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Clock(trial)

本当にあったとある話・夏の特別短編 〜呪詛〜

 
※このお話はフィクションであり、登場人物等をいつものメンバーにしています
※しかしながら大筋においては私が聞いた”実話”です
※色々な意味でガチ話が苦手な方はご遠慮下さい

――――

海原「――やぁ、こんにちは。最近『海原(皮)』と二重の意味でイジられる海原です。短い間ですが、よろしく」

海原「これは自分の友達の友達から聞いた話です。まぁそういうことにしておいて下さい。この世界には曖昧にしておいた方がいいこと、ありますよね?」

海原「それはあるゼミ生、某学術機関で勉学を積む彼が、学生時代に経験したお話です」

海原「皆さんはフォークロア、一般的には民俗学ですという学問のジャンルをご存じでしょうか?古い神話や伝承を収集して分析し、類型があればそこへはめ込む学問です」

海原「今では文化人類学の一ジャンルへと落ち着いていますが、まぁ、いいでしょう。本題とは外れますからね」

海原「ともあれ基本的にはフィールドワーク、つまり外へ出て地方へ赴き、その土地その土地の伝承を伺うことが多いんですよ」

海原「個人が趣味で書いた郷土学の本などは、地元の図書館へ寄贈したり役場に飾ってあったりするので、そういうのも含めて参考にします」

海原「ただその、中にはキワモノが混ざっていたり……個人が勝手に勝手な解釈をして文化を貶めるという行為がですね、そこそこありまして」

海原「例えばどこそこの集落では蛇神信仰があり、人身御供を捧げていた、なんてフィクションはよく聞きますよね?フィクションだからユルされるのですが……」

海原「しかし現実に○○県○○市○○町の字○○では、などと具体的に名前を出したら評判が地に落ちます」

海原「あぁいや事実かどうかは関係ないんですよ?都市伝説と多少性質が似通っていまして、面白かったら拡散されがちなんです」

海原「しかもタチが悪いのは(※ただし個人の見解です)とつくような……まぁ妄想が9割以上だったりするのが」

海原「そういう”被害”がない訳ではなく……なので普通は何年も時間をかけて調査をし、現地の方と研究者の間で信頼関係を作った上で、というのが普通になります」

海原「ですのでそういうゼミは主催する教授が長年信頼関係を続けている地方があり、新人が入るとご挨拶を兼ねてというのもよくある話」

海原「……逆に、です。縁も縁もない地域へ行って調査するのは非常に困難を極めます」

海原「郷土の先人達、地元の研究者の方がいればお話を聞けるのですが……まぁ、大抵嫌がります。縄張り意識ではないですが、それ近いものがあります」

海原「ですのでそういう場合もただ通うしかありません。少しずつ年月をかけて信頼関係を得ていくと」

海原「……そのゼミ生もそんな感じです。先輩に言われてやってきたものの、地元の人間には殆ど相手にされず、まぁ帰ろうかと駅で電車を待っていました」

海原「疲れてきたのか、それとも成果らしい成果がなかったのを気に病んでいたのか。Aさんは俯いたままでした」

海原「『Aさん』――ゼミ生の名前を呼ぶ声がします。おや?とAさんは顔を上げます」

海原「『あぁ良かった!まだ電車来てなかったんですね!』と少女は言いました」

海原「『確かあなたは……』とAさんは首を傾げました。彼女はつい一時間ほど前まで話を聞きに行っていた旧家の方でした」

海原「もっとも、応対をした、というかすげなく断っていたのは彼女の祖母であり、お茶を運んで来た際に会釈したぐらいで会話すらしなかったのですが」

海原「『どうかされたんですか?自分が何か忘れ物でも?』とAさんは聞きます。しかし少女は首を振ります」

海原「『あ、いえ、そういうんじゃないんですけど……その、ごめんなさい!おばあちゃんが失礼な態度を取っちゃって!』。そう謝ってきたのです」

海原「これも仕方がないことなんですが、まぁ突然行って話を聞かせてほしいと頼んだり、こちらの都合で時間を取らせてしまっている面もあります」

海原「訳の分からない余所者がウロウロする。時には心ない言葉を浴びせられることもありますし、まともに話を聞いてくれないこともあります」

海原「むしろ時間を取ってくれた先方には非常に感謝をしてる――そう伝えると彼女は心の底から安堵した”ように”顔をほころばせました」

海原「その後は……何がきっかけだったのかはよく覚えていません。自分が切り出したのか、彼女からせがまれたのか、都会の話をしていました」

海原「自分が住んでいたのは都会といっても片田舎と大差ないような街です。そんな所でもそこから見たら都会に見えると」

海原「同期と飲みにいったり、勉強が大変だったり、そんなくだらない話に一喜一憂してくれる彼女。好感を覚えなかったといえば嘘になります」

海原「電車を待つだけの憂鬱な時間は、そこそこ有意義な時間へと変わり、そして終わりが来ます」

海原「電車が来るとのアナウンスが入るとAさんは慌ててバッグを持ち、少女に別れを――なんと言おうか迷いました」

海原「今回は大した成果がなく、現地での感触も良くはなかった。このまま調査を打ちきられる場合もあるし、自分がまた任されるとも限らない」

海原「以上の様々な事情を鑑みて『さようなら』なのか、『それじゃまた』なのか。そのどちらが正しいのかと」

海原「まぁ適当にどちらでも良かったんですがね。またと言って今生の別れになるのも珍しくないですし、その逆もまた同じように」

