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Clock(trial)

上条「闇ちゃんねる・新春スペシャル……ッ!」

――オービット・ポータル芸能警備会社

鳴護「……あけおめでーす……?」 ガチャッ

マネージャー「明けましておめでとうございます。昨年中は大変お世話になりました、今年もどうぞよろしくお願い申し上げます」

鳴護「……」

マネージャー「何か?挨拶は人と人とを繋ぐ重要なコミュニケーションツールかと存じますが?」

鳴護「また年頭から!あたしが導入部分を担当するかと思うと目眩が……!」

マネージャー「数年前の『ツッコミ強化合宿』により、上条さん不在でも充分に回していけると分かっちゃいましたからね。マルチタレントの才能を持つが故に、です」

鳴護「そんな才能は超欲しくなかったです」

マネージャー「あ、これつまらないものですがお年玉です」 ドスッ

鳴護「なんか……凄い、立派で重そうな箱なんですけど。開けてみても?」

マネージャー「折りたたみ式の電動自転車です」

鳴護「値段設定がどうかしてませんんか?逆に何かこう、これを受け取ったら最後、ムチャ振りを強いられそうで恐怖すら覚えます」

マネージャー「いつものように事務所有志一同からのカンパになっております。どうぞお気兼ねなくご笑納くだされば」

鳴護「えー、嬉しいは嬉しいですけど、こんなお高そうな物をホイホイ頂くのはちょっと抵抗が」

マネージャー「『――あ、もしもしリーダーですか?ARISAさんが例のものを。えぇなんかお気に召さないようで』」 ピッ

マネージャー「『やっぱりリーダーの仰る通りでしたね。もっとゴテゴテっとした、軍事技術から転用した方が』」

鳴護「わーいうーれーしーなー!ずっと欲しかったんですよこれ!これがいいです!これでなきゃダメかもしれません!」

マネージャー「ご理解頂けて何よりです。我々もあのアホ、もといシャットアウラ社長を説得するのに多大な時間と労力を割いておりますので」

鳴護「……義姉のプランではどのような?」

マネージャー「オートジャイロが内蔵された、絶対に転倒しないタイプのバイクです。部隊によっては軽機関銃を積み込めるような感じの」

鳴護「いつもいつもご迷惑を……!」

マネージャー「まぁなんだかんだでレベル4の戦闘特化型能力者ですし、頭がちょっと残念以外には大きな欠点もないので」

鳴護「もしかして悪口言ってませんか?」

マネージャー「平時においてはそれで宜しいかと。で、ARISAさんはお休みはどうでしたか?きちんと休めました?」

鳴護「お陰様でゆっくりと。最愛ちゃんから『超イキのいいサメ映画入りました』っていう謎タイトルのメールが来た以外は、まぁ大丈夫でしたね」

マネージャー「……メールの中身は?この寒いのにサメ入荷してるんですか?」

鳴護「仁義的に昨年のサメ映画ならイジっておけるという事だと思います。ファストだったりあらすじだったり、著作権的に厳しいご時世ですので」

マネージャー「Me○2でしたっけ?珍しく地上波でバンバンCM売ってたのですか?」

鳴護「いえ、そうじゃなく、そうではなく……その、『コカイ○シャーク』っていうサメ映画が出たってだけの話なんですが」
(※実在する映画です)

マネージャー「戦慄を禁じ得ませんよね。昨今の薬物汚染に一石を投じる気概すら感じます」

鳴護「まぁそれは今年中にサメマラソンをするそうなので、人身御供に当麻君を差し出そうと思います。それであたしの精神が守られるのであれば」

マネージャー「心を病みますからね。さて、それはさておきまして新春ですがお仕事のお話です」

鳴護「タイマムシーンさんと絡むのは嫌です」

マネージャー「ではありません。ちなみに『やっぱりキャラ的にはサンシャインだな!』って芸名を再改名されました」

鳴護「一人だからね。しかもタイムマシー○さんはどっちもキャラ的にはそこまで濃いって訳でもないし」

マネージャー「という訳で本日はまともなオファーが来ております。旅番組ですね」

鳴護「あ、いいですね!そういうの待ってました!」

マネージャー「ショルダーレスの水着の上にタオルを巻いて温泉入る簡単なお仕事です」

鳴護「そこだけ抜粋するの止めてくれません?ありがちですけど」

マネージャー「賄賂払った企業を特集する旅番組です」

鳴護「偏見ですよね?今のところそういう疑惑はあるっちゃありますけど、表向きにはなっていませんよね?」

マネージャー「星○リゾートが提供してる旅番組で同施設の紹介をしているのってどう思いますか?」

鳴護「もう少しだけステルスしててほしいですよね。そろそろ手を出しすぎて倒産するんじゃないかと疑っていますけど」

マネージャー「まぁそれ言うんだったら各社のスポーツチームなんてそのものでしょうけど。残念ながらそのような景気の良い話ではなく、普通の旅番組です」

マネージャー「地方の温泉街へ行って軽く観光して立ち食いをし、温泉を入ってくるだけです。ARISAさんはそれだけですね」

鳴護「何かこう、言いようが微妙で漠然とした不安を感じますよね。てかそれってあたし一人なんですか?ほのぼ○茂みたいに、一人で回す自信はありませんよ?」

マネージャー「あぁご心配なく。あとお二人をお呼びすることになっておりますので」

鳴護「人数に、その人数に何故かドキドキするんですが……ご一緒する方ってどなたですか?涙子ちゃん?それとも変化球で秋沙ちゃんとか?」

鳴護「番組の予算を遣いきる感じでインデックスちゃんってのもアリですよね?」

マネージャー「あー……新人の方なので、多分ARISAさんはご存じでないと思うんですよ」」

鳴護「……一応、えぇ一応名前だけ聞かせてもらっても?」

マネージャー「それは現地で、というサプライズは?それでいいじゃないですか。別に拘らなくたってね」

鳴護「嫌な予感しかしません。頑なに拒否する時点でおかしいじゃないですか!」

マネージャー「上条当美さんと闇咲逢子さんです」

鳴護「なんて?」

マネージャー「ちなみに当美さんは漢字でこう書いて『サンセットスプラッシュ☆』と読むそうです」

鳴護「いやいやいやいや!こんな細かい設定はいらないよ!?もっとこう根幹的な説明を求めます!?」

マネージャー「なおサンセットスプラッシュは今から30年ぐらい前のプロレスっぽい格闘ゲームの必殺技でして」

鳴護「誰が知ってるの?『あぁマッスルボマ○のザラゾ○とコル○の共通必殺技だね!』って誰が分かるんですか?」
(※相手をつかんでから上・斜め上・左+攻撃ボタン)

