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Clock(trial)

胎魔のオラトリオ 偽典 〜戯れに演者の一人として閉じた世界の終った喜劇へ〜


――???

鳴護『――はいっ『ARISAのネットレイディオを聞くじゃんね!』、今週も楽しく放送しちゃいますよー!』

鳴護『寒いですけどリスナーの皆さんは風邪とか引いてませんか?調子が悪いと思ったら無理しないでねっ!』

鳴護『ちなみにこっちは超寒いです。うん、ただただ寒いです』

鳴護『雪はそんなでもなくって、路上の隅に寄せればパンプスでも歩ける感じでしょうか?あ、でもヒール履く猛者もいます』

鳴護『なんかもうね、上ハーフコートでタイトなパンツスーツ着てて「それ寒くない?」なのに平然として歩いてる。地元は違うのかなぁ』

鳴護『しかも今年は寒波が来るのが遅くて、いつもならデンマークに渡り鳥さんがあまり来なかったそうです』

鳴護『てかねー……無理矢理――もとい、語学留学に来てからもう三ヶ月ですね、早いですよ』

鳴護『ライブの関係でですね、商業ビザしか持ってなかった私ですが、留学用のショートステイに変わっていたり……!』

鳴護『なんかもう怖いですよねっ流れって!シンガーソングライターを目指していたら、いつの間にかアイドルになって留学しているみたいな!』

鳴護『てかですね、もう新年ですよ、新年!ハッピニューイヤーですっ!』

鳴護『もうすぐバレンタインだけど女の子は頑張れっ!頑張って告白してくださいっ!』

鳴護『あなたの好きな男子はきっと他の子も好きだからっ!誰かに取られる前にコク――』

フロリス『オーイ、ワタシのブラ知らね?』

鳴護『……り、ましょうね、うん』

ランシス『私のも……どこ干したっけ……?』

フロリス『テカ洗濯もジャパニーズに頼んでるし、そもそも洗いに出したかどーかも』

ランシス『……ねー』

鳴護『ら、ラジオを!ネットラジオをですねっ!イギリスはロンドンから学園都市へ向かって発信中!』

鳴護『そうっ!発・信・中!なんですよねっ!今まさにっ!』

フロリス『うぇ!?ラジオ!?こんな朝っぱらから聞くのなんてジジイ対象ジャンか?』

ランシス『フロリスー、時差時差ー……』

フロリス『あぁそうか、ジジイじゃなくてオッサン相手か。ゴメンナーアリサ』

鳴護『うんっ!謝罪は受け取るけどねっ、もうちょっと別の所に気づいて!もっと切実な問題に直面してるって事を!』

フロリス『マ、それはいーとしてよ。ワタシのブラ知らね?』

鳴護『気の遣い方が雑すぎるし!?悪いんだなんてこれっぽっちも思ってないのは分かってた!』

ランシス『盗まれた?』

フロリス『カモナー』

レッサー『えぇっ!?ブラしてたんですかっ二人ともっ!?』

レッサー『いけませんいけません!ブラジャーこと和名チチバンドってぇのは文字通り”乳”を実装してないと装着しちゃダメなんですよ!」

フロリス『和名なのに”バンド”つってるじゃねーか』

ランシス『謎の和製英語……』

レッサー『そんな乳がないのにも関わらずチチバンド着けてるなんて!チチバンドさんに謝ってください!さぁお早く!』

鳴護『レッサーちゃんも謝った方がいいと思うな?心当たりはあるよね?火に油注いでるから!』

レッサー『取り敢えずプラ盗難事件の犯人は唯一の独身男性を重要参考人として確保すべきかと!』

鳴護『だからね、そーゆーとこが。うん』

レッサー『あ、なんでしたらここで全裸になって私の身の潔白を証明しても構いませんコトよっ!』

フロリス『警察役が即被疑者に変わってるし』

鳴護『てかラジオだから見えない……』

レッサー『――と、いう訳で「ARISAのネットレイディオを聞くじゃんね!」は、またまだ続きまーす!』

鳴護『それ私の台本っ!?』

ランシス『この番組はご覧の提供でお送りしているかもしれない……!』

鳴護『読んで、ね?スポンサーさん付いて貰ってるのに名前呼ばないと怒られるから、そこは読んであげて?』

フロリス『てかラジオって個人がWEBカメで発信してるのとどー違うん?』

鳴護「謝って!ネットアイドル(自称)とスポンサーついてるあたしのラジオと一緒にしたの謝ってくださいっ!』

レッサー『ご覧の放送はオービットポータルの提供でロンドンから生配信でーす!』

プツッ



――ロンドン市内 車内

上条「……」 ピッ

ベイロープ「どうしたの?ラジオ聞いてたのに」

上条「いや、うん、これ以上聞いてたら遠隔ツッコミの能力に目覚めそうで自粛しようかと思ってさ」

上条「てかボケの比率高すぎる割にアリサのツッコミ三級じゃ追い付かない!捌き切れてないんだっ!」

ベイロープ「あー……まぁ、でもアリサも上手くなったわね。留学の成果が出たって言うか」

上条「……そうだなぁ」

ベイロープ「ツッコミが」

上条「英語じゃなかった!?」

ベイロープ「ご近所に『も、もーにん?』とたどたどしい英語で話しかける姿は、不思議に好感度が高いと評判らしいわ」

上条「アレか。アニメあるあるの、後輩留学生がカタコトの日本語で話すのがツボる層と被ってんのか」

ベイロープ「……だからね、こう、あの子がおバカども相手に朝から晩までツッコミやってる姿しか見てないんだけど、大丈夫?単位は?」

ベイロープ「通信教育と学園都市のロンドン支部との往復で、卒業出来る、のよね?きっと?」

上条「日本だと義務教育だから、まぁ落第はないんだよ。落第は」

上条「問題なのはいざ上の学校へ進む時、学力がアレ過ぎて選択肢がないって有様に……!」

ベイロープ「あなたと同じ学校じゃ駄目なの?」

上条「おっとその言い方だと俺の学校がアレなように聞こえる!間違ってはないが!」

上条「……まぁ学力がアレでも、異能で振り分けられたりするみたいだし、正直よく分からん」

ベイロープ「お嬢様学校に無理矢理行かせられるよりは、まだ市井のハイスクールの方が合ってると思うわ」

上条「同感――だが、その前に」

ベイロープ「前に?」

上条「義務教育ではない俺の単位がイッパイイッパイって事かなっ!今まさにここにある危機!」

ベイロープ「大英博物館のレポートよね。取り敢えずは」

上条「何だよ大英博物館て!そこでなに見てこいって言うんだよ!」

ベイロープ「まともに見るんだったら一日じゃ終らないし、まぁ付き合うけど――と、着いたわね」

ベイロープ「車停めてくるから先行ってて。あ、あと入館料は無料だけど、案内書は日本語版もあるから買いなさい」

上条「え?入場料ってロハって聞いてんだけど?」

ベイロープ「寄付金で運営してるし、いざとなったらパンフ丸写しで誤魔化せばいいわ」

上条「ありがとうベイロープさんっ!俺の味方は二人だけだよっ!」

ベイロープ「さんとか言うな。それじゃ――あ、ちょっと待って!」

上条「はい?」

ベイロープ「財布は持った?パスポートは?」

上条「えっと」

ベイロープ「知らない人に着いていかない、見知らぬ人を助けない、魔術結社の抗争に巻き込まれない」

ベイロープ「……くっ!一人じゃ手が足りないか……!」

上条「ねぇベイロープそれギャグで言ってんだよね?本気じゃないよな?」

上条「こっち来て数ヶ月経ったのに何も信用されてないとか、そういう事じゃないんだよね?ねぇっ!?」



――大英博物館 正面入り口

上条(……さて、そんな訳で俺は一人でやって来た訳でだが)

上条(アホみたいにデカいな……あー……神殿?博物館とは思えないような巨大な建物の周囲をぐるっと回って)

上条(正面玄関……かな?と思われるこぢんまりとしたゲート、ここは普通の美術館と変わらない、かな?)

