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Clock(trial)

鳴護「一日警察署長、ですか……?」

 
――オーピット・ポータル芸能警備会社

マネージャー「――お疲れさまですARISAさん。先日リリースされたシングルの売り上げが中々で好調のようで」

鳴護「お疲れさまです……はい?出しましたっけ?」

マネージャー「MAGICAL DESTROYE○ってタイトルの」

鳴護「愛○さんですよね?まぁ同じ中の人繋がりで知らない仲ではないですけども!」

マネージャー「ARISAさんも次はあぁいうのどうです?メタル系もたまにはいいと思うんですよね」

鳴護「今までのイメージが一新されすぎじゃないですか?『何があったんだARISA……☆』ってファンの人は戸惑うと思うんですよね」

マネージャー「急にデスメタルに目覚めたという設定で?」

鳴護「確実に事務所のテコ入れだとバレると思います」

マネージャー「――ARISAさん、あなたの思い入れのあるアイドルとかいらっしゃいますか?」

鳴護「アイドルにそれ聞きます?まぁ先輩を含めて有象無象がいるのは否定できませんが」

マネージャー「若い頃に憧れていたアイドルの恋愛発覚と結婚でダメージを受け、数年後に離婚して心を折られ」

マネージャー「ママタレとしてやっているのを見て微妙ーに、複雑ーな気持ちになった挙げ句、不倫でトドメを刺されたご経験はおありで?」

鳴護「話題がタイムリー過ぎませんか?てか今話題のアレが年代的にクリティカルな世代で?」

マネージャー「世代的にはそうですかねぇ。最初は話題のドラマに出たり、曲を出したり写真集を出したりとまぁ良かったのですが」

マネージャー「途中から事務所のゴリ押しで映画などの主演に……」

鳴護「いいじゃないですか、主演だったらファンの人も」

マネージャー「あくまでもこれは例え話ですが、演技力のない演者を無理矢理抜擢するのってもう嫌がらせにしかならない思うんですよ。例え話ですが」

鳴護「あー……最愛ちゃんがたまにー力説してるヤツだね。誰とは言わないけど、ありとあらゆるところに顔突っ込んで売るもんだから、逆にヘイトが蓄積されるっていう」
(※ネットがなかった頃の剛力彩○さん。アレよりももっと酷い推し方をしていました)

