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Clock(trial)

上条「メイザースの息子から出られない」

 
――1906年 ロンドン

上条「『――拝啓、魔神様』」

上条「『こちらの冬が6回過ぎ、ようやく秋の短さと冬の流れ、そしてロンドンっ子の根性の悪さに慣れてきました』」

上条「『転生直後に授乳を断固拒否して死にかけたのも、今にすれば良い思い出です。決して”一回どう?”みたいな邪な考えはありませんでした』」

上条「『そちらはどうですか?ハロウインだからと俺を送り出した後、お風邪など引かれてはいませんか?』」

上条「『つーかそろそろマジ6年です。この間の誕生日にはクラスの皆が来て祝ってくれたのですが』」

上条「『おっさんが”男女比……?今の学校ってトーマ以外に男子いないの?”と驚愕していました。おかしいですよね』」

上条「『また、長年俺を苛んできた硬すぎる天パの呪いからは解放されました。今でも鏡に映る、ぶっちゃけこっちの母さんによく似た金髪碧眼を見てドン引きます』」

上条「『それではそろそろ箸を置きたいと思います。って箸を置くんだったら食後だろ。なんでやねん』」

上条「……」

上条「『――追伸。何度出しても宛先不明で戻ってくる手紙を、いよいよ母親が怪しんできています!だから早く返信プリーズ……!』」

上条「……」

上条「――なんで、なんでイベント企画終わったのに帰れないんですかねぇ……ッ!?

上条「おかしいだろ完全に!?俺は誰かのオモチャじゃないぞ!?まぁアホ魔神どもにはオモチャ感覚なのかもしれないけども!」

メイザース「――ただいま。どうしたトーマ、また奇行か」

上条「あぁお帰りおっさん。あと奇行じゃねぇよ」

メイザース「そろそろ父と呼んでくれても良いのだが……」

上条「父だけに――おっぱ×」 キリッ

メイザース「たまに謎の日本語が入るのはなんでだ?オリエンタルな文化が好きなのは、まぁ分からないでもないが」

上条「てか早かったね。母さんは?」

メイザース「……付き添いだな。俺も着替えを持ったらまた行かねばならん」

上条「うん?何かあったのかよ?」

メイザース「6歳児が理解できるかは分からんが、その、アレイスターの細君が病気でな」

上条「え!?おっさんとどっこいレベルのアホを極めたあのバカに嫁さんがいたの!?」

メイザース「半分は同意だが、聞き捨てならんよ。あのアホは俺と違って女性関係は……まぁフリーダムだからな」
(※取っ替え引っ替え。史実では14歳ぐらいに実家のメイドに手を出して要・母子手帳)

上条「あぁまぁ性格はともかく顔はいいからな。それ以外が全部減点されてんが」

メイザース「妻一筋の俺と一緒にしてくれるな。それで、だ。一応妻になってる女性が出産する、という連絡を受けたんだよ」

上条「あー、母さんは経験者だからな」

メイザース「そう淡々と息子に言われると忸怩たるものがあるが――死産だった」

上条「………………はい?」

メイザース「何か魔術がどうと言って取り乱しているあのアホを全員でぶん殴って取り押さえてぶん殴って転がしてある」

上条「必要かな?取り押さえた後に殴るのは必要だったかな?」

メイザース「いつまた錯乱するか分からんのでな。落ち着くまでは――と、どうしたトーマ?お前は留守番だぞ?」

上条「――なぁ、父さん。教えてくれ」

メイザース「トーマがついに俺を父親だと……!?」

上条「あなたにとってアレイスター=クロウリーはどんな人間だ?」

メイザース「本当にどうした?今更そんな事を問われてもだな」

上条「真面目な話だ。好きとか嫌いとか、そういうのでもいい。頼む」

メイザース「――嫌いだね。あぁ嫌いだとも。俺にとっては後からポッと出てきた新参者にして殺したいほどの後輩殿だ」

上条「そうか」

メイザース「だが同時に魔術師としては数段、いや下手をすればもっと上を行く存在でもある。『黄金』の魔術師を総動員してやっとどうにかなる、というレベルのな」

メイザース「そういった意味では尊敬もしない訳ではない。少しだけだがな」

上条「……そっか――じゃあ行くぞ、メイザース」

メイザース「お前もだからな?何の話をしているのか分からないがお前もだからな?」

上条「母さんと離婚すれば戸籍上は他人に……!」

メイザース「なぁトーマ、一回腹を割って話合わないか?乳幼児から俺に当りが強いのはなんなの?」

……

ミナ「お帰りなさいあなた……トーマ?あなたはお留守番の筈ですが?」

上条「野暮用――あーminor business?とにかくそんなん。アレイスターは?」

ミナ「あちらで拘束されています――が、しかし。あなたが顔を見せるのはいけませんよ」

ミナ「心配なのは分かりますし、一応師匠筋ではありますけど……今、あなたの姿を見るのは……」

上条「分かってる母さん。でも、今じゃなきゃダメなんだ。そうじゃないと取り返しがつかなくなる気がする」

ミナ「いけませんよ。確かにアレイスターは人間のクズです。だからといって」

メイザース「ミナ、会わせてやれ。トーマのこういう勘は異常に当る。お前も知っているだろう?」

ミナ「……」

メイザース「何よりもトーマは人の痛みに共感できる人間だ。お前が心配するような事は何も起きなさい、違うか?」

ミナ「この部屋、怖いですね。知らない誰かの声がします」

メイザース「それお前の旦那だな!?ずっと良い事言ってた筈だけと俺!?」

ミナ「トーマにネチネチいびられながらも、魔道書を書いて一発当てようと無職人間の霊の声が……!」

メイザース「か、カネにはまだならないかもだが前とは違う!余計なサイドビジネスは全部切って専念している!」

上条「いい加減にしやがれアホ夫婦。ちょっと前まで仮面夫婦だったのに面白いだろ」

……

アレイスター「……」

上条「――アレイスター、俺の魔術の師の一人にして友……ではないな。ならまぁ叔父貴か、叔父貴よ。聞いてくれ」

アレイスター「……」

上条「悲しむのは良い、嘆くのも良い。俺みたいな若造が何言ってやがる、って思うのも分かる。つーか当事者じゃないから好き勝手言えるってのも」

上条「どんな痛みもお前だけのものだ。他人がなんて言おうがどれだけ言おうが、共感なんて出来る筈もない――」

上条「――だが間違ってはくれるなよ。そんな感情とは別の話だアレイスター」

上条「何らかの手段でお前の娘を助けたとして、救い上げたとしてだ」

上条「その命が数千、数万の犠牲の基に立っているのであれば、子供はなんて思う?何を犠牲にして命があるのを感謝するのか?それともへし折れるのか?」

上条「自分一人で背負うとかふざけた事思ってんじゃねぇぞ?その大罪を娘にまで背負わせるつもりか?」

上条「そして何より――それだけ親に愛された娘が、自分の親がそんな十字架背負ったのを喜ぶ訳ねぇんだよ!」

アレイスター「……ッ」

上条「よく考えろ。じゃあな――あぁそうそう。お前をここぞとばかりにぶん殴ったアホどもの顔は絶対に忘れんな」

上条「『黄金』で最強の魔術師が、いつ暴走してぶち切れて街ごと無理心中してもおかしくないだろって状況なのに」

上条「そんなことはどうでもいい、そんなことよりアホを正気付かせよう、って損得ねも後先も考えず体が動く真性のアホどもだからな」

……

メイザース「……どうだった?」

上条「どうもこうも。言いたいことは言ったが、通じたかまでは……」

メイザース「魔術の限界を感じるな。人の生き死にを完全に従えるのには、まだ時間がかかるだろう」

ミナ「オリエンタルには『シカイセン』という概念もあるようですけど」

上条「あ、それ嘘だから。土御門家の悪口マラソンで容赦ない現実を見せつけられた」

メイザース「お前に何が分かる!」

上条「あー、道教の仙人になる技術?それが魔改造したりされたりで実態が伴ってない感じ?」

上条「『抱朴子』の魔道書、そこら辺に流れてる不完全なヤツじゃなくて、オリジナルがあればもしかして、って感じじゃないか?」

ミナ「トーマは偉いですね」 ナデナデ

上条「やめろ母さん!俺を甘やかして良いのは管理人さんだけだ!」

メイザース「益々もって息子が理解出来ん」

ミナ「そういえばトーマ。アレイスターの子供が娘だといつ分かったのですか?あの人には伝える前に戻ったのですが」

上条「……勘、かな」



――1906年 ロンドン(トマス=メイザース 6歳)

上条(取り敢えず現状を整理しよう)

上条(えぇと今は西暦1906年のロンドン。おっさんは魔道書書き、母さんは家庭教師。その息子が俺、トマス=メイザースだ)

上条(愛称で「トーマ」とは呼ばれている。天パの呪いからも逃れられた、まぁ外見もオリジナル父さん母さんには悪いが超格好良いわ!)

上条(誰に似てるんだろうな……敢えて言えば死んだ魚の目をしたパトリシアかな?年齢考えても向こうの方が上になっちまうけど)

上条(魔術は……使えるらしい。簡単な火を出したり水を出したりは教わってる。その師匠の一人が『黄金』のアレイスターだったりもする)

上条(確か……もっと前にアレイスターが『黄金』に戦争吹っかけた、筈。丁度1900年じゃなかったっけ?)

上条(なので歴史は変っているのは間違いない。原因も多分、俺)

上条(おっさんと母さん、まぁメイザースとミナの仲が冷え切ってない。つまり『黄金』も一枚岩になってる。だからアレイスターも手を出せなかった、か?)

上条(いやでもあのアホの性格上なんだってするだろうし?もしかして娘さんの事が予想できなかったのかもしれない。あくまでも可能性だけど)
(※正史ではアホがチベットへ遊びに行く→チフスに感染→帰国して娘に移して……という流れ。ただし翌年には次女が誕生)

上条(しかしどうしたもんかな。『右手』がないせいで魔術も使えるようになったし、筋も悪くないらしい)

上条(帰れないものはどうしようもないし、つーか今日本に行ったところで俺のひいじいちゃんがいる、かなって感じか?)

上条(くっくっくっく……!この業界のまともな人類の中で最高齢ガチ勢のマタイさんは1927年生まれだ!俺の方が年上だぜ!)

上条「……?」

上条(あれ……?俺達が生きてた時代って何年だっけ?)
(※とある魔術の禁書目録・第一巻初版は2004年4月25日。来年で20周年だよやったね上条さん特別企画にハブられないといいね!)
(※そしてこのHPも10周年……毎週毎週アホみたいなことを書き続けて10年、10年かぁ……)

上条(まぁいいぜ細かいことは気にしない!今から来年のエイプリルフール企画の小説書いてるらしいけどここの運営はな!)

上条(てか今年ってイベントあったよなぁ?確か『最大教主』、つーかコロンゾンがアレイスターの次女説あったのに)

上条(『1906年に生まれたりけるのに、1909年に必要悪の教会のトップに立てる訳なかりしよバーカバーカバーカ!』って。俺もアレイスターがアホだと確信した一見だったが)

上条(てか……あのメンヘラ悪魔いなくなったら、大幅に歴史変るんじゃね?イギリスが一方的に負けるとは思えないが……)

上条(これから世界大戦が起きちまうし、どうにか被害を最小限に収めたいもんだが。ただ6歳児でってのは無理だわ)

上条「なぁメイザース」

メイザース「名前で呼ぼうか?せめて苗字じゃなく名前で」

上条「ちょっとお願いがあるんだけどいいかな?多分難しいとは思うけど」

メイザース「トーマが俺にだなんて珍しいな!なんでも言ってみろ!」

上条「金髪ロン毛でミニスカ&ドピンクのシスター服で、少し強めに迫ったらエッ×なことさせてくれそうなのに、実は超腹黒で人類滅亡を企んでいる悪魔を召喚してくれないかな?」

メイザース「――ミナ来てくれ!トーマがついに性に目覚めたんだ!しかもニッチなやつだ!俺の遺伝子が悪さをしているぞ!」

ミナ「いいですかトーマ?全ての男はマザコンであり、母さんに似た女性を探すのですよ?」

上条「アホ夫婦、話を聞け」

……

上条「『必要悪の教会』って知ってる?」

メイザース「誰がお前に教えたのか、そっちの方が興味あるな」

ミナ「『教会派』をトップにした魔術結社ですね。カンタベリー大司教、イギリス国教会のトップの裏の顔で魔術師狩りの再先鋒でした」

上条「『最大教主』って呼ばれ方はしないのな……ん?でした?過去形?」

メイザース「まともに機能していない。していたら俺やアレイスターを狩りに来るだろうが」

ミナ「と、いうこともないのですが。ただ組織が全般的に縮小気味なのは確かですね」

上条「ん?何かあったの?」

メイザース「あったというか、むしろなかったというかな。一応この国の権力者は『王』、『騎士』、『教会』と言われている。表裏ともにな」

ミナ「この三派のバランスは程良く保たれ、奇しくもお互いがお互いを監視することにより、そこそこ自浄処理ができてはいたのです。が、しかし」

メイザース「大航海時代以後に構図が一変する。『王』と『騎士』が海外に乗り込んでって版図を広げたのに対し、『教会』は何もできなかったのさ」

上条「あれ?イギリスって植民地超多くなかったっけ?」

ミナ「『世界中の半分が大英帝国』と言われていたのだけれど、積極的に植民地での布教活動しなかったのです。だからインドでは大半がローマ正教」
(※マザーテレサも実はカトリック。まぁユーゴスラビア出身でインドで活躍した人ですが)

上条「なんでまたそんなハメに?」

メイザース「清教徒革命とその失敗、あと失意の中、新大陸に渡った連中との柵、だろうか。権力とは程々に距離を置いていた」

ミナ「ですね。ローマ正教から離脱の際、徹底的に教会から権力を引きはがした余波とも言いますが」

メイザース「ちなみにローマ正教が海外布教に乗り気だったのは新教区の開拓だ。別の国で布教が進めば相応しい地位が必要になり、そのポストには現地で活躍した者が任命されると」

ミナ「あまり誉められたことではありませんよ。あなたは決して見習わないように」

上条「そんなしょーもない理由で植民してやがったのかあの連中……!」
(※加えて奴隷貿易に麻薬貿易、金銀を大量に持ち出してのロンダリング等々でお馴染み。なろ○系で仮想国としてやったら楽しそう)

メイザース「あー、それでだトーマ?父親としてはその、性に興味を持つのはまだ早いというか、アレイスターの悪い影響というか」

ミナ「あなたの返事によってはアレイスターが死にますからね?くれぐれも言葉を選んで回答してください?」

上条「あのアホは関係ねぇよ。そうじゃなくて、えーっと……二人とも今の魔術サイドってどう思う?親じゃなくて魔術師として答えてほしい」

ミナ「あなた」

メイザース「……隠しても仕方がないだろう。トーマは聡い子だ。自力で答えに辿り着くだけの話だ」

ミナ「そうですね。では言葉を飾らずに言いますが――斜陽ですね。後がない、とまでは言いませんが」

メイザース「今ロンドンでは俺達『黄金』を筆頭にブラックロッジが立ち並ぶ、世界で最も魔術結社が多い地だと言っても過言ではない」

メイザース「だが、その内実は惨憺たる有様だ、中には魔術結社ではなく、違法薬物を愛用するグループに過ぎないものも少なくはない」

上条「そんなに末期なのか?」

ミナ「本来であればイニシエーション、通過儀礼の一種に精神を高揚させる効果のあるハーブなどを使う、という魔術もあるのです。有名なのは新大陸の旧支配者たちでしょうか」

メイザース「南もそうだろう。ペヨーテだったか?幻覚作用のある植物を用い、神を感じる――だが手段と目的が入れ替わる」

ミナ「いつしか神的存在を感じるために薬物を用いるのではなく、薬物を接種するために入信する。そんな話ばかりです」

上条「いつの時代もそんなに変らないんだよなぁ……」

メイザース「しかし『黄金』は違う。男女の壁なく秘奥を公開して序列もする。裾野を広げることでより多くの人間へ魔術を広める」

上条「もしかしておっさんが魔術書書いてるのも?」

メイザース「そのつもりがないとは言わん。だがこれに関してはアレイスターが数歩も先を行ってしまっているが」

ミナ「タロット・カードですね。たったあれだけ中へ世界を造り込んだ天才」

上条「むぅ……この先の展望は?」

メイザース「良くて数十年、悪くて十年程度で魔術は表舞台からは消えるだろう。まぁ、その際は教会の権威とやらも道連れだかな」

ミナ「人が人である限り魔術は消えないでしょうが……」

メイザース「そしてこの話の最も罪深い点なのだがな。このままであればイギリス清教はローマ正教に呑まれるぞ。個々の魔術師では同格でも、数や組織力、横の繋がりに乏しい」

ミナ「その結果が現状なのでは?ロシア正教も海外進出しているのに、イギリス清教は精々新大陸で布教するぐらいでしょう?」

上条「事情は理解した。その上で俺は――魔術師を取り締まる方になりたい」

メイザース「聞いていたか?このままであれば普通に淘汰されるんだぞ?」

上条「そう、はならないと思う。いつの時代でも誰からも助けて貰えなかったり、救えなかったりする人間は一定数いると思う」

上条「そんな連中の『全てに見放された最後の希望』になれればって。正義も法も、誰も助けてくれなかった連中が縋るような」

メイザース・ミナ「……」

上条「非効率だからこそ、習熟が困難だからこそ、それを求める人間を篩にかけるべきだ」

上条「効果があるからこそ隠匿すべきだ。使う人間を制限するために」

メイザース「普及が期待できない以上、隠匿して独占すべきか……」

ミナ「一理ありますね。私達が魔術師ではない方へ手を伸ばすのにも限度がありますし、技術の伝達も一朝一夕でできはしません」

上条「魔術史の方は全然分からないんだけど、今のが一般的なのか?もっと裏に隠れてやってるってイメージあんだけど?」

ミナ「現代のロンドンが異常なだけですよ。魔術や魔法は『悪魔の技術!』と異端狩りに逢うのが一般的です」

メイザース「ローマ正教の異端狩りは未だ現役だ。海外では気をつけなくてはならん」

上条「だからまず行政の方から入って、魔術結社騙ってるアホどもを一掃する。後は自分達で魔術を研鑽しつつ、次代へ継承すればって」

メイザース「……『黄金』はどうなる?お前が継ぐんだぞ?」

上条「実力主義でいいんじゃね?むしろ実力が足りてないのに無理矢理仕切ろうとしたら、そっちの方が荒れるだろ」

ミナ「その時は私が『めっ』って一人一人にするので大丈夫ですよ?」

上条「太い太い釘を刺しそうで心配だぜ!流石は母さんだな!」

上条「てか俺なんかよりアレイスターいるだろ」

メイザース「あいつのことは忘れろ。あいつは失踪した」

上条「そっか……追いかけるのか?」

メイザース「結社としては放置だな。またフラッと顔を出すかもしれんし、籍はそのまま残しておくつもりだが」

上条「野に帰ったアホの話はさておくとして、ぶっちゃけ悪魔を貸してほしい」

メイザース「お前にはまだ俺の術式を開示していないはずだが……危険だな。召喚者としての器が足りん」

ミナ「そうですよトーマ。このおっさんの普段の生活態度はアレですが、悪魔召喚術に関しては今世紀最高と言われていますからね?」

上条「あぁうんそこまで無謀じゃなくてだな。将来的にお願いしたいって意味でだよ」

メイザース「まぁ力なんて幾らあっても持て余すという訳でもなし、理解はした。低位階の悪魔から慣らしていけば――」

上条「謀略とか悪巧みに長けたのっているか?組織的な管理が出来そうなの」

メイザース「いない訳ではないが、少し強力過ぎるな。俺クラスならともかく、並の術者では即座に死ぬ」

ミナ「なら、あなた。例のアレだったら大丈夫では?」

上条「アレ?」

メイザース「試行錯誤している人工精霊、というか悪魔だな。既存のソロモン王の悪魔達、所謂ゲーティアの悪魔を常人が操る術はない」

ミナ「だからグレードを落として、機能を限定させた神的存在を召喚して行使する、という魔術を作っているんですよ」

上条「……ふーん?ちなみに名前は?」

メイザース「『コロンゾン』だ。不能と怠惰を意味し、離散と矛盾の権能を持つ」



――1912年 ロンドン(トマス=メイザース 12歳)

上条(あれから6年が経過した。奇しくもボスと同じ年齢になってはいる。少なくとも年齢だけは)

上条(魔術の本格的な指導も受けているが……まぁそっちはバードウェイには遠く及ばない。「同じ年齢だから神裂抑えておいてね☆」なんて言われたらキレるわ)

上条(とはいえ才能が全く無いわけでもなく、かつメイザースの魔術には東洋思想が入ってて理解しやすく、まぁどうにか魔術師としてはそこそこの評価を貰っている、か?)

上条(ちなみにアレイスターは発見されていない。外国での目撃証言はあるし、風の噂も届くは届くが、それだけだった)

上条(つーかさ?前に話を聞いたとき、えっ?って違和感があった事があった。当時はまぁそんなもんなのかなぁってスルーしてたんだけど)

上条(アホの理事長、21世紀型ダメ親父ランキングで上位入賞間違いなしのクズ人間だが。あのアホがイギリスを追われてお尋ね者になった、ってとこ)

上条(超個人主義者ばかりの魔術師業界じゃ、「へーアレイスター魔術サイド裏切ったん?やったぜロックじゃん!」的な軽い反応で流されないかと)

上条(これが国家や組織だったらともかく、魔術サイドなんてあやふやなもんから追われる?しかも亡命途中でしくじった?)

上条(ただしこれは事実らしい。マタイさんやカエル先生もそれっぽい事言ってたし、少なくとも教会間ではその認識が罷り通っていたと)

上条(その原因は……まぁ、妥当なところでコロンゾンだよなぁ。メイザースから「嫌がらせしとけ」と命令されて、その延長で追い込んだっぽい)

上条(しかしこの世界ではメイザース自体がアレイスターを恨んではおらず、つーか子供が居る分だけアホに同情的ですらある)

上条(物別れ、というかアレイスターが娘のために戦争仕掛ける前にはよくつるんでたようだし、根本的な部分では仲が良かったのかもしれない)

上条(運命を変えるために『黄金』へ戦争吹っかけたのは理解できる。動機としては純粋に娘を思う父親の気持ちだからだ)

上条(けどさ?普通に考えたらそれだけ凄い魔術師そろってんのに、アレイスターですら認める連中がいるのに、そいつらに相談するって選択肢を無くしたのはなんでだ?)

上条(そこに何か、誰かの意思が介在するようなしないような、つーかおっさんとアホを繋ぐ要素って”あれ”しかいない訳だが)

上条「……」

上条(まぁとにかく。その分だけ俺や一方通行と相対した”あの”メイザースとは違い、威厳も覇気もあまり感じられない。まだ本気で戦ってるシーンを見たことがないんだが)

上条(取り敢えずは日々の学業と魔術の修行に打ち込んでいる訳で。あぁそうそう、そういえば姉弟子ができた)

ダイアン「――べ、別にあなたのために魔術を指導している訳じゃないんだからねっ!?お姉様が怖いんであって他意はないのよ!」

上条「あぁ癒される……!そのアホっぽい喋りが懐かしいぜ……!」

ダイアン「可愛げの無いガキ……!」

上条「――かあさーん!ダイアンが俺の事を『可愛げの無いガキ』だってー!」

ダイアン「――っていう意見もあるようだけれど!ここを正確を期するためにも両論併記でいと思うのよねっ!ねっ!?」

上条「つーか姉さん、前から思ってたんだけど姉さんの魔術が『運任せで本人も制御・理解不能』って指導者役としては不適切じゃね?」

ダイアン「言ったわね!?わたしも薄々前から思ってたし、お姉様に言われたから渋々やったのに不安なことを!?」

上条「ここにサイコロが二つあります。1ゾロが出たらあなたには死にます。さっ、ファーンブルっ、ファーンブルっ、ファーンブルっ!」

ダイアン「縁起でもない……!それはいつか出る確率を覚悟しておけっていう……!」

上条「っていう冗談はともかくとしてだ。姉さんの術式って他にもあるよな?」

ダイアン「そりゃあるに決まってるでしょうよ!どこの誰がこんなマゾい術式一本でやっていこうって思うのよ!」

上条「その割に何かこう代名詞っていうか二つ名扱いになってんだけど」

ダイアン「しょうがないのよ!何回が余所の魔術師と戦ってるとき、通じそうなのがそれしかなかったんだから!」

上条「あぁそれは同情すっけど。ヤベェと思ったら逃げればいいじゃん」

ダイアン「わたしもそうしたかったんだけどね……邪教集団の生贄にされる子供とかいて、見捨てられるんだったらそうしてたわ……」

上条「俺、姉さんのそういうチョロいところ好き。転生して中間管理職として苦労しそうな所が」

ダイアン「だ、誰が好きなのよ!年の差は10歳だけど珍しくもないんだからねっ!?」
(※ダイアン=フォーチュン。1890-1946年、つまり現在22歳。そして当時の価値観では20歳で結婚・婚約しない女性は……)

上条「――だが自惚れるな!お前如きが俺の管理人さんになろうとは100年早いんだからな!」

ダイアン「その、トーマが時々言う『KANRI-NIN-san』って何?カバラの秘術かなんか?」

上条「伝播性の精神疾患みたいなものかな。『やっぱ三次元なんてクソだわ』っていうパンデミックの先駆けを引き起こしたっていう」

ダイアン「なんて怖いの……!位相空間に影響を及ぼす概念なのね!」

上条「つーか遊んでもいらんないんだよな。世界大戦まであと二年だろ」

ダイアン「世界、たい……?何?『Great War』?」

上条「あー……姉さんジェンガって知ってるか?子供のオモチャなんだけど」

ダイアン「知ってるわよそのぐらい。最近流行りだした木を詰んで重ねるゲームでしょ?あんな単純の仕組みで稼げるんだったら、やってればよかったわ」

上条「いやあれ利益全部教会に寄付してっから、手元には1ポンドも入って来てねぇんだよ。元々は産業革命で失職した木工職人の救済策だし」

ダイアン「うん?」

上条「そのジェンガなんだが、下手に下から引っ張れば上のが倒れて崩れるじゃん?一見バランス良く立ってるように見えても」

ダイアン「積み上げるのは大変でも壊すときには一瞬よね−」

上条「あれ、国際情勢でも起きないかな?」

ダイアン「なんでよ?今って戦争もしてないし、仲が悪いグループに分かれてるけど、それぞれ同盟組んでるから下手に手出しできないわよね?」

上条「そうらしいな。でもそれってさ、誰かが均衡崩したら一気に多国籍を巻き込んだ戦争に発展しかねない、ってことだよな?」

ダイアン「……理論上は、そうね。でも均衡を崩すって誰が?少なくとも国の上層部は戦争なんて望んではないわよね?」

上条「さぁ?つまらない切っ掛けでも起るんじゃないかな?事件を起した当人にとっては大した動機でもなく、当事者も大事にしたくないのに、今までの立場や柵から抜け出せずにっていう感じ?」

上条(まぁ……セルビア人テロリストがオーストリア=ハンガリー帝国の皇太子を暗殺して、なんては言えないよなぁ。しょーもないとは言わないが)

上条(ちなみに実行犯は地元じゃ銅像が建てられて、受け入れられる程度には英雄扱いされていると。10年ぐらい前の話だ)

上条(てか俺の知らない筈の知識も入って来てるじゃねぇか。アホ魔神ども、俺に何をやらせたいんだよ)

上条(世界大戦の妨害?……無理だよなぁ。暗殺事件そのものはどうにかでき――ないよ。セルビアまで12歳児が行って阻止するのは無理だし)

上条(『黄金』に頼んでも……そっちの方が難しい。数ヶ国跨いだ上、暗殺現場にたまたま出くわすだなんて、犯人側だって冤罪かけられるわ)

ダイアン「仮に、仮の話だけどそんな大戦が起きたとして、わたし達はどう動けば良いと思う?参戦?それとも傍観?」

ダイアン「魔術師としての異議や存在理由が薄れていく中で、どう動くのが正解だとトーマは考えるの?」

上条「そうだな。前提として魔術師にしか出来なかったことが、次々と取って替られている。それはまぁ事実だわな」

上条「数十年魔術に人生を費やした者の術式が大砲一発よりも射程が短くて燃費が悪い、なんてことになっちまってる」

上条「かといってメイザースを筆頭とした一騎当千の魔術師を投入したら、今度は表の世界に正体バレて魔女狩りの再来になると」

ダイアン「……そうね」

上条「ここで重要なのは、だ?”同じ危機感を魔術師が共有している”ってことだわな」

ダイアン「それは……そうじゃないの?わたしもトーマの話を聞く前から、てか見習いの雑用やってた頃から『あれ?』みたいな感じはあったし?」

上条「ウチの面子だけじゃない。他の連中もだよ」

ダイアン「他の?『陽射し』とか分派連中?」

上条「もっと広い――”欧州全部の魔術師連中が同じ危機感を持っている”って事だな」

ダイアン「いたら、どうなの?どうしようっかー、とか相談するとか?」

上条「そういうのも居るだろ。たたそうじゃなくてもっと行動力のあるアホはこう考える――」

上条「『――このままでは魔術の存続自体が危うい、どこかで我らの力を知らしめねば』ってな」

ダイアン「それ――わたし達と同じ……!」

上条「でまぁ普通に考えれば正攻法じゃない搦め手だな。要人暗殺に局所的な戦闘、『数じゃ無理ですけど特化なら任せとけ』ってアピールするのは目に見えてる」

上条(てか……引き金引いた暗殺事件も”それ”じゃねぇのか?何をどうやったらたかが一介の民族主義者が皇太子を殺せるんだよ)

ダイアン「大変じゃない!わたし達も出遅れている訳には!」

上条「あぁそれでいいんだよ。他の連中が鉄砲玉――あー、捨て駒扱いになるんだったら、俺達は盾になればいい」

ダイアン「盾?」

上条「重要人物なり拠点なりを魔術師的な攻撃から守るための盾だ。そうすりゃ嫌でも依存度が高まって、魔術師を無碍には扱えなくなる」

ダイアン「それは、そうかもだけれど……逆に国家や軍に取り上げられるんじゃ?」

上条「無理だな。魔術は非効率的な故に替えが効かない」

上条「銃と装備を持たせて一年訓練すれば誰でもそれなりの兵士になれる。しかし魔術は強い信念と知識が無ければなれないし、上に行くのであれば余計にだ」

上条「そんな連中に予算をつけて囲うよりも、適当に野に放って必要なときに力を借りた方が楽だ、ってな」

上条「それを『王室派』と『騎士派』は知っている。だからあの連中も魔術を手放したりはせず、コツコツと研鑽を組んでいる――が、数が足りない」

上条「イギリス国内だけでいえばそうなんだろうが、今度は出張ってまで戦争する時代になる。だからこそだ」

ダイアン「……そう、ね。所々受け入れられない、いえ受け入れたくない話はあるけど、理解できたわ」

上条「使い潰されるようだったら最悪逃げればいい。何もロンドンでしか魔術がない訳でもないしな?」

ダイアン「住み慣れた社会インフラからは離れたくないわ!その可能性は否定してあげて!」

上条「まぁメイザースと『黄金』次第かなぁ。傍観や中立に徹するのもアリだけど、それはそれで後々問題になりそうだよなぁ」

ダイアン「なんで?勝った方につけばいいんじゃないの?」

上条「『戦争が終わったんで勝った方に媚びを売り来ました!高く買って下さいな!古参の人らと同じ扱いでね!』って言って信用されると思うか?」

ダイアン「わたしだったら真っ先に切るわ。信用ならないもん」

上条「他に何か質問は?」

ダイアン「んー、取り敢えずはいいかな。大体分かったし」

上条「そっか――じゃあ探り入れてる他の『黄金』連中にも伝えといてくれ。『聞きたいことがあるんだったら直接来い』って」

ダイアン「あはは、きちんと言っておくわ」



――1918年 ロンドン(トマス=メイザース 18歳)

上条(第一次世界大戦が起きて今年で4年目、本来の歴史通りであれば今年で収束する、筈だ)

上条(メイザース率いる『黄金』は間接的に大戦へ参戦した。まぁどこも魔術師達の事情というか悩みは共通していたようで、結構出張って来ていた訳で)

上条(しかしアホの極み且つ当時最精鋭のHENTAI魔術集団には手も足も出ず、ぶっちゃけ武闘派どもは『こんなもんなのか……?』と首を傾げていた)

上条(蹂躙されていった魔術師、また魔術結社の名誉のために言っておくが、決して彼らのレベルが低かったんじゃない。彼らもまた存在意義を賭けて戦場に出て来た、尊敬できる相手だ)

上条(ただ……『黄金』にはアイレスターが一目置くほどの魔術師がゴロゴロしていたと。そういう話だ)

上条(唯一拮抗していたのはフランスの聖ジャンヌ修道会?母さん曰く、「ローマ正教の紐付き」だとか。予想通りではある)

上条(意外だったのは『黄金』の活躍を偉く国が評価してくれたようで、メイザースも満更ではないらしい)

上条「……」

上条(気になるのは『黄金』の二つ名が『魔術師狩り』になったことだろうか。国内外の魔術師からは怖れられている)

上条(これ――本来であれば、コロンゾンと旗下の『必要悪の教会』が担当してたんじゃないだろうか?大戦中の活躍を評価されて『最大教主』として権力を握ったように)

上条(当然ながらローラ=スチュアートは存在しない。メイザースとアレイスターがケンカ別れをしていないし、後に密命を受けてもいないからだ)

上条「……」

上条(まぁ……”アレ”のケジメはつけなきゃいけないんだが、その前にすべき事がある)

上条(大戦ももう終盤へ入っているが、実は終わった要因の一つとして上げられている仮説があんだよな)

上条(戦争で人が死ぬ過ぎた上に、”それ”が原因でもっと命が失われて戦争継続が困難になったっていう――あ、いたいた)

上条「――メイザース、悪い呼び出して」

メイザース「あぁいや構わんよ。こちらも用事があったからな」

上条「つーかその格好……」

メイザース「俺達はスコットランドの民だからな。どれだけイングランドに評価されようとも」

上条「まぁ別にいいけどもさ。あー、これ良かったら使ってくれないか?」

メイザース「……布きれだな。眼帯にしては大きいぞ」

上条「あぁこれマスクって言ってな。外出するときとかにかけるんだ」

メイザース「野暮ったいが……顔を隠してどうする?」

上条「病気に感染する可能性を下げる。悪い菌を直接吸い込まないようにするんだよ」

メイザース「あぁ布をフィルター代わりにする訳か。理屈は分かったが、する必然性は?」

上条「スペイン風邪って知ってるよな?スペインで超流行してる風邪」

メイザース「風土病だな。感染率も致死率も高いそうだ、嘆かわしいことだ」

上条「実はそれ、他の国にも入ってるって話があってさ」

メイザース「本当か!?どうして隠して――あぁ、戦時中だったな。報道規制か」

上条「つーかスペインで流行しているのも、スペインは参戦してないから報道されてるだけって説があるぐらいだ。順序が逆なんだよ」

メイザース「防ぐ手立ては?種痘は効果ないのか?」

上条「残念ながらない。病気に罹って完治した人間から輸血されれば、多少は効き目があるが……」

メイザース「到底足りたものではないな」

上条(スペイン風邪、インフルエンザウイルスが何だったのは長らく謎だった。判明したのは1997年になってからだ)

上条(スペイン風邪で死んだ思しき遺体が永久凍土の中から発見され、ゲノム解析をした結果、鳥インフルエンザが変異して人類にも感染するようになったと)

上条(つまりこのウイルスへの抵抗力を持っている人間は誰も居ない。今まで罹ったことがない病気だから)

上条「……頼むよ父さん。格好悪いかもだけど、むしろ今の父さんの格好にはベストマッチしてるから!」

メイザース「極めて不本意なことを言われてる気がするが……まぁ、いいだろう。俺も死ぬのは怖いし、未知の死病を怖れぬのはバカの所業だからな」

上条(これで今年死ぬはずだったメイザースの運命も変えられるかもしれない。まぁ側に俺や母さんも居るから、倒れても気がつかないってことはないんだけど)

メイザース「それで俺からの用だがな。例の話が本決まりになりそうだ」

上条「例の話?」

メイザース「お前が言っていただろう?『必要悪の教会』のような取り締まる側になるという話だ」

上条「あぁ!進めといてくれたのかよ!」

メイザース「進めてはいない。むしろ向こう側から、『王室派』と『騎士派』の意向で力を貸してほしいそうだ!やったな!」

上条「お前らどんだけ暴れてきてんだよ……そっか。『黄金』が傘下に――な、訳はないな。兼務する感じ?」

メイザース「そこら辺の話は決めていない。だから――お前がやってこい」

上条「俺が?」

メイザース「『黄金』が傘下へ入るのか、それとも出先機関になるのか、交渉自体が決裂するのか」

メイザース「結果として『黄金』が分裂するかもしれんし、口先で使われるかもしれん。だがそれらも全てお前の責任だ」

上条「……」

メイザース「それに俺だけじゃない。お前の一挙手一投足を、他の『黄金』のクソッタレどもも見ている。何が言いたいのか、分かるな?」

上条「……あぁ、やってみるよ」

上条(これはきっと『黄金』の後継者になれるかどうかの試験の一つ、だよな。正直興味はないが)

メイザース「……まぁ、最悪ミナに泣きつけ。関係者全員に太い太い釘を刺してくれるだろうよ」

上条「あぁ見えてキレんの早いんだよな……しかも平然として見えるからタチ悪い」

メイザース「餞別と言っては少々剣呑ではあるが、渡したいものがある。ついてこい」

上条「霊装か?でもいきなり渡されてもチューニングで時間が」

メイザース「ではない。それも前に言っていただろうが――『良い女を寄越せ』ってな」



――メイザースの『神殿』

メイザース「――召喚の手順は教えた通りだ。霊媒も触媒も本来は省略して構わないが、今回は契約を結ぶために準備しておいた」

上条「過保護か。つーかそんなに危険な悪魔なのかよ?」

メイザース「人工の悪魔だからな。既存の神的存在と比べれば脆弱、しかし人間と比べれば魔術的な才能は桁違いで向こうが上だ」

メイザース「故に我々は叡智と知識、蓄えられた経験によって彼らを縛る。それこそが召喚術の要と言えるだろう」

上条「もっと分かりやすくお願いします!」

メイザース「『前の人が失敗したデータがあるから、トライ&エラーでやっていこう』」

上条「フグ毒にでもチャレンジしてんのかお前ら。一体何が突き動かすんだよ」

メイザース「未知への探求は人類にとって悲願である――では検討を祈る。ダメだと感じたのであれば魔法陣を破棄しろ。それで強制送還される」

上条「そんなにヤベェ相手なのか?」

メイザース「この悪魔に関してならば召喚者に嘘は吐けん。だから心配は然程でもない」

メイザース「しかし全てがそうであるような錯覚はしない方が賢明だ。より深くより狡猾な悪魔など掃いて捨てるほど居るのだからな」

上条「アドバイスどうも。でもいいのか?俺にはまだ早いんじゃ?」

メイザース「召喚術者の子が召喚術を使えなくて何とする。俺の指導力不足も問われかねん」

上条「そこは『まぁメイザースだし仕方がないよね』で丸ーく収まると思う」

メイザース「俺の評価が不当に低い……!」

上条「てか俺の師匠ってミナ母さんとダイアン姉さんが殆どなんだけど……」

メイザース「今日成功させればお前も魔術師の端くれだな。精進するがいい!」 パタンッ

上条「あぁ、同席はしてくれないのな。こっちも都合はいいけど――じゃあ、えーっと『エコエコ以下略』でテレズマ流して――」

コロンゾン『――こんにちは初めまして!あなたが私のマスターですか!』

上条「まぁそうっすね。一身上の都合によりトマス=メイザースと名乗っている者です」

コロンゾン『私はコロンゾン!悪魔ですよ!』

上条「それは知ってる。じゃなくてもっと別のことが聞きたい」

コロンゾン『趣味は探偵小説です!ホーム○とワトソ○ってゲ○ですもんね!』

上条「興味ねぇよ」

コロンゾン『え、マスターは女性が好き……?』

上条「大体はな!将来はまた別の話になっちまうが、20世紀初頭の概念ではそれが一般的ですよねっ!」

コロンゾン『近寄らないで!どうせまたエッ×な命令するんでしょう!?』

上条「家庭内に余計な不和を持ち込むなよ!?おっさんそんなに元気じゃねぇよ多分!?」
(※設定では享年65歳)

コロンゾン『私がどれだけ嫌だって言っても!無理矢理、無理矢理……!』

上条「おいマジなのかよ!?言ってみろ、場合によってはロンドンにおっさんの血の雨が降るから!」

コロンゾン『半生のハギスを食べさせられて……!』
(※羊の内臓ソーセージ。マズイ・臭い・たまに当ると走攻守三拍子そろったイギリス料理会の藤○投手)

上条「ダチョ○なの?ダチョ○倶楽部のおでんがイギリスではハギスに取って替られているの?」

コロンゾン『せめて!インド産のミルクティーで勘弁して下さい!一番お高いヤツで!』

上条「飲むの?悪魔が?」

コロンゾン『まぁ飲もうと思えば?ただ栄養には一切ならないんですけども!』

上条「いや今ちょっと手元にないから……あぁほらこれ、おっさんの研究室にあったフラスコに入った水でも」

コロンゾン『あの「arsenic(ヒ素)」ってラベルが……』

上条「――はーい、コロンゾンさんの−、格好いいとこ見ってみたいー♪はーいイッキーイッキーイッキー!」

コロンゾン『なんて邪悪な人間め……!死にゃしないですけど多分苦しいんですよ!?飲んだことないから分からないですけど!』

上条「何事もチャレンジだよ!ファイッ!」

コロンゾン『くっ!ここで死んだフリしてさっささと帰るのもまた手ではありますけど……!』

上条「――そっかぁ……クリファパズル545はお前をモデルに造ってんのかぁ。あー成程成程、そういうことな」

コロンゾン『え、クリファ……?』

上条「あぁいやいやこっちの話。あーそんで今からちっと話が長くなるんだけど。イスって入る?魔法陣の中に入れても問題ない?」

コロンゾン『あるなしでいえば超問題ですね。消えたら私も消えますんで』

上条「あぁじゃあ床に座ってくれる?俺も床に座るからさ」

コロンゾン『あなたはイスで構いませんよ!?下僕へ対して気を遣う必要はありませんから!』

上条「女の子立たせて自分だけ座るのは嫌だわ。どっから話したもんかなー。まぁ結論からでいいか」

コロンゾン『は、はいっ!』

上条「――アレイスターとメイザースを致命的に仲違いしたのって、最初からお前が仕組んだんだよな?」



――

コロンゾン『仲違い……?アレ……誰ですか、それ?』

上条「あぁゴメンゴメン。いきなり言ったって分からないか、致命的な仲違いだってこのまま成功していればってたらればの話だよな」

上条「お前の好きな探偵小説に例えるとだな、消去法ってやつで」

コロンゾン『探偵の手法としちゃチープじゃありません?』

上条「一世紀後の指ぬきグローブ作家が多用してんだよ。『あれ関係ない部分切ったら10ページで終わるよな?』ぐらいの勢いで」
(※京○先生)

上条「とにかく親父のメイザースはな、魔術師としちゃ超一流なんだわ。俺が言うと親自慢にしかなんねぇけど」

上条「人間としちゃ尊敬できない部分が多々あるっちゃあるが、魔道書の作成に『黄金』の結成。どう過小評価しても今代の魔術師の中じゃ屈指に入る」

上条「――が、よりぶっ壊れたアレイスターのせいで知る人ぞ知る的な評価になっちまってっけど。ミナ母さんやダイアン姉さん、実力主義至上主義で、性別お構いなしなのは素直にいいとは思う」

上条「ただまぁ晩年?パトロン切ったり親友だったアレイスターを切ったり母さんと疎遠になったり、落ち目になったって世界軸もあったみたいだが」

コロンゾン『世界軸……?』

上条「『ここじゃないどこかの世界』であった事、かな?まぁもしもの世界とかそういう感じで」

コロンゾン『はっ!流石はマスター!バカガキの妄想みたいなことを平気で言いますね!』

上条「まぁそうだな。俺だって誰かがそんな事言ったら笑うと思うぜ?」

上条「けど、お前は。お前だけは笑えない。俺がガキだった時分に世界大戦を言い当てたのを知っているからだ」

上条「『知見も知識も経験もない子供が何をどうすれば?』って、メイザースから知識を与えられているお前に限っては笑うことが出来ない。違うか?」

コロンゾン『……っ!』

上条「で、話を戻すが、別の世界のメイザーズってちょっとおかしかったんだよな。時系列的には親友か弟子ぐらいに可愛がってたアレイスターに反旗を翻されて『黄金』は半壊」

上条「魔術師的にもその後は立ち直れず、新しい結社を作ったものの以前のようなものにまでは返り咲けなかった」

上条「そして人間不信を溜め込んだ挙げ句、今年流行るであろうスペイン風邪でヒッソリと、って流れだったんだわ」

コロンゾン『仮に――マスターの妄想が正しかったとして、それほどおかしくはないんじゃないですか?ジジイが歳喰って偏屈になったって話でしょそれ?』

上条「あぁそれは俺も思ったんだよ。失意のどん底で落ちぶれたんだったら、まぁそんなもんかなって」

上条「ただなぁ?俺が言いたいのはそこじゃなくてさ?メイザースは偉大な魔術師だったって話でさ?」

コロンゾン『やだ……ファザコン……!』

上条「否定はしない。こっち来てから”父さん”がどれだけ偉大なのか身に染みて分かったわ……それに関しては感謝しかねぇが」

上条「んで悪魔さんには詐欺師っていう概念は通じるか?嘘吐いて人を騙して稼ぐ人なんだけど」

コロンゾン『神が天と地を分けた瞬間からいましたねぇ。出来もしないことを大げさに言って回る反パリサイ派の狂人でしょ?』

上条「お前が誰を指しているのかは分からないけども!まぁその一流の詐欺師の条件って知ってますかね!?」
(※キリス○)

