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Clock(trial)

闇咲「闇ちゃんねる――『憑き物筋』」

 
――とあるスタジオ

上条「おはよーごさいまーす……?」

闇咲「おはよう。では始めようか」

上条「あれ?今日はロケの筈じゃなかったっけ?」

闇咲「あぁ、嘘だ」

上条「悪びれもしねぇな!?てか嘘吐いてまで俺呼んで何するつもりだ!?」

闇咲「久々に闇ちゃんねるをするのでなんというかテンションが上がってしまった。すまない」

上条「そんな『ついさっき人殺してきましたけど何か?』みたいなテンションで言われても……!」

闇咲「まぁ気にしないでくれたまえ。今日は特にどこかへ取材をする訳ではないんだ」

上条「あぁそう?軽食とペットボトル買って来ちまったんだがな」

闇咲「取り敢えず食べながらでもいいだろう。まぁ座りたまえ」

上条「失礼しまーす。てか今日の収録ってアリサいねぇの?なんだったら佐天さん辺り来そうだけど」

闇咲「今日のテーマが激しく重いので無理だな」

上条「へー激重いん?ならダメだなー、女の子巻き込んだらいけないしなー――」

上条「――ってゴラアァァァァァァァァァァァァッ!?お前が”重い”ってどういうことですかコノヤロー!?」

上条「喰うのか!?ついにこのコーナーでも年齢制限されるようなウミガメスープが顕現するんか!?あぁんっ!?」

闇咲「まぁ話を聞いてくれたまえ。つい先日この番組にもお便りを頂いてだな」

上条「ヒマか。いやいいんだけど、なんか久々なのに急展開過ぎてついていけねぇよ」

闇咲「内容は省くが、『ブリテン大好き』さんがとある事情で一部割愛したらしいんだ。まぁ、なんていうか踏み込みにくいものを」

上条「イギリスの悪魔だよそいつ。イギリスが悪魔なのかどっちかだが」

闇咲「終わった後に気づいたそうだ、『こんな守りの姿勢で良かったんでしょうか――否っ!断じて否ですな!』と」

上条「だからその子はちょっとアレだからな?出会うと不幸になる系のオバケ」

闇咲「と、いう訳で今回の企画はそっち関連だな」

上条「すいません闇咲さんっ!あのアホがスルーしたぐらいだからヤヴァイんではないかと愚行致す次第でございますが!」

闇咲「番組というかHPがBANされる可能性も少しある」
(※なくはない)