上条(あー……でも、意外に人が少ないよな。なんでだ?)

上条(確か……レッサーが言ってたけど、『EU離脱が決まってからユーロ安転www製造業メシウマwwww』とか)

上条(まぁ為替安くなりゃ輸入は高くなるし喜んでもいられないんだが)

上条(一応イギリスは北海油田も持ってるし、内部に穀物地帯も抱えているバランスの取れた海洋国家)

上条(また産業革命で大躍進を遂げ、興業レベルも高く軍事レベルも世界屈指――)

上条(――と、いうのが”半世紀前”のイギリス評。第二次世界大戦後から中東戦争辺りの話)

上条(国策で金融工学()に特化させEUに加盟後はロンドンを一大拠点とする)

上条(が、リーマン破綻により市場は冷え込み、当然虚飾で食ってる人は壊滅。プラスになるどころかマイナスに)

上条(しかもなぁ、国内工場への投資を怠った挙げ句、自国製の製品の品質が目に見えて下がる下がる)

上条(イギリスの国防の虎の子は”トライデント”という潜水艦搭載のミサイルに集約される)

上条(まぁアレだ。原子力潜水艦に搭載された核ミサイルっつーのが分かりやすいか)

上条(原潜だから浮上する事なく延々潜って公海をウロウロしつつ、有事になったら敵国にぶっ放す報復兵器)

上条(ただ潜水艦搭載兵器なので大きいサイズは積めず、威力も核としては低い。てか一部の通常兵器に劣る……らしい)

上条(本編ではイギリス動乱編でフランスが真逆の事やってたよな。原潜をドーバーに潜らせてそこからの核ミサイル)

上条(キャーリサが潰したらしいが……あれ?本編ってなんだ?わ、ワカラナイナー)

上条(まぁまぁともかく!兵器として、嫌がらせとして、抑止力としては相当な部類へ入る。似たようなコンセプトで他の国も運用しているから実績もある)

上条(またついでに言えばイギリス原潜の基地がスコットランドにある訳で……まぁ、誰かに言わせればだ)

上条(『スコットランド独立はブリテンの国防を削って弱体化させるのが第一目的。それ目当てにやってる国もあるでしょうなぁ』)

上条(『て、ゆうかあなたの国の戴冠した琉○王()もその類でしょう?なんで外国人がやってんです?』……だと)

上条(……まぁそれについてのコメントは差し控えるとして――失敗したんだ)

上条(去年の六月に公海上で発射実験したものの、軌道が目標と大きく逸れたのをだ、うん、隠蔽してたらしくてね……)

上条(重工業系最新鋭の技術が集約される国防分野でKONOZAMA……何やってんだろ)

上条(奇しくもキャーリサが革命起こした動機、『このままだとイギリスはダメになる』が素敵なぐらいに合ってる感じ。やだー)

上条(――ま、でもヨーロッパではまだマシな方でねっ!『自主防衛を自国である程度補完できる』だけまともな方だし!)

上条(他の国はNATOに頭からどっぷり浸かって軍事費予算削ってるし……まぁ、それ自体は勝手にやってくれとは思う)

上条(ただ、主義主張うんぬん以前の問題として軍事費は兵士・兵器維持だけじゃなく、重工業の開発という観点もあってーの)

上条(よりにもよって”そっち”方面から真っ先に削り始めるもんだから、先端技術への財政投融資を放棄してるのと同義)

上条(そのしっぺ返しが来るのは何年後か……基幹産業がなくなって初めて気づくんだろうけど)

上条「……」

上条(……人少ないって言うか、いない?入り口脇のパンフ売り場らしき受付も無人だな)

上条(人が居た形跡はあるのに。田舎の無人野菜直場所と同じシステムで、お金置いていけばいいのかな?)

上条「……まぁ、6ユーロ置いてっと。頂きますよー」 スッ

上条(んでもってベイロープ待ちか。あ、今のウチにARアプリインストしてお――) ピッ

???「『――だから、何度も言っているだろう』」

上条(うん?)

???「『これは私の腕であり体の一部だ、と』」

上条(入り口ゲートの前に警備員のおっちゃんら数人……と、囲まれてよく見えないが、ちっさい誰かがいる)

上条(かなり小さい……子供。それも小学生ぐらいの)

???「『ま、あ、だな。武器かと言われれば否と答えるのは誠実ではないやも知れぬ。その意味では貴様らの判断は正しくもある』」

???「『――だが、だ。脱皮せぬ蛇が鳳の翼をもごうとは不遜が過ぎる。弁えて平伏せよ』」

上条「なんでやねん」 ペチッ

???「『ぬ?』」

上条「あ、やべ。つい条件反射でツッコんじまった」

パキィィィンッ……

上条「――お?」

上条(今なんか魔術を打ち消した、か?この子供の?)

警備員『――!?――――っ!!!?』

上条(警備のおっちゃんらが一斉に膝をついて……)

上条「あぁこれ面倒臭いやつだな……!知ってた!いつもの事だしねっ!」

???「『ふむ……通ってよいのか。やれやれ、こちらから気を遣ってやったのに、時間を無駄にしたものよな』」

上条「あのぉ……すいません、えっと王様?もしくはどこかの王子様?」

???「『ほぅ!私が”王”だと分かるのか!』」

上条「えぇまぁ何か態度で。知り合いにも何人かいますし」

???「『如何に取り繕うが生まれは隠せぬ。許すがよい――葦束の民よ』」

上条(どっかの王族か貴族なんだろうけども、どうしよう。これ)

上条(てか魔術解けたら人が集まって来やがるし――仕方がないか)

