鳴護「地獄の闇咲ちゃんねる……『シシノケ』!」
――オービット・ポータル芸能事務所
マネージャー「……どうぞARISAさん。おかけ下さい。遠慮なさらずに」
鳴護「えぇと、ですね……その、怒ってます?」
マネージャー「怒る、ですか?どれを指して仰っているのでしょう?」
鳴護「フードバトル前のフリートークでギャルなんとかさんに、ちょっと悪い事言っちゃったみたいなのか……?」
マネージャー「『さっきお手洗いで吐いていましたけど、お加減が悪いんでしたら収録はやめた方が……』でしたよね」
鳴護「いや言いますよ!?なんで戻しちゃうぐらい体調悪いのに収録続けるんですか!?」
マネージャー「お仕事だからですね。嫌がらせみたいに大量に召し上がって寿命を縮めるお仕事をされているからですね」
鳴護「だって普通の人の胃の容量は1.5リットルですし、多少膨張しても精々2.5リットルなんですから限界だってあるんですよ!」
マネージャー「あなたのそういうところは誉めたいですし、一人の大人としても評価しあげたいのですが」
マネージャー「如何せんこう、生放送でホームランを打たれるとフォローの仕様がないって言いますか」
鳴護「……すいませんでした。次からは控え室で言います」
マネージャー「そこはそれ向こうも覚悟を決めていらっしゃるのですから、部外者が余計なことを言うのは憚られますよね?」
マネージャー「それで?他に何か思い当たる点は?」
鳴護「ないことはないですけど……でもあれはCM中のお話で!」
マネージャー「えぇまぁ存じてます存じてます。自分もこれ以上余計な事を言わないよう、釘を刺してに行こうとしたらダイレクトで聞きましたからね」
鳴護「ぜ、善意です!他意はありません!凍り付いたスタジオの空気をとかそうと思ってしたことです!」
マネージャー「分かっています。だから余計にタチが悪いです」
鳴護「ならいいんじゃないでしょうか……?」
マネージャー「ではなんて仰ったでしょうか、リピートプリーズ?」
鳴護「『外見はとてもお若いんですから、ギャルって名乗っても違和感はそんなにないですよねっ!』……ですけど」
マネージャー「はいアウト。理由を言わないでも分かりますよね?」
鳴護「はい……『あたし知ってます!自虐ネタってやつですよね!』、ですよね」
マネージャー「アウトです。よりヘイトを集めています。ARISAの前世はきっとタンク役ですね」
鳴護「多分前世はないんじゃないかなと……あってもお姉ちゃんぐらいで」
マネージャー「……それで?以上ですか?以上で終わりだと思っているのでしょうか?」
鳴護「あ、これ絶対にもう一つ二つ待ってるやつだ」
マネージャー「当り前ですよ!?フードパドルで勝っていいとは言いましたけど、なんで突き放してるんですか!?手加減はどうしたんのですか!?」
マネージャー「まだ僅差であれば!少しの差ぐらいだったら第二回第三回ってお呼ばれするのに!圧倒的に勝ったら他の方も怖れて呼ばれないんですよ!」
鳴護「食べ物を粗末にするような人には負けませんっ!」 キリッ
マネージャー「正しいですけども。正直同意もしますけども」
鳴護「あとなんでしたらインデックスちゃんとあたしで、他のフードバトルを荒らしていくって手も」
マネージャー「お友達は選んでくれていますか?上条さんのダメなところがうつっていますよ?」
鳴護「当麻君たちはデパ地下の試食コーナーを荒らすだけです」
マネージャー「出禁食らったって仰っていましたけど。あまりに可哀想で自分のレーションを渡しておきました」
鳴護「一介のマネージャーさんがなに軍用レーション食べてるんですか」
マネージャー「栄養たっぷりの健康食です。ただ食感と味が壁なのが難点ですが」
鳴護「なんて非人的な会社……!」
マネージャー「前職よりはかなり良くして貰っていますよ。知っていますか?蛇ってカレー粉を付けて焼くとそこそこ食べられない訳ではないんですよ?」
鳴護「すいません、あたしの担当から外れてもらえませんか?蛇を食される方はちょっと……」
マネージャー「分かりました。では満を持してリーダーがARISAさんの担当に収まるということで」
鳴護「チェンジが重すぎません!?もっとこう別の人いないんですか!?」
マネージャー「多脚戦車を扱えるのが自分とリーダーともう一人しかおりませんので、まぁ必然的にそうなってしまいますよね」
鳴護「まぁの意味が分かりません」
マネージャー「イギリス清教その他の魔術師が襲撃してきた際、ARISAを引っつかんで上条さんのところへ逃げ出せる要員です」
鳴護「すいませんねっ!あたしも聖人モドキになりたくてなった訳じゃないんですよ!」
マネージャー「ご理解頂いたようで何よりです。つい最近リーダーから『養子縁組ってどうすればいいんだ?』って相談されましたが、お二人の未来に祝福を」
鳴護「怖い怖い怖い怖い!?なんですかその不吉な相談は!?」
マネージャー「そういったクソ面倒臭い説得も、今後は当事者同士でのみして頂ければ助かります」
鳴護「――はいっすいませんでした!ワガママ言いましたけどちょっと言ってみたかっただけです!反省してます!」
マネージャー「ご理解頂きありがとうございました。リーダーはなんだかんだでうちの最大戦力なので、あまりこう温存は出来ないんですよね」
鳴護「前にもツッコみましたけど、そういったのから足を洗ったんじゃ……?」
マネージャー「洗いましたよ?今は芸能事務所と警備会社の二つ看板で営業しているだけで」
鳴護「業務は……知らない方がいいんでしょうねきっと」
マネージャー「いいえ、決してそんなことはありませんよ。聞かれても当たり障りのない嘘の内容を教えるだけですから、全然大丈夫です」
鳴護「大丈夫の意味分かってます?それともあたしの言語感覚がどうかしてるんですか?」
マネージャー「まぁ弊社の営業方針はさておくとしまして、ARISAさんの今後についてお話を詰めたいのですが」
鳴護「あ、新曲ですか!」
マネージャー「え、新曲ですか?」
鳴護・マネージャー「……」
マネージャー「……あぁ新曲ですね!新曲いいですよね!新曲ですからね!」
鳴護「待ってください!あたしの目を見て言ってください!あなた今大切なことを忘れていませんでしょうか!?」
鳴護「例えばあたしのジョブとか!歌姫系なのに遊び人系だと思い込んでいませんでしたかっ!?」
マネージャー「いやいや全然そんなことは。今後はこの反省を糧にしつつ前向きに善処する次第ですからお気になさらず」
鳴護「あたし知ってるもん!それ大人が誤魔化すときに使うのだし!」
マネージャー「勉強出来て良かったですね。それではタレントのARISAさんのスケジュールについてなんですが」
鳴護「絶対に流されませんからね?ターンが終わったあとでも追求しますからね?」
マネージャー「例のB級映画監督からお誘いがですね」
鳴護「絶対に断ってください!そっちのお仕事受ける度にタレント生命が縮んでる気がするんですよ!」
マネージャー「『今度は邦画、突如現れた新星・”犬鳴○”を超イジって遊びませんか』だそうです」
鳴護「イジってんじゃないですか!名作映画を再現って建前すらどっか行っちゃったよ!」
マネージャー「いやあれ私も拝見しましたが、見終わった後の後味の悪さが中々でしたよ」
鳴護「あー、そういう系ですか。ありますよね、後味悪い映画」
マネージャー「あ、いえ『どうしてこんな映画に予算が付いたのか?』という意味です」
鳴護「作品の全否定!?」
マネージャー「一部では神の如く崇められている清水○監督ですが、戦慄迷○のようなハズレもそこそこの確率で世に送り出しますので」
鳴護「もう二人でやったらいいんじゃないかな。あたしを巻き込まないで」
マネージャー「それもいいかも知れませんね。監督の前へ立つと出る震えが止まる日が来れば」
鳴護「何やったの最愛ちゃん!?あぁいや何やってても不思議と違和感はないけど!」
マネージャー「昔の仕事で色々と。病院送りになったメンツがそこそこの数おりまして」
鳴護「殺してないんだ!じゃあ良かったね!」
マネージャー「それはですね。対人地雷が即死効果を狙ったのではなく、兵士の片足だけ吹き飛ばすのと同じ要領です」
鳴護「違うと思うな。ただ単に面倒臭いとか、その程度のレベルだと思う」
マネージャー「単体だったらまだマシで『アイテム』だったら遺骨も拾ってやれないという噂――あぁいえ忘れてください。昔の話ですから」
鳴護「最愛ちゃんに関しては『血とか超面倒ですし、殴って動かなくなったらそれでいっかな』ぐらいだと思う……良くも悪くも動じないから」
マネージャー「自分達のブラックな職場はさておくとしまして、ARISAさんへのペナルティその一が絹旗監督の超映画再現です。サイレ○でやったようなアレです」
鳴護「あのラストシーンも衝撃だったよね……!伏線が伏線のまま話の筋と全く関係無いっていう!」
マネージャー「ペナルティその二、リーダーとの養子縁組」
鳴護「ペナルティ――ですけど!てゆうか愛が重いです!」
マネージャー「明らかに度を超して病んでいますが、まぁ頑張ってください。上条さんでも殴って倒せた相手ですので」
鳴護「参考になりません。当麻君は神様だろうが大統領だろうが学園長だろうが、取り敢えず殴り倒すところがスタートですから」
マネージャー「最新科学をひた走っている街の住人二人が、ゴリラ並のコミュニケーション方法なんですよね。殴ってから考える的な」
鳴護「当麻君は違います!ラッキースケベで始まる出会いもありますよ!」
マネージャー「もし自分が中二でしたら殴り飛ばしているでしょう。まぁリーダーとの養子縁組は冗談ではないとして、最後の一つ」
マネージャー「以前共演された方から『もし良かったら出て頂けませんか?』と出演オファーを頂いておりまして」
鳴護「それが一番楽、かな?どうせ涙子ちゃんか秋沙ちゃんでしょ?」
マネージャー「いえ素性は存じ上げないのですが、『闇咲ちゃんねる』さんから出演オファーが」
鳴護「その三択ってあんまりじゃないですかね!?全部が後に引くんですよダメージ的な意味で!」
鳴護「てか前の収録いましたよね!?あたし今でも夜一人になるとビクッってするんですからね!?」
マネージャー「全カットしてフリートークだけに差し替えましたね。そしてなぜか局の上の上の上の方から『何やってんの?』と叱られたとか」
鳴護「ある意味そっちの方がオカルトですけど……するんですか、また?」
マネージャー「安心してください。自分も下調べをしましたが有名な祓い屋さんとの事でして」
鳴護「その情報のどこに安心感が?プロだから祟られても適切に祓ってくれるってことですか?」
マネージャー「最近多くなってきた『奇病』、何かの呪いだって話が広がっていますから。意外と受け入れられるかもしれませんよ」
