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Clock(trial)

 潮騒の響く渚で 第01話 〜トモカヅキ〜


――学園都市 某ファミレス

上条「――はい、注目」

ドリー「ねーねー、はんばーぐ!わたしはんばーぐがたべたいな!」

食蜂「いいわねぇ。でもぉお子様は野菜も食べないと食べよぉ?」

警策「ジャア野菜ならサラダバーもセットで――食蜂さんはどうします?」

食蜂「そうね、私も取り敢えずドリンクバーとセットで、って言いたい所だけどぉ……」

食蜂「正直、子供に『野菜も好きなだけ食べてもいいのよ?』って、無理力じゃないかしらぁ?」

警策「この子が子供枠……いいのかな?子供で?」

ドリー「ねね、どりんくばーってなーに?どりんくばーなに?」

食蜂「ドリンバーはねぇ、原価数円の元を取ろうとする代わりに体脂肪率を上げるトラップなのよぉ?」

警策「はいそこ変な事吹き込まないで下さい。テカ体脂肪じゃなく上がるのは血糖値です」

食蜂「でもぉ!敢えて、そう敢えて長居する事により回転率を下げさせてお店にダメージを与えるのは可能なのよ!」

警策「――スイマセーン、注文お願いしていいですかぁ?えっと、この子は……」

ドリー「これ、でみぐらすきーまぐりーんかれーはんばーぐ!」

警策「を、二つ。あとは」

食蜂「あ、私も同じのねぇ」

店員「ドリンクバーはお付け致しましょうか?」

警策「ンー……いいかな−、じゃそれで」

店員「かしこまりましたー。ドリンクはセルフになっておりますのでよろしくおねがいしまーす!」

食蜂「――で、これからどうしよっかぁ?」

警策「トンだ所で邪魔が入りましたし、ねぇ?このままハイ解散!ってぇのも嫌ですし」

ドリー「……おでかけ、おわり?」

警策「あー大丈夫大丈夫、エット……今から、今から決めるんですよねっ?」

食蜂「そ、そうよぉ!?大事だから、ねっ!……上条さぁん!」

上条「ふーびっくりした。俺の発言がスルーされてるから、てっきり地縛霊かなんかになっちまったかと思ったよ」

食蜂「犯人はウィリ○よねぇ」

警策「Wik○上ですらもうネタバレしてるんですから、追い打ちはそのぐらいに」

上条「でも君らおかしくないかな?俺の台詞キャンセルしただけじゃ飽き足らず、注文もスルーしやがったよね?なんで?」

上条「MA×の妊娠騒ぎでもこんなハブられ方しなかったと思うけど、女の子グループってギスギスしすぎてやしねぇか?」

食蜂「……本気で答えてもいいのぉ?」

上条「ゴメン止めて。女の子に幻想持ちたい派だから」

警策「マジレスすると可愛いとハブられますし、頭が良くてもハブられ、更には運動神経が良くてもハブられますし」

食蜂「『私達ずっと友達よね!』って言っても、クラス変わったら会わなくなるしぃ?」

警策「キホン、ファミレスでタベっても大した事は言ってないですよ。ねー?」

食蜂「ねぇ?」

上条「返して!俺の幻想を殺さないで!」

警策「結婚式にお呼ばれするのは『自分がどれだけ良い(稼ぎ)の旦那を見つけたか☆』を、自慢するためであってですね」

上条「警策さん、アレだよね。それBAB――アラサーよりもチョット年嵩のお姉様方が言ってる事だよね?中学生はもっと希望を持って欲しいなー」

ドリー「とーまくんもはんばーぐたべたかったの?」

上条「……いや、あのね?人間としての尊厳的な話っていうかさ」

ドリー「こっちの、ぼたんをおすとてんいんさんがくるんだって!みーちゃんがおしえてくれたんだよ!」

上条「えっと……?」 チラッ

警策「じゃドリー押してもらえるかな?オニーサンがドジで注文忘れちゃったみたいだからね?」

ドリー「いいの?」

上条「ん、まぁ、あー……うん、ヨロシク」

ドリー「うんっ」 ピンポーンッ

店員「はーい、ただいまー」

上条「ミートカレー大盛りで」

食蜂「――と、ドリンクバーもお願いね」

店員「かしこまりま――っ!?」

上条「なんですか?俺の顔見て」

店員「てっきり地縛霊かと……!」

上条「存在感あり過ぎだろ」

店員「もしくは女の子三人に憑いた浮遊霊的な……!」

上条「タチ悪いストーカーだな!最近多そうだけど!」

警策「ドリー、ドリンクバー行っこうか?」

ドリー「うん、いきたい!いってみたい!」

上条「あ、んじゃ俺も――」

警策「オニーサンと食蜂さんのは持ってきてあげますから、ね?」

食蜂「ごめんなさぁい。頼めるかしら」

ドリー「とーまくんはなにがいいのかな?」

上条「なんだっていいよ、ありがとう」

警策「じゃ――」 チラッ

食蜂 コクコク

上条(なんだ?アイコンタクト?)

ドリー「いってきます!まっててね、とーまくん」 シュタッ

上条「おー、張り切ってこぼすなよー……っと」

食蜂「……」

上条「……」

店員「……」

上条「いや仕事戻れよ?なんで店員さん居るんだよ?」

店員「修羅場?」

上条「違ぇよ!?なんかこう『今から説明始まりますよ!』ってシーンだよ!」

店員「ご注文は以上でお決まりでしょうかっ?」

上条「あっはい」

店員「一度に頼んだ方が店的にはありがたいんですけど!主にフロア担当としては!」

上条「テメ元気良く言えば何言ったって許される訳じゃねぇからな?俺もちょっと後ろめたかったが、そんな気分吹っ飛んだわ」

店員「客の中にはカンヅメとコンビニ弁当持ち込んで食べるヤツだっていんだからなっ!!!」

上条「いやー……うん、大変だよねっ!フロアのお仕事はキッチンに蹴り入れたり、変な客に絡まれたりする激務ですよねっ!」

食蜂「上条さん、弱くないかしらぁ?」

上条「うん、なんかね、ガイア的なモノが『ある意味身内の不始末なんだから取り敢えず謝っとけ』的な囁きがしたような」

食蜂「幻聴よねぇ」

上条「ダトイイナー、ソウダトイイヨネー」

店員「それではごゆっくりどうぞー」 タッ

食蜂「……」

上条「……」

食蜂「……上条さぁん」

上条「あぁ」

食蜂「やっと二人きりになれたわねぇ☆」

上条「違う違う。俺が求めている台詞は、それと違う」

食蜂「『……いつ、わかったのぉ?』」

上条「それ『探偵がゲストヒロインを犯人だって言い当てた時』のリアクション。さりげなく刃物か毒薬を取り出すと視聴率アップ」

食蜂「『べ、別にあなたのためにやってるんじゃないのよぉ!地球を救うついでなんだから!』」

上条「一体どんなシチュ?てかそれツンデレでもなく本当にただのついでだろ、地球救うオマケの」

食蜂「――上条さん、驚かないで聞いて欲しいの」

上条「あぁ、分かってる。やっと本題だな」

食蜂「警策さん、もしかして私に気があるのかしらぁ?百合力、みたいな?」

上条「食蜂さん、ごめんね。あの、悪い意味じゃない、悪い意味では決してないんだけど、出来れば気分を害せずに聞いて欲しいんだけどさ」

上条「君アレだよね?頭は良いのにアホだよね?アホの子だよね?」

上条「なんか前にも言ったけど!可愛いけど残念な子や残念すぎて台無しにしてる子にも言ったけどもだ!」

上条「コーザックさんへそこそこ言いたい事は短時間ながらも溜まってはいるけど、まさかここで『フラグ立ってた』的な超展開はないと思うよ!多分だけども!」

上条「『ドリーを引き受けておくから、難しい話をしてあげて』であって、思春期にありがちな『見てる=コイツ俺に気がある』はない、うん、ないなー」

上条「いや別に女の子同士が悪いって事じゃなくてだ!それはそれ、これはこれとしての話だし!」

食蜂「語るに落ちるわねぇ」

上条「いや違うだよ、あくまでもこれは一般論であってだ。俺の性癖って訳じゃなくて」

食蜂「そうよねぇ、あれはお休みへ入る前の事だったのよぉ」

上条「回想入れようとしてんじゃねぇよ。俺の話を聞きなさい」



――回想 常盤台中学

御坂『……』

食蜂『――あらぁ?そこに居るのは御坂さぁん?御坂さんじゃないかしらぁ?』

御坂『……チッ』

食蜂『あらやだぁ、お嬢様なんだから舌打ちなんかしちゃだ・め・だ・ゾ☆』

御坂『そんなテンションがウザい――てかあんたさ、あたしの事嫌いなんでしょ?』

食蜂『ウン、嫌いよぉ☆』

御坂『だったら話しかけてくんな……とは言わないけど、なんで一々絡んでくるワケ?』

食蜂『そこに御坂さんが居るから?』

御坂『オーイ誰か大根おろし持ってきてー!出来れば目のうんと荒いヤツ!』

食蜂『自分が持ってないものへの嫉妬力は良くないわよぉ?』

御坂『だったら無視しなさいよ――とは、言わないけど!廊下ですれ違ったら『あざーす』ぐらい言って離れればいいじゃない!』

御坂『あんたの派閥の子が地味ーに絡んでくるからストレス溜まるのよ!そう、日めくりのように!』

食蜂『大して有り難くない格言とか書いてありそうよねぇ、それ』

御坂『そもそもあんた、あたしのどこが気に入らないのよ?そりゃちょっとあんたと違って若く見られるけどさ?』

食蜂『ハァーーーーーーーーッ!?ハァーーーー?!なんでそういう事言うんですかーーーーつ!?』

食蜂『身体的特徴で人を貶していけませんって言われなかったのかしらぁ?この野蛮力のアマソーンさんはぁ!』

御坂『はぁ!?人の……モニョモニョ……をいっつもあげつらってんのはそっちでしょうが!目の前でゆさゆさ揺れてる嫌味なモンをどうにかしなさいよ!』

食蜂『あらぁ?ない人の僻みかしらぁ?』

御坂『胸部装甲が邪魔で体育に寄りつきもしない人のどこが羨む要素があるのかしら?』

食蜂・御坂『『……』』

縦ロール『あら?「女王」に御坂さん、こんな所で何をしてらっしゃ――』

食蜂・御坂『『うるっさいわ(ねぇ)!!!』』

縦ロール『ごめんなさいっ!?』



――学園都市 某ファミレス

食蜂「――って話がね」

上条「関係ないじゃん、全く全然これっぽっちも関係ない話だったじゃん」

上条「てゆうか縦ロールさんとばっちりだし!君とビリビリは常盤台でいつもそんなしょーもないケンカしてんのかよ!?」

食蜂「そりゃナイチチ派(ペ×)の上条さんはどうでも良いでしょうけどぉ」

上条「食蜂さん、今ナイチチ派の後に小声で何か言わなかったかなテメー?聞き捨てならない単語が入ったような気がするんだ」

上条「あと俺は妹よりも管理人さんにシンパシーを感じる派であって、決してこう」

食蜂「とある筋からは下駄箱に差出人不明の手紙が入ってるのを見て、狂喜乱舞したって報告が上がってるわねぇ」

上条「チクショー誰が情報漏らしやがった雲川先輩め!」

食蜂「正確に把握してるゾ☆」

上条「てかそれで非難される憶えはねぇぞ!あれ結局ノコノコ屋上行ったら干物が待ってたんだから!それなんて学園七不思議だ!」




???『”それ”は違う。”それ”は未だ訪れぬ未来の話だ』

???『賢者には安らかな眠りを、愚者は愚鈍に相応しく疎眠(おろねぶ)れ』

???『世界は智に溢れ、血に焙れ、地に煽る――』
(The world can overflow in wisdom, it ..blood.. roast, and it fuels on ground――. )

???『――旅人が馬車の中で微睡み、蝶は山を登り羽化する――』
(――The traveler dozes in the wagon, and the butterfly climbs the mountain and emerges――. )

???『――矍鑠たる死人よ、その手で門を叩くのはやめておくれ――』
(――It stops and it falls behind the beating of the gate by the hand the vigorous barrel dead―― .)

???『――哀れな角の王への慈悲があるのであれば』
(――If you do because of the benevolence to Cernunnos. )

ザザザザァァァァァァァァァァァァァァァァッッ………………




上条「――んで?結局これ、どういう企画だよ?」

食蜂「前に言った通りよぉ――ってお帰りなさぁい」

警策「ハイ、ただいまですよっと。ウーロンでいいんですよね?」

ドリー「とーまくん、どーぞ」

上条「って帰って来ちまったし!コーザックの気遣いザックリムダにしやがって!」

警策「警策です、警策看取」

ドリー「……こーら、いやだった?」

上条「いやいや、そんな事はないさ」

ドリー「みーちゃんのいうとおり”おれんじじゅーすとかるぴすのたんさんうーろんわり”のほうがよかったのかな……?」

上条「お前はお前で爆弾仕込むな!子供に悪影響でしょうが!」

食蜂「ハイパーメディアクリエイターエグティブスーパーバイザ×ぐらいの盛り方よねぇ」

上条「お前ら常識でこの子に負けてるからね?多分女子力でも」

食蜂「ていうか別に隠すようなお話はないのよぉ、えっと……上条さんには言ってあったと思うけど?」

上条「『荷物持ちとナンパ避け、海に行くわ☆』、っていうメールがね。日時指定で」

食蜂「うんだからリムジンで迎えに行ったでしょお?……キャンセルさせられたけどぉ」

上条「どこの世界にリムジン(運転手付)で海水浴行く面白集団が居るっつーんだよ!?」

上条「少なくとも金持ちになったつもりの成金の発想であって、中学生がするコースじゃねぇよ!」

食蜂「折角ホテルも借り切ったのにぃ!?」

警策「アー……オニーサン、多分それは核心突いちゃってますねー」

食蜂「警策さんまでぇ!?」

ドリー「みーちゃん?うみ、いくんだよね?」

警策「そうよ、そうなんだけど……その、派手って言うか、庶民には関係ないって言うか、レベルの問題?」

上条「そーそー、言っておやんなさい警策さん!この残念な子に!」

警策「学生は学生らしく、キセ×して駅員さんに叱られるもんですよ!」

上条「犯罪、ダメ!ゼッタイ!」

食蜂「もうっ上条さんったらワガママ力なんだから☆」

上条「犯罪レベルにまで金ケチれとは言ってない!学生だったら学生らしく青春1○切符駆使しろとかそういう事だよ!」

ドリー「せーしゅんじゅーはちきっぷ?」

上条「電車――の、鈍行乗り放題になるチケットだよ」

食蜂「またまたぁ上条さんったら、そんな都合のいい切符なんてある筈ないでしょお」

上条「……あーなんかエセ金持ちみたいに見えてっけど、この子もなんだかんだで一応常盤台の子なんだよなー……」

食蜂「一応ってなによぉ!」

上条「ともかく!学生だったら学生らしく!財力にものを言わせてプライベートピーチやホテル貸し切ったりはしない!」

食蜂「えー……折角ねじ込んだのにぃ」

上条「……ナシとは言わないし、海に行ってんのか、車自慢しに行ってるのか分からない人らが居るのも否定はしない。しないがだ」

上条「君らが行きたいのは”普通”の海水浴――旅行なんだろ?だったら最初から搦め手で入んない方がいいんじゃ?」

警策「サンセーイ、どこのセレブかっつー話ですよねぇ」

上条「ドリーは……どうしたい?」

ドリー「わたしはね、さんにんいっしょならどこでもいきたい!」

食蜂「ドリー……!」

上条「ほーら見なさい!お前ら人間力で負けてんだからな!思いやり的な意味で!」

食蜂「……はぁ、しょーがないんだからぁ。分かったわぁ、上条さんに従いましょ――それで?」

上条「で?」

食蜂「『学生らしい海水浴』ってぇ、どうすればいいのかしらぁ?」

警策「ア、それ興味あります。オニーサンが遊びに行くのってどんなのですかー?」

ドリー「とーまくん、かいすいよくいったことあるんだ?」

上条「海水浴……うん、そうなぁ、あれは海水浴っていうのか難しいんだけどさ。えーっとな」

上条「まずは普通に駅前で待ち合わせするんだ。つっても特急使わずに鈍行だから結構朝早く、うん」

上条「そうすると大体、まぁ確率で8割ぐらいで通りすがりの女の子に『助けて下さい!
』って」

警策「ゴメンナサイ、それもうお腹いっぱいなんで止めて貰っていいですかねぇ?誰も得をしないんで」

上条「でもおかしいよな?気がついたらスキルアウトに囲まれてたり、他にも新兵器の実験材料に」

食蜂「ご飯食べたら駅行きましょうかぁ……てゆーかー、ペンションキャンセルしない方がよかったわよねぇ」

警策「今からでもなんとかなりません?この分だと無事に海着いても」

食蜂「うーん……まぁ、少しお高い系だったし、ちょっと張り切り過ぎちゃったかなあ、なんては、うん」

警策「アー……はい、なんとかなる……よねぇ?」

食蜂「私達もぉ……まぁーアレだけど、人選ミスった感がするわぁ」

ドリー「のこりのにわりは?」

上条「海に着いたら着いたでトラブルが起きる」

警策「おいそこフラグを着々と立てるな」



――山 某駅

ミーンミーンミーンミーン……

食蜂・警策「「……」」

上条「――よーし!無事に海へ着いたぞ!やったね!」

ドリー「すごいねー、ひとがいないよ!」

上条「あぁそうだ!これが海だ……あぁきっと!」

ドリー「みずは?おおきなみずたまりはどこにあるの?」

上条「えっと……うん、あっちの方にある、かな?」

ドリー「おもってたよりもちいさい……ぬま?○○ぬまってかいてあるよ?」

上条「あー……なんか、名前変えたかったんじゃないかなぁ、って」

ドリー「なまえかえるの?へー……」

上条「……ア、アハハ!まぁそういう気分だったんじゃないかな、きっとねっ!」

ドリー ジーッ

上条「ハハ……ハ」

ドリー「……とーまくん」

上条「……はい」

ドリー「とーまくん、めっ」

上条「すいませんでしたっ!途中で乗り換え間違えましたっサーセン!」

警策「言って、もっと言ってやってドリー!このダメなオニーサンに!」

ドリー「わるいことしたら、ごめんなさい!わかるかな?」

上条「仰る通りですドリーさん!ごめんなさいします食蜂さんに警策さん!」

食蜂「あれだけ自信満々に言っておいて、これはちょっとないわねぇ」

上条「イヤほんと俺が悪かったです!」

食蜂「『俺の最弱はちっとばかし痛ぇぞ』、なんてねぇ?」

上条「言ってない。いや、言ったけど!その台詞はもう大分昔に言った気がするけど!」

上条「それともあれかな?遠回しに『その台詞がイタイよ』ってかけてるのかな?ねぇ?」

警策「ヤダ……最弱に最強ってルビ振ってある人って」

上条「警策さん、あのね、それはね?あんまそっちをツッコむとね」

上条「俺らの学園の風紀委員(ジャッジメント)とか警備員(アンチスキル)さん達がですね、困るって言うか、最初に言い出したのは誰なのかなー、みたいな?」

警策「ぶっ飛ばすぞ割とマジで」

上条「ゴメンって言ってるじゃん!?そんなに怒らなくたっていいだろ!?」

食蜂「ドヤ顔で『学生っぽい旅行を』とか言っておきながら、これはないわぁ」

警策「あー、写メっときゃ良かったですかねー。あ、今からでも遅くないかなーハイ、チーズッ」 パシャッ

上条「お前らやめろ!……いいか、これ以上俺を追いつけたら大変な事になるんだぞ……!」

食蜂「具体的にはどんな火事場力を発揮するのかなぁ?」

上条「我らが伝来、一子相伝と言われている必殺のDOGEZAをお見舞いするぞ!いいのかっ!?」

上条「誰もいないどこかも分からない無人のホームで、俺は、DOGEZAを、躊躇わない……ッ!!!」

警策「はいドリー。オニーサン反省してないよーですから、もっかい言ってやって」

ドリー「とーまくん、めっ!」

上条「すいませんでしたっ!」 バッ

食蜂「あ、本当に土下座力するのねぇ」 パシャッ

警策「ナカナカまた綺麗な角度で、場慣れしてますよねぇ」 パシャパシャッ

上条「撮らないで!?このIT社会で俺のDOGEZAをデジタルに残さないで!?」

食蜂「『御坂さんへ、彼氏が土下座して来たんだけどぉ、どうすればいいと思う?』……っと」 ピッ

上条「あれあれ食蜂さん?君どこに彼氏いるのかな?ちょっと俺の目には見えないんだけどさ」

警策「ソリャア土下座してれば視界0でしょーしねぇ」

上条「警策さんそれも意味違うんだけど――っていうか捏造は良くないよ?ギャグであっても、嘘は駄目だと思うんだよ」

上条「てかそれが後々伏線になってだ、こう俺達が学園都市帰って『ふー、やっぱ家が一番だよな』ってエピローグ風に言うじゃん?」

上条「なんやかんやあって七転八倒、レジャーへ行ったはずがトンだ大冒険になったりして、大変な思いして帰って来てさ」

上条「そしたらきっと『お・か・え・り、そしてサヨナラね☆』ってビリビリがスタンバってるから!そういう展開はもうコリゴリなんだよ!」

食蜂「とんだストーカー力よねぇ」

警策「アリャ?オニーサン、さっき『彼女居ないよ、だって成人女性に興味無いしブルスコアァ』って言ってませんでしたっけ?」

上条「前半だけな、言ったのは?後半悪質な捏造が加えられているよね?」

上条「てゆーかブルスコアァって何?何なの?種族的な鳴き声?」

上条「あと別に趣味がノーマルでも彼女が居ない人だっているんだから!出来ればそっとしておいてあげろ!」

警策「ヤーデモデモ、それただのモテない人の言い訳じゃないですかねぇ」

上条「お前らちょっとレベルが高くて可愛いからって調子に乗るなよ!きっと悪い男に騙されて苦労するんだからな!」

警策「湧いてんのかコイツ」

食蜂「ある意味的中力よねぇ。今、現在、なう☆」

ドリー「ねーねー、それよりこれからどうするのー?うみ、いくんでしょー?」

上条「あー、うんそう、なんだけども……ちょっと、時間が、だな」

食蜂「終電よねぇ、まだ午後なのに。これだから田舎はイヤだわぁ」

上条「つってもなぁ、タクシー呼んで海へ行くにしても時間がかかりすぎるだろうし……あー、悪いんだけどさ、ドリー?」

ドリー「なーに、とーまくん」

上条「今日、この町――てか村に泊りたいんだけど、どうだろ?ちょっと時間的に難しくってさ」

ドリー「ここに、おとまり?」

上条「今から海行っても夕方に着いちまうし、楽しめないだろ?日が暮れてから遊ぶ訳にも行かないしさ」

警策「原因作ったの誰だと思ってんですか」

上条「ハイ俺ですけどそれが何か?」

警策「開き直り早っ!?」

食蜂「ナイスポジティブ☆」

警策「前向きに捉えすぎですよ、どっちも」

上条「探せば民宿の一つもあるだろうし、なんだったら俺が交渉して止めて貰うようにして貰うから、どうかな?」

警策「エーッ?オニーサンだけだったらいいかもですけど、私達女の子ですよ?」

上条「うっ……!それを言われると――そうだ!」

食蜂「大丈夫よぉ、上条さんに比べれば土着の人達も危険力は低いわぁ」

警策「それはそうですよねっ、オニーサンに比べれば深夜の歓楽街の方が安全ですよねー」

上条「ねぇ君ら俺の話聞いてたかな?聞いてないよね?スルーしているよね?」

上条「折角人が『俺が守るから平気さっ!(キリッ)』って言おうとしたのに!タメまで作って!」

ドリー「とーまくん、かっこいー?」

警策「あっドリー!この人に近付いちゃダメ!」

上条「今更かっ!?電車のボックス席で隣に座ってたのに!?」

食蜂「あれはねぇ……スペース的に、ねぇ?」

上条「どゆこと?」

食蜂「上条さんの……えっち」

上条「ハイ俺エッチですけどそれが何か?」

警策「ダンダン弄られて耐性ついてますよねオニーサン」

上条「お陰様でなっ!半日とは言え女の子達の中へヤローが混ざってれば肩身の狭さも慣れるわ!」

上条「あ、んでドリーどうかな?」

ドリー「とーまくん、えっち……うん、わたしおぼえたよ!」

上条「うわーとぉぉぉってもいい笑顔ですねっ!てかドリーに吹き込んだコーザック憶えてやがれチクショー!」

上条「……じゃなくてだ。ここら辺で一泊っての、どうかなーと?」

ドリー「うん、いーよ。わたしおやまにもいってみたかったし!」

上条「これだ……これが俺の求めていた癒やしだ……!」

食蜂「はーい上条さん、浸ってないでちゃっちゃと移動しましょーねぇ」

ドリー「ねーねーとーまくん」

上条「あい……ちょっと待ってみんなの荷物持っちま……よしっと、何?」 グッ

ドリー「あっちおおきなおやまのなかに、くまさんとみこさんいるのかなぁ?」

上条「やめてあげて!?よりにもよって最終回でしでかしたくまみ○の話はそっとしてあげて!」

警策「ドーセ原作でも自虐ネタになるんだからいいと思いますけどぉ?」

上条「いやあのね、それだとね、こう円盤的な売り上げがアレだと第二期がですね」

上条「ていうかドリーに比較的タイムリーなネタ教えたの誰だよっ!?純粋な子に余計な事ばっか吹き込みやがって!」



――○○村?

警策「『ここから先、日本国憲法は通じず』……ですか?」

食蜂「キャッ☆上条さん、コワーイ☆」

上条「やめろ。そんな川口○探検隊のオープニングみたいな分かりやすい展開はない、てか看板なんてねーよ、皆無だよ」

上条「あと食蜂さん、君達アレかな?事前にネタの打ち合わせか何かしてるのかな?そんに息合ったボケって中々ないよね?」

上条「『こわーい』ってさりげなく俺の腕を取ろうとするんだけど、どさまぎで挟もうとするのやめてくれないかな?いや別に他意は無いんだけどさ」

上条「他意は無いんだけど!あぁそうさ他意なんかこれっぽっちも無いんだけどもだ!色々あって動きづらくなるから!具体的には言えないけど!」

警策「カミジョーサン、スケベー」

上条「ま、そういう話ですけどね!だからって俺に責任を求めるのは間違ってるよ!だって男の子だもん!」

ドリー「……とーまくん」

上条「いやこれはだな、大人になれば分かる話であり――」

ドリー「なんか、ここおかしくないかな?」

上条「……ここ?」

ドリー「うん、ここ」

上条「そう、か?だってまぁ閑散とした村っつーか、そんな所だろ?」

上条「ただちょっと第一村人に未だに遭遇しないし建物の中からは気配を感じるが誰も出て来なくて」

上条「アーケードの入り口の看板には『今までありがとう』の文字が書いてあるってだけでさ?」

警策「オニーサンー、ドラ三枚乗ってますよー」

上条「あ、ホラこっちには何か重い物を引きずった跡が」

警策「四枚に増えちゃいましたねぇ。イヤーいい役だなー」

上条「いや……まぁ俺も流石に『なんか変かもな?』っては感じつつあるけど」

食蜂「――ね、上条さん」

上条「……あぁ!」

食蜂「からっ○☆が解散・即再結成されたのはどういう意味があったのかしらぁ?」

上条「そっちの心配!?人が折角ギャグで流そうとしてんのに!?くまみ○繋がりで飛び火しちゃったよ!?」

警策「むしろ超トバっちりですよねぇ。ていうか一応あったんですね、危機感」

上条「そりゃまぁTric○のロケに出て来そうな、なんつーか、あー……雰囲気のある村だってのは否定しない。否定はしない」

上条「ってもさぁ?良くも悪くもヘンタイ揃いの学園都市の騒ぎに比べれば、こんぐらいどうって事無くないか?」

警策「アーァ、言っちゃいましたねぇ」

食蜂「言っちゃった、ていうか踏んじゃったわねえ」

上条「へ?」

ドリー「あ、わたしね、わたししってるよ!」

上条「うん?何の話?」

ドリー「それ”ふらぐ”っていうんだよ。とーまくん”ふらぐ”ふんじゃったんだって!」

警策「ドリーは賢いなぁ」

上条「黙ってろ激甘保護者――って、何?フラグ?何の話――」

黒服「……」

上条「あ、第一村民発見。すいませーん、ちょっといいですかー。道をお訊ねしたいんですけどー」

黒服 チャキッ

上条「道を訊こうとしただけで激おこ!?銃持ち出すぐらいに!?」

食蜂「ツッコんでる場合じゃ無いと思うわよねぇ、これ」

警策「ツーカ、ボケる余裕あるじゃないですか」

上条「唐突すぎんだろ!?なんで栃○と群○の県境にあるっぽい集落に似ている村に着いたら銃で脅されなきゃならないんだ!?」

上条「あぁ決してここは○木と○馬の県境じゃないけどな!もっと別のどこかであって!」

警策「予防線張りすぎですよオニーサン。断言できない所とか」

食蜂「ていうか海へ行こうとして海無し県へ来る方がミラクルよぉ☆」

上条「だから違うつってんだろ空気読めよ!」

黒服「……着いて来るんだ」

上条(――さて、これだけ時間稼げば充分だろう。なぁ、食蜂さん?) チラッ

食蜂 ?

上条(って何もしてねぇな!?もしかして時間稼ぎだって分かってなかったの!?)

上条(俺だってアホでは――そんなに、ないから!アホのフリして時間稼いだのに!)

上条(い・ま・の・う・ち・に!ピ・ピッ・って・し・て・あ・げ・て!) カクカクカクカク

食蜂「……?」

上条(通じろ!ていうかこの場面でジャスチャーしても他に用件ねぇだろ!)

上条(むしろする必要性すらよくよく考えれば無かったかもだが!まぁ一応やっとけみたいなカンジで!)

食蜂「……!」 ポンッ

上条(良かった!通じたよ!)

食蜂 チラッ

上条(わーいフトモモが見えたよー!やったね!)

上条「――ってバカ!?やってねぇよ!これっぽっちもやってねぇよ!」

上条「てかこの場面で、銃突きつけられて『フトモモ見せて☆』ってアイコンタクトは送んねぇよ!」

上条「なんでフトトモ!?つーかフトモモ!?嫌いじゃないけど!好きだけど!」

食蜂「もうっ!上条さんったら、エッチな・ん・だ・ゾ☆」

警策「ウワー、オニーサンさいてースケベー」

上条「なんで俺が悪いみたいになってんの?被害者だよね?」

警策「ブラチラの方がいいと?」

上条「あのね、警策さん人間には多様性ってものがあってだな。こう、戦時下では英雄になっても、平和な時代では疎んじられる的な」

食蜂「――っていう下らないおとぎ話は良く聞くけどぉ、結構大昔の英雄は領民を虐殺はしないわよねぇ?」

警策「そもそもそのロジックは『種の多様性』を解いておきながら、たった一つの例で納得させようとしてる、って本末転倒ですしー?」

上条「――で、俺は言ってやったんだよ、『ブラチラは、裏切らない』ってさ」

警策「人類の多様性の話からどんなアクロバット決めたら、高校生のエロ談義にまで急降下してんですか――あ、こらドリー、聞いちゃ駄目だからね?」

ドリー「ぶらち、ら?」

警策「ホント止めて下さい!ドリーが変な言葉憶えちゃうじゃないですか!」

上条「なんだろうな……割と不当な評価を受けている気がするんだよ、うん。まぁ慣れたけどさ」

上条「てか人がボケて現実逃避しても、より現実が悪くなるのってなんとかならないかな。もう慣れたけどもだ」

食蜂「てゆーかぁ、上条さんのリクエストには応えられないのよねぇ」

上条「いやだからリクエストした憶えはねぇよ」

食蜂「だって私ぃ、つけない派だしぃ?」

上条「……」

上条「――うん、アレだ、ちょっとゴメンとりあえず銃を下ろしてもらえないか?今そんな下らない事をしている場合じゃないから」

上条「……時には、そう時には命より大事なものだってある!違うのか!?お前達にだってあるだろう!?家族とか友達とか!」

警策「オニーサン、それ多分ケンカ売ってるだけだと思いますよ?」

ドリー「ねーねーみーちゃん、なんでとーまくんひっしなの?」

警策「それはね、チョウチンアンコウの雄と同じでね」

上条「やめろ!世の男性が『これはいくらなんでもあんまりじゃ?』って思って止まないアンコウさんの例を出すな!」

上条「という訳で食蜂さんっ、マリ○になってつもりでサンハイッジャンプッ!」

警策「そんないかがわしいマ○オ聞いた事ねーよ。つーか自重しろ、自重」

食蜂「あ、ゴメンなさぁい。今日はつけてる日だったわぁ☆」

上条「俺の純情(=性欲)弄びやがって!その笑顔が可愛らしいんだよチクショー!ていうか俺も何言ってるのか分かってねぇな!」

黒服「……いいから、来い!」

上条「あー分かったよ。分かったから銃下ろせよ、こっちはただの学生四人なんだからさ」

上条(……本気で食蜂さんたち動く気ないのか?つー事は安全って事?)

