

レッサー「仮に今から行くサフォークが、『S.L.N.』の残党なり後継者だったとしましょう。仮にですよ?」

レッサー「『わざわざ残党を残すような生温い処置を連中がする訳が無い』じゃないですか」

上条「……説得力、ありすぎるよな」

レッサー「良くて皆殺し、悪くて地図上から街そのものが消えていても不思議じゃ無い、って言うのにですよ」

レッサー「なーんか不自然だと思いません、これ?杜撰っていうか、手落ちってのも、違いますかね」

レッサー「あぁっと日本語で――あ、そうそう!『示し合わせたかのように』です!」

上条「『必要悪の教会』がグルって可能性も?」

レッサー「ゼロでは無いでしょうが、流石にそこまでは落ちぶれてないと思います。あんまり酷いようだったら、ウチの先生が介入してるでしょうし」

上条「先生も魔術師なのか?」

レッサー「昔はぶいぶい言わせてた、なんつってますけど怪しい所です。ま、それはともあれ」

レッサー「『必要悪の教会』、つまり『清教派』に歪みがあれば他の二派閥がここぞとばかりに潰すでしょう。なので主導では無いかと」

レッサー「ですが、『清教派』内部の誰かさんが意図的に隠した、とか?」

上条「……それもある話だな」

バードウェイ「……おい」

上条「ん、どした?」

バードウェイ「撫でる手が止まっているぞ馬鹿者が!」

上条「え!?そこキレる所なの!?」

バードウェイ「重要情報をくれてやると言っているんだ。そのぐらいしてもバチは当たらんさ」

上条「ってもお前、10年前だったら流石に憶えてはねーだろ」 ナデナデ

バードウェイ「ん、んんっ……まぁ、そうなん、んっ!だ、がっ……っ!」

レッサー「すいません上条さんとバードウェイさん、絵面がエロ同人みたいになってますんで、ナデナデはお話が終了してからで宜しいでしょうか?」

上条「ユカタン?」

レッサー「あぁ、いいですいいです。上条さんはどうかそのまま、汚れの無いまま育って頂きたい」

バードウェイ「……まぁ、その、なんだよ。私は関わっていない、先代ボスが殲滅に参加したという話を聞いただけだ」

上条「それじゃマークから詳しく話を聞け――」

マーク「……」

上条「――は、まだ復活してねぇな」

バードウェイ「ヤツもまだ若いから知らんよ。そうじゃなく、時間の話だ」

バードウェイ「私が聞いた分だと、『私が生まれる前に殲滅した』と」

レッサー「……っ!?」

上条「ふーん?それじゃ伝聞でしか知りようが無い――って、レッサー?」

レッサー「えと、12才児って言いましたよね、あなた?」

バードウェイ「”児”は余計だ」

レッサー「……食い違ってますよね、これ」

レッサー「『必要悪の教会』が滅ぼしたのが『10年前』で――」

レッサー「――先代『明け色の陽射し』が参加したのが『最低でも12年以上前』――」

レッサー「――なんでしょう、これは……?」

上条「バードウェイの勘違いじゃ無いんだよな?」

バードウェイ「まさか。お前でもあるまいし」

上条「ですよねー……だったらステイルが面倒臭くてテキトーぶっこいたとか?」

レッサー「で、済めば良いんですけどねぇ。今まで、そんなケースありました?」

上条「……大体、最悪の伏線になって帰って来ました……鮭の稚魚が大きくなって川を遡るようにねっ!」

レッサー「中々ドラスティックな人生で結構ですな。しかし、むー……?」

バードウェイ「直接お友達に訊いてみろ。禁書目録でも構わないが」

上条「いや、それがさ。最近連絡取れないんだよ」

レッサー「最近?具体的にはいつ頃から?」

上条「イタリア入ったぐらい。『団長』とやり合う前」

レッサー「信用出来る方なので?」

上条「あぁ、一点においては世界の誰よりも。だから『協会』の殲滅には一番熱心にやってる筈だ」

レッサー「……そうですか、んー……?」

上条「何だろうな、これ?不自然っつーか、気持ち悪――」

上条「――いや、不自然なのは今更、か?」

レッサー「なんです?他にも何か?」

上条「建宮――天草式十字凄教の知り合いとも話したんだが、色々と納得が行かねぇなって事だよ」

上条「向こうの作戦が杜撰で行き当たりばったりだって」

レッサー「あぁ成程。確かに、ですな。私もそう思っていましたよ」

レッサー「戦力を小出しにするのは下策中の下策。ムダに仲間を死なせたい目的でも無い限りはしません」

レッサー「あれだけの術式と霊装を持ちながら、最初の一回以外は全て幹部が組織単位でバラバラに動いている」

レッサー「しかも『団長』に限っては夢に二人を閉じ込め、何をしたかったのかも不明と来てますし」

上条「最初は単純な時間稼ぎだと思ったんだが、終ってみれば一瞬。もっと長かったら襲撃されてたのかも、だが」

レッサー「あー、その可能性も否定出来ませんねー」

上条「……?」

レッサー「上条さん?」

上条「……そういやステイル――『必要悪の教会』と最後に会った時、変な事言ってやがったな、って思ってさ」

レッサー「変な事、ですか?」

上条「んー……?や、でもあれは関係ないのかも?説明が面倒臭いから、『新しい友達に訊いてみれば?』的なニュアンスだったし」

レッサー「ですから、具体的にはどのような?」

上条「――『アルテミスの猟犬はどこから来たのか?』――」



――イギリス東部高速列車 朝

上条「……」

上条「……お?」

上条(明るい?てかここ、電車の中――痛っ!?)

上条(全身、あちこちが殴られたように痛い……痣にでもなってるみたいだ)

上条(俺、レッサー達と話してた、よね?なんでこんなトコ――)

レッサー「上条さん!」

上条「レッサー?」

レッサー「良かった、気がついたんですね……私、どうしようかと心配で」

上条「おいおい、お前らしくないな。心配なんてさ」

レッサー「一体どこへ捨てようか、もう……!」

上条「処理の心配っ?まずは病院連れてってあげて!……っ!?……」

レッサー「あー、大声上げるからですよ。少しとはいえ怪我人なんですから」

上条「その怪我人を、意識の無いまま列車に乗せるのもどうかと思うんだが――何があったんだよ?」

レッサー「憶えてないんですかっ!?凶悪な魔術師の襲撃を受けたんですよ!」

上条「そう、だっけ?」

レッサー「上条さんは必殺の一撃を消しきれずに直撃。意識を刈り取られたのを見て、私が担いでさっさと逃げ出しました」

レッサー「いやー、あと少しあの場に居たら命は無かったでしょうね」

上条「……そっか。ありがとなレッサー」

レッサー「いえいえ、どういたしまして」

上条「あ、なんか段々思いだしてきた……」



――回想 『明け色の陽射し』 ロンドンにあるアジトの一つ

バードウェイ「だから私は最初に言ったじゃないか、『アルテミスの猟犬共め』と」

上条「聞いてねぇよ。つーかお前最後に会ったの学園都市で俺の下腹へ穴空けた以来じゃんか」

バードウェイ「……あぁ思い出したよ」

バードウェイ「確か学園都市の路地裏で、背後から有無を言わせず、雄々しくドリル的なモノを私へ突き立てようとしたんだったか」

上条「言い方!?それだとまるっきり性的な意味で犯罪者じゃないですかっ!?」

レッサー「え!?届いたんですかっ!?まっさかぁ、幾ら何でも」

レッサー「……あ、いやでもこの身長差で、フルパワー時にならなんとか……?」

上条「コラそこ指で大体の目算をしない!アリサ居ねぇからって露骨な下ネタ解禁になった訳じゃねーから!」

レッサー「ちなみにドリル……あっ!比喩的表現ですよねっ分かります!」

上条「違うよ?そういう意味じゃないよ?日本人男性には多いけど、俺が必ずしもそうだって訳じゃなくてだ」

上条「あのドリルは工業的なアレでね、決してドリルがドリるみたいな暗喩は」

上条「だからもうアマゾンでリドル・ドリル先生の、勘違い新作がね、読めなくなっちゃったのは少し寂しい」

バードウェイ「しかもその後、何が気に食わなかったのか、私の頬を叩いて『俺がお前を利用すりゃいいだろグヘヘヘヘ』とか言ってたな」

レッサー「真性じゃないですかヤダー」

上条「逆じゃなかったかな?」

レッサー「ではやっぱり仮性で?」

上条「表へ出ようか?テメェの幻想ぶち殺してやるよっ……!!!」

バードウェイ「殺し合いは余所でやれ。近所迷惑だ」

上条「だから!俺の話はどうでも良いんだよ!お前らには関係ないし!」

レッサー「……」

バードウェイ「……」

上条「何?なんで気まずそうなの?」

レッサー「――しかしまた、アルテミスですか。予想の範疇であったとはいえ、嬉しくも有り難みもない話ですよねぇ、はい」

バードウェイ「よく分からんが、相も変わらず波瀾万丈な人生で羨ましいものだよ、なぁ?」

上条「望んだ憶えはないっ!俺は平穏に生きていたいだけなのっ!」

レッサー「で、あれば禁書目録さんを警邏組織へ不法侵入で突き出し、毎回突っかかってくるビリビリさんを刑事告訴すれば良いでしょうに」

レッサー「それが出来なかったからこそ、今のご自分があるって自覚して下さいな」

バードウェイ「馬鹿が馬鹿みたいに悩んだって馬鹿だから分かりはしないんだよ、この馬鹿」

上条「……二人の正論に俺のMPゴリゴリ削られていく……!」

レッサー「馬鹿って認めるんですか……ま、さておきましょう!『おバカな子程可愛い』って母親から言われ続けてる私が言うんだから間違いありません!」

バードウェイ「普通に諦観の境地へ達しているだけだな」

上条「お前をそこまで伸び伸びと育てやがった親には、正直ちょっと興味ある」

レッサー「アルテミスの話は憶えておいでで?」

上条「『エンデュミオン』って男の人が居て、その人に恋をした神様だっけ?」

バードウェイ「それは『セレーネ』だ。ま、後に同じ月の女神であるアルテミスと合一・同一視されるがね」

上条「ステイルが言ってたのは、その『猟犬』って単語。関係あんのかな?」

レッサー「あちらさんがエンデュミオンと関わりのあるアリサさんを狙ってる以上、意味を持つ可能性が高い――いや、むしろ」

レッサー「『分かっていて』情報をこちらへ流した可能性が」

上条「と言うと?」

バードウェイ「機密情報は上から口止めされていて言えない。だが世間話は出来る」

バードウェイ「特にお前はMagicの”M”も書けないド素人だ。だからある程度『解説”してやる”』必要がある」

バードウェイ「その過程で、たまたま、偶然、何かの拍子で」

バードウェイ「確信に近い何か、真実へ至る道標、迷路を抜ける毛糸玉を与えてしまっても、それは偶然だから仕方がないと」

バードウェイ「ましてや相手は何も知らない相手。重要性なんて気づく訳がない――誰かに話さない限りは」

上条「的確に黒い説明ありがとうボス……言われてみれば、建宮もやったら説明台詞多かった気がする……」

レッサー「内容、憶えてます?」

上条「……何となくは、まぁ何とか!」

レッサー「バックログでもありゃ良いんですけどねー。ま、基本的な所から行きますか」

レッサー「上条さんは『アルテミス』についてどの程度まで知識をお持ちですかね?」

上条「俺?そうだなぁ……名前と、あと月と弓の神様ぐらいか?」

上条「ゲームに出てくる『アルテミスの弓』的なのは、大抵最強レベルの弓装備だっつーぐらい」

レッサー「大体合ってますし、その知識でほぼ把握してると言っても過言ではありません」

上条「お、褒められた?」

レッサー「ただし『一般人としては』という注釈が入りますがね」

上条「……ガッカリだ」

バードウェイ「それでいいんだ。魔術師知識を持っていたとしても、日常生活では使い道に困る」

レッサー「中二病が治らないのも厄介ですしね――それでは、そうですねぇ、どこからお話ししたものか」

バードウェイ「神性からで良いだろ。背景を知る上で必要不可欠だ」

レッサー「ですなぁ。では上条さん、今『アルテミスの弓超強ぇーハンパねー』と仰いましたが」

上条「言ってない。俺そこまで言ってないわー」

レッサー「『どうして強いのか?』と考えた事は?」

上条「狩猟の神様だから、だな。獣を射る弓の扱いが上手いって事なんだろ」

レッサー「合ってます。では『どうして狩猟の神であるのか?』とは」

上条「……そこまで深くは考えねぇって。『そういうもんだ』と」

レッサー「ま、神様なのでそんなもんですよ。それもまぁ正しい理解っちゃその通りなんですが」

バードウェイ「アルテミスの逸話として、弓矢を持ち山野を駆け抜ける姿が言い伝えられている」

バードウェイ「また彼女へ仕える巫女達は熊を真似る踊りを捧げる。従者の一人であったカリストは純潔を失うと熊の姿へ変えられた話もある」

バードウェイ「同時に生まれたばかりの身でありながら、母の出産に立ち会い、弟のアポロンを生ませた――よって妊婦や出産をも司る、そうだ」

バードウェイ「特にエペソス――トルコのエーゲ海東端にあった都市では、アルテミス神殿と神像が残っており」

バードウェイ「その姿は『多数の乳房を持つ』形をしている」

上条「へー」

バードウェイ「だがしかし、これは矛盾しているんだ。それも明確に」

上条「どこが?つーか神様や神話に矛盾も何もあったもんじゃ――」

バードウェイ「ギリシア神話のアルテミスは『純潔と狩猟の神』で――」

レッサー「――エペソスのアルテミスは『豊穣と出産、そして狩猟の神』なんですよねぇ」

上条「……はい?」

バードウェイ「『カリストは純潔を失い雌熊への姿を変えられた』んだが、『豊穣の女神がそんな事をする道理がない』と思わないか?」

バードウェイ「もしカリストが身ごもっていたら?そうするとアルテミスは『自身が加護を与えるべき妊婦へ罰を与えた』話になる」

レッサー「『純潔の神』と『豊穣・出産の神』は明らかに相反するんですよねぇ、これが」

上条「アルテミスは出産の神様、妊婦さんを守る神様であって」

上条「妊婦さんになるためには……まぁ、その、なんだ。すべき事をしなくちゃならない訳で」

上条「でもそうするとアルテミス的にはNGだって話か?矛盾、つーかおかしいだろ!」

レッサー「その疑問へ対する回答としては『アルテミスは元々オリンポスの神ではなかった』でしょうかね」

上条「え?ギリシア神話に出てくるんだろ、だったら」

レッサー「えぇ出て来ますよね、ギリシア神話『にも』ね」

バードウェイ「というか、ギリシアは多数のポリスで構成された連邦国家だ。それぞれの地域や支配都市で文化は異なる」

バードウェイ「それらの神話を統一、集合化させたのがギリシア神話。例えば――ヘルメス。英知と盗賊の神、ヘルメス神は知っているか?」

バードウェイ「愚か者に華を持たせてやれば『盗躁』の神と言ってやらなくもない」

上条「靴関係で素早さを上げてくれる神様?」

バードウェイ「彼女――もとい、彼は元々エジプトが由来の智恵の神だ。それを信仰する人間達がギリシアへ加わり、神話に組み込まれた」

上条「あー、建宮と似たような話したかも。『征服者が被征服者の神を墜とす”以外”の神話も作られる』って」

レッサー「まぁそれも結構あるんですが、中には比較的穏健な国家・民族融合もありましてね」

レッサー「その場合、二つ以上の神様が一つの国家に存在する矛盾が生じます。さて、それを解消するにはどうすれば良いでしょうか?」

上条「それが、『同一視』、か?」

レッサー「ピンポーン!正解!」

バードウェイ「……ま、そこまで大掛かりな話ばかりじゃなく、『信仰の上書き』だってある」

バードウェイ「『今まで○○と信じられていたものが、実は××のお陰だった』的な話だよ」

レッサー「十字教も一時期盛んにやっていましたよねぇ、これ」

上条「十字教が?何か敵対する宗教を邪教認定して攻撃してるイメージがあんだけど」

バードウェイ「それ”も”正解。ただそれ”以外”にもやっていたのさ」

レッサー「聖人や神の奇跡を紐解いていけば、実は別の信仰の一形態や異教の英雄だった、みたいな話です」

バードウェイ「そうだな……マーリン、知っているか?アーサー王の使いっ走りの魔術師だ」

レッサー「……あのぅ、それはちょっと」

上条「名前は何となく。何やった人なのかまでは知らない」

バードウェイ「奴は夢魔の血を引いていて、高い魔力の才能を受け継いだんだが、邪悪な気質も同居していた”らしい”んだよ」

バードウェイ「だが彼は赤子の際に十字教の洗礼を受けたため、邪悪からは守られたんだとか。はっ、中々笑える話さ」

上条「笑えるって、なにが?」

バードウェイ「当たり前の話だが、ローマ正教は魔術の行使を禁じている。少なくとも表向きはな」

バードウェイ「魔術を使う人間を嫌い、『魔女狩り』をしたのは好例だよ」

バードウェイ「だというのに歴史上に名を残すような『”魔術”師』が、十字教の洗礼を受けたお陰だと宣伝していた時期があった」

レッサー「……色々あったんでしょうねぇ、えぇきっと」

バードウェイ「ま、それと同じく二柱――いや、下手をすればもっと『たくさんのアルテミスが存在した』んだよ」

上条「……あのぅ?すいません、何言ってるか本気で分からないです」

レッサー「ギリシアのアルテミス、そしてエペソスのアルテミス。そのどちにも共通しているのは『狩猟の神』であるという側面」

レッサー「ですから元々別だったものが、時代を経るにつれ同一視されて行った、というのが定説になっていますね」

上条「……あり得るのか、そんな事?」

レッサー「うーむ……まぁ、『時代と価値観の変遷』というファクターもあるかも、ですね」

レッサー「古代、人は狩猟で生計を立てて居た――もしくは非常に高いウェイトを占めていた、のは分かります?」

上条「稲作文化が出来る前か?」

レッサー「プラス伝わった後だって、中々毎年安定して育てられるなんて有り得ないですからねぇ」

レッサー「病気に冷害、洪水や干ばつが一度でもあれば稲は駄目になりますし」

バードウェイ「近代灌漑が定着する前、また稲の品種改良が出来る以前であれば不安定なのは当たり前だ」

バードウェイ「現実問題、現代農耕バリバリの日本の農家だって、毎年同じだけ採れるとは限らん」

上条「……にゃるほど。それじゃ昔は今よりももっと狩りが重要だったのな」

レッサー「私の口癖取るの禁止。次したら全裸になりますよっ!」

上条「いや、俺の知り合いにもう一人使う奴が居るが」

バードウェイ「恥女は放置しておくとして、それでも文化が発達すればある程度の食料が定期的に入ってくるようになる」

バードウェイ「と、なれば『豊穣』よりも『統制』の概念の方が大切になるな」

上条「統制?」

バードウェイ「道徳、モラルと言い換えても良い。要は『共同体を安定して維持するために人口節制をしよう』だ」

レッサー「子沢山が一般には美徳とされていますが、実は昔の出産は結構な賭けですからね」

レッサー「産後の肥立ちが悪ければ母親はさっさと死にますし、そうすれば赤子も運命を共にします」

上条「誰かに育てて貰うのは?」

バードウェイ「母乳は赤子へ免疫力を高める効果がある。現代では各種医療技術の前に霞む効果だが、近代以前は神の奇跡に等しい」

レッサー「また栄養状態が脆弱なので死産も多かったでしょうしね。安易に数を増やすと、文字通り共同体が崩壊しかねません」

上条「だから『純潔』の神……」

レッサー「文化が成熟して行くにつれ、神が新しい属性を獲得するのは割とある事ですよ」

バードウェイ「過去の帝を神として奉り、武神として崇め――そして現代へ至れば平和の神に早変わりだ」

バードウェイ「日本の、確か八幡神とか言ったな」

レッサー「尤も、文化は成熟するだけとは限りませんよ。腐敗するのも珍しくはないですが――さて、実はこの二柱のアルテミス」

レッサー「『オリジン』が存在するんですね。旧い、とても旧い神が」

バードウェイ「ちなみにこいつが言っている『オリジン』は『原型』の他に『血統』という意味も含んでいる」

バードウェイ「日本語英語ではあまり縁がないだろうが、『German Origin』でドイツ系とも使うから憶えおくと良い」

上条「例題だと”From”ばっか使ってたな」

レッサー「日本から来るのは日本人だけですが、アメリカから来たってアメリカ系アメリカンとは限りませんからねぇ――で、話の続きなんですが」

レッサー「その『アルテミス・オリジン』もまた狩猟の女神であり、月を司る役割を持つ――」

レッサー「――キュベレーって呼ばれる神ですな」

バードウェイ「こいつもまたタチの悪い神でな。アルテミスと同じく、人身御供を好んだり、人を獣へと変える神性を持っている』

バードウェイ「しかも古代特有の価値観によって、それは『正しい』行為だと肯定されていたのさ」

上条「あー……あれ?ちょっと良いか?」

レッサー「Dカップですけど?あ、アリサさんはEに近いDです」

上条「そんな地雷を踏み抜くような質問はしてない!?」

バードウェイ「――と、私の方を見ながら釈明する理由を言ってみろ!」

上条「だから俺じゃねぇって!?……てか全員分の知ったけど、得はしてない!………………事も、ない!」

レッサー「素直で結構ですな。んで?」

上条「てーかさっきからずっと気になってたんだが――アルテミスとキュベレーって名前、つい最近も聞いた憶えがあんだよ」

レッサー「そりゃお話ししたからですよ。『エンデュミオン』の術式の際に」

レッサー「アルテミスはキュベレーの系譜、そして同時に女神セレーネもキュベレーと同じ」

レッサー「そんでもってアルテミスはセレーネとも同一視されましたからなー」

バードウェイ「アルテミスは恋人オリオンを自らの手で射殺し、死後天空へと上げて星座にする」

バードウェイ「対してセレーネは恋人エンデュミオンを永遠の眠りへとつかせた」

バードウェイ「……ま、アルテミスがセレーネだとすれば、二人の男を愛した訳だが。さて」

バードウェイ「どちらも愛した恋人を不老不死にしてしまったのだよ」

上条「……なーる。そんな状況――歴史的に『密接』だってのに、ステイルが何の含みもなくヒントを寄越した筈が無い、か?」

バードウェイ「どういった意図で発したのかは、充分に疑ってかかるべきだがな。向こうの企みに乗ってやる義理はない」

上条「義理はないけど……義務は、まぁ?」

レッサー「あちらさんの虎の子である、禁書目録縛りプレイですからねぇ。そこら辺を突かれると、ま、色々と」

バードウェイ「厄介な男め。どうせならその男もデレさせれば話は早かったのに」

レッサー「いいですねー!今からでも遅くはないのでするべきだと思いますっ!」

上条「無茶言うなよ!?つーかどっかの00○じゃあるまいし!取り敢えず女の子を味方につけるスキルなんて持って――」

上条「……」

上条「……も、持ってないよ?いや全然全然?何のことか分からないし?」

レッサー「『不幸』で獲得したCP、どこに遣っちゃったんでしょうねぇ」

バードウェイ「言うな。察してやれ」

上条「おい止めろ!人の半生をキャラメイク失敗したみたいに言うんじゃない!」

バードウェイ「……ま、そんな訳でアルテミスにも『猟犬』へ纏わるエピソードがある」

バードウェイ「ある猟師が山中で犬を連れて狩りをしていたら、偶然にもアルテミスが水浴びをしていたのを覗き見る」

バードウェイ「激怒した女神は猟師を鹿へと変え、彼の連れていた猟犬に襲わせて殺した」

上条「古代のラッキースケベは代償が重いなっ!?」

レッサー「もしこの猟師がドMだったら、アルテミスがツンデレだった可能性も……!」

上条「神話を穢すな。ヘロドトスに助走つけて殴られんぞ」

レッサー「上条さん、もし神話だったら大体何回ぐらいブタに変えられてます?」

上条「そうだねぇ、結構な回数――待て!鹿は分かるがブタと言われるのは心外だ!」

バードウェイ「ちょくちょくコントを挟むな馬鹿者共が。もう少し真面目にやれ」

レッサー「と、現在進行形で抱っこされてる幼女に言われましてもねぇ」

バードウェイ「仕方がないだろ、こいつが喜んでやってる以上」

レッサー「あー、まぁ確かにそうですけど」

上条「コント挟んでるのはお前らだよね?真面目にやろう?」

レッサー「……真面目に話すと『エンデュミオン』からドデカい不発弾が出て来そうで……」

バードウェイ「何の話だが知らんが、『ただの狂信者でしたー』で済む訳がないだろう。腹を括れ」

バードウェイ「ま、私には関係の無い話だが。良い気分だ、ザマーミロ」

上条「ボスっ!?俺にはボスが必要なんですよっ!」

バードウェイ「コラ離せ!レディに気安く触るんじゃない!」

上条「おっ?お前もしかしてくすぐりに弱いの?へー?」

バードウェイ「だから!気安いぞ馬鹿者が!」

レッサー「上条さん上条さん、絵面がとてもアウツッ!に、なってますよ?都条例的な意味で!」

レッサー「あと嫌がってるバードウェイさんも、抜けようと思えば楽に抜けられますよね?魔術で身体能力強化してますもんね?」

バードウェイ「あぁ居たのか、レッ――トイットビー?」

レッサー「ついに私の名前がイジられるようにまで!?ある意味光栄な間違われ方ですが!」

バードウェイ「小遣いを渡すからどこかで遊んでこい。邪魔だ」

バードウェイ「えぇと……まぁ二時間もあれば終るだろうから、うん」

レッサー「邪魔ってなんですかっ!?邪魔って!?って普通に喋ってますし!」

レッサー「あとその的確な予想は私の想定と同じですよチクショー!」

上条「ほーら、くすぐっちまうぞー?」 ムニムニッ

レッサー「そして私達の会話をスルーしてイタズラしてる上条さんも如何なもんですかね。主に頭とか」

バードウェイ「そこは私の胸だッ!!!」

上条「え?真っ平らなのに?」

バードウェイ「――よし、死ね」

チュドォォォォォォォォォォォォォォーンッ……!!!