鳴護「あー、だからこっちで活動されてるんですかねー。科学と魔術のハードルを下げる感じで」
マネージャー「ハードルを?」
鳴護「えぇ、下げる感じで。『科学以外にもこんな力があるよ』って少しずつ認知度?認識力?そういうのを少しずつですね」
マネージャー「あー……傭兵同士のヨタ話というか、噂話では幾つか聞いているんですがねぇ。『不死身』だったり『不倒』だったりって」
マネージャー「その中でやたら具体的かつ目撃例が多い『ドラゴン・オルウェル』って名前があったなぁと。今思い出しました」
鳴護「ドラゴン、ですか?」
マネージャー「『銃弾が当たっても死なない』とか、『戦車を素手で引き千切った』とかいう話です。今にして思えばもしかしたら、と。高位の能力者でも可能ではありますがね」
鳴護「マネージャーさんは魔術を信じるんですか?」
マネージャー「信じるもの何も。ARISAさん自らで起こしたじゃないですか?」
鳴護「……ですね」
マネージャー「――と、現実逃避はこのぐらいにして如何なさいますか?フードファイターとしてのお仕事がしばらく来ないのも考慮に入れてくださいね?」
鳴護「誤魔化せなかった……!そしてフードファイター扱いされても否定しにくい雰囲気……!」
鳴護「――でも待ってください!ペナルティのお仕事の筈なのに、一つ戸籍がイジられるのが入ってる件について!」
マネージャー「女性はいつか変るもんでしよう?――と、今言ったらセクハラに該当するため言いませんが」
鳴護「あたしの思い描いてた変り方と違います!なんかこうネットリとした情念を感じますよね!」
マネージャー「いいじゃあないですか、家族愛ですよ……多分」
鳴護「ある意味自己愛に近いような何かって感じもしますけどね……!」
マネージャー「それで?」
鳴護「……あっはい。それじゃあ――」
――某スタジオ
闇咲「……」
鳴護「はい、っていうわけでですね!突如呼び出された訳なんですけども!」
鳴護「始まってますよー?始まってますからねー!?何度でも言いますけど収録始まってんですから声出してください!放送事故になりますから!」
闇咲「あぁ」
鳴護「……じゃ、なくて!もっとこうあなたの番組なんですから頑張ってください!」
闇咲「闇咲だ。君たちと馴れ合うつもりはない」
鳴護「視聴者さんからの好感度をゼロにしようチャレンジでもしてるんですか?営業スマイルって知ってます?」
闇咲「すまない。家内にもよく言われるが、媚びを売るのは苦手でな」
鳴護「アイドルとしてはその発言を看過出来ませんが……えーっと、アドバイスをしますと、配信で数を狙うんでしたら目標にしているユーザー層にメッセージを送るのがいいと思います」
闇咲「とは?」
鳴護「そうですねー、例えばあたしだったら同世代の女子で共感出来る話をしますかね。お洒落だったり雑誌の話だったり」
闇咲「君のユーザーは男女比が偏っているのにか?」
鳴護「おい誰に教わったその情報」
闇咲「世話をしてくれたスタッフだ」
上条(カンペ)【!ここでボケて!】
鳴護「当麻君が早い段階から裏切ったよ!?まぁ事実をありのままに伝えた結果だけど!」
上条(カンペ)【アイドルとか声優が何話してても結局は「あ、可愛いな」しか見てない説】
鳴護「知ってた!そんな気は薄々してた!どんなフリートークしても返ってくる反応がそんなに変らなかったし!」
闇咲「学園都市には少年少女が多く住む場所だ。ならば最近の流行りを知ってる感を出せばいいのだろう?」
鳴護「いやそんな、最近増えてきたいっちょ噛み芸能人チューバーじゃないんですから」
闇咲「そして流行りといえばソーシャルゲームだ。スタッフに言われて事前に調べて貰った」
鳴護「この流れだとまたメタ発現に持っていきそうな流れですけど。まぁ宣伝になるんだったらそれはそれで」
闇咲「私の好きなサァーヴァン○はギルガメシ○だ」
鳴護「うんっ!あのですね、まぁ正解は正解だけども!この世界中であなた以外でそれいう資格はいないよね、っていうぐらいに正解だけども!」
鳴護「てゆうかそっち!?この流れだったら科学と魔術が交差するソシャゲーの販促じゃないんですか!?」
闇咲「ランサ○に浮気をしなかったら勝っていた。私の度量の問題だな」
鳴護「違いますからね?ユーザーさんへ訴えようって訴える方向性が間違ってますからね?」
闇咲「私の師匠筋が当てにしている学者の、更に玄孫ぐらい下の末端の人間の上司が言っていた」
鳴護「ほぼ知らない人です。時間差がどれだけあるんですか」
闇咲「『結局のところ、女子も男性声優がどれだけ絡むのかを妄想するだけで、フリートークあんまり聞いてない』と」
鳴護「癖(へき)ですよね?特殊な掛け算が好きな女子の一派ですよね?」
上条(カンペ)【これはNARUT○舞台を見に行った人の話なんだけど】
鳴護「当麻君?段々話が別方向へ逸れていって、もう本編の1/3過ぎてるから雑談は控えめにね!」
上条(カンペ)【基本的に女子しかおらず観客のマナーも訓練された軍隊のように統一されてた】
上条(カンペ)【歓声も控えめで新型コロナが流行る前なのに静かだという状態だった。まぁ舞台に集中してるからなんだが】
鳴護「ノーリアクションも演者さんは戸惑いそうな……」
上条(カンペ)【ただちょっと問題があって】
鳴護「え?静かなのに?」
上条(カンペ)【誰のどの役とは言わないけど、特定のキャストさんの見せ場とか台詞とかあんじゃん?てか脇役でも全体通して一回ぐらいずつするみたいな?】
鳴護「あー、主役さん以外も目当ての子がいるからね」
上条(カンペ)【ただその役の子、非常にこうね、なんつったらいいのか原作でもファンの間では『何やってんの君?』ってぐらい嫌われてて】
上条(カンペ)【そっち界隈からは「俺のサス○をNTRった女」って蛇蝎の如く嫌われてんだってばよ】
鳴護「固有名詞を出すのは良くないと思うよ?それでもう答え言ってんのと同じだよね?問題文に答えこれですって誤記してるようなもんだよね?」
上条(カンペ)【いやでもだ!基本女子だから乱暴なことは(表だっては)しないんだ!当然ヤジとか罵声なんか飛ぶ訳もない!】
上条(カンペ)【なんつっても余計なことやったら他のキャストさん達も気分が悪くなるから!絶対にしないと!】
鳴護「よく訓練されたお客さんだよね」
上条(カンペ)【まぁ、ただ――】
鳴護「……ただ?」
上条(カンペ)【その子が喋る度に『ふぅ……』って会場に溜息が……!】
(※実話らしいです)
鳴護「いや、それは……うん、溜息ぐらいだったら、仕方がない?かな?」
上条(カンペ)【しかも溜息ついてんのが一人や二人じゃないし、静かな場内が裏目になって余計響く響く……!】
(※実話らしいです)
鳴護「悪意の無い悪意が刺さるよね。全員が『そんなつもりじゃなかったのに』って言うだろうけど」
上条(カンペ)【そしてその状況を爆笑したら超目立ったって】
(※実話らしいです)
鳴護「その人も病んでるよね?もう収集がつかないぐらいに」
闇咲「若者向けの話題で求心力も高まったところで本題だな。何がいいのか私には分からなかったが」
鳴護「あたしも分からないから大丈夫ですよ?そして『なんでここにいるんだろう?』って疑問も解消されませんし」
鳴護「というかあの、キャストから質問なんですけど、闇咲さんはなんでまたこのよう非生産的な活動を……?」
闇咲「学園上層部と取引をしてな」
鳴護「消されません?放送以前の問題で、存在自体が抹消されませんか?」
闇咲「胡散臭い伝承を潰して正しい知識を伝播させる分には歓迎するそうだ」
鳴護「いえあの、オカルトに正しいも正しくないもあるんですか?」
闇咲「こちらの都市にはないだろうが、魔術サイド――オカルトには厳然たる理論が存在する。歴史と言っていい」
闇咲「時折『嘘から出た実』のように嘘や誇張、もしくは善意や悪意を以て広められたものが”成って”しまう場合もある。それもまたいい」
鳴護「いいんですか?」
闇咲「善悪の善しではなく仕方がない、という意味でならば。ただ少々危い部分もあり……『禁じられた遊び』という映画は?」
鳴護「ないです。曲だったら知ってますけど」
闇咲「簡単に言えば戦災孤児と農家の子供が『お墓ごっこ』と称して大量の墓を作る。最初は自分達で十字架を造っていたが、次第に本物の墓から盗んできたりと……という話だが」
闇咲「真似事でも、そして作った当人が冗談やイタズラであっても意味を持ってしまう。これが非常に危ない」
鳴護「真似するだけですか?」
闇咲「名前は伏せるが、とあるライトノベルでとある儀式が取り上げられた。それ自体はある地方で細々と続いた風習であり、死者を弔う慰霊のものだった」
闇咲「しかし――何を考えたか、実名やら詳しいやり方をセットで乗せて、それが生きている人間へ対する嫌がらせとして流行ってしまった」
(※本当にありました)
鳴護「……酷いですね」
闇咲「もっと身近な例えだと、ゴミの不法投棄防止用に鳥居を建てるのが流行ったしまったが、あれも実は良くない。というか非常に悪い」
闇咲「鳥居というものは入り口であり出口であると同時に通り道でもある。だから勝手に道が”通って”しまう場合がある」
鳴護「あの……フィクションの話ですよね?現実ではなく?」
闇咲「勿論その通りだ、現実ではない――が、しかし100人が100人そうとは限らない。乱立された鳥居を見て感じ取ってしまい、病む人間もいる」
闇咲「同様のことがネットミームについても言える。雑多すぎるものが増えてしまっていて色々と狂ってしまう」
闇咲「だから適度に剪定する。『これは有り得ない、歴史的には価値が無い』と適度に」
鳴護「えっと後々勘違いしないようにする、ですか?」
闇咲「そのようものだ。こちらとも合意は取れたし、オカルトの一つとして捉えてくれても構わない」
上条(カンペ)【そんなことよりも奥さんとの馴れ初めを。プロポーズはした方?された方?】
鳴護「当麻君挑発はやめて!?収集つかなくなったら最終的に責任取るのはあたしなんだから!」
闇咲「された方だ。そして君もその場に立ち会っていたはずだが」
鳴護「マジレスやめてください!段々本題とかけ離れていきます!」
闇咲「では改めて――『シシノケ』という怪談は知ってるか?」
鳴護「あたしは知らないです。有名なんですか?」
上条(カンペ)【怪談まとめサイトでは中堅よりやや上ぐらい?】
鳴護「ちょっと何言ってるのか分からないかな。中堅とかってどういう意味?」
上条(カンペ)【知名度かな。心霊系怪人系が多い怪談の中じゃジャンル的に珍しいって意味で】
鳴護「へー、てゆうか当麻君のカンペ待ちだとテンポが著しく遅くなるんだけど、普通に喋ってたらどうかな?折角テーブル余ってるんだし」
上条「詳しく言えば幼虫系?それとも妖虫系?」