上条(基本銃口向けられてるのは俺だし、警戒されてるのも俺っぽい。まぁ当たり前だけど)

上条(見た目はフツーの女の子三人、オマケの男子高校生一人。抵抗されそうで厄介なのは野郎の方に決まってる)

上条(もしもこの状況下で食蜂さんや警策さんを警戒するんだったら、それはきっと彼女たちが普通じゃない、って事前情報を持っていなければ無理な訳でー)

上条(そんな事になったら学園都市関係のトラブル、またクソ碌でもない事件に巻き込まれてる証拠でもある……と)

上条(そう考えると今の状況、”ただの厄介事”であって”科学サイドの面倒な厄介事”程ではないか……)

上条(良かったー、あービックリした!悪い意味でまだ先はある!科学サイドの面倒事じゃないんだったらまだ!)

警策「キャッ、オニーサン助けて!!!」

上条(――と俺の腕にしがみついてくる警策さん……あ、何か良い匂い――)

警策「(――オニーサン、チョイいーですか?)」

上条「(なに警策さん)」

警策「テカテカですねぇ、何もしなかったのは理由がありましてぇ――」

警策「――『一人』じゃあないんですよねぇ、これが」

黒服B・C・D「「「……」」」

上条「Oh,……なんってこった」

警策「(――テ、訳でちょっとオニーサンはドリーをお願いします。私がチョチョッとお片付けしちゃいますから)」

上条「(この人数を?俺キミの能力知らないんだが、一人で平気か?)」

警策「(マー、干物ジジイのガードやってた時期もありますし、アサルトライフル持った相手に囲まれるの比べれば)」

上条「(苦労してんのなー、君も)」

警策「(マァマァ人並み程度には――ですんで、カウントよろしくです)」

上条「(……オッケー、それじゃ、5・4・3――)」

黒服E「――人払いの結界が解かれた、と来てみれば。これはまた」

上条「(――2・い――)」

警策「――恨むなら銃を向けた自分を恨んでちょーだいなっ!!!」

ピキキキキッ!!!

上条(警策さんの髪留めが破裂したように――しかし破裂した向きは意図的に操作されたみたいに……つーかしたんだろうが)

上条(空中で弾けた銀色の何かが、的確に黒服達へ向かう)

上条(――その、瞬間)

黒服E「――『断魔の弦』」

ヴゥンッ――ゴォォォンッン!!!

上条(勢いが足りなかったのか――加減したんだろうが――散弾を弾く)

上条(風の……刃ッ!!!)

上条「お前――――――闇咲かっ!?闇咲逢魔!」

闇咲(黒服E)「息災そうで何よりだ……こんな所で遭わなければ、もっと良かったのだが」

上条「どっからツッコんで良いか分からないんだが……そうだな、まずコイツらの銃を下ろし――」

ドリー「ねーねーみーちゃん!このひとたちまっくろでながそでだよ!すごいねぇ、あつくないのかなぁ?」

食蜂「そうよねぇ。真夏にスーツ着て葬儀屋さんみたいよねぇ」

上条・闇咲「「……」」

警策「二人ともオニーサンが担当してるんですから、少し静かに。特にドリーは……うん、趣味的なアレだから、放っといた方がいいかなーなんて」

ドリー「えー?あせもとかにならないの?すずしいおようふくきないと、ねっちゅうしょうになるんだって!てれびでいってた!」

食蜂「……でもね、ドリー。女の子は生まれてた来た瞬間から女であるように、男はいつくになってもガキ――いえ、男の子なのよぉ?」

ドリー「おとこのこ?」

食蜂「いい歳になっても山の中の廃村でMatri○ごっこするの、まぁ嗜みかしらねぇ」

闇咲「……違うのだが?」

上条「すいませんっ!片方は悪気はないんですよ!もう一方は悪気しかないけど!」

警策「片方確信犯(※故意犯)じゃないですか」

上条「君も止めよう、ねっ?俺がこっちでシリアス担当している間ぐらいには、そっちで上手くナントカして、な?」

闇咲「まぁ……いい。それよりもついて来て貰おう」

上条「嫌だと言ったら?」

闇咲「言わないだろう?君が納得するだけの理由を提示せねば、このまま帰れと言った所で」

上条「いやまぁ……そうだけどさ」

闇咲「そちらの子供の言う通り、ここは立ち話をするには少々暑い――それに」

闇咲「もうすぐ日が暮れ、そうすれば――」

和服の青年「――闇咲殿!」

上条(闇咲がやって来た方向、商店街の曲がり角から和服の青年が姿を見せた)

上条(息が上がっているって事は、走って来たんだろうが……)

上条(仮に闇咲と同じ場所からスタートしてだ、同じように走って来たなら、どんだけ……あぁいや魔術師なんだよな)

和服を着た青年「闇咲殿……お知り合い、か?」

闇咲「いや、知り合いではない。ないが――」 チラッ

上条「……」

闇咲「――『後から合流する私のスタッフ』だ、という説明はしていた筈だが」

闇咲「あまり、そちらの者達には伝わっていなかったようだな?」

和服を着た青年「……………………初耳ですが?」

闇咲「ふむ、そうか。それは失礼した。謝罪が必要であればしよう」

和服を着た青年「……いえ結構。闇咲殿の門弟であれば我らが口を出す事でもありますまい」

和服を着た青年「仕事を成し遂げて頂けるのであれば、こちらは、何も」

闇咲「その物言いだと仕事次第ではどうなるか分からない、と解釈も出来る。子供相手に恫喝めいた言葉はされますな。ご自身の価値を下げる」

和服を着た男性「……どの口が!」

食蜂「(あのぉ上条さぁん?)」

上条「(はいよ)」

食蜂「(もしかして私達、ちょっとした爆弾力なんじゃ?)」

上条「(現状を正確に把握してるみたいで良かった……うん、ここへ来てやっと意思の統一が出来そうで)」

警策「(……んー……風使い、ですよねぇ?ナーンカ雰囲気が違うかなー、なんて)」

上条「(ただの風使いじゃない。詳しくは後で話す)」

ドリー「(ねね、とーまくん)」

上条「(ドリーまで小声でどうした?)」

ドリー「(みんなでないしょばなししてるから、わたしもやってみた)」

上条「(癒やしだ……ついに俺の知り合いにも癒やし枠の子が入ってきた……!)」

警策「(って言ってますけどぉ?)」

食蜂「(失敬力な話よねぇ)」

闇咲「――とは言え、失敗した時の事まで気を揉む必要はない」

和服をした青年「ま、そうなんですが……本当に?」

闇咲「ただ私達が皆殺しになるだけ、そもそも未来がないのだから心配しても始まるまい――さてと」

上条「オイちょっと待ってくださいっつーか待てよテメェ」

闇咲「話は後にしろ。私も暑い」

上条「いやあのなんか超不安になるような単語聞こえてきたんですけど!皆殺しとか!」

闇咲「今から下山したければしても構わない。手遅れだろうがね」

上条「説明を!説明責任って言葉があるでしょーが!?」

上条「てか何巻き込んでんだよ!?レジャーに来て皆殺しとか物騒な話になってんの!?」

闇咲「立ち入り禁止の看板を踏み越え、人払いの結界をわざわざ破壊してやって来たのは、どこの誰だろうな?」

上条「俺のバカっ!バカバカバカバカッ!なんつー右手ついてんだよ!今更だけどさ!……あれ?看板?そんなの無かったぞ?」

闇咲「ならば君、そして彼女達も喚ばれていただけの話。訳は話す、筋は通す、だから早く移動しよう」

闇咲「……”夜”が来る前に」

上条「一体何があるってんだよ……?」

闇咲「この名称を使うのは正しくはない。それはつまり正確な知識ではないからだ、だから予断が入るのは前提で言わせて貰おう」

闇咲「だが誤った知識であるとしても、時に無明の闇を照らす松明になる――それが死人の脂で光る鬼火かも知れないが」

上条「……うん?」

闇咲「呪法の名前は語らず、語れず。口にすると、”ソレ”の呪いを受けるからだ」

闇咲「昔は貴人が名を隠したように、名前を口にした者はおぞましい致死絶命の報いを受ける――故に、だからこそ私達は”ソレ”の名を口にしない」

闇咲「禁じられた名を呼ぶ代わりに、避忌(ひき)読みをする。真名の代わりに、敢えて俗な似たような現象の仮名をつけるとすれば」

闇咲「それはつまり、こう、呼ばれる――」

闇咲「――『コトリバコ』、と」



「潮騒の響く渚で」――間章 コトリバコ



――山奥の山道 夕方

上条(先導するように歩く御当主さん?……と黒服達。少し離れて闇咲)

上条(その背中を眺めながら俺達も後に続いていた)

上条(最後尾は警策さんとドリー……長く伸びた影で影踏みしてんのが、少し癒やされる)

上条(招かれざる客なのに、俺達の更に後ろからは誰も着いて来ない……嫌な感じだ)

上条(監視する必要がないのか、それとも逃げ出しても問題ないのか)

食蜂「……ねぇ上条さん?」

上条「なに?」

食蜂「心配、かしらぁ?」

上条「んー……でも、ないな。俺の知り合いが一枚噛んでるし、少なくとも理由がなくて他人を巻き込むようなヤツじゃない」

食蜂「運命力よねぇ、というか腐れ縁力?」

上条「あぁスイマセンでしたよねっ俺の厄介事巻き込んで」

食蜂「いいのよぉ、なんとなく予感はしてたし」

上条「そう言われると恐縮っていうか、最初から期待されてないみたいで凹むんだが……」

食蜂「あの子に『楽しい夏休み』をプレゼントしたいだけしぃ、夏と言えばちょっとホラーなイベントはつきものでしょお?」

上条「ちょっとの振れ幅ハンパねぇけどな!」

食蜂「だってお姫様がピンチの時には、駆けつけてくれるんでしょう?お・う・じ・さ・ま☆」

上条「え、お姫様?どこどこ?どこにお姫様居んの?」

食蜂 ギユーーッ

上条「いたいイタイ痛い!?腕をつねるのは地味に痛くてリアクションが取りにくいよ!?」

上条「ていうか今のは完全にフリだろ!?話の流れからあからさまに『外せ、外すんだぞ!絶対に外すんだからな!』みたいな空気出てたじゃねぇか!?」

食蜂「じゃ、リテイクねぇ――『駆けつけてくれるんでしょう?』」

上条「『カカロッ○ォォォォォォォォォォォォォォォォォッ!!!』――ってイタっ!?」

食蜂「それはっ、王子様っ、違いっ、よおぉっ」 ギリギリギリギリッ

上条「痛いんですが食蜂さん!つーか芸人だったらテンドンは基本だし俺悪くないよ!」

上条「中の人繋がりで『一○兄さん!にいすわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁんっ!!!』ってやろうとしたけど自制したぐらいだし!」

食蜂「アレ多分サイ○人<○輝兄さんよねぇ?」

上条「……あのシリーズ最大の謎は『気持ち次第でなんでもできる!』より、兄さんの不死身性だと思うんだ」

食蜂「ていうかぁ……上条さんにはもっとこうTPO力があってもいいと思うわぁ……もうっ、次は怒っちゃうゾ?」

上条「……それもうフリだよね?テンドン的にもう一回ボケないといけないような気がするんだよ、むしろ逆に」

食蜂「王子様以下略」

上条「君は――俺が守るよ」 (キリッ)

食蜂「……チッ」

上条「舌打ちしやがったよこのアマ!?イヤか!?そんなにイヤか俺が格好つけるの!?」

食蜂「そろそろ寒くなってきたわよねぇ」

上条「トリハダ立つぐらい似合わなかったか!?生理的に受け付けないで!?」

警策「サブッ」

上条「死体蹴りやめよう、なっ?聞いててもそこはそれスルーするのが大人力だと思うんだ、俺はさ」

ドリー「みーちゃんもさきちゃんも、めっ、だよ?とーまくんはんせーしてるみたいだし」

上条「ドリーさん?ねえ君ボケ潰しは誰に習ったのかな?あの初対面で猫被ってやがったアマかな?」

警策「イヤデモオニーサンだってカ――」

上条「女の子がシモネタ言うんじゃありませんっ!いや俺は違うけど!日本人の約7割はそうだって言うし!あくまでも統計的にはな!」

上条「そういう芸に頼ってる子はな、いつの間にかそれが持ち芸みたいに扱われ、陰ではヨゴレヨゴレ言われ続けるんだから……!」

食蜂「ちょっと意味分からないかしらぁ」

上条「芸風は裏切らない、かな」

警策「本格的に意味が分からなくって来ました」

上条「だって考えても見ろよ、お前アレだ、神谷浩○さん(既婚)に同じ台詞言われたらどう思うよ?」

警策「『ヤッベェ○谷、超カッコイイぜ』」

上条「なっ?神○さん格好良いだろ?」

食蜂「……あのねぇ上条さん。それは『※ただしイケメン(ボイス含む)に限る』って言ってぇ」

上条「知ってるよ!イケメンはなんだって許されるって話は痛いほどにな!」

ドリー「とーまくん、いけめんってなーに?とーまくんいけめんちがうの?」

上条「えっとなー、それはねー、『うん』って言ったら鼻で笑われるし、『違う』って言ってもそれはそれで笑われるトラップなんだよ」

ドリー「それよりもわたし、おなかすいたかも!」

上条「そっか……それじゃ、帰ろうか、なっ?」

ドリー「うんっ!」

闇咲「待て待て、まだ話は終ってないし始まってすらいない」

上条「いやだって……なぁ?」

闇咲「現実逃避したい気分には同意しないでもないが」

上条「……そりゃどーも、っていうか”これ”、あんまりじゃねぇのか?」

食蜂「雰囲気、あるわよねぇ。横溝正史か江戸川乱歩の小説に出て来そう」

警策「どっちかってーとー、出オチじゃないですかねぇ。ナンカモー、あからさま過ぎて」

上条「だよ、ねー」

上条(闇咲とその不愉快な仲間達が立ち止まって待ってくれる……いやいや嬉しくはない。これっぽっちも)

上条(それは別に漫才しながらついて来る俺達が追い付いてくる、みたいな話ではなく。もっと単純に)

上条(目的地に着いたから、やや遅れ気味の俺達を待ってる。それだけの話――なんだが)

上条(つーか、これが?マジで?と、思わずこぼしそうになるぐらい、その建物は酷かった)

上条(田舎の旧家と言えば聞こえはいい。ついでに『趣のある』と言っても過言ではないだろう)

上条(よく分からん建築様式の、『これ俺のアパートの部屋何個入るんか?』的な疑問すら不毛に思えるだだっ広い敷地)

上条(全体的に黒を基調とした瓦葺きの屋根、城郭のような漆喰作りの壁。ナニコレ?城?)

上条(文化遺産と言われても納得しそうな、それこそ京都や奈良のような古都と呼ばれている辺りに見られるような、そんな家だった……が!)

上条(残念ながら、そして極めて遺憾――じゃないが――とても羨ましいとか、そういう感情は湧いてこなかった)

上条(スゲーな、とは流石に思う。色々な意味で)

闇咲「……極めて私見ではあるが小酒井不木(こさかいふぼく)の小説とも」

食蜂「またおじさまの外見通り、シブい趣味してるのねぇ」

上条「こさかい?」

食蜂「乱歩の処女作、『二銭銅貨』の評価を求められ大絶賛した作家――というか、翻訳家?」

闇咲「兼・医師であり医学博士の号も得ている」

上条「……いや知らんけど。つーかなんで詳しいんだ」

闇咲「一身上の都合により少しばかり縁がある身ではある……が、だ」

闇咲「あまり”それ”には触れてくれるな。今までの努力が無に帰すのも馬鹿馬鹿しい」

上条「いや触らんねぇよ、つーか触らんねぇよ!こんなの頼まれたって躊躇するわ!」

警策「カーラーノ?」

上条「やめろ!これはなんかシャレになってねぇから!」

上条(あー……なんだ、正直今からでも帰りてぇと本気で思った。つーのもだ)

上条「……なぁ、ツッコんでいいかな?」

闇咲「気が済むのであれば、存分に」

上条「まぁ雰囲気のある――ぶっちゃけ『この家古そうだなー、オバケ出そうだなー』みたいな家は、大抵どこの街にもあるさ。一戸ぐらいは」

上条「ガキの頃した探検ごっこ――は、憶えてないけど、集まってそれっぽい家の前で騒いだりしたヤツは意外と多いと思う」

上条「ケバい科学の街で知られたウチにだって、金持ちが住む学区には耽美主義?だか懐古主義だかの高級住宅街がある……って先輩から聞いた」

食蜂「……雲川芹那よねぇ、それ」

上条「まぁ……昨今の廃墟ブームで他人様の私有地に吶喊するアホ――何故か脳裏に佐天さんの姿が浮かんだが――だって、これは、ない」

上条「この家見たら、視線を逸らして見なかったフリするもの。つーか俺もそうしたいよ。今からでも」

闇咲「否定は出来ん」

上条「つーか何?何だこの幽霊屋敷!?有り得ないだろ!?」

上条「なんで外壁全体にしめ縄貼ってあんの!?なんか特別なイベントでもあんのか、なあぁっ!?」

上条「東○か?○方拗らせたのか、なぁハイって言ってくれよ!そうすれば説明つくからさ!」

上条「東○好きが高じてブロクだけじゃなくてお屋敷全部ぐるーっと囲んだって!だったら説明着くから!出来るから!」

ドリー「はいっ!」

上条「よーしドリーさんいいお返事だっ!でも俺が欲しかったのは葬式男の返事であって君はコーザックと遊んでて!」

ドリー「はーい」

警策「コーザック違います。警策です」

闇咲「葬式男……間違ってはいないが――というか君と前に会った時、言わなかった……な、確か」

闇咲「『下級妖魔ぐらい縛れる』、とは禁書目録へ言った台詞だったか」

上条「俺達のファーストコンタクトはファミレスのガラスぶち破って来たじゃねぇかコノヤロー」

警策「『遊星からの物体○』だってもう少し穏便でしたよねぇ」

食蜂「――はっ!?まさかソコから生まれる――恋っ!」

上条「そんなんで物語が生まれるんだったら、科学と魔術が交差する度に子沢山で困るよ!少子化も解消するさ!」

闇咲「ま、現実逃避はそのぐらいにして中へ入れ。日が暮れる」

上条「……マジか中に入りたくねぇ――と、待てよ?」

上条「これって、つーかこのしめ縄は結界的な意味があるんだよな?魔術的には?」

闇咲「そうだ。縄縛術はあまり得意ではないが、それもまた一身上の都合により」

上条「つーことはやっぱ、外に居るよりか中入った方が安全……なんだよ、ね?」

闇咲「違う。だから『縄縛術』と言った筈だが?」

上条「えっと……?」

警策「アーハイハイ、なるほどーそういう事ですか」

上条「警策さん?どういう事?」

警策「イヤですから、こっちのオジサンが縄縛術――要は縛って効果を発揮するタイプの能力だって言ってる訳じゃないですかぁ?」

上条「能力じゃ……まぁ詳しくは後で話すけど、んで?それが?」

警策「その方が、こうやってギッチリビッシリこの家の周りに張り巡らせている、って事から考えれば――」

警策「――封じてるのは”この家”なんではないかー、と」

上条「やっだなぁ何言ってんだよコーザックさんHAHAHAHAHA!!!」

上条「そんなまるで化け物屋敷みたいなトコある訳ないだろー、なぁ?」

闇咲「……」

上条「……」

闇咲「――先に入ってくれ。私は結界を張り直してから後に続く」

上条「嘘だって言ってくれよ!?スルーせずになあぁっ!?」

闇咲「ふむ、的を射ている」

上条「あー……平和な日常ってなんだろうなー……?」

食蜂「ここじゃないどこかの話よねえ」

上条「はいっそこっウルサイよっ!」



――回想 学園都市

インテックス『……』

上条『――えっとですね、あー、俺は思うんだよ。人類が平和になればいいな、って』

上条『例えば国と国、人と人、そしてきのこ派とたけのこ派』

上条『時には二次元派と三次元派、場所によってはロリババ×派と合法ロ×派で激しく争ったりするじゃんか?そうゆうのはよくないなー、と』

上条『例えば……そうっ!イマジ×だよ!ブレーカーじゃない方の!あれだって「想像してご覧よ平和な世界を」って言ってるし!』

上条『確かにジョ×は初婚の時に浮気したクソヤローだけども!口では良い事言ってたじゃない!口では!』

上条『ジ×ンはもうこの世界には居ないけど!たった四人のグループすら仲良くやれなかったけど!』

上条『……俺達は戦争のない世の中を作らなきゃいけないんだ……ッ!!!』

インデックス『……』

上条『……』

インデックス『……うん、あのね、びーとる×の話はいいと思うんだよ。そもそもイギリスだとそこまで英雄視されてないし』

インデックス『ていうかイマジ×はイギリス清教だと「葬儀の曲に使っちゃダメだよ」、ってお達しが出ているから……まぁ、うん察してね?ってことなのかも』

上条『……ビート×ズ、地元じゃ人気ねぇの?』

インデックス『サカモトキュ○?の歌は今の日本で若者が好んで聞くかな?』

上条『あー……上を向いて歩こ○は名曲だとは思うが……うーん』

インデックス『好きな人は好きだし、個人の好みだからいいんだけど……あれかな?扱いは―― 』

インデックス『――「洋楽いいわー、洋楽ばっか聞いているからJポップ今何流行ってるか全然知らないわー」的な』

上条「なぁインデックスさん、その例え何から勉強したの?どこで知ったの?ミサ○じゃないよね?』

上条『それ多分お家帰って使ったら叱られるから、余所ではダメだからね?」

インデックス『少なくとも「カバーしようぜ!」って若いばんどまんが歌う曲の題材には、なりにくいんだよねぇ、なんだよ』

上条『だな――っと、あ、ごめん、そろそろ時間で行かなくちゃ』

インデックス『――で、わたしを置いて余所行きの服とリュックに着替えを詰め込んだとうまは、一体今からどこへ行くのかな?』

上条『いやだからね、これは深い訳があってだ。そうだなー、ミサンガの語源がB'○だって知ってた?』

インデックス『Beadsだよ?○'z違うんだよ?』

上条『実はだな、えっと……』

インデックス『なに』

上条『……に、新盆?』

インデックス『そんなオシャレな格好で!?来られたご家族だって嫌がるかも!?』

上条『――イマジ×!』

インデックス『うん、とうまが中途半端な知識で世界平和を願ってるのは理解したんだけど、それはとうまを今からお説教するのと関係あるのかな?』

インデックス『ないよね?レノ×が死んだ後も著作権フリーにならず、続々と印税収入を築いている楽曲は、世界平和と、関係は、ないよね?』

上条『違うんだインデックス!騙されちゃダメだ!』

インデックス『聞くけど、まず、せいざ』

上条『……これは、そう、これは――っ!』 グッ

インデックス『「敵の魔術師の攻撃なんだ」って言ったら、割と強めに噛むからね?』

上条『……』

インデックス『で、なに?』

上条『……なんでも、ないです』

インデックス『はい、じゃ説明するんだよ』

上条『あのですね、知り合いがね、つーか多分知り合いの子からね、「海へ行くから引率者になってくれませんか」って連絡があったんですね』

インデックス『うん、それで?』

上条『「あぁいいよいつにする?」って』

インデックス『即決!?決めるの早くないかな!?』

上条『知り合いから頼まれたら、普通こんな感じじゃないかな?よっぽど理不尽な話でもない限りはさ』

インデックス『……うん、とうまはとうまだからね、わたしもそこはもう諦めてたつもりだったんだけど……』

上条『何言ってんですかインデックスさん、まるで俺が非常識みたいな言い方じゃないですかーやだー』

インデックス『善良なのはとてもとても良い事なんだよ……でも、過ぎるのはどうかなと思わなくもなかったり、かも』

上条『――イマ×ン!』

インデックス『実子に「パパは愛を世界に説いたけど、一番大切な人に与えなかった」って言われてる人の話はいいんだよ』

上条『やっぱイギリス人って……』

インデックス『とうま?わたしも広義で言えばイギリス人なんだからね?』

上条『い、いや待ってくれよインデックスさん!確かに俺はお前を置いて行こうとしたけど!アフターケアは万全にしてた筈だ!』

上条『冷凍庫の中には作り置きで一週間分の食料が詰め込んであるし!舞夏に面倒看てくれるように頼んでもある!』

上条『こんな完璧な計画なのによく見破ったと褒めてやりたいぜ!』

インデックス『うん、とうま?ここ数日ごはん以外に大量に作り置きしてる時点で、なんでバレてないと思ったのかな?もしかして後遺症?』

上条『てかインデックスに話通さなかったのは悪いと思うが、だったら一緒に行くか?』

インデックス『え?』

上条『向こうも友達二人と一緒だっつー話だし、女の子増える分には別にいいんじゃね?』

インデックス『……たぶんとうまはそれを素で言ってると思うんだよ……!』

上条『なんで?どゆこと?』

インデックス『……あぁうん、とうまは所詮とうまだって分かってたから……がんばれわたし、くじけるな……!』

インデックス『とうまの気持ちは有り難いんだよ……でも、今回はちょっと遠慮するかも』

上条『まぁ別に魔術師とケンカしに行くんじゃねぇから、インデックスの知識が必要になるとは思えないしな』

インデックス『とうまそれふらぐかも――それに、わたしも約束があるかもだし』

上条『約束?』

ピンポーン

インデックス『あ、ほら来たんだよ』

上条『インデックスの友達?』

鳴護『おはようございま、す?』 ガチャッ

インデックス『もうお昼なんだよ、ありさ』

上条『いやそれ多分、ビジネス的な意味での挨拶だから――って、まぁおは、よ、う?』

鳴護『インデックスちゃんも当麻君もオハヨー……って何?当麻君?』

上条『あれ……?いや、アリサさ、ちょっと失礼かもしんないけど聞いていい?』

鳴護『とっても不安になるような前置きなんだけど……な、なに?』

上条『一回消えなかったっけ?』

鳴護『やっぱり内容も酷かったよ!?』

インデックス『……とうま?』 ガッキンガッキン

上条『待って!?これにはワケがあるからまずワニワニパニッ○みたいに歯を鳴らすのをやめるんだっ!だっ!?』

上条『エンデュミオンん時にさ、最後はシャットアウラと一つになって……みたいな記憶が――』

金髪『――あーゴメンゴメン、そういうのいいから急いで欲しい訳』

上条『誰……だっけ?』

金髪『ヒドッ!?……あ、イヤ違っ――く、はない訳!初対面、うんっ、初対面な訳よ!』

鳴護『麦野さん、怒ってる……かな?』

金髪『免許取ったばっかなのにデカいクルマでキレッキレな訳、つーか早く降りてきて。ハリハリー!』

上条『なんか俺の知らない所で友達増やしてんのか……ちょっと複雑な気持ちだ』

インデックス『友達って言うか、運命共同体っていうかな、うーん』

金髪『被害者友の会ってハッキリ言った方がいい訳』

鳴護『ま、まぁまぁ!フレンダちゃんも何だかんで言ってここまで来てる訳だし、ね?』

金髪『こ、これはジャンケンで決まった訳だから!別にあたし勝ちたいなんて思ってなかった訳よ!』

鳴護『勝ち抜き方式だったよね?あとガッツポーズ決めて大騒ぎして、最愛ちゃんに「こらっ☆」ってされてたよね?』

金髪『そんな生易しい言い方ではあの腹パンは表現不足だって思う訳……!』

鳴護『なんかあれ、ダメージ蓄積して三年後ぐらいに腎臓悪くしそう』

金髪『やめて!?散々いいの貰ってるあたしの前で不吉な事言わないで!』

上条『まぁそっちもアリサが居るんだったら不安はな――そんなには、そんなにはまぁ不安はないが!』

鳴護『あたしもまぁやらかす方だけど、そこはせめて強調はしないで欲しかったかなー、うん』

インデックス『っていう訳だし、わたし達は心配しなくていいんだよ?とうまはゆっくり楽しんでくればいいのかも』

上条『冷凍飯は帰って来てから食えばいいし、それじゃまた』

インデックス『……うん、それじゃ”また”、なんだよ』

鳴護『当麻君、”また”逢おうね?』

上条『あぁうん、何かお土産でも買ってシャットアウラの分と一緒に持ってくわ』

金髪『……むー』

上条『そっちの子も今度また遊びに来てくれよ。お菓子でも作っとくからさ』

金髪『……ん、考えとく訳』

上条『あとできれば下に居るであろう麦野さんって人の情報をだな』

金髪『さっさと行って来る訳よこのボケが』



――現在 旧家の離れ

人工音声『現在、お客様は電波が通じない所が、通じにくい場所に――』

上条「――って繋がらねぇ、インデックス電源切ってんのか」 ピッ

闇咲「私としても禁書目録の助力を得られれば良かったが……まぁ贅沢も言っていられないか」

上条「そりゃお前は仕事だろーがな!こっちはレジャーで来てんだよ!」

闇咲「こんな山奥の辺鄙な町に?」

上条「人生って、コワイよな?」

食蜂「はいそこぉ人のせいにしちゃダ・メ・だ・ゾ☆」

闇咲「詮索はしないし、巻き込まれたのも同情はするが……諦めろ。四の五の言った所で何も始まらん」

上条「……いや、分かってるけどさ」

上条(例の封印屋敷、てかお化け屋敷へ入った後、俺達は離れのような場所へ通された)

上条(文字通り母屋と離れてるものの、お手洗いや炊事場なんかの水回りも建物の中にある。イメージとしちゃほぼ一軒家に近い)

上条(趣のあるいい屋敷――”だった”んだろうが、生憎あぁホント残念な事に風情らしきものは感じられない。一切、全く、これっぽっちも)

上条(というのも家の中にも例の『縄縛術』とやらが仕掛けてあるらしく、壁という壁にはしめ縄――と、紙垂(かみしで)?とかいう、あー、アレだ)

上条(紙で作ったギザギザの御札?よく正月に初詣行くと、賽銭箱の上にあるしめ縄にぶら下がってる紙のヒラヒラ。それもセットになってて)

上条(猟奇殺人事件が起きた後、不動産屋もこんな大掛かりなお祓いしてんのかなぁ、と場違いな感想)

闇咲「では話をする前に――『沈空の弦』」

上条(闇咲は右腕につけてる小さな弓を引き絞り、放つ。ビィィインッという音と共に魔術的な何かが――)

上条(……いや、音はしなかったな。あの夏、学園都市で聞いたような弓鳴り音は)

上条(その代わりに……夕暮れになって一斉に鳴き出した、もの悲しいひぐらしの声が……消えた?止んだ?)

