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Clock(trial)

K-9640「もう寝ちまったのかよ。つまンねェな」

 
――いつか、どこか

K-9640「……」

K-0810「超どうしましたか?お疲れのサラリーマンみたいになってますけど」

K-9640「……どっか行け。見たまんまで疲れてんだよ」

K-0810「超ですか」

K-9640「そうですか、みたいに言うな。てかあんたそんなキャラじゃなかっただろ」

K-0810「えー、知らないんですか?この”超”ってのが流行ってるんですよ。情操教育プログラムで見た映画でいってました」

K-9640「外の事なんざ知りたくもねぇよ。中も地獄だが、外は外でクソだ」

K-0810「ちなみにその見た映画が超面白くてですね」

K-9640「おい話聞け0810。あんた絶対にその話自慢したかっただけだろ」

K-0810「てへ、超バレちゃいましたねっ!ではお聞かせしましょう、『えびボクサ○』の話を!」

K-9640「うわムカツク。外はそんなの流行って――」

K-9640「……」

K-9640「……エビ?ボクサー?」

K-0810「はい、そうですが。何か超おかしいところでも?」

K-9640「個々の単語はおかしかないが、なんでくっついてんだよ。人名なのか?それともホラー映画?」

K-0810「いいえ?ごく普通のスポーツものですけど……いや、考えようによってはドキュメント?」

K-9640「しょーもないな日本映画界。そりゃアニメに逆立ちしても勝てない訳だわ」

K-0810「それもいいえ、ですね。純粋なイギリス映画です」

K-9640「アホ学生が作った、とか……?」

K-0810「『パイレーツ・オブ・カリビア○』にも超出演する俳優さんを起用してますけど?」

K-9640「……内容は?邦題つけた野郎がトチ狂ってて、デタラメな命名しやがったって可能性はまだ、うん」

K-0810「ネタバレになるので全部は言いませんけど、『人間大のエビを捕まえたので、ボクサーやらせたら面白いんじゃね?』が、全てですね」

K-9640「ヤッベェイギリス人頭おかしいな」

K-0810「ちなみのこの映画何が超面白いかって言えば、ポスターやタイトルを『えびボクサ○』と銘打ってありますが――」

K-9640「が?」

K-0810「作中に出るのはエビではなくシャコだったという超オチが……!!!」

K-9640「私にも見せろよ!ここまで来ると一周回って俄然興味が出てきたわ!」



――

……バシュゥッ、バシュゥッ、バシュゥッ、バシュゥッ……

声【――K-9640、。テスト終了せよ】

K-9640『……』

研究員A「うーん……」

研究員B「どうですか、K-9610の結果は?」

研究員A「機能はした。能力の概念として、造られた手足でも発動するのは確認できた、までは良かった」

研究員B「ですね」

研究員A「が、機能したのはいいが再現性がやや薄い。威力減退に精度低下。期待した効果ほどではなかった、か」

研究員B「それは今後の課題ではないですか?。本人もまだ義肢を自分の”腕”だと認識し切れていないのでしょうし」

研究員A「かもしれないな。しかし威力の低下は問題だぞ。コーヒーに水を混ぜて味が落ちては意味がない」

研究員B「データを拝見します……あぁ、誤差、とは言えないぐらいに少しずつ下がってきていますね。この子は」

研究員A「攻撃性を求めて”彼”の演算パターンを移植した――に、しては大人しいしな。同世代と比べても温厚だ」

研究員B「地の性格か、それとも性別で差が出るとか?やはり男性の方が攻撃性が高いんでしょうかね?」

研究員A「まぁ、ありがたくはある。あっちのラボじゃ我々研究員にまで被害が続出しているらしいのだ」

研究員B「……俺、ホントこっちで良かった……!」

研究員A「被験体が少ないのが問題かもしれない。K-0810への移植も本格的にしなくてはな」

研究員B「……」

研究員A「なんだね。君はあの被験体たちへ同情的なようだが」

研究員B「……分かっているんですけどね。どうにも」

研究員A「……まぁ分からないでもないが、慣れたまえよ。もうすぐK-9640も廃棄せねばならんかもしれん」

研究員B「そんな!?結果が出てるじゃないですか!?」

研究員A「出ていれば危険すぎる能力として、出ていなければ実験失敗として、だ」

研究員B「ですが、それは――!」

研究員A「おっと、それ以上は後で。戻って来た彼女に聞かれたら事だ」

研究員B「問題はないでしょうに……この程度の威力だったら、精々安全ピンで刺される痛みですよ」

研究員A「私は嫌だよ、充分痛いじゃないか」

ガシュッ、ウィーッン

K-9640「――K-9640、戻りました」

研究員A「お疲れ様。どうだったかね、”腕”の調子は?」

K-9640「問題はないかと思います。新しい力をありがとうございます」

研究員B「そっか……ただ少し見栄えが良くないから、これを」

K-9640「……ビニール……の、イルカですか……?ビーチで子供が持つような」

研究員B「”腕”を何本も持ち歩くより、イルカの人形へ入れておいた方がいいと思ってね」

K-9640「この……可愛らしいのを、持ち歩けと?」

研究員B「君たちの歳ぐらいならボストンバッグを携帯するよりも自然だね」

K-9640「……はぁ、どうも」

研究員A「良かったじゃないか」

K-9640「ありがとうございます。ですが、”腕”を携帯する許可は得られていなかったと記憶していますが?」

研究員A「新しく認識させるためにも、君が常時所持していた方がいいだろう、という判断だよ。ほら、持っていきたまえ」

K-9640「はい、ありがとうございます――本当にな」

研究員B「あとは……そうだね。何か改善点なんかあったら言ってくれないかな?」

K-9640「改善点ですか?」

研究員B「うん。K-0810みたいに外の映画が見たいとか、何かお菓子が食べたいとか。実験結果が良かったご褒美っていうかね」

K-9640「そう、ですね。でしたら幾つかありますが」

研究員A「幾つか……まぁ、全てを叶えられるかは難しいが、言うだけいってみればいい」

K-9640「ありがとう、ドクター――そこの実験ブースののぞき窓がありますよね」

研究員B「君たちを見るためのだね」

K-9640「あれってこちらからでも見えるようになっているんですよ、分かっていましたか?」

研究員A「そうだな。予算の関係でマジックミラーではないんだが……」

研究員B「あぁ改善点っていうのはね、そうじゃなくて」

K-9640「――『分からないでもないが、慣れたまえ。もうすぐK-9640も廃棄せねばならんかもしれん』、でしたか」

研究員A・B「――!」

K-9640「と、まぁ人並みの視力と言語能力、複数の単語を組み合わせるセンス――」

K-9640「――後は最近移植された演算パターンを活用すれば、唇を読み取るのも難しくはありません」

研究員A「君は誤解をしている。そうだな?」

研究員B「ん、あぁはい、そうですよ?似たような内容の事は話していたけど」

K-9640「そうですか――その程度の認識なンだな、よォく分かったわ」

研究員A「君の能力でどうにかできるとでも?……悪いことは言わない、何かも聞かなかったことにするから、腕を降ろすんだ」

研究員B「君の――君たちの処遇についても、その、どこか別の施設に移すとか、そういう穏便な方法がだね」

K-9640「問題点その二。全てが、遅い」

研究員B「やめるんだ!君の能力じゃ大したダメージは――」

バシュッ

研究員B「……が、あ……?」 バタッ

研究員A「お前、お前っ!?第一位の演算パターンが!クソ!警備兵を呼――」

ババババシュゥウゥッ!!!ガギギイインッ!!!