上条「えっとですね、王様?ここじゃちょっと目立ちますし、人も集まって来ますんで。中、入りません?」

上条「何か見たいのあるんでしょう?お忍びでわざわざやって来たぐらいですし?」

???「『であるな。世が世ならば王に立ちはだかった者のそっ首刎ねねばならぬが、不問に処すとしよう』」

上条「どこの蛮人国家から来やがったテメー」

???「『お前もだ。末代まで誇るがよい』」

上条「そりゃどうも、ありがとうございます」

???「『だがしかし不要であったとは言え、私の先触れ役を果たしたのも事実。これだけでは天秤は釣り合わぬか』」

上条「あぁいえその、俺ちょっと用事ありますし、ねっ!っていうかトラブルはゴメンだから!」

???「『案内しろ。貴様にはその大役を授けてやろう』」

上条「あのですねぇ王様さん?テメーもしかして親戚か兄妹に”バー”で始まって”ドウェイ”で終る理不尽魔王の血族とかいないかな?」

上条「てか世話かけさせた相手により世話させるってアリなの?マイナスにマイナス足したって負債が広がるだけなんだよ?」

???「『光栄に思えよ』」

上条「……ちょっと待ってね−、今待ち合わせしてる知り合いにメール入れるからー」

上条「『迷子の王族(自称)拾ったんだけどちょっと保護者来るまで面倒看てるタスケテ』、と」 ピッ

???「『行くぞ、葦束の』」

上条「はーい……と、ん?」

上条「あの子供――最初に何語喋ってたんだ……?」



――大英博物館内

上条「てかお前、男?女?そもそもなんて呼べばいいんだよ?」

???「『慮外者が。ぞんざいな物言いを許した憶えはないぞ』」

上条(と、言って眉をしかめる様も様になっている……なんか二重表現っぽいが)

上条(見た感じは完全に白人――や、”完璧に”白人か。アホみたいに白い肌と均整の取れた顔立ち)

上条(ただ赤毛の巻き毛。ブロンドばっかの知り合いが多いし……アニェーゼぐらいかな?)

上条(あんま白人系に少ないのかな?)