――イギリス東部高速列車 朝

レッサー「――と言う、口にするのすら憚られる恐ろしい出来事が!」

上条「俺がバードウェイに吹っ飛ばされただけじゃねぇか!しかも理由がしょーもないな!」

レッサー「いやぁ、それは上条さんデリバリーに欠けるってぇもんですよ」

上条「デリカシーな?特にレッサーさんにも欠けてないですかね?」

上条「てかお前が言ってた命が無い云々の話はっ!?確かにぶち切れてらっしゃいましたけども!」

レッサー「実に危ない所でしたねっ!あそこで上条さんが天然を出さなければ。今頃あなたの命は尽きていたでしょう――」

レッサー「――そう!人生の墓場的な意味で!」

上条「ウッサいわ!上手くもないしドヤ顔止めなさい」

レッサー「レギュラーがこれ以上増えると私の存在価値が……」

上条「相手は子供だろ?つーかマークが言ってたけど、兄貴が欲しいみたいな感じだって聞いたぞ」

レッサー「上条さん」

上条「な、何?」

レッサー「兄妹の方が萌えるじゃないですか!」

上条「一部だけな?一部の特殊な性癖の皆さんだけを、さもマジョリティみたいに言うな!」

レッサー「年上のお姉さんはお嫌いで?」

上条「……か、考えた事も無いなっ!」

レッサー「明確なお返事ありがとうございました――と、いい加減テンションも温まってきたと思うので、話を戻しましょう」

上条「上がったっつーか、上げられたっつーか。お陰様でな」

レッサー「『猟犬』の話は後回しにして、取り敢えず今後の方針を決めません?サフォーク――ダンウィッチへ着くと、人目もありますし」

上条「人目って……ヤバいのか?」

レッサー「可能性は充分に。少なくともウェイトリィを名乗る医師が居て、彼の団体では不正診療と保険金詐欺が行われているのは確実」

レッサー「ですが、この二つの案件自体は、魔術が絡まなくとも結構な頻度で起きてます」

上条「行ってみたは良いが、全然関係ありませんでしたー、って?」

レッサー「そん時ゃブリテンの司法にお任せするしかありませんでしょ?」

レッサー「私達はフツーの一般国民、捜査権も逮捕権も持っちゃいませんしね」

上条「うーん……?」

レッサー「あー……分かりましたよっ!そんな捨て犬みたいな目で見ないで下さいなっ!どーにも最近胸が痛いんですから!」

上条「胸?病気なのか?」

レッサー「ちょっとさすってみます?多分恋の病だと思うんですよ」

上条「あからさまな罠はノーサンキューで!あと恋をしたらもっとキョドるわっ!」

レッサー「……チッ……」

上条「ホラやっぱり」

レッサー「ま、まぁ状況次第と言う事にしましょうか。犯罪の証拠を掴んでしまったら、通報するのも国民の義務ですしね」

上条「まぁ”偶然”掴んじまったら仕方が無い、よな」

レッサー「偶然って怖いですからね、えぇはい」

上条「でもさ、根本的な話へ戻るんだが、俺らみたいな素人がノコノコ行って証拠掴めるような相手なの?」

上条「たまたま街を歩いていたら、『助けて下さいっ!?』って重要な証人とぶつかるとか、普通はないだろ」

レッサー「上条さんに限っては非常にありそうな展開ですが――難しいでしょうね、そこも」

上条「主導してんのはどっかの病院。って事は潜入も?」

レッサー「正しくは病院”も”経営している所でして、副業なのか本業なのかは怪しい所ですが」

レッサー「ウィリアム=ウェイトリィ院長、彼が主催している宗教団体は『House of Mistletoe(ヤドリギの家)』」

上条「……あぁ正体が『濁音協会』だったら、病院経営してようが実態はカルトだわな」

レッサー「ネットで調べた限りじゃ、十字教のイギリス清教後継を名乗っていますが、実際には認められていません」

レッサー「というかウェイトリィ氏が神父であった経歴はなく、ある日突然『神の声を聞いた』んだそうで」

上条「ねぇ?なんでその人『自分は頭イタイ人です』って自己紹介してんの?何か決まり事?」

レッサー「ふむ。他人の見ている世界って、興味ありません?」

上条「見ている世界?また唐突だな」

レッサー「蝶や蜂だったら紫外線が見てるでしょうし、猫だったら夜目が利いたり」

上条「あぁ分かる分かる。俺達はRGBの三原色で世界を見てるけど、トリや爬虫類はもう一つ多いんだっけ?」

上条「そっちで見たらどんな風に見えるのか、興味あるよな」

レッサー「って言う話じゃないんですけど」

上条「一秒前の俺の共感を返せコノヤロー」

レッサー「ではなく、そうですねぇ……あ、上条さん、昨日ターミナル歩いてて転びそうになったじゃないですか。憶えてます?」

上条「あぁ。どっかのテレビ局が点字ブロックの上へ荷物置いてて邪魔だったからな」

レッサー「……実はここだけの話なんですが!」

上条「大事な話?」

レッサー「えぇ、恐らく気づいているのはごく一部の人間だけです。ですから決して他言しないようにお願いしますね」

上条「任せろ!……あ、でも電車の中でするような話じゃ――」

レッサー「……ブリテン政府はね、以前から高騰する医療費の削減を憂いていました。毎年結構な割合で社会保障が増大して行っているんですよ」

レッサー「ま、日本と同じく医療技術の進歩により平均寿命が高くなっている。それ自体は喜ぶべき事なんですがね」

上条「だな」

レッサー「当然支出が増えるって事は、どこかから別の予算を持ってくる必要があります。歳出削減が出来なかったら、増税なり国債を発行するなりする必要があります」

レッサー「何故ならば『社会保障とは天から降ってくる訳ではない』のでありまして、無理なく維持出来るような制度を作られねばいけませんので」

レッサー「『予算の組み替えで100兆円の埋蔵金』とか、『国債を発行せず、増税をしなくてもやっていける』とやらかしても」

レッサー「失業者と倒産を量産した挙げ句、株価を地獄へ叩き込んだ政府があったそうですけど、一体どこのどちらでしょうね?」

上条「日本の黒歴史には触れないであげて」

レッサー「でもまぁ政府が増税を決めれば国民の反発は必至――なので、手段を変える事にしたんだそうです」

上条「……なんか壮大な話になってんだけど、それと道でコケるのとどう関係が?」

レッサー「しっ!――すー、はー、すーはー、すーーーーーー…………」

レッサー「――上条さん声が大きいでぇぇぇぇぇぇぇすっ!!!」

上条「お前のほうが大きいよね?ってか明らかに深呼吸までして息整えてから、全力で声張ったよね?」

上条「俺のメル友が劇団取材した時教わった腹式呼吸、なんでレッサーさん舞台役者の真似事してんの?」

レッサー「……だから、政府はこう考えたんですよ――『人が多いのなら減らしてしまえば良い』って」

上条「……はぁ?」

レッサー「ヒットラーも恐れるような悪魔の計画!それは今ブリテンで着々と進行されている……っ!」

レッサー「上条さんも罠にかかる所だったじゃないですか!?よく思い出して下さい!」

上条「……コケそうになったのが、陰謀?」

レッサー「そうです!政府は人を転ばすように、職安の最新技術を仕入れているのです!」

上条「スゲーな職安。そりゃニートも戦々恐々としてんじゃねーかな」

上条「てか人を転ばせる装置って何?どんな超技術があったらそんな事が出来んの?」

レッサー「プラズマと新堂派、後オレゴンエネルギーで出来るって書いてありました――ネットに!」

上条「なんで世界を揺るがす最新技術がネットでダダ漏れしてんの?本当にヤバかったら速攻で消されるよな?複合的な意味で」

上条「あと新堂派じゃなく振動波な?俺は新堂さん、もっと歌手として評価されてもいいと思うが」

レッサー「確かに――そう!確かに『人を転ばせるだけ』ならば大した話じゃありません!それ単独ではね!」

レッサー「ですが昨日上条さんかスベった所はど・こ・かっ!思い出してみて下さいなっ!」

上条「人をスベったとか言うな人聞き悪い!……場所?場所って、そりゃ駅前だろ」

レッサー「あれが本当に転んだとすれば――車へ突っ込んでいた可能性も捨てきれないでしょう?」

上条「いやぁ無いって。『不幸』な俺だって人並みの反射神経はあるから、仮に転んだとしても車道まで突っ込みは」

レッサー「……そうですね。上条さんはきっとしないでしょう――少なくとも”今”は」

レッサー「ですが!あと半世紀程経った後!お歳を召されて足腰が脆弱になった状態であれば――」

レッサー「――結果、どうなるでしょうね?」

上条「……まさか!?」

レッサー「そうっ!ブリテン政府は社会保障を抑制するために人工的な間引きを画策!」

レッサー「駅前の歩道でコケる兵器を開発し、お年寄りが勝手に車道へ出て事故に遭うように仕組んだんですよっ!!!」

上条「な、なんだってーーーーーーーーーーーーーーーーー!?」

レッサー「……」

上条「……えっと」 ピトッ

レッサー「何ですか?人の額に手ぇ当てて――まさか!?」

レッサー「聞いた事があります……極東の島国では壁ドン!して好きな相手へ好意を伝えるという風習があるという……」

レッサー「ならばきっとこれもプロポーズのつもりですかっ!」

レッサー「良いでしょうっ!受けて立ちましょうかコノヤローっ!!!」

上条「おい、その島国って日本の事じゃねぇだろうな?てか『壁ドン!』海外にまで伝播してやがんのか!?」

上条「つかレッサーさん、キミさっきからどんな電波受信してんの?いや、たまーに居るけどな政府陰謀論吐く人」

上条「てーかベイロープに連絡取りたいから、携帯貸してくんない?」

上条「あ、心配はしなくて良いぜ?全世界がお前の敵に回ったとしても、俺やアリサ、ベイロープとランシスはお前の味方だ!」

レッサー「フロリスは?」

上条「なんか『面倒クセー』って言って逃げそう」

レッサー「あー……そんなイメージですよね。実際にも否定出来かねるんですが」

上条「『ハロウィン』の時もそんな感じだったしなー」

レッサー「『――狂人の話は支離滅裂だという人がいるが誤りである。狂人の話というのは彼らなりの論理で一貫しているからだ」』

上条「おい、またなんか受信しやがったのか」

レッサー「『他人への不信で狂った者は、日常のあらゆる事象に”誰かの陰謀”を感じ取る』」

レッサー「『散歩で転んでも愛用のステッキが折れても飼い犬が逃げても、それは全て自身を陥れるための陰謀なのである』」

レッサー「『つまり狂人を論破することは不可能だ。何故なら常人にとって全く関係ないものが、狂人の理論では破綻せずに結びついているから――』」

上条「レッサー?」

レッサー「――以上、我が国が誇る文豪にして批評家、『ギルバート=ケイス=チェスタートン』氏のお言葉です。意訳がかなり含まれていますが」

レッサー「もしも『気狂いの視点から世界を俯瞰すれば、上条さんがコケたのも誰かの陰謀に見える』というお話」

上条「……つまり、今レッサーがやったみたいに、頭イタイ人は自分が頭イタイって分からないのか?」

レッサー「むしろ逆で、『周りが全部頭イタイのであり、自分が正常だ』ぐらいの確信はしているかと」

レッサー「『自分が正しくて他は全部狂っている』と思い込むので、彼らにしてはそれが正気なんでしょうかね」

レッサー「もし他人が偉そうに見えたとしたら、それはご自身が下水の中で汚物まみれになって誰からも軽んじられ蔑まれているだけ、ですから」

レッサー「真っ当に胸を張って生きていれば、せめて疚しい生き方をしていなければ、人に対して妙な先入観を持ったりはしないでしょうし」

レッサー「それが出来ないって事は、無意識的に自分が劣等であり僻んでいるのを認める証左だと」

上条「……なーんかな。俺だったら他の人と違っていたらさ。『もしかして俺が違ってる!?』って疑うけどな」

レッサー「でね。気狂いの特徴の一つとして、異常なまでに自己愛と自己評価が高いんですよ」

レッサー「例えば……あぁ、『俺が評価されないのは××のせいだ!』とか、『他人が俺の言う事を信じないのは××が圧力をかけているからだ!』等々」

レッサー「『自身の意見は絶対であり、万人が支持すべき真実』……ぐらいには思ってんでしょうかねぇ、これが」

レッサー「ネタで言うんだらまぁ可愛いもんなんですが、本気な分タチが悪いですよ」

上条「でもそれ、結構居るよな?大小の差はあるが、頻度としてはかなり」

上条「陰謀論じゃないしにしろ、霊感があるとか、政府が○○とグルだとか」

レッサー「……ま、個人がどう考えるのは自由ですし、例え偏執狂であっても他人へ害を及ぼさないのであればスルーされますよね」

レッサー「親兄弟や周囲にとっては堪ったモンじゃないでしょうが。ともあれ」

レッサー「――んで、そんな彼らの行き着く先が『ネオ・ペイガニズム』なんですよ。日本語にすれば『復興異教主義』」

上条「あぁ『昔あった信仰っ”ぼく装った”新興宗教』だったか」

レッサー「ただベースとされる宗教はもう踏んだり蹴ったりで、えぇもう大変らしいですよ」

上条「……そういや、その話が出た時に、ランシスが無表情でぶち切れてた気が……?」

レッサー「ランシスの故郷である北アイルランド、そしてアイルランドには今もケルティックな文化が残っていますからね」

レッサー「発祥の地かどうか、はともかく、今そこに住んでいる人間にとって、子供の頃から慣れ親しんだ世界であり」

レッサー「それを第三者が好き勝手に解釈を加え悪用すれば、決して良い気持ちにはならないですからね」

上条「てーかさ。そもそも頭イタイ人がそっち系、カルトへハマる理由は何?どんな心境の変化があれば受け入れられるの?」

上条「そういう人ら――てか、根拠も証拠無く陰謀論ぶち上げる人だったら、むしろ逆に警戒しそうなもんじゃね?」

レッサー「より正確に言えば『他に受け入れて貰える場所が無い』ですね」

上条「あー……」

レッサー「家族や友人からも腫れ物扱いなので、ますます妄想は膨らむ一方。やはりどこかで誰かに認めて貰いたい」

レッサー「だからといってそういう人達には何もありませんからね。それこそ何も」

上条「何も?」

レッサー「例えば趣味があればそっちへ没頭するじゃないですか?政治活動であっても、実生活で調べたり政党へ入ったりするでしょう」

レッサー「仕事で忙しかったら他人に構ってる暇は減りますしね。真っ当な職であれば、ですが」

上条「耳が痛いな!何の事か分からないけども!」

レッサー「何だってそうですけど、評価というのは実績へ対して付いて回るもんです。良かれ悪しかれ」

レッサー「だってのにそっちの人らは何もしない何も出来ない何も知らない、という三重苦」

レッサー「ありもしない妄想の中に生き、ネット掲示板で他人を口汚く罵るぐらいしか出来ません。やれません、と言った方がいいんでしょうかね?」

レッサー「詳しくは実物を見ながらお話ししますが、どっちとも『現実を見ていない』んです」

レッサー「『世界経済はユダヤ人が支配している!!!』的な陰謀論、ありますよね?」

上条「ロックフェラーがフンダララでアメリカがどーたらして、日本人を家畜にするヤツな」

レッサー「一部の財閥がユダヤで占められているのは本当です。つーか聖書の頃から金融と商人で食ってきた連中なんで当たり前なんですが」

レッサー「我が国のシェイクスピア卿がヴェニスの商人とか書いてますんで、良かったら見てやって下さいな」

上条「金貸しの人がユダヤ人だっけか」

レッサー「基本小金を持っていたり、横の繋がりが強ければ政治権力と結びつくのは世の常……ま、さておき上条さん」

レッサー「ユダヤ人ユダヤ人言いますけど――『ユダヤ人のハーフ』とか、『ユダヤ人のクオーター』って聞いた事あります?ますます?」

上条「え?」

レッサー「無いですよね?てかあったらそれは逆に怖いんですが」

上条「言われてみれば聞いた事無い……日本から遠いせいかな?」

レッサー「違います。だって『ユダヤはユダヤ”教徒”を意味してる』んですからね」

上条「……はぁ?何、ごめん、どういう事?」

レッサー「詳しい説明をすれば長くなるんで省きますが、ユダヤ人には白人も黒人もアラブ人もアジア人も居ます」

レッサー「ですが彼らは全員『ユダヤ人』なんですよ。ユダヤ教だから、ユダヤ人であると」

上条「何!?だったらユダヤって民族的な括りじゃねーのかよっ!?」

レッサー「ステレオタイプのユダヤ人像、お髭を生やしてラビの帽子を被ったのはアシュケナージであり、最も旧い一派です」

レッサー「ドイツ周辺に住み、厳しい律法を守る人達。ただそれ”だけ”を指してユダヤと呼ぶ事は無いですが」

レッサー「あちこちに移り住み、人種も混血しているから、という事情もあるようですがねぇ」

レッサー「起源の一つはヘブライ人がバビロンに囚われた――所謂『バビロン捕囚』の際、ユダ王の臣民であった事、とも言われていますが」

レッサー「イスラエルが現在出している公式見解としては、『ユダヤ人を母とする者またはユダヤ教徒』であり、人種は関係ありません」

レッサー「だ、もんで『世界経済はユダヤ人が支配している』は『ユダヤ教徒が占められている』に直結するんですが――」

レッサー「――これ、もし本当なら『ユダヤ教徒は金融関係の仕事に就いてはいけない』という差別ですよね?ま、人種でも同じなんですが」

上条「……だなぁ」

レッサー「『特定の○○を××が独占している』のが陰謀だとすれば、G7のウチ約六ヶ国は十字教徒ですよね。あ、何代か前も日本の総理は十字教徒でしたが」

レッサー「これは十字教の陰謀ですか?それともただの偶然?」

上条「偶然だろ。だって少し前までG8でロシアも入ってたが、ウクライナのいざこざで抜けたし」

上条「第一十字教はイギリス清教、ローマ正教、ロシア成教の三つで、仲は良くなかったな」

レッサー「ですなぁ。十字教徒のカルテル的なものがあれば、離脱は出来なかったでしょうね」

レッサー「てーかそんなにユダヤ人が世界を支配()してるんだったら、パレスチナはとっくに地図上から無くなっているでしょうし」

レッサー「ついこの間のガザ紛争も世界各国大非難だったじゃないですか?最初に手を出したのはパレスチナがユダヤ人捕まえて焼き殺した上」

レッサー「いざ戦闘が始まってみれば、どう見てもイスラエルへ繋がる軍事侵攻用の地下トンネルが続々と発見され」

レッサー「病院などの国連施設や本来中立にするべき所へ兵士をかくまったり、イスラエル側からの攻撃勧告を国民へ伝えずに女子供を盾にしたり」

レッサー「果てはその攻撃で亡くなった人間をLIVE中継……反吐が出ますよねっ!」

上条「楽しそうに言うな」

レッサー「――と、言うように『現実』を見ていないんですよ、彼らは。この程度専門書ですらない、世界史の教科書を開けば載ってる程度のお話です」

レッサー「『世界を支配出来るような超絶的に頭が良くて金のある人間が、自分達にクリティカルな意見を放置するか?』って話もね」

レッサー「そもそも言えばサブプライムローンの破綻とリーマンブラザーズ社の倒産から始まるアメリカ初の世界不況」

レッサー「アメリカ自体、一年の間に地方銀行が100行以上倒産する憂き目に遭っています。当然、財閥系も例外ではなく」

レッサー「私がもし世界経済を仕切る立場か、日本をエサに出来るんだったら、何とかしてますけどねぇ」

上条「……もし『闇の勢力()』があったとしても、『その程度』って事なんだよな」

レッサー「何よりもまず証拠が何一つないんですが――”彼ら”に言わせれば『証拠がないのが証拠』なんだそうですよ、えぇ」

レッサー「例えの『ユダヤ人支配説()』に、『実はユダヤ人は宇宙人だった!』と属性の一つや二つ着いても矛盾しません」

レッサー「元々がチラシの裏に書いたような陳腐な陰謀論なので、むしろ少しでも”認めてくれる”相手が居ればコロっと騙されると」

レッサー「……ま、カルト側にすれば『養分』なんでしょーがね」

上条「……オイ。そんな厄介な連中んトコ潜入すんのかよ!?」

レッサー「必要とあれば仕方が無いでしょうなぁ……あ、そん時は夫婦役で!」

上条「残念。俺の国じゃ結婚出来ない年齢だ」

レッサー「ブリテンならオーケーですよ?」

上条「堂々と嘘を吐くんじゃありません!」

レッサー「ま、そんなに危機感を持つ必要はありませんて。まだ『濁音協会』関係だと決まった訳じゃないんですから」

上条「そ、そうだよね?安心して良いんだよな?」

レッサー「あ、確か上条さん、この調査が終ったら実家へ帰ってパン屋を継いで裏の水門を見に行きつつレッサーちゃんへ告白するんでしたっけ?」

上条「フラグ立たすなよ!?しかも長いわアクロバティックだわで収集がつかない!」

レッサー「私へ告白は否定しなかった、だと!?」

上条「好きは好きだし信頼もしてるが、今んとこはそんな予定はない」

レッサー「じゃ、私からするって事で」

上条「はいはい。楽しみにしてる」

レッサー「………………………………いよぉっし!」 グッ

上条「何?なんでそこでガッツポーズ?」

レッサー「いや別に何でも?――あ、ほら見えてきましたね。駅の所へノボリが」

上条「さて、鬼が出るか蛇が出るか……」

レッサー「どっちも出てますけどね。『団長』は死人なので”鬼”。安曇阿阪はそのまんま”蛇”ですし」

レッサー「順番からすれば『神』ってトコでしょーか」

上条「……ま、なんとかするさ。今まで出来たんだから、これからも」

レッサー「私達の戦いはまだ始まったばかりですよねっ!」

上条「止めろ!打ち切りフラグを立てないであげて!?」


”――Welcome to Dunwich――!!!”



――サフォーク州 ダンウィッチ

上条(――そんなこんなでやって来たダンウィッチ。学園都市から離れて何やってんだろ?とか思わないでもないが)

上条(父さんの鞄はバードウェイんトコに置いてきたまま。ボスならきっと父さんを上手く助け出してくれるよ!多分!」

上条「……」

上条(……再登場フラグになんねぇだろうな、これ?父さんもバードウェイも後から合流したりして)

レッサー「あー、ありますあります。『実はフラグで本命は背後から刺す!』みたいな作戦」

上条「レッサーさんちょっとシーで?俺今モノローグで忙しいから――てか、まぁいいが」

上条「しかし思ったよりか都会的なんだな。ロンドンやパリの郊外っつっても通じるレベル」

レッサー「一体どんなのを想像してやがったんですか。あんま聞きたくないような気もしますけど」

上条「ホラー映画であるような、閉鎖的な住民総出で監視されるような感じ?」

レッサー「定番ですねー。旅行者の被害妄想も否定出来ませんが」

上条「実際に来て見てれば想像とは正反対。コンクリとビルと街路樹、あと通りの反対側に見えるのはマックだし」

上条「日本と違うのはガンガン自己主張する駅前の看板が少ないぐらい?」

レッサー「ですなー。つーかまぁ現代都市なんざ、どこだってこんなモンっちゃこんなモンですね」

レッサー「Frog Eaterはパリの都心を観光用に割り振ってるんで、『洗濯物を通りに干すのはダメ』とだとホザいてますが、そこまでは」

上条「日本だって京都とか、古い観光地は似たような感じだな。コンビニの外見を地味ーな色で塗ったり」

レッサー「『歴史』を誇るのであるならば、今もそこへ住む人間達の営み――『現在』も含まれて然るべきだとは思うんですが……」

レッサー「それ言ったらNINJAも同じでしょうかね」

上条「お?忍者好き?」

レッサー「好きか嫌いかで言えば、まぁそちらさんが騎士に憧れるぐらいには、好きな人間が多いですよ。SAMURAIと並んで」

上条「って事は微妙だって話か?」

レッサー「んー……むむむむ?これ言うと、もしかしたら上条さんの幻想をぶち壊すかも知れないんですが……」

上条「ドンと来い!微妙にネタ振りにも聞こえるが!」

レッサー「……ここだけの話、NINJAはもう居ないらしいんですよっ……!」

上条「うん、知ってた」

レッサー「流石は上条さん!学園都市の”闇”を垣間見てきただけの事はありますよねっ!」

上条「それ関係ないな?多分『サンタさんか実在するどうか?』と同じ比率でバレてんじゃねぇかな?」

レッサー「テレビで見ました!」

上条「じゃお前はハリーさんが空飛んでたら、イギリスにもハリーさんが居るっつーのか?あ?」

レッサー「魔術師ならホラここに」

上条「……お前らみたいな想像の枠外とNINJA比べられてもなぁ……」

レッサー「ま、余所様の文化なんて長く滞在しない限りは理解出来ませんて。日本だって『地元の人間』からすればワザとらしい観光地ありますでしょ?」

上条「……あぁ成程!そう考えると納得出来る気がする!ロンドン塔にイギリス人ほっとんど居なかったし!」

レッサー「TEDに拠れば『普段は行かないが、ロンドンから去る祭に高確率で訪れる』という結果も出ていますし」

レッサー「日本で言えばTOKYOタワー?」

上条「……一旗揚げようと上京してきて、でも途中で挫折して故郷へ帰る。けどその前の思い出に……?」

レッサー「よくある話ですが、笑うに笑えない話ですよねぇ。かといって上京を制限する訳にもいきませんし」

レッサー「ちなみに似たような話が19世紀末の”British Empire(大英帝国)”でもありましてね」

レッサー「植民地にあったインドに貴族の次男三男が行って豪遊。物価が安いんで色々と好き勝手出来たんですが」

レッサー「そのおバカさん達がいざ帰国しても生活レベルを下げられず、実家の富を食い潰す始末で、えぇ」

上条「前から薄々気づいてはいたんだが、お前ら結構BAKAだよね?」

上条「百歩譲ってまぁ植民地時代なのは許そう?日本だけがヘイトされまくってんのは許すつもりはないけど、そこは置いておくとして」

上条「でも仮にも世界の半分近く持ってたにも関わらず、食文化はスルーしまくったのって一体どういう訳?カーチャン寝込んでたの?」

レッサー「あー……まぁ、イングランドでね、メイドを雇うのが流行ったんですよ。19世紀の初め……だったと思います」

上条「ふむ。生活に余裕があればいいんじゃないか?結果的に女性の社会進出にも一役買った訳だし」

レッサー「資産家は自力で雇ったんですが、無い所は『メイドの格好して家に通うメイドもどき』を雇う人間が出ましてね」

上条「ホラやっぱり」

レッサー「しかも果てには『メイドにする目的での誘拐や人身売買』すら横行する始末……」

上条「お前ら日本のエセメイドにどうこう言ってやがるが、本場からしてダメじゃねぇか!?どんだけメイドさんに憧れてんだよっ!?」

レッサー「上条さんはお好きでしょうかね?」

上条「嫌いじゃねぇが知り合いに一人、蜜蜂みてーなメイド服着ながら、そのクセ仕事はきっちりこなすメイドが居てな……」

レッサー「学園都市恐るべし……!朝のメイドさんから夜のメイドさんまできっちり用意しているとは!」

上条「時間帯区切ったのに何か意味あんの?夜は別に家事とか任せないよね、ご近所迷惑だから」

上条「……あぁ、まぁある意味学園都市の闇が生み出したと言えなくもねぇかな……先輩クロいし」

上条「つーか先輩、あんな妹さん居るなんて一言も教えて貰えなかった……よな?多分そうなんだよな?」

レッサー「教えたら速攻手ぇ出されるじゃないですかーやだー」

上条「待とうか?君らいい加減、そこら辺の認識をだな、そろそろ改めるべきって言うか」

上条「つーかそもそも手ぇ出す出さない以前の問題で、俺は未だアレは新品なんだから、その誹りを受ける筋はないって言うか」

レッサー「仮性ですねっ!」

上条「その話は終った筈だ!蒸し返すんだったら俺にも考えがあるぞ!」

レッサー「ほう?このレッサーちゃんロリ巨乳へ対し、どんなイヤンバカンをしてくれるのかやって貰いましょうか!」

上条「考えがあるとは言ったが、実行に移すとは言ってない!」

レッサー「日本人的発言ありがとうございました――てか」

レッサー「そろそろ昼ご飯にしません?丁度あそこにマックありますし」

上条「……前にも言った筈だが、出来ればご当地メシ食いてぇんだが」

レッサー「そりゃ夕飯に取っといて下さいな。ご飯を食べたら泊まる所を探さないと」

上条「ホテル、先に探すか予約しちまった方がいいんじゃ?」

レッサー「いえいえ、”こっち”はかなり都会的なので問題は無いかと。最悪『ヤドリギの家』に言えば泊めて貰えるでしょうしね」

上条「……その最悪はお断りしてぇよなぁ――”こっち”?」

レッサー「えぇ。私達が今居るのは『新市街』。そして――」

レッサー「――『旧市街』は大規模な火事で一度焼け落ちているんですよ、そう――」

レッサー「――『10年前』に」



――ダンウィッチ 旧市街

上条「……」

上条(『新市街』から20分程、のろのろと走るバスから降り立った瞬間、俺は眉を潜めた)

上条(そこが酷く寂れた朽ちた都市、日本の田舎にも見られるような所だったから――では、ない)

上条(俺達を遠巻きにして見つめる、どこか魚類めいた感情の籠らぬ男達――でも、なかった)

上条(俺が嫌悪を憶えたのは『臭い』。この旧市街に漂っている何かの臭い)

上条(故郷を離れた旅行者は旅先の臭いに閉口する、って話を土御門から聞いた事がある)

上条(日本は醤油臭いとか、インドがカレーっぽいとか、ハワイが花の匂いだとか。イギリスだと”石畳”だって)

上条(話半分に聞いたんだが――今にして思えば本当だった部分もある)

上条(人は自分の体臭に気づかない。あまり強いものでない限り、それが『日常的』なものとして認識はされない)

上条(同様に俺達が暮らしている生活圏の中では、余所からやって来た人間でも無い限り特別な臭いを嗅ぎ取る事はない)

上条(……でも、ここの臭いは、なんか違う。なんかな)

上条(例えるんだったら、赤錆と海水の中に、焼け焦げた何かを突っ込んだような……)

上条(大きな火事があってから10年経ってるってのに、臭いが消えていないのか……?)

レッサー「……こりゃマスクでも買ってきた方が良かったでしょうかねぇ。どうします?雑貨屋さんでも探してみます?」

上条「いや、さっさと探しちまおう――てかさ?」

レッサー「はい?」

上条「俺ら、なんでこっち側来たの?」

レッサー「観光?」

上条「――あ、ごめん俺先に帰るわ」

レッサー「待って下さい!ジョークに決まってるじゃないですか!」

レッサー「もうっ!上条さんのあ・ば・れ・ん・ぼっ!」

上条「スゲーなその単語使われたの初めてだよ。後この場合正しい日本語は『あわてんぼ』であって『暴れん坊』は別だ」

レッサー「それではわたしが上条さんの初めてを奪ったので、上条さんが私のはじ――」

上条「言わせないよ!?幾ら日本語で意味通じないからって往来で喋って良い事といけない事がある!」

上条「てか旧市街って言われてるぐらいだから、もっと人は多いもんだと思ったけど……なぁ?」

レッサー「あぁイングランドにも関わらず中東アジア系ばっかでしょ?実質スラム街ですからねぇ、こっちは」

レッサー「ぶっちゃけちょっとした治外法権になってますんで、私から離れないで下さいな。絶対にね」

上条「……一部の言葉だけを抜き出せば、ちょっとラブコメっぽいんだけどなぁ」

レッサー「おんやぁ?私はそれでも構いませんけど?」

上条「ここじゃなかったら、な」

上条(って事はレッサーが狙われる可能性も充分って話かよ。俺がしっかりしないとな)

上条「……見た目は可愛いんだけどなぁ、お前」

レッサー「にゃっ!?」

上条「つーかお前、今からでも戻った方がいいだろ。こっちは俺が適当に調べとくから」

レッサー「えっと、それじゃ今からホテルへ戻ってしっぽりしましょうっいや大丈夫大丈夫っ!エロゲ情報ではビギナー同士でも平気らしいですからねっ!」

上条「真面目な話だ!あと多分その情報はソースからして間違ってるよ!」

レッサー「どうでしょうね、それは?まぁ二人の証言が食い違っているのは確かですが!」

レッサー「では実践して確かめるという事で一つ間を取りましょう!」

上条「良し!それじゃ確かめ――ってバカ!ならないよね?それお前しか得してねーもの!」

上条「……いやまぁ、俺も嫌いじゃないんだが!もっと自分を大切にだね」

レッサー「ま、ここいらは日が暮れない限りはまず問題ないでしょう。ではちょっくら聞いてきますな」

上条「待て待て一人でどこへ行くつもりだ」

レッサー「路地裏入ってチンピラボコって情報をゲットしようかと」

上条「……いい加減にしろ」

レッサー「――はいな?」

上条「いい加減にしろって言ったんだよ!?お前は魔術師かもしんないけどさ!」

上条「”一応”女の子なんだから、”一応”危ないとかって思えよ!」

レッサー「あのぅ、”一応”連行されると私のエンジェルハートが傷つくんですが。”一応”は女の子なんで」

上条「マジな話、注意してくれないか?俺は知り合いの子が酷い目に遭うなんて、想像すらしたくない」

レッサー「……上条さんから『女の子』扱いされるのは、嬉しいやらくすぐったいやらですがねぇ……まぁ分かりましたよ」 ギュッ

上条「……なんで俺の腕を取ってんですか、レッサーさん?」

レッサー「私は基本、『護る』方なんで『護られる』のは苦手なんですよね、これがまた」

上条「守る?……でもお前ら、どっちかっつーと国家転覆狙ったテロリストじゃ?」

レッサー「アレも『護る』ためにやったつもりですが――あのババアが『noble obligation』を放棄したんで、まぁ良しとしましょう」

上条「のーぶる?」

レッサー「人々の盾であり剣となるべき人物が、その責をブリテン国民へ押しつけた――『王権』の否定……それもまた時代の流れ、人の選択肢なんでしょうが」

上条「何?」

レッサー「いえなんでも。あ、それよりも上条さん!もっとくっつかないと私の貞操が危険でピンチです!」

上条「任せろ!……でもこれおかしくね?守るのに腕組む必要はないですよね?」

上条「って言うかですね、俺の腕に敬語にならざるを得ない程のアレが、ふにょんふにょんしてるって言うか!」

上条「やっぱフロリスやランシスとは一線を画す破壊力的な!みたいな感じで、はい!」

レッサー「そしてゆくゆくは私が上条さんの貞操を!」

上条「あれ?もしかして狙われるのって俺の方なのか?」

レッサー「ククク……こうして入れるのも今夜が山田っ!」

上条「お前日本のテレビから知識仕入れるのもいい加減にしろ、な?」

上条(――と、真面目な話を振ってもあっさりスルーされちまったんだが。なんつーかまぁ、人生経験の差っていうか、修羅場の差?)

上条(レッサーがそこら辺のチンピラ相手に後れを取るとは思えないが……ま、俺が気をつけていればいいだけの話――ってそうそう)

上条(最近、っていうか旅が始まってから少しあった”違和感”。それの正体がここへ来てようやく分かった)

上条(俺がフィアンマをに殴りに行く途中、不安と後悔――インデックスへ申し訳ない気持ちで一杯になってた時)

上条(少しぐらい危険な方法でも急ごうとしていた俺は、随分とレッサーに助けられた気がする)

上条(俺が少しでも落ち込んだ顔を見せようものなら、即座に慰めようとしてくれた――体を使って)

上条(不安で心が押し潰されそうになっていたのも、明るく活を入れてくれようとした――体を使って)

上条(他にも憂鬱な考えに嵌まりそうな時にも、元気に励まそうとしてくれた――体を使って)

上条「……」

上条(あれ?もしかしてこれいい話じゃないな?ただ単にハニトラ食らってただけだよね?)

上条(むしろ傷心の俺相手につけ込もうとする、ドス黒い打算的なものが……)

上条(……ま、まぁ!動機はどうであれ助かったのは事実だし!感謝はしてるさ!)

上条(ただ、そのレッサーに『何か違うな?』って違和感があったのも事実で)

上条(『新たなる』の友達と一緒なんだから、違って当然なのかも、と考えてはいたんだが――)

上条(旅が始まってから初めて、そして数ヶ月ぶりに”腕へ抱きついてる”のを見て)

上条(どこかホッとしてるのを自覚した……なーんか嫌な予感もするんだけどなぁ、これはこれで)

上条「……」

上条(……うん!今考えても仕方がないからな!後でゆっくりと考えよう!)

上条(アリサやレッサー、ベイロープにフロリスとランシス。どうせこの旅が終ったら俺はお役御免だし)

上条(アリサはともかく――じゃ、ないか。現役アイドルに早々会えるって訳がないだろうし、イギリス組も同じ)

上条「……」

上条(――良し!先送りしても問題はないよなっ!どうせこのままウヤムヤになるだろうしっ!)



――雑貨屋

レッサー「すいまっせーん、これとこれ下さいな。あとミネラルウォーターも!」

おばさん「ん、あぁ銘柄は一つしかないけどいいかい?」

レッサー「あと道も少し教えて欲しいんですが――」

上条(――と、交渉事はほぼ全てレッサーにやって貰ってる。だって英語だもん!)

上条(いやでも進歩はあったんだぜ?自動翻訳アプリと環境に慣れたせいでリスニングは何とか)

上条(話すのは自信がない。まぁ多少おかしくても突っ込み禁止で)

レッサー「で、その時私が言ってやったんですよ――『お前のその幻想は一方通行だ!』ってね!」

上条「混ざってる混ざってる。しかもその内容だとただの勘違いを指摘してるだけだな」

おばさん「アンタ達観光なのかい?こんな辺鄙な所にまでわざわざ」

レッサー「まー半分半分ですかね。残りはちょっとした調査でして」

上条「10年前に火事ありましたよね?どれだけ復興が進んだのかをレポートにしようかと思っています」

おばさん「……あぁ、あったねぇ。ありゃ酷かったよ」

上条「良かったらお話を聞かせて貰えませんか?」

おばさん「話すのは構わないけど、あんまり憶えていたいモンじゃないからねぇ。曖昧でも良いんだったら」

上条「すいません。お願いします」

おばさん「あの日は寒い冬の日でね――ってお兄さんはジャパニーズかい?そっちの子は違うみたいだけど」

上条「えぇ――」

レッサー「――いやぁよく『似てない兄妹だな』って言われますがね。正真正銘の兄妹ですよ」

レッサー「ホラホラ、髪の色なんかそっくりでしょ?」

上条「(お前またそういうワケ分からん嘘を……)」

おばさん「言われてみれば似てるかも知れないねぇ。悪かったよ」

レッサー「(ま、基本的に言ったもん勝ち的な所ありますから)」

上条「(よく分からねぇよイギリス文化!)」

おばさん「で、ジャパニーズなら分からないかも知れないけど、イングランドの冬はカラッカラに乾いて雨が降らないのさ」

おばさん「だから少しの小火でも大火事になって、北区は派手に焼かれちまったって話。それだけだね」

レッサー「北区ってぇと、駅から出て右側の?」

おばさん「そうそう。ここいら辺は大丈夫だったんだけどねぇ。病院と教会が焼けちまってさ」

レッサー「教会、ですか?馬糞投げられ機――じゃなかった、イギリス清教の教会は健在だった筈ですけど」

上条「お前今別に噛まなかったよね?ものっそい明瞭に発音したじゃねぇか」

レッサー「ここへ来る前に見ましたが、どう見ても19世頃の建築様式でしたが」

おばさん「ん?……あぁそうだよねえ、余所から来たお客さんには分かんないかもだけど、この街には教会が二つあるのさ」

おばさん「古くからある教会と、新しく出来た教会の」

上条「それ、もしかして――」

おばさん「『ヤドリギの家』って言うんだけどね、知らないだろうねぇ、外の人は」

上条(ここでその名前が!?)