マネージャー「そして最終的にはコアなファンだけが残り、そのファンも今回のアレで消し飛んだと思ってください」

鳴護「本当に神様は試練しか与えませんよね。まだファンがいた事に驚きです」

マネージャー「なおサンシャインさんに愚痴ったところ、『なっ?やっぱ三次元ってクソだろ!』と実に説得力のある名言を」

鳴護「ダメな人の台詞ですよ?軽い気持ちでお家断絶を覚悟した人達ですからね?」

マネージャー「という訳でまぁ前回の放送が思いの外良くてですね、ということなんですが」

鳴護「残念ながら心当たりはちょっとないんですけども。どれもこれも基本ヨゴレで手応えを感じませんでした。可能な限り早く忘れようとすらしています」

マネージャー「トンネル創作怪談です」

鳴護「ほぼほぼコントでしたよね?三組の素人芸人呼んで同じシチュエーションで漫談しただけじゃないでしたっけ?」

マネージャー「オンエアはご覧になりましたか?」

鳴護「オンエアしたこと自体が初耳です。前半はともかく、怪談おじさんの根深い邪悪な話も放送に乗っちゃったんですか」

マネージャー「いえ……ケーブルテレビで放送されたのはコント部分だけです。残りは番組公式から配信する形にしたそうです」

鳴護「視聴者さんは混乱しませんか?だって全然別ジャンルの話でしょ?」

マネージャー「ご想像の通りに抗議殺到で」

鳴護「でしょうね!緩い感じのテーマでネタに走るのかと思えば、陰気なおじさんのお説教でしたからね!」

マネージャー「どこもかしこも後継者不足で、今まで祀られていた神はどこへ行くのか……!」

鳴護「多分どこにも行かず、時折現れる廃墟スポッターを栄養にしてるんでしょうが」

マネージャー「某犬鳴峠と一緒ですよね。心霊スポットよりも出待ちしているヤンキーの方が怖いという」

鳴護「そんな場所で徘徊してる時点で大なり小なり呪われていそうな……?」

マネージャー「本人達はRPGのつもりかもしれません。蓄積されるのは経験値ではなく前科ですが」

マネージャー「まぁともかくと致しまして、ARISAさんにおかれましては細心の注意を払い、ファンの方に希望を与え続ける存在になっていただければ」

鳴護「機械の体じゃないと無理、ですね。何をどうしても限界は来ますし」

マネージャー「事務所と致しましても微力ながらお手伝いしたく存じます」

鳴護「その事務所側が潜在的な敵なんですよね」

マネージャー「で、ARISAさんにお仕事の依頼が。しかも一応ご指名ですが、勿論お断りもできます」

鳴護「拒否権があるのが珍しいですね。どんなのです?」

マネージャー「あの−、一日警察署長とか一日店長ってご存じてすか?著名人が公職代行的な広報のお仕事です」

鳴護「流石にそれは知ってますけど。え、いいお仕事じゃないですか!」

マネージャー「そんなようなものです。ですので事務所側と致しましても是非に」

鳴護「――で?詳しいお仕事は何を?」

マネージャー「一日署長……の、ような感じです」

鳴護「ですから詳しく!詳細を伺ってからお返事したいと思います!」

マネージャー「警察署長と言いますか、防犯キャンペーンの一種でしてね?」

鳴護「その二つって大分溝も幅もありません?業務の一環でしかないっていう」

マネージャー「時にARISAさんはケイドロってされたことあります?」

鳴護「鬼ごっこの上位バージョンですね。まぁ何回かはありますけど」

マネージャー「同ゲームでは警官と泥棒に分かれてゲームをするわけですが、だからといって社会的地位が直結するわけではないですよね?」

マネージャー「どちらが上か下かの話ではなく、演者さんが忠実になりきることによって、ゲームが成立するというのもまた否定できない事実でありまして」

鳴護「で?あたしは何役を?」

マネージャー「学校に侵入する不審者役です」

鳴護「なんっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっでですか!?あたしが!?どうして!?よりにもよって不審者さんの役が回ってくるんですか!?」

マネージャー「あぁいえ、これ実は弊社の事務所のサンシャイン上条さんの学校からご依頼を受けたのですが」

鳴護「じゃあ当麻君でいいじゃないですか!あたしが言うのもなんなんですけど。当麻君むしろそういう偽悪的なの好きそうですし!」」

マネージャー「と、ご本人も割と乗り気だったんですが……当の学校の担当の先生から待ったが入りまして」

鳴護「待った?『当校の生徒には汚れ役をさせられませんよ』的な?」

マネージャー「いえ、そういった高次の配慮ではなく。そのままお伝えしますと――『上条が不審者演じたら……まかり間違ってそのまま刑事逮捕されるじゃん?』と」

鳴護「あー……ない、とは言い切れませんよね。ないとは絶対に」

マネージャー「自分も容易に想像ができます。何故か入る学校を間違えて、テロリスト占拠中の学校にダイ・ハー○した挙げ句、フラグを余すところなく立ててきた上、悪役をそげぶする上条さんの勇士が」