K-9640「ありがとう、あァありがとうドクター。腕を増やしてくれて、ほンっっっっっっっっとに心から感謝しているよ」

K-9640「両手が塞がっていなければ抱きしめてキスでもしてやりてェところだ。あァいや時勢的にマズいンだっけ?児童何とかってェのか」

研究員A「お前、なんだ!?出力が、強化ガラスを打ち破れるだなんてデータには……!」

K-9640「うンまァ実験結果にゃ無ェだろなァ。だって私が意図的に絞っていったンだし」

研究員A「……なんだと?」

K-9640「私の能力自体はレベル4の戦闘特化、つーか尖った槍なんぞ他に使い道も無ェンだろうがよ。まァ気に入ってはいるよ」

K-9640「だがレベル5には届かねェ。そしてこっちはただのガキだし、大したコネもノウハウも持ってる訳がねェ。だから」

研究員A「だ、だから……?」

K-9640「だから活用してやった・・・。第一位を生み出した研究者どもに、劣等感持って仕方かねェよってアンタたちをだ」

K-9640「……あァ改善点の話だっけ?世話になった手前、礼代わりに一つアドバイスしてやるぜ」

K-9640「だってアンタらバカだから。そりゃ第一位の研究から外されて当然だよ」

研究員A「だ、誰がだっ!?」

K-9640「採点してンのはアンタたちだけじゃねェンだよ。分かるか?」

K-9640「観察してンのはアンタだけだけじゃねェンだよ。分かるか?」

K-9640「実験動物、哀れなモルモットでもアンタらの喉笛噛み千切る日のために、毎日コツコツと牙を研いでンのさ。オーケー?」

研究員A「化け物が……!」

K-9640「”私”の能力開発はもう成った。第一位の演算パターン、”腕”の技術開発ご苦ォ労さン。『暗闇の五月計画』は今日で終了だ」

研究員A「……どうして!?結果を出したじゃないか!?」

K-9640「もう補助輪は要らないのさ。ペダルももう一人で漕げるよ」

研究員A「『――もしもし私だ!K-0810をラボへ呼べ!あいつの能力じゃないと――』」

バシュウッ!

研究員A「……ぐ!」

K-9640「……あいつと私が接触する機会が妙に多かったのも、馴れ馴れしく接してきたのもアンタたちの”仕込み”なんだろ?」

K-9640「親近感や共感を抱かせて、私が攻撃を躊躇うようにってな」

K-9640「鋭すぎる”矛”が暴走としたときのための”盾”。だからあいつへは第一位の演算パターン施術も完全にはしなかった」

K-9640「そうしきゃァ同類の私も見抜けたかもしれねェのに、残念だったなァ?」

研究員A「………………」

K-9640「もう寝ちまったのかよ。つまンねェな」

ガシッ、シューン

K-9640「よォ、お疲れ」

K-0810「……」

K-9640「警備兵もなしに来るってェ事は、雑魚どもは今頃泡食って逃げ出してンだろうなァ」

K-9640「切り札なのか殿なのか、損な役割だぜ。なァ、姉妹シスター?」

K-0810「――あなた、なんてことを……ッ!!!



――デンマーク王立図書館 別室(※別名『ジョン=スミス氏隔離室』)

