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Clock(trial)

上条「地獄の闇ちゃんねる……『ヤマチチ討伐篇』!」

 
――とある高校 帰りのホームルーム前

土御門「――そろそろ”狩り”の季節じゃないかにゃー……ッ!?」

上条「モンハ○っていうよりもポケモ○の新エリアじゃね?あのサンだかムーンだかの」

土御門「違うんだにゃー。年末頃に公開されたモンスターをハントするあれなんだぜぃ」

上条「あー、時期は忘れてたけどアレって結局評判どうだったんだ?好評だったの?」

土御門「カミやんが再現動画をすると思うぜぃ!」

上条「これ以上監督案件を抱えられるかぁ!?アリサにはもう犯罪予告もとい恐怖新○が届いてんだぞ!?」

人工音声【15時44分。メールが届きました】

上条「……」 ピッ

メール【最近また二本ハシゴしたので合計七本になりました】

上条「――気をつけろ!敵の念能力者の攻撃を受けている……ッ!」

土御門「ほぼ都市伝説だにゃー。多分なんかのエ×広告踏んだときにスパイウェアもらっちまっんだろうけど」

メール【モンハ○はCGのクオリティが高かったため超減点対象です】

上条「ダメっぽいダメ出しまでされてる!?」

土御門「CGは凄かったぜぃ。ストーリーとオチが『令和の時代にこれか!?』っちゅー戦慄が走るぜぃ」

上条「相変わらずチョイスが絶妙で逆に見たくなる……!」

土御門「俺がもしリアルタイムで見たらぶち切れてると思うんだにゃー」

上条「つーか小萌先生来んの遅くね?なんかあったのかな?」

土御門「青ピは停学中だし平和だぜぃ」

小萌「――はいはーい席に着くのですよー!先生から大変なお知らせがあるのですー!」 ガラガラッ

小萌「えー、ただいま校門の前にヤクザがスタンバってるらしく、生徒の皆さんは裏門から速やかに下校するようにして下さいね!」

小萌「決して!そう決して腐ったミカンちゃんどもは対応に当たっている災誤先生のフォローはしないでください!責任問題に発展しますから!」

上条「おいおい土御門。ここまで露骨に『行ってこい☆』ってフられてんのは中々ないぜ!」

土御門「そしてオモテナシをさせられてんのはゴリラだにゃー。ベストな人選だぜぃ」

上条「いやいや何を仰いますやら!世界最大級の反社所属の土御門さんにかかったら、街のチンピラなんか相手じゃないっすよね!」
(※イギリス清教)

土御門「いやぁ、世界最大のジェンガ国家のオッサンと直で連絡取れるカミやんさんには、なぁ?」
(※アメリカ)

上条「こないだ建宮に送ったはずの『この画像でボケて!』が、何故か大統領に誤信しちまってだな」

土御門「超面白そうその話。オッサンがどうボケてきたか知りたい!」



――校門前

ヤクザ?「……」

災誤「あのー、ちょっとお話いいですか?」

ヤクザ?「あぁ」

災誤「私はこの学校の教師をやっております災誤ってもんなんですが、あなたはご父兄か何かで?」

ヤクザ?「いいや、親戚ではない」

災誤「しかしウチの生徒にご用が?」

ヤクザ?「君に話す必要があるとは思えん。個人と交わした契約を他人へ無闇矢鱈と吹聴するものではない」

災誤「はぁそうですか――ちゅー訳にはいかねえんですよ、えぇまぁ立場上ね」

ヤクザ?「ならばどうすると?」

災誤「職員室でお茶でもどうです?色々とお伺いしたいこともありますんで、いや遠慮なさらずに」

ヤクザ?「結構だ」

災誤「そう言わずに――んなっ?」 ギィンッ

ヤクザ?「つむじ風だな。意外によく斬れる」

災誤「……おいアンタ、能力使うのが犯罪だって分かってんだよなあ?あぁコラ?」

ヤクザ?「異能ではないのだがね。まぁいい、ステゴロの心得もなくはない」

災誤「……くっ!」

上条「――ヘイヘイヘイ!災誤センセビビってるー!ヘイヘイヘイ!」

ヤクザ?・災誤「……」

上条「小萌センセみーてるぞヘイヘイヘイ!男をみーせろよヘイヘイヘイ!」

災誤「……おい上条。何を……?」

上条「――危ない先生!俺たちは敵の魔術師の攻撃を受けているんだ!」

災誤「ふざけてただろ。思いっきり」

上条「とんでもない!お前からも言ってくれよ土御門!」

ヤクザ?「さっきから一人だな」

上条「もおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ土御門!やっぱり裏切ると思ってたけどお約束だから強くは出られねぇよ!」

