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Clock(trial)

MMR(御坂美琴の料理教室)第01話 「茶碗蒸し」


――常盤台寮 共有キッチン

御坂 ジャー……

御坂「……」

御坂 チャキッ、トン

御坂 トン、トン、トントントントントン

御坂「――あ痛っ!?……あっつー……」 ペロッ

御坂「……」

御坂「……よし、うん、よしっ!」 カチッ、ジュー

御坂「よっ、と?」 ジュー、ボスボスボスボスッ

御坂「……あー……」 ジュー

御坂「……」

御坂「……また、失敗した……」

御坂「……」

御坂「――お料理が、したいんです……ッ!!!」



――某喫茶店

御坂「――お願いしますっ!どうか、どうかこのワタクシめにお料理を教えて下さいっ!」

佐天「取り敢えず頭を上げてくれませんか?あの、スッゲー目立ってるんで」

御坂「佐天さんがうんと言ってくれるまでは!」

佐天「あっうん、いいですから。っていうかそんな直角に頭を下げてまで頼むような類の話じゃないですってば!」

御坂「大切なの、あたしにとってはねっ!」

佐天「や、だから別に拙いながらもこの佐天涙子っ、お友達から頼りにされて断る口を持ちませんよっ……ってのはいいんですけど」

御坂「けど?」

佐天「どーしてまた急に料理なんてしようって思ったんですか?」

御坂「あー……っと、アレヨネ?ウン、アレアレ。アレダカラヨ?」

佐天「アレだけで会話を成立させようとするオジサンになっちゃってますけど――はっ、まさかっ!?」

御坂「違うからっ!そーゆーんじゃないのよっ!?」

佐天「――料理実習!そうっ、常盤台でもやっぱりあたし達と似たようなカリキュラムがあるんですねっ!」

御坂「え、調理実習……?」

佐天「はい?」

御坂「はい?」

御坂・佐天「……」

御坂「そ、そうそうそうそうっ!それよ、それっ!調理の実習があるって話なのよねっ!」

佐天「……すいません御坂さん。いっくらなんでもそのごまかし方は初春でも騙されねぇぞっていうかですね」

佐天「っていうか、てーゆーかー……もしかして、その――」

御坂「やっだなぁ佐天さんっ!べ、別に彼氏とかそういうんじゃないのよ!?違うんだからねっ!?」

御坂「これはホラ、アレだから!アイツのためなんかじゃないんだからっ!」

佐天「……リアルツンデレをまさか目にする日が来ようとは……意外とウゼー……あ、いや、これはこれは需要あるんですかね」

佐天「やー、まぁいいんですけども。それで?」

御坂「私が16になったらすぐにね、籍を」

佐天「聞いてねぇよ、つーか聞いてねぇっていうか、聞いて下さいよ御坂さん。あたしの話を?むしろキャッチボールをしましょうよ?」

御坂「あ、あぁごめんなさい。ちょっと取り乱して」

佐天「『柵中のボケ無双』こと、字を呂布佐天とも呼ばれるあたしにツッコミを入れさせる辺り、流石はレベル5だと言えましょうか……ッ!」

御坂「で、でも結婚するまでは!結婚するまでは、まだその早いって言うかさ!」

佐天「……あー……なんかあたしの天敵居ましたねぇ、ここに。暴走すると一切話を聞かない感じで、えぇえぇ」

佐天「てか帰っていいですか?暇は暇ですけど、延々未来予定の話を聞かせられると頭がゆんゆんするんで」

御坂「――と、言う訳で!佐天さんには私に料理を教えて欲しいの!」

佐天「あーはい。つってもあたしも特別に上手い方じゃないですし、実家でママの真似してたレベルですかねぇ」

佐天「家庭料理をベースにちょこちょこってカンジなんですが、それでいいんだったら、はい」

御坂「家庭料理……!家庭的って素敵な響きよねっ!」

佐天「……あー、はい。御坂さんがいいんだったら、別に」

御坂「それじゃ――あ、悪いんだけど、場所は」

佐天「常盤台だと外野さんがウルサイんでしたっけ?んー……でしたらウチの寮で」

御坂「――と言うと思って、もう場所を借りてるのよ」

佐天「話のスケールがデカっ!?たかがお料理を教わるだけなのに!?」

御坂「……大事、なの」

佐天「えぇまぁ、大事は分かるんですけど、こう入れ込みすぎじゃ……?」

御坂「このままだったら離婚よ!?バツ一なんだからね!?」

佐天「御坂さん気を確かに!まだ多分籍は入ってませんからバツはついてません!」

御坂「よかった……」

佐天「ていうか誰か呼んでいいでしょうか?あたしがツッコミに回るって、相当の非常事態だと思いますし、一人で捌ける自信がないって言うか」

御坂「お願いだからどうか内密に!」

佐天「……あ、はい。やりますけど……いいのかなぁ?」



――学園都市 貸し料理室

佐天「あー……キッチンって言うよりは、ちょっとしたパーティ会場っぽいですかねぇ」

佐天「てかよく見つけましたね、こんなとこ。どこに需要があるんだか」

御坂「学生達が集まって打ち上げとか、模擬店の準備とかを開くらしくてね。そっちの関係でちょちょいっと」