レッサー「変わった名前ですね、ってか初耳です。イギリス国教会派?それともイギリス清教系カトリック?」

おばさん「ははっ!やだよお客さんったら、そんなちゃんとしたもんじゃないさ!」

レッサー「……はい?」

おばさん「北区には元々ウェイトリー先生って、代々お医者様をやってる人が居てね――あ、元々は移民だったらしいんだけど」

おばさん「先生が立ち上げた教会なんだよ」

レッサー「胡散臭っ!?」

上条「オイ!言葉を選べよ!気持ちは分かるが!」

おばさん「そーよねぇ?普通はそう思うじゃない、『ウェイトリー先生忙しすぎて』みたいに心配しちゃったわよ!みんなでね!」

レッサー「(おや意外。否定しないどころかむしろ話に乗ってきましたね)」

上条「(ってかもしかしてこの人も元患者か?だったらヤバくねーかな)」

おばさん「でも先生は、そのホラ?ボランティアもやってたのよ。移民の子とか、お金のない家庭の子供を集めて学校を作りたかったみたいで」

おばさん「そう言った支援をするためにReligious……えっと」

レッサー「『Rreligious corporation?』」

おばさん「あ、それそれ!それをアレするために立ち上げたって!」

上条「(何?)」

レッサー「(宗教法人、ですね)」

おばさん「まぁ後は孤児を受け入れたり、ゴロツキを集めて仕事をさせたり、ここいらも治安は良くなったのさ。でもね」

レッサー「そこで10年前の火事に繋がると」

おばさん「噂じゃ先生も火傷したって聞いたねえ」

レッサー「聞いた、ですか?でしたらおばさんはもう罹ってないと?」

おばさん「ないわね。確かにウェイトリー先生にはあたしが生まれた時、取り上げて貰ってからの付き合いだったけどさ」

おばさん「わざわざ新市街にまで行くのはちょっと面倒でしょ?」

上条「(あぁイギリスの保険制度じゃ、地元の医者にしか医者に掛かれないんだったか)」

レッサー「新市街?って事はそちらで今もやってらっしゃるんですか?」

おばさん「興味があるんだったら行ってみれば――とは言えないわよねえ、ちょっと」

レッサー「ですなぁ。あまり病院に良い思い出もありませんし」

おばさん「そうよねえ。あ、ごめんなさいね、長話しちゃって」

レッサー「いえいえタメになりました、ような気がします。ね?」

上条「ん、あぁそうだな。ありがとうおばさん」

おばさん「どうしたいまして――あ、そうそう!」

レッサー「はい?」

おばさん「病院跡地はガレキが残ってるからね!近づいちゃ危ないよ!」

上条「フラグじゃねーか」

レッサー「むしろダチョウですな」



――旧市街

レッサー「――それで先程のお話の続きなんですが」

上条「あぁ」

レッサー「私がデレたんですから、そろそろ上条さんもデレては如何でしょうかね?」

上条「続ける場所間違ってねぇかな?オルソラばりに巻き戻ってんぞ」

上条「それとお前は最初からずっと一貫して、表面上はデレてるっほいがなっ!表面上は!」

レッサー「心外ですねぇ。陰日向から尽くしているというのに!」

上条「『ベツレヘムの星』、俺を置いてさっさと帰ったのはだーれだ?」

レッサー「言いますけどね。むしろあそこはミーシャさんだかってロシアの魔術師さんや研究者解放して、『星』の能力を削いだんですからね?」

レッサー「そもそもで言やぁ何のお手当も無しに、あそこまで付き合ったレッサーちゃんに感謝しやがっても良いんですけど!」

上条「前も言ったかもだが、感謝はしてんだよ。感謝は。でもな」

レッサー「ではこちらへ『ありがとう!上条当麻より!』と書いて頂きましょうか!」

上条「そのカーボン紙の下にある用紙、ちょっと見せて貰っていいかな?なんか日本語の書類っぽいからさ」

上条「あと婚姻届は直筆のみ有効だから、俺の想像通りのブツだったら受理して貰えないと思うよ?」

レッサー「――んで、今のお話どう思います?」

上条「間違いなく犯罪だな」

レッサー「いえ、今のネタ小話ではなく」

上条「何?それじゃお前小ネタに婚姻届何枚も持ってんの?」

レッサー「いえ!今のマジ小話ではなく!」

上条「たまーに俺、何がレッサーさんをそこまでボケに駆り立てるんだろうって不安になるんだが……」

レッサー「愛ですよ、あ・いっ!言わせたがりですかっンもうっ!」

上条「だから俺は、お前の直ぐ小芝居へ逃げる所が信用ならないんだけど……」

レッサー「ではなく、『ヤドリギの家』ですよ。感想としちゃどんなもんですかねってお話です」

上条「意外とまとも……か?問答無用で『お前も人形にしてやろうか!』ぐらいは覚悟してたんだが」

レッサー「その方はKISSのパクりな上、政治的に斜め上の発言で悪魔()としての株を大暴落させましたんで、ノータッチでお願いします」

レッサー「『Clever&Crazy』、要はマンソン路線で行こうとしやがって大失敗。私だったら地獄へ帰りますけどね」

上条「普通こういうのって、中の人よりも外の人の方が判断キツいじゃん?」

レッサー「ですなぁ」

上条「おばさんの言ってる内容はよく分かんなかったけど、まぁ好感触か」

レッサー「ですねぇ。もそっと電波的でアイタタタな話を期待していたんですが、若干拍子抜けしたぐらいです」

上条「何かボランティアみたいな事業するために、宗教法人始めましたって言ってたな」

レッサー「病院は……あー……日本の場合ですと医療法人へ入り、管轄の部署が少し違うんですね。向こうさんの資料読んでみない事には何とも言えませんが」

レッサー「より広義の福祉的な事業をするには社会福祉法人、だったような?」

上条「うん?だったらそっちですればいいんじゃないのか?」

レッサー「えぇはい、ですから宗教法人を取りながら、他の法人も兼任してるんでしょう」

レッサー「日本ではどうか知りませんけど、こっちじゃ教会が慈善団体を”経営”するのは良くある話です。なので恐らくはその線じゃないかと」

上条「移民を雇ってどうこうって話は?」

レッサー「おばさんはゴロツキと言っていましたが、実態は不正移民でしょう。不法入国と不正滞在、違法就労のセット」

上条「こんな田舎で?街は街だけど、ロンドンとかに比べれば全然だよな?」

レッサー「田舎の方が取り締まりはヌルいですし、職を求めてるんだったらトラック使えば少しの時間で移動出来ますからね。荷台で我慢すれば、ですが」

レッサー「そんな彼らを雇用すれば、結果的に昼間から暇を持て余してウロウロしてる人間が減り、結果的に治安向上へ繋がると」

上条「何となくは分かったが。でもそれじゃ”宗教”法人を取った意味が分からないぞ?フツーに法人やボランティアした方がいいんじゃねぇの?」

レッサー「あぁそこら辺はお国柄ですね。基本的十字教以外は敬遠される所もありますんで」

レッサー「形だけでも『それっぽい』スタンスを取る必要性があったんじゃないか、と」

レッサー「不正移民であろうが、職を与えれば住人として認知されますし。何よりもまず経済に組み込まれます」

レッサー「更にぶっちゃけますと宗教法人の場合、グレイな支出や胡散臭い活動費も『経費』として計上出来る面があります」

レッサー「なので節税対策――と、いう名の脱法行為が行われている、と考えるのが自然でしょうな。だもんで真っ当は真っ当ですよ」

上条「まぁ、なぁ?」

レッサー「……ただ、ですねぇ。正直な感想としては『出来すぎている』んですよ」

レッサー「あ、長編で呼ばれるとのび○の存在意義が消失するとか、そういう話じゃないですからね?」

上条「レサえもんそれ違う人だよ!俺的には『あれ?これ別に出来○君居たら問題が解決してるよね?』ってガキん頃から思ってたけどさ!」

レッサー「さっきも言いましたが宗教団体が『慈善事業』をする話ってぇのは良く聞きますよね。NPO、知ってますか?」

上条「そんぐらいは流石になぁ。ボランティアとかする人らだろ?」

レッサー「ですがこれ、『法律的には医療法人や宗教法人も入る』んですね」

上条「……はい?非営利団体なのに?」

レッサー「狭義のNPOにした所で『組織を運営出来るだけの報酬』は認められてますからねぇ。当然ですが」

レッサー「『自分達が適正だと思う分の報酬を受け取る』権利、も含めてのNPO。上から下まで全員無報酬はただの妄想ですよ」

レッサー「むしろ『”非営利”団体』を意図的に連呼している節もあるぐらいですからね、えぇもう胡散臭いったらありゃしませんよ」

上条「先生質問でーす!」

レッサー「好きなシチュは邪教集団を壊滅させた後、昇る朝日を見つめながら『ランシス達の分まで幸せになろう?』『……はい』です」

上条「聞いてないな?あとその設定だとランシスさん死んでねぇかな?」

レッサー「政略結婚とはいえ人の嫁をNTRった挙げ句、パーティ壊滅に晒しておきながら堂々と余生を全うした相手にどうしろと?」

上条「言葉の意味はよく分からないが、『お前が言うなモルドレット!』ってツッコミが浮かんだよ。何だろうな、これ?」

レッサー「――と!上条さんの仰ったように『だったらなんで猫も杓子もNPOになるん?』ですが」

上条「せんせー、俺まだ質問してませんが!……まぁ聞きたいのはその通りだが」

レッサー「税制面での優遇措置、並びに各種で高まってる知名度を利用した政治・宗教団体への勧誘目的でしょうかね」

レッサー「……ま、政治団体と宗教団体の境をどこかに引くかで、一悶着ありそうですが」

上条「……聞いていい話なのか、それ」

レッサー「『このせかいはカミサマがおつくりになりますた。だからカミサマ(オレサマ)にしたがわないヤツぶっ殺ぎゃー』――これはまぁ『宗教』ですよね?」

上条「後半部分は何かとアレだが、まぁ、そうだな」

レッサー「『地球は生きていまつ。一個の生命なんでつ。だからこの地球を汚すイエローはぶっ殺ぎゃー』――これは?」

上条「後半同じだったし、もしかしてイルカの名を借りたテロリストの事?」

レッサー「『世界から武器を無くせば平和に以下略』」

上条「色々な意味で面倒臭くなりそうだからって、ぶん投げるなよ!」

レッサー「『やってる当人からすれば大真面目、しかし端から見れば狂人の戯言に等しい』事、結構ありますよね?ま、好きでやってるんでしょうが」

レッサー「そんな人らが隠れ蓑にしていたり、確信犯――正確には”故意犯”としてNPOを開くというのはままある話で」

上条「あー……成程。神様ってのは信んじる人にとっては『居る』わな。科学サイドがどうじゃなくって、そう思ってる」

上条「同じベクトルでそういう人らも『神様じゃないけど信じきってる』って流れかぁ……」

レッサー「えぇまぁそーんな感じでしょうかねー。いやー個人が何を信じようが、信じた挙げ句に身上潰そうが勝手なんですがー」

レッサー「それでまともに生きている方々の足引っ張るバカも居るんですから、大人しくハイキングでもしてやがれって感じですかね」

上条「……分からなくもねぇがな。俺も『不幸』でババ引いた口だから、まぁな」

レッサー「個人が個人の趣味の範疇でおバカする分にゃ結構なんですがねぇ。大抵親兄弟から友人知人職場と迷惑かけまくりで――と」

レッサー「そろそろ着きましたねぇ、『北区』」



――旧市街 北区

上条(そこへ足を踏み入れた瞬間、俺は思わず口元を抑えそうになった……というのも)

上条(何度かイノケンティウスで焼かれかかった時、人間の体を焦がす嫌な臭いを嗅いだ。つーか俺の体なんだが)

上条(何とも言えない生理的に不快な異臭。それがまだこの通り一帯から漂っている……)

上条(道の両端はポツポツと再建した建物と、火事のまま放置されたガレキが積み重なっていて、何とも表現しがたい)

上条「10年、経ってんだよなぁ?」

レッサー「再建が遅い、ですか」

上条「住宅は住む人次第だろうけど、土地の方は更地にしちまえば良かったんじゃねぇの?」

レッサー「多分、その答えは新市街の方にあると思いますよ。あちらが元々、開発の優先順位は高かった訳で」

レッサー「こっちへ新しく家を建てるよりか、向こうへ移った方がいいんじゃね?みたいな考えなのかと」

上条「なる。向こうの方が新しい上に治安も良さげだしなぁ」

レッサー「むしろそうやって旧市街から人が流出すればする程、街は寂れてしまうんですが――まぁ、政治的な観点から見れば?」

レッサー「新市街の方へ重点的に住人を移して、でもって発展させる。すると当然人が集まって土地は足りなくなる」

レッサー「そうした動きが出始めたら、次は旧市街の再開発計画を立てるって考えじゃないかと」

上条「よく考えてんなー」

レッサー「シムシテ○8段は伊達じゃないですよっ!」

上条「伊達だな?驚くぐらいのハッタリで、少し感心した損したわ!」

レッサー「ですけど、そんなには外れてはいないかと。計画が実現出来るかどうかは別にして――さて」

上条「病院、か。宗教施設も兼ねてるんだっけ?」

レッサー「名義だけでしょうがね、恐らくは」



――ウェイトリー記念病院跡

上条「あー……」

レッサー「一応残ってるっちゃ残ってますねぇ、これは」

上条「外枠はほぼそのまま、遠くから見れば健在に見えない事もない、か?」

レッサー「ですが壁も所々剥げ落ちてますし、内部は火事でボロッボロ」

レッサー「何よりもまずこの臭いじゃ、正直暮らしたくはないですがね」

上条「都市伝説で登場するような、廃病院のイメージそのまま……夜中には来たくねぇよなぁ」

レッサー「でっすよねー!」

上条「だよなー!」

レッサー「……」

上条「……」

レッサー「――それでですね。実はこの街の名産品が『うなぎゼリー』でして」

上条「おい!帰ろうとするんじゃない!ここまで来たんだから中、見るだけ見とこうぜ!」

上条「あと悪名高い『うなぎゼリー』は俺だって知ってるわ!先輩からトラウマと一緒に植え付けられたからなっ!」

レッサー「いやぁ、でもなんかめっさ臭いですし?煤だらけゴミだらけで服汚れそうだなーと」

上条「そうだけども!だからってこのまま帰る訳に行かないだろう!?何のために来たのか思い出せよっ!?」

レッサー「愛の逃避行?」

上条「良し!そろそろお前にも日本の礼儀を教えてやらないとな!」

レッサー「おっ?なんです急に?」

上条「日本には”UMEBOSHI”っていうツッコミの一つがあってだ」

レッサー「No!?それいつもベイロープから貰っていますんでノーサンキューです!」

上条「『ヤドリギの家』がシロならシロでも別に構わないんだよ!ちょっとアレな感じであっても俺達の脅威じゃないから!」

上条「今はとにかくアリサを狙うキ×××を何とかしないと――」

レッサー「……また、アリサさんですか……」

上条「……レッサー?」

レッサー「いや!いいんですよ!私、分かっていましたから!」

レッサー「上条さんの中にはアリサさんが、ずっと前から居るって――分かって、いましたから……っ!」

上条「ねぇよ。つーか一々友達相手に好き嫌いとか失礼だろ」

レッサー「アリサさん、最初は少し蟠りもありましたよ?嫉妬って言うか、羨ましかったんですよ」

レッサー「上条さんに側に居られた、ただそれだけの理由が!」

上条「……いやだからね?そういう話じゃなくって」

レッサー「でも今はもう友達じゃないですかっ!?一緒に辛いアレコレをくぐり抜けてくれば情だって移りますよっ!?」

レッサー「あんな……」

上条「……レッサー。そうか、お前きちんとアリサと友達になってくれたんだな」

レッサー「そりゃ当然ですよ。『奇蹟の歌姫』ではない『鳴護アリサ』さんはもう、私の友達の一人であり――」

レッサー「――大切な、仲間、なんですから……!」

上条「……あぁ!」

レッサー「その状態からNTRのって、超興奮しますよねっ!」

上条「いい話が台無しじゃねぇかっ!?友達だとか仲間だって話はどこへ家出しやがったっ!?」

上条「そうじゃないだろっ!?そんな事実はないけど、つーか自分で言ってて悲しいけど!アリサのために身を引くって展開じゃないのっ!?」

レッサー「いえむしろ『仲の良い友達を裏切る事での背徳感』で盛り上がる事間違い無しかとっ!!!」

レッサー「大丈夫です!この私は口の堅さに関してはベイロープから、『紙風船』と呼ばれるぐらいの信頼を得ていますのでっ!」

上条「ベイロープは多分『ペラッペラで直ぐ飛ぶし、物に当たったら割れる』って意味でしそう呼んだんだと思うよ?」

上条「なぁ?今からいいからチェンジ出来ないかな?レッサーさんじゃなくて、他の人呼べない?」

上条「それとも今からでもバードウェイにDOZEZA決めるか……?」

レッサー「てかあのツンロリ、携帯で呼び出せば普通に来そうな感じですけどねー」

上条「……うんまぁ、なんだかんだで来るとは思うよ?あの子、面倒見はいいから。でもな?」

上条「呼び出せば呼び出したなりの”対価”として、一体何を失うハメになるか……っ!腎臓とか肺とか持って行かれそうで怖えぇんだよっ!?」

レッサー「鋼っぽい錬金術ですか。っていうか失うより増えると思いますよ、家族的なものが」

上条「てか今スルーしちゃったんだが、”ツンロリ”って何?どんなジャンルなの?流行ったらまた問題にならないかな?」

レッサー「何を勘違いしたのか、『壁ドン!』すらCMで流れたんでしたっけ?笑いものにしようって悪意アリアリで吐き気がしますっ」

上条「……いやまぁ話戻すけどな。中入るのそんなに嫌か?俺も嫌だけど」

レッサー「ホラだって『Keep Out!(立ち入り禁止)』のテープがですね」

上条「貼ってあるけどさ!でもこれ――これ……?」

レッサー「おっ?気づきました?」

上条「……これ、なんで貼ってあんだよ?火事は10年前だっつーのに……!?」

レッサー「近隣付近、今通ってきたデパートはスルーでしたよね。『立ち入り禁止!』の看板はありましたが」

レッサー「しかもこれ――あ、後ろ側の粘着力が落ちてませんなー。いやぁもう面倒クセー状況ですねオイ」

上条「……あのぅ、このテーブってさ?”事件的なもの”が起きた現場とか、部外者が入らないように張るんですよね?こう、周りをグルグルと?」

レッサー「はい、そうですね。”事件的なもの”で警察さんが出張った時に、です」

上条「……」

レッサー「……」

上条「……う、うなぎゼリー」

レッサー「あい?」

上条「外見はグロいけど、オイシイ……ん、だよね?」

レッサー「ぶっちゃけ日本の煮凝り知ってると、『残飯?』レベルですが」

上条「いやでも!食べてみないと分からないじゃないか!というか食べても居ないのに批判するのは良くないよ!」

レッサー「えぇまぁ仰ってる事はある意味真理を突いているんですが、そのロジックだと『女性の心理は女性にしか分からない』、つまり」

レッサー「『男性は××コ切って性転換しないと女性を語ってはいけない』って暴論へと繋がるんですが」

上条「これ以上To LOV○るはゴメンだよっ!?つーかなんで俺ばっかりこんな目に!?」

レッサー「カミジョー、少し前の『アリサを守るとかナントカ』思いだせー?あとTroubleの単語も違うぞー?合ってるっちゃ合っていますが」

上条「見なかった事には……?」

レッサー「したい、ですけどねぇ。つーか私も戦略的撤退をお勧めしたい所なんです――が」

上条「が?」

レッサー「どーにも上条さん。熱烈なファンの方とか、身に覚えはありませんか?」

男A・B・C・D「……」

上条(イギリス人じゃない……?顔立ち見るにインドとか中央アジア……って事はこいつら移民か!)

レッサー「Pakistaniでしょうかね。最近イングランドで騒ぎを起こしていますし」

上条「俺の友達ではないなぁ。もしそうだったらこんな修羅場にはなってない」

レッサー「え?でもいつか刺されそうだってマタイさんに予言されてませんでしたっけ?しかも童×のままで」

上条「やっぱアレそういう意味だったのかよチクショー!?」

レッサー「さぁ!迫り来る男達、上条さんの明日はどっちだ!?」

上条「普通に来る予定だよ?別に見えないとか、そういう話じゃないからね?」

レッサー「このまま無抵抗で上条さんがオッサンどもから前から後ろから……悪くないですねっ!」

上条「おいテメェ今どんな想像しやがった!?」

レッサー「――上条さん、向こうは歴戦の魔術師だと見受けられます!このまま二人で一緒に戦っては不利かも知れません!」

上条「お、おぉ?それで?」

レッサー「なので私が逃げている間に上条さんは時間を稼ぐ作戦で行きましょう!コードネームは――」

レッサー「――『くっ、殺せ!』です!」

上条「ごめんな?おっさん達少し待っててくれないかな?」

上条「俺ちょっとこのバカと拳で語り合わなくちゃいけないから!幻想とか殺さなきゃいけないからな!」

上条「一体何をどうやって『殺して下さい!』って懇願するような状況に陥るのか、言ってみやがれゴラァァッ!」

レッサー「『上条さんの貞操を狙って現れた第三の刺客!レッサーちゃんの奮闘虚しく連れ去られる上条当麻!』」

上条「あれ?狙われてんのって俺の貞操なの?なんでそっちがメインになってんの?」

レッサー「『鍛えられた筋肉の海に意識を刈り取られそうになる中、上条当麻が思い浮かべるのは幸せだった日々の事……』」

上条「次回予告するぐらいだったら余裕じゃないかな?てか向こうも『何言ってんだろコイツ?』って空気読んでくれてるし、話せば分かってくれるんじゃないの?」

レッサー「『……あぁ、あん時レッサーに童貞切って貰えれば良かった……!』」

上条「軽いよね?なんで俺敵に捕まってんのに、割としょーもない事ばっか考えてんの?」

レッサー「『こんな快楽に陥るのも悪くないぜ……ククク!』」

上条「俺のキャラブレすぎだろ!?気持ちいいのか抵抗してるのか一貫性がないなっ!」

レッサー「『そして現れる謎の女の影!突如現れた上条当麻の現地妻を相手に戸惑う取材班!』」

上条「アニメ風予告じゃなかったの?取材班だと昭和の面白探検隊シリーズと被るよね?」

レッサー「『レッサーちゃんは上条当麻の心を救えるのか!?凍り付いた心を溶かす事は出来るのであろうか!?』」

上条「むしろ今、俺がお前への不信感で凍り付きそうなんですけど」

レッサー「『次回、”ザ・ガンジー”!すべからく見よ……ッ!!!』」

上条「いやなんか、次回予告とかしっちゃかめっちゃかになってんだが……」

レッサー「と言う訳で、Please?」

上条「嫌だよっカマ掘られるのはっ!?」

レッサー「じゃ、じゃあ私が犠牲になります!その間に逃げて下さいっ!」

上条「待て!?お前それあの有名な『どうぞどうぞ』の前フリじゃないのか!?」

レッサー「――てなワケで、ですね」 ザワッ

上条「レ、レッサー?」

レッサー「あまり、こっちとしちゃ事を荒立てたくないでしてね。えぇもう本当ですよ?」

レッサー「なんで一応は『逃げる時間を差し上げた』分だけ、人道的配慮だと思って下さいな」

上条(なんつー殺気だ!?つーかコイツ本気で――)

レッサー「『――Please, Go to the grave(あなたのための墓穴へどうぞ)』」

男達「――!?」

???「……何をしている。というか相変わらず女連れだな、お前は」

上条(そう、男達の後ろから出て来たのは――褐色の肌を持った女の子だった)

上条(男達が、スッと身を引いた所を見るに、指導者的な立場の子なのは間違いがない……が、見覚えがあるような?ないような……?)

レッサー「あ、あ、あ、あなたはっ!?まさか――」

上条「知ってるのかレッサーっ!?」

レッサー「――本当に現地妻がしゃしゃり出てくるとはっ1?流石に斜め上でした!!!」

上条「あ、ごめんな?今少し大事な話をしてるから、向こうで待っといて貰えるかな?」

???「誰が現地妻だっ!わ、私はそこのお節介な男の妻になった憶えはないぞ!」

レッサー「……しぃぃぃぃぃっかりフラグ立ててるじゃないですかーヤダー」

上条「待て!?人を人でなしみたいな目で見ちゃいけませんっ!」

レッサー「いやでもあちらさんはお知り合いのようですよ?」

???「お前、まさか憶えてないと言うのか……っ!?」

上条「憶えてる!今ちょっと突然すぎて整理がついてないだけであってだ!俺はきっと憶えてる筈だ!」

レッサー「その言い方自体が憶えてないって証拠なんですけど――まぁ、そちらさんとはお目にかかるのは初めてですんで、自己紹介でもしましょうか」

レッサー「私は『新たなる光』のレッサーちゃんと申します。あなたがブリテンの敵にならない限りはヨロシク」

上条「その自己紹介もどうかと思うが……」

???「随分とご挨拶だが……まぁ名乗られて応じないようでは、我が一族の名が廃る」

レッサー「褒められましたっ!」

上条「皮肉だよ?」

???「私はソーズティ、ソーズティ=エキシカ」

ソーズティ(???)「『天上より来たる神々の門』の魔術師――だった、者だ」



――ウェイトリー記念病院跡 一階ロビーがあったと思われる広場

上条「あぁうん、憶えてた憶えてた!ただちょっと前とはイメージが違ってたから」

上条「前はさ?ホラ、パンツ見えそうな超ミニスカ制服着て――」

ソーズティ「言うなバカ!私の中であれはなかった事にしてるんだから!」」

上条「あー……姉ちゃんに何か言われた?」

ソーズティ「『……そういうお店?』って一言だけ……正気に戻った最初の会話が……ッ!」

ソーズティ「姉妹の再会……感動の対面だったのに……!!!」

上条「ウレアパディーも肌色多めな服、つーか布きれ着てたもんな……」

レッサー「すいません、そのお話を詳しく」

レッサー「あと、もう使わないのであれば、そのミニスカ制服とやらを譲っては頂けないでしょうか?」

上条「ダメだ。あればソーズティが着るからまだ許せるんであって、お前が着ると完全に恥女扱いになる」

ソーズティ「人の潜入服になんて言い草だ。中の学生達もそう変わらない格好だったろうに!」

レッサー「まぁおっぱいが大きいとリアルですもんね。分かります分かります」

ソーズティ「……お前」

上条「そこまでー!つーか喧嘩しない!仲良くしなさい!」

ソーズティ「……ふんっ」

レッサー「喧嘩なんてしてませんとも。ただソーズティさんは暫くぶりに会ったのに、このバカは気づかないし女連れだわで、機嫌斜めであって」

上条「女連れ……よく分からんが――お前今、俺の事”このバカ”って言わなかった?ねぇ?」

レッサー「それで?どうしてIndianの元魔術結社の方がイングランドに居るのでしょうか?」

レッサー「しかもタイミング良く、私達が調べようとしていた廃ビルの中から。偶然とは、思いにくいですよねぇ」

ソーズティ「……」

レッサー「おんやぁ?聞こえてませんかー?もっしもーし?」

上条「俺も聞きたい。二人で逃げられたのか?怪我とかしなかったか?」

ソーズティ「……それは、別に。魔術結社は全滅した事になっているのだから、追っ手がかかる訳でもない」

ソーズティ「それに姉は不完全だが『ブラフマーアストラ』を扱える。相手になんかなるもんか」

上条「発動条件厳しいんじゃなかったっけ?……まぁ、いいや。お前らが無事なら」

ソーズティ「無事。無事か。傷を負わなかったのはその通りだが、今や私達は死んだ身だ。故郷へ帰れる訳もない」

レッサー「なので比較的インドから来やすい旧宗主国のイングランドですか。まぁ納得ですな」

ソーズティ「……そうだ」

上条「姉ちゃんも近くに居るの?」

ソーズティ「いや、ロンドンに居るな。体調は思った程安定していない……病人、ではないのだが」

ソーズティ「だから私が”ここ”へ来た。代理人に過ぎないのさ」

上条「ふーん?……はい?代理人?」

ソーズティ「何?何故そこで首を傾げるんだ?」

レッサー「上条さん、ここは一つ」

上条「あぁ言っちまった方が早い、つーかお互いのためになると思う――ソーズティ!」

ソーズティ「な、何だ?」

上条「っと、今から話す事は他言無用でお願い出来るか?」

上条「あ、ウレアパディーとか信じられる人に言うのは良いけど、それ以外に広まると拙い」

ソーズティ「またお前はトラブルに巻き込まれているのか。そうなんだろうな、それは」

ソーズティ「お前が命を助けた相手も、お前にとってはただの日常に過ぎない、んだよな」

上条「ソーズティ?」

レッサー「聞くのは野暮ですよ。察せないのであれば黙っていましょうか――それとも」

レッサー「『知ってて』したんでしたら、前歯全部ヘシ折って差し上げますけど?」

上条「だから何の話だよっ!?ペナルティが重いし!」

ソーズティ「……ただの愚痴だ。益体も無い」



――10分後

上条「――で、調べていたらお前達に会った、ってのが流れだな」

ソーズティ「『エンデュミオン』……ただの軌道エレベータではないと思っていたが、まさかそんな仕込みがあったとはな」

レッサー「おや?ソーズティさんもアリサさんの関係者でしたか?」

上条「の、少しの話だ。直接の関係者じゃないが、まぁ後で話すよ」

ソーズティ「……納得しがたいが、お前がまた危険な所へ首を突っ込んでいるのは理解した」

上条「その理解、正しくないと思うよ?」

レッサー「合ってます合ってます。ど真ん中ですよ」

ソーズティ「ではこちらの経緯を話す――よりも、まずその、『病死』した人間の名前は分かるか?」

上条「えっと……書類は?鞄の中だからバードウェイんトコか」

レッサー「こんな事もあろうかと思いまして、実はデジカメに撮ってあります。見ます?」

ソーズティ「見るのはそちらに任せる」

上条「はい?」

ソーズティ「――死んだ者の名は、Pawaskar、Trivedi、Chandrababu。誰か一人でも該当しただろうか?」

レッサー「”一人”ではなく”全員”アタリですね……あっちゃー、こりゃまた面倒臭そうな展開になりそうですよ」

上条「え、なんでお前が死んだ人の名前知ってんの?」

ソーズティ「順を追って説明するか……移民、というものは大抵横の繋がりを持っている」

ソーズティ「繋がりを持っている――と、言えば聞こえは良いが、良くも悪くも裏社会のそれと大差ない」

レッサー「ま、それは『生活互助会』でいいのでは?パキスタン系と違って完全なマフィアではないんでしょう?」

ソーズティ「当然だ!あんな面汚しどもと一緒にしないでくれ!」

上条「えっと?」

レッサー「つまり、ソーズティさんは探す側の人間だったんでしょうな。今回『事故死』された方達を」

ソーズティ「彼らはある日、『仕事を見つかった!』と言い残して姿を消したんだ。探すに決まっているだろう」

上条「じゃあ、調べた先に行き着いたのが――」

ソーズティ「この街、そしてお前達に出会った」

ソーズティ「最初は面倒だから穏便に追い払おうとしたんだが……ちっこいのがパキスタニと間違えて皆殺しにしようとしただろ?」

ソーズティ「だから嬉しくもない再会をしてやっただけだよ」

レッサー「Oh……またですか!またレベルの高いツンデーレがここに!」

ソーズティ「ツンデーレ?霊装の名前か?」

上条「やめろ!ソーズティをMOEで汚染するんじゃねぇ!あとツンデレをインドの神様っぽく言うな!」

ソーズティ「まぁしかし、パキスタニどもの最近の凶行を見るに心中は察するが」

レッサー「ありがとうございます、インディアのお嬢さん」

上条「あのー、パキスタニって何?マフィアか何かの名前?」

レッサー「パキスタン国出身の人間をPakistani。直訳すればパキスタン人」

ソーズティ「それがなんで侮蔑の象徴となっているのかは、そのガキから聞け。私は口にしたくない」

レッサー「詳しくは後程しっぽりと。出来ればこのまま忘れて下さると有り難いのですが」

上条「忘れるのも含めて、分かった。しかしそれにしても穏便な話じゃないよな。誘拐されたって事か?」

レッサー「というよりは自発的に居なくなった所を食い物にされた、でしょうか。実際に『病死』した上で保険金が下りているのですから」

ソーズティ「保険金は当然、家族宛てではないのだろうな?」

レッサー「ですねぇ。『ヤドリギの家』が全額受け取っています」

上条「……真っ黒だな。灰色じゃなく、真っ黒」

レッサー「何ともまぁ剣呑なお話ですよね――ですが、私は少し腑に落ちないんですけど。ソーズティさん」

ソーズティ「ん?」

レッサー「あなたはここへ『生活互助会』としていらしたので?それとも『魔術師』としてのお立場でしょうか?」

ソーズティ「言葉遊びは好かない。はっきり言ったどうだ」

レッサー「これは失礼を。では簡潔にお伺いしますが――」

レッサー「――あなた方は『ヤドリギの家』を魔術結社として捉えておいでなのですか?」

ソーズティ「ノーコメントだ」

レッサー「……それはちょっとあんまりじゃないですかねぇ。こちらばかり情報を開示して、そちらさんは黙りってぇのは」

ソーズティ「……」

上条「レッサー、言い過ぎだ」

レッサー「……いや、まぁ巻き込みたくないってのは理解出来ますがね。私も素人さん巻き込んで良い気分はしませんし」

レッサー「ですがここで情報出し渋っていた所で、事態が改善するする訳もなく。ましてや」

レッサー「あなた一人の手に余るのであれば尚更人に頼るべきです。私達が解決出来るかは別として、解決”策”が出るかも知れません」

レッサー「どうせお話を聞くにお姉さん以外に”こっち”の流儀を知らず、辟易してるんでしょう?さっきの男達みたいに」

上条「さっきの?」

レッサー「えぇソーズティさんは『やらせた』と仰いましたが、どう見ても殺気的なものが混じっていましたんでね」

レッサー「魔術師相手に素人さんが叶う訳がない。それを知らない”程度”に闇を使った人間――つまりチンピラ未満だと」

レッサー「恐らくは部下は部下なんでしょうが、勝手に暴走しやがって渋々顔を出さざるを得なかった、が真相でしょうな」

上条「……あぁ確かにそうだな。知り合いなんだから、普通に出て来ても良かったんだし」

レッサー「それをしない、出来なかったって事は、部下の制御すらままならない環境である証左」

レッサー「意地を張ってる場合じゃないと思うんですがねぇ、違いますか?」

上条「……俺からも頼むよ。お前が学園都市に来た時だってそうだったろ?」

上条「俺やソーズティだけじゃなく、インデックスやステイルの力も借りられたからこそ!ウレアパディーを止められたんであって!」

上条「俺だけじゃ頼りにならないかも知れないけど、こっちのはただの恥女じゃないんだ!」

レッサー「待ちません?唐突に人を恥女呼ばわりはまぁ事実だから良いとして、今シリアスですよね?」

ソーズティ「……分かった。お前を信じよう」

上条「ありがとう!」

レッサー「あれ?おかしいですね?ちょい前にアリサさんに説教カマした時とデジャブが――」

レッサー「――はっ!?これはまさか前世での記憶……!?」

ソーズティ「お前”は”信用出来るんだが」

上条「レッサーさんレッサーさん、お前の言動に耐性ついてない子だと頭イタイ子にしか見えないって自覚しよう?」

上条「特に俺が信じられないのは、既に上着を脱ぐ体勢に入っているって所とか。重点的に」

レッサー「いやこれは何となく流れで、つい?」

ソーズティ「お前、気づいてないのか?」

上条「だよなぁ?」

ソーズティ「そっちじゃなく、お前だよ、お前」

上条「俺?」

レッサー「言うだけ無駄、つーか痛くもない腹バラすってんなら、こっちにも迎撃の用意があると言っておきましょうか」

ソーズティ「痛くないのなら迎撃する必要性も無い筈だが、まぁ良い。こちらも難癖つけられるのは面倒だからな」

上条「何の話だよ」

ソーズティ「気にするな。お前に理解出来るんだったら、とっくにどうにかなっている」

レッサー「お気になさらず。周囲が勝手に盛り上がっているだけの話ですので、その内落ち着く所へ落ち着くかと――まぁ?」

レッサー「その時には後ろから刺される覚悟をしておいた方が良いかもしれませんけどね?」

上条「ほっ、良かった!俺には関係なさそうな話だな!修羅場とは無縁の俺にはねっ!」

ソーズティ「えっと?」

レッサー「そっとしてあげましょう。頭のどこかで薄々見当はついているんでしょうが、業の深さに理解を必死に拒んでいるようです」

ソーズティ「正直、『ざまあ見ろ』的なワクワクも否定しがたいが」

レッサー「私の立場としちゃその前に仕込んでおきたい所ですがねぇ……や、でも五人で守ればナントカ……?」



――廃病院 個室

上条(俺達が通された部屋は意外に綺麗だった……まぁ、廃墟にしてはという但し書き付きでだが)