災誤「仲良いなお前ら。ただ、バカだが」

上条「まぁそういう訳でもう安心だ災誤先生!俺が応援に来たからにはカプセル怪獣アギ○ばりの活躍を見せるぜ!」

災誤「セブ○のか?三匹のカプセル怪獣の中で、一番良いところなかったヤツのか?」

上条「あくまでも気持ちの問題――うっ!?こ、これはどうしたっていうんだ!?」

災誤「お前もういいから帰れよ。何の役にも立たないから」

上条「ヤクザが――二人っ!?なんてことだ!俺には見分けが……くっ!」

災誤「俺の顔見て喋ってたよな?煽ってるときなんか見たことねえいい笑顔で煽ってたよな?」

ヤクザ?「あと何度も言うが誰がヤクザだ。私は祓い屋という立派な職業だ」

上条「つーか何やっんての闇咲?俺の学校の前でさ」

闇咲(ヤクザ?)「……ここで君以外に用事がある訳がなかろう?仕事だ、行くぞ」

上条「――分かった」

災誤「おい待て上条!そいつは一体何だったんだ!?」

上条「父です?」

闇咲「もっとマシな嘘はあるだろ」



――オービット・ポータル芸能事務所

闇咲「――と、いうわけで二週続けて、まさかの闇ちゃんねるなのだが」

上条「なんかこう魔術サイドの敵と戦うのかと思ったらその仕事!?」

上条「おかしいとは思ったんだ!移動手段が電車だったし目的地がいつもの順路だったし事務所着いたら『あ、収録お疲れさまです』って言われたし!」

闇咲「気づくチャンスがそこそこあったな。そしてそもそも私に直接聞けばいい」

上条「なんで今日に限ってあの霊柩車チックなバンに乗ってこなかったの?ついに霊障が起きて使い物にならなくなった?」

闇咲「ラジオをかけていないのに人の声がするのはまだ良かったのだが、カーナビを搭載していないのに指示されるのは少し、な」

上条「ホンモノの霊現象!?おっそろしい車体に他人を乗せてんじゃねぇよ!?」

闇咲「あと少し心境の変化がなくもない」

上条「対霊障用のデコカーでも買うの?ちょっと楽しそうで幽霊さんも『これはちょっと出られませんね』とかなりそうだけど」

闇咲「ファミリーワゴンも悪くはないな、と」

上条「日和りやがったな闇の住人が!?テメー忘れんなよコノヤロー!俺たちの世界ではDTじゃなくなった瞬間死亡フラクor排除フラグが立つって事をな!」
(※『もしかして;HAMADURA』)