佐天「230万人も居れば、そりゃそうなのかも知れませんが、まぁ家庭科実習室っぽい感じの部屋ですか……あ」

佐天「テーブルの上に積まれている大量の調理道具と素材を除けば、ですが」

御坂「えっと、じゃお願い出来るかな?佐天さん?」

佐天「佐天じゃないっ!これからはサーと呼べ、サーと!」

御坂「い、いえすっさー!」

佐天「誰がサーだ!佐天と呼べ!」

御坂「唐突だし理不尽過ぎるわねっ!?」

佐天「――と、いう海兵式ジョークはさておき、それで?」

御坂「はい?」

佐天「御坂さんのお料理の腕は如何ほどなのかなー、なんて確認をですね」

御坂「えーっと……少しだけ、よね?」

佐天「得意料理は?」

御坂「……ク、クッキー?」

佐天「お菓子は料理とは言いません――が、ホントに?マジですか?前に教えた時から変ってないって事ですかね?」

御坂「練習は!そう、練習はね。こう、少しずつだけど」

佐天「両指に貼られた絆創膏を見るに、それなりになさっているのは明白ですかー。んー?それじゃどうしましょうかねー」

御坂「どうするって?」

佐天「ぶっちゃけアレですよね?上条さんオトすための企画なんですよね?」

御坂「ぶほっ!?」

佐天「あ、吹いた」

御坂「ち、ち、ち、ち、ち、違うから!そんななななんじゃないから!」

佐天「”な”がハウリングしてますけど……あの、大覇星祭の時のリアクション見て察せないのはよっぽどじゃねぇかなと」

佐天「っていうかですねー、教える側としても目的に合った手段をしたいなー、と思うのでありましてですよ」

佐天「こう、フツーにお料理の基礎を教えるのと、初めっからどなたさんへ食べさせるのを想定するのでは、ゴールも道のりも違うって言いましょうか」

佐天「御坂さんは誰かに喜んで欲しくて、こう、お料理が上手くなりたいんですよね?」

御坂「……はい」

佐天「でしたら、んー……そうですね、まずは『彼氏の家へ行って料理が出来るレベル』を目指しましょうか」

御坂「彼氏……!」

佐天「いやそこ特定の単語に過剰反応しないで下さい。あくまでも仮ですから、仮」

御坂「い、いやでも待って!待ってよ!ハードルが高すぎじゃないかしら!?」

佐天「はて?」

御坂「あるじゃない!いつかクッキー作って持っていたら喜んでくれたし!差し入れ関係のスキルを高めるとか!」

佐天「御坂さん――あ、じゃあじゃあシミュレートしてみましょうか。あたしが上条さん役で」

佐天「御坂さんは何かクッキー的なものを持ってきた設定で、一つ」

御坂「ふ、服はどうしよう……?」

佐天「すいません御坂さん?ボケるのはあたしの役目なんで、いい加減帰ってきて貰えませんか?」

佐天「ボケはボケ、ツッコミはツッコミとハッキリさせないと混乱しますから」

御坂「えっと……じゃ、通学路で出会った設定、かな?」

佐天(※上条シミュ)「ではどーぞ――『あー、不幸だー、俺は今日も不幸だわー』」

御坂「佐天さんの中でのアイツってそんな感じなの?……まぁいいけど、こほんっ」

御坂(※御坂シミュ)「『き、奇遇ねっ!こんな所で!』」

佐天「『おっす、御坂さ――御坂』」

御坂「『これは偶然なんだけど!たまたま今日料理実習で作ったクッキーがあるのよ!』」

佐天「『マジで?へー、お前らんトコでもそんなカリキュラムあるんだ?』」

御坂「『良かったら……食べ、る?』」

佐天「『ん、貰う貰う』」 モグモグ

御坂「『ど、どうかな?』」

佐天「『おっ、結構美味しいな。つーか前貰ったのよりも腕は上がってる』」

御坂「『マジでっ!?』」

佐天「『……ふう、ごっそさん。美味かったよ、ありがとな御坂』」

御坂「……」

佐天「『あ、それじゃまたな』」 シュタッ

御坂「……」

佐天「――と、言うようにですね、こんな感じで軽く流されて終わり――御坂さん?」

御坂「……」

佐天「どうしました?気分でも悪くされましたか?」

御坂「……えへへ、褒められた……」

佐天「戻って来て下さい御坂さん!?その上条さんはフィクションであって非実在青年ですから!」

佐天「それで満足出来るようになったら同人屋まっしぐらですよ!毎年帰省が遅れて親に叱られるんですから!」

佐天「っていうかさっきも言いましたがボケとツッコミの垣根を忘れないで!」

御坂「――はっ!?あたしは一体何を……!?」

佐天「気にしないで下さい!あたしも見なかった事にしますから!ねっ!?」

御坂「えっと……今のじゃ、駄目、なの?私――あたし的にもほぼ完っっっ璧な成功に思えるんだけど?」

佐天「ま、まぁ問題はないですし、今のでもいいっちゃいいとは思いますがー……どうせだったら、ここから一歩踏み込んでみません?」

御坂「踏み込む?縮地的な意味で?」

佐天「御坂さん、お嬢さん設定の割にはアレですよね?具体的には言いませんけどもアレですもんね?」

佐天「そうじゃなく、あー今度は御坂さんが上条さんエミュをして貰えません?」

御坂「あ、あたしが!?」

佐天「では、さん、にー、いち――はいっ」