上条(むかーしガキの頃に作った――と、思う――”ひみつきち”的な雰囲気で、捨てられたソファやら机が並んでいる)

上条(電気は通ってない筈なのにある冷蔵庫。そこから冷たい飲み物を取り出し、ソーズティはゆっくり話し始めた)

ソーズティ「お前達の分はないぞ」

レッサー「上条さん後で買ったげますから、今は大人しく」

上条「そんなに俺物欲しそうな目で見てたかな?いや別にさっき買ったお茶のペットボトルあるし」

上条「……つかイギリスだと緑茶に砂糖入ってんのな?日本でも麦茶に入れるご家庭があるらしいけど」

レッサー「インドのチャイの影響でしょうかね。超絶に甘ーいミルクティーは受けがいいので」

ソーズティ「言っておくが、あれはSサイズをちびちび飲むものであって、西洋人みたいにリッターサイズの紙コップで啜るのは別だ」

レッサー「アメリカの常識をEUにまで広げないで頂きたい。イングランドはまぁまぁマシだと自負していますからねっ!」

上条「まぁまぁで自負すんなよ。日本も最近はメタボ多いがな」

ソーズティ「肥えられるのは富の象徴――”だった”時もあるが、お前達の国は貧しいほどカロリーコントロールが出来ずに太ると聞くな」

上条「インドも経済発展スゲェって聞いてるけど、違うのかよ?」

ソーズティ「前よりはマシになったがまだまだだ。地政学的リスクが高すぎる」

レッサー「西側のパキスタンではジハーディスト”を、名乗っているテロリスト”の活動が盛んで、冷戦状態」

レッサー「商業都市ムンバイは何年か前に派手に爆破され、その犯人達を完全には捕まえてはいませんし」

レッサー「東を向けば貧困村を狙って毛派の浸透が続いており、一部では独立を宣言する始末」

レッサー「国が大きいと憂鬱の種も尽きまじ、ですか」

ソーズティ「どちらにせよ、故国を離れた私達にはもう関係無い話――で、だ」

レッサー「あなたがここにいる理由、それをキリキリ吐いて下さいな」

ソーズティ「……始まりは『ブラフマーアストラ』だ。終ったと思っていたアレが」

レッサー「えぇと、『ブラフマーアストラ』……?名称からするに『創造神ブラフマーの武具』って所でしょうが」

上条「お、合ってる。弓だっけ?」

ソーズティ「姉の霊装はそうだな。必中必殺、距離も壁も関係なく、弓を放てば命中する術式だ」

レッサー「また中二心をくすぐるチート武器ですなぁ。嫌いじゃない、むしろ使ってみたいです!」

レッサー「……でもやっぱり、使用条件お厳しいんでしょう?」

上条「通販みたいなノリは止めなさい。割と深刻な話なんだから」

ソーズティ「『アストラ』に合わせるための体のチューニングを少々。被験者は何人かいたが、生き残っているのは姉だけだ」

レッサー「……ま、そうですよね。魔術の規模に比例して扱いにくくなるのは当たり前ですが」

ソーズティ「後は『三つ以上の流れ星を同時に確認する』必要性がある」

レッサー「それ絶望的じゃないですか――って、あぁ成程成程。それで『エンデュミオン』に絡んだと」

上条「正しくはその前にあった『デブリストーム』だな」

レッサー「そっちもまたお名前から察するに『スペースデブリをどうにかしちまうぜ!』的な、トンデモ技術なんでしょうねぇ……」

ソーズティ「だがあの戦いの中、どこかのお節介焼きのバカに潰され、アストラは本来の力の大半を失った」

ソーズティ「今では”やや”強い霊装の域を大きく超えるものではないがな」

レッサー「あー、いますよねぇ。どこでもそういう人って。無関係なのに首突っ込んできてドヤ顔で説教マカす人」

レッサー「『仲良く出来るんだったら、最初っからやってるっちゅーの!』的な」

上条「……すいません。ホントもうね、色々とすいません……」

ソーズティ「今言ったように『アストラ』の起動条件の一つには、三つ以上の流れ星が必要だ」

ソーズティ「しかしだからといって、霊装を片手に持ちながら、望遠鏡で一晩中流れ星を探している訳ではない」

上条「……シュールな絵面で、それはそれで見てみたいが」

レッサー「あ、それ私も不思議に思ったんですよ。『ブラフマーアストラ』、確かに超強そうな感じですけど、『実戦で使えるのかよ?』と」

上条「破壊力は並の魔術と文字通り桁違い。精度に関しちゃ……あー……ウレアパディーが”当てる”つもりがなかったんで、体験はしてない」

ソーズティ「当然だな。姉が本気を出してさえいれば、お前なんかに膝を屈する筈が無い」

上条「あ、シスコン発見。仲が良いのは結構だけどなー」

レッサー「……私の話が途中なのにこの始末……」

上条「あぁごめんごめん。それで?」

レッサー「……えっと、ですね。普通は、てか常識的にそんなに流れ星見ませんよね?しかも同時三つとか無理ゲーかと」

レッサー「『エンデュミオン』――てーか軌道エレベーターやらスペースデブリを遣い、作為的に起こさない限りは、まず」

ソーズティ「その通りだ」

レッサー「天文学がある程度発達してりゃ、流星雨を予知出来るっちゃ出来ますけど……それにしたって都合良く、タイミング良く起きる訳がありません」

レッサー「なのでその霊装、『実は待機時間を挟める』仕様なのではないでしょうか?」

上条「どういう事?」

レッサー「そうですなぁ……『流れ星が流れる前に、三回お願い事をすれば叶う』っておまじない――お呪い、ありますよね?」

上条「あぁ、某ネットラジオで『津へ!津へ!津へ!』なら出来るかも?つってたやつか」

レッサー「あのお呪い――って言いますか『術式』の受け付け時間は『流れ落ちている間』です。分かります?」

上条「まぁな。どう考えても子供の願掛け用のおまじないなのに、発動条件がシビア過ぎて、入り口にすら立てないもんな」

レッサー「でもこれが逆に『流れ星が流れてから○○秒以内』だったら、楽勝じゃないですか?それと同じ」

上条「あぁ成程。起動してから使うまでの時間に余裕があれば、戦闘に入る前に起動しといてー、って使い方も出来るのか」

ソーズティ「……驚いたな。意外と考えてるじゃないか」

レッサー「褒められましたっ!……おや?”意外”と?」

上条「レッサーさんは若く見られますからねっ!その歳にしてはって意味だと思うよっ!」

ソーズティ「お前の連れにしては、だよ」

上条「あれあれー?フォローをしたらこっちに流れ弾が跳んで来たぞー?」

ソーズティ「原理はその女の推測の通りだ。予め流れ星三つを”確認”し、”起動”させておく」

ソーズティ「そうしてから実際にブラフマーの弓を引くまで、ある程度タイムラグが認められている――の、だが」

ソーズティ「……先程も言ったように、姉はずっと夜空を見上げているのでは、ない」

レッサー「意外にロマンチストで、初恋の人がトチ狂っても待っていたりしそうですけどね」

上条「レッサーさん、黙ろうか?それは言っちゃいけないと思う」

レッサー「『兵無し!』と言い切った割には次から次へと残党がですね」

上条「それも止めようね?当時はこれ以上話膨らませるつもりはなかったって、監督言ってんだからさ?」

ソーズティ「なので当然、当たり前のように天体観測自体は、それ専用の術式に任せっきりになっている――と、ここまでが前提の話だ」

ソーズティ「細々とした説明が嫌になるぐらい、前座の話と言えなくもないんだよ」

上条「要はお前のねーちゃんが夜空を観察してる術式使ってる、って話だよな?」

ソーズティ「そうだ。その通りだ――だから今からする話は、完全に『偶然』だったんだ」

ソーズティ「……そうじゃないと、おかしい……!」

レッサー「もし?どうされました?」

上条「……言い辛い事なのか?だったら無理に話さなくても――」

ソーズティ「――20XX年11月末。お前達はどこで何をしていた?」

上条「はい?なんでまた」

ソーズティ「答えろ、いいから」

レッサー「私は、私達はイギリス清教さんから逃げ回っていましたねぇ。つっても表面だけ、形式上だけなんでヌルいもんでしたが」

レッサー「キャーリサさんの取り計らいがなければ、『必要悪の教会』の抹殺対象になってしてもおかしくはありませんでしたが……まぁ?」

レッサー「それを除けばいつもの通りでした」

上条「反省しないの?少しは省みようよ、ねぇっ!?」

レッサー「残念!私の辞書に『反省』の二文字はありまんせんよっ!」

上条「そんな辞書は返品してきやがれ、つーかお前の辞書日本語表記なんか?」

上条「……と、俺は何してたっけかな……?」

上条「佐天さんとテレビ番組――あ、いや誰かと暮らしてた――のも、違うな。バードウェイと――」

上条「……いやいや。そんな事もしてない。えっと……あぁ、そうだ。アリサのライブの手伝いしてたんだよ」

レッサー「アリサさんの?年越しコンサートでしたっけ?」

上条「の、準備で大忙し。一ヶ月以上前からリハビリとか歌のレッスンとかさ。シャットアウラが手ぇ離せないってから、俺に頼みたいんだと」

レッサー「……アリサさん結構強かだと思うんですが、どうでしょうねぇ――で、私達のプライベートがどう関係が?」

ソーズティ「……『彗星』、来ていたな?」

上条「すい……?あぁ!あったあった!そう言えば去年の11月頃の話だっけ?」

レッサー「はい?ありましたっけ?」

上条「百年に一度だか、千年の一度だか、ボジョレヌーボーのコピペみたいに宣伝しまくった彗星の話。あー、あれ11月だったかー」

レッサー「えーととと……あぁ、そういやあった……ような?ランシスが何か言ってた気がしますけどね」

レッサー「『イカロスの羽根』がどーのこーのと……」

上条「イカロス?」

レッサー「ギリシャ神話のミノタウロス閉じ込めた迷宮作ったダイダロスの息子です」

レッサー「蝋で出来た翼で天空に跳んだのは良いものの、太陽に近づきすぎて羽根が溶けて墜落死した伝承が」

上条「あ、それとある意味同じだな。去年来てた彗星も、太陽に近づきすぎたら溶けちまったんだよ」

上条「彗星は氷とチリでて出来ているからさ」

レッサー「へー?寓話みたいなお話もあるもんですにゃあ」

上条「猫になるの禁止――で、あの彗星がどうしたって?」

上条「『世紀の天文ショー()』って言ってたのに、何か残念すぎる結末だとは思うけどさ」

ソーズティ「……おかしいと思わなかったのか?”それ”を」

上条「どれ?」

ソーズティ「世界中の天文学者、そして魔術師達が彗星を観察していたんだぞ?単位は数万を超える数のだ!」

ソーズティ「それだけの数の『プロ』が居たというのに、誰一人彗星が蒸発した結末を予測出来なかったんだよ!」

上条「だってほら?実際に消えてる訳だしさ」

レッサー「……指摘されてみれば、確かに、ですね」

上条「おい、レッサーまで」

レッサー「我々魔術サイドが天体の運行、天文学について有史前から研究していたのはご存じでしょうかね?」

レッサー「各種の壁画や創造神話を紐解けば、もっと言えば『暦』を創り上げたのも我々ですし――」

レッサー「――何より、『エンデュミオン』もまた星辰が深く関わっていますでしょ?」

上条「それは、推測だって」

レッサー「ローマ正教さんの元トップが言うんだから、まず大きく外してはいないでしょうな」

レッサー「てか、あの人が外すんであれば、他の魔術師にも予想は不可能と言っても過言ではありませんよ。そういう人です」

レッサー「なので当然、昨年の彗星も魔術師にとっては興味深い研究対象であったのも確か、ですね」

上条「お前らは違ってたみたいだけどな」

レッサー「んー、まぁそこはそれ”次”の仕込みに忙しかったって言いましょうか。ま、そんな感じでアレでしてね」

ソーズティ「と、同時に科学サイドでも観察の対象になっていただろう?アマチュアの天文学者から、重力レンズを観察しようとする学者まで幅広く」

ソーズティ「だというのに、それだけの面子の人間が揃っていたにも関わらず、『太陽に近づきすぎたから蒸発』なんて締まらないオチが予測出来なかったのか?」

上条「……なあ、ソーズティ。なんかさ、俺の気のせいかもしないんだけど、さっきからお前の話を話を聞いているとだ」

上条「あの彗星、本当は太陽の側をきちんと通り過ぎる筈だったのに、誰かが――”何か”が干渉して蒸発させられた、っていう風に――」

ソーズティ「――ここで姉の話へ戻る」

上条「おい、聞けよ」

レッサー「上条さん、『聞いた』上での結論ですよ。恐らくはね」

上条「でも、俺の話を踏まえるって事は」

ソーズティ「姉が星辰を観察している霊装は、太陽系内で動きがあったり、また逆に大気圏を通過する物体があれば動きを察知出来る」

ソーズティ「……ただし、地球を離れれば精度は格段に落ちる。殆ど気休めみたいなものだったらしいんだが」

ソーズティ「その日――いや、あの日はほんの気まぐれで」

ソーズティ「『太陽に近づいたら最も彗星が尾を引く』――とかってWEB記事を見て、楽しみにしていたんだそうだ」

上条「ちょっと可愛いな……って事は段々と元の人格が回復してるんだな、良かった」

ソーズティ「だから珍しく彗星が太陽へ近づく瞬間、姉は目視ではないものの魔術的に観測をしていたら――」

ソーズティ「――『喰われた』んだよ」

上条「…………………………うん?」

ソーズティ「だから、彗星が、突然、『喰われた』んだ」

レッサー「待って下さい、ちょっと待って下さい?『喰われた』ってぇのは、一体全体どういう比喩表現でしょうか?」

ソーズティ「姉曰く、彗星の端からムシャムシャと。まるで蚕食のように――と、言っても分からないか」

ソーズティ「白いシャツへインクを垂らしたみたいに染みが広がって」

ソーズティ「気がついたら、『喰われた』彗星は残骸しか残っていなかった、と」

上条・レッサー「……」

ソーズティ「そして姉の霊装には大気圏を横切る物を、大まかにではあるが察知する能力があった」

ソーズティ「その『網』には幾つのかテレズマ、魔力の流れを捉えていたんだ。日にちは忘れたが、長くても数週間前にだ」

上条「もしかしてその魔力を放った奴らが!?……や、違う、か?仕込むにしては早いしな」

レッサー「……いえ、多分上条さんの想像で合っていますよ。地球から太陽まで約1億5千万キロ、光速で表すのであれば約8.3分です」

レッサー「また自転と公転、更には彗星の場所を予測して『仕込む』のであれば、どんなに遅くとも数日前には放たないと間に合いません」

ソーズティ「先にも言ったように、魔術師連中も彗星には興味津々だ。だから誰かが何かの術式をかけた――と、その当時は思っていたんだろうが」

ソーズティ「お前達と同じ結論へ至った姉は『今、”喰わせた”のはあの魔力じゃないだろうか?』と、ようやく逆算し始めた」

ソーズティ「幸いにも姉は賢明なので、苦労もなく三つの大まかな場所を探査出来たんだよ」

上条「三つ?今三つって言ったか?」

ソーズティ「あぁ、『三』だ。『ブラフマーアストラ』が天空からの星を欲するのに対し、地上から魔力の矢を放ったのは三箇所」

ソーズティ「一つ目は日本、それも沖縄近郊の海中から」

ソーズティ「二つ目はイタリア、国境近くの森の中から」

上条「……安曇阿阪と『団長』……!?」

レッサー「……うわぁ、私この先聞きたくないですねぇ……」

上条「俺だってそうだよっ!?だってまだもう一つ残ってるもの!」

ソーズティ「文句を言うな。聞いたのはお前達、自己責任だと思え――そして、三つ目は――」

ソーズティ「――ここ、『ダンウィッチから放たれた』ようだ」



――廃病院

上条「……『星喰い』なんて出来――」

レッサー「――ますよ?現実逃避されている所で恐縮なんですけど」

上条「どうして君達は大抵大概なの?魔術師だからって何やったって良いって訳じゃないんだからねっ!」

レッサー「ツンデレ風味で嫌いじゃないですが――いえ、ですから『魔術理論上は』というヤツでして」

上条「……科学サイドの『理論上は可能性がある』みたいなもんか?」

レッサー「それに近いですなぁ。てか散々お話ししましたでしょ?古今東西の終末神話」

レッサー「その中には太陽を食べたり、撃ち落としたりするお話が少なからずありますんで、えぇ」

レッサー「上条さんのトコの神話だってありますよね?終末じゃないですが、『皆既日食』とニートの神話」

上条「ニート言うな。アマテラスが天の岩戸?だかへ隠れたら、太陽も陰って姿を消したって話か」

レッサー「そう!そうしてここはレッサーちゃんのターンですなっ!」

上条「取り敢えず脱ぐな恥女。そういうのは日食が起きてからにしなさい!」

ソーズティ「早々蝕が起きてたまるものか。次に起きるのは確か月食だった筈だ」

レッサー「ま、そんな感じで日食・月食の類は神話として存在し、術式や霊装に取り込まれてもいます。他にえっと……」

レッサー「北欧神話であればラグナロクの果てに、太陽神ソールはスコル狼――フェンリルの息子に追い付かれ」

レッサー「その体だけでなく、太陽をも呑み込みまれてしまう運命を持っています」

上条「あれ?俺がゲームとかで知ってる範囲じゃ、オーディンがフェンリルに呑まれるんじゃなかったっけ?」

レッサー「あぁそれはですよ。書き手によって、また翻訳者によっては解釈も違うんですよ」

レッサー「例えば太陽神ソールは一説にはオーディンの化身の一つであり、スコルもまたフェンリルそのものであった、という話もあります」

レッサー「二つの神は共にラグナロクで狼に呑まれるため、混同されて伝えられてますから注意して下さいね?」

上条「何に注意するんだ、何に」

レッサー「ゲームやラノベの知識を真に受け、神社の前でドヤ顔で彼女に語り出す方がたまーにいるらしく」

レッサー「偶然そこに居合わせた、通りすがりのサラリーマンが」

レッサー「『あの、カンピオー○!の”鋼と蛇”は、別にあれメジャーな学説じゃないからね?』」

レッサー「『そもそもで言えば、気候も風土も民族性も違う信仰を体系づけるのは不可能だって話でさ』」

レッサー「『なんかもう、そこまで行くとラプラスの方程式みたいな、オカルトになっちゃうから気をつけてね?』と優しく指摘される大惨事が!」

上条「放っておいてあげて!?サブカルからそっちへ行く人だって結構居るんだから、道を閉ざすのは止めてあげて!?」

レッサー「後、大抵は神職僧籍神父さん、当たり前ですけど神学を修めているので、生半可な知識だけで語ると、100%恥をかきますから」

上条「注意するってそういう意味なの?」

レッサー「まぁラグナロクで弑されるのがオーディンかソール、呑み込むオオカミがフェンリルとスコル――」

レッサー「――『そのどちらも正しく、間違っている』かも知れませんしねぇ」

上条「……禅問答?」

レッサー「アルテミスが二柱居たように、他の神だって同じルーツが別々に別たれ、時代を経て再統合される事もままあります」

レッサー「北欧神話は幾つかの民族の融合、それに伴った神話の再編成が繰り返されてますねぇ」

レッサー「なので似たような名前の巨人が複数居たり、太陽神ですら似たような役割の神様がカブりまくってる状態です」

ソーズティ「――口を挟ませて貰う。その北欧神話の太陽神ソールだったか?」

ソーズティ「彼のルーツは『リグ・ヴェーダ』――インド神話の『スーリヤ』だと言う説がある」

上条「どんな神様?」

ソーズティ「そのまま太陽神だ。生まれつき高熱を発し、馬が引く戦車にのって天を翔る。太陽の動きは彼の動きそのままだと伝えられている」

レッサー「他にもローマ神話じゃ、全く同じ名前の太陽神ソールが居ますからねぇ?後にヘリオスやアポロンと同一視されましたが」

上条「北欧神話とはズレがないかな?時代的な意味で?」

レッサー「ズレ?ビッ×的な意味で?」

上条「なんでここでギャルの話が出るんだっ!?アバズ×じゃなくて、ズ・レ!」

レッサー「――と、上条さんがご所望のようですので、取り敢えずここはソーズティさんと私がですね」

ソーズティ「なぁこの恥女殺していいか?どうして突然脱ぎ出すんだ?」

レッサー「ズー×ーが好きなんじゃねぇかなって、前々から何となく察しては居たんですがねー……それに!」

レッサー「もしかしたら途中で乱入してくれるかも知れませんし!」

ソーズティ「……おい、そこでツッコミ放棄して『べ、別に悪くないとか思ってるんじゃないんだからね!』って顔した男、いい加減止めてやれ」

上条「どういう顔?その技術の特許取れれば人類は新しいステージへ行く発明になんじゃねぇかな?」

レッサー「顔をどうにかした所で電光掲示板程度のウザさを量産するだけど思いますが……それで、時代とは?」

上条「いやだからさ、北欧神話の歴史って古いんだろ?だったらどっちが先かとか言えないじゃないかな、って」

レッサー・ソーズティ「……」

上条「え!?俺またなんか変な事言ったか!?」

レッサー「……ソーズティさん、インド神話――てーかヒンドゥー教の成立は何年ぐらいでしたっけ?」

ソーズティ「アーリア人の何かが約紀元前2000年、なので大体原型が創られたのは紀元前16世紀前後だろうな」

レッサー「アーリア!?アーリア人ですって!聞きましたか上条さんっ!」

レッサー「この女言うに事欠いて『Aryan(高貴な)』って言いましたよねっ!」

ソーズティ「何か言ったかヒットラーの叔父貴ども。あの騒ぎのお陰で、アーリア人を名乗ると胡散臭い目で見られるんだが?」

レッサー「人種で一括りにされると、同じっちゃ同じですがねぇ――ともあれ、上条さん。上条さんの所の神話はいつぐらいで?」

上条「神話……一番古いのは古事記と日本書紀だな。西暦712年……ぐらいだった気がする」

上条「一応それまでの伝承は口伝として残ってたらしいんだが、文字として残し始めたのはそのぐらい、と教科書に」

ソーズティ「口伝が伝わっていたのはいつ頃から?」

上条「えっと……紀元前7世紀ぐらい?自称だけどな」

レッサー「ちなみに西暦とはキリストが生まれた年を基点としています」

上条「いや、そんぐらいは分かるし」

レッサー「で、先に上がったローマ神話は紀元前8世紀頃から、王政ローマが始まった時が最初ですかね」

ソーズティ「とはいえローマ神話の殆どはギリシャ神話を取り込んだものだ。ルーツはもっと深いだろうな」

レッサー「ちなみにギリシャ神話もまた紀元前15世紀頃から始まってます。文化の興りはアーリアンと同じくらいですかねぇ」

上条「歴史的に見れば同じぐらいの時期に大きな文明が出来た、か」

レッサー「ま、それだけ人類の生活レベルが安定してったんでしょうな。お互いに影響を与えた可能性もありますがね」

レッサー「で、北欧神話、幾つかのエッダを基にした神話群へと話は華麗に舞い戻るんですが!」

上条「普通でいいよ?お前が張り切ると大抵惨事になる――俺がなっ!俺だけがなっ!」

レッサー「北欧神話にも日本神話で言えば記紀神話、十字教のバイブルみたいなものがあります。それが『エッダ』」

ソーズティ「ヒンドゥー教の教典である『リグ・ヴェーダ』は紀元前12世紀、ただし紀元前18世紀頃の話が書かれている」

上条「……ちょっとドヤ顔だ……」

レッサー「アーリアン国家の成立その時期ですし、まぁ矛盾はありませんな。『時代を遡って書く』のは割とありますんで」

レッサー「ま、どこぞの西暦13世紀の書物だけに『紀元前50世紀にアジアを支配していた!』と書いた偽書を正史と言い張り」

レッサー「世界中の学会から実質上の出禁食らってる民族もありますが、まぁそれはともかく――てか、ちなみに!」

レッサー「上条さんは北欧神話ってどのぐらいに出来たモンだと思います?あ、設定ではなく歴史書が書かれた時期として」

上条「設定言うな。尊重してあげろや」

ソーズティ「設定云々言ってたら、どの神話も宇宙開闢まで巻き戻るからだよ」

上条「つってもなぁ……?あー……北欧神話だろ?よくあちこちで見るし、つーか敵も味方も使いまくるし!」

ソーズティ「……切実な問題だな、それは」

上条「例えがアレで恐縮なんだが、ゲームとかでも比較的上位にあるよな?だったらかなーり古いんじゃね――」

レッサー「残念!ハっズレです!」

上条「まだ言ってねぇよ!つーか話振ったんだから最後まで言わせろ――何?それじゃインド神話よりも新しいの?」

レッサー「ですねぇ」

上条「んじゃローマ神話ぐらい?」

レッサー「もっと若いです」

上条「だったら十字教、紀元0年か?」

レッサー「もう一声!ガンバって下さい!」

上条「記紀神話の8世紀?」

レッサー「まだです!まだ諦めるような時間じゃありません事コトよっ!」

上条「お嬢言葉になってんぞ。それじゃ一体いつ?あ、逆にもっと古いとか?」

レッサー「結論から言いますと――『エッダ』が編纂されたのは『13世紀』です。13世紀」

上条「……はぁ?」

レッサー「ですから神話にしちゃ、かぁなーり若い部類へ入りますねぇ、えぇ」

上条「待て待て!?神話って言うよりも時代的には中世へ入んじゃねぇのか!?」

レッサー「ですな」

上条「そんな時代に成立したのか……日本だと鎌倉時代だぜ」

レッサー「ちなみに『エッダ』も古の物語を編纂した、という形を取っているため、実際に9世紀頃まで遡るんじゃないかなーと」

ソーズティ「……あぁ、だからか」

上条「ん?でもそれにしては扱いデカくないか、北欧神話?不自然なぐらいに?」

レッサー「まぁ十字教以外で自分達に関わりのある”それっぽい”神話を求めるとすれば、一番近いのは北欧神話ですからねぇ」

レッサー「オペラなど歌劇や音楽、また絵画や彫刻など芸術畑のモチーフとして選ばれていましたからねぇ。そーゆーの」

上条「芸術ねぇ……あ、でもそれっておかしいよな?」

レッサー「何がです?」

上条「歌とか絵画は信仰の一部だったんだろ?芸術じゃなくて、宗教を補強する感じでさ」

レッサー「えぇ仰る通りですよ、”最初”はね」

上条「最初?」

レッサー「十字教、特にローマ正教が台頭してからはですね、オペラとかで『神様とかの文句言っちゃらめぇ!』って規制が厳しくなりまして」

上条「言ってないな?そんな言い方はしなかった筈だよな?」

レッサー「絵画も同じく。えぇっとぉ、これはぁ、あんまりぃ、乙女の口から言いたくはないんですけどぉ」

上条「じゃいいや。次の話へ移ろうぜ」

レッサー「ですが上条さんがどうしてもと仰るのであれば!あ・れ・ば!仕方がなく私が辱めを受けようじゃないですかっ!」

上条「……」

パタン……コトン

上条「……ソーズティ?冷蔵庫からペットボトル取り出して、なに?」

ソーズティ「えっと、なんだ、その?」

ソーズティ「甘いグリーンティでよければ、飲むといい。だから、な?」

上条「その優しさが逆に痛いわっ!?てか俺の状況を理解してんだったら改善を!パートナー交代をっ!」

上条「今からでもいいからっ!もっとツッコミで俺の喉が枯れない相手を!」

レッサー「あっはっはっはー!やですねぇ上条さん、そんな羽目になったらマタイさんの予言が早まるだけじゃないですかー、もぅっイ・ケ・ズっ!」

上条「……な?」

ソーズティ「同意を求められてもな……休憩にしようか、少し」

上条「あ、ごめん。トイレある?」

ソーズティ「この階の端、ストリートから見えない所へ簡易トイレが設置してある。そこを使え」

レッサー「ありがとうございます。では上条さんご一緒に」

上条「あぁそれじゃ失礼して!……とか言わないからね?流れと勢いだけで持って行けると思うなよ!?」



――休憩中

ソーズティ「さっきのアレはなんだ?」

レッサー「ツンエロを気取ってみたんですけど?」

ソーズティ「……そこは普通、『何のことだ?』じゃないのか!?」

レッサー「心当たりがあり過ぎで何がなにやら自分でも把握し切れていません!」

ソーズティ「威張って言う事ではないと思うが……そうじゃない。さっき特定の神話を意図的にスルーしなかったか?」

ソーズティ「正確には『英雄譚』なんだかな」

レッサー「気のせいじゃないですかね。する意味がありませんよ」

ソーズティ「そうか。だったらいい」

レッサー「ですねー」

ソーズティ「……」

レッサー「……」

ソーズティ「何を」

レッサー「はい?」

ソーズティ「何を、話したらいいんだ。こういう時は」

レッサー「……はい?何を急に」

ソーズティ「『結社』で育った身だから、あまり同年代とのコミュニケーションには慣れていなくてな」

レッサー「あー……はい、成程、なんとなくですけどお察してました。割かし良くある話――と、言っていいのかどうか迷う所ではありま――」

レッサー「……」

ソーズティ「アリマ?」

レッサー「……あれ?ちょ、ちょっと待って下さい!私気づいちゃったんですがっ!大事な事にねっ!」

ソーズティ「うるさいな。どうした?」

レッサー「初めてお会いした時から『あるぇ?この子ツンデレ?』って思ってたんですけど、それもしかして狙ってるワケじゃなくて!」

レッサー「上条さんにどこか刺々しいながらも劣情混じりの態度を取っているのはっ!まさかっ!?」

ソーズティ「そんな事実はないぞ!過去一度だってな!」

レッサー「妙に距離感掴めてねーなー、とか感じたのももしかして――素、だった……!?」

ソーズティ「……悪いか」

レッサー「まただ!?またいと高きクソッタレは私の前へ『天然モノ』という刺客を送って来やがったんでしょうか……!!!」

レッサー「つーか私別に神様に恥じるような行いはしてませんともっ!誓って品行方正な生き方しか来ませんでしたよっ、えぇっ!」

レッサー「ただちょっとシスコン拗らせたり、ガリア征服したノリと勢いでティベリウスぬっ殺しただけじゃないですか!」

レッサー「あまりにもあっさり事が運んだせいで、歴史書から一人ローマ皇帝が削り取られるとかありましたけど!」

ソーズティ「お前が何を言っているのかが、分からない」

レッサー「あと、すいません。ぶしつけな質問で恐縮なのですけど」

ソーズティ「何だ急に」

レッサー「あなたのカップ数を教えては頂けないでしょうか?」

ソーズティ「本当にぶしつけだな!?話の流れも理解できん!」

レッサー「あなたがAだと上条さんがロイヤルストレートフラッシュ(性的な意味で)揃える可能性が出て来ましてねっ!」

ソーズティ「私を巻き込むな!あとお前小声で『性的な意味で』って言わなかったか!?」

レッサー「せーてーきーなーいみでぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!」

ソーズティ「オペラっぽく大声で言い直せばいいモンじゃないぞ!?」

レッサー「いえこれは消臭○の最後のフレーズですな。あ、ご存じでした?消○力は長州○さんにちなんで名付けられたそうで」

ソーズティ「というか、上条当麻!さっさと戻って来い!ツッコミが間に合わないし私ではカバー出来ない!」

レッサー「――と、言った具合にですよ」

ソーズティ「なに?今度は何を言い出した?」

レッサー「話題でしょうが、話題。別に何か話さなっきゃいけない決まりでもあるまいし、好きにすればいいんですよ。好きにね」

ソーズティ「好きに……?」

レッサー「ま、魔術結社と違って対人コミュで四苦八苦しそうですけどねぇ、それにしたって要は経験ですよ、場数ですよ」

レッサー「『人に嫌われるから話さない』とか『人に好かれたいから話さない』とか、人によって色々あります。そう人によってね?」

レッサー「お喋りで社交的な人間は厚意を集めますが、逆に嫌う人種だって居ます。当然、好みは画一的なものではないですから」

レッサー「ま、万人受けするような方法はありませんし、仮に表面取り繕っても長持ちはしませんからね」

ソーズティ「……」

レッサー「なのであなたは、あなたの思うように行動をすればいいと思いますよ。私は」

ソーズティ「お前は……そう、していると?」

レッサー「えぇ勿論。覚えている限りでは、ずっとね――あ、そうだ」

レッサー「あくまでも一般的ですが、こういう時、女の子同士でする定番のお話がありましてね――」



――廃病院 廊下

上条(……いや、焦った。手ぇ洗えないのかと一瞬ビビったが、水道が生きててよかったよ)

上条(まぁうん、アレな方法でアレしてるんだろうが!突っ込まない勇気!最近それがあるって分かったよ!)

