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Clock(trial)

MMR(御坂美琴の料理教室) 特別編 「アニサキス」

※そこそこグロい内容を含んでいます。ご注意下さい


――学園都市某所

円周「全国の当麻お兄ちゃーーーーーんっ!こーんにーちーはーーーーーーっ!木原一族の飛び道具円周でーーすっ!」

円周「再登場したと思ったらバッテリー代わりに使われて即ポイで散々だけど、私は一生懸命生きてますっ!やったねっ!」

円周「いつまで待ってもやってこない第三期よりも、美琴ちゃんの方へ乗り換えた方が早いかも!うん、あるあるっ!」

御坂「いい加減にしなさい!意外とありそうだからその展開!」

円周「もうなんか科学サイドで新キャラのフリして出た方が早いかなー、なんて思ったりするよねっ!」

御坂「まぁ……白い人の『暗部』がこっちに飛び火してきてるしねぇ」

円周「うん、ぶっちゃけね。ファンの人が作ってる薄い本のほとんどが美琴ちゃん側へ偏ってる、って現実が」

円周「特に美琴ちゃん側から入った熱心なファンの人たちは、当麻お兄ちゃんを居なかった事に……!」

御坂「あ、アイドル性が求められる業界だから仕方がないわよねっ!中の人も同じで!大変なんだからねっ!」

円周「え?別に結婚した程度でファンがアンチへ変わるって、最初からその程度の”好き”ってことでしょ?」

御坂「問題発言はやめて!『ま、まぁ確かに!』と同意しなくもないけど!」

円周「と、いう訳でゲストの木原円周ですっ!生きててよかったよ、生きてるって素晴らしいねっ!」

御坂「あ、うん……生存確認できたのは、よかった……わね?」

円周「今日は私ってゲストが全国の当麻お兄ちゃんへ寄生虫の怖さをレクチャーします!みんな、きちんと聞いてねっ!」

御坂「……まぁ実生活で役立つかは分からないけどねー」

円周「ではまず第一問っ!美琴ちゃん、鮭の刺身は好きかなっ?」

御坂「鮭……あぁサーモンね。そこそこ食べるかな、マグロよりも脂が少なくとヘルシーよね」

円周「じゃここで第一問っ!美琴ちゃんが川で鮭を釣りました、サシで食べますかっ?」

御坂「料理によってはアリじゃないの?」

円周「うん、うんッ!そうだよねっ、こんなとき『木原』ならきっとこう言うんだよね……ッ!」

円周「『あ?お?バカなのか?お前死にてぇのか?あぁ?』」

御坂「うわムカつく」

円周「『アニサキス喰ってのたうち回りてぇのかバーカ』」

御坂「ほんっっっっっっとにムカつくわね!つーか誰よ!?」

円周「『テメェの知らない誰かだよ。知りたいんだったら白モヤシにでも聞きゃいい――つーかな、あー鮭か』」

円周「『サーモン生で食うようになったのはここ30年ぐらい前からだ。それ以前は生でなんか食ってねぇんだよ』」

御坂「……女子中学生に30年スパンの話をされてもな……!」

円周「『まぁアニサキス、つーか寄生虫全般の話なんだが、基本、火は通せ。そうすりゃ”まず”死ぬんだからな』」

円周「『つーか人間の歴史は防疫の歴史であって、どうやって死病を遠ざけるか試行錯誤してきたってのに、ナマて。死ねよ』」

御坂「この発言は個人の意見であり、決して全体の総意ではありませんのでご注意下さいっ!」

円周「『衛生管理されてるモンを生で食うぶんには否定もしねぇし美味いとも思うけどよ。そーじゃねぇよ、今の時代で寄生虫貰うっつーのはほぼ不注意が原因だわな』」

御坂「や、でもお寿司は」

円周「『昔のは漬け(づけ)か押し寿司、発酵させて食うのがほとんどなんだよ。その証拠にマグロなんてほとんど食ってねぇ』」

円周「『何故ならマグロは脂分が多すぎて、港へ運ぶまで傷むから捨ててたんだよ』」

御坂「ヅケは?」

円周「痛まないように塩分の強いタレに漬ける。だから”ヅケ”。その段階で虫は死ぬ”場合”がある』」

御坂「へ……あぁでもお寿司の酢を使えば消毒されるって聞いたことあるんだけど?」

