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Clock(trial)

MMR(御坂美琴の料理教室) 残暑編 「食中毒」

 
――風紀委員 詰め所

微細「……」

警備員「あなたにはいくつかの嫌疑がかけられているわ。微細乙愛さん、で、合ってるわよね?」

微細「……」

警備員「読み上げましょうか、規則だしね」

微細「……」

警備員「まずは火星との通信チャンネルの違法な発信。既存の通信施設へ割り込んでのやりとり、まぁぶっちゃければハッキング」

警備員「重要なデータには手をつけてないっていっても、犯罪は犯罪よ。この時点で二桁に及ぶ違法行為と、そこそこの額の訴訟」

警備員「……なん、だけどね。これはあなたの学校が肩代わりしてくれるっていうし、大した問題にはならないみたい。良かったわね?」

微細「……」

警備員「でもって次は学内の外付け保安部――ってゆうか傭兵集団雇ってドンパチ」

警備員「警備員のコスプレ用意させて、どっから装備調達したの?そっちが興味あるわ」

警備員「街中で派手に誰かとやり合ってたようだけど……ま、その相手がね、被害者って人が見つからなくってさ?」

警備員「精々巻き込まれてスタングレネードの煙吸っちゃった子だとか、デイスプレイしてた商品台無しにされたお店とか、まぁそのぐらい」

警備員「傷害と器物損壊、ではあるんだけどこっちもまぁ厳重注意ってことで落ち着くわね」

微細「なら――」

警備院「――に、プラスしてどっかで見たことあるよーなないよーな、気がついたら側にいるようないないよーな」

警備院「気がついたら集合写真に写り込んでいる、見覚えのあるツンツン頭があなたにシバかれていた、みたいな?」

微細「あー……」

警備院「や、うん、あのね?被害もないし届け出もないし、なんて言っても未確認!そう、未確認だし!」

警備院「だから、大した罪には問えないし、問うつもりもないんだけど――」

警備員「――まぁ、とりあえず学外追放でいいわよね?」

風紀委員「待って下さい。超待って下さい。そんな権限風紀委員にありませんから」

風紀委員「てか最後の余計なのでドラ何枚乗せたんですが?未確認とか、大した罪にはとか言ってるわりには振り切っちゃいましたよね?」

風紀委員「私怨ですよね?まさかのスペイン宗教裁判もびっくりしてますよ、きっと?」

警備員「あ、あたしが本気出したら学生の一人二人トバせると思うの!」

風紀委員「御坂さんはそんなこと言わない。私の知ってるお友達の御坂美琴さんはそんなこと言いませんねー」

御坂(警備員)「いい、初春さん?確かにあたしは御坂だけど、あなたの中にも御坂美琴はいてね、他にの人にもいるのよ!」

初春(風紀委員)「セカイ系発想法ではお門違いですよ?なんか二匹目のドジョウを狙っているのは分かりますが」

初春「あれはCMソングのキラーフレーズが異常に良かったし、前評判が皆無に近かったので大手のごり押し配役がなかったのも結果的に成功し」

初春「某佐天さんのお仕事仲間さんによれば、『ヒロインのたゆんを見に行く映画なんだ……ッ!』ってイヤーなご意見も少数ながら」

御坂「CMで繰り返し流れる場面がまさに、そこってのが業が深いわよね」

微細「……帰っていい?任意同行じゃなかったの?」

御坂「待ちなさいよ!話はまだ終ってないんだから!」

初春「終ってますよ?『処分保留のまま厳重注意』って終ってますからね?」

微細「ほら、プロの人もこう言ってるし」

御坂「違うわよ!あたしが言いたいのは法的な話じゃなくって、もっと倫理的な話よ!」

御坂「今回は被害者がほぽ居なかった(※ムチでしばかれたツンツン頭と営利誘拐されたシスターを除き)けども!」

御坂「一歩間違えれば大変な事態になってたかもしれないじゃない!運が良かっただけで!」