上条「――なぁ闇咲、お前の好きなタイプってどういう人!?コイバナしようぜ!」

闇咲「自身の体の痛みを必死で隠して微笑む女だな」

上条「チッキショー!何かこう嫁持ちだからって調子乗りやがって!いい家庭を築いてそうで何よりだぜ!」

闇咲「それはどうもありがとう。君たちのおかけではある」

上条「くっ!皮肉が通じねぇ!あとは好きなエロゲ×の話ぐらいしか……!」

闇咲「Fat○だな。一身上の都合により」

上条「俺もまぁお世話になってる言えなくもないし、なんだったら最大の当たり役だから『うん、そうだね!』としか言えないですよねっ!」

闇咲「ちなみに運営曰く――『クリスマス企画が全然集まらなかったし、人来ないんだったらまぁいっかな』ぐらいの軽い気持ちだそうだ」

上条「アホなのかな?いやまぁアホには違いないだろうが!」

闇咲「なお導入と動機はともかく、内容自体は真面目な話だから心配はしないでいい。なんだったらあとで引用先を出そう」

上条「ついて来ねぇよ。だからみんな引いてんだよ」

闇咲「アメコミと同性愛の話よりはまだ身近なテーマではあるが――まず君は『ケチ』という言葉を知っているか?」

上条「そこそこ有名、てか俺も使わないではない」

闇咲「ほう、どのような感じでだ?」

上条「『折角サッカー勝ったのにケチつけやがって!』」

闇咲「特定の集団もしくは個人を想定している分だけ、君も君でケンカを売っているが。感じで書くと?」

上条「あー……ケチは知らない。”つく”は……付着するの方の付くか?」

闇咲「正式には”憑く”だな。憑依する方の」

上条「は……?」

闇咲「『ケチが憑く』のが元々の意味であって、縁起を意図的に悪くさせるとかそういう意味合いが強い」

上条「あぁ……だから『ケチが憑く』のか」

闇咲「現在使われている用法であっても、上手く行っていることや他人の成功へ対し、妬みや嫉みなどから『ケチをつける』と使われてはいる」

闇咲「……まぁ、奇しくもこの言葉が”憑き物”の、最も体現してしまってはいるんだが」

闇咲「と、いう訳で今回の闇ちゃんねるは『憑き物』だ」

上条「……ちょっと待って?それってかなりヤバいんじゃ……?」

闇咲「まぁそれも順番に話していくから問題はない。というか恐らく『真相ってそんなのか!?』とツッコむと思われる」

闇咲「加えて大概ヤバいのは怪異ではなく人だ。今回もその手の話と思って間違いない



――

闇咲「まずどこから話したものか……あぁまぁでは『ケチ』からいこうか。というかどうした?大分ショックを受けている様子だが」

上条「いや……意外と身近で使ってた言葉にそんな元ネタがあったのが、なんかこうショックだった」

闇咲「原型はいくつかあってな。一応広く知られているのは新潟と高知に伝わる『けち火(び)』だな」

上条「名前そのまんまだよな。んで火?火ってなんだ?」

闇咲「こう道を夜遅くに歩いているとボウッと火が転がっているんだそうだ」

上条「超燃えるだろ」

闇咲「そこは民話なのでスルーしてくれ。ともあれ見た人間は好奇心からケチ火を追いかけていったそうだ。するとどういう訳がケチ火は逃げ出し、とある民家へと入っていった」

闇咲「その家ではうなされて寝ていた男が目を覚まし、妻へとこう言ったそうだ――」

闇咲「『――あぁ怖かった。誰かに追いかけられる夢を見た』と」

上条「人魂……魂の火か」

闇咲「また別の男がケチ火を見つけ、何度も何度も消そうと試みたが、すぐさま火は元通りになった。しかしいつの間にか吹き消すことには成功したのだが」

闇咲「その翌日から男は寝込み、数日後には死んでしまったそうだ」

上条「自分の魂っていう感じか?」

闇咲「他にも船幽霊、海の上で出くわす行き逢い神としての性質も持っている。出くわすと不幸になるアレだな」

上条「ふーん?でも話からすると『人魂』って意味しか持ってないよな?なんでそれが『ケチが憑く』みたいに不幸な事が起きる的な風に言われてんだ?」

闇咲「それは原因と結果が逆だ。不幸が起きたからケチが憑いたんだ」

上条「なんだそれ?順番逆になってね?」

闇咲「そうだな……例えばの話、まぁ芝居か何かの興行があったとする歌舞伎でもいいし見世物小屋でもいい」

闇咲「しかし前評判の割に内容はありきたりで途中から客足も遠ざかり、結果的には失敗する。そこまで一連の流れを知る人間はこう噂するんだ」

闇咲「『あの興行はケチがついた。だから失敗したんだ』と」

上条「あー……なんか分かるような気がする。映画とかでも監督や役者がしっかりしてるのに、スッゲーつまんないのとかたまにあるんだよな。『なんでこれ?』みたいなの」

闇咲「それが昔はケチというか死人か疫病神のようなモノに祟られた、という噂が広がった訳だ。原因がよく分からないのに失敗したのを怪異の仕業と――『○○が失敗したのは縁起が悪いせいだ』

上条「妖怪さんキレていいと思う」

闇咲「そういう使われ方、要は原因不明や理解不能な失敗の要因として『ケチ』を用いてる間に、いつしか『批判や瑕疵がない相手へものへ対する難癖つけ』という意味も加わり、現代に至ると」