マネージャー「ヴァンパイアがハンターする筐体に負けてひっそりと消えた徒花的なゲームです」

鳴護「そろそろ怒りますよ?」

マネージャー「これには複雑な事情がありまして、高度な政治的ディールを含むとも言いましょうか」

鳴護「つまり?」

マネージャー「闇咲さんから『少しヤバめの闇ちゃんねるでARISAを借りたい』との打診があったので、サンシャインさんを代理でモルグへ送ることにしました」

鳴護「酷っ――とは言い切れないね!当麻君が進んで犠牲になってくれるんだったらその精神は無駄にできないよ!」

マネージャー「まぁそれだけだと不誠実ですので、旅番組のロケという体裁で足と宿をこちらで持ちましょうか、というバーター的なお話です」

鳴護「……何か違うんですか?」

マネージャー「当初のあちらのご予定だと『車で移動、車中で一泊、取材して直帰』という涙が溢れるスケジュールだったので……」

鳴護「それは当麻君に良い事をしたと思います。てかなんでそんなに地獄の合宿みたいなことになってんですか」

マネージャー「闇咲さんが……『五体満足なら森の中で何年でも生きていける』というスキルをお持ちの方なので」

鳴護「当麻君だったら意外に適応できそうな……いや、可哀想ですよ。児童虐待です」

マネージャー「ですので、当事務所と致しましては折衷案としてこのようなプランを取らざるを得ない感じでして」

鳴護「いつも思うんですが、普通に断るって選択肢はないんですか?」

マネージャー「そうなりますと、結果的に上条さんがお一人で闇ちゃんねるの全企画を担うことになりますが」

鳴護「一瞬『まぁそれでもいっかな』と思ってしまったあたしは悪い子……!」

マネージャー「人は――心の中に誰でもオークを飼っているのかも知れませんね……!」

マネージャー「それが時として表に出てしまうかどうか、ただそれだけの違いなんですよ。たったそれだけの、ね」

鳴護「何か良いこと言おうとしてますけど、オークじゃ無理がありませんか?だってあたしの中にはオーク居ませんから」

マネージャー「あるイギリス人曰く――『イギリス人もフランス人もオークだったんですな……ッ!』」

鳴護「レッサーちゃんはいつも人生が楽しそうで羨ましいですよねぇ。たまーに満面の笑顔で泣いてるときとかあるけど、主にメシ関係で」

マネージャー「ギネスビールシチューは衝撃的でしたね。『なんでお前らギネス入れようと思った?』と考案者を絞めたくなりましたが」

鳴護「まぁ……世界には色々な文化があるから。あたし的には関わり合いになりたくないだけで」

マネージャー「タウナギも貴重なタンパク質なんでしょうね。見た目に反して美味しいという証言が」

鳴護「や、まぁそんな話はいいんですよ。それよりも当事者である方々はどこに……?」

マネージャー「前乗りして取材、という体裁ですね。時間的には車の中でしょうか」

鳴護「……今頃何話してんでしょうね。あの二人の会話が想像出来ないです」



――とある地方 某社製ステーションワゴンの車内

上条「『――超拝啓、上条当麻様』」

上条「『なんだかんだで昨年中は超お疲れさまでした。いや別に疲れてはないですけど』」

上条「『えぇと私の方からこうしてお便りを出すのも、超なんかこう違うような気がしないでもないのですが、まぁまぁ気になったのでメールしています』」

上条「『ご存じのように、私達”アイテム”のスピンオフが始まり、私がほぼほぼ主人公ポジにいますが超ごめんなさい。悪気は超全くありませんでした』」

上条「『いや断ったんですよ?私的にはえー、だし超乗り気じゃなかったのは間違いないんですよ?』」

上条「『ただ滝壺さんが予想以上に超やる気を見せて、フレンダもなんだかんだでアレな子ですし?麦野と付き合わされる感じで?超仕方がなく?』」

上条「『ただこの流れだと私が滝壺”さん”で、麦野にはタメ口なのが超気になりますよね?私は気になります』」

上条「『いえ、そういうことが言いたいのではなくてですね。あー、あれですよ。私もね、超鬼ではないので?スタッフさんに超聞きましたよ?空気の読める子なので?』」

上条「『”この業界にはもっと超ピックアップされて然るべき方がいるのでは?例えば長いこと主人公やってる人なんか超どうです?”ってね』」

上条「『”なんていっても人気投票で一位になったんですから、そっちやった方が超いいんじゃないですかね?”と』」

上条「『そうしたらスタッフさんが少し、でもないですね。超そこそこ沈黙した後、こう語りました』」

上条「『”――JCと男子高校生、選ぶんだったらどっちにしますか?”って』」

上条「『それ聞いたときには超納得しましたよ。だって男子高校生には等しく価値がないですもんね。あなたは悪くないです』」

上条「『比較対象がね、超悪いんじゃないかと。決してあなたに人気がないとか公式が数字イジってんじゃねぇかとか、そういうことでは決してなく』」

上条「『てかよくある陰謀論って超嫌いなんですよね。誰それが犯罪やってるとか、そういう不謹慎なの』」

上条「『もうそういう犯罪の証拠なり疑惑があるんだったら超警察行けよバーカ、お前らが朝から晩まで騒いでる方が異常だよっていうね』」

上条「『ですので、ねっ?上条さんも人気投票一位なんですから、当然スピンオフのオファーも――あっ』」

上条「『あー、アレですよね。超元気出してくださいよ。お互いに前向きになれば超道は拓けますから。自棄にならず』」

上条「『まぁまぁ決まった以上は超頑張りますんで、雑誌についているアンケートハガキでの応援ヨロでーす。あけおめでーす』」

闇咲「……」

上条「――正月の、第一発目のメールがこれだ……」

闇咲「文面で人を殺しに来ているな」

上条「バカ!俺のバカ!タイトルが真面目っぽいからって開封したのが悪かった!」

闇咲「じゃあいつもはどうしてるのかが気になるな。友人とは思えない殺伐ぶりというか」

闇咲「まぁ……あまり気にしない方がよかろう。私なんてランキング外だ」

上条「立場が!俺には立場ってもんがあるんですよ!?」

闇咲「……これから、きっとこれから何かあるのではないか?20周年なんだから、きっと」

上条「どうせ無理だよ!お、俺なんかJC四人組の足元にも及ばないんだからねっ!?」

闇咲「なんでツンデレ風に言った?そしてそれはただの事実では?」

上条「そして一番悔しいのは、この地獄のメールの内容に異論はないって事かな……ッ!!!」

闇咲「建前でも反論したまえよ。『別にユーザーは男子高校生でもついてくる』って」

上条「だって事実じゃねぇか!?」

闇咲「あー……いや、流行りの異世界転生モノなんかは男子、もしくは壮年の男性が多いんじゃなかったか?」

上条「あれ別に記号みたいなもんだから!どうせ表紙にはヒロインが一番デッカく描かれてるんだよ!俺知ってんだからな!」

闇咲「いや、しかしだな女子供には任せられない世界があるのもまた事実だ。丁度我々が行くような仕事とか」

上条「ケースによるな!『裏世界ピクニッ○』とか今はあるしぃ!」

上条「俺は、俺たちにはもう需要はないんですか……ッ!?JKJCがキャッキャウフフしてる画の方が良いんですかねぇ!?」

闇咲「落ち着け。動揺の余りカーブに突っ込みそうだから」

上条「『なんでそんなに曲がってんだよ!?――ってどうもありがとうございましたー!』」

闇咲「誰がカーブにツッコミを入れろと言ったか」

上条「これはもう俺がJCに転生――ハッ!?丁度良いことに俺は今同乗者と急な山道を走っている……!」 ニチャアァッ

闇咲「道連れはやめてもらおうか。今君を死なせたら確実に私の家族に累が及ぶ」

上条「いや、闇咲さぁ?去年も言ったと思うけどお前やってんの?今日の企画もそうだけど、話聞いたら年末年始も帰ってないって言うじゃん?」

闇咲「仕事だからな」

上条「イベント目白押しじゃん?クリスマスに正月に年末ジャン○だぜ?」

闇咲「君が宝くじを買っていることに驚愕を覚えているが、まぁそうだな。否定はしないが」

闇咲「ただ、年明けには関しては一年で最も穢れがないとされており、山ごもりをするには絶好の機会であるのも事実であってだな」

上条「二年連続でダメ亭主じゃねぇか!?もっと家族サービスしてやれや!?」

闇咲「冬に霊山に籠もって息吹、山の霊力を蓄えるのは古式ゆかしい修験者の行なのだが?」

上条「……あれ、お前ら明治政府に『山とかで修行するなよ』って言われなかったっけ?」
(※維新後、落ち着くぐらいまでは一応禁止)

闇咲「あったな。しかし守るとでも?」

上条「フリーダム過ぎんだよ。そりゃ禁止されるわ」

闇咲「しかしこればかりはな……あー、上条当麻少年。魔術師の頂点はどこにあると思う?」

上条「どこって……アックアとかフィアンマとか?神裂は……ゴリラパワーを含めて良いのか微妙ではある」

闇咲「それは正しい。話を聞くに天災レベルの術者に間違いない。それはいい。高校野球、プロ野球、そして大リーグと、同じ野球選手でもレベルは違う」

闇咲「例えば――日頃から食っちゃ寝を繰り返し、シスターどころか人間として如何なものかと思わなくもない少女も、私から見れば大リーグ選手に見える」

上条「まぁ、そうかもな。一時期は次々と襲ってきてたっけか魔術師」

闇咲「だがしかしこの闇咲、魔術師としては凡愚の一言。故に常日頃から精進を繰り返したとしても、所詮は器が知れている」

上条「そう、か?なんだかんだでインデックスの誘拐に成功したのってお前ぐらいじゃ……」

闇咲「では実際に君の目から見てどう思う?他の魔術師と比較して?」

上条「ガチで殴りあったわけじゃねぇから何とも言えない、言えないけども――まぁ、下じゃない。それは絶対に」

上条「かといって上位のアホみたいな連中、『なんだこいつ超ヤベェ!』って感じはしない。そこまで突き抜けた感はしないっていうか」

上条「ステイル辺りだったら完封しそうで、五和だったら相性でどうにか?建宮よりは……弱い、か?」

闇咲「意外にも過大な評価で気恥ずかしい。武闘派として知れた天草式の教皇代理に比べられたら、な」

闇咲「まぁ、だから、ではある。『突き抜けた』連中ではない以上、手持ちのカードで戦うしかない。よって日頃の研鑽に手を抜くなどとてもとても、と」

上条「え、なに?お前なんかやってんの?」

闇咲「副業で他の魔術師も適度に間引きしている」

上条「そんな裏の人間がご陽気に闇ちゃんねるとかやってんのか……!」

闇咲「まぁ、私が弱体化して、その役割を誰かが担当してくれるというのであれば、考えなくもないのだが」

上条「――そんなことないよ!お前は世界に一人しかいない!だから誰かの代わりとか言っちゃダメだ!」

闇咲「とばっちりが来そうになったらあっさり引いたな――というか正直、その天草式不在の影響が出始めている」

上条「イギリス行ったのが何か関係が?」

闇咲「まず日本の魔術師界で天草式は『ヤバイ』方だったんだ」

上条「いやいそんな訳ないだろ。話盛るなって」

闇咲「前にどこかの魔術結社が呪詛をかけた子供が保護されたんだよ、彼らに。そうしたらどうしたと思う?」

上条「呪詛キャンセルしてありがとー、じゃないの?」

闇咲「彼らが魔術結社ごと潰した。あぁ比喩表現じゃなくて物理的にもな?」

上条「なんて男前な……!」

闇咲「導火線がどこにあるのかが分からない。構成員同士の諍いぐらいならば、まぁそこまで大きな動きは見せないんだ」

闇咲「だが、時として採算度外視で、全員が死兵もかくや、という勢いで暴発するケースが多々あってな。だから『手を出すな』という意味で有名」

上条「あー……なんでも助けるからなー。心の底から尊敬はしてるが」

闇咲「私も君から話を聞いたときには耳を疑ったよ。『救いを求める者は絶対に助けるし、そうじゃなくてもそこそこ助ける』だからな」

上条「多分『おたくらの地雷ってなんですか?』って聞きに行けば教えてくれたぞ?だってあいつらの信念だし隠してる訳でもないし」

闇咲「まぁ――そういう彼らがいなくなって蠢動する愚か者がいなくもない、という所だろうな」

上条「あの……土御門さんは?陰陽術士で超有名な土御門さんは何もしないの?」

闇咲「昔はそれなりに、今は全く、かな。強い弱いで言えば確実に強い方だが、内部対立で組織がまともに動かないという噂も聞く」

闇咲「……まぁ、そんな下らない話はどうでもいい。楽しく闇ちゃんねるの話でもしようか」

上条「俺にとっては等しく嫌なんだよ。特に(※実話です☆)って楽しそうに言ってくるところなんかがな!」

闇咲「では趣向を変えて何か別の雑談、何かあったかな」

上条「ヤク×の出入りの話は聞きたくないからな?」

闇咲「だから私は反社ではないと何度言ったら分かる」

上条「反社会っていうよりか闇社会なんだよ。絶対に出て来ない闇の話」

闇咲「この間オカルト番組を見ていたら『現代に伝わる呪術師』という特集をやっていたんだが」

上条「待って?それでいいの?プロ野球の人がリトルリーグ観戦するようなもんだろ?」

闇咲「個人的には『野球盤で遊ぶ児童』ぐらいの差だと言ってほしいものだが。遊ぶのは勝手だが……まぁ、その話は後回しにしよう。とにかく興味があったんだ」

上条「また趣味が悪いっつーか……そんなん相手にすんなよ」

闇咲「断っておくが、別に魔術がどうというレベルの話ですらないからな?その大分手前の話でだ」

闇咲「『呪術請負人』というような触れ込みで呪いをかけるのを仕事としてやってる、そうでな。藁人形に針を刺したり鎌を刺したりして、という術式らしいのだ」

上条「あー、なんだっけか?ウシミツドキ?」

闇咲「多分言いたいのは丑の刻参りだと思う。頭にロウソクをセットして、藁人形を釘でカンカン打ち付ける作業だな」

上条「作業言うなや。てかアレって本当にやってたの?」

闇咲「丑の刻参り自体は有名かつ現代でもやっている人間がいる。フィクションではなく本当の話だ」
(※実話です)

