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Clock(trial)

胎魔のオラトリオ アフターシナリオ”死者の書” 前編


――学校 放課後

キーンコーンカーンコーン……

上条「……」

青ピ「おんやー?どうしたんかいな、授業も終わったちゅーのに!」

上条「……お前か」

青ピ「さぁ暗く冷たい檻からボクらは解き放たれた!いざ世界が羽ばたく時がキマシタワー!」

小萌「……折角のお勉強そんな風に言われるのは心外なのですよー?」

青ピ「具体的には遊びに行きまっさ!もっと具体的にはナンパ!」

青ピ「鬱々とした時代こそボクらかリードしなくてはいけない世界に――」

上条「……」

青ピ「てぇ、どうしたんでっか?さっきから一言も喋らんと、ポンポン痛い?」

小萌「あー……言われてみれば今日は少し元気がないように見えますねー。何かありましたか?」

上条「……まぁ、あったっつーか、カマされたっていうかさ、うん」

青ピ「……そうなん?よくは分からんけど、災難やったねぇ……」

小萌「気を落としちゃダメなのですよ!頑張れば良い事があるかも知れないのです!」

上条「そう……かな?そうだよな、きっと!」

上条「前向きに!あくまでも真っ当な生き方をしていれば、報われるよな!」

青ピ「その意気だぜぃ――”とーまくん」

小萌「その通りなのですよ――”とーまくん”」

上条「……」

青ピ「あんれー?あれあれあれあれ?ここは『お前、土御門の語尾と被ってるよ!』ってツッコミする所とちゃいますのん?ん?」

小萌「ツッコミ役がツッコミを放棄しちゃダメなのです!めっ、なのですよ!」

上条「あのー……ちょ、ちょっといいかな?些細な事なんだけどさ」

青ピ「なんやの?」

小萌「はい?」

上条「二人とも俺の呼び方おかしくないかな?」

青ピ「え、なんですのん?何を急に言い出してますのん?」

小萌「何かおかしい所でもありましたかー?」

上条「や、なんつーかそんなにフレンドリーだったっけ?名前呼びするような?」

青ピ「ペーターのバカっ!」 ビシッ

上条「そげぶっ!?」

青ピ「ボクはそないな子ぉに育てたつもりはないよって!そんな、そんな些細な事に気ぃ遣うなんてぇな!」

上条「お前……」

小萌「ペーターちゃん関係ないのですよ。悪いのはクララちゃんであって」

上条「そう、だよな?俺がきっと気にしすぎなんだよな、うん」

上条「……悪い。なんかこう気が抜けちまったようでさ」

青ピ「ええんよ。誰やっても具合が悪い日ぐらいあるわいな」

小萌「そうなのですよー」

上条「……あぁ!」

青ピ「――で!それはともかく現役のアイドルから『とーまくん大好きっ!』って生告白されてどんな気持ちなん?」

上条「やっぱりそれかよっ!?てか分かってたけどな!」

小萌「異性交遊はよくないのですけど……職員室でも『上条ちゃん、今度は大物狙いに行った!?』って騒ぎになってるのですよ」

上条「狙ってないですね?ていうか職員室でネタにされるぐらいに有名なんですか!?あえて言えば見えざる神の手みたいなねっ!」

青ピ「いやぁ、な?大体もっと早く噂されてんのに気ぃつきませんかぁ?他のクラスからも時々見て来てる奴もおるし」

上条「そっかー!だからかー!」

上条「だから朝っからずっと姫神さんと吹寄さんが俺を道端で死んでる虫を見る目なんだ!てっきりご褒美かと思った!」

小萌「それでご褒美だと思う辺り、上条ちゃんは訓練されすぎなのですよ」

青ピ「つーか今は何やったんよ?怒らないからボクに教えてみ、ほら?」

上条「どう聞いてもフラグにしか聞こえねぇが……まぁ別に珍しい事はしてないしなぁ」

小萌「どこからか強権が発動したらしく、いきなり語学留学の話が出た時には……先生、ビックリしちゃいましたけど」

小萌「フランスのテレビ局で、フランス人へ喧嘩売ってる上条ちゃんを見た時には心臓が止まるかと……!」

上条「あれ!?それ俺がやらかした事になってんの!?」

青ピ「ま、でもアレですやん?親友としちゃアイドルから告られて鼻が高いですよって」

上条「告白……まぁ、ありがとう」

青ピ「――だがしかし、ARISAファンとしては納得いかへんのよ。これが」

上条「お前――まさかっ!?」

青ピ「今頃気づいたんでっか、カミやん。もうこの教室は包囲されてるという事に……!」

上条「そう言えばさっきまで居た姫神達が居なくなって、他のクラスの奴らが入って来てる……まさか!?」

青ピ「……ま、無粋な事は言いっ子なしですわ。シンプルに行きましょーや」

青ピ「ARISAを――このボクらが育てたARISAとの時間を思い知るがいいカミやん!」

上条「ちょっと意味が分からないですね。お布施的な意味でかな?」

青ピ「はっきり言うわ!ARISAのたゆんたゆんをたゆんたゆんたゆんしたければ――」

青ピ「――ボクらの屍を越えて行かんかい!」

ファン一同「イーーーッ!」

上条「お前ら本音がダダ漏れになってる。あとたゆんたゆん言い過ぎでゲシュタルト崩壊しそう」

小萌「プラスして先生をそこへ加えないで下さい。純粋に歌のファンなだけですから」

上条「あ、小萌先生も?」

小萌「はい、なので本来イケナイ事なのですが、サイン的なものを頂けないかなーと思っちゃったりしたりなんかしまして」

上条「他の連中には制限無くなるからダメだけど、小萌先生だったらこっそり」

小萌「――はい、解散!いつまでも学校で騒いでるのはめー、なのですよっ!」

小萌「悪い子は先生が課題を出しちゃいますから、早く帰るのです!」

青ピ「速攻で裏切りおった!?……あぁ、でもそんな小萌先生もキュートやわ……」

上条「お前はもうちょっと懲りる事を憶えるべきだと思うんだよ、いや割とマジで」

青ピ「な、ならこうしません?物理的な暴力はなしで!なんかこうゴールデンタイムにやってる面白くもなんともないパーティゲームみたいなので決めますし!」

上条「暴力ありだったのかよ、最初」

青ピ「ここには校内の濃いARISAファン20人が集まっとる!さぁカミやん!ボクらのファン愛を越える事が出来るか!?」

上条「ファン愛ねぇ……俺は俺でアリサと友達なんだけどな。まぁCD貰ったし……ファンでもあるか」

小萌「勝負はどうするのですかー?暴力だったら黄泉川先生を呼んで制圧してもらいますからね?」

青ピ「それはそれでご褒美ですが――古今東西ゲーーーーーーム!パチパチパチパチっ!」

上条「あぁ、この人数だったらそれが早いかもな」

青ピ「……くくく!甘い、甘いでカミやん!まるで新しいノンカロリーコーラのように甘い考えやわ!」

上条「あれそんなに甘くねーぞ?」

青ピ「ここに残ってるのは校内から選りすぐられた猛者の集まり!ARISAの無駄知識に関しては一騎当千の強者ばかりや!」

ファン達『ぶおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!』

上条「うわぁ……」

小萌「あのぅ、学校はお勉強を優先……なの、ですよ?」

青ピ「ではお題――古今東西ゲーーーームっ!『ARISAの好きなもの、さんっハイッ!』」

パンパン

上条「カレー」

パンパン

青ピ「カツカレー」

パンパン

ファンA「シーフードカレー」

パンパン

〜30分経過〜

上条「……ごめん。ちょっとタイム、これ終わらなくね?千日戦争状態じゃねぇかな?」

青ピ「……言われてみれば――ARISAに死角は無かったもんね!」

上条「嫌いっつーか、お題は好きなもんだった筈だが……大体出そろったよな」

小萌「途中から先生が板書しましたけど、古今東西・和洋中全部出てるのですよ」

上条「そりゃ高校生22人が思い付く限りの食べ物上げれば、まぁ思い付く限りは大体はコンプリートするわな」

小萌「その労力をもうちょっと、出来ればお勉強にですね、その学生なんですし」

青ピ「――甘い、甘いでカミやんっ!ペプ○のストロングコー○のように甘い考えや!」

上条「いやだから、あれ別に言う程は……うん」

