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Clock(trial)

三者面談 〜『聖人』と『原石』〜

 
――ロンドン某所

円周「え?能力と魔術ってルーツも原理も同じものでしょ?」

シェリー「はいそこ、初っ端から爆弾投下しない」

バードウェイ「いや無理だろクロムウェル。ここまで引っ張っておきながら『実は全然関係ありませんでした』という方がおかしい」

シェリー「そんなメタ的な……まぁ、私もおかしいとは思ってのんよね。”境界”をウロチョロした身としては」

シェリー「あの子――エリスはどうしてダメージを受けたのか。直接的には『騎士派』のクソッタレどもだけどもだ」

シェリー「”魔術と能力が同じ何か”、どっかしらがカブってないとあの反応は起きないのよ」

バードウェイ「キッチンで洗いモノしてるとき、同居人がシャワーを浴びればどっちも水圧は低くなる訳で」

バードウェイ「離れた場所で独立した施設に見えるが、私たちは知っている。同じ水道管を使っているのだから当たり前だ、と」

バードウェイ「――そう、”当たり前”の話なんだよ。知ってる人間からすれば」

円周「レヴィちゃんのトコはそう考えてたの?」

バードウェイ「仮説の一つだがな。というか過去多かったんだぞ?超能力者や解脱者を名乗って稼ぐ三流魔術師が」

シェリー「ある意味ホンモノっちゃあホンモノよね。奇跡を起こしてるのは間違いないんだし」

バードウェイ「ただ当然怖くて加減を知らず、つーかもう目的が手段化してしまった警察さんがいてだな」

円周「まぁ根切りにされるよねぇ。それでもって終わった後には『単純なトリックだったんだ!』って情報操作までがワンセット」

バードウェイ「そういった意味では彼らは勤勉かつ優秀だったわけだが――魔術もここへ来て尖鋭化してるきらいがある」

円周「力を求めた人が暴走するのもセットメニューじゃないの?」

バードウェイ「そう言われると辛いものがあるが、まぁ聞け。写真はないが大昔のとある霊装を記した絵がある」

シェリー「これね」

円周「……霊装?これイギリス王の戴冠式の肖像画じゃないの?」

シェリー「まぁその時に武装したクソどもが出席してたって話なのだけど。で、今の同じ霊装がこっちね」

円周「スーツ着た男の人、だよねぇ。見ためだけだと前の人の方が強そうじゃない?鎧着てるしさ」

バードウェイ「試したわけではないが両者の霊装は同系統であり、専門家からいえばほぼ同じものだそうだ」

シェリー「このペラいスーツも10トントラックの直撃には耐えられるわ。むしろ対物理はオマケで肉体強化がメインだけど」

円周「現代の流行りと昔の流行りは違うよねぇ、って話じゃないのかな?」

バードウェイ「それもあるが、もっと話はややこしい。”合理化”が進んでいる」

シェリー「今までならば100の行程、身を清めてから数日物忌みをして寝食を止め、肉体的にゼロに近づいた状態で儀式をする」

シェリー「そうすれば魔術が発動して干ばつで苦しむ村一帯に雨が降る、って感じだったのよ」

バードウェイ「それがは今はどうだ?霊装で肩代わりさせて供物をコンビニキチンで代用し、儀式も数秒間息を止める程度で済ませる」

バードウェイ「その結果効果範囲は極小に留まるが、ピンポイントで切断するウォーターカッターの出来上がりだ」

シェリー「元々が雨乞いなのに、過大解釈させてよくまぁそこまで引っ張るわよね」

円周「あぁ、そういう。つまり魔術も科学の影響を受けちゃって、下手すれば原形を留めないぐらいに”合理化”された、と?」

シェリー「まぁその気持ちも分かるのよ。銃や車に飛行機、他人を合理的に傷つける方法は世界に溢れていて」

シェリー「”魔術”としてのアドバンテージを生かそうとするんだったら、ギリギリまでシンプルにするのが最適解だぜ」

バードウェイ「私たちは元々が”そっち”だからな。このような変化は望ましい」

円周「よっ!『黄金』の争いに存在感どころか登場させて貰えなかった遺産管理人っ!」