上条「てか今日は俺らカラオケ屋じゃなくて事務所なの?アリサ達はどこで収録してんの?」

闇咲「仕事の都合があるらしくてな。我々とはほぼ同時期に撮影はしないそうだ」

上条「……なんかもう本末転倒極まりねぇんだけど……んて?今日のお題って何よ?」

闇咲「山地乳(ヤマチチ)だ」

上条「また先週のビッグネームから遠ざかったな!?知らねぇよその妖怪だか幽霊だかは!?」

闇咲「神楽道中○というエ×ゲーではレギュラーの座をだな」

上条「なんで知ってんだよ婚約者持ち」

闇咲「みなぎ得○先生の『サクラ・コー○』では序盤の中ボス役として登場している。かなり格好いいので興味があれば読むといい」

上条「ホントになんで知ってんの?さてはお前妖怪大好きだろ?」

闇咲「好きか嫌いかで言えば商売道具だな。さて、ではヤマチチの分析に入るとする。便宜上カタカナで統一する」

上条「てかそれなんなの?漢字使ってるから日本か中国の妖怪?」

闇咲「日本の妖怪で1841年に発行された『絵本百物語』が初出だ」

上条「さては日本人妖怪大好きだな?俺も嫌いじゃないけど、えっと猫娘とか」

闇咲「水木先生の原形留めていないぐらいツンデレ化が進んでいるがな。数百年後にどう解釈されているのかが楽しみでもある」

上条「どゆこと?」

闇咲「『これはエイジ令和に庶民の間で作られていたNeko-Musumeの立体立像だ。当時妖怪信仰が盛んだった証拠といえるだろう』」

闇咲「『また同封されている書物には”あ、あんたのためじゃないんだからねっ!”と記されており、Ki-Touとは相反する存在であったとする学説も』」

上条「タイムマシーンあったら確認しに行きたいぜ!なんとかなんねぇかなニャンえもんとネフえもん!」

闇咲「なお江戸時代にそういう妖怪ものの書物が量産されていたのも、娯楽であった可能性が非常に高い。見世物小屋や怪談物の芝居があるぐらいだからな」

闇咲「その書物にはこう書かれている」

闇咲「『ヤマチチは奥州(※東北地方)に多くおり、寝息を吸った者の胸を叩いて叩かれた者は死ぬ。しかしその様子を誰かが見ていると吸われた者は長寿を得る』」

上条「訳分からんわ。寝息を吸うって何?そんな習慣でもあったの?」

闇咲「私も知らない。”他人の息を吸う”行為に何かあるのだろうと思うが、まぁここがポイントの一つだな」

闇咲「後は描かれているイラストが口が尖ったサルのような外見をしており、寝ている男の口元で口吸い――まぁ、口づけをしているようにも見えるな」

上条「特徴的じゃねぇか。そしてそんなん寝てる間に来られたら超怖いわ!」

闇咲「そう独創的でもない。”サルのような毛むくじゃら”は非常に多い。今と違って『白いワンピースの女』とか『赤いボディコンの女』など、多様性に欠ける」

上条「ネタ怪談と一緒するのはどうよ。あ、じゃあ他の本ではなんて書かれてんだ?そっから調べられない?」

闇咲「しかしこのヤマチチ―― 『絵本百物語』にしか登場しない」

上条「フカシだろそれ!?誰も知らないしワッケ分からん特徴なのも作者が盛ってたからじゃねぇの!?」

闇咲「私もその可能性は否定出来ないのだが――」

上条「が?」

闇咲「『山爺(やまじじい)』という妖怪がいる。同じく山中に現れる妖怪の一種だ」

上条「ヤマジシイとヤマチチ……似てんな」

闇咲「その山爺の異名の一つが『山父(やまちち)』なんだ」

上条「完全に被ってるな。口頭だと区別できないぐらいに」

闇咲「前にアマビエの話をしただろう?覚えているだろうか」

上条「同じ場所の似たような妖怪、『アマビコ』と人魚がごっちゃになったんじゃねぇか説だっけ?」

闇咲「ヤマチチも同じではないか、というのが現在立てている推論だな」

上条「ほう。じゃあ怪談おじさん的には正体が山爺だと?」

闇咲「いいや。『ヒョウトク様』だな」

上条「話してたか?今までその単語出てきてたか?」

闇咲「だから結論を急ぐな。まず前提としてヤマチチは『絵本百物語』にしか登場しない。前述のアマビエと同じどこかで伝言ゲームを間違ったか、創作したものである可能性が高い」