鳴護「狙ってたよね?カンペ置いた瞬間に字面でしか分からないネタ放り込んでくるのは狙ってたとしか思えないよね?」
上条「……ARISAもツッコミ上手くなったなぁ、うん。鍛えた甲斐があった」
鳴護「あたしはなかったけどありがとう!アイドルとしての大切な何かがツッコミ入れる度に落ちていく気がするけどね!」
闇咲「仲が良いのは重畳だが、アシスタントとしての義務を果たすように」
上条「じゃ三行で」
1.森の中で愛犬とキャンプ
2.夜中に妖虫に襲撃されたが犬頑張って撃退
3.麓の神社で事情通()が集落の暗部をペラペラしゃべり出して世界発信
鳴護「雑かな!まぁ分かりやすくていいけど、興味がある子はググってみてね!」
上条「さっきも言ったけど俺は結構好き。昔神様だったのがウロウロしてる感じで」
鳴護「あの、ザックリ過ぎてそこら辺の情報が皆無なんですけど」
上条「あーっと、夜中にテントが襲撃されるんだけど、何か人ぐらいの大きさのイモムシっぽい何かなんだわ」
鳴護「うん」
上条「それだけ?イヌが頑張って追っ払ってくれたよ!ぐらい」
鳴護「当麻君、人に説明するのって苦手なのかな?」
上条「いや怪談なんてそんなもんだろ!?有名な他の話だって『グネってんの見たら頭がアレになった』って一行で終わるし!」
鳴護「そうかもだけど!情緒ってものがね!」
闇咲「核心部分に触れてもらわないと話にならないのだが、テロップで出した方が早いか」
鳴護「あたしの存在意義はどこに?」
・山中に二つの集落があった。里に住む人と山に住む人、山の人は外見が違うから外の人から迫害されていた
・山村で障害児が生まれ神として奉った
・障害児が神と合体、里村の畑を荒らす
・しかし山村も見境なく荒すようになり、山人によって封印される
鳴護「二行目からトンデモ展開が続くよね」
上条「つーかこんな簡単に祟り神が誕生するんだったら、あちらこちらにポンポン出没しているような」
闇咲「私もどこから指摘するか迷うぐらいの雑な話なのだが、カテゴリー的に堕落した神なので人気も知名度もそこそこあって困っている」
鳴護「困るって何の話ですか」
闇咲「まず山に住む集団の話だが、日本の文化人類学の祖、柳田國男がいる。彼は『遠野物語』で”山人論”を説いた――の、だがこれがまた微妙に失敗する」
上条「失敗?」
闇咲「柳田は山の怪異の多くを『山人のせいだ。そして山人とは平地人とは異なる文化を持つ異民族ではないか』と」
鳴護「へー、そんな人たちが居たんですね」
闇咲「いや、居なかったんだ」
上条「どっちだよ」
闇咲「時代も悪かったんだ。文明開化から大分経ち、古い迷信や因習は全て科学で解決出来るとする風潮が非常に強かった」
闇咲「だから伝承や神話、それらにも科学的で合理的な説明が求められ、『怪異とは山に住む異民族』という答えを導き出されてしまったと」
鳴護「でも本当にいたかもしれないんじゃないですか?」
闇咲「実証学の見地からすれば証拠が皆無なのだ。少なくとも21世紀までそれらの人々がいたという証拠は発見されていない」
闇咲「なので個人や家族単位で山へ隠れ住むことはあったかもしれない。それは否定出来ない」
闇咲「しかしながらそれが全国に伝播するほどの頻度や人数であれば、というかそれだけの人間たちが生息していれば幕府なり藩なりと衝突しない訳がない」
闇咲「そもそもの話、平地で集落に住んでいる住人たちですら時折飢饉で死に絶えそうになるのに、より不安定な山中に人が長年定住するのは困難だ」
鳴護「年貢とが厳しすぎて、って話はよく聞きますけど、その人たちが逃げてとかは?」
闇咲「そういうのを逃散というが、普通は他領へ逃げる。『人=領地の強さ』なので逃げ込まれた側も『いや知らない知らない?誰も来ないよ?』と白を切る場合もある、余剰食糧がある場合に限りだが」
闇咲「そうでない場合、江戸や大坂などの大都市近辺まで向う。大都市圏内であれば仕事もない訳でないし、似たような住人同士でコロニーが作られるからな」
闇咲「そこか盗賊に転落することも珍しくはないし、著しく逃げ込んだ先の治安が悪くなる」
闇咲「逃げた方も必死なので犯罪行為に手を染め、現地の人間に狩られるが……まぁ割愛しよう」
鳴護「それじゃ山の中に人は住めないということで……」
闇咲「もっとはっきり言えば定住しない理由がない、だな。日本でもロマのように芸を売って漂泊していた集団もいるが、彼らは人里から人里へと渡り歩いていた」
闇咲「全国津々浦々、伝承が成立する背景なり過程が全然異なるんだ。だというのに」
上条「――『気をつけろ!今まで俺たちに攻撃していた怪異は山人だったんだよ!』」(MM○風)
闇咲「と、偉い人に言われても困るだけだったと」
鳴護「当麻君は積極的に自分を捨てていくスタイルだよね。尊敬はしない見習わないけど、きっと絹旗監督に絡まれたらあたしもそうなるよ」
闇咲「そして脱線するが、更に困った事態に陥るのが柳田の弟子の折口信夫の提唱した『稀人(まれびと)論』」
闇咲「概要は『神はどこか遠いところからやって来て訪れるモノ』という解釈なんだ。どちらかといえぱ私は折口の方が合っているとは思う」
上条「なんか問題になったのか?」
闇咲「一時期『柳田か折口か?』と二択で主流派が割れた。ほぼ神学論争になったんだ」
闇咲「とあるゼミに入って教授が放った第一声が『君は柳田派?それとも折口派?』という話もある」
(※実話です)
上条「学問じゃねぇのかよ。派閥か」
闇咲「大学や学閥間でのマウント争いに陥った時期もあり、元々が生産的とはとても言えない上に、時として風評被害を出す学問なのでまぁ色々と」
闇咲「ここ20年ぐらいでまた『民俗学=オカルト関係』という間違った認識、端から見れば面白いが当事者にとっては自己紹介で肩書きも言えない罰ゲームの日々らしい」
鳴護「本当にもうジャンルか何なのか分からないですよね」
闇咲「『シシノケ』のような適当な作り話によって拍車をかける始末だ。というか本当の研究者は忙しいから一々否定して回る暇はない」
鳴護「闇咲さんのお立場は……いやごめんなさい、なんでもないです」
闇咲「今までが山人としての矛盾、次に山中に切り拓いた集落という前提だが……まずそんなに交流がない。他の村とは絶縁状態なのがまぁ普通ではある」
闇咲「生きるには生きるだけの生産力が必要だ。だから他の村とつまらない争いをしている暇が無い」
鳴護「……現実的って言いますか、もう少しオブラートに包んでほしいって言いますか」
闇咲「勿論村と村とでの争う事態はあった。しかし大抵は水だな。灌漑をするのに上流の集落が使いすぎて下流の村へ流れる水量が減ったりと」
闇咲「そちらはそちらで洒落にならない争いに発展しているが、面倒なのが割愛する。なぜならば面倒だからだ」
鳴護「ガチレスしてくる人が言えない事情って一体……!」
闇咲「そして中世・近世において障害児並び障害者の扱いは非常に悪い。余剰人員を抱え込むと不作の年に一家全員が共倒れになるため、生存そのものが難しかったと」
闇咲「何度も繰り返すが、現代の価値観では絶対に許容してはいけないことだ。しかしその当時はそれが常識だった」
闇咲「付け加えるのであれば都市部など、余剰人員が集まる場所ではその限りではない、とも付け加えておこう」
闇咲「そんな間引きが当り前のように行われていた時代背景の元、異形(※原文そのまま)を神として奉り上げる、とは成立しない概念だ。命の価値が今と違って安すぎる」
鳴護「山の神様と合体?メガテ○じゃねぇんだよ、と思わずツッコみたくなる文章ですけど、ここに関してはどう?」
闇咲「カンカンダラの話もそうだが、神が人を取り込んだりする例はほぼ知らない。今はともかく昔の世界観では格が違いすぎるからだ」
上条「あーじゃあ、虫のそういう神様とか妖怪はいないのか?イモムシっぽいのは?」
闇咲「いる、というかある」
鳴護・上条「あるんかい」
闇咲「ただ実体がどうも無くてな、政治的な話も絡んでくるというか。微妙に厄介なのだ」
鳴護「なんかこうアレだよね。逆にもう一周回って『可能性あるじゃん?』って思うよね」
闇咲「似ているだけで恐らく違うのだが、名前を『常世神(とこよのかみ)』という」
上条「そ、それは……ッ!?」
鳴護「当麻君知ってるの!?」
上条「なんて中二マインドを刺激する響きなんだ……ッ!!!」
鳴護「うん、否定はしないよ?強く否定はしないんだけど、大体そういうのってポッと出の新興宗教だからね?」
闇咲「いいやポッと出などでは決してない。西暦644年に流行った、歴史だけは古い神だ」
鳴護「1,300年前からずっと中二!?」
上条「なんだろうな!ちょっと先人達が好きになりそうだぜ!」
闇咲「有名な出来事をあげるのであれば蘇我入鹿が暗殺された前年だな。大化の改新が起きる前の年」
鳴護「もしかして有名、なんですか?」
闇咲「日本書紀にも記述はある。ただ翌年の蘇我親子の没落の方が出来事としては大きいため、あまり、というか全く大事としては扱われていない」
闇咲「そこに出てくる『常世神』は新興宗教の偽神としてだが。良い役割では決してない」
鳴護「あ、新興宗教当たっちゃった」
闇咲「まず『常世神』を説明する前に、その当時『トキジクの実を食せば不老不死になる』という言い伝えがあった」
鳴護「ときじく?」
闇咲「『時に非(あら)ず』でトキジクだ。これは柑橘類がなる常緑樹のヤマトタチバナであるという説が有力だ」
鳴護「食べると不老不死になれるんですか?」
闇咲「正しくは『常世の国にある植物の実』なので、『食べると常に若々しいままで居られる』という話だ」
闇咲「君も、君たちは知らないだろうか?冥界へ下ったペルセポネは冥界の食べ物を口にしてしまいこの世の住人ではなくなってしまった」
上条「あー……一身上の都合で一回やったわ」
鳴護「えっと……その節は色々とご迷惑をおかけいたしまして」
闇咲「理解があるようで何よりだ。それの逆バージョンだ、この世ならざる食べ物を口にすればこの世の理からも外れると」
闇咲「まぁ実際に柑橘類は栄養もあり、定期的に適量を口にすれば体は健康になる。まるきり嘘という訳でもない」
闇咲「知っているか?イモムシは食べる植物が決まっており、あれもこれも無節操に食べるのではない」
鳴護「そうなんですか?家庭菜園のお野菜についちゃって大変って話聞きますけど」
闇咲「大抵親が卵を産んでいくんだ。自分の子が孵った後で直ぐに食べられるように」
上条「いい話なんだけど農家さんにはクソ迷惑なような……」
闇咲「それで当然タチバナを主食とする芋虫がいる。大体のアゲハチョウがそうなんだが……これが神に奉り上げられた。文字通りな」
鳴護「なんでですか、不老不死の木についてるから神様だって」
