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Clock(trial)

本当にあったとある話・夏の特別編 〜○○号室〜

 
※このお話はフィクションであり、登場人物等をいつものメンバーにしています
※しかしながら大筋においては私が体験した”実話”です
※色々な意味でガチ話が苦手な方はご遠慮下さい



――プロローグ

上条「あれは――ある夏の話だった。その夏はとても暑かったんだ」

上条「高校生活二番目の夏。来年は受験勉強もしなくちゃいけないから、自由に遊べるのは今年いっぱい」

上条「だから友達から誘われた泊まり込みのバイトを断る選択肢はなかった」

上条「……ただ、今にしては思う。あれって何かの予感じゃなかったのかと」

上条「誘いの電話をかけてくる友人の声が妙に固く、緊張したものだったのはどうしてか」

上条「バスも走っていない田舎道で、気さくなタクシーの運転手が行き先を告げると突如として無口になったのか」

上条「あのとき、そう、あのとき気づいてさえいれば。この後に起きる不幸は避けられたに違いない」

上条「――まぁ、全てを知ったのは何もかもが終わった後だったが」



――某地方のホテル

上条「すいませーん、ごめんくださーい」

仲居さん「はい、いらっしゃいませー。ご予約なさっていたヌ=ゲーレ=ヌベンベ様ですね、お待ちしておりましたー」

上条「ありましたか?純粋な日本人顔の俺からアフリカ要素はどこにありましたか?」

仲居さん「失礼いたしましたー。予約もしない素泊まりで心付けなんか絶対にしないお客様ですね!」

上条「おい責任者出て来い!従業員のシツケがなってねぇぞ!」

仲居さん「女将は母でございまして、引退即あたしが総責任者になる手はずとなっておりますが何か!」

上条「なんて普通の世襲制」

土御門「カミやん話が進まないんだにゃー。俺と替わるんだぜぃ」

上条「俺頑張った方だよ。だって俺じゃなかったらもっと面倒になるだろ」

青ピ「――1万と二千年前から愛してました……ッ!!!」

上条「ほーらこんな感じで」

土御門「到着早々年季の入ったボケとツッコミ披露されるよりは、まぁ、だぜぃ」

仲居さん「あ、すいません。あたしに手を出すと入り婿決定でネットもケータイの電波も通じないクソ田舎に永住決定ですけど、それでもいいんですか?」

青ピ「た、たまに若い子ぉが泊まりにくるんやったら!」

上条「そういう邪悪な施設じゃねぇよ。てかホテル授業員が客口説いたら普通に拡散されて自主的に営業停止だろ」

仲居さん「まぁそういうアホなバイトが例年何人かいますけど、そういうことにならないように毎年選りすぐりの方を採用してます」

土御門「任せろ!人選は俺が知る限り100%間違いが無いぜぃ!」

上条「うん、で具体的には?」

仲居さん「性的な意味で奥手のDTをですね」

上条「ふざけろこのアマ。強くは否定しないけども、なんかそれアレだな!強くはしないけどもだ!」

仲居さん「はーい、分かりましたんでこっちへどうぞー。従業員用の通路があるんでそちらへ」

上条「つかみにしても雑すぎる。もっとビジネスライクにしてほしいもんだがな!」



――宛がわれた部屋

仲居さん「――では、ここを三人で使ってくださいね。備え付けの冷蔵庫もお風呂もご自由にどうぞ」

仲居さん「絶対NGなのは休憩時間もお仕事が終わった後でも皆さんはここの従業員です。お客様を不愉快に思われるような行動はしないことです」

仲居さん「皆さんこちらへは休養や休暇のため、日々の日常からかけ離れた生活を楽しむためにいらっしゃっています。そこを邪魔しないように」

上条「つまり、何がダメなんですか?」

仲居さん「お客様が使うような施設で遊んだりはしない、ですね。具体的には露天風呂や遊興室、ラウンジで飲んだりはできないものと思ってください」

上条「仕事終わった後もダメなんですか?」

仲居さん「んー?絶対にとは言いませんけど、静かな旅館を選んだのに皆さんが大騒ぎしてるのを見て、どう思われるかを考えてほしいですね」

青ピ「ちょっと残念やね。折角来たんだから露天風呂にはちょい入りたかったんたやけど」

仲居さん「仕事が慣れてきたら『特別頑張ったご褒美です?』と最大限恩に着せるような言い方で、清掃前の深夜の温泉に入れる予定ですから。それまでは我慢してくださいね?」