闇咲「この部屋に音の壁を張った。これで外から話を聞かれる事はない」

警策「能力者だとは思っていましたけど、風系統?それとも振動系、でしょうか?」

上条「あぁこの人はな」

闇咲「闇咲逢魔、魔術師だ。専門は呪詛払い」

警策「ヘーソーナンデスカー、ズコイデスネー」

上条「いや、あのな?そのリアクション取りたくなるのは分かる、分かるんだけども、この人は本物の人でさ」

警策「――ってのはジョーダンですけど。前のお仕事で一緒したヒトにも、それっぽいのが居たんで」

闇咲「名前と術式の特徴は?」

警策「ショーチトル?だかって呼ばれてたっけ、あとこう、ヤスリみたいな両刃の剣持ってました」

闇咲「ショチトル……マクイルショチトルか。ならばアステカ系魔術師は確定、専門は歌と音楽だが……そう、素直なものではないだろうが」

警策「強いんですか?」

闇咲「アステカには呪殺と屍体工匠がやたら多い。君が搦め手に長けていなければ、争いは避ける事だ」

警策「呪殺……それもしかして、目の前に居なくても効果あったりします?」

闇咲「あるのも、ある。こちら側の最高峰――人が行ける限界の魔術師であれば、『テレビモニタに映った姿』を見ただけで昏睡させる事も可能だ、な?」

上条「ヴェントん時だよなぁ、よくまぁ死人が出なかったもんだ」

闇咲「魔術と聞いて身構えるかもしれないが、そう大したものではない。ただそこにある力だ」

闇咲「学園都市が半世紀前に目をつけた力、それとは別に人類の歴史史上連綿と研究され続けて来た力。それだけだ」

食蜂「……私も”そっち”の人と会うのは初めてだけどぉ、なんか卑怯力な気がするわねぇ」

闇咲「とは、何がだ?」

食蜂「だってぇ、魔術はこう、相手を『ム・ド・オ・○☆』って呪えば死んじゃう訳なんでしょお?だったら防ぎようが無いじゃなぁい?」

上条「食蜂さん、例えがどうかと思う」

食蜂「ニフラ○☆」

上条「いやあの可愛いんだけど、どうして俺に向かってニフ○ム唱えたの?俺は腐ってないし、邪悪な存在じゃないから効かないよ、多分?」

闇咲「それこそ『そういうものだ』と納得して貰うしかない。そうだな、仮の話」

闇咲「銃があれば鹿を仕留められる。また弓矢があっても可能だし、極端な話、石槍で狩ったという記録も古代の遺跡から出土している」

闇咲「どれが最適解なのか?最も効率が良いのはどれか?――という話になれば、今の所は銃器が良しとされている」

闇咲「しかしこれがもし無人島で、補給も得られず残弾も心許ない状況であれば、私は弓矢の狩人の方に長があり」

闇咲「そしてまた弓など持った事もなく、また銃など知識程度しか持たない人間達が狩りをするのであれば、簡易な槍が最も有効なのは明らかだ」

食蜂「なんかはぐらかされている気がするわよねぇ」

闇咲「ならばこの話はこれで終わりだ。理解したくない人間へ何を言っても時間の無駄である以上は」

上条「ま、まぁまぁそのぐらいに。闇咲は外見アレだけど悪いヤツじゃないから、良いヤツだから!」

警策「どう見ても葬儀屋さんですが」

闇咲「……」

上条「――ハイっ、自己紹介続けようぜ!人間関係の構築のためにも!」

闇咲「いや、今は先に済ませなければいけない事がある。雑事は後でいいだろう」

上条「おいテメー人が折角気ぃ遣ってんだから汲んでくんねぇかな?なぁ?空気読め、空気を」

闇咲「とは言うがな。君達は家人でない分、恐らく祟り殺されるのは最後になるだろうが……む?」 PiPiPiPi

上条「デフォのケータイ呼び出し音」

闇咲「済まない。少し外す」 スッ

闇咲「『――』」

上条(闇咲が部屋から一歩踏み出すと音は聞こえなくなる。テレビのボリュームをサイレントにしたように)

食蜂「……で、上条さぁん?」

警策「信用出来るかどうか、って話ですよねぇ」

上条「あー……なんだ。闇咲はこれはこれで誤解されそうな感じなんだけど、根は良いヤツでさ?」

上条「俺と出会ったのも『知り合いの呪いを解きたいから』って事だったんだよ」

警策「あのオジサンのご職業を考えれば当然じゃないですか?」

上条「って言う訳でもなくて、だ。これ、ナイショな?闇咲には言うなよ?実は――」



――離れ

闇咲「――と、長くなってしまったかな。では続き、を……?」

食蜂「闇咲さんっ!」

闇咲「ふむ?」

食蜂「やっぱりぃ『愛』よねぇ、『愛』!」

闇咲「……………………ふ、む?」

警策「アァホラ食蜂さん面食らってますから、その辺で――テカ、その顔で……ぷっ」

食蜂「大切な事でしょぉ!女の子にとっては王子様じゃなぁい……ちょっと厳ついけど」

警策「マー否定はしませんがねぇ」

闇咲「……上条、上条当麻」

上条「は、はい?」

闇咲「喋った、な?」

上条「言ってな――言った!言ったから!その手を下ろせ室内で魔術ぶっ放すそうとスンナッ!!!」

闇咲「『感謝はすれど他言無用』だと言った筈……いや、厚かましい頼みだと分かってはいるが」

上条「いやだから、お前に頼まれた件は喋ってないよ?うん、いやホントに?」

闇咲「ならどうしてこちらの二人が生暖かい目で私を見るんだ?納得の行く説明をして貰おうか」

上条「だからさ、お前の事は言ってない、ないんだけど……」

闇咲「ど?」

上条「別の知り合いの話だな、ちょっとだけ」

闇咲「知り合い?」

上条「その人は、昔からずっと体が弱かったんだってさ。生まれつきらしいんだが」

上条「何回検査しても、ある時は学園都市にまでわざわざやって来て検査したって病気は見つからない」

上条「だからって体が良くなる訳じゃなくて、学校にも行けず一年の殆どを入院してて――」

上条「……それも対処療法しか出来ず、このままじゃもって数年、成人までは生きられないだろうって覚悟はしてたんだよ」

闇咲「その、話は」

上条「そんな状態でもさ、その人は諦めずに、体力が少しでも落ちないように車椅子で出来るだけ動くようにしてて」

上条「たまたま体調の良い日に中庭を歩いていたら、たまたま葬儀屋さんみたいな黒スーツ来た男の人と出会って」

上条「ほんの少しの会話だったけど、異常なものを見るような目で……そう、彼女がいつも見られるような目を向けられなくて」

上条「それから時々病院に来る『葬儀屋さん』とお喋りするのが楽しくて」

上条「出来るだけ、中庭に来られるようにしてたって話――」

上条「……まぁそんな話を、少しだけしたんだ。俺が聞いた話を」

闇咲「……バカな女だ。ただでさえ少ない寿命を下らないために遣っていたのか」

上条「いいんじゃないか?お前と同じバカ同士、お似合いだろうし」

闇咲「一緒にしないでくれ」

上条「へぇ?学園都市にまで乗り込んできたお前が賢いって?」

上条「イギリス清教、ローマ正教、そして雑多な魔術師ですら見つけられなかったインデックスを」

上条「たった一人で何の後ろ盾もなく、乗り込んできたお前が『たまたま』見つけたって?」

闇咲「……」

上条「さっき言った『モニタ越しでも相手を昏倒させられる世界最高峰の魔術師』ですら、居場所を掴めなかった俺やインデックスを」

上条「世界中の魔術師から、ある意味大人気のインデックスだが」

上条「お前は一体、どれだけの労力を払って見つける事が出来たんだ、なあっ!?」

上条「『呪いを解くのが専門』の人間が、どうやって学園都市240万人中からたった人を見つけ出せたっていうんだ、ああっ!?」

闇咲「……」

食蜂「愛の力よねぇ☆」

警策「食蜂さん、しーっで。今多分オニーサンが失敗をウヤムヤにしようと頑張ってる所ですから」

上条「二人ともちょっと黙ってて貰えないかな?折角シリアスな声作ってんだから、ドリー見習えよ――って静かだな、さっきから?」

ドリー「……くー……」

上条「……あぁなんか静かだと思ったらそういう事」

警策「はしゃぎ疲れたんでしょうねぇ、よしよし」 ナデナデ

闇咲「……君がどう邪推しようと、君達が何を思うとそれは勝手だが」

闇咲「それほど面白い話はない。ある筈もない」

上条「闇咲っ――ん?」

闇咲 ピッ

闇咲「『――あぁ、私だ。そう……あぁ、今から替わ――』」

上条(闇咲は自分の携帯を取り出して話し始めた。超空気読めてない――)

上条(――なんて事はないだろうが、これは、なんだ?)

闇咲「『――それに関しては帰ってから問い詰めたくはある。クライアントの前で恥を――まぁいい、それより――』」

闇咲「『……替わる――』……上条」 ポイッ

上条「おっと」 ヒョイッ

上条「――って待て待て、話の途中でケータイ投げられても。つーか替われって言われてもさ」

闇咲「あー……その、だ。先程話をしたら、替わって欲しい、と」

上条「だから誰だよ?」

闇咲「……………………家内、だな」

上条「へーお前結婚してたんだ――って嫁さん居んの!?」

闇咲「……うむ。いや……まだ籍は、入れていないのだが……」

上条「いやいやっ!いきなりお前の嫁さんと話せって言われても!俺知らない人だし!」

食蜂「これは――アレよねぇ?」

警策「むしろ違ってたらホラーじゃないですかねぇ、それはそれで」

闇咲「私はいいと言ったんだがな、その、家内がどうしても改めてお礼を、と」

上条「何?どういう事?」

食蜂「上条さんいい加減に鈍感力が過ぎると思うわぁ?」

上条「はい?」

警策「――ハーイ、デハデハ外でお話して来ましょーねー?オネーサン付き合ってあげますから、ちゃっちゃと行くー」 グイッ

上条「お、おう?まぁ話せって言うんだったら、『もしもし――?』」 スッ



――離れ 結界内

闇咲「……礼を言おう」

食蜂「あれは上条さんが全面的に悪いからいいわよぉ」

闇咲「とは?」

食蜂「女の子の行動力を甘く見たクチでしょお?あなたも」

闇咲「否定はせんが」

食蜂「恋する乙女はム・テ・キ☆」

闇咲「それも否定はしないよ――と、学園都市能力者序列5位の食蜂君、で合っていたかな?」

食蜂「あーら私ってば有名力よねぇ」 チャキッ

闇咲「争うつもりは無い。そもそも足を向けて眠るのすら憚るのに、恩人の友人へ向ける刃は生憎持ち合わせていない」

食蜂「人情家ねぇ、おじさま」

闇咲「ではなく、忠告をしておこうと思ってな――軽々しく人の頭を覗かない方がいい」

食蜂「……それはお願いかしらぁ?それとも人道的な、道徳面から言ってるのぉ?」

闇咲「どちらも違う。安易なヒューマニズムや年長者の傲慢から来る小言を言うつもりなく……ただ、君のために言っている」

食蜂「それはどうして?」

闇咲「狂う」

食蜂「……はぁ、あのねぇ。言わせて貰いますけどぉ、私だって学園都市の暗部を散々見てきたのよぉ、これでも」

食蜂「そりゃこんな可憐な美少女が、っては思うでしょうが」

闇咲「だからその手の話をしている訳ではない。『魔術的に危険だ』と、言っている」

食蜂「あぁ……防御的なお話かしらぁ?」

闇咲「それもある。自らの知識の流出を防ぐため、魔術的に脳内を改造するのは珍しくもない」

闇咲「他人の記憶を盗み見ようと、普通の魔術師が手を出した瞬間、脳を焼かれるのはよく聞く話――に、加え」

闇咲「もし好奇心で私の頭を読もうとするなら、『原典(オリジン)』の毒にやられる。君達能力者の場合は特に」

食蜂「オリ、ジン?」

闇咲「私の頭の中にある……『抱朴子(ほうぼくし)』のような、力ある魔術師ですら扱いに困るような代物だ」

闇咲「とはいえ、君の力が漠然としか分かっていない以上、必ずしも有害であるとも言い切れない。ないのだが……」

闇咲「……詳しくは彼から聞いてくれ。立場上話せる事と話せん事がある」

食蜂「それは……ご忠告、素直に感謝するわねぇ。でも――」

闇咲「でも?」

食蜂「能力を使うつもりはないから、心配しなくていいのよぉ☆」

食蜂「――今は、ねぇ」



――離れ

闇咲「――では納得して貰った所で本題へ入ろう」

警策「あ、奥さん『言葉足らずな主人でごめんなさいね。悪い人じゃないの』って言ってましたよぉ?」

闇咲「……」

上条「警策さんそれ秘密って言われたからさ、うん?俺も俺だとは思うが、そこは直接は言ってやらない方がいいんじゃないかな?道義的に?」

闇咲「……本題だが、魔術はある。信じようと信じまいが、それは勝手だが」

食蜂「そこは信じるわぁ。学園都市だけが全ての分野で最先端走ってる、ってのもおかしな話だしぃ」

警策「私も正直……ン、ですけど。マァマァ二人が言うんだったら、判断保留ぐらいにしておきたいと思います」

闇咲「それはどうも。しかし信じようが信じまいが、科学ではない異能の力が時には厄災として降りかかるのは否定出来ん事実だ」

闇咲「ウイルスの存在を知らなかった人間であっても、インフルエンザに罹るだろうし――」

食蜂「知らなくてもぉ、防疫対策で石鹸みたいなぁ、ウイルスのエンベロープを壊すのはやってたわよねぇ」

上条「……エンベ……?」

警策「要は『石鹸でよく手を洗えば風邪を引かない。例え風邪のメカニズムを知ってなくとも』、ですね」

上条「知ってた。イソジ○大切だよねっ!」

闇咲「その理解は恐らく違っているのだが……まぁ細菌や破傷風の知識が無い時代でも、傷口を洗い、時には焼いて消毒していた」

闇咲「詳しい知識を持たなくとも対処は出来る。逆に言えばある程度の知識さえあれば、当事者とならぬ限りは問題ない」

闇咲「なのでここからは”ここ”に存在する『呪い』話からしよう。いいだろうか?」

上条「聞いたら、呪われたりしない、よな?俺達も一蓮托生になったりとか」

闇咲「する」

上条「するんかい!じゃダメじゃねーか!『あ、だったら聞きますよ』って流れにはなんねぇよ!」

闇咲「――が、だ。だから敢えて本質からは外す、今からする話はよく似た何かの話であって、”ソレ”の話では無い」

上条「違う話だったらダメじゃんか」

闇咲「風邪を引いたら体を温かくして水分を取る。他の疾患でも大抵はそうする。何故ならば自己免疫力を高めるのは有効な対処だからだ」

闇咲「それと同じく、有効な対処が共通していれば両者をわざと混同してしまっても構わない」

上条「……意味が、分からない」

闇咲「類感呪術……あー……とだ」

食蜂「おじさまがぁ、詳しく話しちゃうと私達にも影響があってぇ……だから、詳しくは話さず、かといって正確を期すため、近い”何か”の話をする?」

闇咲「そう、だな。そうだ」

上条「あぁっと……ライオンが人襲って問題になってる。これが今の状態で、なんとかしたい訳だ」

上条「でもライオンの噂をするとマズいから、似たような対策を取れる虎の話をする、みたいな?」

警策「同じネコ科でもライオンと虎は全然違いますけどねぇ。多分それで合ってるんですよね?」

闇咲「まぁそのようなものだ。真名と類感呪術の兼ね合いで下手な事は言えん……さて、上条当麻」

闇咲「君はコトリバコという都市伝説は知っているか?」

上条「まぁ概要ぐらいは。詳しい端々までは憶えてはないけど――アレだ」

上条「どっかの集落に旅人がやって来て、『呪いの力を授ける箱を作ってやる。その代わりにお前らは材料を寄越せ』と」

上条「その箱だか寄せ木細工だかを送れば、その相手は酷い死に方をする……ん、だが」

上条「その材料になってるのが死んだ子供や胎児の体で、コワイよねーヒドいよねーって話じゃなかったか?なぁ?」

警策「私が聞いたバージョンだと、詰めた遺体の数で呪いの強弱が変わるって話でしたけど」

食蜂「よくそんな悪趣味力な話を聞けるわねぇ。私は知らないわぁ」 ギュッ

上条「あのー、食蜂さん?俺の手――」

食蜂「なぁに上条さぁん?」

上条「いやあの強く掴まれてもあれっつーか、こう、むにょんむにょんがアレであぁして幸せだって話なんですけど!」

警策「盛るな、スケベ」

上条「スケベですけど何か!?」

警策「逆ギレかっ!?」

闇咲「……まぁ確かに良い趣味ではない話であるが、そう心配する必要もない」

食蜂「だってぇ心配力じゃないのっ!?」

闇咲「この話は嘘だからな」

食蜂「……うん、知ってたわぁ、完璧力でぇ」 ギリッ

上条「なぁ警策さん、これツッコんだ方がいいのかな?」

上条「最初のハピネスな感触はどこ行っちゃったのか、もう既に色が変わるぐらい腕が痛いんだが!」

警策「いやぁ、まだちょっと怖がってオニーサンの腕離してませんし、強がりですねぇ、ただの」

上条「嘘……まぁ、嘘って言うか、この手の怪談につきものの『フェイクを入れる』だっけ?」

上条「具体的な場所バレを防ぐために、わざと嘘を紛れ込ませないと――痛い痛い痛い!?」 ギリギリギリッ

食蜂「……」

闇咲「無理をしてまで聞く必要はないと思うが……まぁ確かにそういうのも。しかしそうじゃないのもある」

闇咲「殊更コトリバコにおいてはそれが顕著だという話――で、コトリバコの”キモ”はどこだと思う?」

上条「そりゃと当然、子供達の……を、使ってって所じゃね?これが寿命で亡くなった人達だったら、まだ救われるって言うかさ」

闇咲「では何故”子供”だと都合か悪いのか?年老いた人間、老人であればいいと?」

上条「っていう話じゃねぇだろ――っていうツッコミが欲しいんじゃないんだよな?揚げ足取りみたいな」

闇咲「思いたければ好きにすれば良い。それよりも回答は?」

上条「そりゃまぁ、なぁ?どっちかって言われれば」

警策「デッスネェ、流石に子供の方が後味悪いって思いますもんねぇ」

食蜂「子供……好きじゃないけどぉ、まぁ、おじーちゃんよりはねぇ?」

闇咲「……ま、私も同感ではある。まだ幼い相手を手にかけるのか、最初から亡くなっていた相手を処理するのか、どちらにせよ気持ちの良いものではない」

闇咲「かといってそれ以外であったとしても、同族の躰を冒涜的なものへ貶めるのは決して気持ちの良いものではない。それが共通の見解だろう――が」

闇咲「――それは『現代』の価値観なのだよ」

上条「人をどうこうする、ってのがか?」

闇咲「いいや、そっちではなく。『子供に価値がある』というのが」

上条「……うん?」

闇咲「コトリバコのキモ――それは『大切な子供や胎児の命を冒涜的な方法で処理する事で、呪いの力を得る』事だ。ここまでは分かるな?』

食蜂「ひ、非科学的よねぇ!」

上条「はい食蜂さん黙って。何だったら廊下出てなさい、廊下」

食蜂「聞かなかったらもっとコワイじゃなぁい!?」

闇咲「だから嘘だと言っている。コトリバコの呪いなんて最初から成立すらしていない――何故ならば」

闇咲「――当時、『子供の命は非常に軽々しく扱われていた』からだ」

警策「……はい?」

上条「あー……それ、どっか聞いたな。何だっけか……あぁ!『ナナツゴさま』だっけか?」

闇咲「その通りだ。よく知っていたな」

上条「まぁオカルト系の知り合い……誰だったかな、ちょっと思い出せないけど、そいつから聞いたんだ」

警策「ナナツゴさま?都市伝説かなにかですか?」

上条「んな大層なモンじゃなくてだ。えっと、『とうりゃんせ』って歌あるだろ?」

警策「『とーりゃんせー、とーりゃんせー』?」

上条「それそれ。その中の歌詞に『この子の七つのお祝いに、御札を納めに〜』って歌詞あるよな」

警策「あり……ますけど、それって何か珍しいんですか?」

上条「なんつーかな、昔はその、七歳ぐらいになるまではさ?よく亡くなってたんだって、栄養状態とか、病気で」

警策「マァ、そうでしょーうねぇ。その当時は日本の将軍家や外国の王族もパタパタ死んでますしねぇ」

上条「だもんで『七歳までは神様からの預かり子』みたいな扱いをして、まぁ……なんだ。事故や病気で亡くなっても、あんま悲しまないようにって」

闇咲「『通りゃんせ』の歌詞は江戸時代に成立しており、その当時には似たような概念が成立してたと思われる」

警策「デモデモ水子供養って話、よく聞きますよねぇ?ア、ホラ、オニーサンが肩に何人かつけてるヤツ?」

食蜂「イヤーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーッ!?」 ギリギリギリッ

上条「落ち着いて食蜂さん!落ち着いて俺の腕を折る前に手を離してあげて!」

上条「あと俺は童貞だから物理的に憑きようがないから安心して!物理的にって言うのもおかしな話だけども!」

上条「だから安心して、なっ?後でコーザックさんにはグーパンチするから憶えとけよコノヤロー!」

闇咲「そんなものは居ない。居るのは――」 チラッ

警策「あ、初めて目ぇ開いた」

闇咲「――ま、それはともかく」

上条「おいテメー思わせぶりな態度ホンッッッッットやめてくんない?夜一人になってモニョるのは嫌なんだからな!」

闇咲「『水子』という”発明”がされたのは1970年代になってからだ」

警策「ハァ発明?って事はそれまでは子供が死んでもほったらかしになってたんですか?」

闇咲「と、言う訳でもない。精々普賢菩薩や地蔵菩薩を奉るぐらいの事は行われていた――が、だ」

闇咲「普通の村、それこそ寒村ですらなく普通の村の話だ」

闇咲「飢饉でも餓死者を然程出さず、そこそこ恵まれていた村であったとしても、子が多すぎると間引いていた」

警策「……ヤな話だなー」

闇咲「扶養家族が増えすぎれば、飢えて、死ぬ。だからそうしなくてはならなかった」

闇咲「……また働き手にならない子――病気を患って生まれた来た子もその範疇へ入る。ただそれだけの話」

警策「……」

闇咲「勿論現代では違法であるし、人倫的にも認められはしないが、そういう時代もあった。それは記憶しなければならない」

闇咲「経済的にも苦しい時代、人が生きたくても生きていけない時代など、ほんの百数十年まで当たり前のように広がっていた」

上条「……したくてしてた、訳じゃないんだよな?」

闇咲「親であれば当然の話。そうでなければ『この子の七つのお祝い』などしないだろう」

警策「気分いい話じゃないですけど、マァマァその当時子供の命が軽いものだった、ってのは理解しましたよ。それで?」

闇咲「それは魔術の基礎中の基礎なのだが、対価に代償を支払う。この概念は理解出来るか?」

警策「アー、まぁ?願掛けみたいなもんですよね、『ケーキ断ちするからテストで良い点取れますように!』みたいなカンジで」

闇咲「当然、それは自分にとってデメリットが大きければ大きいほど効果がある。と、すれば?」

警策「子供の命、それも死児じゃ他人を呪うのは無理、ですか?」

闇咲「それこそ死は有り触れていたからな。送った相手をどうこうするよな、出来るような、等と思われる訳が無い」

闇咲「それにもっと大きな穴もある。オリジナルでは箱の数で威力が変わるとか、そんな話があったな?」

上条「それが恐いんだよなー」

闇咲「じゃあ聞くがな。『最も弱い箱で他人を呪い殺せるのに、それ以上を作る意味なんてある』のか?」

上条「う、ん?」

闇咲「箱――呪いを送られた相手は、家族は死ぬんだろう?苦しんで?」

闇咲「それは一番弱い箱でもその威力なのに、どうしてわざわざもっと強い他の箱を作らなければならないんだ?戦争でもするのか?」

上条「えーっと、どういう事?」

警策「アーッと、銃、ありますよね?銃。熱膨張の?」

上条「熱膨張は何の事だか分からないけど銃ぐらい分かるわ!熱膨張は知らないけどな!」

警策「その銃を使えば必ず当たって人が死にます。オーケー?」

上条「やたら物騒な例えで、オーケーではないが……まぁ、んで?」

警策「あなたがその銃を持っているのに、その銃の性能で満足しているのに、もっと強い威力の銃って欲しがりますかねぇ?」

上条「いや要らんだろそんなの。ゾンビ映画だったら弾数的に予備は欲しい所だが……あー、そういう意味な」

闇咲「仮に、そう仮の話だが、もしもこの話に真実が含まれていたとしよう」

闇咲「偶然子供の価値がとても高い集落があり、そこを旅の魔術師が訪れ、人を殺せるような呪い――」

闇咲「――魔術師にとっては秘中の秘となるような術式を教え、当時流行っていた仏教道徳の枠を飛び越えるような話を」

闇咲「住人達があっさりと信じ、実行した……そんな”偶然”があった。可能性はゼロでは無い」

上条「……元の話からツッコミどころいっぱいだよな、設定そのものが」

警策「何枚ドラ乗ってるかって話ですよねぇ。『太平洋戦争に鎖鎌を持った兵士が参戦した』レベルの」

闇咲「奇矯な趣味をしていたのか、はたまた相当虐げられていたのか、術者の言う通りに『筺(はこ)』を造り、然るべき奉り方をする」

闇咲「才能の無い人間が良い師に恵まれ、10年程度の時間を費やしてなれる魔術師――」

闇咲「――が、精魂込めて造った霊装に匹敵するほどのものを、素人が組み立てて完成してしまった。そういう偶然も重ったとして」

警策「難しいんですか、魔術って?」

上条「らしいなぁ。確か、かなりの年数勉強しなくちゃいけないし、能力者が魔法使うと全身の血管が破裂する、らしい」

闇咲「『コトリバコ』のように、送った相手を必ず呪殺できるような、プロの魔術師顔負けの代物が完成する訳がない」

食蜂「そうよねぇ。医療廃棄物だったら手に入れるのも苦労しないしぃ、今だったら量産出来るわよねぇ……」

闇咲「よって『コトリバコ』そのものはネットフォークロア……にも罹らない、ただの趣味の悪い怪談に過ぎない」

食蜂「そうよねぇっ!デマ力よねぇっ!」

警策「なんか急に元気になりましたねぇ」

上条「そりゃ安心すればなぁ?……俺もグロい話が嘘だって知って良かっ――」

闇咲「――そもそも結局呪われるのは『筺』を造った当人なのだからな」

食蜂「」

上条「――た?えっ、今なんか変な事言わなかったか?」

闇咲「『コトリバコ』は無い。そんな簡単に人を呪殺出来るようなものが造れるのなら、この世界そのものが終る」

闇咲「だが、もし仮に、素人がなけなしの知識を込め、ありったけの悪徳と邪悪を贄に事を行えば似たような『筺』を造れてしまう」

闇咲「原始の魔術師が言葉も無く、霊装も無く、ただ思いだけで力を行使したような奇跡が起きれば、恐らくは」

闇咲「……が、それは到底御せるものではない。『呪い』の力が宿ったとしても、それはベクトルの定まらない暴力に過ぎず」

闇咲「経験のある魔術師であれば、ある程度の方向性を持たせ、祟り神として奉れば……まぁ数十年程度で収っただろうに」

闇咲「ここまで質が悪くなる事は無かった、筈だが」

上条「……オイ、ちょっと待て!『コトリバコ』は嘘だったんじゃねぇのかよ!?」

闇咲「ふむ?さっきからそうだと言っている。あんなデタラメな方法で”他人”を呪殺出来る訳が無い。当たり前だろう?」

上条「いやでも!お前まるでそれっぽいものがあるような言い方を……」

闇咲「あぁだから”ソレ”はあるんだ。呪いもするし、祟りもある」

闇咲「『コトリバコ』はそもそもが嘘であるし、あの通りにやっても成功する可能性は限りなくゼロに近い。無視してしまっていい程には」

上条「だったら、別に、というか……?」

警策「アー……はいはい、分かりましたよオニーサン、オジサンが何言ってるのか」

警策「素人がどんだけ頑張っても人をどーこー出来るような、昔の能力者でも難しかったような方法でどーにかするのは無理だ。それがまず前提」

警策「ケドケドー、極々稀にー、何の弾みでー、巡り合わせか偶然がラインダンスしに来たのかー」

警策「『……できちゃった、わたし』みたいな?唐突に成功する例もあると」

闇咲「合っている、そこまでは」

上条「合ってんのかもしんねぇけど言い方!その言い方は一瞬ドキッとするからやめて!ドキッとね!」

警策「デモォ、成功するって言ったってぇ、やっぱりそれはデタラメなものでー」

警策「造った張本人へ危害を及ぼす超危険な『筺』が出来て、セルフ自殺兵器?みたいなー?」

上条「……なんだそれ。んなアホな話ある訳な――」

闇咲「――理解してくれた所で対応策へ移ろうか」

上条「待てよチクショー!?俺はまだ理解してねぇぞ、っていうか理解したくもねぇよ!」

上条「あれか?それじゃ呪いだなんだって騒いでるのは、この家の人がセルフ自殺兵器造って自業自得って事か!?しょーもない!」

闇咲「大体はそういうものだ。呪いをかけられるか、祟りを踏むか。二つに一つ」

闇咲「ここのケースは『コトリバコ』に似た――『筺』の呪いを呼び込んでしまった」

闇咲「先々代の御当主が面白半分で試した結果、代々当主が早世する羽目になった、と」

警策「デモそれって自業自得じゃないですかねぇ、なんて思っちゃったりするんですけどぉ」

上条「警策?」

警策「牙には牙を、猟犬には狂犬を。悪いコトしちゃったら、その分を購うのが筋――ってぇもんでは?」

闇咲「私は道義に興味は無い。依頼を受けたからするだけだ」

警策「……ヘェ?」

闇咲「……」

上条「おいやめろって二人とも!なんでやる気満々なんだよ!?」

警策「イヤベツニなんでもないですよ?いやマジで――」

ドリー「……むー、ん……みー、ちゃん?」

警策「――っとドリー?アー起きちゃったかー」

ドリー「……みーちゃん、けんか、めっ!」

警策「いやあの、そういうんじゃなくて、ね?なんて言うかな、こう」

上条「ドリーさん言っちゃって下さい」

ドリー「みーちゃん、めっ、だもん!」

警策「……ごめんなさい」

上条「(初めて勝った気がする……!)」

警策「(憶えとけよ、上条当麻……)」 ボソッ

上条「あれ?またヘイトが溜まった気がするぞ?」

闇咲「……まぁ個人的には君の言わんとする所も分からないではない――が、知り合いに一人、居て、だな」

闇咲「直系を悉く根切りにした後、どういう訳か数世代離れた、親等で表せば14以上離れているほぼ他人へ呪いが移行した例があった」

上条「お前の嫁さんか」

闇咲「……自業自得であればかける言葉も情も持たないが、理不尽な呪いを、身の憶えのない祟りまでも放置するのは出来ん」

闇咲「それが私の魔法名――『Conjure283(魔術師にできないことはない)』の誓いであるが故に」

警策「……相手がどーしよもーない屑の場合は?」

闇咲「私が受ける依頼は『呪いを解く』事だ。他は些事に過ぎないし興味も無い、と言った」

食蜂「……あぁ、分かっちゃったゾ☆」

上条「食蜂さん?」

食蜂「ね、オジサマ?私は素人だからよく分からないんだけどぉ、呪いの解くのに一番手っ取り早い方法とかってぇあるのかしらぁ?」

闇咲「呪いを媒介してる存在を消す事だ。物理的に、または魔術的に」

食蜂「例えばぁ……最初に呪われた人が死んでも、残る祟りも?」

闇咲「強度に寄るが、まぁ大抵の呪いはそこで終るな」

食蜂「ねぇ、警策さぁん?」

警策「アッハイ」

上条「はい?どゆこと?」

食蜂「あ、上条さぁん。ドリーがお手洗い行きたいみたいだから、ご一緒してくれるかしらぁ?」

上条「いやなんで俺よ」

食蜂「黒服の暴力的な男達の中にぃ、か弱いオンナノコだけで行けっていうのぉ?」

上条「あぁなら納得」

ドリー「さきちゃん?あたしまだだいじょうぶだよ?」

食蜂「ご飯の前に顔洗わないと、よだれ、ついてるわよぉ?」 スッ

上条「ん、少し行ってくるな」

上条(……て、いうかこの離れに水回り一式ついてるんだが……まぁ、ドリーの前じゃ、なぁ?何か話しにくい事なんだろう)