鳴護「サンタさんでもやりかねないですよね。パーティに呼ばれて『メリークリスマス!』って入っていった先が、一家心中前の家族とか」

マネージャー「でしょう?といった訳で弊社のタレント部門にはもう一人在籍していたのを思い出しまして」

鳴護「いや、無理ですよ?ちょっと興味もなくはないですけど、あたしが暴漢役だとして小学生数人に取り押さえられる自信がありますからね」

マネージャー「フィジカル的なものは平均以上なのに、闘争心が欠片もお持ちでないですからね。ですのでこちらとしても苦渋の決断なのですが」

鳴護「他のスタッフさんじゃダメなんですか?言っちゃなんですけど、荒事専門のスタッフさんも数多く」

マネージャー「相手が素人さんだったらそれもアリなんですがね。今回はよりにもよって警備委員の方が音頭を取ってらっしゃるのが何ともネックでして」

鳴護「……悪いこと、してるんですか?」

マネージャー「タングルロード前会長の指揮下では心当たりがない訳でもなく……」

鳴護「でしたら断ればいいじゃないですか。良いお仕事だとは思いますが」

マネージャー「話題性の問題ですね。上条さんにどうにかして汚れ役を押しつければ、ARISAさんは招待される側としてオイシイんですよ」

鳴護「まぁそれも確かに。あたしも実はちょっとやってみたかったです、一日警察署長」

マネージャー「実際には『一日警備員広報』ですね。ある意味クリーンなイメージの方にしかお声がかかりません」

鳴護「どうしてサメマラソンとかやってる我々にオファーが来たんでしょうね!不思議ですよねっ!」

マネージャー「ですから上条さん案件です。『警備委員』の現場部長クラスの方が教師をやっておられて、そのご縁で、ですね」

鳴護「……やっぱり当麻君にお願いできませんか?汚れ役を任せるみたいで非常に恐縮なんですが」

マネージャー「いや、逆に考えてください?ネットニュースの見出しで『ARISA逮捕される!』ってのはオイシイと思いませんか?」

鳴護「人の人生をなんだと思ってるんですか!?シンガー路線が認められず、アイドルっぽいことで一応納得してやってるのに!?」

マネージャー「ARISAさんがお断りになる場合、不審者役は自動的に上条さんが……」

鳴護「あたしよりは適役だと思うよ!?イメージ的にもね!?」

マネージャー「分かりました。ではそちらは上条さんが不審者役、ARISAさんは警備広報ということで調整したいと思います」

鳴護「是非そうしてください。あと当麻君を何が何でもオイシイ役に振るのもどうかな、って思うんですけど」

マネージャー「そこはそれ、札束で頰を、という言葉がありますし何とでも」

鳴護「……ていうかこれ、あたしが不審者役だったら当麻君が一日署長ポジに立ったってことですか?流石に話題性が……」

マネージャー「裏での知名度は凄いですよ?『オイタするようだつたらそげぶすっかんな!』という意味では抑止効果もそこそこ期待できます」

鳴護「じゃあ意味ないですよね!?そういう人達に防犯アピールとしても鼻で笑われるだけですからね!?」



――とある高校 数日後

黄泉川「――あー、どうもどうも無理言ってすまないじゃんよ」

鳴護「いえいえ、こちらこそお声をかけていただいて恐縮です!ご当地アイドルですいません!」

黄泉川「や、そこまで卑屈にならなくても有名じゃんよ?むろしウチに来てくれる方が勿体ないじゃん?」

鳴護「立派なお仕事じゃないですか!サメの着ぐるみ着たりゲコ太君の着ぐるみ着たり心霊スポットでコントするのに比べたら!」

黄泉川「……一度話聞くじゃん?事務所もなんか怪しいし、つーかあっちでマネージャーのフリしてんのって私でも顔知ってる傭兵じゃん……?」

鳴護「――っていうのは冗談で!毎日が充実してます!文句なんかこれっぽっちもないです!」

黄泉川「明らかに追い詰められたブラック企業の正社員の目をしてるじゃんが……まぁいいじゃん。なんかあったら別途連絡くれるって事で、打ち合わせするじゃんよ」