御坂(※上条シミュ)「『あー、今日も不幸だー、財布落としたわー、カードもなくしたわー』」

佐天(※御坂シミュ)「あたしと認識ほぼ同じじゃないですか。まぁいいや――『あ、やっほー』」

御坂「『お、ビリビリか』」

佐天「……ビリビリ?……『あーっと、アレよ。ちょろっとアンタにお願いがあるんだけどさ』」

御坂「『俺に?』」

佐天「『べ、別にアンタのためなんかじゃないんだからねっ!』」

御坂「呼び止めといてそのリアクションははおかしいわっ!」

佐天「『――と、言う訳でお料理の勉強をね、してるんだけど』」

御坂「どういう繋がり?佐天さんの中でのあたしってどんだけなの?……『ふーん』」

佐天「『ほ、ほらっ!でもこういうのはアレよねっ!誰かに食べて貰わないと!』」

御坂「『黒――白井は?あの子なら喜んで食べてくれそうじゃね?』」

佐天「『白井さ――黒子はねー、うん。その、何作っても喜んでくれるんだけどさ』」

佐天「『どんな失敗しても、”罰ゲームじゃなくご褒美ですわっ!”って』」

御坂「それはホントに言いそう」

佐天「『だ、だからアンタに食べて貰おう――勘違いしないでよね!?別にアンタじゃなくても他に食べてくれる人はいっぱい居るんだから!』」

御坂「いやだから佐天さん?その使い古されたツンデレ像はなんなの?」

佐天「『で、でもアンタだけに性的な意味で食べて欲しいだけなんだから!』」

御坂「佐天さん、そろそろ表行こうか?それあたしになったつもりでDISってるだけよね?」

御坂「っていうかそれが言えたら誰も苦労はしてないわよ!むしろ言いたいわ!」

佐天「御坂さん、シミュシミュ」

御坂「『お、おぅ……だったらどこで作るんだ?お前んトコの寮には行けないだろうし』」

佐天「『あー……んじゃアンタの部屋行っていい?一人暮らしだから問題は無い訳わよね?』」

御坂「あ、いや、そこまでしなくても!別にこうやって部屋借りればいい訳だから!だから!」

佐天「御坂さん頑張って!ここでヘタレずに押していきましょう!ていうかわざわざ部屋借りる方がアウツッ!だと思います!」

御坂「だって!」

佐天「ここが踏ん張り所ですよ!『お料理をする』という名目で彼氏(予定)の家へ合法的に入れるんですから!」

御坂「そ、そっか……!お手軽に作れるクッキーだったら、その場で食べてハイ解散だけれども――」

御坂「――これが少し手間暇がかかる料理だったら、どこかで作るって流れになる……!」

佐天「……後半シミュがグダグダでしたが、まぁそんな感じに収まるんではないかと」

御坂「これは……ッ」

佐天「どうですか?」

御坂「世界を狙えるレベルの策士……ッ!!!?」

佐天「狙えません。どんだけ世界のレベル低いんですか」

御坂「あたしにとっては世界なのよ!」

佐天「いやですからさっきから散々言ってますけど、ボケとツッコミの役割分担をですね」

佐天「多文化共生も結構ですけど、まずはきちんとした住み分けをした方がケンカにならないと思うんですよ」

御坂「このペースで既成事実を積み上げていけば、通い妻状態をキープ出来るのよねっ!?」

佐天「他に好きな子が居たとしても、牽制兼先制的な意味でも優位に立てるかと思いマスです、えぇ」

御坂「流石は佐天さんだわ!柵中の仲達と言われるだけはあるわよね!」

佐天「それ裏切った人じゃないでしたっけ……?しかも最後の最後で梟雄が居ない所に滑り込んだ的な」

佐天「とにかーく!そんな感じで迫っていけば、どんな鈍感な相手だろうと『あ、こいつもしかして俺に気があるんじゃね』と!」

御坂「いや、それはないなー。ないない」

佐天「一瞬で遠い目になって否定しやがりましたが……ま、まぁ気を取り直して行きましょうか!」

佐天「昔の偉い人は言いました。千里の道も一歩から!」

御坂「確かに!良い事言ったわね老子!」

佐天「しかし実際には車を使えば早く着きますし、飛行機に乗ればマイレー○も溜まってオトクですねっ!」

御坂「佐天さん佐天さん、折角いい言葉が台無しになってる」

佐天「では早速……あー始める前に言っておきますが、包丁と火を使う場面では絶対に遊んじゃダメですからね?おフザケ禁止でお願いします」

佐天「目を離さない、注意を散漫にしない、何か他の作業をする時には必ず置くか止める。これだけ守っていればまずケガしませんから」

御坂「分かったわ」

佐天「もし破ったら白井さんとキスして貰いますんで」

御坂「罰ゲームが重っ!?……あ、いや、そう言ったら黒子に悪いのかな……?」

佐天「……いい感じで籠絡されてますよねー。それ多分同情なんでしょうが、そういう発想が出る事自体がヤヴァイと思います」

佐天「白井さんの場合、プラトニックというよりか、こう、年季の入ったおっさんばりのドロドロっとしたリビドーを感じるんですよね、何故か」

御坂「わ、分かった!刃物と火を扱っている時には真面目に!」

佐天「それで何を作りましょうか、って……あー……食材から調理器具まで大抵のものはありますよねー」