上条「……」

上条(ソーズティの方も、相変わらずっちゃ相変わらずミニスカ――じゃなかった、元気そうでよかった)

上条(ウレアパディーのエロ――元気な!そう、元気な姿も拝みたかったが!……あれ?)

上条(ソーズティは代理で来てる……って事は、再登場する可能性が……!?)

上条(あのお姉さんキャラおっぱい時々透けコスが本邦初公開、だと……!?)

上条「……」

上条(ちょっと何を言ってるのか分からないな!つーかキャラがブレてる!本当の俺はこんなんじゃないよ!違うんだからねっ!)

上条(ま、まぁまぁ?相変わらずツンツンしてるし、問題はな――)

レッサー『……――……』

ソーズティ『……――……?――!』

上条(――い。むしろ楽しそうにやってるな)

上条(レッサーと意外と相性が良かったのかも?あぁ見えて気を遣う方……かも、知れないし!俺以外には!)

上条(ガールズトークって言うんだっけ、こういうの?アリサ達と旅してる時には、俺が最初から入ってたから、あんましなかったが)

上条(ちょっと興味はある、かな?)

上条「……」

上条(や、でも盗み聞きは良くないっつーかさ。ほら?礼儀みたいなの、あるじゃん?)

上条(親しき仲にも礼儀あり!大事だよねっ人間関係!)

上条(なので、まぁ?少しだけ?少しだけなら聞いても――)

レッサー『――や、でも最後までダメダメでしたよ?結局私の体には手ぇ出そうとしませんでしたしねぇ?』

レッサー『で、その時ピコーン!と閃いたんですよっ!プロミネンス○のように!』

ソーズティ『その”ように”が分からないが、それで?』

レッサー『”あ、こいつやっぱペ×かショ×なんじゃね?”ってね!!!』

上条「違う!断っっっっっっじて、違うわっ!!!」

レッサー「おや上条さんお早い還りで」

上条「つーかテメー何ソーズティに吹き込んでやがるっ!?どうせまたある事無いこと言ったんだろうが!」

レッサー「私の知り合いの釣った魚に餌をやらないクソヤローの話をですね」

上条「そっか、それじゃ俺じゃないよなっ!胸が痛むけども気のせいなんだよなっ!」

上条「……てーかさ俺の幻想を返してよ!?ガールズトークで何言ってるのか期待した人達に謝って!?さぁっ!」

レッサー「あー、はいはい。居ますよね、少なからず期待してる層が、どの時代にも」

レッサー「ぶっちゃけますけど、女子会だったり、女の子の集まりで喋ってる内容は大抵『悪口と自慢話』ですからね?いやマジな話」

レッサー「誰それがムカツクーとか、こないだ彼氏に買って貰ったんだけどーとかとか。基本、愚痴と金と男です」

レッサー「ファミレスでダベってる時、ギャル系JKの会話聞こえますよね?スッゲー下品にガンガンパンツ見せながら」

レッサー「あれを全年代でやってると思って下されば、まぁ正解ですな」

上条「レッサーの鬼っ!悪魔っ!高千穂っ!いいじゃない!別に本当の事ぶっちゃけなくたっていいんじゃねぇかよ!」

上条「……絶望した……!女の子の実態に絶望した……!」

レッサー「勝手に幻想を抱いといてなんつー言い様ですか。ねぇ?」

ソーズティ「お前は夢を見すぎだ。少しは実態を見つめろ」

上条「人が席を外した隙に仲良くなりやがってチクショー!俺は部屋に戻るぞ!こんな所に居られるか!」

レッサー「それ、死亡フラグ」

上条(……と、レッサー達は仲良くなりましたとさ。レッサー”達”はねっ!)



――廃病院 個室

レッサー「で、エロの話へ戻すんですが」

上条「戻すな戻すな。戻るんだったら本題へ戻れ」

レッサー「ほら、中世から近世にかけて、教会が絶対的な権力を持ってたじゃないですか?神聖ローマ皇帝すら虚仮にしたり」

レッサー「なんて言いましょうか、芸術というのはエロなんですよ!エ・ロっ!エロがあれば空だって飛べるさ!」

上条「お前ついさっき話しにくいっつってたよね?その設定はどこ行ったの?飛んでっちゃった?」

レッサー「えっとですね、これはマジ話――てか、これ”も”マジ話なんですが、絵画ありますよね?ルネッサンス以降の」

上条「あんま詳しくはないが、美術の教科書でパッと見た名前ぐらいは暗記させられてる。それが?」

レッサー「まぁ何となくのイメージでいいんですけど、ルネサンス以降の絵画には『異教のワンシーン』が多いですよね?」

レッサー「例えばヒエロムニス=ボスの『悦楽の園』、時代が経ってはゴヤの『我が子を食らうサトゥルヌス』なんて代表ですが」

レッサー「他にも魔女のサバトを描いた絵なんかゴロゴロ出て来たりしますが――あれ、不思議に思いませんでした?」

上条「本場だろ?別に珍しいこっちゃ――」

レッサー「『キリスト教が絶対的な価値観を支配している中、あんな絵が評価されたのか?』と」

上条「言われてみれば……そうだよな?確かにルネサンス以降、ギリシャ神話の神様やジークなんとか?って英雄の絵とか増えたよなぁ?」

上条「あとレッサーさん?多分故意犯だとは思うんだけど、『十字教』な?そこ間違えないでやって?」

レッサー「おっと失礼、加味ました!」

上条「違う!わざとだ!字が違う!」

レッサー「神は死んだ……ッ!」

上条「深いなっ!?哲学的なテーマがありそうっ!」

レッサー「ゆかたん?」

上条「ゆかたん!」

ソーズティ「戻ってこい。いつまで経っても本題へ入れん、というかユカタンとはなんだ?半島か?」

レッサー「つーかですねぇ、ぶっちゃけますと当時の宗教画はガッチガチに硬いモンでした。当時”は”ですが」

レッサー「当然エログロの需要もあったんですが、教会側に睨まれるので描けませんし――というか芸術の成り立ちはご存じでしたっけ?」

上条「宗教色が強い、んじゃなくてスタート地点から既に宗教や信仰の一部だっんだよな?」

レッサー「ですです。なので罰当たりな――エロいポーズのマリア様描いたりしたら、そりゃもう大変だと」

上条「日本でもご覧の有様になるっつーの。こっちで観音様の裸……」

上条「……」

上条「日本よりも西洋の話だな!さぁ進めてくれ!」

レッサー「流石は『観音様=全裸』というスラングが残る国。かくありたいものです」

上条「知ってんじゃん!?」

レッサー「でもまぁどこにだって異端児は居るもので、そう言った連中が取った手段が『異教の神を仰々しく描く』でした」

レッサー「ただただ背徳的におぞましく、伝説も伝承も二の次で絵柄優先。そしてこれがまたウケてしまいましてね」

レッサー「まぁアレを表現するために魔女が好んで描かれたりと、なんだかなぁ的な」

上条「……お前ら、俺達をエロの魔改造屋みたいに言うけど、お前らも大概だよね?この旅始まって大概言うの、通算何回かも忘れたけどさ」

上条「十字教の締め付けが全盛期の時代に何やってんだよ!?エロか!?古今東西エロが文化の原動力なのかっ!?」

レッサー「私が目標としている方の一人に、ボッティチェリのヴィーナス誕生という絵画がありましてね」

上条「……そうだなぁ、あれ確かにキリスト教すっ飛ばして、ローマ神話の女神だもんなぁ……」

上条「待て?お前今目標って言わなかったか?」

レッサー「恥女の鏡ですよねっ!」

上条「全世界的なプレイじゃねぇかっ!?親御さんショック死するから自重しろよ!」

レッサー「でも最近はネット解禁で『あ、これどうすんだろう?』みたいなエロ画像がですね」

上条「もういい語るな!お前の野望は野望に留めとけ!」

レッサー「もうっ!上条さんったら、独占したがりなんですからっ!」

ソーズティ「微塵もそんな様子ないんだが。で?」

レッサー「あぁ脇道に逸れまくりやがりましたが、教会の一方的な文化の締め付け、そいつがいつまでも続けられる訳がないんでして」

レッサー「彼の有名なヴィーナスの誕生も、ボッティチェリがメディチ家という強い後ろ盾があったから済んでいたんですが」

上条「あ、あのー?レッサーさんとソーズティさん、少しいいかな?」

上条「これ、どこまでマジ話?フィクションの部分はどこから?」

レッサー「……えーとですね。正直に言いますと、別に『これマジ?こんなエロい絵画あっていいの!?』みたいな記述はないんですよね、えぇ」

レッサー「また文豪として著名なマーク=トウェインはティツィアーノの『ウルビーノのヴィーナス』についてこう扱き下ろしています」

レッサー「『全世界に存在する絵画の中、最も下品で下劣でわいせつな絵画である』」

レッサー「『オスマン帝国の奴隷監獄向けにでも描かれた代物で、あまりにも下らない絵だったので受け取りを拒絶されたのだろう』」

レッサー「『他のどこに飾るのにもばかげた作品だから、美術館に飾られているに違いない』と」

上条「ボロックソじゃんか」

レッサー「余談ですがトウェインはアメリカ南北戦争時に『南軍』として参加、後に脱走しているのも興味深いと言えましょうかね、えぇ」

上条「何?」

ソーズティ「『嘘吐きの自己紹介』だ」

レッサー「ともあれ今まで清貧と清潔、そして貞節重視で宗教画を描かせてきました。文字通り焼いてきたんですね、”どっち”も」

レッサー「が、しかし貴族や諸侯、豪商の台頭により、相対的に十字教の権力は落ちてきました」

レッサー「最初は貴族の露悪趣味だったのかも知れません。道楽で集めた描かせただけの代物でした――ですが」

ソーズティ「『異端が溢れると異端が普通に置き換わり、普通が異端へ置き換わる』、か」

レッサー「ですなぁ。ルネッサンス美術が異教の神々やその信仰群――『ペイガン』を取り入れ、認知されます」

レッサー「南北戦争に”奴隷存続側として参加した挙げ句、脱走した臆病者”のマーク=トウェイン大先生は否定していましたが」

上条「その形容詞、要るか?」

レッサー「『仲間を裏切らない敵』と『誰とでも寝る味方』、私はどちらを尊敬すべきか決めているタチですので悪しからず」

レッサー「あっ、勿論私は上条さん一筋なんでっ!浮気はしませんからっ!」

上条「浮気も何も付き合ってすらいないな!」

レッサー「トウェイン氏の作品には高確率で『脱走した黒人奴隷』が登場しているので、思う所はあったようですが」

レッサー「ただ黒人奴隷をモチーフの一つとして盛り込んでいる反面、インディアンをステレオタイプの悪役として出してガッカリですが」

レッサー「アメリカさんの自由民権運動、特にアフリカ系の自由民権運動について評価出来るんですが、その一方インディアンについては無頓着なんですよねぇ」

レッサー「ともあれトウェイン氏が貶そうと美術館へ飾られ、且つ高い芸術的評価を得ていると言うのは、特定層だけでなく価値があると判断された証拠です」

レッサー「更に時代が経つと、ワーグナーの『ニーベルングの指輪』やウェーバーの『魔弾の射手』とか、異教や十字教以外の伝承取り扱ったものが増えます」

レッサー「まぁ創作物も縛りがあるのとないのでは段違いですし、散々やって飽きられたお決まりの結論に飽き飽きとしてしまうのは無理もないコトです」

上条「十字教の影響力の低下か?」

レッサー「に、加えて富の分散でしょうかね。経済規模が拡大するに連れて、教会”以外”の力も強くなります」

レッサー「大衆、一般庶民へ文化が伝播するのも結構なんですがねぇ……まぁ、それはそれでまた、後々深刻な問題を生み出す訳ですが」

レッサー「エルギン=マーブルの『白い神像』などの大罪を積み重ね――さて!」

レッサー「こうして北欧神話はヨーロッパで高い認知度と市民権を得ていったと!ご静聴ありがとうございましたーっ!」

上条「……あぁうん、長かったけど、まぁ言いたい事は何となく分かった」

レッサー「なので北欧神話とギリシャ神話については、断片的ながらも知名度は高い訳ですし、文化としても取り込まれています」

レッサー「日本で例えるならば……西遊記や封神演義、でしょうかねぇ」

レッサー「あれもまた他の国の神々のお話ですけど、日本で道教を信仰する方は極めて少数でしょう?神農辺りは意外とありますけどね」

上条「俺達は自分達のエロを肯定するためには使ってねーよ!」

レッサー「女体化って良いですよねー?私は魏ルートの続編どうなるか楽しみにしてたんですが、ライターさん替ってぶん投げやがりましたし」

上条「すいませんしたっ!!!」

レッサー「ふむ。素直で結構です」

ソーズティ「……長くなったが、大抵の宗教で太陽は太陽神が運航しているか、そのものであったりするんだ」

ソーズティ「だから時折起こる日食や月食も、太陽に何か危害を加える存在が居て、そいつらの仕業だと説かれている」

上条「……当然、それを模倣するような術式や霊装の類があったっておかしくはない、と」

ソーズティ「逆に無い方が不自然だな。『太陽を喰らうオオカミ』なんて、飼い慣らしたらさぞかし便利だろうし」

レッサー「ちゅーか気になってたんですけど、ソーズティさんのお姉さんの霊装、『ブラフマーアストラ』で同じ事は可能でしょうかね?」

上条「なんで今それを聞くんだよ?関係な――く、ないのかっ?」

レッサー「『インド神話に出来る』事でしたら、他の神話でも再現可能でしょうからね。そこから向こうさんの目的と手段が掴めるかも、ですし」

レッサー「……ただですねぇ。メリットに見合うかどうかの価値があるかと言えば、どうかなー?つった所ですか」

上条「もし持てたらスゲーじゃん?オティヌスの『槍』みたいに、世界だって滅ぼせるんだろ?」

レッサー「えぇまぁ。太陽や月、星を撃ち落とせる程の魔術であれば、威力はそれはもうスンゴイものなんでしょうが――」

レッサー「――でも『撃ち落とす”だけ”』なんでしてね、これが」

上条「はい?だけってナニ?」

レッサー「ですからオティヌスの槍は『全知全能である主神オーディン』を象徴する霊装です」

レッサー「なのでもし完成すれば、槍を手にした者も全知全能の力を得る――と推測されてますでしょ?」

レッサー「一度世界を終らせて新しく創るのも良し、今の世界へ手を加えて遊ぶのも良し。それが出来る”筈”ですからね」

レッサー「対してフェンリルにしろ、その他『星喰い』を使ったとしても、そこでお終い。ただの超威力の魔術ってだけです」

上条「核兵器を持ってたら凄いし、抑止力もなるよね?みたいな話なんじゃねぇの?」

ソーズティ「規模が大きすぎるんだよ。ケーキを切り分けるのにミサイルを飛ばして、その尾羽を使うバカはいない」

上条「本当にバカだな。そいつ」

ソーズティ「キッチンナイフがなければペティナイフ、それもないのであればフォークを使えば事足りる」

レッサー「もしかして上条さん、『大は小を兼ねる』とか言い出すのかも知れませんけど!それは違いますからねっ!」

上条「よく分かったな。確かにケーキ切るにミサイルはないと思うけど、知り合いだったら日本刀でスパっとやりそう」

レッサー「……今なんか、乙女心が傷ついた音がしたような気がしますが、違いますよ!それは断じて違いますからねっ!?」

レッサー「小には小の良さがありまして、そうじゃなければJSっぽい需要があれだけある説明がつきませんよ!」

上条「その大小は別だよな?別ジャンルの話じゃないか?」

ソーズティ「その知り合いは置くとして、普通はしないだろう。何故ならば『非効率』だからな」

上条「お前らが効率・非効率言うのかよ」

ソーズティ「失敬な。私達は目的のために手段を選ばないだけであって、手段は選別するんだぞ!」

上条「通訳ー?誰か通訳の方いらっしゃいませんかー?」

レッサー「いやですから、前言ったじゃないですが。『威力のデカい術式ほど困難になる』って」

レッサー「ソーズティさんも仰ったように『人一人を斬り分ける』のが目的であれば、デカい威力は必要無いんですよ」

ソーズティ「そんな猟奇的な表現はしていない」

レッサー「多少オーバーキルでも、まぁ爆弾を用意するとかその程度の発想へ留まるでしょうなぁ」

レッサー「テロに見せかけたり、不特定多数を巻き込んで犯人探しを難しくする、という意味合いでは、たまに使われますからね――で」

レッサー「それで『ブラフマーアストラ』で同じ事は可能でしょうか?出来るのであれば条件等もお聞かせ頂きたい所です」

レッサー「当然、同じかそれ以上の『代償』を必要とするでしょうし、ね?」

ソーズティ「……詳しくは姉に聞いて貰うのが確かだ。なので推測でよければ」

上条「頼む」

ソーズティ「可能か不可能であれば、可能だ。太陽も月も無理だが、彗星程度であれば吹き飛ばせるだろう」

レッサー「あっちゃー……」

ソーズティ「ただし!『ブラフマーアストラでは相性が悪い』と言っておく。破壊力の面であればな」

上条「どういう意味?」

ソーズティ「ヒンドゥーの最高神は三柱、トリムールティと呼ばれている神が居る――在る」

ソーズティ「一柱が『創造の神ブラフマー』。姉のアストラが力を得ている神だな。世界の創造をした」

ソーズティ「二柱目が『維持の神ヴィシュヌ』。太陽神でもあり、世界が無事に運行するのを司っている」

ソーズティ「最後に『破壊神シヴァ』。暴風と水害の神でもあり、世界を滅ぼす役割を持つ」

ソーズティ「ヒンドゥー教は、この三最高神のどれかを崇める事が多く、それぞれブラフマー派。ヴィシュヌ派、シヴァ派を名乗っている」

上条「あと二つは聞いた事がある。やっぱゲームでだが」

レッサー「あの、ちょっとお聞きしても良いでしょうか?脱線しますけど、私前から気になっていたんで」

ソーズティ「なんだ?結社の最奥に関わらない事であれば」

レッサー「いえいえ、そんな大層なお話しではなくてですね。それぞれ三つの宗派に分かれてるんですよね?この場合、あなたはブラフマー派ですか?」

ソーズティ「私ではなく結社がそうだった、だな。特にこだわりはないが」

レッサー「三つの宗派が揃っていて、よく争いになりませんよね?つかなってたり、私の知らない所で?」

ソーズティ「……面倒だが……『バラモン教』とやらを知っているか?お前達が勝手に名付けたんだが」

レッサー「えぇ、ヒンドゥー教と並ぶぐらいで、聖典も同じヴェーダ使ってるんじゃないでしたっけ?」

ソーズティ「あれは正しくは『Brahmanism(ブラフマニズム)』、直訳すれば『ブラフマー教』なんたよ」

レッサー「え、ちょっと待って下さい!?それ、つーかだったら、ヒンドゥー教ブラフマー派でも良いじゃないですか!?」

ソーズティ「ちなみにヒンドゥー教も実はお前達がつけた名前だ。だから定義が割と曖昧でメチャクチャなんだよ」

レッサー「……なんか、すいません」

ソーズティ「なのでお前達がしているような、十字教内部での抗争は”あまり”していない。政治的な原因もあるが……『アバター』という概念があるからな」

上条「あ、映画で見た」

ソーズティ「正しくは『アヴァターラ』、化身とか権現という意味で、えぇと……」

上条「あ、大丈夫。日本にもそういう逸話かなり残ってるから。アレだろ?『神様仏様が姿を変えて助けに来てくれた』みたいな?」

ソーズティ「合っているな。それで例えばヴィシュヌには10の化身があり、その中に『ブラフマーとシヴァも含まれている』んだ」

上条「……あい?それって」

ソーズティ「ちなみにブラフマー派によれば『ヴイシュヌとシヴァはブラフマーの化身』であるし、シヴァ派によれば以下略」

レッサー「なんつースケールのデカい解決方法ですか、それ」

ソーズティ「ただヒンドゥーには宗派以外にカースト制度があるからな。そっちで騒ぐ余裕がなかったとも言える」

ソーズティ「それに最近は改善もされてきて、都市部では自分達のカーストを知らない人間も増えている。私もその類だ」

レッサー「……大変なんですねぇ」

ソーズティ「今の説明で分かったと思うが、ブラフマー自体は『創造神』であって、『破壊神』ではない」

ソーズティ「単純に破壊を求めるのであれば。シヴァ系の力に頼った方が確実で、しかも楽だな」

ソーズティ「だがしかし!『ブラフマーアストラ』ですらシヴァに勝るとも劣らない威力を持たせた姉は、並の魔術師ではないという話だ!」

上条「おい、長々と話した結論が『ねーちゃん大好き』かよ」

レッサー「どこの世界にもいらっしゃるんですねぇシスコニアンの方」

上条「止めろ!?勝手に単語を作るんじゃない!」

レッサー「スーリスト?」

上条「それはちょっと見てみたい……いや!一般論だけどな!」

ソーズティ「どんな一般論だそれは。で、最適とはお世辞にも言えないが、『ブラフマーアストラ』が半壊する前であれば……」

ソーズティ「彗星程度なら打ち抜ける……と思う、が。代償に姉が『持って行かれる』のは間違いない」

ソーズティ「一度に振る流星の数が万を超えれば、大した代償無しでも撃てると聞いた憶えもあるが」

上条「意図的にしないと無理だよな」

ソーズティ「だから、現実的には不可能だ」

レッサー「神が使う武器を人が扱おうとするならば当然、”そう”なるでしょうねぇ。分かりましたよ、無理言ってすいませんでした」

レッサー「しっかしまぁ妙な縁ですよねぇ。『エンデュミオン』で一度交わっただけの道が、またここで交わるだなんて」

レッサー「一応確認しておきますけど、わざわざこちらまで足を運ばれてんですから、『星喰い』の魔術は阻止するおつもりなんですよね?」

ソーズティ「いや……姉次第かな」

レッサー「おっとぉっ!まさかのここでノータッチですか!?」

ソーズティ「『魔術師』と『互助会』、どちらの立場であっても無視は出来ない……が、単独で事を起こして、勝てる相手か?連中は?」

レッサー「私達でしたらちゃっちゃと締め上げちまうつもりですがね。勝ち負け以前にアリサさんが――ねぇ上条さん?聞いてます?」

上条「ん?あぁごめん。ちょっと考え事してた」

レッサー「Aじゃないそうです。私の見立てだとB以上C未満」

上条「何の話?あとそれ答え言ってるよね?何となく分かるけど、つーか俺、他に考えそうな事ないって思われてんの?」

レッサー「二重の意味で、『おおむね』は!」

上条「学園都市帰ったらさ、お前に是非紹介したい子がいんだよ。『柵川中の核弾頭』って俺が心の中で呼んでる子なんだが」

ソーズティ「戯れ言はいい。それで、どうしたって言うんだ?」

上条「んー……?あのさ、偶然かも知んないけどさ。気になったんだよ」

レッサー「ですからどのような?」

上条「ソーズティの姉ちゃん――ウレアパディーの霊装は『弓』だよな?」

ソーズティ「そうだな。他の説ではチャクラムのような投擲武器とも言われているが、まぁ弓だ」

上条「なんで、弓?」

ソーズティ「詳しく説明すると更に長くなるから簡単に説明れば、ブラフマーは創造神だ、この世界の」

ソーズティ「なので存在は宇宙に留まり、私達の世界を常に俯瞰している――という概念があり、そんな神が持つのは『弓』だと」

レッサー「『宇宙』、そして『私達の世界』……って事ぁ『流れ星』でしょうか?」

ソーズティ「発動条件の『三つの流れ星』とは『ブラフマーが放つ試し矢』を意味しているんだ」

上条「試し矢?」

ソーズティ「あぁ。目標との距離を測ったり、弦の張りを確かめるために射る。準備体操のようなものだ」

レッサー「三つも?」

ソーズティ「ブラフマーは四顔四腕。なので一本に弓を持てば、矢は当然四つとなる」

上条「誰が矢をつがえるんだ、とか突っ込んだら負けなんだろうな、きっと」

上条「つかお前!それこないだ説明端折ったじゃねーか!?ステイルの推測と違ってるし!」

ソーズティ「詳しく聞かれなかったからな。私に言われても困る」

レッサー「まぁまぁ、今は上条さんお話を伺いましょう。それが何か気になるんですかね?」

上条「あぁいや、大した事じゃない。ないとは思うんだが、ブラフマーの使う武器は『弓』だわな」

ソーズティ「しつこいぞ」

上条「でもって『エンデュミオン』――の、恋人だったアルテミス?だかも、使うのは――」

レッサー「……『弓』、ですよねぇ」

上条「これ、偶然か……?」

ソーズティ「……」

レッサー「上条さん」 ポンッ

上条「何?何レッサーさん俺の肩へ優しく手ぇ乗せてんの?」

レッサー「昔の偉い人はどうしようもなく困難な状況に置かれた際、こう言って諭したそうですよ」

上条「へぇ、なんて?」

レッサー「――『考えるんじゃない!感じるんだ!』と!」

上条「お前それ面倒臭くなって説明ぶん投げた人の台詞じゃねぇかよっ!?」

上条「そもそも偉人ですらないし!核シェルターに入る時、『あ、ちょっとゴメンな?もう少し詰めて貰える?』って一言ありゃ主役になってた人だなっ!」

レッサー「てゆーか、死の灰被ってから結構長く生きてんのって逆に凄いですよねっ!」

上条「だから!今からでもいいから誰かパートナーを変えてくれようっ!?誰でもいいからさっ!」

レッサー「ちなみにフラグ的には、その台詞が出た時点でルート確定ですな−、いやーめでたいっ!」

上条「贅沢は言わないからっ!シリアスの時にボケを撃ち込んで来ない相手であれば……!」



――翌日 新市街某所・受け付けカウンター

レッサー「――ついに飲み屋でばったり意気投合!あぁ!それが悲劇の始まりだとは誰も思わなかったのです……!」

上条「レッサーさん?テンション高くないですかね?入れるギア間違ってますよー?」

レッサー「私が物心ついた時から聞いていた”お兄様”が、まさか!まさか運命の人だったなんて!」

上条「なんで育てた人、その人の外見は言い聞かせてこなかったの?むしろそれ狙ってたんじゃね?」

レッサー「風雲急を告げる新展開!新キャラ登場でテコ入れを図る編集部の思惑は如何にっ!?」

上条「テコ入れだと思うよ?今、君がゲロったように」

レッサー「こないだ某スレを見ていたら、『さすおに』ってスラングがあったんですけど、なんか卑猥な響きですよねっ?」

レッサー「『一体ナニをさすさすするするのん!?』みたいな!」

上条「れんちょ○禁止!俺にボケるのやめて交渉に徹しなさい!」

レッサー「おーいえー――で、ついこの間も隣の奥さんがですね――」

上条「……」

上条(……さて、状況を整理しようか。したくもねぇが!つーか薄々分かってるだろうが!)

上条(俺達が居るのは、そう新市街の――)

上条(――『ヤドリギの家』、教団本部だよっ!やったぜパパ!明日もホームランだ!)