――離れ

警策「――つまりアレでしょ?オジサマは『依頼人の身の安全よりも呪いを解除する』のを優先する訳でー、理由は『他への感染を防ぐ』と」

警策「だったら、もしかして『依頼人を見殺しにして打ち止めにする』って方法も取るんですかねぇ?」

闇咲「大抵の呪いは、その当事者が被害に遭えばそれで終る。そもそもとして素人か、それに近い人間がかけた呪いなど、伝染する方が珍しい」

闇咲「……結論から言えば、”偶然”そうなる事もあるかもしれないな。私としては遺憾だが」

警策「――オニーサンのお友達だからアレかなとは思いましたけど、意外に強かじゃないですか、これまた」

闇咲「呪詛を解くのも仕事の内、そしてまた新しい呪詛が生まれる要因を絶つのもその一環だと言えるな」

闇咲「……これを彼の前で告げるのは、少々抵抗がある。だから回りくどい言い方しか出来ん」

警策「デッスヨネー、オニーサンの事だから殺人鬼でも助けようとしそうですもんねぇ」

闇咲「私や彼女も、彼の『右手』に救われたクチなので偉そうな事は言えないが……君も?」

警策「……例えばの話、ですけど」

闇咲「ふむ?」

警策「私の友達の姉妹、一万人とちょっとを殺したのは仇。それは間違いないと思うんですよ、それは」

闇咲「先が見えん例え話だ」

警策「ト、するとぉ――『その仇を助けた相手』は、どう、でしょうかねぇ?やっぱり私の敵なんでしょうか?」

闇咲「……事情はよく分からないが、私は答える権利を持っていないような気がする。それに――」

闇咲「――君はもう、人に聞くまでもなく答えを出しているんだろう?」

警策「さぁ?ドーでしょーねぇ」



――離れ 夕暮れ

闇咲「……さて、話が長くなってしまったが――一つ、聞いてもいいかな?」

上条「……どうぞ」

闇咲「君のお友達は、どこへ……?」

上条「えっと……怒らない?」

闇咲「うむ」

上条「じゃまず例え話なんだけども、勇者の親父さんが居てだな。名前を」

闇咲「それはアレか。火口に落ちてもヒョッコリ生きていたり、わざわざ変な偽名で活躍したりするアレの話か?」

上条「自分が勇者勇者だと思っていたら、育った息子が天○装備つけてて『ホウォオオオォォォォォォォォォォッ!?』ってなる方?」

闇咲「どっちにしろ大した違いはない。昔やったような……気はするが、何故その話が出てくる」

上条「俺は思うんだよ。『勇者が勇者になるのは、覚悟を決めた時だ』って」

闇咲「それで?彼女らが居ない理由は?」

上条「待てよ!?まだ俺の冒険は!俺達の冒険は始まったばかりじゃねぇか!?」

闇咲「長い長い、恐らくは時間稼ぎのために長話を打とうという姿勢は理解したが、そう長々と時間を割いている場合ではないのだが」

闇咲「簡潔に言ってくれると有り難い、お互いのためにも」

上条「……『お腹空いた。ご飯食べに行って来るわぁ☆』って」

闇咲「……」

上条「『ア、怪談オジサンのお話はオニーサンに任せちゃいますんでぇ』」

闇咲「怪談オジサン……文化人類学的の考証にも耐えられる内容なのに……怪談オジサン……」

上条「『わたし、わたしねっ、おにくがすきだけどおやさいもたべる!』」

闇咲「健康的で何よりだな。あと君のモノマネは存外に上手い――さて」

闇咲「聞きたくないのであればやむを得ない。この話はここで終わりだ」

上条「終わりって……いいのか?それで?」

闇咲「せめて簡易な対処法ぐらいは知っておいた方が良いとは思うが……まぁそれもまた選択と言えるだろう」

上条「……ちなみに知らないとどういう弊害が……?」

闇咲「Jホラーと言われる、海外のホラー映画よりも祟りや呪いをモチーフにしたものは見るか?」

上条「B級映画を愛して止まない知り合いが一人居てだな、付き合いでホラー映画もまぁそこそこ……見に行ったり借りたりはしてる、かな」

闇咲「に、よくある。比較的最初の犠牲者になる役、居るだろう?」

上条「居ますねー。当て馬っつーか、ある意味オイシイはオイシイが」

上条「『呪いとかwwwwwww』と調子ぶっこいてて、それはそれは凄惨な最期になる端役だろ?」

闇咲「彼らと同じ運命を辿るだけ、それだけだな……さて、君も食事に向かい――」

上条「待って下さいよっ闇咲さぁん!オイシくねぇよ!全然オイシくなんて無かったよ!?」

闇咲「あぁ私は五穀断ちをしている身なのでな。気にせず行ってくるといい」

上条「もしかして怒ってる?ねぇ怒ってるのかな?やっぱり怒ってんでしょーコヤツメーHAHAHAHA!!!」

闇咲「いや、先程も――君には言っていないが、仕事へ私情を挟むつもりはない」

上条「嘘吐くなよコノヤロー、『愛に生きる男』のクセしやがって!俺も生涯で一回ぐらいそんな台詞言ってみたいわ!」

闇咲「私が言った憶えもないし、そもそもアレは幸薄い女に同情しただけの事。他意は、無い」

上条「他意しかねぇだろ、むしろ他意さんの部分が主旨だったじゃねぇか」

闇咲「見解の相違は価値観の違い。互いに尊重し合うためにもこの話はここまでにしよう」

上条「あれ……?何か適当な事言って煙に巻かれてる感がするぞ……?」

闇咲「――さて、どうする?聞くに道理はあり、聞かぬも道理がある」

上条「聞かないのが、なんで?」

闇咲「囲碁と同じだ。定石を打つ相手にはある程度の対抗策が模索され続けてきた――が」

闇咲「逆に素人が、無茶苦茶に盤上をかき乱せば結果として棋聖の鼻を折るのもままある」

上条「……あぁそれ俺得意な方だわ、割と」

闇咲「中途半端に知識を持ち、面白半分で実践するような輩が一番質が悪い。三流週刊誌辺りで『○○薬を飲むな!』キャンペーンがあるように」

上条「なんかのワクチンも似た感じでやってなかったっけ?」

闇咲「医術には明るくないので同じとするのは不謹慎だが、あれも確か海外では10年以上実施され続けている上、WHOも『関係はない』と発表し」

闇咲「また日本産科婦人科学会も似たような声明を出している、とだけ言っておく」

上条「詳しいな、なんか」

闇咲「知り合いが、な……まぁ、あるんだ。色々と」

上条「あ、もしかして相談されたん?」

闇咲「何が何でもそちらへ結びつけようとするのは宜しくないと思うが、まぁあながち間違いと言う訳でもない……さて」

闇咲「無駄話に興じているような余裕はなく、かといって個人的な見解としては『知っていたのに教えなかった』と非難されるのも耐えがたい」

闇咲「なので私は勝手に喋る。参考にするのも良いし、しないもまた良いだろう」

上条「なんだその自己中。あぁいやありがたいけどさ」

闇咲「先程も言ったが、人が人を呪うと言ってもたかが知れている。素人が命を文字通り賭けたとして、それが”不幸にも”効果を発揮してしまったとして」

闇咲「精々体調を崩す程度。持続はせずに一過性の風邪で済む」

上条「……報われねぇなぁ、それ聞いちまうと」

闇咲「一応補足しておくと、昔は風邪程度であっても充分に致死の病。そしてインフルエンザで欧州では数千万人が死に至った」

闇咲「食欲が無くものを食べられなければ、また体力が落ちて衛生的にやや問題のある水を口にすれば――平時では問題無かったのに、覿面効果を現す」

闇咲「現代日本では抗生物質だけでなく、各種栄養剤が店頭へ並び、重篤化しても入院すればかなりの確率で助かる訳だ」

上条「呪いの効果が変わってないのに、充分なケアが」

闇咲「そしてまた”不幸にも”と、言ったが呪いが呪いとして効果を表せば、逆凪・カシリ風・ミサキ追いと呼ばれる反動が来る」

闇咲「プールの中で前へ向かって水を押せば、押した腕が押される。呪いとはそういうものだ」

闇咲「軽く押せば軽い反動が、強く押せば強い反動がかかる。ノーリスクで一方的に相手をどうこうするな力では、決して、ない」

上条「魔術師はどうなんだ?その話で言えば優秀な魔術師でも辛いんじゃ?」

闇咲「魔術師はまた別だ、そんな非効率的な手段は取らん。例えば……安倍晴明、蘆屋道満などが名高いか」

闇咲「また断言するのには少々抵抗があるが、空海や小野篁なども”その手”の人間だと言える」

闇咲「彼らが呪いを打ち払う話は良くあれど、彼らが呪いをかけた話はほぼ無い。何故ならばそれは非効率的だからだ」

闇咲「だから――恐れるな」

上条「もっと具体的に頼む。フワッとした言葉じゃなくて」

闇咲「方法自体は難しくない。神話の時代より語り継がれてきた『装身具を身代わりに投げ捨てる』という事だ」

闇咲「『三枚の御札』という昔話を聞いた事は……ないか。ないだろうな」

上条「勝手に決めつけんなや。いや確かに聞いた事無いけど」

闇咲「決めつけたつもりはない、世代格差の話でもある。私が子供の頃には日本昔話というアニメをやっていてな」

上条「あぁ知ってる、てか俺も子供頃見たぜ?」

闇咲「再放送でもしていたのか、まぁあらすじだけを話せば山姥に追われた小僧が、逃げていく時に三枚の札を投げ捨てる」

闇咲「一枚目の札は小僧の身代わりに、二枚目の札は氾濫した川に、そして三枚目の札は炎の川に変わり、彼を助けたという」

闇咲「……まぁ最終的には彼の監督役である和尚が最終的には助けたのだが、三枚の御札が逃げの助けとなったのは事実。これを――」

上条「――呪的……なんだっけ?」

闇咲「知っていたか。『呪的逃走』だ」

上条「前に少し、どこかで教えて貰ったような気がする。オルフェウスが死んだ恋人を迎えに行ったりさ」

上条「『冥界下り』の一部で、死人に追いすがられる時に、役に立つ何かも、だったような?」

闇咲「日本神話よりもまず先に異国の楽師の逸話になるのは、ゲームの影響かね?」

上条「いや憶えてないんだが……あれ?オルフェウスが冥界下りした時には、特に逃げ帰ったとかしてないよな?」

闇咲「あれは番犬を眠らせ、冥界の主ハーデスから正式な許可を取り付けたからだ。死人が大挙して追いかける理由がない」

闇咲「類似の話で『先導者』が札の役割を果たしていると説もあるが」

上条「先導者?」

闇咲「クーフー・リンのように、勇猛な戦士は時として犬の称号を持ち、勇者を先導する役目を持つ……」

闇咲「死すべき者は死すべくしてその騎士としての任を全うする……まぁこの話は長くなるので割愛する。必要もないしな」

闇咲「まさかの君も、恋人を探しに冥界まで下りはしないだろう?」

上条「お前人をなんだと思ってやがる!俺もそこまで物好きじゃねぇぞ!」

闇咲「……いざ、その局面になれば躊躇わず突っ込む姿が浮かぶが……ともあれ」

闇咲「日本だけではなくその他の神話でも、生者が亡者に追いかけられる、事がしばしば起きる」

上条「なんでだよ」

闇咲「似たような思想・概念が発生するのはよくある話、専門家ではないのでそれもまた割愛するが――逃げる際には装身具を投げ捨てる」

闇咲「そうすれば大概の場合において、投げ捨てた人間の身代わりとなって難を逃れる訳だ」

上条「……呪いでも同じ、か?亡者ってのは比喩表現?」

闇咲「『雛流し』は知っているか?流し雛とも言われているが」

上条「あぁ。なんか船に乗せて流す――ってまさか!?」

闇咲「思想自体は珍しくも無し。神代七代の末に産まれた蛭子は流された、それと同じだ」

闇咲「穢れが着けば流してしまおう。何か、誰かに厄を背負って貰えばいい、と」

上条「……あんま好きじゃねぇなぁ、そういうの」

闇咲「手っ取り早い厄払いとして、また誰でも出来る簡易な呪い払いとして。古式ゆかしい術だ」

闇咲「……まぁ勿論。このシステムを利用した、忌み穢れと蛭子を転用しての呪いもまた存在するのだが」

上条「ホンットにお前らってヒデぇよな!分かってたけど!分かってた事だけども!」

闇咲「魔術師と一括りにするのは止め貰おう能力……者?」

上条「どっちなんだろうなー、俺」

闇咲「本当に簡潔で申し訳ないのだが、君に出来る範囲で言えばこのぐらいだな。九字を唱えろとも言えんし」

上条「あぁ知ってる。孔雀○でお馴染みの」

闇咲「アレはアレで、日本独特の解釈がなされているのだが――」

黒服「――先生っ!」

上条「うおビックリした!」

上条(障子を開ける音がするでもなく、また駆けてくる足音がする訳でもなく。そりゃ魔術かかってんだから当然だが)

上条(見るからに全力で走ってきたと思われる黒服は、闇咲を掴むように詰め寄る)

闇咲「予定の時刻よりもまだ早い筈だが、どうした?」

黒服「ダメです!もう来ちまったようで!」

闇咲「……ふむ。客が増えて怒っているのか、それとも喜んでいる、か?」

黒服「韜晦してる場合じゃないでしょう!早く当主様の所へ!」

闇咲「了解した。では」

上条「あぁ!行こうぜ!」

闇咲「……と、なるのは分かってた”筈”なのだが。いや、分かってはいたが理解して無かったのだろうか……?」

黒服「先生……?」

上条「闇咲、早くしないと!」

闇咲「……散々諭したつもりが徒労に終るか。それもやむなし、か」



――20畳ほどの和室 夕方

ドリー「いったっだっきまーーーーすっ!」 ガッ

食蜂「いただきまぁす☆」

給仕の女性「はいどうぞ、召し上がって下さい」

警策「イヤアノ、ちょっといーですかねぇ?」

給仕の女性「あ、おかわりも用意していますので遠慮して頂かなくても結構ですよ」

警策「アッハイ、どーも――じゃなく、ちゃんとした話ですよ!」

給仕の女性「いいんですよー、あの先生ったら何をお出ししても召し上がらないんで、ちょっと余り気味だったし」

給仕の女性「あ、だったら女の子だけじゃなく男の子の分も増やさなきゃいけないのかしら……?」

警策「ッテネェヨ――じゃなくて、食蜂さん」

食蜂「あ、この鮎の味噌焼き美味しいわよぉ?」

警策「確かに川魚特有の風味が消えまったりとした味に……くっ、しかも味噌をつけて焼くことにより、表面がほんのりと焦げて香ばしい……」

警策「またパリパリの食感が強調されて、中の白身の柔らかさが引き立つ結果に……!?」

ドリー「しぇふをよべー?」

給仕の女性「私です」

警策「――ではなく!反政府マンガになったグルメマンガのノリじゃなくってですよ!」

食蜂「美味しいと思うんだけどぉ……ねぇ?」

ドリー「ねー?」

警策「そうだよね、美味しいよねっ!」

警策「……」

警策「……あれ?」

給仕の女性「いや騙されています、何か聞くことあったんじゃないですか?」

警策「アァドーモです。って食蜂さん、そうじゃなく」

警策「私達だけでこっち来ちゃって良かったんですかね?ヤ、ノリで乗っかった私が言うのも何なんですけど」

食蜂「だってぇ私達にはどうしようもない話でしょう?魔術力なんてぇお役に立てないしぃ」

警策「マ、そーなんですけど。いえでも流石に怪談オジサンをオニーサンに任せっきりってのは、なんか……」

食蜂「……フラグ?」

警策「よしそのケンカ買った表出ろ」

食蜂「上×闇?」

警策「是非ちょっと見たいですね、響き的にむしろ流行りそうな予感も」

ドリー「かみやみ?ってなーに?」

警策「ダメな大人になれば分かるから、ドリーには分からなくていいの、ね?……って、ほら口の周りついてる」

ドリー「むー」 ゴシゴシ

食蜂「あなたもそんなに心配力はしてないわよねぇ」

警策「エェ、まーこの子に比べればゴミみたいなもんですし」

食蜂「素敵な割り切り方だけどぉ――私はぁ適材適所だと思うのよぉ」

警策「能力者ですからねぇ、私達」

食蜂「だからぁ――お姉さぁん、ちょっとお話いいかしらぁ?」

給仕の女性「あ、おかわりですか?ただ今お持ちしますね」

食蜂「それは貰うけどぉ、その――事件のついて、色々聞かせてくださらない?」

給仕の女性「事件……えぇ構いませんけど、私は御当主様ではありませんし、詳しい事情は先生にお伝えしましたよ」

食蜂「えぇそれは聞いてるわぁ。でもホラ、えっと――」 チラッ

警策「……?」

食蜂「アレがアレでアァするからぁ、ね?」 チラチラッ

警策「(……はい?なんですか?)」

食蜂「(……適切な言い訳力ないかしらぁ?)」

警策「(丸投げっ!?てかプランが浅すぎる!)」

食蜂「(キラッ☆)」

警策「(このオンナ殴りたい……!)」

食蜂「――はい、警策さぁん、サン・ハイッ!」

警策「エーット、ですねぇ……アー……先生が、言ったんですよ、私達に」

警策「テユーカあんま喋んないんですけどね基本、アレな人なんでー」

給仕の女性「はぁ」

警策「だから何が言いたいかって言えばですね、あー……勉強!いや違った修行的な話ですよ!」

警策「事件のあらましを最初から全て聞くのではなく、自分達で調べるのも大切だよね!と!」

警策(話、繋がったよ……)

食蜂 グッ

警策(このヒトに物理的な意味で手を上げないオニーサン、もしかしたら凄いヒトなのかも……)

警策(ヤ、ないなー。多分ヘタレてるだけだよねぇ、行動見てると)

給仕の女性「あぁそうなんですか。若いのに大変ねぇ」

食蜂「またまたぁオネーサンだってお若いわよぉ☆」

給仕の女性「いやですよぉお客さんっ!お上手なんだから!」

警策「(どう見ても三十路のオバサン……とは口が裂けても言えない)」

食蜂「それでぇ?このお話の発端ってなんなのぉ?」

給仕の女性「さぁ?知りませんねぇ」

食蜂「……じゃ、じゃあ!何が始まりだったとかぁ、ってのは」

給仕の女性「ごめんねぇ。私は家政婦――あ、ハウスキーパーって言った方がいいのかしら?」

警策「ア、家政婦で分かりますんで」

給仕の女性「街の方で家政婦のお仕事を探してたら、こっちまで呼ばれてねぇ」

給仕の女性「ビックリしちっゃたわよ、最初は『お化けが出そうだなー』なんて思ってたらホントに出ちゃうんだから!」

食蜂「……軽いわねぇ」

警策「ッテユーカー……これ」

警策(家中がピリピリしていたのに、黒服の男連中がパニクってるってゆーのに)

警策(何か不自然だよねぇ、なーんか――)

警策(――一人だけ自然体、ってのは。逆に浮くっていうか)

警策(アァなるほどー。流石はレベル5、人間観察もお手の物って所ですかねえ)

食蜂「アナタ怪しいわねぇ――って、もしかして犯人力ぅ?」

警策「言うのかよ!?ダイレクトに言っちゃうのかっ!?」

食蜂「え、なぁにぃ☆」

警策「イヤイヤ星飛ばしてないで、今『キラッ』ってやってる場合じゃ全然ないから」

給仕の女性「犯人、なんて居るんですか?」

食蜂「さっきの理由から何が起きてるのかも知らないんだけど」

給仕の女性「部外者なのであまり詳しくは、というか殆ど知りませんが……代々の御当主様が早世されていたらしいんですよ、今までは」

警策「されてい”た”、と”らしい”、ですか?」

食蜂「敬語の間違いよねぇ」

警策「違います……アァツッコミが居ないと全負担がまた私に……!」

給仕の女性「でもここへ来て、御当主様以外の方や、親戚の方が歳の順にバタバタと」

食蜂「不謹慎だけどぉ、亡くなられた原因は?」

給仕の女性「心筋梗塞と聞きました」

警策「つまり医学的には何も分かってないと……ヤ、でもそこまで続くと風土病か、遺伝性疾患って線もありますよね?」

警策「学園都市、とまでは言いませんけど、その手の有名な病院で検査して貰ったりは?見た感じ、ここのお屋敷とかお金持ちっぽいですけど」

給仕の女性「そりゃあ、ねぇ?この家の人は……っぽいし、お金はあるんでしょうけど、ねぇ?」

食蜂「真っ先にやって手も足も出なかった訳ねぇ」

給仕の女性「私も最初にこっち来た時は、いつ逃げだそういつ逃げだそうって毎日思ってたんだけど、どうやら家政婦として選ばれたのは理由があったみたいで」

給仕の女性「というか、幾ら御当主様がヤク×だって言っても、関係ない人を無差別に巻き込むほどは、ねぇ?」

警策「そこは敢えて踏み込まなかったのに言いやがりましたね」

食蜂「てゆーか合理的な面から考えたんでしょうねぇ。雇う人雇う人呪われたんじゃ、労災保険大変でしょうしぃ?」

警策「もしかして――食蜂さん。なんでこの人が余裕ぶっこいてんのか、心当たりあるんですか?」

食蜂「確信はないけど、何となくは――ねぇ、アナタ」

給仕の女性「はい?」

食蜂「この家にある”病気”はもしかして『女性』しか罹らないんじゃないかしらぁ?」

給仕の女性「ご存じだったんですか」

食蜂「って訳じゃないけど、何となくそんな気がしたのよねぇ」

警策「『何となく』?」

食蜂「上条さんの能力って知ってるわよねぇ?」

警策「エーマァ、噂程度にはですが」

食蜂「『不幸体質』よ!」

警策「ゴメンナサイ、その噂は流れてなかったですねぇ」

食蜂「いやあの真面目な話、そう真面目なお話よぉ、これは!」

警策「とてもそうは聞こえないんですけど――あ、オネーサン、この子におかわりお願いしますー」

ドリー「おかわりー!」

給仕の女性「あ、ただいまお持ちしますねー」 タッ

食蜂「スルーされても話を続けるわぁ!いいわよねっ!?」

警策「ていうかオニーサンの『幻想殺し』がどう関係するんですか」

食蜂「いやホントに関係無いのよぉ。そっちじゃなくて、もう一つの方」

警策「まさかのダブルスキル……ッ!?……ナ、訳はないですよねぇ。そんな大事だったら話は広がってるでしょうしぃ」

食蜂「……まぁある意味、そうだと言っても過言がないかも知れないわねぇ」

警策「多分今からオチが待ってると思いますが、先に言います、『過言です』」

食蜂「――そうっ!その能力とは『不幸』力なのよ……ッ!」

警策「過言ですっつってるじゃないですか」

食蜂「上条さんの不幸体質……あなたも知ってるわよねぇ?」

警策「マァ確かに運のない人だなー、とは思いますけどね。それが何か」

食蜂「そのせいでのこの山の中にまで来て、騒ぎに巻き込まれた――どう?」

警策「デス、か、ねぇ。ンー……?」

食蜂「……でもね、上条さんの体質には限界力があるのよぉ――それは!」

警策「はぁ」

食蜂「そ・れ・は☆」

警策「イヤダカラそういうのいいっつってんだろ」

食蜂「『上条さんが不幸になる事はあっても、一緒に居た女の子(だけ)に効果を及ぼさない』のよ……ッ!!!」

警策「ヘェー」

食蜂 ドヤァ

警策「ヤ、そんな絵に描いたようなドヤ顔されても。つーかそれ」

食蜂「うん、だから私達には影響力は皆無なのよぉ」

警策「ってぇのは分かるんですが、つーかですね、それだと」

食蜂「なぁにぃ?」

警策「ヘタすればオニーサンがフルセットで厄を背負い込む、ってぇ話になりません?」

食蜂「……」

警策「……」

食蜂「………………ふぁいっ!ふぁいっおーっ!」

警策「完全に投げっぱなしだな!?」



――和室 夕暮れ

上条「大丈夫かっ!?」

闇咲「私より前に出るな。というか邪魔だ」

和服の男性「――ッ………………ア、か……」

上条(先導する黒服を追い越す勢いで俺と闇咲は当主さんの部屋へ駆けてきた。文字通り、だだっ広い廊下を全力で)

上条(途中、鮎と味噌の焦げる香ばしい匂いがして、そういや昼から何も食ってねぇな、と今更ながらに空腹を感じた)

上条(……どっか聞いたような女の子達の声がしたような気もするが、まぁ聞かなかった事に!俺は何も聞かなかったんだよ!)

闇咲「――退け」 グッ

上条「お、すまん」

上条(逡巡していたのは数秒か。入るのを躊躇っていた俺を押し退け、闇咲が部屋へ入る。とは言っても横の障子を乱暴に開いただけだが)

上条(……迷ったのは理由があり、戸惑ったのには訳がある。というのもだ)

上条(質素で必要最低限の家具しか置かれていない部屋、その中央に布団が敷かれ病人が横たわっている)

上条(誰?と一瞬自答しそうになったけど、その人物はついさっき会った当主さんであるのは間違いない、と、思う)

上条(たった一時間に足らない間で、ゲッソリと頬はやつれ、眼窩は窪み、土気色の肌をしていなければ、何一つ変わりない訳で)

上条(山の夜は比較的涼しい――筈、なのに。嫌な汗が額に滲むのがはっきりと分かる)

上条(”何”が起きたのか――というよりも、これは。この現象を)

上条「――呪い、か……ッ!」

上条(俺は知っている。この空気を!)

上条(闇咲に連れて行かれた先の病院で、儚いながらも必死に生へ縋って生きようとしている。あの、強い女の人と)

上条(魔術に関しては素人だし、人生経験だって――真っ当な体験に関しては――少ない俺でも、”それ”が碌でもないものだと分かる!)