上条「――俺たちの戦いはこれからだ……ッ!!!」

黒夜「まだ始まってもいねぇよ。てかようやくメンバー揃ったところだろ」

アンジェレネ「う、うたたねをしてからの第一声がツッコミの人って……」

黒夜「あんたらがウルサイから起きたんだろうが。相談するんだったら余所でやれ」

上条「清々しいまでの逆ギレっぷりだな」

黒夜「どっかのクソアホの監視業務があったからな。数日ぶりにベッドで寝れたと思ったら呼び出しだよ、あぁ?」

上条「お前後始末しないでさっさと逃げただろ!?オルソラが居てくれなかったら俺らは指名手配されてたかもしんないのにさ!?」

オルソラ「ボヤ騒ぎがあった直後に、謎の東洋人の少年と壊れた聖堂を見比べ、取り敢えず逮捕してお話を聞くのがグローバル・ルールでございますから」

アニェーゼ「思いっきり不審者ですからね。『あ、じゃあこいつ犯人でいいか!』みたいな?」

上条「おいおい意識高い国じゃなかったのかよデェンマァ(※巻き舌)。人種で判断するの良くないと思うぜ」

アニェーゼ「まぁ言うことはその通りなんですけど、『大体悪さをするのは不法移民』ってパターンが多くてですね」

アニェーゼ「ついこの間のEU議会選挙でも、リベラル不法移民の規制を訴えて大勝ちしましたし」

ルチア「……この度は大変なご迷惑を。またこうしてご厄介になるのは心苦しくもあり、また心易くもあるのですが」

アガター「どうかお気になさらずシスター・ルチア。原隊復帰、とても喜ばしく感じます」

ルチア「はい。ありがとうございます」

アガター「決して、そう決して。『散々偉そうなことをほざいてた割には、真っ先に逃げやがった』とか」

アガター「ただ少しだけ『このアマクッソ忙しいときになにトチ狂ってんだ』、とかは全然思っていませんから。どうかお心を病まぬよう」

ルチア「ありがとうございますシスター・アガター。この空気の中、不謹慎なジョークをかます、その強い精神に戦慄を覚えます」

上条「メガネかけてて真面目っぽいのにな!そして追い打ちはやめてやれよ!」

アニェーゼ「まぁあまり責めないでやって下さいな。流石にあのコンボを直で喰らったら、誰だって出奔の一つや二つしたくなりますって」

アガター「ですね。『聖霊十式』に関する部分は、対の中でも半信半疑といったところです」

オルソラ「というかまぁ、結果的にオーライなのでございますよ。救いを求めていた少年と女性、お二人を助けられた事を感謝しなくては」

ルチア「……判断がしがたいところですね。彼女の――”シスター”・イーベンのしていたことしは犯罪です。紛れもなく止めなければいけません」

ルチア「しかしながらそれで不当に金銭を稼いだり、他人の尊敬を集めたり利益を得ようとしていたものでもなく」

ルチア「人の人生を含めて全て背負う、という私には理解しがたいものでした」

ダッチ「そうだね。それは彼女の生い立ちに起因する話なのさ」

上条「生い立ち?」

ダッチ「ルチア君に親父殿が言っていたように、現代の魔術師というものは多かれ少なかれ歪むんだ。そういう意味じゃ被害者であると言ってもいい」

上条「そっか――って、その話聞く前にいいか?」

ダッチ「何かな?」

上条「お前なんでいんだよ!?帰ったんじゃなかったのか!?」

ダッチ「こっちがお願いした要件を片付けたら、交渉に応じると言っただろう?それまでの連絡待ちだ……というか君、見て分からないかい」

上条「何がだよ」

ダッチ「浄化の炎に巻き込まれ、僕の穢れた罪は灰燼に帰した。それが罪だというのあれば、ね」

上条「――オーケー分かった了解。お前にはまず肉体言語で始めるのがいいのな?」 グッ

ダッチ「暴力は良くないよ。死ななくても痛いし、何故かこう君に殴られるとパキーンってなるんだ。パキーンって」

アンジェレネ「へ、へきなんですかねぇ……?」

ルチア「どんなですか」

ダッチ「まぁ言ってしまえば打算だよ。僕には僕なりの事情というものがある」

上条「つまり?」

ダッチ「着けた炎へダイブしたら、手持ちのクレジットカードや携帯電話、ついでに通信用の霊装が全部消し炭に、ね」

ダッチ「だからもし良かったら連絡が来るまで生活費を貸すか、連れて行ってくれないかな……ッ!」

上条「お前らホンッッッッットなんなの?なんかこう『強敵!』みたいな第一印象が吹き飛んできてる」

上条「あとお前たまーに一人称間違えて”俺”ってなってっからな!キャラ設定作り込んでからこないと編集に叱られるだろ!」

オルソラ「人様の趣味にダメ出しするのは如何なものかと存じますのですよー」

アニェーゼ「てか昨日の今日で全容が見えてきてねぇんですけど。森の奥の人喰い婆さん?麦角菌?結局何がどうなったてたんですかい?」

ルチア「私を向わせた理由も含め、できれば納得のいく説明を求めたいと思います」

ダッチ「一つは試し。君たちがあの魔術師、というか魔女相手にどんな行動を取るのか知りたかった」

ダッチ「二つは……まぁそっちも試しかな。試されたのは彼女であって、どちらとも親父殿は憂いていたのさ」

黒夜「交渉するに相応しい相手がどうかテストされていたのか。ハッ、バカバカしい」

ダッチ「本当に?本当にそう思うのかな?」

黒夜「当たり前だろ。出方を見たがってる相手が”そっち”寄りなのは分かってたことだ。ここで下手打つ訳がない」

ダッチ「君はそうかもしれないけれど、そちらの女の子たちは違うみたいだよ?」

黒夜「あぁ?」

ルチア「他の方は存じませんが……一年ほど前の私であれば、恐らく取り返しのつかないことをしてしまった可能性があります」

ルチア「そしてそれに疑問を差し挟みもせず、自分の意志を殺して」

アニェーゼ「まぁ、ですね」

アンジェレネ「そ、それで合格点はいただけたんでしょうか、ねぇ?ほっ、骨折り損は嫌なんですけど」

ダッチ「合格じゃないの?死人も出なかったし、子供たちを救った上に怪我もしていない」

ダッチ「当の魔女も心から改心するとは言っているし、後はまぁ行政の仕事かな」

上条「てかお前放火しやがっただろ。余計に混乱させたたんだから反省しろや」

ダッチ「いや、毒草育てているのを知ったら誰だってそうするよ。君が滞在していたせいで初動が遅れたぐらいだ」

上条「毒草って言われてもなぁ……何なんだったんだ、あれ」

オルソラ「スミス様は『人喰い婆さんの家』との仰せでしたが……『ヘンゼルとグレーテル』、でございましょうか?」

ダッチ「あれとは違う同じものだね」

アニェーゼ「どっちですかい」

黒夜「おいおい待て待て魔術サイドども。『ヘンゼルとグレーテル』?何かの暗喩なのか?」

オルソラ「ではなく、まさに、でございます。グリム童話のそれかと……一応確認しておきますが、ご存じでない方はいらっしゃいますか?」

上条「知らない方が少ないんじゃないかな。あれだろ、森の中で道に迷った兄妹がお菓子の家を見つけて」

アンジェレネ「そ、その家を食べていたら魔女のおばあさんに見つかり、取っ捕まってさぁ大変!」

アニェーゼ「最終的には食われちまいそうになんですが、見事に撃退した後、魔女の家を物色して金品を奪って家へ帰る、という」

黒夜「『殺られる前に殺れ!』という教訓を子供たちが知る訳だな、うん」

ルチア「なんででしょうね……?事実だけを聞くと魔女が一方的に悪いとも思えないような……?」

ダッチ「原作はもっとグロテスクな話なんだけどね。両親に口減らしで捨てられたり、兄妹が森の中を数日間徘徊したり。まぁそこは関係ないか」

ダッチ「大事なのはこの話をグリム兄弟が”収集した”という点にある。要は教会とは別に語り継がれていた民間伝承の一つだ、ということだ」

上条「でもいないんだろ?」

ダッチ「あぁいないとも――でも物語の中に出てくる程度には、魔女は怖れられてかつ認知度があった証拠でもある」

ダッチ「ではここで考えてほしい。当時の人間達は想像の中の魔女たちを怖れ、このような話を生みだしたのか、と」

上条「……ンな聞き方するって事は違う、って話なんだよな?」

ルチア「大々的に魔女狩りや異端審問が吹き荒れた時代がありましたし、怖れていたのでしょうね。きっと」

ダッチ「そうだ。科学らしい科学もなく、ウイルスではなく悪魔が病気を伝染させると信じられていた」

ダッチ「……そして当然、悪魔の手先である魔女も同様にね?」

上条「迷信だよな?」

ダッチ「黒死病に麦角菌に関してはそうだね。魔術師がわざわざ大量虐殺を手助けしたという証拠もない」

ダッチ「ただ、魔女に関しては類する人たちが存在としたという説がある。それが」