上条「その前置きいるかな?君が言ってくれやがったおかけで有り難み皆無なんだけど」

仲居さん「いいえ、母は常々私へ薫陶を――」

仲居さん「――『男なんてのは適当にカツいで誉めてやれば機嫌良く働いてくれるのよ』、と」

上条「まぁな!ヤローなんてそんな生き物だけども!」

仲居さん「なおエロ的な意味で犯罪行為へ走った場合、警察には届けずに――」

仲居さん「……」

仲居さん「――あ、すいません。これ言っちゃダメなヤツでした忘れてください」

上条「何が起きるんだ……!?まぁ碌な事にはならないだろうけど!」

土御門「いいかい、カミやん?この町の名物は綺麗な桜並木だって話だぜぃ?」

上条「嘘だ!騙されないぞ!桜の木の下になんか埋めたら養分過多で木が枯れるって誰かが言ってた!」

青ピ「てかそんなんで綺麗になるんだったら園芸マニアは手を汚すっちゅー話が。ナメんなや!」

上条「業が深いな園芸マニア。福一の事故で『アレな花が咲く』ってデマが流れたとき、『もしそんなので改良できるんだったら全世界の園芸人が集結する』ってマジレスされたんだ!」

土御門「それはそれで存在意義に疑問を持ってほしいにゃー」

仲居さん「あとは担当の人間の指示に従ってくれれば。難しいことは何もないと思います、大抵力仕事ですので」

仲居さん「では1時間ぐらい経ったらさっきの従業員用出入り口まで来てください。お渡しした作業衣を着るのを忘れないように。ではお疲れ様です」

上条・土御門・青ピ「おつかれさまでーす」

青ピ「――よーし探険しようや!新たなフラグがボクらを待ってるで!」

上条「説明聞いてたか?『それすんなよ?絶対にすんなよ?』って念押されたの聞いたたか?」

青ピ「いやでも露天風呂で『きゃーいやー』フラグはバッチリ」

土御門「犯罪だぜぃ。夢は漢(男)としてロマンがあると認めざるを得ないけど、現実にやっちまったらおまわりさん案件だにゃ−」

土御門「お前だってバイト行ったら前科一犯もらって帰ってくるとか嫌だろ、な?」

青ピ「……」

上条「どうした。珍しく土御門が正論言ってんだから素直に言う事聞いとけ」

青ピ「いや、学園都市の外って人殴っただけで逮捕されるってホンマなんかな、って思って」

上条「お前何言ってんだよ。至近距離から超電磁砲撃たれても問題にならないんだぜ?殴っただけだったら口頭注意だろ」

土御門「二人とも目を覚ますんだ!俺たちの生きてる世界はもっと色んな意味で厳しい!」

上条「つーか土御門。お前の紹介とギャラにつられてノコノコついてきたんだが、今更ながら質問がある」

土御門「ホンットー二今更だにゃー」

上条「ここって旅館か?外側キレイに和風になってっけど、何階か建てのホテルに見える」

土御門「合ってるぜぃ。元はホテルだったんのを改装して旅館にって話ですたい」

青ピ「これは――凄惨な事件の残り香が……ッ!!!?」

上条「無理だろ。今どこだってどこにいたってネットでググレば情報出てくるんだから」

土御門「そしてマジ何もないにゃー。つーか折角バイトさする先に因縁とかシリアルキラーの話を持ち込むほどマゾい趣味してないぜぃ」