鳴護「あ、はい。まずは体育館に集められた生徒さんの前に、あたしが警備員の格好で『こんにちはー』って入っていけばいいんですよね?」

黄泉川「大体そうじゃんね。子供たちへの説教は校長と私がするとして、合間合間に出てくれれば良いじゃん」

鳴護「基本的には不審者イベントの司会進行なんですよね?」

黄泉川「そうじゃんね。詳しい段取りは変更なしで」

鳴護「あたしが治安の良さを説くにしても……ここの生徒さん、あたしより年上ですしねぇ」

黄泉川「てかあんたも来年どうじゃん、ここ?名前さえ書ければ入るじゃんよ?」

鳴護「いや流石にそこまでは!?……美琴ちゃん、もとい知り合いがここに入りたがってまして、それ次第かなぁと」

黄泉川「アイドルも良いじゃんが、学生にしか出来ない事もあるじゃん?」

鳴護「まぁそれは追々ということで。そろそろ準備を、てか当麻君も呼んだ方がいいんじゃ?」

黄泉川「上条?あいつは保健室で授業じゃんよ?」

鳴護「寂しいことになってる!?」

黄泉川「いやいや私もそうは思うじゃん?けど単位が薄氷踏み抜いて凍傷になるぐらいヤヴァイじゃん?」

鳴護「あー、だからイベント不参加――って、あれ?だったらどなたが不審者役を?やっぱり先生ですか?」

黄泉川「いや、こっちは用意してないじゃんよ。まぁ、災誤先生に頼めばノリノリでやってくれ――」

ピーンポーンパンポーン

校内放送【――あーマイクテストォーマイクテストォー。スペインの雨は主に平地に降るゥゥゥー】

鳴護「スペインの雨……?」

黄泉川「映画マイ・フェア・レディの劇中歌じゃんよ。発音の教材って設定の」

鳴護「てかこの所々わざとらしい巻き舌になる声、聞き覚えがありすぎる……」

校内放送【えー、予定では体育館に集合してハゲのレクチャーをする予定でしたが、諸事情によりできなくなってしまいましたー】

校内放送【ですが、イベントはこのまま続きます。取り敢えず自分の教室に入って私の声を聞いてください。ほらダッシュで戻る!さぁ早く!】

校内放送【いいですか?もういいですよね?聞き逃してもそっちの責任ですからね?】

校内放送【んでは改めまして――】

レッサー(校内放送)【――この学校は我々が占拠しました!死にたくなければ大人しく言うことを聞きなさい……ッ!】

鳴護「本当の不審者を召喚しちゃったのかな!?」

黄泉川「すいませんオービット・ポータルさん、契約解除の手続きはどうしたら?」

鳴護「無理ですよ!?レッサーちゃんは手段のためには目的を選ばないんですから!?」



――とある高校 放送室

上条「何やってんだゴラアァァァァァァァァァァァァァァァ………………あ?」

レッサー(※ケータイ)『ていうかまだ説明の途中ですし、何もまだ発表してねぇんですが』

上条「――しまった!ヤツは!?」 ポンッ

レッサー「『汝の後ろに……!』」

上条「誰が知ってんだよ。ベルソ○罪のジョーカー様の登場シーンなんて誰が今時知ってんだよ」

レッサー「3がリメイクされるのでワンチャンありかと!『僕……君の側、離れないよ』の名台詞再び!」

上条「発想が発酵してんだよな」

レッサー「まぁまぁいいじゃないですか――てか『このようにアホが一人かかりましたよっと』」 カチャッ

上条「ひ、卑怯な!?」

レッサー「『放送室に乗り込んで来たアホは逮捕しました。つーかキル1ですな。丸腰のまま乗り込んで来たって、刃物持ってる相手に勝てるわけもなく』」

上条「が、頑張れば行けるだろ!」

レッサー「『可能性がゼロって訳ではないんですが……あぁまぁでは他の皆さんもそのまま聞いてくださいな。丁度良いサンプルが手元に入ったんで』」

レッサー「『まず学校なり商業施設なりに凶器を持った不審者、ぶっちゃけテロリストが入り込んだとします。たまたまその場に出くわしたとしましょう』」

レッサー「『――さて、どうします?』」

上条「設問がザックリし過ぎてて戸惑うわ」

レッサー「『はい、いちにーさんしーごーろくしちはちきゅーじゅー――あぁい終了!たった十秒でどう反応できたか各自考えてください!』」