バードウェイ「ぶち殺すぞ?」

シェリー「殺気を出すな違法ロ×ども。やるなら外でしなさい、外で」

円周「――で、それが科学と魔術が同じだって証拠なの?私は平行進化だって解釈した方がいいと思うけどねぇ」

円周「オオカミとフクロオオカミが似ているのも、そういう環境では生物の役割が似通ってくるって収斂進化?」

シェリー「『聖人』――極めて稀に生まれつき魔術を行使できる、天然の才能を持った人間が生まれる」

シェリー「その理由は身体的、もしくは魔術的特徴が『神の子』と類似しているからだ――」

バードウェイ「――と、”魔術側”では解釈しているがね」

円周「私たちの方は能力者――の、中でもある程度力が発現してた人を『原石』って呼んでるね。表には知らせてないけど」

バードウェイ「あの白いのもそうじゃなかったか?軍隊が出るまで収集がつかなかったとか」

円周「まぁ科学サイトは完全に才能だからねぇ。能力に関しては魔術と違って残酷だから」

バードウェイ「魔術に関してはこういう言葉がある――『力なきものが挫折してたどり着くのが魔術だ』と」

バードウェイ「だがこれは逆のことも証明してしまっている。『力”ある”者がおり、その差は歴然としている』ってな」

シェリー「『明け色』はそう解釈してるの?私はてっきり国家とか組織とか、そういった連中と比べてって意味だと思ってたんだけど」

バードウェイ「超エゴイストどもの集まりが”そんなもの”と比べるかね?比較対象とするのはあくまでも個人だよ……話が逸れたな」

バードウェイ「なんであれ、魔術にだって適性や才能は存在するのさ。最も恵まれた才能を持つが『聖人』であり、その他は一緒くたに語られているが」

バードウェイ「努力次第で全てが変る――などと言うつもりはない。恵まれた教育とノウハウのお陰で、私のような12歳にして魔術のトップクラスにいる人間もいる」

円周「と、意味不明の供述をしていますが?」

シェリー「ほぼ事実よ。対集団戦闘特化型の魔術師の髪を掴んで引き摺りまわしてたでしょ?」」

円周「あー、ハワイの空港で無双プしたんだったけ?……当麻お兄ちゃんが攻撃されたからって、過剰反応しなくたっていーじゃんか」

バードウェイ「ウチのメンバーが攻撃されたからだよ!他意はないぞ!」

円周「あ、ずっるーい。”ウチの”に当麻お兄ちゃん入れてるしー」

バードウェイ「だからな?魔術にだって向き不向きはあるんだ!シスター・オルソラに肉体強化しても派手に転んで終わりだろうが!」

シェリー「例えが悪いわよ。あの子は研究者だから」

バードウェイ「生まれ持った才能に着目してよりハイスペックな魔術師同士の婚姻をしていた時期もあったんだよ。私の先祖もやったクチだ」

円周「品種改良みたいだよねぇ。血統書付のって」

バードウェイ「結論から言えば効果はあった。魔術知識に”血”、その両方を兼ね備えた私が言うんだから間違いない――が、しかし」

バードウェイ「同様に、そう同様にだ。恐らく世界屈指の魔術師としてウィリアム=オルウェルこと『右席』のアックアがいる」

シェリー「ソイツは別にどっかの高名な魔術の家系、という訳でも無い。純粋にゼロから学んだ叩き上げだ」

バードウェイ「一応没落した騎士の家系だって話もあるが……」

バードウェイ「『聖人』という”才能”を生かしたのは間違いない――だが、少なくともそれが判明したのは、ヤツが力を失った後だ」

円周「えっとぉ、つまり?」

シェリー「神裂火織は幼少の頃から『聖人』として認められ、それ専門の教育を受けて来たのよ。その結果たった18歳で上から数えた方が早いぐらいの実力者」

シェリー「反対にアックアが『聖人』だと分かったのは随分後、それまでは一介の魔術師として活躍してたって話」

円周「『聖人』としての自覚がなくて、周囲もそれに気づいた教育をしなくても才能は発揮できる、かな?」

バードウェイ「まぁぶっちゃけて言うが、『これが聖人!』といった明確な定義は無いんだよ。今のところな」

シェリー「おいクソガキ」

