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Clock(trial)

少し早く、しかしいつか訪れる挫折と妥協

 
――学園都市 雨が降り止まぬ公園 少し先の未来

上条「……」

???「――よォヒーロー。いいツラしてンじゃねェか」

上条「……お前」

???「そういうもンだよ、人ってェのは。救われねェし、救ってやる価値もねェ」

???「いいか?喧嘩してる奴らに話聞かせてェンだったら、まず全力でぶン殴れ。いいか?二人ともだ」

???「反撃すンのが馬鹿馬鹿しくなるぐれェに。前歯へし折って顔面腫れるまでよ、ボッコボコにすンだよ」

???「気が済むまで殴ったら、さァ交渉ターンだ。できるだけ理不尽な条件を可能な限り屈辱的に突きつけてやンだよ」

???「『こんな思いするんだったらもう二度と喧嘩なんてしない』って思わせて終了だ。オーケー?」

???「喧嘩が終わりゃァご近所は安心、ついでにストレス発散もできて大団円だぜ。なァ?」

上条「……」

???「話聞かせるだけの力すら持ってねェンだったらよォ。まず”そこ”に立ってすらねェンだわ、あ?」

上条「……行か、ないと」

???「オイオイ、話ぐれェしてもいいンじゃね?それとも話する時間すら惜しいのか、あァ?」

上条「……誰かが」

???「あァ」

上条「誰かを助けるのに、力が必要なのか……ッ?」

???「……」

上条「力が無ければ助けちゃいけないのかっ!?」

???「おーおー素晴らしい台詞だな。これ録音して売ったらバズるンじゃね。しまったわー、録っときゃよかったわー」

上条「俺は!」

???「そんなに都合のいい世界観が好きなンだったら、軍隊廃止して聖歌隊でも結成しろよクソスイーツ脳」

???「祈りと奇跡だけで世界が救われンだったら、じゃあどォして世界は泥まみれのままなンだよ?」

???「足りてねェのか?メシがなくて死ぬガキや親に捨てられて売られるガキ、そいつらが祈って願って祈祷してだけじゃ神様満足してねェって?」

???「クソ思想家が信者騙すパワーワードだろ。『奇跡が起きないのはテメェらの信心と寄付が足りてねぇ』ンだよってな。やっべ超ウケる」

???「助けは、来ない。神も仏も、ましてやヒーローなンてのは存在しねェンだよ、それは」

???「それはお前が一番分かってンじゃね?」

上条「違う!俺が誰かを助けた時のように」

???「――じゃ、なンで”アンタ”はそこにいンだよ?あァ?」

上条「……っ!」

???「それとも誰かと待ち合わせでもしてンのか?雨降ってンのに傘も差さずにベンチにうなだれてンの、超ウケるンですけどォ?」

上条「……」

???「なァ――なぁ、ヒーローさんよ、アンタ何したかったんだよ。何もできねぇクセに何でもしようとしやがって」

???「一人で何でもかんでもできる訳ねぇ。あぁまぁ全部が全部否定はしない」

???「たまたま歯車が噛み合って、運とタイミングに救われて”偶然”上手くやれちまうってのも、まぁあるよな」

???「だが……あぁ、だが、だ。それは不幸だ」

上条「不幸……?」

???「たった一回がな、一度っきりの成功体験が癖になって身上潰すってよくある話なんだよ」

???「ギャンブルで大穴に賭けたら大当たり。その後もそれが忘れられなくて当たるまで繰り返すクッソバカ」

上条「バクチしてんじゃねぇよ、俺は」

???「だよなぁ。もっとタチが悪いよなぁ?」

???「それで巻き込まれる奴らの身にもなってやれよ。自称パチプロの生活保護になってもアンタ一人で被害は済むが、他の連中に期待させるだけさせといて大失敗」

???「アンタは不幸だって言ってるが、本当に不幸にしてんのはどっちだよって話だ」

上条「……いいや、違う、違うよ。俺は不幸だなんて思ってない」

???「……」

上条「成功が失敗だなんてことはない、成功は成功だ」

上条「その後に躓いちまったり、一回の成功体験が仇になるのも……理解はできる。そういうのでダメになるって人がいるのも」

上条「けど、だからって言ってな!失敗するのが怖いから、成功が難しいからって諦めてどうする?」

上条「それは最初から失敗してるのと何が違う?サイコロも振らずにゲームを降りるのと、同じだ!」

???「賭けに出るからには相応のベットが必要ってだけなんだが……まぁいい。そんだけ大口叩けるんだったらやってみせろ」

上条「なぁ」

???「断る。メリットがない」

上条「まだ何も言ってないんだけど……」

???「私は言った。アンタに関わると周囲が”不幸”になる。そいつはたった今説明したばかりだし、それに」

???「仮にアンタが上手くやったとして、思い通りの成功を収めたとしたら――私にとっちゃそいつぁ”不幸”なんだよ」

上条「……嫌われてんな、俺」