佐天「じゃあ――初心者にも優しい茶碗蒸しなんてどうでしょうか?」

御坂「……ハードル高くない、それ?」

佐天「高くないです。実際ネタでもボケでもなく、蒸し料理全般は手間暇がかかるだけで難易度は低めです」

御坂「そうなの?ウチのマ――ハハは!あんまり作ってくれなかったけど」

御坂「それに高校生に茶碗蒸しってどうなの?カレーとか、ガッツリ系が喜ばれるんじゃないの?」

佐天「……ふっふっふ、甘いですミカサさん!それは甘い考えですよ!」

御坂「御坂です。御坂美琴です」

佐天「その考えはまるでデジタル初心者がIntuo○のミドルサイズペンタブを買うぐらいの暴挙ですよ!」

御坂「その例え分かるかな?『あ、まずはSサイズで慣れてからの方がいいかも!』って共感してくれる人、どれだけ居るのかな?ねぇ?」

御坂「あと別にサイズに関しては指先で描く派と肘で描く派の違いだから、癖にあったのを選べばいいんじゃない……?」

佐天「いいですかー、御坂さん。やっぱりその、ご家庭の味ってありますよね。ぶっちゃけママの味付けって言うか、まぁそんな感じの」

御坂「ウチのハハは……あ、うん。あるわよね?そういうの!」

佐天「でもこうやって親元を離れて寮生活、慣れ親しんだ故郷の味が恋しくなる……ありますよねっ」

御坂「まぁ、あるわね」

佐天「で、その中でも特別なのは茶碗蒸しだと思うんですよ。あんまり食べるってないじゃないですか?」

御坂「和食のご飯所で食べると、ついてきたりはするけど……言われてみれば、茶碗蒸しだけ、みたいなのはないかなー」

佐天「中には専門で出すお店もありますが、それは例外として――でも、やっぱりですね。たまにしか食べないからこそ、特別であって」

佐天「手間暇がかかる割にメインのお料理にはなり得ない――とはいえ、逆に強烈に実家の味を彷彿とさせてしまう!これです!」

御坂「……にゃるほど。他の料理よりもインパクトが強ければ、みたいな話なのね?」

佐天「はい、勿論それもありますが――その、茶碗蒸しで上書きをしてしまおうかな、と」

御坂「上書き?」

佐天「大体……そうですねー、一シーズンに一回、まぁ多くて二回ぐらいしか食べませんよね?ご家庭では」

御坂「美味しいけど、そんなに食べる機会はないわよね」

佐天「なのでこう、御坂さんが二回三回と作っている内に、そのお味が上条さんの中でのご家庭の味へ書き換わるんではないかな、と」

御坂「書き換わる……?」

佐天「例えばこれがお味噌汁だったら、まぁそれこそ長い長い時間をかけて、一緒に暮らしていく仲になって初めて」

佐天「『御坂の作る味がお袋の味だな(キリッ』ってなるんでしょうが」

御坂「ま、まぁねっ!それはきっとその内にねっ!」

佐天「……すいません。今のは『なんで結婚してんのに御坂呼ばれるんだよ』ってツッコミ待ちだったんですけど」

御坂「婿入りして貰って苗字を御坂になれば、あたしが合法的にとー……ゴニョゴニョ……って名前呼べるじゃない!」

佐天「ちょっと何言ってるかわっかんないですね。あたしの中での御坂さん像が大分変化してきてますけど」

佐天「ていうか婿入れさせて苗字を変えて貰わないと名前を呼べないのは、何かの呪いレベル的なスケールです」

佐天「ま……ただ茶碗蒸しはその頻度の低さとインパクトがわっるーい感じにミスマッチでして……あー、そうですねー」

佐天「上条さんがご実家へ帰省した時、お母さんの出した茶碗蒸しを食べるんですが、そこで違和感を覚えてしまうんですよ」

佐天「『あれ?お母さんの味ってこんなだったっけ?もっと違ってたような……あぁ、そうか』」

佐天「『俺にとってお袋の味ってのは、御坂の作ってくれる茶碗蒸しになっちまってたんだな』――と!」

御坂「……完璧ね……緻密に計算されまくって完成度の高い作戦だわ!」

佐天「あのー?さっきからたかがボケをそこまで真に受けるのは、ボケ殺しっていうかですね」

佐天「というか本当にボケと乙女(※妄想)は相性悪いな!対戦相手的な意味でも!」

御坂「でも蒸し料理……うーん、どうなんだろう?」

佐天「あーいやいや、難易度の低さもそうなんですけど、別に失敗したって構わないんですよ、失敗しても」

御坂「なんで?好感度下がるのは、ねぇ?」

佐天「世の中には時折致命的な毒物を錬成される方も居ますけど、まぁそれは例外としても」

佐天「失敗しちゃっても『前回のリベンジを見せる!』という体裁で約束を取り付ければ、結果次の部屋デートに!」

御坂「……」

佐天「御坂さん?みーさーかーさん?」

御坂「……もっと」

佐天「はい?」

御坂「もっと早くこの軍師に相談していれば……!」

佐天「あ、はい。落ち着いたら調理場へ来て下さいね。先に用意してますんで」

御坂「フランスでもイギリスでもロシアでもハワイでもバゲージでもあたしがヒロインになっていたかも知れないのに……!」

佐天「それはどうかなぁ?えぇきっと神様的なパワーが働いて、ギャグ要員になってたんじゃないかと思います。割とマジで」



※人物相関図