上条「反応って、まず設定が分かってなかったらどう動くかも」

レッサー「『その考え事態がダメダメですな。今やってんのは予行演習なのに、この時点で明快な行動を出せないのに本番でまともに動けるわけがありません』」

レッサー「『テロリストがどこか遠くにいるんだったらまだいいでしょう。遠くの方で騒ぎがあって、そこから危険だと判断する材料を得て逃走する余裕があります』」

レッサー「『しかしながらこれがあなた方の授業中の教室へ直で来たらどうします?考えている暇はありますか?』」

上条「ダッシュで逃げる、か?」

レッサー「『入り口に殺到してSushi−zume状態ですなぁ。あぁいや逃げるのは賢い判断なんですが、物事には順序ってもんがありましてね』」

レッサー「『つーかまぁそこら辺を実地で研修させてやるんですよ!分かりましたかこの腐ってほしいミカンどもが!』」

上条「お前の腐るには別の意味があんだよ」

レッサー「『タイミング良くガン・ボール一号もゲットできましたしね!』」

上条「英語でも鉄砲玉って概念あんの?」
(※”one way ticket”、片道切符という意味ですがスラングとしても使われる。ただしイギリスだとoneじゃなくてsingle)

レッサー「『んではまず皆さんはそのまま聞いてください。危機的状況と言っても様々な段階があり、自分がどのような段階に置かれているのかを把握するのが絶対ですな!』」

レッサー「『まずは”緊急だけどそうでもない感じ”ですね!テロリストが侵入してきたけど、まだ遠くにいるみたいだから安心ですよ!ゆっくり避難しましょう――』」

レッサー「『――などと考えたらアウツです!今そうだねって心の中で一瞬でも同意した方は反省してください!』」

上条「なんでだよ。緊急事態には違いないけど、慌てても事態はよくなんないだろ?」

レッサー「『あぁいえそれ以前の問題ですな――”この情報は果たして合っているのか?”っちゅー話でしてね』」

上条「情報が?」

レッサー「『テロリストが校内へ入って来てそれに気づいた生徒なり先生が大声を出した、その声からは大分離れてるから危険は遠いだろう……というのが推測なんですよね』」

レッサー「『声を出したのは第三者だとしても、それが必ずしもテロリストを発見した注意喚起とは限りません』」

レッサー「『血溜まりを見て怯えたのかも?はたまた破られたガラスを見たのかも?――そうこうしている間にテロリストはあなたのすぐ側に!……ということになりかねません』」

上条「自分達が見聞きした情報が絶対に正しいとは限らない、か?」

レッサー「『加えて人は自分にとって都合の良い情報を選びがちなんです』」

レッサー「『あぁこれはあくまでも心の働きや、事前知識のなさが関係しているため、誰が悪いという話ではないです。生理的な話も関わってきますんで』」

レッサー「『メカニズムから説明致しますと、人は心の平穏をまず求めるんですよ。例えば夜電車に乗り込むとき、いつもは人一杯のホームには自分しかいない!とか?』」

レッサー「『すると普通はこう考えますよね――”時刻を見間違ったのか?”とか”ホームの場所を間違ったのか?”とか』」

レッサー「『――”””だから人がいなくてもおかしくない”””と、解釈をしてしまいます。それ自体は普通にある事です』」

上条「それぐらいだったら誰でも経験はあると思う。俺だって下りと上り間違えて乗ったことあるし」

レッサー「『それが普通です。つーか一々日常において”○○の仕業だったんだよ!”とMMRのようにテンパっていたら自律神経が死にます』」

レッサー「『なので人間は過剰な負担をかけない防衛反応として、そういった”何かの間違いじゃないか?”的な解釈をしがちです――が、しかし』」

レッサー「『一分一秒が生死に直結する緊急事態においては、その働きが致命的になるのもしばしばありまして』」

レッサー「『某火山が噴火した際、多くの登山者が犠牲になりました。それ自体は痛ましい事故でありまして、ご冥福をお祈り致します』」
(※御嶽山)