オルソラ「深い森に住まう薬師、でございますね。十字教の”正しい”法ではなく、民間療法と経験を基に生業をされていた方々」

上条「薬師って……ラノベ系だと多いけど」

ダッチ「そんな格好だけ真似たのと一緒にして欲しくはないな。ところで君は堕胎賛成派かい?」

上条「はぁ!?なんでそんなに話なんだよ!?」

ダッチ「いいから答えたまえ。大事なことだよ」

上条「いやまぁ、議論になってっけどさ。それがどうして」

ダッチ「ちなみにそちらのお嬢さんたちは?」

アニェーゼ「ナメてんですかい?十字教は二千年前から一貫して禁じていますよ、胎児であってもそれは殺人であるってね」

オルソラ「十字新教も概ねそういう解釈が多うございますね」

ダッチ「まぁ、そうなんだ。ローマ正教にイギリス清教、ロシア成教に十字新教諸派とルーテル派。他の宗教でも大抵は禁じられているね」

上条「いやだから、それが」

ダッチ「で、君たちも知っている黒い麦。というか麦角菌に冒された麦なんだ。口にすれば麦角菌病、というかアルカロイド中毒になる」

ダッチ「『聖アントニウスの火』とも呼ばれ、その激痛に耐えながら命を落していった者も多い――が、しかし」

ダッチ「同時にその麦は薬でもあった。ここまでいえば分かるだろう?」

オルソラ「……堕胎薬でございますね。妊婦の方が口にすれば流産してしまうという類の」

ダッチ「日本だとChinese lantern――鬼灯ほおずきかな」

上条「嫌な話だが……でも禁止されてた割には技術として確立されてたのな」

ダッチ「――そうだね。”誰”がしていたんだろうね、教会が禁止していたのに?」

上条「ここで出てくるのが……魔女」

オルソラ「実際に魔術を使い箒に乗って、高笑いをしながらバシルー○を唱える、という方ではございません。あくまでもそう認識されていたというだけで」

上条「誰が分かるんだよそのドラク○ネタを」

オルソラ「十字教の”外”の方です。所謂共同体から離れた場所で暮らす少数の集落、もしくは個人がいた、という話が」

上条「そんな事ってあるのか?」

ルチア「ヨーロッパは陸続きですから。戦争難民や苦役を避けて脱走したり、拠点を移動させてしながら生活ロマ人もいますし」

オルソラ「日本でも柳田国男先生が『山人さんじん』考を発表されておられますね」

上条「サンジン……山の神様?」

オルソラ「ではなく”山の人”ですね。まぁザックリ申し上げますと古代から中世、更には近代にかけて妖怪や神、モノノケの類を山中で見た、という証言があったとします」

オルソラ「『実はそれは空想ではなく、山の中に住み独自の文化を持っていた人たちだっんだ』と」

上条「そう言われると説得力があるような。あぁでも俺初めて聞いたわ、その説」

オルソラ「科学的には一切証明されておらず、あくまでも仮説は仮説でございますが」

オルソラ「しかしながら過去アイヌと呼ばれた方々のように、他にも似たようなお立場の方がいてもおかしくはないかと存じます」

上条「山の中で修行してた山伏とかもいるしなぁ……」

ダッチ「まぁそれと似たような生活様式をしていた人間が居た、ということだね。十字教文化を持つ共同体のすぐ側にそれとは違う暮らしをしていた人が、うーん」

ダッチ「共存、と言っていいのか分からないけれど、それなりに不干渉のまま付き合ってきた」

黒夜「よく近くなのに攻撃しなかったな」

ダッチ「単純に彼ら、というか魔女たちが役に立ったんだろう。禁忌とされた堕胎法も習得していたし、麦角中毒や黒死病への対処法も心得ていたかもしれない」

ダッチ「他にも地元の風土に精通し、天候を読む術には長けていたとか。当時は農耕をしくじれば村一つが全滅だなんてよくあったからね」

ダッチ「けれど、まぁ?敬虔な十字教信徒としては?」

ダッチ「魔女と仲良くしているとも言えず、子供たちには『怖ろしい魔女』の逸話を吹き込んでいたと想像できる」

オルソラ「『あの家にはコワイ魔女が住んでいますよ、だから近寄っていけません』ですね」

黒夜「本当に脅威だったら、てか人喰い婆さんが居たら、取り敢えずで殲滅するもんな。あんたたちは」

アンジェレネ「ふ、普通はそうじゃないかなって思うんですけど……そ、そんな物騒な人が居たら」

ルチア「しかしそれがなかった、ということは風聞は風聞にしか過ぎなかった、でしょうか?」

ダッチ「そういうことだね。でもいつの間にか姿を消す」

ダッチ「いなくなってしまったのか、一緒になったのかは分からないけれど、彼女たちは姿を消した。そして魔女の話だけが残る」

アンジェレネ「あ、あのぉ、ちょっとお聞きしたいんですけど。そ、その話だと人喰いがどうの、ってのはおかしいような?」

ダッチ「おかしい?何が?」

アンジェレネ「そ、そういう”ちょっと風変わりな隣人”だったら、人を食べちゃうとか、言わないと思うんですよねぇ」

ダッチ「それは実際に人が居なくなってたからね」

上条「魔女が食ってたんかい」

ダッチ「いいや?間引きや人買いに売ったんだから減るよ」

アンジェレネ「ど、どういうオチなんですかねぇっ!?」

オルソラ「……ジャガイモが主食になるまで、当時のヨーロッパの食糧事情は酷いものでございました。よく地獄が描かれるぐらいには」

オルソラ「一家揃って飢え死にするよりも、一人を犠牲にして……と、決して望むものではなく、考え抜いた末でそう判断された方もおられるのでございます」

黒夜「そして他の家の人間や子供たちへ素直に言える訳もないか。だから『魔女に食われた』と責任転嫁するしかなかった」

ダッチ「中には本当に魔女の家へ出していたのかもしれない」

ダッチ「魔女と言っても、仮に魔術師であっても不老不死という訳ではない。どこかで子孫が後継者を残す必要がある」

アガター「……連れて行かれた子供が、また新しい魔女になる……?」

ダッチ「『ヘンゼルとグレーテル』ではグレーテルが魔女を煮えたぎった鍋へ突き落として殺すんだ。そして二人は両親の元へと帰って幸せになる」

ダッチ「……でも本当にそうかな?兄妹は口減らしのために捨てられたのに帰れるのかい?」

ルチア「帰れなかったら、なんだというのですか?」

ダッチ「魔女になるしかないんだよ。自分達が殺した魔女になって、また幼い兄妹が迷い込んでくるのを待つのさ」

上条「……手塚治虫先生の火の鳥にあったな。八尾比丘尼の話でずっとループするのが」

アンジェレネ「む、酷いお話ですね」

オルソラ「経済的要因の間引きや堕胎、それらは当時普通に行われていたことでございますよ。今も発展途上国や家庭環境ではありますし」

オルソラ「現代の倫理観と道徳観、そして高度に発展した医療や社会保障をもって過去を断罪してはいけないのです」

ダッチ「堕胎の話にも繋がるけれど、どうして当時そうしなければならなかったのか。きちんとした理由がある」

ダッチ「ただ、危険だからだ。毒を飲まずにはいられないほどに」

上条「毒をわざわざ飲むよりもか?」

ダッチ「君の国の国産み神話でもそうだっだろう?イザナミがヒノガクツチを産んで命を落した。産褥熱さんじょくねつというやつだよ」

ダッチ「無事に出産しても母胎は衰弱しているし、妊娠中は働き手になれない。経済的にも母親を生かすためにも劇薬が必要となった」

ダッチ「多くの命を救ったジャガイモにしろ、最初は『悪魔の植物』と呼ばれ宗教裁判にかけられるような扱いだったよ。でも庶民の間には直ぐに受け入れられた」

ダッチ「教会の教えがどうというよりも、自分達の生活の方が大事だからね。まぁ他宗派と争いになっていた時期でもあったが」

ダッチ「……まぁ、そんな魔女たちも現代まで脈々と技を受け継いでいる。受け継いでいたんだ」

ダッチ「でも今の時代には必要ない。少し理解がある病院へ行けば施術はしてくれるし、その後に体調が悪くなって死ぬのは稀だ」

ダッチ「こうして魔女は行き場を無くす。長年畏怖と尊敬を集めながらも、人々の役に立っていた賢人、という役割が消え」

ダッチ「ただ蔑まれる”人喰い婆さん”の肩書き、そして時代後れの魔術と霊装だけが残る」

ダッチ「アイデンティティが消え失せる。現代に生きる魔術師の血統なんて意味のないものだと気づかされ」

ダッチ「――そして”狂う”」

上条「何もそこまで思い詰めなくっても」

ダッチ「想像してご覧よ。代々魔女と呼ばれながらも、そう罵る人間たちの力になっていたのが当の彼女たちだ」

ダッチ「そこにどれだけ信念があったか?自分達の仕事に誇りを抱いていたのか?」

