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Clock(trial)

地獄の闇ちゃんねる 〜正しいレジャーの仕方・山岳編〜

 
――とある山の麓

上条「えーっと、どっから説明したもんか迷うんだが……まぁ、俺たちのパーティは今山の麓にいます」

上条「学園都市の外のちょっとした登山ルートの手前、つーかロッジやら売店やら、少し歩くと駐車場があるスペースに来ている」 チラッ

闇咲(※修験者スタイル)「……」

上条「……」

闇咲(※修験者スタイル)「続けてくれ」

上条「パーフェクト闇咲か。それともフルアーマー闇咲か。なんだったらストライクフリーダ○闇咲か」

闇咲(※修験者スタイル)「せめてオーテング○と言ってほしかったが」

上条「意外とイケるクチかコノヤロー。よしじゃあミキシングビル○について語り合おう、だからどっかで脱いでこいそれ!」

インデックス「とうま……一応、ひとさまの一張羅にいちゃもんつけるのはよくないのかも」

上条「だって言うだろコレ!?いつでもヤク○がダッシュで逃げそうな死相のオッサンがフル装備って怖いだろ!?」

上条「どう考えても今からこれラスボス倒しに行く装備じゃねぇか!魔王とか邪神とかそういう上級のヤツだ絶対!」

闇咲(※修験者スタイル)「インデックス先生、説明頂ければ」

インデックス「あ、うん。『ここまでとうまを追い詰めたのは誰なんだろう?』って韜晦はさておき、こちらがジャパニーズ・ミッキョウの正式なクラシカルスタイルなんだよ」

闇咲(※修験者スタイル)「天草式程ではないが、霊装の一種と言っても過言ではないな」

上条「ドレスコード間違えてねぇか?何俺今から本格的に山伏の修行させられんの?」

闇咲(※修験者スタイル)「希望があればしても構わないが。ただの君の場合、どれだけ修行を積んだところで『右手』があるため、ただのトレーニングの域を出なくなる」

インデックス「しんしん共に鍛えられるから、けっして無駄ではないんだよ。ただちょっと魔術的には何の成果も得られないだけで」

上条「百歩譲って俺だけだったらともかく、こっちのシスターさんは無理があんだろうが!?都市部ですら飢餓状態になるんだから、山入ったら俺らが食われるだろ!?

インデックス「心配するところそこなのかな?あ、やみさかはとうまを荒行こーすでお願いするんだよ」

闇咲「心配は不要だ。半年ぐらいだったら自給自足で充分生活できる」

上条「数日持たねぇよ!?お前みたいなビックリ人間と都会育ちを一緒にすんなや!」

上条「てか今日何の企画だよ!?『ハイキングできる格好で』ってメールされたから、俺もインデックスも普通のカッコで来ちまったじゃねぇか!ホウレンソウしっかりしとけよ!」

闇咲「あぁ問題ないとも。今から登る某山は頂上まで二時間弱の登山コースがあり、そこを行く予定だ」

インデックス「わたし的には正装だし、特に文句もないんだけど……今日は何をさせられるんだよ?」

闇咲「これからレジャーの季節になるだろう?長期休暇で山へ行ったり海へ行ったり、行楽のシーズンだ」

上条「闇咲の口からそんな単語が出ると違和感しかねぇが、まぁそうだな。なんだったらあと一ヶ月もすれば涼しくなるだろうし、旅行なんかいいよな」

闇咲「そうだな。しかし遊びに行った先で、しっかりと地雷を踏んで霊障を持って帰ってくるケースが増えるのもまた事実だ」

上条「そんな事実ねぇよ!どこの地獄だそれ!?」

インデックス「まぁ、うん……ふぃくしょん的には多いよねって話かな?うんきっとそう」

闇咲「なので本日は『宗教的にこれはしない方がいいよ』というのを実地体験してもらおうと思う」

上条「……具体的には?」

闇咲「そうだな。例えばそこにある路傍の石碑、『光明供塔(こうみょうくとう)』と呼ばれており、まぁ慰霊塔だな。飢饉や疫病で亡くなった命を弔うものだ」

上条「こういうのってあんまりホイホイ拝むのよくないんじゃないっけ?ついてくるとか何とか」

インデックス「んー、絶対にないとは言わないんだよ。言わないんだけど、可能性としては宝くじで一等賞が出るぐらいのれあなんだよね」

上条「俺だったら一発で当てそうだが……そんなもんなのか?」

インデックス「一回お祈りしたぐらいでオバケがついてくるんだったら、それはもう他にどこかでついてこないとおかしいんだよ。霊的なすぽっとはいっぱいあるし?」

上条「あぁまぁそう、かな?お墓参りすれば大量のご先祖様がスタンバッてるし、か?」

闇咲「またこういう話もある――とある男は資料として石碑なり石塔なり、怪しい神の社なりを千枚以上撮影しているがピンピンしている」
(※実話です)