微細「魔術テロリストに襲撃されたのは私の方であってだ。情状酌量の余地はあるんじゃないかしら?」

御坂「それでもダメなものはダメよ!軽い気持ちで犯罪に手を染めないで!」

初春「ここまでは良い事言ってますよー。ボケるのはこれからですからねー」

御坂「……いい?あなたの田舎のお母さんは泣いているわよ!あなたがしたことを知ったらどう考えるかしら?」

チャチャーチャ、チャーチャーチャー

初春「突然謎のBGMがっ!?童謡でありがちなイントロ!」

御坂「……傷つけるのは、あなたが手を下した被害者なのは間違いないの。けど、他にもいるのよ!」

御坂「そう、実家であなたを信じているお母さんとかがねっ!」

微細「何の話?」

御坂「『――かーさんがー、よなべーをーしてー』」

初春「お前が歌うんかーい。ベタやないかーい」

微細「……帰っていい?任意同行じゃなかったの?」

御坂「まぁ、そんなこんなであなたには社会復帰や更生の機会が与えられているわ」

御坂「まだまだ若いんだから、これから頑張って行けばいいと思うのよね。うん」

微細「なんで私は年下の、そして恐らく警備員でもなく、風紀委員ですらない子に諭されているの?これも更正カリキュラムの一環?」

初春「ボランティア、ですかね。えぇはいボランティアしているのか、されているのかは不明ですが」

御坂「そんなあなたに更正のチャンスをあげるわ!それは――」

御坂「――あたしの力になりなさい……ッ!!!」

微細・初春「「……」」

御坂「な、なによ!別にあなたのためなんかじゃないんだからっ!」

初春「知ってます。てゆうかこの流れで『アッハイ分かりました』言うのは少数です。アレな人かヘンタイです」

微細「な、なぜか勢いでオーケーしそうになったが!どういう話よ!?」

初春「あ、この人もやっぱアレな人だ」

御坂「……おかしいわね?あたしが頼んだら大体二つ返事で引き受けてくれるのに……?」

初春「気をしっかり御坂さん!ここは常盤台じゃないんですからカリスマ補正は働きませんよ!」

微細「……あの、風紀委員の人?相談があるんだけど」

微細「唐突に三国志みたいに引き抜けかけられてるんですが、私はどうすればいいかな?」

初春「孔明さんのごとく、オワコン君主には居留守を使ってぶぶ漬けをお見舞いしてやれば良いかと思いますよー?」

御坂「さぁどうっ!あなたが決めなさいっ!」

微細「いやそんな、終盤で敵側から寝返るかどうか迷ってるライバルキャラ諭すような台詞使われても」

初春「ムダにプロっぽいですよ。えぇムダに」

御坂「……」

初春「御坂さん?おーい、みーさーかーさーんー?」

御坂「人脈がね、もうないのよ……ッ!」

初春「……はぁ?」

微細「人脈?第三位だったらコネなんていくらでもいるでしょう?」

御坂「いないわよ!こう見えても人見知りとかするんだからねっ!?」

微細「私相手に微塵もそんな気配はないわよね?」

御坂「これはプライベートじゃないからノーカンで」

初春「ちょっと何言ってるのか分かんないですね」

御坂「じゃ、じゃあ見なさいよ!あたしの交友関係を!」

初春「メモ……?」



※御坂美琴さんの人脈

○バディ枠
白井さん

○友人枠
佐天さん初春さん+婚后さんたち三人

○友達未満、知り合い以上枠
舞夏+小学生四人

○妹枠
1万人弱

○ライバル枠
牛女

○因縁枠
木原なんとか



御坂「――ねっ!?」

初春「何の同意を求められているのかが分かりません」

微細「ちょっ!?妹枠1万弱って多いじゃない!」

御坂「身内だし頼りにならないのよ!一万人もいるのに!」

初春「御坂さん?私も事情は多分知らないと思いますし、知っていても知らないフリをしてるんで結局知らないんですが」

初春「弁えましょう、ねっ?ギャグで済ませて良いこと悪いことがありますよ?」