ダッチ「返って信念が強ければ強いほど厄介だし、善人だからこそ信念はより強固で頑なになる……見てきたよね?」

ダッチ「肌で分かっているよね――ローマ正教という”正しい”信仰を持った君たちは?」

アニェーゼ「……何とも否定しづらい話ですね。私たちも一歩間違っていれば、方向性を踏み外したら魔女の仲間入りですかい」

アガター「我々は魔術を修めて数年の若輩者ですが、それでも『お前たちの努力は無駄だった』と言われたらショックですしね」

上条「一緒にしていいもんなのか、それ」

ダッチ「とても単純に言えば合ってはいるよ。まぁ、ともあれ現代魔術師が抱えるトラブルを君たちに解決してもらった、というのが今回の顛末だ」

上条「オッサンが自分でやれよ」

ダッチ「親父殿の性格上、子供たちへ毒を盛っているのが分かった時点でもうダメだよ。我慢できずに高速ノーザンライトボムだ」

ダッチ「魔術師としての腕が低いからといって、戦闘力が低い訳じゃない。悪い見本だよね」

上条「素人がプロレス技喰らったら死ぬだろ……つーかお前、その言い方だと知ってた、か?」

ダッチ「古い魔術師は横の繋がりがそこそこあるから、それなりには。ただ同時に不干渉が原則だからね」

ダッチ「だから今回の件に関して僕たちは何もしていない。通りすがりのヘンゼルとグレーテルが解決してくれた、それだけだよ?」

上条「うわ汚っなっ!俺の全財産目減りしたのに!」

ルチア「律儀に払っていたんですか、滞在費」

上条「必要になると思って、少し大目に置いてきた」

ダッチ「経済的には心配ないと思うよ。この国は弱者”には”優しい国だから」

ダッチ「ただ彼女が犯罪者として裁かれるのか、それとも食中毒を見過ごした責任者として扱われるのか。それはこの国の司法が決めることだけども」

ダッチ「それでも……君たちを要らぬ危険に巻き込んだのは謝罪しよう。親父殿のヒゲでよければ好きなだけ剃ってくれて構わない」

上条「嫌だよオッサンのヒゲなんて。アルカパぐらいだったら喜んでするけど、もう罰ゲームだろ」

ルチア「謝罪は結構です。今回の件で思うところはありましたから」

ダッチ「ふーん?」

ルチア「私は……今回のことでローマ正教が必要だと感じました。信仰だけではなく、教会組織を含む全てを」

ダッチ「古き魔女を狩っていたのに?多くの要らぬ軋轢を生み出し、現代にまで禍根を残しているのでも?」

ルチア「それは、その通りです。ローマ正教が常に正しくあった、それは間違いです」

ルチア「――ですが同時に、だからといって全てが否定していいものではありません」

ルチア「今までのやり方を全肯定するのではなく、なおかつ今までのやり方を全否定せず」

ルチア「功罪そのどちらも過大や過小することなく、善き行いは善き行い、悪しき行いは悪しき行いとし」

ルチア「その、助けになりたいと。排除するのではなく、取り入れるでもなく、調停者としての役割を誰かがしなければならないと」

ルチア「……まぁ、他人からの受け売りなのですが。今はまだ」

オルソラ「で、ございますか?」

上条「おいおい人を元凶みたいに扱うのはやめてくれよ。黒夜かもしれないじゃないか、なぁ?」

黒夜「そいつがシスターモドキに似たようなタンカ切ってたな」

上条「裏切るの早っ!?隠そうとする意志すらないな!」

アニェーゼ「今のも上条さんが『言うなよ、絶対に言うなよ!』って振ってましたよねぇ」

アンジェレネ「こ、こなれた感じのダチョウです。あ、ありがとうございました」

ダッチ「ありがとうグレーテル。君がそういうのであればヘンゼルは安泰だね」

上条「話が一段落するのを待って中二入れて来んなよ。タイミング見計らってる時点で天然じゃねぇって話だろ」

ダッチ「……くっ、『右手』の封印が……!」

上条「だからそれやめろって!俺がなんか貰い事故しちまってるようで心が痛いんだよ!」

黒夜「……」

オルソラ「何かご心配ごとでもおありでしょうか?でしたら是非不肖私めにお任せあれ、なのですよ?」

黒夜「いや、自己解決した」

オルソラ「しょんぼり、でございますよ……」

黒夜「なんで絡んでくるんだ」

上条「一週間喋り方が面倒臭いオッサンと缶詰状態で、幼女成分が足りてないんだ。察してくれ」

黒夜「それを察せたら人としてどうかと思うし、私は幼女ではないよ」

黒夜「(――おい、姉妹シスター)」

アニェーゼ「(誰がですか姉妹シスター。なんです?)」

黒夜「(手を貸せ。芝居を打つ)」

アニェーゼ「(了解)」

黒夜「じゃまぁ遠慮なく聞かせてもらうが、前にロシアンビッチ魔術師とやり合ったんだよ。ハワイで、レーシィ?とかいう魔術の」

オルソラ「ロシアの森深く住まうシャーマンでございますね。まぁ分類からすれば魔女ですけど」

黒夜「あいつも大概だったな。住んでた森が開発されて魔術が使えなくなりそうウッワーじゃアメリカ殺すわ!的な?」

上条「……あぁうん。落ち着いて考えればフワッフワした動機なんだよな、あの子」

黒夜「しかも”樹”を植え替えれば魔術は使えるらしく。極寒のロシアから常夏のハワイへ移植できるんだったら、お前もうそれ心配なんかねぇだろと」

アニェーゼ「……あれ?第三次世界大戦でロシアは負けた側ですけど、それでなんで開発がロシアへ入るんですか?」

黒夜「そこがまずおかしかったんだ。戦勝国側だからって、余所の土地を好き勝手出来る訳ない」

アニェーゼ「今はケータイ一本で国際問題に発展できる時代ですからねぇ。政治的に放火したい人たちがごまんと」

黒夜「強権発動してるっていうんだったら、それ多分ロシア政府がドサクサに紛れて民族浄化してるだけだよな、って話だ」

上条「やめてあげて!?多分本当の事を指摘するのは良くないよ君ら!?」

アガター「直で言わないのであればいいのではないですか?私でしたら率直にその場で尋ねると思います」

上条「……あぁ、マジレスされて顔が(´・ω・`)ってなってるのは、少し見たい気はするわー……」

黒夜「――と、いうのは前置きでだ。そのトチ狂った魔術師どもにはあんたたちも入ってるのかよ?ってことだな」

アニェーゼ「あー、まぁ否定は出来ないですよね。こうやってやらかしてはいるんですから」

ダッチ「ローマ正教も大概だけどね、僕らも強くは否定出来ない。注意は必要さ」

黒夜「お前らはヴァイキングの技術だったか。船造ろうってなぁ」

ダッチ「ヴァイキングなのは親父殿だけだからねぇ。それも師匠から中途半端に」

アニェーゼ「そちらの話も聞きたいんですが、修理の方はどうなってんですか?」

ダッチ「材料がいくつか足りていない。僕は専門外だから分からないし、そもそも話をちゃんと聞いてないから詳しくは分からない」

上条「予想以上に役に立たねぇよ、このメッセンジャー」

黒夜「――いいや、参考・・になったよ。ありがとう」

オルソラ「では疑問も解消されましたし、ダッチさんも我々と同行す――」

オルソラ「……」

オルソラ「何か、忘れているような……?」

アニェーゼ「なにかありましたっけ?面通しも済んだし、後は解散じゃないですかね」

アンジェレネ「し、シスター・ルチアの荷物も持ってきましたし。あ、あぁこれです、ヴェネツィアに置いてきたの」

ルチア「ありがとうございます、シスター・アンジェレネ。着の身着のままでは不便でした」

スミス「……」

上条「――っていう訳で一件落着したし!タカシも拾ってどっか観光行こうぜ!」 チラッ

黒夜「おいバカ。見ただろ今、そっちの部屋の隅で不動の姿勢のまま寂しそうにしているオッサン確認したろ」

アガター「おや、ミスター・イザードではないですか?出奔したとは聞き及んではおりましたが、こんな所に」

上条「お前も気づいてやるなよ!そこは、なんかこうフワッした感じで誤魔化してきてたんだから!今更突っついても誰も幸せにはならないよ!」

スミス「――決然。君たちが静かになるまで30分かかった」

上条「あぁお前もいたんだったね!?ごめんななんか押しかけた分際でつい話し込んじまってさ!」

スミス「釈然。みんながワーッと楽しく騒いでいる時には入っていけないタイプなのだ」

上条「うん、何となくそんな感じはする。そして俺も一歩引いちゃうタイプだ」

スミス「突然。『実は幽霊になっていたのか?』と少し疑った」

上条「ごめんな?全面的に俺らが悪かったから、うん。無視しないから話聞かせてくれよ、なっ?」



――いつか、どこかの戦場

少年「――だああああああああああっ!!!」

ゾゥンッ!!!