レッサー「『でまぁその亡くなられた方のご遺品やら現場検証を進めていたら一つの事実が判明したんですよ』」

上条「事実?」

レッサー「『何名かは遺品のカメラに噴火の様子を記録していたというのが』」

上条「あー……」

レッサー「『教訓のために明言しますが、火山が爆発した様子を撮影していたそうなんですよ。残された証拠から推測するのに、逃走せずに記録媒体を手にしたまま亡くなられた方がそこそこおられました』」

上条「それは何か……ご遺族が悲しいだろうな、って」

レッサー「『一見”のんきか、みやすのん○か”とツッコミたくなる話ですが、これも実は心の働きが関わっていまして』」

上条「これが?」

レッサー「『”噴火してもどうせ大したことないだろう、あ、そうだ!折角だから記録に残そう!”と』」

レッサー「『亡くなられた方は普段通りの行動を取ることにより、それが緊急事態ではないと信じたかったんですね。結果は出ませんでしたけど』」

上条「あー……うん。そう言われると俺も極限状態だったら分からないでもないような……」

レッサー「『似たような事例は他にもあります。台風の時に裏の水門見に行ったりするのも同じですし、震災のときに海を見に行って亡くなられた方も』」

レッサー「『なのでまず、誰でも簡単に死ぬと言うことを念頭に置いててください。生徒の皆さん、あなた方は特別ではありません。全員が等しくそうなのです』」

レッサー「『そしてまた災害や犯罪へ対し、過剰に反応するのも害悪です。あなた方は訓練を受けたプロではないんですから、大抵余計な行動になって邪魔になります』」

レッサー「『よって避難訓練や防災マニュアルを遵守するのは大切です。特に非常時こそ混乱しますからね』」

上条「今まで割といいことばっか言ったのに驚愕しているが……じゃあ俺たちは基本的には逃げろって事か?」

レッサー「『それが賢明だと思います。ただし逃げる方角や周囲の状況把握は常にしておくことと、特に気構えは必須です』」

レッサー「『災害に関しては勿論、不審者というかテロリストがいきなり乱入するかもしれませんからね』」

上条「そういうときは……どうすんだ?抵抗すんなって?」

レッサー「『あぁ違います違います。”積極的には戦うな”でありまして、”もう他に手段がない”ケースであれば無駄なあがきをできるだけしてください』」

上条「相手が逆上するんじゃ?」

レッサー「『相手のモラルや善意に期待して行動するのもまぁ自由だと思います』」

レッサー「『ただし、凶器を持ちだして暴力を用いようとしている相手が、急に慈愛の精神に目覚める確率はどれだけなのか。統計でも取りたいところですよね』」

上条「あー……強盗だったらカネ渡せば何とかなるかもだが」

レッサー「『中には犯罪を起すのが目的だったり、エ×目的だったり結構あります。その状況で無抵抗を貫いたところで、という話ですな』」

レッサー「『納得しようがしまいが、個々人の自由です。ヤポンは刃傷沙汰が多いので”まだ”選択肢が多い方なんですよね』」

レッサー「『海外ではFPSの敵かっつーぐらいの事件がしばしば起きます。そっちの場合も抵抗もロクにできないまま、気がついたら撃たれてた的な災害と同じです』」

レッサー「『より悪い方と比較するのは恐縮ですけど、”対応を間違わなければ逃げ切れるかも?”ってヤポンの方がまだマシっちゃマシですな』」

上条「素人だからな?俺みたいなアホはまだし、普通の人間が刃物突きつけられてどうするかって話で」

レッサー「『ぶっちゃけプロ格闘家でも難しいと思います。ただのナイフですら、相手の拳や蹴りへ対して当てるだけで切れますから』」

レッサー「『なので近接格闘をするという発想は捨て、かつ追い詰められた場合の最終手段としまして投擲という手段が一番妥当かつ効果的だと思われます』」

上条「投擲って……投げるヤツだよな?そんなん効果あるのか?」