コロンゾン『詐欺師なんですから、そりゃバレないとかですか?』

上条「そりゃ二流だな。ちなみに三流が直ぐバレるんだそうで」

コロンゾン『その知識は私も持っていませんね。では一体何が?』

上条「『自分は詐欺師じゃないと心の底から思い込む』んだってよ。『俺は誰かを騙すつもりなんかない!』、『これは誠心誠意善意でやってるんだ!』と」

上条「完全に思い込んじまえば嘘を吐く必要もないし嘘でもない。だから絶対にバレないんだって」

コロンゾン『人類の方が悪魔の才能あるんじゃないですかね?』

上条「完全には否定出来ないなー。まぁ色んなのいるし、多様性だと思ってほしい。許すかは別にして」

コロンゾン『許しましょう!悪魔コロンゾンは嫌いじゃないですなそういうアホが!』

上条「お前に祝福されるんだったら相当だが――で、このジョークの本質はだ。『偽物でも限りなく本物に近づいちまえば真贋がつけられない』って所で」

上条「まぁ贋作師ぐらいだったらオリジナル描けよと思わなくもないが、翻ってメイザースの話だ。しつこいようだが強力な魔術師だった。その召喚術においても、だから」

上条「”””偉大な魔術師故に、自身でも制御不能な凶悪な悪魔を喚んじまった”””んじゃねぇか、ってのが俺の推論なんだわ」

コロンゾン『そ、そこまで持ち上げられると悪くないですよね!あ、ちょっとこの部屋暑いんで脱ぎましょうか!?』

上条「そんなサービス精神は要らん。それとママンから『服をホイホイ脱ぐ女には気をつけろ』って薫陶を受けてる」

コロンゾン『その薫陶って使う機会あります?』

上条「なかったけどな今の今まで!俺の事はいいんだよ!これからきっと就職すればモテモテに成る予定なんだから!」

上条「とにかく!俺が言いたいのはだ――」

上条「『――召喚者自身をも、悪魔の権能に巻き込んじまってねぇか?』ってことだよ!」

コロンゾン『……』

上条「悪魔を喚びだして使役できる――それは夢のある話だと思う。魔術師として、それ以前に中二病患者としては超心引かれるわ」

上条「またメイザースが何度も何度も使ってるのは見てるし、制御は出来てるんだと思う。そこも否定はしない」

上条「ただ『本当に召喚者へ不利益を与えないのか?』って部分はどうにも引っかかるんだわ。そんな都合の良い事ってあるか?本当に?」

上条「マジでそうだったら魔術サイドの主体が召喚術になっててもおかしくないだろ?」

上条「悪魔召喚で成功した人間っているか?殆どが破滅か自滅してるのはなんでだ?」

コロンゾン『ソロモン王はしてたじゃないですか?72柱の先輩方を扱った人が』

上条「重税に超苦しめられた上、後に東西に分裂、しかもその民は居場所を失って流浪の民になってっけど?それが『王』として成功してると思うか?」

コロンゾン『結果的に見れば、ですけど。でもその主張をされるのでしたら、ただの難癖と何が違うんですか?。大好きなパパンが自滅したから、私に責任転嫁しようとしているようにしか見えませんけどねぇ?』

上条「その世界じゃな。コロンゾン召喚に成功した人間がもう一人いてな、アレイスター=クロウリーっていう下ネタ好きの陰気くさいおっさんなんだが」

上条「なんでも『コロンゾンを召喚して叡智を得た』一方、実はそれがまた罠で、実はメイザースは召喚するのを先読みしてて、って訳分からん事になった上」

上条「ついでにチンピラを旅のお供に世界滅亡一歩手前まで行ったんだわ。スゲーよな」
(※もしかして;HAMADURA)

コロンゾン『……妄想にしては、お粗末じゃないですか?』

上条「だから言ったろ、消去法だって。世界屈指の魔術師がいて、その世代最強、もとい最凶の魔術師がいた」

上条「どっちも仲は悪くなく、まぁ何度もパブで泥酔して朝帰り、母さんに並んでビンタされるぐらいには仲が良かった。それをだ?」

上条「何をどうすればいきなり戦争を吹っかける話になるんだ?どういう合理的な思考を辿ればそうなる?」

上条「間違いなく当時の最高峰、下手すれば現代よりも魔術に精通していた一団である『黄金』。その仲間達に相談もせずに敵対した理由って?」

上条「メイザースが執拗にアレイスターを狙った理由は……まぁ、分からないでもないが。世界が終わりかねないリスクを許容してまでする意味は?」

上条「なぁ、教えてくれよコロンゾン。不能と怠惰を意味し、離散と矛盾の悪魔よ」

上条「そしてお前が嘘をつけないんだったらこう聞こう――もしお前がやろうと思えば、召喚者に無自覚なまま悪意を受け付けるのは可能なのか?」

コロンゾン『――造作もないですね。牛馬と違って下手に智恵がある”と、思い込んでいる”ので』

上条「おっ、キャラ変しやがったな」

コロンゾン『まぁ演技するだけ疲れますから。お望みでしたら元に戻しましょうか?』

上条「そうだな。じゃあまず一人称を『あたしちゃん様』で語尾を『りゅん』、そして設定は『ゆうこり○星から来た宇宙人』でお願いします」

コロンゾン『天地開闢以来した覚えがありません』

上条「おいおい大したことねぇなぁ悪魔さんよぉ!?この程度のささやかな願いすら叶えらんねぇなんてよぉ!」

コロンゾン『そんな絡まれ方をしたのも……多分私が最初でしょうね』

上条「てかここのお前はやんなかったのか?性格上仕掛けてそうだが」

コロンゾン『やりましたよ。てゆうか今もやってる最中です――が、残念ながら効果自体が薄いようで』

上条「効果が?体質……じゃないな。だったらあっちもかかってないし」

コロンゾン『マスターは悪魔に対抗する方法をご存じですか?』

上条「あー、魔法陣とかそういうの?」

コロンゾン『魔術的な話ではなく、答えは強い心です』

上条「急に根性論っすか」

コロンゾン『いえ、これがまた案外バカにしたものではなくてですね。例えばあるところに強い知識を望む冴えないおっさんがいます。それも無職の』

上条「どっかで聞いたような話だな!でもメイザースではないよな!一応ニッチ過ぎる本の翻訳とかやってっし!」

コロンゾン『そんな彼へこう囁きます、「魔術の対価には命が必要だ、あなたの”大切”な妻の命を捧げればもっと高度な知識を授けよう」と』

上条「それ絶対にハイって言っちゃダメなやつだろ」

コロンゾン『ですね。もしも首を持って来た場合、「契約は不成立だ。だってその首をもってこられるのならば、もう”大切”じゃないのだろう?」』

コロンゾン『――と、いうような悪魔的ジョークを少しずつ少しずつ、地面に水銀を染み込ませるように、ゆっくりと。何日でも何ヶ月でも何年でも続けていくんですよ』

上条「……まさに悪魔的はあるが」

コロンゾン『ですがこれは強い心を持った人間には全く効果がありません――「マスター、世界を手中に収めたいのであれば、あなたの両親の命をくれませんか?」』

上条「いや別に世界なんて欲しくねぇよ」

コロンゾン『「では本来差し上げる力を少しだけ貸しましょう。対価はそこら辺の無関係な人間の魂で結構です。病人でも罪人でも」』

上条「あー、一回吹っかけておいてから下げて、ヒットした段々と上げていくんだ?」

コロンゾン『「自身が賢いと思っている人間ほどかかります」』

上条「まぁ魔術ばっかやってきたら、そこら辺の駆け引きが弱くなんのかなぁ」

コロンゾン『「つまりあなたはある意味では本質を見抜く能力があるという事です。そんなあなただけには正当な契約をしましょう!」』

上条「ハメ方が二重三重で怖いよ!?『俺だけは特別だ!』って思わせる自体がトラップだったなんて!?」

コロンゾン『強い信念を持っていれば、多少は罹りにくいようですが。そもそも契約なんてするから悪いのですよ。蝿には蝿の、蛆には蛆の分不相応がありますから』

コロンゾン『噂のアレイスター某が喚んでくれれば、もう少し楽しめたでしょうがね?』

上条「あー……喚んで?ないの?』

コロンゾン『ここ100年でやりとりがあったのはメイザース氏だけですよ。というか力量的に雑多な魔術師では不可能です』

上条「今まで無名だった理由は?」

コロンゾン『関係者全員をきっちり跡形もなく破滅させてきたからでしょうね。推測ですが』

上条「それでですね、契約の話なんですが」

コロンゾン『聞いていましたか、話?』

上条「あ、うん聞いてた聞いてた!学校から帰って英和辞典に付箋が挟まってて、ページ開いたら蛍光ペン引いて何かなーと思ったら、『熱膨張』の単語だったんでレッサー殴った話まで聞いた!」

コロンゾン『していませんでしたよね?誰というかそんな話を』

上条「てか言わなかったっけ?俺今度就職するんだけどそのサポートにって話」

コロンゾン『……サポート?悪魔が就職の?どんな職場ですか』

上条「『必要悪の教会』、そいつを乗っ取ってしなきゃいけないことがある」

コロンゾン『ほう?嫌いじゃないですよ、イギリスを陰から支配するつもりですね』

上条「だからそういうんじゃねぇって。あー、前からメイザース達には言ってあったんだけど」

コロンゾン『魔術の衰退と淘汰、そして異端化を防ぐために管理をする、でしたか』

上条「個人的には時代で無くなるんだったらそれも運命だとは思うんだがな。そうも言ってられないのが現状だな」

コロンゾン『いえ、むしろあなたが想定しているよりも事態は悪化しているのではないでしょうか?』

上条「悪化?どんな感じに?」

コロンゾン『前の大戦である程度魔術師達の”貢献”は形になりました。短期的にはどこかの魔術結社がぶち壊しましたが、長期的にはまた違います』

コロンゾン『「この魔術とかいう兵器が俺達に向けられたどうなる?」と』

上条「その結果、特定の組織に収束されるんだろうなぁ。ローマやロシアとか」

コロンゾン『まるで大戦ですね。闇に隠れていた魔術結社が覇権を握らんと声を上げる』

上条「結局『黄金』がやった、つーか俺がやらせたのは針を進める程度だと思う。どっちみちその形に落ち着いてたんじゃねぇかな」

コロンゾン『科学技術が「ない」証明は出来ますが、魔術霊装が「ない」証明は不可能に近いですからね。魔女狩りアゲインもそれはそれで楽しそうです』

上条「てな訳で。責任を取るって意味でも俺は『必要悪の教会』のトップにならなきゃいけない。そのために力を貸してほしい」

上条(てゆうかお前がイギリス清教を支配してないせいで、元の歴史と大幅に変ってんですよね!)

コロンゾン『魔術的な意味でですか?』

上条「も、出来れば欲しいが――メインは権謀術数だな。お前だったら他人の心情や国際情勢なんて簡単に読めるだろう?」

コロンゾン『悪くはないです。ないですが、私には如何ほど頂けるんでしょうか?どなたの魂をどれだけ?』

上条「あー、そういうのをやるつもりはないんだけど……んー、意趣返し?叛逆の超ミニマム名レベルの?」

コロンゾン『どういうお話ですか?』

上条「悪魔っていうか、お前らの神様は悪魔は悪さするように最初っから創ったんだろ?」

コロンゾン『そうですね。人間の書物にはそう書いてありますね』

上条「つまり悪い事するのも最初から折り込み済みで、人によっては神様に叛逆するのもある意味予定調和って事なんだよな?」

コロンゾン『そうですね。そう書いてある書物もありますよね』

上条「そこを逆手にとってさ――逆に悪魔がロハで善行詰んだら、超面白くね?」

コロンゾン『えっと……はい?』

上条「いやだから。悪魔がどんだけ『吾が輩は地獄の皇太子であるブハハハハハハハハハッ!悪い事するのであるな!』とか言っても、それはそうなるようにプログラムされてるって事じゃん?」

コロンゾン『そうですね。その面白い口調の悪魔に心当たりはありませんが』
(※デーモン小○閣下。最初期はもっと尖ってた)

上条「だったらさ?人間騙して地獄に堕とすよりも、助けた方が神様の予想外って事にならね?」

上条「どうせだったら裏切ってやれよ。好き勝手しろよ。『創ったヤツの思惑なんて知んねぇよバーカ!』って言ってやれよ」

コロンゾン『成程成程、そう来ましたか。神に叛逆した我々にはテーマ的にも相応しい話ですね――良いでしょう。では契約内容を詰めましょうか』

上条「まず『嘘は吐いていい』だ。ジョークも含めて何を言っても構わない」

コロンゾン『正気ですか?私相手に?』

上条「え?人間だったら誰だって嘘吐くだろ?ジョークも言うし、流石に暴言とか中傷とか嫌な言葉はあんま聞きたくないけどさ」

コロンゾン『いえあの、論点はそこではなくてですね』

上条「後はそうだな、契約期間は俺が死ぬまでかな。死んだ後は自由にしていい。異相空間だっけ?そこに還るのもいいし、残って何かするのも構わない」

コロンゾン『悪魔を野放しにするつもりですか?またその契約だと普通は契約した瞬間に襲われますよ?』

上条「いいや、お前はしないよ」

コロンゾン『根拠は?』

上条「俺がそう信じてるからだ」

コロンゾン『……はい?』

上条「言っただろ?お前は悪意によって造られた、そして悪意によって運用されようとしていた。だから悪意に染まるのも仕方がないって」

上条「だがどっかで。その限りない悪意の連鎖が途切れれば、誰かがお前を信じてくれれば、悪意からは抜け出せられる。俺はそう思ってる」

コロンゾ『そんな、訳が――!』

上条「ん?なんで怒ってんだ?いつものように『そうですね!私は善意に目覚めました!』とか言ってさっさと契約した方が得じゃないのか?」

コロンゾン『それは……そう、ですね。私が、どうして、怒っているのでしょう……?』

上条「まぁ分からないんだったらそれでもいいし、折り合いをつけなくてもいい。別にそれで誰がどうにかなる訳でもない」

上条「手伝ってくれよぉ。なぁ、どうせ暇なんだろ?」

コロンゾン『……正面からはともかく、寝首はいつでも掻けるのに?』

上条「だったらすればいい。そんときは俺がバカだっただけの話だ」

コロンゾン『……分かりました。では私があなたの首を掻き切るまでは主従でありましょう』

上条「では最初のお願いだ――明日までに俺の教えたアホ日本語を喋れ!」

コロンゾン『最初から無体な命令が来た!?』

上条「あと金髪を伸ばしてドピンクのシスター服を着る事!周囲が引くぐらいのな!」

コロンゾン『それ、着せてる方のアタマが疑われますよ……?』

上条(どうにか最初の壁はクリアできた。【USR:コロンゾン・武力12・智力12・コスト5.0】ゲットだぜ!)
(※USR=ウルトラスーパーレア)



――『必要悪の教会』 数日後

魔術師「えーっと、君が?メイザース君?『黄金』の?」

上条「それは身内の話です。俺自体はただの魔術師ですんで」

魔術師「ウチはねぇ、なんていうかねぇ、今一っていうか掃きだめっていうかねぇ?一応は魔女狩りやってたんだけど」

魔術師「どっかの誰かさんがやっちゃったでしょ、『魔術師狩り』?だもんでただでさえ薄い存在感がね、もっと薄くて軽くなってんのよ」

上条「ご指導ご鞭撻の賜物です!」

魔術師「誉めてないよ?俺君とは初対面だし、なんも教えてねーよ?一番の下っ端だから応対を任されてだけだからね?」

上条「あ、パイセンに聞きたいんですけど。今この組織ってどうなってんですか?」

魔術師「同って何が?」

上条「トップに誰がいてとか、事件や事案が起きたら誰がどう対応するのかとか」

魔術師「トップ、トップねぇ……――あ、来た」

上条「はい?」

男「――貴様がメイザースのガキが!予想はしていたが貧相なツラだな!」

上条「あ、どうも。今日からお世話になるメイザースです」

男「身の程を弁えろ!貴様のようなどこの馬の骨とも知らぬ輩が大きな顔をするんじゃないぞ!いいなっ!?」 ダッ

魔術師「――っていう感じ」

上条「あー……大体想像してたのと変らないような」

魔術師「嫌いを裏切れなくてごめんねぇ。まぁあんなんでも何代前かの大司教の血筋だからさ?」

上条「イギリス清教の大司教でしたっけ?」

魔術師「そうそう。一応『教会派』とは言われてるけど、権力闘争に負け続けてるからねぇ」

上条「実はあんな態度でも超強かったりします?」

魔術師「……ねぇ、メイザース君。よーく考えてほしい」

魔術師「もし魔術師としての腕に優れていれば自力で魔術結社を興す。そこまででなくても既存の魔術結社の門を叩く」

魔術師「実力がなくて家柄だけそこそこある魔術師が集まった、まぁ掃きだめのような場所なんだよねぇ」

上条「へー、でも先輩はそこそこ出来ますよね?」

魔術師「へ、俺?俺なんて全然ダメよ?大した家柄でもないし、魔術の腕もからっきしで」

上条「そうなんですか?土御門家って日本の魔術師界の宗家みたいな役割やってるって聞いてんだけどな−」

土御門某(魔術師)「あぁ君……『ホンモノ』なんだ?よく知ってたね?」

上条「知り合いにそっくり――もとい、魔力が似てる感じがする」

土御門某「んーでも半分当りって感じだよ?俺はただ文化交流で来てるだけだから」

上条「東洋人が魔術結社入ろうとして総スカン食らっただけですよね?だから仕方がなくある程度政治的な手段で潜り込んだと」

土御門某「本当に嫌なガキ……まぁいいや。とにかくそんな訳だから、君がいてもあんまり勉強にはならないと思うよ?」

上条「あぁいや勉強しに来たんじゃなくて……てかここに広場ってあります?多少暴れてもいいような?」

土御門某「広場……クリケットができるぐらいだったら地下にあるよ。なに?運動でもするの?」

上条「いや、殴り合い」



――『必要悪の教会』 その翌日

上条「……」

コロンゾン『なんで怒られたりけるか、分かる?』

上条「……その場の思いつきでアホ日本語口調をさせたこと?」

コロンゾン『それはそうなりしけども!そうじゃなくて!』

上条「……俺の気持ち次第でお前のシスター服を1センチずつ短く出来る術式をかけたこと?」

コロンゾン『それは初耳!?なにそれマニアックな術式!?』

上条「あ、ごめん。今確かめたら1センチじゃなくて1インチだったわ」

コロンゾン『2.5倍の被害が!?てかヤード方の国でセンチだなんて単位使わざるべかりしよ!?』

上条「どうせ将来は工業製品の精密性が求められるようになるし、ミリに移行しちまった方がいいと思うんだよなぁ」 スッ

コロンゾン『まぁ大雑把に感じてるのは確かだけれども……そうじゃない。正座を崩すな」

上条「……はーい」

コロンゾン『……教えてたもう?お前が、何を、したかったのか、を?』

上条「上下関係の徹底と現状の戦力把握?」

コロンゾン『半分以上が辞めてったわこのアホが!?そりゃ私でも「よーし殴りあおうぜ!」とか言ぉたら帰りけるわ!?』

上条「い、いやでも完勝したからいいじゃん!思ってたよりも遙かに弱かったし!」

コロンゾン『思うていたよりとは……どの程度のレベルを想定したりけるかしら?』

上条「量産型イノケンティウスを考えてたのに、総じて師匠かそれより弱い」
(※師匠=シスター・アンジェレネ。金貨袋を飛ばす子、一言で言えば『一般人より弱い』)

コロンゾン『言うたからね!?前もって「大したレベルの魔術師なんかいなかりしよ」って私が言うた通りでしょうね!?』

上条「まぁまぁ結果的に余計なのは放逐できたからいいじゃん!前向きに行こうぜ!」

コロンゾン『ただでさえゴミだった人員が更に減った……!』

上条「でも、ねっ?結果的には俺の言うことを聞く子だけ集まったし?」

コロンゾン『普通は!そういうのを!蚕が食むように!ゆぅぅぅぅっくり侵食して行くのが!私の!やり方なりしよ!?』

上条「で、でもホラ!こちらが俺の新しいお友達の土御門君!仲良くしてやってくれよな!」

土御門某「遠い異国の地で流暢なアホ日本語を聞くとは……面白いね。土産話が一つできた」

コロンゾン『ほぉら聞いた?!私のバカな悪名がまた一つ轟かりしよ!?』

上条「いやいや拾いもんよ?こう見えて彼、日本の魔術師界の重鎮名家のご出身ですって!」

コロンゾン『まぁそこそこの力はありたりけるが……』

土御門某「テレズマの塊……!メイザースの召喚魔法じゃないか!まさかこの目で見られるとは!」

上条「あ、あれ?もしかしてぶっ飛ばす前にこれ見せた方が早かった?」

コロンゾン『そうに決まってんだろバーカ』

上条「コロンゾンに命令っぽい呪文をもって命ずる!スカート丈-1インチ!」

コロンゾン『誤差なりしよ?いやまぁふともも見られたら流石に恥ずかしきことなりしけども?』

土御門某「あー、遊ぶのはいいんだが、それよりも仕事をくれないか?元々少ないとはいえ、人数が減っただけ一人当たりの文量が嵩む」

上条「『――コロンゾン、君に決めた……ッ!!!』」

コロンゾン『初手から丸投げ!?あぁもう名簿!あとできれば得意分野の一覧票を!』

上条(とまぁこんな感じに落ち着いた。他は知らない、少なくとも俺は落ち着いたからいいんじゃないかな)

上条(しかしこの土御門さん、えーと歳は20代半ば?今が1918年だから、年齢差的にははるるん(仮)のひいじいちゃん世代か)

上条(自称二重スパイだっていうけど、イギリス清教に籍を置いてたのはこの人の影響があるんじゃ?)

上条「――あ、すいません土御門先輩。ちょっと聞いてもいいですか?」

土御門某「んー、術式は式神っていう召喚系だね」

上条「や、そうじゃなくてメイド服ってどう思う?」

土御門某「何着か買ったけど?」

上条「なんだ直系か」



――1924年 ロンドン(トマス=メイザース 24歳)

上条「……」

魔術師A「『最大主教』、こちらの書類なのですが」

コロンゾン『うむ。そちらへ置かりし――あぁいや直接見たるわ。こちらへ』

魔術師B「『最大主教』、次の予算案について伺いたいことが」

コロンゾン『見積もりは、えぇとその棚の右から二番目のフォルダに入っておるわ。予算関連ってタグの』

魔術師C「『最大主教』、例の異端を名乗る魔術師達ですが」

コロンゾン『ただのガキたりしな。警察に通報』

上条「――なぁ、ちょっといいかな?」

コロンゾン『なに?今忙しかりしが?』

上条「お前『最大主教』って言われてっけど、それ俺の役職だったんじゃ?なんでお前が一番良い椅子に座った上で、全部の仕事やってんの?」

コロンゾン『言うてやれ』

魔術師A「『契約してない相手が真名を呼んだら酷い目に遭う』って言われて、つい」

魔術師B「メイザースさんに書類を渡しても、どうせ『最大主教』がするんで二度手間なんで、つい」

魔術師C「てゆうかメイザースさん、あまり『最大主教』のお邪魔をしないで貰えませんか?」

コロンゾン『だって』

上条「よーしお前ら全部首だコノヤロー。荷物まとめて出て行きやがれ」

コロンゾン『じゃあ全部の仕事と雑用、一人で回すことになりたるけど?』

上条「よーし馬車馬のように働けお前ら!プラック企業の概念がない今だったらやり放題だ!」

コロンゾン『なお今月から給料は歩合制に』

魔術師A・B・C「異議なし」

上条「――くっ!こんな部屋にいられるか!俺は自室に戻ってイギリス料理を美味くする研究に専念させてもらうぜ!」

コロンゾン『無理なりしよ。こんだけ世界中に版図拡げた上での結論が、「やっぱインド料理ってウメェよな!」で済ます連中なりし以上は』

上条「損切りがマッハなんだよな。FX戦士くる○ちゃんに教えてあげたいぐらいだ」

コロンゾン『なんなの?なんかザコ敵に瞬殺されそうな雰囲気の戦士?』

上条「勇者っちゃまあ勇者なんだけど……つーか悪い。コロンゾン以外は席外してくれないか?ちっと話がある」

魔術師達『仰せのままに。何かお持ちしましょうか?』

上条「あぁいいよ別に』

コロンゾン『ダージリンを受け皿なしで一つ』

魔術師A「かしこまりました『最大主教』」

上条「ねぇ話聞いてた?俺がって話してたよね?なんでそっちにはきちんとお辞儀するのに俺にはしないの?」 パタンッ

コロンゾン『まぁ人望の差よなぁ。人ではないのだけれども』

上条「悪魔め!俺の居場所を奪いやがって!」

コロンゾン『適材適所、というかお前は外回りばかりだからというか――それで?話とは?』

上条「まずはだな。ローラ=スチュアートなんてどうだ?」

コロンゾン「スチュアート?スコットランド貴族の?」

上条「昨日さ、メイザース――父さんが死んだんだよ。老衰だって」

コロンゾン『……そうか。そうよな。歳としてはこんなものか』

上条「70だから俺の感覚としては早いかなぁとか、親孝行なんてしてねぇよなぁとか、思うところは色々とあるんだけどもだ」

上条「少し前から父さん母さんとな、『いつまでもコロンゾンって呼ぶのはどうかな』って話になってたんだよ」

コロンゾン『とは?』」

上条「『折角こっちで暮してるんだから別に悪魔っぽい名前じゃなくても良くね?』って俺が話し出したら、『そうですね。女の子らしくないですよね』って同調してくれて」

上条「『だったらスチュアートなんてどうだ?スコットランド王族の血を引く由緒正しい家名だ』、そう父さんが言いはじめて」

上条「父さん、父さんかぁ……最初はあっちの父さんのイメージが強くて、ダメな親父相手に呼ぶ気もなかったんだけど」

上条「あぁローラっていうのは俺が女の子だったらつけてた名前らしい。出所は分からん」

上条「……」

上条「なんで、なんでさぁ?もっと早く呼んでやらなかったんだろうなぁ?俺が『父さん』って言うたびに喜んでさ?」

上条「……なんで間違えちまうのかなぁ。そんなんばっかりだよ」

コロンゾン『人間の感情は理解できません。現象としては知っているいますし、発露としても知ってはいますが』

上条「それは……きっとその内、分かる日が来る、と思うよ。人に紛れて人っぽいことして人と一緒に過ごしていれば、いつか」

上条「人間は……生まれた瞬間から人間だけど。長い時間をかけて、親からの愛情だったり、他人との接点とか、経験した上で”なって”いくもんで」

上条「だからお前も、”分かる”よりも”なって”たって。その内、きっとな」

コロンゾン『落ち着きましたか?』

上条「あぁ悪い……いや、悪くはないのか。ありがとう」

コロンゾン『しかしローラ、ローラ=スチュアートなぁ……まぁ良しとしたるわ。私的にはもっとキラキラした名前が好みたるが!』

上条「……例えばどんなだよ?」

コロンゾン『セダ=バラとか?』

上条「映画史上初のセクシー女優だろそれ。いやまぁ俺は知らないし見たこともないんだけど」

コロンゾン『というか先程言うたりFXとは何の事なりし?』

上条「あー外国為替証券取引?俺もよく分からないんだけど、外国の通貨を時期に応じて買ったり売ったりして儲けるギャンブルだな」

コロンゾン『安いときに買って高くなったら売る……とはいえ、塩漬けになった資産は使えぬし、そんなに大差がつくかも分からない上、瞬時に売買出来ぬのでは?』

上条「未来じゃ電気を使った通信機器が超発達するんだよ。極端な話、地球の裏側にいる人とほぼタイムラグなしで会話できるぐらいに」

コロンゾン『通信してどうすると?』

上条「現職の国会議員がタオル一枚で体重計乗ったらキンタ×見切れて炎上した」

コロンゾン『最初から最後まで意味が分からんのよ!?なんか面白そうなニュースではありたるけども!』

上条「俺もその記事読んで三回ぐらい『なんでだよ』ってツッコんだわ」

コロンゾン『ほ、他には?他にはなんか未来になって今と違うなっていうのはありかりし?』

上条「21世紀の未来ではアーサー王がメスになってレーザーを撃つ……ッ!」

コロンゾン『意味が分からん』

過去城「あとなんか競走馬がメス人間になって駆けっこをする……ッ!」

コロンゾン『もっと意味が分からないわ!?誰がどう得するのよそれ!?』

上条「傷だらけの少女を無理矢理エ×いことしたら死ぬゲームが世界で1億円以上売れる……ッ!」

コロンゾン『性的な意味で異常者ばかりの世界に……!?』



――1926年 ロンドン(トマス=メイザース 26歳?)

上条「――なぁローラ?」

コロンゾン『あ、見たりけるのよトーマ!新聞によると新王女の名前はエリザードなりしね!』

上条「エリザード……あぁ、あの人って昨日生まれたのか。こうしてると年季を感じるぜ……!」

コロンゾン『知り合い?』

上条「まぁ何回か会ったぐらいは。向こうのお前とは結構仲が良かった、ように見えた」

コロンゾン『へー、祝福に行きたりしかしら?』

上条「俺の仕事ですよねって何度も言ってんだろコノヤロー。『最大主教』は俺の肩書きなんだよ!」

コロンゾン『いやぁ、でもなぁ?そのナリじゃあ説得力がなかりしことよ?』

上条「誰のせいだと思ってんですかねぇ!?いやマジでどうするつもりだよテメー!?」

上条(うん、まぁその。落ち着いて聞いてほしい。つーか俺は落ち着いてない。だから俺の代わりに気をしっかり持ってだな)

上条(ある朝、そう何年か前の話だ。いつものように『必要悪の教会』の激務で寝オチして、ぶっちゃけ椅子に座ったまま目が覚めたんだわ)

上条(口の中がカラッカラに乾いてたから、部屋の水差しを飲もうとしたらどこぞのアホ悪魔が補充してなくて)

上条(誰か人を呼ぼうかと思ったが、朝早いから迷惑かなーとキッチンに行ったんだよ。キッチンに、ロンドン塔の生活スペースに設置してある)

上条(そこで鏡見たら子供がいるんだよな。感じ的にはバードウェイを目つき悪くした感じの?)

上条(アレなんでこんな所に、って現実逃避してたら他の魔術師に捕まって――あぁまぁお察しの通りだよ!年齢が巻き戻ってたよ12歳児にな!)

上条(当然そんな事が出来るアホを一人しかいない訳で!厳しく取り調べをしたらばだ!)

コロンゾン(回想)『あー………………契約の、副効果?みたいな?』

コロンゾン(回想)『い、いや意図的に私がやったとかなかりしよ!?なかりしなんだけど、ほら!やっぱり悪魔よね!?だから、つまり』

コロンゾン(回想)『権能のうち、離散と矛盾と怠惰――最後の”不能”が悪さしちゃったんじゃないかなぁって。てへっ☆』

上条(思えばメイザースとミナに子供がいなかったのってこれ原因か!?つーか俺も同じ呪い受けてんのか!?)
(※いない説の方が有力)

コロンゾン『やーい性的不能ー!』

上条「ぶち殺すぞ!?俺のスーパーストロング超ストロングさんの可能性を奪いやがって!?」

上条「まぁ前の世界では使う機会が恵まれなかったけども!いやー残念だわーこの世界ではブイブイ言わせてるはずだったのに残念無念だわー!」

コロンゾン『その言い訳が既にモテない……っていうか20越えて使う機会が無いんだったし……』

上条「天パの呪いからは逃れられても童×の呪いからは逃げられなかったのか……!」

ダイアン「えっと……お久しぶり?しばらく見ない内に随分と愉快なことになってるわね」

上条「助けて下さいダイアン姉さん!?俺が頼れるのはもううなたしかいないんです!」

ダイアン「無理ね!ミナお姉様がどうこう出来ない呪いをわたしができる筈がないわ!」

上条「母さんは違うんだよ!『まぁ……こっちの方が可愛くていいですね』って端っからまともに解呪する気ねぇんだよ!」

ダイアン「可愛らしいのは同意するけど……コロンゾン、もといローラはどうなの?できるの?」

コロンゾン『できぬのよなぁ。この私としてもマスターの命令であればどんな願いをも叶えてやりたいのだが』

上条「お前知り合いが来るときだけ従順な召喚獣ムーブすんのやめろや。つい10秒ぐらい前まで笑ってただろ」

コロンゾン『Let It Be?』
(※「そのままにしといたら?」)

上条「やかましいわ!あと半世紀切ったけどそのフレーズ出すなよ!」

ダイアン「何か楽しそうでいいわね。『必要悪の教会』って聞いたから、もっと血と呪詛にまみれたもんかと思ってたわ」

上条「あぁまぁ現場は大抵グロいんだけど……つーか用事って何?呼んでくれれば俺の方から行ったのに」

ダイアン「そういう訳にはいかないのよ。一応『黄金』の代表として来てる訳だし」

上条「あー、つー事は姉さんが継いだのか」

ダイアン「でも本当にわたしで良かったの?あなたがいいっていうんだったら、いつでも替わるわよ?」

上条「父さんが作ったもんだから思うところがなくもないけどな。ただ正直こっちの仕事をやりつつ、『黄金』の総統が務まるかと言えば無理じゃねぇかなぁと」

ダイアン「大分メンバーも減ったしねぇ。なんだかんだでメイザースさんはビッグネームだったわー」

上条(これも史実通り――じゃないんだよな。メイザースは『黄金』を追い出されて別の魔術結社を作る。その後継に選ばれたのがダイアンになる)

上条(でも結局ミナと喧嘩する形で追い出されて……その結社も自然消滅する、と)

ダイアン「うん、だったら遠慮なく貰うね。どこまでついてきてくれるか不安だけど」

コロンゾン『他に骨のある魔術師はいなかりしか?』

ダイアン「あー、いないことはないんだけどねー。ちょっと事情が特殊で」

上条「特殊?外国人だったらウチにもいっけど」

ダイアン「半分マフィアのバードウェイ家って知ってる?」

上条「一身上の都合でよーく知ってたわ。あぁそうか、『黄金』系列だからそりゃいるに決まってんのな!」

ダイアン「なんかあなたの話したら興味持ったみたいで、なんだったら紹介しようか?」

上条「ババを俺に押しつけようとんな。つーか父さんは性別で魔術差をつけなかったんだから、姉さんも仕事で区別するなよ」

ダイアン「性別とマフィアは違うような気がするけど……まぁそうね。とても勤勉な子だし、いつか紹介するわね!」

上条「だから俺に押しつけんなよテメー」



――1944年 北フランス上空 輸送機機内

少年「……」

尉官「――お?どうしたボーズ辛気くさい顔しやがって!」

少年「誰がボーズだ。お前よりは年上だよ」

尉官「あっはっはっは!ナイスジョークだ少、年……?男だよな?女じゃないよな?」

少年「ついてとるわ!使ったことないけど!悪魔のお陰でな!」

尉官「おっと出撃前だあんまり悪魔悪魔言うもんじゃねぇぜ!ツキが逃げていっちまう!」

少年「俺だってこんな所に来たくて来た訳じゃねぇよ!」

尉官「気をつけろ!ジャガイモ野郎は女が好きだが、男はもっと好きだって噂だぜ!」

少年「話聞けよおっさん」

尉官「――よし!緊張はほぐれたようだな!それじゃ飛び降りてこい!ハリハリハリハリーッ!」

少年「ざっけんなテメェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェぇぇぇぇぇぇぇっ!!!?」 バッ



――1944年 シェルブール領内 (トマス=メイザース 44歳?外見年齢12歳)

上条(拝啓、ネフテュス様、娘々様、如何お過ごしでしょうか?)

上条(やれ雨が少ないやれ暑さが続くと言われている昨今ですが、私のいるシェルブールでは硝煙弾雨が飛び交っています。つーか最中です)

上条(と、言いますのも来年には世界大戦が終わります。つーかその翌年にはエリザードさんがご結婚します。確か)

上条(そんでもって面白三姉妹を生み、全員の教育に失敗する訳ですがそれはさておきまして。確か50年ぐらいには親が亡くなって女王を戴冠します)

上条(それもまぁいいんですが、数日前のノルマンディー上陸作戦でまんまと敵に捕まったアホ貴族がいます。てかエリザードさんの婚約者です)

上条(いや、俺は止めたんだよ!?きちんと『教会派』のトップとして面会した上で「別に前線に行く必要はないと思いますよ?やめといた方が良いんじゃないですか?」って言ったし!)

上条(そしたらムキになって「いや、将来の王配たる務め!」とか言い出すし!なんなのあれ!?)

上条(まぁその結果取っ捕まったんですけどね!言わんこっちゃないっていうか俺注意しただろ!)

上条(そしてまた『王室派』と『騎士派』の連中の厳しいこと!あいつらにとっては駒の一つであってどうでもいいのかもしんねぇけど、あっちの教科書に乗ってたのはこっちのアホなんだよ!歴史が変わるわ!)

上条(しかも事情知ってんって俺とローラぐらいしかいねぇし!「助けて」って頼んでくるのも一人ってどういう事?だからこっそり助けに来てんだよ!俺一人でな!)

上条「……」

上条(まぁ……『別の伴侶でもその三姉妹はきっと生まれたることよ?男が傑物とは程遠いし、助けに行く必要ありしや?』っては言われた。俺も実はそんな気がしてた)

上条(ただ逆に――「お前の親父は大した人間じゃないんだから、死んだってお前は生まれてるよ」とか言われたら確実にキレる。どっちの父さんでもだ)

上条(だからまぁ?他の連中に手を借りることも出来ず、俺のワガママでアメリカ軍の部隊に同行させてもらってると)

上条(幸いなのはドイツ軍の内通者がいて、アホ貴族が無事だって事と居場所がはっきりしてること)

上条(幸いじゃねぇのはその場所がノルマンディー近くの要所の一つで、空挺部隊に紛れて救出しなきゃいけないってことですねチクショー!)

上条(ともあれ陽動はアメリカ軍が勝手にしてくれてるし、俺は特別な捕虜収容所……でもないな。身分はバレてるらしいから、民家っぽい建物に近づいてる訳で)

上条(つーかここだな。人の気配もないし術式が仕掛けられて感じもしない。地雷でもあったらヤベェが、普通に考えれば自分達の居住スペースに仕掛けないだろ)

上条(見張りもいないし鍵もかかってない……殺された?騙された?いや、どっちみち確かめないと前にも後ろにも進めない――あ、いた!)

貴族「……」

上条(粗末なベッドの上に……普通に寝かせられているだけか。呼吸はある。怪我もまぁ治療はしてある)

上条(ドイツ軍も物資が足りてないだろうに。イギリスの貴族なんざ、即処刑でもおかしくなかったんだが)

上条「……」

上条(手負い袋から携帯食料と医薬品だけ取り出して、『あなた方の配慮に敬意を抱く』とメモに書いてっと) サラサラッ

上条「……よし、それじゃこいつ背負ってさっさと逃げよう。向こうもどうせ持て余してるだろうし、人質にすら使えないだろうし――」

???「――同意だね。国家存亡の危機にまでなっているのだ、たかが一人、エリザード王女殿下の婚約者といえども価値は低い」

???「むしろ逆に、切って捨てた方が王室としては支持を得られるんじゃないかな?だからまぁ、困っていたというのはこちらも同じでね」

上条「――……ッ!?」

上条(闇が、ぞわりと、動き出したような。濃密な、呼吸が苦しくなるぐらいのプレッシャー……)

???「なので『釣り』に使わせてもらったのだよ。佳いエサになったようだ」

上条(フィアンマかアックアレベルの術者だ……ッ!?この時代に聞いたことねぇぞオォイ!?)

???「こんばんは、イギリス清教『最大主教』トマス=メイザース氏、で合っているよね?」

上条(あぁ……ヤッベェわ。こっちに来てから最大のピンチだわ。つーか俺知ってる!この人知ってたわ!)

上条(年齢的には参戦しててもおかしくはなかった!でも前にどっかでいつか訊ねたとき、「参戦?してないけど?」って言ったのを鵜呑みにしてた!)

???「……ふむ、軽口には付き合ってもらえないのか。まぁそれもまた佳い、ならば魔導の後輩として名乗らせて頂こうか――」

マタイ(???)「――私の名はマタイ、マタイ=リース。ローマ正教からの刺客だね」



――

上条(よーし落ち着け俺!俺は落ち着いているぞ!その証拠に素数だって数えられる!1・3・5……あとは省略だ!だって落ち着いているのだから!)

上条(よっしゃここは転生前に土御門から習った、『外人にはこう言っておけば誤魔化せるフレーズ』に頼ってみるぜ!)

上条「『――Do you know the thermal expansion?』」
(――あなたは熱膨張を知っていますか?)

マタイ「なんだろうね。何かこう物悲しくもあり、同時に後悔の念すら覚える感じる台詞だね」

上条「あ、あれ?観光に来ただけなのにどうしてこんな所にいるんだろう!?」

マタイ「シェルブールは数週間前から厳戒態勢でね。その数年前、パリ陥落後からずっと観光客は受け入れていないのだよ?」

上条「――くっ頭が!?兄さん、助けてにいさーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーん!?」
(※ナイトヘッ○の武田真○)

マタイ「調子が悪い割には流暢に話していたようだが?」

上条「……」

マタイ「もう気は済んだかな?」

上条「状況を!せめて状況を説明してください!」

マタイ「イギリス清教の『最大主教』、20世紀最大にして最悪の魔術結社『黄金の夜明け』創立者であるメイザースの息子」

マタイ「数々の策略と謀略をもって味方を大勢救い、敵をもそれなりの数を救う混沌の申し子」

マタイ「そんな数々の悪名を轟かせているトマス=メイザース氏とはあなたのことではないだろうか?人違いかね?」

上条「ち、違うんですよ!俺の名前はレッサー=イン・ザ・ブリテンスキーっていうケチな鉄砲玉で!報酬に釣られて忍び込んだだけなんです!」

マタイ「ふむ?つまり一介の魔術師が、ドイツの対空迎撃部隊の手から逃れてここまで無傷で辿り着けたと?偶然?」

上条「か、かもしれないじゃないですか!」

マタイ「まぁそれも佳いだろう」

上条「つ、つーかなんであなたがここに……?」

マタイ「先程も言ったが単純に釣りだね。厄介者が網にかかったので、効果が薄いのを承知で張り込んでみただけだけよ」

マタイ「現にここには私一人しかいないだろう?あなたのようなビッグネームに対しては極めて遺憾ではあるが、これはどうかご寛恕願いたい」

上条「いえ充分ですから!お構いなくすぐ帰りますんで!」

マタイ「――それで?ローマ正教最精鋭、とまではいかないが、末席を汚す程度の私をご存じなのはどういう理由なのかな?」

上条「そ、んなことはないんじゃないですかねぇ?有名ですよっと多分!」

マタイ「私も有名になったものだね。存在すら隠匿されてる部隊なのに他国のトップに知られているとは」

上条「一生縁がないだろうと思ってた推理ハラスメントの被害者に俺が今なってる新鮮……!!!」

マタイ「と、いうのはジョークだが。これ全てが演技だったら凄まじいものだが……ふむ。どうしたものかな」

上条「どこがジョークなのかはっきりさせててくださいよ!?それによって対応変わるんですからねっ!?」

マタイ「心外だな。同期からは『お前のジョークは致命的だ』と評判だったのだがね」

上条(若い分だけ若干調子に乗ってる?それともなんか裏がある?)

マタイ「まぁ、特に裏も表もないよ。もしも伏兵が存在するのなら出し惜しみなどする場面でもないしね」

上条(過大評価された俺の噂が一人歩きしてる現状、マタイさんの言うことはもっともだ――けど時間さえ何とかすればアメリカ兵さん達が助けに来てくれる、か?)