闇咲「なので怪異が持っている『属性』を分割して、それぞれ突き詰めていけば大体の輪郭が分かると」

上条「なぁ大丈夫かこれ?ロハでやったら他の人に迷惑かけるんじゃないか?」

闇咲「オカルトを殺すという啓蒙活動だからな。その一環であまり妖怪が一人歩きするのも良くはない」

上条「お前の声で怪奇ファイ……いやごめん何でもない」

闇咲「ではまず山爺の生態から行こう。前身がねずみ色の体毛に覆われており、一つ目一本足の妖怪だという」

上条「外見がちょっと違うな。そんなドギツイ特徴あったら絶対書くだろうし」

闇咲「しかし実は目がきちんと二つあり、片方はとても小さいために一つ目に見えるそうだ」

上条「いいわそんなミニ情報。見えるって時点で恐怖だわ」

闇咲「伝承はいくつかあるが、山に入った人間と勝負をし狩ったら獲って喰う。また人間が知恵を使って勝った場合、小さなクモに化けて寝込みを襲うそうだ」

上条「タチ悪いな。ただ寝込みってことは夜か、ちょっと近づいてきた、か?」

闇咲「また別の伝承では山爺は人の心を読む。焚き火をしている猟師に近づいてきて『お前は怖れている』、『どうやって逃げようか』と次々心を言い当てる」

上条「怖っ!?」

闇咲「しかし偶然焚き火にくべていた木の枝、もしくは栗の実が爆ぜて飛び、ぶつかった山爺が『人間コワイ!』と逃げ帰ったりもしている」

上条「てかそんな伝説って他の妖怪にいなかったっけ?サトリだかっていたよな?」

闇咲「サトリにも同じ伝承がある。あちらが山爺の一種なのか、山爺がヒトリの一種なのかは誰にも分からない」

闇咲「何度でも言うが、複数の伝承が一つになったり、一つの伝承が千々に分かたれたりと節操が無い。勿論それらが全て事実である可能性を否定はしないが」

上条「妖怪がいればなぁ。可愛いのだったら共存できるのに」

闇咲「そして我らがヤマチチなのだが、『サトリカイ』という呼び名もあるそうだ」

上条「まんまじゃねぇか!?疑う余地もねぇよ!同じ種族かなんかだよ!」

闇咲「ちなみに以上の特徴、人の心を読んだり、クモに化けて復讐したり、知恵比べで負けたりするのは山姥も同じ話が残っている。まぁ似たような存在なのかもしれない」

闇咲「――と、言いたいのだが。『人の寝息を吸って殺し、家人に見つかってしまえば逆に寿命が延びる』が何ら説明がつかない」

上条「『クモに変身して』ってのはそれっぽいけど、そっちはどう撃退するんだ?」

闇咲「昔の民家は、というか山爺が出てくるような地方はます囲炉裏が家中にあり、そこの自在鉤を伝って降りてくる」

闇咲「なので撃退するためには囲炉裏の火を夜まで絶やさず、水を張った鍋をかけておけば入って死ぬとされている」

上条「すいません闇咲さん。単語の意味がちょくちょく分かりません」

闇咲「囲炉裏というのは家の中にある灰を敷き詰めた焚き火をする場所のことだ。こう床を切り取ってスペースを空け、薪や墨などを燃やして暖を取ったり調理をしたりする」

闇咲「また照明器具が発達していない時代では照明の明りも兼ねていた」

上条「そういう時代か」

闇咲「そのスペースには自在鉤という天井から棒と鈎を設置し、そこから鍋やヤカンをかける仕組みになっている」

闇咲「その上下の調節がしやすい鈎棒を『自在鉤(じざいかぎ)』といい重宝していた」

闇咲「まぁ言うほど万能ではなく、落ち武者やノブセリを引っかける凶器としては固定してある鈎棒の方が使われていたそうだが」
(※ノブセリ=野武士や山賊・盗賊)

上条「要るか?そのミニ情報って必要か?」

闇咲「竹槍は貫通力が見た目のインパクトほどなく、かといってただ農民に正面から武装した集団や郎党に対する武勇もない」

闇咲「よってまず投石で散々相手を疲弊させた後、はぐれた人間を複数で囲み、相手を地面に引きずり倒して踏み殺すのが一番効率的な」

上条「違う、俺が聞いてるのはそういう話じゃない。そして強えぇな農民!」

闇咲「敗走兵もノブセリも放置していたら非常に被害を出すからな。やられる前に殺しておけと」

上条「てか家の中で火ぃつけるって……昔の家って藁葺きだったり茅葺きだったするんだろ?危なくないか?」

闇咲「補足すれば瓦葺きもあれば板葺きもあり、当然危ないとも。”””だから”””『竈神(かまどがみ)』の信仰も非常に多かった」
(※板葺き=湿気の多いところで使用。茅葺きだと腐りやすい)