上条「オイやめろ!?正月からそんなんテーマでやってくのか!?」
(※マジです)

闇咲「私がやっているのではなくてだな。貴船神社では『丑の歳の、丑の月の、丑の日の、丑の刻』に参拝すると願いが叶う、という伝承が存在する」

上条「なんでまた丑揃いなんだよ。丑さん大好きか」

闇咲「その時刻に貴船明神が降臨したしとされている。なので夜半に参拝するという習慣が平安時代ぐらいからあるにはある」

上条「……なんでそんなんが?」

闇咲「宇治の橋姫伝説だな。平安時代、嫉妬に狂ったある女房が貴船神社へこう祈った――『私を鬼へ変えて欲しい。妬ましい女を殺したいのです』と」

上条「あー……かけちゃったかー、願」

闇咲「それが原型となり、後に釘だの裸足だの黒牛だのという要素が付加されていった」

上条「牛?黒牛って何?」

闇咲「江戸時代の記述では一週間参拝、というか呪術を続けると最期に黒い牛が出てくるんだそうだ。それを跨ぐと呪術成功となる」
(※と明記されています)

上条「急にファンタジー要素が!?元々が牛要素多かったのにまた盛りやがったな牛!?」

闇咲「当然、本山である京都の貴船神社は夕方になったら戸締まりするため、入れないことになってはいる」

闇咲「ただその伝承があまりに有名で、全国の貴船系神社では丑の刻参りを敢行する暇人が後を絶たず」

闇咲「敷地内の木々へ勝手に藁人形を打ち付けていく被害が次々に。中にはご神木にする愚者もいて困りものだそうだが」
(※本当に迷惑してしているそうです)

上条「想像してください――真夜中に変な格好をした人が、トンカチと釘持ってウロウロしている姿を……ッ!」

闇咲「まさにそれだな。というか原型になった話では釘も藁人形も登場していないし、場所すらも違う」

上条「え、なんで?」

闇咲「『本当に鬼になりたかったら姿を変えて宇治川に21日間浸かれ』という話だったんだ。だから変な格好をして実行したというだけの話で」

上条「神様超怒オコじゃんかそんなん」

闇咲「だから『効果があるはずもない』という話に落ち着く訳だ」

上条「なんてクソ迷惑な伝説が……!」

闇咲「一応クラシカルかつ真っ当な呪術の一つだな。かなりねじ曲がってはいるが――と、いうかだな。根本的な話、丑の刻参りは誰か第三者に知られた時点で、呪い自体が本人へ跳ね返るという作用がある」
(※という設定。狂言や噺にある)

上条「だったら番組で映したら……?」

闇咲「ベーシックな術式であれば確実に失敗した上、術者本人と依頼者へ跳ね返るな」

上条「なんだろうな!テンション上がってきたぜ!逆にバカバカしくて!」

闇咲「まぁ実際に迷惑している人が多々いるのも確かだ。恨み辛みを否定はしないが、その労力を別方向へ転じるのをお勧めしよう」

上条「一番怖いのは人っていう教訓かよ」

闇咲「それに加えてその番組に出演していた自称呪術がド素人だという点はだな、鎌を使っていたんだ。鎌を」

上条「鎌ってあの鎖鎌の?」

闇咲「何故それが一番最初に出る?間違いではないが、草を刈るのが主目的の農具だな」

上条「え?でも鎌って怖くね?死神さんが持って襲ってこないか?」

闇咲「それは主に西洋の思想だな。元々鎌というのは豊穣のシンボルだ。実った麦を刈り入れるため、農耕神の象徴としてよく使われていた」

闇咲「なので王族や貴族の紋章として、時には国旗のデザインとして使われている」

上条「それはやっぱいつものアレか?」

闇咲「いつものアレだ。十字教の伝播と共に、旧い神々が邪神や悪魔に堕とされてシンボルも邪悪なものへと変わると」

闇咲「まぁ大概の場合、豊穣神は対となる冥府の神と同一視される場合があるため、死の神なのも事実ではあるが」

上条「はい、質問でーす!農業の神様が死神もってのはなんでですかー?」

闇咲「農耕は草を刈り麦を刈る。つまり命を支配していると解釈も出来る。ならば植物だけでなく人や動物もまた、ということだな」

闇咲「まぁそんな感じの鎌ではあるが、日本の場合だと善性寄りだな」

上条「そうなの?何か口裂け女かなんかが持ってなかったっけ?」

闇咲「それが近代のイメージだな。広い人口が農耕に携わっていた、もしくはすぐ近くにあった文化とは変わり、鎌は一部の人間ぐらいしか手にしなくなる」

闇咲「また海外のイメージが入り込んで、鎌=死神という概念が確立しそれに乗っかった形と言える」

闇咲「その証拠に少なくとも昭和辺りまでは鎌を持った怪異はほぽいない」

上条「いるじゃんか。カマイタチ三兄妹」

闇咲「『うしおとと○』のな。あれが”ほぼ”の方であり、鋭い鎌のように斬りつける怪異なので、鎌自体を持ってはいないんだ」

闇咲「それどころが確か……北陸辺りか。強風で悩まされている地域では、家の破風に鎌を設置して魔除けに使っていた」
(※風除合掌に散見されるなど。現代にも残っています)

上条「風除け?そんなん効果あるの?」

闇咲「物理的に意味は皆無だろうが、カゼ――病気の風邪は『風邪(ふうじゃ)』と書く。『病気は目に見えない何かが運んでくる』という概念があった」

上条「それを運んで来ていたのが……『風』?」

闇咲「そう。それを打破するのが『鎌』だな。あくまでもお守り的な信仰だが」
(※実在する風習です)

闇咲「また民話等でも鎌を怪異へ、主に山姥等へ投げつけて難を逃れる話もあり。以上のことから、私の知りうる範囲でいえば鎌は善性の存在であると判断している」
(※農村で身近にあった武器ですので)