円周「『徹底的にすればな。今ぐらいの寿司で使う量じゃとてもとても』」

円周「『つーか人体に影響ないレベルで使ってんのに、遙かに生命力の強えぇ虫殺せる訳ねぇだろ。よぉ?』」

御坂「じゃあ漬けも意味無いんじゃ?」

円周「『日数と塩分濃度だな。胃酸の中で生存できる生物相手に酢程度でどうにかなる訳がねぇよ』」

御坂「……結局の話、何が正しくて何が間違ってるの?」

円周「『確かな順に、火・冷凍・完全養殖・漬け、か』」

円周「『文化人類学的には”火”だ。火を通せ、生で食うな、何退化してんだよ』」

御坂「それ言ったら刺身の全否定じゃない!」

円周「『だったら……なんつったらいいんだかな。安全ってのは金で買えんだわ、分かるか?』」

御坂「お高い刺身を食べろ、ってこと?」

円周「『ぶっちゃければそう。問題その中身、コスト部分をどこに遣ってるのかってところだわな』」

円周「『高いんだったら高いだけの理由がある。そりゃボッタクリもあるが、そうじゃねぇところはそうじゃねぇんだ。手間暇かけてる分だけコストは上がる』」

円周「『サーモンの例で言えば輸入先のノルウェーが完全無菌の養殖やってるから、寄生虫のリスク限りなく低く抑えている。だから生でも食える』」

円周「『それが今から30年ぐらい前の話だぜ。その前は生で食えなかった』」

御坂「ヘー……でもさ、今のあたし達の食卓や、スーパーで売ってるのって違うわよね?つーかコスト的にアレが全部養殖な訳ないし」

円周「『アレは冷凍。寄生虫の防疫で一番簡単なのは”火”、次に確実なのは”冷凍”をしっかりやってるだけ』」

御坂「お刺身……なのに?」

円周「『技術の発達でほとんど気にならねぇ。つーかスーパーで売ってる外国産の生食用の魚類は絶対に解凍したもんだよ。じゃないと腐るだろ』」

円周「『日本近海で獲ったとしても、港から卸売り経由して店頭に並ぶまで何時間かかってっと思うんだよ?あ?』」

円周「『鮮度の問題もあるが、それ以上に寄生虫が問題。”””完全冷凍で24時間以上”””、が推奨される……ん、だがなぁ』」

円周「『バカは、バカなんだわ。分かるか?理解出来るか?』」

御坂「質問が抽象的すぎるわっ!」

円周「『釣り、行くだろ釣り?そこで魚釣りましたー、おっと鮮度最高じゃね?市場に並ぶよりも新鮮だし、サシで食っとく?みたいな素人が』」

円周「『いやそりゃ虫貰うっつーの!想像力のないクソが!』」

御坂「や、あの……言葉をね、もっと選んでほしいって言うかさ」

御坂「でも、アレじゃない?テレビの企画で釣り船の上で魚捌いて生のまま食べる、ってするわよね?」

円周「『よーし御坂美琴ちゃんよ、だったらそのテレビ番組よーく見た方がいいぜ?』」

円周「『捌いてんのはその船の漁師だと思うが、やったら丁寧にかつ細切れにしてなかったか?』」

円周「『三枚にザックリ降ろして、はいどうぞ、みたいなアバウトなやり方じゃなかったよなぁ?あ?』」

御坂「言われてみれば……船の上なのに、きちんとしたまな板と包丁使って捌いてた!」

円周「『イカの刺身なんかでな。飾り包丁って入れるだろ、こうマス目状の切れ目入れるヤツ』」

円周「『あれ食感を良くするの効果もあるんだが、それ以上に虫がいるかいねぇかを確認しつつ、虫も切り殺してんだよ』」

御坂「うっわー……!」

円周「『死んだ虫食ってアレルギー起こすヤツもいるからな。当たり前っちゃ当たり前』」

円周「『虫じゃねぇが生牡蠣食ってサルモネラなんて話はザラだろ?』」

円周「『大体な。今のご時世でアニサキス貰うのは素人だ。バカがバカの判断で勝手に食って悶絶するんだわ』」

円周「『だから、そうならないようにプロは手間暇かけるんだよ。最初から無菌環境を用意したり、しっかり冷凍して殺したりな』」

円周「『つーかガキの頃に拾い食いすんなとか言われなかったのかよ?正直あのレベルだ』」

御坂「やー……でもさ、全部一回冷凍にするとか、刺身にするのは取り除いているとか知らないし!」