上条「今やたらと力入ってなかったか?カマド……時代劇では知ってっけど、実物は見たことないなぁ」

闇咲「竈神にも幾つか種類があってな。荒神(こうじん)や火伏せ牛(ひぶせうし)が関東以西に多く」

闇咲「ヤマチチがいるとされる奥州、つまり東北地方の竈神は『ヒョウトク様』の伝承が多いな」

上条「……さっき言ってたなそれ」

闇咲「『ヒョウトク様』……まぁ一般的には『ひょっとこ』が一番分かりやすいか」

上条「あ、それなら俺も知ってる。お祭りとかでお面被って面白そうな踊り踊る人だ」

闇咲「ちなみにその面はどんな特徴があった?」

上条「まず口だな。口をこう、タコの顔みたいににゅっと突き出し……うん?似てんな、ヤマチチと」

闇咲「他には?」

上条「目の……大きさが違ってた。片方が大きくて、もう片方がウインクしてみたいに小さい――」

上条「――待て待て!お前確か山爺の外見が『二つ目なんだけど、片方が小さくて一つ目に見える』って言って……!?」

闇咲「では『ヒョウトク様』の最もベーシックな伝承を話そう。昔々あるところに芝刈りをしている老人がいた」

闇咲「彼がある場所に迷い込んでしまうと、そこではあまりにも面白い踊りを踊る少年がいた」

闇咲「あまりにも面白いので老人が彼を連れて帰るが、少年はいつも自分のヘソをいじっていた」

上条「……ヘソ?体の?」

闇咲「見かねた老人が『ここはあまり触るものではないよ』と彼のヘソを突くと、小金の粒が飛び出した」

闇咲「その日以降、老人は少年のヘソを突き、いつしか村一番の長者になったそうだ」

上条「絵面的には最悪だけどな」

闇咲「しかしある日。老人が出かけている間に妻がもっと黄金がほしいと火箸で少年を突いたが――」

闇咲「少年から黄金は出ず、そのまま死んでしまった。老人が嘆き悲しんでいると、その夜は少年が夢に現れこう言った」

闇咲「『明日になったら私に似たお面を作って、毎日よく見る場所にかけておいて下さい。そうすればあなたの家は栄えますよ』と」

闇咲「翌日、老人は妻とともに少年の面を作ってカマドの上にかけ、毎日拝むようにした。そしてその家はずっと栄えたんだそうだ」

闇咲「――その少年の名前を『瓢徳(ひょうとく)』といい、今では『ひょっとこ』の名前で親しまれている」

上条「どっちかって言えば……福の神っぽいよな」

闇咲「また別の伝承では同じように老人が口の曲がった醜い少年を連れてきてしまう。しかし少年は火を起こすのが非常に上手で重宝されていた」

闇咲「しかし老婆が追い出してしまうと家は没落する。すると老人の夢にヒョウトクが現れて以下略だ」

闇咲「故に『ひょっとこ』は『火男(ひおとこ)』とも呼ばれている」

上条「そんなに難しかったのか?」

闇咲「実際には火の管理全般なんだろうな。毎日必ず使うが、きちんと消化しておかないと火事になる訳だ」

闇咲「そしてその『神話類型』というか、国や地域を越えて存在する伝承のパターンに『異界から子供を迎えて家が栄え、失うと没落する』ものがある」
(※竜宮童子)