闇咲「そうだ。だから多くの人間がアゲハチョウの幼虫を『常世神』として崇めた」
鳴護「適当に言ったのが核心っぽかったよ!?」
上条「うん、あるある。大体OPでインデックスと喋ってたのが伏線になるんだよな」
鳴護「当麻君もいい加減な事は言わないで!例えそれが本当だとしてもね!」
闇咲「私に抗議されても困る。少なくとも日本書紀には書かれているのだからな」
闇咲「その内容も酷いものでな。信者には虫を祀(まつ)らせると同時に自身の財産を捨てさせた、そうすれば新しい福がやって来ると」
鳴護「それなんてカルト宗教」
闇咲「それも日本初の由緒ある、だな。残念なことに『常世神』はご利益をもたらすことはなかったのだが……」
闇咲「しかしこれもまた日本初のネズミ講だった、という説もあるにはある」
上条「あぁなんだっけ?上納金を支払う子をドンドン増やしていけば、儲かるって話だっけか?」
鳴護「当麻君狙われそうだよね」
闇咲「自分は財産を失うが他の人間も同時に捨てる。それを拾えば新しい財産となり、信者が増えれば捨てる財産も比例して増える」
鳴護「何か……怖いです」
闇咲「人々は熱狂状態に陥ったそうだが、全員が儲かる訳ではない。とある豪族が決起して首謀者を討伐した」
闇咲「そうすると人々の熱は冷め、『常世神』もまた信仰の対象ではなくなったと。これが私の知る限り、神的存在の幼虫がいたケースだ」
闇咲「……まぁオシラサマは元々が外から来た信仰だし、外してはいるが」
鳴護「へー、始めて知りましたけどそんなことあったんですねぇ。でもなんでイモムシなんて崇めちゃったんでしょう?当時の流行り?」
闇咲「あくまでも私の推測だが、この神は仏教が神道を上書きする過程を書いているのではないかと推測している」
鳴護「先生!全く意味が分かりません!」
闇咲「当時の世相として、というかこの翌年に行われつつあった大化の改新では蘇我氏を廃し中臣鎌足、後の藤原氏が有力な豪族となるのだが」
闇咲「蘇我氏と藤原氏、それぞれの豪族の勢力争いがあったのは間違いない。その背景に――」
闇咲「――渡来系である仏教を担ぐ一派、土着系である神道である一派。それぞれの代理戦争だったのではないか、という説がある」
上条「マウント取り合い」
闇咲「……身も蓋もない話をしてしまえばその通りだが、当時としては深刻な問題だろう。結局後世では仏教を推し進めて天下太平を進めたのだが」
闇咲「その前哨戦になったのが『常世神』ではないかと」
鳴護「変った神様を崇めていた、んですよね?」
闇咲「偽神を討伐した人間は秦河勝(はたのかわかつ)、渡来系の生まれの人間だったんだ」
闇咲「見方を少し変えれば『渡来人が”何の利益もなく人心を惑わす”と神道を斬って捨てた』ことになるだろう?」
上条「……あぁ!確かに迷惑な話だけど、問答無用で切り捨てる必要はなかったんだよな!禁止したり刑罰与えれば良かったのに!」
闇咲「君の言葉を借りれば、それこそマウント取りだったのかもしれない。『私は神を斬ったぞ、何の祟りも起きないじゃないか』と」
鳴護「その秦さんって人は結局?」
闇咲「秦氏として一大権力を誇ったよ。京都の太秦(うずまさ)を拠点に、というか『秦氏の都市』という意味で太秦だそうだが」
闇咲「ついでに言えば秦氏は日本へ逃れられて来た失われたユダヤ族という学説を唱えた学者もいる」
上条「あ、聞いたことある。中二だよねー」
闇咲「今から100数年前のだが」
上条「いい加減にしろよ!?日本書紀といい中二っぽい考えはずっと昔からあったのかよ!?」
鳴護「だから自虐が過ぎるかな」
闇咲「遺伝子的には別物だそうだ。文化が影響されていないとは言い切れないがな」
闇咲「まぁ……非常に長くなってしまって恐縮だが、イモムシ上の怪異もいない訳ではないんだ。偽神ではあるが」
闇咲「あと有名な虫繋がりでは『三尸虫(さんしちゅう)』庚申信仰だ。『庚申塔』と刻まれた石碑を見たことは……ないだうな。今ではほぼ完全に廃れてしまってる」
鳴護「虫なんですか?」
闇咲「と、言われてるが実際には無視の形をしていない。馬の頭を持った虫だったりそのまま子鬼だったり、まぁ様々だ」
闇咲「信仰自体はシンプルで生まれながら人の体の中には三匹の虫がいる。彼らはある決まった夜に体を抜け出し天帝に宿った人間の悪事を伝えに行くと」
闇咲「そうすると天帝は悪事に応じて人の寿命を縮めてしまうため、三尸虫が抜け出す夜には人が眠らず見張りをする」
闇咲「――という体裁で宴会をするのが江戸自体に流行った」
上条「娯楽じゃねぇか!意外に楽しんでんな暗黒中世時代!」
闇咲「そういう時代だからな。中にはきちんとした作法で念仏をあげ奉っているところもあるにはある」
闇咲「あと江戸時代は現代と比べようがないぐらいに過酷な時代だった。それは否定しようがない事実だが」
闇咲「たまに大豊作の年になるとあっちもこっちも地酒を造り出してハマり、不作の年にも構わず作って幕府が『お前らいい加減にしろよ』と通達も出したことすらある」
鳴護「元気でいいんじゃないかなっ、生きる楽しみは必要だよ!」
闇咲「そして庚申信仰も他に『○○夜講』と他の夜にも様々な神仏を崇めだし、というか集まって夜更かしを始め、諸藩が『お前らいい加減にしろよ』と禁止令を出した」
上条「意外に余裕あるじゃねぇか昔の俺ら!何よりで良かったよ!」
鳴護「あの、ツッコミのお仕事はあたしであって、そろそろ控えてもらえると……」
闇咲「なおこの三尸虫、『抱朴子』という魔道書、もとい書物にも登場するのだが」
上条「お前はもっと隠せ、なっ?」
闇咲「その際の虫の数は特に言及されておらず、後に三匹となった。これは三尸虫の”三”が『あぁ三って書いてあるし三匹なのかな』との解釈が浸透したからだ」
鳴護「アバウトなんですね。そこ結構大事だと思うんですけど」
闇咲「解釈は後の世に任せられている。『常世神』ではないが、多少間違ったところで実害が起きる訳ではないからな」
鳴護「いいのかなぁ、そんな間違った方向で話が進んでいいのかなぁと」
闇咲「良い訳がない。というか普通に過去の資料と突き詰めていけば分かる話――なの、だが」
闇咲「問題なのは闇雲に広がることだ。ネットの創作であっても今は紙文献の事典という体裁で出版している人間も居る」
闇咲「それが数世紀経過してから『歴史の闇に葬り去られた闇……!』として脚光を浴びる可能性もある。アマビエのように」
上条「どローカルな妖怪だったのに今はエロゲ×のタイトルになるまで出世したからな!」
鳴護「出世?それ出世で合ってるのかな?ないよね?」
闇咲「以上『シシノケ』の考察を終わりたいと思う。途中までは頑張っていたのは認めるし、あまり例がないイモムシ状の怪異を出したのも評価はしよう」
闇咲「ただネタバラシをするのはよろしくなかった。謎は謎のまま放置した方がリアリティを出せたのに」
鳴護「違います違います。なんで作品を評価する立場になってんですか」
闇咲「私が知りうる限りで類似する怪異をあげてみたものの、実体は『シシノケ』とかけ離れているように思える」
闇咲「両者の共通項は外見だけ、しかも片方は虫かどうかも怪しいしな」
上条「みんな!怪談を作るときには注意が必要だぞ!少し設定を間違えると後からネチネチネチネチ怪談オジサンに説教されるからな!」
鳴護「うんっ、まぁね!そういう主旨だけどね!言葉はもっと選ぼうよ!積極的にユーザーさんへケンカを売らずにね!」
闇咲「以上で終わりだ」
鳴護「あ、はいありがとうございましたー?続くの?これまた来週もとかって言っていいの?」
上条「近日公開、絹旗監督プロデュース!『ARISAin犬鳴村!』、みんな!楽しみにしててくれよな!」
鳴護「やめて!?ツッコミで喉を枯らしたくはないんだよ!シンガーとしての矜持ってものが!」
闇咲「その犬鳴峠も実は史実とは乖離していてだな」
鳴護「闇咲さんもマジレスはいい加減にして下さいよ!?ツッコんでいいところと悪いところってあるでしょ!?」
――オービット・ポータル芸能事務所 数日後
鳴護「おはようございまーす」
マネージャー「おはようございますARISAさん。先日はお疲れさまでした」
鳴護「えぇ……はい、集落時間は短かったんですが、その分お腹に来ます。何かこうグっとしたものが」
鳴護「なので取り敢えず全部忘れるようにしています。だって憶えていたくないですから」
マネージャー「そうですか?意外と言えば意外なんですが、評判は良いんですよ?」
鳴護「またなんか物好きな方が……あぁいやありがたいですけど、ウチの子たちの将来が心配になります」
マネージャー「問題ないかと。よく訓練されたファンですからね」
鳴護「その子たちから生活費を頂いているんですけど」
マネージャー「印税も結構増えてきましたからね、セミリタイアまでもう少しの辛抱ですよ」
鳴護「どこの事務所のマネージャーがタレントに引退を勧めるんですか」
マネージャー「新人のToh-M@をもっと推していきたいです」
鳴護「当麻君がまた勘違いした方向へ!面白いけど茨の道だよ!傷だらけになるんだよ!」
マネージャー「と、言いますか。私も動画拝見したんですが別に普通の内容じゃ?厳しくはなかったですけど」
鳴護「いやそれは元傭兵の方からすればグロい内容は何ともないでしょうけど」
マネージャー「いやいや、そうではなく。まぁご覧ください」 ピッ
鳴護(動画)『――はい、っていうわけでですね!突如呼び出された訳なんですけども!』
鳴護「あぁここからですね」
プツッ
鳴護「あれ?編集点が?」
上条(動画)『――で、ARISAは最近どう?変った仕事とかやってんの?」
鳴護(動画)『うん、今まさにしてる最中かな!ゆうか聞いてよ、この間ね!』
鳴護「本編がバッサリ斬られて最後のフリートークだけになってる!?」
マネージャー「まぁ本当にマズいものは公の電波や媒体には載りませんからねぇ。彼らもまたただの企業ですし」
鳴護「コンプラ的にひっかかりそうなものは無かったですよ!?ただ昔の常識を説いただけで!」
マネージャー「それが何かに引っかかったんでは?異世界行って日本の常識ぶっぱするのも流行っていますし、世界も似たようなものですからねぇ」
鳴護「い、いえでも!再生回数が30万回突破って!」
マネージャー「あー、あれですよ。前にも言ったじゃないですか」
鳴護「何か?」
マネージャー「『ARISAのファン、ARISAの話す内容は関係なくて”ARISA可愛いな”しか見てない説』」
鳴護「うるさいな!薄々そうじゃないかって思っていますけど!ラジオの企画なのに遊園地とか観光地回らされるのはおかしいと思っていますけど!」
マネージャー「ぶっちゃけ可愛いければある程度は許されますからね。男女ともに」
鳴護「っていう人も居るだけですよ!中にはもっとこう、うんきっと会ったことないですけど真摯な人だって!」