円周「『グロい話だからな。冷凍はイメージ悪いからわざわざ業界が宣伝する訳もねぇし』」

円周「『……むしろ?逆に?反対に?”あ、だったら新鮮なのを自分達で獲って食べればいいんだ!”みたいな?行動力のあるクソバカが出てもおしくねぇわな』」

御坂「あー……日本人の食に関するところは突き抜けてるって言われるわよね」

円周「『勿論今言ったのは極端な例だわな。寄生虫がいない固体だって当然あるし、”偶然”そんな魚に出くわして何も起らない可能性もある』」

円周「『アニサキスごと丸のみして、ハラん中で確実に暴れるとは決まっちゃあねぇよ。ねぇんだが、なぁ?』」

円周「『そんなアホみたいな確率論の上で綱渡りしてまで刺身食いてぇのか?、って話だぜ』」

御坂「……つまり、しっかりとしたお店できちんとした商品を食べろ、と?」

円周「『が、妥当だねぇ。まぁ俺は好きにすりゃいいと思うんだが。テメェの人生なんだからよ』」

円周「『分かりやすく言ってやるとだな。動物いんだろ、野生動物。シカやハト、キツネにイタチにサルか』」

円周「『アイツらの体ってノミとダニの塊だっつーのは分かるか?不衛生の塊みたいなもんだが』」

御坂「都会に住んでるとあんま実感がないんだけど……」

円周「『あ?俺ぁ常盤台のガキに欧州文明をリセット寸前まで追い込んだ黒死病の講義しなくゃいけないのかよ』」

御坂「知ってるわっ!アレでしょ、ペスト菌をダニやノミが媒介して大変なことになったんでしょ!」

円周「『その虫を運んだのがネズミ、あと”ハト”』」

御坂「……ハト?」

円周「『場所によっては”空飛ぶネズミ”って言われてるぐらい病魔のキャリアとしては優秀。つーかひでぇ』」

円周「『……で、お前さん雑菌と病原菌の塊食いてぇと思うか?ナマで?』」

御坂「断る。絶対に断る!」

円周「『レウコクロリディウムって知ってるか?寄生虫の一種なんだがよ』」

御坂「ちょっと名前に引っかかりを覚えるけど、アレよね。確かカタツムリに寄生して、こう目をグローく伸ばすやつよね』」

円周「『アレを食うのが鳥類全般、カモメも入ってるらしい』」

御坂「グロいグロいグロいっ!そんな話聞きたくなかった!」

円周「『あぁ断っとくが人類は野生動物食ってきたからな――ただし、徹底的に火を通してだ』」

円周「『郷土学の民話の中にモモンジ食って祟りがあった、つー話がよくあるが、それ残らず肝炎ウイルスか虫だ』」

御坂「ももんじって何?」

円周「『獣肉。素人が業者から買って、中途半端に火を通して食うから即感染するってだけの話』」

円周「『今野生のシカやイノシシ肉を生で食ったら、もれなく肝炎ウイルスがついてくる。試したいヤツぁ試せばいい』」

御坂「いるかそんなバカ――ってあたしもつられて口悪くなってきた……ッ!?」

円周「『まぁ結論としちゃアレだ。ナマで食って安全だっつーもんだったらば、人類はもっと早くから食ってんだわ』」

円周「『今んのトコ遡れる歴史は7000年ぐらいだって話だが、充分満帆とは程遠い。文明なんぞは何度も何度も滅んでる』」

円周「『それをやってねぇって事ぁ、要は”危険で食えなかっただけ”って話だ』」

円周「『食肉に関しちゃ日本の数倍の歴史を持つゲルマン語族圏の文化見てみろ。ナマで食うのなんてほとんどねぇよ』」

円周「『スパイスが安定供給されるまでは野っ原の草と塩を詰め込んでハムかソーセージが燻製にしてたんだ。そうでもなきゃ日持ちしねぇ』」

御坂「ローストビーフとブルーレア(脂が青いぐらい残ったレア焼き)はどうなのよ!」

円周「『ローストしてるじゃねぇか。あとブルーレアは肉の中で周りを焼いて殺菌した上で、中身を取って食わせてる。無加熱なんかじゃねぇぞ』」

御坂「……なんかもうお肉不審になりそう……!」

円周「『生食を否定するつもりはねぇ、つーか主旨とは違げぇんだよクソッタレ』」

円周「『冷凍することでほぼ確実に虫を殺せるようになったし、また養殖技術が進んでナマで安全にもなった。それは絶対だ、そこ”は”絶対だ』」

