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Clock(trial)

第三章 闇よりもなお昏きモノ

 
――ある焼け焦げた清掃室

ガチャッ

結標「……」

土御門「――いやっしゃいませお嬢様っ!カフェ、『ツチ・ミ・カード』へようこそ!」

土御門「当店ではツンデレ義妹から幼馴染み義妹!引きこもり黒魔術師義妹や年上義妹!ロリババア義妹に吸血鬼義妹とあるゆるニーズに応えるべく鋭意努力をしております!」

土御門「家族の雰囲気を演出する心温まるカフェ!さぁ中へどうぞお嬢様っ!」

結標「……ごめんなさい。10分遅れたのは謝るから、誰かこのボケのスイッチ切ってくれない?」

一方通行「諦めろ。オマエが来る前からスピーチの練習始めてンだぜ」

結標「てゆうか基本、義妹一択よね?属性色々と付加されてるけど」

一方通行「全員他人だァな」

土御門「え、でも結婚すれば夫婦になるノーカンじゃん?」

一方通行「ノーカンっつーのはそンなに安い言葉だったっけか」

結標「あと今”お嬢様”って呼ばれてドキっとした。殺意かしら……?」

一方通行「お嬢じゃアねェのが……いやなンでもない。特に意味はねェから懐中電灯降ろせ」

結標「あらやだ、『ここから先はァァァァァァァァァァァ!』って見せ場作ったげたのに」

一方通行「自殺願望でも持ってンだったらやったンぞ、アァ?」

土御門「ほらほらケンカしない!人が折角和やかに切り出したのにお前らときたらヤンキーみたいに!」

結標「『暗部』ってヤンキーの行き着く先じゃない」

一方通行「スキルアウトと一緒にすンな。こっちはもっと根性入ってンだよォ」

土御門「『暗部』の下働きは連中と決まっている。だから外れではないが」

土御門「出世魚と違って余程数奇な運命でも辿らない限り、下請けは下請けのままってことだな」

一方通行「雑魚の方ォが網をすり抜けられンだからいいだろ。わざわざかかりにきた物好きの将来なンざ、どォだって構いやしねェ」

結標「ヘンタイばっかりで怖いわよね」

土御門・一方通行「「オマエが言うな」」

結標「HENTAIはステータス……ッ!」

一方通行「開き直ンなよ。うぜェわ」

土御門「十人いれば十人の性癖があるある。仕方がない」

一方通行「それただ十人のヘンタイ集結しただけだろォが。十勇士か」

結標「ほら、よく『自分がおかしいって思ってる人は、おかしくない』って言うじゃない?」

一方通行「言うのか?」

土御門「信憑性はともかくしても、聞いたことはあるな」

結標「なのでちょっとだけ自覚がある思っている私はヘンタイじゃない!ノーマルだと言っても過言ではないわっ!」

一方通行「過言さんに人格あったら『いい加減にしろよオマエェェ』って言うンじゃねェかな」

土御門「この流れで行ったら22世紀には『過言;過言ではないこと』って辞書に載りそうだにゃー」

結標「にゃー?」

土御門「噛みました。他意はない」

結標「大体何?『暗部』は解体されたハズじゃなかったの、どっかバカが柄にもなく張り切ったお陰で」

一方通行「……蛇の道へ一回入ったンなら、抜け出すのも面倒臭ェンだよ」

一方通行「俺らがいなくなっても、はしゃいだバカが自己中毒起こすンだったら楽なんだかよ ォ」

結標「どっかの残党狩り?『新入生』ってルーキーの話もあったわよね、確か」

土御門「ま、そこら辺の話だろ。ちょいとフライング気味の同窓会とか洒落こもうぜ」

結標「いや……あなた確か先月ぐらいに死亡説、流れてたなかった?SNSで流れてきて超笑った記憶があるんだけど」

一方通行「どンなサービスだよそりゃ」

土御門「情報攪乱の一種だ。つーかそこは『戦友の仇を取ってやる!』って話には?」