上条「ちょっと意外。怖いもんだと思ってた」

闇咲「まぁ鎌自体が身近にある凶器だからな。子供が遊びで使っては決していけないのも確かである――し。その番組の自称術者が使っていた鎌がだな」

闇咲「ほぼ新品でバーコードらしくシールが貼られたような……」

上条「なんでだよ。ホームセンターで買ってんじゃねぇよ」

闇咲「というかそもそもの話だ。物事には『目的・過程・結果』が存在する。魔術如何に関わらず」

上条「またなんか長い前フリで悪口を言い出しそうだぜ……ッ!」

闇咲「事実だ。例えるのならば……『テストで良い点を取りたい・テスト勉強をする・それなりの点数を取れる』、というのが一連の流れになる」

闇咲「同様に魔術も『人を呪いたい・代償を支払う・それなりの結果が出る』となる。実際に成功するかは別にしてだ」

上条「上手く行くかは別にして、まぁRPGとかでもそうだわな。魔法使うのにMP必要だし」

闇咲「一言で言えば歪なんだ。代償が足りていない」

上条「足りてない?」

闇咲「『ダメージ9999で消費MP2の全体無属性攻撃魔法』」

上条「ヤベぇなそれ!?なんかイベント用で命削って使うとかそんなんだよ!」

闇咲「それと同じく、『人を祟って呪殺するのに釘打った程度で足りるか?』という話だ」

上条「いやいや、だってそれ呪いってそんもんじゃねぇの?魔術師連中が使うのだって理不尽だろ」

闇咲「多くの魔術師が使うのは神的存在だ。神だったり悪魔だったり、まぁ何かその他の強大な存在に縋って、という体裁を取っている」

闇咲「実在するかは別にして仏教の教典なんかはそのものだろう。仏陀の言葉や考えを記して、それが邪悪を払うという概念だ」

闇咲「対して――丑の刻参りは”軽い”んだ。素人が恨みを込めれば呪いが叶う?そんな安易な話ではない」

上条「でも有名っていうか、やってる人いるよな?簡単だっていう理由で」

闇咲「それ自体が落とし穴であり、同時に地雷でもあると私とは考える。君に説明してきた通り、丑の刻参りオリジナルは『誰かを呪うもの”””ではなかった”””』んだよ」

闇咲「宇治の橋姫伝説、貴船明神は『鬼に成りたかったら○○しろ』と伝え、そして女房が実行して鬼に成った」

闇咲「そして妬む相手やその親類、元々恋い焦がれていた相手、更には関係ない人間達へも虐殺を始め、鬼退治の武士が派遣されるのだが」

上条「本来の丑の刻参りは”””鬼に成る呪術”””……ッ!?」

闇咲「よってもし万が一、丑の刻参りの呪術が存在するのであれば、それは誰かを害するものではない。術者当人を鬼へと成る、謂わば自分自身を呪う呪術だろうな」

闇咲「……まぁ、それは魔術が実在すれば、という話であってだ。憎い相手の写真に針を刺してストレス解消できるのであれば、好きにすれば良いと思わなくもないが」

上条「病んでるだろそんなん。悪い事言わないから心療内科さんで話聞いてもらえよ。取り返しがつかなくなる前に」

闇咲「ちなみにそんなデタラメな呪詛が成立したとしても、そこら辺の神社仏閣で販売しているお守り一つで解消できる」

上条「対象方法安っ!?コスパどうなってんだよ!?」

闇咲「暇な素人が何も払わず呪った冗談のような代物がだ?曲がりなりにも神仏の加護が入っている呪物に勝てるとでも?」

上条「いやそこはこう、最近の聖職者は堕落してるから、みたいな?」

闇咲「私も同感だが……個人の意思だけで呪うのが『アリ』の世界観ならば、神的存在の加護があるのも『アリ』でなければおかしい。ハズレを引いたら不運を恨むしかないが」

上条「つーか、何?現代もコツコツ深夜に釘打って、特定の神社に迷惑かけてる人たちって、結局自分を鬼にしてるってだけの話なの?」

闇咲「オリジナルが正しいのか、時代の変遷と共に移り変わったものが正しいのか、それは誰にも分からないが」

闇咲「少なくとも”そんなもの”に手を出した時点で人、もしくは正気を失っているということだな――以上を踏まえて」

闇咲「そんな『呪いの代行業』など、どれだけ面白いか分かるだろう?」

上条「誰かっ!誰か教えて上げてください!可哀想だよその人や真に受けてその人に依頼する人とか!」

闇咲「徹頭徹尾詐欺師だからな。昭和になって造られた水子供養と大差無い」

闇咲「なのでこれ以降、フィクションなどで丑の刻参りを見た場合、『あ、誰かを呪うんじゃなく、自分自身を鬼に成るセルフ呪術お疲れさまでーす』と」

上条「情緒がねぇよ。『呪術廻○』で復帰が絶望視されてる釘○さんどうすんだよ」

闇咲「彼女が使う類感呪術は別系統で存在している。式神を使うのも含めて」

上条「たがらマジレスはいいんだよ!?なんでも答えるよなお前!好きか!?」

闇咲「問われたから答えたまでだが」

上条「しかし不思議だよな。オリジナルが『鬼になって直接恨みを晴らす』のに、何をどうひん曲がったら『藁人形に釘打ったらアイタタタ』に変わったんだか」

闇咲「想像だが……宇治の橋姫伝説には続きがある。鬼に成った女房は男女問わず殺しを続けていたのだが、流石に朝廷から渡辺綱(わたなべのつな)という頼光四天王の一人が派遣される」
(※恐らく怪物事○に出ているツナマ○さんの先祖。光源氏のモデルになった一族)

上条「四天王?」

闇咲「酒呑童子を討った侍衆の一人だ。詳しくは調べてみるといい――が、退治には至らず、腕だけを切り落して逃げられた」

闇咲「その腕がビッシリと銀色の針のような毛が生えたおぞましい腕だったんだそうだ」

上条「そこで『針』か」

闇咲「扱いに困った綱は安倍晴明に伺いを立てたら、『腕は私が封印します』とメデタシメデタシになって話は終わる」

上条「終わった、か……?それ結局鬼が野放しになってるんじゃないですかやーだー!」

上条「あとなんか安倍晴明さんが出てきた段階で『あぁこいつが悪い事したんだな!』って反射的に思っちまう!どうしてくれるんだ!こないだ土御門家自虐マラソンのせいだぞ!」

闇咲「ある意味それで合っている。君は感覚的なものには優れているな」

上条「へ?」

闇咲「宇治の橋姫伝説はそこで終わる。しかしその話は源氏物語や太平記などで知名度が高まっていき」

闇咲「能でな、『鉄輪』という演目で橋姫伝説が語られている。しかし内容は大幅に変えられており、後妻に夫を取られた女房が鬼に成って呪いをかけ、それを安倍晴明がなんとかすると」

上条「いいポジじゃねぇか安倍晴明。多分当時の政治的なアレコレが働いた結果だとは思うが」

闇咲「その中で『夫婦の呪いを形代という人形に移し替える』というシーンがあり、これがまさに『人形に代行させる』と」

闇咲「それを見た人間が『じゃあ逆に人形を害すれば当人にも呪いが……?』と考えたのがスタート地点ではないかと」

上条「やっぱ悪いの土御門じゃねぇか!?冗談が冗談じゃなくなるのが一番困るんだよ!こっちはね!」

闇咲「まぁ形代を害して影響を、という思想は世界どこにでもあるので今更だが。ただ実効性があるとは言わないし、それこそ素人がどうこう出来るものでもない」

上条「だったら成功する可能性があるって事じゃねぇか」

闇咲「可能性だけはな。二重三重寄り道をした上、一応は願いを聞き届けてくれた貴船明神に迷惑をかけて本願が成就すると思うんだったら、まぁ試せばいい」

闇咲「とはいえ、だ。この逆縁というか、橋姫の伝説を上手く利用するという信仰もある」

上条「何?頑張って呪う会とかそんなん?」

闇咲「近いといえば近い。『縁切り神としての橋姫』を拝む信仰もまた存在する。縁切り寺のようにな」
(※実在します)

上条「信仰、信仰なぁ?神様仏様だけじゃなくて本当に色々あるんだな」

闇咲「雑多かつ訳の分からないもので、郷土史に首を突っ込まないと解読すら不能な事態が多々ある。それが民間信仰だが――」

闇咲「――うん、すまないが。本日のテーマがそれなんだ」

上条「ただの雑談のつもりが丑の刻ガチ勢へケンカを売った……!」



――某県某市某所 冬の畑

上条「俺も……!どうせだったら真っ黒なおっさんじゃなくて佐天さん辺りとキャッキャウフフしたいですよね!」

闇咲「チェンジしてもどうせ中身は変わらないのだが。ゲストが一人増えるだけで」

上条「あぁ一人多い的な?」

闇咲「怪談ではなく現地へ向う足が必須なのだし、どっちみち大人の同行が必要だったろうな、という話だ」

上条「こうなったらアリサと合流してから遊ぶ方向で……!」

闇咲「まぁそれでいいのではないか。向こうは向こうでよくある温泉ロケをするようだが」

上条「し゜ゃあ俺必要ないだろ!?温泉カットで『いやぁ、良いお湯ですよね!』とか俺が出張ったらヘイトが集まるだけだわ!?」

闇咲「だが逆に?」

上条「オイシイっちゃあオイシイに決まっている……!――ってダメだこれ!イギリス産オークの精神汚染が進んでるよ!」
(※オークシャー種)

闇咲「進んで被弾しに行っているような……ではまぁその前に仕事をしよう。どこにでもあるような郷土史の話なのだからな」

上条「ローカルな信仰?」

闇咲「そうだな。『イワシの頭も信心から』の言葉の通り、他人にとってはつまらないものでも当事者にとっては大事だという話」

上条「少し前に、炎上のプロが『俺は墓を蹴飛ばしても何とも思わない』って言った件について」

闇咲「信仰を持つ・持たないは他人の自由、論評以上の権利を有しない――が」

闇咲「同時に他人が大切にしているものへ対し、敬意を払えない人間はそれ相応の評価を下される。同性愛や宗教、肌の色や文化など」

上条「もういい加減首絞めてんだよなぁ――じゃあ俺はこれで!ARISAにラキスケを起す仕事に戻るわ!」

闇咲「タンク役並にヘイト大人買いするな。というか待ちたまえ、今回のはそこまで地雷という訳ではないのだから」

上条「でもなんかこう仄暗いんでしょう?いつものように普通の場所では書けないようなね!」

闇咲「受け手の感性に依存する、と私は思う。今ではタブーになってしまった話も多少含まれており、かつそこら辺はどうしてもボカしてしまっているからな」

闇咲「丑の刻参りのセルフ自殺もそうだ。フィクションではよく使われ、かつその影響で真似をする人間が後を絶たない。それも現実だが」

闇咲「しかし君はオリジナルの宇治の橋姫伝説を知った上で、しようと思うか?」

上条「俺だって他人を羨ましくは思うことは結構あっけどもだ。だからって呪いをかけたりはしないかなぁ」

闇咲「もっと一般的な話だ。君のような、頭がちょっとアレな人間ではなく」

上条「反社にちょっとアレって言われた……!」

闇咲「知識というのは武器でもあるし安全装置でもある。持っていれば生かせるというものでもないが、持っていなければそもそも選択肢がない」

闇咲「と、いう訳でとある地方の畑にやってきた。この地方独特の伝承があってな」

上条「あーっと……植えられてるのはハクサイ、ダイコン、ネギと何かの葉っぱ?ブロッコリー?」

闇咲「今回の主役はダイコンだな。ダイコンについて何か信仰を知っているか?」

上条「風呂吹き大根はインデックスさんの好物……ッ!!!」

闇咲「誰情報だ。いやまぁ異国の宗教者が好きなのは特筆してもいいかも知れないが」

上条「てかないだろダイコン――あ!そういやなんかあったわ!ダイコンをお寺に収めるとかなんとか!」

闇咲「浅草の本龍院だな。歓喜天にダイコンを納め、その代わりにお下がりになった大根を貰って帰ってくる」
(※その手の呪術で有名な歓喜天への供え物として有名)

上条「微妙に嫌な名前が聞こえたがスルーするぜ!」

闇咲「一番有名なのがそれだな。あとはまぁ葉っぱが意外に上手いとかそういうのだ」

上条「主婦か」

闇咲「さて、では今から話すのがとある地方での民間信仰、伝承になる訳だが。『ダイコンの年取り』という日がある」

上条「年取り?」

闇咲「字は”歳”だったりもするが、まぁ概ねそのように呼ばれている日がある。旧暦の10月10日だな」

上条「その日になんかあんの?」

闇咲「ダイコンを取ろうと畑へ入るだろう?すると『バチッ』という音がする場合があるそうだ」

上条「ほうほう」

闇咲「すると死ぬ」

上条「なんっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっでだよ!?ダイコンが!?ダイコン畑で死人が出んの!?」
(※実在する伝承です)

