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コラム・楽しい世界史〜天空の城とガリバー旅行記(ガリバーで分かるイギリス史編)〜



レッサー「って感じですねっ!長々と語ってきたこのシリーズもいよいよついに最終回!誰得のブリテンヒストリーでしたがねっ!」

上条「知んないよりはうろ覚えでも知っといた方がいいかもだが……あ、ごめん。やっぱ分かんなくてもいいわ」

レッサー「一応まぁ役立てどころといたしましては、文学に詩学に芸術方面」

レッサー「当時の時代背景を理解していないと、辞書なしで百科辞典をを英訳するようなもんですなぁ」

レッサー「『なんでこういう表現をするのか?』、『どうしてこういう書き方になるのか?』等々全部分かりませんからねぇ」

上条「あんま一般的な現代人には関係ないっぽい気がするんだよ、俺は」

レッサー「俗っぽいところでは海外物のドラマシリーズなんかですな。基本キリスト教を背景に描いているので、基礎知識が無いとどーしようもなく」

レッサー「まぁ?娯楽作品に関しては純粋に娯楽として楽しむのはとてもいいことだと思います――し!」

レッサー「長い長い長い長い前フリをしつつ、今っからガリバー旅行記のアレコレについて語る訳ですが、あくまでもこれは『解釈』なんですよね」

レッサー「国語の設問のような『作者はどんな考えをこの文に込めたのか?』なんてーのは、御本人様にしか分かりません!」

レッサー「ですから!研究者がアレコレ宣ったところで『※あくまでも個人の妄想です』と注釈が付くので間違えないで下さい!個人の意見であって作者の考えではないですよ!」