青ピ「ちゅーか言っちゃなんやけど思ったよりかいい部屋やんな。もっとこう倉庫みたいな部屋で四・五人詰め込まれるんと思いましたわ」

上条「ちっと畳の色が古いかな、ぐらいか。普通に客室だよな」

青ピ「ってことは――やはり!」

上条「おいおい勘弁してくれよ。今から寝泊まりするんだから不安を煽るような真似すんなっつーの」

青ピ「カミやんはしませんの?こうビジネスホテル泊まったら飾ってある額縁の裏見たり、ベッドの下めくったり」

上条「多分そこまではしねぇよ。つーかそこまでしてなんか収穫はあったんか?」

青ピ「いんや別に何も。ちゅーか霊体験もまだやしね、だからほら、ここに飾ってある額縁をめくっても何も――」 ペラッ

【謎の御札】

上条・青ピ「……」

青ピ「――ちゅー具合に、な?なんもないやろ?」

上条「スルーできねぇよ!?なんでこれ貼ってあんのか超気になるわ!?」

上条「つーかお前ふざけんなよ!これから暮らす部屋に地雷置いてあるの分かったら嫌だろうが!?」

土御門「や、その理屈はおかしいぜぃ。地雷が埋まってんだったら知ってた方が対処できるんだにゃー」

上条「そうだ!ここに専門家が!頼むぜ名前だけ陰陽師!」

青ピ「せやんもね!土御門クゥンがいてくれればこんな問題解決やね!」

土御門「ロハで仕事はしないんだにゃー――が、まぁ安心するんだぜぃ。これ別に悪霊退散とか怨霊系に使う霊符じゃないぜぃ」

青ピ「そ、そやかて貼ってあるっちゅーことはなんかあるってことちゃうますのん!?」

土御門「これは○○を祓うって意味があって、物理的に昔から○○○○って○○れた○○が家に入ってこないようにって」
(※具体的には書けません)

土御門「○の方では廃れたんだけど、○の方じゃ今も根深い○○と共に残ってる○○も多いんたぜぃ?」
(※具体的には書けません)

土御門「まぁそれも○○かと言われれば、実際に○○や○○って被害を受けてる人たちもいるわけで。全く○○のない○って訳でもなく」
(※具体的には書けません)

青ピ「……なぁ、カミやんさん」

上条「……なんすか青ピさん」

青ピ「これ、ツッチーの台詞にピー音入ってるっちゅー意味は……?」

上条「ちょっと何言ってるのか分からないな!ただ俺は土御門の話が専門的すぎて何一つ頭へ入ってこないってだけで!」

青ピ「いやでも、これ」

上条「細かいことは良いんだよ!『流石は土御門、物知りだね!』って言っておけば俺たちは関わらずに済むんだから!」

土御門「お化けや妖怪よりも生きてる人間の方が怖いって話だな、要は」

上条「いやー、良かったわー。なんかよく分からないけど、害はないって分かってー」

青ピ「そやんね!なんかよく分からないけど、ボクらには預かり知らぬ以上問題は発生しないよってことやね!」

土御門「いわく付きじゃないってのは俺が保証するけど、それにしちゃいい部屋なんだよな。俺だったらバイトよりも客を泊まらせる」

上条「人数の問題じゃね?全室パンパンにしてたら人手が足りないからって」

青ピ「そんだけ回転率が高かったら、別に従業員宿舎とか建てそうなもんやけどね――あ、そろそろ行かんと」

上条「あ、ヤベ急いで着替えなきゃ」



――某旅館 喫煙所(と書かれた看板が立ってある更地)