上条「ダイコンだぞ?!?年ちょっとお安くて一本スーパーで138円ぐらいで買えるのだぞ!?」

上条「こないだ家帰ったら『あ、とうまーこれおいしいんだよー』って生ダイコンをしゃくしゃく囓ってたあれだぞ!?」

闇咲「なお私の読んだ書物ではそこでぶつ切りになっており、理由も意味も不明だ」

上条「オイオイスタートから不穏じゃねぇか!?その伝承知らなくって、かつ本当だったらある日にダイコン農家さんがバッタバタ死んでるって事だよ!」
(※当然そんな事実はありません)

闇咲「私も当然調べてみた。恐らくこれだろうな、というのが発見できた」

上条「一体どんなしよーもない事実が……!」

闇咲「まず旧暦の10月10日は『十日夜(とうかんや・とうかや)』と呼ばれる祭りの日だったんだよ。所謂収穫の祭りな」

上条「あぁ、秋だからそんなもんか」

闇咲「その日に行われるのが『案山子の年取り』や『案山子上げ』。また『ダイコンの年取り』と『ダイコンの年越し』も含まれると」

上条「カカシとダイコンが年を取る……?」

闇咲「カカシの方は『田んぼの神様、一年間守ってくれてありがとう』と感謝をし、田んぼから庭へと移して捧げ物をする。これが『案山子上げ』だ」

闇咲「カカシに田の神が宿っていたのを、『上げる』という概念で『お返しする』訳だ」

上条「それじゃダイコンも?」

闇咲「ダイコンはしない。あの作物は一度植えたら植え替えは基本的にはできない」

上条「名前がそっくりだから関連性はあるんだろうが」

闇咲「なのでダイコンにも少ないながらも田の神のようなものが宿り、という話ではないかと私は思う。現在も調査中だが」

上条「その『バチッ』っていう音も謎だしな」

闇咲「そちらについてはモグラ打ちという……子供たちが藁の棒や鉄砲を作って、地面を叩いて歩く宗教行事が並行して行われている」

上条「なんでそんなことを?」

闇咲「別の地方では『モグラ打ち』とも呼ばれており、まぁモグラ避けの呪いだな。畑や田を荒すモグラを、音を出して追い払うという」

上条「……効果あんの?」

闇咲「なくはない。モグラの習性として足音を嫌うため、人が盛んに来る場所には姿を出しにくい、らしい」

闇咲「よってその子供たちが地面叩いて出す音が」

上条「『バチッ!』か」

闇咲「だと推測される。なおダイコン畑でその音を聞いて死ぬ場合もあれば、逆にダイコンの成長が早くなったという地方もある」

上条「極端過ぎんだろ。つーかどっから引っ張って来た死ぬ話が」

闇咲「ここからは私の想像で完全にな推測でよければ、という話になるが」

上条「どうせまた救いのない話なんでしょうね!」

闇咲「ではなく行き逢い神だな。人と出くわすと障りが出るような神というか怪異というか」

闇咲「まず『カカシの年取り』では古いカカシを田んぼから引き上げ、移動させているわけだ。仮にも神的存在を」

闇咲「つまりこの日、十日夜の日は『田の神の移動日』だという概念があったものだと推測される」

上条「あー……田んぼの神様が冬になると山に帰るんだっけ?」

闇咲「その時に出くわすと、祟る。これは以前にも何回か話したとおりだ――で、ダイコンは畑だ。田と違って冬も休まずにあり続ける」

上条「じゃあ大丈夫じゃね?それとも畑の神様とかも実はいて、その人、つーか神様も山に帰ったりするのか?」

闇咲「私が知っている限りでそのような伝承はない。大体田畑の神は区別していないところが多いからな――が、故にだ」

闇咲「例えば……廊下を通る際に、雑誌やゴミが落ちていたら踏んづけたときに音が出るだろう?ガサッとか、バキッとか」

上条「そりゃ踏んでるんだから音は――するな。音はするわ、そりゃ」

闇咲「それと同様に、『田畑の神の期間日が十日夜ではないか?』と推測している。だから”音”がする」

上条「たまたまそこに植えてあった大根が、バチッと爆ぜる、か。警戒音か」

闇咲「そして行き逢い神に出くわせば、という話だな。私の解釈は以上だな」

上条「何となく分かったような気がする。行き逢い神に会ったら死んじまうってのが今一納得できないけど」

闇咲「それは病疫神だからだ。詳しくは来週だな」

上条「なんで、なんで正月なのにこんなダークなネタばかり……ッ!?」



――某県某市某所 車の中

上条「『――ここまでのあらすじ……ッ!』」

上条「『俺、上条当麻はどこにでもいる高校一年生!その設定が出てくるまで結構かかったけども!』」
(※御坂さんが某高校に入学を検討→あぁ上条さんは一年かと)

上条「『たまたま受けたテストの成績は最悪!親父に倉の掃除を押しつけられたんだ!ついてないぜ!』」

上条「『何かこう古い寺の古い倉を掃除していたら急に床が拭けて大ピンチ!倉には更に深いところがあった!』」

上条「『痛いケツを摩りながら立ち上がった俺が見たものは!なんと!古ぼけた槍で貫かれたパケモノの姿が!』」

上条「『そいつは、慌てふためく俺を前にしてこう言った――』」

上条「『”あ、ごめんごめん。悪いんだけど君今日から獣の○の所有者ね?つーか血統的に君しかいない訳なんだけど”』」

上条「『”これから日替わり週替わりで頭オカシイ妖怪や頭オカシイ人間が襲ってくっけど!周囲を助けたかったらまぁ頑張って戦ってね!”』」

上条「『”あとフラグ管理次第で最終的には人喰いのバケモノになるのが確定してるから!そこも宜しくね!”』」

上条「『”あぁあと俺は麻○よりも真由○派なんだよなぁ。だって何でも言うこと聞いてくれそうじゃん?”――と!』」

闇咲「『うしおとと○』のダイジェストだな。私が初対面の妖怪にそう言われたら、見なかった事にしてソッと逃げるが」

上条「でもダメなんじゃなかったっけ?と○さんの体で脾○からの探索を逃れたって設定が」

闇咲「だからその時点で物語は終わってた、筈だ」

上条「闇咲vs○さん……!」

闇咲「あぁ符術士の。比べるのがおこがましいぐらいに向こうが上だ、あっちは仙界で修行をしている」

上条「ネタにマジレスされた件について」

闇咲「私は私で妖怪マンガネタを振られるのが多いのだが……」

上条「『株式会社神かく○』さんは実在しますか?」
(※確かヤングキン○系列で連載中)

闇咲「供犠か……雑感ではあって、個人的な主観でしかない話ではあるが」

闇咲「あくまでも一般的には、伝承の範囲内で言えば汚れのない人間の方が好まれていたのは事実。また同時に」

闇咲「コンピニで並んでいる弁当を選ぶ際、賞味期限が切れて毒々しい色をしている腐った肉の入ってる弁当とそうでないもの。どちらを選ぶかは自明の理だということだな」

上条「――えーと今のは個人的な主観であり決して誰とかどれとかを差しているわけではありません!フィクションです!」

闇咲「そういえば最近『美魔○ 」という言葉を聞かなくなったな」

上条「気づいたからだよ。特定の人間を騙して笑いものにしてるのにみんなが気づいたからだよ。騙された当人も含めて」

闇咲「これもまた個人的な感想で、あくまでも個人評論の範疇として聞いてほしい話だが」

上条「だから誰にケンカ売るつもりだよ!?まぁ誰か聞いてないんだからノーカンだけどな!」

闇咲「日本最大の繁華街にして同性愛者のメッカ的な場所があるだろう?最近ではようやくホストクラブに規制が入るようになった感じの」

上条「あるなぁ。『なんでそれ放置してあったの?』って場所」

闇咲「他人を崖下に蹴り落とす仕事の人間と、崖下で味方面する宗教団体の合作事業。英語で言えばコラボレーションだな」

上条「言葉を選べ、なっ?長いこと裁判やってんのに文×砲()も週刊誌も取り上げない時点で、なっ?」

闇咲「ともあれそういう繁華街で、まぁ迷子の補導のような仕事を自主的にしていた人間の話でな。何年かに一回はその、男性が男性へ金銭授受の伴う違法な交際をするとかで」

上条「そりゃまぁ、あるんじゃないか」

闇咲「いや、一般的に闇が深い方ではなく、『歌舞伎町へ来れば同性(※男性)からモテモテになって稼げる!』的な」

上条「どういうこと?」

闇咲「あまりこう異性だけではなく、同性からも敬遠されがちなタイプの人間なのに、どういう訳が自信満々で『俺は商品になる!』と集まるんだそうな」

上条「それは……なんなんだろうな?」

闇咲「ステレオタイプな同性愛者のイメージとして、好色だとされていたのが要因らしい。ただ現実には同性・異性愛者に関わらず、見目に美しい者がモテるのであって」

闇咲「なのでそういう人たちには『異性からモテなのにどうして同性からモテると思ったの?いいから帰りなよ?』と優しく諭すとか何とか」
(※というインタビューを見ました)

上条「あー……まぁ、誰とは言わないが、異性から見て『お姉様は格好良いですわ!』って人はやっぱ同性でもモテるって意味か?」

闇咲「つまり人間の評価においてもそうだな。実際にそれが正しい価値基準かはさておき、社会的コミュニティの中で価値がないor有害とされた人間が、果たして神的存在にはどう判断されるか、と」