青ピ「例えるならば――そう!スーパーのワゴンセールの値下げ商品覗いたら、ニンニンジャ○の黄色い奴が大量に積まれとったわ!」

上条「キニンジャ○の事かぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!?」

小萌「上条ちゃん、ツッコム振りをしてボケ倒してないですかね?あってますか、それで?」

青ピ「ワイのメル友の地元にはゴールデンウィークだろうが夏休みだろうが、黄色系のヒーローしか来やしませんわ!」

上条「あー……ツッコみづらいな!」

青ピ「やっからァァァァァァァァっ!見せたるわっボクらのファン魂を!」

青ピ「ARISAファンとして!ARISAの古今東西ゲームで負ける訳にはいかへんのやで!」

上条「関西弁怪しくなってる」

青ピ「ワイは……男には結果が分かってても前に進まんといかん時があるんよ!」

小萌「一人称も変わってますねー」

ファンA「隊長……そんな、隊長だけにそんな事はさせられません!」

ファンB「そうですよ!隊長にやらせるぐらいだったら俺が!」

ファンC「何言ってんだよ!だったら俺が!」

青ピ・ファンAB「「「どうぞどうぞどうぞ」」」

ファンC「聞いてないよ!?」

上条「ねぇ帰っていいかな?俺帰りにスーパー寄んなきゃいけないんだけど」

小萌「上条ちゃんは相変わらず自活していて偉いのですよ」

上条「というかこれ事前に打ち合わせしてるよな?明らかにコント臭がプンプンするって言うかさ」

青ピ「さぁ、バトルはまだ終わってへんよカミやん!ボクらの男気見ぃや!」

上条「いやだからそれ神戸弁だっ――」

青ピ「――古今東西ゲーーーーーーーーーーーーームっ!お題はARISAの好きなモノっ!はいっ」

パンパン

上条「あー……パス」

青ピ「はいっカミやんアウトー!これでボクらの勝利は決まりましたやん!」

小萌「この後、誰かが答えられなければ引き分けになりますけどねー。先生的にはそっちの方がいいのですよ」

青ピ「では野郎共!生き様を見せたろやないか、さんっはいっ!」

パンパン

ファンA「……か――」

上条・小萌「か?」

ファンA「か、か、か……」

上条「何で溜める必要があんのか分かんねぇんだけど……」

ファンA「――ぐふっ!?」

上条「回答中に舌噛みやがった!?」

小萌「――と、見せかけてドクターペッパーですね」

上条「あぁうん、絵的に似てないですよねー。深い意味もありませんしー」

青ピ「オイっ!大丈夫だ!傷は急所を逸れて――」

ファンA「……あとは――」

青ピ「なんや?何が言いたいんや?」

ファンA「――たの、む」 ガクッ

青ピ「お前――お前ぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!?」

上条「(つーか小萌先生、さっきから思ってたんですけど)」

小萌「(はい?なんなのですか?)」

上条「(ARISA親衛隊ウチの高校支部の連中、誰も名前呼んでませんよね?)」

上条「(って事は多分、”お互いに名前は知らないけど、何となく趣味の話題で盛り上がる”程度の繋がりって事ですかね?)」

小萌「(あぁありますよね。なんかクラス違うんですけど、少し話すみたいな)」

上条「(ちなみにウチのクラスの青髪ピアスの本名ってなんて言うんですか?)」

小萌「(――しっ!上条ちゃんコントが良い所になってきてますから!)」

上条「(まさか小萌先生も把握してない疑惑が!?)」

ファンT「僕は君と一緒だ……どこまでも君と行くよ――かはっ!?」

青ピ「ファンTァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァッ!?」

上条「呼んでやれよ、良いシーンなんだから名前ぐらいは呼んでやりなさいよ」

上条「ていうかアルファベットで20番目なら『ファン”ティ”』で良くね?」

上条「何でファン”タ”になってんの?売り場でジュース買ってってダダ捏ねてる子供みたいになってるからな?」

小萌「あと、そのファンTちゃん台詞はゲームボーイアドバン○の鉄腕アト○(※トレジャ○制作)で、ファンは号泣しそうになったのですよ!」

上条「ゲームボ○イ?なんですか、それ?」

小萌「あ、ほらっ上条ちゃん!青ピちゃんが何しようとしてるのですよ!」

上条「先生誤魔化し方超ヘタですね――っていうか名前を呼んであげて!」

青ピ「……ふっ、カミやん。勝ち誇るのはまだ早いでっせ……!」

上条「勝ってねぇよ。全員ほぼ均等に大怪我してるよ!」

青ピ「ワイは一人に見えるかも知れへん――けれど心や、心の目で見てみぃ!」

青ピ「ファンA、ファンB、ファンC……20人分の魂が耀いてる筈や!そりゃもうギラッギラに!」

上条「濁音……うん、なんか生々しいけど、お前が良いって言うんだったら別に」

青ピ「それはもうパラッパラに!」

上条「チャーハンだよね?イイ感じにご飯がほどけてる感じだよね?」

青ピ「……ファンの心意気!その眼に焼き付けて行かんかい!――古今東ざーーーーーーーーーーーーーーーいっ!」

青ピ「ARISAの好きなモノ――さんっはいっ!」

パンパン

青ピ「……」

上条「……あ、止まった」

小萌「あれですかね。こう、何か目に見えない葛藤的なものなのでしょうか?」

上条「いやぁ、どうでしょう?」

青ピ「――なんじゃこりゃあ!?」

上条「松田優○の殉職シーン始まったぞ」

青ピ「ボクは……こんな所で、こんな所で負けるかい……!」 プルプルッ

上条「なんだろうな。生まれたての子鹿のようなリアクションは見事なんだが、する意味が分からない」

青ピ「――ARISAのぉ、ARISAの、一、一番、好きな――モノ、はっ!」

上条「……」

青ピ「――『カミやん』や……ッ!!!」

上条「……うん?」

小萌「あー……成程なのですよ」

上条「先生?」

青ピ「ボクは!ボクらは確かにARISAの好きなモノやないよ!つーか多分名前も憶えて貰ってもないわ!」

青ピ「握手会に婚姻届持ってった時も、ボクと同じ行動しおったんは結構おったわ!」

上条「ごめん。普通に引く」

小萌「それ以前に”何人か居た”時点で、黄泉川先生の担当になるのです……」

青ピ「カミやん!カミやんはARISAの一等賞になったかも知れへん!またなんかこうラッキースケベを拗らせたんは分かっとるわ!」

上条「俺の評価、散っ々だな!」

青ピ「――そやけど!ファンは!ARISAのファンは!」

青ピ「ボクらが一番や!何故なら――」

青ピ「――そう!カミやんが知らないアイドルとしてのARISAを知っとるさかいに!」

上条「どういう事?」

小萌「『ARISAのファンとして、ARISAちゃんが上条ちゃんを好きなのは認めますよー』、なのですね」

小萌「『でも彼氏彼女じゃなく、ファンとしての知識であれば上条ちゃんには負けないぞ!』と」

上条「……そっか。ありがとな」

青ピ「何を仰いますカミやん!ボクら――トモダチ、ですやんか?」 グッ

上条「そ、そうだねっ!友達、だねっ?」

キーンコーンカーンコーン……

小萌「あ、そろそろ下校の時間なのですよー」

上条「あ、はい。さよなら先生」

青ピ「まいど!……あ、そうそうカミやん、一つ頼みがあるんやけどエエかな?」

上条「おう、何?」

青ピ「同じ事務所でARISAのMCやってる黒髪ロングの子って彼氏居るん?」

上条「ダメダメじゃねぇか!つーか乗り換えるの早っ!?合理的っちゃ合理的だけどさ!」

青ピ「居なかったら電話番号聞いといてくれへん?なんやったら紹介してくれるだけでもエエし、なっ?」

上条「――はい、お疲れー」

青ピ「あ、ちょっ!待ってぇなカミや――」

パタンッ



――昇降口

上条「――つーかさ、お前普通に彼女作る気になんないの?」

青ピ「ボクがでっか?」

上条「土御門もお前も、社交的だし外見もまぁ普通なんだし、普通にカノジョ出来るんじゃねぇのか?」

青ピ「何を仰いますかセンセ!ボクが求めているのは恋やで?」