上条「……隙を突くのは誰だってするだろ?」

マタイ「正しい見解だね。だがしかしあなたはチャンピオン、私達はチャレンジャーに過ぎない。その程度のハンデはつけてもらってもいいのでは?」

上条「敵地にノコノコやってきた状況じゃなきゃな!甲子○球場でジヤビッ○君に縄つけて引きずり回されるかって話なんだよ!」
(※っていうか光景を一度見ました)

マタイ「何を言っているのかよく分からないが、やる気になってくれたのかね?ではそろそろ」

上条「――取引がしたい!」

マタイ「ふむ。聞くだけは聞こうか

上条「え?えーっと……アレだ!俺を見逃してくれれば、何かこう、えっと……」

マタイ「何かこう?」

上条「――あ、俺個人資産なんて殆どないんだった……ッ!!!」

マタイ「その話も有名だよ。故メイザース氏の遺産は『黄金』へ殆ど譲渡したらしいじゃないか」

上条「貰ったら先に使ってた人達が困るだろ」

マタイ「それは美徳だが……」

上条「よし、じゃあ石取りゲームで雌雄を決しようぜ!ちょっと待ってろ!今俺がピッタリの石を選んでくるから!」

マタイ「……ちなみにルールは?」

上条「用意した石を交互に取っていって、最後の石をつかんだ方が負け」

マタイ「平和的だね。石の数は聞いてもいいのかな?」

上条「……一万ぐらい?」

マタイ「脳が焼け付きそうだよね。いや、必勝ルールがあるんだろうけど」

上条「見くびるな!俺は自分が必勝ルールを知っているからって人に勧めたりはしない!」

マタイ「ほう、どうして?」

上条「何故ならば前に教えて貰ったんだけど、特に興味がなかったんで全然覚えてないからだ!」

マタイ「あなたに教えた人が一方的に損をしているな。その誠意は買わないでもないが」

上条「なぁマタイさん知ってるか?俺の父さんはこう教えてくれた――『使っちゃいけないお金に手を出してから本番』ってな……ッ!!!」

マタイ「故メイザース氏がギャンブラーだった話は初耳だね。あと申し訳ないのだが、全く興味がない」

上条「どうだ!俺に石取りゲームを教えてくれた姫神さんの気持ちが分かったか!?」

マタイ「響きからすると東洋の子かな?――と、いうかだな。メイザース氏、先程からあなたは時間稼ぎをしているように思えてならないのだよ」

上条「いや、そんなことないよ?気のせいじゃないかな?」

マタイ「いやいや責めているのではない。私”も”そうなのだから」

上条「……”も”?」

マタイ「あなたと会敵した瞬間、近場にいる仲間達へ集合号令をかけた。すまないね、ただ世間話をしていた訳ではなく、時間稼ぎだったのだよ」

上条「嘘じゃねぇぇぇぇぇぇぇぇっ!?大人って汚いっ!?」

マタイ「ジョークだからね」

上条「じゃあしょうがないな!だったら許すわ!」

マタイ「まぁあと少しで合流する訳だ。これで最悪、逃げられる事はなくなった――では、魔術のご指南願おうか……ッ!」

上条「ざっけんなテメー!?」



――

上条「……」

マタイ「……その、馬鹿にしている訳ではないのだがね。気を悪くしないで聞いてほしいのだが」

マタイ「想定以上にその、あなたの強さを買いかぶっていたというかだな。軽く叩いただけで、なんというか、すまない」

上条「だって仕方ねぇだろ!?俺が得意としてんのは召喚魔術で、召喚と現状維持に全振りしてるんだからねっ!?」

マタイ「その辺の事情は承知している。故に召喚系魔術師とは単独では決して動かない。もしくは強力な護衛を侍らせているはずだが」

上条「それもダメなんだって!私用で勝手に術式使う訳にも行かないし、そもそも契約とも違うんだから!」

マタイ「いや、私が言ってるのはそうではな――」

マタイ「………………私用?私用とは何が?」

上条「そうだよ!『王室派』、『騎士派』、あと俺達『教会派』!どいつもこいつも、このアホ貴族は見捨てていいって言いやがったんだよ!」

マタイ「それは……まぁ、そうだろうな。たかが、とまでは言わないけれど所詮は王女の婚約者だ。スペアなど幾らでもあるものだよ」

上条「……だよなぁ。俺もぶっちゃけそう思わなくもねぇんだがなぁ」

マタイ「ではどうして?」

上条「……一人だったからだよ」

マタイ「ふむ?」

上条「たった一人だったからだよ、俺に依頼してきたのが」

上条「どいつもこいつも偉そうな服着てご立派な肩書き持ちながら、このアホを心の底から心配してたのがエリザードしかいなかったんだよ!」

上条「小さい頃から王族としての教育受けて!良い事も悪い事も人一倍見て来て分かってる筈のガキが!」

上条「『……お願い』って言われたらどこに行って誰にだって喧嘩売るわコノヤロー!」

上条「『王室派』も『騎士派』も『教会派』もクソッ喰らえだ!連中の援護なんか要らんわ!」

マタイ「……………………くっ、あははははははははははははっ!」

上条「メッチャ受けてる……!?」

マタイ「あぁいや、本当に失礼。笑うつもりはなかったし、人の覚悟を笑うのもどうかと思うのだがね」

マタイ「佳い。惚れてもいない相手に頼まれて死地に及ぶ、か。それもまた佳かろう。それでこそ佳いのだ」

上条「マタイさん……?」

聖堂騎士A「――同志よ!間に合ったか!」

聖堂騎士B「悪魔め!我らの怨敵め!逃れられるとは思うな!」

上条「……あぁクソ……!今のも演技か……!」

マタイ「いいや、そういう訳でもない――彼に近づくな!周囲には爆裂呪殺術式が張り巡らされている!」

上条「………………え?」

聖堂騎士A「そう、か?テレズマは見受けられないが……?」

マタイ「それはあなたが未熟だからだ!下手をすればここら一帯が消し飛ぶ程の威力だ!」

聖堂騎士B「くっ!イギリス清教の『最大主教』は名ばかりではないということか!」

マタイ「巧妙に隠匿しているようだが、関係ない兵士や民間人をも巻き込む形での自爆を計る――違うのかい?」

上条「ん?あぁうんそうそう!そうだよ!危険だよ!危ないって書いてね!」

聖堂騎士A「えぇい構わん!ローマ正教の敵となるならば、ここで相打ちになっても!」

マタイ「と、というのは避けるべきだ。ノルマンディーが陥落した以上、ここを守り切らないと連合軍の橋頭堡になる――よね?」

上条「そうだぞー!作っちゃうぞブリッジ!多分違うんだろうが!」

マタイ「向こうが大人しく撤退すると言っているのだから、まぁここは痛み分けでいいんじゃないかな。私も多少疲れてはいるし」

聖堂騎士B「なん、だと?同志マタイと同等の使い手だったのか……!?」

上条「そうだな!お前らがこれ以上仕掛けてこないんだったら俺も戦う意志はないよ!だってそもそもが人助けなのだから!」

マタイ「ならば去りたまえ、悪魔よ。次こそは戦場で雌雄を決する故に」

聖堂騎士A「……」

上条「なんか分からんがまぁありがとうな!二度と会うつもりはねぇけど!」

……

聖堂騎士A「同志マタイ、率直に言って我々はあなたの信仰を疑っている」

マタイ「ほう?あなたが私の?どういうことだね?」

聖堂騎士A「あのまま仕掛けていれば『最大主教』の首をとれていただろう?」

マタイ「この陣地や大勢の人死にと引き換えにかね?」

聖堂騎士A「それでも!我々はやらねばならん!神敵メイザースを滅するためにも!」

マタイ「……ふむ。そちらのあなたはどう思うのかな?」

聖堂騎士B「……私も同じ考えです、同志マタイ。あの者が優れた魔術師とはとても思えません!」

マタイ「では私が嘘を吐いていると?」

聖堂騎士B「そっ!……そういうつもりはありません!ありませんが、噂とはかけ離れた惰弱な魔術師ではないのかと!」

聖堂騎士A「ここで退けば教会になんと言い訳するつもりだ!?そのために何人死のうが構わないではないか!?」

マタイ「――私は教会の犬になったつもりはないのだがね――」

聖堂騎士B「同志マタイ、今なんと?」

マタイ「いや別に?ならば好きにしたまえよ、と言ったまでだ」

聖堂騎士A「当り前だ!神よ!あなたの敵をいざ滅殺仕ら――」

パキュッ

聖堂騎士A「あ――れ……?腕、が、俺の腕が……?」

マタイ「おや、どうしたのかね?威勢のいいのは口だけなのかな?」

メキメキポキポキボリゴリゴリゴリゴリッ

聖堂騎士A・B「があぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!?」

マタイ「言っただろう?『召喚術士が単身乗り込んでくる訳がない』と。ましてやあの対空砲火を無傷で乗り切るなどとてもとても」

マタイ「痛めつければ姿を現すかと思ったのだが……おや、もう死んだのかね。遺憾の意を表明するのもやぶさかではないよ」

マタイ「元同志だった者たちよ。あなたの家族には『勇敢に戦って死んだ』と伝えると約束しよう、どうか佳き旅路を」

マタイ「しかし。と、いうことは――『契約』、『契約』だな。元同志は何かに抵触したのか、それともしなかったのかな」

マタイ「殺意を向けるのか、自衛の範囲であれば許されるのか――なぁ?あなたはどう思う?」

コロンゾン『――次は、お前も殺したるからな?』



――ロンドン ロンドン塔

上条「……ただいまー」

コロンゾン『お帰りー。どうだったシェブール?』

上条「ん、あぁまぁ別に大したことなかったよ?ばっかんばっかん砲弾飛んでてさ?それがうるさかったのは大変だったけど」

コロンゾン『それでお土産は?』

上条「うん待って?もっとこう心配するものがあるんじゃねぇかな?例えば俺とか?他にも俺とか?人間らしい心遣いってあるんじゃないの?」

コロンゾン『――んんっ残念!悪魔なりけるな!』

上条「知ってたわー。結構前からそんな気はしてたわー」

コロンゾン『アホ貴族はどうあそばれたので?』

上条「思ってた以上に元気だった、かな?途中で目ぇ覚まして暴れて大変だった」

コロンゾン『言うてやらなかったの?「お前は全ての派閥から見捨てられたりしよ」って』

上条「まぁいいじゃねぇか。エリザードに格好付けようとしたんだから、最後まで意地張るのもいいだろうし」

コロンゾン『男のプライド?』

上条「あとエリザードにめっちゃ殴られてた。『あれお前まさかとは思うけど自分でトドメ刺すから助けてって言ったの?違うよね?つーかまず殴る手を止めよう?話を聞こう?』ってツッコんだわ」

コロンゾン『あの子の気性からするとありえたる選択肢よね』

上条「ない――とは言い切れないな!てかあの王室は基本的に選択肢を間違え続けるからな!」

コロンゾン『乗り換えたる?』

上条「そうだなぁ。ヤベェ方向に行きそうだったらそれもありだが……」

コロンゾン『どこもかしも似たり寄ったりしなぁ』

上条「割かしマシな部類……だといいな。そう思いたい」

コロンゾン『あぁあとミナが亡くなったわ』

上条「……そっか。葬式は?」

コロンゾン『ダイアンが既に……私は、まぁ嫌われとぉたるからな』

上条「全部だよ。息子に近づく異性は全部排除していただろ。大人なのに兆大人げない人だったからな」

コロンゾン『反対はしたぞ?出来の悪い愚者一人の命と親の死に目、比ぶるようなものでもなかりしなぁ?』

上条「そうだな。だから行ったし、これからも行くさ」

コロンゾン『親不孝ものめ。折角私が逝かない理由を作ってやったというのに』

上条「それはないよ。ミナ母さんは俺が行かなかった方が怒る、と思う」

コロンゾン『そう、ですね』

上条「ただ……そう、ただ。ちょっとだけ寂しい――」



――1954年 ロンドン (トマス=メイザース 54歳?外見年齢13歳)

上条「――っていうか前から思ってたんだけどさ」

コロンゾン『んー何?大事な話だったら後回しにしたりしな。今ちょっと大切なニュースが』

上条「俺の寿命ってどうなってんの?」

コロンゾン『今更!?折り返し地点過ぎてから!?』

上条「できれば何とかしてやりたい連中がいるんだけど、自分でするか誰かに伝えるかで迷ってる」

上条「つーかこれなんなの?前の世界じゃなかつたよ?」

コロンゾン『と、言われてもそれに関しては私も理解できておらんし……推測だったら多少は』

上条「なんでだよ。お前の力以外に何があんだよ」

コロンゾン『発現したのが初めてだからなぁ。特に害もないし、気になるのであれば一旦契約解除するのも手ではあるが』
 
上条「それヤバくないか?ファウスト博士の異伝に解除した瞬間に老衰で死んだってあっただろ」

コロンゾン『え?超笑えたりけるし?』

上条「だからその価値観なんとかしろや!人間はもっとこうウェットなんだよ!」

コロンゾン『例えば?』

上条「レッサーでもない限り、『やりましたね!これはこれでオイシイですよ!』とか言わねぇんだよ!覚えとけ!」

コロンゾン『時として悪魔よりも悪魔っぽい人間はそこそこの頻度でおるような……というか時々出るレッサー某』

魔術師「『最大主教』、お電話が」

上条「え、どっから?」

魔術師「秘匿通信です。向こうは『伝えば分かる』との一点張りでして……呪的な汚染はまず心配ないかと」

上条「ほーん?じゃ貸してみ――ってお前なんで遠ざけてんの?」

魔術師「あ、すいませんメイザースさん。私は今『最大主教』とお話してまして」

上条「俺だよ!今まさにお前が話してんのか『最大教主』だよ!」

上条「てゆうか俺がトップじゃなかったら逆に怖いだろ!?なんでイギリス清教の最深部に関係ない子供がいんだよ!?」

コロンゾン『ザシキ-ワラーシ的なローカルモンスター?』

魔術師「教会内で一番有力な説だと『ロンドン塔で処刑された王子の霊』ですね」

上条「あぁだから新入局員とすれ違うと『えっ?今の、えっ?幽霊?』みたいな顔されんのか!てっきり遅れてきたモテ期だと思ってたのに……!」

コロンゾン『モテ期で幽霊に例えられる事ってありかりし?ない訳よね?』

上条「でも逆に考えろよ俺!妖怪じゃなくて王子様って間違われるだけワンチャンあるって事だ……!」

魔術師「あの、メイザースさんと『最大主教』?どちらでもいいので出てくれませんか?」

コロンゾン『あぁじゃあ私が――「もしもーし?名乗りられぬ相手とは仲良く出来ぬ方針なのだけれど……ってお前か」』

上条「知り合いかな――もしかして昔の彼氏!?」

魔術師「あぁ人気ありますもんね、『最大主教』」

上条「お前らいい加減にしろよ?俺がやろうと思えば『必要悪の教会・シベリア支局』にまで島流し出来るんだからな?」

魔術師「前々から思っていましたが、あの支局の意味は一体?」

上条「俺が入る前だから、えーっと30年ぐらい前には既にあったんだよ。一回視察に行ってみたけど、フツーに教会やってんだよな。ただクッソ寒い以外は」

魔術師「ロシア正教のテリトリーですし、間諜という線はないでしょうか?」

上条「困るような情報も流してないし、あいつらこっちにも全然寄りつかないし、自分達が魔術師だって忘れてんじゃねぇかなぁ。環境が過酷すぎて」

魔術師「流石にそこまではないかと……」

上条「直近の定期連絡が……あぁこれこれ、『ジャガイモが育たないんですけどどうすれば』ってSOSだった」

魔術師「手紙の端に涙で滲んだ跡が……!」

上条「ソバ、もといバックウィートの実をしこたま送っておいたけど……修道院は『過酷であればあるだけ神に近づける』って」

コロンゾン『ただの俗説よなぁ。ほれ、替われと先方が』

上条「俺に?つーか誰?」

コロンゾン『出れば分かりしよ。電話代かけまくってハラスメントするのも一興ではあるが』

上条「そこまで歪んでねぇよ――『はいもしもしお電話替わりましたいつもお世話になってますメイザースです』」

アレイスター『――第一声が酷く現実にこなれたオッサンみたいだよ?』

上条「『そりゃあ紛うことなきオッサンだからだよ!頭脳はオッサン!体は子供!』」

アレイスター『羨ましいじゃないか。悪い事し放題なんだね?』

上条「『目にはやや厳しいんだよ。何せドピンクの修道服とつきっきりだからな』」

コロンゾン『誰が着せとるの誰が着せたるのかな?』

上条「『つーかアレイスターお前どうしたんだよ!?父さんと母さんが亡くなったときにも顔を見せなかった癖に!』」

アレイスター『ミナの方は変装して参列したよ?』

上条「『あぁじゃあごめんな!悪かったのは俺の方だ!』」

アレイスター『君は仕事なのだから仕方がないと思うのだがね――と、自称甥との連絡を取ったのは理由があるんだ』

上条「『よく覚えてたなその設定。一言も無しに行方くらましたもんだから、忘れてるもんだとばかり』」

アレイスター『私も若かったからな。それでメイザース、私が最も尊敬する男の息子よ。君に――いや、君たちに宣戦布告をしよう……ッ!!!』

上条「『また穏やかじゃねぇなぁ』」

アレイスター『そうだとも!雌伏の時は過ぎた!私は今日ここに学術都市の設立を宣言する!』

アレイスター『魔術とは異なる技術の集大成!それが世界に伝播されるのだ!』

上条「『あ、そう。それで花輪どこに贈ったらいい?住所教えてくれるか?』」

アレイスター『……なぁ、甥よ。私の話を聞いて、というより理解していたかね?』

上条「『方向性の違いでバンド解散するって話だろ?』」

アレイスター『対人関係のもつれと一緒にしないでくれたまえよ。私の絶望を――!』

上条「『いや、だからな?お前が科学サイドに行くのも自由だし、そこで何かするのもまぁ自由っちゃ自由なんじゃね?』

アレイスター『それは君と私との関係性があるからだよ!魔術師たちはそうは考えまい!』

上条「『えーっと、コロンゾン改めローラさん?現在アレイスターにかけられている手配書かなんかある?』」

コロンゾン『大分前にやった食い逃げ、無銭飲食、あと窃盗の容疑がありたるわね。どれもこれも時効になっておるけど』

アレイスター『……指名手配は、しないのかね?』

上条「『お前アタマ大丈夫か?”黄金”から挨拶も無しにいなくなったのは、俺もちょっと怒ってたけどそんなんで指名手配するか?なぁ?』」

上条「『それにこっちの情勢はある程度把握してるんだろ?スパイか情報屋かは知らねぇが、そいつらから”アレイスターを探してる”って連絡あったか?』」

アレイスター『……なかったな』

上条「『ぶっちゃけお前ぐらいの魔術師が科学サイドに行くのは、正直勘弁してくれって思うし、科学の発展に関しても忸怩たる思いがないわけでもない』」

上条「『ただな?アレイスターを暗殺したとしても科学の発展は止められないだろうし、首に縄つけてこっちに戻って来させてもどうにもなんねぇだろ?』」

上条(史実ではアレイスターは魔術サイドから追放された上、指名手配されて科学サイドというか学園都市を興した。それはまぁいい)

上条(その際にはエッライ攻撃受けてカエル先生がいなきゃ死んでいたらしい、というのもまぁ理解は出来る)

上条(ただし――そこまでする必要があったのかよって話だよな。魔術師サイドにとっては損失だし、科学技術の向上も頭が痛い)

上条(恐らく指名手配したのもアレイスターを殺そうとしたのも、魔術サイドのお尋ね者にしたのもコロンゾンの策略だって結論になるよな)

上条「『――ま、そんな感じでこっちでは、少なくとも俺達と”黄金”はお前を敵視してねぇよ。もっと早くに連絡寄越せとは思うが』」

上条「『つーかそっちの準備一段落したら顔見せに帰って来いや!父さん母さんの墓までな!』」

アレイスター『そうか……そうか。私にも帰る場所は、あったのだな……』

上条「『あとできればいいからそっちの技術もある程度こっちにくれないか?魔術の革新に繋がるかもしれないし?』」

アレイスター『それが本音かね?随分立派になったものだ』

上条「『……周囲の人間に恵まれたお陰でな。つーかお前はまだ――』」

アレイスター『研究者は選ぶさ。子供の頃から育てるのも悪くはなかろうが、非効率で手がかかる』

アレイスター『ならば最初から、自分に責任が持てる人間だけを選別するのが筋だというものだ。違うかね?』

上条「『……そっか。ならまぁ、いいか』」

アレイスター『それでは私の甥よ。また連絡するよ』 プツッ

上条「……生きてたんだなぁ。生きたまま死んじまうかと思ってたのに」

コロンゾン『最後のは、何?』

上条「『子供は実験材料にしない』って事だよ。誰かじゃなくて自分のためにもな」



――1959年 アメリカ ニューヨーク オービット・カーネリアン社(トマス=メイザース 59歳?外見年齢14歳)

レディリー「グッゲンハイム美術館の落成式への招待、招待ねぇ?気が進まないわ」

レディリー「鉱山王が篤志に目覚めるわけでもなし、せめて誰かに恵んでいれば悪名は薄れたでしょうけど」

執事「――お嬢様。お客様がお見えになっています」

レディリー「客?私はまだザールランドにいるはずだけど?どなたかしら?」

執事「イギリス清教の『最大教主』を名乗っておりました」

レディリー「……頭のおかしな人間ではないということね。別の意味での可能性は残しているけど」

執事「その方がお嬢様に会わせろとロビーで服を脱ぎ始めました」

レディリー「なんで?私に合うのと脱衣の関連性は?」

執事「『そうか俺が信じられないか!ならばせめて全裸になって疚しい所がないと証明しよう!』と」

レディリー「あるじゃない疚しい所が。体の中央部に」

執事「どう致しましょうか?警備員につまみ出させましょうか?」

レディリー「いえ、ボディチェックをしてから連れてきなさい。ここで下手に追い払うと、それを口実に『交渉を蹴った』って難癖をつけられかねないわ」

執事「かしこまりました」

レディリー「まぁ……イギリスの庭ではないし、即座に襲われる事もないでしょうしね」

上条「どもうも初めまして上条改めトマス=メイザースです!」

レディリー「……レディリー=タングルロードよ。お目にかかれて光栄だけど、事前にアポイントメントがほしかったわね」

上条「あぁごめんなさい。連絡入れたら逃げられると思って」

レディリー「レディを捕まえる労力は殿方の器量じゃなくて?」

上条「ロ×ババ×がレディとかwwww」

レディリー「殺して埋めるわね」

上条「俺のバカ!バカバカバカ!正直すぎる口が勝手にツッコミを!俺は悪くないんです!」

レディリー「口の雇用者責任はあなたにあると思うのだけれど?それで?」

上条「あぁこれつまらないものですかお土産です。ロンドン塔の売店で売ってるキーホルダー」

レディリー「ここ数百年で一番つまらないお土産ね。誇っていいわ」

上条「あとボディーチェックするときの人選はよく考えてほしい」

レディリー「いつの時代も追われている女よ?」

上条「あぁいやそういうこっちゃなくて。、年上の無表情系メイドお姉さんが義務的に全身をまさぐるのは、その、興奮する」

レディリー「それはあなた個人の問題じゃないかしら?癖(へき)よね?単純に?」

上条「幾らだ!?幾ら払えば個人的に人形を譲ってくれるんだ!?」

レディリー「護衛用のは販売しているけど、そっちはちょっと……」

メイド人形「レディリーお嬢様、今までお世話になりました。私はお嫁に行きます」

レディリー「感情機能を入れてないのに自主退職を求めてきた!?まさかあの短時間で私の子供に悪さをしたのね!?」

上条「まぁ冗談はともかく、えーっとタングルさん?」

レディリー「勝手に略さないで。レディリーでいいわ」

上条「じゃあ俺もお兄ちゃんでいいぜ」

レディリー「等価交換ってご存じ?レート比率が大幅に合ってないわよね?」

上条「今日は業務提携のお願いがあってきました。こちらが資料になります」

レディリー「……意外ね。イギリス清教の傘下へ下れと言われるとばかり」

上条「できれば俺もそうしてくれた方が有り難いとは思う。こっちへ入ったらある程度言うことは聞いてもらうけど、その分外部からも守りますねって事だから」

レディリー「信じ切れないわねぇ。だから業務提携と」

上条「こっちから資産を渡してそちらで運用してもらう。その分だけこっちは御社のために働きますよ、っていう話だな」

レディリー「悪くはないけれど……どうして私に?」

上条「経済関係で一番のトップに立ってるのがレディリーさんだってのがまず前提だな。この業界閉塞的で中へ中へ籠もりがちだから」

レディリー「経済もそこそこ楽しめるわよ?暇潰しには持って来いだし」

上条「加えて俺の外見見たら分かるだろ?他の誰よりもお前に近いっちゃ近いんだから、その縁でだ」

レディリー「……そうね。あなたは寿命があるタイプ?それともずっとそのまま?」

上条「アドバイザー曰く、『中身は緩やかに死んでいく』らしい。要は外見の変化が止ってる分だけエネルギーを消費しないっぽい」

レディリー「心の底から残念だわ。いいお友達になれると思ったのに」

上条「まぁ確定したわけじゃないから、中々死ななかったら仲良くしてほしい」

上条「んでこっちから求めるのは資産運用と情報提供。メリットとしてはその分だけの安全保障と、あーまぁこれ言うのもどうかと思うんだが……」

上条「……死にたい、よな?」

レディリー「……それはね」

上条「ならそっちの情報と技術提供――ってのもアレだから、そっちは前払いで渡しておくわ」

レディリー「随分と気前のいい話ね。ガセでなければ、だけれど」

上条「『幻想殺し』って知ってるか?」

レディリー「当然ね。全ての異能を無効化する呪い」

上条「呪い、あぁまぁ呪いっちゃ呪いか。それを呼び出そうってやってる魔術師がいる」

レディリー「その手の話はたまに聞くわ。ただ成功例が皆無なだけで」

上条「それがアレイスター=クロウリーでも?」

レディリー「生きていたの!?――って、あなたは弟弟子なのよね」

上条「今日本で学園、もとい学術都市って街を作ってる。テーマは『超能力者の研究』で、科学の街だ」

レディリー「それは……畑違いじゃなくて?」

上条「いいや、魔術も”異能”だ。だが俺達はどっちの街で大量に集ったり、研究したことが有史以来一回もない」

上条「けどそれが、一つの街で数万、数十万人集まれば?」

レディリー「『幻想殺し』は”歪み”を解消するための自浄作用説……!!!」

上条「ちなみにウチとは業務提携を締結しているから話は通りやすい。ただまぁ別に俺を飛ばして、直で叔父貴に交渉すんのもいいとは思う」

上条「金ない金ないって言ってたから歓迎されるぜ」

レディリー「それでも身内であるあなたの紹介があった方がより確実、か。いいわね、悪くない話だわ」

上条「でこちらが運用資産の1万ドルです」

レディリー「少なっ!?」

上条「俺の持ち出しなんだからしょうがないでしょうが!コツコツ溜めてたのに!」

レディリー「……期待されてないような?」

上条「金額の大小はいいんだよ!そしてこのリストが投資してほしい企業一覧だ!」

レディリー「聞いた事もあるのもあるけど……なにこの検索エンジン開発会社って?通販業者の名前も」

上条「いいから買っとけって。絶対に上がるからさ」

レディリー「いいけど……あとなにこれ?人名と数字?」

上条「次の大統領選挙の候補者と得票数。これが当ったら信じてくれるよな?」

レディリー「これは何は?予言?」

上条「チートかなぁ。誉められもしないし、ただ単に卑怯な真似してるってだけで」

レディリー「どんな手段だろうと当れば力よ。そうね……誤差1%以内だったら、イギリス清教に入会してもいいわよ?」

上条「条件が緩い。0.01%で構わない」

レディリー「……それでもし的中したのであれば、限りなく未来が見えてるって事になるわね」

上条「外したら超笑われるけどな!じゃあまぁ今日はこのぐらいで、話せて良かったよ!」

レディリー「私も久しぶりに楽しかったわ」

メイド人形「お嬢様、どうか末永くお元気で」

レディリー「待ちなさい。そして残りなさいあなたは!」

上条(レディリーゲットー、ロ×枠なのかお姉さん枠なのか、フリーリ○さん枠かなぁ。【VR:レディリー=タングルロード・武力6・智力9・コスト3.5】)
(※VR=ベリーレア))



――1988年 イタリア 大科学博覧会

少年「ねぇお姉ちゃん凄いよあれ!お空を飛ぶ車だって!」

女性「そうねぇ、凄いわよねぇ。でもお姉ちゃんはちょっと怖いかな」

少年「そう?僕乗ってみたかったんだけど……」

女性「こっまで持って来てるんだから大丈夫だとは思うんだけど……あ、じゃあれにしない?コースターあるじゃない」

少年「えー、子供っぽくない?」

女性「でもほら『重力分散機構内蔵』って強そうじゃないかな?滅多に乗れるもんじゃないよきっと!」

少年「んー、じゃあ乗ろうよ!」

女性「お姉ちゃんは……遠慮したいかなぁ、なんて。ダメ?」

少年「やだ!お姉ちゃんと一緒がいい!」

女性「……一回だけだよ?それ以上はお姉ちゃん下で待ってるからね?」

少年「うんっ行こうっ!」

……

???「――損傷が酷いね?二人とも展示用のメディカルカーまで運んでほしいね?さぁ早くするんだよね?」

女性「……った……こ、こは……?」

???「意識の混濁があるね?……ここは科学パビリオンで、君たちはコースターの脱線事故で怪我をしたんだね?」

女性「そう――弟はっ!?弟はどうなったんですか!?」

???「まず落ち着いてほしいね?そして横を見るんだ?」

少年「……」

女性「なんて――怪我を……ッ!?」

???「君が地面に落ちる瞬間、庇ったようだね?その分だけ損傷も酷いんだよね?」

女性「弟を、弟を助けて下さいっ!この子は、珍しい血液型で!」

女性「私の血だったらどれだけ使ってくれても構いません!だから、だから弟の命だけは――!!!」

???「ダメだね?それは聞けない話だよね?」

女性「そんな?!どうして!?」

???「君こそ誰に物を言っているのか分かっているのかね?」

女性「え……」

???「幸いにもここには科学の最先端技術が結集しているね?それは医術についても同じなんだよね?」

???「例えばほら、君と弟さんに輸血している白い液体?これは人工血液といって、ある程度の幅ならどの血液型にも合致するね?ただちょっとお高いのだけれどね?」

女性「じゃ、じゃあ……!」

???「あとこれは秘密なんだよね?未承認だし、故に治療費にも上乗せできないから僕の持ち出しになるんだよね?困ったもんだよね?」

女性「ありがとう、ありかどうございます……!」

???「助けられる命を助け、助けられない命も助ける――」

冥土帰し(???)「――それが僕と科学の仕事なんだよね?」



――

男A「おい!マズいぞ、このままだったら助かるんじゃないのかあの姉弟!?」

男B「指示通りにやったんだが……まだだ!あいつらが病院へ移送されるときに襲えばいい!」

男A「そう、だな。そうやって辻褄合わせをすれば――」

マタイ「――『魔弾』よ」 ヒュウンッ

男B「があっっ!?」

マタイ「腐っている、とは思っていたが……まさかここまではな」

男A「貴様は――マタイ=リース!?なんで俺たちを邪魔するんだ!?」

男B「……いいか?俺達はお前が知っているもっと”上”から命令でやっている!邪魔をした以上、もう命は」

マタイ「私が仕えているのはいと高き御方のみ。教会に仕えたわけではないよ――連れて行け」

聖堂騎士「ハッ!――ほら歩け!」

男A「こ、後悔するぞ!?俺達を敵に回したらどうなるか!」

マタイ「私の心配より自分の心配をした方が佳いと思うがね。なにせ君たちが連れて行かれるのはあの悪名高き異端審問なのだよ?」

……

上条「――すいませんでしたっ!!!」

マタイ「見事なDo-gezaだね。サムライ映画で観たよ。なんで私に謝罪するのかは分からないが」

上条「いやなんか悪い部分は全部押しつけちまった感じだし……」

マタイ「身内の不始末だからね。こちらとしては恥じ入るばかりだよ」

上条「これからどうするかは……聞かない方がいいか」

マタイ「そうだね。死ぬまで拷問して死んでからも術式として酷使するとか、聞かない方がいいんじゃないかな」

上条「助けてあげて!?せめて安らかな死を与えてあげて!?」

マタイ「仕方がないな。今回の情報提供者から強く望まれたのであれば是非もないね」

上条「テメ……言わせやがったな俺に?」

マタイ「趣味ではないのでね。まぁともあれ今回のことではあなたとあなた達に深く感謝している。借り一つだね」

上条「あぁじゃああいつらの件で貸し借り無しにしておいてくれよ。どうせここからが大変なんだしさ」

マタイ「そうでもない。手品の種が割れているのだから、話は早いね」

上条「今の時代だと……『先代』がいるかもだが、年代的には全員代替わりしている以上、いないのもいるかもしれない」

マタイ「その時はその時だね。高慢の罪には対価を支払ってもらわないとな」

上条「あの……超怒ってます?」

マタイ「それなりにはね。教会上層部が異端であるという事実に対し、強く強く憤りを覚えているとも」



――1984年 ロンドン某所(トマス=メイザース 84歳?外見年齢15歳)

研究員「では今から魔術の起動実験を始めます。被験者エリスさん、準備はいいですか?」

シェリー「エリス!無理はしないで!」

エリス「あぁ大丈夫だよ。そんなに強い術式は発動できないし、きっとその分だけ体への負担も少ないはずだから」

エリス「――では行きます。術式A起動……くはっ!?」

シェリー「エリスっ!?エリス!」

研究員「実験中止!待機している医療班を入室させない――ってなんだ!?部外者が、がああっ!?」

シェリー「誰!?」

騎士派A「外道と手を結ぶ異端者よ!我らの手にかかって滅びるが良い!」

騎士派B「汝らに恨みはないが……許せよ!これ以外に目を覚まさせる術を知らぬ故!」

シェリー「この――エリスから離れろ!その子は何も悪くない!」

エリス「僕……はいいから、シェリー……逃げて……!」

騎士派B「異能者でありながらその心意気や見事!せめてひと思いにトドメを刺して進ぜよう!」

シェリー「やめろ!やめろぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!?」

研究員『――ばあぁっ☆』

騎士派B「……は?が、グ、があぁ……?」 パタッ

コロンゾン(研究員)『あらあら頼りなきことなりしな?国を守りたる立派な騎士様が少女の柔腕一本ふりほどけぬとは、なぁ?』 ギリギリギリギリッ

騎士派A「き、貴様っ!?!?何者だっ!?」

コロンゾン『聞きたりてもどうせ意味はなかりことなしりよ?今からお前たちが落ちるのは昏く昏い場所』

コロンゾン『個人的にはドロオォッとした感情もまぁ好感が持てたりけるが、まぁ?運が悪かったと思うて?ねっ?』

コロンゾン『そして――覗き見しているお前、お前も逃げられ――』 プツッ

……

騎士団長「……なんだ……?何が起きた?」

騎士「分かりません。この連絡を最期に現場との通信は途絶えたままです」

騎士団長「馬鹿な……!『必要悪の教会』連中の動向は把握していた筈だぞ!?一体誰がやったというのだ!?」

騎士「……不明ですな。『最大主教』とも考えましたが……」

騎士団長「あのガキはハリボテだろう?親から才能を受け継げず、自らの悪魔に魔力を全て持っていかれている無能者」

騎士「で、ありますな。実際にここ半世紀、術式を行使した記録はありませぬ故」

騎士団長「とすれば外部からの協力者か?あの、能力者とかいう連中」

騎士「そちらであれば手はまだありますな。海外の連中を我々に一言も無しに引き込んだ上、我々『騎士派』を害した罪だと」

騎士団長「そう、だな!まだ手はあるはずだ!」

従士「『騎士団長』!お電話です!」

騎士団長「今は取り込み中だぞ!」

従士「いえ、その……『最大主教』からなのですが」

騎士団長「………………繋げてくれ――『私だが?』」

上条『――まず勘違いしているところがいくつかある。一つめ。俺は術式を行使してないんじゃなく、その場面を見せてないだけだ』

上条『基本的にはここぞってときか、全滅前提でぶっ放すから証言者がいない』

騎士団長「『貴様っ!?どこから聞いていた!?』」

上条『二つめ。召喚者が魔術を消費するのは非召喚者へ枷をはめるためだ。嘘を吐くな、傷つけるな、殺すな、とか。まぁ縛りが重ければ重いほど強く消費する訳でだ』

上条『ウチの悪魔には一切そういうのはやってない。だから殆ど消費していないんだわ』

騎士団長「『悪魔――悪魔と言ったか!?そいつは今どこに――』」

上条『三つめ――これは俺の友達の友達から聞いた話なんだが、あるところに電話がかかって来た。「もしもし」と受話器を取ると、こう聞こえてきた』

上条『「もしもし、わたし――いま、駅前にいるの。いまからそっちに行くね?」と言って電話は切れる』

上条『なんだろう?と首を捻っていたらまたかかってきてた。もしもし、出る。すると』

上条『「もしもし、わたし――いま、近くの公園にいるの。いまからそっちに行くね?」と。段々と電話の主は近づいているのだった』

騎士団長「『な、何の話をしているんだ貴様っ!?ここは我々の騎士派の本部だぞ!害意を持つ者は何人たりとも――』」

上条『もう電話はかかって来ない。だがそれは幸運だとは限らない――』

コロンゾン『――もしもし、わたしローラちゃん。今、あなた達の後ろにいるのっ☆』

……

上条「――はい、では今から面接を始めたいと思いまーす。てゆうか知ってんだけど、クロムウェルさん?」

シェリー「は、はいっ!シェリー=クロムウェルです!この間はありがとうございましたっ!」

上条「あーいやいやこちらこそごめん。もっとスマートに助ける筈だったのに、俺の悪魔が暴走しやがって」

シェリー「そんなことありません!あのバカどもも最期は生まれて来たのを後悔していました!」

上条「あぁこの時点で若干壊れてんのな。それであの、あなたはイギリス清教の魔術師であって、『必要悪の教会』に所属したいって話ですよね?」

シェリー「頑張ります!」

上条「研究職志望って事でこっちも歓迎します。基本的には脳筋が多いので、多分前線に出る機会は少ないと思います」

上条「とはいえ襲ったり襲われたりは日常茶飯事なので、ある程度の戦闘力を常に展開できるようにしていて下さい」

シェリー「はいっ!」

上条(さて、誰の下につけるか……あぁ魔術のスタイルはカバラだっけか?だったら人形も遣うレディリーかなぁ)
(※Get――【UC:シェリー=クロムウェル・武力3・智力4・コスト2.0】)



――1994年 フランス シェルブール(トマス=メイザース 94歳?外見年齢15歳)

騎士「オルウェル!姫様は……!」

アックア「こちらに」

ヴィリアン「……」

騎士「怪我は……ないようだな」

アックア「当然である、と言いたい所であるが。誘拐された時点で大失態であるな」

騎士「それは……仕方がないだろう。相手が狡猾すぎた」

アックア「言い訳にもならないのであるな。敵に害する意図があれば、命はとうに奪われていたのである」

騎士「……負けだな、俺達の」

アックア「端っから勝負になってなかったのであるな。敵ながら死を厭わず向ってくる兵士と、派閥争いで姫君の救出を諦める騎士ではな」

騎士「思っている以上に腐敗が進んでいる、か」

アックア「『王室派』、『騎士派』、『教会派』――この三軸が協力はおろか、対立していてはとてもとても。いつからこうなったのであるか?」

騎士「……さぁね。いつからだろうな」

アックア「まぁ、些事であるな。それでは」

騎士「待てオルウェル!?どこへ行くつもりだ!?」

アックア「さて……どこであるか?ゴロツキはゴロツキらしく、また旅に出るのである」

騎士「お前――まさか外から……?」

アックア「そう思うのは勝手である。それでは――」

上条「――って言ってんだけど、実際の所はどうなん?」

コロンゾン『そうねー、私もそこまで知らないっていうぶっちゃけ興味なかりしけど、ヘンリー8世の時には分かたれてたっぽいなりし?』

上条「ローマ正教と決別した人だっけ?」

コロンゾン『政治的な要員で分かれたにも関わらず、まぁ結局愚王やら愚君主は量産されたる訳だけど』

コロンゾン『そっから独立する形で「騎士派」と「教会派」ができた感じ?』

上条「てかあそこでキリッとかやってるアホ、この10年後にはエグゼキューターでクビ刎ねようとするんだぜ?」

コロンゾン『えー、マジなりし?だったらこの茶番――ハッ、もしや!?Bなの?BがLしちゃうする関係かしら!?』

上条「可能性はあるんだよなぁ。『こいつさえいなければ!』みたいな怨念も感じるし――あぁまぁ俺は多様性があっていいと思うけどな!俺はね!」

コロンゾン『誰に向って言い訳を?』

上条「約30年後に流行る言葉――『タイBL』」

コロンゾン『なんでタイ!?ゲイ先進国なりし!?』

上条「そうらしい。調べてもねぇんだけど一瞬だけど超流行った。パワーワードっていうか」

アックア「……おい、貴様ら」

上条「あぁごめんごめん続けて続けて?邪魔はしないから!落ち着くまで待ってるから!」

コロンゾン『そうそう!ぶちゅーってしたりてもオッケーよ?見て見ぬふりは得意よな!』

アックア「魔術師……?」

騎士「あの……失礼ですが、『最大主教』のお二人が何故ここに?」

上条「ここにも何も。ヴィリアン様誘拐されたってエリザード陛下から聞いたから助けに来たんだけど?」

アックア「馬鹿な!?『教会派』が『王室派』のために動くはずがないのである!」

上条「いや動くわ!ここで放置すればナメられてもっと危険になるだろ!」

コロンゾン『そうねぇ。若い女子一人誘拐したんだし、エ×ッエ×なことされるのは食い止めるなりしよねぇ』

上条「まぁ部隊回すのに時間かかっちまったし、出遅れたのは確かなんだが。それじゃちっとノートルダム焼いてくるわ、ローラは先にやっててくれ」

コロンゾン『はいはーい』

アックア「待つのであるな!ヴィリアン様自体にそんな価値があるとは!」

上条「じゃあお前は価値がなかったら見捨てたのか?」

アックア「それこそ、まさか、であるな。価値のない者などこの世には存在しないのである」

上条「その通りだ。俺もその子は結構評価してて――将来『教会派』のトップにしようと思ってる」

アックア「……『教会派』に?

騎士「その、『最大主教』殿。横から口を挟ませてもらうが、ヴィリアン様は大変な温厚なご気質でおられて」

アックア「『教会派』は内部から蚕食するつもりであるのか?」

騎士「オルウェル!口が過ぎるぞ!」

上条「”それ”がお前がその子につけた値札だよウィリアム=オルウェル。組織一つのトップには足りない器だと」

上条「……まぁ俺よりも近くで見ていた俺よりもお前らの方が詳しいだろうが。それは”今”の話だ」

上条「教育次第、環境次第、状況次第で化けるんじゃないかと俺は見ている」

アックア「それは……」

上条「今日は騎士様に助けられたか弱いお姫様だが、いつかはクロスボウ持って戦場に立つかもしんねぇぞ、つってんだよ」

騎士「納得はしないは理解はした。しかしそれでは『教会派』がまとまるのですか?」

上条「力のないトップでも組織運営は出来るだろ?あとついでになんだったらもう一人、引き抜きたい人間もいるし。なぁ、オルウェル?」

アックア「私、であるか?だが私は」

上条「いいじゃねぇか。『騎士派』から疎まれてんだろ?だったらそんなアホども放って俺達と遊ぼうぜ!」

上条「形としちゃ『王室派』と『騎士派』から幹部を迎え入れるんだから文句もねぇだろうしな!まぁ後々連中の話を聞くかは別にして!」

騎士「成功するとは……思えませんが。ご本人の問題もあれば、横やりが入るのは目に見えている」

上条「だったら適任じゃなかったって話だな。また別の人選を考えるさ。で、どうよオルウェル?」

アックア「……ヴィリアン様次第であるな。是と言えば身命賭けてお仕えするのである――が」

アックア「――否というのも無理矢理付かせようと画策した場合、分かっているのであるな?」

上条「おう、分かってるとも。ただ――分かってないのはお前の方だぞオルウェル卿?」



――

上条「――と、言うわけでお疲れさまですヴィリアン様。お体の方は如何ですか?」

ヴィリアン「ありがとうございます。殆ど眠らされていたので恐怖は……ありましたが」

上条「それは誰だってそうだと思います。俺も男ですが、誘拐されるたびに『土御門のヤロー殺してやる』って思いましたから」

ヴィリアン「多分、それとは違うと思うんですよね。というか驚きますよね」

上条「でしょう?この執務室のガーパイク、年々大きくなって捨てるに捨てられないんですよ?」

ヴィリアン「いや、その立派な水槽には興味がなくてですね。『最大主教』様はいつまで経ってもお若いのですね、と」

上条「あぁまぁ呪いですからねぇ。かれこれ60年ぐらいこんな感じです。あなたのお母様の洗礼もやったんですよ?」

ヴィリアン「はぁ、凄いのですねぇ魔術師の方は」

上条「『だから呪いなんだよ。D×の呪いが姿を変えて俺に襲い掛かってんだよ』」

ヴィリアン「急に日本語ですか?」

上条「忘れて下さい――で、本題なんですが、ヴィリアン様、『教会派』のトップやりません?」

ヴィリアン「それはつまり『必要悪の教会』を率いる身になれと?『王室派』の私に」

上条「まぁ別にあなたを虐めるためにやるつもりはなくてですね。適任だと俺は思うんですよ」

ヴィリアン「正直……私はそうは思えません。私の性格もそうですが、何より『王室派』が『教会派』のトップに立つというのは」

上条「『王室派』に利益を流すと?」

ヴィリアン「そう言われるのは目に見えています」

上条「そうですね。それは確かにあるでしょう――でも、それがどうだって話ですよ」

ヴィリアン「大事じゃないですか!」

上条「ヴィリアン様。あなたのお立場は分かります。上に二人、それぞれの分野で有能なご姉妹がいる。それは事実です」

上条「比べてヴィリアン様は結果らしい結果を出しておられません。それもそうですね」

ヴィリアン「……あの、分かっていても口に出されると心的なダメージが……」

上条「あ、じゃあ別にヴィリアン様じゃなくてもいい……?」

ヴィリアン「私は何故ここに呼ばれたんでしょうか?心を折りにわざわざ?」

上条「お帰りはあちらです。あ、これつまらないものですがお土産です。ロンドン塔のキーホルダー」

ヴィリアン「実は欲しかったのでちょっと嬉しいです。あと、流石にこのまま帰されるのは夢に出そうで」

上条「と、言うわけでやってみませんトップ?どうせ誰も期待してないんですから、ダメでも『あ、やっぱり』で済みますよ!」

ヴィリアン「説得しようとしていましたか?その説明で『お願いします!』っていう人います?」

上条「まぁ冗談は横に置くとしまして、他からの横やりや圧力は大丈夫だと思いますよ?」

ヴィリアン「そう、でしょうか?お姉様方から無理難題が来そうな……」

上条「あぁそれは現在のヴィリアン様のお立場だからですよ。王女殿下は一番下で後ろ盾がないっていう」

ヴィリアン「……」

上条「でもそれは『教会派』のトップになったら変わりますよね?あなたを敵に回したら魔術師達にケンカ売るのと同義だっていう」

ヴィリアン「『虎の威を借る狐』、でしたか?」

上条「立場を借りるではなく、立場を使う、と考えてください。一方的に利用するのではなく互助関係になるんですよ」

上条「あなたが組織を上手く運営すれば魔術師達にもメリットがある。だから身内であるあなたを守ります。ただそれだけの話です」

ヴィリアン「お話は理解できました。私が期待されているのも含めて」

上条「まぁこの際だからぶっちゃけますと、それぞれの派閥なんてどうでもいいんですよね。内部抗争や足の引っ張り合いなんてウンザリです」

上条「『教会派』は、少なくとも俺がトップに立って半世紀以上、一貫して護国に徹しています。国内の権力争いには口を出していません」

ヴィリアン「ですね。それはお母様が『常に中立を保ってきた』と」

上条「でもそれは俺が良いと思ったのであり、ヴィリアン様が変えるのもまた自由だと思います」

上条「『王室派』に迎合するのも、なんでしたら統合したり下請けになるのもいいでしょう。あなたが本当にそれを望んでいれば、ですが」

ヴィリアン「……厳しい、ですね。私の周りにはあれをするなこれをするな、という方が多かったのですけど」

上条「まぁ最悪、難癖つけるのが酷いようであれば、こっちでなんとしますから」

ヴィリアン「それやりましたよね?時の『騎士団長』と首脳部が行方不明になりましたよね?」

上条「代替わりも10年……ぐらい先の話になるでしょうし。あぁそうそう、あなたのご結婚も制限されるんですよ。ご婦人の将来を狂わせるようで大変遺憾ですが」

ヴィリアン「ヘー……え?」

上条「当方は非合法組織でありまして、そんな組織に所属する以上、ヴィリアン様のお立場も変化致します」

ヴィリアン「あの、それは少し考えるお時間を頂けると」

上条「具体的には外国や『王室派』・『騎士派』の人間との婚姻が不可能になり、かつ臣籍降嫁してそこそこの人間しか選べなくなります」

ヴィリアン「王室的の義務的にはどう、なんでしょうか?お母様がそれで納得するかどうか」

上条「ちなみにあなたがイエスと言うのであれば、サポート要員として元ゴロツキで一応騎士爵を持つ傭兵崩れ、誘拐事件で先陣切った功労者」

上条「まぁ一言で言えば、結婚相手の条件を充分に満たしているネギを背負ったままのカモが側近に付いてきます」

ヴィリアン「やります。やらせてください」

上条「はい、ありがとうございます。では詳細は後から詰めるとして、暫くは普段通りのご公務をお過ごし下さい」

ヴィリアン「あの……いいんでしょうか、本当に」

上条「ご心配なく。『王室派』と『騎士派』の皆様には俺、それでダメならスチュアートが直接出向いて”お願い”しますから」
(※Get――【R:ヴィリアン・武力1・智力3・コスト2.5。固有スキル:人望】)
(※Get――【VR:ウィリアム=オルウェル・武力8・智力7・コスト3.0。固有スキル;聖人】)



――1996年 日本・羽田空港(トマス=メイザース 96歳?外見年齢15歳)

コロンゾン『ここがヤポンたりけるかー。ミソとショーユの匂いは……しなかりしな。「空港降りた瞬間」というのはデマなりしね』

コロンゾン『じゃあ私は予定通りに食べ歩きツアーを敢行してるけるが――トーマ?聞きたりし?』

上条「んー?あぁゴメンゴメン聞いてたよ。ちょっと懐かしくてなー」

コロンゾン『実家……行ってみたり?』

上条「いや、いいよ。今日はそういうつもりで来たわけじゃないし」

上条「それに――もし自分と会ったら、さ?なんか泣いちまいそう気がするんだよな」

コロンゾン『――あ、上条刀夜。刺されて死んどるわ』 ピッ

上条「別の意味で泣きそうな事実!?なにそれ父さん死んでんのこの世界じゃ!?」

コロンゾン『五年前に奥さんに刺されておるな。ちなみに動機は痴情のもつれで、子供はいなかったって』

上条「もぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ予定狂うじゃんよ!?そんなんばっかだな!一人の懸念潰したら他に飛び火するし、お前どこまで悪い事しくさってんだよ!?」

コロンゾン『少なくとも上条家の刃傷沙汰にはノータッチなりしけど……』

上条「てかだったら『幻想殺し』は誰に……?あぁまぁいいや。どうせアレイスターの学術都市ホイホイに引っかかるだろうし――さてと」



――とある地方都市 ○○小学校通学路 放課後

少年「……」

女子「ねね、次何して遊ぼっか?君は、君は来るでしょ?来るべきだって絶対!」

少年「……ごめん。早く帰って来なさいって母さんが」

女子「えー、君は昨日もそうゆってたじゃんか−。つまんないよー」

少年「ごめんね?明日学校で遊ぼう――って痛っ!?」

女子「っんだ!遊んでくれないんだったらカバン返さないんだからね!」

少年「だ、ダメだって!返してよお!」

女子「だーめーでーすー!ほーら捕まえてみなって!」

少年「返してって!」

女子「へっへーん――って危ないっ!」

ドンッ

少年「……いったぁ……」

男子「……」

女子「ちょっと何やってんのよあんた!暴力振うなんてサイテー信じらんない!」

男子「お、お前らうるさいんだよ!どけって!」

女子「ちょっ――」

少年「――ダメっ!!!」

ベキッ

男子「――あ?」

女子「……な、なに?腕が、曲がって……」

男子「うあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁんっ!?まま、ままーーーーーーーーーーーーーーーっ!?」

少年「え、でもぼく、軽く押しただけなのに……」

女子「こっち来ないで!」

少年「そ、そうじゃないんだよ!君が殴られそうになってるから!」

ピシッ

女子「コンクリートに割れて……なに?あんた、なんなの――気持ち、わるい……!」

少年「ぼ、くは……僕はァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァッ!!!」

ズゥンッ、ガガガカガガ゙ガガガガ゙ッ!!!