闇咲「……気づいたか」

上条「お前……知ってた、のか?」

闇咲「”これ”……あぁ検鬼の方を持たない君には分からないだろうが、呪詛が根を這うように絡みついている」

闇咲「根は別物だが同種であるのには違いない」



――20畳ほどの和室

警策「テ、ユーカですねぇ、怪談オジサンが何らかの一芸持っている方なのは納得しました」

警策「ケドだからってそれが『呪い=ある』って結論は、無くありません?てか胡散臭いって言うか」

食蜂「だったら学園都市製以外の能力者は納得したのぉ?」

警策「前に仕事でご一緒したのが、多分。だから私は魔術があると言われても、まぁそうなのかなー、ぐらいの感触ですけどぉ」

警策「学園都市とは別の能力大系があって、と言うんだったら――その呪いってぇのも科学で説明出来るんじゃ?と」

食蜂「私達のスタイルであっちを理解力しようって話かしらぁ。悪くはないけどぉ」

警策「マァデモ、あれこれ考えた所で『お前それプラセボ効果じゃん』ってトコに落ち着くんですがねぇ」

食蜂「……」

警策「ン?どうしました食蜂さん?」

食蜂「……前の話なんだけど、私のお友達の間で流行った噂があったのぉ。都市伝説って言うのかしらぁ」

警策「アァマァ、好きそうですよねぇ。常盤台のオジョーサマがたは」

食蜂「私なんてまだカワイイものよぉ?噂じゃウチのアマゾネス力さんがぁ、次々と都市伝説をハントしてるみたいだしぃ」 チラッ

ドリー「ん、なーに?」

警策「あぁそういう話か――と、ドリー、都市伝説って知ってる?」

ドリー「わたししってるよ!おばあちゃんがすっごいはやさではしってくるんでしょ!すっごいはやいの!」

食蜂「ん、まぁそういうのねぇ。『ずいずい』って言うんだけど」

警策「……またなんか安易な……」

ドリー「ずいずい?」

食蜂「『ずいずいずっころばし』ってお歌――正式名称は知らないけどぉ――が交差点でどこからともなく聞こえるんですってぇ」

警策「それ自体は、ていうか聴覚障害者のための信号機で、童歌のイントロ流れるのってよくありますよねぇ」

食蜂「交差点の前でその歌が終るまで立っているとぉ、後ろから、ドン!ってぇ」

警策「ウワ悪質ー……ってそれ多分、『ドン!』って話し手が大声で驚かせるのがメインの怪談じゃないですか」

食蜂「そうなんだけどぉ……それでね、派閥――お友達に頼んでちょっとした実験してみたのよぉ」

警策「ハァ、もう嫌な予感しかしませんけど」

食蜂「あ、べ、別に酷い事したって訳じゃないのよぉ!あくまで純粋な興味力で!」

警策「アッハイ、それで?」

食蜂「全然関係無い交差点でぇ、『ねぇ?ここなんか暗くない?』みたいなぁ?」

警策「アー……イタイ系霊感女が言いそうですよねぇ、それ」

食蜂「――ってのを、他の人にやらせてアンケート取ったのぉ」

警策「おい謝ってこい。イタイキャラにジョブチェンジしたその人に」

食蜂「大丈夫よぉ!全員の記憶はクリアにしといたからぁ!」

警策「なんつーか最低だなお前……まぁ記憶弄れる能力者だし、プラセボ効果の実験には持って来いだが」

食蜂「そしたらぁ、その、やっぱり先入観があると考えちゃうみたいよねぇ」

食蜂「『昔、事故が起きたんだってぇ』みたいな、『信用できるソース』がつくと、やっぱり普通の交差点じゃなくなって」

食蜂「反対に、先入観全てを取り払っちゃえば、意識の底にも残らない程度の認識になるみたいよぉ?」

警策「正直褒められた話じゃないですけど。ま、納得出来るような気はしますね」

ドリー「このあいだね、わたしねっとさーふぃんしたらね!」

食蜂「……いいのぉ?」

警策「ほらその、遠い親戚の子達が依存症なんでその関係上どうしても、らしいです」

食蜂「時系列的にはドリーの方が年上だけどねぇ……それがどぉしたのぉ?」

ドリー「としでんせつで『ゆーれいのでるいえ』っておはなしがあって、しゃしんがでまわってたんだよ」

食蜂「幽霊の出る家……廃墟かしら」

ドリー「それが『よくみたらおれのじっかだった』って!すごいね!」

警策「……あぁその方のご実家があまりにもボロいんで、ネットで廃墟写真として出回っていた、ってシュールな笑い話ですか」

食蜂「ま、まぁ同じよねぇ!見る人の先入観によっては変わるのよ!」

警策「ナンデ声張った?……くっ、ツッコミ役が不在だと私に負担がかかる……!」

食蜂「今のは身近な実例なんだけどぉ、文化人類学的にもぉ『類感呪術』に分類されるものがあってね」

食蜂「例えばぁ、そうねぇ……嫌いな相手の名前を書いた人形を作ってぇ、それを傷付けるとぉ相手にダメージが行くって」

ドリー「うしのこくまいり?」

食蜂「……どこでそんな言葉憶えてくるのか心配になるけどぉ、まぁ、そうね。それよねぇ」

食蜂「代替品を造ってぇ奉り上げてぇ、それでどうにかしようって発想なんだけどぉ――」

警策「『呪い』は考え方、そのまんまですね。本人に直接どーこーできないもんだから、遠い方遠い方迂回して来る訳で」

食蜂「――でもぉ、大抵の場合だと『共通の文化類型を持たない相手に呪ってもぉ、効かない』のよぉ」

警策「……はい?」

食蜂「これは実話なんだけどぉ、昔々私の好きなローカルテレビの司会のお嬢さんの弟さんのメル友から聞いたのよぉ」

警策「ほぼ噂だろ」

ドリー「ともだちの、ともだち?」

食蜂「一応は体験談みたいでぇ、昔ぃ借りてたアパートの南側が墓地だったのよぉ。安かったらしくてぇ」

警策「うわぁ……マァ、都会ならよくある話ですよねぇ」

食蜂「『小説のネタになんねぇかな!』って借りたらしいんだけどぉ、夜中に子供が走り回る以外にはおかしな事は起きなかったんですってぇ」

警策「起きてる起きてる」

食蜂「でぇ、ある時お隣さんのタイ人さんと話すきっかけが出来てぇ、騒いでたのもその家の子ぉだって分かったんだけどねぇ☆」

警策「オチとしては面白くもなんともないですけど、それがどういう関係で?」

食蜂「ついでにそのご一家に話を聞かせて貰ったら、どうやらわざわざ墓地が見えるアパートを好んで入ったらしいのよぉ」

食蜂「『お墓が目の前にあると縁起が良い』って」

警策「アー……まさにカルチャーギャップですか、それ」

食蜂「それと同じで『呪いは呪う相手が知っていないと効果が無い』って話もあってぇ」

警策「なんですかそれ。『虎退治するには屏風から出せ』みたいな」

ドリー「いっきゅーさん!」

食蜂「ある程度の共感力?認識の一致みたいなのが下地にあってぇ、それがないと効き目が無かったり薄かったりぃ」

食蜂「そもそもぉ、呪殺全盛期だったのはぁ安倍晴明とか平安時代のお話だしぃ。当時の物語にも出てくる――のにぃ」

食蜂「平家物語ぐらいからはちょくちょく『呪った呪われた、これは祟りだそうに違いない!』みたいな頭脳力の低い記述が増えてくるしぃ」

食蜂「普通は自分の手の内をペラペラ吹聴力するなんて有り得ないでしょう?――相手へ『知らせる』目的でもない限りは、ね」

警策「……詐欺師ばっかって事ですかねぇ、ウワサイッテー」

食蜂「あくまでも私達とは体系の違う能力だから、『予め知らせる』のが前提条件なのかも知れない訳だしぃ?」

食蜂「広めるお話も99の事実に1の嘘を紛れ込まれていればぁ、それはそれで厄介な事になりかねないわぁ」

食蜂「時代が経って戦国時代になれば、その手の呪殺的な話は殆ど見当たらなくなってぇ。魔術が歴史の表舞台に立つのは、まぁ無くなるわねぇ」

警策「ヤ、ちょっと待って下さいよ。確かに私達の知ってる歴史からは消えるんでしょうけど、実際にこうやって能力者とカチ合ってる訳で」

食蜂「……これだから未知力の相手するのは嫌なのよぉ。野蛮力カンストしてるアマゾネスさんが居てくれたら、もっと楽なんでしょうけどぉ」

警策「相手……するつもりなんですか?マジで?」

食蜂「だって巻き込まれた側じゃなぁい、ねぇ?」

警策「うわ乙女かよ……」

食蜂「そ、そんなんじゃないしぃ!違うしぃ!」

警策「……ま、恩がない訳じゃないんで付き合いますけどぉ、危なくなったらさっさと逃げ出しますからね?」

食蜂「『だからソイツを私にぶつけろ!』なんて、善人っぽく言う相手よりは好感力だ・ゾ☆」

警策「……やな女」

ドリー「みーちゃん?」

警策「あぁなんでもないのよドリー?このお姉ちゃんがツンデレ気取ってるヤンデレなだけだから、ね?」

食蜂「それで安心できる要素ないと思うし、そもそも私は貸し二なのよねぇ。バカの手先で襲撃力した事とぉ、風紀委員の方でぇ」

警策「……分かりましたよ。それで、魔術サイドの『呪い』相手に、能力者の私達がどうするって言うんですか?」

食蜂「んー……まぁ取り敢えず上条さんと合流しましょうか。そうすれば、多分」

食蜂「……って言うか、必要無いような気もするのよねぇ。最初っから」



――和室 夜

和服の男性「……せ、先生……か」

闇咲「少し待て。今結界を強くす――」

和服の男性「待ってくれ!私――俺の話を聞いてくれ!」

闇咲「(――上条)」

上条「ん?あ、あぁ俺か?」

闇咲「(どんな話でもいい。出来るだけ長話をさせて落ち着かせろ)」

闇咲「(あまり興奮させるような話は避けろ。でないと衰弱している体を更に痛めつけ、脳の血管でも切れたら致命傷だ)」

上条「(無茶言うなや!?学生に何言ってやがる!?)」

闇咲「(仕方がなかろう。もう彼の内蔵は殆ど持って行かれ、科学的にも魔術的にも詰む一歩手前だ)」

闇咲「(ヘタに弱気になってみろ。皮以外何残らん、まさに蛭――……いや、なんでもない)」

上条「(うん?危険なワードが出て来なかったか?)」

闇咲「(私は私の出来る事、君は君の出来る事。適材適所で頼む)」

上条「(知ってた!どうせこんな無茶ブリ来るって分かってたし!分かってたんだからねっ!)」

闇咲「(では、頼む)――御当主、彼が聞くと言っている」

和服を着た男性「すまない、すまない……!」

上条「いいから落ち着いて!ゆっくりで良いから、なっ?」

上条(闇咲は長々と何かの呪文を唱え始め、俺は当主さんの枕元に近付く)

和服を着た男性「……俺には、娘がいる、んだ……まだ、小学生で」

上条「娘さんが?」

和服を着た男性「今は……別れているが、一人」

和服を着た男性「……『こんな商売だって思わなかった』と、妻が――妻だった人、か」

上条「……その子が?」

和服を着た男性「……俺はもう、ダメだ。助からない、分かるんだよ」

和服を着た男性「先生から聞いたんだ……『呪いは人でなしであればあるほど助かる道はない』って……」

上条「……」

和服を着た男性「だから俺は……仕方がない、んだ。分かってる、それは分かってる……ッ」

和服を着た男性「――けど、娘だけは!あの子はなんの関係も無いんだ……!」

和服を着た男性「たまたま、俺の娘に生まれちまっただけで!まだ、子供なんだ……子供なんだよ……ッ!」

和服を着た男性「俺はもう、諦めてる。体もボロボロだし……長くはない、それはいい」

和服を着た男性「だが――あの子だけは!俺はどうなっても良いから、あの子、だけは……ッ!」

上条「……」

和服を着た男性「……俺はどうなったっていい!だから――」

上条「……ダメだ。それは出来ない」

闇咲「おい貴様!何をやって――」

和服を着た男性「そう、か……はは、ダメか、ダメなのか……」

和服を着た男性「やっぱり俺は、最期まで――」

上条「娘さんに何かしたきゃ――お前が、やれよ」

和服を着た男性「……な、に?なんだと……?」

上条「諦めてんじゃねぇよ!大事なんだろ!?娘さんが!?」

和服を着た男性「当たり――前、だっ!」

上条「だったら生きろ!生きて自分でするんだよ他人任せに何かしないでさ!」

和服を着た男性「それが、出来れば!やって、いる……っ!」

上条「……なぁ闇咲、コイツの呪いって、えっと……一族に罹る呪い、なんだろ?」

闇咲「そうだが、それが?」

上条「って事は何か?コイツが言ってるように、コイツが死んじまったら娘さんの方に行くのか……?」

闇咲「……可能性は、ある。しかしここで収る可能性も」

上条「ゼロじゃない?」

闇咲「……そちらの方が高い」

和服を着た男性「……ッ!」

上条「……そか、なら最高だな」

和服を着た男性「……なに?」

上条「俺は、お前を知らない。お前がどんな悪い事やって来たのかも、もしくは良い事をやってきたのかも。全然だ」

上条「つーかさっきで会ったばっかの人相手、理解出来るだの出来ないだの、ワッケ分からない事言っても始まらない、そこはな」

上条「――でも!でもな!自分がくたばりそうになってんのに!他人の心配してやがる人間見たら、分かっちまうだろ!最悪のクズじゃないって事ぐらいは!」

上条「だから――だから諦めんなよ!お前が諦めてどうすんだよ!?」

上条「お前にこのまま死んじまったら娘さんに迷惑かかるんだろ!?それが分かってんだったら生きろよ!」

上条「どんなみっともない真似したって良いし!『死んだ方がマシじゃないか』って言われるよう生き方でも!」

上条「石にかじりつくように必死で!他人から見たら情けない生き方だっていいじゃねぇかよ!お前が生きる事で助かる人が居るんだから!」

上条「だから、だから――」

和服を着た男性「……君は」

上条「……諦めるな、絶対に!」

上条「お前のためじゃなく、誰かのためだって言うんだったら、余計にだ……!」

和服を着た男性「……っ」

闇咲「(……ふむ。少し持ち直した、そのまま続けろ)」

上条「弱気になるのは分かるし、俺も同じ立場だったら……あ、そうだ。手」

和服を着た男性「……手?」

上条「握っててやるから、ほら、ここ――」

パキィィイインッ……!!!