結標「え、なんで?」

一方通行「『いつか殺す』リストから一名減って楽になンですけどォ?」

土御門「ボカァ幸せだなぁ、頼りになる仲間を持って!!!」

結標「そんなことよりも海原のアホはどこよ?人を呼びつけておいて」

結標「人が折角去りゆく夏服(※半ズボン)との忘れを惜しんでいたっていうのに!」

土御門「リアルに通報さっれちまえ」

海原「……」

結標「あぁいるじゃない。モブキャラかと思った」

海原「……」

結標「……なに?」

海原「――あなた達が静かになるまで5分かかりました……ッ!」

一方通行「校長かよ」

土御門「キャラ的には教頭じゃね」

海原「『暗部』を抜けて少々気が緩んでいるのではありませんか」

一方通行「あァ?」

海原「平和に染まるのは悪い事ではありません。ですが本分を忘れるのは如何なものかと」

海原「終わらない戦争がなかったように、永遠に続く平和なもなく。ある人は『平和とは次の戦争までの期間である』とね」

結標「ご高説有り難くって涙が出そうだわ。それで?オチは?」

海原「戦争が終わってナイフが必要とされなくとも、ナイフはナイフ。自分達は”そういう”生き方しかできないのだ、とそういう訳ですよ」

海原「誰にどんな上手い嘘を吐いたところで、その嘘に気づいているのは自分自身ですし、ね?」

土御門「学園都市で屈指の変装能力持ってるヤツが言うと、説得力もあるってもんだな」

海原「恐縮です」

一方通行「……クソッタレが。まァたそっちの話かよ」

海原「おや?一方通行ともあろうものが、同窓会でも期待していたんですか?なら次は準備をしておきましょう――ただし」

海原「自分達の手はとうに血に塗れています。それが自分の血か返り血なのかは分からないですけどね」

海原「今更染みの一つや二つ増えたところで、どうということもないでしょう?」

一方通行「まァ……そうなンだがなァ」

結標「それより用件を言いなさい。あなたに説教される憶えはないわ、時間の無駄よ」

海原「それは失敬――では、本題へ入るとしましょう」

海原「今日あなた方をお呼びしたのは他でもありません。一方通行、土御門さん、毒島さん」

結標「結標ね?まさかここへ来て名前ウロってどうなの?」

海原「ナイフにはナイフの使い方があり、平和な時代であっても道を外れるモノがあり、そろそろ自分達の本分へ戻るときが来ました」

土御門「因果な商売だが、誰かがやらないと片付かないわ」

結標「私はイヤよ。きちんとした報酬が出ない限りは」

海原「まぁ、仕事を持ってきたのは自分、ということでこちらをどうぞ」 スッ

結標「……結構分厚いけど、大丈夫なの?」

一方通行「俺はいらねェ。カネ払えばなンだってすると思われンのは心外だからな」

土御門「よっ、ツンデレ!」

一方通行「グラサン叩き割ンぞ、あ?」

海原「はいケンカしない。まぁ報酬はつまらないモノですので、受け取る受け取らないのはご自由にどうぞ――さて」

海原「ここから本題へ入らせて頂きますが、正直今回の案件は自分の手に余りましてね」

結標「ストーカーには荷が重いわけ?」

海原「そうはっきり仰ると返って清々しいものがありますが、まぁそうですね。手札が少ない」

一方通行「それこそチンピラでも雇えばいいじゃねェかよ。今だったら半額未満だろォし」

海原「どうせならば旧交も温めつつ和気藹々と行った方が楽しいのではないかと思いまして」

一方通行「オマエもいい根性してやがンよなァ」

海原「ま、一番厳しい場所には自分が行きますので、皆さんにはお手伝いを頂ければなと」

一方通行「あァ?面倒臭ェなンで俺が三下の露払いなンざしなきゃいけねェンだ」

一方通行「オマエと変わりやがれ。さっさと終わらしてやっからよォ」