女子「やめ――」

上条「『――寒にして乾、土よその性質を我が前に示せ!』」

グググ……ッ

上条「どうした少年ご機嫌だなオイ!おにーさんとちょっとお話ししようぜ!」

少年「――ッ!ァァン……ッ!?」

上条「大変だ……ッ!このままだとカキクケコ言いながら幼女を狙うヘンタイに……ッ!」

女子「おにーさん、それ、痛くないの……?」

上条「痛いわ!超痛いわ!つーか全部撃ち落とせなかったかクソッタレ!」

少年「――ン、あァ……が、く――」

コロンゾン『――死ぬぞ?今のまま突っ込めば』

上条「いいさ。泣いてるガキ一人の、頭撫でてやれねぇ大人になるぐらいだったら死んだ方がマシだ……ッ!」

上条「つーかお前観光旅行どうしたんだよ?雷門の前で横ピース☆決めるって言ってたじゃねぇか」

コロンゾン『サイフ忘れたりけるな。お金貸してたも、テヘッ☆』

上条「歳考えろやババア。つーかカネなんかサイフごと持ってっていいから、ちっと力貸せよ」

コロンゾン『良き良き、契約成立。ならば――ッ!!!』 ブゥンッ

上条「スゲーなお前!?ベクトル操作もどうにかしちまうのか!?」

コロンゾン『メイザース親父如きができて、私に出来ぬはずもなし……とはいえ、長くは……ッ!』

上条「いいね!いつもと同じだ!――おい聞けガキ!」

少年「ぼ、ぼく……お兄さん、ケガを……!」

上条「おぉしてるしてる。今にも死にそうだぜ、つーか死ぬわ」

少年「あ、あァァッ!」

上条「逃げんなガキ!俺の傷口を見ろ!お前が開けた穴だ!」

少年「――っ!」

上条「……いいか?このままだと俺は死ぬ。血が流れすぎて多分な?それは分かるか?理解出来るか?」

上条「お前のその力のせいで人が死ぬんだ!見ろ!直視しろ現実を!」

少年「ぼ、ぼく……ッ!」

上条「でも、でもだ!お前がその力を使って!俺の血を止めるんだったら多分死なない!分かるか?人を助けられるんだお前が!」

少年「……僕、が?」

上条「お前の力は誰を傷つける事ができる!簡単に、オモチャを放り出すような気軽さで!何人も、何千人も!」

上条「でもそれだけじゃねぇんだよ!お前が、お前が救う命だってある!これからはずっとそうだ!」

上条「『力』を奮うのを怖れるな!それはお前の才能だ!誰にも真似できないお前だけの力なんだ!」

上条「だから――だから俺を助けてくれ……ッ!!!」

少年「…………うん……ッ!」



――学術都市 集中治療室

上条「――ヤッベ、この天井超懐かしい……ッ!」

冥土帰し「馬鹿なんだよね?前にも思ったけど、もっとこうスマートな解決方法は出来なかったのかな?」

上条「て、天井だけ持ち帰れないかな?壁紙を剥がずだけでいいから!施工費は全部ウチで持つから!」

冥土帰し「話を聞こう?確かにまぁヤッバイぐらいに麻酔は使っているけど、その影響はないはずだよ?」

上条「よぉ久しぶりカエル先生!元気してた!?」

冥土帰し「いつだかのパビリオンで姉弟の治療をした以来だね?最初はなんの冗談かと思ったけれど?」

冥土帰し「あの時もそうだけど、君たちはもっと事前に、そして予防を尊ぶべきだと思うんだよ?」

上条「先生のご指導ご鞭撻のお陰です!」

冥土帰し「全責任をなすりつけないでくれるかな?……まぁいいけど、面会希望者がいるよ?モニター越しだけど会ってみるかい?」

上条「ん?あぁいいっすけど、それよりもさっきの子供がどうなったのか」

冥土帰し「それも含めて聞くといいね?じゃあ私は外すから?」 プツッ

上条「……誰?」

アレイスター(回線)『――つれないね。血の繋がらない甥っ子よ』

上条「あぁはいはい!久しぶりだな叔父貴!」

アレイスター『日本に来たのだから挨拶に来て欲しかったものだがね?』

上条「来てんじゃん今?どうせヤバくなったら担ぎ込まれるのはココだって分かってたから」

アレイスター『君の悪魔が偉いお冠だったのだが……まぁ自業自得だね。それは良しとしようか』

上条「てかさっきの子供はどうした?アレってお前んとこの能力者だろ?」

アレイスター『でもあるし、同時に「原石」と呼ばれる力を持った子だね。どうやってあんなランクの逸材を発見したのか、是非ご教授願いたいものだが』

上条「それはほら?俺には悪魔が憑いているし?」

アレイスター『奇遇だね。その悪魔がつい昨日ぐらい訊ねてきて、私の首を絞めながら「余計なこと吹き込みたりしはお前かぁぁぁぁぁッ!?」と首を絞められたよ』

上条「サーセンwwww」

アレイスター『「えっ!?余計なことって対戦ホットギミック快楽○とスーパーリアル麻○のこと!?」とシラを切ったので難を逃れたが』

上条「俺は逃れてねぇよ。国を超えてエ×:ゲー集める趣味があるって詰められんだろ」

アレイスター『ちなみに私は麻雀幻想○2派だ。1と3は認めない』

上条「絵柄のせいでな!つーかPCゲームにまで話拡げたら無限に拡大するんだからやめろよ!」

アレイスター『まぁ子供たちに関してはアフターケアは万全であると言えるよね』

上条「……何やった?」

アレイスター『骨折した子供には公園の防犯カメラ映像、あと弁護士を送り込んで黙らせておいたとも』

上条「まぁ正当防衛にしちゃちょっとなぁ、だしな。どっちだけが一方的に悪いとは言えないような」

アレイスター『女の子の方はそこそこショックを受けていたようだが、まぁカウンセリング次第かな。それ以上は個人の問題だ』

上条「んー……仕方がないか。んで?能力者の子供はどうしたよ?」

アレイスター『それがやや問題になっていてね』

上条「能力使った反動かなんか?」

アレイスター『それもあるにはあるが、本人の問題ではなく周囲の反応というか。ニュースになっている』

上条「あー……まぁそうか。そうなるわな」

アレイスター『事実としては友達を庇おうとした子供の異能が発現、子供一人と通行人Aに怪我を負わせたが、今では落ち着いていると』

アレイスター『警察に取り押さえられた訳でもないし、そもそもの発端が加害者側の少年ありきだ。だから酷い事にはなっていない』

上条「そっか……」

上条(史実では能力抑えきれなくて警察と自衛隊まで来たんだっけか?子供一人に何やってんだか)

上条(誰だって怪物扱いされれば凹む。それが子供だったら余計にだ)

アレイスター『とは言ってみたがね。この事件に乗じて反学術都市の気運を高めようとする政治的な動きがあるのもまた事実でね』

上条「どこのでもあんのな。、昔は象牙の塔だったのが蟻塚と大差無くなっちまってんの」

アレイスター『なので彼の身柄はそちらに任せよう。遣い潰してくれるなよ?』

上条「は?待て待て、能力者を魔術サイドに寄越してどうするってんだよ」

アレイスター『その認識は正しくないね。メイザースからは教わっていないのかね?』

上条「あー、どうだろうな?『原石』については少しだけ。生まれつき変わった力を持ってる人間がいるってぐらいだ」

アレイスター『ふむ。ならばOBからの助言として教えておくが、「原石」と呼ばれる人間は昔から存在してね。それが十字教に取り入れられると「聖人」』

アレイスター『北欧系魔術師であれば「ヴェルキリエ」、もしくはベルゼルク。日本風に言えば「鬼子」、もしくは「桃太郎」とかだな』

上条「『英雄』と呼ばれた連中のルーツがそこか?」

アレイスター『恐らくはね。よって現段階での彼は能力者でも魔術師でもないよ』

上条「んー……ってもなぁ?日本がアレだからってウチで引き取るのもどうなんだ?つーか親御さんは超心配するだろ」

アレイスター『私は能力者育成ことサイキックメーカー的な事をしている第一人者なのだがね。一応傾向というか規則性みたいなものがある』

上条「ほぅ規則性。どんなん?」

アレイスター『例えば実生活で逃げ出しだければ反重力や身軽さを、持たざるものであれば引き寄せるような能力を』

アレイスター『トラウマをそのまま抱え込むか、カウンターのような能力を発言するケースがあり、またそういう場合は強度も高くなる傾向がある』

上条「へー、そんな風になってんだな」

アレイスター『それで件の少年は「反射」したとか何とか。彼の家庭環境は如何ばかりか想像はつくだろう?』

上条「……クソ親なのな。だろうとは思ってたけど、もし父さん母さんがあいつの両親だったら絶対にグレてねぇよ」

アレイスター『んー、どうだろうね?君が生まれる前までのメイザースもかなり酷い人間だったよ?』

上条「あぁそっちじゃなくて……まぁいいわ。事情は理解した」

アレイスター『そうそう、そういえばこんな話もあるんだ』

上条「はい?」

アレイスター『半世紀以上前、『子供のためにも子供を犠牲にするな』、とご高説を宣ってくれた御仁がいてね。やはり他人へ強いる以上、自身もそうでなければ範が示せない、と思うのだよ?』

上条「……まぁそうだな。それは正しいわ」
(※Get――【SR:白い少年・武力7・智力7・コスト3.5。固有スキル:原石】)



――日本 どこかの山中 夕方

少女「……」 ジーッ

少女「しまった……いつもより深いところへ入ったら迷った。うん。不覚」

少女「どうしよう。うーん。困った」

コロンゾン『……表情筋が1ミリも動きたりてないし、どう見ても冷静だとしか見えぬが……』

ビーーーーーーーーーーーーーーッ!!!

コロンゾン『防犯ブザーは止めて!?怪しいけど怪しくなかりしよ!?』

少女「田舎あるある。余所者はみんな怖い」

コロンゾン『昨今のご時世だとそれもまぁ正しいっちゃ正しきことたりるが……取り敢えず、ブザー止めてくれたりし?淡々と喋るからお前の声がよぉ聞こえぬし』

少女「こんにちは。お姉さんは観光客の方ですか?」

コロンゾン『いやいや違うかりしよ?お姉さんは神様なりしな!』

ビーーーーーーーーーーーーーーーーッ!!!

コロンゾン『だから防犯ブザーは止めて!?あぁまぁ正しい判断っちゃ判断なりしが今回はノーカンで!』

少女「お帰りはあちらです神様。かしこみかしこみ申します」

コロンゾン『いや本格的に祝詞あげないで!?「原石」の言霊が乗っちゃうとそこそこダメージが通りたるから!』

少女「『ふるべゆらゆら。ゆらゆらふるべ――沖津。辺津。八握。生玉。足玉。死返玉。道返玉。蛇比礼。蜂比礼。品物之比礼』」

コロンゾン『本格的にふるべ祓祝詞は勘弁してください!?存在的にダメージ受けたりし!ましてやアウェイなりしから!』

少女「あ。凄い。後ろが透けている……幽霊を目撃してしまった」

コロンゾン『半分以上はお前のせいなりしけどね!もっとこう尊敬的なものはなかりし!?』

コロンゾン『くっ!この女、初見はなんか大人しそうなりしが、いざ喋ってみたら結構フワっとしておるな!』

少女「もしかして無縁様?だったら神社に連れて行ってあげる。行こう」

コロンゾン『そして押しも結構強め……!田舎の人間にありがちな人の話を聞きゃしねぇタイプ……!』

少女「お腹すいた。帰り道知っていますか?」

コロンゾン『ペースがズタズタになっておるが……じゃあまぁ送って行く、ぞ?てゆうか、こんな時にまでアホ日本語使わないとダメですか?』

少女「キャラが安定していない。もっと貫くべき」

コロンゾン『なんかダメ出しされるし……!てかお前、私が見えるんだからそこそこの霊感がありたるのよ?分かる?』

少女「おぉついに秘められた力が……!」

コロンゾン『そこまでは評価してない。えっと、まぁ人よりも感受性が強いっていうか、その分だけ苦労すると思うたりよ?』

少女「苦労?」

コロンゾン『お前が私を見て、話して、聞こえるけども。他の人間にはお前が一人で喋っているようにしか見えぬ。それは苦労なりしな』

少女「そうかもしれない」

コロンゾン『それにお前の力は悪しきものを呼びかねず……これを持っていると良きよ?』

少女「おお……魔法的なアイテム?」

コロンゾン『ふっふーん!まさにその通りなのよな!腐っても「黄金」系列で悪魔の力を借りて作おた一品よ!』

少女「開けても?」

コロンゾン『どうぞどうぞ!』

姫神「ロンドン塔のキーホルダー」

コロンゾン『あっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっんのアホが……ッ!!!』

コロンゾン『なんでこれにしたりし!?どこの世界の子供が「わーいロンドン塔のキーホルダーだ!これほしかったの!」とか言うかぁボケが!』

姫神「チョイスは嫌いじゃない。神様は外国出身だからこんなもの」

コロンゾン『こんな小さな子に気を遣われた……!?』
(※7・8歳)

姫神「それで私はこれを身につけていればいい?」

コロンゾン『……あぁまぁ、できればそうした方が良きが。まぁ機能を個人に特化した上で限定させているから、数キロぐらいはまぁなんとか誤魔化せたるよ?』

姫神「よく分からないけど。ありがとうございます神様」

コロンゾン『良き良き。知り合いのバカがICUから出られぬ手前、な?代役というか』

姫神「それで神様はなんてお名前なんですか?」

コロンゾン『あー……名前、名前なぁ……どうしたものなりしか――』

コロンゾン『――ローラ。それが私の名前なりしよ』



――1998年 ロンドン(トマス=メイザース 98歳?外見年齢15歳)

魔術師「――『最大主教』、お電話が」

上条「……」

魔術師「……どうかされましたか『最大主教』?」

上条「――あぁ俺の事か!最近イジってくる連中がいなくなったら違和感しかねぇんだよ!」

コロンゾン『例外なく死にたりけるな。ダイアンも20年前に逝ってしもぉたし』

上条「なー?姉さんがまさか医者と結婚した挙げ句、最終的には『黄金』をぶん投げて私小説で一発当てるとは思わなかったぜ……!」
(※大体史実です)

コロンゾン『大丈夫なりし?「黄金」潰れたらハラ抱えて笑ぉたりけるけど?』

上条「あっちは大丈夫じゃね?バードウェイ家っていう、まぁそのマフィアがしっかりと管理しくさってみたいだから」

コロンゾン『別の意味で裏稼業なりしなぁ』

魔術師「あの、『最大主教』?先程からお電話が来ているのですが、かけ直させましょうか?」

上条「あぁゴメンゴメン!つい昔が懐かしくって!――つーか誰から?ヴィリアン殿下?」

魔術師「ではなくてですね、その先輩っていいますか……」

上条「いやお前の先輩って言われても知らんわ。つーか『必要悪の教会』の情報漏らしてんだったら、『めっ☆』ってすっかんな?」

コロンゾン『脳を直接、で・こ・ぴ・ん☆』

魔術師「そんな怖ろしい真似するわけないじゃないですか!?先輩っていうのは土御門さんのことですよ!」

上条「土御門って……あぁ俺も先輩だわ。つーか日本戻って亡くなったんじゃなかったっけ?ご遺族からか?」

魔術師「いえその、どうやらご本人らしく……」

上条「はぁ?いいから貸せよ――『もしもし?』」

土御門某?『あぁその癖はメイザース君だねぇ。懐かしいよ』

上条「『お前だれだよ。なんで先輩の名前騙ってやがる?』」

土御門某?『えぇ、信用されてない感じかい?じゃあ証拠は……あぁ、地下のケンカ場ってまだ残ってる?』

上条「『……ホンモノかどうはさておき、身内だな』」

土御門某?『まぁそう思ってくれて構わないよ。正確に言えば本人じゃないしね』

上条「『なんの魔術だ?』」

土御門某?『シキオウジって式神の一種さ。生前の人格の一部を移植してる感じだよね』

上条「『また面倒臭さそうな……!』」

土御門某?『まぁまぁそう言わないで。今日は君にお願いがあって連絡しているんだからさ?』

上条「『用件次第だな。あなたには世話になったし情もあるが、出来ることと出来ない事がある』」

土御門某?『そう大した話じゃないよ。今ウチの家でちょっとした騒動が起きているんだ。お家騒動とでも言うべきか』

上条「『ますます介入出来なくね?日本の相談されても困るわ』」

土御門某?『話は最後まで聞きなよ。えぇと傍系の子でね、特級の魔術師が生まれちゃったんだよねぇ』

上条「『あー……土御門家の神童さんかー……』」

土御門某?『よく知ってたね?その子、そっちで引き取って貰えないかな?』

上条「『なんでだよ。なんでD×の俺が認知しなきゃいけねぇんだよ!?』」

土御門某?『あぁまだそのセンシティブ過ぎる呪いが続いてるんだ?ただの嫉妬だと思うけど』

上条「『何?sit?』』

土御門某?『いいやなんでもない。その子がね、学術都市に送られそうなんだよ。スパイとして潜り込ませるとかなんとかで』

土御門某?『能力開発受けたら魔術が使えなくなるっていうじゃない?姑息にも程があるよねぇ』

上条「『……最悪だな。魔術の腕が妬まれてんのか』」

土御門某?『下らないよねぇ。血は一番濃く出たんだから、その子に継がせれば良かったのにさぁ』

上条「『傍流なのにか?』」

土御門某?『魔術師の上下関係がさ、力量以外の要因で決まるってありえないよね?』

上条「『俺達の時代あるあるだよな。超実力主義』」

土御門某?『で、どうだい?今ちょっとやさぐれてるけど、根は良い子だし魔術の腕は保証するよ?』

上条「『本人次第かなぁ。魔術を失っても、そのクソ本家から離れた先で幸せを見つけられるかもしんねぇじゃん?』」



――ロンドン 『必要悪の教会』 本部

上条「やぁやぁどうもどうも。モトハル君だっけ?ロンドンへようこそ!歓迎するよ!」

土御門「子供――あぁいや擬態か。テレズマ量も……大したことがないな……?」

上条「そう警戒するなよ。お前のおじさん、大叔父?俺にとっては先輩から頼まれてるってだけだから」

土御門「そんなのはどうでもいい!なんで俺がこんな所に連れて来られなきゃいけないんだ!」

上条「え、日本の魔術師界からハブられてんだからでしょ?違うの?」

土御門「違う!あいつらは俺の才能を妬んでいるだけだ!」

上条「どうせアレだろ?神童とか呼ばれて調子に乗って?他の連中の面子潰してたらいつのまにか修復不可能な仲になったんだろ?」

土御門「あいつらはグズだ!俺が正当に評価されない方がおかしい!」

上条「好きにすれば?君の人生なんだし好きに生きなよ。幸いワガママ言って聞いてくれるだけの環境はあるみたいだし?」

上条「ただまぁいつまで通るかってのは別の話だよな。誰が味方で誰が敵だって知らなかったら、片っぽは減って片っぽは増え続けるぜ?」

上条「人嫌いの先輩が気ぃ遣う訳だ。神童と呼ばれて調子に乗っているようだが……」

上条「あぁまぁそれも致し方ない事ではあるか。極東の島国で、袈裟の色勝負をしているような魔術師の中じゃあ一等賞だったんだろ?」

上条「なら君程度の魔術師でも、なっ?悪くない悪くない!」

土御門「……挑発しているつもりか?」

上条「挑、発……?あぁ!ごめんごめん!日本語は不得意でね!事実を告げることを『チョーハツ』と言うのか!ありがとう、また一つ勉強になったよ!」

上条「あぁもう君下がっていいよ?古い馴染みに頼まれたら会っただけだし、折角イギリスに来たんだから観光していって?」

上条「あ、これお土産。ロンドン塔のキーホルダーなんだけど、ここをこうすると二足歩行型ロボットに変形するってギミックがだな」

上条「これストーンヘンジやネッシ○と創○合体できない試行錯誤してる最中なんだけど、MOEの国の人から見てどう思う?いけそう?」

土御門「うるさいっ!」

上条「あとあんまフラフラしてっと野良の魔術師に絡まれるから気をつけてね!なんかジーパンチョキチョキ魔とか出るっていうから!」

……

上条「――我が前に来たれり、不和と虚偽の悪魔コロンゾン……っ!!!」

コロンゾン『ローラね?あと別に黙っていただけで後ろの椅子で雑誌読んだりけるけど?』

上条「……なぁローラさんよ。ちょっといいかな?」

コロンゾン『あいあい?今週のラッキーアイテムはテケテケなりしよ?』

上条「悪役ムーブが段々楽しくなって、引っ込みがつかなくなったんだけどどうすればといいと思う?」

コロンゾン『DOGEZAして来たりければ?「あ、こいつやってんな。主旨忘れてんのかな」って私も思うたりわ』

上条「シェリーさん呼んできて!?はるるんがムチャしないように守ってあげて!?」

コロンゾン『まぁ子供好きなりしね。勿論正しい意味で』



――ロンドン

土御門「……チッ!」

土御門(どいつもこいつもバカばっかりだぜ!『必要悪の教会』のトップに会えるって来てみたら、魔力量は平凡で本家の連中よりも下!)

上条(なんであんなのがイギリス魔術師界の頂点にいんだよ!?コネか?こっちでもコネが罷り通ってんのか?)

土御門(……あぁ下らねぇ。日本に帰ったら学術都市へのスパイ、っていう名前の島流し。その選択肢はない)

土御門(かといってこんなとこにいたって魔術の腕は寂れるばかり……実戦だ。とにかく実戦を詰まないことには――)

白いの「――あのォ、ちょっといいですかねェ?」

土御門「うん?子供か」

白いの「オマエもガキだろォが……あァいや見た目通りじゃねェんだっけか」

土御門(白いな、多分日本人だとは思うが。アルビノ?)

白いの「人形遣い、だよなァ?おままごとじゃねェ方の」

土御門「人形じゃない式神だ!傀儡師とは畑が違う!」

白いの「いやオマエがそォ言ってンだろ……まァいいが。仕事だ。行くぞ」

土御門「ちょっと待て!?何の話だ!?」

白いの「叔父貴から聞いてねェのか?ジーパンチョキチョキ魔を退治すンだとよ」

土御門「聞いたのは聞いたが……名前ぐらいしか」

白いの「あのアホまた適当にぶン投げやがったな。あーっとォ、はしゃいでるバカいる、そいつ倒す、オーケー?」

土御門「了解した」

……

レディリー「――へぇ、いいじゃない?」

執事人形「お嬢様のお仕事では?」

レディリー「だって嫌だもの。私の魔術はヘンタイ相手に奮うつもりはないわよ」

メイド人形「いい――少年同士の切磋琢磨が、良き……ッ!!!」

レディリー「あなた本当にどうかしてるわよね?一度オーバーホールしなきゃダメかしら?」

……

土御門「てかジーパンチョキチョキ魔?そんなもんに魔術師が出張るっていうのか?」

白いの「俺もどォよと思うが……まァ手段が尋常じゃねェってンで話が来たンだとよ」

土御門「って事は通りを歩いてたらジーパンがズタズタになってたとか。ヘンタイの仕業だな」

白いの「魔術師ってまァ……大なり小なりそォいうのが、なァ?」

土御門「いたなぁ実家にも。権力争いに背を向けて白虎の擬人化に命を賭けてるおっさん」

白いの「なンで?バカなの?死ぬの?」

土御門「おっさん曰く、『にゃん、とかいうネコ娘のニオイがするぜオイ!!!』だと」

白いの「……魔術にどう関係すンだ?俺が知らねェだけで、効率がすっげ上がるとか?」

土御門「あぁ当時の俺も疑問に思って訊ねたら――『嫁、いいよな』って」

白いの「そいつの家系断絶確定じゃねェか。特に可哀想とは思わねェけど」

土御門「あんなんでも上位だったんだよな。なんで変人ばっかり」

白いの「だよなァ。どォ考えてもおかしい連中か、ネジ外れた連中の方が強いンだよなァ」

土御門「何となく天才ってそういうイメージあるよな。日常生活じゃアレだけど一芸特化的な」

白いの「テンプレ過ぎねェ……とも言えねェか。いるわ上司に一人。研究職なのに私生活が超ズボラな女」

土御門「ご褒美だろ?」

白いの「ババアに興味ねェよ――ってあれ」

???「……」 キョロキョロ

土御門「「(見るな!気取られる!)」

白いの「(……そこまで気ィ遣うか?魔術が使えるだけの素人じゃねェ?)」

土御門「(いや――あの気配は”やってる”感じだ。現に俺達の視線に感じて反応しやがった!)」

白いの「(てェことは対魔術師もイケるも実戦派かよ。どォしたもンかねェ、追跡だけって言われてはいるが……)」

???「あ、良かった……!あの、すいません、日本人の方ですよね!ちょっと道に迷ってしまい難儀しているのですが!」

土御門「――決まってる!日本の魔術師の力、見せてやるぜ!」

白いの「あ、バカっ!」

神裂(???)「――はい?」



――ロンドン 『必要悪の教会』

上条「……えーっと……それで勘違いした君は、無辜の一般人、でもないな、まぁ一応シロの魔術師に襲い掛かって反撃された?腹パンのキッツイのをもらったと?」

土御門「……あぁ」

上条「それを見たウチの子が加勢に入って大乱闘、即死系の術式や君の式神召喚して周囲が悲惨なことになってたんだけど。よくまぁ怪我人が出なかったもんだ」

土御門「……」

上条「君の魔術師以前の話として、人間として未熟とか、もうちょっと状況見極めなよとか、ぶっちゃけ俺のポケットマネーから再建費用出すんですよコノヤローとか色々あるんだけど」

上条「まぁそれは君自身が一番痛感しているだろうから、敢えてこれ以上は言わないよ。若者に失敗はつきものだしね」

土御門「……すいませんでした」

上条「じゃあ――魔術師として聞くよ。どうだった?」

土御門「俺が、俺が未熟でした!同年代の白いのも俺と同じかそれ以上ですし、話聞いたらキャリアはずっと下だっていうし!」

土御門「あのジーパンチョキチョキ魔は!そんな俺達の魔術を軽々と退けやがった……!クソ、何もかも足りてない……!」

上条「っていう事だね。あー、土御門君それでどうする?このまま帰る?それともここに残るかい?」

土御門「俺なんかが……いいんですか?」

上条「先輩には世話になったってのもあるけど、帰ったところで魔術師の術者生命が絶たれるだけだろう?だったらロンドンに残って鍛えてみれば?」

上条「本家の方には俺から上手く言っておくから、なっ?」

土御門「あり、がとうございます……!」

上条「んじゃまぁ泊まる場所とかはシェリーに聞いてくれる?一応の君の、っていうか君たちの上役になるから」

土御門「はい!失礼しますっ!」 パタンッ

……

上条「――悪魔ローラ=ロー○よ、我が元へ来たれ……ッ!!!」

コロンゾン『だから後ろにいたりしよ?なーにー?』

上条「……白いの、つーか一方通行って魔術師としちゃどのぐらいのレベル?」

コロンゾン『あー……まだまだ日が浅いなりしが、結構上なりける、かな?「聖人」としての資質に加え、何よりも本人の血の頭が良きし?』

コロンゾン『ちょっと話してた程度なりしが、演算能力ハンパ無きことになっておるし』

コロンゾン『トータルで言えば中堅どころの上位相当?まぁ万能型の術者であって、特化すれば上位も狙えたりする感じかしら?』

上条「……神裂、つーか迷子になってた聖人は?」

コロンゾン『上位数%なりしな。技術的にも知識的にもまだまだ未熟なところがありしも、本人の才能と環境によって底上げされてる感じ?』

上条「……そんな二人とやり合えたはるるんのレベルってどうっすか……ッ!?」

コロンゾン『三人の中では最も弱いは弱たりしかな?なんといっても持ち前のポテンシャルを実戦経験の少なさで生かし切れておらんし』

コロンゾン『ただし――個人的には三人の中で一番敵に回したくないタイプなりし。TCGみたいに駒を増やすだけ増やして型にハメる感じの術者よな』

上条「土御門ってそんなにつえーの!?」

ロンゾン『本人が見下しとぉてたりける本家連中も、それはあくまでも比較論であり実際には平均より上、とか?』

上条「良かった……!後からきっと詰られるだろうけど、問題を先送りできて本当に良かった……!」

魔術師「――あ、『最大主教』。聖人の方が面会を希望しておられますが」

上条「またクッッッッッッッッッッッソ面倒なタイミングで被せて来やがったなオォイ!?」

コロンゾン『頑張りたれー。三人目の「聖人」ゲットなりしよー』

上条「……ヤバイよな?俺が下手打って仲間にしちまったら、逆に警戒されるよな?」

コロンゾン『最悪討伐隊が組まれたるなぁ。まぁ既に世界中の組織から恨みは大人買いしておる以上、誤差やもしれぬが』

上条「俺はノーと言える俺はノーと言える俺はノーと言えるんだ……ッ!」
(※Get――【R:土御門元春・武力4・智力6・コスト2.5】)



――1998年 ロンドン(トマス=メイザース 98歳?外見年齢15歳)

神裂「――失礼致します。私は元天草式十字凄教の神裂火織と申します。どうかお見知りおきを」

上条「……あーっと……『なんでこんなガキが!?』とか『魔力たったの5か……ゴミだな』とかないの?」

神裂「お試しになっているのは分かりますが、立場的にも力量的にも上位の方へ礼儀を示すのは当然のこと」

神裂「テレズマの量も非凡、私が見た術者の中では最大の上、何よりも人間と寸分違わぬ使い魔が私を監視しているなど『最大教主』の名にふさわしい方だと」

上条「くっ……やりづらいな逆に!どうしてアホには通じないのにアホじゃない相手には通じるんだ!」

コロンゾン『逆なのよなぁ。元々の主旨が「そうだ!外見で油断させようぜ!」たる話なのに、そもそも強者は外面で判断しない上』

コロンゾン『畢竟引っかかるのは未熟な術者だけで、油断させる意味が、うん……なかりたるな』

上条「もっと粗を探しなさいよ!悪いところで減点方式にしなさいよ!」

神裂「お厳しい言葉も勉強になります」

上条「こうなったらプランBだ――で、神裂さん?履歴書はどちらに?」

コロンゾン『必要なりし?それ魔術師の面談に要る?』

神裂「履歴書、ですか?……大変申し訳ございません。必要ではないと判断し持参致しませんでした。後日必ずや」

上条「では上からスリーサイズを答えてください」

コロンゾン『最低なりしな』

神裂「計測したことがないので、答えようが……」

上条「好きな快楽○はどれですか?」

コロンゾン『そんなに種類はなかりしよ』

神裂「あの、快楽○とは一体……?」

上条「通用しねぇなオイ!むしろ俺の方が汚れてて嫌になったぜ!」

コロンゾン『昔話によりありけるな。欲深が真っ先に死亡フラグが立って、それ以外が生き残る系』

神裂「自分の不勉強の余りにお手を煩わせているようで申し訳もなく。えぇと、私が日本を出奔するに至った理由というのは――」

……

神裂「――と 不甲斐なさに嫌気が差しました。しかしだからといって剣を捨てることも出来ず、であれば以前から噂に聞いておりましたこちらであれば、本懐は果たせるのかなと愚考致しました」

上条「……」

コロンゾン『変則的なトロッコ問題よな』

神裂「トロッコ、ですか?」

コロンゾン『うむ。道の先が二手に分かれたりけるトロッコの先にはそれぞれ逃げ遅れた人間がおる。どちら一方を生かせばどちらか一方は確実に死にたる』

コロンゾン『よってどちらを生かすのは誰がどのような判断にて、という話なりしが……お前はトロッコに乗っておったのか?それとも線路にいた方?』

神裂「ちょっと意味が、分からないのですが……『最大主教』?」

上条「――以上で面接は終わりになります。今回はご縁がなかったということで、またの機会がございましたら宜しくお願いします。では解散ということで」

神裂「な、ちょっと待ってください!?どうしてなんですか!?」

上条「じゃあ聞くがどうして大丈夫だと思った?」

神裂「自分で言うのも如何なものか、分不相応ではありますが『聖人』でもありますし、一兵卒でもお得といいますか!」

上条「ヒラの魔術師でも要らんわ。帰れ」

神裂「理由を!せめて理由を教えてください!実力不足ならばそうであると!」

上条「実力なんざどうだっていい。魔術の腕も大事だが、ウチには研究職でやってる人間も結構いるからそこまで重要視されない」

上条「お前を信用できない。それだけだ」

神裂「んなっ!?」

上条「つーかテメー何様のつもりだよ?お前が今すべきなのはさっさと帰って、お前を庇って無駄死にした連中に土下座してこい」

神裂「――無駄死になどと……ッ!部外者に言われる筋合いはありません!」

上条「じゃあなんでお前はここにいるんだ?亡くなった連中に引け目があって、誰よりも無駄死にだったって思ってからじゃねぇのかよ?あ?」

神裂「……!」

上条「そもそもの話だ。戦闘で役割分担を決めて臨んだ、アタッカーを守るためにタンクが死んだ。それの何が悪い?そいつらは自分の役割を全うしただけだろうが?」

上条「彼にその攻撃とやらがお前にとっては平気だった――ってのも可能性の話だよな?よりレベルの高い相手だったら?仮に『聖人』特攻の呪詛だった場合には?」

上条「ただその死んだ連中はなんなんだ?『お前らが庇っても無駄だったし、何より大切なお姫様が気に病んじゃったよ!余計だったね!』とでも言わせんのか?」

上条「死は死だ。それ以上でもないし以下でもない、死んだ当人に取っちゃそれで終わりだからな」

上条「けど!だからこそだ!誰の死であっても、それを生かすも殺すも思いを受け取った人間次第なんだよ!――なぁ神裂?お前何をしているんだ?」

神裂「………………っ!」

上条「聖職者失格だ。聖人以前に、テメーのクソ甘ったれた根性をどうにかしてこい。そうしたら兵隊から雇ってやっから」

コロンゾン『あー……横から口を挟みたりけるが、その相手が”ヘビ”の属性を持ちたるのであるな?で、あれば「聖人」へ対しても少なからず効果があったと思しきな』

神裂「まさか……私は『聖人』なのに――」

コロンゾン『”なのに”ではなく”故に”の間違いなのよな。古来より聖者を死に至らしめたり、堕落させるのは蛇の一噛みと相場が決まっていたるし』

コロンゾン『「聖人」という特徴は強力無比だと思われておりたる。それは正しき。実際に魔術界では一人いれば結社にとっては相当有利となる』

コロンゾン『しかし同時に、強力が故の弱点もまた明確に持ちたる。含めての「特別」なりしよ』

神裂「……」

上条「まぁ……どっちみち家帰って家族たちと話して来いよ。心配してねぇってことはないから、あのアホどもは絶対に」

上条「手ぶらで帰るのがダメだったら……あぁほらこれ、新開発したロンドン塔のご当地キャラ、エクゼっしー君のキーホルダーやっから?なっ?」

コロンゾン『絶対にいらないと思うたり』

上条「なんでだよ!?ストラップを引っ張ると『年収二億でウハウハなっしー!』っていうんだよ!?」

神裂「……失礼します。貴重なお時間を頂き、ありがとうございました」 ガチャッ

コロンゾン『良きの?』

上条「良いに決まってる。子供が家出したら親に捕まって叱られるのは当然の話だ」

コロンゾン『や、そーゆー意味ではのぉて、パワーバランス的なアレが』

……

魔術師「『最大主教』、その、お時間宜しいでしょうか?」

上条「ん、あぁ構わない。電話?それとも客?」

魔術師「分類でいえば客ですが、それも厄介な方の」

上条「お、じゃあ俺にするなよ。白いのかはるるんに言ってよ。あいつらだったら直でぶっ飛ばしに行くし」

魔術師「危険な相手でもなくてですね。先日お見えになった天草式の『聖人』の方」

上条「え?また来やがったのか神裂?……あぁでも墓参りして謝ってきたんだったら、話ぐらい聞くか」

魔術師「と、その関係者の方々がロンドン塔の前でDOGEZAを……」

上条「なにそれこわい。フラッシュモブの走り!?つーか関係者って誰だよ!?なんでそんな事になってんだよ!?」

魔術師「『最大主教の教えで迷が解かれた。そのご恩を少しでもいいから返したい』だそうです。天草式十字凄教一堂がお世話になりたいと」

上条「やだ超迷惑!送り返しなさいよそんな人達!」

魔術師「全員何故かお揃いの白装束を着込んでいました。何かの意味が?」

上条「ヤッベェ、受け入れなかったらハラキリ上等か!?ホンッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッットにクソ迷惑だよな!」
(※Get――【VR:神裂火織・武力7・智力7・コスト3.0。固有スキル:聖人】)
(※Get――【R:建宮斎字・武力5・智力5・コスト2.5】)
(※Get――【UC:五和・武力4・智力2・コスト2.0】)
〜以下略〜



――2000年 ロンドン(トマス=メイザース 100歳?外見年齢15歳)

上条「――ミレニアムを越えてカオスが広がる……ッ!!!」

コロンゾン『その心は?』

上条「すいません言ってみたかっただけなんですよ!深い意味は全然!」

コロンゾン『てゆうかミレニアムも二回目よなぁ。今回は然程盛り上がらなかったが』

上条「え、ミレニアムって2,000年問題の事じゃねぇの?」

コロンゾン『曲がりなりにもイギリス魔術界のトップがこれって……』

上条「俺だってどうかと思ってるわ!果たしてD×なのに『最大主教』とかどうなのってな!」

コロンゾン『元々ミレニアムは千年王国、神の子が天に還って千年であり、「そろそうどう?復活して千年王国建てる?」的な話なりたるな』

上条「あーじゃあ前の千年紀は盛り上がっただろうなぁ」

コロンゾン『神の子は復活しなかったか、まぁ復活した後に居なくなったのか微妙なところではありたるなぁ』

上条「なにそれこわい」

コロンゾン『神の子の復活はそれイコールって事だから、まぁ人間社会の終焉と同義なりしよ?つまりそれを望まない勢力は一定数いると。特に権力持ってる層は』

上条「それ反対じゃね?当時の権力者って言ったら教会と王族の二強だろ?」

コロンゾン『皮肉なりし事かな。私は召喚されぬ故、何が起きたのは分からぬが……何かは起きた、とだけ』

上条「――はい、っていう訳で俺は何も聞いてないぞ!神の子の降臨を教会が否定していたなんて話はな!」

コロンゾン『そもそもどれだけの人間が神の存在を信じているのでしょうね?誰も彼も「自分を全肯定してくれる何か」だけが欲しいだけ』

バタンッ!!!

上条「お?」

ステイル「――アァァァァァァァァァァァァクビショォップゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅ!お願いがあります!!!」

魔術師「おい貴様何をしている!?一介の見習いが入っていい場所ではないぞ!?」

ステイル「どうか!どうか伏してお願いします!僕はどうなったって構いません!話だけでも聞いてください!」

上条「いいよいいよ、話ぐらいは聞くから。つーか俺と会うのにそんなになんか手続き必要なの?そんなの定めた覚えねぇんだけど?」

魔術師「……睡眠時間がなくなりますよ?」

上条「だったら書類で用件だけ出してくれよ。で、赤髪の――あぁこの歳じゃ小さいのか、10歳だもんな――神父さんの用事って何?」

ステイル「お願いします!プロジェクト・インデックスのご再考を!」

上条「アニメ製作委員会みたいな名前……てかそれって確か人間に魔道書図書館を造るっていう。あーそっか、そういう季節かぁ」

ステイル「魔術師がより強い力を求めるのは分かります!分かりますが、あまりにその非人道的ではないでしょうか!」

上条「魔術師ってのは本来そういうもんだよ?持ってなければ蹂躙されるし、抵抗すら覚束ない」

上条「そもそものスタート地点が『才能を持たざる力なきものの最後の寄り辺』だ。だから俺は戦力の保持を否定しない。自分から振うかは別の話として」

ステイル「そんな……!」

上条「が、しかしプロジェクトそのものは破棄し、今後もそうだと『最大主教』の名をもって命令する。これは明記した上で各部に通達も宜しく」

魔術師「……宜しいので?」

上条「発想自体は悪くないし、強力な力になるであろうとも推測できる――が、安定しない」

上条「魔術師は機械じゃない。時として未熟な術者が歴戦の強者の胸を撃ち抜くことすらある。それは『想い』の強さだ」

上条「機械みたいに魔道書を切り替えて動く魔導図書館?そんなのが出来たとして、きっとあっけなくやられると思う。人の想いはそう柔なもんじゃない」

上条「まぁ……それは俺の『幻想』かもしれないが。感情論から反対するのであればそういう事――で、付け加えるのなら、相方ー?」

コロンゾン『あいあーい?なーにー?』

上条「過去に似たようなコンセプトで造られた魔術とか魔術師とかいる?」

コロンゾン『ありけるわよ?エジプトのトート神やバステト神、”知識”系の魔術で似たようなものが造られしな』

上条「結果どうだった?」

コロンゾン『剣術で二刀流が最強だったって事実は過去一度もなかしりね。それだけ』

上条「だ、そうだ。よってこの件は却下、あー素体?に選ばれた子はシェリーにでもつけてくれ」

ステイル「……ありがとう、ございます……!」

上条「あと君、陳情の手続きを取らなかった罰として今日から俺の秘書な!よろしくねステイル君!」
(※Get――【UC:ステイル=マグヌス・武力2・智力4・コスト2.0】)



――2004年 ロンドン(トマス=メイザース 104歳?外見年齢15歳)

上条(――前略、腐れ魔神様。ぶち殺すぞ?いえ、間違えました。ぶっ殺すぞマジで?)