???「『さにあらず、赤毛は大ケルトの流れを受け継ぐものぞ。その女も”日の出”より生まれ出でて鉄血をもたらした者の末裔やもしれぬ』」

上条「”ひので”?」

――ジジッ――

???「『――アナトリア。小アジアにある半島の名だ』」

上条「へー。変わった名前だな」

???「『葦束中国(あしはらのなかつくに)で日の本を称する国の民とは思えぬ発言だが、まぁ民草とはいつの時代もそのようなものか』」

上条「なんか難しい言葉でバカにされている気がする!」

???「『ともあれ呼び名、呼び名か……うむ』」

上条「あぁごめん。先に名乗るのが礼儀だっけ?」

???「『身分の低い方ではそうであるが、王は王であるが故に名乗りはせぬ』」

上条「なんでまた?」

???「『空に浮かぶ太陽が名無しの旅人に名を問われたりはしないであろう?』」

上条「おいテメーほんっっっっっっとにどこのイギリスから来やがった!?」

???「『まぁそれは流石に半分ぐらいは冗談だがな』」

上条「もう半分は?優しさだよね?」

???「『王の名知らぬ者は王国にあってはならぬものである。幼子や至らず、また老翁や老婆であれば笑って許せるものだが』」

???「『しかし自ら名乗りを上げるとすれば、それは戦さ場で敵相手にする他は無い。王たる者はそういうものだ』」

上条「どこの国の王族か知んないけども壮絶な生き方してやがんなぁ」

???「『お前も王を王だと見抜く眼は中々だが、それだけで我が国を知らぬとは葦束の民に過ぎぬか』」

???「『私の王国は”中つ国”――固有名詞が変換できるよう意訳されているのだが、理解、できたか?』」

上条「えっと?」

???「『構わぬ。私の名は”王”と呼ぶがよい』」



――

上条「――さて。電波系王様に付き合ってんのも時間がアレだし、資料集めもしちまおう」

???「『待つがよい。今不遜な気配がしたのだが』」

上条「気のせいじゃないですかねー……AR起動っと」 ピッ

???「『かめら……か?』」

上条「の、機能を利用したARアプリってやつだ。あーっと、ほら、これを展示物へ向けると」 ピッ

【ロゼッタ・ストーン】
*1799年ナポレオンのエジプト遠征のときに,ナイル川の西支流の河口のロゼッタ (アラビア名ラシード) 近くで発見された石碑*

上条「って具合にスマフォの画面に解説が表示されるんだわ」

???「『ほぉ、それで?』

上条「例えばこの展示物がどういう経緯で発掘されたとか、元々はどこの国のどんなものだったのかとか、そういうのが簡単に分かる」

???「『ふむ、だから?』」

上条「だから、その……便利だよねって!」

???「『そう、か?智恵なきものには相応しかろうが……』」

上条「悪かったな智恵なくてゴメンナサイよっ!」

???「『知らぬものを知ろうとはする行為は尊いものだ。愚者の努力が賢人に迫る事も時にはある』」

???「『博物誌を片手に世界を旅するのも心躍ると言えるであろう』」

???「『だが、その、だ。この程度の知識ですら調(しら)んでいては、真理へ辿りつく前に息絶えるだろうに』」

上条「いや無理だろ!この碑文に書いてある文字を基礎知識で持ってるやつなんて――」

???「『”玉座を継いだ若き者、王の中で最も傑出したるミスルの守護者、神々の下僕、敵に対し常勝し”』」

???「『”王国全土に文明をもたらした不死人、パハに愛されたる者であるプトレマイオスは勅令を発布す……”』」

???「プトレマイオスの勅令書だな。ご丁寧にヒエログリフ、デマティック、ギリシャ語で書いてあるようだが』」

上条「……」

???「『如何に』」

上条「合ってる……!」

???「『プトレマイオス5世。賢王とは言いがたく、むしろ愚王の類である。王朝の衰退の原因を止められなかった』」

???「『とはいえその生涯は負け戦とはいえども、その多くを戦場へ捧げ勲(いさおし)をあげた。逃げる事なく、だ』」

???「『ただの政治家風情に陥る事なく矜持を戦さ場にして示す。王たる責務は果たしている』」

???「『……義務たる王国の繁栄も、とはいかなかったのが残念ではあるが』」

上条「えっと……じゃ、聞いていい?こっちのは?」

???「『そちらはカール大帝の、あぁいやしかし贋作――』



――大英博物館 刀剣類展示場

???「『――武器の歴史は人類の歴史と言い換えてもよい』」

???「『例えば”グラディウス”と聞けば剣闘士と思う人間が多い――が、同時に』」

???「『短い、手首から肘ぐらいの小剣もまた”グラディウス”と呼ばれてた事にも着目すべきだ』」

上条「映画のシーンで『妙に短い探険で戦ってんなー』と思ってたんだが、なんで?」

???「『一つは技術の問題だな。製鉄技術が未発達なので短く太く、というのが強度を保つに最適であった』」

???「『また戦争になると軽鎧に身を包み、盾で防御するのが一般的であったためわざわざ相手を殺すために重武装する必要もなかったのだ』」

???「『英雄アキレスウスなどがその最たる例であろうな。女神から武具を授かり祝福を受けた身でも死ぬ時は死ぬ』」

???「『これが時代の進歩と共に技術は洗練され、長剣や金属鎧など全てが鉄製の武具が出始める』」

???「『しかしながらグラディウスは、正確にはグラディウスのような短剣類は姿を変えながらも絶えなかった』」

上条「メインウェポンじゃないのに?」

???「『長剣や槍を振り回して戦っていても、防具もまた品質が向上しているため中々勝負がつかん』」

???「『また戦争ともなれば敵味方入り乱れての乱戦となるため、長く硬い武器を自在に振り回せない事もしばしばあった』」

???「『そこで重宝するのが短剣だ』」

上条「日本のサムライが脇差し差してたようなもんか……」

???「『無論技術の革新に短剣も胡座をかいていたのではなく、こっちの――キドニーダガーを見よ』」

???「『刀身の脇に二つの球がついているだろう?これがある事によって相手の攻撃を滑らせ』」

???「『同時に相手の体を突き刺した際、この球体を持つ事で引き抜きやすくする、という効果を狙ったものだな』」

上条「待っ――て、くれ!今メモしてるから!」

???「『名称の由来は球体が”Kidney(腎臓)”に似ているからとも』」

???「『また相手へとどめを刺す時に使われていたので”Kindly(親切な)”が、訛ったとも言われている』」

上条「くっ!分かっちゃいたが止まらないってな!」

???「『王を遮るのは不敬だ』」

上条「ありがとう。ツッコミ入れるためには止まってくれて」

???「『しかしここはよい、よいぞ。気に入った』」

上条「まぁな!男だったら武器にドキドキするのは分かるがっ!」

上条「展示ブースの一角だけでフツーの美術館丸ごと一個入りそうなのに、見渡す限り武器・武器・武器・って……」

???「『殆どは戦さで使われた物だが……あれは違うようだな」

上条「あ、カーテナ」 ピッ

*イギリスの王権を象徴する長剣。本物はロンドン塔宝物館にて展示されている*

上条「モノホンもキャーリサがパチって装備してたんじゃなかったっけ……?」

???「『カーテナぁ?……あぁダノワの剣か』」

上条「えっと……『オジェ・ル・ダノワはシャルルマーニュ伝説に登場するパラディン』!パラディンキターーーっ!」

???「『ダノワは英雄であるが、好かん』」

上条「あんま優れた騎士だったから王様が嫉妬してた、みたいに書いてあるけど?」

???「『ダノワの息子が王子とチェスをし、王子に勝ち不興を買って撲殺される逸話がある』」

上条「なにその二時間ドラマでありそうな展開」

???「『ダノワは王子を追い回しその首を寄越せと王へ詰め寄るのだが、それがいかん』」

上条「あぁ王様に逆らったから?」

???「『否。ダノワはその場で王子の首を刎ねればよかったのだ』」

上条「やだスーツ着た蛮族」

???「『王子は王に非ず。たかが王の子に生まれただけで王の財産を手にかけるなど言語道断よ!』」

???「『王命あればかくあれかしと従うのが是であるが、傲慢にかけた罪は重いと知れ!それでは天秤が釣り合わぬ!』」

上条「筋は通っているような、いないような……」

???「『ダノワは最終的にはここへ逃げ延び、王族の娘を助けて王になった。それが今の王家の祖とされている』」

???「『故に異教徒から奪った剣がトリスタンの佩剣とされたのだ』」

上条「相変わらず国境無視した歴史が連綿と続くなヨーロッパ!」

???「『トリスタン、アーサー王如きの円卓の一柱を旗印に掲げるなど恥を知るがよい』」

上条「アーサー……最古にして最後の王様なんだから、まぁそこに王権神授を探すのはよくある事じゃないかな……?」

???「『その言い方はやめよ。アーサーは非ず、最古ではない』」

上条「えっ?」

???「『第一”アレ”は雑種だ。純粋ではなく、不純だ』」

???「『どれだけ高級な酒であっても灰を混ぜれば飲めたものではない』」

上条「でも伝説ってそんなもんじゃないか?歴史書は著者の主観が入るし、後から付け加えられり混同もされる」

上条「俺の国の薄い本と同じで、オリジナルの欠片も残ってないってのが結構あるしねっ!」

???「『ウス・異本、だと!?ウスペンスキ大聖堂で実存してなかったハリストスの異本があると言うのかっ!?』」

???「『……ぬぅ。葦束の国と侮ってはいたが、聞けばかの国にもハリストスの墓があると聞く!これはもしや本物かも知れぬ!』」

上条「ごめんなさい。多分君が思ってるのとは100%違うと思うわ」

???「『噂ではアーサーもオーディンも女と化してるそうだな』」

上条「あれ想像通り?」

――パァーーーーーーーンッ――

???「『――屈め』」 グッ

上条「え、えっ!?」

???「『火薬の臭い――私の知っているものとは少し異なるが用途は変わるまい。どこの世でも同じよな』」

上条「……お?」

???「『まぁ”テロ”だな』」

上条「い、イヤァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァッ!?」



――大英博物館前

ベイロープ「……」

男性「すいません。道を訊きたいんだけど」

ベイロープ「……」

男性「……あのー、もしもし?」

ベイロープ「……」

男性「えっと……通じてないかな、これ」

ベイロープ「あぁごめんなさい。私かしら」

男性「そうです、そう!あなたへ道が訊きたくて!」

ベイロープ「――さっきからウロウロしながら、目の前にある案内所へ行くでもなく」

ベイロープ「歩く女性を一人一人値踏みしていたから、てっきりタチの悪い女たらしか詐欺師」

ベイロープ「下手すればハイカー目当ての誘拐犯か何か――だと思ったのだけど、違っていたみたいね。ごめんなさい」

男性「え、と」

ベイロープ「念のため”一人歩きの旅行者へ声をかけてる不審な男がいる”って警備員へ通報しておいたから、まぁ潔白なら問題ないわよね」

男性「……クソッ!」

ベイロープ「ようこそイギリスへ。そしてさようなら」

カッカッカッカッ……

ベイロープ「……ふむ」

ベイロープ(手を上げれれば――だったんだけど、まぁゴミを捨ててもキリがない……とはいえ)

ベイロープ(遅い!何やってんの!)