???「眠てェーこと言ってンじゃねェぞ。アンタは敵だ、忘れてンだったら毎朝顔洗う度に思い出せるよォ、顔面に刻ンでやってもいいンだが?」

???「それに馬鹿のお守りは業務外だ。守るよりも攻めるのが筋だってパイセンにも言われたしな」

上条「何の仕事してんだ?」

???「運び屋だな。儲かってはいないが」

上条「あー……」

???「じゃあな、ヒーローさんよ。クソッタレな世界を変えられないまま野垂れ死ね」

上条「待ってくれ」

???「嫌だ」

上条「いや話だけでも聞いてくれよ!お前にとっても悪い話じゃないからさ!」

???「断っとくがお涙頂戴の人情話でホイホイ釣られたりはしねェからな。こっちは『悪党』なンだ。アンタが苦しめば苦しむほど手ェ叩いてはしゃぐ人種だ」

上条「分かってる!だから俺はお前に正式な仕事の依頼をしたい!」

???「仕事、なァ?想像はつくが、言うだけ言ってみろ」

上条「届けてほしい――”俺”を」

???「まァそンな感じだろォなァ。予想の範疇で面白くもねェが……で、敵は?」

上条「分からない」

???「……どこへ運べばいいんだ?」

上条「それも、まだ全然。見当もつかない」

???「…………ギャグか?どこで笑えばいいんだ。世界観シュール過ぎるだろ」

上条「あぁでも報酬は弾むぞ。俺が言うのもなんなんだけど」

???「貧乏学生の全財産なんて端金はいらん。あぁあと参考までに言っておくが、直近一回のギャラはこの国の平均年収程度だ」

上条「荒稼ぎしてんな」

???「福利厚生もないブラックな職場で、嵩む義体の維持費に消えっちまうけどな」

上条「そっか。そういう問題があるのか」

???「で、報酬は?鼻で笑ってや――」

上条「俺の絶望だ」

???「る……?んん?」

上条「お前は俺が嫌い。これは確定なんだよな?」

???「アンタだけじゃないがな。『Weeklyいつかぶっ殺す』リストでベスト5から下がったこともない」

上条「俺が失敗すれば嬉しいし超喜ぶ、で合ってる?」

???「そうだが」

上条「だったら俺に協力してくれ!」

???「はぁ?なんで嫌いなアンタの手助けさせられるんだよ、バカなのか?」

上条「俺が失敗すれば、俺が惨めったらしく絶望する様子が見られるんだぜ?」

上条「どれだけやっても、お前に助けてもらっても届かなかった、クソッタレな現実を変えることができなかった」

上条「そんな、バカな野郎の失敗を、この世界で一番近くで笑って楽しめるんだ。お前にとっちゃ価値があるだろ?」

???「――ハッ!」

上条「――ただし、お前が言ってることが正しかったらば、の話だ」

???「……」

上条「俺は失敗するつもりはない。だから、お前の力が必要だ……ッ!」

???「……くく、アハハいいなァそれ!面白い!そォいうの嫌いじゃねェよ!なンだアンタ一方通行よりかこっち側じゃねェか!」

上条「あっちもこっちもねぇよ。俺もお前も、一方通行も立ってる場所は同じだ」

???「そォかァ……絶望か、いいな!それはいいぞ!私が一番欲しかったもンだ!」

上条「……どう、かな?」

???「いいぜ、乗せられてやる。出し惜しみもなし、ワザとヘマをしでかす真似もしない。全力でこの依頼を請けてやろう」

???「お前が挫折する様子を特等席で見てやる!心が折れたその瞬間を嗤ってやろう、あはは楽しみだ!」

???「でもそれだけじゃない、分かってるよなぁ?」

上条「分かる?何が?」

???「お前は一人で解決するのを諦めた。お前が否定した”私”に縋って立ち上がったンだ」

???「お前が”私”の力へ頼る度、私が”槍”を振えば振うだけ――」

???「――綺麗事だけじゃ世界は動かないって思い知りやがれ」

上条「あぁ分かった。けどな、お前だって理解してんだよな?」

???「あン?」

上条「俺が、てか俺らが上手くやって全部成功したとする」

上条「そうしたらお前の持論が間違ってる、クソッタレの世界だって変えようがある、ってことになるんだからな?」

???「それは私の能力のお陰だろ。話聞いてたかテメェ」

上条「聞いたよ。だってお前自分の事しか話してなかったろ」

???「私の?」

上条「力が無ければどうもできないとか、関わった人間は不幸になるとか。あれ、お前が体験した話なん」

???「――黙れ。殺すぞ」

上条「いや……ごめん。余計な事言った。少なくとも助けてくれる相手に言うような事じゃなかった。本当にごめん」

???「……指摘自体がアンタの勘違いだからな。気を悪くしてはねェけどよ」

上条「まぁ、いいや。とにかく頼むなクロネコヤマ○さん」

黒夜海鳥(???)「――黒夜海鳥だ。次名前イジったらぶち殺すからな」


−続−

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