青ピ「彼氏彼女になるんは目的やないよ!好きな者同士がなるのが先や!」

上条「ま、そうなんだけどな」

青ピ「それでやっぱりカミやんって義妹派?それとも実妹派やったっけ?」

上条「出て来い、なぁ?まずお前は二次元から三次元へのランクアップを果そうか?」

青ピ「いつんなったらミ○さんは出て来るんかいなっ!?」

上条「落ち着け!多分この学園都市だったらそっちの方向で突き進むバカも絶対居る筈だから!」

上条「ていうかボーカロイドを三次元化させようが、歌しか歌わせないんだったら意味無いよね?!」

青ピ「そりゃ……アレですやん?そう――」

青ピ「――ボクだけのアイドルになって欲しい、的な!」

上条「言ってる事はちょっと格好良いけど、それシモだよな?つーかテメェ初○さんに何させるつもりだコノヤロー」

青ピ「イケズやでカミやん。そないにビリビリせんと」

上条「ビリビリはしてないけど――ビリビリ?ピリピリの間違いじゃね?」

青ピ「そうやろか?でもいや、ほれアレ見てみぃよ」

上条「見る?なんで?」

青ピ「やっから、アレや。アレ。校門んトコ」

上条「んー……?」

御坂 ビリビリビリビリッ

上条「スッゴイビリビリしてますよねっ!ていうか物理的にスポォアァァク(※巻き舌)させてますしね……ッ!!!」

青ピ「やなぁ。まるで自分の友達へ手ぇ出した悪い野郎を成敗しに来よった感じや!」

上条「的確な状況説明ありがとう。でもこれ詰んでるよね?」

青ピ「――何を仰いますやら上条はん!」

上条「舞妓さんになってんぞ」

青ピ「今こそ我らの無双の友情を見せつける時やおまへんかっ!」

上条「友情……そうだね、友情って何だろうな。世界全部敵に回しても、信じ抜く事だよな、きっと」

青ピ「この場はボクに任せて先へ行きぃや!」

上条「その心は?」

青ピ「たまにはボクにも出会いが欲しいねん」

上条「あぁうん。予想を裏切らないよねー……って、海原ん時に一回すれ違ってる筈だけど……?」

青ピ「ささっ、カミやん!銃後の守りは完璧や!」

上条「……それじゃ頼む」

青ピ「おうさっ!」



――学校 裏口

上条「……」

上条(――と、さっさと逃げて来ちまった訳だが。いいのかな?)

上条(御坂の用件は確実にアリサ関係だと思うが……)

上条「……良し!先送りしよう!君子、危うきに近寄らずって言うじゃない!」

マタイ「そうだな。それは正しい」

上条「だよなっ!別に逃げてる訳じゃないぞ!」

マタイ「だが危うきの定義に拠るのではないのかね?逃げ先にはもっと大きな落とし穴が口を開けて待っているやも知れぬ」

上条「分かってさ!つーか俺の人生そんなんばっかだ、よ……?」

マタイ「こんばんは、で、合っているかね?」

上条「あ、はい。どうも」

マタイ「息災そうで佳きかな。ほんの数日前の話だというのに、な」

上条「あー、確かに。何か数ヶ月も戦ってた気がするよなー……って、マタイさん帰っちまったんじゃ?」

マタイ「最初から私はここに居ないさ。気軽に出歩けなくて困るよ」

上条「良かったらウチ来ます?今だったらレッサー達もまだこっちへ居るみたいですし、アリサも呼んで打ち上げ出来ると思いますよ?」

マタイ「厚意には礼を言おう……しかし、そう諸手を挙げて感謝されると遣りづらくもある」

上条「何が?」

マタイ「これからしようとしている事が、だ」

上条「はい――か……ッ!?」

老いた聖堂騎士「……」

マタイ「……では、行こうか」



――倉庫?

上条「――はっ……と?」

マタイ「申し訳ないのだが、場所を移させて貰ったよ。少しばかり内々の話をしなくてはいけないからね」

上条「……ここは?」

上条(LEDの蛍光灯――矛盾している言い方だが――が規則的に並ぶ天上、積み上げられたダンボール……つか見覚えのあるカップメンの箱だ)

上条(どっかのスーパーかコンビニの倉庫?しかも俺は縛られてもないし、なんで?)

マタイ「心配は要らない。君の家の直ぐ近くまで運ばせて貰った」

上条「聞きたい事はごまんとあるんだが」

マタイ「――の、前に私の話から聞いてくれ給え。それが回答となる」

上条(目が慣れてくると……マタイさんの背後に、これまたじーちゃんが立ってるのが分かる……)

上条(誰だろう……?なんかドラキュラっぽい格好してるが……)

マタイ「結論から言えば『死人が徘徊している』らしい。分かるかね?死人だよ、死人」

上条「お、おぉ?セレーネの話は終わったんじゃ?」

マタイ「一柱は眠り、一柱は去り、一柱は失せ、一柱は種を撒く」

マタイ「魔神が世界から手を引いた事で、暫しの猶予を得て訳だが、それで全てが元通りになった訳ではなかった、という話だ」

上条「死人……具体的にはどういう?」

マタイ「分からん。全く分かってはおらぬ。こちらのリィ卿が微弱なマナを感じ取り、追跡に入った瞬間に消えた」

マタイ「従って害があるのもかも、また土へと還ったのかも分からず仕舞いだ」

上条「――分かった。それを俺達が調べればいいんだな?」

マタイ「こういう件に関しては”だけ”は察しが良くて佳い」

上条「随分な言い方ですよねっ!……てか、アレだろ?学園都市で好き勝手出来ねぇとか、アウェイだから動きづらいとか、そういう話なんだよな」

マタイ「然り。だが、私の経験上あまり時間を掛けない方が佳いだろうな」

上条「なんでまた?勘みたいなもんか?」

マタイ「では、なく……『抑えが効かない』んだよ」

上条「……はい?」

マタイ「イギリス清教がそうであるように、ローマ正教もまた一枚岩とは行かぬ。多様性があるのは佳い事ではある」

マタイ「が、科学サイドとの『開戦』を望む者も居り、正直持て余しているのだよ」

上条「あー……」

マタイ「よって然るべく速やかに、且つこちらにも納得の出来るような形で決着を望む。でないと抑えきれない」

上条「……りょーかい。なんとかやってみるよ」

マタイ「頼む。私も戦いたく――は、ない、とも言い切れないがね」

上条「いい加減自重しろ。あと年相応の生き方をしよーぜ!」

マタイ「と、言われてもな。この街には我が逆縁たる”木原幻生”が居る」

マタイ「幸い魔神討伐の戦力がほぼ無傷で残っている上、学園都市内部まで易々と来られる機会はもう無いであろう」

マタイ「この老いぼれと引き替えにあの悪魔を滅せるならば、それはそれで佳いかもしれん」

上条「確実に第四次世界大戦になるから止めて下さい!……え、だったら?」

マタイ「最悪、私が何をしなくとも『そう』なる可能性がゼロではない、という事だけを憶えていれば結構だよ」

上条「相変わらずタイトな綱渡りだよなぁ……」

マタイ「健闘を祈るよ」

上条「レッサー達の力を借りてもいいんだよな?」

マタイ「友情は佳きかな。然れどそれが友情かは不明であるか」

上条「分かってるよチクショー!頼れば頼る程、つーか借りを作れば作る程色々と断りづらくなるってな!」

マタイ「産めよ増やせよ。それもまた佳い」



――カラオケ店

上条「――と、いう訳なんですけども」

鳴護「『――I Really Really Really Really Really Really Really Really Really Really Really Really Like You!』」

ベイロープ「……」

上条「ですのでね、どうにも魔術的な知識に乏しい私どもと致しましては、やっぱりは餅は餅屋、みたいな感じでですね」

鳴護「『――I Really Really Really Really Really Really Really Really Really Really Really Really Like You!』」

フロリス「……」

上条「こうお任せしたい所存で御座いまして、えぇはい」

鳴護「『――I Really Really Really Really Really Really Really Really Really Really Really Really Like You!』」