バードウェイ「事実だろう?どこの教会にも聖人判定機なんてイカレた代物がある訳でもなく、幼くして”力”がある人間を『聖人』”””として”””育てる」

円周「……『原石』と合わせて考えると面白いよねぇ、それ――っていうかさ、うん、うん……ッ!そうだね、こんなとき、木原数多ならこう答えるんだよね……ッ!」

バードウェイ「出たなイタコ芸」

円周「『誰がだよ。つーかもっと早く話に混ぜろクソガキども』」

シェリー「たまに思うんだけど、これ幽霊か何か憑いてる訳じゃないよのね?明らかにこの子が持ってない記憶が思考が見え隠れしてるのに」

円周「『まぁそこはダウンロードしてっからに気にすんなババア。老化が進むぞ』」

シェリー「なんでだよ。もし進んだらノーベル賞取れるわ」

円周「『まぁなんだ。レイヴィニアちゃんとしちゃあそう言いたい訳だ――』」

円周「『聖人も原石も元は同じ”才能を持った人間”であり。魔術と科学、それぞれ拾った側によって”加工”された結果である、ってか?』」

バードウェイ「そうだな。そうとしか思えないところが多々ある」

円周「『俺も白モヤシが魔術側行ったらどんなカスに育つのか興味はあるがね』」

シェリー「疑問があるわ。学園都市には230万人の能力者が居るんでしょう?」

円周「『殆どがカスだがな。団扇か100円ライターがあれば代用できるレベルだ』」

シェリー「その上位にいる子達が『聖人』だってのは分かる気がするのよ。ベクトル操作?未元物質?国家一つ敵に回せる電気能力者とかね」

シェリー「ただ反対に、その一番多いレベル1や0の子達までも『聖人』って括りは、どうも納得いかねぇんだよな」

バードウェイ「ん?いやだから説明しただろう、シェリー=クロムウェル。『魔術にも才能が歴然と存在する』って」

バードウェイ「神裂やアックアのように特異すぎる者もいれば、私のようにそこまで恵まれてはいない者、そして全く才能がないものいる」

バードウェイ「ただ魔術側は誰でも時間と熱意をかければある程度伸びしろがあり、能力と違って努力すれば強くはなれる」

円周「『能力だってそうだよ。水一滴も操作できない能力者が、脳内の微細な水分を操れるようになってレベル5だぜ』」

シェリー「あー、待て待てガキども。なんだ?お前らが言ってんのはこの世界に 『聖人』はいないってことか?」

シェリー「ただ全ての人間が大なり小なり何かの才能を持ってて、それのトップレベルを『聖人』と呼んでるに過ぎない、と?」

バードウェイ「まぁ概ねその通りだな。ただ魔術は学校の勉強と違って、同じくクラスで同じカリキュラムを組んでいるわけじゃない」

バードウェイ「自分で”これ”と決めた魔術以外には目もくれず極めようとする――だから適性がどうのという話ですらない」

円周「『マジカルなアカデミーとかないのか?ほら、サブカルでありがちな』」

バードウェイ「極端な秘密主義者の集まりだからな。強いて言えば『結社』だろうか……あぁ、そういえば」

バードウェイ「ローマ正教が”適性”のある連中を集めて何かをしようって話があったか。詳細は知らんし、どっかのツンツン頭が結実する前に叩き潰したようだが」

円周「『抹殺指令喰らうだろう』」

シェリー「もう喰らってるわ。そして撤回もされたし」

バードウェイ「ある程度の規模の組織は何らかのノウハウがあり、それで適性――というか”才能”を見極める方法を確立している。それは絶対にだ」

バードウェイ「でなければ『右席』のような連中を造り出すことすら難しかったはずだが……まぁ、とにかく」

バードウェイ「魔術と科学、その根本にある人的資源。その価値基準はどちらも同じものではないか、というのが私の仮説だな」

バードウェイ「ご静聴ではなかったが、まぁありがとう」

円周「『興味深い話だったな。じゃあ俺からは返礼も兼ねて冒頭の仮説、”ルーツは同じ”から一歩踏み込もう』」

円周「『てか学園都市の超科学と能力者、その本質は魔術じゃねぇのかよ』」

シェリー「……なに?」

バードウェイ「……」