レッサー「ただ、当時の国際・政治状況において『スウィフトがこういう主張をしたかったのではないか?』と意思表明をし」

レッサー「それへ対して相当数の共感なり興味を持たれ、その結果ガリバー旅行記が大ヒットしただけに過ぎません!」

上条「つまり、なんだ。あー、ポッタ○あんじゃん?」

レッサー「そこは別に伏せ字でなくても構わないと思うんですが。散々ネタにしてきてますし」

上条「『あの作品のテーマが、実は○○という社会的なアレを風刺したものだったんだ!』――と、第三者が勝手に言ってるだけ?」

レッサー「そこまでぶっちゃけられると逆に恐縮ですが、まぁそんな感じです。作者の考えは作者本人にしか分かりませんしね」

レッサー「ちなみにローリング女史は政治的な発言もバンバンされてますし、もしもポッタ○にそういう意味があるのであれば明言されると思います」

上条「娯楽は娯楽って割り切って楽しみたいかなー」

レッサー「勿論作中で社会風刺なり体制批判をされるのも自由ですよ。私たちの済む国においては、ですが」

レッサー「さらにその作品へ読み手が嫌がるのも自由であり、批判を批判するのも自由であります」

レッサー「『作者と作品は関係ない割り切って読む』のも自由、『作者が○○で合わないので読まない』のもまた自由だと」

上条「ジュウ○か」

レッサー「――さてさて、お名残惜しいですがではこの辺でっ!では皆さんさよーならー!」

上条「待って!?ここまで引っ張っといて解釈スルーして逃げたら炎上するなっ!」

上条「超々なっがーいノリツッコミだと思えば美味しくないこともないかも知れねぇが!それだって不誠実すぎるわっ!」

レッサー「『全てぶん投げて逃げたら斬新ですな!』と、私の中のデビル・レッサーちゃんが囁いたんで、つい!」

上条「その悪魔の片割れもきっとコウモリ羽根にツノ生えてると思うよ?ダブルでデビルだもんな?」



――第一篇 『小人の国』

上条「ようやく始まったガリバー旅行記……!」

レッサー「まぁ長々と解説するのもアレなんで、本編の内容はちゃちゃっと済ませます」

レッサー「第一篇、小人の国へ漂流したガリバーは無双プレイwwwwwwwwww」

上条「言い方!長いこと引っ張って来てギャグでオトそうとすんなよ!」

レッサー「いやですなぁ掴み的な感じであって、マジじゃないですってば。てかここから笑いないですからね?真面目ですからね?」

上条「あれ、おかしいぞ?今まで全部真面目な歴史の話だったのに、所々ギャグとしか思えない話が混ざってたよね?」

レッサー「今にすれば笑い話ですが、当時としては大真面目ということが多々ありまして」

上条「ねぇよ。国家存亡をギャグで済ませる国がどこにある!?」

レッサー「我々の黒すぎるブラッグジョークはそんな歴史の上に成り立っているのですからっ!」

上条「少し納得した。ほんのちょっとだけど」

レッサー「では改めて真面目に小人の国の解説をば。ある日旅行中にイギリス人医師ガリバーは遭難します」

レッサー「流れ着いた先では二つの小人の国が戦時下でありました」

上条「なんか……うんっ、導入から小人の国で無双プレイするところまで、最近流行りの諸説ジャンルみたいだなっ!」

レッサー「ちなみに戦争の理由は『卵の殻は大きな方から剥くべきか』」

上条「しょーもなっ!?体と同じでスケールちっさ!?」

レッサー「外見的特徴と一緒にするのよくないですな――で、ガリバーは片方の国に歓迎されまして、恩を返そうとするんですよ」

レッサー「それが敵対している国との戦争解消であり、相手の海軍艦船を捕まえて無力化させます」

上条「ちょっと一方的的な介入だが……まぁ、それで平和になったんだったら」

レッサー「しかし当然やっかいになってる方の王は『もっとやれ!』と要請するも、ガリバーは受け入れません」

レッサー「しかもこの当時、そこの王宮が火事になったのを、ガリバーは聖水で消し止めますよっ!聖水でねっ!」

上条「少しは恥ずかしがれや。てか聖水、うん非常時だからな」

レッサー「残念ですが王様激おこ。ガリバーに飢餓刑or毒殺刑という名誉ある刑を架そうとします」

レッサー「当然逃げ出したところ、流れ着いていたボートへ乗り込みこの二つの国を後にしました。第一篇はここで終わりです」

上条「起承転結よくできてる。むしろ児童書っぽい感じだけどな」

レッサー「以下注釈というか解釈になります。まず『タマゴのむき方』はキリスト教のカトリックを暗示、つーかほぼダイレクトに言っています」

レッサー「聞いたことありません?復活祭、別名イースターを」

上条「あーはいはい。チョコエッグのな!」

レッサー「違いま――せんか、日本ではチョコエッグが出回る日ですけど、本場では大きなお祭りですのでご注意下さい」

レッサー「まぁ『カトリック・プロテスタントが理由で戦争してどうすんだ?』的なのがまず一つ」

レッサー「次にイングランド国教会を設立したヘンリー8世のカトリック処刑とパージ。これを『名誉ある刑』と壮絶に皮肉っています」

上条「大して意味もなく死刑になるのに、名誉も何もない、か」

レッサー「最後に聖水で火災を消した件ですが」

上条「おい止めろ!ちょくちょくネタを挟んでくるな!」

レッサー「ネタではなくマジです!リリパットの国には二つの政党がありまして、『高カカト党』と『低カカト党』ってのがですね」

レッサー「片方はガリバーの有効的で処刑を止めるようにしていたんですが、この聖水事件で一転して世論が変わります」

上条「それ、もしかしてイギリスの政党教わったなぁ」

レッサー「はいな。ホイッグ党とトーリー党ですよ、ユトレヒト条約にからむお話で」

レッサー「通称フランス、正式名称カエル超うめぇ日和り国家にルイ14世っていましたよね?」

上条「俺が知ってる国の名前とは大分ちょっと違う感じだったがな!」

レッサー「ルイ14世はスペイン継承戦争、私らはアン女王戦争にも首突っ込んで来やがります」

レッサー「これはスペイン王が後継者にルイ14世の孫を相続者に決め、反対するイギリス・オランダ・オーストリアが戦争ふっかけました」

上条「お前っ!人んチにまで口出しして!」

レッサー「とは仰いますが、当時のフランスとスペインの植民地足したらどエラいことになるんで、まぁやっとけ!みたいなねっ!」

上条「もうヤダこの人達」

レッサー「本国だけでなく植民地も巻き込んだちょっとした大戦だったのですが、10年ぐらい経ってユトレヒト条約を結んで終戦」

レッサー「我らがイギリスはスペインからアシエントを獲得し、新規参入することに成功したのでしたっ!」

上条「アシエント?」

レッサー「アメリカ大陸へ黒人奴隷売り払って儲ける権利」

上条「ほんっっっっっっっっっっっっっとにイヤだな!このコーナー今日で終わりでよかったわ!」

上条「佐天さん相手に喉涸らしてた頃がどんだけ幸せだったかと気づく……!」