ランシス「……」

上条「……どう、でしょうか?ダメ?」

レッサー「……いやあの、上条さんの案件は理解もしましたし、私もまぁ首突っ込んでやろうとは思うんですが」

レッサー「ただその、無駄に高い歌唱力でカーリー・レイ・ジェプセンさんの新曲を熱唱しているアリサさんが気になって気になってしょーがないです」

上条「無駄言うなや。現役アイドルやってんだから」

フロリス「てかこの歌詞と歌うタイミングに『相当溜まってんジャン』って思うよネー?」 チラッ

ベイロープ「たくましくなったのは良い事よ。それがきっと届いていないだけで」 チラチラッ

ランシス「……てか、気づいてない?」 チラチラチラッ

上条「おっと君達っ人を意味ありげにチラチラ見るのは止めて貰えないだろうかなっ!」

レッサー「ちなみにアリサさんがなんつってるか分かります?」

上条「あ、ごめん洋楽聞かないから」

レッサー「アレですなぁ、昨日テレビ見てたら着うたで告白する、みたいなCM流れてましたけど、バカが相手だと通じないんですよね」

レッサー「議論なんかもそうですが、議論される方にも一定の知性が無ければ論破されてた事に気づかないと」

上条「全くその通りだな。良い事言ったよ!」

ベイロープ「真っ正面から毒を吐かれてるのに気づ……いや、この場合は気づかない方が?」

フロリス「天然はこれだから恐ろしい。や、ワタシは別に関係ないんだケドさ」

ラシンス「被害者友の会としては、もう少し……ね?」

レッサー「語学留学という名目の紐無しバンジーを敢行した挙げ句、辛うじて日常会話程度の英語ならはナントカ出来るのに」

レッサー「歌だからと敬遠してしまうのはどうかと思いますが」

上条「悪かったなチクショー!毎日聞いてるとヒアリングはどうにかなるけど、流石に歌ってるのを一回で聞き取るまでには上達しねーよ!」

レッサー「……まぁ確かに。日本人でもほっともっ○入った時、店内ソングが洋楽だったらしいんですよ」

上条「なんの小話?」

レッサー「注文終らせて、椅子に座ってぼーっとしてたら、”かかっていた曲が普通のJpopだった”時の衝撃度と言ったらもう!」

上条「老化だよ。それオッサンが『若い子の音楽』でテクノとトランス一緒くたに語ってんのと同じ事だわ」

レッサー「ちなみにアリサさんが荒れているのは『半泣きになるぐらいお姉ちゃんが怖かった』とのお話です」

上条「あー……シャットアウラさんなー」

レッサー「そりゃまー現役アイドルがですねぇ?ぶっちゃけタレントとしての生命の危機――と、本人含めて思ってたらしいんですが」

上条「”が”?」

レッサー「一部の先鋭的な、ぶっちゃけ握手会へ婚姻届を持参する層以外は、『まぁやっぱり?』的な反応だったようですよ」

上条「婚姻届……マジだったんかい!」

レッサー「昨今の流行りである『コイツ誰?』的な芸人に持って行かれるよりは、マシだと思ったんでしょうなぁ」

上条「お前妙に日本の事詳しいよね?なんの影響?」

レッサー「主にもふもふからですが何か……まぁ、ともあれ企画の主旨は理解しました。承るしかないでしょうな」

ベイロープ「学園都市側からの依頼じゃないのよね?あくまでもローマ正教ってのが引っかかるけど」

レッサー「あ、報酬は頂きますんのでご安心を!」

上条「その言い方止めろ!何を要求されるか分かったもんじゃねぇから!」

上条「……あ、なんか言ってきたら『鎌が報酬たからね!宜しくね!』ってマタイさん言ってたし!」

フロリス「あー……アレなー。なんつーかアレだよなー」

上条「なんか微妙なん?」

フロリス「”教皇級”が長年愛用してた霊装を、ワタシらが持って直ぐに使いこなせると?」

フロリス「『念願の剣を手に入れたぞ!』っつーRPGじゃあるまいし、手に入れて即威力発揮出来るなんて有り得ないジャン」

ランシス「相性的にはレッサーが持つのが……だけど、『爪』よりも応用力が低いし、悩み所」

レッサー「暫くは霊装の解析待ちですけど、RPGに耐えるならば『攻撃力は高いが回避率が落ちるから使いにくい』でしょうかね」

上条「……あぁうん。ゲームと違って、俺らは攻撃が当たれば死ぬし、死ななくても戦闘不能になるもんな」

上条「だったら大きすぎる武器を振り回すよりは、コンパクトな物に絞って回避した方がいいか」

ベイロープ「セレーネの時みたいに背水の陣だったらば、まだ分かるし」

ベイロープ「他にも『相手に攻撃される前に殺せばヒャッハー!』みたいなコンセプトだったらまだしも、ロマンがあるネタ武器としか」

上条「それ、レッサーさん好きそうだよね?大好きだよね?」

フロリス「あれジャン?ジョン=ボール自体が『後の無い農民のオッサン』だった訳だし、取り敢えずATKに全振りしとけ、みたいな?」

ランシス「……でもその当時は霊装じゃなく、ただの鎌だった筈だけど……?」

レッサー「誰一人として私を擁護しない事実に少し凹みつつも反論しますが、流石に私だって現実とフィクションの境は分かりますよ」

レッサー「将棋も嫌いじゃないですが、現実は往々にしてチェスですからねぇ。対応しないといけませんな」

上条「つー割にはカーテナん時、あっさりし過ぎてた気が……?」

レッサー「あの時はエロそうな顔とエロそうな右手を持った東洋人に追いかけられ、気が動転してましてね」

上条「そっかー、お前も大変だったよな――で、取り敢えずここで殴り合うかな?それとも表?」

レッサー「断言しますし、反省はこれっぽっちもしていませんが、あの時『騎士派』へカーテナを預けたのは間違いではないと」

上条「てか聞こうと思ってたんだが、『カーテナ』の場所をお前らが把握してたんだよな?」

レッサー「はい。正確にはもふもふがですけどね」

上条「指示されてやってたのか?」

レッサー「ではなく、話を持ちかけてきたのはキャーリサ王女殿下で、持ちかけられたのはベイロープです」

フロリス「……ワタシはやりたくなかったんだよナー。いや今だから言うケドさ」

ベイロープ「お黙んなさいな。つーか当時からブーブー言ってたでしょうが!」

ランシス「まぁ、『騎士派』繋がりで、色々とあった……それが?」

上条「ん、あぁいや大した事じゃないんだが、計画とか全部マーリンさんがやってんのはどうかなーと」

レッサー「意外かも知れませんが、もふもふの教育は基本放任主義でしてね」

レッサー「学芸都市もそうだったように、私達の”課外活動”についてアドバイスをくれる事はあっても、あまり止められはしないですよ」

上条「全く以て意外ではないかな。むしろ好き勝手やった結果、伸び伸びと育ち過ぎちゃったよねと納得するぐらいだ」

レッサー「――まっ!締め付けがない方がよく育つとも言いますがね!」

ランシス「おい、一体ワタシのどこを見て言ってるのか、はっきりさせようじゃないか?なぁ?」

上条「まぁまぁ――で、そのマーリンさんはどこ行ったん?つーかお前らお疲れ会の後にさっさと姿を消してたみたいだし、またなんかやってんの?」

レッサー「えっと……ですね、まぁそれはそれ、これはこれと言いましょうかね」

フロリス「折角学園都市へ来たんだから、やりたい事とかあるジャンか?」

上条「あぁ観光な。納得納得」

ランシス「いやぁ……新しいアジト作り」

上条「何やってんの!?もう一回言うけどお前ら何しやがってんの!?」

ベイロープ「個人的な友情はさておくとしても、ローマ正教も学園都市も信用出来たもんじやないし、いざって言う時に準備しておくのは大切よ」

上条「うん、だからな。どうしてお前らはこう発想が世紀末なの?アメリカさんにあんま強くは言えないよね?」

上条「ていうかウヤムヤにする気満々だろうけど、『ハロウィン』の件でキャーリサとアックアは服役してっからな?言っとくけどさ」

上条「そもそも俺らの旅の結論、人を信じようって結論になんなかったっけ?」

鳴護「『当麻君が好き勝手するんだったら、あたし達もいるけどいいよね?』じゃなかったけっ?」

上条「アリサさんお疲れ。熱唱すんのは個人的には嬉しいんだけど、カラオケ屋でやり過ぎるとギャラリー集まるから注意な?」

鳴護「……無理だと分かってたけど、正面からスルーされるとそれはそれで……」

上条「――と、じゃあじゃあマーリンさんもアジト探しなのかなっ!きっとそうだよねっ!」

レッサー「その勢いで押し切ろうとしてますます傷口を広げる芸風はリスペクトすらしていますが……まぁもふもふは違いましてね」

上条「放任主義も結構だが、どっかでトラブルに巻き込まれて、とか?」

レッサー「あーいえいえ、そういうんでもないんですよ。えっと……この間のお疲れ様会、私途中でお手洗いへ行きましたでしょう?」

上条「同意を求められてもな……」

レッサー「そん時、『ドリンクバー連れてってぇよ!』と宣っていたので、手を洗う所に置いて、私は用を済ませたのですが――」

上条「が?」

レッサー「戻ってみたら、こう影も形も見当たらず。えぇそれっきりと」

上条「探してあげてぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!?」

レッサー「いや大丈夫ですって!あぁ見えてたくましいですから!」

上条「扱い悪すぎんだろう!?そういや会計ん時一人居なくて、『あ、マーリン逃げやがったな』と思ったのはそれかっ!?」

上条「つーかごめんなさい先生っ!俺の早とちりでした!」

レッサー「残機も大量にあるので、本体に何かあったとしても問題ありませんし?」

上条「……いや、うん、そのな?お前らもう少し、こう、扱いをですね」

上条(旧い魔神なんだよな。セレーネと同じ地母神系だっつーのにこの扱い……惨すぎる!)