上条「……」

上条(……どうしてこうなった……orz)



――回想 廃病院

レッサー「ま、ウジウジ考えていても仕方が無いってぇもんですよね、えぇえぇ。相手がどう出ようと致し方ありませんし」

上条「まぁ……ここまで状況証拠が揃ってりゃ、スルーする訳にも行かない、よなぁ?」

レッサー「Break by Hitting! (当たって砕けろ!)の精神で、一つ」

上条「それ間違ってないかな?直訳すると『当てて壊せ』って意味だと思うんだけど……」

上条「つーかさ、大丈夫かイギリス?俺の知ってる限りじゃ、先進国ん中でも先進国だと思うんだが」

上条「幾ら規格外のキチガ×相手だからって程があるだろうに!つかさ、イギリスって治安悪いの?頭が悪いのは別にして」

レッサー「場所による――と、言いたいんですがねぇ。えぇ出来ればそう言いたかったですよ」

レッサー「今月頭、イングランド中部のヨークシャー州ロザラムでねー、パキスタニの集団犯罪が出て来まして」

上条「パキスタニ……あぁパキスタン人だっけか。麻薬?ギャングみたいなもん――」

レッサー「少女や少年へ対する暴行・脅迫・誘拐・人身売買ですな」

上条「じゃ、ないのな……」

レッサー「あ、ちなみに暴行というのは『傷害罪』という意味では”ない”ので、勘違いなさらないで下さいねー?」

上条「あぁ、だからソーズティ、パキスタン系だっつわれてキレてたのな。そりゃ分かるわー」

ソーズティ「我が国の民度が高くないのは理解しているが、あちらと同列に扱われるのは心外すぎる!」

上条「い、いや?キレる気持ちは分かるけどさ、それってやっぱり個人の犯罪なんだろ?」

上条「だったら国籍がどうこうじゃなくて、例外で全体を見極めるようなのは止めるべきだと思うんだよ、うん」

レッサー「頭に蛆が湧いたような素敵な発言ありがとうございました。でもそんなあなたがDIE好きですっ!」

上条「お、おぅ?ありが、とう?」

ソーズティ「割とストレートに『死ね』だが……」

レッサー「いやまぁ上条さんの”そういうところ”は、私大好きですけどね。綺麗な国に住んで優しい両親に恵まれ、他人を疑おうとしない所が特に」

上条「止せよ、照れるだろ?」

レッサー「……皮肉が通じないのがタチ悪ぃですが――まぁいいでしょう。『16年で1400人』です。被害者の数、分かってるだけで」

上条「……はい?今なんて?」

レッサー「16年と1400人。あ、桁間違ってないですからね?釘刺しておきますが」

レッサー「ちなみにロザラムの人口は約26万人、サッカーチームもあります。今は二部リーグだったような……?」

上条「え、マジで!?それ大問題じゃねぇのかよっ!?」

レッサー「えぇ大問題ですよ。私もちょぉぉぉぉぉぉっとオシオキに行こうかなって思ったぐらいですし」

レッサー「しかもこれ、何が最悪かってのは地元の行政、地方議会と警察と役人が把握してたらしいんですよ、16年前から」

レッサー「が、しかし加害者の殆どがパキスタニだと言う事で、『人種差別』と呼ばれるのが怖くて突っ込めなかったそうです」

上条「酷い話だな。日本じゃ全然知らなかった」

レッサー「そちらさんも『口に出してはいけないあの人達』が居ますでしょ?キーワード的にもドンピシャですからねぇ、この場合だと」

レッサー「マスコミさんお得意の『報道しない自由』を使えば、あらこの通り!スコットランド独立で未来はバラ色に!……みたいな」

レッサー「ちなみにロザラムの移民は8%程、多くがパキスタニかカシミール系だと」

上条「移民が罪を犯して、それを糾弾すると『人種差別』ねぇ……」

レッサー「イングランド以下、EUは旧植民地からの移民を多く受け入れてきましたが、この手の事件が続くとノーサンキューですな」

レッサー「てか、上条さん上条さん。ブリテンの都市はスクールバスが多いって、ご存じでしたか?ロースクールでは高確率で送迎つきです」

上条「そうなの?」

レッサー「ちなみにこの点だけ取り上げて『英国は素晴らしい!日本はなんて遅れているんだ!』と言い出すバカが出ますが」

レッサー「この措置、一見近代的でモッダーンな制度に見えますけど、真逆。ま・ぎゃ・く!」

レッサー「ぶっちゃけますと『こっちの営利誘拐は身代金を要求されるケースは稀』なんです、えぇ」

上条「……理由、聞きたくねぇなぁ……碌な話じゃないんだよね、やっぱり?」

レッサー「戦いましょう!現実と!」

上条「やかましいわ!出来れば一生縁が無い環境で暮らしたかったっ!」

レッサー「いえですがね、上条さん?確かに今まで縁が無かったのは幸運であり、幸福な事だとは思いますよ」

レッサー「とはいえ現実は現実。例え今まであなたの目と耳の届く範囲になかっただけで、存在自体はしていたのもまた正である、と」

上条「つまり?」

レッサー「いずれこっちへ住むんですから、今の内に慣れて貰いませんと困りますよ!全く!」

上条「そんな予定は金輪際無いな!誘拐でもされない限りは!」

レッサー「で、誘拐されても戻って来ない話へ戻るんですが……」

上条「な、なに……?」

レッサー「『話は戻るのに、子供は戻って来ないとはこれ如何に?』」

上条「不謹慎な事言うんじゃありませんっ!幾らフイクションだからってねっ!」

レッサー「言っときますけどね、これ全く誇張してませんですから、はい。てーかフィクションの方がどれだけ救われたでしょうかね」

レッサー「ロザラムもこれからする話も現実ですよ、えぇそりゃもう」

レッサー「……ま、引っ張るような話じゃないんですが、子供それ自体が目当てなんですよ。単純に」

レッサー「身代金なんて端金を要求するよりも、ある程度の規模でシンジケートでドナドナされていく話ですなー」

レッサー「売られた先で然るべき筋の、特定層向けの映像作品へ主演させられた挙げ句、アラブの富豪に買われれば”まだ”幸せな部類でしてね」

レッサー「普通は体が大きくなるとスナ――――」

ソーズティ「――そこまでだ。イングランドの恥をそれ以上晒すな」

上条「……凹む、ってか、なぁ?」

レッサー「まぁそんな訳でブリテンだから、と言って安全とか安心とか思ってるんじゃないんですからねっ!」

上条「なんでツンデレ風?その言い方だと『安心してもいい』って意味になんねぇかな?」

レッサー「最近上条さんも随分旅慣れて来たようですが、中途半端な慣れが一番怖いですからね。注意して下さい」

レッサー「当たり前の話ではありますが、『言語は通じても言葉が通じない』ってケースままありますよね?」

上条「あるなぁ。特に最近思い当たる点が、お前とか」

レッサー「特にですね、下手に語学に堪能になってしまうと『相手の悪意にまで気が回らない』という事が起きるんですよ」

上条「なにそれ?」

レッサー「ホラ皆が皆、私のように裏のない人間ばかりじゃないですよね?」

上条「その意見には異論がある!」

レッサー「――と、今のがもしクイーンズで話されたら、上条さんどう思いますか?」

上条「あっ、あー……何となく分かる、気がするわ。それ」

上条「英語翻訳すんのに集中しすぎて、言葉の裏側に気付けない、みたいな感じか」

レッサー「面白い――と言うのは不謹慎ですけど、ぎこちなく喋ってる時には警戒心が働くようなんですが、慣れてしまうとそのシチュに酔う?ハマる?」

レッサー「不必要にキョドる必要はありませんが、夕方以降観光客が一人でコンビニ行ったら、30%で強盗に遭うと思って下さい」

上条「イギリスでもそうなんだ……」

レッサー「あ、いえ日本人が狙われてるのはも否定出来ませんけど、そんくらいの気持ちで居て下さいな――と、言うワケで!」

レッサー「道端で幼女や少女を見かけても、決して後をつけちゃいけませんよ?」

上条「人聞きワルっ!?つーか結論それかよっ!?」



――現在 『ヤドリギの家』・受け付けカウンター

上条「……」

上条(あれ?ここに居る説明になってなかったな?)

上条(つーか今の回想は国が出している渡航情報よく見とけ!的な話だったよ……)

上条「……」

上条(ちなみに海外安全情報ってNHKがWEBラジオやってるから、聴くだけ聴いておこうなっ!お兄さんとの約束だよっ!)

上条(まぁでも?巻き込まれる時には何やったって巻き込まれるんだよね!俺とか俺とか、あと俺とか!)

上条「……」

上条(あー……もっと後だ。ソーズティが雑談続ける俺らにキレたんだったか)



――回想 廃病院

ソーズティ「そちらの事情も理解はした、というか出来た」

ソーズティ「切羽詰まってはいないものの、急を要する事案であるのは否定できん」

上条「そうか?向こうは長い間、ここに根を張って――じゃないな、巣を張ってるんだろ」

上条「なら、俺達だけじゃなくて『必要悪の教会』やローマ正教、あと……あー……」

上条「バードウェイんトコの『明け色の陽射し』に手伝って貰えたりとか……」

レッサー「『グレムリン』のような”World of Enemy(世界の敵)”クラスならともかく」

レッサー「『濁音協会』の最後の一社、『双頭鮫(ダブルヘッドシャーク)』如きにそれは難しいでしょうね」

上条「なんでだよ?ローマ正教も俺達の受け入れに同意してくれただろ」

レッサー「そりゃあれは『学園都市の使節受け入れ』ですんで、合同攻撃とは訳が違います」

レッサー「そもそも『必要悪の教会』のお膝元で、外国の魔術師を受け入れて対処すれば、それ即ち『解決能力の欠如』と宣伝するのと同義です」

上条「面倒臭ぇなぁ、その柵み」

レッサー「マフィアも魔術結社も、『どんたけキチガ×か?』ってぇのは重要ですよ、えぇもう」

上条「一緒くたにまとめんなよ」

ソーズティ「大体合っているな」

上条「合ってんの!?……あぁでも、お前はねーちゃんがアレされてんだよな……」

レッサー「まぁ魔術師は悪い意味でアグレッシブ過ぎますからね、人の迷惑顧みる事すら一切無い訳で」

レッサー「なのでそういうバカどもへ睨みを利かせるため、取り締まる方はドギツくエゲツなく進化しなければいけなかったのでありますよ!」

上条「レッサーさん、語尾語尾。キャラブレてますよー?」

レッサー「……いやぁ、でもですねぇ、なんつーかまぁ、誤算みたいなのもありまして」

上条「な、なに?何となくオチが読めるけど」

レッサー「上条さん、今まで何人ぐらい魔術師と殺りあって来ました?」

上条「殺りあった憶えはないが……そうなー?」

上条(ステイル、神裂。あとインデックス……の、中の人?外の人?)

上条(アウレオルス、土御門、闇咲、シェリー、アニェーゼ達三人、オリアナ、ビアージオにヴェント)

上条(テッラ、アックア、レッサー達四人、キャーリサもカウントしとくか一応)

上条(フィアンマ、サンドリヨン、サローニャ、マリアン、トール……ん、時、バードウェイともやり合ったっけ)

上条(他にはソーズティ、ウレアパディー、ラクーシャ、ハリーシャ、ベイリー姉妹)

上条(んでもってレディリー……は、ノーカンでいっか。直接殴り合ったのはシャットアウラだし)

上条(でもって合計――あるぇ?妊婦さんの魔術師と戦った気が……ま、いっか)

上条(一、二、三……)

レッサー「……軽い気持ちで聞いたんですが、上条名人、長考へ入ってしまいました」

ソーズティ「いや、普通魔術師と早々戦り合うか?悩むくらいの数をこなす前に死ぬだろ?」

レッサー「ま、そこを何とかしてきたのが、上条さんの上条さんたる由縁と言いましょうかね――あ、スマフォでテキストに起こし始めました」

上条「……32、人?」

レッサー・ソーズティ「「多っ!?」」

上条「言っとくが、お前達も入ってるんだからな?あ、負けたオティヌス入れて33人か」

レッサー「あの人の姿をした災厄相手に、生きて帰って来られただけで儲けものですよ」

上条「手も足も出なかった、つーか斬られたけどさ。最初の一回で」

レッサー「何を弱気になってるんだか上条さん!あなたの本質は『右手』なんかじゃないでしょうっ!?」

レッサー「私――いや、私達は分かっていますからねっ……!」

上条「レッサー……!」

レッサー「上条さんの何がタチ悪ぃかって、『右手』なんかよりもホイホイフラグ建てる謎能力ですよねっ?」

上条「ガッカリだ!?なんか多分変な持ち上げ方しやがったから、絶対落とすとは思っていたがなっ!」

レッサー「アレでしょ?オティヌスと戦ったって、なんやかんやしながらも最後はフラグ建てて攻略すんですよ、えぇ」

レッサー「『だがしかし俺はお前の下乳を見過ごす事が出来ないっ!……いやっ!』」

レッサー「『むしろそのブラになりたい……!!!』」

上条「どういう状況?どんなシチュになれば俺は熱くオティヌスに性癖カミングアウトする羽目になるの?」

上条「つーかしねーよ!人を節操無しみたいに言うな!」

レッサー「おありなんですか、節操?」

上条「……そ、それで?俺に戦った魔術師の数を数えさせた理由は?」

ソーズティ「逃げたな」

上条「……男にはな。負けると分かってたら逃げないといけない時もあるんだよ……!」

レッサー「それだとタダの臆病もんですが――まぁ、なんで聞いたのかは難しくはありません」

レッサー「魔術師ってば超個人主義ですよね?『組織』とか『結社』に所属していても、自分の利益のためにはあっさり裏切りますし」

レッサー「そもそも『無力な人間が力を得よう』という所から出発しているため、そうならざるを得ないんですがねぇ」

上条「能力者でも一緒っちゃ一緒だがなー」

レッサー「ここで質問。今数えた面子の中で、『相手が怖いからやっぱしません』的な人、居ました?」

上条「フロリス」

レッサー「その子以外でお願いしますっ!あとその子はヤレばデキる子ですからっ!どうか長い目で見て上げて下さいなっ!」

上条「アンジェレネ――は、アニェーゼ部隊限定で気張ってたか。そう考えると居ないわな」

レッサー「それと同じく、なんぼ『必要悪の教会』がおっそろしい取り締まり方をしても、折れるような信念ではないでしょうね、と」

上条「納得だなぁ、それ」

レッサー「とはいえ中途半端な素人さんが、こちらへ手を踏み入れないよう抑止する効果……に、もならないですね」

レッサー「組織名知った時点で、引き返しの付かない所にまで来ている訳ですからねぇ」

上条「やだなぁレッサーさん、その言い方だと俺がもう一般人じゃないみたいじゃないですかー」

レッサー「そう聞こえませんでした?」

上条「俺は一般人のつもりなんだがなっ」

ソーズティ「その自称一般人とやらに殴り飛ばされた魔術師は多そうだが」

レッサー「ともあれそんな感じで突っ張ってる以上、余所様からの応援を受け入れるのは相応のビッ×でないと」

上条「ピンチな?今スルーしそうになったけど、それだと意味合い大きく変わるからね?」

ソーズティ「字的には合っているとも言えなくもないが……では、『必要悪の教会』自体に助けを求めるのは?」

上条「連絡がねぇ……付け方が分からないんだよなぁ。少し前までは定期的に情報のやりとりしてたってのに」

レッサー「あ、私は信用してませんからね」

上条「いやお前そう言うけどさ」

レッサー「イングランドにここまで大きな『協会』の支部だか本部だかあるってぇのに、情報一切寄越さなかったんですからねっ!」

レッサー「それに無辜の国民をテロリスト扱いして抹殺しようしてやがったんですから!私達みたいな善良な一般国民をねっ!」

上条「マジモンのテロリストからここまで嫌われるって事は、いい仕事してだんなぁ『必要悪の教会』」

ソーズティ「何をしでかしたんだ、この女?」

レッサー「ちょっとクーデターをですね」

ソーズティ「……旧植民地からすれば褒めてやりたい所だが、よく無事だったな、それ」

上条「まぁまぁ。組織として信用出来ないかもだけど、個人は信用出来るしな?……一点において、だが」

レッサー「(……これ、恐らく上条さんへの”鎖”ですよね?)」

ソーズティ「(信頼出来る個人を用意しておいて、組織ではなくそいつを信用させる……よくある手口だな)」

レッサー「(どれだけ個人が信用出来たとしても、その人が下っ端である限りどうしようもないんですがねぇ、えぇもう)」

ソーズティ「(滑稽と言えばそれまでだが、この男らしいと言えばその通りか)」

上条「何?」

レッサー「いいえちょっとロシアのルーブルが変動性に移行してた件について少々」

ソーズティ「そんなので騙されるか」

上条「そっかー、最近の魔術師は為替相場にまで詳しいんだなぁ」

ソーズティ「そんなので騙されるのか!?」

レッサー「てな感じで『必要悪の教会』は信用出来ません。少なくとも最初の時点でそのお友達さんから情報を貰えていませんのでね」

上条「友達じゃねーし、ただの知り合いだし」

レッサー「はいはいツンデレ乙ツンデレ乙。と、まぁそんな感じで『必要悪の教会』に頼るのはNGですね」

上条「待ってくれよ!放置してるんだったら、放置してるだけの理由があるんじゃ――」

レッサー「んじゃ帰ります?このままアリサさんの所へ」

上条「それは……」

レッサー「私は上条さんの意見を尊重しますよ?決して強制したり、無理強いしたりはしませんのでね」

上条「……そういう訳にも行かねぇだろ。このまま放置したら、ツアー終ったのに問題は解決してません、てな事になりかねない」

レッサー「賢明な判断ですな。向こうさんには向こうさんの思惑があるのは当然。こちらがそうであるのと同じく、です」

上条「優先順位なのかも知れないな。アリサとイギリス、下手に刺激しない方がいいとか思ってるのかも。イギリス清教の上の人はさ」

レッサー「それ相応の筋を通してくるのであれば、配慮すべき事柄もあったんでしょう――が」

レッサー「今回のこれは、曲がりなりにも同盟組んでる相手へ対しては少々不誠実ですな」

上条「……うーん」

レッサー「まぁ尤も、上条さんがお帰りになっても、私一人で突っ込むんですけどねっ!」

上条「俺の選択関係ねぇじゃん!?尊重するとか言う話はどこ行ったのっ!?」

レッサー「ですから『止めもしませんが、自制するつもりもない』という事で一つ」

上条「ほんっっっと!ブレねぇな!フリーダムすぎる所が特に!」

レッサー「アリサさんとの個人的な友情というウェイトも大きいんですが、今回はそれ以上に――」

レッサー「――彼らが『ブリテンの敵』で在り続けるのであれば、それは私の敵と同義ですから」



――現在 『ヤドリギの家』・受け付けカウンター

上条(――てな感じで、ノリで勢い、愛と勇気を友達にして俺達は潜入を試みているんだが……)

上条(ソーズティは失踪したインド人達の関係者と疑われるのを恐れて別行動――つーかウレアパディーと合流してから決めるんだそうで)

上条「……」

上条(俺達と一緒に行動するのが嫌とか、意図的に避けられているとか、そういう事じゃないよ?多分違うと思うな?)

上条(俺としては年上お姉さんキャラの出番が……まぁ、色々あるよねっ!包容力的な意味で!)

上条「……」

上条(……んで、今は受け付けで名簿?宿帳?みたいな所へ名前や住所とか書いてるんだ。施設の見学には必要だとかで)

上条(……そして俺と苗字同じにして、『兄妹ですが何か?』とごり押しするレッサーさんが……)

上条(少しぐらい話を盛るのはいいと思うんだけど……)

レッサー「――で、私は白ひ○海賊団の二番隊隊長になったんですが」

上条「話盛り過ぎじゃね?もう原形留めてないもんな?」

上条「あとその設定だと、俺は体が伸び縮みするファンタスティックフォ○っぽい人じゃないかな?」

レッサー「え、でも部分には伸びたり縮んだりしますよねっ?」

上条「全世界の約半分はな!しかも意図的にやってる訳じゃないから!生理現象だから!」

受付「あのー?カミジョウさん?」

レッサー「おっと失礼しました!話が逸れましたンねっ!」

上条「逸れてる逸れてないで言えば、最初っから本題に入ってねぇよ!?」

レッサー「どこまでお話ししましたっけ……あぁそうそう!」

レッサー「父は将来、アテ×を守る聖闘○を量産すべきためにですね」

上条「今日はジャンプ系で攻めるの?新旧スター系だってのは認めるけどさ」

レッサー「あれ、実子である必要性皆無じゃないですかね?あのヒゲ別に特別な人間って訳じゃないし、養子でも条件満たしてたのでは?」

上条「だからその設定アニメ版ではなかった事になってたんだよ!別に誰が困る訳でもないし!」

レッサー「”こちら側”から解釈を入れるとすれば、ゼウスがあちこちへ種を蒔いた神話を踏襲してるんでしょうが、その設定は生かされませんでしたしねぇ」

レッサー「――と、見て下さいよ!こんなに息が合ったツッコミとボケ!それはもう魂の兄妹以外に有り得ませんでしょうっ!」

上条「”魂の”つってる時点で血縁否定してるじゃねぇか」

受付「……あ、はい、分かりましたので、もういいです。えっと――誰かー?」

女性「はーい、ただいま参りまーす!」

受付「今、担当の者が参りますので、彼女の指示に従って下さい。後、勝手な行動や写真撮影はくれぐれもしないで下さい」

レッサー「(フリですかね?)」

上条「(常識的な注意だと思うよ?)」

女性「えっと、はい、お待たせ致しました。わたしは『ヤドリギの家』でDeaconを勤めております、テリーザと申します」

上条「でーこん?」

テリーザ(女性)「あ、日本語だと『助祭』……えぇと司祭様をお手伝いする係、みたいな感じです」

レッサー「お上手ですね」

テリーザ「いえそんな。実家でホームステイを受け入れていたので、簡単な日常会話を少しだけ」

レッサー「いやいや、充分ご立派ですよ。私達日本人が聞いてもお綺麗な日本語で。ね、兄さん?」

上条「誰が兄貴だ」

レッサー「(上条さーん、設定お忘れでー?)」

上条「んんっあぁっ!確かにレッ――言う通りだなっ!」

テリーザ「ありがとうございます」

上条「てか、ごめん。案内の前にタイムいいかな?いいよね?ちょっとお話が」

レッサー「あ、すいませんねー。兄はちょい前までニートやってたもんで、テリーザさんみたいな美人さんとお話しすると蕁麻疹――」 グィッ

レッサー「(って、何なんですか?あんま挙動不審だと怪しまれますよ?)」

上条「(……聞きたいんだけど、お前名簿になんて書いた?名前も日本風にしたの?)」

レッサー「(そりゃ当たり前ですよ。私をなんだと思ってるんですか)」

上条「(あー、ごめんごめん。で、なんて書いたの?)」

レッサー「(”上条れっさぁ”)」

上条「(まず改めるのはお前の方じゃねぇのかっ!?幾ら日本にDQN増えたからって、そんなトンデモネームつけるかっ!)」

レッサー「(人の名前になんつー言い様ですか!謝って!コードネームつけた先生に謝って!)」

上条「(良し!この事件が終ったら、お前に魔術を教えたヤツに会わせて貰おうじゃねーか!きちんと落とし前つけるからな!)」

上条「(てかお前、『レッサー』って何よ?フロリスとかランシスみたいな名前じゃダメだったの?」)」

レッサー「(ベイロープ外してません?)」

上条「(変わってるけど、ファミリーネームだったらあんのかな?って)」

レッサー「(――”Balin Low Pool(死の淵のベイリン)”なのでしょうがねーんですけど、あれ)」

上条「(はい?今なんて?)」

レッサー「(ベイロープは綺麗系に見せて意外と可愛いですよね、と)」

上条「(あぁそりゃ俺も同感――って、んな話はしてねーよ!)」

レッサー「(往生際が悪いですよ、乗りかかった船なんですからドンと行きましょう!)」

上条「(うん、だからね?お前はその船を乗り込む判断材料が『あ、これ面白そうじゃね?』的な感じでだ)」

上条「(君、アレでしょ?普通の船の隣にウサギさんがオプションで付いてくる泥船があったら、そっち選ぶよね?それをまず改善してだな)」

レッサー「あ、はい。タイム終了でーす」

テリーザ「じゃこちらへどーぞー?」

上条「二人とも話を聞きやがれ!」



――『ヤドリギの家』教団 通路

上条(――テリーザさんに連れられて、教団内部をテクテク歩く俺達だが――)

上条(――まず、『ヤドリギの家』教団は新市街の外れにあった)

上条(「これだったら別に旧市街でも良くね?」、ぐらいに駅から遠いし、わざわざ移転する意味があったのかは分からない)

上条(ま、とにかく郊外の方に『教団』使節はあったんだよ。外見はだなー……あー……)

上条(ポジティブな言い方をすれば『窓のないコロッセウム』、言葉を飾らなければ『刑務所』)

上条(5mぐらいの高い壁で周囲を囲まれた、何とも言えない光景ではある)

上条(旧市街の火災が10年前、という事はどんなに新しくても建てられて10年は経ってない……の、割に古さが目立つっていうかな)

上条(塀のカビたか汚れだかが、妙に人の顔に見える……なんか心理学的な用語あった筈だ)

上条(……日が陰って来て、余計に印象へ暗い何かを感じさせるんだろうか……)

上条(内部へ入って分かった事だが、中には巨大な建物が幾つかある)

上条(一つ目が外壁と一体化している――)

テリーザ「えっと、今わたし達が居た場所は『本館』になります」

テリーザ「余所からいらしたお客様や、信徒の皆さんが外へ行かれる際には必ずあそこを通って出入りします」

上条(『本館』っていうよりは検問所っぽい感じだけどな)

レッサー「他に出入り口はないんでしょうか?ほら、火事とかあったら大変ですしねぇ」

テリーザ「非常口が幾つかありますので、そちらを利用して頂ければ大丈夫ですよ」

上条「ですよ、って」

レッサー「まぁまぁ。それで?」

テリーザ「今から向かう先は『第二聖堂』になりますね。右手の大きな建物です」

上条(学校の体育館ぐらいの大きさの教会――”っぽい”建物だ)

レッサー「十字架が架けられてはいませんけど……工事中か何かで?」

上条(あぁ『ベツレヘムの星』には十字教教会の十字架が勝手に集められたんだっけか)

上条(……あそこに引っ付いてた霊装とか、北極海に落ちたまま回収されなかったら、また問題になりそうじゃね?)

上条「……」

上条「フラグじゃないよ?全然?そういうんじゃないからね?」

レッサー「誰に話してんですか兄さん。つーか不審者ですよ」

上条「お前にだけは言われたくねぇが、てかテリーザさん」

テリーザ「はい?」

上条「第二、って事は第一は遠くにある、アレですか?」

テリーザ「はい、あちらが第一聖堂ですね。昔はあそこしかなかったので、第一・第二とは呼ばれていなかったそうですが」

上条「へー?……あれ?目が何か、おかしいな……?」

レッサー「どうしました?」

上条「こっちの聖堂は何か真新しいのに、あっちのはスゲー古っぽいていうか」

レッサー「言われてみりゃ確かにそうですな」

テリーザ「あちらは元々、昔からあった教会をそのまま利用してますので」

上条「教会を?」

テリーザ「はい、教会をそのまま」

上条「あぁっと……単刀直入に伺いますけど、ここ、十字教じゃないんですよね?」

テリーザ「いえ、十字教ですけど?」

上条「あ、あれ……?」

レッサー「言ったじゃないですか兄さん」

レッサー「ホームページにも書いてありましたよね、ウェイトリ”ー”先生はお医者様であられるのに、信仰の徒としても目覚められたとか」

テリーザ「あー……あのHP見ちゃいましたかー。あれ、どう見ても怪しい新興宗教にしか思えませんよねー……」

上条「その痛々しい反応、何か間違ってるとか?」

テリーザ「えぇっと、何からお話ししたものか、っていうか別に秘密にしてる訳じゃないんですけど」

テリーザ「十字教にも色々と派閥がありまして、ですね。中には『神の子』の再臨を説く方達も居ますし」

テリーザ「逆に『この世界は偽物の神が創った』と主張されている方も居ます」

レッサー「(前者がモンタノス派、後者がグノーシス派ですね)」

上条「(お前、詳しいな?)」

レッサー「(一身上の都合で十字教徒さんとはよくドツキあってますからねー。昔から)」

テリーザ「そのどちらも、古い十字教の一派なんですけど、大体2世紀ぐらいにはなくなっちゃってるんですよ」

レッサー「(グノーシス派は4世紀まで続いた上、マニ教へ継承されて15世紀の中国まで存在が確認されていますけどね)」

上条「(……お前ら、大航海時代にウチまで渡ってきたもんなぁ……そう考えると十字教ってスゲーな)」

テリーザ「わたし達も、実は昔からずっと隠れ続けて来た十字教の一派閥なんです。まぁ昔は異端だ邪教だ、と排斥されたんですが」

テリーザ「今の世の中そういう時代じゃありませんし、どうせなら大々的に復活させよう――とウェイトリー主教がお考えになりました」

レッサー「なーるほど。それは確かに仰る通りですなぁ」

レッサー「性別や民族の壁を取っ払おうってぇ、カオスな動きが続いてる中、古い信仰の一つや二つ復活してもおかしくはない、と」

テリーザ「ですよねっ、そう思いますよねっ?」

レッサー「(それが本当に『旧い信仰』だったのか、疑問が残る所ではありますけど)」

上条「(なぁ、レッサーさん?)」

レッサー「(詳しくは後程。まだ彼らの尻尾が掴めていません)」

レッサー「それで?『ヤドリギの家』の皆さんは、一体どちらのどなた様で?」

テリーザ「Trinity、と言って分かるでしょうか?」

上条「三位一体だっけ?名前ぐらいしか知らない」

レッサー「兄さんは日本暮らしが長かったですからねー」

テリーザ「Trinityとは、父なる神、神の子、聖霊から成り立っていますよね?」

上条「そのぐらいだったら何とか――何?」 チョンチョン

レッサー「(――上条さんっ!大変な事に気づきました!)」

上条「(どうしたっ?まさか――敵の魔術師の攻撃かっ!?)」

レッサー「(お姉さんの口から『乳なる神』って聞くと卑猥です!」

上条「(お前もう口を開くなよっ!?あと、日本には「エッチだと思う方がエッチなんだ」って格言があってだな)」

上条(ちなみにテリーザさんは大学生ぐらいの地味めの女性。化粧も殆どしてないし、案内役だから抑え気味にしてんだろうけど)

テリーザ「ですがこの考え、『神の子は代理人に過ぎない』という所から出発したグループがあります」

上条「代理人?確か、他の人の罪を背負ったんだよな?」

テリーザ「正確には『代理人の一人』でしょうかね。聖人の方々のように、たまに降臨されては奇跡を起こす、という感じで」

上条「(その考えだと神裂も……まぁ身ぃ削ってるっちゃ削ってるが)」

レッサー「(神の子の否定――アリウス派確定ですなー)」

テリーザ「神の子は偉大ですが、あくまでも養子に過ぎず、特別神聖視するには及ばない――というのが、本教団での考えです」

上条「なんでまた?」

テリーザ「この世界は父がお造りになりました。そして」

レッサー「えっ?すいません、今ちょっと聞き取れなかったんですけど、誰が造ったんですか?」

レッサー「”誰”が造ったのか、大きなお声でもう一度どうぞっ!さんっはいっ!」

上条「すいません、この子病気なんですよ。脳と性癖がちょっとアレでして、無視してやって下さい」

テリーザ「は、はぁ?……それで、世界を造った後、神の子が生まれるまでは時間がかかっていますよね?」

テリーザ「アブラハムの子らが子孫であったとしても、時が経ちすぎています。その間、神はただ見守っていたのではないと」

上条「……あーっと、つまり『神様は神の子以外でも、ちょくちょく奇蹟を起こしてた』から、みたいな感じですか?」

テリーザ「はい。父の愛は万人へ等しく与えられています、ですので『神の子』”だけ”を神聖視するのは差別である、と」

上条「差別?」

テリーザ「だって人の命は誰だって同じでしょう?なら誰が特別だと、そういうのは差別だと思うんですよ」

上条「そう、か?な、レッサー?」

レッサー「乳の愛……!」

上条「あ、ごめんね?お話続けて貰えますか?」

テリーザ「あ、すいません。こんな所でお話ししちゃいまして、本当でしたら寄宿舎の方でお茶でもお入れする筈だったのに」

上条「いえそれは別に。聞いたのはこっちですし――てか、寄宿舎ってのは、あの?」

テリーザ「えぇ、あの建物です。ホテルっぽいですけど」

上条(10階ぐらい建てのビジネスホテルっ”ぼい”建物。修学旅行で泊まらせられるような感じの所だ)

上条(この中で一番大きな建物――じゃ、ないんだ。もっと大きな建造物がある)

上条「それじゃ、あっちの病院っぽいのは……やっぱり?」

テリーザ「はい。ウェイトリー主教の病院です」

テリーザ「先程も言いましたが、えぇと、その、例えば神の子は他人を癒やすという奇蹟を用いました」

テリーザ「けれどそれは他の人間でも、現代であれば医学と医術によって為し得ますでしょう?」

テリーザ「それは『誰にでも出来る普通の事』だと主教は説かれています」

上条「医療を誰でもってのは、無茶だと思うけど」

テリーザ「この国の保険制度はご存じでしょうか?」

上条「はい。公的診療だと数週間かかるんでしたっけ?」

テリーザ「……えぇ。大分良くはなったんですけど、これでも」

テリーザ「酷い時には歯医者にかかるのが一ヶ月先、みたいなのもありましたし」

上条「そりゃ……うん、酷いな。虫歯になったらどうするんだっての」

テリーザ「そういう時――あ、今でもありますけど――には、フランスへ行って日帰り診療を受けたり、他には私的診療を受けたり」

テリーザ「空いた時間で個人的に看て貰うしか、診療は受けられませんでしたから」

上条「”でした”って事は、もしかして?」

テリーザ「はいっ!ウェイトリー教主は誰でも診療して下さるんですよっ!」

上条「へー、そりゃ凄い」

テリーザ「ただ、外からの患者さんが多い分、どうしても軽い症状の方は後回しになってしまいまして」

テリーザ「なので一部は病室だけでは足りず、寄宿舎の方へお入り頂いてます」

上条「病院も大きく見えるけど……あぁ別に患者さんが泊まる部屋だけって事もないか」

上条(まとめるとだ)


○『ヤドリギの家』教団施設

外壁は高い壁がぐるっと囲んでいる。5・6mぐらい?
出入り口は『本館』は呼ばれる所のみ、ただし非常口(※EXITマーク)があるらしい

第二聖堂(新しい)
第一聖堂(古い。教団が施設を造る前からあった)

寄宿舎(と、いう名のホテル。10階建てぐらい)
病院(一番大きな建物。県立の総合病院クラス)


上条(ざっとこんな感じ、かな?今の所、パッと見て怪しいのは……)

上条(第一聖堂かな?「な、なんとこれは失われたあの信仰ではありませんかっ!?」みたいに、レッサー騒ぎそう)

上条(――て、そういやさっさからレッサーがやけに静かだな……?)