レッサー「他にもスペインとフランスが持ってた植民地も頂きました。いやぁ大変美味しゅうございましたなぁ」

上条「母さん助けて!俺もいい加減慣れたつもりだったのに、SAN値が下がっていくよ!」

レッサー「ただまぁ問題だったのはこれが単独講和だったことです」

上条「単独ってのは、アレか他の国とは別に?」

レッサー「ですなぁ。国内世論も酷いものでして、当時政権持っていたトーリー党は選挙で大敗北。この後ホイッグ党の長期政権が続きます」

上条「スウィフトが仲良くしてたのもトーリーだっけか」

レッサー「はい。ですからこの聖水事件も、『汚い方法で最善の結果を残したのに、その責任だけを負わねばならないのか?』と」

上条「名を取るか実利を取るか……」

レッサー「あくまでも結果的にはこのユトレヒト条約が基盤となり、イギリスは海外展開を盤石なものにして大英帝国の礎となりますよ」

レッサー「最初に一抜けしたんで講和条件もオイシイものでしたし、ね」

上条「その、真面目な話な?聖水っていうか、そっちで連想したんだけども、小僧あるよね?石像のっつーかオブジェの」

レッサー「あぁあのこの世界が滅びるまでマニアックなプレイを宿命づけられた像ですか」

上条「俺の知ってんのと違う!……なんだっけか、ベルギーの聖水する小僧さんの像」

上条「あの像と小人の国での消火事件とは関わりはないのか?」

レッサー「可能性から言ってしまえばアリですね。聖水小僧さんはオリジナルが街に仕掛けられた爆弾の導火線を消す話ですんで」

レッサー「『少年でも正しい行いへ対して賞賛されるのに、小さい大人は罰を与えようとする』的な暗喩かもしれませんねぇ」

上条「日本でも同じことが起きたら誉められると思うけどな」

レッサー「以上で小人の国の説明は終わりとなります。何かご質問あればどうぞ?」

上条「ホイッグ党の人らはその後どうなったん?」

レッサー「そうですねぇ……人類史初の議院内閣制、議会と内閣が別になって政治をするようにしたのも同党の功績です」

レッサー「あとは徹底された自由主義を掲げ、ホイッグ史観なんてのを作っちゃってみたり?」

上条「史観?党の歴史?」

レッサー「『革新は全てにおいて善であり勝利者である。我々に対抗するのは愚かで頑迷な者である』」

上条「お腹いっぱいなの!お前らのそういうのってもう食べられないよ!」

レッサー「えぇ超長くなるんで触りませんけど、すっげーですよ?えーっとですね、ジェダ○に例えますと」

上条「待てコラ。それ例えるフリしてネタにして遊んでるだけだろうが!」

レッサー「いやぁ素面で話せるようなことでもないんで、せめて一笑い取っておこうかと」

上条「発想が昭和の芸人だよ」

レッサー「まぁ啓蒙主義と結びついて超絶意識高い系を拗らせます。興味があっても調べない方がいいと思います、気分悪い」

レッサー「ただこの思想が、第二次世界大戦後まで正しい歴史として広く認識されていた、とだけ」

上条「神話時代なら壮大な英雄譚だが、近代史観でこれやっちまったらお終いじゃ……?」



――第二篇 『巨人の国』

レッサー「後味の悪さを引き摺りながら次の章へ行きますよっ!ついて来て下さいねっ!」

上条「ついて来てる・来てないの二択だったら最初から来てない。イギリスの独走状態だよ」

レッサー「小人の国から退散したガリバー先生!今度は巨人の国に来てはあっさり捕まります!」

レッサー「紆余曲折を経て王妃のペットとなりました!」

上条「薄い本乙wwwwwwドM大勝利wwwwwwwwwwwwww」

レッサー「ってゆう展開もあるんですが、大筋と関係無いんで省きますね☆」

上条「あんの!?お前らも未来に生きてんのな!」

レッサー「作者さんが女性嫌いで(公式には)独身を貫かれた方ですので、色々あったんではないかと」

レッサー「まぁ愛玩動物としてそこそこ可愛がられるのですが、ガリバー先生勘違いしちゃいましてね」

レッサー「『こんなに大事にしてくれるだなんて、俺は重要人物として扱われるに違いない!』と」

上条「外見から特別扱いされてるのに、そっちの方へ突き抜けたかー」

レッサー「この後、ガリバーの噂は国王にまで届き、王からイギリスの社会制度から金融・法律に至るまで長々と聞き出します」

レッサー「ここいらは本によって割愛されているものも多く、詳しくは原書をどうぞ!」

上条「先生!読めませんが!」

レッサー「ノープロブレム!イギリス国籍を取って10年も経てば分かるようになるさっ!」

上条「それで本当になったらもはやヒトじゃないと思います!」

レッサー「んでもってガリバーさん、おしまいには『僕と契約したら火薬の作り方を教えるよ!』って」

上条「壊れ方ハンパねぇなガリバー先生!第一篇の気は優しくて力持ちの設定どこ行った!?」

レッサー「狂人の国の王様は『あーイギリス人ってしょーもないなー』と」

上条「概ね同意見だ。てか侍女が微妙な割にはまともな王様でよかったよ!」

レッサー「ガリバー先生の今回の冒険は檻を鷲に攫われて終了となります……鳶でしたっけ?ちょっとド忘れてしまいましたが」

上条「感想としちゃ前の冒険と違って一所に留まったんだな。何か意味はあるのか?」

レッサー「第二篇のメインはガリバーの一人語りとも取れるイギリスの制度批判でしょうか。巨人の王に批判を代弁させていると」

上条「一篇よりも直接的のような……?」

レッサー「王女をアン女王、側仕えをサラ・ジェニングスに例えてるのでしょうな」

レッサー「当時のスウィフト自身の境遇と重ね合わせているのではないかと思います。二重の意味で」

上条「ガリバーは宮殿、てか王女に保護されてイギリスのこと喋ってたんだろ?確か作者は女王の友達批判して左遷されたんじゃなかったっけ?」

レッサー「えぇですので立場だけでしょうかね。いくら正論を説いても、自分にとっても真実を語っても小人のお伽噺としか分かって貰えず」

レッサー「これはイングランドで孤立したスウィフトが『異邦人』――つまりアイルランド人としての疎外感を抱いたのではないかと思います」

上条「どれだけ正論、つーか自分にとっての正しい考えを説いても聞き入れて貰えないのは出自が違うから、か」

レッサー「またアン女王戴冠し長い間はサラ・ジェニングスという友人の言いなりになってきました」

レッサー「具体的には親ホイッグ党で好戦派、スペイン戦争でもっとやれ!と説いたのが嫌になってきました」

上条「女の人なのに戦争好きなん――あ、ごめん。なんでもないわ」

レッサー「今私を見て言葉を呑み込みませんでしたか?別に私だって好きな訳じゃないですからね、言っときますけど」

レッサー「サラ女史がそうだった理由は簡単、嫁いだ先の旦那様が初代マールバラ公爵といい、スペイン戦争の英雄と言って差し支えない名将です」

上条「あぁそっちのな」