円周「『科学って名前の新しい神話であり、20世紀に生まれた新参の魔術体系ではないのかって言ってんだよ』」

シェリー「でも、それは」

円周「『おかしいところなんざ一つもねぇよ。十字教だって2000年前は新参だった筈で、現代に新しい魔術が生まれてこないって理屈でもあんのか?あ?』」

バードウェイ「続けろ」

円周「『科学の本質ってのは事象を観察して解釈することだ。だからダークマターは”ない”のにも関わらず、最近はどうにか尻尾を掴もうとしている』」

円周「『――が、逆にだ。ガッチガチの科学者の前で魔術を使った分析しようとしたら、どう思う?今までの物理法則全てから外れた現象を見せられたら?』」

円周「『そいつはこう解釈する根筈だ――この世界には未だ解明できない理があって、それを利用しているんだ、ってな』」

円周「『そして最終的に行き着いた果てが”個別の自分”?自分だけの能力?それっぽい理屈を組み立ててはいるが、なんも分かってないのと同じじゃねぇか』」

円周「『そもそもスタート地点からしておかしい。近代最高の魔術師が宗旨変えしてアインシュタイン以上の科学者になりましたってか?はっ、バカげてるぜ』む」

シェリー「……自分が持ってる技術を全部捨てて、全く別の何かを採用できるかと言えば……難しい、か」

バードウェイ「ヤツは魔術師だ。能力が使える訳でもないのに、能力開発の街のトップだからな」

円周「『俺からすればアレイスターは詐欺師だ。嘘吐きで気取り屋で皮肉屋の小心者』」

円周「『ただそこいらの詐欺師と違うのは大馬鹿野郎ってことだな。そしてクズだ』」

円周「『自分の作った新しい魔術へ”科学”って名前つけて、その信徒である魔術師に”能力者”って呼んでるだけ、ともな』」

円周「『宗教にまで登り詰めた科学信仰、魔術のような効果を見せる異能』」

バードウェイ「宗教からパーツ毎に切り分けて細分化され、能力のように簡易・合理化が進む魔術」

シェリー「どうにも対象的よね……収斂進化って言ったっけ?全然別のものが似たような感じに集約されていくの」

シェリー「最終的には似たような効果とコストなのに、ルーツが魔術か科学ってだけの違いとかになりかねないわよね。それ」

円周「『他にもな。魔術師同士の力場がカチ合って”ドラゴン”を生んだ話ってもある。お前らで言えば”天使”だっけか?』」

円周「『なんかよく分かんねぇ自我がある力場、というかまぁ謎物質。あんなのを科学なんて呼んだらおかしいだろ、普通はな』」

バードウェイ「まぁ、あくまでも仮説だがな。少なくとも、今のところは」

円周「『どうだかね。”俺たち”が出現してんのもそこら辺が関係してると思うが』」

円周「『なんつーか、”そういう集団”ができちまったら自動的に発現する”何か”があるかもって話だ』」

シェリー「それは?」

円周「『科学サイドにだけ”木原”が存在して、そして元が”同じ”だってんなら魔術サイドにも現れたっておかしかねぇんだよ――』」

バードウェイ「例えば、そうだな、例えば――」

バードウェイ・円周「『――”悪魔”とかな』」

上条「――たっだいまー」

バードウェイ「お帰り、外世界から来た悪魔の欠片」

上条「てか外超寒いのな!なんか40度越えの猛暑だったのに秋が早いぜ!なんだロンドン!」

シェリー「夏も短くて殆どが秋と冬なのよね、こっちって」

円周「最近は暑い日も多いけどねぇ。お兄ちゃんも気をつけなきゃメッ、だよ?」

上条「誰が俺一人で買い物行かせたんですかねコノヤロー。てかジャンケンだったら俺が負けるに決まってるだろう!?」

上条「つーかバードウェイ、今俺の事disらなかった?悪魔がどうって?」

バードウェイ「あぁすまない。『悪魔のようなベッドヤクザ』を短縮したらつい」

上条「誰のこと?俺じゃないよね?条例守ってるもんね?」



−終−
(※2019-0901時点での推察でした)

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