海原「……一方通行」

結標「(ツンデレ?これがBなLなツンデレじゃないの?)」

土御門「(お前そっちもイケんのかよ)」

結標「(ホモを嫌いな女子などいない……ッ!)」

土御門「(そこそこいると思うぜ。声のデカい連中が言ってるだけで)」

海原「まぁご厚意はありがたく受けるとしましょう。何分一人ではキツいものがありますしね」

一方通行「きめェわ。厚意なンかねェわ」

海原「では一方通行は自分と一緒に南アメリカへ飛ぶとして、土御門さんは学舎の園の幽霊か横断歩道でタイムスリップ」

土御門「分かっ――はい?」

海原「結標さんはBBA繋がりで八尺様の調査をお願いします」

結標「BBA繋がりってなんだコラケンカ売ってんのかっ!?……あれ?」

海原「何か質問でも?」

土御門「海原、さん?あの、何か今単語が、な」

海原「まさか全員参加とは思いませんでしたが、自分達の友情パワーで全員野球といきまっしょい!ファィッ!」

結標「バカ、おいバカ話を聞け。なんでテンション上がってんのよ」

海原「合い言葉は『ういはるーーーっ愛してるぞーーーーーーーーーーーっ!』で!!!」

一方通行「グラサンこいつ抑えてろ。顔面割っから」

土御門「オーケー任せろ」

結標「私は人が来ないように見張ってるわ」

海原「待って下さいなんで急に敵対的になってんですかっ!?」

一方通行「この後に及ンで検討がつかねェのはある意味凄げェよ」

海原「ちょっと前まで『しゃーねーなー助けてやンよ』みたいな空気になってたってのに!」

土御門「なってたぜ?なってたけども、お前の口からバカワード出た瞬間にそんな空気は吹っ飛んだだけで」

結標「てかなに幽霊?はっしゃく……何?」

土御門「八尺様。創作系怪談の一つだ」

結標「それ調べるのってどういう了見なのよ!?能力者が一枚噛んでるってわけ?」

海原「実は自分の好きな超々深夜番組に投稿する動画をですね」

一方通行「それ以上言うンじゃねェ」

海原「こちらとしても自分の考え得る限り最強の布陣で臨もうかと思いまして!」

一方通行「そンな評価はされたくなかったわ。なに?オマエン中では俺もお笑い要員として登録されてンの?」

海原「自分、不器用ですから」

一方通行「やかましいっつってンだろ!不器用じゃねェよ純粋に頭悪りィンだよ!」

土御門「一方通行に胸倉捕まれて余裕あんな」

結標「バカじゃないの?てゆうかバカじゃないの?そんなしょーもない企画に大枚叩いているわけ!?」

結標「お金大切でしょ!?何下らないことに何十万も遣ってんのよ!?」

土御門「い、いや結標!俺は触りもしなかったがこの紙袋!」

結標「あぁ」

海原「『学園探訪』の円盤ですか何か?」

結標「いらんわっ!つーかアンタ『つまらないモノ』つった゛けどホンッッッッッッッッッッッッッッッッッッッットにつまらないわねっ!」

海原「布教用の円盤ですけど」

結標「まだ図書券の方が良かったわよ!こんな名前も聞いたことのない番組のDVD貰っても!」

土御門「俺は、まぁバイトの関係上知ってるけど」

一方通行「俺もちっこいのが見て――いやなンでもねェわ。気のせいだったわ」

結標「ダメな男どもよね!」

土御門「いやホントに俺はそういうんじゃなくて、ただちょっとMCの子を義妹にしたいだけだから、さ?」

結標「なにちょっとタメてんの?いいこと一切言ってないわよ?」

海原「まぁまぁそのぐらいに。自分の顔を立てるってことで」

一方通行「その顔を引っぺがすか悩ンでンですけどォ?」

海原「……仕方がないですね。では初回特典の『そげぶJCストラップ』もつけましょうか!」