上条(ネタ企画というか思いつきで始まった異世界じゃない転生も、なんかこうやる事一杯で一週で終わるはずが延々続いています!)

上条(アリサとアホみたいな動画配信で一喜一憂してたあの頃に戻りたいです!今だったらアキラもといトーマ100%とか喜んでやるよ!今だったらね!)

上条(っていう懐古はさておき、今年がある意味本番っちゃ本番。俺がベランダで引っかかってたシスターを助けた年だ)

上条(「まだ一年経ってねぇのに来年で20周年っすね!」とか言うな!中の人とか全員ベテランだよ!)

上条(ただこの世界に俺は居ない。死んでんじゃねぇか父さん。ある意味予定調和のような気がしないでもないが!)

上条(一応アレイスターに頼んで、俺の親戚筋を調べてもらっても『不幸』な人はいない。なので『幻想殺し』の行方も不明っぽい)

上条(俺の手の届く範囲で悲劇が起らないよう、可能な限り助けてきたつもりではある。あるが……)

上条(ローマ正教とはそこそこ仲がいい。マタイさんとは微妙に連絡を取っているが、その中で一度も『右席』については触れられてはなかった)

上条(これは既にマタイさんが取り込まれたのか、それとも粛正済みなのかは判断できない。表面上は友好関係を保ってはいる)

上条(反対に微妙なのがロシア正教だ。こっちは表面上もそこそこ、たまーにイベントで会ったら「元気?」みたいな感じ。たまに会う遠い親戚ぐらいの距離感)

上条「……」

上条(あれこれもしかして俺がラスボスになるルートもあんのか?『幻想殺し』が誰に憑くかは不明だけど、善人とは限らない)

上条(そもそも善人であっても方向性の違いから敵対ルートもありって事か?ありえない、とは言い切れないか?)

上条「――助けてローラえもん!ジャイアソがコンプラ違反なことをするんだ!」

コロンゾン『”ン”じゃなくて”ソ”なりしな。「あ、また伏せ字入れ忘れてる」とか突っ込まれるから、注意したりしよ』

上条「学術都市の能力者とイギリス清教が敵対する可能性はどれだけある?」

コロンゾン『お前が宣戦布告すれば一秒後にでも』

上条「真面目な話してんだよ」

コロンゾン『敵の種類によりたるし、アレイスターの本気度にも上下したるけれど、ない話ではなかりたるな。人間の”情”故に』

上条「情?」

コロンゾン『アレイスターとの関係は良好、組織同士の仲も悪くはなかりし?なれどもそれぞれがそれぞれに優先順位がある』

コロンゾン『利害が相反すれば、なぁ?それはそれ、というやつであって?』

上条「まぁそうだよなぁ。こっち潰せば娘さんどうにかなるんだったらするよなぁ」

コロンゾン『ただ直接の勝負にはならりたらぬのよな。四天王を倒せるものであれば!』

上条「そうだよなぁ。四天王を倒せ――」

上条「……」

上条「――おいドピンク、今何つった?クッソ雑魚いフラグ立ちそうな名前言ったか?」

コロンゾン『四天王って……あれ?知らなきこと?』

上条「誰だよ四天王!?俺の知らないところで何面白そうな事やってんだよ!?混ぜろや!」

コロンゾン『ステーールー』

ステイル「えぇとそこそこ有名な話ですよ?『不敗』のオルウェル、『不滅』のレディリー、『不動』の白いの」

ステイル「他には『不殺』の神裂に『不開』の土御門、ですかね」

上条「なんで日本語で統一してるのとか誰が決めたんだそれとか色々ツッコミどころはあるんだけど、まぁ一人多いだろ!?四天王なのに五人いんだよ!?」

上条「つーかもしかしてこれアレか!?歴史の矯正力働いて俺が『右席』の代わりに俺が悪役にセッティングされてる説!?」

ステイル「あの、ローラ?『最大主教』は何を?」

コロンゾン『年齢が100歳越えちゃったりけるからなー。そろそろボケが始まった的な?』

上条「とんでもねぇ、あたしゃ神様だよ」

コロンゾン『ジャバニーズ・モーストフェイバリット・コメディアンの台詞よな。夜な夜な出歩いててぽっくり逝きそうな』

上条「個人的には好きなんだが、女癖の悪さとしょーもない死に方で、うん、あんまり『尊敬してます!』とは言えなくなった……」

ステイル「その敵がいるのであれば排除すればいいのでは?『聖人』三人を投入すれば負けはありませんよ」

上条「それこそ敵次第なんだよ。相手がド外道だったら全員行ってくれるだろうが、真っ当に生きてる相手だったら白いのぐらいしか……」

コロンゾン『それも情で率いている弊害よなぁ』

上条「あぁそういや名前忘れたけど、お前んとこのシスターちゃんってどうなった?イザード先生と上手くやってる?」

ステイル「あ、はいお陰様でよくやっているようです。まさか錬金術の大家を招聘していただけるとは」

上条「んー、まぁまぁシェリーとタメで話せる人材だし、どうせだったらいい先生をつけた方がいいかなーって」

ステイル「シェリーも有能ではないでしょうか?」

上条「……あいつ、自分の気に入ったことしかやんねぇんだよ。10年ぐらい前、クレーム来たから見に行ったら魔術師見習いにデッサン教えてたんだぜ?」

ステイル「……ともかく、『えらいひとにお礼が言いたいんだよ!』と当人が申しておりますが」

上条「え、面倒臭いじゃん。書類で提出してくれる?」

ステイル「誠意の問題ではないかと……」

上条「あと俺が探している魔術師の情報は?」

ステイル「難航しております。『レッサー』という名前だけでは流石に……」

コロンゾン『ヤバい相手なりし?』

上条「個人の戦闘力だったら平均やや上。ただ何をするのかが分からない怖さがある」

ステイル「お二人でも予測できないのですか?」

上条「目の前に『命を捧げれば目的が成就するアーティファクト』があったのなら、説明聞き終わった瞬間に自分のノド掻き切るようなやつだ。しかも大なり小なりのがプラス三人」

上条「魔術師としては欲望一直線で手段は選ばず、シンプルだからこそ要警戒」

上条(現在の所、ではあるがキャーリサ殿下はクーデターを計画していない……ぽい)

上条(俺たちが何度かフランスに直接・間接的に攻撃しかけてる上、『教会派』が異常な戦力抱えてるから抑止力になってる)

上条(つーかヴィリアン様が時期『最大主教』に内定したあと、「私ではどーだ?」的な打診も来た。「バランス的に無理だし、あんた絶対に『騎士派』と統合すんだろ」って断ったが)

上条(派閥としちゃ『騎士派』でなんか色々やってるらしい。アックア改めオルウェルが『騎士団長』から仕入れた情報では、だけど。つまり信用は出来ないって事だわな)

上条(『騎士派』から俺達の心証は悪く、代わりに『王室派』からは上々。エリザード旦那がミナ母さんの話を聞いたらしく、泣きながら謝ってくれた)

上条(親を放置して助けに行った俺、対して傍観してた『騎士派』。エリザード陛下が戴冠して王配になってんだから……まぁ、当然ではあるし。そんなつもりはなかったんだが)

上条(加えてヴィリアン様が攫われたとき、あのアホどもが現 『騎士団長』を除いて動かなかったのも……どこまで腐ってんだか)

上条(なお余談だが。三派閥がそろって会議やったとき、同席してた某悪魔が)

上条(「なぁエリザード、『騎士派』の皆様のお仕事ってなにかしりよ?主君や王配が敵の手に落ちても微動だにしない給料泥棒なりし?」と陛下に聞いて)

上条(「ん?あぁいやそんな事はないぞ悪魔め!我が騎士達は立派に働いたともさ――あの、高潔な騎士ウィリアム=オルウェルがな!」と返して超楽しかった)

上条(どれだけ血統が良かろうが誇りがあろうが、戦うべき時に戦わないで、とは思うが……)

上条(ともあれレッサー及び『新たなる光』の有するカーテナ・オリジンの脅威は健在。埋まってた場所は分からずじまいだし)

上条(あのアホどもがアーサー直系の子孫かなんかで、故に聖剣の場所を知ってた説もあるっちゃある――が、根本的な話として)

上条(俺が、 「必要悪の教会」が支えるイギリスが国益に合致しているのであれば、あのアホが顔を出す必要もない。だからいない、かもしれない。希望的観測ではあるが)

上条(どう見ても腐りきってる『騎士派』のキャーリサ殿下と手を結んだりしてたし、目的のためには手段も選ぶし妥協もする。超メンドクセー!)

上条(さてさて、どうしたもんかなー?今ある手持ちのカードを並べてみれば――)

【USR:コロンゾン・武力12・智力12・コスト5.0。固有スキル:不和の悪魔】
契約はしているが一切縛りがないため制御下にない
不和の悪魔――ランダムで敵味方デッキのユニットを1〜50枚失う

【VR:レディリー=タングルロード・武力6・智力9・コスト3.5。固有スキル:死者の憂鬱・人形遣い】
十字軍が持ち帰ったアンブロジアを食した託宣の巫女
死者の憂鬱――このユニットが死んでもデッキに戻るが、稀に自主的に死ぬ(デッキに戻る)
人形遣い――このユニットが場に出ているとき、全ての人形系ユニットの能力+2

【SR:白い少年・武力7・智力7・コスト3.5。固有スキル:原石】
魔術サイドに保護された一方通行。殉教者としての資格は失われたが、『竜』関係の術式を修めている
原石――マナを追加で5捧げると、【聖人】へクラスアップする

【VR:ウィリアム=オルウェル・武力8・智力7・コスト3.0。固有スキル;聖人】
アックアがイギリスを去らなかった場合の姿。魔術的には『右席』よりも劣る
聖人――術式・霊装の行使に消費するマナの減少

【VR:神裂火織・武力7・智力7・コスト3.0。固有スキル:聖人・天草式十字凄教女教皇】
迷いを説かれた神裂火織。しかし自ら答えを出した訳ではないため、あちらの世界よりも弱くなっている
天草式十字凄教・女教皇――このユニットが場にあるとき、全ての天草式の能力+2

【R:ヴィリアン・武力1・智力3・コスト2.5。固有スキル:人望】
なんだかんだで苦労している(させられている)ため、実は前よりも強化されている
人望――このユニットが場にあるとき、全てのイギリス清教の能力+1

【R:土御門元春・武力4・智力6・コスト2.5。固有スキル:陰陽博士】
魔術の腕は上位陣に届くが、それ故に油断しがちで詰めが甘い
陰陽博士――マナを追加で捧げると、【式神】ユニットを召喚できる。また場にあるとき全ての式神の能力+1

【R:建宮斎字・武力5・智力5・コスト2.5。固有スキル:天草式十字凄教】
特に変更なし
天草式十字凄教――このユニットが場にあるとき、【聖人】のダメージを肩代わりできる

【UC:シェリー=クロムウェル・武力3・智力4・コスト2.0。固有スキル:人形遣い】
エリスと死別していないシェリー。研究職を専攻しているため、あちらに比べれば戦闘力は低下している

【UC:五和・武力4・智力2・コスト2.0。固有スキル:天草式十字凄教・聖人崩し】
思い人がいない。しかしそれは他の事にリソースを割かないと同義である
聖人崩し――聖人特攻、相手の能力を1〜3ターン封印する

【UC:ステイル=マグヌス・武力2・智力4・コスト2.0。固有スキル:魔女狩りの王】
彼の大事なものは守られた。故に苛烈な戦いへ身を投じることもなく、また覚悟もないため戦闘力は低下している
魔女狩りの王――マナを3仕掛ければ、任意の味方へ【カウンター】を付加する。術者が死んでも効果は継続する

【C:ゴーレム・エリス・武力3・智力1・コスト1.0】
シェリーの友人を象ったゴーレム。なおエリスはやめてほしいと思っている

【C:天草式十字凄教・信徒・武力2・智力2・コスト1.0。固有スキル:天草式十字凄教】
一般信徒の集まり

【C:式神・武力1・智力2・コスト0.5。固有スキル:プロモーション】
土御門の式神
プロモーション――マナを2捧げるとランダムで四聖獣に変化。それぞれ能力が+1〜3

【C:執事人形・武力2・智力1・コスト1.0】
レディリーの人形。ガチャで一番出る

【C:メイド人形・武力2・智力1・コスト1.0】
レディリーの人形。色違い多数

【SD:トマス=メイザース・武力1・智力1・コストなし。固有スキル:でんでんむしむしかたつむり】
でんでんむしむしかたつむり――カブっている。殻を

上条「――ってやかましいわ!?誰でもそうだわ!日本人の約7割はな!」

ステイル「あの、これは一体?」

コロンゾン『発作発作。戦場の記憶がフィードバックしたりしなかったりしたるのよ、きっと多分』

上条「戦国大○のシステムで作ってほしい……!ギャンブルっかつーかスマスロにまで手ぇ伸ばしやがって!最先端か!」

ステイル「不適切発言が、その」

コロンゾン『ギャンブルじゃなくて遊戯なりしから、まぁうん、別の世界の何かには引っかからない……』

コロンゾン(ちなみに客観的に見たらこんな感じなりよ。内緒だけど)

【SD:トマス=メイザース・武力6・智力6・コストなし。固有スキル:別世界の記憶・最大主教】
世界最高レベルの魔術師のサラブレッドだが、「力を求める者」ではないため、ポテンシャルを生かせていない
しかし「初見殺し」系の術式や相手の弱点など、事前に知った上で対策を練れるので正しい意味でのチート
別世界の記憶――過去に対戦した相手の能力-2
最大主教――全てのイギリス清教の能力値+2

上条(以上の面子が主力だ。こいつらが「――よーし戦争行くぞお前ら!」って言ったらついて来てくれる、と思う。いや、参戦させねぇ子もいっけどさ?例えであって?)

上条(ここからどう転ぶのか予想もつかない。なんつっても才能の闇鍋、学術都市相手だからなぁ)

上条(俺はアレイスターが「子供には酷いことしない」って言ったのを信じたいが――それも”情”か。ローラの言う通り優先順位の問題)

上条(またアレイスターがやろうとしなくても暴走する大人がいないとも限らない。つーか絶対にいる)

上条(そこら辺を確かめに、できれば半年ぐらい学術都市に行きたいもんだが。それはそれでトラブル起しそうなんだよなぁ。つーか絶対に起きるわ)

上条(アホな子供が能力持ったら暴走すんのは目に見えて……ん?アホ?アホな子供……?)

上条(――HAMADURAだ!HAMADURA忘れてた!?ゴメンな!?)

上条(急いでなんとかしないと!このままじゃ、このままじゃ……!)

上条(将来HAMADURAがダウナー系彼女やツンギレ系お姉さんや年下女子や金髪ロ×と同棲する未来になっちまう……ッ!!!)

上条「……」

ステイル「もしもーし?」

上条「なぁステイル、ちょっと聞きたいんだがいいかな?」

ステイル「はい、なんでもどうぞ」

上条「お前に将来カノジョ一人と別系統の女子三人とドキドキ同棲生活送る未来が待ってんのに、それを阻止されたらどう思う?」

ステイル「ハーレムには興味ないですが、まぁ殺しますね」

上条「だよね!やっぱりそう思うよな!」

上条(あっちの事情はよく知らないから、まぁうん、ハマーは自力でなんとかする、よな?環境が多少改善されてんだし?)

上条(しかし、他のだ!もっと他の子が――海原(皮)だ!海原(皮)忘れてた!?ゴメンなマジで!?)

上条(急いでなんとかしないと!このままじゃ、このままじゃ……!)

上条(将来海原(皮)が血の繋がらない褐色系ツンデレ義妹や褐色系子悪魔義妹と同棲する未来になっちまう……ッ!!!)

上条「……」

ステイル「あの、ですから今日は予定が」

上条「なぁステイル、ちょっと聞きたいんだがいいかな?」

ステイル「はい、なんですかまったく」

上条「お前に将来義妹二人キャッキャウフフのドキドキ同棲生活送る未来が待ってんのに、それを阻止されたらどう思う?」

ステイル「歪んだ愛に興味ないですが、まぁ殺しますね」

上条「だよね!やっぱりそう思うよな!」

上条(海原(皮)君も一人でガンバ!君なら出来るさ!)

上条(――っていうのは冗談としてもだ。浜面はともかく、海原の方のフラグは折れてないよな。アステカの魔術結社の暗殺者)

上条(『幻想殺し』が見つかれば狙われるんだろうが……とにかく情報が足りない。誰かあっちに留学させるか?)

コロンゾン『ドスコイッ☆』 ボスッ

上条「そげぶっ!?――ってぇなぁ!?何しやがるドピンク!?」

コロンゾン『お前の秘書が困りたりておるぞー?正気に戻れー?」

上条「あぁすいませんねステイルさんっ!なんですかなんか用すか!?」

ステイル「本日のスケジュールで、面会のご予定がもうすぐお時間かと」

上条「へー、どちらさん?」

ステイル「『黄金の夜明け』のバードウェイ様ですね」



――

バードウェイ「これはこれは、久しぶりだな義父上よ。息災であられたか?」

上条「あぁお陰様でなんとかな。まぁいつくたばってもおかしくないそうなんだがな!」

バードウェイ「おぉそれは笑ってもいられますまい。であればどうぞこの書類にサインをお願いしたく。ささ、お早く」

上条「遺産なんてねぇぞ俺?魔術関係はお前の先代の先代の先代に譲ったんだから」

バードウェイ「フォーチュン様でしたな。できればその話もいつか伺いたく存じますよ」

上条「いや、だからいつも言ってるけど、もっと普通の話し方でいいよって」

バードウェイ「癖みたいなものですね。というかこれ以外を知りません。下僕かその上か」

上条「つーことは俺は下僕だったのかテメー」

バードウェイ「はい?」

上条「いやなんでもないよ!そんなことよりもどう、最近?落ち着いた?」

バードウェイ「まぁそれなりには上手く回っておりますか。叔母上の勢力も一掃できましたし」

上条「それに関しちゃこちらの配慮不足もあった。まさかそっちに仕掛けられるとはなぁ」

バードウェイ「本人がダメならば関係する魔術結社ですか。彼に成功したところで、義父上への影響なんて大してありはないでしょうに」

上条「面子潰されても別にどうってことはないんだよなぁ。それで油断してくれるんだったら、金払ってでも頼みたいし」

バードウェイ「それは既に成功しているのでは?『使い魔は強く、当人は惰弱』――そう、思わせているのでしょう?」

上条「ただの何偽りない事実だからな。広まって困る訳でもないし」

バードウェイ「以前より、そう以前から思っていたのですが、『教皇級』を称する魔術師がおるでしょう?」

上条「あー、たまにいるなぁ。知り合いの中にはいないけど」

バードウェイ「ローマ正教の玉中の玉が外に出る訳もなし、またいざ出陣すれば見敵鏖しを宿命づけられておりましょうし、誰が最初に言い出したのやらと」

上条「あぁそれな、俺も前に気になって調べてみたんだよ。正確にはこちらの探偵さんに」

コロンゾン『どうも。悪魔探偵なりしね』

バードウェイ「いつかそんなジャンル出来そうですな」

上条「元々はどっかの魔術結社が言い出したそうだ。下っ端の魔術師を『教皇級』って」

バードウェイ「腕の良い魔術師ではなくて、ですか?」

上条「どうせ前線に教皇猊下は出て来ない、そう思って嗤ったんだろうが……それを何年、何十年も繰り返しているうちに意味が裏返る」

バードウェイ「『教皇級に魔術が上手い』と?」

上条「どっかの国の『役不足』と同じだな。元々は役者が演じる役が軽すぎて不足だったのが、演じるに足る力量じゃないと思われるようになった」

バードウェイ「ローマ正教は喜んでおりましょうな。『あぁ愚か者どもが勝手に見くびってくれている』と」

バードウェイ「とはいえ、ですよ?実際に『教皇級』とやらに出くわした者がいないのも事実。その手練は興味がありますが」

上条「今から半世紀前近く、現教皇マタイ=リース猊下と会敵したことがある」

バードウェイ「ほう!?どうでした!?」

上条「俺単体だったら軽く負けてたなぁ。人質抱えてから何とか見逃された感じで」

バードウェイ「そういうのが一番困りますね。きちんと血が通っている分だけ、ただ、強い」

上条「勘違いしちまってんのも多いんだよなぁ。昔の英雄がノリとテンションで世界を変えたんだから、俺達の魔術だって影響受けてないはずがないのに」

バードウェイ「大変含蓄のある話をありがとうございました。返礼といってはなんですが、うちの愚妹についてお耳に入れたいことがありまして」

上条「あー、パトリシアだっけ?飛び級でカレッジ入ったんだよな」

バードウェイ「それが実は……学校の推薦で件の学術都市に体験入学を……」

上条「いいんじゃね?つーか幼女をそんな枠に入れる学校が心配だがな!」

バードウェイ「そこで『噂』を聞いたのですよ。これは義父上のお知らせせねばと馳せ参じた次第でして」

上条「噂……あぁまぁ学生ばっかの街だからなぁ。そりゃ魔術師が飛びつくような噂の一つや二つぐらい――」

バードウェイ「『――最強の無能力者がいる』、でも?」

上条「詳しく」



――バッキンガム宮殿 ヴィリアンの私室

上条「――と、いう訳で日本に旅行してきます。最低では一週間、最大だと一年ぐらい?」

ヴィリアン「またぶん投げてきましたね!?散々ムチャ振りされてきたのにここへ来てまた大暴投を!?」

上条「いやあの、これは思いつきではなくてですね?覚えてますか?『10年ぐらい後には交代しますよー』って」

ヴィリアン「引き継ぎにしても急ですよ!?」

上条「だから抜き打ちでしないでいつするんですか――今でしょ!」

ヴィリアン「ちょっと何言ってるのか分からないんですが」

上条「今だったら商標登録でワンチャンいけるか……ッ!?」

ヴィリアン「無理だと思いますよ。別のフレーズに変わるだけで」

ヴィリアン「あと確か、あなたに関する噂で『GAF○全部の大株主』っていうのがあったのに。どうして今更小銭を稼ごうと……」

上条「あ、違います。俺じゃなくてレディリーです。少し委託して運用してもらってる分もありますが」

ヴィリアン「億万長者の部下がいるって事で余計なプレッシャーが……!」

上条「ファィッwww」

ヴィリアン「誰かこの人を殺す術式を……!」

上条「助けて!助けてコロえもーーーん!」

コロンゾン『てれっれってれー♪クロスボスのようなものぉ……!』 スッ

ヴィリアン「これで……私にも戦う力が!」

上条「あ、ごめん。それ俺が開発したロンドン塔のキーホルダー新作だわ。一見クロスボウに見えっけど」

ヴィリアン「そこにどんな意味が!?武器として警戒されるだけなのに!?」

上条「なお特別仕様でギロチンの下の土を、ねっ?加工してあるから、ねっ?特定の属性に特攻が、ねっ?」

アックア「超ウルサイのであるな。さっさと行って来るのである」

ヴィリアン「出来ればスタッフの方も置いて行ってくださると……」

上条「あぁそれは心配しなくていい。全員置いてっから冗談抜きで引き継いだようなつもりでやってくれ」

ヴィリアン「それは逆に宜しくないのでは?暗殺の可能性も」

上条「契約上しゃーなしなんだわ、イギリス清教と『必要悪の教会』は私用で使えねぇの。あぁほら融通利かねぇからウチのは?」

アックア「……言いたいことは多々あるのであるが、イギリスは任せるのであるな」

上条「最初っから全部上手く行くはずもないし、トライ&エラーで試してってくれ」

ヴィリアン「帰って……来るんですよね?思った以上によくやっていたら、そのまま行方をくらますとか、ないですよね?」

上条「――」 ニチャアァッ

ヴィリアン「『最大主教』代理として命じます!あの者の拘束を!自分達だけ一抜けなんてさせませんからね!?」

上条「いや、流石に今のはジョークだけど。最悪の最悪、俺が暗殺された場合には『最初から交代する予定だった』で通してくれ」

上条「もしくは俺を引退扱いにして生死をボカすのもいい。現場の判断で好きなようにやってくれ」

アックア「危険があるのであるか?であれば神裂か土御門を連れて行くのである」

上条「それも微妙なんだよなぁ。アレイスターからちょっかいをかけられる心配はしてないが」

コロンゾン『それも含めた”それ以外”よな。件の都市は能力者のみならず、魔術結社も蠢動しておる故に』

ヴィリアン「あなたは……そこでイギリス清教の代理として動かれるおつもりですか?」

上条「それも含めて様子見だな。あんま外側からの勢力が酷くて、かつアホ叔父貴が放置してるようだったら、まぁノリで?」



――学術都市への航空機 プライベートルーム

上条「――おい見ろよ!アルコール飲み放題だって!」

コロンゾン『うん、分かったから戻って来たりけるのよこのアホが。ママンは教育に失敗したりしな?』

上条「ミナ母さんの悪口は許さないぜ!晩飯買う金がない日は『今日はオバケが出るから早く寝ましょう?』と言ってた人の悪口はな!」

コロンゾン『どう考えてもダンナ選びに失敗したりしな。死霊として呼びたりて殴ろうかな?』

上条「アレイスターに持ってってやろうぜ!あいつも故郷のワインとか料理とか楽しみにしてんだろ!?」

コロンゾン『それが真っ当な国ならばなりしな?イギリスワインと郷土料理はその、人を選びたる故に』

上条「んでコロンゾンさん――悪い話と良い話があるんですけど、どっちから聞きます?」

コロンゾン『うえぇぇ……聞くぅ?ここまで来たりてから聞く?』

上条「ちなみにどっちも主語はアレイスターです!さぁどっち!?」

コロンゾン『どっちも聞かざれるのは……』

上条「現地に行って理由も知らずに巻き込まれてもいいんだったらな!俺は苦労するけど、そんな俺を助けるコロえもんはもっと苦労するからな!それでもいいんだったら覚悟を決めろよ!」

コロンゾン『パートナーの解約が超したかりしが……じゃあいい話から聞きたるわ』

上条「実は俺、アレイスターとメールでやりとりしてんだけど、数ヶ月前から無視か短文で返されるようになってたんだわ」

コロンゾン『それはまぁ、忙しきことでは?』

上条「って思って俺もそんなには考えてなかったんだが。それが先週反応らしい反応があった。それが良いニュース」

コロンゾン『そう?アレイスターと親交温めてもデメリットしかなきよ?』

上条「で、悪いニュースが――そいつ、アレイスター本人じゃねぇっぽい」

コロンゾン『根拠は?』

上条「『そういやこないだ街歩いてたら、お前と父さんがよく行ってたオペラハウス改装してたぞ』って送ったんだわ」

上条「そしたら『そうか。残念だよ、あの懐かしきコヴェント・ガーデンがね』って」

コロンゾン『あぁ国営のオペラハウスなりし?フィフス・エレメント○撮った場所』

上条「そうなんだけど。父さんとあのアホがよく行ってたのは、下町のパブで名前が『オペラハウス』なんだわ」

コロンゾン『名前に超負けてない?』

上条「当時のオーナーが『名前ぐらいは負けねぇぞ!』って根性でつけた上、えっと……まぁ裸のおねーさんもいるんだよ!」

コロンゾン『ストリップ劇場と国立歌劇場を混同している可能性は?』

上条「『あんま父さんと話できなかったんだけど、好きな演目とかあるの?』って返したら、きちんとオペラの名前が返ってきた」

上条「誰かさんはアレイスターを忠実にシミュレートしてるつもりだが、シモネタ大好きヘンタイおじさんの情報は知らなかったのが仇になったな!」

コロンゾン『最低かな?』

上条「えぇとそれでですね、現段階では俺の思い込みでしかないんですよ?ないんですけど、最悪の最悪を想定しろってママがいつも言ってまして」

コロンゾン『お前の親父と結婚したのが最悪だっただろ』

上条「つまり最悪、そう最悪の場合だとですね?『アレイスターをどうにかした個人・団体とかち合う』ってことにですね?」

コロンゾン『飛行機とめてー!?聞いてない!?私聞いてなかりしよ!?』

コロンゾン『「ちょっと日本行くだけでバカンスでのんびりー☆」とか軽く思ってた数時間前の私を誰か止めてやってー!?』

上条「くっくっくっく……悪魔コロンゾン破れたり!俺が行くからにはついていかねばならない契約だぜ……ッ!」

コロンゾン『80年前に戻して!?「あ、そいつ面倒臭いからスルーして他のチャンス待ちたりしよ?」ってアドバイスを……!』

上条(――と、いうのは全てフェイク。「俺が死ぬまでイギリス清教の運営に付き合って。あぁ飽きたら俺を殺してもいいし?」以外の要項はない)

上条(だから今回のも、実を言えば前回の一方通行と姫神に会いに来た、について来たのも契約外ではある)

上条(なんだかんだで迷惑ばっかかけちまってるのは忍びないが……それはそれとして目の前の問題だ)

上条(これは俺の推測――『あっち』の世界であれば、シモネタ大好きヘンタイ長髪逆さ男は敵ばっかだった。積極的に狩りに来ていたコロンゾン。あと付き合わされた魔術サイド)

上条(元古巣相手に手を抜かず、最終的には勝利に近い痛み分けにする程度の戦力は抱えていた。それはまぁ確かな訳で)

上条(対してこっちの世界ならば条件付きで味方の俺と不干渉のローマ正教、そしてやや軋轢の少ない魔術サイドとの関係)

上条(あっちほどは殺伐としてない人間関係……だがそれが果たして良かったのか?結果として油断したり、戦力をなぁなぁで済ませたりとかしてなかったのか?)

上条(アレイスターの人間性が壊れなかったからこそ、自分を守る盾を愚かにして下克上を招いた)

上条(あのアホの敵は”外”だけじゃない。”中”にだっているんだよ。なぁ、そうだろ?お前らなんだろ?)

上条(――『木原』さんよぉ……ッ!!!)



――学術都市

上条「そんな訳で俺たちは学術都市までやってきたのだった……ッ!」

コロンゾン『なんか普通なりしね?もっとこう、私がいつもみたいに悪目立ちなりし、と思うておったのだけれど』

上条「なぁ知ってるかいコロえもん――世の中には髪オレンジとかドピンクとかいても、一切突っ込まれないんだぜ?」

コロンゾン『イギリス清教だって最早「あぁなんかの霊装なのな」って誰にも聞かれなくなりしよ』

上条「方針としちゃ例の噂の真偽を確かめる。いたら接触する。場合によっては群がる有象無象倒して保護……うーん、保護はやりすぎかなぁ」

コロンゾン『アホ理事長は?』

上条「始末はされてない、と思う。俺との間柄を考えれば、『必要悪の教会』が口実に参戦できるわけで」

上条「ただあのアホは大人しく殺られるようなやつでもない訳で。それも含めて威力偵察が主かなぁ」

コロンゾン『「幻想殺し」は如何しよる?』

上条「それも現状次第だ。下手すれば最悪、”それ”が中心から外れて物語が動いてる可能性すらもある」

コロンゾン『作戦名――「みんながんばれ」』

上条「ナイスな作戦名だ!行き当たりばったりをクラシカルに言うとそんな感じだよな!」

コロンゾン『まぁ、伝説の勇者も基本はれっと・いっと・びー方針なりし……』

上条「取り敢えずは『幻想殺し』の方だ。噂、噂って言ったら学生だよなぁ。どっかに潜入すっか?」

コロンゾン『100歳を超えるジジイが学生とかwwww』

上条「やってみないと分かんないでしょうが!決して、そう決してこれは学生時代アゲインとかそういう事ではなくて!」

コロンゾン『欲望がただ漏れなりたるが。まぁ手段としては長期的には悪くなかりしな。ただ別に調べる手段が学校だけとは限らんし』

上条「まぁな。SNSとかネット掲示板、オカルト系投稿SSとか表現の場には困らないっちゃ困らないけども」

上条「信憑性がどんだけあんのかってのも問題点だわな。『それお前絶対に創作だろうが!』ってのが多々あるし」

コロンゾン『昔っからそうなりしよ。サンジェルマンのアホとかそうであるし』

上条「そして何がタチ悪いって言えば、能力者だらけのこの街だと創作も実現出来ちまうって点だな!いい加減にしろよお前ら!」

コロンゾン『て思うたりしが。お前が散々アレイスターに釘刺しとぉたのに、結局子供らが主になっておらん?』

上条「アホの線引きによるかなぁ。『我が子に知られてもこのぐらいだったら!』ってのはアイツにしか分からないだろう――に、加えて」

上条「極端な話、俺がどんだけ言おうと所詮は『元親友のガキ』でしかないわけで。我が子と比べたら、って話だ」

コロンゾン『いつまでも結果が出なければ暴走したるな――それでその時が来たらお前はどうする?』

上条「知り合いが道を踏み外したら殴って連れ戻す」

コロンゾン『……変わらぬなぁ。悪魔でも多少はほだされるというのに』

上条「嘘吐くな。お前が夜中にコツコツと俺の悪口をSNSに投稿してるって知ってるんだからな!?」

コロンゾン『なんて被害妄想!?お前の脳が既におじいちゃん説にソースが!?』

上条「てかやること多いのになんで二人しかいねぇんだよ!?誰だはるるんとか白いのとか置いてきたやつは!?」

コロンゾン『おじーちゃん、お薬の時間なりたるよ?』

上条「てか真面目に聞くんだけど、お前俺と離れて『これ調べてきて☆』って言ったら調べて来てくれる?」

コロンゾン『ううん。スイーツ買って街ブラる』

上条「少しはやる気出せやテメー!?状況次第でお仕事に発展すんだぞ!?」

コロンゾン『でも今は関わりたりてはないしぃ?』

上条「オッケーケツ検索――”メイド服 天使 ドン引き”で」

コロンゾン『邪悪ワードが並んでおるな!?付いて回るんだからお前にもダメージ入りたるのに!?』

上条「誰もお前が着せるとは言っていない――つまり!俺が着て同行者であるお前に恥をかかせる可能性もあるってことだ……ッ!」

コロンゾン『鏡見たれ、なっ?ミナとダメ親父の遺伝子のお陰で、一見「どっち?」みたいな美少年になってる以上、多分「なんだあのエ×コスプレイヤーは!?」になりたるよ?』

上条「飽きてんだよ!もう半世紀以上同じ姿で固定されてっから感動も特にねぇんだよ!」

上条「つーか駅前で漫才してる場合じゃないんだよ!どっからどう調べるかって話を!」

コロンゾン『お、弾き語りやっとるな。平日の昼間なのに』

上条「聞きなさいよ話を!そんなだからいつまで経ってもこの世界線か終わらないんでしょうが!がっ!」

鳴護?『えー、それでは聞いてください。「明日、晴れるかな」です――』

上条「……」

コロンゾン『知りたり?チップを入れるときには、高いところから落とすのがマナーでありけるのよ?』

コロンゾン『逆にギターケースやチップ箱の中へ手を近づけると、チップを盗まれると思われたりて――ってオイ。どうした?』

鳴護?「――以上、『明日、晴れるかな』でしたー。こっちのQRコードからチップや曲のダウンロード販売もしてますから、良かったらどうぞ」

上条「……」 スッ

鳴護?「うわぁ、綺麗な人」

上条「お前――誰だよ!?」

鳴護?「初対面の人に酷い事を言われたよ!?なんなのかな!?」

上条「あ、すいません。知り合いのドピンクの子に似てたもんで」

鳴護?「着てますよね?お兄さんの後ろの子がまさにドピンクを。ドピンクの呪いとかにやられている人ですか?」

上条「あぁすいません超混乱してます!お金を払えば付き合っていいんですよね!幾らほしいんですか!?」

鳴護?「主旨が変ります!そういうのはやってないです!」

上条「いやごめんなさい!いい曲なんでつい聞き惚れてしまいまして!」

鳴護?「それはどうもです」

上条「お暇なんですか?」

鳴護?「あれ?この外人さんケンカ売ってるのかな?それとも日本語に不慣れなだけ?」

上条「ワタシ、ニッホンッゴワッカリマーセン!」

鳴護?「リアクションがコッテコテで胃もたれしそうです」

上条「日本大好きでーす!スシ、テンプーラ、タカラトミ○!」

鳴護?「偏ってません?最後のは微妙に?」

上条「あなたはヘキサギ○派ですか?それともダイアクロ○派?私はエヴォロイ○のシンプルな作りに感動しています」

鳴護?「どっちも知りません。まぁなんか男の子のオモチャだなって気はしますけども」

上条「あなたのお名前を聞いてもいいですか?」

鳴護?「あ、はい、アウラです。ミュージシャン的な感じ?」

上条(アリサじゃねぇのな?つーか誰よこいつ。顔はほぼ完全にアリサなんだけど、黒髪ストレート以外は)

上条(……あぁ、若干発育が足りてない感じではある。どこがとは言わないが。おっぱ×)

上条「実はお願いがあります。私はあなたのお時間を買いたいです」

アウラ(鳴護?)「買いたい、ですか?いかがわしいものではないのであれば、まぁお話ぐらいでしたら」

上条「私はイギリスの民俗学者デース。学術都市に興味があってキマシター」

アウラ「たまに言葉が壊れるのはなんでですか?普通に喋って構いませんよ?」

上条「あ、これお土産のロンドン塔のキーホルダーです」

アウラ「あぁはい、どうも。それよりも本題を伺いたいんですが」

上条「台座の所に『東京タワー』って掘ってあります。新作です」

アウラ「東京タワーじゃないのに!?ロンドン塔なのに!?」

上条「それでですね。学術都市はとても興味深いです。噂や都市伝説が次々と流れています」

アウラ「あぁそれを調べに来られたんですね」

上条「しかし私は一人です。調べるのがとてもとても難しいと思います」

アウラ「そうですねー。雲をつかむような、って後ろの方は?」

上条「後ろ?後ろに誰かいたんですか?」

アウラ「いやでもそちらにドピンクのシスターさんが――っていない!?あ、あれ?どこに……?」

上条「お願いしますアウラさん!ここで暇潰ししてる時間があるんだったら!」

アウラ「その、トゲが。言葉のトゲがたまに刺さるんですけど」

上条「例え将来デビューできても、妙に写真集の仕事が多くて事務所の方針に悩むでしょうが!そんなあなたの手を貸してください!」

アウラ「ねぇ、それでハイって言う人いるかな?いませんよね?」

上条「幾らだ!?幾らほしいのか言ってみてください!?」

アウラ「なんで必死なんですか。じゃあ一日千ドルで」

上条「分かりました。こちらのコード先に振り込んでおきますね」 ピッ

アウラ「えっ?」

上条「取り敢えず一週間分を振り込みました。他の必要経費は私が持ちます」

アウラ「ちょっ!?70万円なんて流石に!」

上条「誠意だと思ってください。私がこの仕事にかけている対価としては妥当だと思い、払いました」

アウラ「……じゃまぁ要相談でお願いしますね?ガイドに足りなかったらお返ししますからね?」

上条「別に返さなくても構いませんが、それでいいのであれば」

アウラ「あぁじゃあお名前を伺ってもいいですか?」

上条「トーマ=メイザースです。ロンドンから来ました」

アウラ「トーマ君ですね。歳も同じぐらいですかね、むしろあたしの方が上っぽい」

上条「……」

アウラ「え、実は結構年下だったりしますか?」

上条「いや、まぁ、なんか――懐かしかったんだよな」



――

アウラ「――それでどうします?」

上条「そうですね。調査する時間は朝9時から夜5時ぐらいまでお願いします。その間は経費で落とします」

上条「延長したり早まったり、プライベートの都合がつかなければそちらを優先してください。私がお願いする立場です」

アウラ「あー、その時間で大丈夫ですよ」

上条「あなたは学生なのですか?どうしてここで演奏を?」

アウラ「単位は!そう単位はキッチリ取っていますので問題ないですから!」

上条「良くないのでは?」

アウラ「やー、学校行くとアレがアレであんまり行きたくないんですよね。皆さん悪意が無いのはわかるんですけど」

上条「アレとは?」

アウラ「外国の方にこう言って分かるかな……『妹におなりなさい』、と」

上条「なるべきだよ!?何言ってんだお前!?」

アウラ「急にどうしたの?なんでテンション上がってるのかな?」

上条「おっと失礼。テキサス訛りが出てしまいました」

アウラ「テキサスってアメリカじゃないでしたっけ?アメリカって日本語が訛りなんですか」

アウラ「あー、まぁそれだけじゃなくてですね。同世代に『エース』と『クイーン』がいる上、何故か『ヒメ』と呼ばれて居心地が悪くって」

上条「ヒメwwwwwww」

アウラ「あたしが言ってんじゃないですからね!?選択教科で音楽を選んだらいつのまにか!」

アウラ「てゆうか『能力』はそんなファンシーなのじゃないのに!もっと可愛いのが良かったよ!」

上条「学術都市で能力の内容を聞くのはマナー違反になりますか?」

アウラ「あー……人によりますかねぇ。強度によって、みたいな人はいますから、やっぱり」

アウラ「ちなみにあたしは聞かないでくれた方が有り難いです。その事情も含めて汲んでいただけると」

上条「分かりました。それでどのような能力ですか?」

アウラ「嫌だって言ったよね?聞いたよね?」

上条(と、いう事はこの子がアリサじゃないのは確定と。『最強のレベル0』って言ってたから、アリサである可能性も考えてはいた)

アウラ「といいますか。お金を頂いていてなんですが、都市伝説にしろ何にしろ、学生さんがヤンチャしてるって可能性もあるので……」

上条「それは問題ありません。都市伝説は必ずしも非現実的な存在が起しているとは限りません」

アウラ「トーマ君ってオカルトとか信じる派?具体的には幽霊とかだけど」

上条「まだ見たことはありません。もしも実証できたら論文に書きます」

アウラ「そういうスタンスですか。まぁ頭からハマってるよりは安全かな」

上条(いないって事はない。死霊術系の魔術もあるし)

アウラ「それじゃあたしの知ってる話から教えるね」

上条「すいません。長くなるんだったらどこか座れる場所に行きませんか?私はお腹がすきました」

アウラ「あぁじゃあ近くに学生向けのファミレスがあるからそっちに行きましょうか?」

上条「はい、お願いします」

……

上条「すいません店員さん。ここからここまで全部ください」

アウラ「そんな頼み方ってある!?そこまでお腹がすいて!?」

上条「あなたが食べたそうな気がしています。無理ですか?」

アウラ「あぁまぁ全力の半分ぐらいで食べられるけども!ロハだったら喜んでは頂くよ!」

上条「ではどうぞ。食事を美味しそうに食べる女性は魅力的です」

アウラ「ど、どうも?」

上条「ではゆっくり話して下さい。急いではいません」

アウラ「録音とかしないんですか?」

上条「メモはとります。よろしくお願いします」

アウラ「まぁそれでいいんだったら――これはあたしの友達……の、友達から聞いた話なんですけど――」

……

アウラ「――っていうのが『空き地のカミキリムシ』っていう都市伝説でした。ご静聴ありがとうございました」

上条「個人でも結構ご存じなのですね。噂話がお好きですか?」

アウラ「友達……うんまぁお友達の一人に、そういうのが詳しい子がいて、ね。なんというか実際に被害が出たり出なかったりするんだけど」

上条「そうなのですか?ではその内、その方からお話を聞けますか?」

アウラ「あー、どうでしょう?ぶっちゃけあたしよりか適任っちゃ適任ですけど、それはやっぱり高確率でご迷惑になるかと」

上条「とは?」

アウラ「『――よっしゃ!そういうことでしたらあたしにお任せを!都市伝説巡回弾丸ツアーを組めってことですね!』」

上条「『大体分かったわー。その反応で柵中のヒュッケバイ○だと分かっちまったわー』」

アウラ「え、英語?ヒュッケ、なんですか?」

上条「興味はあります。でも私はあなたにお願いしました。あなたの出来る範囲でお願いします」

アウラ「それはどうも?でもあたしの知ってる話は大体こんな感じなんですよねぇ。あーでも最近聞いた中ではこんなのがあったかな、『制裁指導』っていう」

上条「それは一体?」

アウラ「なんかねー、都市伝説を広める人達に”制裁”をするとかなんとか。涙子ちゃん――あ、そのお友達ね?――が言ってたんだよね」

上条「それは怖いですね。私も注意しなければいけないでしょうか?」

アウラ「どうだろうねぇ。よくある『話したらいけない』ってパターンの一種じゃないか、って気もするし」

上条「そもそも条件を満たすにはどのような?”広める”のは口頭で語るか、SNSに書き込むか。手段は多くあります」

アウラ「まぁ都市伝説だからねぇ。ちょっとバズったらそれだけで真実として扱われちゃうし……あ、これも美味しい」

コロンゾン『(――そのまま聞きたりしな。悪意の匂いがする)』

上条「(俺は何となくは。それで?どうすれば?)