-終-
マネージャー「……どうぞARISAさん。おかけ下さい。遠慮なさらずに」
鳴護「えぇと、ですね……その、怒ってます?」
マネージャー「怒る、ですか?どれを指して仰っているのでしょう?」
鳴護「フードバトル前のフリートークでギャルなんとかさんに、ちょっと悪い事言っちゃったみたいなのか……?」
マネージャー「『さっきお手洗いで吐いていましたけど、お加減が悪いんでしたら収録はやめた方が……』でしたよね」
鳴護「いや言いますよ!?なんで戻しちゃうぐらい体調悪いのに収録続けるんですか!?」
マネージャー「お仕事だからですね。嫌がらせみたいに大量に召し上がって寿命を縮めるお仕事をされているからですね」
鳴護「だって普通の人の胃の容量は1.5リットルですし、多少膨張しても精々2.5リットルなんですから限界だってあるんですよ!」
マネージャー「あなたのそういうところは誉めたいですし、一人の大人としても評価しあげたいのですが」
マネージャー「如何せんこう、生放送でホームランを打たれるとフォローの仕様がないって言いますか」
鳴護「……すいませんでした。次からは控え室で言います」
マネージャー「そこはそれ向こうも覚悟を決めていらっしゃるのですから、部外者が余計なことを言うのは憚られますよね?」
マネージャー「それで?他に何か思い当たる点は?」
鳴護「ないことはないですけど……でもあれはCM中のお話で!」
マネージャー「えぇまぁ存じてます存じてます。自分もこれ以上余計な事を言わないよう、釘を刺してに行こうとしたらダイレクトで聞きましたからね」
鳴護「ぜ、善意です!他意はありません!凍り付いたスタジオの空気をとかそうと思ってしたことです!」
マネージャー「分かっています。だから余計にタチが悪いです」
鳴護「ならいいんじゃないでしょうか……?」
マネージャー「ではなんて仰ったでしょうか、リピートプリーズ?」
鳴護「『外見はとてもお若いんですから、ギャルって名乗っても違和感はそんなにないですよねっ!』……ですけど」
マネージャー「はいアウト。理由を言わないでも分かりますよね?」
鳴護「はい……『あたし知ってます!自虐ネタってやつですよね!』、ですよね」
マネージャー「アウトです。よりヘイトを集めています。ARISAの前世はきっとタンク役ですね」
鳴護「多分前世はないんじゃないかなと……あってもお姉ちゃんぐらいで」
マネージャー「……それで?以上ですか?以上で終わりだと思っているのでしょうか?」
鳴護「あ、これ絶対にもう一つ二つ待ってるやつだ」
マネージャー「当り前ですよ!?フードパドルで勝っていいとは言いましたけど、なんで突き放してるんですか!?手加減はどうしたんのですか!?」
マネージャー「まだ僅差であれば!少しの差ぐらいだったら第二回第三回ってお呼ばれするのに!圧倒的に勝ったら他の方も怖れて呼ばれないんですよ!」
鳴護「食べ物を粗末にするような人には負けませんっ!」 キリッ
マネージャー「正しいですけども。正直同意もしますけども」
鳴護「あとなんでしたらインデックスちゃんとあたしで、他のフードバトルを荒らしていくって手も」
マネージャー「お友達は選んでくれていますか?上条さんのダメなところがうつっていますよ?」
鳴護「当麻君たちはデパ地下の試食コーナーを荒らすだけです」
マネージャー「出禁食らったって仰っていましたけど。あまりに可哀想で自分のレーションを渡しておきました」
鳴護「一介のマネージャーさんがなに軍用レーション食べてるんですか」
マネージャー「栄養たっぷりの健康食です。ただ食感と味が壁なのが難点ですが」
鳴護「なんて非人的な会社……!」
マネージャー「前職よりはかなり良くして貰っていますよ。知っていますか?蛇ってカレー粉を付けて焼くとそこそこ食べられない訳ではないんですよ?」
鳴護「すいません、あたしの担当から外れてもらえませんか?蛇を食される方はちょっと……」
マネージャー「分かりました。では満を持してリーダーがARISAさんの担当に収まるということで」
鳴護「チェンジが重すぎません!?もっとこう別の人いないんですか!?」
マネージャー「多脚戦車を扱えるのが自分とリーダーともう一人しかおりませんので、まぁ必然的にそうなってしまいますよね」
鳴護「まぁの意味が分かりません」
マネージャー「イギリス清教その他の魔術師が襲撃してきた際、ARISAを引っつかんで上条さんのところへ逃げ出せる要員です」
鳴護「すいませんねっ!あたしも聖人モドキになりたくてなった訳じゃないんですよ!」
マネージャー「ご理解頂いたようで何よりです。つい最近リーダーから『養子縁組ってどうすればいいんだ?』って相談されましたが、お二人の未来に祝福を」
鳴護「怖い怖い怖い怖い!?なんですかその不吉な相談は!?」
マネージャー「そういったクソ面倒臭い説得も、今後は当事者同士でのみして頂ければ助かります」
鳴護「――はいっすいませんでした!ワガママ言いましたけどちょっと言ってみたかっただけです!反省してます!」
マネージャー「ご理解頂きありがとうございました。リーダーはなんだかんだでうちの最大戦力なので、あまりこう温存は出来ないんですよね」
鳴護「前にもツッコみましたけど、そういったのから足を洗ったんじゃ……?」
マネージャー「洗いましたよ?今は芸能事務所と警備会社の二つ看板で営業しているだけで」
鳴護「業務は……知らない方がいいんでしょうねきっと」
マネージャー「いいえ、決してそんなことはありませんよ。聞かれても当たり障りのない嘘の内容を教えるだけですから、全然大丈夫です」
鳴護「大丈夫の意味分かってます?それともあたしの言語感覚がどうかしてるんですか?」
マネージャー「まぁ弊社の営業方針はさておくとしまして、ARISAさんの今後についてお話を詰めたいのですが」
鳴護「あ、新曲ですか!」
マネージャー「え、新曲ですか?」
鳴護・マネージャー「……」
マネージャー「……あぁ新曲ですね!新曲いいですよね!新曲ですからね!」
鳴護「待ってください!あたしの目を見て言ってください!あなた今大切なことを忘れていませんでしょうか!?」
鳴護「例えばあたしのジョブとか!歌姫系なのに遊び人系だと思い込んでいませんでしたかっ!?」
マネージャー「いやいや全然そんなことは。今後はこの反省を糧にしつつ前向きに善処する次第ですからお気になさらず」
鳴護「あたし知ってるもん!それ大人が誤魔化すときに使うのだし!」
マネージャー「勉強出来て良かったですね。それではタレントのARISAさんのスケジュールについてなんですが」
鳴護「絶対に流されませんからね?ターンが終わったあとでも追求しますからね?」
マネージャー「例のB級映画監督からお誘いがですね」
鳴護「絶対に断ってください!そっちのお仕事受ける度にタレント生命が縮んでる気がするんですよ!」
マネージャー「『今度は邦画、突如現れた新星・”犬鳴○”を超イジって遊びませんか』だそうです」
鳴護「イジってんじゃないですか!名作映画を再現って建前すらどっか行っちゃったよ!」
マネージャー「いやあれ私も拝見しましたが、見終わった後の後味の悪さが中々でしたよ」
鳴護「あー、そういう系ですか。ありますよね、後味悪い映画」
マネージャー「あ、いえ『どうしてこんな映画に予算が付いたのか?』という意味です」
鳴護「作品の全否定!?」
マネージャー「一部では神の如く崇められている清水○監督ですが、戦慄迷○のようなハズレもそこそこの確率で世に送り出しますので」
鳴護「もう二人でやったらいいんじゃないかな。あたしを巻き込まないで」
マネージャー「それもいいかも知れませんね。監督の前へ立つと出る震えが止まる日が来れば」
鳴護「何やったの最愛ちゃん!?あぁいや何やってても不思議と違和感はないけど!」
マネージャー「昔の仕事で色々と。病院送りになったメンツがそこそこの数おりまして」
鳴護「殺してないんだ!じゃあ良かったね!」
マネージャー「それはですね。対人地雷が即死効果を狙ったのではなく、兵士の片足だけ吹き飛ばすのと同じ要領です」
鳴護「違うと思うな。ただ単に面倒臭いとか、その程度のレベルだと思う」
マネージャー「単体だったらまだマシで『アイテム』だったら遺骨も拾ってやれないという噂――あぁいえ忘れてください。昔の話ですから」
鳴護「最愛ちゃんに関しては『血とか超面倒ですし、殴って動かなくなったらそれでいっかな』ぐらいだと思う……良くも悪くも動じないから」
マネージャー「自分達のブラックな職場はさておくとしまして、ARISAさんへのペナルティその一が絹旗監督の超映画再現です。サイレ○でやったようなアレです」
鳴護「あのラストシーンも衝撃だったよね……!伏線が伏線のまま話の筋と全く関係無いっていう!」
マネージャー「ペナルティその二、リーダーとの養子縁組」
鳴護「ペナルティ――ですけど!てゆうか愛が重いです!」
マネージャー「明らかに度を超して病んでいますが、まぁ頑張ってください。上条さんでも殴って倒せた相手ですので」
鳴護「参考になりません。当麻君は神様だろうが大統領だろうが学園長だろうが、取り敢えず殴り倒すところがスタートですから」
マネージャー「最新科学をひた走っている街の住人二人が、ゴリラ並のコミュニケーション方法なんですよね。殴ってから考える的な」
鳴護「当麻君は違います!ラッキースケベで始まる出会いもありますよ!」
マネージャー「もし自分が中二でしたら殴り飛ばしているでしょう。まぁリーダーとの養子縁組は冗談ではないとして、最後の一つ」
マネージャー「以前共演された方から『もし良かったら出て頂けませんか?』と出演オファーを頂いておりまして」
鳴護「それが一番楽、かな?どうせ涙子ちゃんか秋沙ちゃんでしょ?」
マネージャー「いえ素性は存じ上げないのですが、『闇咲ちゃんねる』さんから出演オファーが」
鳴護「その三択ってあんまりじゃないですかね!?全部が後に引くんですよダメージ的な意味で!」
鳴護「てか前の収録いましたよね!?あたし今でも夜一人になるとビクッってするんですからね!?」
マネージャー「全カットしてフリートークだけに差し替えましたね。そしてなぜか局の上の上の上の方から『何やってんの?』と叱られたとか」
鳴護「ある意味そっちの方がオカルトですけど……するんですか、また?」
マネージャー「安心してください。自分も下調べをしましたが有名な祓い屋さんとの事でして」
鳴護「その情報のどこに安心感が?プロだから祟られても適切に祓ってくれるってことですか?」
マネージャー「最近多くなってきた『奇病』、何かの呪いだって話が広がっていますから。意外と受け入れられるかもしれませんよ」