上条「不良在庫の一掃処分……」

闇咲「余談だがその話をしていた当人は援助交際で逮捕された」
(※実話です)

上条「ダメじゃねぇか。ウロウロしてた理由が性欲だってだけだろ」

闇咲「雑談を振られてしただけだ。まぁ真っ当な心根であればそんな場所を徘徊しないという教訓だな」

上条「すいません闇咲さん。ここに一人、強いられてオカルトにどっぷりつかりつつある人間がいるんですが」

闇咲「あとは……そうだな、イザナギ流の話でもするか」

上条「聞けよ話を。つーかそれ確か番組にメールしてくれた人の話だろ」

闇咲「雑談よりは身の話ある話だと思うが。高知県物部村に伝わっている古神道の一派であり、その筋では非常に有名だな」

上条「どうせまた怖い話なんでしょ!?雨後タケのように盛んになった怪談士みたいなっ!」

闇咲「彼らは商売だし、事前情報が無くてもある程度語れるからな。そうでなくイザナギ流は少なくとも数百年は歴史を遡れる立派な古神道だ」
(※諸事情により正式名称はひらがななのにカタカナに変えてお送りしております)

上条「いざなぎ……大昔の偉い神様だっけか?国産み神話がどうっていう」

闇咲「それは正解。しかしイザナギ流では実在の人物として扱われ、天竺からイザナギ流をもたらしたとされている」

上条「あれ……?風向きが、なんか……?」

闇咲「怪しくはないからな?というか国の重要無形民族文化財に指定されてるし」

上条「なんかイメージと違うな!?怪しげな感じのアレかと思ったら、土御門よりかきちんとしてるじゃねぇか!?」
(※きちんとしています)

闇咲「普通はこういうものは隠匿されて然るべきなのだが……後継者不足には勝てず、また様々な懸案を鑑みて今では全部公開している、とされているな」
(※絶対にしてないと思いますが)

上条「どんな感じの宗教なの?」

闇咲「基本的には切り紙を使った儀礼が非常に多い、神道ベースの仏教アレンジの古神道だな。時として陰陽道にも分類される」

上条「なんでだよ。その説明で『あぁ!』みたいな人はいないだろ」

闇咲「私の、というか修験者が使う咒(じゅ)では蔵王権現が主尊とされている。それはもう宗派によって様々なんだが、この神は釈迦如来から国之常立神まで非常の多くの神と習合している」

闇咲「仏教の誰それを神道では誰々、またその逆という信仰はあった。というか今も続いており、イザナギ流も同じであって」

闇咲「主神がイザナギという神であるのに対して、同流派で一番有名なのが不動明王を用いた呪詛返し。特にどっちの区別もなく現代まで伝えられていたんだな」

上条「廃仏毀釈の影響は?」

闇咲「上面だけは適当に。そしてフィクションの影響も大きいが、別に仏像だからといって一方的に叩き壊されはしなかったからな。『曲解して』やったところもあるが」
(※薩摩藩。お家騒動や維新など「ヤッベエものは燃す燃そ」と)

闇咲「ともあれ、このイザナギ流は古い形式を守りながらも長い間廃れることなく続いてきた一派であり、陰陽道に酷似した儀式も数多く伝わっていたんだ」

闇咲「しかしながら土御門家や加茂家との繋がりを示す証拠はなく、どこから来たんだろうか?という疑問も長らく存在した」

上条「良い事じゃねぇか。あのトンデモ陰陽師と関わったって良い事ねぇよ」

闇咲「が、しかし。つい近年、というか免状が発見された。それも正式な」

上条「メンジョー……?――あぁアレか!土御門家が『陰陽師宗家(笑)』とかイキってたときのか!?」

闇咲「江戸時代に発行されたものだな。かくしてイザナギ流はその当時から認可されていた、由緒正しいものだと判明した訳だ」

上条「やったな土御門!俺の知ってる限りで初めて人の役に立ったぜ!」

闇咲「補足しておくと暦の管理では陰陽寮が日本の第一人者だからな?あまりバカにできたものではないが」

上条「暦ってお前……あぁ、昔は太陰暦だったんだよな。でもそんなに難しいもんだったの?」

上条「太陽暦だったら4年に一回閏月入れて、00ゾロ並びんときは無視すんだっけか?」

闇咲「それもまた歴史の流れと密接に繋がっている。まず江戸時代に入るまでは朝廷か陰陽師、つまり土御門家が暦の編纂を独占していた」

上条「あ、あれ……?また何か雲行きが……?」

闇咲「ただ技術を独占していたのであり、その技術の大元は中国の宣明暦。これがなんと800年以上採用され続ける」

上条「スゲーな800年!?それもう完成されてんじゃん!?」

闇咲「でもない。実際の天行(てんこう)とは2日ばかりズレてしまっていた」
(※日食・月食がズレるなど)

上条「800年だったら逆に偉業だろ」

闇咲「しかし『まぁズレてんだから間違ってんだろ。じゃあ新しく和暦を作ろう!』と立ち上がった人物がいる」

上条「やったな土御門!歴史史上初めてお前らが善行を成すな!」

闇咲「編纂された和暦は貞享暦、作った人物は渋川春海という……天文学者であり神学者でもあり。少なくとも自ら各地を回って天体を調べたりする人物だった」

上条「つ、土御門、さん……?」

闇咲「何度か失敗を重ねはしたが、のちにより精度の高く、かつ日本を中心とした時差のない初めての和暦が完成する。以後幕府は『天文方』という役所を作り、そこが暦の作成に携われると」

上条「そ、そんなっ!?土御門さんの面子はどうなるんですかっ!?」

闇咲「君は君で高く高くジェンガを積み上げているよね?まぁこの後の展開は似たようなものだが、同和暦が制定されて70年弱か。今度は徳川吉宗が宝暦暦を制定する」

闇咲「理由は省略するが、これの編纂には土御門家が主導してやった挙げ句――他の天文学者が指摘していたのにも関わらず、日食を外すという大失態をやらかす」

上条「やってんじゃねぇか土御門家。よりにもよって最悪の形でやらかしてんじゃねぇか」

闇咲「この後、江戸幕府がある間は天文方からは相手にされず、暦の制定には関われなくなった。後は知っての通り、幕府がなくなったら新政府に取り入ろうとして失敗」

闇咲「華族としての立場を受けるも、現代では60数歳の頭首に後継者がおらず、断絶が確定している状態だな」
(※フィクションじゃない世界では)

上条「はい!はーい闇咲さん!質問がありまーす!」

闇咲「なんだね。そろそろ目的地へ着くが」

上条「イザナギ流には認可状?だか貰ってたって言うじゃん?土御門家が発行した免許証みたいなの」

闇咲「発見できたな」

上条「じゃあそれを逆に辿れば、全国各地の珍しいとか失われた信仰とか宗教とかって分かるんじゃね?」

上条「例えば領収書出す方は出す方も、もらう方も控えっていうか記録残るよな?それと一緒で?」

闇咲「大分前の話――某大学の某教授が打診したらしいんだよ。あぁまぁ伝聞なので多分嘘だろうしソースは一切ないので話半分ぐらいに聞いてほしいものだが」

闇咲「『もし良かったら御家に残っている資料から、貴重な信仰を調べさせてもらえませんか?』と」

上条「おぉいいんじゃね?歴史上土御門家が人の役に立つかもしれないな!」
(※三回目)

闇咲「で、返ってきた言葉が――『残ってない』と」

上条「残ってない?なんで?大切な許可書なんだろ?」

闇咲「詳細は不明だ。戦火で消えたのか、それとも長い歴史の間に失われたのかは不明――とはいえ、殆ど残っていないのもおかしい」

闇咲「あくまでも教授の推測だが『あいつらその日の気分で免状とか出してカネ貰ってたけど、誰に出したとかいつ出したとか全く記録してなかったんじゃね?』と」
(※フィクションです)

上条「滅びろよ土御門家。今どこのマンガ雑誌開いても陰陽師さんは一刷に一人ぐらいずついて、『本物は可哀想!』とか思ってたけど。そんな感じでもなくなったわ」

闇咲「暦の編纂をしていたのも事実だが、オリジナルは中国暦を飽きもせず800年以上続けて使い、和暦を作ったのが外部の人間」

闇咲「しかも圧力かけて自分達で作ってみれば欠陥品が出来上がり、幕府を裏切った口で新政府に仕えようとしたら役立たずと切られる」

上条「正直、華族として取り立てた明治政府は優しいんじゃないかとすら思う」

闇咲「まぁとにもかくにもだ。イザナギ流が陰陽道の流れを受け継いでいるのも事実だろうと推測される。恐らくは土御門家との政争に敗れた連中が都落ちしたのだろうが」

上条「相変わらず夢も何もないな!今年なんか陰陽師の映画するっちゅー話なのに!」

闇咲「現実なんてそのようなものだ――が、ちなみにイザナギ流がある村の名前は物部(ものべ)村という」

上条「それが何か?」

闇咲「某年齢制限のあるゲームでは『ものべ○』という、まぁやや伝奇っぽいオカルトジャンルで『ひめみや流』という、かなり”っぽい”感じ人が登場する」
(※あくまでも”っぽい”人。興味があれば是非どうぞ、コンプリートパックが出ている筈)

上条「お前何やってんの?なんでエロ×ゲの告知してんの?」



――某県某市某所 村外れの旧道

闇咲「こちらが本日のメインテーマ、というかわざわざ来た理由だな。この石碑を見に来た」

上条「なんて人通りのなくてオバケの出そうな場所……!出たらどうするんだよ!?」

闇咲「『幻想殺し』と一応は修験者系魔術師が揃っているというのに、生半可な霊が出てきて貰っても失笑するだけだな」

上条「『ショートコント・幽霊――あれなんか迷っちまったなー?ここってどこだろ、あぁ案内表示板が高野山ぐふぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!?』」