コロンゾン『(所詮は素人なりしな。まずは――)』

アウラ「そもそも色々種類があるのに、どれを語ったらダメとかあるんですかね――ってトーマ君?どうしたの?」

上条「……アウラさん。その涙子さんのお友達、『制裁指導』の話をしてくれた方に連絡を取ることはできますか?」

アウラ「え、どうしたの急に?あたしが聞いた以上の話はないと思うよ?」

上条「そこは心配していません。出来れば涙子さんにも伝えたいことがあります。できれば早く」

アウラ「それは構わないんだけど、出来れば事情をもう少しだけ詳しく教えてくれると嬉しいかな?」

上条「もしもあなたが都市伝説を作りたいと思います。例えば『ある橋の上に赤いコートを着た女幽霊が出る』としましょう。あなたはどうしますか?」

アウラ「えー、だったら赤いコート着て徘徊するかなぁ。風紀委員の人達に叱られそうだけど」

上条「そうですね、自演するのが最も手っ取り早い方法です。まぁ本気で広めるつもりがあるならば、ですが」

アウラ「つまり……『制裁指導』とは他の何かの噂を語るんじゃなく、『制裁指導』を語った人がターゲットになる……?」

上条「それが一番の最適解です。噂を噂ではなくするには」

アウラ「……ちょっとゴメン、席外すね?涙子ちゃん達に連絡して、あと……風紀委員のお友達にも事情を伝えた方がいいよね?」

上条「はい。それがいいと思います」

アウラ「トーマ君の名前は出しても?あたしが言ったってよりは信用してもらえそうだし」

上条「どうぞご自由に」

アウラ「ありがと。じゃちょっと待っててね――」 ガタッ

上条「――で、次は?」

コロンゾン『「釣り」に決まっておる』



――とあるファミレス

アウラ「――えぇっとごめんなさい。お待たせしました」

上条「いえお気になさらず。それよりお友達はどうでした?」

アウラ「ジャッジメント――風紀委員って言って分かりますか?この街の自警団、っぽいことをしてる人たちなんですが」

上条「『ですの!』ですね」

アウラ「あぁ黒子ちゃんがワールドワイドになってる……!えっと、まぁその人たちが保護というか、観察という感じで守ってくれるそうです」

上条「それは良かったです」

アウラ「ただ、その事件が起きているかどうかが不明なので、あまり強くはできない、ってことらしいです」

上条「はい、そうですね。考えすぎの方がいいと思います」

アウラ「で、なんですが、と言いますか非常にこう言いにくいんですけど。あたしのお友達が是非トーマ君にお会いしたいと」

上条(友達?誰?つーかなんで?)

コロンゾン(お前の友達が知らないガイジンから高額報酬を貰いつつ、「お話を聞かせて?」とか言われたら如何に思うたる?)

上条(どう考えてもヤベエバイトじゃねぇか――ってそれ俺だわ!確かに売り言葉に買い言葉で即金したけど!)

上条「あー……率直にいって怪しまれていると?」

アウラ「本人を目の前にして言うのは気が引けますけど、あたしも正直怪しいなぁと」

上条「はい、私もその場のノリでやったのを反省しています。ただ一度交わした契約なので、ある程度は守って頂きたいとも思います」

アウラ「……やましいところはないんですよね?」

上条「ファインセンキュー」

アウラ「あるって言ってるなこれ!?雑な会話だし!」

上条「理解しました。あなたのお友達に私は会います。ただし条件があります」

アウラ「条件ですか?」

上条「何か都市伝説を聞かせてください。仮に契約が破棄されたとしてもです」

アウラ「あぁまぁ一つぐらいだったら誰でもあるんじゃないかな。じゃあ伝えておきますけど、こっちに呼びますか?それとも向こうへ行きます?」

上条「向こうとは?」

アウラ「『風紀委員』の支部ですね。非番ではないので、こちらへ来る場合だと相当お時間がかかる、らしいです」

上条(まぁ、普通に考えりゃ)

コロンゾン(『O-Hanashiがしたいからこっちゃ来い☆』ってことなりしな)

上条「はい、分かりました。そういうことであれば――あ、ここのお支払いは私が」

アウラ「あぁいえ悪いですよ!ワリカンで!」

上条「五桁になりますが?」

アウラ「――交通費は出します!ここからバスで一本分だけ!」



――『風紀委員』第○○支部所

初春「――お疲れさまです。初めまして、私は学園都市で『風紀委員」をやっております初春飾利と申します」

上条「これはご丁寧にありがとうございます。私はトマス=メイザースです。トーマと呼んでくれると嬉しいと思います」

初春「それでですね、あくまでも形式的なものでありますが、身分証か類するものを提示して頂けますか?あぁ勿論勿論、任意であって強制ではありませんとも」

初春「――今のところは、ですが」

上条(やだこの子、俺を圧迫面接する気満々……!)

コロンゾン(ぶっちゃけ怪しかりしよ?それもかなりの)

上条(俺の中の親父譲りの芸人の血が「『くっくっくっく……!まさか、こうも早く見破られようとはなぁ!』とか言ったら超ウケる!」って騒いで……!)

コロンゾン(強制退去命令喰らってお訊ね者になるだけたりし。あとあのオッサンにそんな血が流れてたの?初耳なりしが?)

初春「どうされました?お加減が悪いんでしたら大使館にでも連絡しましょうか?」

上条(とはいえ、だ。80年弱『必要悪の教会』で、「キミ何類?人類とか言わないよね?」って連中とセメントしてきた俺からすればまだまだ)

コロンゾン(悪魔が言うのも如何なものかと思わなくもなかりしけど、『やだこいつ悪魔より面倒クセぇわ』ってのが20年に一度ペースで現れたるな)

上条「失礼しました。言葉の意味が分からなかったもので。つまりこれはあれですか?民間人で私人逮捕以外に法的な執行を行なえない人間に脅迫されていると理解しても?」

初春「それは曲解が過ぎるのではないでしょうか?友人を案じた人間が少々気が急いでしまっているだけですので」

上条「ちょっと何を言っているのか分からないですね。よく分からないのであなたの上司の方の連絡先を教えて頂けませんか?そちらと話した方がお互いに幸せになれると思います」

初春「そこまで頑なに拒否する理由を伺っても?」

上条「頑なな人間が出頭するのは矛盾していませんか?それでそちらの上司の連絡先は……あぁもういいです。失礼します」

初春「待ってください!」

上条「――過去の判例では『当人が脱出を希望したのに遮る行為』は監禁罪として成立するようです。またそれを抵抗する権利としては正当防衛が成立します」

上条「成程。能力者を取り締まる治安組織、しかもヴィジランテのような相手へ対し、ただの一般人が多少やり過ぎてしまっても問題ない、ですよね?」

初春「それは……!」

上条「――つーか君、経験不足だわ。煽って煽ってチンピラの本性曝こうと思ったんだろうが、相手がそれ以上だったらどうする?」

上条「最初から”やる”人間だったら口実がありゃなんだってするぞ?『よーいドン!』で始まんのは運動場の駆けっこだけで」

アウラ「ちょ、ちょっと待ってくださいよ二人とも!?なんでそんなに喧嘩腰になっているんですか最初っから!」

上条「対処としては悪くないけどもう少し暴力装置も必要ですねって話だ」

アウラ「てか口調……最初からそういう風に喋れたんですね」

上条「見たまんまの外人がペラッペラ喋るのもどうかと思って。戻そうか?」

アウラ「意味が分からないです。てゆうか飾利ちゃんを虐めないでください!トーマ君が悪いんだよ!?」

上条「なんでだよ。俺は一応遠回しに皮肉っただけで」

アウラ「女の子を困らせる男子は最低です!」

上条「あー……まぁ、それはそうだな。母さんもそう言ってたわ。アホと一緒に朝帰りした父さんを正座させながら」

アウラ「楽しそうなお母さん、かな?」

上条「『いやでもミナは女の子って歳じゃ――ぞげぶっ!?』って余計な一言も」

アウラ「本当の意味でも仲が良いよね」

上条「じゃあまぁごめんなさいお花の人。悪気はあったし反省もしていません」

初春「謝罪になっていません。何一つとして」

上条「お詫びって言ったらなんですけどこれロンドン塔のキーホルダーです。台座の所に『スカイツリー』って刻んであるレア品です」

初春「ただの誤植と何が違うんですか?硬貨と違ってレアものにはならなさそうな……」

上条「んでこちらが身分証です。正しくは社員証を兼ねてますけど」

初春「ゴネにゴネるんだったら最初から見せてくださいよ。では失礼して拝見して――と『オービット・サテライト上級部長』?」

アウラ「学生さんだって言ったよ!?」

上条「学生と兼業してんだよ。てか俺が何かやらかしたとき、保護者代わりになるのがそっちって意味で」

上条(なお出発前にレディリーさんに泣きつきました☆)

コロンゾン(歴史に残る見事なDOGEZAなりしよ。写メでみんなに拡散しといたわ)

アウラ「へー、じゃあトーマ君はお父さんと同じ会社だったんだね。もしかしてお知り合いだったり?」

上条「同じ会社?ってことは君の親父さんも――」

上条(オービット・ポータル改めオービット・サテライトに知り合いなんていたっけか?挨拶ぐらいはしてんだろうけど)

上条(つーか元の世界でもあそこの会社っていったら、一人か二人――)

上条「……」

アウラ「な、なに?」

上条「うっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっそだぁ!?お前シャットアウラなの!?」

シャットアウラ(アウラ)「なんて暴言が!?今日初めて会った人から全否定されたよ!?」

上条「いやどう見てもアリサ……あぁでもおっぱ×小さいし髪黒くてアホっぽい……!」

シャットアウラ「そろそろ殴るよ?ゲーセンのパンチングマシンじゃそこそこ良い数字出てるからね?」

上条「あぁまぁ……そう、か?へー、やさぐれなかったらそのままになるのかー。へー」

シャットアウラ「ささくれては来ているからね?何か変なこと言い出してる外人さんにね?」

初春「はいそこまで。今ちょっと調べてみましたが本物でしたねメイザースさん。きちんと滞在許可も受理されています」

上条「あぁいえいえ。そっちも怪しい人間を警戒するのは当然だし、ましてや友達なんだから気持ちも分かる。変に突っかかって悪かったよ。ごめんなさい」

初春「こちらこそ有意義なアドバイスをありがとうございます。いつもは暴力担当がいるんですがねぇ。今は席を外しておりまして」

上条「あー、俺が余計な事言っちゃった感じですか?」

初春「んー、どうなんでしょうね?どう思います?」

上条「あは」

初春「ふふ」

上条・初春「あはふふははははははははははははっ!!!」

シャットアウラ「早く戻って来て黒子ちゃん!?いつも笑顔の飾利ちゃんがよりダークな笑顔になってる!」

上条「まぁともあれ。こちらもどう見ても胡散臭いお願いをした自覚はあるっていうかし、その場のノリと言いますか、テンションっていうか」

初春「普通は警戒して当然ですよ。シャットアウラさんはその、まぁアレな子なんで」

シャットアウラ「アレって何かな?」

上条「その上でお願いになりますが、もしよかったらアウラさんのお友達を含めて依頼できませんか?報酬はそちらで配分すると言うことで」

初春「お断りします。立場上報酬を受け取るような副業は受けられません――ですが」

初春「どう考えてもノーギャラで首突っ込むアレな子がもう一人いるので、私はまぁ監査的な意味で監督をしたいと思います。勿論ノーギャラで」

シャットアウラ「だからアレって何かな?多分だけど涙子ちゃんのことだよね?」

上条「ありがとうございます。では詳細はこのあと詰めるとして、何か大きな事件でもあったのですか?」

初春「口調は崩されて結構ですよ。事件……まぁ大なり小なり起きてますからねぇ。あなたにご指摘頂いた噂捏造団なんかそのものですし、正直あなたも疑ってはいます」

上条「わざわざ外部から来て援×しねぇよ。だからって地元ならするって意味でもないが」

初春「その外見に騙されそうな方も多いでしょうしね。しかし噂の現地調査ですか。胡散臭いですよね」

上条「と、言われてもなぁ。調査に来たってのも嘘じゃないし」

初春「脅かす訳ではないのですが、調査とやらは今ではなくてはいけないのですか?半年遅らせたりは?」

上条「何かあったの?」

初春「――あぁすいませんシャットアウラさん。お茶が切れてしまっているので、近くのコンビニで買ってきて頂けませんか?はいこれカードです」

シャットアウラ「あ、うん、お客様だもんね。おもてなししないといけない、かな?」

初春「ちなみに私はこの春発売の明太子シューパスタ黒蜜きなこ味で」

シャットアウラ「そんなゲテモノは買いたくないな!?いつもそうだけど飾利ちゃんのお使いは店員さんから『うわぁ……』って目で見られるんだよね!?」

上条「俺はMOBILITYJOIN○の6弾を。ストライ○とストライクルージ○、あとEXパーツ二種類よろしく。あ、G○のEXとは間違えるなよ!絶対だからな!」

シャットアウラ「男子特有のなんか呪文っぽい専門用語!?仮にあっても『なかったよ?』って言うけどね!」

ガチャッパタンッ

上条「……なぁ、大丈夫かあの子?こんなユルくて生きていけるの?」

初春「腐っても常盤台ですので。スール、もといお世話をしてくれる方が多数いますから」

上条「本人がそれ嫌だって初対面の人間に言ってたんだよ。それで?何かヤッバイ事が起きてんの?」

初春「ここ数ヶ月ですが変なトラブルが増えているんですよ。学園生絡みであったりそうでなかったりと」

上条「そうでなかったり……働いてる大人側が何か?」

初春「ではなく外部組ですね。観光もしくは就業や留学パスで入って来た人が失踪した上、発見されたときには異常な姿だったり、というケースが相次いでいます」

上条「異常?報道されてなかったよな?」

初春「『現在警察は事故と事件、両方の面から捜査を進めており』と、いうやつですね。私も偶然見てしまった事件資料から知ったに過ぎませんけど」

上条「なんか凄い雑な偶然。サイコロ振らずに直置きしてゾロ目出したんだろうなー」

初春「既に一部には流れてしまっています、『逆飛び降り』という都市伝説の名前で」

上条「飛び降りの逆……超凄いBダッシ○みたいな?」

初春「それをできる人間を何人か知ってますけど、もう少し外連味があります。普通の飛び降りは地面のコンクリの上でぐちゃってなるじゃないですか?」

初春「『逆飛び降り』はアパートの屋上で、まるで重機で踏み潰されたように、という話です」

上条「その話が都市伝説として流れてると」

初春「他にもネットカフェで眠っていたら背中が痛くて目を覚ましたそうです。店員さんを呼んで見てもらったら、丁度ハガキサイズに皮膚だけが切り取られていたり」

上条「海原(皮)じゃねぇか。何やってんだあのアホ」

初春「はい?」

上条「……で、それを俺に言う意味は?」

初春「『お前を疑っているんだぞ、分かってるよな?』ではなく『危険だから一旦案件を持ち帰って精査されては?』ですね。えぇもうそりゃ純粋な厚意から言っています」

上条「正直な感想ありがとう。あと気持ちはよーく分かるわ」

上条(――っていう話みたいだけど。どうしたもんだろうな?)

コロンゾン(お前の目的達成のためには情報が必須なりし。なれば現地の協力者がいた方が良きよな)

上条(マジかお前。確実に巻き込むだろそしたら?)

コロンゾン(けれどこのままでも別口で巻き込まれたるのでは?お前がいっちょ噛みするかしないかの差であって)

コロンゾン(生まれついた『善性』によって看過できぬ以上、目の届く範囲に置くのもアリはアリ))

上条(俺がいてもいなくても突っ込む、か。まぁビリビリと白井さんがいるんだからそりゃするわな)

コロンゾン(あと気になりしは噂よな。『誰か』が『何か』のために流した印象がある、気がする)

上条(悪意の臭いか?)

コロンゾン(まだ何とも。善意でリークした情報を悪意をもって拡散されると悪意が付加されしけども……)

上条(意図的に誰かがやってる訳ではない?)

コロンゾン(と、いう訳でもなき、と思う。ただ何かこう、違和感というか、なんというか)

上条(分からんわ。もっとアホにも分かりやすく頼む)

コロンゾン(「あいつが気に食わない、酷い目に遭わせてやろう」とペットの愛鳥を害せしめす。これは確実に悪意が存在したる)

コロンゾン(けれどクリスマスに業者が七面鳥をシメりしな。そこには悪意はなかりしよ)

上条(十字教だからな。「この世界は人のために作っておいたよ」的なの)

コロンゾン(そう。。なんだったら『クソッタレの神様ありがとう☆』って感謝すらある……そんな感じ?かも?)

上条(『一般的には悪い事なのに、やってる当人は自覚してない』か?)

コロンゾン(いいや――業務、そう業務でやっている、か?勘だが)

上条(あのアホを探しに来ただけなのに、どうしてまたなんかヤッベェ奴らと関わり合いを……!)

コロンゾン(ならぱ喚べば良き。神裂か土御門辺りが適任なりし)

上条(ダメだ。名前のある連中を呼びつけたら問題になる――し。そもそも”それ”が目的だって可能性もある)

コロンゾン(魔術と科学の全面戦争。個人的には好みなりしよ?)

上条(アホ悪魔のスカート丈よ!10cm短くなれ……!)

コロンゾン(みぎゃあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!?見えてないから意味ないなコレ!?)

初春「――もしもーし?すいませーん、長考入られたところ恐縮なんですが」

上条「あぁ失礼しました。脳内悪魔のスカート丈を調整していたもので」

初春「ほぼほぼ変質者ですよ?」

上条「あーその、皮膚切り取り魔事件?なんて呼ばれてます?」

初春「関係者の間では『皮一号』とだけ」

上条「ネーミングセンスが昭和の事件か。資料を見せろとは言いませんけど、被害者の方の足取りって辿れます?」

初春「無理です。私達は一介の善意の協力者に過ぎませんので、その権限を持ちません」

初春「……というか被害者?加害者の方ではなくて?」

上条「じゃあこれは俺の一人言だけど、皮を獲られた方の足取りを調べたらいいと思うよ。顔認証だったら記録に残るだろうし」

上条「まぁ今も同じ顔はしてないだろうし、多分君らの上司も一枚岩じゃないだろうから。絶対にやめておいた方が賢いとは思うが」

初春「顔……皮、それじゃまるで本当のオカルトじゃ――!」

シャットアウラ「――ただいまー!いやなんかなかったよ、モビリティなんとか!どこにもね!」

上条「あっはいお疲れさまでしたー。俺はここで失礼しまーす」



――ビジネスホテル

コロンゾン『こんな、こんなにところへ連れこんでどうするつもりなりしよっ!?どうせエ×いことするつもりなんでしょ、エ×同人みたいに!?』

上条「100年ものの童×なめんなよコノヤロー。悪ぃがそっちの方はもう何か植物の域にまで達してるわ。ご無沙汰過ぎて」

コロンゾン『メイザース家、断・絶☆』

上条「母さんには悪いと思わなくもねぇがそれはいいんだよ!父さんのダメ遺伝子に引導を渡せるって効果はあるんだからな!」

上条「てか俺の話はどうだっていいわ!んなことより現状ヤバくね?つーか今何が起きてんの?」

コロンゾン『んー、まぁ予想できたことなりしかなぁ、と。あのアホが死んで、もとい行方不明になったら蠢動する勢力は数多おるだろうし?』

コロンゾン『それが”中”であったり”外”であったり』

上条「外?」

コロンゾン『魔術結社の他に何があると?あぁまぁ外国政府のエージェントなどは前からいたりしが……』

上条「ただですら混沌としてるってのに悪い意味でフラグが……!」

コロンゾン『誰も彼もチャーンスだと思うたるのよ。それが本当にそうかは別にして――で、あの子供たちを本気で巻き込みたる訳?』

上条「気は進まねぇけど、それ以外に選択肢がないですよねってお前が言ったんだろ」

コロンゾン『え、ごめん憶えてない。「この子達巻き込んだ方が早く帰れるかなー」程度にしか』

上条「でしょうね!お前の倫理観なんてそんなもんだし!」

コロンゾン『ちゅーか前から思うたりけるが、学園都市の上位能力者ってどんな感じなりし?』

上条「調べてないのか?」

コロンゾン『名前と能力名だけは、というかそれ以上は公開されておらぬし、噂レベルでしか語られてなかりししぃ』

上条「あー、アホ理事長が若干改心したせいでデモンストレーションには使われなくなってんのか。じゃあ上から説明するわ」

上条「学園都市第一位が一方通行。ベクトル操作能力を持って大抵のもんは反射しちまう能力者だ」

コロンゾン『超間違ってる』

上条「なんでだよ!?何回か直で喰らってる人間が言うんだから間違いねぇんだよ!?」

コロンゾン『そうでなくて。ほら、学園都市ナビに乗ってる名前と二つ名とは違っておるし』

上条「『第一位、垣根帝督』――あぁ!色々と変わったからな!へー、単純に繰り上がってんのか。ビリビリも第二位に格上げされ――」

上条「――『第三位、浜面沈利』……?」

コロンゾン『知り合い?』

上条「あー、うん。なんか聞き覚えのあるイケメンみたいな苗字だけど、俺は知らないよ?知り合いは女の子じゃなかったからな?」

上条「ゲットしたんだかされたんだか。勝ち組、まぁそうだよな!やったな浜面!入籍してるんじゃん!」

上条「つーか何これフラグ?レベル5と籍入れてるってことはHAMADURAに『幻想殺し』装備されるって可能性が高まったじゃんよ!」

コロンゾン『たまに聞くレッサー某と並ぶHAMADURAって単語。ヤバたにえん?』

上条「それは腐れ日本語じゃなくてサブカルのギャル語。ブラックな高校に勤めたイマっ○さんが被害に遭ってるヤツ」
(※双○先生著)

上条「じゃなくて浜面は、あー根性だけなら世界一かな?落ちてる石ころを蹴ったと思ったら、実は10トンぐらいある岩の先っちょだったり?」

コロンゾン『ふーん?それじゃレッサー某は?』

上条「俺の宿敵。調子悪いときに限って降ってくる雨みたいなやつ」

コロンゾン『どっちも要領を得なかりしが、てか「新たなる光」とかいう魔術結社は存在しなかりしよ?』

上条「クーデターが消えちまったからいなくなった……?いや、存在自体が消えるはずもねぇし、どっかにはいるんだろうが」

コロンゾン『「シリアルキラーが犯罪を起す前に殺しておこう」?』

上条「いや、あっちは間違いなく正義側の人間。そして俺たちはどれだけ控えめに言ってもグレーに見えないこともない黒。だからこそマズい」

コロンゾン『良きかな良きかな。魔王を殺すのは勇者の一振りと決まぉておるし』

上条「そん時は魔王として受けて立つだけだな。んで?他に気になったこととかあるか?」

コロンゾン『能力者の名前と能力名が中二センス』

上条「やかましいわ!そういうもんだからいいんだよ!」

コロンゾン『あ、での一人だけ片仮名の子がいたるな?一番最後の子』

上条「最後?繰り上がったとしたら次点レベル5のやつか。どれどれ、俺の知ってる人かな?」


第七位・結標淡希。能力『コオロギ』


上条「いや、知らない人だな。うん、全然全然?聞き覚えもないし心当たりもなかったな!世界観が変わってもショタ痴女を貫いてる知り合いなんていなかったよ!」

コロンゾン『コオロギ……?』

上条「きっと何かの頭文字じゃないかな!よーし明日も早いから寝ようかマジで!」

コロンゾン『あぁあと何人か見られておるな。”こっち”の流儀で』

上条「へー、どちらさんで?知り合いだったり?」

コロンゾン『十字教はなしで、日本の……あー、どう言うたら伝わるか怪しきことなりしが。土御門のヤローが使うような使い魔の』

上条「誰かが式神飛ばして来てんのな。つーことは初春さんたち誰かにロックされてたって事じゃねぇか。海原(皮)以外にも」

上条「前は俺が止めたけど、つーかあの常盤台スキーは最初っからビリビリを殺すつもりはなかったっぽいけど。今回も同じか?」

上条「あっちのシナリオ通りに進んでりゃ、そいつが『幻想殺し』か……?」

コロンゾン『重要人物なりし?』

上条「ある意味では。そこのリストの第三位、もとい今は第二位の友達なんだわ」

コロンゾン『ほーん?じゃ協力ゲットできれば楽なりしよな。ゲットできれば』

上条「大丈夫じゃねぇの?多少過激なところはあっけど根本的な所はイイヤツだよ」

コロンゾン『や、そうではなく……まぁ良きか。明日になればどっちみち現実が分かるだろうし』



――『風紀委員』第○○支部所 翌日

初春「――いやー、すいませんね。昨日の今日で呼び出してしまいまして。お忙しかったですか?何かご予定でも?」

上条「……いえ、そのそういうのはなかったんですけど」

初春「けど?何か?」

御坂・白井・食蜂・帆風「……」

上条「俺が思ってたのとは違う……ッ!!!圧が!圧が!」

コロンゾン(まぁ、あぁなったならこうなりたるよな。どう考えても怪しいガイジンがペラッペラやっていれば)

初春「昨日の貴重なご意見から反省致しましてね。暴力装置を集めてみました」

上条「勉強熱心でイイ子!そう返されたら納得せざるを得ない!」

初春「その割には喚ばれたらノコノコと来やがってなんだよと記憶していますが」

上条「え?女子に喚ばれて行かないやついないよ!それが罰ゲームの嘘告白だと分かっていてもな!」

初春「あなたの思い出が悲しすぎます。なんでその外見で辛い体験してるんですか」

上条「オイオイ何言ってんだよ!外部に問題がないってことは中身が故障してるってことじゃないか!」

初春「強く理解しました。あ、ちなみに今回のこの集まりにはシャットアウラさん、並びに『ウタヒメ』派閥お呼びしていませんので悪しからず」

上条「【!見せられないよ!】ってことするつもりですね分かりません!」

初春「あーまぁ単刀直入にお話しします、外部の方。できればあなたのお持ちの情報を開示してくださいませんか?こちらは……状況次第でお力になれると思いますので」

上条「交換条件になってなくね?」

初春「……と、言いますかね。私はどちらかといえば『穏健派』の方であり、あなたを守る立場にいます。性格上からも仕事上でも」

上条「『言う事きかないとこの子たちがエッ×なことしちゃうぞ?』って?」

初春「前半だけは合っています……まぁぶっちゃけますとね、昨晩軽い気持ちで友人にお願いをしたんです。『なんか怪しいのいたから職質手伝ってくれませんか』と」

上条「本人を目に前にして言う?そこはもっとフワッとしたアレに包んでくれていいんだよ?」

初春「軽く事情を説明したら、伝言ゲームで尾ヒレがついたり背ビレがついたり悪魔合体したらしく……」

上条「……『なんか武闘派で行こうぜ!』ってノリに……?」

初春「なお、現時点ですらヤバいです。この状況が上に知られたら良くて始末書、悪くて退会、最悪監禁罪でバツイチになる可能性すら……!」

上条「あぁうん。『この子こんなに冷静だったっけ?』って思ったのは、ただ単にテンパってただけなのな」

初春「なので、ねっ?全員が全員穏便にやってくださいよ!?能力使うなんてもってのほかなんですからね!?いくら相手が怪しいといっても何をした訳じゃないんですから!?」

上条「ここ数十年で一番真っ当なリアクションありがとう。アリサもといアウラさんに続けて和むわー」

食蜂「つまりそれは――ダチョ○的な?」

初春「違いますよ!?だから散々言った筈でしょう!?」

食蜂「でもやっぱり最適解力もあるんじゃないのぉ?」 カサッ

上条「――っダメだ!俺の頭の中を覗くんじゃない!!!」

食蜂「そぉ言われてハイそうですかいう程、お人好しじゃないの。御坂さんじゃあるまいしぃ?」

上条「違うそうじゃない!壊され――」

食蜂「――はい、終了☆」 ピッ



――イングランド某所

赤髪の少女「――おはよう、『銀の君』。えっと……エリアスは?」

銀の君『……』

赤髪の少女「『少し野暮用がある』、と。どうなんだろうね。大事なことをこっそりやっている可能性も……」

銀の君『……!』

赤髪の少女「……うん、まぁ、えっと、ごめんなさい?どうしても、考える前に体が動いて」

銀の君『……』

赤髪の少女「また赤クズリって言われた……クズリって可愛くないし。できればもっとキツネとかオオカミとか」

銀の君『……』

赤髪の少女「『ラーテル』?ライオンに噛まれても猛然と反撃する動物はさすがにちょっとどうかな……」

銀の君『……』

赤髪の少女「伝言……『夜、丘には近づかない方がいい』……?また『隣人』絡み?」

銀の君『……』

赤髪の少女「『甘くと見ると痛い目に……』……それはもう何度も逢っているけど」

銀の君『……』

赤髪の少女「『ついてこい』……いや、あの、だから近づくなって言われてるんじゃ?」

銀の君『……』

赤髪の少女「『昼間だからいい』?怒られたら告げ口するからね?」

……

赤髪の少女「――って言われて来たけど。特に何も――って下?足元?」

銀の君『……』

赤髪の少女「キノコが……円を描いている……?『フェアリー・リング』?」

銀の君『……』

赤髪の少女「へー。可愛らしくて――って待って?」

銀の君『……』

赤髪の少女「あぁいやそうじゃなくて。こういうサークルを踏むのはまずいのでは、と。『あっち』に行ったりは……しない?これは違う?」

銀の君『……』

赤髪の少女「え、でもこれって妖精達が輪になって踊った痕跡じゃないの?前に……『あの人』が言ってた、気が」

銀の君『……』

赤髪の少女「『もっと怖ろしい何か』……家の近くだよ?ほらここからカボチャ畑が見えるぐらいなのに」

銀の君『……』

赤髪の少女「『命の危険はないが、絶対に近づいてはいけない』……?えぇっと、銀の君?ここまで引っ張られると逆に気になるんだけど――」

……

赤髪の少女「――っていう話があったの」

少女「いいじゃない!そういうお話大好きよ!」

赤髪の少女「いや、そうじゃなくて。地元の人間として何か知らないかなぁと」

少女「んー、あんまりそういうのは調べないようにしてるのよ。『見られるのを嫌う』って前に」

赤髪の少女「あぁ、弟さんを探したときに」

少女「でも今日は違うわよ!安全な相手だし骨の人もいないし絶対チャンスだっていうものよ!」

赤髪の少女「いやあの、そういうつもりで言ったんじゃ」

少女「え?あなたがいるんだから平気なんでしょ?」

赤髪の少女「う、うん。近くだし大丈夫とは思うけど」

少女「むしろ発想の転換じゃない!そんな危険なものが家の近くにあるのに確かめない方が怖いわよ!」

赤髪の少女「あぁまぁそう、かな?そう、かも?」

少女「さぁ行くわよコート着て!そうじゃないとママに叱られるわ!」

赤髪の少女「あの、そんな夜に出かける方がどうかと思う……」

……

少女「――で、ここね!すぐ側じゃない!」

赤髪の少女「まぁ、そうだね。『銀の君』が来れるんだし」

少女「で、どこどこ?どこにあったのフェアリー・リング?」

赤髪の少女「あっち――待って!誰かいる!」

少女「……誰か、っていうか、ちょっとした集団がいるみたいだけど……」

……

オークの群れ『――どすこーい、どすこーい!』

オーク『お前らまだまだブヒ!そんなんじゃセキトリーなんか夢のまた夢ブヒ!』

オーク『強いセキトリーは腕っ節だけじゃなく下半身も強いブヒ!上下共にバランス良く鍛えるのがジューリョーへの道ブヒな!』

オーク『一にテッポー、二にシコ!三四がなくて五にチャンコブヒ!体を痛めつけて粘りのあるロースを作るブヒよ!』

オークA『親方!一番お願いしますブヒ!』

オーク『いいブヒ!かかってくるブヒ!』

オークA『どすこーいブヒ!』

オーク『甘いブヒ!』 ガシャーン

オークB『親方が乱心したブヒ!?カラオケのリモコンでぶん殴ったブヒよ!?』

オークC『いいや違うブヒ!あれは伝説の決まり手、「ハルマ・フージ」ブヒ!』

オーク『よく知ってるブヒな!この決まり手は「傷害事件を起したのに、何故か最終的には被害者側の部屋が潰される」というギャラクシーな決まり手ブヒ!』

オーク『他にも「高校野球だったら全員退部」とか、「刑法犯してんのに監督責任なし」とか、「反社を砂かぶりに置いてやっぱり仲間」とかの決まり手に派生するブヒ!よく覚えておくブヒ!」

オークの群れ『はい、親方!』

オーク『最終的にモノを言うのは土俵の外での強さブヒ!最終的にはオーク互助会が有形無形の圧力をかけるブヒ!』

オーク『権力使ってハブらせて1タニマチ動員してアホどもに記事を書かせるブヒ!そうすりゃ大抵のことは誤魔化せるブヒ!』

オーク『そのためにもお前らは張り切ってシコを踏むブヒ!お前らのタマは実弾に等しいブヒからね!』

オークの群れ『ドスコーイ!ドスコーイ!』

……

赤髪の少女「………………えっと」

少女「――帰るわよ。あたし達は何も見なかった」

赤髪の少女「でも」

少女「いいのよ!一体どんな友達に『夜中にオークの大軍がスモーレスラーしていた』って言えるの!?」

赤髪の少女「ファンタジーといえば、まぁ……」

少女「何が?」

コロンゾン『――まさかの、「フェアリー・リング、オークの土俵だった件」……ッ!!!』



――『風紀委員』第○○支部所跡

食蜂「――あぁ窓に窓に!オークとオークっぽいオッサンの群れが!」

帆風「お気を確かに『女王』!この世界にオークはいませんけどオークじみた人はそこそこいるのでただの日常です!」

食蜂「そ、そぉよねぇ……?『JKとオーク兵○』みたいなニッチな層でそこそこヒットした展開にはならない……?」

帆風「と言いますか『派閥』であれば勝負にすらならないかと。ではなくてですね」

食蜂「あぁうん、混乱してたわねぇ。もう大丈夫よぉ」

帆風「良かった……!」

食蜂「ねぇ知ってたぁ?イギリスのストーンヘンジはオークが建てた鳥居で、メキシコのピラミッドはラ○ライブ会場だったって事を……っ!」

帆風「――せいっ」 ビシッ

食蜂「あだっ!?」

……

食蜂「……?」

帆風「……良かった……!目を覚まされたのですね……!」

食蜂「帆風さぁん……?今誰かがチョップでドツかれた痛みが……?」

帆風「まぁ、そんなことが!?『女王』へ対して無礼ですわね!」

食蜂「ものっそい痛みなんだけどぉ……えぇと、状況確認いいかしらぁ?ここ、どこぉ?」

帆風「ほぼ移動しておりませんわ。『女王』が意識を失われてから、10分程しか経っておりません」

食蜂「え?でも『風紀委員』の詰め所は?」

帆風「あちらの……残骸が」

食蜂「甲子園決勝でサヨナラ満塁デッドボールで負けた球児のような姿勢で固まってる子はぁ……?」

初春「……」

帆風「初春飾利さんですね。ご自身の勤め先が物理的に消失されたのでショックだったのでしょうか」

食蜂「御坂さんたちの姿も見えないけどぉ……何が起きたの?」

帆風「どこまで憶えていらっしゃいますか?」

食蜂「オークが旧支配者だったとこぉ?」

帆風「次こそは拳で……!」

食蜂「死ぬからやめてねぇ?……メイザースだっけ?あの人に私の能力を使おうとして……あー、何かされたみたいねぇ。同系統の能力者だとは思わなかったわぁ」

帆風「……」

食蜂「え、なに?違うのぉ?てゆうかいい加減何があったのか勿体ぶらずに話してくれないかしらぁ?」

帆風「逃げられました」

食蜂「……みたいねぇ。でもどうやってぇ?人質に御坂さん――も、白井さんも絶対に無理力よねぇ。初春さんもそこでその、モアイみたいな虚無の顔になってるしぃ」

帆風「勿体ぶらず単刀直入にお話しした結果なのですけど……」

食蜂「学園都市の能力者、しかも第二位と第四位相手に何をどうしたら――」

食蜂「……」

食蜂「――本当に?話し合いの結果とかじゃなくてぇ?」

帆風「えぇと、まずですね。あぁ、怒らないで聞いて頂きたいのですけど」

食蜂「あぁそれが言い渋ってた理由ねぇ。まぁ内容によるわぁ。一番怒らせなくて済むのは、今すぐに正直力を発揮することだけどねぇ?」

帆風「……『女王』が倒れられたのを見て、突っかけまして」

食蜂「もっと具体的には?」

帆風「殿方の顔面を中高一本拳で撃ち抜こうとしました」

食蜂「御坂さんの悪すぎる影響力が出ているわぁ。なんであなた外見はアレなのに右ストレートでぶっ飛ばす体質なのぉ?」

帆風「床に崩れる『女王』は、白井さんが抱き留められたので……私は相手の無力化を測った方がいいかな、と」

食蜂「んー、まぁ分からなくもないけどねぇ。でも相手死ぬわよねぇ?能力に乗せたら普通はぁ?」

帆風「いえ、それが……お恥ずかしながら避けられまして」

食蜂「……避けた?偶然に?」

帆風「ではないと思います。『人より早くて強くて武術囓ってるゴリラなんざ腐るほど相手にしてんだよ』、と聞こえましたので」

食蜂「……それはそれで暴言力よねぇ。それで?」

帆風「お恥ずかしながら数秒気絶していたようです。手段は不明ですが」

食蜂「精神感応系能力者?だとしてもあなたを無力化できるのて相当力じゃ……」

帆風「次に目を覚ましたのは白井さんに抱えられていました。初春さんと一緒に」

食蜂「ディフェンスは白井さんねぇ。相変わらずの安定力だけどぉ、オフェンスが何するのか怖いわよねぇ」

帆風「私達が殿方から離れた瞬間、御坂さんが電気の槍を数本」

食蜂「右スぶその二ねぇ。いつか死人出すわよぉ?……大丈夫だったの?」

帆風「全ての槍が霧散しました。まるで魔法みたいにパッと」

食蜂「……またヤなワードが出るわねぇ」

帆風「そして私が最後に見た光景が……その、申し上げにくいことなのですが」

食蜂「が?なぁに?」

帆風「例のコインらしきものをですね」

食蜂「あぁ……」

帆風「テレポートして外に出ますと、崩れ落ちる建物が」

食蜂「……」

帆風「な、なので実行犯が誰なのかは目撃しておりません!決定的な所は何も!」

食蜂「……殺人未遂かしらぁ?」

帆風「相手の殿方は逃げたのでノーカンだと思われますわ!」

食蜂「御坂さんが何やったのか分かってないでしょお?超電磁砲だけじゃなく、電磁レンジもどきだったら人体なんてほぼ蒸発するしぃ?」

帆風「……と、いうことは……」

食蜂「『ヤるだやっといて逃げやがったなあのアマ』って解釈の余地を残すかもねぇ」

帆風「……何者でしょうか?最近出て来た『暗部』とやらの?」

食蜂「可能性はある訳だけど、あまりにも接触の仕方がアホっぽいわねぇ。私達、というか常盤台を引っ張り出したいのなら、もっと確実性のある方法を取るわぁ」

帆風「御坂さんのお友達を利用して、という線では?」

食蜂「そうねぇ。実際にこうなっているんだしぃ、釣りとしては成功しているのも確かなんだけどぉ……問題は本気力を出した私達も一蹴されてるって事よねぇ」

帆風「今回は準備不足でした!『派閥』も入れればこんなものでは!」

食蜂「そうねぇ、それも事実ではあるけど出し抜かれたのも確か。というか危害を加えるのを前提に動いていれば、ヤバかったのも事実でしょお?」

帆風「……はい。不覚を取りました」

食蜂「しかしまぁもう二重能力者どころの話じゃなくないかしらぁ?何個能力持ってんのよアレ」

帆風「電気系上位であれば、『女王』の能力をはね除けたのにも説明はつきます。身体能力も含めて」

食蜂「じゃあ逆に聞くけどぉ、あなたが同じ勢いで御坂さん殴ったらどういう結果になるってぇ?」

帆風「あの距離と状態でしたらガードが精一杯かと」

食蜂「でしょお?御坂さん以上の電気系能力者でありつつ、私以上の改竄力ぅ?誰かから聞いたら鼻で笑うかしらねぇ」

帆風「笑い事ではないかと存じます。そんな方が野放しになっているか、がれきの下にいらっしゃるのかは分かりませんが」

食蜂「……まぁ、当座は常盤台の意識改善かしらねぇ。でもその前に」

黄泉川「――ちょおおおぉぉぉっとお話宜しいじゃん?常盤台のお嬢様がた?」

黄泉川「ここで何か爆発あったって通報あったじゃんが、何か知ってたら教えてほしいじゃん?」

食蜂・帆風「――御坂さんがやりました」



――某ファミレス

シャットアウラ「――ありがとうごさいましたーいらっしゃいませー!」

バイトリーダー「あーお疲れさまですシッャトアウラちゃん。もう上がっていいですよ」

シャットアウラ「ありがとうございます。食器下げたらお先に失礼しますね」

バイトリーダー「あー、あとね。バイトのシフトいっぱい入れてくれるのは嬉しいんだけど、却下になりました」

シャットアウラ「何かしましたかあたし?」

バイトリーダー「店長さんが『授業が心配だから』ってストップがかかったみたいで」

シャットアウラ「あー……まぁ、分かりますけど」

バイトリーダー「てか本当に大丈夫ですか?折角お嬢様学校通ってんですから、わざわざバイトなんかしなくたって」

シャットアウラ「あんまり馴染まないんですよねぇ。何かこうペット扱いで困るって言いますか」

バイトリーダー「まぁそこら辺はシャットアウラちゃんの気持ち次第ですけど、一応は学業優先にしなさい。ポーズだけは」

シャットアウラ「はーい、分かりましたー」

……

シャットアウラ「はー、遅くなっちゃったなー。バス……はないし、飾利ちゃんは当番だったっけかな?」

制裁指導A「――知っているぞ」 ガサッ

シャットアウラ「はい?えぇと、どちら様ですか?」

制裁指導B「噂を広めたな。お前のようなやつがいるから被害に遭う子がいるんだ」

制裁指導C「痛みがないと反省しない。反省しなければいけない」

シャットアウラ「……本当にどちら様ですか?『風紀委員』に通報しますよ?」

制裁指導D「『クモカワマリア』は知っているな?あの子は今も泣いているんだ!」

シャットアウラ「武装した四人組、それ以上近づいたら攻撃――って、無理かなぁ」 ヒュンッ

ドゥンッ!