レッサー「や、それがいいヤサを見つけちゃったんですよ!まるで誰かが使っているかのようにキレイな感じの!」

上条「住んでんじゃね?ていうか少なくともこの街で所有権が決まってない所なんて無いと思うぞ」

レッサー「ですので、こう些細な問題は後回しと言いましょうか。それとも先送り?」

上条「知らん知らん。誰か迎えに行けよ、カラオケ屋さんに捨てられる前に」

レッサー「まぁでも死人、死人ですか。こらまた厄介ですな。つーか面倒臭い」

上条「そうなのか?」

ベイロープ「死人……と、されているタイプは大まかに分けると”ゴースト”系と”ゾンビ”系。神話別にすればもっと増えるわ」

上条「肉体を持っていないのと持ってるタイプ?」

レッサー「極めて大雑把にすればその通りです」

ベイロープ「元々はギリシャ神話の女神が繋いだ『あの世』で、また甦ってきた死人も準拠するんであれば――」

鳴護「あ、次、フロリスさんの曲です」

フロリス「本場のアシッド・ジャズを聞かせてやるぜ!」

ランシス「いいぞー……」

上条・レッサー・ベイロープ「……」

上条「……あのぅ……真面目な話をね、してるんですけどね」

ベイロープ「あんまりね、そのあの子達は座学が好きじゃないし、うん」

レッサー「取り敢えず私が対抗して脱ぎましょうか?」

上条「誰に?誰にどんな意味で対抗すれば全裸になるの?」

ベイロープ「ともあれ、ギリシャ神話の死人だったら肉体を持ったタイプが多いし、体を壊せば事件は解決する……と、思う」

上条「ゾンビってヤツか」

ベイロープ「実際のゾンビはブゥードゥーの生ける死人の意味だし、ゴーストも昔は別の言葉が使われてたし、あくまでも便宜上ね」

レッサー「ですがしかし、これが十字教系と混じってしまえば超面倒臭ぇですかねー、これが」

上条「混じる?混線的な意味で?」

レッサー「えぇはい。セレーネの事件で魔神が日本の術式、それも日本風土記を使ってやがりましたし」

ベイロープ「そもそもで言えば魔神がクイーンズ話してた時点でおかしい。喋るならギリシャ語よね」

上条「俺には日本語に聞こえたが……まぁ、そういうもんなんだろう」

レッサー「ですので実際に異教の神がグローバル()な魔術を使っていましたし、変な思い込みは危険ですよねぇ、えぇえぇ」

上条「……その”混じる”と具体的にどんな問題が?」

ベイロープ「例えば……ギリシャ神話での冥界はタルタロス、ハーデスと呼ばれているのよ」

上条「タルタロスは知ってる。でもハーデスって神様の名前じゃなかったっけ?」

ベイロープ「だったのだけれど、後に冥界自体をハーデスと呼ぶようになり――っていうかタルタロスも元は巨人の名前ね」

レッサー「あんましデカいんで、他の巨人や迷惑な魔獣を押し込めてるウチに、気がつけばタルタロス=冥界の別名に」

上条「なんか居たたまれない話だな、タルタロスさんとハーデスさんに」

ベイロープ「でもこの二つはギリシャ神話だけじゃなくて、十字教の聖典にも出てるのよ。同じ『冥界』って意味の単語で」

レッサー「有名なのはゲヘナとヒンノムですが、シェオルやハーデスとも新約聖書に出て来ます」

上条「……つーことは、ナニ?もしかしたら”そっち”と混ざる可能性も……?」

レッサー「充分に有り得るでしょうなー。しかも十字教の死人って超メンドクセーんですよ」

上条「お前さっきから連呼してっけど、そんなにか?」

レッサー「えぇはい。ギリシャ神話の方はデメーテルみたいに、基本出て来ても悪さはしないですから、まぁ許せるっちゃ許せるんですが」

レッサー「ヘブライ系となると……聞いた事ありません、『レギオン』って?」

上条「あー……はいはい。あの小学生にトラウマ植え付けるポケモンボー○な」

レッサー「例えがディ・モールト不適切!ですが、そのセンス嫌いじゃありません!結婚して下さいっ!」

上条「――それはともかく、レギオンは”ゴースト”系なんだよな?」

レッサー「私のクリティカルなプロポーズが流されたっ!?」

鳴護「それが渾身だと思って……いやなんでもないよ」

ベイロープ「そうね。だから基本的に実体を持たないし、人や獣に取り憑くわ。しかも自殺まで追い込むわで、面倒なのよ」

レッサー「ゾンビならば物理的にグシャグシャボーン!と、お見舞いしてやれば簡単ですからねー」

上条「確かにそうだな……てかマタイさんの言ってた『途中で魔力が消えた』のも、誰かに取り憑いたと考えれば納得がいくか」

ベイロープ「『朝日を浴びて消えた』とか、『魔力が尽きて消えた』のも選択肢ではあるけどね」

上条「……ん?あれでもおかしくないか、この話」

レッサー「笑っちゃいますよね−、あっはっはっはー!」

上条「レッサーさんリアクション間違ってるわフライングだわで何一つ合ってないよ!ないよっ!」

ベイロープ「どうしたの?」

上条「うん、だからさ。十字教が余所様の神話の神様を引っ張って来たり、他の神話の世界観を持って来てんだよな」

上条「よく中二病拗らせて大人になりそこなった連中が、『十字教の悪魔は他の神話の神だったんだ!』と今更情報を垂れ流すし」

上条「だったらこの”死人”もギリシャ準拠になってゾンビ系、つーかもっとぶっちゃければ穏やかなモンになんじゃなかったのか?」

レッサー「あーそれは十字教特有の事情がありまして。てか上条さん、おかしいと思いませんでしたか?」

レッサー「『今回の件、ローマ正教がやけに好意的だな』って」

上条「……マタイさんがいい人だから……?」

ベイロープ「過去異端審問会と呼ばれていた、人類史上最悪の処刑部隊で半世紀近くトップをやった人間がなんですって?」

レッサー「前教皇さんの人柄を否定はしませんがね。あー……十字教の『神の子』の逸話ってどんだけご存じですか?」

上条「どんだけ……クリスマスに産まれたのと、『罪人へ石を投げるんだったら罪のない人がしなさい』……ぐらいかな」

レッサー「……なんかこう、嫌な所撃ち抜きますね。相変わらず」

上条「はい?」

レッサー「ま、それも含めてなんですが――復活しやがったでしょう?神の子?」

上条「あー……あったなぁ。そんな逸話も」

レッサー「キモは”そこ”でしてね」

上条「どこ?」

レッサー「『神の子は死した後にまたこの世へ復活しもうた。よって神の子はいと高きあの方の御子に相違ない』と、ここまではいいですよね?」

レッサー「”奇蹟”を起こす事により、神の子は神の子だと何よりも雄弁に証明して見せた。それはまぁ良しとしましょう」

レッサー「――ですが!ここで問題となってくるのは、その”奇蹟”の方ですよ」

上条「や、実際にやったかとどうかはともかく、他に誰にも出来ない事をやって見せたんだから、スゴイ力持ってますー、のアピールになってんじゃねぇの?」

レッサー「そこです、そこ。その『誰にも出来ない事』です」

レッサー「確かに死者蘇生は凄い――いや、『凄くなければいけなかった』と」

レッサー「『むしろ誰にでもホイホイ起こせるような”奇蹟”であってはいけない』」

レッサー「『死者の蘇生はいと高きクソッタレのみが成せる至高の業なのだ』――でしょうかね」

上条「つまり……『十字教の神様”以外”は完璧な蘇生はしちゃダメだよ』的な話か?」

ベイロープ「それで産まれたのがレギオンみたいな『肉を持たず、不完全な蘇生を遂げた悪霊』よ」

レッサー「また稀に肉を持ったまま黄泉帰ったとしても、話の通じないゾンビのようなパターン”で、なければいけなかった”んですね」

上条「理解はするが……納得しきれない」

レッサー「てかさっきの『罪を犯した事の無い者だけが罪人へ石を投げよ』の、話にも繋がるんですが、時々我々とのギャップに気づきませんかね」

レッサー「なんてんでしょうかね、こう、なんか妙に話や価値観がズレる的な感じで」

上条「うん、レッサーさんとは割としょっちゅう。貞操観念的な意味で」

レッサー「いやー一本取られましたね!こやつめー!」

ベイロープ「はいそこネタに走ろうとしない。終ってからにしなさい、ボケるのは」

ベイロープ「そうじゃなく。カルチャーギャップって言うか」

上条「んー……と、あるとすれば――みょーになんかこう、人権関係でアレ?って思う事はあったりする」