鳴護「あー、だからこっちで活動されてるんですかねー。科学と魔術のハードルを下げる感じで」
マネージャー「ハードルを?」
鳴護「えぇ、下げる感じで。『科学以外にもこんな力があるよ』って少しずつ認知度?認識力?そういうのを少しずつですね」
マネージャー「あー……傭兵同士のヨタ話というか、噂話では幾つか聞いているんですがねぇ。『不死身』だったり『不倒』だったりって」
マネージャー「その中でやたら具体的かつ目撃例が多い『ドラゴン・オルウェル』って名前があったなぁと。今思い出しました」
鳴護「ドラゴン、ですか?」
マネージャー「『銃弾が当たっても死なない』とか、『戦車を素手で引き千切った』とかいう話です。今にして思えばもしかしたら、と。高位の能力者でも可能ではありますがね」
鳴護「マネージャーさんは魔術を信じるんですか?」
マネージャー「信じるもの何も。ARISAさん自らで起こしたじゃないですか?」
鳴護「……ですね」
マネージャー「――と、現実逃避はこのぐらいにして如何なさいますか?フードファイターとしてのお仕事がしばらく来ないのも考慮に入れてくださいね?」
鳴護「誤魔化せなかった……!そしてフードファイター扱いされても否定しにくい雰囲気……!」
鳴護「――でも待ってください!ペナルティのお仕事の筈なのに、一つ戸籍がイジられるのが入ってる件について!」
マネージャー「女性はいつか変るもんでしよう?――と、今言ったらセクハラに該当するため言いませんが」
鳴護「あたしの思い描いてた変り方と違います!なんかこうネットリとした情念を感じますよね!」
マネージャー「いいじゃあないですか、家族愛ですよ……多分」
鳴護「ある意味自己愛に近いような何かって感じもしますけどね……!」
マネージャー「それで?」
鳴護「……あっはい。それじゃあ――」
――某スタジオ
闇咲「……」
鳴護「はい、っていうわけでですね!突如呼び出された訳なんですけども!」
鳴護「始まってますよー?始まってますからねー!?何度でも言いますけど収録始まってんですから声出してください!放送事故になりますから!」
闇咲「あぁ」
鳴護「……じゃ、なくて!もっとこうあなたの番組なんですから頑張ってください!」
闇咲「闇咲だ。君たちと馴れ合うつもりはない」
鳴護「視聴者さんからの好感度をゼロにしようチャレンジでもしてるんですか?営業スマイルって知ってます?」
闇咲「すまない。家内にもよく言われるが、媚びを売るのは苦手でな」
鳴護「アイドルとしてはその発言を看過出来ませんが……えーっと、アドバイスをしますと、配信で数を狙うんでしたら目標にしているユーザー層にメッセージを送るのがいいと思います」
闇咲「とは?」
鳴護「そうですねー、例えばあたしだったら同世代の女子で共感出来る話をしますかね。お洒落だったり雑誌の話だったり」
闇咲「君のユーザーは男女比が偏っているのにか?」
鳴護「おい誰に教わったその情報」
闇咲「世話をしてくれたスタッフだ」
上条(カンペ)【!ここでボケて!】
鳴護「当麻君が早い段階から裏切ったよ!?まぁ事実をありのままに伝えた結果だけど!」
上条(カンペ)【アイドルとか声優が何話してても結局は「あ、可愛いな」しか見てない説】
鳴護「知ってた!そんな気は薄々してた!どんなフリートークしても返ってくる反応がそんなに変らなかったし!」
闇咲「学園都市には少年少女が多く住む場所だ。ならば最近の流行りを知ってる感を出せばいいのだろう?」
鳴護「いやそんな、最近増えてきたいっちょ噛み芸能人チューバーじゃないんですから」
闇咲「そして流行りといえばソーシャルゲームだ。スタッフに言われて事前に調べて貰った」
鳴護「この流れだとまたメタ発現に持っていきそうな流れですけど。まぁ宣伝になるんだったらそれはそれで」
闇咲「私の好きなサァーヴァン○はギルガメシ○だ」
鳴護「うんっ!あのですね、まぁ正解は正解だけども!この世界中であなた以外でそれいう資格はいないよね、っていうぐらいに正解だけども!」
鳴護「てゆうかそっち!?この流れだったら科学と魔術が交差するソシャゲーの販促じゃないんですか!?」
闇咲「ランサ○に浮気をしなかったら勝っていた。私の度量の問題だな」
鳴護「違いますからね?ユーザーさんへ訴えようって訴える方向性が間違ってますからね?」
闇咲「私の師匠筋が当てにしている学者の、更に玄孫ぐらい下の末端の人間の上司が言っていた」
鳴護「ほぼ知らない人です。時間差がどれだけあるんですか」
闇咲「『結局のところ、女子も男性声優がどれだけ絡むのかを妄想するだけで、フリートークあんまり聞いてない』と」
鳴護「癖(へき)ですよね?特殊な掛け算が好きな女子の一派ですよね?」
上条(カンペ)【これはNARUT○舞台を見に行った人の話なんだけど】
鳴護「当麻君?段々話が別方向へ逸れていって、もう本編の1/3過ぎてるから雑談は控えめにね!」
上条(カンペ)【基本的に女子しかおらず観客のマナーも訓練された軍隊のように統一されてた】
上条(カンペ)【歓声も控えめで新型コロナが流行る前なのに静かだという状態だった。まぁ舞台に集中してるからなんだが】
鳴護「ノーリアクションも演者さんは戸惑いそうな……」
上条(カンペ)【ただちょっと問題があって】
鳴護「え?静かなのに?」
上条(カンペ)【誰のどの役とは言わないけど、特定のキャストさんの見せ場とか台詞とかあんじゃん?てか脇役でも全体通して一回ぐらいずつするみたいな?】
鳴護「あー、主役さん以外も目当ての子がいるからね」
上条(カンペ)【ただその役の子、非常にこうね、なんつったらいいのか原作でもファンの間では『何やってんの君?』ってぐらい嫌われてて】
上条(カンペ)【そっち界隈からは「俺のサス○をNTRった女」って蛇蝎の如く嫌われてんだってばよ】
鳴護「固有名詞を出すのは良くないと思うよ?それでもう答え言ってんのと同じだよね?問題文に答えこれですって誤記してるようなもんだよね?」
上条(カンペ)【いやでもだ!基本女子だから乱暴なことは(表だっては)しないんだ!当然ヤジとか罵声なんか飛ぶ訳もない!】
上条(カンペ)【なんつっても余計なことやったら他のキャストさん達も気分が悪くなるから!絶対にしないと!】
鳴護「よく訓練されたお客さんだよね」
上条(カンペ)【まぁ、ただ――】
鳴護「……ただ?」
上条(カンペ)【その子が喋る度に『ふぅ……』って会場に溜息が……!】
(※実話らしいです)
鳴護「いや、それは……うん、溜息ぐらいだったら、仕方がない?かな?」
上条(カンペ)【しかも溜息ついてんのが一人や二人じゃないし、静かな場内が裏目になって余計響く響く……!】
(※実話らしいです)
鳴護「悪意の無い悪意が刺さるよね。全員が『そんなつもりじゃなかったのに』って言うだろうけど」
上条(カンペ)【そしてその状況を爆笑したら超目立ったって】
(※実話らしいです)
鳴護「その人も病んでるよね?もう収集がつかないぐらいに」
闇咲「若者向けの話題で求心力も高まったところで本題だな。何がいいのか私には分からなかったが」
鳴護「あたしも分からないから大丈夫ですよ?そして『なんでここにいるんだろう?』って疑問も解消されませんし」
鳴護「というかあの、キャストから質問なんですけど、闇咲さんはなんでまたこのよう非生産的な活動を……?」
闇咲「学園上層部と取引をしてな」
鳴護「消されません?放送以前の問題で、存在自体が抹消されませんか?」
闇咲「胡散臭い伝承を潰して正しい知識を伝播させる分には歓迎するそうだ」
鳴護「いえあの、オカルトに正しいも正しくないもあるんですか?」
闇咲「こちらの都市にはないだろうが、魔術サイド――オカルトには厳然たる理論が存在する。歴史と言っていい」
闇咲「時折『嘘から出た実』のように嘘や誇張、もしくは善意や悪意を以て広められたものが”成って”しまう場合もある。それもまたいい」
鳴護「いいんですか?」
闇咲「善悪の善しではなく仕方がない、という意味でならば。ただ少々危い部分もあり……『禁じられた遊び』という映画は?」
鳴護「ないです。曲だったら知ってますけど」
闇咲「簡単に言えば戦災孤児と農家の子供が『お墓ごっこ』と称して大量の墓を作る。最初は自分達で十字架を造っていたが、次第に本物の墓から盗んできたりと……という話だが」
闇咲「真似事でも、そして作った当人が冗談やイタズラであっても意味を持ってしまう。これが非常に危ない」
鳴護「真似するだけですか?」
闇咲「名前は伏せるが、とあるライトノベルでとある儀式が取り上げられた。それ自体はある地方で細々と続いた風習であり、死者を弔う慰霊のものだった」
闇咲「しかし――何を考えたか、実名やら詳しいやり方をセットで乗せて、それが生きている人間へ対する嫌がらせとして流行ってしまった」
(※本当にありました)
鳴護「……酷いですね」
闇咲「もっと身近な例えだと、ゴミの不法投棄防止用に鳥居を建てるのが流行ったしまったが、あれも実は良くない。というか非常に悪い」
闇咲「鳥居というものは入り口であり出口であると同時に通り道でもある。だから勝手に道が”通って”しまう場合がある」
鳴護「あの……フィクションの話ですよね?現実ではなく?」
闇咲「勿論その通りだ、現実ではない――が、しかし100人が100人そうとは限らない。乱立された鳥居を見て感じ取ってしまい、病む人間もいる」
闇咲「同様のことがネットミームについても言える。雑多すぎるものが増えてしまっていて色々と狂ってしまう」
闇咲「だから適度に剪定する。『これは有り得ない、歴史的には価値が無い』と適度に」
鳴護「えっと後々勘違いしないようにする、ですか?」
闇咲「そのようものだ。こちらとも合意は取れたし、オカルトの一つとして捉えてくれても構わない」
上条(カンペ)【そんなことよりも奥さんとの馴れ初めを。プロポーズはした方?された方?】
鳴護「当麻君挑発はやめて!?収集つかなくなったら最終的に責任取るのはあたしなんだから!」
闇咲「された方だ。そして君もその場に立ち会っていたはずだが」
鳴護「マジレスやめてください!段々本題とかけ離れていきます!」
闇咲「では改めて――『シシノケ』という怪談は知ってるか?」
鳴護「あたしは知らないです。有名なんですか?」
上条(カンペ)【怪談まとめサイトでは中堅よりやや上ぐらい?】
鳴護「ちょっと何言ってるのか分からないかな。中堅とかってどういう意味?」
上条(カンペ)【知名度かな。心霊系怪人系が多い怪談の中じゃジャンル的に珍しいって意味で】
鳴護「へー、てゆうか当麻君のカンペ待ちだとテンポが著しく遅くなるんだけど、普通に喋ってたらどうかな?折角テーブル余ってるんだし」
上条「詳しく言えば幼虫系?それとも妖虫系?」