レッサー「とはいえ国内には厭戦気運が高まり、サラ女王も戦争に嫌気が差してサラ女史から離れていきます」

レッサー「聞き入れられる可能性が低いのに、王様へ理を説き戦果を広げる火薬を教えるのはサラの役目」

レッサー「さて、ガリバーはスウィフトだったのかサラだったのか?それは作者に聞いてみないと分からないでしょうがね」

上条「質問。スウィフトはトーリー党派だったんだろ?」

レッサー「ですね。幹部の人らと書簡のやりとりをそれなりに」

上条「だったらホイッグから離れたアン王女に左遷されたのは、なぜ?」

レッサー「単純に友人を批判されたからだと言われています」

上条「……あー、なら巨人の国へ行ったガリバーはスウィフトだったような気がするわ」

上条「正論言っても弾かれるんじゃ、他に理由があるからって考えるのは仕方がないかも」

レッサー「断っておきますがね。スウィフトの正論は彼にとっての正論であって、必ずしも万人にとって正しいものではありません」

レッサー「時代は下り19世紀になってラサールが『夜警国家』を提唱します。ご存じで?」

上条「国がする行政サービスは必要最低限でおけ」

レッサー「これに賛成・反対される方は21世紀の今まで多数いらっしゃいますが、明確な答えはいまだに出ていません」

レッサー「というのも国や地域によって前提が変わりますし、同じ国でも時代によって変化するでしょう」

レッサー「『○○をすれば絶対正しい』とか『○○は絶対に間違い』ってのは、まずありません。物事は単純な二元論じゃないんです」

レッサー「……ただまぁ、ある程度の知識を持つものとしてスペイン継承戦争をさっさと止めて実利を取ったトーリー党」

レッサー「彼らの残した結果が大英帝国への近道になったのは間違いないとも」

上条「歴史に”もしも”はないが、スウィフト贔屓の政党が残ってたらどうなってたと思う?」

レッサー「どうにもなんなかったと思いますよ?この後、オーストリア継承戦争と七年戦争でヨーロッパとそれぞれの植民地でフランス野郎と戦います」

レッサー「イギリスは基本勝利し、フランスの影響力をおもっくそ弱らしたったんですが……」

上条「が?」

レッサー「莫大な戦費の調達に新大陸アメリカでも課税を厳しくしたんで、入植者激おこ!ついには独立しちゃいましたー!」

上条「笑えない、何一つ笑えないよレッサーさん!」

レッサー「ま、負けた方のフランスはもっと悲惨で重課税したらフランス革命ですし!それに比べればノーカンみたいなんですな!」

上条「おいコラ。この後にナポレオンさん待ってんだろ。スタンバってんじゃねぇのかクッソ重いのが」

レッサー「どっちが政争で勝ったとしても激動の時代からは逃げられないですよねぇ……どこかの巻き込まれ系主人公と同じで」

上条「あっはっはっはー、何を言うんだいレッサーさん!最近の俺はポジティブに行動しているさ!」

上条「ただちょっと悪役の方が『うん、そう来ると思ってた』って続いてるだけで!」

レッサー「前向きなところは美徳ですよねぇ。ただのドMを拗らせているだけの気がしますが」



――第三篇 『天空の島と東方訪問』

レッサー「――はい、っていう訳でついに!ついに本題の天空の”島”ラピュタですよっ長かったですねっ!」

上条「天空の――”島”?」

レッサー「正しくは島です。城よりもスケール大きいですが、問題はそこではなくこの章でガリバーは五つの国を訪問しています」

上条「また増えたな!前の冒険で監禁喰らったのに!」

レッサー「そこはそれ話の都合で。てかラピュタだけじゃないんですよ、日本にも行ってます」

上条「ガリバー先生来てたの!?江戸時代に!?」

レッサー「フィクションなのでそういう設定ですからね、誤解しないで下さいよ?」

上条「その当時に日本の情報が流れていたことに驚いた」

レッサー「カロンの書いた『日本大王国志』が17世紀に出版されてますんで、そこそこ知名度はあったようです」

上条「……なぁ、一ついいかな?」

レッサー「……気づいちゃいましたか?」

上条「……うん、何となく分かった。つーかお前らの国民性ナメてた」

レッサー「まぁ、何かあるんでしたらどうぞ?」

上条「小人の国・巨人の国・天空の島……フィクションだよね?」

レッサー「風刺目的ですなぁ」

上条「俺ら実在してんじゃんか!そりゃ極東の島国だけど頑張って生きてるし!」

上条「なんでそんなキワモノ国家と並んでネタされなきゃいけないんだよ、なあぁっ!?」

レッサー「お、お言葉を返すようですがねぇ上条さんっ!私らだってジャパンに言いたい事はたっくさんありますかねっ!?」

レッサー「あるときはナチ野郎に蹂躙され、またあるときは特に意味もなく大怪獣が暴れ回ったり!」

レッサー「そしてちょっと売れたor売れないゲームやアニメでも大抵イギリス出身がいるじゃないですかっ!?しかもイギリスの習慣や思想一個も関係無く!」

レッサー「なんだっつーんですか金髪だからですか!?パツキンでツルペタだったにモーニンですかコンチクショウっ!?」

レッサー「そういうテンプレイギリス人見るたびにテンション下がるんですよ!あなた方はもっと猛省して頂きたい!」

上条「……うん、分かるよ。俺だって映画見てたらトンデモ日本人出てきたら引くもの」

上条「こないだも俺の知り合いが念願の『口裂○女inL.A.』観たらものっそい笑顔で親指立ててたもの!」

レッサー「それ、喜んでませんかね?」

上条「『リン○と呪○のビッグウェーブへ乗ろうとして溺死した作品』ってな!!!」

レッサー「一周回って観てみたいです、それ……いや、ネタの話ではなく、ラピュタ話です」

上条「俺らの頭の中だと『昔に発達した科学文明持ってた城』みたいな感じなんだけど、原作は違うのか?」

レッサー「ジブリアニメの原作違います。リスペクトはしているそうですが」

レッサー「えーっとですね。ラピュタというのはバルニバービ国の上空を漂っている島であり、首都です。磁力でぷかぷか浮いてます」

上条「なんかファンタジー!ガリバー先生の話が始まってから初めて夢がある!」

レッサー「そこの住人は全て科学者であり、常に科学技術のために思考しているのです!」

上条「SFっぽい!イギリスつったらファンタジーだがこれはこれで!」

レッサー「なので!時々正気付かせるために殴る役目の、『殴り係』を引き連れておりますことよっ!」

上条「ダメだもの。もうこれ台無しだもの」

レッサー「分かってたじゃないですか、自分で振ってたじゃないですか」

上条「アレだろ?何かこう、上の空ばっかな連中だから、ソイツラの後ろに俺やビリビリがくっついて回ってツッコミ入れまくるんだろ?」

上条「『なんでだよ!?どうしてそうなった!?待て待て待て待て!?』みたいな?」

レッサー「ダウンタウ○の黒い方が提唱されたツッコミ三原則ですな。それだけ抑えていれば大抵は捌けるという」