闇咲「大体の伝承には寓意があり、後人に残すための教訓が含まれている訳だが……さて、君はどう思う?『ヒョウトク様』に関しては?」

上条「外見から……部分的に山爺と重なってる感じはする。目や口だったりって意味では」

上条「ただ、まだ決定的に『これかな?』って感じはしないな。山爺やサトリとヤマチチは同じかもだけど」

闇咲「理由は?」

上条「やっぱり行動だよなぁ。ヒョウトク様は福の神っぽい感じだし、ヤマチチは息を吸ったりして最悪殺しちま――」

上条「……」

上条「――『家人に気づかれたら、逆に寿命が延びる』……?」

闇咲「そう言ったな――さて、では最後のトピックとして『絵本百物語』自体に話を移そう」

闇咲「さっきも言ったとおりヤマチチは同書にしか書かれておらず、他での目撃例はエ×いゲームとみなぎ得○先生のぐらいしかない」

上条「そろそろ面倒になってきてるよね?俺がボケる分にはいいんだけど、お前はダ・メ・だ・ゾ☆」

闇咲「そしてまぁ、他に類を見ない謎の”息”の記述もそうなのだが――同書には数多くの妖怪が記載されている。例えば『二口女(ふたくちおんな)』、知っているか?」

上条「超知ってる!俺あぁいうビジュアル苦手だ!もっと怪物っぽい方がまだいい!」

闇咲「君が知ってる伝承ではなんと?」

上条「謂れは知らないけどさ!なんかこう頭の後ろがパカって開いて!そこへ髪の毛を触手代わりに次から次へとメシを!」

闇咲「まぁ、そうだな。ちょっとした寄生○であるし、遊星からの物体○に出て来そうな狂ったヴィジュアルだな――が、しかし」

闇咲「『絵本百物語』には”そうは”書かれていないんだ。正しく言えばだが」

上条「……なんて?つーかお前何言ってんだ?『記載されてる』って自分で言っただろ?」

闇咲「あぁ二口女は載っている。大体このようなことが書かれている――」

闇咲「あるところに男がおり、そこへ後妻が嫁いできた。彼女は前妻と夫の間に生まれた子を憎み、食事を与えず餓死させてしまった」

闇咲「その女が子を産んだとき、首筋の上にも口ができて『物を食べたい』と言う」

闇咲「女の髪は毛先がヘビに変って後ろの口へ食べ物を運ぶときもあれば、何日も食べ物を与えず女を苦しめるようにもなった」

闇咲「畏れ慎むべきは継母の妬み嫉みというものだなぁ、と」

上条「……」

闇咲「終わりだが?」

上条「また嫌なところでぶった切ったな原作者!?この後どうなったか気になるわ!?」

闇咲「と、いうようにだ。君が言っていたような、積極的に髪を使ってのバクバク食事はしていない」

上条「あー……どっちかって言えば、つーか言わなくても自業自得的な話か。でもあれ?どっかで見たような?」

闇咲「それで二口女の話自体は他にもある。しかし正しくは二口女の話じゃないんだ」

上条「すいません闇咲さん、何度も言ってっけど俺にも分かるようにお願いします」

闇咲「民話に『食わず女房』という話がある。ある村に男があり、その男は大層ケチな男で『メシを食わず、よく働く女はいないかなぁ、そんな人だったら嫁にするのになぁ』と思っていたそうだ」

上条「ただの人間のクズだろ」

闇咲「私もそう思うが、こういう話は少なからずグスが酷い目に遭うよ、という寓意があるから心配するな」

闇咲「それである日、本当にそういう嫁が来たそうだ。メシを食わずよく働くいい女房が」

上条「ガイノイドか。俺も欲しいわシルフ○さん」

闇咲「だがしかし男はあることに気づく。嫁はメシを食べないのに食料が異常に減っているではないか、と」

上条「そりゃ食って……あぁ、そういうオチか」

闇咲「男は街へ出かけるフリをして暫く経ってから家の様子を覗いたところ、女房が大量の食事を食べていた――」

闇咲「――そのかき分けた髪の間にある、大きな大きな二つめの口から、という話だ」

上条「インパクト強すぎね?俺が見たのは多分これだわ」

闇咲「この後、男は離縁しようとするが女房は正体を現す。まぁ山姥であったりヘビであったり、男を誘拐して食べようとするのだが」

闇咲「男は必死で逃げ、菖蒲の生えた湿原に身を隠すことにより難を逃れる。これ以来香りが魔除けになると言われ、端午の節句には菖蒲湯に入ったり、飾ったりするようになったと」

上条「菖蒲湯ってそんなクッソグロいエピソードだったの!?」

闇咲「諸説ある。菖蒲が『尚武(しょうぶ)』と武士達には縁起が良いとされたという話もある」

闇咲「ともあれだ。二口女の話はあるにはあるのだが、そちらはただの山姥の話であり、因果応報を説いた話では決してない」

上条「『もしかして;嫁さんが超美人だったら多少メシの減りが早くても我慢した』」

闇咲「そういう男もいるだろうが本題ではない。また小松和彦先生の学説では『他の共同体から来た者のタブーは破るためにある』という説を提唱されているが、ここでは省く」
(※文庫版の『異人論』オススメ)