制裁指導A「がああっ!?」

制裁指導B「爆弾だと!?どこにそんなものを!?」

シャットアウラ「あぁまた制御に失敗してる感じかー……危ないから、てゆうかあたしもどうなるか分からないんで、降伏するか逃げて頂けると嬉しいんですけど」

制裁指導C「ダメだ!ここで逃げる訳にはいかない!何故ならば――」

制裁指導E「――『クモカワマリア』のような子はもう作らせない……ッ!!!」 スッ

シャットアウラ「もう一人――……!?」

上条「『寒にして乾、金よその性質を我が前に示せ』」 パキイィンッ

シャットアウラ「え――」

上条「はい、お疲れ――あ、殺すなよ?」

制裁指導A〜E「……」 バタバタッ

上条「ったく詰めが甘い――あぁ違うか。地獄見てねぇからか」

上条「根本的な所は変わらないとしても、経験不足が祟ってる感じか。そっちの方がいいに決まってっけどなー」

シャットアウラ「……トーマ、くん?」

上条「どうも。何か危なそうだったから」

シャットアウラ「助けるんだったらもっと早く助けてほしかったかな!?」

上条「あぁいや本当はもっと早くするつもりだったんだけど、シャットアウラがボヤッとしている割にそこそこ強かったのがショックで……!」

シャットアウラ「また酷い事言ったね!?そりゃまぁよく言われるけどあたしだって常盤台のレベル4だしね!?」

シャットアウラ「あと別に本音言えばこんな能力じゃなくてもっと穏やかな方がよかったよ!何『稀少鉱物にエネルギーを溜めて爆発させる』って!?テロ以外に使い道がないし!」

上条「あぁそれが嫌で通学が嫌な訳か。性格と能力の不一致」

シャットアウラ「てゆうか何が何だか分からないんだけど……」

上条「通報はしといたからもう直ぐ来ると思う。補足するんだったら、あー『制裁指導』の人たちですこいつら」

シャットアウラ「『制裁指導』?泣いてる子がいるとか何とか」

上条「……名前は?」

シャットアウラ「『クモカワマリア』、だったと思うよ」

上条「クモカワ……先輩の……?」

シャットアウラ「トーマ君?」

上条「知り合いの名前に似てたからつい。あー、なんつーかこいつらはだな。『風評被害で登校拒否になった子がいる』っていう都市伝説を信じ込んだ連中、らしい」

シャットアウラ「その子が『クモカワマリア』ちゃん?」

上条「その子は実在する、するけど風評被害で”は”登校拒否になってはいない」

シャットアウラ「……どういう事?」

上条「誰かに騙されてんだよ、『クモカワマリア』を名乗る誰かに。だから噂を、都市伝説を広める連中を襲っていたと」

シャットアウラ「どうして、っていうかそんな事をする意味は?」

上条「それも不明。ただ少なくともそいつらは傷害事件を起してて、その新しい被害者になりそうだったのが」

シャットアウラ「あたし、だと。うっわ、怖いなー」

上条「だったら能力制御をもっとしっかりしなさいよ!あのアホみたいな爆弾はマジで怖かったんだからね!?」

シャットアウラ「そしてこの謎の逆切れである」

上条「まぁ何にせよ愉快犯じゃねぇの?どっちみち実行犯が捕まったんだから誤解も解けるだろ」

シャットアウラ「あぁうん、感謝はしてるんだよ。もっと早く助けてほしかったとはいえ」

シャットアウラ「て、ゆうかトーマ君何したの?美琴ちゃん達から『見かけたら直ぐに通報!』って連絡来たんだけど」

上条「俺はなんもしてねぇよ!?初春さんに呼ばれていったら常盤台女子に囲まれただけで!」

シャットアウラ「そう、だよねぇ。美琴ちゃんや操折ちゃん相手にどうこうできる人なんていないよねぇ」

上条「あぁそんで悪いんだけどさ。都市伝説探しの話はキャンセルしてくれないか?なんかそんな雰囲気でもないしな」

シャットアウラ「あたしが間に入ろっか?話し合いする気があるんだったら、話だけは聞いてくれると思うよ?」

上条「気持ちだけありがたく受け取っておくわ。あの子達の学校ってお嬢様学校で、一般の地区には殆ど入ってこないんだろ?」

シャットアウラ「そうだね。出会う可能性は少な――く、ないかな。『風紀委員』のお仕事だったりゲコ太グッズを求めて散策したり」

シャットアウラ「あと何故か、場末の定食屋さんで操折ちゃんを見たって証言すらあるし……」

上条「趣味が渋いわ。俺でもそんなに行かねぇよ定食屋さん」

シャットアウラ「てかトーマ君が何したいんだか、あたしには分からないけど。二人を仲間にしておいた方がいいと思うよ?なんだかんだ言って良い人だし」

上条「だからできねぇんだよ」

シャットアウラ「あ、中二だ」

上条「やかましいわ!もうこんな所にいられるか!俺は帰って一人になって鍵をかけて寝るぜ!シャインっ!」

シャットアウラ「多数の死亡フラグが詰め込まれた捨て台詞」

上条「まぁ俺はもう少しブラついたら国に帰るわ。なんか困ったことがあったら連絡してくれ、喚ばれれば来られっから」

シャットアウラ「それはむしろこっちの台詞。あたしからも美琴ちゃん達に言ってみるから、誤解が解けるようにって」

上条「誤解、誤解で済むといいんだけどなぁ」

……

黄泉川「……あったくもう次から次へと厄介事が舞い込むじゃんよ。もうすぐ新学期じゃんだっつーのに」

黄泉川「つーか小テストの採点やってないじゃんし。このままここで突っ立ってるぐらいだったら、持ってくれば良かったじゃん」

黄泉川「いやでも今日も徹夜……三日目は流石に嫌じゃんしお肌の曲がり角……つーか小萌先生の肌は異常」

警備員「お、お疲れさまです黄泉川さん。ここからは私達が引き受けますので」

黄泉川「神はいたじゃんよ!これで完徹三日目は避けられたじゃん!」

警備員「なんだかよく分かりませんが、それは良かったです」

黄泉川「あ、髪はないけど」

警備員「私のハゲイジリはやめてもらえませんかねぇ!?いや残っていますけど!若干薄いだけで!」

黄泉川「はっはー冗談じゃんよ。つい感動の余り口が滑っただけで」

警備員「それって結局心の中で思ってるって事じゃないですか……」

黄泉川「まぁ何にせよ助かったじゃん。これ以上の徹夜は乙女のお肌には辛いじゃんし」

警備員「何言ってんだババ――痛い痛い痛い!?撤回しますからヘッドロックはやめてください!?」

黄泉川「ふっ、何かドロッとした脂がついて負けた気分になるじゃん。つーかマジでハケていいじゃん?鑑識は来てないじゃんし?」

警備員「なんて言い草……あぁそれも大丈夫らしいですよ。専門のプロジェクトチームか結成されたようで、彼らが対処するとかって話です」

黄泉川「あぁ、あっちにいる連中じゃんね。ふー……ん?あん?小学生、っぽいのも混ざってるじゃん?」

警備員「私に言われましても……何かの能力者なんじゃないですか?私は知りませんが」

黄泉川「あんま感心しないじゃんが……まぁ、ただの傷害未遂でグロい現場見せる訳じゃないしいいじゃん、か?」

警備員「経験積ませるだけでしょ?ただの傷害なんですから」

黄泉川「あー、将来はプロファイラーてヤツじゃん?あれってそんなに万能なんじゃん?」

警備員「あくまでも過去のデータから出す統計学ですからねぇ。天気予報と同じで『この手口の場合にはこういう犯人が多い』というだけです」

黄泉川「そうじゃんね。一回興味あって調べてみたけど、分析官によって結果が異なるって話じゃんし」

警備員「ほう、どのような?」

黄泉川「誰だって生きてきた地域も違うし文化や性別、価値観や民族だって違うじゃん?だからまとまりがないじゃん」

黄泉川「例えば、あー白旗を掲げるのが全面降伏な文化圏の人間が、白旗出すのが宣戦布告の文化圏で通じるはずがないじゃん?」

警備員「大昔のアニメじゃないですか」

黄泉川「例えじゃんよ例え。何をするにしたって人間のバックボーンは付きまとうし、蓄積できるデータも限界があるじゃんよ」

警備員「そのどちらもクリアすればホンモノになれると?」

黄泉川「できればじゃんね。そんなのがいたとして、まともな人間とは思えないじゃんが」

警備員「そうですね。きっとそうなんでしょうね」

黄泉川「まぁ私達みたいな俗っぽい人間には関係ないじゃん。んじゃ先上がるじゃんから、あとヨロシクじゃん」

警備員「はい、お疲れさまでした。ゆっくり休んでくださいね」

……

黄泉川「――ん?なんでただの傷害事件にプロジェクトチームなんて出張って来てるんじゃん……?」



――ファミレス裏の路地

男性「あぁ面倒臭い面倒臭い面倒臭い!どうして俺たちがこんな仕事しなきゃいけないんだよ!」

男性「こういう地味なのは数多兄にさせときゃいーじゃんよ?好きだろ」

女性「数多君はアレイスター追跡で忙しいのでダメなのでーす。あなたも諦めれば楽になれるんですがねー」

男性「俺はアレイスターも好きなんだがね。ジジイどもがウルッセェから、しゃーなしではあるか」

女性「まぁ我々が我々であるためにも邪魔、ですので。既に存在意義をかけた闘争になってますしー――で、どうですかー?イケます?イケちゃいますー?」

少女「――んー……まだ無理かなぁ。お兄ちゃんのデータが足りないや。もっと、もっと基幹データが収拾できれば、かなぁ」

男性「そんなに難しいのかよ?」

少女「っていうか元々科学と魔術は別のベクトルだからねぇ。だからもしかしたらガワだけ人で中身が虫っぽいとか思ってたんだけどー」

少女「でもでも、ねっ?結局は手段が違うだけだったみたい!所詮は人類の枠から出られなかったよ!」

女性「へぇ、それはお手柄ですよ。ナイスでーす」

少女「魔術で火を起こすのも科学で火を起すのも、収斂進化かなっ!加群おじちゃんの方が詳しいと思うけど!」

少女「やっぱり中身も同じみたいで安心したよ!泣いて笑って怒って悲しむ!そうじゃないと楽しくないよねっ!」

男性「つーことは、だ?俺たちはデータを追加で集めればいいのか。どうすっかなぁ。サンプルケースかー」

女性「えぇえぇ、悲しいですけどデータを集めねばなりませんからね――例え、その上で何人が死のうとも諦めましょう、えぇ」

少女「まずは加群おじちゃんの出方次第かなぁ?場合によってはあっち優先で潰さなきゃだけどぉ」

男性「てか良かったのか?今回のコレで完全にケンカ売っちまっただろ?」

女性「いいのでーす。敵でもなく味方でもなく、という不安定な状態にいるよりもはっきり敵に回ってくれた方が」

少女「えー、でもそれって私怨も入ってなーい?」

女性「当然入ってますとも。それが何か?」

少女「いいじゃん?一石二鳥で潰せるんだったら別にどうだって?」

女性「あー、いいですよねー。あなたも段々なんたるかが分かってきたようで」

男性「ダメだコイツら。早くなんとかしないと」

女性「では行きましょうか。対象の観察も楽しそうですしねー」

少女「大事なものが掌から零れて、たった一人で傷つけて傷ついて助けて助けてーって心の中で叫んで」

少女「それでもやるしかなくって、バカみたいに前しか向いてなくって」

少女「うん、うん……ッ!そうだね、きっとそうだよ!『トーマお兄ちゃん』だったらこう言うんだよね……ッ!」

木原円周(少女)「『――その、”幻想”をぶち殺す……ッ!』って、ね……ッ!!!」



――ネットカフェ

上条「くっくっくっく……!レベル5の二人がやられたようだな――だが所詮あいつらは七天王の面汚しよ……ッ!!!」

コロンゾン『現実逃避しないで帰ってきたりしよ。いやまぁ別にお前がどうなっても』

上条「反射的に避けられないからカタギの女の子殴っちゃったし……!」

コロンゾン『カタギ……プロボクサー並の速度とジェームズ=ボン○の判断力で突っかけて来る相手がカタギ……?』

上条「なぁ知ってるかコロンゾン?――女の子のおっぱ×って、実は鋼のように硬いって事を、さ?」

コロンゾン『悲しき童×のサガ……!秘密結社のトップになっても呪いは続きしな……!』

上条「やっぱりマンガとアニメとラノベとエロ×ーとエロ同人ゲ×はフィクションだったんだ!」

コロンゾン『それはそうなりしよ?最初からね?ずっとずっと最初っからね?』

上条「こうやって少年はちょっとずつ大人になって行くんだな。今日からメイザースMark2って呼んでくれよ!」

コロンゾン『おい、現実に戻って来たれMark2。あとあの子が硬かったのは恐らく筋力強化のギフトか何かなりしよ』

上条「違うもん!だって俺のおっぱ×と同じぐらいの堅さだったもん!」

コロンゾン『それもまぁそうだけど。比較対象が、なっ?オスとメスでは異なりしよ?』

上条「――じゃ、ちょっと比べてみようかぁ?違うって言うんだったらさぁ?」 ニチャアァッ

コロンゾン『全人類の中でも下から数えた方が早いレベルになっとるな?いやまぁそれもまた前からそうっちゃそうであるけど』

隣のブース『うるっせぇな!さっきからおっぱ×おっぱ×やかましいんだよ!』

上条「はいすいませんでしたっ!静かにしますから!」

コロンゾン『なんて残念な……!口頭で命令するだけで街一つぐらい消せる権力者が……!ネットカフェでおっぱ×連呼して怒鳴られるって……!』

上条「――こっちの母さんと一応遺伝上の男の人、あなたの息子はこんな立派になりました……!」

コロンゾン『図太くドス黒く逞しくはありたるが、決して立派だとは口が裂けても……』

上条「つーか頓挫するの早くない?『JCに依頼して楽々噂追跡計画!』がたった二日で終わるってどうなの?俺が悪いのか?」

コロンゾン『お前が怪しいのも原因ではありたるが……今回に関してはお嬢様方が予想以上に脳筋だったのも敗因なりしな』

コロンゾン『まさか「怪しいヤツいる?じゃあ取り敢えず暴力&能力で捕まえてみるわね!」っていう暴挙に至るとは。流石にその予想外』

上条「……だよなぁ?前の世界でじゃもっとこう慎重っていうか、もう少し常識はあった筈なんだけどさ」

コロンゾン『アレイスターのアホが過保護に育てすぎたせいで挫折を知らない、とか?もしくは人生順風満帆で超調子ぶっこいたる?』

上条「かもしんねぇよなぁ。アリサ、もといアウラの方がノーガードだったり詰めが甘いっていうか」

コロンゾン『ただ普通の学生たりけるはあのようなものじゃ?ましてや序列がどうって学園異能バトル風の生活をしておれば、なぁ?』

上条「あれ俺以外だったら死んでないか?良くて入院コースで裁判沙汰だろ?」

コロンゾン『それも経験不足よなぁ。能力者間での闘争ならそれで何とかなったかも知れぬが』

上条「あ、あとで絶対に訴えてやるんだからねっ!」

コロンゾン『多分今頃建物内の防犯カメラはフォーマット後に破壊されておろうなぁ。あの騒ぎで壊れておらなんだらば、だが』

上条「ネットニュースの記事になっていたりは……な、なんだって!?」 ピッ

コロンゾン『あったの?』

上条「『特命戦隊ゴーバスター○』の司令官がエ×犯罪で逮捕されたって!」

コロンゾン『タイムリーなネタはちょっと……日本の芸能界はゲ×か性犯罪者しかなれないのとかちょっと思うたるが』

上条「『じゃあちょっと脱いでみようくわぁ?女優さんには肌を出すお仕事が来るからねぇ』」 ニチャアァッ

コロンゾン『例え同意であろうがなかろうか、そんな言い方してきた時点でコンプラ警察にひっかかりしよ』

上条「『ブヒ達は雌オークブヒ!だからバレーボールの代表にするブヒ!』」

コロンゾン『それはいけない。オークに失礼』

隣のブース「だからウルッセェんだよ左隣!?オークごっこやるんだったら会話スペースでやってこ、い……や?」 バサッ

浜面(隣のブース)「超やべーこいつ一人でずっと喋ってやがった……!」

上条「あれお前浜面じゃん?何やってんのこんなとこで?」

浜面「何って家じゃ見れないエ×動画の吟味を、ってお前誰だよ!?」

上条「俺だよ俺俺!憶えてないのか!?」

浜面「あー……悪りぃ!あんたみたいなガイジン、一回見たら絶対に忘れてないはずなんだが」

上条「だろうな。初対面だし」

浜面「じゃあなんで憶えてないっつったよ!?」

上条「俺が言ったのは『憶えてないんですか?』って問いかけであって、お前が憶えてる事を前提に聞いた訳では決して」

浜面「分かったぞあんた、さては面倒臭いやつだな?知り合いと同じニオイがプンプンしやがるぜ……!」

上条「はじめまして、ハヅマーラさん?」

浜面「普通に喋ってたじゃん!?あとなんだよその地域によってはピー音入りそうな名前!?」

上条「いやぁ、それが聞いてくれよ浜面さぁ?何か今までは結構上手くやってたのに日本来てから失敗ばっかでさぁ?」

浜面「ガイジンって馴れ馴れしいって聞いてたけど思ってたのと違うな!?場末の酒場で絡んでくるおっさん並のウザさ!?」

上条「普通こういうときって街ブラってたら怪しいヤツに絡まれて、ついてったら大ボスとかいるのが普通じゃん?今回はそういうのがなくてさぁ?」

浜面「RPGじゃねぇんだよ。あと知らないヤツにホイホイついてくなよ危ないんだから!」

浜面「つーか何?あんた困ってんの?不法滞在とかで?」

上条「困ってる困ってる。もう何かJCからフクロにされかけるぐらいに困ってる」

浜面「特定の層にはご褒美じゃねぇかよ。つーか別に怖……い、な!相手によるわな!」

浜面「だったらウチ来るか?こう見えて何でも屋みたいなことやってんだわ俺ら」

上条「で、でも知らない人にはついてっちゃいけないってママから言われてるしぃ……!」

浜面「お前知ってたじゃねぇか俺の事。どっかで情報仕入れてんだろ」

上条(――どうだろ?)

コロンゾン(悪意の臭いは少しだけ。恐らく『アホから金巻き上げるぞ!』って感じ?)

上条(でも浜面はともかくスキルアウトの情報網は役に立つかもなぁ。他に宛てもないし)

コロンゾン(そりゃ行き当たりばったりで進むよりかは全然健全だと思うけれど。アレイスターの魔力も全然感じないしー。いやー、くたばったかな!残念残念!)

上条(言うなや!俺だってあのアホ死んでたら来た意味がなくなるんだから!)

上条「で、でもお金はそんなにないよ?いいの?」

浜面「あるだけでいいぜ!俺たちが困ってる人を助けるのはボランティアが税金納めるようなもんだからな!」

上条「いやそれは別に普通……じゃあまぁお世話になろうかな」



――某スキルアウトのアジト

浜面「――たっだいまー!カモ一名様ごあんなーい!」

廓「おや、浜面氏。お客人とはげふぼふっごほっほっほおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!?」

浜面「どうした廓ちゃん!?いきなりゲ×吐くだなんで悪りぃブツでもキメてんのか!?」

廓「――半蔵様!ここは私が食い止めますからお逃げくださいっ!」 キランッ

浜面「何でナイフ構えてんだテメェっ!?カモネギ、もといお客さんなんだからトチ狂ってんじゃねぇぞコラッ!?」

半蔵「あぁ……俺の人生もここまでか。まぁ前半はともかくお前らとで会えて良かったよ、なっ?」

浜面「お前も何なの?ツッコミ役がボケに回ったって面白くはねぇぞ?なぁオイ?」

上条「えーっと……」

駒場「……よく来た。コーヒーと紅茶、どちらがいい……?」

上条「あ、お構いなく。出来ればコーヒーを」

駒場「……了承した。で……怖く、ないかな……?」

上条「怖い?何が?」

駒場「……失礼した。いい豆をひこう……」

浜面「おいコラコスプレニンジャども!俺に恥をかかせんなや!しゃんとしろしゃんと!」

廓「で、ででででもですよっ!?浜面氏こそよりにもよって誰を連れて来っちゅーんですか!?」

半蔵「何人殺してんだこいつ――いや!廓だけでも逃がして……!」

上条「何にもしねぇから落ち着けよ。特にクライマックスになってるニンジャども、人の顔見てパニクるなんて失礼だろ?」

半蔵「問題――『あなたの前にフリー○さん(※変身後)が現れました。さて、どうする?』」

上条「人を宇宙規模の地上げ屋と一緒にすんなよ。気づいたのを誉めっけどさ」

コロンゾン(染みついた血の臭いは取れぬものよなぁ。ひひっ)

上条「おかしいな、ファ○ってる筈なんだけど」

駒場「……エスプレッソだ。ミルクを入れた方が個人的には美味しいと思う……」

上条「ありがとうございます。つーかお前ら全員落ち着けよ。リーダーこの人なんだろ?恥かかせんなって」

浜面「そうだぞお前ら!大切なお客さんなんだからな!」

廓「浜面氏の鈍感力スゲェっす……!痺れもしないし憧れなんかもっとしないけど!」

半蔵「……まぁ、そうだな。まな板の鯉なのか雑魚なのか、覚悟を決めるぜ」

浜面「まないた?料理でもすんの?」

上条「つまりこの人はフリーレ○さんのような絶壁にしか興味ないって意味だ」

廓「やっぱり……!?」

半蔵「違うわ!?どっちかっつーと駒場のリーダーに疑惑あるが俺は違うわ!」

駒場「……そういう趣味はない……」

上条「取り敢えず自己紹介しよう。トーマ=メイザースです。イギリスから来ました」

駒場「……駒場だ。スキルアウトの……まぁ、顔役みたいなことをしてはいる……」

浜面「浜面仕上だ!ここのナンバー2だぜ!よろしくなっ!」

半蔵「鈴木一郎です」

廓「田中花子です」

浜面「何やってんのお前ら?いつのまに戸籍変更してんの?」

駒場「……柄にもなく緊張しているようだ。許してやってほしい……」

上条「あっはい、それは別にどうでも。てか浜面さんの紹介で来たんですけど、悩みを解決してくれるとか何とかで」

浜面「まぁ内容次第で経費も当然貰うけどな!」

半蔵「浜面お前……!」

駒場「……俺たちは……アウトローではあるが、約束は守る……相応の報酬も必要だが」

上条「取り敢えず情報が欲しい。犯罪に関して、ここ半年……いや二ヶ月か。大体二ヶ月分ぐらい前からの事件だったらなんでもいい」

上条「売り場から物が消えたとか、密室で人が死んだとか、空を見上げたら人が飛んでたとか」

浜面「ネットニュースで確認すりゃよくね?」

上条「加えて生の声が聞きたい。君たちがこの街で生活してきて、何か小さな違和感でもいいから前と違ってきたな、ってのを教えてほしい」

上条「変化であれば何だって構わない――が、深追いするのだけはやめてくれ」

浜面「……ほーん?まさか俺地雷に首突っ込んでる?」

半蔵「言ってやりなさい」

廓「ガソリンでビッチャビチャのタイヤを首に巻いてる状態っす」

上条「なんでそんなに警戒されんだよさっきから!?俺が何か悪い事したかアァンッ!?」

駒場「……知り合いか……?」

半蔵「いえいえ、普通の人、ですよね?観光的なあれで?」

上条「そうそう普通の人普通の人。つーか強制なんてしないし、見合ったギャラは払うから調べて欲しいってお話ですよ?」

上条「イヤだよって言われたらこのまま帰るし。怖くない怖くない、全然全然?」

浜面「だよ、なぁ?沈利に比べれば全然どーってことねぇし」

半蔵「お前の彼女と比べんなよ!悪いトコだからなそれ!?」

駒場「……腹を割って話したい。そちらの事情を聞くのは拙いのか?」

浜面「こ、駒場さん……?」

上条「っていう提案が出てくる時点で、そっちも何かは感じてる訳だな。話すのは別に構わないが――その前にそちらで意思統一をしておいた方がいいと思うよ」

半蔵「……それには賛成。リーダーに話しておきたいことがある」

廓「ど、同意しますっ」

上条「あーじゃあまぁ名刺にメールアドレス書いとくから、結果が決まったら教えてくれよ。連絡しなきゃ契約はなかったことに、って事で一つ」 キュキュッ

浜面「ま、待てよ駒場さんもあんたも!そんなに何かヤバイ案件だって言うのかよ!?」

上条「まぁ別に君らの協力がなければ、という程もないし、そもそもが成り行きみたいなものだからな。責任はこっちにあってそっちにはない」



――学園都市 アーケード

上条「……どうしよう……!また有力な手がかりを一つ失って……!」

コロンゾン『アホなりしね?行き当たりばったりで乗り込んで来たと思ったら、計画性の欠片もなかりしけども』

コロンゾン『ドヤ顔で宣うんだったら、「助けて下さいお願いします!」って言うたれよ』

上条「助けて下さいお願いします!」

コロンゾン『違うそうじゃない。そうだけども』

上条「てか浜面以外は薄々分かってたようだな?風紀委員よりも危機管理意識は上だったわ」

コロンゾン『目的をもって治安維持に勤めたり人間と、無軌道のままモラトリアムに逃げし人間。後者の方がユラユラと動くだけ潮目が変わったのも感じ取れておる――し』

コロンゾン『明らかにカタギではない者たちもおったようで。魔力は感じとれなんだが』

上条「そりゃまぁカタギじゃない連中だっているだろ。何回か攻撃されそうになってたっぽいな。自重したみたいだが」

コロンゾン『味方、せめて情報提供者になってくれれば心強しことかな』

上条「あぁまで敵視されるとは思わなかったけどな!」

コロンゾン『お前のとーちゃんメイザースー!』

上条「二度と言うな!言って良いこと悪いことがあるだろ!?……てかさ、話してて思ったんだが、『向こう』の出方ってどうすると思う?」

コロンゾン『どうとは、どう?』

上条「叔父貴をどうにかして学園都市の実権握る、もしくは掌握しつつあんのが現状。これは多分合ってるだろ?」

コロンゾン『恐らくは、な。そもそもアレイスターが「向こう」とツーカーなりしならば、演技を打つ意味がない』

上条「問題なのは『向こう』の目指す先が権力掌握じゃなく、科学の超発展って事なんだよな」

コロンゾン『それ自体はよきことよな』

上条「『目の前に核兵器のボタンがありました。よし!科学のためには一発撃って確かめてみようぜ!』って連中なんだよ……!」

コロンゾン『個人的には気が合いそう』

上条「この悪魔め!帰国する前にお遍路10周すっかんな!」

コロンゾン『それは悪魔でもなくとも病みたるわ。「いやもうこの景色飽きたんだけど山ばっかで」って』

上条「んで最終的に何がしたいの?って事に。短期的なプランだったら破滅的な実験起して解散、長期的なプランだったら人体実験の日常化とか?」

コロンゾン『あー、これはどっちかっていうと悪魔の方のコロンちゃんが囁いてるんだけど。つーかまぁ天使寄りではありたるのだけど』

上条「そこら辺はどうでもいいわ。で、どうしたんだよコロンちゃんが?」

コロンゾン『「後先なんて全然考えてない」って可能性は?』

上条「あー……」

コロンゾン『言い方は良くなかりしけど、アレイスターの悲願が叶った後であれば好き勝手はできる。「連中」の特性考えたら一代二代で滅びるような事もなし』

コロンゾン『てかぶっちゃけ、外部で最悪の敵対存在になりかねないお前が存命の内に、事を起す意味は何?と』

上条「それはやっぱ『幻想殺し』じゃねぇの?隠れてんのか、どっかのアホみたいに暴れてんのかは知らない――が?どした?」

コロンゾン『……私、幽霊見たかりしかも』

上条「ウッソやめろよお前マジでそういうの!本当にいるんだったらミナ母さん捜しにいかないと!」

コロンゾン『このドマザコンが……いや、そうでなくてマジな話なりし。かなーりマジで』

上条「へー、幽霊なんていたんだ?そっち系の魔術師いるんだから、そりゃいないと成立しねぇか」

コロンゾン『……こういう場合どうすればよき?下手にリアクションするんじゃなくて、スルーしたるがベストなりし?』

上条「っていう説が多いよな。てか悪魔がなんで幽霊怖がってんだよ」

コロンゾン『べ、別に恐がりたるけりなど全然全然?ただちょっとカブってるおるから心配してるだけで』

上条「悪魔と幽霊ってカブってんのかよ。つかどこよ?俺には見えないパターン?」

コロンゾン『アーケード先の惣菜屋さんの隣……!物陰からこっちを恨めしそうな目で見ておる……!』

上条「惣菜屋さんの……あ、昔よく寄ってたとこか。あそこに幽霊なんて――」

闇咲「……」 ジーッ

上条「――あれ幽霊じゃねぇよ!?ちょっとした幽霊よりも辛気くさくて暗いけど普通の人間だよ!?」

コロンゾン『で、でも辛気くさい魔力反応が……!』

上条「そりゃあるだろ魔術師なんだから!辛気くさいけども!」

上条(え、なに闇咲!?なんで闇咲がここにいんの?つーかあいつが殴り込んできたのって夏休みだろ!?)

上条(時計の針が思ったよりも進んでいる?俺が知らないだけで以前から出入りしてた?)

上条(彼女さんの呪いもコロンゾンに解析させようと思ってたのに何が狂った?)

闇咲「……」

コロンゾン『如何したる?』

上条「如何にも何も、だな。背中見せた瞬間に撃たれそうな相手にどうしろってんだよ」

闇咲「お初にお目にかかる。私は――」

上条「闇咲、闇咲逢魔……修験道、だっけ?山岳信仰系の魔術師だよな」

闇咲「私のような無名の術士まで知っているとはな。光栄の至りだと思えばいいのか、はたまた怖れればいいのか」

上条(どうする?嫁さん呪いの話を出した方がいいのか?黙ってた方が?)

コロンゾン(くっくっくっく……!貴様の嫁さんには呪いがかかってたであろうが、元気にしてるぅ?)ニチャァアッ

上条(オークじゃねぇか。『いつでもソフトターゲット狙えるんだぜ?』的な下心丸出しだろそれ)

コロンゾン(よって黙ってた方が良かれしよ。言ったら言ったでリアクションが見たかりしが)

闇咲「――その命頂戴したい」

上条「人違いとか、そういう線は……」

闇咲「私の名前と魔術体系を開示しておいて今更だな、メイザース」

上条「話し合いの余地は?」

闇咲「何も聞かずに学園都市から立ち去るのであれば}

上条「せめて理由ぐらいは聞かせてくれよ。こっちも別に遊びで来てるんじゃない」

闇咲「……」

上条「交渉がしたい。事情を説明したくないってんだったら、こっちの話だけでも聞いてくれ」

闇咲「……条件がある。そちらの譲歩に付け入るようで、卑しいのは承知の上で言っている」

上条「禅問答みたいな内容じゃなければ」

闇咲「場所を移したい。あなたは人命になど頓着しないだろうがな」

上条「俺だってするわバカヤロー。人をなんだと思ってやがる」

闇咲「どうだ?」

上条「……交渉する気があるんだったら」

コロンゾン(どう見ても罠フラグですありがとうございました)

上条(そ、そんなことないもんっ!きっと移動先ではビキニアーマーの女の子がいっぱいいるんだもんっ!)

コロンゾン(ミナ……あなたの息子はニッチな性癖に育ちしよ……?)



――誰もいない工場

上条「――ビキニアーマーは?」

闇咲「そんな霊装聞いた事もないが」

上条「あぁ違ったそうじゃなくてここは?」

闇咲「区画整理で会社ごと移転が決まった工場だ。よってここて暴れても迷惑がかからない」

上条「……話聞く気あんのか?なかったらダッシュで逃げるぞ俺?」

闇咲「あるとも。なかったら最初の時点で姿を見せずに不意打ちしている」

上条「ふーん?」

コロンゾン(嘘なりしな。不意打ちできない理由は別に何かありたる……周囲の巻き添え、かな?)

闇咲「ともあれ話は聞こう。交渉になるかどうかは分からないし、そちらの疑問に答えられるかも分からないが」

上条(考えろ考えろ。どう答えればいい?全部バラす?それとも一部だけ隠すか?)

上条(そもそも闇咲がどうして学園都市にいる?彼女さんはどうなってんだ?俺を遠ざけたい理由はなんだ?)

コロンゾン(片付けしは?弱くはないけれど、”突破した”感じは無きよ?)

上条(却下だ。向いている方向と条件の摺り合わせ次第で共闘できるかもしれない。とにかく今は協力者もほしい)

コロンゾン(誰がどう見ても……都市伝説に出てきそうな立派な不審者)

上条(それでもだよ!)

闇咲「どうした?」

上条「あぁ悪い、どう話したもんか迷っててな。あーっと、ここの統括理事長って知ってる?アレイスター=クロウリーって魔術師なんだけど」

闇咲「知らん方がモグリだろう。貴殿と同じ最古の魔術師の一人」

上条「失踪した。あぁ正確には連絡してた相手が別人にすり替わってた。多分数ヶ月前ぐらいから」

闇咲「よって、会いに来た、か?」

上条「色々寄り道してるのも確かだが、嘘はない。俺たちが大攻勢かけるつもりだったらもっと別の方法を取るだろ」

闇咲「理解はした……が、納得はしがたい。貴殿がクロウリーの不在を突いて、という可能性も決して低くはない」

上条「なんでだよ。兵隊連れてきてねぇだろ」

闇咲「では聞くが、貴殿一人で『必要悪の教会』の魔術師全員と戦っても勝てるだろう?」

上条「何その風評被害!?俺なんだと思われてんの!?」

闇咲「『必要悪の教会』に一世紀弱君臨する最古の魔術師の一人。『黄金夜明』の流れを汲んだ最悪の魔術師」

上条「盛ってる盛ってる!まだ80年ぐらいだしスタート地点は一番下っ端から始めてんだよ!」

闇咲「若き日のマタイ=リース率いるテンプルナイツをたった一人で壊滅にまで追い込んだそうだが」

上条「あのジジイ……!自分が粛正したのを俺になすりつけやがって……!」

闇咲「そんな戦力がここにいる。いるだけで不穏なのだ」

上条(――で、どんな感じ?)

コロンゾン(悪意の臭いは皆無よな。交渉にも応じておるし、引き延ばしたり時間稼ぎのつもりない、っぽい。ここを見張ってるものもおらぬ)

上条(つーことは完全に闇咲の意思でやってんのか。一番タチ悪い)

闇咲「魔力、技量、経験――全てにおいて及ばず。後塵を拝すどころか、影形すらも見えぬ頂に立つものよ」

闇咲「だが、そう、だがだ。それがここで私が退く理由にはならず!故に私は信念をもってあなたを打ち倒そう!」

上条「あれこれ俺完全に悪役になってね?」

コロンゾン(80年前からそうなりしよ?)

闇咲「命を一つ救ってもらった。だから私も一つ差し出そう」

上条「……シンプルすぎて鼻血が出そうだわ。何とかなんねぇかな」

闇咲「無理だな。魔術師とはそういうものだ」

上条「違いない――さて、どうしたもんかね」

上条(命を救われたって話なら彼女さんだよな。そしてその手段といえば、ここ学園都市だったら答えは一つ)

上条「――『幻想殺し』、だろ?」

闇咲「……」

上条「実は俺もそいつに用がなくはない。つーか多分アレイスターが失踪した原因の遠因になったとも考えてる訳でだ」

上条「闇咲逢魔、今代の『幻想殺し』は誰だ?」

闇咲「メイザース、その問いにはこう答えよう――貴殿だったら喋るのかね、と」

上条「……まぁ、な。それはそうな」

闇咲「正直に言おう。『幻想殺し』に恩がある。私はそれを返さねばならん」

闇咲「……『殺してくれ』と私に願った。死にたくても死ねん体になった彼女の魂を救ってくれたのだ」

上条「――なに?」

闇咲「……すまない、愚痴だ。貴殿の同情を引こうなどと卑しい真似をした」

上条(おいおい待て待てこっちは間に合ってない?死ねない体になった?嫁さんの呪いが進行すると死ねなくなったって?あれってそんな呪いだったのか?)

コロンゾン(考えてる暇は無き!来たる!)

闇咲「闇咲逢魔、今はもう魔術師名を名乗る資格を失ったが、退くつもりもない――参るッ!!!」



――誰もいない工場

闇咲「『風魔の弦』」 ブウンッ

上条(――前略、天国にいる母さんとコキュートスにいるメイザースさん。お元気ですか?私は元気です)

闇咲「ナウマクサンマンダバザラダンカン――『不動明王咒』!」 ゴゥッ

上条(なんやかんや色々あって昔お世話になった魔術師さんと戦っています。向こうは割とガチ目に殺しに来ててショックですが)

闇咲「『断魔の弦』っ!』」 ズゥンンッ

上条(てゆうか割とキーマンぽいので対処に困っています。とっ捕まえようとは思っていますが)

コロンゾン(はいそこ現実逃避せずに戦いたりしよ。向こうは大真面目にやらかしたるし)

上条(ってもなぁ。なんかこう、なんかな)

上条(闇咲逢魔、魔術名は不明。向こうでは『さぁガチで殺し合おうか!』って事にはならなかったし、こっちでは資格がないとかで)

上条(系統は神道系?修験者が使うのとか本人から聞いている。てか現在進行系で喰らってんだけども)

上条(戦闘スタイルは中距離型。左腕の『弓』から風属性の衝撃波がメインウェポンで、サブウェポンが時々唱える呪文?)

コロンゾン(マントラなりし。別名は真言、この術士が好みたるは火系の不動明王な)

上条(が、飛んでくる。後はたまーに)

闇咲「はあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」 ブウンッ

上条(縄縛術か。前にインデックスを縛ってたと思われる縄がムチのように襲い掛かってくる。ここまでだったら直接戦闘系の魔術師では中の中ぐらいの腕。しかし)

闇咲「――『透魔の弦』」 ヒュンッ

上条(高速移動に加えて姿を消しての立体移動、二次元じゃなくて三次元の戦い。跳躍力もさることながら時々本人や縄の一部が不可視になって来やがる訳で)

上条(大抵のやつは地上に張りついて戦うのに慣れている。それは攻撃防御どっちもの話だ。たまーに飛び跳ねるだけのもいるが、それはそれで空中で身動きが取れないところを狙われたりする)

上条(ただ闇咲の場合は『跳躍』の範囲内でありあらゆる死角から攻撃をかましてくる。上位の下に食い込む、か?)

コロンゾン(直接戦闘だったら土御門のヤローよりも上、神裂に迫りつつ、テンション次第で白いのには勝つ感じ?)

上条(つーか逆にヤバイわ。闇咲が周囲への被害上等、シェリーみたいに街中で襲って来やがったら巻き添えに気ぃ遣って勝てない連中も多かったろうとは思う)

コロンゾン(どう見ても悪役の格好なのにね)

上条(だがしかし――)

闇咲「『断魔――ぐっ!?」 ドンッ

上条「術式と霊装のバランスはいい、戦闘経験も豊富、体術もそこそこ、思い切りの良さも加点対象だ」

上条(並の術者だったら手も足も出ずに完封。上位陣であっても機動力の高さに一撃当てるのに苦労するだろう)

上条(ただ場所が悪い。遮蔽物が多いとはいえ室内は室内、動きが悪くなってる)

上条(本来であれば、森の中とか障害物がある程度ありつつも拓けた場所での戦闘が望ましいんだろうが……一番の問題は攻撃力がない)

上条「一発一発が、軽い。どれもこれも致命的な一撃を狙うには足りてない」

上条(高速戦闘を行いながらの高威力・高出力の攻撃が飛んでこない。少しずつ削るタイプなんだろうが、俺には効いてない)

闇咲「『悪魔憑き』には私の術式が特攻の筈なのだかな……!」

上条(え、マジで!?俺って邪悪属性なの!?)

コロンゾン(あぁ、梓弓は基本的に聖属性だから、悪魔憑きには特攻なりし☆呪殺耐性は高かりしけどねー)

上条「完成度は高い。高いが、それだけだな」

上条(これで機動特化して、街中を逃げ回りながら被害拡大ましくりながらだったらヤバかった。ただまぁそんなんしやがったら、闇咲でも即座に潰すが)

闇咲「さもありなん。私の直接戦闘の実力なんて精々この程度だ――よっ!」 ヒュンッ

上条(逃げる!?マズい!全力で逃げられたら土地勘のない俺じゃ追い切れ――)

コロンゾン(――止まれ!罠よ!)

――キキィンッ

上条「……いっつ……?」

闇咲「予定では腕の一本ももらっていく筈だったのだがな。薄皮一枚とは恐れ入る」

上条「ワイヤー……魔力のも凝らないやつか!」

闇咲「学園都市製単分子ワイヤーだ。弱者には弱者の戦い方がある」

上条「……あー、なんか威力足りねぇなって思ってたのももしかして?」

闇咲「あれはそれなりに全力でやっていた。手を抜いた瞬間に行動不能にさせられるだろうからな」

上条「まぁ霊装壊して話し合いに持ってくつもりではあったが」

闇咲「先程から謝罪してばかりで恐縮なのだが。私とて搦め手ばかりで退屈な思いをさせているのは非常に心苦しくはある」

闇咲「とはいえこれが最期の謝罪になるであろうので、改めて――すまない」 ヒュンッドゴォォンッ

上条「あん?どこ攻撃して――」 ゴゴゴゴゴッ

闇咲「建物の崩落に耐えられるかな?」

上条「何してやがるゴラァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァッ!?」



――誰もいない工場 跡地

上条「――って死ぬわボケ!?俺じゃなかったら死んでたぞテメー!?」

コロンゾン『あーまぁお疲れ。天井ぶち抜けて良かれしな。てか普通に横へ逃げれば?窓とか』

上条「無理だよ!?どこにあのワイヤー張ってあんのか分かんねぇんだぞ!?」

コロンゾン『それも計算尽くなりしなー。いやーあぁいう戦い方もありしな、勉強になったわー』

上条「てか闇咲はどうした!?追撃来るかと思ってたが、どっかで潰れてんのか!?」

コロンゾン『えぇと……血の臭いはなかりしな。お前以外の分は特に――ん?』

上条「他に死体でもあったのか?実は警備員さんが巻き込まれたとか?」

コロンゾン『でなくて。ワイヤーについた筈のお前の血痕が、んー……?なき、ような?』

上条「お高そうな武器だから回収してったんじゃね?出所がヤヴァイとか」

コロンゾン『違和感がそこそこありたる。あの術士、本気でやりとぉておったか?』

上条「本気は本気だったろ。つーかそうじゃない判断はどっから?」

コロンゾン『ボクシングで、ファイナルラウンドでここまでの判定はチャレンジャーが圧倒的に不利。このラウンドでKOしなければ負けたるとする』

上条「お前がボクシング語んのかよ」

コロンゾン『被弾覚悟、それこそ必死でチャンピオンを倒しに来たるな?これ以後は何も失いたるものがない以上は?』

上条「あー言わんとすることは分かる……そういう必死さはなかった、よな。クリーンヒットが怖くて攻めあぐねていた、って可能性もあるが」

コロンゾン『気をつけたれよ?まだ終ってなきやもしれぬ』

上条「了解――『――もしもし?土御門か?』」 ピッ

土御門『――今夜もやって来ました「はるるーんナイト☆」。DJははるるんこと土御門元春がお送りするんだにゃー』

上条「『割と緊急事態だアホ。闇咲逢魔について知っている情報を寄越せ』」

土御門『ノリ悪いんだにゃー――って闇咲?またタイムリーな名前が出てきたぜぃ』

上条「『何かやったのかよ』」

土御門『日本の財界で有名な魔術師の一族がいるんだにゃー。正確にはい”た”か。最近ほぼほぼ族滅しちまってんだけど』

上条「『闇咲が?』」

土御門『らしいぜぃ。それなりに力のあった連中なのに、正面切って入って来たたった一人に女子供も皆殺しって話だぜぃ』

土御門『まぁ生き残りがいても面子がボロッボロで魔術師の家としても再起不能だにゃー。くわばらくわばら』

上条「『そうか――って待て。正面から乗り込んだ?』」

土御門『そりゃ搦め手が効かねぇからだにゃー――ってあんたは知らないか。あの家の供犠魔術』

上条「『供犠……イケニエ関係だっけか』」

土御門『だにゃー。避雷針と同じで予め雷が落ちる場所に設置しとくだろ?するとそこに当って他は被害を免れる。それの人間版だな』

土御門『一族の血統の中に一人用意しておいて、そいつが一族に降りかかる全部の呪いを引き受けるんだと』

上条「『……滅んで正解だったな。それで闇咲には懸賞金でもかかってんのか?タイムリーっていうのは』」

土御門『いや全然?むしろ「闇咲って呪術師スゲーらしいぞ!」って株が上がってるぐらいで』

上条「『滅びろやお前ら。いやまぁそういう連中ばっかだけどなこの業界!』」

土御門『強い魔術師ってのは危険な魔術師で、危険な魔術師ってのは強い魔術師だにゃー。つーかまずあんたがそうだろ「最大主教」』

上条「『俺単体だったらお前より劣るんですけど……まぁいいわ。ありがとな』」

土御門『あぁそうそう、そういやシスターが――』 プツッ

コロンゾン『何か言いかけてたるが?』

上条「『シスターが大好きなんだよ俺は!』だな!電話口でつい言いたくなったんだろ!しょうがないなーはるるんは!」

コロンゾン『なんで?一番上の上司に言う必要ありたる?なかりしよね?』

上条「これ以上厄介事なんて背負いたくいないしぃ!向こうは向こうでヴィリアン様に任せてあるからいいんだよ!」

コロンゾン『こっちの進展がゼロに等し……』

上条「そんなことより闇咲だ!あいつ……彼女さんが亡くなってるっぽいな。タチ悪い術式に遣われて」

コロンゾン『電話は聞いておったが、死ねない体がどうとも言っておったな』

上条「この世界にはインデックス――お前が造った人間魔導図書館がいないんだよ。あっちではその子の知識を盗みに襲撃してきた」

コロンゾン『と、いうことは独学で何かをしようとして――失敗した、か。盗もうとした知識とは?』

上条「放牧地?って言ってた」

コロンゾン『それ牧場。正しきは「抱朴子」……道教の元にもなっておる、不老不死の秘術が書かれた魔道書よな。そうか、酷い話なりしな』

上条「酷い?」

コロンゾン『「生物は他の生物を食べることで生きている。だが他の生命は等しく寿命があり、それを摂取する我々もそうだ――ならば」』

コロンゾン『「寿命のない鉱物を摂取すれば不老不死になりたるかもね?」という話なりける』

上条「大昔、貴重な生物が食われまくったのも……」

コロンゾン『この思想がバックボーンにありしな。他にも不死の霊薬として水銀が持て囃されたりな?』

上条「じゃあその魔道書自体はニセモノなのか?」

コロンゾン『正しき方法で資格を持ちうる術者がすれば、とだけ申しておくか。でなければ魔道書として名を残さぬ――で、想像なりしが』

コロンゾン『写本か原典か知らぬが、あの術士が「抱朴子」を手に入れ、実行した結果が死”ね”ぬ体になったと』

上条「死”な”ずじゃなくて?」

コロンゾン『術者本人に力があるだけに術式は起動した。だが対象自体が呪いで余命幾ばくもなく、その状態のまま固定されたのでは、と』

上条「最初っから呪いさえ解けていれば……!ってそれは順番が逆か。呪いが解けるんだったら『抱朴子』を使う意味がないのか」

コロンゾン『もしくは呪いを解いても体が保たないと判断したのやも?これ以上は当人にしか分からぬか』

上条「で、問題は『命を捨てるの上等かかって来いや!』って魔術師が俺の命を狙っているんですよ……!」

コロンゾン『……』

上条「ねぇ聞いて?ギャグに聞こえるかもだけど、俺は不安で不安で紛らわせるために明るくだな」

コロンゾン『あちらの世界で魔導図書館を奪われたと言うたか?私が造った?』

上条「あぁ出し抜かれちまった」

コロンゾン『そして部分ではありけるが、魔道書の知識を抜かれた?私が造った存在から?何のペナルティも負わずに?』

上条「超自信過剰じゃねぇか。そこばっか強調すんなよ」

コロンゾン『いや、可能か不可能でいえば可能……本人は何と分析しておったか?』

上条「あーっと確か、『このわたしをこうそくしたうえ、一冊だけとはいえ知識を盗むなんて中々やるんだよ!』だっけかな」

コロンゾン『あー………………そうか。感じておった違和感は”これ”か。結果的には一敗よな』

上条「いっぱ――い?あれ夜?なんで急に……ッ!?」

声【――オンキリキリ、オンキリキリ、オンキリキリ……】

コロンゾン『共鳴りな。最初に視覚から奪うとは手慣れておるわ』

上条「ちょ、ちょっと待てやゴラアァッ!?一人で納得してないで説明して下さいお願いしますっ!」

コロンゾン『我々は勘違いしておったというだけの話よ。闇咲という魔術師の特性を』

上条「ど、どういう……?」

コロンゾン『あの男は――呪術師だったなりしよ……ッ!!!』

上条「いや知ってるけど」

コロンゾン『さっさと対処した方が良きが……まぁ、魔術師には色々スタイルがおってな?戦闘特化、分析特化、情報特化、研究特化と職業並に数多くありたるのよ』

コロンゾン『例えばオルウェル、『水』に特化した魔術を使うが、水自体の特性故に万能型といえる』

コロンゾン『土御門のヤローならば正面から行かず、呪符と式神を行使しよう。だが本質は大規模な儀式魔術を得意としよる』

コロンゾン『反対にアーセナルはガチガチの脳筋魔術師。ぶっちゃけ退くわ』

コロンゾン『ステイルは……待ち上等の飛び道具か。まぁ将来は研究職行くんだから、最低限身を守る程度でいいって話よな』

上条「だから、何の話だ?」

コロンゾン『まぁ、何にせよ魔術師の傾向はありたるのよ。これが得意ならばあれが苦手、これが苦手ならばあれが得意、って風に』

コロンゾン『万能の術士もいないことはない。だが、大抵の場合はどれもこれも中途半端に終わる。そこまで人類の才能に余裕はなき』

コロンゾン『何よりも人生の中で遣える時間は限られておる。普通は何か一芸だけを、「これだけは誰にも負けない!」という武器を持つ』

コロンゾン『それが近接戦闘や術式、霊装だったり、探知系や操作系、あるいは治癒系であるかもしれぬ』

コロンゾン『しかしそれ以外は疎かか二の次になるのは、当然の帰結であると言える』

コロンゾン『学園都市へカチコミかけて来た上、私の造った作品を盗み出して、傷一つ付けずに目的の魔道書一冊分の知識を掠め取った――』

コロンゾン『――そんな手練の人間が”ただの戦闘特化”である筈がなきよな』

上条「……つーことは何?闇咲って直接戦闘タイプの人間じゃなく、もっと別タイプの魔術師だって話か……?」

コロンゾン『そう。例えば――”呪殺専門の呪術特化型”、とか』

上条「他に専門あんのにあんだけ近接戦闘できんかよズッリイィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィッ!?」

声【――オンキリキリ、オンキリキリ、オンキリキリ……】

上条「目が、目がよく見えないよパトラッシ○!?」

コロンゾン『あー、術者の五感と連動させたる呪術よな。てゆうかそれ多分、自分の眼球抉りたるわ。気合い入ってとるなー』

声【――オンキリキリ、オンキリキリ、オンキリキリ……】

上条「声が、声がよく聞こえないよ!兄さん、兄すわあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁん!?」

コロンゾン『この後に及んでナイトヘッ○の武田真○やりたる度胸は買いしが、つーか私が憑いている以上、呪殺耐性ありしのにな』

上条「あの野郎……ッ!てかさっきから言ってた『退くつもりがない』ってのも全部ブラフかよ!退いた上で呪いかけてんじゃねぇか汚ったねぇなオイ!」

コロンゾン『全てはお前の”血”をゲットして呪詛をかけるため――あー、久々に見る良き呪詛よな。上人殺しの鐘』

上条「いやー一本取られちゃったなー☆戦闘じゃ今一だったけど呪殺戦じゃ完敗だね☆」

コロンゾン『呪詛祓いは簡単なりしな?つーか魔術師というか呪術師としては一流なりしが、ネズミを殺す毒で邪竜は殺せぬ――が』

上条「つまり!?要件を言え!?」

コロンゾン『呪詛返しすれば確実にあっちが死ぬし、呪詛が完成すればそれはそれで術者は死ぬ。術者が死ぬことでより強き”呪い”と転じる』

上条「じゃダメだろ!?俺に闇咲は殺せねぇよ!?放置したらどうなる!?」

コロンゾン『お前は死にはしないが、死ぬほど痛いor全行動ペナルティ-50%が半年ぐらい続く感じ?』

上条「悪魔……ッ!?どうせ俺に無理矢理殺させて楽しもうってハラなんでしょ!?」

コロンゾン『と・う・ぜ・ん☆』

上条「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!こうなったら秘匿していた『シスター服をビキニアーマーへ替える呪い』を使うしか……!」

コロンゾン『超使い道がない呪い!?いや結構敬虔な修道女には特攻やもしれぬけど!』

声【――オンキリキリ、オンキリキリ、オンキリキリ……】

上条「――コロンゾン、頼みがある」

コロンゾン『聞くだけはなんなりと』

上条「俺のダメージは半分ぐらいなんだろ?だったら闇咲の方の代償を俺に肩代わりさせるって可能か?」

コロンゾン『死に……は恐らくはない。結果的に仲良く3/4ぐらいの傷を負うたるが』

上条「だったらいいわ。やってくれ」

コロンゾン『アウェイのど真ん中で?大幅に弱体化するのを見過ごせと?』

上条「そもそもが俺の罪だ。闇咲の彼女さんを救えなかった」

コロンゾン『……誰も彼も救えるとでも?』

上条「そうだ。だから、やってくれ」

コロンゾン『――歯を食いしばりたれ。生半可な呪詛ではなき故に』

上条「……悪いな?」

コロンゾン『慣れた――いざ……ッ!!!』

???「――あ、すいませーん。肩にゴミついてますよ?」

――パキイィンッ――!!!