闇咲「『呪われたら呪われたでそれはそれでオイシイね!』そうだが」

上条「アホだろソイツ」

闇咲「なおその中には日本書紀で唯一『悪神』と名指しされた天津甕星(あまつみかぼし)も含まれており、少なくとも節度を以て接する程度には問題ないのではないかと」

上条「それはそうかもだな。粗末に扱うんだったらキレるが」

闇咲「だがしかし彼はつい最近こう思ったそうだ――」

闇咲「『――俺に嫁ができないのは呪いのせいに違いない……ッ!』、と」

上条「紛うことなきそのアホの日頃の行いだろ。そんなことやってっからさ」

闇咲「幸いにもその男性は二次元にしか興味ないため、事なきを得たようだが」

上条「なぁ、度々思うんだが、ここの運営が使う『事なきを得た』って用法間違ってないか?致命的に違うよな?」

インデックス「まぁ、個人的な話はともかく、普通だったら心配はしなくいいと思うんだよ?何かあるんだったら、ずっと昔になってるだろうし」

闇咲「というか霊障を引き起こすような物が、そこら辺へ無造作に置いてあるのは”それほど”はない」

上条「……それほど?それほどって言ったか今?」

闇咲「釘を刺しておくが、”””そういう信仰がある”””のであって『現実にどうこう作用した』んではないからな?」

闇咲「あくまでも宗教の一環としてそういう解釈があり、”””昔の人は守っていた”””というのを紹介するだけだ。くれぐれも勘違いしないように」

上条「今まさに詐欺商法撲滅キャンペーンやってっけどね。同規模には被害者の会がデカいアレとアレとアレは見ないフリして」

闇咲「それでなのだが、インデックス先生。実に言いにくいのだが、ここの山は金屋子(かなやご)神のテリトリーであるので」

インデックス「なんっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっでなのかな!?ここまで来たのに戦力外通告なんだよ!?」