PiPiPiPiPi……

ベイロープ「『――はい、もしもしっ!?』」 ピッ

レッサー『もしもし、私レッサーちゃん!今アジトにいるの、今からそっち行きますね!』

ベイロープ「『よし来なさい。そのケツを8ビートで刻んであげるのだわっ!』」

レッサー『Oh! ベイロープさんテンションたっかいデスネー!HAHAHAHA!!!』

ベイロープ「『アリサに替わって?同じ言語を使ってるのに話が通じてなさそうだから』」

鳴護『もしもしっ!?ベイロープさん今ドコですかっ!?中、中に入っちゃいましたっ!?』

鳴護『そうだったら取り敢えず逃げ――て、いいのかなっ!?避難訓練!そう訓練通りにしないといけないんたよっ!』

ベイロープ「『Ten-don?アリサ、レッサーの真似しちゃダメだって言ってるわよね?』」

鳴護『だから今どこにいるんですかっ!?』

ベイロープ「『どこって……そりゃあ大英博物館の前、入り口から少し離れた所だけど』」

鳴護『ホントにっ!?……あぁよかったぁ……』

ベイロープ「『何があったの?――まさか、そっちで襲撃されたとか!?』」

鳴護『あーいやいや違います違います。そういうんじゃなくって、今丁度テレビで――中継が――』

鳴護『――が――だって――』

ウーーーー、ウウウウウィィィィィィィーン――

ベイロープ「『ごめん。何かサイレンが大量に近付いてきて聞き取りにくくって、もっと大きな声で話して』

鳴護『テロリストがっ!大英博物館に!立て籠もったんだって!』

ベイロープ「『……』」

鳴護「『……あれ?切れちゃ――もしもー――――』」

ベイロープ「……あんの不幸体質がァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァッ!!!?」

鳴護「『ひぃっ!?』」

ベイロープ「『アリサ!緊急にバカ三人引っ張ってこっちまで来て!どんな方法でもいいから!』」

鳴護『え、分かったけど……二人とも、外、っていうか博物館前にいるん、だよね……?』

ベイロープ「『えぇそうね、今まさに前にいるわね――私”は”』」

鳴護『……当麻君は、どこなのかな……?』

ベイロープ「『……中、よ』」

鳴護『――お』

ベイロープ「『お?』」

鳴護『おかーさーーーんっ!助けておかーさんっ!?』

ベイロープ「『待て!本格的に待ちなさいアリサ!?今は月が出てないから呼んだって来ないのだわ!』」

ベイロープ「『仮に万が一来られたとしても”来ちゃった☆”で済む問題じゃない!世界巻き込んで指名手配されるのはイヤよ!』」

ベイロープ「『ランシス!アリサを抑えてレッサーと替わりなさい!』」

レッサー『――ふっ、安心して下さいなベイロープ!ちょい前に何故私がメリーさんの都市伝説をパロったかお分かりでっ!?』

ベイロープ「『まさかあなた――既にこっちへ!』」

レッサー『あ、いえ特に深い意味は無かったんですけど。あえて言えばマイブームで?』

ベイロープ「『じゃあ、なんで、言った……っ!?思わせぶりに!言う必要が、あったっ!?』」

フロリス『ヤー落ち着けよベイロープ。昼間だし飛んでく訳にも行かないから、仕方がないじゃんか。ナ?』

ベイロープ「『そう、だけど!』」

フロリス『そう直ぐに処刑されるってーワケじゃないだろーし、そんなに慌てなくってもいーと思う』

ベイロープ「『……まぁ、理屈は分かるんだけど。ただ』」

フロリス『ウン?ただ?』

ベイロープ「『……テロリストの中に、女の子がいたら……』」

電話口『『『『あー……』』』』

ベイロープ「『とにかく急いで。命の危険も一応はある訳だし』」

レッサー『……なんかもうヤんなってきたんですけど』



――大英博物館 刀剣類展示場

テロリストの声『――!――――!――ッ!!!』

……タァンッ……タタタタタタタタタタタタタタタタタッ……!!!

上条「(……なぁ王様、何言ってんの?つーか何やってんのアイツら?)」 コソコソ

???「『口上は珍しくもなく、奪われた富がどうの、殺された同朋がどうのとありふれた話だ』」

上条「(……一応聞いとくけどお前の関係者じゃないよな?)」

???「『知らぬよ。こちらはついさっき来たばかりで縁の結ばれる暇もない』」

上条「(そっか……じゃ、取り急ぎお前だけ逃がさなくってもいいって事か)」

???「『急ぐのは賛成だ。死にたいのであれば別だが』」

上条「(概ね俺も賛成だが……どうやって逃げたもんかなぁ。銃声から逃げれば――)」

???「『――昔楽しんだ狐狩りの話なのだが』」

上条「(何だよ急に――って立つな立つな!見つかっちまうだろうがよ!)」

???「『狐は狡猾で頭の良い獣だ。下手な罠を仕掛けても簡単にかいくぐられてしまう――あぁ狐の話だぞ?』」

???「『断じて異民族を狩るのが習わしだったとか、その話でないからな?いいな?』」

上条「(わかってるから話は手短に早くっ!)」

???「『しかし頭が良すぎるのも考えものでな。頭が良い故に陥る罠がある。そう、例えば』」

???「『猟犬を放ち巣穴やねぐらから追い出す。狐は賢いからこそ犬どもから逃れようとする』」

???「『だから狩人は狐を犬と挟んで待てばよいのだ。そうすれば狐が自らこちらへとやって来るのだから』」

???「『――アルテミスの猟犬どもが、そうだったように』」

上条「――なに?今なんて――」

……タァンッ……タタタタタタタタタタタタタタタタタッ!!!

上条「――っ!?」

???「『と、分かっただろうが”あれ”が猟犬役なのだろうな。派手に動いて注意を引きつける』」

上条「(じゃアイツから逃げると危険だって言うのかよ!?)」

???「『それは目的次第だ、としか言い様はないが――私の想像では賊の目的は”ここ”ではないのか?』」

上条「(ここ?大英博物館が?)」

???「『……貴様の目は節穴か。目の前には何があるというのだ』」

上条「(外見は整ってるけどクソ生意気そうなガイジン?)」

???「『――オーイここに異教徒がいるぞ!今すぐに神の裁きを受けさせてやれ!』」

タァンッ!バリイインッ!

上条「(やめろよっ!?向こうはガチな連中なんだから!)」

???「『だから目的は展示物ではないか、と言っている。この中には文化的や魔術的にも価値が高い』」

上条「(……あぁうん、そうかもな)」

???「『さぁ――どうする?貴様は、どうするんだ?』」

上条「(どうするって言われてもな――答える前に聞きたい。今の魔術師がテロやってるって話、どこまで信じて良いんだ?)」

???「『魔術を嗜む者が居るのは間違いない。先程から使い魔を飛ばしてくる』」

上条「(使い魔?)」

???「『”視る者(ウォッチャーズ)”とも呼ばれるコプトの精霊がこちらを覗き込んでいる。ずっとな』」

上条「(俺には見えないけど……?)」

???「『絡みつく蔦の中に巨大な目がある。これがもし人の体についていれば魅力的かも知れぬが』」

上条「(オッケー分かった、俺は何も知らなかったし聞かなかった!)」

???「『人の基準で美醜を計るからそうなる』」

上条「(そっか――じゃ、悪いんだけどさ、その、どっか隠れててくれないかな?)」

上条「(今からちっと、その――騒がしくなるから、その隙にだな)」)