レッサー「ツッコミスキルが二ヶ月ぐらいで一流の域(サンドウィッチマ○のヤクザの方)まで上がりそうですなっ!」

上条「まぁ方向は違うけどウチの学園の特定の学校と同じっちゃ同じではある!」

レッサー「現代にスウィフトいたら大笑いするか大泣きするでしょうなぁ。色々としょーもないことになってて」

レッサー「意外と空想科学世界ガリバーボー○見せたら大喜びするかもしれません」

上条「お前そのアニメ知識どっから持ってくんの?カタギではないよね、少なくとも」

レッサー「まま、そんな感じのラピュタですけども、飛んでる側のバルニバーニとしちゃたまったもんじゃないです」

レッサー「アニメの『城』ではなくって『島』が浮いて移動してるもんですから、こう作物が育たない育たない」

上条「移動させてやれよ。できるんだったら」

レッサー「えぇまぁ移動できます、できるんですけど……。その、ラピュタの本質は『民衆への嫌がらせ』でありましてね」

上条「バル○か?有名なバル○きちゃうのかっ!?」

レッサー「こう王の要請で、反乱を起こしたり態度の悪い住人の土地への真上へマウントして、『日照りで苦しむがよいわ愚民どもブハハハハハハっ!』と」

レッサー「更に住民総出で上から投石!ずっと俺のターンですなっ!」

上条「バル○よりヒデぇ!陰湿だし後を引くしビジュアル的にも地味で効果的だなっ!」

上条「……いやいや、そんなやってたらダメだろ。収穫量は減るわ畑に石入ったら取るの大変だし、自分達の首絞めるだけだしさ」

レッサー「仰る通りかと。バルニバービは恒常的に不作が続き、反乱を起こそうにもラピュタが障害になって不可能」

レッサー「そしてまたラピュタを維持するためには膨大な物資が必要であり――と、税は更に重くなっていきます」

上条「嫌な話だ」

レッサー「――ってのが第三篇ラピュタの章での大まかなお話です。色々と深いのできちんと読むのをマジお勧めしますよ」

レッサー「これはほぼそのまま、スウィフトの故郷であるアイルランドとイングランドの関係を表しています」

上条「そんな気はしてたわ。妙に具体的だし」

レッサー「例えばアイルランドの輸出物に高い関税がかけられ、逆にイングランドからは無関税で輸出したり」

上条「北アイルランドをアイルランドへ返しなさい!スコットランドが独立したがる気持ちも分かるわっ!」

レッサー「この後、アメリカに独立されて対アイルランド強攻策を取れなくなったので、一応、はいまぁ一応はそこで苛烈な歴史は終るっちゃ終ります」

上条「歯切れ悪ぃな」

レッサー「17世紀にジャガイモ飢饉って起りまして、人口の約1割がお亡くなりに」

上条「ご冥福を。病気じゃしょうがないもんな」

レッサー「あ、いえこれはイングランド政府の無策で被害が増加しました」

上条「やっぱりお前らか」

レッサー「ってのもアイルランドはほぼ農業だけやってて、かつ大地主が存在し、それはイングランド貴族が多かったんですね」

レッサー「ですんで『アイルランドで消費するよりも輸出した儲けた方がいい!』と、いやぁ怖いですね資本主義って!」

上条「お前ら何なの?七つの大罪コンプリートしないと気が済まないの?」

レッサー「なおこの前後で食っていけないアイルランド人がアメリカへこぞって移住したため、文化が広く伝わりました」

上条「お前らはそこで乾いていけ」

レッサー「まぁぶっちゃけ本国の私らといたしましても『これどうかなー?』的な黒歴史満載なので、素人さんにはお勧めしません!」

上条「そんな確執をダイレクトに書いたのはスゲーと思うわ。出版てぎたのも含めて」

上条「てか空飛ぶ島って発想が飛躍しているな。あ、ギャグじゃないからな?日本語的な意味でさ」

レッサー「まぁここいら辺には別の伏線がございましてね、ニュートンですね。リンゴを囓って楽園を追放された」

上条「聖書にまで遡りすぎだ。木から落ちるのを見た、だ」

レッサー「この頃は自然科学的な意味での進歩が凄かったですからねぇ。実際王立アカデミーへの批判マシマシです」

上条「王立の研究所?17世紀にかっ!?」

レッサー「王室が資金援助をしているのではなく、『他からのちょっかいかけられるのを防ぐ』のが主目的ですね」

レッサー「当時の出版業は教会の許可がないとできなかったので、トータルで見ればプラス収支かと思われます」

上条「それ……でも、信仰心の厚い人たちにとってみれば?」

レッサー「ってのはありますなぁ。ただ恐らくスウィフトが批判したかったのはそこじゃなく『応用性に乏しい学問研究』です」

レッサー「まぁぶっちゃけますと、『大学に資金ぶっこんで生活の役に立たない研究すんのコスパ悪くない?』と」

上条「スウィフト先生はそんなこと言わない。貧乏学生か食べログ運営みたいなのはねっ!」

レッサー「アイルランドやスコットランドの窮状、内戦や不作により政情不安定を直に見た感想がそれだったと思いますよ」

上条「学問の進歩……あーうん、確かに『実は全てのモノに重力があったんだ!』って言われてもなぁ」

レッサー「国の発展に科学の進歩は必要不可欠、未来へ向けての先行投資を怠ったらただ衰退するか滅ぶの二択ですよ」

レッサー「なのでスウィフトさんのこの主張には完全に同意はしません。ですが大学の学問へ大枚を遣っていたのも、まぁ確かな訳で」

レッサー「その投資をアイルランドへかけ、農業基盤を整えておけば今頃はメシマズ国と言われ続けはしなかったのに……!」

上条「主旨変わってる」

レッサー「……まぁ詳しくはこの後の章で引き継ぎますんで、そっちの方で脳内補完して下さい」

上条「ラピュタ以外にも行ったんだっけか」

レッサー「ええ、ガリバー先生はラグナグを通ってグラブダドリップへ向かい、魔法使いと出会います!」

上条「てかずっと疑問だったんだが、この世界観シュールし過ぎやしないか?編集に持ち込みしたら『もっと世界観統一してみれば?』ってアドバイス受けるぐらいには」

レッサー「そちらで過去の英霊を呼び出して聖杯戦争に巻き込まれ正義の味方でおっぱいに目がくらんでですね」

上条「本格的にラノベになってる!あ、あれ原作はエロゲーか!たまに忘れるけど!」

レッサー「正しくは過去の偉人を呼び出してどんな人だったのか――と、やったんですが結果は散々」

レッサー「呼び出す人間は俗物の俗物、偉人とされてた人間がこれかとorz」

上条「歴史なんてのはそんなもんじゃねぇかな」

レッサー「歴史は勝った側が書いてきましたしねぇ。現代は様々な国で様々な書物が書かれていますが、昔はそうじゃないですし」

レッサー「焚書坑儒は当たり前、政争ど負けた方はボロックソ。むしろ否定するところからスタートです」

上条「ブラッティなメアリーさんがそうだな」

レッサー「んでこれは前の章と重なるんですが、この頃は啓蒙思想の芽生えと研究がサロンで行われていましてね」