佐天(ボケ)は上条(ツッコミ)に勝つ
御坂(乙女)は佐天(ボケ)に勝つ
上条(ツッコミ)は御坂(乙女)に勝つ



――学園都市 貸し料理室

佐天「――はい、って訳で早速お料理を始めたいと思いますよっ」

御坂「ヨロシクでありますっサー!……いやなにこのテンション?」

御坂「ていうか、ちょっといいかな?今はなんかこう勢いで流されちゃってたけども、蒸し料理のハードルって高いわよね?」

佐天「前回否定したじゃないですか。そんなんでもねぇぞって」

御坂「あーいやいや、そっちの話じゃなくて、料理器具的な話よ」

御坂「果たして一人暮らしの男子高校生が、蒸し料理の危惧を持っているか、っていうね」

佐天「分かります分かります。よっぽどお料理好きな人じゃないと、持ってませんもんね」

御坂「そういう意味でも、意表を突くっていうか、インパクト的にはオッケーなんだろうけど……」

佐天「まーでもそんなに心配は要らないと思いますよ。ぶっちゃけ深めのお鍋があれば、蒸し器の代用は出来ます――し」

佐天「それ言ったら、『くっつきにくいフライパンがないと料理出来ない』や、『均等に加熱出来るレンジ』とか、キリがないかと」

御坂「あー……イメージだけど、ふっるい鉄のフライパン使ってそうだわー。何となくだけど」

佐天「最近流行りの某『ずっと焦げ付かないフライパン』も悪くはないんですが、熱伝導が違うんで温まるのに恐ろしい時間がかかって報告も」

佐天「まぁ今日はお試し的な感じで。あ、差し入れにはNG出しといて言うのもなんなんですが」

佐天「茶碗蒸しを作るのと同じ手順で蒸しプリンも出来ますんで、持ち込み手料理の場合にも応用が利くって事でどうかなー、なんて」

御坂「プリン……!女の子っぽいわよねっ!」

佐天「てな感じでいいですかー?他にありませんよねー?……では、まず下拵えから」

佐天「まずは時間のかかる干しシイタケ。これを水につけて元へ戻します」

佐天「軽く水で洗い、大体半日から一晩、早くても数時間は水を張ったボウルかタッパーにつけ込んで下さいな」

御坂「え?そうすると今からやったら時間が」

佐天「安心して下さい!実はもう半日前に仕込んだものがここに!」

御坂「佐天さん佐天さん、せめて時系列は守ろう?お料理番組でよくあるヤツだけども、なんでもご都合主義で流しちゃダメだと思うわ」

佐天「あぁいや干しシイタケはお出しを取るのにもよく使うんで、まぁ冷蔵庫にはフツーにあります、よ?」

御坂「そんなに……あぁまぁいいか。佐天さんだしね」

佐天「そして次はお肉ですかねー。鶏胸肉のブロックがここに一カタマリ」 ドンッ

御坂「胸肉なの?モモとかじゃなくって?」

佐天「作るお料理によるでしょうかねぇ。これがもしフライドチキンだったら、モモ肉を選ぶんでしょうけど」

佐天「今回は和食ですし、脂肪分が少ない胸肉を使ったりなんかしちゃいます」

御坂「そう――よねっ!やっぱり胸なんてのは脂肪の塊よねっ!」

佐天「あたしの胸を凝視しながら言われましても、相手はチキンさんなんで許してあげて下さい」

御坂「あー……てかまぁ確かに、手羽ってあんま使わないわよね?なんかこう、おつまみのイメージが」

御坂「逆にササミなんかはサラダにだけ入ってるって先入観があるし」

佐天「お肉の部位によって脂肪の付き方が違いますよー、あー……あー、御坂さんも焼き肉屋さんとかって行きます?」

御坂「フツーに行くけど」

佐天「部位によって赤身や脂肪の違い、なんとなーく分かりますよね?」

御坂「えっ?――あぁうんっ!分かる分かる!ハラミがカルビでロースよねっ!」

佐天「あ、はい。次から気をつけて下さればオッケーですよ、多分っ!……では早速下拵えを」

御坂「切るだけじゃなくて?」

佐天「も、含めてです。下味を付けておいた方が――あー、なんて言うんでしょうかね、こう、旨味ありますよね?」

佐天「あれがこう肉の脂には大量に含まれているって言いましょうか、んー……そうだなー、例えば……ササミ!御坂さんはお好きですか?」

御坂「嫌いじゃない、かな。ていうかあんまサラダ以外じゃ見ないから、食べる機会がないって言うか」

佐天「同じ量のカラアゲやフライドチキン、お腹がペッコペコだったらどっち食べたいです?」

御坂「そりゃやっぱりガッツリ食べたい方よねー」

佐天「それ。その『オイシイ』はイコール脂気なんですよ」

御坂「どういう事?」

佐天「胸肉でもモモ肉だろうと、パッサパサになるまで徹底的に煮込んで灰汁を取し」

佐天「煮汁を捨てて乾燥させればササミ並みにヘルシーになるんですがー……それがやっぱり美味しくはないんですね、これが」

佐天「ハンバーグみたいな肉料理だと、ガブッ!と噛んだ時にほとばしる肉汁!――みたいな感じで」

御坂「えっと、質問なんだけど」

佐天「はいどーぞ……あ、包丁包丁っと」

御坂「だったら脂の多い、ってか乗ってる肉の方がいいんじゃないの?」

佐天「あー……否定はしませんし、そういう好みの方も多いんですけどねー、あー……御坂さんにはこういう体験ありませんか?」