上条「セコイ人を呼ぶのにもケチって言い方するよな?そっちとは違うのか?」

闇咲「吝嗇(りんしょく)と書いてケチと読む方だな。恐らく意味合いが似ている間に統合されたと思われる」

上条「人に憑く方のケチは?」

闇咲「一説には『怪事(けじ)』だな」

上条「そのまんまじゃねぇか」

闇咲「まぁここまでの要点をまとめるとだ、特段失敗するような原因がある訳でもないのに何故か失敗した。その原因を怪異の仕業ではないか?とたったこれだけの話だな」

闇咲「……」

上条「どした?」

闇咲「――”””というのが憑き物筋の全て”””だ。これ以上でもなくこれ以下でもない、ただそれだけの話になる」

上条「うん?今からなんか長ーい話するんじゃないか?」

闇咲「長いかどうかはOKが出るかどうかにかかっているが……まぁ、今の話を念頭に置いて聞いてほしい。大した話でもない、ないのだが……」

闇咲「とにかくセンシティブな問題にも関わらず、真っ正面から踏み込んでいった連中もいる。そこも踏まえたいと思う。どうかと思わなくもないが」

上条「あれこれ『もしかしてまたやっちゃいましたか?』パターンじゃね?過去の俺らが何かまたやらかした感が」

闇咲「まぁ憑き物筋といっても、ヘビ・ヒル・キツネ、そして一番有名なのが犬神か。何となくは聞いた事はあるだろう?」

上条「なんだっけか……えーつと、イヌさんを首だけ出して地面に埋めて、食事させないでヘイト溜めてから殺すんだっけか?」

闇咲「と、言われている」

上条「マジであったのか?そんな趣味悪い儀式?」

闇咲「恐らく誤解ではないかと推測される。その宗教行為を否定はしないがな」

上条「誤解?イヌ虐待するような誤解なんてそうそうある筈が」

闇咲「いや、食べていたからな西日本では。エノコロ飯だったか」

上条「あぁそういや言ってたわ!ドリフター○のト○さんが!」

闇咲「当時の食糧事情が非常にきつかったため、禁忌など関係なく野犬を食べていた、というだけの話なんだが。頭部は食べなかったらしいんだ」

上条「あぁ、うん。今でもブタやウシの頭は中々食べないよな」

闇咲「なので放置したり、調理中にはそこら辺に放置しておいたんだよ。それを事情も知らない第三者が見たらどう思う?」

上条「『やっべこいつらなんか犬のクビ刎ねてるコワイ!?』か?」

闇咲「スタート地点はそこだと思われる」

上条「なんつー嫌な誤解のされ方……!いやでも四つ足禁止される人からすれば、喰うって発想はないのか……?」

闇咲「参勤交代もあったからな。意外と情報のやりとりはあったそうだ……まぁ、可能性としては悪意も当然あるかもしれないがな」

上条「悪意?」

闇咲「『○○に住んでいる者はかくも野蛮な風習が残り候』というヤツだ。話す方が軽い気持ちでやってしまうのもよくある話」

闇咲「例えば長野県の郷土料理も今でこそ昆虫食だが、事情を知らなければ絶句するだろう?」

上条「何やってんだ昔の人――まぁ、理屈はなんとなく理解したけども、その程度で広がるか?結構言われてんだろ?」

闇咲「そちらもまた非常に簡潔かつ端的に説明できるのだが……えぇと、君は憑き物筋について、他に何か知識はないか?」

上条「地獄先生ぬーべ○だったら少しだけ。なんかネコっぽいクダギツネだっけ?が、何かこう妖怪退治してた」

闇咲「あれは良い子の妖怪マンガだからな。というかよくあれやったなぁと感心せざるを得ないが……まぁ憑き物筋はな、自身で使役している動物や霊を使役すると言われていたんだ」