上条「あの、どういう?」

闇咲「金屋子神は山と鍛冶の神で女神なのだが、異常に嫉妬深いとされている。なのでその女神の神域は女性が立ち入らないのがルールなんだ」

インデックス「せっかく来たのに!ちょっとお散歩できるって楽しみにしてたんだよ!?」

闇咲「ここのロッジで無理矢理連れてきた鳴護アリサさんに財布を預けているので、そちらで自由に過してくれて構わない」

インデックス「――うんっ!頑張ってくるんだよ!もし何かあってもまっはで駆けつけるから心配はいらないんだよ!」

上条「破産するつもりか……!?」

闇咲「はっきりいうがインデックス先生のお知恵を拝借する場合、正当な対価でいえば億は下らないからな。魔術サイドの最終兵器に近い」

上条「言うほど活躍はして……うん、まぁまぁいいか。平和だってことだからな」



――某山 ハイキングコース

上条「すいません闇咲さん。一緒にいると周囲の視線が痛いです、あと写メ撮られまくってる」

闇咲「私にとっては正装なのだがな。そして呪的に防御しているので、私の顔は映らないようになっている」

上条「心霊写真じゃねぇか。つーかたまにあんだろ、顔の所がグネってなってる感じのヤツ」

闇咲「合成か呪的防御だな。見なかったフリをして消すのが一番良い対処法だ」

闇咲「さて、いざ山の中へ入ってみたのだが、ここからはもう人の領域ではない」

上条「いや、普通のハイキングコースだろ。途中途中に『頂上まであと○○メートル!』ってカンバンすらあるし」

闇咲「現在の話ではなく昔の話だ。人が娯楽で山中へ踏み入ること自体がなかった」

上条「なんで?タケノコだったり山菜採ったりすんだろ?」

闇咲「単純に危険だからだよ。現代とは違いオオカミや野犬が異常に多く脅威だった」

上条「人を喰うのか……?」

闇咲「基本的には”それほど”食べなかったらしい。主に被害に遭うのは家畜だが、やはりその過程で噛まれることがままあった」

上条「噛まれるぐらいだったら、まぁ?」

闇咲「一度噛まれただけで致命傷でも?」

上条「それ俺の知ってるオオカミじゃねぇよ。ポイズンウルフとかRPGで序盤からちょい先に進んだときに出てくる色違い敵だよ」

闇咲「野生動物全般にいえることだが、彼らは一度もデンタルケアをしていない。まぁ野生だからな」

上条「そりゃそうだろ」

闇咲「なので口の中に常在する腐敗菌が噛みつきを媒介して感染、敗血症で死ぬというパターンがある。抗生物質が無い時代だからな」

闇咲「よって『致命傷でもない小さな傷なのになんで?』と当時の人は解釈していた訳だ」

上条「野生動物って怖っ!?」

闇咲「なおそんな不衛生な状態でも虫歯にならないのは、唾液が菌の繁殖を抑えているそうだ。なので唾液量の少ない小型犬なんかは虫歯になりやすい」

上条「だからなんの情報だよ。トリマーか」

闇咲「またエキノコックスを筆頭に寄生虫被害は現代でもある。よって野生動物との接触は非常に危険であると共に」

闇咲「昔の人間は『祟りがある』と理由をつけて遠ざけていた。ただそれだけの話だ」

上条「おぉ!意外と綺麗にまとまったな!」

闇咲「野生動物は本当に危険なので絶対に触ったり近寄らないようにしよう……と、加えての話だが」

闇咲「君がもし登山へ行ったとしてコースから離れて迷ったとしよう。装備はプロ使用の万全の物があったとして、どう行動するかね?」

上条「素人考えだが、体力のあるうちに元の道を探す、か?」

闇咲「悪い回答だな。残った体力を無駄に消費して同じ場所へ戻って来てしまうのが精々だろう」

上条「正しくはその場所を動かないんだっけ?下手に歩き回るよりも」

闇咲「それが模範解答だ。事前に入山記録や知人へ行動予定を知らせておき、万が一遭難した場合には助けか来るまで待つのがベストだといえる」

上条「携帯食料を持っていたとしても厳しいだろうしな。どっちかっていったら心を病みそうだ」

闇咲「現代ですらこれだけ山が脅威であるのならば、昔はどうだったのかというのは想像出来るだろう」

闇咲「よって昔の人たちは、『山中は人の住める場所に非ず、非情な神が治める化外の地』と認識し、滅多に分け入ることがなかった」

上条「あぁそれで女の人が入っちゃいけないだとかって話になってんのか」

闇咲「そういった現実がまず先にあり、その事象を説明するために『山の禁忌』が生まれたと推測される」

闇咲「理由付けはともかく、『野生動物へ下手に手を出したらいけない』とかは有効だからな」

上条「意外と真面目な企画……!アホみたいな格好なのに!」

闇咲「だから正装だと何度も言っている」



――山頂近くの森林

上条「違和感が……!視覚的暴力が強すぎてハイキング集中できない……!」

闇咲「言いがかりにも程がある。む、ではここで休憩にしようか」

上条「目の前の面白コスプレがなきゃそれなりに気持ちがいいのに……!あ、水持ってきたか?」

