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Clock(trial)

上条「闇ちゃんねる(副音声)」

 
――

闇咲「――と、いう訳で今週も始まってしまった闇ちゃんねるだが」

上条「本放送とのギャップ酷くね?あっちじゃ女子中学生二人がしょーもない話してんだろ?」

闇咲「本放送……?こちらが主で向こうが従ではなかったのか?」

上条「うん、画面見てね?右下の方に映ってんのがお前で、”設定”から”副音声”にしないと聞こえないんだよ?」

(※イメージ画像です)

上条「しかも俺に至ってはカメラマンやってっから声しか電波に乗んねぇんだよ。分かるか俺の気持ち?」

闇咲「あぁでは私が撮影をする」

上条「じゃあ俺は解説と撮影してる闇咲の話聞いてリアクションする人な――」

上条「――って要るかぁ!?どんなポジだよ!?ひな壇芸人だってもっとまともな役割分担するわ!」

闇咲「私は別に画面に映り込まなくても構わないのだが」

上条「いや俺も特に出たくはねぇよ?しかもお前が淡々と話してんのに『へー、そうなんだー?』って俺だけが映ったらおかしいだろ!?」

闇咲「物は試しというではないか。そういう回があってもいい」

上条「まぁやれっていうんだったらやっけどさ……なんか俺の黒歴史に残りそうな動画だが、それで今日は何の話を?」

闇咲「沙悟浄だ」

上条「またエラくテーマが飛びやがったな!?都市伝説や怪談からの大分遠い所にまで来ちまったな!」

闇咲「不人気コンテンツだからな。一応啓蒙のために本気でやっているのだが」

上条「伏せ字が多いからダメじゃね?研究で真面目にするんだったらまだしも、ほぼギャグでするのはまぁ良くないよなぁと」

闇咲「前のカニバリズムのも話も、廃れてなくなるのであればそれだけの話だからな。消える文化も当然あって然るべきだ」

闇咲「それで今回の沙悟浄、というか沙悟浄らしきものの正体なのだが……」

上条「ちょっと知りたい。日本だと河童の人だよな」

闇咲「――全く正体が判明していない」

上条「最短で終わったな!?あれお前真面目にやるっつってこれかよ!?」

闇咲「順を追って説明すれば、まず西遊記自体が非常に曖昧だという点がことを難しくしている」

上条「曖昧?なんでだよ超有名じゃんか?」

闇咲「まぁ日本人であれば殆どの人間が知ってはいるな。また舞台となった中国以外でも漢字圏では有名な話だ――が」

闇咲「では『西遊記の作者は誰か?』と訊かれ、明確に答えられるのはまずいない。私もその一人だ」

上条「あぁ……確かにな!聞いた事ねぇわ!」

闇咲「というのもまず玄奘三蔵の実話がある。7世紀の僧玄奘がインドまで旅をし、現地で修行を積み、ありがたいお経を手に帰って来た」

上条「そこは普通にスゲーけど。当時の中国って」

闇咲「唐の時代だな。なのでシルクロードは確立されていたので、困難ではあるし生還率も低いが行けなくもないだろうと」

闇咲「当然その度にはサルもブタもカッパも出て来ない」

上条「出たらオイシイわ」

闇咲「そして玄奘は帰国すると”三蔵法師”という称号を与えられ、徳の高い僧侶として人々から崇められ広く認知されるに至る」

闇咲「が、時代が経過するにつれ、”盛られる”んだ」

上条「おっと風向きが変ってきたぞ!『もう三蔵さんは純粋な目で見られない……』ってなるかもしれないから、心当たりのある人は今すぐブラウザを閉じるんだ!」

闇咲「いつも誰に恥じることなく真摯に嘘偽りなくやっているので、それはまぁ自己責任だな。あと想像しているような酷い話ではない」

闇咲「盛られるというのは彼の偉業が、こうより偉大なものとなって語られてしまうようになった。例えばそうだな、玄奘が王族だったという話を聞いた事はあるか?」

上条「あー、何で聞いたな。どっかのお姫様に見初められて『実は私も……』みたいな」

闇咲「そのような事実はない。旅の途中で王族に求婚された話も含めて」

上条「……それが”盛られる”?」

闇咲「日本でもよく似たような現象がある。どこそこの地方の悪さをする妖怪なり鬼がおり、村人は大いに困っていた」

闇咲「あるとき旅の僧が訪れ、悪鬼羅刹を退治してしまった――なんと、彼は空海だったのだと」

闇咲「前にも言ったような、因果の逆転がここでも起きるんだ。『ウチの地方にはこういう話があったが、実は偉いお坊様が調伏したのでは』と話が統合される」

闇咲「その結果、日本各地に空海を筆頭とした旅の僧侶が善行を成した話が量産されてしまう訳だ」

上条「同じことが中国でも起きて……あぁ、『前に郷土を救ってくれた方は……三蔵じゃったのか!?』か?」

闇咲「そう。そうやってあちこちに三蔵法師伝説が雨後のタケノコのように発生する。正しくは以前あった話と統合されるのだが」

上条「なんとーく……話が見えて来たような」

闇咲「その中には仏教とは本来関係ないような道教の逸話も加わり、日本にも伝わってきている」

上条「いつ頃の話だ?」

闇咲「玄奘の話は遣唐使と遣隋使を送っていたのだ、ほぼリアルタイムで。般若心経も玄奘が持ってきた経の一つだとする説もある」
(※諸説あり)

闇咲「しかし”盛られた”三蔵法師の話が輸入されるのは10世紀ぐらいか。仏教の説話の中にこう記されている」

闇咲「『玄奘は砂漠を通りかかったとき、男に七つのドクロを突きつけられる。男は玄奘へこう言った』」

闇咲「『このドクロは汝が七度この砂漠を渡ろうとして死した骨である。渡海能わずと知れ、引き返すが良い』と脅したのだそうだ」

上条「あれ?沙悟浄って確かドクロのネックレス持ってなかったっけ?」

闇咲「ここで玄奘を脅す者の名前は『深沙大将(じんじゃたいしょう)』、砂漠を司る護法だな」
(※護法=仏教を守る鬼神。要は鬼神童子ZENK○)

上条「あー……じゃ、その人が沙悟浄のモデル?」

闇咲「に、なったのは間違いない。孫悟空と猪八戒もそれぞれ別のモデルがあり、三蔵法師という物語に組み込まれ、現在の形になっていく」

上条「でも砂漠……だよな?沙悟浄って河にいなかったっけ?」

闇咲「沙悟浄”は”河で間違いないな。これもまたなんというかな、深沙大将の字はさんずいだろう?

上条「意味は砂漠なのにな。もしかして読んでる人が勘違いしてった?」

闇咲「壮大な伝言ゲームをしているような状況だからな。しかも全員が現在と違って正しく感じの知識を持っている筈もなく、また何度も何度も異民族に王朝が滅ぼされては大混乱していったせいもある」