上条「サロン?」

レッサー「貴族が学舎集めて喧々囂々。形を変えた社交界の一幕――だった、んですけどねぇ」

レッサー「それがまぁ流行る流行る。てか近代哲学の基礎となったっちゃあ聞こえはいいかもですがー」

レッサー「……哲学、食べられませんよね?」

上条「俺は食べたことないなぁ。無人島行ってそれだけしかないってんだったら、トライはしてみると思うが」

レッサー「ある意味ではお腹いっぱいになるでしょうし、それを欠かすのはよくないのも分かるんですよ。えぇそれはもう」

レッサー「ですが、こう研究一つするにしても、それで食うにしてもパトロンってやつが必要でしてね。スポンサーといいましょうか」

レッサー「何かのために学問をするのではなく、学問のために学問をするような状況に」

上条「なんかーアレだわ、文系は何の役にも立たないって言われてるの同じじゃ……?」

レッサー「心外ですなっ!薄い本を作ったり薄い本を書いたり薄い本を宣伝するのに文系は欠かせないかと!」

上条「そのサブカル第一主義止めろ!薄い本以外にも年齢制限のあるゲームとか使ってるらしいがなっ!」

レッサー「『お説ごもっとも。しかしながら、まずは私たちの畑を耕さなければなりません』」」

上条「うん?」

レッサー「『カンディード』という作品のラストの台詞。啓蒙思想を超絶に皮肉る言葉です」

レッサー「どんな綺麗事を言おうが、どんな高潔な主義主張を持とうが、結局は地に足をつけて日々の生活を頑張る以外に道はなく、と」

レッサー「こちらも作品としては面白いので、作者が込めた思いそっちのけで映画やオペラになってウケてはいます」

上条「なんだかなぁ」

レッサー「……まぁ、えぇとですね。ガリバー以後のお話なんですが、1755年のリスボン地震ってのが起きまして」

レッサー「それまでポルトガルは敬虔なカトリック教国だったのに、しかもカトリックの祭日に聖堂が壊滅するような大地震が」

レッサー「それ以降『もしかして神様なんていなくね?いたとしても俺ら放置プレイじゃね?』思想が流行ります」

上条「お前らまた極端から極端に振れやがるよねっ!」

レッサー「カト・プロ論争もそうですが、実践を伴わず答えの出そうもないのをダメだと」

レッサー「国家や国富、全体的にマンパワーが有り余っているときであればともかく、アイルランドなんとかしろよ、が、スウィフトの言いたい事だったんだと」

上条「死人をイタコったのも?」

レッサー「それはスウィフトの為政者へのイヤミでしょうねぇ。アン女王もそこそこ名君ですが、ちっきり左遷や粛正はしています」

レッサー「政争に負けたトーリー党が害悪とされていたのも、彼自身にとっては受け入れがたいでしょうからー?」

上条「善悪で語っていいもんか迷うよな。そりゃまぁ『アイルランドなんとかしてやれよ!』って激しく思うけどもだ」

レッサー「次にガリバーが訪れた国がラグナグ、こちらには不死人間が存在します!」

上条「ホンットにジャンル広ーな!スウィフトさんナニモンだ!?」

レッサー「マジレスすれば聖職者です。ある程度の知識と教養、そして字の読み書きができなければ本は書けません」

上条「勘違い作家が宣いそうな台詞だな、それ」

レッサー「あぁいえそうじゃなく当時のテキスト、教本つったら行政文書や聖書に神学関係が殆どでしたんでー」

レッサー「やはり知識人といえば、貴族や聖職者、あとは資本を持つ層に偏っていたのも仕方がないんですよ」

上条「学者は?ニュートンいたんだろ?」

レッサー「彼の身分は小金持ちから努力して大成されましたし、自然科学以外にも様々な方面で才能を発揮されていましたので、例外ではないかと……」

レッサー「お母さんも早くして旦那様を亡くされ、子供達を育てるために再婚されていますよ」

上条「苦労してんのなー」

レッサー「もしもイングランド国教会でなければ、スウィフト一家は修道院コースでしょうが。ないもんはしょうがないですよっと」

上条「結果論だが人類史に名を残したんだから、いいとは思うが」

レッサー「で、話を戻しまして。その不死人間ですが歳は取るんですよ」

上条「オチ読めた。言わなくていい」

レッサー「ですのでその国で老人は80過ぎると人権剥奪されてヒドい目に」

上条「言わなくていいっつってんでしょーが!?どうせそんなオチが待ってるって知ってたから!」

レッサー「ここの章では『老いへの恐怖』でしょうか。『老いて能力もないのに肥大した自尊心を持ち、他人を見下す』」

レッサー「……そしてその老人達は我々が通る道というのも、まぁ何とも、ですね」

上条「キ○の旅か」

レッサー「あの小説も私は好きです。男装少女はぁはぁ」

上条「俺の好きな理由と違う」

レッサー「女装少年派、だと……ッ!?」

上条「だからこのご時世に危ねーネタは止めろっつってんだろ!?こないだだってボーイをスカウトする大人がスカウトじゃなくてハントしてて問題になったんだから!」

レッサー「ハンターたるものかくありたいとのお気概ですなっ!」

上条「残念。俺は正規のハンターだから違法かつ不純なハントはしないんだ」

レッサー「その割にはネコミミ人妻から0歳児と幅広く狩ってらっしゃるようですが?」

上条「……いつになったらカノジョできるんだろーなー、俺……」

レッサー「ヨメでよかったらこの私が!」

上条「愛がない、そして夢もない」

レッサー「えぇまぁまさにまさに。ラグナグはそういう未来を暗示しているのですよ」

上条「上手くないからな?別に上手くは繋がってないからな?」

レッサー「あっとはー日本のザモスキへ行って皇帝に拝謁したとかなんとか。ここでイギリス帰って終わりです」

上条「ザモスキ?沖縄の座間?」

レッサー「日本の観音崎と『筆記体が似ている』んで、町興しにやってるそうです」

上条「……フィクションなのに?」

レッサー「キリストの墓もあるんでしょう?」

上条「一応世界のスーパースターと児童文学の登場人物一緒にすんな!問題がありすぎるっ!」

レッサー「てかガリバー旅行記は関係各位(含む日本)をDISってる小説であり、村興しにするのはどうかと」

上条「……地道に働くのは誉めてるし、悪い気はしないんじゃないかな。うん、きっと」

レッサー「ちなみに日本の章のエピソードはザモスキ上陸、皇帝に拝謁したぐらいですね」

レッサー「その時にガリバーが『踏み絵だけは勘弁してくれません?』と嘆願したら、『踏み絵を嫌がるオランダ人は初めてだ』と珍しがられたそうです」

上条「……お前ら、仲悪いの?」

レッサー「ダッチの嫁さん連中には散ッッッッッ々煮え湯飲まされましたからねぇ。ほら、何代か前にオランダ総督がイギリス王位についたのもあったでしょ?」

レッサー「あんときなんかオランダの戦争に駆り出されて大変だったんですから!」
(※5世紀前の話です)