上条「――って話をしたんだけど。マジなところどうなの?」

仲居さん「うん。でもまず、疑問に持ってほしいんだよ。根本的な所から」

仲居さん「小学校ぐらいに家を新築して、君がお友達を遊びに呼んだとするね」

仲居さん「そしてらそのお友達が『この家――出るの?』って聞いてきたらどうする?」

上条「アイアンクローで顔面掴んで数十年ローン組んだ父さんに謝らせる」

仲居さん「オッケわかった顔出せ、顔。両親に対面させてやっから」

上条「すいませんでしたねっ!デリカシーの欠片もなくてね!」

上条「つーかご両親も驚くんじゃないんですかね!娘さんがバイトの顔掴んで引き摺り回してきたらね!」

仲居さん「両親に会わせてって――何言うつもりですか、もうっ!」

上条「多分『オタクの娘さんの教育どうなってんですか助けて下さい』って言うと思うな。アイアンクローされたまま連行されたらばだ」

仲居さん「いやぁウチの母親なら『もっとやれ』って言うと思うなぁ」

上条「人様の家を心霊スポット扱いしたのは謝りますから右手をコキコキ鳴らすのはやめてください!」

仲居さん「毎日重労働できたえてますからねー。脚はアスリート、腕は力こぶができるぐらいですが」

上条「いやいいです見せなくて。つーか他の人が見たら超誤解されんだろコラ、しまえしまえ」

仲居さん「てかなんか文句あるんですか。折角清掃前の部屋を用意したってのにバイトさんは」

上条「あぁ俺のツレが言ってたんだけど。こういう旅館のバイトってさ、もう少しボロい所に泊まらされるのかと思ってたって」

上条「バイト泊めるんだったら客入れた方が利益率高くね?みたいなことをだな」

仲居さん「はっ、これだから素人はダメなんですよ!この素人が!」

上条「だからバイトで来てんだよ。プロだったら経営する側になってんだろ、多分」

仲居さん「まぁ、学生さんに言えば減価償却?」

上条「どう見てもタメにしか見えない子からそう言われるのは心外だが、減価償却費?えっと、工場とか設備とかを企業が投資して、年々価値が下がってくって話だっけ?」

仲居さん「そう、多分それ。部屋も使ってれば少しずつヘタっていくんです」

上条「……そんなにタチ悪い客来んの?」

仲居さん「目に見えてヘタってくのが畳と壁紙。陽に焼かれて変色した畳の、壁が黄色になった部屋に泊まりたいと思います?」

上条「あぁそういうのか。中にはヘビースモーカーのオッサンとかもいそうだよな」

仲居さん「業者――ウチは昔から付き合いのある畳屋さんだけど、その人だって全部一片に取り替えようとしたら、数週間は休まなきゃいけないし」

仲居さん「だから、そうですねー……全体の一割前後ぐらいの部屋は修繕とか、修繕待ちにしてローテーションを組んで、お客様を泊めないようにしてますかね」

上条「その部屋をバイト用に宛がったと?」

仲居さん「他の方がお休みになる夏休みと冬休み、ぶっちゃけ人が多いシーズンと少ないシーズンで割合が変りますけどね。余所もこんなもんです」

仲居さん「よくテレビとかで『予約ないんですけど……』って交渉したら、意外と泊まれるじゃないですか?あれってそういうお部屋を使ってんですよね」

仲居さん「修繕前っていっても普通はボロッボロになるかなり前で直しますし」

上条「……分かりやすい説明ありがとう。ツレによく言い聞かせておくわ」

仲居さん「まぁこっそり入ってもバレなきゃ良いんですけどね。何もない部屋でガッカリするだけで」

上条「そっちの期待はしてなかったからいいや。幽霊なんていないしな」

仲居さん「戊辰戦争の戦地でしたらここよりももっと山側です。今でも成仏してないらしく『仙台藩は未(ま)だか……?』との声が聞こえますよ」

仲居さん「あと駅舎の隣は昔旧街道がありまして、そこで働いていた遊女が身を投げた沼が絶交の心霊スポットになっています」

上条「そっちの期待はしてなかったからいいけど!幽霊なんていないしな!なっ!?」

仲居さん「ですがバカにしてもんじゃないんですよ。心霊じゃなくて……実は恋愛でも有名です。縁結びという意味で」

上条「詳しい話を聞かせてもらおうか」 キリッ

仲居さん「あぁそこ遊女ヶ淵っていうんですけど、そこが昼間通っても気持ち悪い感じがすると地元の人間も寄りつかないんですが」

仲居さん「でもそこ『好きな女の子を誘えば恋人になれる』って噂が」

上条「そりゃそんな辺鄙なとこについてるんだったら、一定以上の好感度ないと成立ないですよねコノヤロー」

上条「つーか俺としては女の子そんな変な場所に連れて行くなよ!?怖いんだったら余計に嫌がらせだろ!?」

仲居さん「休憩終わるんで先戻りまーす」

上条「だから聞けよ人の話を!?どう見てもツッコミ待ちだった話にツッコんでんだから!」