御坂「このままじゃいけないのよ!離婚の危機なんだからねっ!」

微細「……中二じゃなかったかしら?」

初春「厨二ですよ?正しい意味で」

御坂「料理を頑張らないと……家庭がピンチなの!」

初春「何回でも言いますが気を確かに御坂さん!ここ数週間の間に10年ぐらいの記憶がありますが!それは幻覚ですから!」

微細「全く理解出来ない――が、何?あなたの料理が上手くならないと、何か齟齬を来すって?」

御坂「娘のね、幼稚園のお弁当がさ」

初春「はーいちょっとここで休憩入れますからねー?御坂さーん、こっちですよー?」

御坂「ノロで園が閉鎖されたのよっ!?どうすればいいのよっ!?」

初春「あー……小さいな子の施設ではよくあるって聞きますね」

微細「それでまさか?微生物の権威である私に知恵を借りたい、と?」

御坂「だって怖いじゃない!きちんとした食べ物屋さんでも当たるときは当たるんだし!」

微細「……まぁ、素人よりは詳しいとは思うが……」

初春「オーバーキルにも程があります。ググった方が早いじゃないですか」

御坂「そこをなんとかっ!お願いしますっ!」

微細「あー……っとコーヒーを貰えるかな。あとこれは保護観察処分中の点数になるんだろうね?」

初春「手心は加えません――が、一応防疫関係のお仕事をやられた、という事にしておきますので」

御坂「ありがとうっ!感謝するわっ!」

微細「最後に場所変えて。せめてファミレスでいいから」



――ファミレス

御坂「……っていうか素に戻って聞くんだけど、本気でヤバイの?食中毒って?」

初春「本当に今更ですよねっ!……あ、アシスタントってゆうか心配でついてきた初春ですけどっ!」

御坂「や、でもさ。去年ぐらいだっけ?焼き肉屋さんで連日報道が続いてなかったっけ?」

微細「多分レバーの生食禁止だとは思うが……食中毒と言ってもだな、原因は様々なんだよ」

微細「定義としては『飲食して有害物質を摂取したために起きる中毒』であって、例えばだね……」

微細「細菌――O-157やボツリヌス菌などの細菌が原因、ノロウイルスのようなウイルス、あとはフグやキノコみたいな自然毒、化学物質もそうよ」

微細「以上全て引っくるめて『食・中毒』と呼称しているのよ」

御坂「原因が違えば対処法も違うの?」

微細「フグとノロが同じはずがないだろ。原因が経口接種”だろう”と目されているため、一元的にそう呼称しているだけ」

初春「その中でもお料理、っていう日常に関係するのは細菌とウイルス、ですかね」

微細「私もキノコとフグ毒は専門外だし、化学物質の汚染についてもそれほど詳しくはない。興味があれば別の人に頼めばいいさ」

微細「さて、ではまず食中毒と言えば梅雨、もしくは夏に最も気をつけなければいけないと言われている。何故?」

御坂「そのぐらい知ってるわよ。細菌が増殖しやすい条件が揃ってるからでしょ?」

微細「そうだな。一番怖い、というか最も身近なのが細菌感染なのでメインにやっていくが……」

微細「細菌が原因の中毒は毒素型と感染型に分けられる。違いが分かる――か、だったらわざわざ聞きには来ないかむ

御坂「どっちも食べれば中毒になるのに、毒素と感染って型が分かれるの?感染型は毒素を出さない、とか?」

微細「いやその理解は正しくない。先入観を与えたのであれば謝るが」

微細「『毒素を発生させる細菌は毒素型』、『感染で体内増殖をした細菌が病原性を持つのが感染型』、なんだが……」

御坂「ややこしいわね!」

微細「二つの違いを述べる前に……あぁ後の方が分かりやすいか。具体例を出しながら勉強してみよう」

微細「まず黄色ブドウ球菌ぐらいは知っているか?」

御坂「あるっ……ような?」

初春「行楽シーズンでたまーに聞きますねぇ。ただ亡くなった方はあまり聞かない感じですけど」