一方通行「だからオマエン中での俺らってどンなキャラなの?ちゃちなストラップ貰って『じゃあやるよ!』って言うとでも思ってンのか、あァ?」

海原「どうせヨゴレなんだからいいでしょうっ!?」

一方通行「ヨゴレの意味が違げェだろ。物理的に返り血浴びてンのと芸無し芸人の芸風を一緒くたにしてンじゃねェよ」

海原「ゲイだけに?」

一方通行「マジ殺すわ」

海原「あぁいえ今のはですね、『同性愛者を差別するなと言いながら、性癖を見世物にして珍獣枠に入る事で食ってる人へのアンチテーゼ』であって」

海原「そもそも『公の場で性癖どうこう言うのはセクシャルハラスメントではないのか』、という強いメッセージ性がですね」

土御門「急に意識高い系になんなよ面倒臭い」

海原「――とにかく!今回は少しばかり範囲が広くて難儀していたわけですが!こうやって元『グループ』を結集させれば怖れるに足りません!」

海原「また頑張ってV投稿することにより、制作に気に入られてレギュラー入りする可能性だってゼロではなく!」

土御門「ないから。そういうの『あ、また来たイタイ投稿』って見なかったフリされるから」

海原「可愛い女の子だったら?」

土御門「善良なスタッフだったら芸能事務所にでも紹介すんだろ。善良じゃなかったらアイマ○薄い本でゲーム終了」

海原「あのゲームにはそういう人生教訓もあったわけですか……深いですね」

土御門「そういやコイツ日本人じゃなかったっけか」

海原「ではそんな勝ち組()に乗るために、取材、頑張りましょうっ!」

土御門「ダメだこいつなんとかしないと」

海原「一方通行、結標さ――おや、いませんね?」

土御門「……逃げ遅れたにゃー」

海原「では自分とアステカ廻りコースを」

土御門「アホ企画で学園都市出るつもりはないぜ。ていうかそこまで行ったんだったらついでに亡命するわ」

海原「なら学内で手を打ちましょう!」

土御門「いいぜ、付き合ってやるよ」

海原「土御門さん……」

土御門「妹を持つお兄ちゃん同士だし、なっ?」

海原「数年前まで接点すらなかったエア兄妹と、幼馴染み腐れ縁である自分たちを一緒にしないでくれませんかね」



――学園都市 XX学区 大通り

土御門「取り敢えずカメラは俺が回すわ。あと編集も声変えるのとかあるし」

海原「大変ですね、『暗部』は」

土御門「お前もそれ海原君にいい加減返せよ。借り物なんだからな」

海原「それもそうです。自分もたまに心苦しく感じるときがない訳ではないかもしれないような気分になったりならなかったりしますし」

土御門「お前の性格も狂ってるよな。一番善良そうに見えんのに」

海原「なら――じゃ土御門さんの皮を拝借しまして」

土御門「お前なんなの?バカなの?そういうキャラだっけ?」

土御門「俺の声編集してんのに俺の姿で撮ってんだったら意味無いだろ?」

海原「ドッペルゲンガー的なノリで」

土御門「……思ったんだが、『学舎の園の幽霊』って言ってたよな?」

海原「ありますね。いないはずの人が現れたり、いるはずの人が消えたり」

土御門「これはだ――第三位のアレがアレしてるとばっかり思って、俺は放置してたんだが」

海原「自分は御坂さんのプライベートなことを存じませんが、同意見ですね」

土御門「で、確か海原君オリジナルは常盤台の理事長の孫で、流石に中へ入れはしないだろうが、その近くをウロチョロしてるらしいと」

海原「最低のストーカーですよね。死ねばいいのに」

土御門「……これ、第三位のアレ姉妹に加えて、オリジナルとお前も目撃証言も入ってないか?」

土御門「第三位だけだったら『怪奇!神出鬼没のお姉様!』に、なってんだろうが、対象が一人じゃないから幽霊騒ぎ、とか?」

海原「……」

土門「おい」

海原「――即・解・決☆」 横ピース