上条「ふーん?妖怪と戦ってたんだな!」

闇咲「いいや?他人の物を盗んだり、水を盗んだり、他人へ呪いをかけたりしていた、”ということになっている”な」

上条「なんか、なんかこうスケールが!悪いことにしか使わないのか!」

闇咲「因果が逆でな。ケチと同じで”起きた事象で原因を解釈した”んだ」

上条「すいません怪談おじさん、もっとこう簡単に言ってくださると嬉しいです」

闇咲「ある畑から芽が出てきた。誰も種を撒いたこともなく、伸びてきた芽にも覚えはなかった」

闇咲「しかし一ヶ月後にその芽は立派に育ち、形を見ればホウレンソウだった。観察していた者はこう思った――」

闇咲「『――ホウレンソウの種が別の種に混じっていたか、前に誰かが畑に蒔いた種が残っていたんだろう』と」

上条「そんなことがあんのか」

闇咲「意外にある。ホウレンソウという結果から原因を求めた訳だが、これについては特に問題もない――が、先程のケチについて考えてみよう」

闇咲「あるところに男がいた。男は特段優れているわけでもないが、逆に劣ってるところもなく、無難に生きてきた」

闇咲「しかしある時を境に失敗ばかりするようになった。何が変った訳でもないのに。それを見ていた他の者たちはこう囁きあった――」

闇咲「『――あの男にはケチが憑いた。だから不幸な目に遭ったのだ』と」

上条「ブラック過ぎねぇか?いやまぁ、縁起担ぐ昔だったら仕方がないのかもだが」

闇咲「あるところに男がいた。男の住んでいる村はあまり豊かではないが、貧しくもなかった」

闇咲「だが男は他の家に比べて裕福になった。それを見ていた他の者たちはこう囁きあった――」

闇咲「『――あの男は犬神が憑いている。だからそれを使って他から盗んでいるからに違いない』と」

上条「お前、それただの言いがかりじゃねぇか!?なんか原因はあったんだろうが!」

闇咲「誠に遺憾ながらその感想が的確ではある。”なんか原因はあった”が、”ただの言いがかり”だな」

闇咲「まぁ幾つか要因がある。一つは神道・仏教とは違う信仰を持つ人間達が居た。それこそオオカミやキツネを信仰する集団だな」

上条「オオカミは知らんけど、キツネって別に珍しくなくね?お稲荷さんってキツネだろ?」

闇咲「あれも正確にはダキニ信仰であって、御先がキツネでもあるのだがな。まぁそれも間違いではない。稲荷信仰と合一していった一派も居るだろうし」

闇咲「というか特定の動物を信心するのはどこの地域でも行われていたことだ。昔は重機の代わりに牛馬を用いて農作をしてため、飼っている家では大変大事にされていた」

上条「昔なのにか?なんかキツそうなイメージあるけど」

闇咲「例えば馬飼い・牛飼いの家では死んだ牛馬の肉は絶対に食べない地域もある。文字通り苦楽を共にした家族だったからな」

闇咲「こういった言い方はあまり誉められたものではないが、畜産家が『家族同様に育てた』のに、出荷するのはどうなんだ、というね」

上条「そこはまぁ商売なんだから仕方がないだろとしか……」

闇咲「私も同感だ。しかしながら先祖代々牛馬と共に生きていた人たちは、現代においてもそれらの肉を口にしないと決めている家庭もそこそこ居るのも事実だ」
(※北陸〜東北に多い)