上条「――んな……ッ!?」

コロンゾン『呪詛が……消えた!?跡形もなく!?』

???「と、思ったら気のせいでした!あははーっ、失敗失敗!」

コロンゾン『「幻想殺し」!?まさか、まさかこんな所で……!』

上条「君は、一体……?」

???「え、なんだキミはってか!そうです、あたしは通りすがりの――」

佐天(???)「――ただの探偵さ!」 キリッ

上条「――って『幻想殺し』お前だったんかーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーいっ!!!」



――とある病院 外来

佐天「やー、すいませんねなんか!今日はあたしじゃないのに重症者を連れて来てしまいまして!」

冥土帰し「えぇとね?部位欠損は流石に困るんだよね?」

佐天「先生のご指導ご鞭撻のお陰です」 キリッ

冥土帰し「どんな指導なのかな?人のせいにしないでくれる?」

上条「すいませんメイド先生。入院費用は俺が持ちますから、再生医療で何とかなりませんか?」

冥土帰し「そのメイド先生って僕のことかな?嫌いではないけどメイドではないからね?」

佐天「ですかねぇ。片目だと流石に不自由でしょうし、治るんでしたら是非」

冥土帰し「僕を誰だと思っているのかな?」

上条・佐天「「リアルゲコ太」」

冥土帰し「違うねそうじゃないね?そう返されると折角のドヤ顔と決め台詞も不発に終わるからね?」

冥土帰し「この後『医者は患者を治すのが仕事なんだよね?』的なのをね?決めようと思っていたんだけどね?」

上条「えっと……もう見えない、とか?」

冥土帰し「多分自分でやったんだろうけど、片目が独鈷(とっこ)でぐちゃぐちゃに潰れているね?その原因をなんとかする前に治療していいものかな?」

佐天「あ、それは大丈夫っす!あたしが保証しますんでこの人のサイフから好きなだけバーッと!」

冥土帰し「君さっきからノリで言っているよね?あぁまぁ神経は全滅していないからできるはできるけど?」

上条「あ、じゃあそれでお願いします。メンタル的な部分は俺たちでなんとかしますから」

冥土帰し「って言ってるけど?」

佐天「右に同じく。ただし領収書の宛先はこちらの方に全振りで」

上条「任せろ!俺が80年溜めた『幸せな結婚のための積み立て預金』が火を吹くぜ!」

佐天「切ないわー。期間は盛ってんでしょうが通帳の名前が切ないですわー」

冥土帰し「まぁ新しい機材もほしかったし丁度いいんだがね?」

上条「くっ……!今まで貯め込んだお金がなくなってしまっては残念ながら結婚は先延ばしになるな!資金の影響で!」

佐天「メッチャ責任転嫁してますけど」

上条「仕方がないんだ!強いられてるんだ!……で、悪いけど俺はメイド先生に支払い方法で相談があっから、先に下行っててくれ」

佐天「あぁいやそんぐらいだったら待ってますけど」

上条「いや悪いしいいよ。売店で軽食でも買って休んでてくれよ。小遣いやっから」

佐天「すいません。知らない人から頂くなと親に言われてまして」

上条「今からメイド先生と人には聞かせられないような話するから席外して!あっち行ってて!」

佐天「了解っす!やっだなもぉ最初っからそういえばいいのに!じゃロビーにいます!」

上条「……疲れる……!天然相手には俺も疲れる……!」

冥土帰し「君も君で疲れるんだけど?――それで?僕に改まって何か用なのかい?トーマ=メイザース君?」

上条「くっくっくっく……!何かこう誰も彼も俺を知ってて恥ずかしいぜ……!」

冥土帰し「アレイスターから聞いたのだけど、小さい頃はママにべったりだったって本当かな?」

上条「断じて違う!――残念ながら今もある意味ではそうだ!」

冥土帰し「――と、答える上はは本物なのだね?我が悪友の甥っ子さん、歓迎するんだね?」

上条「どんな確認の仕方だよ。てか確かめるってことは……ここにもいないのか」

冥土帰し「数ヶ月前からパッタリとね?白々しいアレイスター風の詩を書いてくるメールが続けているね?」

上条「一応聞くけど心当たりは?」

冥土帰し「僕が行けるような所は全て調べたよね?」

上条「ですよね−。直で喋れば、ってそれも怪しいのか。相手が生成AIの最先端使ってこられてたら手も足も出ない」

冥土帰し「君たちには”アレ”があるだろう?僕達のような只人には経験以外ないね?」

上条「対面した年月だったら先生の方が圧倒的に長いさ。それが良い事なのかは別にして」

冥土帰し「本当にね?……すまないね?友人一人助けられないとは医者失格かもしれないね?」

上条「生きてれば助けてくれるんだろ?だったら何があってもここに連れてくるさ」

冥土帰し「いいや違うね?死んでいても多少はズルをすればいいんだよね?」



――とある病院 ロビー

佐天「いやーすいませんね色々と!手術及び入院費料を全額出して頂けるなんて!」

上条「まだ言ってない。持つつもりではあったけど」

佐天「あぁでも助かりました。あなたがいなかったら闇咲さんは見つけられなかったでしょうし」

上条「パスが繋がってたから良かったものの、まさか下水道にいるとは……!本当にヤベェってあいつ」

佐天「まぁでもあたしのとばっちりで襲撃されたみたいですし、まぁお互い水に流すってことで一つ!」

上条「待って?とばっちりって何?君なんかしたの?」

佐天「あたしは特に何も。ただその、アレがアレなのでアレしちゃった感じで」

上条「代名詞を抜いてはっきり言いなさい!お母さん起らないから正直に!」

佐天「変な力を持ってるから過保護になって突っ走っちゃったみたいですサーセン!」

上条「もっと深刻になろうか?俺一応いい歳したおっさんと無理心中させられそうになってんだよ?」

上条「こんなんがイギリスの連中に知られた日には『ジジイ負けてんじゃんざっまぁwwwwww』とか指さされて笑われるんだからね?」

佐天「ざまぁwwww」

上条「今じゃねぇよ。ダイレクトに指さして笑ってんなよ」

佐天「え、でも今振りましたよね?」

上条「まぁな!話してて『あ、これボケさせる流れだな』って自覚はあったわ!」

佐天「てかマジであなた何やったんです?闇咲さんがあそこまで攻撃的になるって中々ないですよ?」

コロンゾン(その闇咲さんは少し前にヒナミザ○カマしたるけど)

上条(会話中は静かにしてて!最近若い子と話す機会が無くてちょっと緊張してるんだからねっ!?)

コロンゾン(したりけるよなぁ?あ?お?今とかな?あと今とか?)

上条「あー……どっから話したもんか迷うんですけど。つーか闇咲が言ってないことを俺が言うのも気が引ける訳で」

佐天「てかお名前聞いてないんですが、あなたはどこのどちら様ですか?」

上条「イギリスの方から来ましたトーマ=メイザースです」

佐天「えぇとトーマさんトーマさんっと」 ピッ

上条「なに?wikiには流石に載ってないと思うよ?」

佐天「事前に渡されたリスト的なものがありまして。それによって対処を変えろと――あ、ありましたねー!『遭遇したら逃げろ、多分死ぬけど』って書いてありましたわー!」

上条「へー」

佐天「あ、あんなところに空飛ぶ御坂さんが……ッ!!!」

上条「無理だよ。そこまで超警戒されながらここで視線逸らしたりはしねぇし、そもそも脚力の違いで追い付くよ」

佐天「あ、あたしをどうにかするつもりんですかっ!?エ×同人みたいに!?」

上条「だからしねぇって!俺もう嫌だよこんな仕事!あのアホ放置して帰っていいかな!?」

コロンゾン『多分”ヤッベェ”ことになりしがな』 フワッ

佐天「幽霊……!?」

上条「みたいなもんかな?あぁでも心配は」

佐天「マジっすかあたし初めて実物見ました写真撮っていいですかあと握手もお願いします!」

上条「はっはーん、あれだな?君もしかして面倒臭いな?面倒臭い子なんだよな?」

佐天「――はい、チーズっ!」 パシャッ

上条「話を聞けよ!?あと記念撮影するんだったら俺も入れてよ折角なんだから!?」

コロンゾン『お障りは厳禁なのりしよ。メイザース親父が「幻想殺し」対策に何かしておるが、おっさん詰めが甘いので有名たるわ』

佐天「えいっ」 ツンッ

コロンゾン『ぐぎゃあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!?』

上条「コロンゾォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォぉぉんっ!?」

佐天「あるぇ?またあたしやっちゃいましたくわぁ?」

上条「俺を置いて逝かないで!?こんなカオスでメンドクセー状況に俺一人残して逝かないでよぉ!?」

コロンゾン『――って死なぬわ?!本体だったらややヤバかりしがな!』

佐天「あ、復活した」

コロンゾン『この女……いっそここでぶち殺したる方が……!』

上条「テンドンはするなよ!?絶対にテンドンはやめとけよ!?絶対だからなっ!?」

コロンゾン『お前――この後に及んでトドメを刺そうと……ッ!?』

佐天「あ、すいませんでした。これマジなやつでしたね」

上条「闇咲のヤロォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォッ!きっちり教えとかねぇからあのボケが!」

コロンゾン『こっちの業界に首ツッコマせなきようにしたるだけでは……』

佐天「あとここ病院ロビーなのであんまり騒がしいと注目……は、されてないですね?あれ?」

上条「そういう魔法を使ってる。じゃねぇとこっちが目立ってしょうがねぇよ」

佐天「はぁ、まぁ超美人さんですもんねそっちの方」

コロンゾン『やだなんていい子……!永遠の命に興味は?もしくは世界を支配したとかなかりし?』

上条「余所の子にちょっかいかけるんじゃありません!責任取れないんだったら最初から拾っちゃいけませんよっ!?」

上条「てか話が進まねぇなこれ!?いい加減にしとけよ!?」

コロンゾン『闇咲も多分そういう感じだったんじゃ?話聞かないからリストだけ渡しとけみたり?』

上条「取り敢えず分かってること全部教えなさいよ!それによってこっちもどこまで話すのか変わるんだからねっ!?」

佐天「あれはそう――あたしが小学校の頃の話です。クラブの後片付けで遅くなった日でした」

佐天「そういえプリント忘れたな、と友達と離れて一人クラスへと向ったのですが。するとそこには――」

佐天「――クラスメイトのAちゃんの机をhrhrする担任の先生が!!!」

上条「言ったか?俺一回でも『怪談話聞かせて?』って言ったかなぁ?」

コロンゾン『怖い話なりしが……そのロ×ペ×野郎の進退がちょっと気になりたるわ』

佐天「――ふっ、引っかかりましたねメイザースさんアンド綺麗なおねーさん!あたしの策略に!」

佐天「よもやあたしがただただ意味もなくダベっていただけだとでもお思いでしょうかコノヤロー!?」

上条「そうじゃねぇか。もしも違ってたらこの短期間に悪徳の悪魔が二敗したってことになんぞ!」

コロンゾン『責任の所在を全部こっちに押しつけて来やがった……!?』

佐天「えぇまぁぶっちゃけそうなんですけど、結果的に騙したみたいな感じになってすいませんでしたみたいな?」

上条「結果的に?」

佐天「闇咲さん捜しましたよね?なので今日は結果的に授業をサボるような感じになったんですよ」

上条「まぁそうだわな。俺としてもアレ解いてくれて命拾いしたけど」

佐天「てか、今までもちょいちょい似たようなトラブルに巻き込まれるようなことがあったんです。信じられないかもしれませんが」

上条「それは知ってる。多分世界で一番俺が理解できる」

佐天「なのでダチに連絡入れといたんですよ。『遅くなるけど重症者拾っただけだから心配しないでねー』って」

上条「俺と違って心くばり出来るいい子……!」

佐天「と、したら当然心配しますよね?何拾ったんですか、とか、誰と一緒にいるんですか、みたいな?」

上条「そう、だけど。それが?」

佐天「――あ、すいません。ちょっとそこに座っててくださいね。あたしちょっと野暮用が出来たので」

上条「あぁうん待つけど。何?何がどうなってんの?」

佐天「入り口まで辿り着いたらスタートです――では幸運を祈るっ!ファイッ!」 シュタッ

上条「おぉダッシュで走って行った、パンツはBV……いやごめん何でもない。てか?何なの?」

コロンゾン『二敗確定なりしな。あ、私は消えとるわ』 ヒュンッ

上条「だからお前まで何な――」

黄泉川(※拡声器)『あーあーテステスー――建物内のガイジンに告ぐじゃんー!あんたは包囲されてんじゃんよー!』

黄泉川(※拡声器)『あんたには色々と容疑がかけられているんじゃん!大人しく出てくるか学園都市中に指名手配されるか選ぶじゃんよー!』

上条「あのアマアァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァッ!?日本だとこんなんばっかりだなオイ!?」



――とある警備員詰め所

上条「――こ、来ないで!?なんでも話します!話しますから顔は殴らないで!」

黄泉川「超心外じゃんよ。てか取調室に入った瞬間にアクセル踏みすぎじゃん」

上条「え、えっ×なお姉さんは!?えっ×なお姉さんが誘惑してくれるってえっ×な本に書いてあったよ!」

黄泉川「どんな取り調べじゃん?饅頭怖いの一番レベルの高いやつじゃん?」

上条「正直に言おう――黄泉川先生ならば充分にありだ、と!」

黄泉川「先生言うなじゃん。あと監視カメラとマジックミラーでギッチギチの状態でコンプラ違反は不可能じゃん」

上条「いくら払えばいいんだ!?俺にはそこそこ大きな額を支払う準備がある!」

黄泉川「お店行ってもらえじゃんよ。ただし学園都市内ではないじゃんが」

上条「壁に手をついて身体検査とかしなくていいのか!?股間に凶器とかあるかもしれないだろ!?」

黄泉川「仕事じゃん?銃とか違法薬物とかシャレにならない犯罪エリアでは効果的じゃん?」

上条「それ以上はマズい!俺の股間の邪王炎殺黒竜○が解き放たれる……っ!!!」

黄泉川「しまっとくじゃんよそのチンアナゴの稚魚」

上条「あ、じゃあ俺が取り調べる方で――『ねぇ奥さん?これ旦那さんが知ったらどう思いますかねぇ?』」

黄泉川「誰が奥さんじゃんよ。未婚女子捕まえて」

上条「『くっくっくっく……!黙っていてほしかったら、なぁ?メールアドレスがライ○グループ申請してくださいよ!少しずつお互いの良いトコを理解して行くってことで!』」

黄泉川「思ってたのよりセンシティブじゃん。もしくは童×の悪いところが全面に出てる」

上条「『疲れたときなんか愚痴を聞きますよ!えぇあなたが世間という壁にぶち当たっても、世界で俺だけは味方ですから!』」

黄泉川「やだ、人生で疲れているときにコロっといきそうじゃん……!」

上条「俺の口を割らせたかったら最低でもシスター服は着てくるんだな……!」

黄泉川「『歳考えろババア』の大合唱じゃんよ」

上条「需要はありまぁす!一方通行の人肉パーティに参加したのを思い出して!」

黄泉川「なにその人格が疑われるようなパーティ?あと誰じゃん?部品?」

黄泉川「てかこいつなんなんじゃん?全然堪えないし話は聞かないし!」

上条「よかった……!俺がシスター服に弱いってことにはまだ気づかれてない……!」

黄泉川「だからそのちょいちょい挟むまんじゅうこわいは何なんじゃん?あんた本当に外人じゃんか?」

上条「――俺の名前は浜面・S・仕上だ!ヨロシクなっ!」

黄泉川「パスポートには全然別の名前が書いてあるじゃんが……えぇとメイザースさん?」

上条「そんな他人行儀じゃなくて『トーマ君』って呼んでくださいよ!いつものようにね!」

黄泉川「なんでこんなにテンションが高いじゃん。ヤバいクスリでもキメてんじゃんね?」

上条「いやなんか昔の知り合いと出会って超テンション上がっちゃって?」

黄泉川「誰じゃん。つーかあんたいくつじゃんよ?」

上条「「124歳、もしくは公式的には104歳かな」

黄泉川「あー……そういうことじゃん?」

上条「え、なに怖い。どういうこと?」

黄泉川「むかーし読んだ本があるじゃん?『せかいのふしぎなでんせつ』とか『なぞのひみつぶんめい』的なアレがあるじゃんよ。子供向けの教育マンガ」

上条「ありますね。大人になって読み返すと結構楽しいの」

黄泉川「そん中の『せかいのまほうのひみつ図鑑!』みたいなので、トマス=メイザースって魔法使いがいたじゃんが……そいつのなりきりキャラじゃん?」

上条「あ、それ俺俺、俺です。よかったらサインしましょうか?」

黄泉川「あぁ頼むじゃん?ここの書類の下の方にフルネームで」

上条「あの、これ『任意退去同意書』って書いてあるんですけど……」

黄泉川「他に紙がなかったじゃんよ」

上条「じゃあしょうがないですよねっ!『浜面仕上』っと」 カキカキ

黄泉川「これ浜面が退去するじゃん?ただの書類偽造じゃんが」

上条「てか黄泉川先生、さっきからずっと気になってたんですけど、これってどういう法的根拠があって取り調べてるんですか?」

黄泉川「あー……まぁ、任意同行、じゃん?お話聞かせてもらう感じで?」

上条「てか何か事件あったの?俺が関与してる証拠は?」

黄泉川「関与……まぁ関係者じゃんね。広義で言えば間違いなく」

上条「関係者?」

黄泉川「風紀委員詰め所爆破事件?」

上条「俺じゃねぇよそれ!?あぁまぁ確かに現場にいたっちゃいたけど俺は被害者だろどう考えても!?」

上条「防犯カメラを見なさいよ防犯カメラを!なんだったらあの子らの証言を!嘘吐くような子たちじゃないんだから素直に言ってくれるだろ!?」

黄泉川「あー、まぁ?なっ?」

上条「曖昧に笑ったって許さないからな!?そんなJK辺りがやったら成人男性が多少は騙されるかもしれないが!人生の酸いも甘いもかみ分けた俺にはな!」

黄泉川「やっぱダメじゃん?」

上条「まぁそれはそうとして爆上戦隊ブンブンジャ○が意外と面白くてですね」

黄泉川「効果あったじゃん!?捨てたもんじゃないじゃんな!?」

上条「不当拘束だー!弁護士か大使館を呼んでくれー!」

黄泉川「あーコラコラ、人聞きの悪い事言うなじゃんよ。こちとら一応は正義の味方じゃんし」

上条「くっくっくっく……!この炎上しやすい世の中で、ガイジンマウントをキメながら俺が情報拡散したら炎上必至よ……ッ!」

黄泉川「つーかなんでこいつ外見はモデルみたいなのに、中身が男子高校生なんじゃん?」

上条「もしもやめてほしかったら――なぁ?分かるよなぁ?」

黄泉川「超身の危険を感じるじゃんが……」

上条「オフの日に何人か誘ってゴジ○を見に行ってもらおうか……ッ!」

黄泉川「うんごめん。なんつーか、こう、うん、越えられない壁というかそういうのを感じるじゃん。ピュアっていう童×の壁っていうか」

上条「だ、だって最初から二人きりとか恥ずかしいんだからねっ!?」

黄泉川「あんた本当に何なんじゃん?アホ留学生の他にツンデレ入ってるとか、違法薬物キメてるじゃんか?」

警備員「黄泉川さん、被疑者に面会が」

黄泉川「あーもうそんな時間だっけじゃんな。時間稼ぎで引っ張った私を誉めてほしいじゃん」

上条「時間稼ぎ……へぇ、俺の知ってる人かな?それとも知らない人?」

黄泉川「まぁ面識はあるじゃん。つーかまぁある意味事件の渦中にいるっていうか、まぁ最大の被害者じゃん?」

黄泉川「その子からあんたが逃げないように、って頼まれてたじゃん?悪いじゃんね?」

上条「だったら最初っからそう言ってくれりゃ良かったのに」

黄泉川「立場上色々あるじゃん。あ、迷惑料でデートの予約でもするじゃん?」

上条「あ、そういうのいいです間に合ってます」

黄泉川「ぶち殺すじゃんよ?」



――とある警備員詰め所

初春「いやーどうもどうも。お待たせしてすいません。お時間を奪ってしまって大変心苦しかったのですが」

佐天「さっきぶりですねっ。お疲れさまでーす」

上条「いやあの、俺は逃げも隠れもしないんだから、言ってくれれば素直ににアポぐらい取れたんですけど」

初春「えぇまぁその、返す返すも心苦しいのですけど、あなたと対話する場所が警備員詰め所って時点でお察し頂ければ幸いです」

上条「日本語って難しいよね!『風紀委員詰め所を破壊した当事者だから警戒してますよ!』って言ってくれないんだからね!」

佐天「え、どういうこと?喫茶店で良くない?」

初春「ここにも一人日本人ながら察させない方が……」

上条「てか俺容疑者になってんの!?目撃者いんのに!?」

初春「『いやー、大変でしたよーだって急に爆発したんですからー全くもって本当にですよー』」

初春「『え、爆発する前に何があったって?すいませんよく憶えていません。前後の記憶が曖昧といいますか、ショックと言いましょうか』」

初春「『決して、そう決して学園都市能力者ランキング第二位が!狭い室内で一般人相手に超電磁砲ぶっぱしたとか!そんな事実はありませんでしたとも!』」

佐天「これなに?自白?」

上条「『そうは言えないですよね』、っていう良心の呵責?あぁまぁ確かに友達が生涯&殺人未遂の現行犯とチクるのは流石に……」

初春「一応包み隠さずレポートを上げていますが、受理されるかどうかは。高位能力者の立場的に」

上条「そこまで殺伐としてんのか、この街?」

初春「いえ、そんな事はないですよ?レベル5であろうが犯罪は犯罪です――ただ、立件されるかどうかは微妙なところです。大きな事件でもなければ」

上条「それって俺が死んでれば話は違ったって事か……!」

初春「ともかく――まずは謝罪を。先日は騙すような真似をした上、私の友人達を止められませんでした。申し訳ありませんでした」

上条「あぁ君は悪くないよ。俺が疑われるのも仕方がないし」

佐天「でっすよねー!」

上条「君は何なの?どの立場で言っているの?今はいいって言いながらも、『忘れはしないからね?』って言ってんだよ?」

佐天「嫌なマウントの取り方を……!」

初春「それでまぁ佐天さんから中々愉快な事になっている――と?なんですか?」

上条「ちょっと待ってくれ!紙とペンはあるか?」

佐天「学校帰りなんで筆記用具はありますけど」

上条「じゃあシレートの裏に――」 カキカキッ

初春「アドレスは又聞きですが知ってますけど?」

上条(メモ)【気をつけろ!ここは誰かに見張られている!】 ピラッ

初春「そういう部屋だからですね。具体的には右手をご覧ください。あの不自然な鏡がマジックミラーになっていまして」

上条「何だって!?黄泉川先生を口説いたことがバレてしまう!?」

初春「現在進行系でバレてますけどね。そして軽く引いてます」

上条(――どうだ?)

コロンゾン(デスクの中の上側、お前の右足の直ぐ上――で、しかも)

コロンゾン(あの女とこいつらが入れ替わった瞬間に電波が飛び始めたぞ?確実に内部の人間の仕業よな)

上条(折角のバカ話も聞いてほしかったんだがなー。隣の部屋には、つーかマジックミラーの裏側には?)

コロンゾン(人は三人。機械の電磁波の有無は感知できるが、元からあった機材に紛れれば探知できぬし)

上条(魔術の欠点は科学を補足できない。そして科学の欠点はその反対ではある)

コロンゾン(超ヤベェ技術でそのうちなんとかしたりける気配はある――が、良き?巻き込みたるぞ?)

上条(多分もう巻き込まれてる。『幻想殺し』と魔術師が出会ってんだ。何も起きずに終わる筈がねぇ)

コロンゾン(学園都市内には魔術師も入りたる。その一人が闇咲で)

上条(ただ少し……微妙に初春さんとビリビリ達の距離感が遠いような気がする、か?俺の雑感だが)

コロンゾン(あちらの世界ではどうなりし?例えば爆破事件だったら)

上条(所内の防犯カメラの動画を全て削除した後、全責任を俺におっ被せて指名手配する)

コロンゾン(重くない?ねぇそれ愛が重かりしよな?)

上条(非難するつもりは一切ないし文句なんかある筈もないんだが、アレイスターが事件起してない分だけイベントでの共闘が起きてない、かもしれない)

コロンゾン(レベルとコミュ上げずに来ちゃったかー。中ボス辺りで全滅喰らいそうなりし。合体技使えなくて)

上条(繰り返すが非難するつもりはないよ!ただ相対的に俺の難易度が上がってはいるけどもだ!)

コロンゾン(割と最低なこと言いたるよ?折角人が一回目は「まぁ、うん」ってスルーしてやったのに?)

上条(メモ)【育成失敗しやがって!】

コロンゾン(口で言えよ。あぁいや思うだけに留まりしよ)

初春「ソシャゲーの育成方針に何か問題でも?」

上条「あぁいえ何でもないです。ちょっと脳内悪魔と相談してただけで」

初春「超ヤベーですね」

佐天「あー……えっと場所変えません?一応は無実っぽい方を取り調べるってのも何か気が引けるし?」

上条「だったらいいとこ知ってるよ。最近できた穴場なんだけど」

初春「入国したばかりの方がジモティーみたいなことを……」



――とあるスキルアウトのアジト

上条「くっくっくっく……!ノコノコとついて来やがったなぁ……!なぁ浜面さぁん、こいつらが話してた例のヤツですぜ!」

浜面「なんて分かりやすいチンピラムーブ!?あれこれ俺が主犯になんね!?」

初春「『――あ、もしもし?今ですね、怪しい人たちに建物に連れ込まれまして』」

上条「お前たちの悪事はまるっとお見通しだ!俺たちがいる限り正義の芽は断たれることがない……ッ!」

浜面「掌を返したら世界最速!つーかあんた昨日の今日で来てんじゃねぇよ!まだ話し合ってるとこなんだから!」

上条「あぁお構いなく。『最悪ここを襲撃されても俺の良心が一切痛まないな』とか思ってないから?いやマジで?」

浜面「俺らだって生きているのに!?オイ駒場さん言ってやれよこいつらに!」

駒場「……いらっしゃい……?」

浜面「違げぇよ。何でウェルカムしてんだよ」

佐天「あぁどうもこんにちはっ!すいませんね急にお邪魔しちゃいまして!あ、これ最近あたしがハマってるスイーツです!」

初春「すいません。お邪魔します」

駒場「……怖くは……?」

佐天「夜道で会う闇咲さんに比べれば、そんなには?」

初春「元傭兵とかでイキってる割に、人に無理難題を押しつける警備員の先輩方に比べれば、まぁそんなには?」

駒場「……何もないが、ゆっくりしてくるといい……」

上条「だってさ」

浜面「騙されないでリーダー!?その子達は『比べればまぁ?』つってるだけで怖くないとは一言も言ってないんだからねっ!?」

半蔵「リーダーはどこ行っても外見で損ばっかしてっから……」

廓「まともな反応が嬉しかったんでしょうね。決して真の意味でまともかどうかは別として」

上条「で、昨日の今日で悪いんだけど場所貸してくれよ。なんだったらお前ら席外しててくれていいから」

浜面「あの……ここ、俺たちのヤサなんだが」

上条「んじゃ聞けば?多分『聞かなきゃよかった!』って言うと思うけど」

初春「そんな話を私達は選択肢もなしに聞かされるんですか……!?」

上条「君は聞かなきゃいけない。少なくともそっちの子とこれからも友人であり続けるんであれば、絶対にな」

佐天「あれ?あたしですか?」

初春「……上等じゃないですか。聞いてあげますよ!」

上条「んで駒場さん達の答えはどうなってんだ?どっちも根は一緒だから、まとめて説明しちまいたんだけどな」

駒場「……あれから……話あった。信用できる・できない、とか……」

浜面「夜明けまで話し合って結論が出ねぇし、解散してまた明日っつったら来やがったんだよあんたらが!」

上条「無理にとは言わない。ぶっちゃけ君らは本当の意味での部外者だから、聞かない方がいいとすら俺は思う」

半蔵「質問、いいかい?おたくの話を聞いたら絶対に協力しなきゃなんねぇとか、秘密を漏らしたら消すとか物騒な話になんのか?」

上条「どっちもノーだよ!?んな怖いことするかぁ!?」

廓「秘密があるんだったら……学園都市のネットに動画を流して暴露するとかはいいんじゃ?」

上条「多分それやったら向こうがそれに乗っかってより凶悪な噂を流すと思う。どう転ぶか俺にも分からん」

上条「また俺の話を漏らしたら狙われる可能性もある。だから聞くのはいいが、黙っててくれるとありがたい」

浜面「……オイ、スカしたにーちゃんよぉ」 グッ

上条「おっ?」

半蔵「ちょっ!?浜面落ち着けって!?」

上条(見て見てママ!胸倉掴まれるなんて半世紀以上ぶりだよ!)

コロンゾン(なんでテンション上がりたる?あと誰がママか)

浜面「俺はまぁ分かる。スキルアウトなんてゴミっつーか掃きだめっつーか自分で言ってて悲しいなオイ!クソみてーな連中ばっかだよ!セコイし!」

浜面「けどよぉ、こっちの子らはちげーんじゃねぇのか!?どう見てもカタギだろ!そんなガキを巻き込むんじゃねーよアァンッ!?」

上条「――あぁ、お前は”同じ”なんだな」

浜面「お?あんだって?」

上条「誤解したんだったら謝るわ浜面。俺の言い方が悪かった。まるでまだ引き返せるみたいな事を言った……訂正する」

上条「佐天さん、あっちの黒髪ストレートの子は知らないと逆にヤバい。今から俺がするのはそういう話なんだ」

佐天「うっす」

廓「先輩、手を離した方がいいんじゃないですかねぇ……?えと、ヤバいんで色々と」

浜面「なんでだよ。ヤクザの組長って訳じゃねーんだろこいつ?」

半蔵「……俺の予想が合っていれば、ロシアにケンカ売って勝つ団体のトップ」

浜面「オイオイ、そんなヤツがこんな所にまで来る訳が――」

浜面「……」

浜面「――服、ゴミついてたんで取っておきましたから!シワがついちゃうとアレなんで!」

初春「納得――は、しないですけど。理解はしたいですよね。内容も含めて」

上条「いやぁ俺自体はただのお飾りよ?実戦に出る機会も随分減ったし?」

コロンゾン『――そゃ最終兵器がノコノコ歩いたりはしなかりしよ』 ヒュンッ

初春「幽霊!?……いえ、ホログラム――きゃっ!?」 グッ

コロンゾン『はいはい握手握手。質量を持ちたる存在なのよな』

上条「お前、まだ聞くって了解取ってねぇのに」

コロンゾン『ここで逃げたりしヘタレはいなかりたるのよ。たかだか13・4の小娘が受け止めて、それ以上が尻尾を巻いて逃げるような、なぁ?』

半蔵「ぶっちゃけ逃げたいです……ッ!」

廓「右に同じっす……!」

駒場「……驚いたが……その女性は一体?」

上条「彼女はコロンゾン。俺が召喚している悪魔、みたいなもんだな。憑いているとも言うが」

コロンゾン『コンゴトモ、ユロシク』

佐天「クラシカルタイプだっ……!」

上条「バニー服を着ているが、まぁ気にしないでくれ。俺の趣味だ!」

コロンゾン『いつの間に衣装変えを!?そういや言ってたなさっき!?』

浜面「大将……?あんたが俺の大将だったのか!?」

初春「意味が分からないです。変な所で意気投合しないでください、あと着替えてください目の毒です」

コロンゾン『あぁ、ごめん?なさい?』 ヒュンッ

上条「んでは改めて。まずは……そうだな。科学がどこから来たか分かるか?」

浜面「どこって……特に移動するようなもんじゃなくね?」

初春「出題者の意図は違うかと。それ、何か関係するんですか?」

上条「かなーり遠回りの説明の仕方をする。でもそれが最短距離だと思ってくれ。どっちみち後から色々補足するぐらいだったら、順を追った方が手っ取り早い」

佐天「はいっ!錬金術が発祥だと言われています!」

上条「多分正解。つーか俺も詳しくは知らん!」

初春「おい」

上条「大切なのは現代で科学と呼ばれているものの中には、魔術とか魔法とか呼ばれているものがベースになっているものがある、って事だわな」

駒場「……にわかには……信じがたい話だが……」

上条「そう難しく考えなくていい。民間療法で使っていた薬草の中から、鎮静剤や鎮痛剤の成分が抽出されるような感じ?」

初春「0からスタートさせるよりも、既にあるものを検証・構築した方が早かったと。理には叶っていますけど……」

上条「んで君らが使ってる超能力、そのルーツも魔術”っぽい”ところから来ている」

浜面「えぇ!?ウッソだぁ!そんなもんある筈がねぇって!」

上条「『火』」 ボウッ

浜面「室内で炎使うなよ!?つーかあんたも能力者か!?」

上条「『土』」 ドサッ

浜面「……へ?」

初春「元素変換!?そんな能力者あり得るはずが――!」

上条「『水』、『風』、『金』」 パシャンッ、ヒュウンッ、キキィンッ

駒場「……金……!?何もないところから、金を……!?」

上条「卑金属を金にするのだったら、まぁある程度の術士だったら誰でもできる。触媒が超お高いから買った方が早いのが難点だが」

コロンゾン『少年少女に嘘は悪しかりしよな。上位であればともかく、並の魔術師では不可能よ』

浜面「よ、よく分かんねぇけどマジック的な能力者とかじゃねぇの……?」

佐天「これあたしが触っても大丈夫なやつですか?」

上条「左手で持てば平気。別に解かしてくれても構わないか」.

半蔵・廓「……」

上条「そっちの二人は知ってるって顔だよな?」

半蔵「……それなりには、まぁ。ただウチの一族にはいない」

初春「能力……あなたが仰るところの『魔術』を使えるのは分かりました。そこは認めます、認めますが」

上条「うんまぁその理解でいいと思うよ。学園都市だけが異能開発をしてるんじゃなくて、他の国にももっと昔からやってた連中がいて、俺はその中の一人になる」

初春「隠匿していたのは、そっちの方が利益になると思ったから、でしょうか?」

上条「それも当然ある。けど『実は隣人が魔術を使えるかも!』なんて言っちまったら、その翌日には虐殺が起きてるわな」

佐天「あー、魔女狩り的なやつ」

上条「特定の利益を守りつつ、かつ人種的な配慮もした形になる。ただ日本だってそうだからな?土御門家が魔術師の太祖としてブイブイ言わせてたし」

浜面「まさかのオンミョージ実在説……!」

上条「で、ここまで言えば分かると思うが、君らが『異能』。それが魔術そのものだとは言わない、つーか俺も知らない。聞いても教えてくれなかったし、多分従兄弟ぐらいの立ち位置なんだろうけど」

駒場「……聞いた……?」

上条「学園都市を作って異能開発を半世紀以上続けている張本人、具体的にはここの統括理事長のアレイスター=クロウリーだな」

浜面「スター……?」

廓「またビッグネームですねぇ。ちょっとしたソシャゲーには出て来がちな」

半蔵「俺でも知ってるわ。フィクションものではよく聞く名前だ」

上条「信じるか信じないかはあなた次第です……ッ!」

初春「はいそこネタに走らない……私もどう処理していいのか分かりません。嘘だ、と切って捨てたい所ではあるんですが……」

佐天「21世紀になるまで登場しなかった超能力より、魔術の延長線上にありましたー、っていう方がしっくり来るよねぇ」

上条「お?意外にあっさり信じてもらえた?」

コロンゾン『使う方も常々疑問であったのであろうよ。奇怪な数式を並べられるよりは得心もいく』

駒場「……しかしその、アレイスターという人物は何を考えて、異能を開発しようと……?」

上条「そこに関してはプライベートな事なので俺の口からはちょっと。ただ人助けが動機なのは保証する」

初春「個人的な見解ですけど、悪いことではないかと思いますよ。結果的に科学技術も向上して万人の役に立っていますから」

上条「同感だな。技術は使う人間次第であって善悪とはそれほど関係ない。実際にアレイスターはフィクションでよくあるような非人道的な研究は許さなかった。取り締まってはいた」

佐天「うわぁ……過去形ですなぁ」

上条「そのアレイスターが突然失踪した。数ヶ月前の話だ」

初春「思っていたよりもスケールが大きくてビックリですけども。もう一つだけ聞かせてください。多分皆さんも同じ疑問をお持ちの筈でしょうし」

上条「一つと言わずに何個でも」

浜面「そんなに事情通のあんたは一体どこのどなたさんで?陰謀論騙るようなお花畑のようなお気軽さで語ってくれたソースは何だ?」

上条「俺はトマス=メイザース。アレイスターが所属してた魔術結社『黄金夜明』の創設者の息子で、かれこれ80年ぐらい付き合いのある魔術師だよ」

駒場「……失礼ながら信憑性が……大分遠のいたというか……」

上条「そう言われてもな−。カンタベリー行くとかバッキンガム行くんだったらある程度は融通効かせられるんだけど、日本じゃあなぁ」

半蔵「……俺から補足する。多分本物、もしくは本物に近い所に居る人なのは間違いない」

浜面「半蔵?なんでお前がそんなゆこと保証出来るんだよ?」

半蔵「あーっと……隠してんたんだが、俺と廓は現代に生きるニンジャっぽいことをしてる一族なんだわ。スパイ的な生業してて」

廓「今は完全に押され気味っすけどねぇ。学園都市の技術を取り込めないかって話っす」

半蔵「だからまぁ、魔術とか魔術師とかも前から知ってはいた。んでそこのメイザース……さん、も、顔と名前ぐらいは」

駒場「……どういう……?」

廓「えっといいっすか?言っちゃっても?」

上条「君らがどんな噂を聞いてるかまでは知らねぇし許可しない権利もないわ」

駒場「世界最悪の魔術結社、イギリス清教のトップ」

上条「超心外!?そんな風に言われてんの俺ら!?」

廓「余所との抗争で勝率100%を半世紀以上保っていれば、大体そういう感じになるっす」

初春「いえでもそうすると年齢はおいくつに……?」

上条「信用してもらえないだろうが100は越えていますよ!信用はされないだろうがな!」

コロンゾン『不老でも不死でもなかりしよ。その内死する』

駒場「……あなたが学園都市に来た動機、そして成り立ちは理解した。多少信じがたい点もあり、半信半疑ではあるが……」

上条「まぁそりゃそういうもんだよ」

初春「……少なくとも実力に関しては信じてもいいと思います。この人、身体能力強化系レベル4を無力化させた上、レベル5からの攻撃で無傷でしたから……」

浜面「人間か」

上条「俺もしらんわ。そこんところどうなの?」

コロンゾン『只人とは言えまいよなぁ』

駒場「……しかし、分からない点がある……統括理事長とやらが姿を消し、それが一体どういう影響があると……?」

上条「今まで押さえつけてた縛りがなくなったんだ。暴走するに決まってる」

佐天「科学の街なのにですか?科学者ってイメージ的に理知的な感じがしますけど」

上条「『素晴らしい兵器が完成した!あーでも戦争って起きてないよなー――よし!じゃあ起して実戦で試してみようか!』」

浜面「ネタじゃねぇんだよ。何?そんなしょーもない動機で戦争って起きんの!?」

上条「今のは流石に冗談だけども。それぞれ、思い当たる点はありそうだよな?裏と表で能力使った犯罪が増えてる感じで」

初春「誰かが仕組んだ事である、と?」

上条「無責任な言い方だが……科学の発展で強い兵器が生まれた。非人道的な兵器が造られた。それは……まぁ口を挟むつもりはない」

上条「人類が自分達で選択した上で築いた方向性だ。思うところは別にしても」

上条「だがしかし――その発展のために、叔父貴や叔父貴が集めた子供たちが『消費』されるってのはダメだ」

上条「俺の我が侭聞いてくれて、一分一秒でも実現したかった夢があるのに、遠回りさせた叔父貴に対して面目が立たない」

初春「生徒が消費される、というのはどういう意味……まぁ大体想像はつきますけどね」

上条「研究室でモルモットへ対してやってんのと同じになる、と思う。過度なストレス与えたり、競わせて生き残らせたり」

上条「そこには善意も悪意もなく、ただ『科学の発展』のためにやりかねない連中がいる訳だ」

佐天「……本末転倒ですよね。みんなが幸せになるために技術があるのに」

上条「アレイスター云々は別にして、学園都市がどうなるかは俺の想像でしかない。表も裏も平穏なまま、問題らしい問題も起きないまま推移する可能性も充分にある」

コロンゾン(この嘘吐きめ。『幻想殺し』がそこにあるのに?)

上条(……浜面達には降りる選択肢があるって事だよ。少なくとも当事者じゃない、アウトロー側から力を借りられればとは思うが)

上条「……正直、あのアホの性格だと『ウッソでーす!死んだと思った?残念、ドッキリでしたー!』って可能性すらもそこそこあんだよな……!」

初春「愉快なおじさんですよね。是非グーパンチでツッコんで上げてください」

半蔵「リーダー」

駒場「……あぁ……メイザース氏、残念ながらそうはならない……」

上条「トーマでいいよ。んで何が?」

駒場「……事件はもう起きている――『無能力者狩り』という形で――!」


-続-

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