レッサー「『軽いペンでも顔面を狙えば反射的に庇いますからね。機先を制するためにまず投げます』」

上条「ポールペンぐらいじゃどうしようもなくね?」

レッサー「『繰り返しますが最後の手段です。もうどうしようもなくなったら、って感じですから』」

レッサー「『できれば尖ったもの、もしくは重量のあるものをぶん投げて足止め&時間稼ぎになるかなー、ぐらいの気持ちでいてください』」

上条「実際どんなもんだろうな?砲丸投げの鉄球あったらガードしようがしまいが必殺なんだろうけど」

レッサー「『対人実験する訳にも中々いきませんからねぇ。硬式野球のボールは150gないぐらいですが、プロが悪意を込めて投げれば打撲は当然、骨折も起きます』」

レッサー「『よってペットボトル等でも中身が入っていれば衝撃はそれなりに。個人的には消化器なんかオススメします』」

上条「死ぬわあんなん!?砲丸投げよりも重いしマズいだろ!?」

レッサー「『どこにでもあるので鈍器には最適ですな。ただ女子の腕力では厳しいものがあります』」

レッサー「『なので女子は持っていても許容される痴漢撃退用のスプレーでしょうかねぇ。いやまぁ鍛え方によるでしょうが』」

上条「ちなみにお前だったらどうする?」

レッサー「『机をぶん投げます。もしくは窓ガラス割ってその破片を』」

上条「お前の方が怖いわ!?」

レッサー「『えぇですから犯人にそう思わせるのが大事なノリですよ。これ以外の話にも繋がりますけど”割りに合わない”と』」

レッサー「『相手が人間である限り、肉体強度は常人と大きく離れてはいないんですよ。刺されれば死にますし、殴られれば骨も折れます』」

上条「鍛え方が違うし、それこそガードも上手いんじゃ?」

レッサー「『歴戦の傭兵()が酔っ払いに絡まれ、眼底骨折するまで一方的に殴られる程度の肉体強度しか持ちませんけど?』」
(※テレンス=リ○。)

上条「あの人は傭兵じゃなくて傭兵()だからいいんだよ」

レッサー「『なお一応断っておきますけど、海外であっても重罪は国内法で裁かれますのでご注意を。麻薬とか殺人とかですね』」
(※本当に傭兵やって実績あったら刑事事件)

上条「退散させるのはいいとして隣のクラスの人間がババ引いたら?」

レッサー「『それ裏を返せば”お前が俺の代わりに殺されれば良かったのに”ってのと同義ですからね』」

レッサー「『歩道へ車が突っ込んできたから避けたのに、たまたま後ろにいた人間が事故ったからって知ったことではありません!』」

レッサー「『つーか根本的な原因はテロリストでありそれ以外の責任はありません。まぁ火事場泥棒とかは別にして』」

レッサー「『つー訳で極限状態に陥ったらまず自覚しましょう!”まだ離れているのは大丈夫”ではなく”こんなにも近づいてるから危ない!”と自覚すること!』」

レッサー「『そして何があっても基本的には避難一択!ただその移動中にも危機に見舞われる可能性は高いので気を抜かないでください!』」

レッサー「『最終的には生き残るために何でもしましょう!相手をビビらすかできれば無力化!』」

上条「一般人ができるのか、って疑問は多々あるんだが……」

レッサー「『状況次第ですな。これがもし通りだったらダッシュで逃げるのが最適解でしょうが、出口の狭い部屋であればしなければならないぐらいです』」

レッサー「『勇気と無謀は違いますからね!どっかの放送室へダッシュで駆けつけたアホもそうですが、』」


レッサー「『では引き続きまして暴漢役と一緒に全教室を巡回しますんで!最後の悪あがきの実践と行きましょう!』」

上条「俺全校生徒から石投げられるの?どんなイジメだって、流石に全生徒から攻撃されるって中々ないよ?」


-終-

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