上条「しかし……そうだとすると分かんねぇよな。なんでその本だけはなんかこう『前妻の子供を〜』みたいに書いたんだ?分からないだけでそういう話があったり?」

闇咲「盛ったんだろう」

上条「またそれか!?盛り過ぎじゃね昔の人!?」

闇咲「作者がどういうつもりなのかは誰にも分からない。しかし似たような案件は他にもあり、同書の『人面瘡(じんめんそう)』か」

闇咲「あるとき男が父親とケンカになり、追いかけて転倒したら膝にできものができた。それが人面瘡になったと」

上条「なんで?」

闇咲「話はそこで終わっているので不明だが、まぁ父親を追いかけるようなことは”悪”と判断したんだろうな。作者が」

上条「つまり?」

闇咲「作者の意図は分からない。版元の意志なのか、流行りに乗りたかったのかは不明だ」

闇咲「しかしながら確実に”盛って”いるのも間違いない。ここまでは分かるな?」

上条「全然関係無いオリジナルエピソードとか入れてるもんな!なんか心がちょっと痛いけど、まぁうん!」

闇咲「て、その独自見解なり解釈は”たった二篇”で終わるだろうか?多くの怪談を載せている本で、その影響が二つだけに留まっている理由は?」

上条「ないわなぁ。全部がとは言わないけど、どこそこも盛ってる可能性は高いよなぁ」

闇咲「その改竄というか方向性は『因果応報』だ。善行には善果あり、悪行には悪果ありと」

上条「悪鬼装甲村○か」

闇咲「そして最初のヤマチチの話へ戻るが、彼の特性『人の寝息を吸って殺し、家人に見つかってしまえば逆に寿命が延びる』というのも」

上条「……それっぽいよなぁ。何か、って言われると答えられないけど」

上条「てかそもそもさ、寝ている間に死んでるっていったら死因は何だろうな?急性の脳溢血とか心不全とか?」

闇咲「流石に1841年の日本で暗示しているとも思えない。そしてそのどちらも現代医学ですら応急処置に成功しないと高確率で命を落とす」

上条「だよなぁ。気づいたらセーフで気づかなかったらアウト……?ナゾナゾか、極端なんだよ」

闇咲「ヒントは”火”、”死”、そして”場所”」

上条「……えーと整理して考えてみよう。まずヤマチチは山爺。ぶっちゃけ山に出る妖怪的な感じ?」

闇咲「総合的に考えれば山怪だろうがな」

上条「違うのかよ?」

闇咲「山に住んでいるのかもしれないが、ヤマチチが現れる場所は”家の中”だ。少なくとも寝入っている者へ悪さをするには」

上条「そうすると……ヒョウトク様は……外見以外に接点はないんだよな。超似てる気もするし、0か100の恩恵をって意味も何か違うし」

上条「火伏……カマドの神様……火……燃える、火事――ん?火事?」

闇咲「ナゾナゾだ。気がつけば助かって、気がつかないと全て失う。これはなんだ?」

上条「――『火事の妖怪』か……ッ!?」

闇咲「私が考えているのは”火の不始末”だな。鎮火するのを完全には確かめずに寝入ってしまっては、結局出火して全てを失う」

上条「気づけば生きられるし、気づかなかったら死ぬ?」

闇咲「『家人が気づけば寿命=家は滅びずに済む』、『家人が気づかなければ死ぬ=財を全て失う』と」

闇咲「また一酸化炭素中毒を知っているか?不完全燃焼で起きる事故で、文字通り眠るように死ぬそうだが」

上条「あー、それっぽいな!それ正解じゃね?」

闇咲「昔の燃料はほぼ木炭、住宅事情が今と違って気密とは程遠いとは言っても燃焼効率が段違いだからな。可能性は低くないと思う」

闇咲「そして都市部においては一旦火事が起きれば大火災になるのはしばしばあり、その警告もヤマチチに込められているのではないかとも」

上条「超分かりづらくね?もっとこう『これこれこういう意味が!』みたいに書いてくんないと」

闇咲「田舎では『ヒョウトク様』が出て行かれる――つまり出火しても精々没落するだけで済む。人命も落とすかもしれないが、まぁ精々数軒分だ」

闇咲「しかし都会で密集した場所では危険度が違う。失うものがあまりにも多く、大きい」

上条「もっとこう、分かりやすくは」

闇咲「とある地方の話なのだが、『ダイコンの命日』という日がある」

上条「なんじゃそりゃ。ダイコンのお葬式でもすんの?」

闇咲「特に何をやったりはしないそうだが、その日にダイコンを収穫すると死ぬんだそうだ」
(※本当にあります)

上条「ダイコン農家泣かせの風習だぜ!」

闇咲「何度でもいうが現代の常識が過去そのまま通じるとは限らない。地域差がある上、時代が違えばより常識も文化も違うのが当り前だ」

闇咲「ローマ帝国で作った上下水道とモルタルを、帝国崩壊後数百年後に住んでいた住人が『こんな技術見たことがない!悪魔か神の作ったものに違いない!』というのもよくある話だ」