少年「あ……か、い……」

王「――下らぬ。体力は子供、技量は論外」

王「かといって相手の虚を突く兵法を嗜むわけではなし、乱戦にて真っ向から挑みかかるのは、まぁ意気は嫌いではない」

王「が、それとて貴様の勇気が結実したものではない。大方恐怖に打ち震えながらの破れかぶれの吶喊といったところだろう……」

王「借り物の闘争心に呑まれたか。強い弱いという話ですらなし、貴様はこの戦さ場へ立つ資格すらないと心得よ」

少年「……この……!」

王「痛覚ごと”斬った”故、痛みはない。貴様が信じる神へ祈って目を閉じ、心安らかに逝くがよい」

王「戦争卿の治める戦いの地か、狂ったははヶ国に捕らわれるか。それとも流行りの神の子とやらにでも」

少年「……たす、け……て!」

王「諄い」

少年「……ねえちゃんを、助けて……!」

王「――何?」

少年「ねぇちゃんが……神の、司祭様に――」

王「……それが理由か。下衆め」

少年「何が悪かったの?ねぇ、だれか……ッ!」

王「――貴様が弱いのが悪い」

少年「……え」

王「剣を取れ、拳を握れ、対抗すべきは本当に私だったのか?握った槍を向ける相手は外の相手だと?」

王「奇跡など起らんよ。百戦錬磨の蛮族の王を素人が弑せるとでも思ったのか?それども頭を下げて事情を話せば分かってくれるのか?」

少年「でも……正しい事をすれば、神様が助けて……くれるって……!」

王「それでもそれでもと愚かにも奇跡を信じ、神へと縋った貴様の、その神とやらはどこにいるのだ?」

王「貴様にとって邪悪の元凶である私を成敗せぬのか!?……ハッ!何が神だ!」

少年「……っ!」

王「貴様のその弱さこそが!己の意志を貫けず、奔流に押し流される惰弱な心身こそが悪だと知るがよい!」

少年「クソ……ク、ソ……ッ!」

王「――が、しかし。私の国ではそんな生臭など要らぬ。小僧一人を救えぬ惰弱な神もだ」

少年「……え……」

王「ましてや人心を惑わす人語に似た言葉を唱え、肥え太る豚どもは縊り殺してやろう。食えるだけ普通の牛馬の方がマシよな」

王「貴様の姉も器量次第では側女にしてやらんでもない。だから、まぁ」

王「向後の憂いなくヴァルハラへ逝くがよい。我が先触れとなりてヴォーダンへの先触れとなり、こうまつれ」

王「『我こそは最強の王が太刀を馳走になった勇者ぞ!』と、胸を張ってな」

少年「……は、……あはは……」

王「――」

蛮族の戦士「お頭」

王「子供一人救えぬ神など神に非ず、か。子供一人救えぬ王もまた同じものよ」

王「救われると説く坊主どもも戦さ場には姿を見せぬが、焼き上がった豚の前では歴戦の勇者の如き振る舞いを見せるのであろうな」

蛮族の戦士「……お頭?」

王「雲霞の如く我が国に集る下衆は後を絶たず、北方の従兄弟どもも憶えたての経を諳んじるのに余念がない」

王「アルビオンは綿津見のように絶えず揺れ、我が民が、私の民になるはずだった・・・・・・・民草どもの命が無為に失われる、か」

王「業腹……いや、気に入らん。この寛容な王だとして限度がある」

蛮族の戦士「いやあの、ここら辺の野郎は全員ぶっ殺しましたぜ?どうしたんですかい?」

王「問題なのは……神を騙る……根本的に、そこではないか。詐欺師が賢者であれば……」

王「ならば――そうか。私が神になればいいのか……ッ!!!」

蛮族の戦士「――おーい全員集まってくれ!俺たちのバカがまた変なこと言い出しやがった!?」

王「このまま都まで攻め込むぞ!気が変わった、十字を掲げる坊主どもは根切りにしてくれる!」

王「女子供を使い捨てる輩には相応の報いあるべきぞ!王の流儀には非ず!」



――デンマーク王立図書館 別室(※別名『ジョン=スミス氏隔離室』)

上条「――長い長い戦いだったな。まさかあそこで神裂とアックアとオッレルスとフィアンマとHAMADURAが乱入して、俺たちの味方になってくれるとは思いもしなかったぜ」