上条「――か?」

闇咲「……」

上条「あるぇ……?今どっかで聞き覚えのある音がしたぞぉー……?」

和服を着た男性「……ん?」

上条「どうしたっ!?」

和服を着た男性「あぁいや、君に手を握って貰ったら、体が、何か、軽く……?」

上条「えっとぉ……?」 チラッ

闇咲「……」 スッ

上条「オイ視線逸らすなよ!?こっち見ろっていうか見て下さいよ先生っ!?」

闇咲「これは……流石に、ちょっと」

上条「あれ?俺のせい?俺が悪いのか?」

警策「――テユーカ何やってんですか?バカじゃないですか?つーかバカじゃないですかねぇ?」

警策「引っ張ったのに!エェこんだけ引っ張ったのに!手ぇ繋いで完治なんてオニーサン空気読めよぉ、空気!」

警策「フラグ立ってましたよね?どう見てもこっちのヤク×が無慚に死ぬフラグ立ってましたよね?」

警策「なにへし折ってんですか?バカなんですかねエェ分かりますけど!」

上条「テメェ乱入して来た割には一々尤もな事言いやがってありがとう!ツッコミ不在で『あ、やっちゃったなー』的な雰囲気を何かとしてくれて!」

警策「したくてした訳じゃないです」

上条「いや悪かったけどさ!俺悪かったけども!いーじゃん!結果オーライじゃん!」

上条「あ、ホラ!誰も不幸になってないし!『小学生パワーで元通り!』みたいな感じで!」

食蜂「小学生そんなパワーは持ってないと思うわぁ、多分だけどぉ」

ドリー「とーまくん、すごいの?」

警策「……まぁある意味『凄いバカ』ね」

上条「ま、待てよ!?確かに俺も自分の能力忘れてたけどさ!よくある事じゃんか!?」

上条「お前らだってあるだろ!?気がついたら格闘ゲームのサポート役になってたとか!」

上条「ウキウキで面接行ったら、『あ、じゃ君こっちねー』って言われたんだぞ!俺のダチはしっかり出てんのにさ!」

警策「それは『オニーサン地味だし絵的にも誰も徳をしないから』ですかねぇ」

食蜂「あなたと戦った白井さんは男前だったわよねぇ」

上条「……なんでこんなハメに……!折角なんか、ボス相手の台詞っぽく言ったのに……!」

和服を着た男性「あの……何が……?」

闇咲「不本意極まりないのは間違いないのだが、長引かせるのも筋が違い」

闇咲「……過失のあるなしで言えば、貸し借りを作りたくない私のワガママでもあり――ま、一言で言えば」

闇咲「――おめでとう、君の呪いは解けた」

和服を着た男性「………………はぁ?」

上条「『だがしかし第二の呪い、第三の呪いが待ち受けているとは、この時知る由もなかったのだった……!』」

警策「コラソコ無理矢理話を無かった事にするな!ぶち壊しにした張本人が!」



「潮騒の響く渚で」――間章 コトリバコ −完−



――旧家・離れ 夜

闇咲「……」

上条「サーセンしたぁっ!いやもうマジスンマセンっ!」

闇咲「……顔を上げてほしい。思う所がない訳ではないが、悪気は無かったのだからな」

上条「ドヤ顔で『呪いである!』とか言ってるお前の出番取っちまって!本当に悪かった!」

闇咲「悪気は無い、のだろうな?言葉の裏に何か嫌なものを感じるんだが……」

上条「コトリバコとかwwwwww」

闇咲「よし表へ出ろ。肉体的な暴力の前には異能も関係無いと知るが良い」

上条「冗談ですっそんなに怒らなくたって!」

闇咲「先程から何度も言っているが、怒ってもいないし……何よりも先方が快癒したのだ。文句を言う筋合いも無し」

闇咲「……ただ少しばかりな。理不尽というか、今までの私の努力は何だったのかと、愚痴を言いたくはなるが」

上条「……ヤバかったのか?」

闇咲「良くて惨死、悪くて皆殺しコース」

上条「言ってる事と違うじゃんか!?前は一人で済むみたいな!」

闇咲「”済む”のではなく、”済ませる”んだ。人身御供の一種だと言い換えても構わない」

闇咲「……まぁそれで済むかどうかは賭けであるし、より一層酷くなる事もある。稀にだが」

上条「……ありがとう『幻想殺し』……!珍しくラッキーだった俺よ……ッ!」

警策「アッレェー?反省の態度が無いなぁ?」

上条「HAHAHAHA!ならば見せてやろう!上条家に伝わる一子相伝の技を!」

上条「俺にしか(多分)伝えられてないDOGEZAをな!」

闇咲「だから結構だと言っている」

ドリー「ねー、さきちゃん、とーまくんはなんで”たぶん”ってこごえでいったの?」

食蜂「まだ見ぬご兄妹が量産されてる可能性を考慮力してぇ、含みを持たせてるんだゾ☆」

警策「血は水よりも、ですねぇ。今の内にパージした方が良くありません?」

上条「ごめんな?何の事言ってるのか俺には分かんないけど、人体で物理的に取り外せるパーツってないよね?何の事かは分からないが!」

闇咲「君の家庭事情はさておくとしても……何というか、こちらとしては少々面食らったものの、問題はない」

闇咲「先のご当主も喜んでおられたし、まぁ良いだろう」

上条「なら良かった……娘さんいるんだよな」

警策「娘がいるのに……ヤク×?反省しますかねぇ?」

闇咲「難しいが、不可能ではあるまい――それに」

上条「それに?」

闇咲「”呪い”がただ一つだけとは限らず、またあれで終ったとも決まってはいない」

上条「うわぁ……」

警策「なんですかそのホラー映画のエピローグ状態は」

闇咲「そうだな……帯状疱疹は知っているか?」

上条「名前ぐらいは。赤い虫刺されみたいなポツポツができて、メッチャ痛いんだっけ?」

闇咲「あれも元々はヘルペスウイルス……水痘を発症した子が、大人になってまた同じウイルスによって引き起こされる」

上条「すいとう?」

食蜂「俗に水疱瘡よぉ。小さい頃に予防接種やらなかったかしらぁ?」

ドリー「わたし……おちゅうしゃにがてー。ちくっとするんだもん」

上条「ドリー?」

警策「家庭の都合で、最近予防接種したばかりなんですよねぇ」

上条「無痛針……だっけ?あれ使えば良かったんじゃ?」

警策「安全性が低い上、乙女のお肌を必要最低限の傷に留めておきたい!……という、高度な政治的判断が働いてですね」

上条「……あぁ何かハンコみたいな痕、残るんだっけか」

食蜂「別の予防接種と勘違いしてると思うけどぉ、まぁ大体は合ってるわねぇ」

上条「また何か妙な雑学ついちまったが……それが?」

闇咲「よって水疱瘡を一度患ってしまうと、体内にウイルスが残り帯状疱疹がいつ起きてもおかしくないリスクを抱える」

上条「水疱瘡ってワクチン打てば危険性は下がるんじゃ……?」

闇咲「という話だな。なので帯状疱疹にも効果があり、大人でも任意で予防注射を受けられる」

警策「(……テユーカですねぇ。怪談オジサンが妙に子供の病気に詳しいのって……アレですかねぇ?)」

食蜂「(アレよねぇ、きっと)」

ドリー「(あれってなーに?)」

食蜂「(それはねドリー、怪談オジサンは病気の罹る病気に興味津々なお年頃なのよぉ?)」

警策「(違います。多分違います。そこは『もうすぐ子供ができるから』みたいな、ファンシーな落とし方でいいじゃないですか!?)」

闇咲「……一応断っておくが、既存の病気を引き起こす呪術は珍しくもないし、そもそも病自体が呪いだと解釈されていた時代もあり――」

上条「サーセンっ!この子達にはよく言って聞かせますんで!」

食蜂「真相はメアド交換してある彼女さんから聞いとくわねぇ☆」

闇咲「……キミも苦労するな?」

上条「まるで今まで俺苦労してないみたいな言い方だなオイ?」

闇咲「……で、だ。体へ潜伏したDNAウイルス、それが発症するかしないかは身体のコンディションに左右される」

闇咲「体調が良ければまず発症しないが、悪くなると確率は高くなる……まぁ免疫力の低下とでも言おうか」

闇咲「呪い――というか、魔術にも似た様な所がある。生命力の強い”と、されている”子供は強い耐性を持ち、老化とともに失われていく」

闇咲「また人が生きていくためには某かの”業”を積まねばならん。それがある日堰を切ったように溢れる」

闇咲「考え方としては『徳を積む』のと真逆だな」

上条「言いたい事は何となく……祟り目に弱り目?」

警策「チョイチョイ、逆です、『弱り目に祟り目』」

上条「し、知ってたし!ちょっと小粋なジョーク挟んだだけだし!」

警策「小粋じゃねぇしスベってるし」

上条「……あれかな、警策さん?君なんか俺に含む所でもあんのかな?」

上条「言いたい事とか不満とかあったら、言ってくれないと分っかんないんだけど?」

警策「不幸属性を拗らせて海へ行った筈が山の中へ来た所」

上条「改善できる所を!せめて俺自身の意志でどうにかなる所を言ってくれよ!?」

ドリー「とーまくん、なんでないているの?」

食蜂「……悲しいからじゃなぁい?」

闇咲「……」

上条「……ど、どうした闇咲?」

闇咲「……いや、話がこれっぽっちも進まないな、と」

上条「うんもう、諦めよう?そうすれば楽になるよ?」

闇咲「まぁ……ご当主が、これからどんな生き方をしようが、我々に関係はないからな」

闇咲「だが今まで溜に溜めた業、それを払拭できるかと言えば甚だ怪しい所もある……加えて」

闇咲「一度負った業は消えん。重ねた罪は業となり、業は罰を呼ぶ。それが人だ」

警策「……悪い事しちゃったら、しっぺ返しが来るぞ、と?」

闇咲「”それ”はそういうものだな。”悪”とはそういう事だ」

上条「俺は好きじゃねぇな、そういうのは」

闇咲「ふむ?」

上条「悪い事したって、そいつがずっと同じ様な生き方しなきゃいけないって話はないだろ?」

警策「……」

上条「誰にだって事情はあるし、何か仕方がなくてとか、理由があってみたいなのだって当然あるだろうし」

上条「罪が一生付きまとって、必ず罰を受けなきゃいけないなんて話はないた筈だ」

闇咲「それもまた真理ではある。悪人が必ずしも報いを受けるとは限らないし、善人が全て平穏な一生を終える訳でもない」

闇咲「しかしながら、報いを受けるのは必ず悪人だと相場が決まっている」

闇咲「……で、なければ獣憑きに蟲憑き、六部殺しや”こんなばん”のような、ツケが無いのに帳尻を合わせようとする話などあるものか」

上条「こんなばん……?」

闇咲「――と、重ね重ねすまないな。恩人、というか協力して貰った相手に対する態度ではなかったか」

上条「あぁイヤそんな事は別に。これからあのオッサンどうなるんだろうなー、ってのは気になってたから」

闇咲「そうか。ならば報酬の件に入るが、現金と口座振り込み、どちらがいいだろうか?」

上条「俺に聞かれても困るわ。好きにしたら良いじゃねぇか」

闇咲「君の口座番号は分からないし、あまり宜しくない出所の金だろうから……ま、現金で持っていた方が利口か」

上条「聞きたくない聞きたくない!そんな話を俺に振るな!」

警策「アノー……?チョット、いーですかねぇ?」

警策「ナンデ怪談オジサンは、こっちの女運以外に取り柄のない人の口座がどうって言ったんですか?」

上条「まだ正味一日の付き合いで的確に個性把握してんじゃねぇかコノヤロー」

闇咲「そして私もその呼び方は止めてほしい。職業柄否応なしに体験する方だが」

警策「いやそんな話はどうでも良くってですね。話を伺うにオニーサンにギャラ入る、みたいな?」

上条「何言ってんだよ警策さん。たまたま巻き込まれた俺がなんで報酬貰えんだっつーの」

闇咲「その通りだな。巻き込まれたが解決したのも君だ、従って報酬も受け取る資格があるといえる」

上条「え、マジで?……いやぁ、別に欲しくな――」

警策「ア、オニーサンのお腹に蚊がっ!!!」

上条「ひでぶっ!?」 バスッ

食蜂「お手本のような腹パンよねぇ」

警策「オニーサンは『キッシュで!』と言っています!さぁ早くお支払いを!」

闇咲「そちらの子から見えないように腹部を一撃……まるでどこかの暗殺者だが……まぁいいだろう」

ドリー「とーまくん、おなかいたいの?」

上条「……もうドリーだけが癒やしってどうなの……?割と本気で聞くけど――」

上条「――じゃ、ねぇよコーザック!ギャラ貰うつもりは無いつってんだろ!」

警策「ア、じゃ私が代わりに」

上条「あっはい、それじゃお願いします――とはなんねぇしな!」

警策「エー、いいじゃないですか。オニーサンいらないんだったら下さいよ――ってのは冗談として」

上条「……俺のこの腹の鈍い痛みは冗談じゃねぇと思うが……?」

警策「貰って困るもんじゃないですし、正当な対価だったら貰っとくべきですってば」

上条「だから正当じゃないだろ。ここへ来たのはたまたまだし、先に闇咲が入って仕事してたのをぶち壊したんだから」

上条「結果的に上手く行っただけで、やった事は闇咲の仕事を邪魔しただけなの。分かるか?」

警策「で、ちなみにお幾らぐらいなんですかぁ?」

上条「なぁ食蜂さん?いい加減フリーダムなこの子に男女平等パンチかまそうと思うんだけど、いいよね?俺頑張って我慢した方だよね?」

食蜂「オンナノコはお金がかかるん・だ・ゾ☆」

上条「なぁドリー、今からでもいいからどこか遠くに逃げないか?二人きりで」

ドリー「さんにんいっしょだったらいーよ?」

上条「……くっ!俺の味方は居ないのか!?」

食蜂「……あの能力はぁバックアップが無いと厳しいのよねぇ。維持費力が特に」

上条「能力?」

警策「――オニーサン」

上条「あい?」

警策「私と一回結婚してから離婚して下さいっ!」

上条「唐突にトチ狂いやがって何言ってんだテメー!?成田離婚よりも即断だな!」

食蜂「と、即決ぐらいのお値段なのかしらぁ、奥様?」

闇咲「奥様ではないが……数ヶ月間プロを拘束しながら、下手すれば全滅するリスクを抱えれば安い方だ」

上条「マジか!あ、でも誰でも払える額じゃなくね?一般の人らが困ってたら――って聞くだけ野暮か」

闇咲「何が野暮なのか私には分からないが、仕事を金銭で選ぶつもりはない」

警策「ちょっとした家が建つレベルですけどぉ……これをスルーはないでしょー、いやー」

上条「ん−、どうすっかなぁ……闇咲としてはどうなんだ?」

闇咲「金銭的に困ってはいない、という答えが聞きたいのか?」

上条「あぁじゃなくて、助かったー、とか、ありがとー、みたいな?」

闇咲「恩義を感じているが故に、こうして報酬の譲渡を申し出ている訳だ。札束を押しつけるようで少し気が引けるのだが」

警策「お金、大事ですっ!!!」

上条「苦労してんのなぁ……まぁ、俺も仕送り貰ってる分際で偉そうな事は言えないけどさ……むぅ」

上条「はいそーですか、って貰っちまうのも何か違うし、断っちまうのも何か悪いような気がするし……」

警策「オニーサン、オニーサン」 チョイチョイ

上条「はいよ」

警策「私に、下さい」

上条「清々しい程の強欲っぷりで爽やかになるねっ!全然爽やかじゃないけど!」

食蜂「まぁまぁ。お断りするのも失礼だって言うんならぁ、少しだけでも貰ったらぁ?」

上条「いやどうせ落とすか、入院代に消えるんだぜ?」

闇咲「ちょっとどうせの意味が分からないな」

上条「だったら、あー……闇咲!お前の予定じゃ、ここへどんだけ拘束される予定だったんだ?」

闇咲「事前の準備で二ヶ月、後は結果が出るまで一ヶ月弱ぐらいだと見込んでいたな」

上条「つまり仕事のスケジュールに穴が開いたと?ポッカリと?」

闇咲「季節柄、仕事の種は尽きないが……まぁそうとも言える」

上条「だったらさ、お前俺達の保護者になってくんない?」

食蜂「……上条さぁん?」

上条「……いやあの、言い出しといた俺が言うのもアレなんだけどさ?カネなしコネなし甲斐性なしで、宿は取れないと思うんだよね、うん」

食蜂「私の人脈力を駆使すればいいのにぃ」

上条「つーのもなんか、なぁ?食蜂さんのそれって能力の延長線上にあるもんだろ?」

上条「だったらさ、一応の保護者つけて、正攻法で楽しんだ方が良いんじゃねぇかなぁと……ダメ?」

ドリー「かいだんおじさんもいっしょ?みんなならいけるの?」

上条「泊まりがけで何泊するんだったら、居てくれた方が楽しめるぞ。きっと」

警策「……マ、でしたらドリーと私は賛成に一票ですかねぇ」

上条「食蜂さんは」

食蜂「私は……はぁ、上条さんにそんな顔されちゃうと断れないわよねぇ」

上条「ありがとう」

闇咲「さっきから話が見えないのだが?」

上条「あーっとな、俺達海へ行くつもりだったんだけど」

闇咲「ここは”山”だぞ?」

上条「つもりだったんだけど!やっぱり子供だけじゃなくて保護者が居た方が安心かなって!」

闇咲「だから私を、か……」

上条「出来れば滞在費的なものもですね、そっちで持ってくれるとありがたいかなーと」

闇咲「帳尻としてはこちらが大分黒字になりすぎるが、それでもいいのだったら引き受け――いや、待て。海?」

上条「泊まりがけで海水浴したり、近くの水族館行ったり……の、予定なんだよね?」

食蜂「……本当は今頃、一流ホテルのエステサロンの筈だったのよぉ」

上条「君の考えてる海水浴は、何か、違う」

闇咲「海か……引き受けるのは吝かではない、ないが……一つだけこちらから条件を出させて貰う」

上条「何?規則的な話?」

闇咲「そちらの複雑で入り組んだ人間関係に立ち入るつもりはない」

上条「あれあれ?闇咲さんテメー何か勘違いしてやいませんかね?それも人様には大声で言えないような類の」

食蜂「きゃっ☆上条さんバレちゃったみたい」

上条「そうだな。そろそろ君の思考の方向性はピンク色か金色の二択だって分かって来た所だよ」

闇咲「そういう意味……が、無かったとは言わないが、物理的に監督役としての役割を果たせない、と言った方が正しい」

上条「物理的に、って……お前、仕事の予定はないんじゃ?」

闇咲「野暮用だ」

上条「いやだからその野暮用ってのがなんだっつー話で」

闇咲「話すと長い上、十中八九トラブルに巻き込――」

上条「じゃいいです!その条件で良かったらヨロシクなっ!」

闇咲「こちらこそ宜しく。詳細は――」

コンコン、コンコン

給仕の女性『すいませーん、お風呂の用意が出来ましたよー』

闇咲「――との、事だ。後は明日の朝食の時にでも決めよう」

上条「いや別に風呂上がった後に話せばいいんじゃね?」

闇咲「」 チラッ

上条「あん?」

警策「……ほらドリー、眠るんだったらお風呂入ってから、ね?」

ドリー「……おふろー?みーちゃんもいっしょー」

警策「すいません。そういう事なんで、先に頂いてもいいでしょうか?」

食蜂「いいわよぉ、ね?」

警策「じゃお先に――ドリー、ちゃんと立って!」

ドリー「むぅ……みーちゃんのにおい……」

上条「……結構時間経ってたんだな」 ソワソワ

闇咲「目に見えてソワソワしているところ恐縮だが、今日はこれぐらいにして続きは明日だ」

上条「べ、別にソワソワなんかしてないしぃ!みーちゃんの匂いってどんなんだろうなー、なんて考えてもないし!」

食蜂「語るに落ちてるわねぇ」

闇咲「……ではまた明日」

上条「あ、お疲れ様です――って待て待て、つーか、待て」

闇咲「なんだ」

上条「ってお前もここで寝泊まりしてんじゃなかったっけ?現在進行形で?」

闇咲「その通りだ」

上条「だったら明日話さなくても全員が休憩してから話せばいいんじゃ?」

闇咲「後片付けが残っているし、そちらを片付けたら深夜を過ぎてしまう。なのでどこか適当な部屋で休ませて貰うよ」

上条「あぁなんだ。だったら俺も手伝――」

闇咲「その”手”で?」

上条「――え、ないですよねー。分かってた」

闇咲「素人が下手に触ると危険なものもあるし、まぁ適当な所で切り上げるのでゆっくりしたまえ……では、おやすみ」 スッ

食蜂「おやすみなさぁい☆」

上条「おやすみー」



――離れ 夜

食蜂「……」

上条「……」

食蜂「……上条さん」

上条「……はい?」

食蜂「やっと、二人きりになれたわねぇ?」

上条「あ、ごめん。そういうの良いから布団敷くの手伝って」

食蜂「もうっ!相変わらず鈍感力なんだ・ゾ☆」

上条「いいから手伝えや」

食蜂「あっはい――じゃ、なくてぇ!」

上条「あ、ちゃんと廊下に四人分の寝具が重なってら。準備良いなー」

食蜂「――ね、上条さん」

上条「ていうか俺はここで寝るのか?……いやぁ、なんか気が引けるんだけ――」

食蜂「上条さん!」

上条「なに?」

食蜂「今のはちょっとないんじゃなぁい?」

上条「え!?布団の準備させんのが!?」

食蜂「じゃなくてぇ……分かってるでしょお?」

上条「……まぁ、何となくは」

食蜂「あれだけ『学生らしい夏休み!』とか言っててぇ、結局怪談オジサンの世話力になるって話」

上条「……はい、その節は大変ご迷惑をおかけしてしまってですね、流石の俺も反省したっつーかさ」

食蜂「ね、上条さん」

上条「はいっ!」

食蜂「おどけて、考え無しのフリしてもダメよ?だってぇ――」

食蜂「――私”は”知ってるもの」

上条「……」

食蜂「あなたがどんな人でどんな事をするのか、バカで嘘吐きで優しい人だって事は」

上条「誉めてないよな、それ?」

食蜂「――私の『能力』、そんなに使わせたくなかったの?」

上条「……あー……」

食蜂「知り合いのオジサマに頼る事はしても、私の『能力』で培っただろうヒト・モノ・カネ……には頼りたくなかった、違うかしらぁ?」

上条「あー……なんつーかな、えっと。頼りたくないとか、そんなんじゃなくてだ」

食蜂「それとも『能力』で培ったものは全て偽物、だから気が引けるの?」

上条「違う!俺は食蜂さんの能力を否定するつもりはない!」

食蜂「じゃあ、なに?」 スチャッ

上条「リモコン向けられてると話しづらいんだが……そうなぁ、こないださ、WEB小説読んでてさ」

食蜂「なろ○系?」

上条「ちょっと読むのには丁度良いんだよ!いや決して予算の関係じゃないが!……まぁ読んでてだ!」

上条「吸血鬼の女の子が出てきて、『吸血鬼と人間、どっちのモラルを守ったらいいのか?』って葛藤する場面があったんだよ」

食蜂「……私、吸血鬼なの?」

上条「あぁごめん。悪い意味じゃなくてだ」

食蜂「まぁ……ある意味合ってるかも知れないわねぇ」

上条「んな事言わないでくれ、悪い例え出した俺が言うのもなんなんだが――まぁ、色々悩むんだよ、その子は」

上条「設定上は必ずしも他人の血液を必要としないらしいんだが、飲まないとアイデンティティがどうのって話になって」

食蜂「なるわよねぇ。能力者が『能力使っちゃいけません!』みたいな、存在意義の全否定だし」

上条「そこ読んでて思ったんだが……『別にどっちでも良くね?』って」

食蜂「……はい?」

上条「いやそりゃ血ぃ飲まなきゃ死ぬって訳じゃないし、だったら、つーか葛藤するぐらいだったら吸血鬼のプライド捨てれば良くね?」

食蜂「そこは……ほら、種族としてのプライドがあるんじゃないの?」

上条「そりゃまぁ受け入れられない一線は誰にでもあると思うんだよ、俺だって。だから強制はするつもりはないんだ」

食蜂「……フィクションのお話なのよねぇ?」

上条「その通りですねっ!全く食蜂さんには関係無い話だが!」

食蜂「で、その私に関係無い吸血鬼子ちゃんがどうしてほしいのぉ?」

上条「そこまで葛藤するんだったら、別に血ぃ飲む必要無くないか?だって死ぬって話じゃないんだしさ」

食蜂「そこは……まぁ、難しいのかもねぇ。その子の、能力だってその子の一部な訳だしぃ」

食蜂「むしろモグラを連れてきて『太陽の下で遊びなさい!』って強制するのは、お節介が過ぎるわぁ」

上条「……あぁゴメン食蜂さん。俺が話してるのは”人”の話なんだわ」

上条「それこそ選択肢が腐るほどある”人”のだ」

食蜂「……」

上条「『能力』を否定してるつもりはないんだ」

上条「能力開発一つとっても、学園都市じゃ長い時間かけて訓練してるし、それで得たモンなんだから」

食蜂「(……それも怪しいんだけどねぇ……)」

上条「ただ、だから――俺は知って欲しいんだ」

食蜂「何を」

上条「能力があるとか、ないとかじゃなくて。そんな話ですらなくて」

上条「能力があろうがなかろうが、この世界はそんなに捨てたもんじゃねぇぞって」

食蜂「……どこかの嫉妬力さん達に聞かせてあげたい台詞よねぇ」

上条「まぁそんな感じかな。あくまでも俺の願望、っつーか、お願い?」

食蜂「言いたい事は理解したわぁ……でもねぇ」

上条「押しつけるつもりはない……ってゴメンな」

食蜂「……ま、上条さんから見てぇ、私がどれだけ能力に依存してるのか、みたいな話なんでしょぉ?だったら話は早いわぁ」

食蜂「じゃ、賭けをしましょう?」

上条「賭け?」

食蜂「えぇ。この旅行中だけ、私は『能力』を使わないっていう」

食蜂「あ、でもぉそれだと私はただのか弱いナイスバディな女の子になっちゃうわねぇ」

上条「否定はしないが……『か弱い』?」

食蜂「そんな私を上条さんが護ってくれるんだったら、やってもい・い・ん・だ・ゾ☆」

上条「何かハメられしたような感がするが……その条件だったら」

食蜂「もし約束を破ってぇ、私が能力を使ったら――上条さんは私を嫌いになってもいいわよぉ?」

上条「いやぁ……変なナンパで絡まれたり、自衛のためだったら使ってくれよ!絶対使うなって言ってるんじゃないから!」

上条「俺がお願いしてんのは、ネタで友達にケーキ躍り食いさせたり、初対面の相手へ挨拶代わりに使うなって話だ!」

食蜂「あらぁ?上条さんったら、私の事詳しいのねぇ?」

上条「そりゃ――そりゃ、あれ?」

食蜂「私、信じてるわぁ!屈強なホ×に絡まれても、上条さんが身を挺して守ってくれるって事をぉ!」

上条「あぁ任せとけ!……って今キミ何言った?ねぇ何言ったの?」

上条「ていうか屈強な×モの人は食蜂さんをナンパはしないよね?ガチでムチの人だからね?」

上条「それただ俺を面白半分でモルグ的なモノへ送ってるだけだよね?」

食蜂「あ、私が約束守ったらどうしてくれるのかしらぁ?」

上条「どうって……あぁ、んじゃ遊びにでも行くか?」

食蜂「……ヤダ上条さん、二人っきりでなんて。大胆力だゾ☆」

上条「三人でだ!俺が費用持つから!頑張って!」

食蜂「……甲斐性力があるのかないのか、分からないわねぇ」

上条「ほっとけ」

食蜂「ホ×に?」

上条「×って貰ってどうすんだよ!?被害者俺じゃねぇか!?」

食蜂「それじゃ約束よぉ?ゆーびきーりげーんまーん」

食蜂「うっそ吐いたらはりせーんぼーん、のーますっ、ゆびきったっと」 ギュッ



――離れ 夜

上条「てか疑問に思ってたんだが、食蜂さんや」

食蜂「好きなタイプは王子力の高い人だ・ゾ☆」

上条「モバゲ×で課金無しランカー入りするぐらい難易度高すぎる……!」

食蜂「女子だったら幾つになっても憧れるものよぉ」

上条「……その、幾つになっても”女子”でカテゴリ分けしようとするの、いい加減止めた方が良いと思うんだよ」

上条「使ってる本人はまぁ気にしないとは思うが、大抵周囲からは『女子()』って後ろ指刺されてっから」

食蜂「そうよねぇ、私のようにおっぱい大きくて女子力が高くないと言っちゃダメよねぇ」

上条「一応ツッコんどくけども、食蜂さんは女子力高くないと思うな!特に生活力の欠片もないような日常ってところが!」

上条「あと胸は女子力に関係は、ない。個人的には加点してあげるべきだとも思うが!」

食蜂「罪よねぇ」

上条「や、だからンなバカ話じゃなくてだ。君の愉快な対人関係に関してお話がですね」

食蜂「手を出したら社会的に殺すわ」

上条「やっだなぁ食蜂さんまるで俺がどーこうするのが決定的なその言い方!もっと人を信頼するのは大切だぞ!」

食蜂「40過ぎのおっさんの裸にしか興味がなくなるのと、流し台の排水溝にしか興味がなくなるの、どっちがお好きかしらぁ?」

上条「最低すぎる二択だな!片方はもはや人間じゃねぇし!」

上条「あと40過ぎのおっさんに萌える層は許してやれよ!物好きな女の人だって居るかもだし!」

食蜂「それいつも思うんだけど、居るわよねぇ、こうキャラ作ってぇ――」

食蜂「『私、年上のおじさんに憧れるんです!』みたいなぁ、営業力の高いスマイル売ってるような子が」

食蜂「けどそれって”※ただし美形に限る”限定が入ってるから、っていうか大抵本気で言ってる訳がないしぃ」

上条「夢見させてあげればいいじゃない!オッサンだって嫁に隠れて恋愛したいかも知れないじゃないか!」

食蜂「あ、そういえば上条さんのお父様っておいくつ?」

上条「いやウチの父は違いますよ?浮気だなんてとんでもない」

食蜂「上条家ら代々伝わるラッキースケベの業は、ある意味呪いよりも厄介かもねぇ」

上条「家系は許してやれよ!この世の中にはオリンピック閉会式JK出てて、『性的なアイコンだ!』って性癖ツイッターに晒して猛者だって居るんだからな!」

上条「……いやだから、違くて。君のお友達の話だ」

食蜂「女の過去を詮索するのは、言い趣味じゃないわねぇ」

上条「まぁそうだけどさ。興味本位で首突っ込む気はない……ん、だが」

上条「どう見てもビリビリ……よりか、若干幼い子を連れてるのはちょっと、なぁ?」

食蜂「……」

上条「親戚の子、たまたま知り合い、『妹達(シスターズ)』の一人とか?」

食蜂「……ねぇ上条さん。今から話す事は他言無用よぉ?」

上条「……分かった」

食蜂「上からきゅうじゅ――」

上条「はいストップ!はい待った!何か今エラい事っつーかエロい事聞こえた気がするけどそれって俺が求めてた答えじゃないから!」

食蜂「嫌い?」

上条「超好きです――一般的な男ならな!つーかそんな事ぁ聞いてないよ!」

食蜂「……ま、上条さんも無関係って訳じゃないしぃ、巻き込まれた側だから知る権利もあるかぁ……」

食蜂「大覇星祭の時の事、憶えてるわよねぇ?」

上条「あぁ勿論。忘れる筈がないって」

食蜂「そうよねぇ。御坂さんを進化させようとしてた、妖怪ジジイの大騒ぎがねぇ」

上条「オリアナとリドヴィアの話だろ?学園都市全部、洗脳しまちおうって騒ぎだろ」

食蜂「……はぁい?」

上条「……うん?」

食蜂「えーっとぉ……?」

上条「あ、うん知ってた!つーか憶えてた!他の件とは勘違いなんてしてなかった!」

上条「ビリビリがビリビリしてビリビリした件だろっ!?そっちの方の話だって知ってたし!」

食蜂「……ま、あの事件を端的に言えば、ビリビリ(御坂さん)がビリビリ(電波的なウイルスを受信して)してビリビリ(服が)した、と言えなくもないけどぉ……」

食蜂「認識レベルで食い違うみたいだから、まぁ順を追って話すわぁ」



――離れ 夜

食蜂「で、御坂さんがこう言ったの」

食蜂「『――食蜂ならきっとママを助けてくれるって、信じてたからさ』って」

上条「食蜂さん、それ深刻な捏造が加えられてないかな?盛ってるって言うかさ?次○ばりに話作ってるよな?」

上条「ていうかむしろ率先して見殺しにしようとしてなかったかな?それもアッサリスッパリと、諦めよく」

上条「俺の中にある謎記憶が『白井さん頑張ってんだから!せめて手柄は取らないであげて!』って囁いてんだけど」

食蜂「最後の最後でフォークダンスを横からかっ攫って、『琴×黒』派に大ブーイング受けた上条さんに言われたくないわぁ」

上条「心外だよ!俺は佐天さんに頼まれてから罰ゲーム的な事をしただけであってさ!」

食蜂「罰ゲーム?」

上条「いや俺、ビリビリに嫌われてんじゃんか?」

食蜂「――せいっ☆」 バスッ

上条「へぶしっ!?」

食蜂「あ、ごめんなさい。上条さんのお腹にゴキブ×が居てぇ」

上条「バレッバレな嘘吐くなよ俺の横隔膜突いといて!?」

上条「あとその設定が万が一本当だったら腹で潰れたゴキ×リがくっついてんだからな!想像するだけで恐いわ!」

食蜂「ま、女の子としての義理は今ので果たしたけどぉ、なんで嫌われるって思うのぉ?」

上条「や、それよりも『才人工房(クローンドリー)』の突っ込んだ話をだな」

食蜂「そ・ん・な・こ・と・よ・り・もっ!!!」

上条「……隠すようなこっちゃないけどさ、あー……なんつったらいいかな、あー……」

食蜂「て、ゆーか、”ビリビリ”?御坂さんにだけ愛称なんて、嫉妬しちゃうわぁ」

上条「あーそれだな、食蜂さん。認識にズレがあるんだよ」

食蜂「……なによぉ」

上条「今からする話は、俺が友達から聞いた話だからできるだけ客観的に聞いて欲しい」

上条「あくまでも俺がリアルタイムで体験した話じゃなく、ほぼ伝聞で聞いた話だから」

食蜂「ワンクッション入れる意味が分からないけどぉ……ま、了解したわぁ」

上条「んじゃ……まず悪質なナンパ、しつこい奴らから助けられました。どう思う?」

食蜂「どうって……ナンパと助ける側が共犯でない限りは感謝するわねぇ。普通は」

食蜂「まぁ人によっては、逆ナンされたがるって人もいるでしょうけど、そもそもナンパする程度の相手じゃ、ねぇ?」

上条「ナンパ師のレベル以外は同意だな。助けようとしたら余計拗らせてトラブルになった、ってんなら話は別だろうが」

上条「まぁ感謝――を、押しつけるつもりはないが、悪い方向には捉えないよね?逆恨みしたりも」

食蜂「普通はねぇ」

上条「……俺の友達は薙ぎ払われた。ナンパしてたヤツらごと」

食蜂「ちょっと意味が分からない」

上条「意味も何も、こうビリビリーって?」

食蜂「……なんでぇ?」

上条「次の話!別の機会でだ、俺がまた同じよーにナンパしてる相手から護ったら――」

食蜂「ら?」

上条「……その場でですね、決闘を申し込まれたんですよ……!」

食蜂「……さっきから言ってるけどぉ、私の理解力が足りないのかしら……?それともアマゾーン独特の求婚方法……?」

上条「……あぁイヤ、今のは友達の話であって俺が体験した話じゃないんだけどな!こう、砂鉄のチェーンソーで斬りつけられたり?」

上条「他にも某第一位と『俺が戦うよ!』って見栄張った時、『頑張ってね!』じゃなくて、鉄骨曲がるレベルの電撃とか……」

食蜂「……」

上条「……ま、以上を踏まえてだ。どう思う?マジでどう思う?」

食蜂「え、えっとぉ、アレじゃないかしら……じゃれてる!そう、男の子が気になる女の子にちょっかいかける!みたいなぁ!」

上条「何言ってんだよ食蜂さん。小学生でもあるまいし、好きだったら好きだって言うだろ?」

食蜂「それは……決着的に!どうしても商業的なお話なのよぉ、私も何言ってるのか分からないけどぉ!」

上条「……百歩譲ってだ。色々と助けてくれたりもするし、俺なんかに命張ってくれるのも分かる。正直ありがたいと思う」

上条「ただなぁ?嫌いなのに恩を感じて、って言うんだったら……ちょっと悪いかなぁ、と」

食蜂「(御坂さん報われないわねぇ……話聞くに自業自得っぽいけど)」

上条「なんだかんだで馴れ合うのもよくねぇし、最近は俺の都合にも巻き込んじまってるから」

食蜂「距離を取るために”ビリビリ”?」

上条「ガキっぽいけどなぁ」

食蜂「……了解したわぁ。最近『ツンデレキャラは負けフラグ』って言葉が流行りつつあるのも、何となく分かったしぃ」

上条「それ流行ったら日本終わりだろ」

食蜂「――てなワケでぇ、あの子はお友達なのよぉ。御坂さんには内緒の、ねぇ」

上条「……言わねぇ方が良いだろうなぁ。これ以上抱えさせんのも酷すぎる」

食蜂「上条さんの方の御坂さん――御坂さん覚醒ver?も大暴れして大変だったみたいねぇ」

上条「大変だったのは主に俺と軍覇だが……まぁ何とかなって良かったよ」

上条「――ていうかアレ巻き込んだの君じゃなかったっけ?強制イベント作ってくれやがったのは?」

食蜂「だってぇ妖怪ジジイが『学園都市は消し飛ぶじゃろうウヒョヒョヒョヒョ』って言うからぁ」

上条「マジで妖怪かそいつ。学園都市の人材は相変わらず濃いな!」

上条「……まぁざっと事情は分かった。警策さんが何か妙に刺々しくなんのも、『暗部』の関係者だからかな?」

食蜂「ううん。きっと上条さんを嫌いなだけど思うわ」

上条「はっきり言わないで!?そこはもっとフワっと誤魔化して!」

上条「まぁコーザックの話はさておき、ドリーの事情も分かったとして、フレンドレスの食蜂さんに友達ができたのは良かった」

食蜂「そんな結論なのぉ!?」

上条「『御坂さんと突然友情が芽生えて共闘した☆』のも、ツッコむ事ぁしない。しないが……」

食蜂「気になる所でもぉ?」

上条「ツッコミ所の無い所が無い、コリジョン指定失敗して当り判定全画面状態だろ」

上条「御坂妹にウイルス入れたのにビリビリが覚醒するわ、ビリビリのあの覚醒モードもナンダアレ状態だし。科学の分野じゃねぇよ」

上条(……一方通行がロシアではっちゃけた時もそうだったが……”魔術”っぽい気もするんだよなぁ、あれ)

上条(『高等な科学は魔術と見分けがつかない』だっけか?まぁ半導体使った浮遊実験なんて、100年前にやったら魔術な訳で)

上条(実際、場所によっては現代でも騙す事は可能――だろうが)

上条(能力者ん中でも尖りに尖った”超”能力者がだ、一定レベルの水準を超えると翼生えて異形化する、ってのはどんな物理現象だ)

上条(一方通行だったらベクトル、方向性?エネルギーを持った力?なんかよく分からない未知の力、的なのが働いたと無理矢理納得はできる)

上条(ただビリビリの”電気”……能力を極めるレベルまで行ったら、なんで自発的にコスプレ状態になるのかが分からない)

上条(魔術も科学も、真逆の方向へ突っ走ってるように見えて、一周回ったら合流してたり――)

ドリー「――たっだいまーっ!」

警策「戻りましたよっと」

食蜂「お帰りなさぁい」

上条「――っと、お疲れー……お疲れ?なんか違うな?」

食蜂「じゃ私達も入ってきましょう?」

上条「そうだな――ってまずその手を離せコノヤロー。冗談でもやって良い事と悪い事があるんだからな!」

食蜂「え、冗談?」

上条「いやだからね、君は確かにそーゆートコあるよ?ネタに走るって言うか、俺の知り合いで可愛いけど残念な子に相通じるもんがあるっつーか」

上条「だかな!時にはジョークはジョークって言っても済まないんだよ!中には本気にする子だって居るんだからさ!」

食蜂「具体的にはぁ?」

上条「まぁ、コレかな?」

警策「――ア、オニーサンお布団敷いててくれたんですかー、ありがとうございまーす」

上条「HAHAHAなに、良いって事さ!」

警策「私もお返しに敷いといて上げますねー」 ショッ

上条「警策さん?」

警策「はい?」 ポイッ

上条「俺の目が確かならば、わざわざ一組廊下へ出したよね?やや捨てる的な勢いで」

警策「ナニか問題でも?」

上条「――って感じにだ!憶えのない嫌疑で俺の信頼度がガンガン下がっていくんだよ!」

食蜂「憶えが無くはないと思うけどぉ……」

上条「少なくともこの旅では一回もしてない!……もういい!こんな犯人がいるかもしれない部屋で一緒に居られるか!」

食蜂「由緒正しい死亡フラグよねぇ」

警策「アト私の懸念が確かならば、その犯人はオニーサンです」

上条「……俺、闇咲探して同じ部屋に行くから」

上条「はぁい、オヤスミナサイねぇ」

ドリー「おやすみー、とーまくん」

警策「お疲れ様でしたー」



――翌日 朝 某ホテル前

ブルルルルルル、キキィーッ……

上条(やたら腹に響く重低音の黒いワゴン。第一印象が『護送車?』というぐらいカタそうでデカい外車の”ミニ”バン)

上条(日本仕様の一般的なミニバンとは違い、八人乗りスタイルの大雑把な作りのブツだ!やったね!)

上条(何を思ってこの車にしたの?と聞いたら『ゾンビを轢くのに丁度良い』……らしい。今にして思えば冗談だった……と、思いたい)

上条(ていうか三列目以降が荷台になってて、商売道具らしき謎の品々が。闇咲は『触るなよ、絶対に触るなよ?』と)

警策「ダチョ○ですねぇ」

上条「絶対違う。あとモノローグにツッコんでくんなや」

警策「アレ?口に出してましたよ?」

上条「ウッソ!?マジで!?」

警策「『俺も資金貯めてプロボック○(業務用)買ったら、美味しいメロンパン売って暮らすんだ!』って」

上条「あ、なんだ嘘か。ふーびっくりした」

ドリー「めろんばん?めろんぱんおいしいよねー!」

警策「頑張って下さい、この子のために!」

上条「パン屋行きなさい、パン屋さんへ!一時期流行ってた『移動販売方のメロンパン屋』はもう絶滅危惧種なんだからな!」

食蜂「ま、そんな訳で怪談オジサンに乗せてって貰ったのよぉ!」

警策「いやー、車を使えば早かったですねー」

上条「オイお前ら説明台詞は止めろ!仁義を通せや!」

闇咲「私はそれより怪談オジサンを止めてほしいのだが……まぁ、いい。先にチェックインしててくれ」

上条「おけ――って、こういうホテルじゃフロントの人が停めてくれんじゃないのか?」

闇咲「下手に触るとだな、地雷的なものを踏み抜く恐れが」

上条「じらい?」

闇咲「不用意にバックミラーを覗くと、視線が合うんだ」

上条「分かった!あとやっとくからヨロシクっ!」

上条「ていうかそんなガチな心霊車に他人様乗せないで下さいよ!なんかあったらどうすんですか!?」

食蜂「怖さのあまりにキャラ変わってるわぇ」

闇咲「では頼む」 ガチャッ

上条「あいよー……何?」 ツンツン

警策「テユーカですねぇ、ホテル泊る時は記名が必要じゃないですか」

上条「書くねぇ。たまーに偽名書いて捕まるアホいるけど」

食蜂「それ活動家の別件逮捕よぉ」

警策「この場合、私達に加えて怪談オジサンの間柄を書かなければ、なんですけどもぉ……どうすれば?」

上条「家族?」

食蜂「オジサマはパパ役として、上条さんがその息子なのは間違いないわねぇ。少し似てるしぃ?」

上条「あんなハードボイルドと俺を一緒にすんな」

警策「(ですかねぇ?一歩踏み外して、反学園都市派閥になったらあんな感じに化けそうですけどぉ)」

食蜂「(同感よねぇ。根底にあるのが”狂おしいほどの善意”では一致してるしぃ)」

上条「なんか酷い事言われてる気がするが、それで?」

食蜂「それ以外は欠片も似てないわよねぇ」

上条「そこは……ほら、複数原画家を起用としたと言えば問題解決さ!」

警策「オニーサン、現実です。ここは、フィクションじゃないですから」

食蜂「警策さんとドリーは、まぁ姉妹で通じるでしょおけど……」

上条「確かに!スール的な意味で言えば合ってるしな!」

警策「……食蜂さん、このテンション高いナマモノ、そろそろヤっちゃっていいですかねぇ?」

食蜂「ある意味80×と対極にある病気だから、放っといた方かいいわねぇ」

ドリー「わたし、みーちゃんのおねえさん?」

警策「どうなんだろ……年齢にはドリーの方が若いは若いのかな?」

闇咲「……何をやっているんだ」

上条「待ってくれ!今どっちがお姉ちゃんなのかを決めてるんだ!大事な話なんだよ!」

食蜂「時々、壊れるわよねぇ」

闇咲「チェックインならば、心配しなくても大丈夫なように話は通してあるんだが」

警策「テカ部屋どうなってんですか?男の人と一緒はゼッタイ嫌なんですけど」

上条「警策さん、保護者設定忘れてねぇかな?」

闇咲「心配はしなくてもそちらと私は別室、ここへ泊るのも今晩だけだからな。明日からは海近くの一軒家に宿泊できる……予定だ」

上条「豪華だけど……良いのか?」

闇咲「予算はかかっていない。ではチェックインを済まそうか」



――某ホテル 6×6号室前

闇咲「さて――」

上条「結構暗いんだなー、表っ側明るいのに照明の関係か?」

闇咲「……」

上条「ていうか夏なのに寒い。クーラー効き過ぎだろ、この階」

闇咲「……」

上条「エレベーターもなんかミシミシいってたし、見た目と違って古いんかな、このホテ――」

闇咲「……おい」

上条「はい?」

闇咲「なんでこっちにいる?」

上条「なんでも何も俺達の部屋ってこっちじゃねぇの?」

闇咲「”達”……?」

上条「いやいやっ!二部屋取ったんだろ!?」

闇咲「君達用には一部屋あればいい筈だったのでは?」

上条「……いや、その……そうだけども!気は遣うだろ!?普通!?」

上条「もう一部屋あんのに、『じゃ俺もこっちの部屋でグヘヘヘヘ』とはなんねぇからな!多分!」

闇咲「……君がそこそこ健全な男子学生であると知れ、良かったのは良かったんだが……どうしたものかな」

上条「大丈夫!昼間の間は遊びに行ってる、つーか今からあっちの部屋で話し合ってくるからこっちには荷物置くだけだから!」

闇咲「何が大丈夫なのかは分からないが。まぁ、君が良いというのであれば」

上条「よっし!」

闇咲「……ただ少し、こちらの部屋は息苦しいかも知れないが」

上条「女の子に囲まれるよりかは平気だ!気疲れしなくても済む!」

ギッ、ギイィィィィィィィィィィィィィッ……

上条「………………うん?SE指定間違えてねぇかな?なんで屋敷的なドア開ける効果音になってんの?」



――某ホテル 6×6号室内

上条「……」

闇咲「では支度が済んだら早々に出ていって欲しい。急かすつもりはないが、こういう事は早くするに限る」

闇咲「……”夜”になると厄介だし、な」

上条「あの……闇咲さん?ちょっと良いかな?」

闇咲「なんだ。間取りは他の客室と同じ筈だ」

上条「うん、そうだな。和室の10畳ぐらいで、家族三・四人で泊まりに来るには丁度良い部屋だな……イヤ、そうじゃなくて」

上条「……この部屋、寒くないか?廊下よりもずっと」

闇咲「ふむ?……エアコンがつけっぱなし――には、なっていないようだが」

上条「あと、気のせいかもしんないけど、シャワールームの方から水音が聞こえる……?」

闇咲「聞こえるな」

『――――ッ、ァ――――――ゥ、ゥゥゥゥアゥ』

上条「……」

闇咲「……聞こえる」

上条「……あとさ、そこの押し入れ、俺達が入ってきた時には開いてなかったよね……?」

闇咲「そうだな」

上条「……じゃ、なんで今半開きになってんの……?」

闇咲「……」

上条「……」

闇咲「この部屋で亡くな――」

上条「聞きたくない聞きたくねぇっそれ以上言うんじゃねぇ!」

闇咲「質問をしておいて理不尽な話だ……まぁ、知らないのも選択肢の一つだな。むしろ賢明と言え――」

ガタンッ

上条「……」

闇咲「……」

上条「……あのさ、俺あんま余所でお泊まりした事はないんだけど……憶えてる限りでは」

闇咲「うむ」

上条「よくさ、旅館だけじゃなくてビジネスホテル泊ってもだ、こういう、何か百均で買ったような絵が飾ってるあるじゃん?」

上条「壁の真ん中にA4ぐらいの大きさで、芸術なのか何かの業者の押しつけなのか、よく分かんないやつ」

闇咲「まぁ多いな」

上条「それが、今、誰も触ってないのに、落ちたよな?」

闇咲「落ちたな」

上条「しかもその裏っ側にはオフダみてーなのがビッシリと……!」

闇咲「それは違う」

上条「だ、だよなっ!?違うんだよなっ!」

闇咲「みたいなの、じゃなく、そのものだな」

上条「ふっざけんな!こんなところに居られるか!?」

闇咲「それはそれで死亡フラグなのだが、まぁ気持ちは分からないでもない」

上条「つーかどんな部屋だよ!?どんだけ属性詰めたなろ○系氏主人公だってこうはなんねーぞ!」」

闇咲「……なので、一つ話をしてやろうか」

上条「……何?ふざけた事言ったらぶっとばすからな?」

闇咲「これはある、私の知人の友達のメル友から聞いた話なのだが」

上条「また出やがったのな謎の人脈!?テメー無神論者の割に心霊体験多すぎなんだよ!」

闇咲「彼がある時ビジネスホテルに泊ったんだよ。まだ十代の頃だ」

上条「10代で……あぁ受験かなんかかな」

闇咲「そして夜中過ぎ、ジリリリリリリと廊下から火災警報器が鳴る音で目が覚めた。ついでにどこからか焼け焦げた臭いもする」

上条「うわぁ……シャレんなんねぇ」

闇咲「『うわヤバ!さっさと逃げないと!』と荷物を持って廊下へ出ようとしたら」

上条「たら?」

闇咲「廊下には既に何人かの先客がおり、彼らはしきりに首を傾げていた。『何やってんだろうこの愚民ども?』、と彼は不思議に思い、その原因に直ぐ思い付く」

上条「おい今愚民っつったぞ。そいつ中二病抜けてないかんな!」

闇咲「と、いうのもベルは鳴ってなかったんだ。最初からな」

上条「……はい?」

闇咲「他の客に聞いてみた所、似たような感じで飛び起きては見たものの、廊下へ出れば音は聞こえなくなってる」

闇咲「……しかし部屋へ戻ってみれば、どこか焦げ臭いままだった……」
(※実話です)

上条「……」

闇咲「ちなみにそのホテルは以前火災があっ――」

上条「よーし歯ぁ食いしばれ!このシチュで怪談振ってきたお前の幻想ぶち殺してやっから!」

闇咲「――た、という話は無かった。よってただの誤作動だろう」

上条「無理だよ!この数々の心霊現象を目にして『なんだ、ゴクラクチョウか』で済む筈ないものっ!」

上条「ていうか今まさにシャワーの音止んで鼻歌っぽいのが聞こえてるから!もうすぐクライマックスだし!」

闇咲「……いや、だからな?私にもコネはあるんだ。主に裏関係だが」

上条「何の話よ」

闇咲「またご当主も世話になった礼だと、色々便宜を計って貰う事もできる。一応は」

闇咲「だがあまり、そういう類の借りを作りすぎると、回り回ってがんじがらめになる。それは分かるな?」

上条「そこまで気にするこっちゃないと思うが……まぁ、それで?」

闇咲「また同行者である君達まで、こちら側の関係者だと扱われるのも拙い」

上条「お前なんか壮大なノリツッコミの準備してないか?俺の勘違いかな?」

闇咲「かといってシーズン真っ盛りの宿泊施設を利用できるコネもなし――よってギブアンドテイクで行く事にした」

上条「具体的には?」

闇咲「除霊とセットで部屋を使わせてくれないか、と」

上条「すいませんでしたーーーーーーーーーーーーーーっ!!!」

闇咲「君達の部屋は清掃のために休ませていた部屋だ。だから心配する必要はない」

上条「清掃?」

闇咲「畳の張り替え、水回りや設備の点検。こういう宿泊施設では、全ての部屋を常に使っている訳ではない」

闇咲「また急な泊まり客のために、一部の部屋を開けて置くという意味合いもあるそうだ」

上条「相変わらず謎の知識だぜ……!」

闇咲「都市伝説でよくるシチュエーション、『シーズン中で満員なのに開いている部屋がある』の、ほぼ全てが”それ”だな」

闇咲「どう考えてもホテル側の厚意で宿泊させて貰っているのに、ギャーギャー騒ぐのは失礼にあたる」

上条「あ、はい、すいませ――オイ待て、ちょっと待とうか」

闇咲「ふむ?」

上条「その交換条件はおかしいとは思うが、まあ無理ふっかけた俺の責任だと思うよ?まぁそこはゴメンナサイなんだけども」

上条「と、するとだ。明日以降泊る予定の施設も訳ありなんじゃ……?」

闇咲「そのとお――」

上条「あっごめん!俺用事あったから話の続きはまた後でな!」

上条「多分意地でも今晩は戻って来ないし!次に会うのは明日以降になると思うが!」

闇咲「夜には普通の部屋になるんだが?」

上条「精神衛生的な話だ!お前には分かんねぇだろうけど!あぁ分っかんないだろうがな!」



――海 午前中

ドリー「うーーーーーーーーみいーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーっ!!!」

警策「ちょっ!?ドリー準備体操しなきゃダメでしょっ!?戻ってきなさぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁいっ!!!」

上条「……」

ドリー「でもみーちゃんやくそくしたしさきちゃんともいっしょにこられたんだようーみ!これでこれでおねがいがひとつかなったってみさかはみさかはいってみたり!」

警策「分かったから長文は区切って言いなさい!あと混線してるからそのキャラはペッてしなさい、ペッて!」

食蜂「ちょっとあなた達ぃ、落ち着いたらどうなのぉ?」

ドリー「でもねさきちゃんさきちゃんわたしもうすっごいんだよ!すっごくかんどうしたんだからねっ!」

警策「だーかーら準備運動!海へ入る前にするっていったでしょう!?」

上条「……なんだろう、この混沌とした状況は……」

上条「ていうか警策さん、ドリーが関係するとちょくちょくキャラ変わってるな……」

上条(あの後……悪夢のチェックインを遂げた後、女子部屋の前でDOGEZAを決め続けた俺に隙は無かった……!)