土御門「それは男がして良いポーズじゃない」

海原「ネタは一つできたのでサクサク行きますよ!都市伝説を制覇する勢いで!」

土御門「オンアエできないぜぃ」

海原「ぜぃ?」

土御門「キャラちょっと変えるにゃー。身バレしないように」

海原「まぁいいですが――さて、ここが噂の横断歩道ですっ!」

土御門「なんの?」

海原「なんでしょうか?」

土御門「禅問答してんないぜぃ。つーか設定ぐらい固めとけ!」

海原「と言われてましても自分はですね、地元の人間ではないので色々と」

土御門「あぁ”地元”じゃないわな。それじゃ俺が一肌脱ぐぜよ」

海原「都市伝説も土曜男爵ぐらいしか知りません」

土御門「それゲーデ。ブードゥーの死神の名前知ってる方がよっぽどマニアックだにゃー」

海原「ここではなんですから、どこか入りません?」

土御門「日焼けはお肌の大敵ですたい――が、日焼けしないヤツにも面倒だわにゃー」

海原「継ぎ目が浮いちゃうんですよね」

土御門「マスカラ感覚かっ!?」



――ファミレス

土御門「んで、なんの怪異について知りたいんだぜぃ?」

海原「八尺様ですかね。擬態のプロとしては気になります」

土御門「いいぜぃ。元々は創作系怪談。ぶっちゃけ作り話から派生した都市伝説だ」

土御門「まぁどっかのバカが地雷を踏んで、2m以上のデカ女にストーカーされるというのが主旨だな」

海原「……自分が調べたよりもザックリとしすぎですが……」

土御門「そのデカ女の上背が大きく、八尺――240cmぐらいだったから八尺様だそうだ」

土御門「なお、”尺”は時代や地域によって微妙に違う。約30.3cmは明治期に一括して決まった」

海原「自分はあまり本を読みませんが、中々怖い話ですよね」

土御門「だにゃー。怪談としてはよくできていると思うぜ」

海原「創作だとする根拠は?」

土御門「フォークロアで類似した民話が採取された例が皆無、何となく元ネタにした単語も分からないではないにゃー」

土御門「『ない可能性はゼロではない』を、否定するつもりはないが、それ言ったら『キリストが来日して墓を作った』のもゼロではない訳だぜぃ」

土御門「よって『証明のできない説は仮説にしか過ぎない』と一刀両断するのが筋ですたい」

海原「モスマン探すにしたって、実在派の皆様にはまず捕獲するところ始めてほしい、ですか」

土御門「ただ逆に、デカい女の伝説・伝承の類はない訳じゃない」

海原「あるんじゃないですか」

土御門「山女、山姫、所謂山姥……あー、山に住む鬼ババアっつって分かるか?その類の」

海原「西洋のウィッチ的な?」

土御門「それ以上言ったら東西魔術合戦になるが、いいか?」

海原「キレるポイント間違えてますよ」

土御門「いや、察しろよ?ウィッチってのはもっとこう、フワフワしてプニっとしててキャッキャウフフ的なアレなんだよ!?魔法使いなんだよ!」

海原「自分の知識だと大抵年寄りでしわくちゃで、魔法の箒に乗ってサバトってる感じなのですが」

土御門「そんな訳ねぇだろうが!彼女たちはみんなマジカルなアカデミー行って次の魔法の国のプリンセス目指して頑張ってんだよ!」

海原「自分はMOEをよく分かりませんが、それ多分70年代の魔女っ子アニメの設定じゃ……?」

土御門「で、でも宗教画っつーかヒロニムス=ボスの絵画とかであっただろうが!つまりその当時の人にはその世界観が浸透したってことだぞ!」

黒ゴス女「――それは中世辺りに描かれたルネサンスの影響。十字教関係の絵画しか描けない時代があってた」

黒ゴス女「その当時に『どうやって売れる絵=エロい絵』を描くか試行錯誤した結果、白羽の矢が立ったのは魔女って訳」

黒ゴス女「若い女の全裸を描くっつったら角が立つけど、魔女を配した宗教画でゴリ押ししたのよ」