???「『私は強いのだぞ。貴様などと比べられぬ程に』」

上条「(かも知れないな)」

???「『ならばどうして、しない?地へ頭を擦りつけ、みっともなく懇願でもすれば興が乗るやもしれぬぞ?』」

上条「(お前が俺より強くても、そして簡単に騒動を解決できるとしてもだ――)」

上条「(――俺が戦わない理由には、ならないんだよ)」

???「『……』」

上条「(今あっちで銃を振り上げて弱い誰かを脅してる奴らだって、もしかしたらどこかで銃を突きつけられて仕方がなくやってるのかも知れない)」

上条「(そうでなくても前の世界大戦で変な風に魔術らしきものの認知度が上がっちまって、それがテロに使われたら――)」

???「『魔女狩りだな。嘗て有りや、今に在りや、そして未来もかくあれかし――モイライの端女の糸車は未だ壊れず』」

上条「……」

???「『が、世界がそれを望むのであれば、きっと天秤は釣り合っておるのだろうな。歪んだインゴットなれど、重し重し』」

上条「(だから俺が止める。いや、止めなきゃならない)」

???「『狂者め。貴様の宿す炎はいつか己の身を焼くぞ』」

上条「(笑うさ)」

???「『笑う?』」

上条「(折角こうなる事言ってくれた奴がいたってのに、言う事聞かなかった俺やっぱ頭悪ぃなーって)」

???「『……』」

上条「(あ、ごめん。なんか茶化すみたいな感じになっちまったけど、そんなんじゃ――)」

???「『……くふ、悪くない、悪くないぞ貴様!あぁ悪くないとも!』」

???「『私の誘いにまんまと応じ、貧相な頭を下げたのならば詰まらぬ輩と斬って捨てたのだが――悪くない!』」

上条「テメコラ今なんつった?あ?スッゲー不穏な事言いやがったよな!?」

???「『たかだか葦束の命如きを対価に、王たる私の剣を振るうは業腹だが、まぁたまにはよかろう――見よ』」

上条「(割れた展示ケース、だよな。あれが?)」

???「『あそこに置いている剣、短剣でも長剣でもレプリカでも構わん。それを私へ投じてみせよ』」

上条「(それで?)」

???「『そうすれば賊どもなど私が全て斬ってやろう』」

上条「(……本当かぁ?)」

???「『疑うもよいが、貴様が賊の前へ踊り出て人類平和を説くよりはまだ可能性は高いのだがな』」

上条「(まぁなー。人数分からない、銃で武装してる、なんつっても言葉が通じない相手に俺一人でどうすっかって話だしなー)」

上条「(悪くない、っていうかそんだけで本当に解決するんだったら破格の労力ではある、あるんだけども……)」

???「『遮蔽物はなし、先程から跳弾や流れ弾が壁にレリーフを作る勢いだな』」

上条「(……だし。見つかったら撃たれるよなぁ)」

???「『どうする?諦めるか、それとも別の手を探すか?』」

上条「(最悪、剣さえぶん投げれば良いんだよな?)」

???「『王の名にかけ、誓おう』」

上条「(ならいいや――てかな、まぁ言っちまえばだ)」

上条「いっつも大体こんな感じだから、なっ!!!」

???「『捨て鉢にも程があるな』」



――大英博物館 刀剣類展示場

上条「さってと……」

上条(バカ広い展示場、さっきも思ったがここだけでちょっとした美術館がすっぽり入る大きさだ)

上条(「俺の部屋何個分?」なんて考える気すら失せる)

上条(倒れた台や壊れたガラスを踏み越えて、直線30m……ぐらいか?軽自動車が縦に10台分?)

上条(50m走の日本新が6秒弱、だからまぁ条件考えれば同じか?)

上条(相手の位置は見えない。そして逆に監視もされているらしい。厄介だな)

上条(……良いトコ探しをするのであれば、向こうさんが虐殺目的ではないっぽい所か)

上条(本気でジェノサイドするんだったら俺達は襲われてなきゃおかしい訳だし)

???「『準備か整っておらぬだけかも知れぬぞ』」

上条「(人のやる気に水を差すのやめてくんないですかねぇ!?)」

上条「(つーかさ、これは別に怖じ気づいたとかそんなんじゃない、ない上で聞きたいんだけどさ)」

上条「(お前が直に取りに行くとか、こう、念動力で『はあぁっ!』みたいに引き寄せた方が早くね?)」

???「『さっきの威勢とは別人のような下衆よな。それも悪くはない』」

???「『天秤は釣り合わねばならぬ。労には功をもって報い、罪には罰をもって断ずる』」

???「『”私”に咎人の始末を任せてくれも構わんが……』」

上条「(分かってるよ!取り敢えず37564にする人たちなんだから!イヤらしいっ!)」

上条(何だろうなー、俺が戦ってんのがどっちなのか分からなくなる。まぁ、それもよくある話か――さて)

上条(50mダッシュを最後に計ったのは中学だと思うが……まぁ、たった数秒。そう、数秒だ)

上条(壁側に散乱してる剣を掴んでポイって投げて、後は人任せ!簡単でシンプルだ!やったねっ!)

上条(できる、俺ならできる!バゲージで逃げ切ってフランスで逃げ切って、なんかもう逃げ癖がついた俺には!良い意味で!)

上条(――と、悪いフラグ立てるんじゃなくて。前向きに、考えてみよう)

上条(古典的な手ではあるが、ほら、映画でさ、見張りが警戒してる時に別の方向へ物投げんのってあるよな)

上条(わざと物音を立てておいて気を引く隙に――みたいなの。うん、それをだな)

上条(落ちてたガラス拾って、軽く身を乗り出して投げ――) グッ

テロリスト?「……」

上条「……ん?」

???「『……これは言った事だ、つい今し方言ったばかりの事なんだが』」

???「『相手は監視してる、そう監視しているんだよ葦束の』

上条「覆面越しでよく分からないが、目が合って」

???「『こちらが何を話しているのかは理解出来ないだろうが、物を拾って構える――等という予備動作をすれば、当たり前のように感づかれる。当たり前のように』」

???「『”向こうは使い魔を通じて見ているんだから馬鹿な真似をするなこの馬鹿”と、事前に言わなかった私に過失があると思うか?』」

上条「どっかで聞いたような罵倒ありがとう!だがまだボスには及ばないなっ!だってあの子一台詞に四回バカって入れるんだぜ!」

タァンッ!

上条「あっぶなっ!?当たったらどうするっ!?」

???「『当てるつもりだからな。むしろ悪い頭に当ててもらうがよい』」

上条「無茶言いやがってコノヤロー!?人が必死になってるってのにな!」

???「『命の賭け方が間違っている……もういい、行って――来いっ!』」

上条「分かったよ!こうなったら命賭けたらぁ!ダァァァァァァァァッシュ!!!」 ダッ

上条(走れ走れ走れ走れはっし――)

ツルッ

上条「やだ、不幸☆」

ガッ、ゴロゴロゴロゴロゴロッ

上条(体が一瞬軽くなり、『一瞬って何秒だっけ?』とバカな疑問が浮かぶ間に勢いは殺される――てか壁にぶつかる)

上条「ザマーミロ!リアクション芸人顔負けの滑りを見せたお陰で何ともなかったぜ!寿命は大幅に残機減った気ぃするけどな!」

タァンッ、タタァンッ!!!

上条「くっ!」

上条(意外と近くにいた――寄ってきてた?――テロリストは奇妙な動きを見せた俺に警戒し、散発的に撃ってきている)

上条(その間に俺は無傷だったワゴンを派手に引き倒し、盾にする……なってると良いよなぁ)

上条(と、神様でも神裂様にでも祈りながら、俺は手近にあった短剣っぽいのを握り、投げ)

タタタタタタタタタタタタタタタタタッ……!!!

上条(られ、ない!銃弾の雨がこっちへ向かって――)

……

上条(……………………来ない?止んだ?なんで?)

上条(俺死んでる?それとも鼓膜イカれちまったのか?)