上条「よくお前らEUなんざ作る気になったよね?」

レッサー「……上条さん、一ついいことをお教えしましょうか」

上条「な、なんだよ改まって」

レッサー「まずあるところにKさんとTさんとPさんがいました」

上条「おう……何か頭文字と数に憶えがあんな」

レッサー「Kさんは女運以外にはステータスを割り振ってなかったので、ある日お金を落としてしまいます」

上条「がっつり俺だね」

レッサー「KMJさんはお友達のTさんPさんへお金を貸してくれるように頼みますっ!」

レッサー「そのとおぉぉぉぉぉぉぉぉぉき!お友達二人はどうするでしょうかっ!?」

上条「経験論から言うと、文句言い言い貸してくれたりメシ食べさせてもらった」

レッサー「仲の良い方だったらそんな反応ですよね。ではこれがあまり知らないクラスメイトだったら?」

上条「厳しいかな」

レッサー「でしたら、一筆書く、とか誰かに仲介してもらえばどうです?」

上条「そこまですれば、まぁどうにかなると思う」

レッサー「それと同じですよ」

上条「どれと?」

レッサー「本当に仲が良かったら、神聖ローマ帝国の二番煎じなんてやってねぇっつーんですよ!」

上条「だよねー」

レッサー「昔のエラい人の言葉を借りれば『理想を抱いたまま溺死しろ』、ですな」

上条「それ未来の人。昔の人違う」



――第四篇 『喋る馬とヤフーの国』

レッサー「さて……長かったガリバーの旅も最終章と相成ります!」

レッサー「荒んで荒んだ荒みまくったガリバー!最後には救われるのでしょうかっ!?いいや、ありません!」

上条「否定から入るな」

レッサー「最後はまぁ喋る馬の国です。フウイヌムという非常に知的かつ特異な生態をした馬の国を訪問します」

上条「最後は人じゃないところのゲストになったんか……」

レッサー「ちなみに『喋る馬=イギリス人』で、イギリスの階級制度を風刺しています。まぁこの時代イギリス以外もそうでしたけどね」

上条「ガリバーさん気に入りそうな所だな」

レッサー「はい、実際喋る馬の友人もできて何でもツッコむガリバーさんにしては、そこそこ快適に暮らしていました――最初は」

上条「しっかり起承転結考えてありますよねっ!」

レッサー「タイトルにもあるとおり、ヤフーと呼ばれる……未開人?バーバリアン?まぁ面倒なのでヒトモドキとしましょう」

レッサー「ソイツラがウッホウホ言って国内荒らし回り、ガリバーさんも女ヤフーにあ゛っ!されそうになったりと」

上条「そこ、重要か?」

レッサー「これでますます人嫌いが捗り、ガリバーは喋る馬たちに依存していきます――が、しかし」

レッサー「喋る馬の議会からは『お前もヤフーじゃん?ボッシュート!』との結論を突きつけられ、哀れガリバーは追放に!」

レッサー「見事人間嫌いを拗らせて帰国したガリバー、彼はもう人間とは相容れず馬小屋で寝泊まりしたのでした……ッ!」

上条「ウィーザードリ○か。長生きすんな、めっちゃ」

レッサー「……」

上条「で?」

レッサー「あぁいえ、これで終わりですけど?」

上条「まさかのバッドエンド!?予感はしてたけど期待を裏切ってほしかったよ!」

レッサー「まーさーにイギリス社会へ放り込まれて奮闘したものの、失意のままにトバされた作者そのままです」

上条「スウィフト先生inガリバーが居たたまれないぜ……っ!」

レッサー「最終篇のポイントは一見理知的に見える喋る馬ですね」

上条「ガリバー旅行記の登場人物の中じゃまともな方じゃないか?巨人の国の王様ぐらい」

レッサー「マシな方ではあるのですか、マトモかどうかは怪しいところですよねぇ」

レッサー「人間から見れば馬は馬、なのに厳格な身分制度を持ち理性的な社会を築いています。何のギャグだと」

上条「主人公からしてみれば、自分が暮らす世界よりもずっと住みやすい、っては感じてたみたいだけど」

レッサー「やー、でもその理知的ってのも落とし穴かと思います。理知的・理性的大いに結構ですが、ちょっと過ぎるかと」

上条「全般的にスウィフトはディストピアを描いてるわな。小人・巨人・天空の島、そして喋る馬の国」

上条「あぁでもここはヤフーがいて全部台無しにしてる、か?」

レッサー「まぁマイナス要素には違いないですがね。それにしたって喋る馬が綺麗に描かれているじゃあないですか、えぇ」

レッサー「理性的であればヤフーを一方的に駆除するのか、また意思疎通ができるガリバーを追放する必要はどこに?」

レッサー「そもそも『議会での正義は主体としての正義と同義なのか?』って命題も」

上条「言ってる意味が分からん!」

レッサー「害虫があなたの畑を荒らしていました、なので害虫を駆除することにします。これは分かりますね?」

上条「あぁ」

レッサー「普通は虫と会話しようとは思いませんよね?したら怖いですけど」

上条「……学園には何人かいるんじゃないかな」

レッサー「そこです、それ」

上条「どれ」

レッサー「『害虫を駆除しようとするのは果たして理性的な行いなのか?』、ですね」

上条「お前それ全国の農家さんの前で言ってみ?」

レッサー「いやいや、そりゃ私だってアレっぽい発言をしているなとは思いますがね。ここでの論点はそうじゃなく、コミュニケーション取れるじゃないですか」

上条「害虫と?」

レッサー「ではなくヤフー――というか、ガリバーと」

上条「――あ」

レッサー「まぁこれがただの虫だったらば無理でしょうが、何頭かの喋る馬はガリバーと友人になっていますよね?」

レッサー「その身を持って対話が可能と証明しているのに、駆除するのは『理知的』ですかね?」

上条「……なんとなーく嫌な予感がするんだが、これって植民地の暗喩か?」

レッサー「でしょうなぁ。ガリバーの味方は幾ばくかいるものの、最終的には”議会=多数派”の意見に逆らうことなく受け入れる訳です」

レッサー「はてさて、彼らを示す言葉は『理性的』で合っているでしょうか、ってのがここのメインテーマですね」

上条「ガリバーが馬になりたかったのに受け入れられないのも、か」

レッサー「馬たちの国は一見ユートピアのように思えます。知識を持ち、道徳も高く、かつ異邦人へ対してもよき隣人なり得る個人もいる」

レッサー「が、受け入れるのは同族のみで異種は思想が同じでもパージする。非人道的な考えでも多数派であればまかり通る」

レッサー「極めつけは『取り敢えず排除する』――という”人類が抱えるジレンマをそっくりそのまま持ち合わせている”という悲劇が」

上条「悲劇、か?」

レッサー「もし仮にガリバーが喋る馬の国の場所を漏らしたら、ほぼ一方的に狩られて終わりでしょうね。彼らがヤフーへしたのと同じく」

レッサー「だって『言葉が通じて意思疎通ができて、同じ思想を持っていても共存はできない』のですから」

上条「喋る馬たちをガリバーは絶賛している”ように”思えるけど、その思想に染まった彼は社会不適合者になっちまってる、か」

レッサー「『自分を受け入れず追放した者達を狂ったように崇め続ける』ってお話であり、ここは恐らく楽園から追放された原初の二人を意味しているのかとも」

上条「……よく教会に友愛されなかったな?」

レッサー「スウィフトが実名で発表した風刺文書の中で最も光り輝くドギツいのが『穏健なる提案』。正式名称」

レッサー「『アイルランドの貧民の子供たちが両親及び国の負担となることを防ぎ、国家社会の有益なる存在たらしめるための穏健なる提案』」
(Eng:A Modest Proposal: For Preventing the Children of Poor People in Ireland from Being a Burden to Their Parents or Country, and for Making Them Beneficial to the Public)