微細「同菌が食中毒”で”人を殺すのは極めて稀。別件の耐性菌では時として猛威を振るが、今回のケースには関係無い」

御坂「……なんかそれも、その内ツッコんで聞きそうな日が来るかなー」

初春「元気出してください御坂さんっ!」

御坂「ってゆうか料理してないわね、ここんとこずっと!」

微細「はいそこ話を聞け。折角私が教えてやっているんだからな」

微細「誤った知識を持つのは危険ではあるが、無知も同じぐらいに危ないと知りなさい」

初春「……なんて私まで怒られてんでしょう……?」

微細「そちらの子が言ったように、この菌に関しては大した症状は出ない。下痢と吐き気ぐらいで、数時間もすれば収る」

御坂「それで『大した』ことじゃないの?」

微細「致命的でない分だけ全然だよ。で、この中毒のメカニズムはとても単純で、黄色ブドウ球菌がエンテロトキシン毒素をせっせと作る」

微細「それを摂取することで中毒になる。とても単純な話――を、解説したいんだが、その前に細菌の定義をしたいと思う」

微細「細菌は目に見えないがどこにも居る。空気中だって海水中だって、人の肌にも大量に存在する。ここまではいい?」

御坂「常在菌っていうのよね」

微細「そう。そして黄色ブドウ球菌も人を含む哺乳類の常在菌だ」

御坂・初春「「――は?」」

微細「ぶっちゃけあなた達も私も持っている。肌の表面や腸内にあるブドウ球菌の一種だよ」

御坂「だ、だったら今あたしが初春さんにキスしたらお腹壊すってこと!?」

初春「喩えが不穏かつ失礼ですよ!」

微細「答えで言えばNO。ただしそちらの子も黄色ブドウ球菌を有しているのは事実だし、私もあなたもそう。しかし発症はしない。何故?」

御坂「あ――濃度!」

微細「いい生徒だ。最初に言った通り、『梅雨や夏は細菌が繁殖しやすい』と」

微細「常在菌であるため、例えば料理を作ったら100%以上の確率で同菌は入るんだよ。タチの悪い潔癖症を煽るのでもなく、純然たる事実として」

微細「ただ普通は発症しない。黄色ブドウ球菌が人に有害な濃度、というか量まで増えるまで放置しないから」

初春「だから夏場はお弁当に注意しないといけない、ですか?」

微細「そうね。勿体ないと思っても危険な食べ物には手を出さない、当たり前だけど」

御坂「あ、はい質問。細菌だったら殺せるわよね?加熱すれば――」

微細「それが”できない”のが毒素型の特徴だよ。黄色ブドウ球菌”は”加熱殺菌で殺せる」

微細「しかし菌が生み出したエンテロトキシン毒素は熱を加えても無害化されない。食品に残って悪さをするの」

御坂「加熱でもダメなんだ……」

微細「同じ毒素型のボツリヌス菌の毒素は加熱でほぼ無害化できる。だから決して無意味なんかじゃないわ」

微細「傷んでしまったものはどうしようもないので、最初から細菌の繁殖を防ぐ方法で防疫が可能と言う事でもある」

初春「常在菌ですもんねぇ。避けようがないですから」

微細「特にボツリヌス菌は細菌兵器として研究されている歴史があり、手軽かつ致死量はとてもヤバイ事になっている」

微細「しかし加熱すれば容易に毒素が無害化されるため、致命的ではなく……あ−、それとこれ言うと怒られるんだが」

御坂「またなんか変なこと言うんじゃないでしょうね!?」

微細「少し前に亜硝酸ナトリウムが発がん性物質であり、『毎日ソーセージやペーコンを食べていると癌になる!』という記事があったでしょう?」

御坂「ドイツが国あげて反論してたわね」

微細「その食品添加物である亜硝酸ナトリウムがね、ボツリヌス菌やO-157の増殖や感染を抑えている、というデータが」

御坂「何事も使いよう、なのかしら……?」

微細「次に感染型なのだけどね。こちらは体内へ入った細菌が繁殖し、人体へ悪い影響を与える」

初春「インフルエンザウイルスみたいですよね」

微細「細菌は”生物”とされ、ウイルスは――」