海原「赤の他人、今日初めて会話をしたばかり相手へ告げるんですから社交辞令でも良かったのに。何故か適当にあしらうのは嫌だったそうです」

海原「Aさんが一瞬迷ったのをどう思ったのでしょうか。少女はAさんへ向ってまた頭を下げました」

海原「『おばあちゃんが失礼やっちゃったから、もう来ないんですか?本当にすいません!』」

海原「『そんなことはない、ただ成果が何もないからどうなるかは分からない』とAさんは正直に告げました。そんな必要など全く無かったのに、ね?」

海原「すると彼女は暫し考えたフリをし、ポンと手を叩いてこう提案してきたのです」

海原「『昔の……何かのお話が知りたいんですよね?だったらあたしの方で調べておきましょうか?』」

海原「Aさんに取っては願ったり叶ったりの話です。地元の人間が協力してくれるのであれば、これ以上ない成果になります」

海原「勿論その場合は直接コンタクトを取ったのは自分である以上、彼女にまた会えるという下心も多分にありはしましたが」

海原「ですが直ぐには頷かなかったそうです。彼女の祖母からは割りと厳しい対応をされていたので、下手に頼んでしまってはマズいのではないかと」

海原「都会の人間はみんな詐欺師、というかまぁそういうアホもそこそこの頻度でいる以上、安易な行動は良くないと」

海原「そう彼女へ告げると笑って否定されました」

海原「『あぁ大丈夫ですよ、おばあちゃんってあたしには甘いし。なんだったらあたしの方でもおばあちゃんに聞いててみますから!』」

海原「そんなに軽い話なのだろうか?そうAさんが考える前に」

海原「『あーでも急に来られたら困りますし、次からは連絡頂けません?できればいいですし、急だったらしょうがないですけどね』」

海原「Aさんはまぁそのぐらいならいいか、と彼女と連絡先を交換してホームへ降りました。背後から聞こえた言葉が喜びのものであると疑いもせずに」

少女『――約束、ですよ?』

海原「まぁそんなこんなで調査の方も成果なしの割りには悪くない。むしろ協力してくれる人間を見つけてプラスになるだろう。そうAさんは肩を落さずに学校へと帰りました」

海原「アパートへ帰って一眠りしてから顔を出そう――普段であればそう判断したのですが、『必ず直で来い』と事前に言いつけられていました」

海原「大した報告もないのだから電話で済ませばいいのに、そう思いながらも言いつけ通りに研究室へ向ったそうです」

……

Aさん『――お連れ様ですー。ただいま戻りましたー』

助教『お疲れさまです。どうでしたか?現地調査は』

Aさん『はぁ、なんか話を聞くにも○○集落では全然でした』

助教『まぁそうでしょうね。一朝一夕で信頼関係は得られません」 

Aさん『あ、でも若い子で一人だけ話聞いてくれた子がいました。何でも将来都会へ行きたいとかって』

助教『どんな女性でした?』

Aさん『えぇと――ってあれ?性別言いましたっけ?』

助教『……荷物をテーブルの上へ出してください』

Aさん『荷物?急になんですか』

助教『いいから早く!理由は後で話しますから!』

Aさん『あっはい……つってもお土産以外だったらノートと着替えぐらいしか入ってな――』

Aさん『――うん?なんだこれ、お守り……?』

助教『――教授っ、教授!見てください、これを!』

教授『どうしましたか、ってあぁこれ!呪物(まじもの)ですか!これはまた中々の!』

助教『彼が、彼のバッグへ入れられてたものです』

教授『あぁそうですか、踏んじゃいましたか。多分写真撮っちゃったか入っちゃいけないところへ入っちゃったんですねー』

Aさん『あ、あのマジモノって……呪われた、んですか?俺が?』

教授『残ってたんですねー。墓場の土と咎人の血で作られた本格的なものですよー』

助教『見てください、ここ。何かの文様が』

教授『あぁ楔模様ですね、鈎(こう)形ですねぇ。弾除けの祈願でもあったのでしょうか?』

Aさん『で、でも先生!あの子は俺に言ったんです!「みんな――」』

助教『「みんな若い衆は年寄り衆に不満を持って何とかしたいと思っている」、ですよね?テンプレートですよ』

教授『そうやって胸襟を開かせるんですよー。いやぁ、いい勉強になりましたねー』

Aさん『あの……俺、大丈夫、ですよねぇ!?死んだりしませんよねぇ!?』

教授『何を言ってるんですか。呪いだなんて、そんな』

助教『そうですよ。教授の仰る通りです』

Aさん『で、ですねぇ!呪いなんか、ねぇ……?』

教授『――自分の身をもって効果を確かめるまでが学問じゃないですか!』

助教『そうですよ!教授の仰る通りです!』

Aさん『やだこの人たち頭おかしい』

……

海原「まぁ、どういう話かといえば単位欲しさに連れられたアホが地雷を踏んだ、という話なのですが」

海原「真に怖かったのは誰かが誰を呪うのではなく、それすらも『やったねラッキー!サンプルが増えるよ!』と喜ぶアホどもだったと……!!!」

上条「いいのかこれ?映画だったらこのあと数々の心霊現象が起きて、呪いを解くためにまた現地へ向うってパターンだぞ?」

海原「現時点で関係者全員存命かつピンピンしていると付け加えておきます。若干一名人間不信に陥っていますが」

海原「……あぁそういえばAさんが最近頭髪が薄くなりつつあり、『こ、これは呪いじゃ……!?』と」

上条「遺伝だよ。ただの加齢による生理現象だよ」


-終-
(※先輩から聞いた話)
(※一般人<<人の業<<呪い<<アホの所業)

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