上条(好感度が逆カンストしてる思われるとコーザックさんですら、『マァ、そこまでするんだったら……』と一晩だけ同室を認めて貰ったよ!頑張ったな俺!)

上条(……というか事情を話してる間に、若干一名挙動不審になっていたが……それは本人の名誉のためにも伏せておく……さておきだ)

上条(ホテルから徒歩一分、ぶっちゃけ国道一本挟んだ先、ド真ん前のビーチに俺達は来ていた)

上条(というか、そもそもホテルが夏のリゾート用だったらしく、水着に着替えて即行けますよー、というのがウリだって話)

上条(……そんな素敵な()ホテルに、何故心霊スポット部屋があるのかと小一時間問い詰めたいが……色々あるんだろう)

上条(まぁまぁさっき見たリアル心霊ビデオは忘れるとして、浜辺は夏休みらしく、海水浴客がかなりの人口密度になってると)

上条(部屋で着替えて来た俺達も例外じゃなく。そうだなー、俺の目の前にあるのは)

ドリー「ねー、とーまんくんもこっちちおいでー!」


 ――競泳選手が着るような、機能性重視で華やかさに欠けるワンピースタイプの水着。紺色が控えめに、そうあくまでも持ち主の意志に忠実であろうとする、騎士のようにお堅い印象を持つかも知れない。
 だが唯一、ワンピースの左右へ入った数本の白いライン。
 それはまるで夜空を駆ける流星の如く、声高に自己主張をしているのは抑え切れていない。
 それは持ち主のなだらかな曲線、まだ凹凸の乏しい身体へ張り付く様は、返ってその魅力を引き立たせてしまう。
 決してそれらが意図した効果では無いだろうが。しかし水着によって保護された瑞々しい肢体は、その添えられた”華”によって開花するのも否めない。
 淑女が持つ一輪の花。そう、それは彼女を飾り立てる。彼女の意志などお構いなしに――。


警策「……アレなんかオニーサン、目つきがイヤらしいですよ?」


 ――夏の暑い日、部屋へ入り込んできた涼風に顔を上げる。そう、似たような体験は誰しもするだろうが。
 それはきっと夕立の前触れであったり、時には秋を告げる先触れかも知れず。だが多くは勘違いで終るだろう。
 蜃気楼の如く立ち上り掻き消える。そういう季節であったと知りながらも、首を捻る。
 しかし、こうも言える。そう――たゆんたゆんだ、と。
 普段からやや斜に構えた彼女であり、こちらからの視線を隠すために今はやや半身になっていた。少女がぶしつけで邪な視線から逃れようとするのは当然だ。
 が、そのもくろみ、ささやかな抵抗は失敗したと言えるだろう。
 何故ならば彼女が恥ずかしそうに構えた手は、意外にも豊かな双胸を押し潰してしまっているからだ。
 ナス色、やや赤みを帯びた漆黒のタンキニ――キャミソール型のトップスはやや窮屈そうに見える――。


食蜂「かっみっじょーさぁん!」


 ――暴力とは様々な形を取る。単純に拳を振り上げたり、言葉で傷付けたり、もっと婉曲な方法もある。
 そしてきっと……”これ”もそうなのだ。
 はち切れんばかりにたゆんたゆんなたゆんたゆん、そのビキニは金色だった。
 ともすれば下品に見え、またそうでなくともキラキラとした地色は野暮ったい印象を植え付けるものではあるが……”暴君”だった。
 重力に逆らい、人目を気にせず、惜しげも無く晒しているのは、それは皇帝のような気品すら伺わせるたたずまい。
 かといって手慣れた娼婦とは一線を画し、誰しもかが一目見ただけで恋へ落ちる可憐さを身にまとう。
 圧倒的暴力であるたゆんたゆんの前に、人はかくも無力なのだろうか?それともこれは”暴力”ですらない癒やしなのか?
 残念ながら人類は未だ答えを持つに至っては居ない――。


食蜂「ごめんなさぁい。唐突にエロテキスト挟むの止めてくれないかしらぁ?」

警策「テ、ユーカ目つきが超絶エロいんですけど」

上条「――あ」

食蜂「あ?なぁにぃ?」

上条「――アインシュタイン先生は……間違っていたんだ……ッ!!!」

警策「ちょっと何言ってるのかわっかんないですね」

上条「事象の地平面で起きるシュバルツバース半径なんてなかったんだよ!?」

食蜂「まぁ、否定されているわねぇ」

警策「多分ツッコミ所違います」

上条「だっておかしいだろっ!?なんでこんな、こんなったゆんたゆんなのに形崩れねーんだよっアリガトウっ!」

警策「疑問なのか感謝なのかどっちかにしろよ」

食蜂「それはまぁ、『若いから』としか言えないけどぉ」

上条「――ごめん取り敢えず全員写メ撮って良いかな?あぁいや、これはやましい気持ちじゃなくてだ、学術的な意味合いがですね」

警策「100%性欲以外の何物でもないかと思うんですけど」

上条「いやいやいやいや、これはだな俺の知り合いのバニー研究兼幼女自主警備を専門にしているHAMADURAってやつが居てだ」

警策「一台詞にバカワードが乗りすぎて、どこからツッコんで良いのか分かりません」

上条「だからサンプル数が多ければ多いほど、実証データには使えるって、うん」

ドリー「みーちゃんもさきちゃんも、いかないの?」

警策「――うん、行こっか!」

食蜂「……そうねぇ」

上条「あれ俺は?スルーする方向で行くの?」

警策「荷物、見てて下さいね(はぁと)」

上条「……デスヨネー」

上条(……と、まぁ少々の紆余曲折はあったものの)

上条(ドリーの手をしっかりと握る警策さん、その反対側にはおっかなびっくり――の、ように見える――手を取ろうとしてる食蜂さん)

上条(どーにも、なぁ?つい12時間前ぐらいにちょっと話を聞いただけの部外者が入っていける雰囲気でもなくて)

上条(こうやってバカ騒ぎしてハブられて、一歩引いてみた……ホントだよ?ウソじゃないよ?)

上条(三人仲良く波打ち際へ駆けていく姿は、やっぱり年相応で安心する。カラダ……いやなんでもない)

上条(笑い合いながら波は膝まで届き、それが腰、胸へと……)

上条「……うん?」

上条(あれ……なんか、デッサンが狂ったっていうか、うん?なんかおかしいぞ?)

上条(コーザック、ドリー、んでもってみさきっつぁんの順、だよな。ドリー真ん中にして手ぇ繋いでんだからさ)

上条(警策さんとドリーは浮いてんだけど、食蜂さんの所だけポッカリと誰も居ない……?)

上条(つーか少し離れた所に見え隠れして、クラゲのようにプカプカ浮いてる金色のって――)

上条「みーさっきっつぁーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーん!!!?」



――浜辺

食蜂「……」

上条「なんていうかな、こう、あるよね。空気的なものがだ」

上条「三人の折角の感動のシーンなんだからさ、俺だって気を遣ったよ?ほぼ珍しくさ」

上条「なのに速攻溺れるのってどうなの?しかも足が着く範囲でだ!」

食蜂「……しょうがないじゃなぁい。私みたいなブロンドはスポーツが苦手だってぇ決まってるしぃ」

上条「謝れ!リオ五輪で活躍しまくってる代表選手達に謝って!」

警策「マァマァオニーサン、そのぐらいに。あとガイジンでも染めてる人結構居ますよ、プリンになってるの多かったじゃないですか」

上条「その情報は知ってる。ていうか知り合いのボスがドSでゴールデンブロンドなんだよ」

警策「あなたの交友関係がフツーにコワイです」

上条「ていうかだ!ここまで引っ張ったのに『溺れましたテヘペロ』で終らせていいイベントじゃねぇだろ!?」

警策「マァ……『手を繋いで海へ入る』だけで生死の境を彷徨うとか意味が分からないですけど」

食蜂「いやぁ」

上条「誉めてねぇよ、つーか君も外見はスペック高めなのに残念極まりないな!」

食蜂「魔性の女力だ・ゾ☆」

上条「ヤダこの人全っ然反省しやがらねぇ」

ドリー「みーちゃん?」

警策「ア、すいません。私、ドリーに泳ぎ教えなくちゃなんで失礼しますね」 シュタッ

上条「あぁ気をつけてな、あと身体冷えたら戻ってくるんだぞー……って泳ぎ?」

食蜂「……そろそろ正座崩して良いかしらぁ、足痛くって」

上条「あぁどーぞどーぞ」

食蜂「あの子はぁ、少し前まで眠ってたのと同じ状態だからねぇ。基礎能力は高いんだけどぉ、体力的には劣るっていうか」

上条「ビリビリのだろ?だったら……」

食蜂「筋肉、使わなければ衰えるでしょ?一度身体の効率的な動かし方を、体で学習すれば後の飲み込みは早いでしょうけどぉ」

上条「何となく分かったような……うん?」

食蜂「上条さぁん、オイル塗ってくれないかしらぁ?」

上条「その返事は保留にして一つ疑問がある」

食蜂「……今だったら、ちょっとぐらい触っても言いふらしたりしないわよぉ?」

上条「そ、そんな事よりも聞きたいんですけど!その話の詳細は後で詰めるとしてもだ!」

食蜂「メールするだけしぃ」

上条「絶望したっ!この電子の網が世界を覆うネットの世界の絶望したっ!」

食蜂「既婚者さんの似てないモノマネはいいからぁ。それでぇ、疑問ってなに?」

上条「や、大したこっちゃないんだろうが、ドリーは寝てたんだよな?」

食蜂「寝てる……ま、その言い方がやんわりとしてて似合ってるわねぇ」

上条「おかしくないか、それ」

食蜂「……私も思ったけどぉ、ていうか想像すらしてなかったしぃ――」

食蜂「――”あの”学園都市が、使い終った被験体をそのまま何年も放置力するなんて、ね」

上条「君らが再会できた話は素直に喜んでも良いと思う、思うんだが……」

食蜂「あ、そっち関係の”枝”はついてなかったわよぉ。知り合いにきちんと調べて貰ったから」

食蜂「統括理事のブレインやってるJKにね」

上条「スゲーなその女子高生!……あ、でもそれ言ったらレベル5連中は殆ど学生か」

食蜂「だからぁ、そうねぇ……私とも縁があるしぃ、そっち関連の人質として用意されてた、ってセンはあるわねぇ」

上条「……手伝い欲しいんだったら、いつでも言ってくれていいからな?」

食蜂「あ、丁度良かったぁ、それじゃサンオイルを」

上条「エロ関連はノーサンキューで!俺のミスリルの自制心だって磨耗するんですからねっ!」

食蜂「磨耗してる時点でミスリルじゃないと思うわぁ。偽物よねぇ」

食蜂(……しかし、気にはなるわよねぇ。改めて上条さんに指摘されなくてもぉ)

食蜂(百鬼○ジジイは私や警策さんの話を知ってる……というか御坂さんのプロジェクトを進めていたのはアイツだしぃ)

食蜂(だからドリーの存在を掴んでて当然……の、筈よねぇ。本来ならば)

食蜂(でもそうししたら私達へ対する切り札として、ぶっちゃけ『○○してくれたらこの子を返すよ?』って言えば、まず折れる訳で)

食蜂(最低でも存在をほのめかすだけでぇ、警策さんへ対する遠回しな抑止力にはなり得るのよねぇ、これが)

食蜂(でもでも百○丸ジジイはそれをしなかった。なんでかしらぁ?同情や憐憫の類の感情がない、虫みたいな化け物なのにぃ)

食蜂「……」

食蜂(それとも知らなかった、とかぁ?噂しか聞かない統括理事長からの覚えもいい『木原』なのに?)

食蜂(『木原』以上の何か、それが私やドリーのプロジェクトに関係していた……?)

食蜂「……」

食蜂(……それは、ないわねぇ。学園都市で『木原』ぐらいに肥大した勢力なんて)

上条「――さん」

食蜂(そもそもそんなのがあるんだったら、ドリーは解放されてなんかないでしょうし――)