円周「『問題なのは、俺ら人類が発展させてきた技術と経験と知恵をスルーするクソバカが多いってことだ』」

円周「『……食中毒でもそうなんだかなぁ。テメェがテメェの責任で下手こくのは勝手にしろ、責任なんて持てねぇ』」

円周「『ただ抵抗力と体力のある大人だったら半死半生で済んでたダメージをだ、ガキや年寄り、病気持ちの連中が喰らったら……とか、一回考えろ。頭ついてんだったら』」

円周「『店で出すモン。特にレバー関係だな』」

御坂「お店で出すんだったら問題ないんじゃ?」

円周「『日本の話だ。牛レバーが禁止になった翌年、新しい肝炎患者が一気に倍になった』」

御坂「なんだその、うん」

円周「『牛レバーが規制されたんで豚レバーを提供したら、って話だな。ナマで食ったらそうなんだよ、つーか養豚場行って触れ合って来いよ。衛生的かどうかをな』」

円周「『……そもそも、今はどっちも規制されてんだが、”豚レバーは危険で食えないって分かってたからわざわざ禁止するまでもなかった”のが……』」

円周「『野菜は野菜でだ、アメリカでキュウリで食中毒が流行ったんだわ。二年前に558人発症して3人死んでる』」

御坂「キュウリが!?」

円周「『原因はサルモネラ。患者の半数が子供だってことで、まぁ抵抗力の低いところへピンポイントだわな』」

円周「『役に立たないバカの代名詞で知られるマジノ線を作ったマジノもカキ食って食中毒で死んでる』」

御坂「なんかなー……」

円周「『いい機会なんで徹底的にヤッとくが、お前ヴィーガンとかローフードって知ってるか?』」

御坂「ヴィーガンは聞いたことあるわ。ベジタリアンの……すごい、拗らせた人?」

円周「『”意識高い系バカ”――おお、言うねぇ第三位!俺ちょっと好きになったわ!』」

御坂「やめて?!全責任をあたしになすりつけようとしないで!?」

円周「『ま、責任が誰にあるのかは”幻想殺し”に取って貰うとして――じゃ”スプラウト”は?』」

御坂「最近流行り、てか普通のお店でも見るわね。えっとカイワレやモヤシみたいなの」

円周「『マメから促成栽培してすぐ食っちまおうってことだが……これも食中毒起こしてる』」

御坂「もう、なんでもありね」

円周「『栽培の段階でだな。温度と湿度をバカ高い状態で仕上げってから細菌が超繁殖するんだわ』」

御坂「うっわー……あ、でも細菌が繁殖するのは他の野菜でも同じよね?火を通すかすれば――』」

円周「『ローフードの教義の一つにな、”植物の酵素を体内へ取り入れてハッピーになろうぜ!”ってのがあんだわ』」

御坂「教義言うな」

円周「『その酵素は基本的にタンパク質で構成されてんだが、火を通すと分解されるらしくってだな……』」

御坂「あー……食べちゃったかー、ナマで」

円周「『うん、細菌べったりのをさっと洗ってナマで』」

御坂「一応知りたいんだけど……その、植物の持つ酵素を人体へ取り込むと、何かメリットあるの?」

円周「『コウジ菌って知ってるか?もやしも○でお馴染みの』」

御坂「可愛いわよねっ!なんでアンタが知ってんのか違和感しかないけど!」

円周「『まぁそりゃコイツの知識だろうが――それで?麹菌入った味噌食って、体が醸(カモ)されたって話聞いたことあるか?』」

御坂「あー……ないなー、やっぱ」

円周「『つーかさっきも言ったが、生野菜モリモリ食うだけで体に良いんだったら古代人はどんだけ長生きしてたんだよ、つー話だ』」

円周「『あと酵素っつーと、なんかスゲーって聞こえるが人体は自前で精製してるからな』」

円周「『具体的には唾液・膵液・腸液・胃液か。種族違ってんのに使える訳ねぇだろボケが』」

御坂「し、消化されたら栄養になるし!」

円周「『動物の消化酵素の胃液さん仕事してるわな。それ言ったら大抵のモンは消化されて栄養になんだよ』」

円周「『まぁ繰り返すがナマでもの食うのは悪いことじゃねぇよ。サラダにしろ刺身にしろ圧倒的な需要がある』」