仲居さん「――あ、そうそう。言い忘れてたんですが」

上条「な、なに」

仲居さん「――○○号室には絶対に入らないでくださいね?」



――

上条「バイト自体はそう悪くはなかったんだ」

上条「最初の仕事が館内の清掃、客室や浴場なんかがメインで。つーか俺たちはほぼ裏方」

上条「次に団体客が大部屋借り切ってする宴会の配膳なんかして」

上条「合間合間で食べた賄いは……美味い、の一言。量が少し多かったのを除けば」

上条「残念なことに出会いの話はなかったかなぁ。一緒に来た友達は諦め悪く地元のバイトの子とかに声かけてたみたいだけど」

上条「まぁ仕事で来てるんですからね!疎かにするのはいけませんよ!」

上条「んなことはいいんだよ!それよりも俺たちが肉体労働に慣れて、バイト上がった後にも疲れて寝ちまわないぐらいの余裕が出て来た頃」

上条「つい、やっちまったんだ……!」



――宛がわれた部屋

青ピ「――よぉし!カミやん探険しまっせ!」

上条「しねぇよ。いいから寝ろよもう、明日も早いんだから」

青ピ「いやそうは言うかて!これだけフラグ立っとぉのにスルーする手はないですかやんか?」

青ピ「アレだけ『絶対にダメだ?』っちゅーんのは『GO!』と同義ですわ!きっと!」

上条「お前いつもいつもそれで失敗するんだから、少しは反省しやがれ。オールウェイズ押し相撲やってっから女の子もドン引きしてんだよ!」

青ピ「や、ボクはナンパで常に勝負してますし?カミやんと一緒にされても、ねぇ?」

上条「あ、そうなんすか?それじゃ青ピさんの最近の成果ってどうなんすか?」

青ピ「職質が三桁行ったよ!」

上条「ボランティアでやってんだから余計な手間かけさせるなや。いや別にギャラ貰っててもアレだけど」

土御門「まぁまぁカミやん。言わんとするとこは分かってやれよ、なっ?」

上条「無理だよ。だって暴走して迷惑かけるだなんだから」

土御門「急なバイトに一夏の出会いを期待してきてみれば、馬車馬のように働かされて自由時間もなく、このまま終わりそうで危機感を覚えてるんだから」

上条「あれ……?その条件だと俺も入らないか?」

青ピ「どうせやったらネタもほしいんよ!『こんなバイトしましたけど怖かったんよ!』的な!そこそこ怖くてオチがしょーもないやつ希望!」

上条「まぁ……分からないでもないけどさ。どうだ、土御門?」

土御門「って言うと思ったから軽く調べといたぜぃ。歳の近いバイトから年季の入った従業員まで、それとなく」

土御門「若い子は『あったっけ?』的な反応、おばちゃん――もとい、昔お姉さんだった人たちは『そういえばそんなのもあったかも?』だにゃー」

青ピ「思ったよりか……淡泊やんね」

土御門「いや普通の話、怪談話にはバックボーンがあるんだよ。『実は○○年前に不幸な事故が……』って感じの下地があって、だから幽霊が今も、って繋がるんだぜぃ」

土御門「なのにこの旅館、過去に事件事故の類は一切ない。だから従業員の人らの反応もフラットになんだぜぃ」

上条「それもそうか。もし仮に幽霊旅館とか悪い噂があったら、そこで働きたいとは思わないもんな」

青ピ「えー、なんかつまらへんわー」

上条「『人ん家を勝手に心霊スポットにすんな』って怒られたんだぞ、俺は」

青ピ「なにそれズルイ!?きっと甘酸っぱい感じで!?」

上条「アイアンクローされそうになったけどな!」

土御門「まぁでもイベントなくて寂しいって気持ちは分からないでもない、だから一応鍵の場所は調べてある」

上条「いや、俺だって知ってるよ。フロント脇の事務所にかかってるんだろ」

土御門「ふっふっふ、甘いぜカミやん!何故かその鍵が俺のポケットの中に紛れ込んでた!」

上条「――動くなよ?今からちょっと俺は一人で散歩に行ってくるけど、別にチクりに行くとかそういうんじゃないからな?」

土御門「おおっと!なんて友達甲斐のないヤツだぜぃ!」

青ピ「土御門クンの厚意を無駄にしないで!折角だし、なっ?ボクもうワガママ言わへんから!」

上条「……言い訳としては?」

土御門「『間違って持って来ちゃったんだが、どうせだったら返す前に調べてみるじゃんね?』」

上条「これ以上ないぐらい大嘘だって分かるよね」

青ピ「あぁじゃうこうしません?たまたま前を通りかかったら、廊下で女の子が『鍵を無くして入れへんねんや』って言ってたって設定で」

上条「なんで怪談方面へ寄せに行ってんだよ。その女の子の正体は幽霊確定だろ」

土御門「とか言ってる間にも時間は過ぎていくぜぃ。早く返さないと怒られるかも?」

上条「……あーもう、分かったぜ仕方がない!その代わり連帯責任な!何かあっても全員で責任とるかんな!」

青ピ「あ、ただし『実は妖狐(の熟女)が封印されてた』ってならボクね!」