闇咲「楽しそうな幽霊だな。あの世に行けず彷徨っているのに」

上条「というか迷いぐらいだったら幽霊になんなやって話でもある。それで?ここに何かあんの?」

闇咲「石碑を見てほしい。そして読めるものだったら読んでみてくれ」

上条「古語とかだったら絶対に無理なんだけど……お?難しくねぇな」

【一口大神】

闇咲「どうだ?」

上条「響きがなんか超怖そう。『ひとくちだいしん』?何?一口でヒューマンをイートする鬼かなんかが封印され――ハッ!?」

上条「この封印が解けて、俺が主人公の伝奇バトルが始まる……ッ!!!」

闇咲「よくは分からないが、20周年らしいし気が済むようにすればいいと思う。好きにしたまえ」

闇咲「ただその神は別に封じられている訳ではない。過去そこで祀られ、今もまたそうであるというだけの話だ」

上条「……なんて読むんだ?つーかなんの神様よ?」

闇咲「読み方は『いもあらい』だ。一口と書いてそう読む」

上条「絶対に読めねぇよそんなん!?」

闇咲「元々は京都の久御山(くみやま)町の地名だな。それが東京の神田町の芋洗(いもあらい)が混同されて習合された、らしいと」

上条「ちょっと何言ってんのか分からないですね。なんで京都の地名が東京にまで来てんの?」

闇咲「まずはどちらの場所も『いもあらい』と呼ばれていた。その地名の由来は後述するとして、それが次第に混同されていったらしい」

闇咲「時系列的には東京の神田は『芋洗』だった筈なのに、『一口』と表記されるようになったと」

上条「なんでまたそんな事になってんの?」

闇咲「詳しく調べた訳ではないが、話し手の問題だろうな。京都やその周辺の人間からすれば『いもあらい』と聞けば『一口』だ」

闇咲「参勤交代かなにかでこちらへ来ていたのが、いつのまにか混ざってしまった……ぐらいの解釈しかできないんだよ」

上条「そんなことって……」

闇咲「なお『一口』はその綴りの通り、『ひとくち』と誤読され『いもあらいざか』が『ひとくちざか』として定着してしまった場所もある。九段だったか」

闇咲「ともあれ、江戸時代になる頃には『一口』が『いもあらい』と読むのだと東日本では定着してしまっている。よってこの石碑も『いもあらいたいしん』と呼ぶ」
(※実在する石碑で、結構な数が建てられています)

上条「スタート地点から妙な感じの神様だが……どんな神様なの?俺も知ってる?」

闇咲「疱瘡(ほうそう)神だ」
(※疱瘡=天然痘)

上条「そんなんばっかじゃねぇかコノヤロー!?なんかこう聞いてて怖いわ!?」

闇咲「あぁそれは君の偏見というものだな。以上も以下も実際に存在した日本の伝承であり信仰であったからだ」

闇咲「また……怪談士とかいうド素人どものように。嘗てあったモノたちを面白可笑しく茶化そうという話ではない。そこだけは絶対にな」

上条「や、でもさ?疫病の神様って聞いて身構えない方がおかしいと思うわ」

闇咲「それもまた仕方がないことではある。現代では疱瘡、つまり天然痘の致死率は最悪で50%を越える病だ。しかもワクチンが出回るまで二千年近く対処法がなかった」

闇咲「それを畏れ、神格化して定義づけで解釈し要としたことの何が悪い?天然痘に罹ったものや家族が、治癒しますようにと祈る行為の何が?」

上条「神頼みではあるが……あぁそうか。それ以外には方法も何もなかったんだよな」

闇咲「だからこそ『疱瘡神』という概念が確立された。病疫を少しでも遠ざけようとする信仰だな」

闇咲「風邪の下りでも話したが、邪なるものは『風』が運ぶとされていた。目に見えない厄災を何かが運んできていた、までは当時の人類も理解はしていたんだ」

闇咲「その対処療法としては『阻む』だけだ。余所者や余所からの伝播を防ぐため、村や町など生活共同体の境には、境を守る呪物が配置し拝んだと」

闇咲「目の前にあるこの石碑もそうだ。当時の人間達が必死になって考え、ようやっと思いついた解決手段の一つに過ぎない。それをバカにするのは先人達へ唾棄するのと同じだ」

上条「あー……最近どっかで聞いたよな。『墓をも蹴っちゃう俺カッケー』とか言ってた人」

闇咲「語ることすら嫌だな――ともあれ。大体言いたいことは言ってしまったのだが、疱瘡神について詳しく……というのは実はよく分かっていない」

上条「ないんかい」

闇咲「対応する神が存在しないというか、『疱瘡神』という存在で完結してしまっているためか。一応昔の絵巻には『子供を背負った老婆』という姿もあるにはあるが……」

上条「それはそれでおかしくね?姿がないのに神様だっていうのは」

闇咲「とも限らない。実際に『疱瘡神』や『一口神』と書かれた石碑はごまんとあり、また『疫神送(えきじんおくり)』という風習もある」

闇咲「追儺のように自分達の住んでいる場所から、悪しきものを追い出すという考えだな。藁や篠などに疫神を移して放逐する」

上条「節分と同じじゃねぇか。目に見えないものを祓う――」

上条「……」

上条「――って逆か!?節分も病気の神様を追い払うのか!?」

闇咲「その通りだな。鬼は『目に見えない災厄』が擬神化したものだ。疱瘡神もまた同じだと言える」

上条「そっちの方は何となく理解は出来た、ような気はするんだけど。どうして『いもあらい』が疱瘡神に繋がるんだ?」

闇咲「疱瘡というか天然痘の古語が『芋(いも)』、また感染することによってできた瘡(かさ)もまた『痘痕(いも)』と呼ばれていた」

闇咲「『あばたもえくぼ』という言葉の『あばた』とは天然痘に罹った瘡を示す」

上条「あぁ、そんな繋がりが……」

闇咲「そして天然痘の治療法、あくまでも民間療法の一種では神仏に祈願した後に水で洗う行為が良しとされていた。よって」

上条「『いもあらい』か」

闇咲「京都の一口も神田の芋洗も疱瘡関係の地名の由来になった可能性はある。ある武士が子供の頃に疱瘡になったが、祖母が祈念を続けて完治したという伝承が」

闇咲「その祈念した先が稲荷神社だったため、『瘡守(かさもり)稲荷神社』など稲荷神社が疱瘡避けの役割を持っていたのもまた事実だな」
(※地名でたまにある「笠森」もそういう関係だった可能性も)

上条「あぁそれでか!俺実は不思議に思ってたんだよ!『なんでこんなに稲荷神社ってどこに行ってもあんの?江戸時代からケモナー多かったの?』って!」

闇咲「全てがという訳ではなかったが、疱瘡に関して効果があると謳ってきた場所もまた多かった」

闇咲「……いや、多かったというのもおかしな言い方だな。救いを求める人間がいて、それで縋った先にあったのか神仏なだけで」

上条「他に方法がなかったんだから、とは思うが……」

闇咲「また補足するのであれば『稲荷神社に願掛けをして、本願が叶ったら一生ずっと感謝しなければならない』、という俗説を聞いたことは?」

上条「あるある。なんでだよって思った。理由って分かってんの?」

闇咲「まず稲荷神そのものは食物の神であり、その御遣いであるキツネはネズミを獲る聖獣とされた。これが記紀神話の時代の認識」

闇咲「これに加えて商売の神や先に挙げた防疫の神としての信仰も加わり、一族を守る屋敷神としても崇められるようになる」

上条「超出世してんじゃん」

闇咲「なのでこれは私の推測だ、との前置きをした上での話であるが、『稲荷信に願掛けをしたら一生崇めねば』というのは疱瘡が影響しているのではないか?と」

上条「病気と願掛けがなんで繋がってんだよ?」

闇咲「まず天然痘ウイルスの特性として、基本的に一度罹って生還すれば免疫を獲得でき二度は感染しない。よって耐えきれば今後の心配はしなくてもいい」

上条「それは良い事だよな」

闇咲「だが感染力は非常に強い。一年前に患者から離れた瘡(かさ)が感染力を保っていた、という報告が上がるぐらいには」

上条「そこまで強いの!?よくまぁ撲滅させたな人類!?」

闇咲「以上を踏まえてだ。もし君が疱瘡に罹り熱心に稲荷神社へ祈ったとする。まぁ君ではなく家族でも構わないが」

闇咲「そして本願が叶って治癒したとしよう。すると喉元過ぎれば、ではないが酷かった頃に比べれば稲荷神への信仰など薄れる」

上条「それはまぁ……仕方がないんじゃ」

闇咲「そうしてしばらくしていると誰か、身内で近しい者で発病者が出る。そうするとこう思う訳だ――『あぁこれは稲荷神に不義理をしたせいだ』と」

上条「感染力が強いから、当人は治ってもその服や家の物とかには残ってる説」

闇咲「その話が拗れて『稲荷神に〜』という俗説が生まれたと私は推測している。現時点での話ではあるがな」

闇咲「まぁ元々、『九尾のキツネ』や『狐憑き』など負のイメージも持っていたため、そのような話になったのではないかと」

上条「人じゃないけど歴史だよなぁ。というか闇咲さんに質問」

上条「『縁も縁もない神や仏、正体がよく分からない石塔とかに祈るのは霊的に良くない』って話があるけど、それはマジでそうなの?」

闇咲「自称怪談士がよく言う台詞だな。具体的には松竹芸○の北野○氏やその取り巻きか」

上条「具体名出すなや」

闇咲「まず論点を整理してみよう。『本当に呪いがあればオカルトで食べている人間は死んでいる』というのが、まず第一」

闇咲「第二に『その筋の研究者と自称してる暇人のSS書き』もまた色々な所へ行って、大なり小なり石碑石塔光明供塔などに手を合わせているが、椎間板ヘルニアになった程度だ」
(※人・体・実・験☆)