上条(恐る恐る、目を開けた俺が見たものは、だ)

上条(左手に何か、小さな破片を握り。俺とテロリスト?の間へ入って――)

上条(――『右腕』を掲げている、”王”の姿だった)



――大英博物館 刀剣類展示場

???「『葦束の民よ、賭けはお前の勝ちだ。見事、この王へ剣を捧げてみせた』」

上条「え、あ、届けた?」

???「『まさか――転んだ風を装い、剣の破片を蹴り寄越すとはな。愚鈍と蔑んだのは間違いだった、許せ』」

上条「……あの、それ」

???「『少々短いが、約定は果たされねばならぬ。天秤の均衡が保たれぬ故に――では』」

上条(淡々と、こっちからは背中しか見えないが、この少年は特に感情を込めずに言っているのだろう)

???「『戦さ場で勲を求めるのもせず、剣も持たず鎧も着ず民草へ暴力を向ける――まぁ、それはよい』」

上条(その性別不明な端正な顔を歪めもせず、ただ戦場での理とやらを)

???「『夜討ち朝駆けは世の習い。英雄としては名折れだが、戦さ人としてアキレウスのカカトを狙うは必定よな』」

上条(鳥の卵は一見して白く美しいものもあるが、その期待は雛が孵る前に酷い裏切られ方をする)

上条(殻を割ろうとする弱々しくも貪欲な生きる力、まだ堅さも足りない嘴によって殻は割られる)

???「『弱き者がより弱き者を選んじて喉笛へ食らいつく。ニンゲンの矜持を忘れたケダモノの仕業だが、嫌いではないよ』」

上条(怒りが、その全身からじりじりと蜃気楼が立ち登るように)

???「『だが、しかし、私が許せんのは――』」

上条(銃を持ったテロリストが武器の存在を忘却するぐらい、強烈に!)

???「『――私へ対する礼を失している事だ……ッ!』」

上条「いやそこ、ツッコむ所じゃねぇから!そこ別に大事じゃねぇよ!」

上条「目の前で人命(俺)が失われそうになってる!そっちを優先するのが筋でしょうが!」

???「『杞憂だな。貴様はこれだけの槍働きをしたりだからヴァルハラへ迎えられる』」

上条「それ死ぬって事じゃないですかコノヤロー」

???「『私の名を知らず!王たるこの身へ畏敬を捧げるでもなく!』」

???「『そして葦束如きに気を取られ、私を忘れるなど万死に値する大罪ぞ!』」

???「『頭を垂れて跪くがよい。王自ら慈悲をくれてやろう』」



――大英博物館 刀剣類展示場

タタタタタタタタタタタタタタタタタッ!!!

???「『――王に鎧は要らぬ。何故ならば王を傷付けるのは罷り成らぬ大罪故に』」

上条(銃弾が豪雨のように降り注ぎ、また散発的に炎や氷?の槍が放たれても”王”は佇んでいた)

???「『――王に剣は要らぬ。何故ならば王が持つものこそが王剣となるからだ』」

上条(俺がパスした剣の欠片……というよりはギターピックにも満たない破片を右手へ持ち替え)

???「『――そもそも王に武具は要らぬ。何故ならば――』」

ズゥンッ…………!!!

???「『――”王”だからだ』

上条(軽く、そう軽く”王”が右腕を横に振るった刹那)

上条(大気が震え見えない圧力が部屋を――恐らく博物館全体へ伝わり、糸の切れた人形のようにテロリストは崩れ落ちた)

上条(四方から飛んできていた銃撃や魔術がやみ、しぃんと静寂が戻る――)

???「『……然りとはつまらぬ雑事よな』」

上条「助かった、っちゃあ助かったんだが……息、してるよな?」

???「『手ずから狩っても良かったのだが、生きて虜囚の辱めを受ける方が屈辱であろう?』」

上条「人道的に!もっと人道的な解決方法を!」

???「『まぁ賊が奪った命がある訳ではなし、天秤は釣り合ったとも言える――』」

???「『――私への無礼を抜きにすればだがな!』」

上条「お前の発火点が分からん。どこぞのパンジャンドラムJCと同じで」

???「『さてと。よき出会いであった葦束の民よ。王の先触れとなれた栄誉、子々孫々語り継ぐが良いぞ』」

上条「『博物館で会った子供と見て回りました楽しかったです』――って、俺の親父が自慢してたら、普通、引くわ」

???「『それでは息災でいるがよい。お前の旅路がいく健やか――』」

上条「――と、待て待て。シメの台詞に入ろうとすんな」

???「『偉大なる玉の旗下から離れがたい心情は理解出来るが、そう悲しんでくれるな』」

???「『天運が導かば遠からぬ内に、天寿を全うするのであればミスラの向かう先で会合は果たされん』」

上条「じゃなくてだ。ここで会ったのも何かの縁だし、連絡先――は、無理かもしんないから、せめて名前だけでも」

???「『……私の名を問うのか?それが何を意味しているのか知らぬ訳でもあるまい』」

上条「あーまぁそれはお前の理屈でさ、俺には俺の理屈がある訳だし?」

上条「別に俺ら敵対してるってんじゃないんだから、知らない人間が何かの縁でバッタリ会って、仲良くなる事だってあるだろう」

上条「だから名前ぐらいは、と思うんだが……どうですかね?」

???「『……名乗るがよい。それがお前に相応しい名前であれば、私も応えよう』」

上条「ハードルが無闇に上げられてる感じがする!……あぁいやだから、そんなに大したもんじゃないってゆうか」

上条「俺は上条当麻って日本人だよ。留学中、か、な?うんっ、きっと多分恐らく勉強のためにこっちへ来てる!」

???「『――――――カミジョウ、トウマ』」

上条「そそ。こっちの礼儀だと当麻が名前で、上条がファミリーネー」

???「『……くく』」

上条「――ム?」

???「『クハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハッ!そうか、そうよな!』」

???「『私を畏れぬニンゲンなどおらぬ!王を王と崇めぬニンゲンなどおらぬ!結論は先から出ていたのであったか!これは盲点ぞ!』」

???「『どこぞの玉胤が妖精かと疑ったが、そうかそうか!貴様かカミジョウ――』」

???「『――神浄討魔!』」

ガッ

上条「な、なに、をっ!?」

上条(俺の喉笛を掴んで物凄い力で引き寄せられる――体格の差なんて無視して!右手一本でだ!)

上条(気が遠くなるように苦しい。両手で振りほどこうとするが、子供の細腕だってのにビクともしない!)

上条(……細腕?これがか?ただの子供じゃないと分かってはいた!)

上条(目の錯覚か、その右腕が一回りも二回りも大きく、そして)

上条(輝いて……いる……?)

???「『戯れに演者の一人として閉じた世界の終った喜劇へ潜り込んでみたものの、僥倖ぞ!』」

???「『だがしかしまだ、まだだ!我らが出会うは必定なれば、それ故に今は秘さねばならぬ!』」

上条(掴まれた所から力が、が、抜け――魔術かよ……っ!?)