土御門「お前にだけ良い思いはさせないぜぃ!『実は妖狐(の義妹)』が封印されてたら俺が請け負おう!」

上条「なんでそんなのが客間にホイホイ封じられてんだよ。お手軽か」



――○○号室前 廊下

上条「(人影もなし……あ、お前ら大声出すなよ)」

青ピ「(分かっとぉよ。ツッチーどう?)」

土御門「(……開いた――行くぞ)」

上条「(オッケ……あ、しまった。電気付けたら外から侵入したのバレるんじゃね)」

青ピ「(防災用の懐中電灯借りてきたんで心配あらひんよ)」 カチッ

上条「(本当にお前らこういうときには手際がいいのな)」



――○○号室

上条「おぉ……!なんかバイオがハザードしてるのとか、サイレントがヒルしてる雰囲気がある……!」

土御門「これで廃墟だったら楽しいんだけど、これだけだとただの空き巣に近いんだにゃー」

青ピ「まぁ勝手に入ってるさかい、しゃーなしような」

上条「どれどれ押し入れの中は……あ、なんも入ってない」

土御門「どうしてここへ来てカミやんがノリノリなんですたい?まぁ嫌々よりかはいいけどな」

青ピ「こっちのバスルーム……も、何もないね。てっきり『たすけて』ぐらいは書いてあんのかと期待してたのに」

土御門「だから幽霊的な案件じゃねーって旅館の人も言ってたんだにゃー。きっと立て付けかなんか?」

上条「ホテルから改装したって言ってなかったか?だったら別に部屋使わずに遊ばしておく意味が分からんわ」

土御門「つっても床、つーか畳はそんなに古くないよな。定期的に張り替えてはいるみたいだし」

上条「てか部屋の隅に荷物……あぁイスとテーブルか。ちょっとした物置になってるみたいだ」

土御門「じゃあここは『物置代わりに使ってました』――ってのもなんか解せないんだにゃー」

上条「でもここでダベってたら叱られても嫌だし。さっさと戻ろうぜ」

土御門「だな」

上条「青ピも――てかお前、テラスから見てもなんも見えないだろ。あっちは山側だし、光るもんなんか何もないんだからさ」

青ピ「……」

上条「……おい、どうした?大丈夫か?」

青ピ「か、か、カミやん、つち、みかど……」

土御門「顔色が悪い――霊障って訳でもないのに。どうしたんだ!?」

青ピ「あ、あれ……見て、んか……ッ!」

上条(青ピの指さすまま、俺は真っ直ぐに闇を直視していた)

上条(都会とは違い、陽が落ちてしまえば薄墨を広げたような闇が覆い尽くす世界が広がる、その片隅。はっきりと目にしてしまった)

上条(こんな真実ならば知らなければよかったのに!謎は謎のままにしておけばよかった!)

上条(ある意味幻想を抱き続けることすら拒否された俺たちの前に!暴力と言えるような惨たらしい真実は姿を現した!)

上条(そこにあったものとは!俺たちが見てしまったものとは!)

上条「――なんと!その部屋のテラス側からは露天風呂(※ただし男湯)が丸見えになってたんだよ……ッ!!!」
(※実話です)



――エピローグ

上条「……これが、ある夏に起きた呪われた部屋の話だ」

上条「あの後、俺たちのテンションはただ下がりで、三人とも言葉を交わさずに部屋へ帰り、ただ眠った」

上条「一晩過ぎた後、俺たちは誰もその話題を切り出そうとはしなかった。誰もだ、誰一人として」

上条「だからきっと、あの部屋での見たものは夢だったに違いない」

上条「……」

上条「……夜だからね。そして旅館の近くには光源らしい光源なんてなかったからね。見えたわ、超見えたわ

上条「なんかこう……後から聞いたんだけど、前のホテルから改装するときに男湯を広くしたんだって」

上条「そしたら、特定の上の部屋からは見えるようになったって……うん。なんかごめんな」

上条「まぁこれで俺の話は終わりだけど、皆も気をつけてほしい。俺たちの想像を絶するような”何か”はどこにでもあるんだ」

上条「そしてそれは時として牙を剥く。怖ろしいことに無力だ――だが、しかし!」

上条「そんな絶望に打ち克つ術を俺たちはもう知理解しているはずだ!実に簡単なことで避けることができる!だから皆も俺の指示に従ってくれ!」

上条「取り敢えず電撃文○アンケート葉書に『上条さんスピンオフが読みたいです』って書いて送ってくれよな!きっとそうすれば俺に会えるぜ!」

土御門「カミやん超姑息なことしてやがるんだぜぃ。つーか途中から関係ないし」

上条「だから俺はもう嫌なんだよ!10何年もやってて怪談っぽい出だしのネタ話を語る汚れ仕事なんてしたくはないんだ!」


−終−
(※なお、この話を当事者以外に語ったのは初めてです)

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