闇咲「この状況で持参しないのはアホの所業だと思うが。今日はあまり暑くないものの、水分補給はしっかりしないと」

上条「インデックス置いてきて正解かもだなぁ……お?綺麗な花、これなんだ?」

闇咲「野生のシキミだな。あ、実は絶対に触るな」

上条「なんで?ドングリっぽいじゃん?」

闇咲「猛毒だ」

上条「もっと早く言ってくださいよコノヤロー!?葉っぱ触っちまったじゃねぇか!」

闇咲「その程度では何も起きないが……山の禁忌の中には『持っていってはいけない』もある」

闇咲「昔々ある所に住む猟師が山奥で迷ってしまった。知らぬ道を必死に歩いていると美しい花畑へ出た」

闇咲「猟師は『妻が喜ぶかも』と花を一輪摘み、どうにか村へと帰っていった」

闇咲「猟師が妻へ花を送ったら大変喜んだ――が、次の日、妻は布団で冷たくなって死んでいた」

闇咲「『”持ってきた”分だけ”持っていった”のだ』、と、みんなが噂した」

上条「……実話?」

闇咲「という伝説がある。要は『山にある物は人の管轄外なので不用意に手を出すな』だな」

上条「えぇっと、この話の教訓、つーか深い意味は?科学的にっていうか……」

闇咲「毒性植物ではないか、と思う」

上条「え、でも食べた訳じゃなくね?」

闇咲「状況からしてそうとしか考えられない上、この妻が体が弱かったり猟師が見つけたのが果物だったりするパターンもあるからな」

上条「そんなにヤベェ植物って多いの?」

闇咲「そこに生えているシキミは猛毒だな。実を食べると中毒死する可能性がある」

上条「だからなんでそんなのがあんだよ!?」

闇咲「使いようだな。シキミ自体には毒があるものの、それを利用して葉や茎を乾燥させて粉末にし線香に使う」

闇咲「するとその線香は獣が嫌がる匂いを出し、仏前で使うのに適したものとなる」

上条「線香なんてどれも同じじゃ?」

闇咲「今はそうだ。しかし昔は違う。土葬の上、葬式をあげるまでは埋葬できなかった時代だ」

闇咲「当然野生動物には狙われるし、季節によっては腐敗が進んで酷い事になる」

闇咲「よってそれらの害を軽減させるために、有毒植物の線香が有効だったと。今でも密教の行の一環で、その線香を作る工程がある」

上条「生活の知恵なんだなぁ。毒であっても使い方によっては有効だと」

闇咲「ちなみにシキミは仏花としても長持ちするんだそうだ。毒の成分がある故に水が腐りにくくなるらしい――」

闇咲「――と、いうのが科学サイドのでの解釈。魔術サイドでは違う」

闇咲「神や妖怪に人らしい人格や人間性を求めてはいけない。多生外見が似通っていても、全く別の何かだ」

闇咲「あちらとしては『善意』らしいんだ。勝手に自分の持ち物を持っていったが、まぁ物々交換でならと応じてくれる」

闇咲「その代償がエゲツないだけであって、だが」

上条「……何年か前か。貴重な高山植物が狙われて、って話があったよな」

闇咲「帳尻を合わせに行ってるんじゃないか?」

上条「そう、か?不正蓄財してそこそこ儲けるパターンがあるっぽいけど」

闇咲「表面的には変化はないが、人間性やら人格がすり減るというやつだな」

上条「うわぁ……」

闇咲「昔であればそれなりの拝み屋がそこそこの頻度でいたが、今は殆どがただの自称霊能力者だからな。彼らにどうこうする力があるとは思えん」

上条「ってことは一回何かに呪われちまったら、ずっとそのまま?」

闇咲「一代祟られただけで終わるといいがな。向こうとは時間感覚が違うので、それもまた悪意ではないのかも知れないが」

上条「あの、闇咲さん?良かったら荷物持とうか?凄い重そうな箱みたいの担いでるし、大変そうですよねっ!」

闇咲「『厨子(ずし)』と言う。気持ちには感謝するが、君との相性が宜しくない――さて、では行こうか。もうすぐ山頂だ」

上条「なんておっかないんだ魔術師サイド!フィクションとはいえな!」

闇咲「ちなみに余談だが、君は獣害は知っているか?鹿が街路樹の皮を剥がして食べ枯れたり、農作物に被害に遭ったり」

上条「たまーにニュースになるな。それが?」

闇咲「野生動物は生き死にがかかっている分だけ、食に必死になる。自然の摂理というか、まぁそれは善悪とは別の次元での話になるが」

闇咲「しかしそんな野生動物や昆虫達がいるにも関わらず、荒されず残っているのは何故だろうな?」

上条「え……?」

闇咲「またごく稀に野生の芥子が山中に自生しており、それを採取して栽培する、という犯罪が摘発されている」

闇咲「端から見てあるかどうかも分からない植物欲しさに山に通う姿は、まさに”憑かれた”ようにも見えるがね」

上条「それって――」



――山頂 火口付近

上条「いやー清々しい景色だな!心が洗われるようでもう帰ろうぜ!」

闇咲「内容が酷過ぎて嫌になっているのは理解できるが。最後なのでも少しだけ頑張ってほしい」