闇咲「よって深沙大将は中国の水の妖怪と同一視され沙悟浄になり、正体は河伯(かはく)や水虎(すいこ)だとされている」

上条「オリジナルが水じゃねぇのに水関係の妖怪になってる……ッ!」

闇咲「なお本邦へ輸入されるに当たり、『沙悟浄?ハゲた水の妖怪……あぁカッパか!』とまた誤解されている」

上条「正直大元の誤解と比べれば大した事はないような……?」

闇咲「個人的に言わせてもらうのであれば、妖怪としての原型は水虎だと思う。沙悟浄が持ってるドクロは子供のものである説があり、かつ水虎は水辺で子供も襲うからな」

上条「元々は仏教の神様だったのに!ドクロを突きつける役が災いしてハゲた人喰い妖怪にまでなっちまって……!」

闇咲「まぁ伝承というものは得てしてそういうものだ。時間が余ったのでもう少し掘り下げると、ハヌマーンは知っているか?」

上条「幻魔ハヌマー○だろ?魔法系が強くて物理攻撃系の特技もそこそこ使える」

闇咲「女神が転生するゲームではな。というか彼もまたインド神話だったのだが、三蔵法師伝説に組み込まれている」

上条「え、誰だよ?ハヌマーンっぽいサル……ん?サル?」

上条「――悟空ってハヌマーンがモデルだったん!?あぁいたなサル!主人公格の!」

闇咲「あくまでも説だが、玄奘の遺骨を移した寺にサルを使役したという伝説の残る聖人がいてだな。その人物と混ざって、インド=サルという雑な感じで統合したと思われる」

上条「あー……じゃあもしかしてハヌマーンの逸話と孫悟空の物語って類似点があったり?」

闇咲「同じ英雄の属性を持つ神的存在だからな。それはもう同一人物といっても過言ではないぐらいに」

闇咲「というか仏教が伝来したようにヒンズー教も文化の面で伝わっていない訳がない。だから統合されるのも当り前の話だ」

闇咲「前にも言ったような気がするが、猿まわしの芸を知っているか?」

上条「正月にするよな。どっかの遊園地だか舞台とかで公演してんだっけ?」

闇咲「正月にする芸を『門付け(門付け)』といい、今ではあまり良い意味では使われなくなってしまったが、猿まわしも遍歴している」

闇咲「元々サルは馬を元気するという俗信があり、馬が難産だったり病気に罹ると猿まわしを呼んで芸をさせたのが始まりとされている」

闇咲「それが徐々に人間も楽しむようになり、村落共同体でも小金持ちが招聘して芸を振舞ったりするようになったんだ」

上条「ふーん?でもなんでサルが馬を元気づけるんだ?」

闇咲「ここで質問をしよう。孫悟空が天界で与えられていた仕事と官職はなんだ?」」

上条「詳しくは知らねぇわ!?えぇっとな、確か低い位を貰ってたのを知らなくてブチギレたんじゃなかったっけ?」

闇咲「そうだな。官職名は『弼馬温(ひつばおん)』、天界の厩舎を管理する仕事だな」

上条「はい!?じゃあ猿まわしって西遊記の影響で生まれたのか!?」

闇咲「正しくはインドでサルが馬の守護者という伝承があり、それが二次的に日本にまで伝わったのだと考えられる」

上条「意外なところで繋がってるんだな……歴史スゲー!」

闇咲「そろそろあちらも終わるようだし、今回は聞いても特に後悔するような内容ではなかっただろう?」

上条「沙悟浄さんが本場でも生息地を取り違えられた挙げ句、日本ではハゲカッパ扱いだった件について」

闇咲「西遊記を編纂した責任を私に問われても困る」