上条「しっかり症状出てね?椎間板の神様に祟られてるって自覚あるか?」

闇咲「第三に『知る・知らないは本人の不勉強からくる話であり、曲がりなりにも研究者を騙るのであれば関係書籍を読め』だな」

上条「あの、闇咲さん?仮にもオカルト関係の話であんまマジレスされっとこう、うん、同業他者さんにご迷惑が。主に信憑性の問題で」

闇咲「次にそこら辺に祀られている神や仏、中には疱瘡神のような遠ざけるために祀った存在も含まれる。それは確かに良くないモノだ」

闇咲「しかし先人が祀った以上、少なくとも某かの形で敬意を示し、畏れを表し、粗雑に扱わずに信仰の対象として拝んだのも事実」

闇咲「それへ対して敬意を示すのが悪果に繋がるというのであれば、異郷の地で十字教へ現地の神へ手を合わせるのはどうなんだ、という話になる――し」

闇咲「『あぁこれはちょっと表には出せないな』的なものがなくはない。ごく稀にぶち当たることがある」

上条「……内容を伺っても?」

闇咲「専用の座敷牢で」

上条「――もういいわゴメンな!俺の疑問はいいから話を続けて続けて!?」

闇咲「で、”そういう”のがそこら辺に放置されているとでも?怖ろしい祟り神の祠だったり封印だったり、オカルトでよくあるような危険なものが道端に落ちていると?」

上条「ギャグだよな」

闇咲「まぁ好きにすればいいんじゃないか。オカルトが”アリ”の世界であれば拝むかどうか以前の問題で、テリトリーへ入っただけでアウトになる場合も多々あるし」

闇咲「また個人的に言わせて貰えるのであれば、根拠も何もない妄想や中傷、商売のために嘘八百を並べる詐欺師どもには拝まれたくもないだろうしな?」

上条「あぁじゃあ一応拝んでおくか。いつもお役目お疲れさまです、あなたを信じる人たちは助けてあげてくださいっと」

【――鑠乎】

闇咲「さて、辛気くさい噺はこれぐらいにして鳴護君たちと合流しようか」

上条「あぁ辛気くさいって自覚はあったのか……」

闇咲「前に女子中学生とコラボした際、『あの辛気くさいおっさんは必要ですか?』と大量のコメントがだな……」

上条「そのおっさん部分が本体なんだよ。たらこスパのたらこ部分」

闇咲「生臭そうで嫌だ。また個人的にはスパゲティの本体は麺部分だと思っている」

上条「それは俺も同感だぜ!ごはんの主役は飯であって他はおかずだ!」

闇咲「そうだな。五穀断ちした後の白米は美味い」

上条「なんてストイックな生き方を……!マッ○とか喰わないのかお前?」

闇咲「だから諸事情により生臭を断つ――が、まぁ今日ぐらいは酒でも呑むか。君が付き合えれば良かったのだがな」

上条「なんか格好良いから呑んでみたいけど」

闇咲「一応保護者として来ている分、そういうのは見過ごせん。まぁ不純性交遊であれば、見なかった、ぐらいにはできるが」

上条「俺はそんな事しないぜ!だってアリサの信頼を裏切ることになるからな!だから絶対に手を出すつもりはない!」

闇咲「そういうとこだからな?まぁ、人としては正しくあるが、男子高校生としては不正解というか……」


-終-



――とある廃墟

男?「………………れ、俺。どうした……?」

闇咲「どうもこうもない。見たままだ」

男?「あ、あんたはっ………………殺し屋……?」

闇咲「よく言われるな。正装とは程遠いが、これでもTPOを弁えた格好ではあるんだ」

男?「正装……?やっぱり葬儀屋じゃ?」

闇咲「人の生き死と関わっているため、礼装としては合っている――さて、問いたいのは私の方だ。何故君はここにいる?」

男?「ここ……?そもそもどこなんだ?廃屋、じゃないがボロッボロのアパートみたいな」

闇咲「概ねそれで合っている。ここし数年前に一家心中が起き、それ以来入居者がいない家だ」

男?「なんだよそれ……なんでそんなところに俺が」

闇咲「それを私は尋ねているのだが。憶えていないのか?最期の記憶は?」

男?「メシを食いに行って、帰りに本屋に寄って――あ!」

闇咲「ふむ?」

男?「外に出たら、ドン!って体当たりされて!それで、それで……!どう、なった……?」

闇咲「刺された」

男?「……は?なに?」

闇咲「刺された。後ろからこう、ブスッと。どこぞの一級フラグ建築士のように」

男?「刺された!?俺が!?」

闇咲「手元の資料によるとだ。名前――は、まぁいいか。とにかく君は恋をしていたらしい」

男?「……恋?外見に似合わず、恥ずかしいことを……」

闇咲「自分でも似合わないとは思うが。ともあれ幼馴染みの女性と交際をし、そこそこ良好な関係を保っていたそうだ」

男?「カノジョ……なんか少し、思い出せそうな」

闇咲「だがしかし――進学する頃になって破局した、らしい。何があったのかまでは書かれていないが、彼女は受け入れ、君は受け入れられなかった」

男?「なに、が」

闇咲「結果として執拗に彼女をつけ回して以下略。ただ刑事事件になって示談で済ませたとの記録がある」

男?「最悪じゃねえか俺。クッソダセえ……」

闇咲「それで終わり、終わるはずだった――が。才能があった。誰にとっても不幸な事だが」

男?「才能?誰に?何の?」

闇咲「君に、魔術、というか呪術の才能が」

男?「はぁ魔術う?そんなもんがある訳」

闇咲「……」

男?「……ある、のか?嘘だろ……」

闇咲「まぁそれは別にどうでもいい。有る無しはともかく、信じるも信じないもさておき、君は試し、結果が出てしまった」

闇咲「幼馴染み一家が酷い目に遭い、その恨みで君が刺された。それが全てだ」

男?「……ソだ……!」

闇咲「うん?」

男?「――ウソだ!俺がそんな事をするはずがない!あんたは俺を騙そうとしてるんだっ!」

闇咲「あぁ済まないが、善悪に関して言及するつもり”が”ない。私も大概後ろ暗いことをしている以上、他人を責める資格すらない」

闇咲「君ほどではないが、君以上でもある。度し難いことであるな?」

男?「……結局、あんたは俺をどうしたいんだよ?何を俺に求めてるんだ?」

闇咲「君のご両親から依頼を受けている。後始末をしてほしいと」

男?「やっぱり殺し屋じゃねえか……!?」

闇咲「――で、君は結局どうしたい?記憶も失っているようだし、このまま何とかしてしまうのもまた悪くはなかろうと思うのだが」

男?「なん……でだよっ!?覚えていないのにどうして責任を取らなきゃいけないんだっ!?」

闇咲「それも含めての始末ではある。それでどうする?君の答えを教えてくれないか?」

男?「俺は……憶えてない、憶えてないけど……死にたくはない!」

闇咲「それは無理だな」

男?「責任を取れっていうんだったらとる!悪い事したんだったらいつまでだって謝るから!だから、だから……!」

闇咲「その言葉に偽りはないと?そのままご両親へ伝えることになるが?」

男?「ああ構わない!親父もお袋も、俺の決心を知ってくれればきっと!」

闇咲「了解した、ではそのようにするとしよう。私が手出しするのも控える。それで本当に構わないのだな?」

男?「……いいのか?」

闇咲「構わないとも。私は君の決心へ対して敬意すら抱くよ」

男?「ありがとう……!」

闇咲「では私の仕事はこれで終わりだな。達者でやってくれたまえ」

男?「ああ!――って待ってくれ。俺を置いていくなよ。てゆうかどこだよここ!?」

闇咲「君はここから出られないが?地縛霊とはそういうものだからな」

男?「――――――あ?」

闇咲「君は刺されて死んでいる。だからもうどこへも行けない」

男?「お、おい待ってよ!どうして俺が!」

闇咲「『刺された後の記憶がない』んだろう?そこで君の人生が終わっているのだから当然だな」

男?「なんで、なんでそんなことに……ッ!?」

闇咲「依頼主――君のご両親もそう思ったそうだ。君が亡くなったのも信じられないが、幽霊騒ぎも含めてどうなっているのか私に調べててほしいと」

闇咲「場合によっては君があの世へ行けるように『後始末』をしてくれ、とね」

男?「そ、それじゃあ!お、お、俺はずっとここに一人……?」

闇咲「それはない。私にだって情はあるさ――ほら、後ろを見たまえよ」

男?「うしろ――ひいいっ!?」

男の霊『……オォォォオオオ……』

女の霊『……アァァァアアアアアア……』

男?「たすっ、助けっ!?ここは!?なんで!?」

闇咲「この廃墟は君が呪殺し一家心中として処理された家だ。加害者と被害者の感動の対面だな」

闇咲「しかし君も中々強い魂の持ち主だ。『いつまででも謝る』などと中々言えるものではない」

男?「そんなつもりで言ったんじゃ……!あんた、あんたまさか俺をハメやがったのか!?」

闇咲「だから言っただろう?――『言及するつもり”が”ない』と」

闇咲「それでは私はここで失礼するよ。いつまでも、そう天地の果てるまでそこにいるといい。精々”仲良く”な?」

男?「いやだ、いやっ――」

少女の霊『ウフフフフフフフフフフフフフフフフフフフフゥァァッ……!!!』

……

上条「――おー、お疲れ−。随分と早かったな。つーか俺行かなくて良かったのか?」

闇咲「問題はなかった。中々殊勝な霊でな、『成仏するよりも罪を犯しただけ苦しんで贖罪する』と言っていたな。要約すれば」

上条「マジで!?だったらスゲーが、そんなんだったら最初っから悪い事すんなよって話だが」

闇咲「何年かしたら祓っておこう。その前に再開発計画でも起きない限りはだが」

上条「あー、他に迷惑かけるのは最悪だからな」

闇咲「まぁある意味願いが叶ったと言えなくもない。ともあれこういう仕事ばかりだったら楽で良いのだがな」


-終-

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