円周「『また漁業・農耕技術の現代化で安全性が格段に高まったものも確かだ。そして科学を誇れ』」

円周「『が、それを無視して、かつ大した知識も持たずに行動力しかないバカが突っ走ると痛い目に遭う』」

円周「『どっかの無料サイトでもあったが”乳児に蜂蜜はダメ”なんて常識知らずにやらかすバカもいる』」

円周「『その上でテメェ自身を守るのはテメェしかいねぇってのが大原則』」

円周「『そうな……山に登って湧き水を見つけたとする。これをそのまま飲んでも良いのか、それとも悪いのか、どっちだ?』」

御坂「え?」

円周「『さぁどっち?早く答えろ』」

御坂「急に聞かれても……判断材料が少なくて分かんないわよ!」

円周「『――正解』」

御坂「オイ、あんたバカにしてるでしょ?あたしを?」

円周「『いいや正しい。それが一番正しい判断だ――”分からない”のが、一番正しくて懸命なんだわ』」

円周「『その湧き水が澄んでいたとするぜ。透明度のやたら高い清水だが、これを飲んでも大丈夫か?』」

御坂「前に……聞いたんだけど、上流の水は細菌が繁殖できないぐらいの温度だから、飲んでも大丈夫って」

円周「『その通り、その知識は正しい。ただ”ゼッタイ”じゃない』」

御坂「どういう意味?」

円周「『水が綺麗なのは結構な事なんだが、逆に”鉱物含有量が高い=生物にとって有害な毒素を大量に含んでいる”って場合もある』」

御坂「うっわぁ……」

円周「『火山だったら要注意。特に冷泉だったらダッシュで逃げた方がいいかもしれねぇ。硫化水素と一緒に吹き出してる可能性も捨てきれない』」

円周「『反対に濁って汚い色つきの湧き水――これは他の生命が生きてる証拠、飲んでも問題はあるかないか?』」

御坂「病気怖いわよねー。話の本題からすれば」

円周「『即死はしないだろうし、可能性だが”貰う”可能性はある。自然が豊かなのはそういう意味でもある』」

円周「『あと水が濁るのは生命が豊かな証拠だけじゃなくて、廃鉱なんかがあって汚染された鉱物の色かも知れない』」

御坂「……正解はないの?」

円周「『言ったはずだぜ、”分からない”が正解』」

円周「『実験キット一式持ち込んで調査すれば分かる――だが、一々手間をかけてもいられない』」

円周「『不用意なものには触らない、近付かない。ましてや飲み食いしないのが一番賢い』」

御坂「で、でも山の中で遭難とかしたらさ!死んじゃうって時には必要じゃない!」

円周「『そうだぜ、その通りだ――なんては言わない』」

円周「『下手にそこら辺の水飲んでだ、腹下したら脱水症状は急激に悪化するし移動すらままならなくなる』」

円周「『季節が冬だったり、標高の高い場所やもうどうしようもないなら緊急処置として飲んでもいいと思うが……』」

御坂「生きるか死ぬかの瀬戸際で食中毒の心配なんかしてられないしね……」

円周「『少なくともハイキング気分で登った山道で飲むな。飲んでもいいがリスクは覚悟しろ』」

円周「『何度だって言うが人間の歴史は感染症をどう退けるかの歴史だった。科学が迷信の類を駆逐してきた』」

円周「『風土病として恐れられていた日本住血吸虫が、当時発見されてなかった皮膚感染を突き止めたのも、研究者が自ら水田へ足を入れて感染させたのがきっかけ』」

円周「『少なくとも内地でそんだけ感染症予防に心血注いでやって来てんのに、無防備すぎる。そして無知すぎる』」

円周「『バカが自己責任で一人で激痛にのたうち回るんだったら、まぁ見てて気持ちはいいかもしれねぇが、問題は”感染”症なんだよ』」

円周「『絶滅させたはずの、過去の病気へ不用意に感染して周囲にバラまくって可能性も否定出来ねぇんだわ』」

円周「『今の感染症で言えば1977年が最後の患者を出してからを収束してる。丁度40年だが――』」

円周「『――”たった”40年でもある。血吸虫が進化のサーキットくぐり抜け、生存競争に生き残ってきた年月であれば瞬きする程度のもんだろう』」