アンジェレネ「そ、そうですねえ。わ、わたしもっ、まさか神裂さんが怒りのあまりに神裂さん・ゴッドに変身するとは……!」

上条「……だな。聖人ってのは変身を何回か残しているらしいからな!神裂の活躍はまだまだこれからだぜ!」

アンジェレネ「そ、そうかもしれませんねっ!ま、まだまだ戦いは始まったばかりですからねっ!」

ルチア「おやめなさい、その不毛なごっこ遊びは。まだ何も解決していないどころか、脇道に逸れて大分経つではないですか」

アニェーゼ「そしてちょい前にもそれやったばかりじゃないですか。二番煎じです」

スミス「偶然。誰かを待たせているときにギャグは控えるものだ」

上条「待ってくれ!?このあと最近マイブームのブギーポッ○ごっこもかますつもりだったんだ!なんかフワっとした感じの!」

オルソラ「イザーク様をお待たせするのは如何なものかと」

アニェーゼ「偽名使ってるんだから本名はよしましょうよ。一応協力者なんですしし」

ダッチ「――この世界は夢と同じモノで織り上げられている」

アンジェレネ「そ、そして中二の臭いをかぎつけて無理矢理話に入ってくる人が一人……」

上条「嫌いじゃないけど、今はこう、うん。もっとなんだ、真面目にだな」

アニェーゼ「初っ端ボケかました人が何言ってんですかい」

上条「だってさ!俺たちの雑談で30分潰して気まずいじゃんか!だったらもっと乗せれば結果として薄くなる!」

ルチア「マイナスにマイナスを足したところでプラスにはなりませんよ」

スミス「当然。ここでより時間は浪費は避けるべきである。というか書き上げた魔道書だ、受け取りたまえ」

上条「ありがとう。大事に使わせてもらうよ」

アニェーゼ「おいそこ、まず手を舌へ降ろしてくださいな。受け取った瞬間にゴミになるじゃねぇですか」

アンジェレネ「な、なんで異能をブレイクする方が率先して受け取る気になってんですか……」

上条「いや、ここでパキーンってなったらちょっと面白いかなって」

スミス「駭然。魔道書は量産できるものではない、一点限りの代物だ」

オルソラ「ではわたくしが受領致しますれば。誠にありがとうございました」

スミス「自然。君が持っているのが妥当であろうな」

ルチア「魔道書、ですか?」

オルソラ「はい。スミス様のご厚意で書いて頂いた、対ヌァダ王への切り札でございますよ」

スミス「間然。あまり誉められた仕事ではないが、現時点で出来るだけのことはしたつもりだ」

スミス「屹然。それ――『偽書・単眼委譲録デミ・バロール』は、最も近い神的存在を束縛する効果がある。魔力を通せば起動する――が」

スミス「当然。予め規定された対象にしか威力を発揮しない。ここで誰かに使っても意味がない故に」

ダッチ「……く……ッ!なんてプレッシャーが……!」

上条「それ俺がボケようと思ったのに!?お前いい加減にしろよ!?」

アニェーゼ「いい加減にするのはどっちもですよアホども。後で遊んであげますから」

スミス「整然。だから君たちに使ってもかからない。神的存在に絞っておいた」

黒夜「……なんかフワッフワした話だな。本当に大丈夫なのか?」

スミス「必然。君たちの追っているモノが本当にヌァダか、その系統の魔術を使用していれば。確実に」

オルソラ「補足致しますれば、神話や伝説で謳われるような英雄を再現するような術式・霊装はございまして」

オルソラ「実際に『竜殺し』や『神の子』である、聖人の方と何度か対戦した方がこちらに」

上条「どうも。キャーリサと神裂とアックアとフィアンマからボッコボコにされた上条です」

黒夜「あんたも自重しろや。どんだけ経験豊富なんだ童×のくせに」

上条「記憶を失う前の俺はヤンチャだったと思うようにしている俺に隙はない……!」

アンジェレネ「な、なんて過去の自分を過大評価を……」

アニェーゼ「仮にプレイボーイだったして、記憶喪失になった後に恋人の一人や二人が出て来ない時点で結果分かってますよね?」

上条「あぁ知ってるさ!なんかビリビリがそれっぽいこと言ったけど、アドレスすらないのに彼女な訳ないんだ!」

アガター「別に恋人同士でなくとも、友人関係であれば性別の区別無しに登録されているのでないですか?」

ルチア「あの、シスター・アガター?この場にいる全員が『思ってはいるけど、これ言ったら可哀想だから黙っていよう』と、いうのをバラすのはですね、こう、はい」

黒夜「過去の女関係なんぞに興味はない。つーかどうでもいい」

上条「今はシスターさん達に囲まれてウッハウハかと思ったら、またパシリとして大活躍だぜ☆」

アニェーゼ「首突っ込んだのあなたでしょう。しかも嫌々と言いながら率先して」

黒夜「バカの性癖はどうでもいいと言った。それよりもその、名前が出た連中の強さは?」

上条「下手な巡航ミサイルや核弾頭より厄介。前に、あー……学園都市に軌道エレベーターってあったじゃん?」

黒夜「『エンデュミオン』な。テロリストに乗っ取られて地上に落ちそうになったやつだ」

上条「アレの破壊に撃ち込んだミサイルを軽々撃墜できる、ってのが最低ライン」

黒夜「それもう人類じゃねぇよ。ハリウッドのマーベルなアレだろ――てかあんた、まさかとは思うがその話しっぷりだと……?」

上条「いや俺は別に何も。友達の一人が迷子になって、もう一人がずっと迷子だったから探しに行っただけだよ」

黒夜「またか!?どうせその場のノリとテンションで首突っ込んだんだろ!?テロリストが可哀想だって思わないのか!?」

上条「感情移入する勢力のチョイスが間違ってるわ。まぁ俺も『その時間と労力遣うんだったら真っ当に働けや』と思わなくもないが」

アニェーゼ「こういう方なので、えぇまぁ諦めちまった方がいいってもんですよ

上条「んで、そんなトンデモ話の裏で『聖人』と『右席』、あと『天使』も……あー、まぁあれはみんな憶えてないしノーカンか」

アニェーゼ「おいバカ、お前今何つった?私たちの信仰上、看過できない単語を言いやがりませんでした?」

上条「う、ううん?何でもないよ!『オルソラは天使だよな!』って言っただけだよ!」

アニェーゼ「あ、そうですか。なら良いんですよ、もうビックリしたなー」

ルチア「なんていう茶番。そして私も怖ろしくてこれ以上追求できません」

オルソラ「恐らくロシアで見た飛翔体の方の事かと存じますよ。羽根と天使の輪と可憐な外見で、まるで天使のようでございました」

アンジェレネ「し、シスター・オルソラも空気を読むスキルをですね、え、えーと、装備しましょうって話で」

黒夜「今はもうあんたがなんで生き残れたのかの方が興味がある」

上条「まぁ、そういう手合いっつーか、そういうのが魔術師サイドにはいた訳で」

上条「で、あくまでも俺の体験で相性の問題もあるだろうけど、”まだ”一方通行の方がなんとかなりそう」

黒夜「……今の弱くなった方よりって意味かよ?」

上条「いや、昔の方の。てか勘違いしてるヤツ多いけどな、前よりも今の一方通行の方が比べものにならないぐらいに強くなってるよ」

黒夜「シンデレラみてぇに門限があんのにか?」

上条「だからだよ。黒夜だったら分かるだろ?」

黒夜「まぁ、な」

オルソラ「ともあれ。そんな厄介な方々こそ、強い術式は神話や伝説を高い精度で再現されておりますれば」

スミス「必然。弱点や欠点をもコピーしてしまうわけだ。痛し痒しと」

黒夜「あー……GPSを用いた高度な戦術が取れるようになったのはいいが、依存すればするだけハックされたときの反動が怖い、か?」

オルソラ「概ねそのようなご理解で合っているかと存じます。”使う”以上、そこを逆手に取られる可能性もございまして」

スミス「戚然。その書は効果は魔力を通せば自動的に発動する。だがどこまで縛れるかは不明だ。短くて一瞬、長くて数分」

黒夜「誤差が酷すぎる。なぁ教授さんよ?」

スミス「卒然。名前だけでなく霊装すらも模している以上、効果が出ない事は有り得ない。元専門家として断言しよう」

スミス「闖然。故に不確かなことは言えん。現行でできるだけの事はやった、つもりだ」

アニェーゼ「オルソラ嬢からもあったようですが、部隊を代表してお礼を。えっと、ジョン=スミス氏」

スミス「平然。君たちに架せられた使命に比べれば児戯に等しい。幾ばくかの助けにならんことを祈っている」

アニェーゼ「……感謝します。さて、では今後の方針といきましょうか」

スミス「――呆然。席を外す、待て」

オルソラ「スミス様にはご同席頂いて、アドバイスなどを是非頂きたいところでございますが……」

スミス「黙然。死人が喋るにも限度がある上、これは君たちの物語だ」

ガチャッ、パタンッ

アンジェレネ「ふ、ふられちゃいましたねぇ」

ルチア「ここまで付き合って頂いただけで充分でしょう。詳しい事情も話さずに協力してくれたのですから」

上条「いや『魔神』がどうって、これ以上ないぐらい全部話しちまってるような……」

黒夜「すまんが一息入れないか?待てステイしてあるドーベルマンの様子が見たい」

上条「人を犬扱いすんなよ。てかタカシの姿ってあの夜から一度も見てなかったんだけど、そっちでなんかあったの?調べ物とか?」

黒夜「野暮用で少し。なぁに、『騎士派』と少しばかりやりあっただけだから」

ガチャッ、パタン

上条「そっか、仲が悪いって評判のなー――つーか情報くれよ!?なんで俺だけハブられてんだよ!?」

アガター「今日の朝までずっと警察からo-hana-shiしていたからですね。上条さんだけ別コースの」

アンジェレネ「じ、事情聴取といいながら、『私がやりました』と言うまで帰さないヤツですよね」

アニェーゼ「まぁじゃ20分ほど休憩という事で――ってなんですか新人さん、私の袖なんて掴んで」

ダッチ「まずは君にお礼を言いたくてね。君のアドバイス通り、眼帯を脱衣場へ置いたら姿をくらましてね」

ルチア「どんな話をしてるんですか、シスター・アニェーゼ――というか眼帯?どこかで聞いたような……?」

アニェーゼ「この人が第一種遭遇時にペラペラ喋っただけですよ!?むしろ私は被害者の方です!」