上条「レッサー?」

レッサー「うーむむむむむ……テリーザさん、ちょいとお話が逸れるんですがね?」

テリーザ「はい、何でしょうか?」

レッサー「こちらで行われているのは公的診療ではない、私的診療、ですよね?」

テリーザ「そうですね」

レッサー「お気を悪くしないで頂きたいのですが、私的診療である限り、保険制度の対象外ですよね?もしくは比率が低い筈」

レッサー「なのによくやっていけるなぁ、と思いまして」

テリーザ「あー、やっぱりそこ気づいちゃいますかー」

レッサー「失礼ながら、お金をお持ちの方”だけ”が患者であるならば、充分にPayは出来るのでしょうけど、どーにもそうとは、ですね」

上条(俺達以外にも患者――もしくは、信徒?の人らとは結構すれ違う)

上条(カジュアルな格好をしている人は少なく、殆どが病院着かテリーザさんみたいな質素な服。そして)

上条(肌の色が違う、ソーズティと同じインド系と思われる人達か)

上条(移民だったら、というか最初からお金があれば移民になんかならない訳で)

テリーザ「……あの、ここだけの話で?ネットとかに書かないで下さいね?」

上条「どうぞどうぞ。つーか他人へペラペラ喋る程、英語が堪能って訳じゃないですから」

テリーザ「ウェイトリー”先生”はあまり、その宗教の方は熱心じゃない、らしくてですね」

テリーザ「どっちかって言うと、慈善団体とか、税金対策のためにやってるって、司祭さんから聞いた事があります」

レッサー「あぁ言われてみれば確かに。宗教団体と言うよりかは、オープンキャンパスみたいな感じですよね」

上条(この鬱々とした閉塞感の中でよく言えるよな。お世辞なんだろうけど)

テリーザ「なので、こう治療と言ってもかかるものはかかる訳でして。その辺りを寄付金とか、信徒の方々からカバーして頂いてる、のではないかと」

上条「それじゃ俺達と同じアジア系の人らが多いのはなんでですか?」

テリーザ「さぁ……?あ、でもインディアンとパキスタニの皆さんは、介護のお仕事をされていますよ?」

レッサー「ならそれが目的じゃないですかね。言っちゃなんですが、正規の看護師・介護士として雇用するなら、相応のお手当が必要」

レッサー「また労働環境によっては職業互助会――労働組合から睨まれますからねぇ」

レッサー「でも『ボランティア』や『宗教活動の一種』であれば、免許や資格のない人間でも雇用出来ますし」

テリーザ「その言い方だと、ちょっと……」

レッサー「なら好意的に解釈すれば――ある程度経験を積めば、後々免許を取るのにも役に立つ、ってぇ所ですかね」

上条「節約のためにやってるって?」

レッサー「流石に専門的なのは任せられないでしょうが」

テリーザ「成程ー、そういう意味があったんですねーっ!」

レッサー「と、納得されてる方も居ますし、いいんではないでしょうか」

上条「職業訓練の一環だってなら、アリはアリ、か」

テリーザ「お二人はこれからどうされますか?」

レッサー「第一聖堂が見たいですし、出来れば古い信仰にも興味がありますかねぇ」

上条「院長先生が力入れてないんだったら、あんま聞く意味は無いかもしんないけどな」

テリーザ「いえいえっ!確かにウェイトリー教主はあまり熱心ではないらしいですけど!」

テリーザ「でも司教のお話はそれはもうっ評判が良くてですねっ!」

レッサー「ミサには私達のような部外者も参加しても構わないのでしょうか?それとも直に会えたりとかします?」

テリーザ「流石にそれはお忙しいので、きちんとした用件でもなければお断りさせて頂いていますが……」

テリーザ「その、ミサの方であれば『体験入信』コースというものがありまして」

上条「あー……なんとなーく、あのホテルっぽいホテルの目的が分かった気がする」

レッサー「奇遇ですねぇ、私もですよ」

テリーザ「なんと!今なら『二泊三日体験コース』がえっと……今日のポンドがこれで、日本円へ換算すると……」

テリーザ「お二人ならは500ドル!たったの500ドルで体験出来ますよっ!」

上条「おい、急に営業トークになったな、あぁ?」

テリーザ「いえあの、ですけど中々人気ですので、騙されたと思って体験されては如何でしょうか?」

レッサー「聖堂だけ見せろ、ってのは」

テリーザ「すいません。信徒の方以外には公開しておりませんので」

上条「ちょっとタイムいいですか?」

テリーザ「あ、どうぞどうぞ」

上条「(――って話なんだが、どうする?)」

レッサー「(質問に質問で返すようで恐縮ですが、どうもこうも?)」

上条「(ですよねー……選択肢なんかないって話だわな)」

レッサー「(潜入目的で来たんですから、観光者の物見遊山に紛れるのはこれ幸いですが……さて?)」

上条「――分かった。んじゃ二人でお世話になります」

テリーザ「はい、こちらこそ至らぬ所もありますが。と、お二人のお荷物はそれだけでしょうか?」

レッサー「いえ、新市街のモーテルに置いて来てますね」

テリーザ「あぁ丁度良かった。わたし、これから車で街まで買い出しの用事がありますので、ついでで宜しければお送りしましょうか?」

上条「あー、すいません。お願いします」



――新市街 ホテル入り口

テリーザ「では1時間ぐらいで買い物は終わると思います」

レッサー「そちらの手伝いはしなくても?」

テリーザ「そうですねー。でしたら、時間が余ったら直ぐそこのマートまで来て頂ければ助かります」

レッサー「わっかりました!では――」

パタン、ブロロロロロロンッ

上条「今、一瞬『外車乗ってるなスゲー』と思った俺は小市民なんだろうか……?」

レッサー「あー、分かります分かります。私も日本行ったら、『日本車ばっかだ!?』とカルチャーギャップ受けるのと同じで」

上条「あ、イギリスには有名な車メーカーなかったっけ?」

レッサー「大抵何でも揃える日本とドイツが異常なんですよコノヤロー。日本・ドイツ・イタリアと、嘗ての枢軸国がシェア占めてるって……」

上条「だったらフランス――は、嫌だろうから、アメリカ製の買えばいいじゃんか」

レッサー「……上条さん、アメリカがどちらから独立したかご存じで?」

上条「あー……それじゃ日英同盟にまで戻って日本車を買おうぜ!」

レッサー「あん時、ウチが下手に租界を求めて居なければそうなってたんでしょうがねぇ――で、ですが」

レッサー「取り敢えず10分ぐらい経ったら私の部屋で打ち合わせでもしましょうか。つっても今後の方針確認ですけど」

上条「やっぱり向こうじゃ盗聴されてるとか?」

レッサー「目をつけられていれば可能性は充分に。ある程度は術式でカバー出来るとは言え、100%は無理でしょうからね」

上条「あぁお前そういう小細工苦手っぽいもんな」

レッサー「その評価は概ね合っているので言い返せませんが、そうではなく、えー、例えば防音の魔術を使ったとしましょう」

レッサー「イメージとしちゃ、結界みたいなので辺りを覆うような感じでしょうかね。こう、ビニールハウス的な感じで」

レッサー「確かにその魔術を使えば、範囲外へ出る音量は大幅に減退され、中で銃を撃っても『空耳かな?』レベルにまで抑えられます」

上条「悪用前提の魔術だな」

レッサー「ですがこれ、欠点がありまして『音は漏れないが魔術を使ったのがバレる』と」

上条「魔力が感知出来ちまうんだよな。ランシスが言ってた」

レッサー「相応の魔術師が居た上、常に近くで監視していれば、という但し書き付きですがね」

上条「そこまで警戒されてるんだったら、魔術の一つや二つ使ったって今更だわな」

レッサー「と、言うような細々とした話をしたいので」

上条「ん、分かった。10分後に」

レッサー「鍵は開けておきますからっ!遠慮無くどうぞっ!」

上条「それ罠だよね?俺からかって遊ぶ気満々だよな?」



――ホテル 個室

カチャン

上条「……」

上条(さてさて、荷物をまとめてと……大して荷物自体ないんだが)

上条(それこそ着替えと携帯ぐらいしか持ってきてないし、大半はローマの部屋に置いてきたままだ)

上条(大半つってもこっちで買ったお土産だとか、イタリアの朝市で貰ったジャムの瓶とか、そういうのばっかだけど)

上条(他にも……ARISAのライブで使った使用済みケミカルライトとか。封切ってないのと一緒にぶち込んである)

上条(10分、10分あればシャワーでも浴びれるかな?旧市街で焦げ臭い臭いが染みついたままで、気持ちは良くない)

上条「……?」

上条(……あれ?シャワー室、誰か――まさか!?)

上条(――敵の魔術師かっ!クソッタレ!こんな所にまでっ……!)

上条(どうするっ?レッサーを呼んで――いや、それはマズいか。こっちだけじゃなくて、あっちの部屋にも潜んでる可能性がある!)

上条(だったらまずこっちのヤツを無力化させてから、合流するのがベストだろう!そうと決まれば――)

上条「……」

上条(イチ、ニ、の――――――サンッ!)

上条「――動くな!お前の魂胆は分かっているぞっ!!!」

ソーズティ(※シャワー中)「――ぅえ?」

上条「」



 慌てて胸元を隠そうとするソーズティであったか、それは無駄だったと言えるだろう。
 少女と女性の半ば辺り、未だ成長中であろう胸の膨らみは細やかなものであったが、少女の細腕では隠しきれない程には、女性らしい曲線を描いている。

 対象的だったのは、全体のボディライン、シルエットとも言うべきだろうか。成熟した美しさは別の、どこか背徳的な妖しさをも潜むぐらい、細く、華奢だ。
 男が片手だけを回してしまえば、容易に手折る事すら出来るだろう――そう、一輪の花のように。

 だが、上条にとってそれはもう望めない事でしかなかった。何故ならば彼の片手は少女の肩へ、そしてもう一方は彼女の手首を握っていたからだ。
 暴漢を取り押さえようと乗り込んできた彼にとって、もう既に立場は逆転している。守る側から危害を加える側へと。

 腕の中で恥ずかしそうに――実際そうであろうが――身をよじるソーズティであったが、片腕を捕まれたままでは満足に抵抗は出来ない。
 むしろ逆に、羞恥に顔を歪ませ、頬を赤らませて、彼女の褐色の肌が熱を帯びる様は、とても扇情的であった。

 手を離せばいい。視線を逸らせばいい。悲鳴を上げればいい。そう理性ではどこか訴えている。そう、どちらともがだ。
 しかしどちらもしない。出来ない。若さ故の過ちの如く――。

 シャワーの水滴がソーズティの肌を滑り、流れ落ちる。上条の黒い瞳とソーズティの翠玉色の瞳が、何度も何度も交差する。
 最初はオドオドと伺うように、次第に大胆に、そして最後には予定調和のように。
 恋人がキスを交わすように、視線は絡みつき、離れられず、囚われる。

「その……」

 口を開いたのはどちらの方が?何を言おうとしたのか?
 それすらももどかしく、二人の距離は縮まって――。


レッサー「F×cking!!!なんってこった!?」

上条・ソーズティ「「どわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!?」」

レッサー「何やってんですかっ!?つーか何やってんですかっコノヤローっ!?」

レッサー「人が目を離した隙にこれですかっ!ラッキースケベどころか、今本番突入しようとしてませんでしたかっ!?」

レッサー「それどもアレですか!?日本人のエッチとは『HENTAI』のHじゃなく『HON-BAN』だったんですかっ知りませんでしたっ!」

レッサー「てか親子揃ってやたら滅多にフラグ建てるのもいい加減にしといて下さいなっ!」

上条「ま、待て!?レッサーこれには深い訳があるんだっ!」

ソーズティ「ち、違うぞ!?別に私は誘ってなんかないんだからな!」

レッサー「違うでしょぉぉぉぉっ!そうじゃないでよすねっ!?違いますからねっ!」

レッサー「なんで勝手にヒロイン交代してんですかっ!?ラッキースケベは私の役割でしょうがっ!」

上条「すいません、ちょっと何言ってるか分かんないです」

レッサー「てか地の文要ります?適当に流せばいいのに、あそこまで詳細且つインモラルに描写する必要性がどこにあるのかと濃い乳時間!」

上条「小一時間な?お前も混乱してんだよな?」

レッサー「むしろ淫乱ですよ!」

上条「むしろの意味が分からない!?」

レッサー「そもそもアリサさんの時にも思ったんですが、あれ別に絡むのランシスじゃなくて私でも良かったんじゃ?」

レッサー「トリスタンとイゾルデ伝説のダメバージョンだってのは分かるんですが、結局手ぇ出してましたし!」

上条「本格的に落ち着けレッサー!ワケ分からなくなって何言ってるのか分からない!俺もそうだけど!」

レッサー「この――泥棒猫がっ!人が折角シャワー浴びて誘惑しようと思っていたのに、先に済ますとは……!」

上条「人の事とやかく言える立場じゃねぇな!故意にしかけてる時点でタチはもっと悪いよ!」

ソーズティ「いえ、その、私も被害者なんだがな……?」

上条「そ、そうだぞ!俺が悪いのは間違いないが、ソーズティは悪くないだろ!」

ソーズティ「廃病院はシャワーなんか無いからな!お前達を待ってる間に済ませてしまおうって考えたんだよ!」

レッサー「いや、鍵かければ良かったじゃないですか、つーか私の部屋のシャワー使えば良かったじゃないですか?」

レッサー「なんでわざわざ上条さんの部屋だと分かっていながら、シャワー浴びる必要があったですか?さぁなんで!?どうして!?」

ソーズティ「……ぅ」

レッサー「どうせアレでしょ?『あ、このシャワーであの男もオ×ったんだなー』とか考えながら、一戦始めたんですよね?」

レッサー「『まるで一緒にシャワー浴びてるみたい!』的な想像を――」

上条「いい加減にしとけ。お前そろそろ出禁食らうからな?本気でだぞ?」

レッサー「じゃあ上条さん!お言葉ですが上条さんはおかしいとは思いませんでしたかっ!?」

上条「何がだよ。あんな場所に居たら、体洗いたくなるのは当たり前だろ?」

レッサー「違いますって。そっちじゃなくてもっとそもそも論のお話です」

上条「そもそも論?また妙な単語出て来やがったな」

レッサー「いいですかっ!ここは曲がりなりにも敵地!アウェイです!」

レッサー「例えるならば三十路のおっさんが正月に実家へ帰ったばりに、敵しか居ません!」

上条「結婚しろしろウルセーの?実体験なのか?」

レッサー「そして対象はいっぱしの魔術師!戦闘訓練を受け、気配を察知するぐらいはお茶の子さいさいなねっ!」

上条「その単語、生で使う奴始めて聞いたが……で?」

レッサー「そんな人間が『シャワーやお風呂と言った、一番無防備になる状態で周囲への警戒ゼロ』ってどんだけですかっ!?有り得ませんよっ!」

上条「言われてみれば……!」

レッサー「ですから、きっと×ナってたんではないかと」

上条「選べよ!言葉を!タダでさえアレなんだから!」

レッサー「全くもう!人が折角早めに来て上条さんの裸を拝もうとしなければ!今頃は大惨事になっていた所ですからね!?反省して下さいな?」

上条「お、おぅ……?ありが、とう?」

ソーズティ「……なぁ?コイツの方がタチ悪くないか……?」

レッサー「ちゅーか、私が折角ウヤムヤにしようとして上げているのに、いい加減手を離したらどうです性的犯罪者さん?」

上条「ヒドっ!?絵面だけを見ればそうだけど!」

レッサー「状況証拠でもバッチリですがね。親告罪なので立件されないだけです、ありがとうございました」

レッサー「はっ!?……それとも3Pがお好みだとか……?」

レッサー「――宜しい、受けて立ちましょうかっ!レッサーちゃんがエロゲで身につけた奥義をお見せしましょう!」

上条「これ以上はカオスになるから止めてくれっ!?あとエロゲでは勉強出来てないから!」

レッサー「ま、立つのは上条さんなんですがね」

上条「だからお前も少しは恥じらいを持ってあげて!」



――シティホテル

レッサー「で、上条さんがソーズティさんを無理矢理手込めにしようとしていた件についてですが」

上条「終ったよね?俺が言うのも何なんだけど、場面が切り替わったのに引っ張る必要無くないか?」

レッサー「てかベッドの上に女物の着替えが放置される時点で、『あ、誰かシャワー使ってんなー』って疑いません?」

レッサー「一体どういう思考回路を辿れば、『シャワー使ってる人がいる→敵の魔術師の攻撃だ!』に繋がるのかと」

上条「でもですね、反論しますと割合俺は襲撃を喰らってる身でしてね?」

レッサー「ちなみにシャワー中のラッキースケベって何回あります?」

上条「そうだなー?インデックスに神裂にオルソラにバードウェイにアリサ――ってそんなにないよ!?日常茶飯事じゃ決して!」

レッサー「現実と戦いましょうとは言いましたが、常識と戦ってどーすんですか。つーかバードウェイさん、着々と王道フラグ積み重ねてる気が……?」

上条「レッサーに常識説かれるのは心外なんだが……」

レッサー「と、言われる私の方こそが心外ですがね――もう少しでお迎えが来るので手短に」

ソーズティ「ん、あぁ、どうか……した、か?」

レッサー「ほら見なさい上条さん!ソーズティさんさっきから目ぇ合わせくれませんよ?」

上条「……本当にごめんなさい……っ!反省してますからっ!」

レッサー「でしたらここは一つ、責任取って私と結婚するしかないですなー」

上条「責任の取り方間違ってなくね?てーかお前の入ってくる余地は無ぇよ!」

レッサー「ま、それはさておき私達の方針は先程と同じです。体験入信二泊三日コースに参加する事にしました」

ソーズティ「罠じゃないのか?」

レッサー「だったら正面から粉砕するまでですね。こう、ガッツーンと」

上条「罠じゃなかったら?」

レッサー「裏口から入って粉砕するだけですかね。こう、ドッカーンと」

上条「粉砕するのは決定かよ……ま、放置するつもりはねぇけどもだ。で、ソーズティはどうするんだ?」

上条「何だったら俺の妹枠で付いて来るか?向こうは来る者拒まず、みたいな感じだったし」

ソーズティ「……うわぁ」

レッサー「よっ!上条さんの妹マニアっ!このシスタープリンセ○っ!」

上条「違うよっ!?どっかのおバカが無理矢理血兄妹として登録しやがったから、その流れが続くんだと思ったんだ!」

上条「……後、レッサーさんはその黒歴史持ち出さないで貰えるかな?メーカーがある意味伝説作ったっつーか、Nice Boat!っつーか……」

ソーズティ「そうだな……姉と合流もしたいが、それ以前にだ」

ソーズティ「ここに居る面子全てが潜入したら、後続との連絡役が居なくなる、な」

上条「あぁ納得。乗り込んだ人間も身動きが取れなくなったら、後から来る奴らに事情とか説明しなきゃいけないよな」

レッサー「なら携帯のアドレス、宜しいですか?こちらの身内のも渡しますんで」

ソーズティ「いいのか?」

レッサー「えぇそちらと同じく使い捨てなので、この件が終ったら破棄しますし」

上条「勿体なくね?折角仲良くなったんだから、メールぐらいはしようぜ?」

レッサー「個人的にはある一点で気が合うとは思いますよ。思いますが――下手に繋がりを持ってると、ご迷惑をかけるかも知れませんし?」

ソーズティ「必要最低限、あくまでも『一時的に共闘しただけの仲』なのが、一番楽でいい」

上条「あ、だったら俺の携帯に登録しようぜ?」

ソーズティ「話を聞けこのバカ!」

上条「いや聞いてるし?俺だったら別に迷惑かけてくれて構わないし、問題は起きないだろ?」

レッサー「……諦めましょうソーズティさん。こちらさんを説得するのは時間の無駄かと」

ソーズティ「……ちっ」 ピッ

上条「お、来た来た――ってメールアドレス、デフォのまま変えてなくね?半角英数字のの羅列になってる」

ソーズティ「……いいか?私は今回の一件が終ったらこの携帯は捨てるし、番号も使わないからな?」

上条「ん?あぁいいんじゃね、そん時には変更したアドレス送ってくれれば」

ソーズティ「だから――っ!」

レッサー「はい、どうどう。ですから無駄だと」

ソーズティ「本当に……この男は……!」

上条「な、何?」

レッサー「お気になさらず――ってか、そろそろお時間ですので」

上条「おけ。それじゃちょっと行って来るよ」

ソーズティ「――待て。姉からの予言がある」

レッサー「予言ですか?伝言ではなく?」

ソーズティ「予言だ。姉は『ブラフマーアストラ』を使う手前、星詠みに長けている」

ソーズティ「星座や星の運行だけではなく、星辰を使った占いも結社随一……”だった”」

上条「なんで過去形?」

ソーズティ「『チューニング』された副作用だと思ってくれ。なので気休め程度ではあるが……」

上条「充分だ、それで何だって?」

ソーズティ「『――樹が幻視(みえ)る』、だそうだ」

上条「木?ツリーの木?」

ソーズティ「いや正確には、”Wooded”だ」

レッサー「『木に覆われた、木が生い茂った』という形容詞ですな」

上条「教団の場所は新市街の外れ……だけど別に、周りに木ばっか生えては、無かった、よなぁ?」

レッサー「昔はどうだか知りませんが、再開発計画の真っ只中ですしね。切り出した土地であるのは間違いないでしょうけど」

上条「やっぱりケンカする相手が『ヤドリギの家』だから『樹木』なのかな?」

レッサー「『生い茂った』所へ主眼を置いているのか、何かを隠しているのを暗示している可能性もありますね」

ソーズティ「解釈を私に求められても困る」

上条「うーん……ま、分かったよ。注意しとく、ウレアパディーに『アリガトな』って伝えといてくれ」

ソーズティ「……」

上条「どしたん?」

ソーズティ「……と、その、妹からもだな。聞いてはいるんだ、聞いては」

ソーズティ「伝言、というか、その、だな」

上条「うん?」

ソーズティ「『無事に帰ってこい』と」

上条「……あぁ、任せろ!」

レッサー「あのぅ?すいません、ちょ、ちょっといいですかね?」

レッサー「ソーズティさん出るお話間違えてませんかね?ここはレッサーちゃんがシメる所じゃないんでしょうか?」

レッサー「あと上条さんもヒロイン間違っちゃいません?目の前に超絶ぷりちーな私を放置しておいて、褐色スレンダー系にフラグを立てる暴挙を――」

レッサー「――はっ!?さてもしや……っ!?」

上条「お前が何を考えてるのかは知らないが、それは、違う」

レッサー「やはり貧乳にしか興味が無いと……!」

上条「違うっつってんだろ!何となく展開は読めてたけどなっ!」

レッサー「あぁこのおっぱいが憎い……!私が人様よりも豊満な胸でさえなければ……!」

ソーズティ「……なぁ、さっきから私をチラチラ見てるそこの女。喧嘩を売ってると解釈して間違えてないだろうな?」

上条「止めて下さい!?正体不明の魔術結社以外に敵を作りたくはねぇよ!」

レッサー「あー、最近ずっと肩が凝るなー。なんででしょうかねー」

上条「レッサーさんも不用意に喧嘩売るのは自制しなさいよっ!」

レッサー「不用意にフラグ量産する職人さんには言われたくないですがねぇ」



――『ヤドリギの家』教団本部 寄宿舎・厨房

テリーザ「上条さんっ、次こっちの皮剥きをお願いしますねっ!」

上条「はいっ!」

レッサー「上条さんっ!次は下――」

上条「ボケるんだったら後にしなさいっ!今ちょっとおにーちゃん手が離せないんだから!」

レッサー「手が離せないのであれば……ハッ!今が好機……ッ!」

上条「ベイロぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉプ!何だったらランシスでもいい!」

上条「この際フロリスでもアリサでも文句言わないからっ!誰か相方交代してくれっ!」

上条(あの後、ものっそいデカいスーパーで迷子になっていたテリーザさんを回収して、大量の食料品と一緒に本部へ帰って来た)

上条(こんなに大量に買いこんで大丈夫か?――と、思ったんだが)

上条(寄宿舎――つかホテルの厨房だ。そこへ押し込まれてエプロンを着せられた上条兄妹(嘘)は、延々下拵えをさせられる羽目に……!)

おばちゃん「中々やるねえアンタ達!」

レッサー「マムっ、イエスマムっ!光栄であります!」

おばちゃん「よく言ったわ!ジャガイモ追加してあげるわね!」

レッサー「……くたばれクソババア……」

おばちゃん「何か言った?」

レッサー「マムっ、ノーマムでありますっ!」

上条「お前も馴染みすぎだ」

上条(意外と戦力になってるレッサー。手料理は色々な意味でお見舞いされたけど、まぁまぁ……うん、手際はなかなかだ!手際はな!)

上条「……」

上条(……おかしいな?仮入信とはいえ、どうして俺はメシ屋のバイトっぽい事をやってんるだろう……?)

レッサー「そりゃ兄さんが帰りの車ん中で、『あ、自炊はするんで』みたいな事を言ったせいだと思いますが」

上条「独り言に突っ込み禁止――て、声に出てたか、今?」

レッサー「いや、そろそろ面倒臭くなってんじゃねぇかなって思いまして。私と同じく」

上条「合ってんのは合ってるがな」

上条(ちなみに調理班は俺達の他にテリーザさんとおばちゃん達7人、計10人のチームで作ってる訳で)

上条(何人分作るのは分かんねーが、気合い入れないと……なんつーか、保たない)

上条(どのぐらい大変なのか想像出来ないのなら、『ディナータイムのファミレスのキッチン』を見て貰えれば、何となく分かるだろう)