御坂「まだ生き物かどうかの判断も分かれてるのよね」

微細「核酸とタンパク質の殻だけの存在が生物と呼んでいいのか、私も興味深くはあるけど……その前に感染型よね。生きている間に結論は出ないだろうし」

初春「そんなに難しいんですか?」

御坂「生物か無生物かをハッキリできれば、その翌年にノーベル賞貰えると思うわ。かなりマシで」

微細「ウイルス談義は忘れなさい。今は生物の時間だから」

初春「それもなんか違うかと……」

微細「細菌は生物、そして生物である以上繁殖だったり自分の同族を増やすのに忠実よ」

微細「だから人の腸内のような快適な空間に根を下ろして、せっせと繁殖するわ。これは他の細菌でも同じ、腸内フローラ」

微細「でも中には繁殖しながら毒素を出すものが、それらが中毒を引き起こしているだけの話」

御坂「……食べなければ、感染しない?」

微細「そうなんだけどね、まず無理。感染型の腸炎ビブリオは”海水”の常在菌よ」

御坂「海水にもいるの!?あんな塩辛いのに!?」

微細「甘い。むしろ塩に適応して塩分を好む細菌だっているわ。っと他にも家畜や生乳の常在菌のカンピロバクター」

微細「卵や鶏肉に含まれるサルモネラ菌。牛の大腸に必ずいるとされているO-157とかね」

初春「……今のお話を聞くと、御坂さんは既に海の水を飲んで感染してるんじゃ……?」

御坂「どうしようっ!?……ては、ならないわよね、きっと」

微細「どうしてかな?」

御坂「毒素型と同じで、一定の濃度にならないと発症しない、から?」

初春「海水浴行った人間が全員発症してたら大変ですからねぇ」

微細「話をきちんと聞いていてくれたようで嬉しいよ。結局は、結論は、とどのつまりは”そういう”話なのよ」

微細「人には耐性があって健康状態で病気にかかりやすくなったり、免疫力が上下するわけさ」

微細「同じものを食べて全員が発病するのは”感染型食中毒”ではまずない。体力のない子供や老人と大人は違うわけね?」

御坂「んー……割り切るのは大切だし、不必要に潔癖になるのも返ってダメっぽい気がするんだけどさ」

御坂「ただ、それだと、つーか個人が持つ体力や抵抗力云々じゃ説明がつかないことがあるわよね?」

微細「それは、どういう意味で?」

御坂「食中毒とは少し違うかもだけど、蕁麻疹ってあるじゃない?アレルギー起こして痒くなったり、腫れたりするの」

御坂「アレも体質によって、体調によって出たり出なかったり話もあるんだけど、やっぱり左右されるのは――『量』らしいの」

初春「量、ですか?」

御坂「うん。あるローカルテレビ局のタレントの人がね、ヨーロッパ行って白身魚食べたんだって」

御坂「その人は元々アレルギーあったらしいんだけど、体調が悪いときぐらいしか出ないから、まぁいいかって食べたら」

御坂「……翌日には『お前誰だよ!?』っと顔がパンパンに」

初春「アレは日焼け止め……いやなんでもないです」

御坂「同じように海水浴行って海水の中の感染型中毒菌?貰っても、殆どの人は発症しないじゃない。てかあたしも知らなかったわ!そんなんあるなんて!」

初春「まぁ、知らない=発症するリスクは無視できるぐらいのレベル、ってことですからねぇ」

御坂「ただそれでも、年に何人かは発症してるってことはよ。その人たちがフツーに海水浴するんじゃなくて、何か特別なことをして発症リスク高めてるんじゃ?って」

微細「魚だよ」

御坂「魚?」

微細「その場で釣ったのを捌いて”海水”で洗って食べる――そうすれば感染リスクが高まる」

微細「また美味い美味いと同じように、似たような方法で食べ続けていれば蓄積されるわけで以下同文」

微細「よく言うでしょ――『生魚に当たった』って」

御坂「あぁ!そういう!」

微細「同じものを食べているのに、一人だけガツガツ食べてた人だけがお腹壊したりするのは”そういう”ケースがあるわ」