鳴護「狙ってたよね?カンペ置いた瞬間に字面でしか分からないネタ放り込んでくるのは狙ってたとしか思えないよね?」
上条「……ARISAもツッコミ上手くなったなぁ、うん。鍛えた甲斐があった」
鳴護「あたしはなかったけどありがとう!アイドルとしての大切な何かがツッコミ入れる度に落ちていく気がするけどね!」
闇咲「仲が良いのは重畳だが、アシスタントとしての義務を果たすように」
上条「じゃ三行で」
1.森の中で愛犬とキャンプ
2.夜中に妖虫に襲撃されたが犬頑張って撃退
3.麓の神社で事情通()が集落の暗部をペラペラしゃべり出して世界発信
鳴護「雑かな!まぁ分かりやすくていいけど、興味がある子はググってみてね!」
上条「さっきも言ったけど俺は結構好き。昔神様だったのがウロウロしてる感じで」
鳴護「あの、ザックリ過ぎてそこら辺の情報が皆無なんですけど」
上条「あーっと、夜中にテントが襲撃されるんだけど、何か人ぐらいの大きさのイモムシっぽい何かなんだわ」
鳴護「うん」
上条「それだけ?イヌが頑張って追っ払ってくれたよ!ぐらい」
鳴護「当麻君、人に説明するのって苦手なのかな?」
上条「いや怪談なんてそんなもんだろ!?有名な他の話だって『グネってんの見たら頭がアレになった』って一行で終わるし!」
鳴護「そうかもだけど!情緒ってものがね!」
闇咲「核心部分に触れてもらわないと話にならないのだが、テロップで出した方が早いか」
鳴護「あたしの存在意義はどこに?」
・山中に二つの集落があった。里に住む人と山に住む人、山の人は外見が違うから外の人から迫害されていた
・山村で障害児が生まれ神として奉った
・障害児が神と合体、里村の畑を荒らす
・しかし山村も見境なく荒すようになり、山人によって封印される
鳴護「二行目からトンデモ展開が続くよね」
上条「つーかこんな簡単に祟り神が誕生するんだったら、あちらこちらにポンポン出没しているような」
闇咲「私もどこから指摘するか迷うぐらいの雑な話なのだが、カテゴリー的に堕落した神なので人気も知名度もそこそこあって困っている」
鳴護「困るって何の話ですか」
闇咲「まず山に住む集団の話だが、日本の文化人類学の祖、柳田國男がいる。彼は『遠野物語』で”山人論”を説いた――の、だがこれがまた微妙に失敗する」
上条「失敗?」
闇咲「柳田は山の怪異の多くを『山人のせいだ。そして山人とは平地人とは異なる文化を持つ異民族ではないか』と」
鳴護「へー、そんな人たちが居たんですね」
闇咲「いや、居なかったんだ」
上条「どっちだよ」
闇咲「時代も悪かったんだ。文明開化から大分経ち、古い迷信や因習は全て科学で解決出来るとする風潮が非常に強かった」
闇咲「だから伝承や神話、それらにも科学的で合理的な説明が求められ、『怪異とは山に住む異民族』という答えを導き出されてしまったと」
鳴護「でも本当にいたかもしれないんじゃないですか?」
闇咲「実証学の見地からすれば証拠が皆無なのだ。少なくとも21世紀までそれらの人々がいたという証拠は発見されていない」
闇咲「なので個人や家族単位で山へ隠れ住むことはあったかもしれない。それは否定出来ない」
闇咲「しかしながらそれが全国に伝播するほどの頻度や人数であれば、というかそれだけの人間たちが生息していれば幕府なり藩なりと衝突しない訳がない」
闇咲「そもそもの話、平地で集落に住んでいる住人たちですら時折飢饉で死に絶えそうになるのに、より不安定な山中に人が長年定住するのは困難だ」
鳴護「年貢とが厳しすぎて、って話はよく聞きますけど、その人たちが逃げてとかは?」
闇咲「そういうのを逃散というが、普通は他領へ逃げる。『人=領地の強さ』なので逃げ込まれた側も『いや知らない知らない?誰も来ないよ?』と白を切る場合もある、余剰食糧がある場合に限りだが」
闇咲「そうでない場合、江戸や大坂などの大都市近辺まで向う。大都市圏内であれば仕事もない訳でないし、似たような住人同士でコロニーが作られるからな」
闇咲「そこか盗賊に転落することも珍しくはないし、著しく逃げ込んだ先の治安が悪くなる」
闇咲「逃げた方も必死なので犯罪行為に手を染め、現地の人間に狩られるが……まぁ割愛しよう」
鳴護「それじゃ山の中に人は住めないということで……」
闇咲「もっとはっきり言えば定住しない理由がない、だな。日本でもロマのように芸を売って漂泊していた集団もいるが、彼らは人里から人里へと渡り歩いていた」
闇咲「全国津々浦々、伝承が成立する背景なり過程が全然異なるんだ。だというのに」
上条「――『気をつけろ!今まで俺たちに攻撃していた怪異は山人だったんだよ!』」(MM○風)
闇咲「と、偉い人に言われても困るだけだったと」
鳴護「当麻君は積極的に自分を捨てていくスタイルだよね。尊敬はしない見習わないけど、きっと絹旗監督に絡まれたらあたしもそうなるよ」
闇咲「そして脱線するが、更に困った事態に陥るのが柳田の弟子の折口信夫の提唱した『稀人(まれびと)論』」
闇咲「概要は『神はどこか遠いところからやって来て訪れるモノ』という解釈なんだ。どちらかといえぱ私は折口の方が合っているとは思う」
上条「なんか問題になったのか?」
闇咲「一時期『柳田か折口か?』と二択で主流派が割れた。ほぼ神学論争になったんだ」
闇咲「とあるゼミに入って教授が放った第一声が『君は柳田派?それとも折口派?』という話もある」
(※実話です)
上条「学問じゃねぇのかよ。派閥か」
闇咲「大学や学閥間でのマウント争いに陥った時期もあり、元々が生産的とはとても言えない上に、時として風評被害を出す学問なのでまぁ色々と」
闇咲「ここ20年ぐらいでまた『民俗学=オカルト関係』という間違った認識、端から見れば面白いが当事者にとっては自己紹介で肩書きも言えない罰ゲームの日々らしい」
鳴護「本当にもうジャンルか何なのか分からないですよね」
闇咲「『シシノケ』のような適当な作り話によって拍車をかける始末だ。というか本当の研究者は忙しいから一々否定して回る暇はない」
鳴護「闇咲さんのお立場は……いやごめんなさい、なんでもないです」
闇咲「今までが山人としての矛盾、次に山中に切り拓いた集落という前提だが……まずそんなに交流がない。他の村とは絶縁状態なのがまぁ普通ではある」
闇咲「生きるには生きるだけの生産力が必要だ。だから他の村とつまらない争いをしている暇が無い」
鳴護「……現実的って言いますか、もう少しオブラートに包んでほしいって言いますか」
闇咲「勿論村と村とでの争う事態はあった。しかし大抵は水だな。灌漑をするのに上流の集落が使いすぎて下流の村へ流れる水量が減ったりと」
闇咲「そちらはそちらで洒落にならない争いに発展しているが、面倒なのが割愛する。なぜならば面倒だからだ」
鳴護「ガチレスしてくる人が言えない事情って一体……!」
闇咲「そして中世・近世において障害児並び障害者の扱いは非常に悪い。余剰人員を抱え込むと不作の年に一家全員が共倒れになるため、生存そのものが難しかったと」
闇咲「何度も繰り返すが、現代の価値観では絶対に許容してはいけないことだ。しかしその当時はそれが常識だった」
闇咲「付け加えるのであれば都市部など、余剰人員が集まる場所ではその限りではない、とも付け加えておこう」
闇咲「そんな間引きが当り前のように行われていた時代背景の元、異形(※原文そのまま)を神として奉り上げる、とは成立しない概念だ。命の価値が今と違って安すぎる」
鳴護「山の神様と合体?メガテ○じゃねぇんだよ、と思わずツッコみたくなる文章ですけど、ここに関してはどう?」
闇咲「カンカンダラの話もそうだが、神が人を取り込んだりする例はほぼ知らない。今はともかく昔の世界観では格が違いすぎるからだ」
上条「あーじゃあ、虫のそういう神様とか妖怪はいないのか?イモムシっぽいのは?」
闇咲「いる、というかある」
鳴護・上条「あるんかい」
闇咲「ただ実体がどうも無くてな、政治的な話も絡んでくるというか。微妙に厄介なのだ」
鳴護「なんかこうアレだよね。逆にもう一周回って『可能性あるじゃん?』って思うよね」
闇咲「似ているだけで恐らく違うのだが、名前を『常世神(とこよのかみ)』という」
上条「そ、それは……ッ!?」
鳴護「当麻君知ってるの!?」
上条「なんて中二マインドを刺激する響きなんだ……ッ!!!」
鳴護「うん、否定はしないよ?強く否定はしないんだけど、大体そういうのってポッと出の新興宗教だからね?」
闇咲「いいやポッと出などでは決してない。西暦644年に流行った、歴史だけは古い神だ」
鳴護「1,300年前からずっと中二!?」
上条「なんだろうな!ちょっと先人達が好きになりそうだぜ!」
闇咲「有名な出来事をあげるのであれば蘇我入鹿が暗殺された前年だな。大化の改新が起きる前の年」
鳴護「もしかして有名、なんですか?」
闇咲「日本書紀にも記述はある。ただ翌年の蘇我親子の没落の方が出来事としては大きいため、あまり、というか全く大事としては扱われていない」
闇咲「そこに出てくる『常世神』は新興宗教の偽神としてだが。良い役割では決してない」
鳴護「あ、新興宗教当たっちゃった」
闇咲「まず『常世神』を説明する前に、その当時『トキジクの実を食せば不老不死になる』という言い伝えがあった」
鳴護「ときじく?」
闇咲「『時に非(あら)ず』でトキジクだ。これは柑橘類がなる常緑樹のヤマトタチバナであるという説が有力だ」
鳴護「食べると不老不死になれるんですか?」
闇咲「正しくは『常世の国にある植物の実』なので、『食べると常に若々しいままで居られる』という話だ」
闇咲「君も、君たちは知らないだろうか?冥界へ下ったペルセポネは冥界の食べ物を口にしてしまいこの世の住人ではなくなってしまった」
上条「あー……一身上の都合で一回やったわ」
鳴護「えっと……その節は色々とご迷惑をおかけいたしまして」
闇咲「理解があるようで何よりだ。それの逆バージョンだ、この世ならざる食べ物を口にすればこの世の理からも外れると」
闇咲「まぁ実際に柑橘類は栄養もあり、定期的に適量を口にすれば体は健康になる。まるきり嘘という訳でもない」
闇咲「知っているか?イモムシは食べる植物が決まっており、あれもこれも無節操に食べるのではない」
鳴護「そうなんですか?家庭菜園のお野菜についちゃって大変って話聞きますけど」
闇咲「大抵親が卵を産んでいくんだ。自分の子が孵った後で直ぐに食べられるように」
上条「いい話なんだけど農家さんにはクソ迷惑なような……」
闇咲「それで当然タチバナを主食とする芋虫がいる。大体のアゲハチョウがそうなんだが……これが神に奉り上げられた。文字通りな」
鳴護「なんでですか、不老不死の木についてるから神様だって」
闇咲「そうだ。だから多くの人間がアゲハチョウの幼虫を『常世神』として崇めた」