上条「……よし!」

おばちゃん「お、いい気合いだね!若いんだからしゃっきりしないと!」

レッサー「(余談ですが、こっちのオノマトペは後日私が上条さんへレクチャーした上、日本語へ変換してますんで悪しからず)」

上条「そうだな、俺達の戦いはこれからだっ……!」

レッサー「だからそれ死亡フラグですってば」



――その頃 暗き森の奥深く

ダークエルフ「……ふっ、愚かな人間め!この地球に巣くう癌細胞共が!」

ダークエルフ「貴様らがどれだけ母なる大地を穢し、母なる世界樹を傷付けてきたのか――その身に刻むがよい!」

刀夜「……」

ダークエルフ「どうした人間!恐怖の余りに口が利けなくなったのか!?それとも矮小さに震えが止まらんか!?」

ダークエルフ「蚊の如き僅かな寿命しか持たぬ身で!我らの悲願に口を挟もうなどとは傲慢が過ぎる――」

刀夜「……傲慢。成程、傲慢ですか。確かに、私達人間はそう称されるのでしょうな」

刀夜「『この世界へ対して傲慢である』――そう仰る方程、逆に傲慢なんですがねぇ」

ダークエルフ「何?なんだと?」

刀夜「えぇですから、私達人間の振舞い――自然を廃し、時には種を絶やしてまで利益を得ようとする」

刀夜「それをあなたは『傲慢』だと仰いました。でもそれは『あなたの身勝手な意見にしか過ぎない』んですよ」

ダークエルフ「……貴様!この期に及んで我らを愚弄するのか……!?」

刀夜「愚弄などしていませんよ。しているとすれば、それはあなた達自身でしょうに」

ダークエルフ「貴様は何を――もしや気が触れ――」

刀夜「『自分が理解出来ないものは狂人扱い』ですか……やれやれ、それでは人間と変わりませんな」

刀夜「自分達と違うものにあぁだこうだと理屈をつけ、排除をする。相互理解を謳いながらも、端からするつもりもない」

刀夜「よくまぁそれで、自分達が人間よりも優れていると豪語出来ますな――」

刀夜「――それこそがまさに『傲慢』であると言うのに、ですよ」

ダークエルフ「――この!言わせておけ――」

刀夜「――黙りなさい!あなた達が高貴だ何だと語るのは結構だが、そう自称するからには相応しい立ち振る舞いするべきだ!」

刀夜「丸腰の相手へ段平を突きつけ、討論に叶わないのであれば暴力へ訴える!そのやり口のどこが正統な振る舞いかと言っているんだ!」

ダークエルフ「……く」

刀夜「……宜しい。確かに私は喧嘩も碌にした事の無い人間だが、自分の命を守るのであれば棒きれでも拾って戦うつもりはある!」

刀夜「訓練を積んだ君達には叶うべくもないだろう。だが妻と息子、家族を守るためには躊躇わないよ」

刀夜「そんな人間を一方的に弑したという汚名が欲しければ、幾らでもかかってきなさい!さぁっ!」

ダークエルフ「……口は達者だな、人間」

刀夜「いや、まだまだだよ。君達が本当に屈辱を味わうのはこれからだ」

ダークエルフ「何だと……?」

刀夜「君達は私達人間を傲慢だと言ったね?その理由として挙げているのは『他の種を滅亡させる』のが根拠なのかな?」

ダークエルフ「そ、その通りだ!この世界は共存出来る筈なのに――」

刀夜「それは一体『誰』が言ったのかな?」

ダークエルフ「誰でもだ!そんな常識エルフの子供だって知っている事だぞ!」

刀夜「それはつまり、君の場合だとご両親か、近しいご親族の方から教わったって事で良いのかな?」

ダークエルフ「ああ、そうだ」

刀夜「つまりそれは『君達の一族の独り善がりな思想』って事なんだよね?」

ダークエルフ「……我が一族に対する愚弄、流石に捨て置けんぞ……!」

刀夜「ふーん?なら聞くけど、私の考えは合っているのかな?まぁ単純な話――」

刀夜「――『君達の一族が大地や世界樹から聴いた』んじゃないんだよね?違う?」

ダークエルフ「当たり前だ!我々のような概念の意志を持っていない相手と言葉が交わせるものか!」

刀夜「なら君達、どうやって『自然はこういう風に考えているに違いない』って判断したの?だから根拠は、何?」

ダークエルフ「根拠などお前も常に目にしている筈だ!」

ダークエルフ「この大地!この星では生命が循環している!お互いに支えあっているんだ!」

ダークエルフ「地球が生まれてから数十億年!我らはそうやって生きてきたんだ!」

刀夜「――恐鳥類って知ってるかな?ディアトリマ……は、有名な筈なんだけど」

ダークエルフ「鳥?鳥の話が何故出てくる?」

刀夜「恐竜が滅亡した原因は色々言われているが、急な気候の変化に対応出来なかった、という見解が未だ多勢だね」

刀夜「巨体故に温度変化に弱かった、との説は最近じゃ否定されつつあるけど……まぁ、さておき。絶滅後の話だ」

ダークエルフ「まさか『恐竜が絶命したのは人類の仕業では無い、だから人間だけを責めるの間違っている』等と言うつもりじゃないだろうな?」

刀夜「まさか。超時空宰相HIDEYO-SHIでもあるまいし、何でもかんでも責任を押しつけるつもりは無いよ」

刀夜「私が言いたかったのは、『その後直ぐ哺乳類の時代は来なかった』という点だね」

ダークエルフ「……?お前達が教えている歴史とは」

刀夜「同じだね。サラッとしかやらないので、意外と知ってる人間が少ないってだけでさ」

刀夜「実は哺乳類が天下を取る前に、世界の大半を鳥類が占めていた時代があった」

刀夜「――と、言うと怒られそうだけど、少なくとも食物連鎖の頂点に恐鳥類っていう、2mを超える肉食の鳥がいたんだよ」

刀夜「ディアトリマ、フォルスラコス、ケレンケン。200kgを超える大型の肉食鳥類で、紛れもなく頂点にあった」

刀夜「――が、今は姿を消している。当たり前だけど絶滅したからだよ、哺乳類肉歯目の台頭によって」

刀夜「その肉歯目だって食肉目――今のネコ科が出てくると、絶滅するんだけどね」

刀夜「胎盤の有無、肋骨の骨の数が影響してるんじゃないか、って指摘はあるけど、実際の所はまだ解明されてはいないかな」

ダークエルフ「だから、一体」

刀夜「つまりね、別に『人間が存在するずっと以前から、絶滅は生命の歴史そのもの』なんだよ」

刀夜「恐らく、植物以外で最も長い間食物連鎖の頂点に立ち続けた恐竜であっても、同じ種がずっと君臨はしなかった」

刀夜「獣脚類のティラノサウルス、スピノサウルス、アロサウルス。どれもが食物連鎖の頂きへと立ちながら、絶滅しているね」

刀夜「隕石が落ちた訳でも無く、核戦争や宗教間の対立があった訳でもなく」

刀夜「ただ『エサとなる大型草食動物を採り過ぎた』なんて、マヌケな理由でだよ」

ダークエルフ「……」

刀夜「住み分け?共存?この地球にそんなもの、どこにも無かったよ」

刀夜「それどころか肉食恐竜が草食恐竜を食い尽くす、なんてのは日常茶飯事。ある種が他の種を絶滅させるのは当たり前だ」

ダークエルフ「そ、それでもだ!食物連鎖であるのならば仕方が無い!人間とは違う!」

刀夜「……君は、君達は『食物連鎖だったら他者を害するのも許されるが、それ以外ではいけない』って考えなの?ふーん?」

刀夜「例えばイルカは趣味で他の生き物を襲ったり、リンチを加える性質がある。『娯楽』としてだ、と言われているね」

刀夜「イルカの他にも狼が羊を襲うのが確認されているね。面白半分に殺して、一部だけしか食べなかったりさ」

刀夜「他に寄生虫は自身が食す訳でも無いのに、自らの宿主を操って、他の生き物へ食べさせる習性がある」

刀夜「食虫植物はどうだい?『光合成で満足出来ないで、他の命を奪うのは傲慢だ!』とは言わないよね?」

ダークエルフ「それでもだ!人間は娯楽のために!自らの目的のためだけに命を奪う!それこそが自然の原理から外れているんだ!」

刀夜「――って、『誰』が言ったの?」

ダークエルフ「それは……」

刀夜「地球さんが言ったのかい?『最近ニンゲンって奴らが調子乗ってるよねー?』とか」

刀夜「それとも世界樹の意志とかがあるのかな?ねえ、どうなんだいそこら辺の所?」

ダークエルフ「い、言わなくって――」

刀夜「言わなければ、分からないよ!大切な事になればなる程、意思疎通を綿密にしないといけないんだ!」

刀夜「それが親子であったとしても!すれ違う時はどうやったって間違えるんだよ!」

刀夜「そりゃね、確かに面白半分で誰かを傷付けたり、滅ぼしたりはしちゃけないさ。少なくとも『ニンゲン』の持つ倫理感に照らし合わせて、私もそう思うよ」

刀夜「けど実際の所。君達は自然の代弁者でも何でもない訳で。自然の声を聞こえる訳でも無く、誰かに選ばれたのでも無い」

刀夜「ただ『自然はこう思っている”に、違いない”』と勝手に決めつけ、代弁するだけの存在じゃ無いのかな?」

刀夜「生物学をかじっていれば、絶滅なんて珍しくも無いし、有り触れた現象の一つにしか過ぎない」

刀夜「その一点だけを殊更に強調し、さも私達人間が劣等種であるかのように判断し、交わりのを拒み、排除する」

刀夜「……君達の方が、圧倒的に『傲慢』だと思えるけどね」

ダークエルフ「……」

刀夜「……とは、いえだよ。君達の指摘も間違っちゃいない。というよりも、一部に限っては本質を突いていると言っていい」

刀夜「だからこそ、本来は温厚であろう君達がこれだけ怒ったのも理解もするし、共感もしよう」

刀夜「そう――そこから、始められないかな?」

ダークエルフ「何を、言って……」

刀夜「君達が『弓なり病』と呼んでる病は、私達の世界で『破傷風』と呼んでいるものだよ」

刀夜「死病であり、毎年数十万人程度の人間が命を落としている」

ダークエルフ「……そうか、そちらの世界でも病は存在するのか……!」

刀夜「だがしかし、それは世界での値であって先進国での死者は殆ど居ない」

ダークエルフ「居ない……?」

刀夜「ゼロじゃない。けれど限りなく低い」

ダークエルフ「そんな治療方法があるのか!?ならば――」

刀夜「あくまでも素人考えであるし、そもそも見立てが間違いなのかも知れない」

刀夜「だけれども、たまたま持っていた抗生物質が族長さんの娘さん?だかにも効果があった事から、少なくとも症状の改善は見込まれるよ」

ダークエルフ「なら、我らにも――」

刀夜「ただし!当たり前だけど対価を支払って貰わないと、薬は譲れない」

ダークエルフ「何故だ!?強欲な人間よ、貴様らは我らの弱みへつけ込もうとするのか!?」

刀夜「いや、そうじゃないんだ。仮に……例えば、ここで私が私財を投げ打って、君達を助ける事は出来るんだよ」

刀夜「薬もまぁそこまで高いものではないし、不可能ではない」

刀夜「でも、それじゃ何の解決にもならないんだ。君達が代金を支払わなければならない分を、私が肩代わりしているだけなんだから」

ダークエルフ「……」

刀夜「仮に……そうだね、私が生きている限り支援を続けたとしても……精々30年。私の息子へ託したとしたも、まぁ60年が限度だろう」

刀夜「それを過ぎたら君達はどうするつもりだい?また誰か人里へ遣わして、助力を求めのかな?」

刀夜「その人間が君達を救うだけの力を持っているとは限らないし、また君達の事を暴露しないとも限らないよね?」

刀夜「君達が今の生活を続けたいのであれば、情報が外へ漏れるリスクは最小限に留めた方がいい」

ダークエルフ「……なら、我らはどうすれば良いんだ?貴様に縋り、善意に頼るのも駄目だと言うし、他の者を招くのもダメだと言う」

ダークエルフ「このまま死を待つのが、自然の掟だと言うのか……!」

刀夜「だからその考えが『傲慢』だって言ったじゃないか、私は」

刀夜「人が生きる死ぬのに運命なんてないよ。結末が決まってる?神様が決めた道がある?」

刀夜「それとも幸運と不幸の量が決まっている?馬鹿馬鹿しい。そんなものがある訳がないじゃないか!」

刀夜「仮にだ。もしそんなクソッタレなものがあるって言うんなら――」

刀夜「――その『運命』、私がぶち壊すだけだからね……!」

ダークエルフ「貴様……」

刀夜「現役の証券マンを甘く見ないで欲しい。こう見えても口八丁と伝手には自信がある」

刀夜「今問題になっているのは二つ。『当面の間の薬代』と『持続的なケア』の必要だって事だよ」」

刀夜「後者は然程問題はない。幸いにして、君達は長い命と高い知識がある」

刀夜「……多少見目麗しいのは問題と言えば問題かも知れないが……まぁ、使いようによっては武器にもなる」

ダークエルフ「……?」

刀夜「『自分達の自分達で作ろう』って話さ。私達の世界へ来て」

ダークエルフ「我らに貴様らの術を学べと言うのか!?」

刀夜「一族のためだろ、嫌だとは言わせないよ?」

刀夜「それとも君達のちっぽけなプライドが、これから生まれてくる子供の命よりも重いんであれば、好きにすればいいさ」

ダークエルフ「……くっ!」

刀夜「そして当面の問題だが――この草、えっと」

ダークエルフ「……ただの薬草だが、それがどうかしたのか?」

刀夜「高い滋養効果がある。これで特許を取れば一財産は楽に築けるだろうね」

ダークエルフ「ときよ……?」

刀夜「詳しくは省くけど、まぁこの草を育てて売れば儲かるって事さ」

ダークエルフ「……なら、その代金でコーセーブシツとやら買えばいいのではないか?」

刀夜「草は草だよ。いつまで経っても同じ値段で売れるとは限らないし、より効果の優れた物が出れば価値は下がる」

刀夜「『アンボイナ事件』――昔は香辛料が金の一掴みと同じ価値があるとされ、戦争やその寸前にまで発展する事はしばしばあった」

刀夜「が、そこまでして手に入れた物品であっても、暫くすれば価値が下がって以前のように利益を得られなくなる」

刀夜「それに君達の場合、もう少し事情が違うんだ……えぇっと、これはアフリカの難民キャンプで支援をした時の話なんだが」

刀夜「ある国で内戦が起こった。事の始まりはベルギー人が『聖書の教えに従って』人間を仕分けし、反目が高まったのが原因なんだが」

刀夜「ともあれ何十万人が殺し、殺され、多くの人間が難民として隣国へ押し寄せたんだ」

刀夜「当然、私達は彼らを見捨てては置けず、大量の援助物資や金銭が届いた――それは『善意』でだ」

刀夜「……でもね、『善意だからと言って必ず成功する』とは限らないんだ」

刀夜「可哀想だからという理由で、あれもこれも支援しすぎると駄目になるんだよ」

刀夜「『困った時に誰かが助けてくれる』――そう、信じ切ると人は堕落してしまうんだ」

ダークエルフ「……」

刀夜「例えば今回の件。悪い竜が居て、君達だけでは歯が立たず、どこかの勇者を連れてきて倒したとしよう」

刀夜「これはダメなんだ。一度これをしてしまうと、二度三度、困難が起きる度に外部へ依存してしまう体質が作られる」

刀夜「自分達だけでどうしようもない事態を、外部へ救いを求めるのは良い。けれどそれ”だけ”になってしまうのはダメだ」

刀夜「だから私達はまず井戸を掘った。他からの綺麗な飲料水を運ぶのではなく、次から難民だけで掘れる技術を教えた」

刀夜「次に厳しい気候でも実る作物の作り方を教えた。その次には子供に勉強を教えるようになった」

刀夜「安定して余裕が生まれれば、他の国の助けがなくとも他人を助けられるようになる。そういう仕事も私はしてきた」

刀夜「私は、っていうか御坂さんのお仕事なのだけれど、まぁそのうち紹介するかも知れないね――さて」

刀夜「君達も結論を出して欲しい。そうすれば私も君達の助けになる事が出来る」

ダークエルフ「……大丈夫、なのか?人間は強欲だというのに……」

刀夜「私は段平を突きつけられても一歩も引かない男だよ?それに比べれば、恐い物なんてないさ」



――エルフの集落 宴

刀夜「……ふう」

十代後半の少女「隣、いいだろうか?」

刀夜「ん?えぇ構いませんよ――っと、ちょっと詰めて貰えるかな?うん」

???「……」

十代後半の少女「宴は嫌いか?主賓のそなたへの感謝であるというのに」

刀夜「あー……いや、そんな事はありませんけどね。どうにも、嫌いというよりも、苦手かな、と」

十代後半の少女「ふむ?」

刀夜「私が何かした訳ではなく、元々はこちらにの皆さんは解決出来るだけの能力と危機感を持ってらしたんですよ」

刀夜「それにちょっと方法を出しただけで、私は特別に何をしたという訳でもありませんから」

十代後半の少女「……剣の針山へ飛び込んでおいて、何を言う」

刀夜「あぁあれはブラフですよ、ブラフ。先様が本気でしたら、流石に突っ込む勇気なんかありませんでした」

十代後半の少女「では彼女は本気ではないと?」

刀夜「私にはそう見えましたよ。焦りはあるものの、どこへぶつけたら良いのか分からない――って彼女!?」

十代後半の少女「ダークエルフの族長の娘だからな。立場は私とほぼ同じだ」

刀夜「鎧着てたから分かりませんでした……そっかー、キツい事言っちゃったかなー?」

十代後半の少女「そなたが気に病む必要は無いさ。誰かが言ってやらねばならない事だ」

刀夜「若いのにご立派ですね」

十代後半の少女「だから私達は見た目通りの年齢では――いやなんでもない」

刀夜「お若いのはいい事ですよ。ウチの女房なんてね、学生の頃から全然変わってなくっですね」

十代後半の少女「……その話、今は聞きたくないな」

刀夜「あ、すいません。前に話しましたっけ?」

十代後半の少女「そうじゃない!……そうじゃ、ないんだ」

刀夜「えーっと……?」

十代後半の少女「私は、そなたがその女性の話をする度、胸が――」

刀夜「はっはっはー、おじさんをからかうもんじゃありませんよ。ご婦人の言って良いジョークではない」

十代後半の少女「冗談、冗談か……そうだろうな、そなたにとっては――」

刀夜「あのー?」

十代後半の少女「……だが!それでも私は構わない!」

十代後半の少女「質の悪いジョークであっても!私にはっ、そなたが――!」

刀夜「……ちょっ!?ダメですって!私には妻と息子が!」

十代後半の少女「……大丈夫だ。森を救った英雄殿の子であれば、大事に育てられよう!」

刀夜「そういう問題じゃないですってば!確かにそっちも気になりますけど!」

十代後半の少女「それにホラ?息子さんにも弟か妹が居た方が喜ぶだろう?」

刀夜「当麻が?いやぁ、……どう、でしょう?」

十代後半の少女「幸い我が一族には『好きな相手へ幸運を与える』ギフトを授かる身だ!なので兄妹を作れば、その子が息子さんの不幸を解決出来る!」

刀夜「そ、そうでしょうか?」

十代後半の少女「その通りだ!だからこれは決して浮気などではない!大切な一人息子を救うためなんだ!」

刀夜「な、ならしょうがない、ですかね?当麻のためだったら!」

バードウェイ(???)「――と、少し待て。いや大分待とう、大馬鹿者の父親」

刀夜「えっと……?」

十代後半の少女「はい……?」

バードウェイ「『誰だっけ?』みたいな顔をするんじゃない!ずっと居ただろうが!少し前にも席を譲ってるし!」

刀夜「あぁうん憶えてますよお嬢さん!現地の子でしたよね?」

バードウェイ「貴様の息子の将来の嫁のレイヴィニア=バードウェイだっ馬鹿者がっ!!!」

バードウェイ「ずっと居たぞ!貴様がこっちに連行されてから、直ぐに追い付いたわっ!」

バードウェイ「森の中ではゴブリンに襲われそうになった時にも助けたし!オークにアッーされそうになったのも助けてやってたんだよ!」

バードウェイ「つーかほぼ横に居ただろ!?なんだ貴様ら!?代々尽くす女はスルーする異能でも拗らせているのかっ!?」

刀夜「あー、そうなんだ?ありがとうございました」

バードウェイ「ん、あぁいや別に恩は高く売っておくつもりだったから――じゃ、ないっ!」

刀夜「ちょ、首がっ!?首が絞まってますよ!?」

バードウェイ「あの馬鹿者共がさっさと貴様を見限って去った挙げ句!加齢臭臭い親父の世話を任せられた身にもなってみろ、なあぁっ!?」

バードウェイ「しかも見捨てて帰ろうとの提案を蹴って、最後の最後まで面倒を見るわ!」

刀夜「い、良い事じゃないですか!人助けですよっ!?」

バードウェイ「知らんし、興味もない。破傷風拗らせて死ぬのも、コイツらにしては『弱肉強食』なんだろう?放置すれば良かったじゃないか」

バードウェイ「そもそも破傷風自体、Tetanus bacillus――破傷風”菌”が体内へ入って神経毒を生む仕組みだ」

バードウェイ「言ってみれば連中の大好きな『自然と一体化して栄養になる』んだぞ?それを否定するのは酷な気がするがね」

刀夜「や、でも別に生きれるんでしたら生きた方が得じゃね?みたいなですね」

バードウェイ「そもそも世界は輪廻を繰り返している、という考え方自体がおかしいんだよ」

バードウェイ「この宇宙が誕生した時に在ったのは水素とヘリウムだけ。ビッグバンで爆発的に広がり、濃度の濃い薄いで密度に変化が生じて重力が生まれる」

バードウェイ「その後、重力によって物質が圧縮されたり、星が限界まで押し潰されると希土類を初めとした鉱物が生まれるんだ。最初からあった訳じゃない」

バードウェイ「地球が生まれるのですらたった46億年前、原初の生命が産声を上げたのは36億年前だという説もあるがね」

バードウェイ「『たった一つの種子から全ての命がリンクしてる』証拠もなく、同時多発的に生まれた兄妹達を糧にしなければならなかったろうし」

バードウェイ「それに原子核の中の陽子の寿命は10”溝”年。10の32乗のも年月を経れば崩壊してしまう運命が待っている」

バードウェイ「原子を構成する物質が消えれば、全てのものは無へ帰すというのにな」

バードウェイ「万物が姿形を変えて円環になっているという『幻想』は、無知な人間の妄想に過ぎんさ――さてと」

バードウェイ「いいから帰るぞ。今から戻れば顔ぐらいは出せるかも知れんからな」

刀夜「あとキミ、当麻の嫁っつったけど、レッサー=チャンさんって娘さんがもう既にエントリーしててだね」

バードウェイ「ホンッッッッッッットッに!どうでもいい所ばかり耳ざといな貴様らは!どういう教育を受けてきたのか、あ?」

刀夜「……あの、ウサギの前足っぽいロッドがグリグリと当たってるんですが……」

バードウェイ「『Choose whether to return or to die? (帰るか死ぬか、選ぶといい)』」

刀夜「……待って下さいよ!まだこっちで話す事もあるし、戻ったら戻ったで手続きとかしなくちゃいけませんから!」

バードウェイ「――なら一人で帰るとしよう。なぁに心配はいらないさ、『戦士として立派な最期だった』と伝えてやるから」

刀夜「した憶えがありませんが!?でもちょっと男心に惹かれるものがあるフレーズですなっ!」

バードウェイ「嫁と馬鹿息子には『現地で年上のババアを捕まえてヨロシクやってた』と」

刀夜「それ伝えると本当に立派な最期になっちゃいますから!主に詩菜さんの手によって!」

バードウェイ「それが嫌ならさっさと帰るぞ。種としてとうの昔に終った連中の面倒など見てられんよ」

刀夜「……いやいや、バードウェイさん、私の本業を舐めてもらっては困ります!」

バードウェイ「……ほぅ?面白い事を言うな、親子揃って笑えんジョークが好きだと見える」

バードウェイ「この私へ対して、どうにかするだけのジョーカーを君が持っているとでも?……はっ、馬鹿馬鹿しい。寝言は寝てから言い給え」

バードウェイ「そもそもだ。取引というものは相手が欲しいカードを持っていなければ話にならん」

バードウェイ「うだつの上がらない加齢臭臭いサラリーマンに、一体何が用意できると言う言うんだ加齢臭臭い?」

刀夜「……なんか加齢臭臭い連呼されて、スタン○使いみたいになっちゃってますけど――これを」 ピッ

バードウェイ「携帯電話がどうし――まさかっ!?」

刀夜「確かにあなたはお強いのでしょう、えぇ。片手で私を振り回す時点で、ただの子供な訳はありませんからね」

刀夜「――ですが!あまり大人を舐めるなよお嬢さん?こういう戦いも出来るんだ!」

バードウェイ「……」

刀夜「言葉も出ないだろう!その写真は当麻の小学生の頃の写真だ!レアものだぞ!」

刀夜「ほーら、他にも中学生の時とか!少しグレてた頃の写真だってある!」

刀夜「これが欲しければせめてもうちょっと滞在を許して下さい!あと妻にはさっきのはナイショでお願いしますっ!」

バードウェイ「あー……その、なんだ。人助け、なんだよな?」

刀夜「は、はい、人助け、ですね」

バードウェイ「ならまぁ、少しだけなら?」

刀夜「ありがとうございます!」

バードウェイ「……ちなみに聞くが、これ以外にもあったり?」

刀夜「当麻が詩菜さんのお腹に居た頃から、一眼カメラで撮りまくりましたが何か?」

バードウェイ「――よし!ならばさっさと片付けて行こうか!人助けをするのに理由はいらないしな!」

刀夜「えぇ全く!なんか釈然としませんが!」

十代後半の少女「あの……私は?私の恋心はどこへ行けばっ!?」

バードウェイ「墓場まで持っていくと良い。なんなら手を貸そうか?」

十代後半の少女「……すいませんでした」

刀夜「よーし!父さん頑張ってお仕事してるからな、当麻っ!」

刀夜「何か忘れてる気もするけど!まぁそれは考えない方向で一つ!」

バードウェイ(ダンウィッチの調査……本職放り出して、減給で済めば良いけどな)



刀夜「詩菜さん違うんだよ!?これは浮気じゃなくって――そう、敵の弁護士の陰謀だ……ッ!」 〜祝祭のウンディーネ〜 −完−



――『ヤドリギの家』教団本部 食堂

レッサー「――って展開になってると思うんですがねぇ、今頃」

上条「なってねぇよ!人の父親をそんな異世界ファンタジーさせてんじゃねぇ!」

レッサー「まぁ、バードウェイさんは計算高い割に面倒見も良いですから、途中でほっぽり出すのはないと思いますよ」

上条「父さん……一体どこで何やってんだろうなぁ。あの女の人に連れられてトラブルに巻き込まれてんだろうけど」

レッサー「恐らく私の想像とそう大差ない面白展開になってる筈ですが――血として!」

上条「おっとレッサーさん、それ以上俺のDNAをDISるのは止めて貰えるかな?」

上条「最近は”血”の一言でアレコレ片付けられる傾向が強いが、これ以上俺の心を折らないで……!」

レッサー「最近じゃ事実を正確に伝えたり、誤りを指摘するとヘイト呼ばわりされますからねぇ――と、ソース取って貰えますか?」

上条「……お前の方が位置的に近いけどな、ほれ」

レッサー「あざーす」

上条「お前もお前でダメな日本語ばっか仕入れてくるねっ!」

レッサー「いやいや、語学で大切なのは『生の会話』ですんで」

上条「ま、一理あるな」

レッサー「辞書の例文とか読んでも、極めて穏当なものしか載ってないんですよね、これが」

レッサー「書類書く時や公式な場では相応しいんですが、それ以外じゃちと堅苦しいですよね」

上条「まぁ、それはそうかもな」

レッサー「なので2c○で浪○を買ってですね」

上条「そこまでする必要はないよ!?明らかに書き込む気満々じゃねぇか!?」

レッサー「○人は『アフィだ!金儲けなんて許せない!』って言わないんですかねぇ?」

上条「サーバーには維持費が必要だ、ぐらいは流石に分かるだろ……」

レッサー「ま、潰したいと思っている特定層は居るでしょうが、今更手遅れでしょうしね」

上条「その話はどうでもいいよ!黙って飯を食おうか!」

上条(――怒濤のメシ作りが終り、おばちゃん達を含む俺達は食堂で食事を取っている)

上条(メニューは自分達で作った残り。量は……まぁ少し足りない気もするが、余らせるよりはマシだろうか)

上条(ちなみに一番人気メニューは『大豆マヨネーズのポテトサラダ』という謎の代物だった)

上条(このマヨネーズはアレルギーや肥満防止のために卵を不使用……なん、だが、まぁ味はお察しとか)

上条(他の料理もまぁアレなんだけどな!流石イギリス飯!舌が痺れる憧れる!)

レッサー「……はて?今誰かがブリテンを貶したような……?」

上条「ごめんなさい、多分それ俺です」

レッサー「あ−、分かります分かります。外人のロ×は可愛い子多いですしね」

上条「惜しい!三大欲求カテゴリは当たってたけど、そっちじゃなかった!」

レッサー「ブリテン飯に関しちゃこんなもんですよ?あ、なんでしたら今から私が作りましょうか?」

上条「12時間煮込む謎料理は余裕がある時にしてくれ。あとアレ料理方法少しアレンジすれば、化けると思うが」

テリーザ「あの、お疲れ様でした?ご苦労様でした?――で、合ってます?」

上条「日本じゃ前の方が多いですね」

レッサー「ですが日本語的には『ご苦労様で御座いました』が正しいらしいですけどね。逆に失礼に当たるんで、わざわざは使いませんが」

テリーザ「本当に助かりました。前からもう、人手が足りなくて足りなくて」

上条「テリーザさんは助祭?なんでしょ。なのに食事まで作るんですか?」

テリーザ「お仕事は信者の方や体験入信の方のお世話が殆どですよ。助祭には就かせて貰っていますが」

レッサー「助祭そのものが『信徒の中から選んだ世話人』を指す場合が多いですからね。てかいつもこんなもんで?」

テリーザ「お恥ずかしながら、その人手が……」

上条「手伝って貰えばいいんじゃ?」

テリーザ「えぇはい、皆さんからお金を支払ってらっしゃるので、『手伝いなんかするか!』みたいな」

レッサー「あー、お客様なんですか。居ますよねーそーゆーヒト」

上条「……じゃなんで俺達に」

テリーザ「以前『N○と言えない日本人!』という本をですね」

上条「間違ってねぇけど、少し言葉を選んで欲しかったな!」

レッサー「ついでに言えば日本人、『NO!!!』なんて言いませんしね」

テリーザ「だ、大丈夫です!今は少しだけローテーションがおかしくなってるだけで!今新しく信者の方に手伝って貰う筈ですから!」

レッサー「思った以上にやっつけですが、そこまでしなくてもおばちゃんズ増やしたらどうです?」

上条「おばちゃんの信者を増やせって?どんな勧誘しろっつーんだ」

レッサー「ではなく、先程伺った所では彼女らは信者ではなく、近く民家からの通いだそうで」

上条「……なんでまた?」

テリーザ「さぁ、なんででしょうね?」

上条・レッサー・テリーザ「……」

上条「――ってお前中の人なのに知らねーの!?」

レッサー「上条さん、敬語敬語ー」

上条「お前も設定忘れてんぞー?」

テリーザ「わたしが悪いんじゃなくてですね、その、お手伝いして頂いていた方達が急に居なくなっちゃいまして」

テリーザ「作って下さってたインド料理、皆さんに大好評だったんですけどねー」

上条(インド料理?居なくなった?)

レッサー「(話を合わせて)」

上条「(……あぁ)」

レッサー「へー、そりゃ残念だったですねー、兄さん?」

上条「だな。俺達も食べてみたかった」

テリーザ「上条さん、ご兄妹でお料理得意ですものね。やはりそちらへ?」

上条「少しですけど調理関係に興味があったりするんで、その料理にも興味津々だったりします」

テリーザ「ナンって言う平べったいパンと、そこへ挟んで食べるスープみたいな感じで。それはもう何種類も作って下さってたんですよ」

レッサー「インド北部、世界に広まってるタイプのインド料理ですな」

テリーザ「あ、調味料残ってるけど見ます?」

レッサー「あるんですか?」

テリーザ「えぇ私物の幾つかがそのままで。急なお話だったんですねー」

上条「見せて貰えるんだったら、それっぽい風の料理も出来るかも知れませんよ?」

テリーザ「本当ですかっ!?い、今取ってきますから!」 ガタッ

上条「そんなに走らなくても――と、行っちまったか」

レッサー「……上条さんの料理スキルが、フラグ建てる以外で始めて有効に使われている……!」

上条「確かに――じゃねぇよ!薄々気づいてはいたけど!何か釈然としないな!」

テリーザ「――と、お待たせしました。これです、これ」

上条「缶ですね。コリアンダー、クミン、カルダモン……あぁ、これだったらスープカレーが作れます」

テリーザ「……あのー、もし良かったらなんですけど」

上条「あぁ作るのは別に――」

レッサー「――構わないんですけど。私達が勝手に使っても良いんでしょうか?えっと、そのIndianの人達に断りもなく」

テリーザ「チャンドラーさん達、前から自由に使っていいって仰ってましたし……ただその、インド料理をカレー粉なしで作れる人は、ですね」

レッサー「職人か本場の人、もしくは好感度狙いで料理憶えてる人ぐらいしか居ませんよねー?」

上条「ねぇレッサー?俺、その中だとどれに分類されんのかな?」

レッサー「まぁそこら辺の仕込みは兄さんと私でちょいちょいとするとして。ってか何人分ぐらい作れば良いんですか?」

テリーザ「大体寄宿舎に泊まってる方は100人ぐらいでしょうかねぇ。病院の方は数に入っていませんが」

上条「そういや入院してる人も居るんですよね?……姿を見なかった、ような」

テリーザ「あちらでは別に厨房がありまして、そちらで入院食を」

レッサー「あー、素人が作って良いもんじゃないですからねー」

上条「てかこっち来てから司祭?さんとかに見かけた憶えがないんだけど」

テリーザ「いやあの、わたし達四六時中きちんとした正装をしてるって訳じゃないんで……」

レッサー「あぁそれじゃ、気づかなかっただけですれ違ってたりはしてたんですかね」

テリーザ「かも知れませんねー。でも大体は病院の方で奉仕活をされているので、ミサでもない限り直接お話しする機会はないですけど」

上条「ミサねぇ」

テリーザ「明日の午後から第二聖堂へ司祭様がいらっしゃいますので、お二人とも行かれてみては如何でしょうか」

レッサー「その言い方だとテリーザさんは参加なさらないんですか?」

テリーザ「私はその時間、子供達のお世話をしないといけませんので」

上条「本当にお疲れ様です。てか人、増やせないんですか?」

レッサー「チャンドラー某さん達みたいに厨房班として、信徒の方から割り振って貰うとかは?」

テリーザ「話してはいるんですけど、中々上の方は現場の苦労を分かって頂けないようでして……」

レッサー「あー……だからIndianの方、他に稼ぎ口があってそちらへ流れた、と?」

テリーザ「そうなんですよっ!折角仲良くなったのに!わたし達には挨拶すらしてくれなかったんですから!」

テリーザ「そりゃお金も大事てすよ?移民だって立場も分かりますし、わたし達よりもご苦労されてるのは知ってますけど!」

テリーザ「せめて!仲良くなった子供達にお別れを言うぐらいの時間はあったんじゃないですかねっ!」

レッサー「――”なかった”のかもしれませんけどね、時間」

テリーザ「はい?」

上条「ま、そんな訳でインド”風”料理を作るのは任せて下さい。ただし仕込みがあるんで、明日の夕飯ぐらいになりますけど」

テリーザ「あ、はい。お願いします」

レッサー「ミサに出てからなんで。それまでどうしましょうか?」

上条「他の施設の見学と、時間余ったらテリーザさんのお手伝いでいいんじゃね?」

レッサー「また直ぐに新しい女性を口説こうとするなんて!幻滅しましたっ!」

上条「はいそこ初対面の人に嘘教えない!大体俺が手を出した事はない!」

レッサー「助けられた後に人生踏み外す方が続々と」

上条「――じゃ、テレーザさんまた明日!お休みなさいっ!」

テリーザ「あ、はい、おやすみなさい……?」

レッサー「すいませんねー、ウチのはテレ屋さんですから」

上条「お前もオッサンみたいな事言ってないでさっさと行くぞ!」



――寄宿舎 404号室

上条(――と、テリーザさんと別れた俺は割り振られた部屋にやって来た)

上条(404号室。4階の階段から近い場所にある角部屋だ)

上条(作りは完全にビジネスホテル。日本のと違って簡易電気コンロや冷蔵庫はない)

上条(ダブルベッドにトレイ兼用シャワールーム。小さな玄関がついてるのはちょっと驚いた)

上条(取り敢えず街で買っといた水とお菓子、簡単な筆記用具――あぁ後、携帯の充電もしとかねーとな)

レッサー「あ、先にシャワー浴びちゃいます?それとも一緒に?」

上条「じゃ一緒が良いな――ってバカ!?なんでレッサー居んの!?」

レッサー「気づくの遅っ!?最初からずっと居ましたのに!」

上条「お前の部屋は隣ですよ?ゲラゥッ!!!(Get out)」

レッサー「……流石に英語がお達者になりやがって幸いですよ、えぇもうご立派な巻き舌で!」

上条「お陰様でパニック映画で使う各種スラングと悲鳴の類は憶えたぜ!使う機会も結構意外にあるよ!やったね!」

レッサー「その空元気が素敵ですよっ!シャインっ!」

上条「……空元気っていう名の現実逃避だけどね!」

レッサー「なんつーんですかねぇ、こう、追い詰められてる上条さん見ると超楽しいんですよ」

上条「発想が人類のそれじゃねぇぞド外道め!」

レッサー「つーか上条さん!えぇ上条さん!カミジョーさーーーーーん!」

上条「なんで五七五っぽく言うの?最後ニュアンスが『消臭○』になってたけど?」

レッサー「私がね、何の考えも無しにここまで来たとお思いで?だとすれば甘いですよ!カレーの甘口ばりに甘いですから!」

上条「カレーの甘口は別に『辛さ抑えめ』であって、糖度が高いって訳じゃない……」

レッサー「まさか――私が上条さんを『兄さん(はぁと)』って呼んで疑似兄妹プレイをするためだけに、身分を偽ったとでも!?」

上条「お前ならやりそう。つーかやってる真っ最中じゃねぇか」

レッサー「……兄妹!えぇ兄妹!兄妹であればなんだって許されます!そう――」

レッサー「――ひとぉつっ屋根の下にお泊まりする事だってね!」

上条「――あ、俺今から部屋変えて貰うように頼んでくるわー」

レッサー「待って下さい!?本気で変えるってどういう事ですか!?」

レッサー「そこはホラっ!ラブコメでよくある展開のように、修学旅行で女子部屋に来た男子のように!」

レッサー「『あ、先生が見回ってるから帰れない!だったらしょうがないよなー?』ってなぁなぁで済ませる所じゃないんですかねっ!?」

上条「フィクションな?お前が拘ってるのはフィクションだから許されるんであって、現実でやっちゃうと気まずいよね?」

上条「昼間、俺がラッキースケベで壮絶な自爆かましたように、すればする程相手からは嫌われるからな?」

レッサー「いやぁソーズティさんの事であれば、フリだと思いますけどね」

上条「ないない。だったらもうちょっと俺の人生に潤いがあったっていいもの!」

レッサー「『恥ずかしい所を見られてるのに気持ちいいビクンビクン!』的な?」

上条「黙れ恥女!お前を基準に物事を計るな!」

上条「つーか別の意味で身の危険しか感じねぇんだよ!主に恥女に狙われる貞操の危機的な意味でなっ!」

レッサー「あ、なら私が添い寝して恥女を追い払ってあげましょうか!ささ、お早く!」

上条「そっかー、それじゃお願いしよっかなー――なんて、言うかッ!」

上条「ルパ○から犯行予告来てんのに、ガードマンに不二○ちゃん雇うやつはいねーよ!だってアイツらグルだもん!」

レッサー「いやでもしかし、ここは敵地ですよぉ?いつ何時、敵から襲われるか分かったもんではありません!」

上条「ま、まぁな?それには一理ある」

レッサー「なので私が上条さんの貞節が穢される前に頂こう、と!」

上条「やっぱり理はなかったな?つーか俺の周りは敵ばっかじゃん!?どうしてこうなった!?」

レッサー「や、私も初めてなので特殊なプレイは明日以降にして頂ければ幸いですが」

上条「だからね?お前はもう少し女性としての慎みをだね」

レッサー「服を着たままの方がお好きで?」

上条「全裸で迫ってこられるよりは、まぁ――ってそんな話もしてねぇよ!」

レッサー「――魔術師的な盗聴・盗撮は仕掛けられていません」

上条「大体お前は――って何?何の話?」

レッサー「いえ、ほらここまで騒いだら『何やってんだコイツら?』って疑問に思うじゃないですか」

レッサー「なので術式なり霊装を起動して確かめる――てぇのが、人間の心理だと思うんですよ」

上条「……成程。それがないって事は多分盗聴はされてないだろう、って事か」

レッサー「はいっ!ですので今の内に!」

上条「だな」

レッサー「あ、先にシャワー浴びちゃいます?それとも一緒がいいですかね?」

上条「会話をループさせてんじゃねぇっ!」



(以下、後編へ続く……)

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