微細「勿論、同じように食べても体調や体質によって発症したりしなかったりだから、確実に”当たる”のは少ないわね。ビブリオ菌の場合は」

初春「……お刺身、駄目なんですか?」

微細「ビブリオ菌は真水に弱いから、軽く洗っただけでリスクは無視できるぐらいになると思うわよ?」

御坂「あ、簡単なんだ?」

微細「その簡単な一手間を惜しんでね、当たるって人がそこそこいるの。激しく注意して欲しいわ」

微細「菌はどこにでもいるし、発症のリスクは誰だってゼロじゃないのよ。体調の良いときには何ともなかった常在菌でも、弱ったところに日和見感染するわ」

微細「海水を口に入れたことがない日本人ではいないぐらい数だとは思うけど、ほぼ全員が発症していないのはリスクが無視できるぐらいに低いから」

初春「フツーに生活していれば問題ないってことですか」

微細「余計な事をしなければ、まずは、ね」

御坂「えーっとね、これ言っちゃうと不謹慎かもだけど、この間もあったわよね」

御坂「誰の何が悪いのか確定していないから、具体的には言わない――けど、あれもまだ原因が見つかってないっ、てことは」

微細「O-157は牛の大腸の常在菌とされており、牛自体に悪影響は与えない」

微細「が、人へと感染することによって非常に危険な毒素を出すようになり、場合によっては抗生物質が効かずに対処療法」

微細「要は手の打ちようがなくなるほど重篤な病変をもたらしてきた」

初春「あのー、ホルモンなんかも覿面じゃ……?」

微細「充分に加熱をしなければ菌は残るしウイルスも残る。大々的に食すようになったのはここ100低度の歴史しかない」

微細「江戸時代に獣肉は禁忌とされてきたが、それでも多少は需要もあった」

微細「都市部では山鯨屋、農村部ではマタギ。彼らによって安全な食肉の扱い方法が確立されては来たんだが」

微細「その中でもホルモンは主として食されてなかった、つまり安全に調理できてはいなかった現実を見て欲しい」

微細「現代と違い、主に栄養状態の差から免疫力や抵抗力に格段の差があったことも忘れてはならないが」

御坂「で、この間のはそういうの、関係無かったわよね?」

微細「まだ感染経路が明らかになっていない以上、これは過去にあった例をあげようと思う」

微細「焼き肉店でも当然のように食中毒は起っているが、あるスプラウトが原因でないかとされた事件もあった」

御坂「モヤシ?」

微細「ダイコンの若い芽らしいが、その食中毒事件で他に加熱しなかったものが見当たらなかったため、消去法的に犯人だと断定された」

初春「O-157はスプラウトに感染するんですか?牛と全然関係ないっぽいんですけど?」

微細「スプラウトが生育しやすい環境が高温多湿なので、どこからか紛れ込んだ大腸菌が、という可能性が高い。というかそれしかないわ」

微細「農場の近くに牛関係の施設があったため、そこから来たのではないかと言われているが……」

微細「他の感染例としてはハンバーガー、アップルジュース、井戸水、レタス、キャベツなどが報告されている」

御坂「ムダに広っ!?」

微細「これは牛が飲んだ水を媒介に様々な所へ伝播するのがまず一つ。もう一つは感染者による二次・三次感染があるのよ」

御坂「あー……ノロウイルスと一緒ねー。前に近所の幼稚園がお休みになってたわ」

微細「まぁそれにも少し関係する話なんだがね。感染しても100%する訳じゃないと言ったろ?」

微細「ただ発症はせずに済んだとしても、保菌している事実は変わらないため、そこから感染が広がってしまうケースがある」

微細「だから大人は発症せずに人から人へと移っていき、子供に感染して初めて保菌していたと判明するのよ」

御坂「もう缶詰以外に信用できないわっ!」

微細「はい、極端に走らない。これから防疫の話に移るから、取り敢えずこれから私が言う事を守っておけば大丈夫だから」