???「『It's possible to conceal and conceal it. The thing whose this time is an imitation. 』」
(隠さねばならぬ、露わにしてならぬ、この一時が紛い物である潮を)

???「『The nightmare where the smell of the obsession and degeneration drifts in the bouquet. 』」
(花束の中に妄執と堕落の香りが漂っている悪夢を)

???「『The bridge of magpie has not hung a promised man yet. The meeting with those who think is good though knows not fulfilling.』」
(徒君の男よ、未だカササギの橋は掛からず。背の君の逢瀬は叶わぬと知るがよい)

???「『The contract is exchanged and time to the eloquence to curse the sage who carried out a silence. 』」
(約定が交わされし時も能弁に沈黙を貫いた賢者を呪うがために)

???「『The traveler spills from the journey course regrettably and blessing and falls at time when the cloakroom is undone. 』」
(旅人はクロークを解く手間を惜しみ、祝福は旅路よりこぼれ落ちていく)

???「『Is it a sign of the jest that doesn't allow the wife at night?』」
(一夜の妻を佳しとせぬのは諧謔の業か)

???「『The confederation was exchanged. It's not a dream of hesitating in the smell of providing and the fog of the wing that becomes complete that we fights. 』」
(然れども盟約は交わされた。我らが闘うは比翼の定め、霧の香を揺蕩う夢に非ず)

???「『It doesn't only pass every day of the struggle either, exceed the night of some thousand and the sky of some million, and exist previously that』」
(幾千の夜と幾万の空を越え、その先にあるのもただ闘争の日々に過ぎず)

???「『Show and show it, and burn and show it if there is a life if powerful. 』」
(力あらば示して見せよ、命あらば燃やして見せよ)

???「『The sword is offered in the candlestick, the neck is offered in the dressing table, and, and, I will offer the shamrock to the capital punishment stand. 』」
(燭台には剣を、鏡台には首を、そして死刑台にはシャムロックを手向けよう)

???「『Oh, Its disliked and an ugly,' dear man and anger are raised and raise "Right hand".』」
(あぁ忌々しく醜悪な愛し子よ、怒りを以て”右手”を振り上げよ)

???「『Oh, grasp cursed beautiful man and sorrow that is loved and paved and grasp "Right hand". 』」
(あぁ愛おしく美麗な忌み子よ、哀しみを以て”右手”を握りしめよ)

???「『It doesn't only pass every day of laziness either. creep on the night of some thousand and ground of some million, and exist previously that』」
(幾千の夜と幾万の地を這いずり、その先にあるのもただ怠惰の日々に過ぎず)

???「『The fool who knows too much is foolish ..wiser than the saint of ignorance... Even the moral cannot be understood. 』」
(知りすぎた愚者は無知の聖人より賢しくも愚か。その寓意すら理解出来ず)

???「『It's little and is good though redeems one's pledge by pride and the body if the resignation to which it writhes is dedicated to both balances, and it equiponderated. 』」
(僅かばかりの矜持と身悶える諦念を両天秤に、もし均衡を保っていたのであれば約定を果たすがよい)

???「『Still, if you declare that the fist is pointed at the still worst existence, and the fantasy is killed,』」
(それでもなお莫逆たる存在へ拳を突きつけ、幻想を殺すと言い放つのならば)

???「『I will answer loud voices so ――.』」
(声高らかにこう、応えよう――)

上条(ヤバ……落ち――)




神影ヌァダ(???)「『――――我が”銀腕”を砕いてみよ、ニンゲン!』」







































――???

上条「……」

上条「――ハッ!?ここはどこ!?私は誰っ!?」

上条「……じゃないな。あれ、う、ん?えっと……なんだ?」

上条「今まで何やってたっけか……あーっと――思い出せないな、なんだこれ」

上条「てかここ、どこだ?何かマンションとアパートの間ぐらいの建物の前、でだ」

上条「周りの景色は……番地と地名が英語で書かれてる。外国かっ!……まぁ外国だな」

上条「で、俺の持ってるものは……ビニール袋だよな。聞いた事ない名前のスーパーのロコが入ってる」

上条「ズボンのポケットにはすっかり使い込まれた俺のサイフ。まぁ中身はペラッペラなんですけどねっ!いつものよーに!」

上条「……よし、それじゃ買い物袋の中身から事態を、探ろう!やって出来ない事はない!……筈だ!」

上条「えっと……大量のジャガイモ、やや大量のニンジン、そこそこ大量のタマネギ……」

上条「そして嫌になるぐらいの、肩外れんじゃねぇかなってぐらい重量感を誇る、謎の紙の包み……?」

上条「表面には”beef”とハンコが押されてる……あ、荷物の奥の方に、何か細長い紙箱が」

上条「……」

上条「――全て謎は全て解けたっ!」

アニェーゼ「その心は?」

上条「今日の夕飯はビーフと野菜たっぷりハウ○カレー(中辛)だ……ッ!!!」

アニェーゼ「なにやってんですかい、超何やってんですか」

上条「あ、ごめん、よく見たらハ○スカレー(甘口)だったみたいだわー、ごめんごめん見間違えたわー」

アニェーゼ「いえツッコみどころはそこじゃあなくってですね」

アニェーゼ「てか前回のカレーの日に『か、カレーの中辛だなんて神がお許しになられても、このわたしが許しませんよっ!』と、シスター・アンジェレネが一人ボイコットを敢行しちまいまして」

アニェーゼ「その後は直ぐさまシスター・ルチアから神罰という名の頭ぐりぐりが下ったんですが、まぁそれはさておき」

アニェーゼ「てか何やってんですかい。ウチ”ら”の寮の前で」

上条「寮?あー……そういやイギリスにあるって聞いたっけかな」

アニェーゼ「てっきり変質者だと思ったんで通報しようかと」

上条「……女の子ばかりだと、苦労はあるよなぁ」

アニェーゼ「まぁどっちみち通報するんですが」

上条「あれ?変質者と俺って同レベルで警戒されてんの?」

アニェーゼ「やっですよぉ上条さん、そんな変質者と同じだなんて笑っちまいます」

上条「だ、だよねっ!もう少し信頼されてるよなっ!」

アニェーゼ「――変態は、殺して、いいんですよ?」

上条「やだイギリスの法って超コワイ」

上条「あとその言い方だと俺の方が厄介だって聞こえる!始末できない分だけ!」

アニェーゼ「まぁ立ち話もなんですから、その議題は前向きに善処する方向でカレー作りながら話し合いましょう。手伝いますし」

上条「俺の信頼度はカレー作りながらちゃちゃっと済ませられる程度の話なの?」

アニェーゼ「てかウチには欠食児童も裸足で逃げ出すシスターが何人かいるもんで、まぁそっち優先ってぇ事でお願いしたいな、と」

上条「まぁいいけど――ってよくねぇよ。なんで俺がカレー作る必要が」

アニェーゼ「あーっと、今日の当番上条さんで合ってました、よねぇ?そうですそうです、間違いない」

アニェーゼ「なんせウチのシスター共が、シスター・オルソラと上条さんが当番の日だけ、鍋の底舐めるってぇ勢いでがっつく始末で」

上条「当番?」

アニェーゼ「ま、あ?寮母んなってまだ日が浅い割にゃよくやってると思いますよ?……シスター・ルチア以外はそこそこ評価してんじゃないですかねぇ」

上条「……………………はい?」



とある魔術の禁書目録SS 虚神英雄譚 〜カッシウスの長槍〜 予告 −終−
(※やりません)

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