上条「てか真面目な話、小さめの山なのに結構涼しいな?できれば純粋なレジャー気分でで来たかったけども!」

闇咲「それは後日すればいい。本日の教育を生かせる日が来る」

上条「来なくていいよ?もし来たら俺らの誰か、具体的にはまず間違いなく俺が呪われたって事になっからな?そんときは絶対に呼んで巻き込んやっかんな!」

闇咲「『右手』があればどんな悪縁も切れるんだが。まぁ、呼ばれれば行くがね」

上条「お?ここにあるのって雪、か?温度低いし日陰になってるから溶け残ってる」

闇咲「万年雪だな。麓から写真を撮れば映えると評判――と、待て待て。ヨモツヘグイする前に話だけは聞いておけ」

上条「なんか超物騒な単語出たんですけど!?それってあれだろ!?サブカルで結構な頻度で出てくるあの世の食べ物じゃねぇか!?」

闇咲「山の山頂部分は神の住居がある、という解釈をする民話が多い。よって食べ物も近くにあり、珍しく万年雪や先程も言った貴重な高山植物が該当すると見なされる」

闇咲「そして山の中は基本的に人外の地、つまりこの世ではないどこかという扱いになり、ぶっちゃけあの世とも言えなくもない」

闇咲「そんな場所にある食べ物をみだりに口にしたら、”帰って来られなくなる”と」

上条「お前ら山ん中で修行するって言ってなかったか?そん時は飲み食いはしないの?」

闇咲「発想が逆なんだよ。修験者は深山で生活することにより、その体内へ『息吹』という、まぁ神聖な力のようなものを取り入れるとされている」

闇咲「むしろ神仙の食事は望むところだな。多分死ぬが」

上条「なんかトラップ多いわー山!」

闇咲「一応科学サイドの側から注釈も加えておくと、万年雪は正確には雪ではなくなっているそうだ」

上条「……じゃないの?」

闇咲「溶けたり凍ったりを繰り返しつつ、かつ自重で潰れていくと雪の結晶が消えて粒状の氷になる、そうだ。厳密には雪ではない」

闇咲「そして山頂付近では空気が薄いものの、過去の火山灰や麓から吹き上げた風によって埃が飛ぶため、まぁ衛生的には厳しい。止めはしないが」

上条「……なに?『ヨモツヘグイ=お腹壊す』って話なのか?」

闇咲「山頂で体調崩したら下山できずに死ぬだけだぞ?また腹を下せば脱水症状になりやすいが、周囲の水分が山の湧き水が氷しかなければ、それを口にするしかなく……」

上条「詰んでんなそれ!現代だったら笑い話で終わるのに!」

闇咲「事実なんて大抵つまらないものだ。まぁ各種の謂れや伝説にも、一分の真実が混ざっている事が多いと知ってくれれば充分だ」

闇咲「結論としては『そこら辺にあるものの飲み食い禁止、勝手に何かを持って帰ってくるのも控えた方がいい』だな」

闇咲「個人的にアドバイスするのであれば……鉄器、できれば和ばさみの小さいのがあれば護身用にいいかもしれない」

上条「ハサミ?ステンレスじゃなくて?」

闇咲「鉄だ。妖物は鉄を酷く嫌い、また山姥をハサミで撃退したという民話もある。嵩張るものではないし損はしないだろう」

闇咲「そしてまたあくまでもこれは科学的な見地に基づいてのアドバイスだが、鉄は錆びやすい。なので家へ帰ってから急に錆が進行していた場合、速やかに処分するよう強く勧める」

上条「ウソだ……ッ!絶対になんかあるって顔だッ!」
(※「身代わりに錆びてくれる」、という民話あり)

闇咲「以上で今週の企画は終わりになる。何か質問は?」

上条「これ……『山やったから来週は海で!』みたいになんの?普通に遊びに行きたいんですが」

闇咲「あー……海か、海はなぁ。特殊なんだ」

上条「特殊?」

闇咲「密教や修験道など、まぁ術者は山に籠もって行を積む。私もその流れを汲む一人なのだが、その逆はない。海で修行どうこうという話はまず聞かないだろう?」

上条「……言われてみればそうだな。なんで?」

闇咲「環境が無理なんだよ。山であれば食べ物も水も一応はあるし、なんだったら小屋でも建てて生きていくのは困難だができなくもない」

闇咲「しかし海原の上では何をどうしようもない。ただの死地だ」

上条「あー……死ぬわな」

闇咲「そしてその厳しさを反映するように、海の怪異は即死系が異常に多い。悪名だけが先行している『七人ミサキ』も元々は海上の怪異だ」

上条「ただの海難事故なのに妖怪さんの仕業になってんのとか多そうだよな」

闇咲「またそこまで行かなくとも『遭遇すると発狂』ぐらいの話も少なくはなく、厳しいんだよ。色々と」
(※回避する方法がほぼない。船幽霊のヒシャクぐらい)

上条「現代でも精々埋め立てるぐらいの対策しかないもんな」

闇咲「よって私がアドバイスできるとすれば――『行くな』ぐらいしかない」

上条「この企画の主旨全否定じゃねぇか」


-終-

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