闇咲「よって動物を信仰するのはどこへ出しても恥じることない宗教行為である、と私は思うが……まぁそうは思わない人間も居たということだ」

上条「そんなアホどもが、『誰々さんちは犬神だ』ってか?最低だな」

闇咲「動物を崇める人間にとっては事実その通りなんだから、否定をせずにいたという証言も幾つかある。以上が一つめだ」

闇咲「で、まぁ恐らく憑き物筋が悪い意味を持ってしまった最大の原因がだな、”””貨幣経済の浸透”””なんだ」

上条「………………お?貨幣経済?またオカルトとは全っ然別のベクトルじゃね?」

闇咲「貨幣が日本に浸透したのはいつだ?」

上条「和同開珎だっけか?奈良時代、ぐらいだっだ筈?」

闇咲「それは日本初の貨幣鋳造だな。私が言っているのは貨幣が貨幣として広く使わせるようになった時期を問うている」

上条「あー……いつ?」

闇咲「宋銭などもあるが、全国で広く使われるようになったのは戦国時代以後だ。強い幕府による統一規格が成されるまでは、局地的に使われる通貨でしかなかった」

上条「超不便だな。だったらその時代は

闇咲「金・銀、あとは鉄などの現物を所持して現金の代わりにしたり。また米を持っていって、それを現地で他の食べ物と物々交換したりしていた」

上条「うわぁ……カードで慣れた現代人には辛そう……」

闇咲「ともあれ貨幣が浸透して経済が動くようになると、地方の農村部でも明確な経済格差が生じる」

上条「格差できんの?」

闇咲「商人なり行商人が村を訪れたとしよう。そして適当な価格で現地からの商品を仕入れて、対価として貨幣を使う。これはまぁ普通だな」

闇咲「だが――商人は”全ての農家から均等に買い上げたりはしない”。また同じ村でも商品の出来は家によって違うし、なんだったら村ごとに異なる」

闇咲「よって同じ村でも、もしくは隣村同士でも所持する貨幣量に差がついてしまい、そこには経済格差が生じてしまう」

上条「当り前っちゃ当り前の話だが……」

闇咲「そうすると妬み嫉みで裕福な家が『憑き物筋だ』とレッテルを貼られる――」

闇咲「――『俺とあの男は同じ場所に住んで同じ仕事をして同じ結果なのに、あっちの家は裕福だ。これはきっと悪いことをしているに違いない』と」

上条「本当に最低の話だな。だから差別なのか」

闇咲「そもそも大前提から間違っていてだな。全てが祟りをどうにかする力を持っているのであれば行使しない理由がない」

上条「最初っから超常パワー持ってないんだから使いようがないんじゃ?」

闇咲「という次元の話ですらなくてだな。例えば君が誰かを傷つけたり不幸にする呪いの力を持ってたと仮定しよう」

上条「持ってるぜ!ただし俺の運勢を不幸にする以外の用途はないがな!」

闇咲「そんな力を持っているにも関わらず、君のことを除け者にしたり不当に使う人間達へ対し、使わない理由はないだろう?」

上条「あー……俺はなってみないと分からんけど、そんな力持ってたら使うわな」

闇咲「代表的な例が『コトリバコ』だな。あれもステレオタイプ的な憑き物筋を面白可笑しく脚色した話だ」

闇咲「よって全ての憑き物筋はただの言いがかりであり、差別であり偏見である。少なくとも現代においては決して許されざる話だ」

上条「一応『真相ってそんなんか!?』ってツッコんでおくわ。なんつーか日本の闇を見た……!」

闇咲「なのでケモナーの話も非常にデリケートなものだった、にも関わらずよくもまぁ多少なりとも認知されているな、と私は驚愕している」

上条「そんな経緯がある人からすればぶち切れるか」

闇咲「一応……まぁ一応言っておくか。『俺は犬神使いだ!ウルフモードに変・身!』的なキャラクターがたまに存在するが、元々の興りからすれば『こいつ正気か?』だからな?」