微細「まず絶対条件にして誰もが否定出来ない前提が二つ。分かるかな?」

初春「菌はどこにでもいて、完全に防ぐのは無理、でしょうか?」

微細「そう。じゃあもう一つは御坂さん、分かるかしら?」

御坂「仮に有害な細菌を食べてしまっても全員必ず発症するのではなくて、人によって違う?」

微細「半分正解。”ならば”どうすればいい?」

御坂「量によって感染しにくくな、る?」

微細「まぁ正解かな。以上二つから防疫を考えてみれば答えは簡単に導き出される」

微細「厚生労働省のHPには三大原則として」


1.付けない
2.増やさない
3.殺す


微細「が、推奨されているわ」

御坂「2と3は分かるわ。冷たくして細菌が増えるのを防いだり、最初に除菌するんでしょ」

初春「付けない……うーん、料理人さんたちの検査をしっかりする、でしょうかねぇ?」

微細「それに近いかな。調理器具に菌がついてしまうと感染スパイラルが起きるからね」

微細「家庭でできるのは肉用とと野菜用で包丁とまな板を別に用意する」

微細「他にはまずサラダなどを作っておき、肉料理はあとからするだけでも大分違う」

微細「調理前の洗浄も、事故を起こしたくなければ適度にするべきだが」

微細「2は冷蔵庫かな。食材を菌が繁殖しにくい低温度で管理するのは基本であり、当たり前」

微細「そして調理した後も粗熱を取ったら冷蔵庫へ入れて置くべきだと」

御坂「お弁当は、無理よね?」

微細「梅干しのような殺菌・抗菌作用がある食材を入れる、傷みやすい水分の多いものは入れない。他にも粗熱を完全に取ってから蓋を閉める」

御坂「最後のはよく聞くけど、具体的にどんな意味があるわけ?」

微細「細菌が好むのは主に高温・多湿だから、温度が高くジメッとしたままのお弁当箱なんかは好みなんだよ」

微細「完全に加熱された物を入れるのも当然として、お弁当用の専用の保冷剤も売っている。この間100均で見たな」

初春「あ、佐天さんも使ってましたね。小さなビーズみたいなジェルをビニールで袋状に詰めたの」

微細「それをお弁当へ巻けば、まぁ半日ぐらいは保冷効果もあるだろう」

御坂「……これ、最初から佐天さんへ聞けば良かったんじゃ……?」

初春「御坂さん、しーっで!企画の全否定は打ち上げのときに伺いますからっ!」

微細「あと野菜も皮を剥いて良く洗え、だな」

御坂「あ、うん。そこはアニーのときに散々言われたから」

微細「3は加熱殺菌や除菌。しっかり火を通す、アルコールで除菌する、たまには料理器具を塩素系洗剤で洗う、が該当するだろうか」

微細「難しいことは何もないのよ。家庭のお母さんだったら誰でもやってるし、実際にスーパーで手に入る程度の道具で充分だから」

御坂「ママは……うんいやごめん、なんでもない、かなっ!」

初春「あのJDにしか見えず、生活感の欠片もないお母様ですもんね」

御坂「アレかな?初春さんはあたし家庭に問題あるって言ってるのかな?」

微細「はいそこケンカしない。まとめに入るからね、ここから大事だから」

御坂「まとめはまとめなんだし、もう聞くべきは聞いたんじゃないの……?」

微細「いやいや、一番恐ろしいのは知識が”ない”こと、そして二番目に危ないのは中途半端に知識が”ある”こと」

微細「昔……とある飲料メーカーで停電があったのよ。大体200分ぐらい?予備電源も無い時代でね」

微細「担当の人間がきちんと調べて、黄色ブドウ球菌の量が増えていると分かったわ」

微細「でも知識としてその菌は加熱すれば殺せる、知っていた。だから普段よりも加熱処理を加えて出荷したの」

微細「勿論その直前の結果で黄色ブドウ球菌の利用は問題ないレベルにまで減っていたわ」

初春「……はぁ。何か問題が――」

御坂「待って!それ、つーか黄色ブドウ球菌って毒素型細菌よねっ!?」

初春「人には感染せず毒素を生み出す、でしたっけ。それが何か」