上条「政治的な話になっちまうってのも今更だが、死刑制度廃止にする一方、変な所で日和ったり」

レッサー「それも実は『十字教的な価値観』が根底にあったりなんかするんですよね」

レッサー「『人は人を裁く権利はない』は罪人投石云々がモロに影響してますし、死刑に関しても復活云々が実は密接に」

レッサー「所謂”審判の日”には死者が全員蘇り、神の審判を受けるとされています」

レッサー「従って『どうせいつの日か、神が裁くのであれば人が人を殺める必要はない』と」

上条「んー……分かった、気がするけど。そこまで十字教的な価値観が浸透してるモンなのか?今なら『関係ないぜ!』みたいな奴らも多くないか?」

ベイロープ「それは逆に日本人にも言いたいのだわ」

上条「俺らに?なんで?」

ベイロープ「『人は死んだら何も残らない』。『悪い事をすれば回り回って自分へ帰ってくる』。他には……」

レッサー「『神なんて居ない』も、ですよ」

上条「当たり前だろ、それは」

レッサー「うん、ですからね。『今のは完璧なぐらいにブディスト(仏教徒)の価値観』なんですよ、えぇ」

上条「……はい?」

レッサー「あなたが今まで疑いもせず、そしてまたこれからも当たり前のように持ち続けるであろう『価値観』はブディズムですよ――」

レッサー「――『私達から見れば』、そう見えると言うだけの話です」

上条「あー……なんか分かった。理解した。価値観ってのは無意識の内に”なってる”もんなんだな」

レッサー「積み上げた文化と言い換えても良いですがね。ま、そんな訳で」

レッサー「日本人が落とし物を交番へ持っていくのと同じように、はたまた道で迷っている人に親切にするように」

レッサー「十字教圏で生まれ育った人間達にとって、『死者の復活』なんてーのは、そりゃーもう罪深い訳でしてね」

上条「その割にハザー○とかデッドライジン○とか人気だし、そもそもゾンビ映画の発祥はそっちだったような……?」

レッサー「『禁忌に触る事が最大限の恐怖』なんですよ。むしろ禁忌が強ければ強い程に恐怖の対象でもあります」

レッサー「例えば豆腐を食べてはいけない教団の方にとって、豆腐小僧はどれだけ恐ろしい事か……ッ!!!」

上条「弩級マイナーな妖怪さんの話をされてもな……」

ベイロープ「そうね……えっと、ギャングエイジ……日本語では知らないけど、小中学生が少し悪ぶる年頃があるわよね」

上条「思春期、反抗期……あぁあと中二病か」

ベイロープ「その年頃には色々と悪ふざけ――ま、後から思い出すと叫びたくなるようなアレコレをやったり言ったりするの」

ベイロープ「その一つとして悪魔的なモノを崇めてみたり、と」

上条「どこでも症状は変わらないんだよなぁ……」

レッサー「――と、お思いでしょうが、あちらだと割と大問題へ発展します。例えばとあるバンドマンが『僕達は神の子より有名だ』と宣ったり」

上条「あー……日本じゃ、『あぁうん、そう、かもな?ガンバレよ?』と、良くも悪くもスルーされるか」

レッサー「似たように子供が頑張って反抗期カマすんですが、とあるアジア人がホームステイ先で見たのは、実に微笑ましい中二的なアレコレだったとか……」

上条「……まぁ基本タブー無ぇからな。あっても面倒臭い所を乗り越えれば、それなりに生きていけるし」

レッサー「魔術の話へ戻しますけど、ヤポンじゃゴーストの恋に落ちるのはよくある話!中には子育てするゴーストもいるじゃないですか!」

上条「そう言われると混沌としているような……?」

ベイロープ「ついでにローマ正教は”そういうモノ”の集大成みたいなもんだし。場合によっては本格的に鎮圧へ乗り出すでしょうね」

上条「どうせだったら日本型のゴーストになってほしいもんだが……取り敢えずの基本方針はなんて?」

レッサー「マタイさん方が感知したログはおありですよね?魔術師組はそこを中心にローテを組むのが妥当でしょうな」

レッサー「ウチには魔力感知のプロが居ますからねっ!」

ランシス「……ぐっ」

上条「路上でアンアン言ってる絵しか思い浮かばない……!つーかちょっと見たいぜ!」

鳴護「……当麻君、本音がダダ漏れになってるよ」

上条「お帰りー。つーか熱唱は終わりか」

鳴護「いやそのね、フロリスさんが――」

フロリス「『――Fly me to the Moon――』」

鳴護「――って独唱へモード入っちゃって」

上条「……マーリンさん、よくこいつらをまとめたよなぁ……」

ベイロープ「……あと、私もよ」

上条「うん、はいお疲れっ!」

レッサー「そこでお二人して私を生暖かい目で見るのは嬉しくないんですが――ま、その間には科学サイド組は別の仕事をして貰おうかと」

上条「魔術の役には立ちそうにないしな。いいけど具体的には何をすればいいんだ?」

レッサー「ま、そっちも地元の治安維持組織さんへ顔出して貰って、ここ数日おかしな事はなかったかを調べ貰っちゃって下さい」

レッサー「ネットの噂も良いですが、やはり一線で体張ってる方々から情報を仕入れるのがベストかと」

鳴護「白井さん、手伝ってくれるかなぁ?」

上条「……うん、きっと満面の笑みを浮かべながらやってれるよ!誰かさんのお陰でなっ――と、調べる?」

レッサー「はいな」

上条「範囲は?もしくは具体的に何を調べれば良いんだ?つーかこんカオスっぷりに拍車がかかってきた学園都市で”おかしな”っつーのも、なぁ?」

上条「つーかさつーかさ。もしなんか重大事件が起きてて、そこへ俺がノコノコ出向いてったらさ」

上条「まさにカモネギの如く、実にスムーズな流れで俺が犯人にされちまうんじゃ……?」

レッサー「――まっ!それはやっぱり地元の方でないと分からないでしょうし、お任せしますよっ!」

上条「ねぇレッサーさんどうしてキミ俺と視線を合わせないのかな?ねぇなんで?」

レッサー「――はいっ!と言う訳で各自解散っ!あ、上条さんはローマ正教から貰ったデータの転送をヨロシクっ!」

上条「えっと……アリサさん!アリサさんなら俺に付き合ってくれる筈……っ!」

鳴護「ごめんね、当麻君?嫌じゃないんだけど、門限があって」

上条「……あぁ過保護なお姉さんの」

フロリス「ま、デモあんま深刻に考えなくていーと思うぜ?」

上条「お前また勝手な事言いやがって!」

フロリス「いやマジ話さ。だって死人がやらかしてんだったら、もっと大きな事件なり事故なりになってる筈だしー?」

フロリス「そもそも”大きな事件”だったらば、ワタシらへ任さずローマ正教が戦力で潰すっしょ?それこそ嬉々としてサ」

上条「あー……魔術師は超々個人主義だもんなー」

フロリス「なんだったらワタシがついていっ――」 ガシッ

レッサー「――はいっと言う訳ですね!そちらはお任せしますんでねっ!」 シュタッ

ベイロープ「それじゃ、また」

ランシス「……ん」

フロリス「ちょま――!?」

上条・鳴護「……」

上条「えっと、今不自然な連行があったよ――」

鳴護「な、なかったよ!」

上条「はい?」

鳴護「不自然な所なんてなかったもん!」

上条「お、ぉおぅ……そう、かな?」

鳴護「それよりも!当麻君はお仕事任されたんだから頑張ってねっ!」

上条「ん、あぁそうだな。取り敢えずはそっちが大事か」



――放課後 路上

上条「……」

上条(……さて、賑やかだったアリサ達と分かれ――つーかアリサさんに至っては送迎の車が来やがったよ――路上に佇む俺だったが)

上条(目下の問題は”死人”。その調査方法は魔術的・科学的な方法からそれぞれに、と決まった訳だ)

上条(魔術的なのはレッサー達が。そして科学的な側面からは俺が!まさに適材適所だよねっ!)

上条「……」

上条(……うん、まぁアレだよな!初春さんへ頭を下げてお願いしに行くだけなんだけどなっ!)

上条(そして芋づる式に初春さんから佐天さんへ情報が流れ、最終的にビリビリにビリビリされる未来しか……!)

上条(そもそもだな、こう、科学のサイドと言おうが基本的に人様の組織頼り。しかもコネ頼みっつーのがだな)

上条(そして何よりもモニョるのが基本借りっぱなしで何も返せていない……!)