上条「そこら辺は……まぁ一部の人らが暴走してるっていうか、なんだ、そのごめんなさい?」

闇咲「以上が簡単にだが憑き物筋を分かりやすく解説した話となる。詳しくは現代民俗学の祖である小松和彦先生の『異人論』に書いてあるので、興味があればそちらを」

闇咲「補足として時々、『犬神』もしくは『犬上』という姓を持つものも居るが、全てが関係者という訳ではないからな」

闇咲「滋賀県には犬上群という行政区分があり、廃藩置県では犬上県でもなった。その地名から名乗っている者も居ると付け加えておこう」

上条「てか別にBANされるような内容じゃなくね?結果的には『差別を生んだのは人であって、偏見はダメ!ゼッタイ!』って至極真っ当な感じに」

闇咲「それでもされるときはされる。藤田和日○先生のうしおとと○ではクダギツネ使いのヒロインが一人居なかったことになっているからな」

上条「いやでも話聞いた後の感想だけど、あれは仕方がないんじゃねぇの?『俺は犬神使いだ!行け、犬神!』ってデビルがサマナーするようにやらかしてんだよ?」

闇咲「当事者からすれば、な?個人的に思うところがない訳ではないが……あぁそうそう。憑き物筋の社会的立場の改善についても少し話しておくか」

上条「大体秘密にしてんだろ?だったら改善も何もないと思うけど」

闇咲「これがだな、決して総意ではなく、とある憑き物筋の人間から取材した人間から聞いた話なんだ。だかにまぁあくまでも参考意見としてほしい」
(※一応本当)

上条「つっても別に特段語るようなイベントもなかったよな?」

闇咲「……知っているか?横溝正○の『犬神家の一○』」

上条「映画で見たことあっけど。お金持ちの家で遺産巡ってデスゲームするヤツだよな」

闇咲「アレのおかけで『犬神=なんか金持ちだけど頭がアレな人』ってイメージが……」

上条「あー……日本全国の貞子さんが難儀してるように、やっぱりあったのな。当時から謂れのない風評被害が」

闇咲「そしてラノベやら少女マンガで登場するワーウルフタイプのキャラクターが、大抵『犬神』を名乗るため、何かこう、『名前を名乗ると、”うん、で?本名は?”と聞かれる経験も」

上条「ごめんなさいね全国の犬神姓の方!俺らがまたなんかやらかしたようで!」 

闇咲「そして様々な意味でトドメを刺しに来たのが、デビルがサマナーするゲームがあってな?君が言ったようなアレだ」

上条「……アレってそんなに踏み込んじまったの?」

闇咲「割とかなりやらかしている。これ出すのマズいだろ、というのがかなり出ている。というか今でこそ”それほどは”問題にならないものの、海外でキリスト教貶めたら反発がかなりあるんだからな?」

闇咲「それを日本の妖怪や神霊、更には憑き物筋までゲームに登場させた挙げ句、知名度は高くなってしまった訳だな」

上条「知名度ってお前……」

闇咲「ちなみに歴代の売り上げ数は一作品につき大体10万本弱から16万本程度。まぁユーザーの入れ替わりも考慮して約15万人が関連作品をプレイしたとして、全人口の0.12%が知っている事になると」

上条「あー……丁寧な解説もついてんだっけかアレ。悪魔が全書するやつ」

上条「しかし知名度……知名度が上がるってどうなんだ?偏見が広がるってことになんのか?」

闇咲「それがだな。貶める方、まぁ言ってしまえば呪いをかける方にも影響していてな。なんと言えばいいのか。名前それ自体が”呪い”へと転じることがある」

闇咲「極端な話をすれば所謂レッテル貼りだ。『○○は××である』と言ってしまえば、それを払拭するのには多大な労力が必要となる。それは分かるな?」

上条「呪いっつーよりかただの煽りっぽい気がするが」

闇咲「それの一つが憑き物筋でもあった。悪魔の証明というやつで、『○○である証拠』というのは用意出来るが、『○○でない証拠』は極めて難しい」

上条「スタート地点の『要はただの言いがかり説』に戻ってんな」

闇咲「悪意故に多くの人間が偏見を持たれてしまうに至ったのだが――ここへ来て、風向きが目に見えて変ってな」

上条「微妙に嫌な予感がするが、どんな感じに?」

闇咲「もし仮に誰かから犬神筋と身に覚えのないレッテルを貼られた場合、君はどうする?」

上条「『いや違うしバッカじゃねぇのかお前?マンガやゲームでたまにある超能力者とか信じてんのか?』」

闇咲「――と、様々な分野で陳腐化&キャラクター化することによって、本来の意味が大いに失われつつある。それも急速に」
(※マジらしいです)