上条「できれば次回ももっとマイルドに……あ、そうだ」

闇咲「何だ?」

上条「八戒さんは?ブタさんはなんの神様だったの?」

闇咲「分からない」

上条「あぁ、モデルが多すぎてってこと?」

闇咲「ではなく……猪八戒はその名の通り、イノシシの妖怪だな。ブタではなく」

闇咲「また日本の十二支の”亥”も中国では”イノシシ”の意味であって……仏教の護法、方角を守る十二神将の”宮毘羅(くびら)大将”なんだが……」

闇咲「この大将、全然イノシシ要素がない」

上条「へー」

闇咲「……」

上条「……あの、あとは?」

闇咲「いや、本当に猪八戒がどこから来たのか不明なんだ。孫悟空と沙悟浄はそれぞれ対応する十二神将だったり深沙大将だったり、確実にそれっぽいものは見つかる」

闇咲「しかしながらブタかイノシシの伝承は、な?北欧神話のフレイの乗り物か、アーサーの幼名ぐらいしかないんだ」

上条「中国独自の信仰とかはどうよ?ローカルな感じの?」

闇咲「あるとすればそこしかない。何度も言うが中国は移民が来る度に王朝が代わり、文化も一変していったのでどこかの何かの神的存在があったと思われる」

上条「そんなよく分からんねぇのが主役ヅラしてんのかよ……!」

闇咲「まぁ……正直に言えばだ。孫悟空を信仰したり、奉っている廟はかなり多い。なんといっても道教と仏教の英雄属性を兼ね備えているからな」

闇咲「そして玄奘はいうに及ばず、沙悟浄もまぁ水神という意味でも信仰を集めている」

上条「だな」

闇咲「しかし猪八戒を崇めるという話は……聞いたことがだな」

上条「なんて可哀相な……!」

闇咲「身も蓋もない話をしてしまうと、作者の都合で生まれた可能性もある」

上条「都合て。どういうこと?」

闇咲「例えばだ。異世界に転生してチートするような物語が流行っているだろう?」

上条「お前が知ってんのが怖いが、まぁ流行りだな。大抵の雑誌に一本ぐらいはそっち系の話が載るようになったわ」

闇咲「私は読んだことがないので感想は言えないのだが、一般的な小説であれば起承転結は必須となる」

闇咲「主人公やその仲間が艱難辛苦を乗り越えて成長し、より困難な何かを達成するのが物語としての深みを与えるというかな」

上条「そうな。なろ○はペラい話も含めて楽しむのが礼儀だけどな!」

闇咲「で、そのチート系主人公?心技体全てが一線を画していれば、まぁ危機に陥ることにはまずならないだろう」

上条「弱点は頭……まぁうん、弱いっていうか」

闇咲「そうするとどこにしわ寄せが来るかといえば、同行者や保護者。言わば足手まといを作成することにより、話を盛り上げる効果を生む訳だ」

上条「八戒さんか!?お前八戒さんのことdisってんじゃねぇぞコラ!?」

闇咲「実際に八戒の余計な言動でトラブルに巻き込まれることも少なくはなく……想像にしか過ぎないがな」

上条「違うよ!そんなんじゃないよ!きっと滅んだ民族の滅んだ神様とかでブタさんがいたんだよ!」

闇咲「その可能性も否定は出来ないが。ではまた副音声で会おう」

上条「……行こう。ここももうすぐJCに乗っ取られる……!」


-終-
(※ヒッタイトの最高神の一柱であるヴァルナも、時代が下ると「ナーガの亜種じゃね?」ぐらいまで零落します。流れとしては同じ)

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