佐天「何か安いお肉を食べた後、妙に生臭さや肉臭さが残ったり。お総菜の肉類を食べた後、お腹や胃がもたれる……みたいなの?」

御坂「あー……分かる、ような。家で――寮や学校で出される食事は気になんないのに、外で食べるとたまーにハズレ引くわよねー」

佐天「そういうのは大抵下拵えを適当にやっているか、もしくはコストカットで省略してるヤツですね、えぇ」

佐天「お肉の持つ『脂』は旨味であるのは間違いないんですよ。脂を取り除きすぎちゃうと美味しくなくなりますし」

佐天「だからといって脂ギドギドの料理を出しても、それはそれて敬遠されるでしょうから、はい」

御坂「……料理って奥が深いのね……!」

佐天「減らしすぎてもダメ、また取り過ぎてもダメ。また個人の好みはバラバラ……なので、『誤魔化す』んです」

御坂「誤魔化す……?」

佐天「香辛料を振って臭みを取ったりー、調味料と一緒に煮込んだりーの。かくも先人のお知恵は素晴らしい訳であります」

御坂「いやあの、誤魔化すって子供じゃないんだから」

佐天「何を仰いますか!?スイーツの付きものの甘いバニラの香料っ!あれなかったらただの甘いだけ食べ物になってしまいますよっ!?」

佐天「他にもカレーのガラムマサラ!――ってF○4に出て来そうな名前ですが――他にもソーセージ!お好きですよねっ!?」

御坂「いや特に――はいっ!好きよねっ!」

佐天「そのソーセージの語源の説の一つには、『セージという香辛料を使っている』というものもあるんですよ!」

御坂「あ、それは知らなかった。トリビアよね」

佐天「味を美味しくするのも大切です!そしてまた素材の味を生かすのも必要でしょう!ですがっ!」

佐天「まさに狼と香辛○!人類の黒歴史は香辛料や犬耳っ娘と共に在った言わざるを得ません!」

御坂「佐天さん、包丁持ったままふざけないって約束したけど、あれってあたしだけにペナルティがあるの?佐天さんはないのかな?」

佐天「ま、そんな感じなんで胸肉の下拵えをちゃちゃっと」

佐天「まずは肉を覆ってる皮を外します。あ、ついでに脂肪も包丁で切りながら剥がして下さいねー」

御坂「あ、切っちゃうんだ?」

佐天「手で外してもいいですが、それはもう地味で手間暇かかりますし。何つっても夏場は人の体温でお肉の温度が上がります」

佐天「流石にそれで食中毒には”まず”ならないでしょうが、傷む可能性もありますので手早く下拵え!基本です!」

佐天「あっとっはー、お肉から薄い膜――筋膜を外して、やっと本体を切ります」

佐天「こう、斜めに切る”削ぎ切り”という技法ですね」

御坂「……何か違うの?」

佐天「乱切りとかでもそうなんですが、主にお肉の外側の面積を増やすんですよ。真っ直ぐに切るより、斜めに包丁を入れた方が広いじゃないですか?」

佐天「なので火の通り方が違います、確実に」

御坂「メモメモ」 パシャッ

佐天「それでは一口大に切りましたー。次は適当な大きさのボウルへみりんとお醤油を入れましてー」 トポトポトポトポ

佐天「ここに浸します。あ、みりんがなければ料理酒で」

御坂「アルコール……うーん?」

佐天「火を通すのでアルコール分は蒸発しますし、なんつってもお酒で香りを付ける料理は洋の東西を問わずに多いですよー」

佐天「お菓子にワイン入れたり、リキュールで香り付けるのも一般的――ってどうしました御坂さん?」

佐天「なんで膝を抱えてキッチンの隅へ移動しようとしてるんですか……?」

御坂「あぁうん、女の子に生まれてきたのに女子力の差がね、ちょっと……」

佐天「気を確かに!?あくまでもあたしがお料理好きなだけですって!御坂さんも勉強すれば必ずきっと!」

御坂「そ、そうかな?下拵えの時点で『あ、めんどー』って思ったあたしでも大丈夫かな?」

佐天「それは色々な意味でアウ――じゃないです!まだ頑張れます!これからが勝負ですから!」

佐天「苦しい時には楽しい事を思い出してみて下さい!御坂さんの努力が実った日の事を考えれば面倒な事でも頑張れますって!」

御坂「楽しい事……?」

佐天「あー、ほら。あるじゃないですか、こう何回か彼氏(予定)さんチで手料理を披露していくウチにですよ」

佐天「ついつい話し込んじゃったり、思い通りに進まなくて遅くなっちゃう時が」

御坂「それがどうしたのよ?」

佐天「そうですねぇ――『なぁ、御坂もう終電も終っちまってるよな。だから――』」

佐天「『――今日、泊って行けよ』みたいなみたいなっ!?」

御坂「『あ、タクシー呼ぶから』」

佐天「えっとですね、まず御坂さんはご自分のポジがツッコミである事を思い出して頂きたいんです、はい」

佐天「あたしのボケを潰すのもどうかと思うんですが、上条さんの同感力以前の問題で、御坂さんの対応も大概ですよね?違いません?」

佐天「フツー、ここは!こ・こ・はっ!顔を真っ赤にして照れながらも」

佐天「『へ、変な事したら責任取って貰うんだからね!』と言うのがスジじゃないんですかっ!?」