上条(友達……うん、友達って言い張るには薄い繋がりだし、知り合いではあるんだよな。まぁまぁ)

上条(ビリビリの知り合い兼佐天さんの親友で、言う程なんか話してるって訳でもないし?そんなに気軽に頼っていいのか、と言われれば……むぅ)

上条(さて、どうすれば……)

上条「……うん、先送りにしようか!今はもっと大切な事があるんだよ、きっと!」

上条「今、優先すべきなのは――」



――カラオケ店

ピンポーン

上条「どもー」

店員「っしゃいあせー。お一人ですかー?」

上条「あ、いえ違います。今日はちょっと」

店員「ぼっちですかー?」

上条「それも違ぇよ!つーか言ってる内容はさっきと同じだ!」

店員「しゃっしゃいしたー」

上条「……もう同じ日本語喋ってると思えない……!」

店員「て、あれ?お客さん、一週間ぐらい前に来なかった?ほら、女の子イッパイ連れてさ」

店員「メチャクチャルームサービス頼んだ人っしょ?俺担当だったもの」

上条「ん、あぁ多分俺達だと思う」

店員「いいよなー、あんだけたくさん居たのにどしたの?今日は一人でカラオケ――って、あぁ修羅場かなんか?」

上条「あー、違います。そうでなくって」

店員「あーいーよいーよタメで。どうせお客さん学生でしょ、俺と同じ?」

上条「俺はいいがお前はダメだろ。接客的に――ってそうじゃない。えっと、忘れ物無かったかな?」

店員「あーはいはい。そっちね、ちょっと待ってな」

上条(チャラい店員はカウンターの下から段ボール箱を取り出す)

店員「サイフじゃないんでしょ?だったらここの中に――」

客A「すいませーん。お会計いいですかー?」

店員「――ある、から。探しててな。つーか他にはないし」

上条「ありがとう、ございます」 ゴサゴソ

上条(カウンター横のスペースで段ボール箱を開け……あぁ中にはハンカチやタオル、ポーチ?やトートバッグのような物が多い)

上条(街の雑貨屋さんで売ってそうな『これ、どこ製?』の時計とか、ヘッドフォン、ケータイのストラップらしき物が雑多に詰め込まれているが……)

上条(……俺の探している”モノ”は見当たらない)

上条「(マーリンさーーーん……?居たら返事しろー……?)」 ボソッ

店員「――で、どう?見つかった?」

上条「いや全然っ!他には無かったんですかっ!?」

店員「他にって、忘れ物聞いてねーけどさ、お客さんケータイとかサイフじゃ無いんでしょ?だったらそこにしか入れてない筈」

上条「……そか。ちなみにケータイとサイフだったらどうなるんだ?」

店員「風紀委員か警備員へ直で渡すって規則があんだよ。誰にどう悪用されっか分かんねーし、拾ったヤツがババを引くかもしんねーし」

上条「拾ったヤツが?なんで?」

店員「『このサイフには10万円入れといた筈だ!でも何も入ってない!そうだ、拾ったヤツが盗んだんだろう!』――ってクソみてーな話がたまーに」

店員「なんつーの?当たり屋みたいな感じ?」

上条「あー……それは善意で届けた方も気が悪いわなぁ」

店員「だーかーらー間にしっかりとした連中に入って貰ってーの、トラブルを無くす訳だと」

店員「お客さんも気ぃつけた方がいいんじゃね?何か変なモノ拾って不幸を背負い込みそうな顔してっから」

上条「……インデックス、姫神、御坂妹、風斬、オルソラ、サラシ巻いたおねーさん、バードウェイ、トール……!」

店員「なんでお客さん指折り数えながら泣きそうになってんの?」

上条「……一応聞いとくけど、白いぬいぐるみ落ちなかったかな?こう、犬のような、日曜朝のファンシー系マスコットのようなカンジの」

店員「ぬいぐるみねぇ?ケータイのストラップについてるんじゃなかったら、その箱に入ってんのが全部だわな」

上条「そうか……」

店員「一週間より古いのだとあっかもしんないけど、一応見てく?

上条「いやー……いいや。ありがとう。ま、その内見つかんだろ」

店員「どう致しまして――って、あぁお客さんちょっと聞きたいんだけど、いいか?」

上条「はい?」

店員「結局、あん中の誰が彼女なの?」

上条「俺だって知りたいわコノヤロー!」



――風紀委員 第177支部

上条「――と、いうワケで初春さん!」

初春「は、はい?」

上条「何も言わずに機密情報を教えてくれ!」

初春「速やかにお引き取り下さい。あ、出口はあちらですので」

上条「待ってくれよ!?あんまりな対応じゃないか!?」

初春「開口一番、『問答無用で職務規程を破ってほしい』と言われた私もあんまりだと思うんですが……」

上条「……じゃあ、理由話したら協力してくれる?」

初春「ご協力出来るかどうかは分かりませんが、私達風紀委員は困っている方を助けるお仕事をしていますよ」

上条「そうなの?何かこういつもいつも学園都市存続の危機レベルの事態に首突っ込んでるものとばかり」

初春「ヤダナー、ソンナコトアルワケナイジャナイデスカー」(※超棒読み)