闇咲「なのでヤマチチも『当時は意味合いが通じたものの、現代においてはよく分からない何か』を差している可能性がある」

上条「よくあるのか?」

闇咲「欠番ポケモ○にユンゲラ○がいるな。ユリ=ゲラーというマジシャンに提訴された話だが」

上条「やめろ!ここでも地雷を踏もうとすんな!」

闇咲「元ネタは完全にゲラー氏であると推測されるのだが、氏が日本で活躍したのは数十年前」

闇咲「従って現代の子供たちからすれば『このポケモ○ってなに?』という現象が起きる。当時は誰しもが知っていたのに、自体が経つと全く分からなくなってしまう、と」

上条「ヤマチチもなんかそんな感じの?」

闇咲「既存の妖怪でもなく、よく分からない記述もあり、そもそも本の解説文が信用できないという極めつきの事例だからな」

闇咲「まぁ、現代から幾つかの妖怪や風俗を辿っていけば先程の結論になる訳だ。正解かどうか答え合わせもできない」

上条「実際に妖怪いる訳じゃないしなぁ……いないよな?大丈夫だよな?」

闇咲「仮にもし妖怪がいるという前提で話を進めるのであれば、やはり零落した竈神の一種だろうな」

闇咲「そもそも山の神はタタラ神、鍛冶神としての側面を持っている。それは洋の東西を問わない」

上条「なんで山の神様が鍛冶なんだ?」

闇咲「鉱物があるのも基本的には山であるし、そもそも金属を溶かすのに必要なのは?」

上条「火?」

闇咲「その燃料は?」

上条「炭……あぁ!実地で調達してんのか!」

闇咲「鍛冶士が信仰したのは『天目一箇神(あめのまひとつのかみ)』、彼もまた一つ目の神だったとされている」

闇咲「……まぁ、ここら辺を詳しくやると中編SS並の文量を私の説明だけで終わるので、後日機会があれば」

上条「ないと思うけどな−」

闇咲「ともあれだ。結論としてヤマチチは『山爺』が転じた存在なのはほぼ確定していると思う。性質にしろ名前にしろだ」

闇咲「しかし『息を吸う云々』は『ヒョウトク様』が火伏の神を兼ねているところから来ている、のではないかと思う。というか他に説明の仕様がない」

闇咲「山爺やサトリとして過す山野の怪異、だが『ヒョウトク様』として人の住む家屋へと招かれ、家を守る神となった」

闇咲「だかしかし時代が経ち、人々かより早くかつ安全な火打ち石が普及し、”火男”としての役割を奪われ信仰を失う」

闇咲「最後に残ったのは家人の”胸を叩い”て、失火を知らせることぐらい――といったところだろうか」

上条「おぉなんかそれっぽい!今回は八戒さんと違ってスッキリ終わりそうだな!」

闇咲「これで闇ちゃんねるも視聴者数が増えるといいがな」

上条「いや、それはない。そんなに妖怪好きな人いねぇ」

闇咲「妖怪をウォッチしたりするのが流行って、いるのでは?」

上条「あれはキャラクターがウケてるんであって、決して既存の妖怪が市民権を得た訳では、うん、ないんだよ。残念ながら」

闇咲「では昨今の擬人化する妖怪作品は?」

上条「ただの癖(へき)だよ。言っちゃなんだけど、つーかこれ放送をお乗せすんのは心苦しいけど、『若く見えるけど妖怪なんだから1008歳!』みたいなノリだよ!」

闇咲「ノリというかロ×だな」

上条「やかましいわ!もう帰る!」

闇咲「というか最近思うのだが」

上条「なんだよ」

闇咲「私が延々解説するよりも、SSでネタにした方が良かったのでは?何かこう、君たちがフィールドワーク先で謎の怪異に襲われてだな」

闇咲「それの正体を見破る感じで中編一本出来たんではないのか?」

上条「残念だが俺らの世界に妖怪は多分いないらしいからな!なんか日本が舞台だってのに、日本魔術師の代表が土門ぐらいしかねぇし!」

闇咲「呪いがあるのだから、妖怪がいてもおかしくはないが」

上条「悪魔にも遭遇しちまってんだよなぁ……」


-終-

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