黒ゴス女「まぁ問題あるなしなら勿論あったんだけど、十字教の弱体化と共にオープンになっていった変遷であるとも言えるわね」

海原「……成程」

黒ゴス女「それでそっちの金髪グラサン、テメェどっかで見た顔だな、あ?」

土御門「そ、そんなことないです?どこにでもいる顔じゃないですかヤーダー」

土御門「お姉さん外人だからきっとジャパニーズの見分けつかないじゃないですかねー、うん、きっとそうですよー」

黒ゴス女「そうか。邪魔したわね」 スッ

海原「……あの、今のは?」

土御門「他人だゃー、全く知らない他人ですたい」

土御門「ロンドンにいたとき間違った日本像を散々吹き込んで遊んでいた相手じゃないぜぇ?いやマジでマジで」

海原「たまーに土御門さんも上条さんと同じく地雷を踏みに行く癖がありますよね?」

土御門「――まっ、ともあれ!日本のデカい女っつってら山女ぐらいしかないの!」

海原「いるのは、いるんですよね」

土御門「つっても山怪の一種だぜぃ。ある日、木地師が山ん中入って行っていったら視線を感じるんだよ」

土御門「『誰か見てるのか』って探したら遠くの方、竹藪から女の顔が覗いていた」

土御門「女は普通にこちらを見ていたが、どこかおかしい。なんかがおかしい」

土御門「なんだろうなー……と首を傾げた男は、気づいた。気づいてしまったんだ!」

土御門「その女の顔がある場所は、竹林の”上”だってことに……ッ!!!」

海原「……」

土御門「女がにいっと笑ったかと思ったら、男は恐ろしくて後を振り返ることもなく逃げ出してしまったそうだ――が」

土御門「男は山での出来事を話した後、しばらくすると死んでしまったそうだ、と」

海原「成程……つまり?」

土御門「テメ俺の話聞いてたかコラ?」

海原「竹林の上、というのが」

土御門「種類にもよるが4・5m以上の植物だぜぃ。その上に顔突き出るような女なんざいたら、どんだけデカいっつー話だにゃー」

海原「竹に登ってたというはオチはないんでしょうか?」

土御門「あんなモロい上に折れやすくて刺さりやすい凶器みたいな草は中々ないぜぃ。サルでもないと無理」

海原「あ、テングだったら行けるじゃないですか!」

土御門「そうだな、確かにテングだったら超余裕だと思うぜぃ」

土御門「でも海原、俺たち妖怪が現実的に考えたらどうだろう?って話してんのに、そこへ他の妖怪持ってきたら千日手になるよな?」

海原「海外でもそこそこ知名度あるTENGUはさておき、山女が八尺様の正体――」

海原「……にはならないですよね。条件が違いすぎる」

土御門「そのとーりですたい。都市伝説が都市伝説止まりなのは話が薄っぺらいからだぜぃ」

土御門「仮に八尺様的な怪異が居た――概念だけなのか実在したか別にして――と仮定すれば、当然現地の人たちは対策を立てる」

土御門「魔除けにお祓いに民間伝承。それらの類が一切残存してないって時点でもう、ただの質の悪い噂にしか過ぎない」

海原「特定の村落で特定の人間達に秘められてきた、という線はどうでしょうか?」

土御門「『可能性がゼロではないだけ』だ、にゃー。それこそ水掛け論に水掛け論を重ねるようで」

土御門「そもそも都市伝説や怪談の証明って難しいんだぜぃ。実証責任は”ある”と主張しているのに、相手を否定するためには”ない”証拠を用意する必要がある」

土御門「それこそ証明何てできやしないもんだから、類型伝承引っ張って来て、『一番似ているのでもこれだけかけ離れている』ってのどーにか」

海原「分かります。コロンビアの黄金スペースシャトルはご存じですか?」

土御門「あぁ知ってるぜぃ。オーパーツの一つ」