円周「『人間だけをキャリアにする種じゃないし、本当に絶滅したとは、なぁ?』」

御坂「徹頭徹尾イヤな話だったわよねっ!勉強にはなるかもだけど!」

円周「『病的なぐらいに食を注意しろっつってんじゃねぇ。ただ拾ったモノ、落ちてるモノを食うな。流通に乗ってねぇようなモンを信用すんな』」

円周「『管理の”外”から来るモンは当然リスクもある。適正に対処すりゃ大抵は怖くも何ともねぇ』」

御坂「その台詞だけ聞いてるとディストピアもののラノベみたい」

円周「『世界レベルで見れば”外”に住んでる人間の方が多い。フィクションでもなく現実の話、ジョークですらねぇ』」

円周「『そしてアニサキスか。現代日本の医療技術だったら胃カメラぶち込んで発見して、腹開いてピンセットで掴んで引っ張り出す』」

円周「『が、それ以前では虫が胃壁食い破ろうとする激痛に、ただただ耐えるマゾプレイが待ってる――』」

円周「――やったねっ!全国のドMの当麻お兄ちゃん、ご褒美だよっ!」

御坂「あ、戻った」

円周「まとめるとねー、ブタさんを食ってもブタにはならないんだよねぇ。何故なら種族チェンジするような現象は魔術でも使わない限り不可能だから」

御坂「実質ムリってことよね」

円周「けどねぇ、ブタさんナマで食べたらブタの持ってた病気に罹るんだよ。何故なら人獣共通感染症はペスト時代からあるから」

円周「当然ワクチンもなければ抗生物質もない。できたのはただトライ&エラーで『どうすれば感染を防げるのか?』を試して来たんだ」

円周「親兄弟や友人知人、隣人や時には国家全ての命を費やして、さ?」

円周「世界の不条理、真っ当に生きてきた人たちを殲滅する勢いだった病魔を退けたのは、魔術じゃなく、科学」

円周「まぁ科学のおかーさんが魔術だったのはそうなんだけどねぇ。今はもう『どちら様?』ってカンジかな−」

御坂「……スーパーで買えば大丈夫?」

円周「”ゼッタイ”は基本ないし、そのスーパーでもたまーにサルモネラの食中毒起こしてるから」

円周「ただ個人が獲ってきたのを捌いて――なんてより、比べものにならないぐらい安全性は高いかな」

御坂「プロに任せればまずは安心ってことね」

円周「これはね、私の知り合いのメル友が北海道でお葬式行ったときの話なんだけど」

御坂「出たな謎人脈!」

円周「お葬式終ってホテルの近くでブラブラしてたらしいんだよ。そしたら野犬に噛まれて」

御坂「野犬!?北海道って野犬いるの!?」

円周「『やー、噛まれちゃったよー』つったらその日の内に即入院、三日ぐらいかけて措置観察」

円周「狂犬病とエキノコックスを疑われて、まぁ陰性だったんだけどね」

御坂「エキノは超怖いけど、犬、なのよね?キツネじゃなくって?」

円周「どっちもイヌ科だからねぇ――で、退院して地元へ戻ってきた後も、一ヶ月?ぐらい経ってまた検査」

円周「ちなみに『これは”義務”であって、スルーしたら行政から”指導”されるよ!』……って散々脅さ――注意されたって!」

御坂「うわぁ……まぁ、深刻さは伝わってくるわね」

円周「んでー、最後には保健所だか行政へ提出する文章をしこたま書かされて、ってお話。結局陰性だったけど」
(※実話です)

円周「ま、そのぐらい神経使って防疫してるところがあるんだし、もっと気をつけた方がいいと思うよっ!」

御坂「以上、あたしほとんど喋ってないけどお料理教室でしたー――って料理してないな!?」

円周「食に関わることだし、うん、憶えておくといい思うよ?」

円周「”現時点での常識”であって、輸入サーモンのようにガラっと常識が一変するもあるからね。そこは注意してほしいなー」

御坂「それじゃまた――次はイギリスのお菓子編で会おうぜっ!」

円周「あれ?女子寮でイタリア飯じゃなかったかな?勝てそうにないから逃げるの?ねぇ?」


−終−

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