佐天「こう、するなとは言わずにっ!遠回しに『オッケー』的なサインを送るのが……ッ!!!」

御坂「えっと、佐天さん?中一よね?中一でその発言は、問題じゃないかな?」

佐天「そして夜中に『なんで本当にしないのよ!?』って逆ギレして、薄い本的な展開になるまでがテンプレですねっ!」

御坂「いやだから、佐天さんも大概よね?主にそういうとこが」



――学園都市 貸し料理室

佐天「てな訳で半日程調味料に漬けた訳ですが!」

御坂「何かもう時系列がツッコミのも嫌なぐらいに雑なんだけど……」

佐天「次に茶碗蒸しの液を作ります。正式名称は知りませんが蒸し汁で統一します!」

佐天「水で戻したシイタケの漬けた汁をボウルへ取りまして、ここへ卵とお出汁とみりんをプラスしてですねー」

御坂「あ、ごめん。さっきから気になってたんだけどね、みりんってみりんよね?みりん”風”調味料じゃなくて」

御坂「お酒ばかり使って大丈夫なの?酔ったり的な」

佐天「大抵は火を通せばアルコール分は蒸発します。あー、アレですか」

佐天「一部の生麺・生パスタ類の中には、出荷の際にアルコールと一緒に密封して殺菌してるのもあるんで、まぁ心配は要りませんよ」

佐天「では卵をボウルへ直接割る――のは、ダメですよ?個人的にはお勧めしませんからね?」

佐天「特に片手でクシャッと割って格好付けたいのはダメ!ゼッタイ!」

御坂「なんでよ。何かプロっぽくて格好いいじゃない」

佐天「殻、入るんですよ。スッゴイ上手くないと」

御坂「あー……」

佐天「ていうかフツーは角っぽい所で割っちゃいますよね?それでも結構殻は混じるんで」

佐天「一個一小さな容器へ割り入れ、殻が入っているかどうかをきちんと確認するのが大切かと」

御坂「えー……面倒じゃない?洗い物も増えるし」

佐天「……料理は、愛情……ッ!!!」

御坂「!?」

佐天「テメー一人のために作るんだったらともかく!大切な人のために作るのであれば手間暇惜しんでどうするんですか!」

佐天「しかも卵料理なんてコレステロールの関係と健康ブームの影響で毎日割る訳ではなく!」

佐天「折角作ったお料理が、卵の殻入ってて台無しになる方がなんぼ面倒かっ!」

御坂「……」

佐天「……あ、すいません。つい熱くなっちゃいました。ウチのママがアレなもんで」

佐天「いやでもですね、こう、たかが一手間惜しんで台無しにするよりか、ましてや」

御坂「そんな……愛情なんて……!」

佐天 ピッ

佐天「『――あ、ごめん初春?今ちょっと忙しいかな?』」

佐天「『ダメ?来れない?あー……だったら近くにツッコミの、うん、スキルが高めの人は』」

佐天「『いやちょっとボケ一人に乙女一人で……うん、うん、非常事態。かなり』」

佐天「『あたしがツッコミに回るぐらいだから、深刻って言うか、話がね、とにかーく前に進まない』」

御坂「な、ないわよ愛情なんて!そんなにはねっ!」

佐天「……なんだろう、こう、上条さんが『ツッコミで喉が枯れた』というのは比喩表現だと思っていたんですが、あながち誇張でもないような……」 ピッ

佐天「あの、御坂さん?」

御坂「つまり――」

御坂「――美味しい料理は愛情がバレるって事ねっ!?」

佐天「いえ、それ以前に足繁くメシ作りに行ってる時点でダダ漏れだと思います。ダダ分かりっていうか」

佐天「てかまだ下拵えが終ってないので帰って来て下さい」

御坂「――ハッ!?あたしは何を……!?」

佐天「大体いつも通りでした……で、卵を割る話でしたっけ」

佐天「卵は茶碗蒸しの人数分用意しつつ、蒸し液の元はシイタケの戻し汁をベースにみりんと出し汁or醤油で味を調えます」

佐天「卵が入る事を考慮するんで、味は濃いめに。尚且つ鶏肉からも塩分出ますんで、そんなに過剰なまでに辛くはなくっと」

佐天「それぞれを同じボウルに入れ、よくかき混ぜて……これで蒸し汁の用意は完了です」

御坂「えっと、後は蒸すだけ?」

佐天「あ、いえその前にトッピングですね。ほら、茶碗蒸しにギンナンとかカマボコとか入れるじゃないですか?」

佐天「今回はよくある素材でエノキと水から戻したシイタケ、後はカマボコを入れます」

御坂「カニとかエビ、ギンナンも入れるみたいだけど」

佐天「嫌いじゃないですが、加工してない魚介類を入れるとそっちがメインになりがちですので、今回は素朴な食材で行きたいと思います」

佐天「家計にもお優しいんでサラリーマンには好まれますしねっ!」 チラッ

御坂「べ、別にあたしが働くし!」

佐天「上条さんが旦那様かはさておくとして、御坂さんのご家庭はそうなりそうですよねー……って、まぁ用意した具材をっと」

佐天「シイタケはまず石突きの所をちょんっと切りまして、笠の部分が下に来るようにした後、1〜2ミリぐらいの間隔で切って」 トントン

佐天「エノキは同じく石突きから土の付いている部分を切り、軽く水で洗ってから」

佐天「ざくざくと頭・身・お尻と三分割にします。あ、食べやすい大きさですんで、まぁお好みでどうぞ」 ザクザク