海原「と、して知られてはいますが、まぁあれ何種類かあるんですよ。ハチドリに似たのとか、プレコというナマズにそっくりなのとか」

海原「ですが一番”それっぽい”のだけ取り上げられ、スペースシャトルとして有名になりまして」

土御門「俺もその話聞いたときショックだったぜぃ。水晶ドクロと一緒でパチモンかよと」

海原「ですが、肯定派の方は『確かに他の種類のは鳥や魚を模しているかもしれない――だがこれはスペースシャトルだ!』と」

土御門「もうそこまで突き抜けっと清々しいにゃー」

海原「組織――もとい、昔入ってた仲良し考古学サークルの幹部が話していたんですが」

土御門「仲良くない集まりに限ってどうして”仲良し”って言うんだろーな?」

海原「考古学的にも先人が発掘したモノを系統立てて積み上げるのに、横からハンマーでぶん殴るような暴挙はいい加減してほしいと」

土御門「トンデモ学説披露して、学会の失笑買うってのも中々ロックな生き方だぜぃ」

海原「いえ、個人が個人の責任で何言おうと自由ではあるんですが、まぁ置いておきましょう。笑われるのも論点ではありません」

海原「個人が、トンデモ説に嵌まって研究時間や資金を浪費すれば、それは考古学界全体から見て一人の損失」

海原「そしてただでさえウチの学科少ないのに!優秀で熱心だけどおつむの弱い学生の未来を棒に振りやがって!」

土御門「海原、ハウスっ!」

海原「……おっと失敬。なぜか魂の叫びが」

土御門「ちなみにそのサークルは古代からの知識受け継いでんだよな。素人ドン引きするような術式とか霊装と一緒に」

土御門「そっちのプロから見て、黄金シャトルはどんな位置になんかのにゃー?やっぱ静止軌道衛星上にマウントできるような超兵器なん?」

海原「禁則事項です☆」

土御門「そこは『キョ○くん』も付けてほしかったぜぃ。お前のキャラ的に」

土御門「まぁ――八尺様が仮にタタリか何かの怪異なり術式なりだったとしても、ここまで拡散されて犠牲者の一人も出てない時点で大したことはないって話だな」

海原「あ、今の話使ってもよろしいですか?たまには真面目な考証を入れる回があってもいいでしょうし」

土御門「てかそれ以外に使いどころがないぜぃ。ヤロー二人でスパゲティ食う絵撮っても切ないだけだろ」

海原「しかし疑問が一つ。いいでしょうか」

土御門「どーぞ」

海原「八尺様の方は”現時点では”創作だとしても、巨体な山女の方は伝承として残ってますよね?」

土御門「その通り。いくつかの地域で似たような話が伝わっている」

海原「その人たちは最初に『何』を見たんでしょうか」

土御門「日本の巨人伝説は多いぜぃ。千曳の神から始まって手長足長や入道系の妖怪まで」

海原「いや、ですから妖怪の正体探しに他の妖怪を引っ張って来るのは禁じ手では?」

土御門「なんかUMA的なのを見て想像したんじゃん?的なの、まぁロマンはあるんだぜぃ」

海原「ならさっきの学舎の幽霊さんも自分じゃない可能性もありそうですよねぇ。今からでもそっち調べた方が――」

麦野(メンテナンス中)『……』 コツコツ

麦野(メンテナンス中) ピタッ

麦野(メンテナンス中)『傷跡ほのぼの奴隷系薄いゲームで一億――つまり!』

麦野(メンテナンス中)『まだ、ワンチャンある……ッ!!!』

麦野(メンテナンス中)『……』 コツコツコツコツ

土御門「……あの、違うんだにゃー」

海原「いま、どう見ても都市伝説になりそうな人がっ!」

海原「――自分、ちょっと取材してきますからっ!」

土御門「待て海原!あそこは、あそこだけはこの世界で最もガチなところだから近寄っちゃダメだっ!」


(第4章へ続く)

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