上条「まぁな!これだけあちこちラノベやマンガにゲームにまで堂々と出てるんだから、今更祟りとか呪いとかある訳ねぇわな!」

闇咲「個人的には……偏見の目が廃れるのは喜ばしいことなんだが、どうにもこう納得が、な。せめてこう迷信や俗信を打ち払う啓発運動の結果だったら、美談として終わるんだが……」

上条「こんなところにもサブカルチャーの魔の手は伸びている……!気をつけろ!次の犠牲者はあなたかもしれない……!」

闇咲「こうなってくるともう、妖怪としてキャラクターを確立させた方が好影響を出しそうな感じですらある。元々持っていたイメージから切り離されれば、あとはただ専門書の隅にでも残る程度になればいい」
(※あと半世紀で消える勢い)

上条「なんだろうな、こうスッゲーセンシティブな話の筈なのに最期はしょーもないオチがついたぜ!」

闇咲「日本のサブカルはまた妙なところで変に影響力を発揮するするからな。なんだかんだでATLAS社の女神転生系の資料は、割と本気で民俗学の資料として使えるのもある」

上条「もういい加減にしとけやATLAS。あとペルソナの続編は早くお願いします」

闇咲「以上で今回の企画の主旨は終わりになるのだが、補足として一つだけ」

上条「すいません、お腹一杯っすわ」

闇咲「局地的には大事であり、俯瞰的にはしょーもないことなんだ」

上条「じゃあしょーもないだろ!?勿体ぶって言うことか!?」

闇咲「徹頭徹尾真面目な話だけをしているつもりだ――が、まぁ憑き物筋の研究書について触れたいと思う」

上条「あんの?そんなん?」

闇咲「専門書としては極めて少ない。研究者のありなし以前に、ケースがケースだから偏見を助長させないとか、特定させないようになどの配慮からだな」

闇咲「よって江戸時代以前に書かれた書物に寄るのが殆どだな。『○○地方には〜』という地方紙や郷土史関係の文献を探すのが一番早かった」

上条「過去形?」

闇咲「つい近年の話、全国津々浦々の憑き物を妖怪としてまとめ上げ、かつ画集として残された方がいてな」

上条「妖怪?俺でも知ってる人?」

闇咲「水木しげる先生だ」
(※実話です)

上条「なにやってんすか先生!?よくまぁそんな切り込み方したな!?」

闇咲「それも連載していたのが『ムー』だ」
(※実話です)

上条「またタチ悪ぃタッグじゃねぇか!?考えられる限り最高と最低が手ぇ組んだ感じだろこれ!?」

闇咲「これは私の想像に過ぎないが、『まぁ水木先生は止められないし……』と『ムーなんかに関わるだけ時間の無駄』という二つのベクトルが働いたと思われる」
(※水木先生、他にも「これ書いて大丈夫?」的なの結構やってる。ドローカルな祟り神多し)

上条「俺だってそんなの無視するわ!ムー相手に戦ったって損するだけだからな!」

闇咲「ちなみにタイトルは『水木しげるの憑物百怪』で95年・2005年・2016年とほぼ10年おきにリメイクされて刊行されている。興味があれば」
(※つまりその程度には需要があるという話。05年のカラー版がオススメ)

上条「なんか釈然としねぇ……!内容的には大真面目なんだろうが、色々と不真面目なんだよ!」

闇咲「まぁBANされたらその時はその時だな」

上条「――よし!今からアリサの事務所行って巻き込んでやろうぜ!」

闇咲「君も良い表情をするようになったな」


-終-
(※ほぼ全て事実です。まさか偏見をサブカルが駆逐するとは夢にも思わず……)

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