鳴護「適当に言ったのが核心っぽかったよ!?」
上条「うん、あるある。大体OPでインデックスと喋ってたのが伏線になるんだよな」
鳴護「当麻君もいい加減な事は言わないで!例えそれが本当だとしてもね!」
闇咲「私に抗議されても困る。少なくとも日本書紀には書かれているのだからな」
闇咲「その内容も酷いものでな。信者には虫を祀(まつ)らせると同時に自身の財産を捨てさせた、そうすれば新しい福がやって来ると」
鳴護「それなんてカルト宗教」
闇咲「それも日本初の由緒ある、だな。残念なことに『常世神』はご利益をもたらすことはなかったのだが……」
闇咲「しかしこれもまた日本初のネズミ講だった、という説もあるにはある」
上条「あぁなんだっけ?上納金を支払う子をドンドン増やしていけば、儲かるって話だっけか?」
鳴護「当麻君狙われそうだよね」
闇咲「自分は財産を失うが他の人間も同時に捨てる。それを拾えば新しい財産となり、信者が増えれば捨てる財産も比例して増える」
鳴護「何か……怖いです」
闇咲「人々は熱狂状態に陥ったそうだが、全員が儲かる訳ではない。とある豪族が決起して首謀者を討伐した」
闇咲「そうすると人々の熱は冷め、『常世神』もまた信仰の対象ではなくなったと。これが私の知る限り、神的存在の幼虫がいたケースだ」
闇咲「……まぁオシラサマは元々が外から来た信仰だし、外してはいるが」
鳴護「へー、始めて知りましたけどそんなことあったんですねぇ。でもなんでイモムシなんて崇めちゃったんでしょう?当時の流行り?」
闇咲「あくまでも私の推測だが、この神は仏教が神道を上書きする過程を書いているのではないかと推測している」
鳴護「先生!全く意味が分かりません!」
闇咲「当時の世相として、というかこの翌年に行われつつあった大化の改新では蘇我氏を廃し中臣鎌足、後の藤原氏が有力な豪族となるのだが」
闇咲「蘇我氏と藤原氏、それぞれの豪族の勢力争いがあったのは間違いない。その背景に――」
闇咲「――渡来系である仏教を担ぐ一派、土着系である神道である一派。それぞれの代理戦争だったのではないか、という説がある」
上条「マウント取り合い」
闇咲「……身も蓋もない話をしてしまえばその通りだが、当時としては深刻な問題だろう。結局後世では仏教を推し進めて天下太平を進めたのだが」
闇咲「その前哨戦になったのが『常世神』ではないかと」
鳴護「変った神様を崇めていた、んですよね?」
闇咲「偽神を討伐した人間は秦河勝(はたのかわかつ)、渡来系の生まれの人間だったんだ」
闇咲「見方を少し変えれば『渡来人が”何の利益もなく人心を惑わす”と神道を斬って捨てた』ことになるだろう?」
上条「……あぁ!確かに迷惑な話だけど、問答無用で切り捨てる必要はなかったんだよな!禁止したり刑罰与えれば良かったのに!」
闇咲「君の言葉を借りれば、それこそマウント取りだったのかもしれない。『私は神を斬ったぞ、何の祟りも起きないじゃないか』と」
鳴護「その秦さんって人は結局?」
闇咲「秦氏として一大権力を誇ったよ。京都の太秦(うずまさ)を拠点に、というか『秦氏の都市』という意味で太秦だそうだが」
闇咲「ついでに言えば秦氏は日本へ逃れられて来た失われたユダヤ族という学説を唱えた学者もいる」
上条「あ、聞いたことある。中二だよねー」
闇咲「今から100数年前のだが」
上条「いい加減にしろよ!?日本書紀といい中二っぽい考えはずっと昔からあったのかよ!?」
鳴護「だから自虐が過ぎるかな」
闇咲「遺伝子的には別物だそうだ。文化が影響されていないとは言い切れないがな」
闇咲「まぁ……非常に長くなってしまって恐縮だが、イモムシ上の怪異もいない訳ではないんだ。偽神ではあるが」
闇咲「あと有名な虫繋がりでは『三尸虫(さんしちゅう)』庚申信仰だ。『庚申塔』と刻まれた石碑を見たことは……ないだうな。今ではほぼ完全に廃れてしまってる」
鳴護「虫なんですか?」
闇咲「と、言われてるが実際には無視の形をしていない。馬の頭を持った虫だったりそのまま子鬼だったり、まぁ様々だ」
闇咲「信仰自体はシンプルで生まれながら人の体の中には三匹の虫がいる。彼らはある決まった夜に体を抜け出し天帝に宿った人間の悪事を伝えに行くと」
闇咲「そうすると天帝は悪事に応じて人の寿命を縮めてしまうため、三尸虫が抜け出す夜には人が眠らず見張りをする」
闇咲「――という体裁で宴会をするのが江戸自体に流行った」
上条「娯楽じゃねぇか!意外に楽しんでんな暗黒中世時代!」
闇咲「そういう時代だからな。中にはきちんとした作法で念仏をあげ奉っているところもあるにはある」
闇咲「あと江戸時代は現代と比べようがないぐらいに過酷な時代だった。それは否定しようがない事実だが」
闇咲「たまに大豊作の年になるとあっちもこっちも地酒を造り出してハマり、不作の年にも構わず作って幕府が『お前らいい加減にしろよ』と通達も出したことすらある」
鳴護「元気でいいんじゃないかなっ、生きる楽しみは必要だよ!」
闇咲「そして庚申信仰も他に『○○夜講』と他の夜にも様々な神仏を崇めだし、というか集まって夜更かしを始め、諸藩が『お前らいい加減にしろよ』と禁止令を出した」
上条「意外に余裕あるじゃねぇか昔の俺ら!何よりで良かったよ!」
鳴護「あの、ツッコミのお仕事はあたしであって、そろそろ控えてもらえると……」
闇咲「なおこの三尸虫、『抱朴子』という魔道書、もとい書物にも登場するのだが」
上条「お前はもっと隠せ、なっ?」
闇咲「その際の虫の数は特に言及されておらず、後に三匹となった。これは三尸虫の”三”が『あぁ三って書いてあるし三匹なのかな』との解釈が浸透したからだ」
鳴護「アバウトなんですね。そこ結構大事だと思うんですけど」
闇咲「解釈は後の世に任せられている。『常世神』ではないが、多少間違ったところで実害が起きる訳ではないからな」
鳴護「いいのかなぁ、そんな間違った方向で話が進んでいいのかなぁと」
闇咲「良い訳がない。というか普通に過去の資料と突き詰めていけば分かる話――なの、だが」
闇咲「問題なのは闇雲に広がることだ。ネットの創作であっても今は紙文献の事典という体裁で出版している人間も居る」
闇咲「それが数世紀経過してから『歴史の闇に葬り去られた闇……!』として脚光を浴びる可能性もある。アマビエのように」
上条「どローカルな妖怪だったのに今はエロゲ×のタイトルになるまで出世したからな!」
鳴護「出世?それ出世で合ってるのかな?ないよね?」
闇咲「以上『シシノケ』の考察を終わりたいと思う。途中までは頑張っていたのは認めるし、あまり例がないイモムシ状の怪異を出したのも評価はしよう」
闇咲「ただネタバラシをするのはよろしくなかった。謎は謎のまま放置した方がリアリティを出せたのに」
鳴護「違います違います。なんで作品を評価する立場になってんですか」
闇咲「私が知りうる限りで類似する怪異をあげてみたものの、実体は『シシノケ』とかけ離れているように思える」
闇咲「両者の共通項は外見だけ、しかも片方は虫かどうかも怪しいしな」
上条「みんな!怪談を作るときには注意が必要だぞ!少し設定を間違えると後からネチネチネチネチ怪談オジサンに説教されるからな!」
鳴護「うんっ、まぁね!そういう主旨だけどね!言葉はもっと選ぼうよ!積極的にユーザーさんへケンカを売らずにね!」
闇咲「以上で終わりだ」
鳴護「あ、はいありがとうございましたー?続くの?これまた来週もとかって言っていいの?」
上条「近日公開、絹旗監督プロデュース!『ARISAin犬鳴村!』、みんな!楽しみにしててくれよな!」
鳴護「やめて!?ツッコミで喉を枯らしたくはないんだよ!シンガーとしての矜持ってものが!」
闇咲「その犬鳴峠も実は史実とは乖離していてだな」
鳴護「闇咲さんもマジレスはいい加減にして下さいよ!?ツッコんでいいところと悪いところってあるでしょ!?」
――オービット・ポータル芸能事務所 数日後
鳴護「おはようございまーす」
マネージャー「おはようございますARISAさん。先日はお疲れさまでした」
鳴護「えぇ……はい、集落時間は短かったんですが、その分お腹に来ます。何かこうグっとしたものが」
鳴護「なので取り敢えず全部忘れるようにしています。だって憶えていたくないですから」
マネージャー「そうですか?意外と言えば意外なんですが、評判は良いんですよ?」
鳴護「またなんか物好きな方が……あぁいやありがたいですけど、ウチの子たちの将来が心配になります」
マネージャー「問題ないかと。よく訓練されたファンですからね」
鳴護「その子たちから生活費を頂いているんですけど」
マネージャー「印税も結構増えてきましたからね、セミリタイアまでもう少しの辛抱ですよ」
鳴護「どこの事務所のマネージャーがタレントに引退を勧めるんですか」
マネージャー「新人のToh-M@をもっと推していきたいです」
鳴護「当麻君がまた勘違いした方向へ!面白いけど茨の道だよ!傷だらけになるんだよ!」
マネージャー「と、言いますか。私も動画拝見したんですが別に普通の内容じゃ?厳しくはなかったですけど」
鳴護「いやそれは元傭兵の方からすればグロい内容は何ともないでしょうけど」
マネージャー「いやいや、そうではなく。まぁご覧ください」 ピッ
鳴護(動画)『――はい、っていうわけでですね!突如呼び出された訳なんですけども!』
鳴護「あぁここからですね」
プツッ
鳴護「あれ?編集点が?」
上条(動画)『――で、ARISAは最近どう?変った仕事とかやってんの?」
鳴護(動画)『うん、今まさにしてる最中かな!ゆうか聞いてよ、この間ね!』
鳴護「本編がバッサリ斬られて最後のフリートークだけになってる!?」
マネージャー「まぁ本当にマズいものは公の電波や媒体には載りませんからねぇ。彼らもまたただの企業ですし」
鳴護「コンプラ的にひっかかりそうなものは無かったですよ!?ただ昔の常識を説いただけで!」
マネージャー「それが何かに引っかかったんでは?異世界行って日本の常識ぶっぱするのも流行っていますし、世界も似たようなものですからねぇ」
鳴護「い、いえでも!再生回数が30万回突破って!」
マネージャー「あー、あれですよ。前にも言ったじゃないですか」
鳴護「何か?」
マネージャー「『ARISAのファン、ARISAの話す内容は関係なくて”ARISA可愛いな”しか見てない説』」
鳴護「うるさいな!薄々そうじゃないかって思っていますけど!ラジオの企画なのに遊園地とか観光地回らされるのはおかしいと思っていますけど!」
マネージャー「ぶっちゃけ可愛いければある程度は許されますからね。男女ともに」
鳴護「っていう人も居るだけですよ!中にはもっとこう、うんきっと会ったことないですけど真摯な人だって!」
-終-