上条「長い。ラノベにしても長い」

レッサー「この中でスウィフトは『アイルランドには貧しい赤子が大勢いるから、彼らをバラして食肉輸出すればwin-winになれるよね!』と宣っています」

上条「なんだそのグロいの」

レッサー「『そうすれば国家が貧困対策をしなくてもいいし、飢えで苦しむアイルランド人も幸せになるしカトリックも減るよ!やったね!』と」

上条「……超々皮肉なのな。スッゲーわスウィフト」

レッサー「ってのを実名で書かれた方ですので、彼ほどアイルランドを愛した方はそうそういないかと」

レッサー「ましてや当時は七主教裁判事件(王がイングランド国教会の司教を煽動罪で告訴した)のように、立場ある方でもキナ臭いことがしばしば」

レッサー「そんな中で一貫してアイルランドのために声を上げ続けた功績は評価できる、と私は思います」



――『ガリバー旅行記』

レッサー「以上で天空の城ラピュタの元ネタの解説、並びに長々とやってきたガリバー旅行記を通じた我らがブリテンの歴史を終えたいと思います」

上条「お前ら碌な歴史じゃないのがよく分かった」

レッサー「ちなみにガリバーを追放したのがアン女王。彼女には子供がいなかったため、スチュアート系最後の君主となりましたとさ」

上条「あぁなんか本編で拘ってたっけか。でも何か拘りたくなる気持ちは分かるが」

レッサー「スウィフトは故郷であるアイルランドへ左遷され、晩年はアイルランドの地にて過ごしました。その時に書かれたのがガリバー旅行記ですね」

上条「子供は?」

レッサー「ガチの信仰をお持ちの司祭へ対してなんつー暴言を。生涯独身でした……まぁ多少の縁はあったようです」

レッサー「彼の死後、『「一人の女の髪にすぎぬ』、と書かれた紙にくるまれた女性の遺髪』が見つかったそうです」

上条「……なんかちょっと泣きそう」

レッサー「彼の墓は彼と共にあった女性の隣に作られ、財産の多くは精神病院へ寄与されました」

上条「この人の一生を作品にした方がアイルランドの立場がよくなったんじゃ?」

レッサー「そこはそれ、ではないかと思いますよ」

レッサー「仮の話ですが、スウィフトが恵まれたボンボンであって嫁と愛人に囲まれた豊かな一生を過ごしていたら、あんな話がかけるかどうか怪しい」

上条「あんまり凄惨すぎるような……?」

レッサー「私はそうは思いませんねぇ。お世辞にも恵まれた一生とは言えないでしょうけど」

レッサー「死後かれこれ4世紀弱経っても作品が語り継がれ、スウィフトの感動や憤りが共感されたり伝えられている」

レッサー「彼を生前貶めた人間の多くは歴史に名すら残せず、刻まれたとしても彼の作品とセットに語り継がれる」

レッサー「当時の絶望と諦念が、世紀を越えて延々言われ続けるのは拷問かと思われます」

レッサー「まぁ……『死んで花実が咲くものか』とも言いますし、実際の所良かった探しをしているに過ぎないのでしょうが」

上条「いやでもイギリス、つーか結局激しい風刺なのに残ったよな?そういう意味じゃ自由な言論が容認されたってことで」

レッサー「いやぁそうですもないですよ。自由な言論から遠いところにありましたからね、ジョージ=オーウェルって知ってます?」

上条「19……なんとかの作者か。読んだことないけど」

レッサー「彼もイギリス人の作家で『1984』でファシズムを痛烈に批判した方です。左右どっちからも愛されてる()人ですね」

レッサー「彼が1984の二年前に出版された小説が『動物農場』と言います」

上条「名前はファンシー……内容はものっそいんだろうがな!」

レッサー「仰るとおりで。ブタたちが農場主へ革命を起こし、恐怖政治を引くというスターリンそのまんまのナイス物語です」

上条「聞いたことないが」

レッサー「オーウェルが書いて出版社へ持ち込んだんですが、この当時イギリスはソビエトと同盟組んでまして。四社にハネられました」

上条「あー……」

レッサー「現実なんてこんなもんです。あくまでもフィクションの体裁だったのに出版社にはNGを出された――というのは」

レッサー「――逆に考えれば動物農場の内容がソビエトを忠実に皮肉っており、あの国が抱える問題点がある程度周知されていた、と」

レッサー「しかしながら政治的な問題により民間の出版社が断った。これが全てですね」

上条「コメントしづらいよ!」

レッサー「まぁそんな訳で人には歴史あり、本の中には歴史的な経緯がこれっでもかとぶち込んであったりします」

レッサー「歴史年表と重要単語を丸暗記するのも時には大切ですが、こうやって様々な出来事をリンクして憶えると……肉がつく?」

上条「目鼻が付く?なんか違うな」

レッサー「まぁおおよその社会情勢が理解出来るようになり、関連して派生するような問題の問いへの回答が導き出せます!レッツ応用問題!」

上条「身も蓋もないお前ら」

レッサー「”絶対王政→宗教改革→議会制民主主義”。これが大体の国家で行われたサイクルですな、順番は前後したりしますが」

レッサー「この後は産業革命で労働者の価値が上昇し、彼らの発言力が高くなって普通選挙への道が拓かれる構図となり」

レッサー「功利主義が全体の幸福を求めるようになると、今度は国家の利潤を追い求める気風が高まって民族統一・独立の声が上がり」

レッサー「すったもんだの末に第一次世界大戦ッ!ゴーファイッ!」

上条「途中までふんふん言って聞いてた俺の感心を返せ!」

レッサー「私たちのブリテンの戦いはまだまだこれからですよっ!気張って行きましょうねっ!」

上条「EUから一抜けしやがったし、未来に生きてるよなとはつくづく思うわ」

レッサー「知れば知るほどドン引きする我らの歴史!次は第一次世界大戦篇でボクと握手っ!」

上条「修羅場前の穴埋め企画だから、うんもうしないと思うよ?てか誰も得してないからね?」

レッサー「これであなたはもうラピュタを見る度に思い出す!貴様が敗れたこの日のことを!」

上条「それKO○の八神○の勝利台詞……キレツキレだよ、今見ても笑いが……!」



−終−

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