佐天「カマボコは板から外してカマボコ状に切った後、一枚をこう、まな板に載せてですね」

佐天「真ん中辺りに、包丁を斜めに入れま……すっと。注意して下さいよ?ここ手を切りやすいですからね?」

御坂「斜めなのは火の通りを良くするため?」

佐天「ですね。ちなみにシイタケは味、エノキは食感、カマボコは彩りを良くする効果があります」

御坂「前の二つは納得だけど……彩り?必要かな?」

佐天「アメリカでよく売ってるブルーライト色のケーキ、食べたいと思いますか?」

御坂「大切よねっ!彩りはっ!」

佐天「そして下拵え最後の具材、三つ葉をよく洗い、これもまた一口大に切ります」

佐天「これはお肉と卵の臭みを取りながら、彩りを良くしますんで、他は入れなくてもこれだけは入れて下さい。絶対に」

御坂「やっと下拵えが終った……」

佐天「まぁ確かにメンドイかも知れませんが、他のお料理でも大なり小なりこのぐらいの手間はかけますし」

佐天「後は具材をお茶碗へ入れて蒸すだけですので、難しくはありませんよ」

御坂「あー……揚げ物と違う訳かー」

佐天「っていうかこのレベルで挫折していては、ご自宅でお菓子は作れませんっ」

御坂「そうよねっ!頑張るっ!」

佐天「とはいえ家事スキルが上手くなりすぎると、独りで生きていく癖が付いてしまってですね」

御坂「聞きたくない!そんな切ない話は!」

佐天「それでは蒸す前にお茶碗へ入れましょう。まずは鶏肉を一番底へ引きます」

御坂「順番ってあるの?火の通りやすい順?」

佐天「あーいえ、蒸し料理なんであんまそういうのは気にしなくていいんですが、こう竹串を刺す関係で」

佐天「基本一番ナマだとヤベェってんのか鶏肉ですからね。それが一番上に来れば、別の肉が底で生煮えだったりする場合が」

御坂「言われてみれば……専門店の茶碗蒸しも、こう、階層的になってたわね」

佐天「んで次は刻んだシイタケ、カマボコ、エノキ、そし一番上に三つ葉を乗せましてー」

佐天「蒸し汁をお玉で少ーしずつ入れ、隙間が空かないように上まで入れて……っと、これでようやく下準備が終わりですよ」

佐天「後は蓋をして温めた蒸し器へ入れ、大体2〜30分蒸せば完成です!やったね!」

御坂「きちんと蒸せているかの判断は?」

佐天「取り出して竹串をプスッと刺します。そうすると一番底のお肉に当たるんで、その堅さで判断して下さい」

佐天「ちなみに蒸しすぎると具と多少剥離しますけども、生煮えになるぐらいでしたら徹底的に蒸して下さい!」

御坂「……わかったわ」

佐天「尚、ご家庭に蒸し器がない場合、お茶碗が入るぐらいのお鍋を用意し、その中へ水を入れて閉める事で蒸し器の代わりにすることも可能です」

佐天「注意点としては……あぁどちらの場合でも、蒸し器の中の水が完全に蒸発しないよう、適度に水を補充する事でしょうかね」

御坂「はいっ、質問です!」

佐天「はい、御坂さん」

御坂「さっき言ってたプリンの作り方は?具材と蒸し汁を変えればいいの?」

佐天「ですねー。本場イギリスのプリンはオーブンで焼いてましたけど」

御坂「え!?どうやって!?」

佐天「あ、いえ、ですから簡易蒸し器と同じ要領で。オーブンの中に水を張ったプレートを入れて、その中へプリン液を入れたプリンの容器を入れるんです」

佐天「なので簡易型蒸し器の方がよりオリジナルに近いっちゃあ近いですが……」

御坂「……ですが?」

佐天「弟のメル友はお米が入ったプリンこと、ライスプティングには最後まで馴染めなかったそうです」

御坂「文化の違いよねー、それは」

佐天「――と、言う訳で!20分経ちましたが!」

御坂「あ、あれ……?また不自然な時間経過があったような……?」

佐天「見て下さい御坂さんっ!この綺麗な茶碗蒸しを!」 ドヤァッ

御坂「学生でも作るのねー……意外と簡単だったし」

佐天「ではどうぞ召し上がってみて下さいな!」

御坂「……」 モグモグ

御坂「……おいしい、わね」

佐天「ていうかぶっちゃけ失敗のしようがないって言いますか。流石に炭化する熱くはなりませんし、まぁ調味料に気をつけて下されば、えぇ」

御坂「えっと、茶碗蒸しはどうかと思ったけど、なんだったらプリンでもいいのよね?もっと軽めに」

佐天「あー……やっぱり差し入れ系にチェンジします?まぁそっちから徐々に外堀埋めてった方が、堅いは堅いですけど」

御坂「べ、別にヘタレた訳じゃないんだからねっ!」

佐天「御坂さん、ツンデレの使い方間違っています。本当にヘタレただけですから」

御坂「いやでも本当に良かったー、佐天さん。お料理を教えてくれる友達がいて」

佐天「何を仰いますか。あたし達友達じゃないですかっ!」

御坂「いやでも、さ?アイツにフラグ立ってない子って中々いないなのよねー」

佐天「え?」

御坂「……えっ?」



MMR(御坂美琴の料理教室)第01話 「茶碗蒸し」 −終わり−


(第二話へ続く)

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