上条「――食蜂さん?」

食蜂「え!?あ、うん、聞いてるわよぉ、ゼンゼン」

上条「そう、か?」

食蜂「上条さんは巫女派よりもシスター派なのよねぇ?」

上条「全く話聞いてなかったよね?そんな話してなかったもんね?」

上条「つーか否定するつもりはねぇがどっからその知識仕入れてきやがった!?俺のトップシークレットを!」

食蜂「『派閥』の力は甘く見ない方が良いわよぉ?」

上条「俺の性癖暴きに使われる同級生さん達も気遣って上げて!どうせだったら別のもっと、こうスッゴイ場面で活躍させて!」

上条「……そうじゃなくってだ。なんかボーッとしてたから、まだ気分でも悪いのかなって」

上条「水は飲んでないし、意識失っって訳でもないみたいだから心配はないだろうけど……調子悪いんだったら、部屋へ戻ろうか?」

食蜂「……上条さんの、えっち……」

上条「良かった、俺をイジれるぐらいには回復したって事だよな!」



――浜辺 荷物持ち組

食蜂「――いーい上条さぁん、私がセパレートタイプを着てるのは訳があるのよぉ」

上条「……あの」

食蜂「サイズ的にワンピース着ちゃうとぉ、大変な事になるのよねぇ。こう、胸の下辺りが思いっきり伸びちゃってぇ」

食蜂「だから常盤台のイモい指定水着も着られないしぃ、体育も見学しなくちゃだしぃ。御坂さんの空気抵抗の少ないボディが羨ましいわぁ」

上条「たった今見たコントのようなオチを見なければ、『そ、そうだね?』って同意してやれたんだろうが……」

上条「足の着く場所で溺れかけた時点で、君がもう残念過ぎて、もう……!」

食蜂「……水着の話は本当だしぃ」

上条「まぁ陸上とかでも、運動の邪魔になるってのは何となく分かるような気はするが――」

食蜂「でしょお?私は悪くないわよねぇ?」

上条「――が、それはあくまでもトップアスリートの話であって、一般人レベルの話だったら誤差だろ」

食蜂「って言われてもねぇ。具体例を出して貰わないとぉ」

上条「俺の学校で先生やって警備員の掛け持ちしてる黄泉川センセって人が居てだな」

上条「噂じゃ外のトライアスロンで上位入賞したって話だ」

食蜂「ぐ、具体的にぃ!」

上条「分野は違うが、かんざきさんじゅうはっさいさんって人がだな。殴って良し斬って良し飛んで良しの」

上条「ラグランジュポイントで日本刀片手にミサイルを撃ち落としたりする巨乳」

食蜂「……それ、人?」

上条「”あっち側”のレベル5に近い扱い、かな?もっと選手層は厚いんだが、まぁ有名人らしいぞ」

食蜂「ま、私の事はいいとしてもぉ、上条さんもパッとしない格好よねぇ」

上条「ヤローが水着選びに気合い入れてどうするよ」

食蜂「トランクスタイプにぃパーカー……定番は定番だけどぉ。ていうか焼くんだったら脱いだらぁ?」

上条「俺は……まぁ、良いんだよこれで。需要もないだろうし」

食蜂「日焼け気にする派?」

上条「つー訳でもなく、あー……なんだろう、自主規制的な?」

食蜂「何よそれ」

上条「実物見て貰うのが早いっちゃ早いんだが、そういう訳にも――」

男A『――ねー、君達どっから来たの?外の人?』

男B『俺ら地元なんだけど、良かったら案内しよっか?クルマあるしー?』

警策『――スイマセーン、興味無いんでー』

男C『えー、いーじゃん?こっちの子も来たがってるよー?』

ドリー『しらないひとについてっちゃだめだって!』

上条「……まぁ、アレか。夏の定番っていうか」

食蜂「お約束よねぇ、アレ」

上条「一応確認しくとけど仕込みじゃないよな?」

食蜂「そうだったらこっちに来させるでしょぉ?あの二人の邪魔するほど、イヤな性格してないわよぉ」

上条「え?」

食蜂「――語尾が『ラッシャイァセー』と、『アリシャッシャー』のどっちになるのががいい?」

上条「どっちもコンビニ店員だったら居そうだな!――待って!刑の執行は後に回してくれ!」

食蜂「そんなに急いで助けに入らなくてもいいんじゃなぁい?警策さんの好感度上げるんだったら、もっとギリギリまで粘った方が」

上条「俺の経験上、警策さんの沸点はメッチャ低いと見た――ていうかそっちの心配はしてねぇ!むしろナンパして奴らの方が!」

食蜂「だったら早く行かないと手遅れになるわねぇ、ガンバー☆」

上条「君も手伝えよ!つーか話的に君が出張った方が丸く収るだろうさ!」

食蜂「四角いの仁○が?」

上条「まーるく収まりまっせ――てバカ!?お昼のご長寿番組のボケを振るんじゃねぇ!忙しい時に!」

食蜂「……一々拾う上条さんもどうかと思うけどぉ……」



――浜辺

男A「――ってどう?」

警策「ウッザイ、失せろバーカ」

男B「この――!」

上条「――って待った!ツレがスイマセンねっ!何かご迷惑をかけちまって!」

警策「……チッ」

ドリー「とーまくん!」

男C「あーなに?この子らの知り合い?」

上条「あぁまぁ保護者かな?いやまぁ人見知りする子らなんで、このぐらいで勘弁してもらえると」

男B「つーか邪魔だしあっち行けよ」

警策「……下手に出るからバカが調子に乗んだっつーの」

男A「あ?」

上条「まぁまぁまぁまぁ!子供のやる事だし、ねっ!?」

警策「『リキッド――』」

男C「調子に乗ってんじゃねぇぞあぁっ!?」 グッ

上条「――っと!」 ビリッ

警策「上条さん!?」

ドリー「とーまくん!?」

上条「……あーあ、スーパーの衣料品コーナーで安かったパーカー破けちまったよ……クソッ」

男A「スーパー?おま、んな所で服買ってんのかよ、ダッセェ野郎だなオイ」

男B「……オイ」

男C「……!?」

男A「つーか保護者さんよぉ、アンタが監督者だって言うんだったら誠意見せてもらわな――」

男B「オイっ!」

男A「――っせぇな!さっきからなんだよ!?」

男B「……もういいって、行こう」

男A「なんでだよ!?なんで――」

男C「……ソイツの、体……」

男A「あ!?別に体がどうって――」

男A「――て、話、じゃ……」

上条「うん?どした?俺の体になんかあんのか?」

男A「……行くぞ」

男B「……あぁ」

男C「……」 ダッ

上条「……何だったんだ、アイツら」

警策「オーオー、負け犬ちゃんがそろって逃げ出しますかぁ」

ドリー「とーまくん、すごいね!」

上条「いや別に俺は何もしてねぇし。てかなんでアイツらが逃げてったんだ?」

警策「ソリャー、ねぇ?」

ドリー「ねねね、とーまくん!とーまくんっ!」

上条「落ち着けドリー!てかお前までどうした!?」

ドリー「とーまくんのからだのきず、すっごいねぇ!いっぱいだよ!」

上条「あー……そう、なるかぁ。なるよねぇ」

警策「ちょドリー!?幾ら上条さんでも失礼でしょ!」

上条「オイ”幾ら”と”上条さんでも”の枕詞居いるかな?」

ドリー「きず、おかげしたの?へーき?」

上条「前の話だし、ヤローだから気にしてないよ」

警策「や、でも一杯……」

上条「まずこれが中学の頃に変質者に刺された傷、背中でちょっと刺されだだけだから、傷跡は小さいはずだが」

警策「”ちょっと”?”ちょっと刺されただけ”?」

上条「んでこっちがステイルに焼かれた時の火傷、神裂にワイヤーで殴られた時の擦り傷」

上条「ここが一方通行とケンカして、コンテナ投げられてできた傷でー」

上条「シェリーの地雷型ゴーレムの傷、ビアージオの十字架で殴られた傷……」

ドリー「こっちは?」

警策「だからドリー、ダメだってば!」

上条「これはシスターさん達に囲まれてシバかれた時の傷だな、うん」

警策「どんなシチュ?どんな悪い事したらシスターさんにシバかれる羽目になるんですか?」

上条「こっちがイギリス記念、んでこっちがロシアへ行った時の」

警策「もはや記念スタンプ感覚で!?お気軽に!?」

上条「あ、12歳児に背後からドリル突きつけた時、警備員に撃たれたのがここだなっ!」

警策「おまわりさんこの人です」

上条「だがその隣のデカいのはその幼女に胸骨を砕かれかけた時の痣だ!」

警策「何やってんですか、超何やってんですか」

上条「……だから脱ぎたくなかったんだよ……!どう見ても堅気じゃ見えないもんさ!」

警策「もしくは特殊な性癖ですかね」

上条「だったら訳ありの方がマシかな?だってそうじゃないとただの性癖だから」

ドリー「とーまくん、けんかしちゃったの?けんか、めっ、なんだよ?」

上条「んー?どっかって言えば、ケンカを止めるため、かな?今みたいに」

警策「いや、今のは違――」

警策「――く、はないですね……すいません。保護者として一応謝っときます」

上条「その気遣いを別の所で使ってくれ。具体的には3分前に」

警策「ドリーの敵は私の敵です」

上条「自制しろっつってんだよ!あの場合は『ツレが居るから』ってサッサと逃げるか、監視員の人呼ぶのが正解だっつーの!」

警策「テカあーゆーバカは根切りにした方が、世のため人のためだって思うんですけどねぇ」

上条「まぁ人様の役に立つかは疑問としても、そこまで物騒な対処は必要ねぇよ……ったく、あのな警策さんいい機会だから言うけども」

上条「敵味方って区別つけたくなる気持ちは、分かる。大人達が作ったクソッタレな世界に放り込まれて、散々割喰ったやつだったらだ」

上条「誰も彼も信用できない。心を許せるのは長い付き合いの腐れ縁連中だけ――ってのも、良いと思うんだよ」

上条「ただ必要以上に、肩肘張って力入れて突っ張ってても良い事なんてない。近付く奴ら全員に睨み付けても敵を増やすだけだろ」

上条「無駄に敵作った挙げ句、君――お前が大事にしてるもんまで、したいもんまで危険に晒してたら、意味無いからな?」

警策「あ、ドリー、そろそろ食蜂さんと合流してお昼食べよっか?」

上条「聞きなさいよ人の話をっ!?今俺真面目な話してたじゃないっ!?」

警策「キイテマシタヨー?確かお父さんがロ×なんですよね?」

上条「断っっっっっっっっっっじて、違う!それだったら俺生まれてねぇし!」

警策「偽装結婚的な?」

上条「いや別にあれはそんなんじゃ――待てよ?『御使堕し』ん時もインデックスin母さんになんかアレだったし」

上条「そもそもあの事件の首謀者、つーか術者は父さんだって事は術式の影響受けてなかった可能性もある、のか……?」

上条「ていう事はインデックスin母さんとエロ未遂は父さんの意志だって――」

食蜂「上条さん長考へ入っちゃってるわねぇ」

警策「今頃ノコノコやって来て、それ言いますか」

警策「テカあなたが”チカラ”使えば良かったんですよ、最初っから」

食蜂「それはお断りだ・ゾ☆」

警策「なんでですか。レベル1に多い『能力はあるけど敢えて使わない派』気取り?」

食蜂「そうじゃなくってぇ、上条さんが言ってた『なるべくフツーの旅行』したんいんだったら、私がチカラ使ったら意味無いでしょぉ?」

警策「……私は使いますけどね」

食蜂「それもいいと思うわぁ。あなたにとっての、ていうかこの人は理解してないみたいだけど――」

食蜂「――『能力者の普通』は自分の能力と共に在る事だしねぇ?」

食蜂「でも『能力者が能力使うのが当たり前の常識』であっても、日常的に使える能力だって前提がつく訳でぇ」

食蜂「中には『こんな力なんて欲しくなかった』って、悩んでたりする人も居るかも知れないわよぉ?」

警策「何が言いたいんですか、結局は」

食蜂「別にぃ?……ま、ただ一言だけ言わせて貰えるなら」

食蜂「『能力者を能力者として見ない』って人、中々落ちてないわよ、ってトコかしらぁ?」

警策「チョット理解出来ないかなぁ、私には」

食蜂「それもいい、って言ったわ――さて、上条さん、みんなでご飯食べに行きましょ?」

上条「『――あ、もしもし父さん?ゴメン俺だけど正直に答えてくれないかな?』」

上条「『いや別に母さんにチクるつもりはないし、なんて言うか、墓まで持っていくからなっ?』」

警策「私の不用意なボケが家庭崩壊の危機を……!?」

食蜂「戻ってきなさぁい。そっちの道は行くも戻るも獣道よぉ」



――海の家

上条「――で、結論から言えば×リじゃないってさ」

食蜂「海の家へ入った第一声がそれってキツいわよねぇ」

警策「シーン転換挟んでまでネタ引っ張るのはどうでしょうか。ヤ、振っといた私が言うのもなんなんですが」

上条「俺は父さんを信じてたし、最初っからンな事ないと思ってたから衝撃じゃなかったんだけど」

警策「だったら確認する必要ないですよね?」

上条「あ、ホラそれはよく言うだろ?――『信じたいのであれば、真っ先に疑え』ってさ」

警策「言ってる事は正しいですが友達無くす第一歩ですよねぇ」

食蜂「ていうかどうやって息子の信頼を勝ち取ったのか、興味力あるわぁ」

上条「あぁそれは簡単だった。父さんがイギリスでエルフの姫騎士に拉致られた時にだな」

警策「ファンタジーな単語が出ている割に内容がどーしよーもなくアホいんですけど」

ドリー「えるふ?ようせいさんっているの?」

食蜂「船橋を筆頭にトロール的なのはそこそこ居るわよぉ?……原義の、だけどぉ」

上条「その時、美人局されそうになったんだけど、まんざらでもなさそうな感じだったってさ!×リ疑惑は晴れた!疑ってもなかったがな!」

警策「それロ×疑惑の代わりに別角度から家族の絆へヒビ入っちゃってません?」

上条「いや未遂だから!罪を犯してないのに罰せられるのだろうか!?いや、ない!」

警策「ア、すいませーん。注文いいですかー?」

上条「聞いて?ねぇ聞いて?君から振っといたネタなのに途中から面倒になってスルーするのは良くないと思うよ?」

警策「焼きそばとラーメンを。食蜂さんは何にします?」

食蜂「私も焼きそばでぇ」

上条「んじゃ俺はカレーを――っていうか、ドリーのは?」

警策「あぁこの子、辛めのカレーは苦手なんで二択かなと」

上条「……まぁメニューが『焼きそば・カレー・ラーメン(しょうゆのみ)』だって時点で実質三択だからな!」

ドリー「みーちゃん、わたしげこたじゅーすのみたいな!」

警策「ご飯食べられる?残したらダメだからね?」

ドリー「やたっ!てんいんさんげこたはわいくださいっ」

上条「……なんだろうな。癒やしは癒やしなんだろうが……ゲコ太ハワイ?ブルーハワイの亜種?」

食蜂「DNAの呪縛って恐いわぁ」

警策「えぇまぁ子供がファンシーグッズに引かれるのは仕方がないんでしょうけどねぇ、子供”は”」

上条「一番上のおねーさんからして、うん。姉妹だから似るって言うかな」

上条「……てかゲコ太ってカエルだよな?緑色したジュースって飲めるのか?」

食蜂「緑茶と思えば、まぁ何とかなるんじゃなぁい?」

ドリー「ねね。みーちゃんみーちゃん。とーまがくんがさっきからいってる”ロ×”ってどういういみなの?」

上条「そうだなぁ、人によっては定義まちまちだろうが――」

上条「――生き様、かな?」

警策「顔面割んぞゴラァ?」

上条「どっちも女の子が使っちゃいけない単語ですよねっ!大人になれば意味が分かるだろうから!」

警策「こうやってドリーへ悪影響が溜まっていく……」

食蜂「否定出来ないない所がツラいわぁ」

警策「テユーカ性癖を価値観の違いで説明しようとしないでくださいよ」

上条「性癖言うなや。多分本人にとっては死活問題だから」

警策「社会的には死ぬじゃないですか、それ」

上条「まぁとにかく父さんは違うってはっきりしたからな!これ以上ツッコムの禁止で!」

食蜂「けどぉ――お母様が通うジムで『あれ?あの人17歳じゃね?』疑惑が持ち上がっているのは、上条当麻はまだ知らないであった……!」

上条「食蜂さん?食蜂さんキミちょくちょく俺のプライベートへ踏み込んでっけど、どうやって調べたの?本人ですら知らない情報だよね?」

食蜂「あ、これはメアドね☆交換したんだ・ゾ☆」

上条「……なぁコーザックさんや、風紀委員と警備員どっちに相談したらいいと思う?どっちがすぱっと解決してもらえるかな?」

上条「まさか俺がストーカー被害で悩まされる日が来るとは、夢にも思ってなかったよ……!」

警策「アー……そうですねぇ。組織強度じゃ警備員でしょうが、この腹黒女とやり合えるのは白井さんとそのオトモダチ連中でしょーしぃ」

警策「なので彼女の支部へ直接お話を持っていった方がいーかと。あとコーザック言うな」

食蜂「あらあらぁ、私がストーカーなら御坂さんはどぉなるのかしらぁ?あの子、一端覧祭の入学説明会にも来てたわよぉ?」

警策「その情報を知ってるあなたにドン引きです」

上条「ついにか……!ついに学校までも安息の地じゃなくなるのか……!」

食蜂「常盤台から普通高校へ入学はハードルが高い……それとも低い?でしょうしねぇ」

店員「お待たせしましたー」 ガタンッ

上条「あぁどーも」

店員「以上でご注文はおそろいでしょーかー?ではごゆっくりー」

食蜂「……接客態度がなってないわねぇ」

上条「いえ海の家ではまともな方だぞ?中には注文取りながらナンパ始める店員だって居るし。青ピとか」

警策「どんだけレベル低いんですか、てかもうレベルどころの話じゃないですね」

上条「まぁそういうもんだと。じゃ――」

ドリー「いっただきまーす!」

三人「「「いただきます」」」

上条「――んでどうなんだ?ドリーは泳げるようになった?」 モグモグ

ドリー「わたしね、ぷかぷかにさわってきたんだよ!ぷかぷか!」

上条「ぷかぷか?海のぷかぷかって……クラゲか?それとも破れた浮き輪?」

警策「アレです、アレ。ここからでもちょっと見えます」

上条「ここから?っても、海水浴客と海しか視界に入ってこないけど」

警策「沖の方に防波ブロック積んでありますよね?テトラポッドでしたっけ」

上条「ある……なぁ。ちょっと遠いが」

警策「その横で浮いてるブイですね、”ぷかぷか”は」

上条「漁師さんのテリトリーまで行ったんか!?フツーに危ねぇよ!」

ドリー「……みーちゃんにいっぱいしかられちゃった……」

警策「誰でも叱るっ!」

上条「ま、まぁまぁ。そのぐらいに……あぁでもそんだけ上達したのは凄いって事でさ、なっ?」

警策「デ?そっちはどうでした?」

食蜂「お城を作ったわぁ!それも2m超えるの!」 グッ

上条「……海水浴へ来たのに、俺まだ最初のレスキュー以外で海入ってねぇんだよ……!」

警策「その残念な子は放置したらどうです?割とマジに言いますが」

上条「こっちも割とマジに言うが、フリーにさせたらそれはそれで不安なんだよ!」

上条「ゴールの機会を逃さず、執拗に味方のGKにプレッシャーかけてた藤×選手みたいにな!」

食蜂「……ドリーより心配力されてるのは傷つくんだゾ☆」

上条「足つく所で溺れかけた子がなんだって?あ?」

警策「テユウカー、ドリーの学習能力に『やっぱレベル5ってスゲェな』って思ったんですけど、例外はあるんですよねぇ」 チラッ

上条「知り合い曰く、『カリキュラムでガッチガチにしごかれてるから!』だ、そうだ」

上条「ま、全員が全員って訳じゃないみたいだが」 チラチラッ

食蜂「……何よぉ、だったら序列一位だってモヤシって有名じゃなぁい」

上条「最初にケンカした時はそんで勝ちを拾ったんだけどな。どうにか、だけど」

警策「……」

ドリー「みーちゃん?ぽんぽんいたいの?」

警策「アァイヤダイジョーブ、大丈夫よ、ドリー」

ドリー「ぷかぷかたのしいよ!ぷかぷか!さきちゃんもいっしょに、いこっ?」

警策「って言ってますけど、午後からどうでしょうか?」

上条「ブイタッチはノーサンキューだ!俺だって片道切符で終るわっ!」

食蜂「片道でも目的地へつけるんだから尊敬……は、しないわねぇ。野蛮力が強すぎて」

警策「食蜂さんはせめて25mぐらいは泳げた方がいいですけど……マァ私もツライはツライ、かな?」

ドリー「ちがうの!”ぶい”じゃなくって!それはさっきみーちゃんにすっごいおこられたからもうしないんだよ!」

上条「んじゃプカプカってどのプカプカ?」

ドリー「あれっ!あれにのってみたい!」 ピシッ

警策「バナナボート……と、イルカの浮き輪」

ドリー「いるかさんたのしそうっていうぜったいぜっったいにったのしいとおもうよ!」

上条「はい、ドリーさんもうちょっとボリューム下げてな?元気なのは分かったから」

警策「浮き輪で浮くぐらいだったら大丈夫ですかねぇ?バナナボートはなんか危なっかしいイメージがあるんですけど」

食蜂「……あれは水上スキーで引っ張って、おバカが調子力乗って事故るからでしょぉ?ただでさえ拷問なのにぃ救われないよねぇ」

上条「食蜂さん食蜂さん、あれレジャーだからね?そりゃ君には厳しいかもしんないけど」

警策「デハ食蜂さんは不参加、それじゃ保護者役のオニーサンもと」

上条「残念な子を俺に丸投げするのはどうかと思うんだよ、うん」

食蜂「残念な子に心当たりはないけどぉ、もうっ、上条さんの、イ・ケ・×☆」

上条「それスウェーデン本社の家具メーカー。性能的には微妙、つーか気候が違う国で同じ家具が同じように使えるわきゃねぇし」

警策「家具のコンセプトが『外寒いからピッチピチに外気を入れないよ!』と」

警策「『湿気が多いから通気性と湿気を吸ってくれるよ!』の、商品を並べて語るのはチョット、ですかねぇ?」

食蜂「なんで二人とも家具に詳しいのぉ?」

上条「一身上の都合で箱詰めにされて潜入ミッションしたから、かな?」

食蜂「ないわー、どの話か検討ついたけどぉそれはないわー」

警策「トイレ以外に家具の無い部屋で生活していると、いつの間にか家具になった気になりません?」

食蜂「そんなヘビィな体験力は聞きたくなかったわぁ!」

ドリー「みーちゃん、だいじょうぶ?」

警策「あ、うん、心配ないよ」

上条「まぁそっちはそっちで楽しんできてくれ。何も今日だけしか海で遊べないって事もないだろうし」

上条「今晩あたりさ、帰ってから『一緒にどんな遊びするかー』とか改めて決めればいいだろうし」

警策「オニーサンとは嫌です」

上条「ホンンンンンットにブレねぇな君は!俺か?俺がそこまで嫌われるぐらい何かしたかっ!?」

警策「ア、イヤ、違います違います。何かあったって事じゃなくて」

上条「……ならいいけどさ」

警策「ただ純粋に生理的に受け付けないってだけですから、特には」

上条「全っ然良くなかった!むしろ理由があって欲しかったねっ!」

食蜂「あーほら、二人でイチャイチャしてないで私も構いなさいよぉ」

上条「してた憶えはこれっぽっちもないんだが――俺らはどうする?日光浴はいい加減飽きたし、砂の城作るのも虚しくてなぁ……」

食蜂「上条さんについていくわぁ」

上条「あ、だったら『ビーチバレーしない?』って女子大生に誘われてたんだよ」

食蜂「……」

上条「食蜂さんがトイ――水飲みに行ったら、『頭数足りないんで良かったら』って。ついさっき」

食蜂「上条さん危なぁい!」 ベシッ

上条「そげぶっ!?」

ドリー「ないすふっくー!」

警策「いいぞもっとやれ」

上条「味方が一人も……!ていうかなんで引っぱたいたっ!?」

食蜂「……騙されちゃダメよぉ!それはきっと新手の美人局に違いないわぁ!」

上条「口頭で言えばいいじゃん!殴る必要なかったじゃん!?」

食蜂「や、それはそのぉ……乙女心がイラってしちゃってぇ」

上条「乙女は、暴力を、振るわない!」

警策「オルレアンの?」

上条「ジャンヌ=ダル○さんは信仰の人だから!会ったことないし予定もないから分からないが!」

上条「……まぁいいや。だったらビーチフラッグ――」

食蜂「この炎天下で激しい運動したら熱中症まっしぐらよねぇ」

上条「童心へ帰ってスイカ割りを――」

食蜂「割れないのをみんなで嘲笑うんでしょぉ?誰か考えた知らないけどぉイイ趣味してるわよねぇ」

上条「……んじゃ水上バイクにバナナボート引っ張って貰って――――」

食蜂「だからそれ拷問と何が違うのぉ?」

上条「……あのさぁ、前から思ってたんだが女の子とメシ食いに行くと『なんでもいいよ!』みたいな事言うじゃん?ほぼ決まって」

上条「でもさ、『だったらラーメン』って言うと『ラーメンはちょっと……』に、始まって」

上条「和風ファミレスからハンバーグ屋まで候補挙げてみたのに、『それはちょっと』って断られてみろや!違うじゃん!なんでもいい違うじゃねぇか!?」

食蜂「『この男のセンスを試しているだけ』であって、悪気は無いのよぉ」

警策「ナチュラルに罪悪感がありませんね」

上条「――というワケで、ご要望通りに食蜂さんは午後から泳ぎの特訓をします!」

食蜂「あのー……?初心者が波のあるところはハードルが高すぎるんだけどぉ……?」

上条「はい、ごちそうさまでしたよっ!それじゃ子供用の腕につける浮き輪借りてくるから!」

食蜂「本気でぇ!?大人がアレつけるのって罰ゲームじゃなぁい!?」

食蜂「ちょ、ちょっとぉ!警策さんからも言ってやって!このサディストにぃ!」

警策「ア、だったらイルカの浮き輪も一緒にお願いできません?どうせ借りる所一緒でしょうし」

食蜂「そういう事じゃないでしょぉ!?」

上条「分かった。んじゃお先に」 シュタッ

ドリー「あ!まってとーまくんっ!わたしもいっしょにいきたいっ!」

ドリー「いるかさんえらびたい!げこたがいたらもっとうれしいかも!」

上条「ふなっし○の浮き輪は見た事あるが、そこまで無節操な商業展開してないと思う」

食蜂「その立体を浮き輪にするなんてチャレンジド力な企業は早々ないわぁ」

食蜂「……あ、でもそのウチ御坂さんが企業買収して、採算度外視でゲコ太を量産しそうよねぇ…?」

上条「ありそうで怖ぇなっ!」

警策「ドリー!ごちそうさましてないでしょっ!」

ドリー「ごちそーさまでーしーたっ!」 タッ

警策「……ったくもう!誰に似たんだか……!」

食蜂「……DNAに刻まれた業よねぇ。上条家と同じで」

上条「オイ、そこで俺んチをさも失敗したケースのように出すのは止めて貰おうか!」



――浜辺 海の家の前

上条「あ、すいません店員さん。ここら辺で浮き輪やパラソルの貸し出してるってトコあります?」

店員「浮き輪ですかー、どんなカンジの?」

上条「子供の二の腕に着けるヤツ――あ、ほら、あっちで使ってるみたいな」

店員「あぁ……あの型でしたらレンタルしてないんで、ホテルで買った方が早いですかねぇ」

上条「レンタルないの?」

店員「お子さんの命に関わるもんですし、小さいからそんなに高くもないですよ」

上条「じゃしょうがないか――後は、アレだ」

ドリー「げこた!げこたのうきぶくろ!」

上条「さっきの話と違げぇだろ。てかそんな革新的な浮き袋は、ない」

店員「ありますよ?」

上条「まさかのビリビリがスポンサーで量産説っ!?」

店員「何言ってるかの分かんないですけど、浮き袋の柄がゲコ太のあります、あるんですけども……」

店員「何か急に品薄になったらしくて、少し前のここらの店頭からも無くなってましたねぇ。ゲコラーの大人買いしたんじゃないかって」

上条「……まぁいいけどな。ちょっと見たかったが」

店員「それ以外の、あ、ホラあそこに浮いてるようなイルカの吹き輪だったら、隣のお店でレンタルしてます」

上条「ありがとうございます。助かりました」

ドリー「ありがとうございまーす!」

店員「いえ――あと、ゲコ太お好きならご当地ゲコ太って知ってます?」

上条「……ご当地ゲコ太?」

店員「北海道だったら『じゃがバタゲコ太』、秋田だったら『きりたんぽゲコ太』、みたいなキーホルダーシリーズが」

上条「食い物シリーズのキテ○さんじゃねぇか。仕事選ばないで有名な大御所の!」

店員「ここら辺だったら落花生ゲコ太、だっけかな?ホテルのお土産物売り場に置いてあったかと」

上条「あぁそりゃどうも。けど俺には関係な――」

ドリー キラキラキラキラッ

上条「――い、事も無い、ような気がしないでも無い、筈だ、うんきっと」

店員「妹さんものっそいキラキラした目で見てますけど」

上条「お陰様でねっ!世話になったよっありがとうなっ!」

店員「どういたしましてー、まったっどうぞー」



――海岸

ドリー「すっごいねー、げこたいっぱいだったよ!げこたっ!」

上条「……そうだなぁ、誰考えたんだろうなアレ。商品開発担当の部署だと思うけど」

ドリー「こっちのげこたがね、げこじゃなくってらぶりーなんだって!げこたはすごいね!げこたは!」

上条「ラブリーミトン、ってそれ確かビリビリと一緒に携帯アンテナ基地登録しにいった時の配り残りじゃ……や、まぁいいけど」

上条「北極で無くしたっきりだったストラップ、まさか同型ゲコ太が手に入るとは……」

上条(ホテル入ってドリーに腕を引っ張られ――軽く早足になるぐらい――ながら、売店に直行した俺達だったが、まぁ結果から言えば浮き輪はあった)

上条(ついでに一応フロントで聞いてみたら、ドリーお気に入りのイルカ浮き輪のレンタルもやってるそうで)

上条(思ってたよりも楽に借りられた……ここまでは良かった。うん、ここまでは)

上条(手続きしてる間――名前と部屋番号の確認だけ、てかフロントの人は客の顔全部憶えているらしい――目を離した隙に、ドリーは姿を消していた)

上条(『ヤベェ!?警策さんに全力でシバかれる!?』……なんて心配はしてなかったが、視線を横に向けるだけで発見したから……いや、オモッテナイヨ?)

上条(ホテルのお土産物コーナー、キーホルダーとストラップが大量にぶら下がってる小型メリーゴーランド、ぽい何か)

上条(正式名称は知らんが、お土産物屋に必ずあるタイプの。飾り台?その手のマニアが欲しがりそうなの)

上条(キテ○さんとふなっし○さん、あと銀髪テンパさんに混ざって大量のゲコ太が吊られてた訳で)

上条(『これ壊したら弁償?弁償だよね?』と、少し不安になるぐらいの勢いで、グルグル回してるドリーさんの姿が)

上条(……ここで一つ想像して欲しい。仮の話、例えばの話なんだが)

ドリー(回想)『ねねとーまくん!げこた!げこたがいっぱいだよっとーまくんっ!』

上条(――と、満面の笑みを浮かべて、かつキラキラと目を輝かせる子供にさ?)

上条(『そっかー良かったなー。それじゃ二人の所へ戻ろうか?』……なんて言えるか!幾ら俺だって空気読むさ!)

上条(『あ、俺もストラップ無くなっててさー。新しいのにしようと思うんだけど、ドリーも欲しいのあったら一緒に買うよ?』って言ったよ!)

上条(まぁロシア以来着けてなかったから仕方がないよな、うん。決して買った憶えの無い謎生き物ストラップを忘れているとか、違くてだ)

ドリー(回想)『ありがとーとーまくんっ!それじゃみーちゃんとさきちゃんのぶんもいいよねっ!』

上条(と、まぁこんな感じで、休日に家族サービスする世のお父さん的な悩みがだな。ホイホイ子供に買って上げて母さんに叱られるまでがテンプレの)

上条(……いや別に?『後でコーザックさんになんて言い訳しよう?』とか全然全然?考えてないよ?怖くないし?)

上条(だからまぁ、そうだなぁ……取り敢えず『敵の魔術師の攻撃か!?』はいい加減ワンパターンになって来たから、少し変えて)

上条(『阿部○の童貞を守る会のメンバーが襲い掛かってた来たんだ』……かな?よし!それで辻褄は合う!完璧にな!)

上条「……」

上条(阿○さんは童貞では無い、よね?多分だけども、演技させたら日本一(暫定)だって話で)

上条(ファンを取っ替え引っ替え……は、昭和のアイドルじゃあるまいししては無いと思うが、別に彼女はいるよな……?フツーに?)

ドリー「とーまくん?」

上条「あぁ問題ないっ!何も問題なんてないさっ!」

ドリー「それ『もんだいのあるときのいいかただ』って、みーちゃんいってた!」

上条「あぁもうドリーは賢いなぁ!将来がちょっと不安になるぐらいに英才教育ですねっ!」

ドリー「あと『かみじょーさんはごまかすときにおっきなこえをだすの』ってさきちゃんが!」

上条「おっとそれ以上言ったら法廷で会う事になるからな!それ以上は!」

ドリー「ほーてい?」

上条「あぁすまん。えっと、なんて説明したらいいのかな……?名誉毀損つっても難しいだろうし」

上条「てか、気になってたんだが『さきちゃん』?食蜂さんの事だよな?」

ドリー「えっとね、さきちゃんもみーちゃんだったけど、みーちゃんはみーちゃんだから、みーちゃんってよんでたらさきちゃんといっしょでね」

ドリー「だからみーちゃんのことはさきちゃんがいいって、みーちゃんとわたしできめたんだよ?」

上条「みーちゃん多くてゲシュタルト崩壊そうだが……何となくは、分かったような」

上条「食蜂さんも”みーちゃん”で、警策さんも”みーちゃん”だから、片っぽは”さきちゃん”だと」

ドリー「とーまくんも”とーちゃん”のほうがいいのかな?」

上条「……やめてくれ。それだと本格的に父親の気分になりそうだから……ん?あぁでも二人からはドリーは”ドリー”だよな?」

上条「……まぁ語呂的にも”どーちゃん”は……うーん日本人だと厳しいかもなぁ」

ドリー「……」

上条「あぁごめんごめん。別に名前が悪いって話じゃなくってさ?こう、”ドリー”ってのは既に愛称になってるっつーか」

上条「ドロシーさんとか、ドリなんとかさんを略してドリーだって聞いた事があるし、ドリーの本名も――」

ドリー「……わたしは、”どりー”なのかな……?」

上条「根本的な所から違ってたのかっ!?つーかキミ誰だっ!?」

ドリー「そうじゃなくて、わたしはわたしだけど、どりーはどりーじゃなくって」

上条「ナゾナゾか?本名が別にあるって話とか?」

ドリー「……ほんみょー?」

上条「食蜂さん――さきちゃんだったら”みさき”で、みーちゃんだったら”みとり”……だよな?合ってるよな?」

ドリー「……みーちゃんは、みーちゃんだよね」

上条「同じようにドリーも、ドロシーみたいな長い名前だったとか」

ドリー「わたしの……おなまえ――」

上条「ん?」

ドリー「――ねっ、とーまくんっ!」

上条「おう」

ドリー「とーまくんって、おっぱいすきなんだよねっ!おっぱい」

ゴンッ!!!

ドリー「とーまくん?どうしてとーまくんはでんちゅうにへっどばっどしてるの?」

上条「珍しかったからかなっ!学園都市や都会じゃめっきり少なくなってきてるし!」

ドリー「ぜつめいぎくしゅー?」

上条「ある意味そうだと言えるが、防災上の関係であんま地中に埋められないって話だ――じゃなく!」

ドリー「うん?」

上条「……なぁドリーさんや、君一体どこの誰からその情報を聞いたのかな?カナ?」

上条「場合によってはソイツの幻想殺さなきゃいけないから!大統領だって本気でぶん殴るから!」

上条「だから良かったらその噂の出所を教えてくれませんかっ!?」

ドリ−「……ごんめなさい、きらい、だった?」

上条「でもこれはあくまでも一般的な事であって、こう、アレだ。社会的な定説的なアレがあーしてこうなった上で、まぁ統計学的には多数派ですよねって話さ」

上条「つまり多数決とは民主主義の根幹であると同時に、場合によっては少数派からは独裁者と非難されるが、それは見当違いであって」

上条「社会的なシステムは成熟するとどっかの原始人生活へ回帰する、って論文もあったんだが、結果的には実証されない話へ戻る訳で」

上条「経済学の話をしている筈なのに、どこをどう間違ったか資本主義・社会主義が政治的なイデオロギーを含む論争になってんだけど」

上条「そもそもどっちも経済の一つの見方であって、白か黒かの二元論に陥ってハマるのは本末転倒であり」

上条「150年以上前の、ライフスタイルや世相も違う、それこそイノベーションが何度も繰り返された世界で、たった一つの論が通じるって方がどうかしてる」

上条「経済学が経済を支配できると言うのであれば、世界規模の金融ショックは完全に抑えられていなければ――」

ドリー「すきなの?きらいなの?」

上条「いや好きだよ?超好きだけどもさ」

上条「……や、違う!女の子がそういう事を言っ――」

ドリー「だったらわたしのおっぱい、さわってみる?」

上条「あ、それじゃちょっ――し、ないよ!つーかなんで俺らは往来でこんな話してんだよっ!?」

ドリー「さきちゃんがいってたから、ほんとなのかなって」

上条「よし食蜂さんあとでグーパンチだ!……いやだから、ドリーも鵜呑みにしない」

上条「嘘……じゃなく、こう、冗談で言っただけど思うぜ?あの残念な子の場合は」

ドリー「うん?」

上条「あーっと……んじゃ、あれだ。コーザックさんにも似たような事は言ったんだが、女の子がそういう事言うんじゃありませんっ」

ドリー「なんで?ねえなんでだめなの?」

上条「……くっ!子供どころか彼女すら居ないのに『ねぇなんで?』を体験するとは……!」

ドリー ジーッ

上条「だからですねドリーさん、そういうのは好きな人同士でしたりされたりするのがフツーであって」

上条「逆にそうでも無い相手とするのはダメ?遊びとか軽い気持ちでするのも良くない。分かった?」

ドリー「わたしはとーまくんもすきだよ?……とーまくんは、わたしのこと、きらい?」

上条「いやいやいやいやっ!なんでこんな話になってんのか分かんないけど、俺はドリーが好きだなっ!うんっ!」

ドリー「うんっ、わたしもとーまくんすきだよっ!」

モブA「……ちっ」

モブB「……死ねばいいのに」

上条(Oh……周囲から殺気がビシバシ飛んでくるぜ!)

ドリー「そうしそうあい?こいびとになったの?」

上条「あぁいや違う違う!いや違わないけど!その、えーっとだな、そういう好きじゃ無いんだよ!」

上条「つーかなんで俺が情操教育してんのか意味が分からない……!早く来やがれ保護者!」

ドリ−「ん?わかんないよ?」

上条「……友達としての好き、ってのは分かるよな?」

ドリー「”として”?」

上条「あの二人は好き、だよな?」

ドリー「うんっ!みーちゃんもさきちゃんもだいすきっ!」

上条「だな。仲良くていいんだが……でもさ、あっちの二人にはキスしたり、その……触ったり、はしないよな?」

ドリー「きす?」

上条「あぁもう本当にもうっ!……なんて言えばいいのか……ちゅー?」

上条「ドリーが抱きついてんのはよく見るけど、ちゅー、とかはしないだろ?」

ドリー「するよ?」

上条「ドリーさんその話を詳しく!もうおっぱいの話なんてどうでもいいから!」

上条「まず最初にした時のドキドキ感とシチュエーション、相手の反応はどうだったのかを、情緒たっぷりに話して下さい」 シユッ

警策「――おい百合厨、何やってんだこんな所で」

ドリー「みーちゃんっ!」

警策「ていうかスマホ向けてボイス残そうとするな。へし折るぞ」

上条「……あい」

ドリー「ねねねねねっ!みーちゃん、きいてきいて!」

警策「あーはいはい、ちょっと待ってねドリー。変態だけどこのオニーサンに浮き輪のお礼言わなくちゃいけないから、この変態に」

上条「お礼言ってくれるんだったらですね、その変態扱いを止めてほしいっていうか」

上条「あと出来ればですね、俺の自制心さんを誉めて貰いたい的な、えぇはい」

警策「自制心?なにかご迷惑でも?」

上条「いや、いい子にしてたよ?ただちょっと、小さい子にありがちな質問しまくるのってあるじゃんか?」

警策「あー分かります分かります。説明しづらい事も聞いてきますよねぇ」

上条「そう、それ!だから俺はむしろ被害者――」

ドリー「さきちゃんいってた!とーまくんがおっぱいすきなのはほんとなんだって!」

警策「……ヘェ?」

上条「あ、いや違うんですよ警策さん。これには深い訳があってですね」

上条「決してこう、やましい気持ちがあったとか、そういうゲスい事じゃないんだ!信じてくれ!」

ドリー「とーまくんもわたしをすきなんだって!とーまくんも!」

警策「――ってウチの子は言ってますけど?」

上条「……近い事は言った、かな?」

ドリー「すきなひとどうしでしかしちゃだめだよ、ってとーまくんが!」

警策「……」

上条「待ってくれ!この話の組み立て方だとまるで俺が言葉巧みにドリーを誘導してるように聞こえる不思議っ!?」

警策「――アァ、そういやオニーサンには言ってませんでしたけど、私の能力ってご存じでしたか?食蜂さんから聞いてるんでしたっけ?」

上条「今その話をするのが超怖いが……聞いてない、何も」

警策「『液化人形(リキッドシャドウ)』って言いまして、マァ見た方が早いっちゃ早いですか」

上条(警策さんのツインテをまとめてた銀色の髪留めが融け、人型になる)

上条(――つっても元の体積的な問題か、大きさは小さめの百円ガチ○ぐらいの大きさに留まっている)

警策「見ての通り特定の金属を操る能力なんですがぁ……ア、直接そのカラダに味わった方が分かりますよねぇそうしまょうかっ!」

警策「イマチョット変形させればあら不思議!即席凶器の出来上がりーっと」

上条「待て!ちょっと待って!?君は多大な誤解をしているから!」

警策「トハ?」

上条「……この間、俺が道を歩いてたらさ。署名を求められたんだよ」

警策「……何の話です?」

上条「『この人らなんでこんなトコで署名やってんだろ?政治関係だろーなー』と、メンド臭いからスルーしようとした、そう、したんだ!」

上条「でも俺は!彼女達の声に!足を止められたんだよ!その熱意にだ!」

警策「イヤダカラ、署名の話がなんで?」

上条「『阿○敦の童貞を守るために是非署名して下さい』ってな!!!」
(※嘘です)

警策「……」

上条「……」

警策「歯、食いしばれ♪」

上条「――そげぶっ!?」 バキッ

ドリー「とーまくんっ!?」

警策「……しまった。ナイフ状にしとけば良かった……!」

上条「お前……即席メリケンサックで殴っといて……その感想か……!」

警策「あと○部敦さんは違うから。そんなんじゃないですから」

上条「素直に敵の魔術師の攻撃にしといたら良かったのに……!」

警策「オイどっちみち誤魔化せてねーよ。無理だよ」



――海 子供でも足がつく浅瀬

上条「――という小話がだな、僅か30分ほど前に」

食蜂「あぁだから、顔に……げぷっ!?素敵なぁ……ごふっ!?勲章がゴボゴボゴボゴボッ!?」

上条「話聞くか溺れるかどっちかにしなさい!」

食蜂「その……反応はぁ、ちょっと酷くなぁい……?」

上条「いや足着くしさ。ていうか水に顔つけるだけでここまで盛り上がられると、逆に引くって言うか」

上条「ていうか安全用の腕装着型浮き輪の意味無かったな!出だしから躓いてるよ!最初の一歩でねっ!」

食蜂「ほらぁ、私にはこのはち切れんばかりの女子力が邪魔してぇっていうかぁ」

上条「はいそこ突き出さない!視線のやり場に困るからなっ主に俺が!」

食蜂「……てゆうか、こういう場面はワザとぉ触って『キャッ☆上条さんのエッ・チ☆』がお約束じゃないのかしらぁ?」

上条「あのね食蜂さんや、俺前にもどっかで言ったような気がするんだけど、どう見ても警戒色発してる肉は食べないんだよ?分かる?」

上条「手ぇ出しただけで国籍変わったり組織の一員に内定したりするのはイヤなんだよ!手を出した憶えはないんだが!」

食蜂「……私がちっちゃかった頃は触ってた癖にぃ……」 ボソッ

上条「おいテメー何口走ってやがんだコノヤロー!?しかも誤解を招くような事を人混みん中で!」

食蜂「昔は優しかったわねえ……はっ!?上条さんにはそっちの趣味が!?」

上条「何言ってんのかわっかんないが、君外見的には俺とタメだからな?精々幼馴染みにぐらいにしか見られないからね?」

食蜂「幼馴染みは負けフラグよねぇ。別名噛ませ犬」

上条「俺としちゃ王道でいいと思うんだが……いいなよぁ、幼馴染みって」

食蜂「上条さんだって可愛らしい従妹さん居たじゃなぁい?」

上条「もう君が俺の家族関係把握してんのはツッコまないけど、乙姫は年上の知り合いに憧れてるだけだって」

食蜂「根拠はぁ?」

上条「ビリビリと俺を見る感じが同じ――へぶっ!?」 バスッ

食蜂「あ、ごめんなさぁい☆手が滑っちゃった・ゾ☆」

上条「嘘だ!どう手が滑ったら握り拳が俺のみぞおちへ食い込んでんだっ!?」

食蜂「あ、じゃあ上条さんがスベったって事でぇ」

上条「人を飽きられるまでが寿命のリアクション芸人みたいに言うなや!中には生き残る人だって居るんだからな!」

食蜂「……私だってしたくないんだけど、教育的指導って必要力よねぇ。義理的なあれもあるしぃ」

上条「俺はミサカネットワークよりも、仲が悪い悪い言っておきながら連帯してるその繋がりが怖いよ」

上条「つーかさ、一つ聞いていい?」

食蜂「ダメよぉ」

上条「さっきドリーの言ってた話――ってダメなのかよっ!?」

食蜂「あれもこれもぉ、私が答えを教えて上げてたら意味無いじゃなぁい?気になるんだったら本人へ聞けばいいと思うわぁ」

上条「至極真っ当な正論なんだが、なんだろうな……君に言われると違和感があるっていうか」

食蜂「心外だわあ。私みたいな乙女捕まえて」

上条「その乙女さんの聞こえて来る噂、常盤台の女王様に纏わるエピソードは碌なもんがないんですけど……」

食蜂「し、嫉妬力よねぇ!人気者はつらいわぁ!」

上条「今多分『今度はいい噂を流すわよぉ!』とか考えてんだろうけど、それ意味無いから」

食蜂「似てないモノマネありがとぉ、どういう意味かしらぁ?」

上条「既に流れてんだよ、そっち系の噂が」

食蜂「……いい噂なんでしょ?」

上条「曰く、『女王(クイーン)が道を歩いていたら石油が出た』」

食蜂「……うわぁ……」

上条「別の人曰く『女王が通ると逃走中の犯罪者が自首した』とか、中には『神々しい女王の姿を見ただけで、ご飯食べられる』」

食蜂「最後のはなんか違うわよねぇ?貞操の危機力を感じるわぁ」

上条「ネガティブな噂じゃない、ないんだけども……『これどこの大喜利?』みたいな、ギャグ小話が乱れ飛んでてさ」

上条「まぁビリビリの方も似たり寄ったりだし、別の知り合いは一通りの悪行コンプリートしてるって感じだけどさ」

食蜂「……対策を練らないといけないわねぇ、これは」

上条「やめとけ。多分面白いおかしい事にはなっても解決はしないと思う」

上条「『常盤台の女王伝説()』は今更一つ二つ増えたって、なぁ?」

食蜂「……なんだったらぁ、上条さんの噂も流してあげようかしらぁ?」

上条「俺?」

食蜂「『レベル5能力者に何回も勝ってる』とかぁ、『最強を負かした最弱』とかぁ、チンピラ力の高い取り巻きが出来そうよねぇ」

上条「嘘じゃない!嘘じゃあねーけどさ!その言い方だと俺がケンカ売られまくる日々が来るから!」

食蜂「……てゆーかその白モヤシ倒しといて、絡まれなかったわよねぇ?」

上条「あぁ……まぁ言われてみればそうだな。一方通行はヒドかったって聞いたけど、なんでだろ?」

食蜂「……御坂さんの事、私も笑えないかしらねぇ☆」

上条「え?なんだって?」

食蜂「こだ○ー、うしろうしろー」

上条「はい、食蜂さん休憩はこのぐらいにして、はい水に顔つける練習再開ー」

食蜂「……はぁい――あっ、あんな所にぃ!」

上条「あーはいはい他人事他人事。余所様の心配する前にまずは浮けるようになろうねー」

食蜂「……や、でもぉなんか騒いでるみたいよぉ?」

上条「騒ぎ……?――まさかっ!?」

食蜂「『敵の魔術師の攻撃』じゃないと思うわぁ」

上条「鬼っ!悪魔っ!高千穂っ!俺の数少ないボケ潰すなんて!」




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