ダッチ「――誰にも、触れられたくないものはある。そう、教えてくれたのは君だよ。ありがとう」

アニェーゼ「中二病ですからね。あと、いい加減、離せ、なっ?」

上条「メンヘラ的な人らに人望あんのかな」

アニェーゼ「ウチの子達の悪口はやめてくださいな。みんな繊細なんですから」

上条「誰とも言ってねぇのに即レスされんのは、お前も薄々そう思ってることでないですかーやーだー」

ダッチ「と、いうか。というべきか。言っていいものか迷っているんだよ。僕はね」

アニェーゼ「あ、はい。後の話は上条さんが担当ですから、私はちょっとお手洗いに行きたいんで、だから離して?」

ダッチ「一応交渉をするのは確定しているし、場合によっては協力者になるんだから、あまりそちらの事情へ立ち入れるのも気が引けるんだ」 グッ

アニェーゼ「あ、こいつ力強めやがりましたね!?意地でも聞きだそうってハラでしょうーが!」

ダッチ「僕の中の琴線に触れるというか、まるで仇敵と不意に出くわしたというべきか」

上条「いやだから何だよ。あとアニェーゼ離してやれよ、話は俺が聞くから」

ダッチ「個人的にも魔術師的にも心引かれる響きだが――」

ダッチ「――君たちの言う、『魔神』とは何だい?」

上条・アニェーゼ・ルチア・アンジェレネ「……」

ダッチ「君たちが探しているのは『死者の爪船ナグルファル』だけじゃないのかな?」

上条「あー……言ってなかった、っけか?」

ルチア「ステイルさんから『専門家の意見』を求めている、とは伝わったそうですが……」

オルソラ「――あぁ!そういえばこちらの事情はお話ししておりませんでした!うっかり、でございますね!」



――同王立図書館近くにあるカフェ

黒夜「待たせて悪かったな」

カールマン「待つのも仕事だし、魔術だ科学だ言われても俺にはサッパリだからな」

黒夜「こちらも社交辞令だ。全く全然これっぽっちも悪いとは思っていない」

カールマン「思ってても口に出すなよ。人間関係は円滑に行きたいもんだがねえ――んで首尾はどうだい?」

黒夜「それなりだな。それよりあんたはどうだ?」

カールマン「ギャラ貰ってる分だけは勤勉だあな」 スッ

黒夜「これか……」

カールマン「動画、肉が食えなくなるから先に注文しちまった方がいいぜ」

黒夜「心配は要らん。頼むつもりはない」

カールマン「それだと俺の肩身が狭くなるんだけどよ」

黒夜「フレーバーコーヒー一杯で粘ってる男に言われる資格はないよ」

カールマン「おうおう言ってくれるじゃねえかジャパニーズ。居座るには居座るだけのテクニックが必要なんだぜ」

黒夜「後学のために伺っても?」

カールマン「ウェイターにチップをたんまり弾む。それだけでもうボッチ席の出来上がりだ」

黒夜「普通に注文した方が安上がりだし、経営者にとっては嫌すぎる客だな――っと、ここか」 ピッ

カールマン「ああ。あの男、もとい女が心臓を射貫かれて炎の中に倒れていってそれっきり」

黒夜「距離は?」

カールマン「2000弱」

黒夜「……焼けてるな。ここだけ見てると火葬にしか見えない」

カールマン「前にガンジス川でやってたな。火勢が強くてよく見えねえが」

黒夜「そして骨になって――終わりか。というかここまで延焼するのは普通の炎じゃないよな?」

カールマン「同感だ。火事の後始末何回かしたが、ずっと強い火力でもここまで綺麗に骨にはなんねえよ。水分の塊だからな」

黒夜「私も近くにいたが、肉や髪が焼ける嫌な臭いはしなかった。学園都市であればダミーか人形かを燃やしたブラフ――」

黒夜「……と、判断するのだろうが、”こちら”ではこれで普通なのか。クソ、厄介な」

カールマン「能力者でいねえのかい?不死身のナントカ的なのは?」

黒夜「大抵ハッタリだ。『不死身ですよー、だから攻撃しても無駄なんですよー』と、別能力を隠すために自称してるヤツはいる」

カールマン「学園なのになんでデスゲームやってんだアンタ達。能力バレ=死か」

黒夜「強度レベルがそのまま社会的カーストに直結しているからな。ガキがそうなんだから大人も大人だ……ん?」

カールマン「あー、やっぱ注文する?店員はこのクソ不味そうなヴィーガンセットがオススメだって」

黒夜「イモムシかっつーぐらい緑々しいな。バカが自分の肉体を虐めて緩慢な自殺する分にはどうでもいいが」

黒夜「そうじゃない。動画の続きは?」

カールマン「続き?それだけだぜ?」

黒夜「……おい傭兵。アンタはプロなンだよなァ?報酬分は働くっつーよォ?」

カールマン「言っておくが、俺全く貰ってないからな?ロン毛のニーチャンに少しだけ路銀貸して貰って、あと全部現地調達してんだよ」

黒夜「――とぼけンじゃねェよ、あ?」

カールマン「おお怖い怖い。でもここでやんのかい?アンタのお仲間には迷惑かけるだろ?」

黒夜・カールマン「……」

黒夜「……整理しよう。どこからだ、どこまで憶えている?」

カールマン「どこも何もねえよ。俺はあんたから『あの家見張れ』って言われて監視を、監視をして……」

カールマン「……ああ?おかしいよな、監視の他にも何かあった……か?」

黒夜「質問を変える。冴えない日本人野郎とあの女が出くわして、教会裏手の麦畑が炎上した日に何やってたか。詳細にだ」

カールマン「だから俺は朝からずっと監視してた。住居の方ばっか見てたから気がついたら火は回ってて」

カールマン「『おおやっとイベント起きたな』ってテンション上がって録画して、火が消えたら消防が入って……」

カールマン「……」

カールマン「ホテルの一階で時間潰してたら『上条さんが警察に連行されました』って、シスターのネーチャンから連絡受けた、な」

黒夜「話だけ聞いていると楽しそうだな」

カールマン「なんで持ち場を離れた……?てかどうやって移動したのかも……なんだ、これは」

黒夜「私は死体の、というか自称不死女の回収を頼んだはずだぞ」

カールマン「……頼んだ?俺に?」

黒夜「本当に憶えていないのか?『騎士派』を二人で倒したあとに、あんたから協力を申し出てくれたろう?」

カールマン「さりげなく捏造するんじゃねえよ。そこは憶えて――待て。音声は残してんだよ」

ピッ

黒夜・声『――私は可能な限り自然に突っかける。だからあんたは”回収”してくれ』

カールマン・声『死体をか?俺そういうの苦手なんだけどよお。作るのは専門であってだ』

黒夜・声『弱音を吐くな。死なない相手は厄介極まりないが、死なない”だけ”ならいくらでも対処方法はある』

カールマン・声『勝手にやっちまっていいのかよ。そういうのって嫌うんじゃねえの』

黒夜・声『昔から日本にはこういう格言がある――”バレなければ何やってもいい”と』

カールマン・声『日本人怖っ!?』

ピッ

カールマン「――声は、俺だよな。やっべえ聞いても全然思い出せねえよ……!」

黒夜「あの中二病、予想以上に厄介だぞ!殺しただけで無力化できるんだったら大したことない、なんて楽観的に構えていられなくなった!」

黒夜「記憶を消す?しかも本人が忘れていた事実を突きつけられても思い出せない!クソが!」

カールマン「……おかしいと言えばこっちの国の消防もおかしい。いや、デーン野郎はこんなもんかと俺は納得してたんだけど」

黒夜「言ってみろ。積極的に聞きたくはないが」

カールマン「消防や警察が出火したあと、火い消したあとでさっさと帰るってアリか?何時間、何日もかけて実況見分して原因探んだろ」

黒夜「アイツが復活した翌日に、放火の参考人として引っ張られていった運のない男もいたな、確か」

カールマン「普通はそうだろ。怪しいやつは片っ端から捕まえて尋問する――てえのにだぜ?それをしない、対応がやたら杜撰だったのも……?」

黒夜「アイツの遺体があそこに転がっていて、近寄った連中の記憶を”欠落”させた、か。状況証拠は嫌になるぐらい揃っているな」

カールマン「……なあ。シスターのねーちゃんがいれば大丈夫だって言ってなかったか?」

黒夜「それは北欧神話”ならば”の話だ。さっきもそれとなく確認したが、アイツは父親と違って別系統の魔術師だそうだ」

カールマン「そもそも血縁とは思えないからな、外見からして」

黒夜「我々の常識”外”の話が進んでいる。持っている情報だけでは如何ともしがたい、手札自体が足りていない」

黒夜「カードを配られてはいるが、ルール自体が不明。同じ数字を揃えるのか、積んでタワーを作れば勝ちなのか」

カールマン「カードを床に置いて眉間をぶち抜けば勝利じゃねえの?」

黒夜「散々それ・・をやってきたのが私たちだ。今度は銃を突きつけられてる側になっているが――気に入らねェなァ」

カールマン「……」

黒夜「っだよ?」

カールマン「お前ドーテイじゃないよな?」

黒夜「装備してねェよ。サイボーク化してまであンなンつけるぐらいだったら、まだサイコガ○つけるわ」

カールマン「俺だって股間にサイコガ○つけられるんだったらつけ――ああいややっぱ嫌だな!活躍できてもできなくても最低だろ!」

黒夜「私だって敵が股間からビーム撃ってきたら、真っ先に殺すか捕まえて見世物にするな」

カールマン「だからそうじゃなくて、前に日本人の同僚が言ってたんだぜ。殺った経験がねえのはドーテイって呼ぶんだと」

黒夜「アンタの目にはどォ見えるンだ?」

カールマン「まあ……それはいいんだ。人様のことをどういう言える立場でもねえし、俺はな」

カールマン「けどよ。馴れ合うっつーか、情報の共有化っつーか?もっとシスターたちに相談もなしで、俺たちが動くのは危険じゃねえかよ、って言ってる」

黒夜「仲良しこよしでいけってェのかよ、あ?」

カールマン「効率の問題だぜ学園都市の能力者さんよお。魔術師と胸襟開いた方が解決できるってえんだったら、そっちの方がいいに決まってる」

カールマン「……ま、あんたは俺だし、俺はあんただ。今更生き様変えようってえのが無理だってぐらい、嫌って程知ってるがね」

黒夜「一括りにするな。私とあんたは違うさ」

カールマン「……そおかよ」

−続く−

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