御坂「菌は殺せても、毒素は残るのよ!」

初春「あ!」

微細「死者こそ出なかったものの、被害者は1万人超。殆ど軽傷だったみたいだけどね」

微細「生物の教科書以前に、辞書で調べれば載っているレベルの知識さえあれば防げた事件ね」

御坂「食のプロが関わってるのに?」

微細「やっているのは人だし、個人だから失敗するときは失敗する。良かれと思ってやらかすこともあれば、営利目的でも間違える」

微細「例えば、食肉を業者から仕入れました、はい出しましょう――とは、ならない」

微細「流通と加工の過程で表面に様々な菌が付着している。これは大量に様々な部位の食肉を捌くため、仕方がないことだ。これは分かるね?」

微細「店側はそんな肉を出せないし、何か事故があったら困る。だから表面を削る」

微細「その処理を加えることで生焼けのまま食したり、また毒素型細菌が付着していても発症のリスクを格段に減らせるのよ」

御坂「良心的なのね。へー、知らなかったわ」

微細「ただその削る行為、トリミングは義務じゃない。だからしない業者も店舗も当然ある」

微細「肉を削れば削るほどに利益は下がるんだから、当たり前と言えば当たり前だが」

初春「前に……『一度食中毒を起こした店は繰り返す』って佐天さんが言ってたんですが、これかー」

微細「焼肉屋――だけじゃなく、今では廃れてしまってはいるが、『町の肉屋さん』はどこにでもある」

微細「今でもスーパーに精肉コーナーは必ず付属しているが、大規模な食中毒で死人を出すのは必ず、とね」

御坂「……なんかもう人間不信になりそう……!」

初春「一部の例外が逸脱しすぎてるだけですから。普通は問題ないですし」

微細「感染を100%防ぐのは不可能よ。私たちの常在菌が体調次第で悪さすることもあるし、外食で全く関係無い方向から殴られることもあるし」

微細「ただね、リスクをゼロにするのは不可能だとしても、無視できるぐらい下げることは可能なのよ」

微細「調理方法とか怪しいものは口にしない、調理するときは衛生的に努めるだけで充分すぎるぐらいには」

微細「月に一回、梅雨や夏場には二週間一回ハイタ○するだけでかなり違うわ」

初春「あの、商品名はちょっと困るんですが」

御坂「どうしてもホルモンや牛刺しを食べたいときは?諦めた方がいいわけ?」

微細「トリミングの話でもしたけど、高い物は高いだけの理由があるし、安い物には安いだけの理由があるのよ」

微細「そこそこ実績があるお店へ行って、店員さんが焼いてくれるところであればまず安全」

微細「加熱処理が店頭でしてある、調理済みの総菜も問題は起きないとは思うわ」

微細「どこまで行っても自己責任では、あるけれどね。予備知識があるのとないのでは大違い」

微細「神経質になりすぎるのは論外。この地球で生きていくんだったら菌や微生物との共存は必要不可欠だから」

微細「……ま、余所の星でもそんなに変わらないみたいだけどね?」

初春「分かりました。本日はどうもありがとうございました」

御坂「ありがとうございました」

微細「で、これのギャラってのは」

御坂「好きなだけ食べていいわよっ!ジャンジャン食べて行ってねっ!」

微細「安っ!そして実質的なただ働き!」

初春「既に言いましたが、立場的には中学生ですんで。はい」

御坂「てかこれ、あたしが料理する日はいつになったら来るのよっ!?長いのよ番外編が!」

初春「や、まぁまぁ!大事ですからっ!基本的なことですしっ!」

御坂「あたしがイギリスの女子寮へ乗り込んで無双する日は……っ!」

初春「永遠に来ないと思いますよ?向こうはイタリア料理のスペシャリストや熊本の郷土料理のプロがスタンバってますんで」


−終−

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