上条「だ、だよね?時々ネットニュースで大事件が取り上げられるけど、その中で良く出る”すんごい髪飾りの風紀委員”って初春さんじゃないもんね?」

上条「あくまでも噂だけどトム=クルー○張りの映画アクションを強いられてたなんて話ないもんねっ!」

初春「――と、とにかくですね!私達風紀委員は全員がボランティアとはいえ、むしろそれ故に高い倫理を要求されますの!分かりますよねっ!?」

上条「は、はい」

初春「ですからこう安易に情報を流してはいけない――と、いう一面もあるのですが、また同時に善良な学園生の味方でもありまして!」

初春「常識的な範囲を逸脱しなければお助けするのも吝かではない、ですよ」

上条「よっ!流石はジャッジメント!外から来た人に『”ですの”ってやって!』とせがまれるだけはあるぜ!」

初春「……すいません。さっきから私の精神を削るのは止めて貰えませんでしょうか?地味に堪えるんですが」

上条「うん?俺なんか変な事言った?」

初春「ここら辺の鈍感力は佐天さんと組んで番組出来るって感心しますけど……それで、ご用件をどうぞ?」

初春「迷子の猫ちゃんの捜索や人捜しに道案内に喧嘩の仲裁、あなたの風紀委員は色々とやらされてますよー……」

上条「……あぁはい、苦労してんですね」

初春「かと思えば合体変形ロ――いや、なんでもないです。気にしないで下さい。あれはなかった事になると思いますんで」

上条「戻って来い初春さん!瞳から光彩が消えかかってるから!」

初春「あぁ失礼しました。つい」

上条「頼み事をしに来た俺が言うのもなんなんだけどさ、もう少しお休みや人員を増やした方がいいんじゃないかな?なんだったら俺も手伝おうか?」

初春「それだけは勘弁して下さい!?学園都市史上初のレベル5ジャッジメントが出来ちゃったらどうするんですかっ!?」

上条「犯罪減りそうじゃん?」

初春「あ、だったらいいですかねー」

上条「ごめんなさいっ!もうおフザケしないから帰って来て!」

白井「うるさいですわよ初春。一体どうしたっていう――」

上条「あ、白井さん。お邪魔してます」

白井「あら上条さん。お姉様がお探しでしたわよ?」

上条「待ってくれ違うんだよ!これはきっと敵の魔術師(レッサー)の攻撃だっ!」

白井「その、小声で仰ったレッサーさんに心当たりは御座いませんが、安心して下さいまし。黒子は突き出すつもりはありませんから」

上条「そ、そう?ビリビリにチクらない?」

白井「あ・のっ!アリサさんの熱烈な告白を見ましたら、ねぇ?」

上条「……いやだからあれは!」

白井「お姉様も意地になってる所がありますし、一度きちんと話されては如何――と、何を不思議そうな顔をされているので?」

上条「……いやー、白井とまともに喋ってんの初めてだなって思ってさ」

白井「失敬な。こう見えても正真正銘の常盤台のお嬢様ですのよ」

上条「その割には車椅子で殴りかかってきたりしてなかったか……?」

初春「白井さんは難儀な人ですが、基本的には常識人ですからねぇ」

白井「んまっ!?初春まで!」

初春「ま、白井さんのお話はさておくとして――そろそろ本当に何をしにいらしたのか、聞きたい所なんですけども」

上条「あぁ丁度いい。出来れば白井にも協力してほしいんだが……その、さ」

上条「最近、ここ一週間ぐらいの間におかしな事起きなかったか?」

白井「それはまた随分と漠然的な質問ですのね」

初春「あー、はい。あれですか?佐天さんとやってる深夜番組の――って、それだったら佐天さんが私へ直接聞きますかー」

上条「うん、別件。なんでかは……まぁ、オカルト的な話だから聞かない方がいい」

白井「科学の街でオカルト……眉唾ですわね」

初春「もっと具体的にはどんな感じでしょうか?範囲が広すぎて、こうお役に立ちそうな情報を絞り込めそうにないですし」 ピッ

白井「むしろ”そっち系”のお話でしたら、佐天さんへ訊いた方が早いかも知れませんわ」

上条「あー……確かに。それも手段としちゃありか」

初春「デマに付き合わされた挙げ句、『ホンモノ』を引く可能性だってありますけどねー」

上条「むぅ……どうしたもんかな」

白井「あくまでも、と前置きをした上でわたしくし達の感想で言えば……それほどトラブルはありませんでしたわよね?」

初春「でしょーかね。能力者同士のいざこざはいつもの通りですし、変な誘拐犯もふつーに出てますし」

上条「……風紀委員のお仕事お疲れ様です」

白井「というか普段よりも少なかった、気がするですの。なんとなく、ですけど」

初春「そうですねー。そういえば迷子の猫ちゃんを探す依頼もありませんでしたよね」

上条「その部分だけ聞いていると和やかで結構だが……そっか、分かったよ。ありがとうな二人とも」

白井「いえお役に立てず」

初春「佐天さんに私が聞いておきましょうか?きっとノリノリで調べてくれると思いますよ?」

上条「あーうん、他に手がなくなったらお願いするよ――って、そうそう」

上条「落とし物とか無くし物の担当も風紀委員でやってんだっけ?だったらちょっと別件で聞きたい事があったんだ」

初春「お財布とか金銭的な価値を持たないものであれば、ウチの担当ですね。何か無くされたんですか?」

上条「知り合いがね……知り合いを、か?」

白井「何を小声でブツブツ言ってますの?」

初春「さぁ?なんでしょうねー」

上条「あぁっと、俺が探してんのはだな。こう、ぬいぐるみなんだよ」

上条「なんつったらいいのか、ぶっちゃけ謎生物かつファンシーっぽいので」

初春「へー?上条さんにもそういう趣味があったんですかー?」

上条「だから俺んじゃないって。知り合いのだ」

白井「落としたのはどちらで?」

上条「XX学区、多分カラオケ屋周辺」

初春「だったらウチの子とは違いますねー、良かったー」

白井「ちょっと初春。わたくし達が不謹慎な発言は慎まないといけませんのよ?例えそれが類人猿相手であっても!」

上条「白井に罵られて、ちょっと安心している俺がいる――ん?ウチの子?」

初春「あ、それじゃ見ます?これ、なんですけど――」

マーリン「……」

上条「……」

初春「YY学区の路地裏に泥だらけで落ちてたんですよー、なんかこう酔っ払いのおじさんみたいにやさぐれて」

初春「見た瞬間たまらなくなって拾って来ちゃいました」

白井「お風呂へ入れてキレイにするのは良い事ですけど、持ち主が来たらきちんと返すんですのよ?」

初春「わかってますよー。でもきっと一週間も放置されてますし、この子はもうウチの子にするって決めたんですからー」

上条「えっと……初春、さん?」

初春「あ、それでですねー、ここを押すとー」

マーリン「……」

初春「あ、あれ?壊れちゃったのかな?ここを、ぎゅっと押すと喋るんですよ」 ギュッ

マーリン「『オイ鬼太○!』」(※デス声)

白井「……えっと、そんなデス声でしたかしら……?」

初春「……もっと綺麗な声で『ワイ、マーリン!ブリテン一の魔術師やで!』って言ってくれたんですけど……電池がないんでしょうかね?」

マーリン「『ダイター○カムヒアー!』」

上条「……必死で他人のフリしてる所悪いんだけどさ、バレてるから。これ以上ないぐらいの勢いでバレてるからな」

上条「つーかお前みたい謎生物そんなにホイホイ居るわけねーだろ!常識的に考えろや!」

白井「どうなさいましたの?」

初春「ぬいぐるみに話しかけて……?」

上条「……あぁ心配ない。俺は正気だから、白井さんは通報しようとしてんの止めて?俺が大丈夫じゃなくなっちゃうから」

上条「心配はいらない。こんな事もあろうかと!俺はレッサーからお前の擬態を解く合い言葉を教わってる!」

マーリン「……」

白井「……初春、類人猿さんがついに……!」

初春「どうしましょう?誰に通報すれば……」

上条「俺どんだけ信用ないの?せめてビリビリの知り合い枠でフォローしてくんねぇかな?」

初春「御坂さんもある意味電波を受信出来るので、そのお友達かな、と」

白井「初春、結構言いますのね」

上条「――ともあれ!行くぞ!覚悟しやがれ!」

マーリン「……」

上条「白井っ、バーン!」

白井「指でっぽうで撃つ仕草……お姉様がよくやるのに似てますわね」

上条「初春さん、バーン!」

初春「えっと……はい?」

白井「あぁもしかしてあれですの?関西の方が『バーン!』って振ると、『やーらーれーたー』みたいな」

初春「ケンミンショ○やローカル関東番組でよくネタ検証してますねー……って上条さん、ウチの子はただのぬいぐるみなんですが……」

上条「そしてーーーーーーーーーーーーーーーーーッ――!」

マーリン「……」 ソワソワ

上条「――ふー、疲れたー」

マーリン「ってぇせーへんのかい!?『バーン!』するかと思ぉて待っとぉたんのに!こんなオイシイボケ振らへんて!」

マーリン「鬼っ!悪魔っ!高千穂っ!アンタには人の血ぃが流れてへんのかいな!」

マーリン「『あぁもうこれはバレてんなー、しゃないなー、つーかワイの神々しいオーラは隠せへんかったわー』」

マーリン「『――やけども!どうせやったら派手なリアクション決めとぉわ!それが浪速のオンナの生き方や!』」

マーリン「『よっしゃガヴェインの最期の再現しとったるわ!派手に殉職したるで!』――って思っとぉたのにスルーかーーーーーーーい!」

マーリン「つーか誰や!?こないなヒドイ芸人殺し上条はんに入れ知恵したんは!?ワイがオシオキしたるさかい出て来んかい!」

マーリン「――ってこのネタ、レッサーに教えたんワイやないかーーーーーーーーい!ルネッサーーーーーーンスッ!!!」

初春・白井「「……」」

上条「何やってんの?お前何やってんの?」

上条「確かにレッサーの扱いは悪すぎるとは思うが、どこをどうシライ2(前方伸身宙返り3回ひねり)したら初春さんのマスコットに収まってんだよ、なぁ?」

マーリン「や、違うんよ?つーかちゃうやん、そーゆー事じゃないねんな。うん」

マーリン「これはあれやで?誤解されるかもやけど、初春さんは何も悪くないんよ!いやマジで!」

マーリン「やから!責めるんやったどうかワイだけにしときぃ!ワイは誰の非難やっても受けるわ!」

上条「途中からさも初春さんが悪そうな流れに持ってくんじゃねぇよ。つかそれでいいのか地母神の切れっ端」

マーリン「ワイの担当ここちゃうし?」

上条「てか何やってんの?姿見ないなと思ったらなんで初春さんちの子になってんの?」

マーリン「……や、これにはや。泣くも涙、語るも涙、涙涙の物語がな」

上条「泣くと涙ってカブってねぇかな?」

マーリン「ワイ、な。決めたんよ」

上条「何を」

マーリン「……ワイ、初春さんのチの子ぉになるわ!」

上条「……はい?」

マーリン「人って産まれて来たからには理由があるんよ。誰かのために戦ぉたり、誰かを育てるっちゅー使命を負うねんな」

マーリン「時には道ぃ外してもぉてバッサリ斬られもぉても、それはそれで英雄の誕生に一役買うんよ」

上条「はぁ」

マーリン「ワイも約1500年、このボディを使い始める前からだと4000年か。そんだけ多くの子ぉらを導いて来た……やけども!」

マーリン「……ワイは知ったんよ!今までのワイの経験はこの子ぉのために培って来たもんやって!確信をや!」

上条「うん、具体的には?」

マーリン「初春さんプリキュ○にしたら人気出ると思わへん?あとワイもマスコットとして新たな人生をやね」

上条「……えっと、ちょっと待ってな」 ピッ

マーリン「なに?どしたん上条はん?ピコピコで何探してるん?」

上条「……っと、これか。えっと――こほん」

上条「りん、ぴょー、とー、しゃー、かい、じん、れつ、ざい、ぜん?」

マーリン「早九字やね。そんなに棒読みでやっつけの密教呪、”レッツゴー!陰陽○”以来初めて見とぉわ」

マーリン「てかその『右手』、こっち向けよぉの良ぉないよ?うん、ワイにとっては銃口を向けられる的な意味が――」

上条「――消え去れ悪霊よ!『幻想殺し』!」 ペタッ

マーリン「ぎにゃああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!?」

マーリン「……」 クテンッ

上条「……ふう」

白井「……あのー?今の一連のコントは一体なんでしたの……?」

上条「これでもう安心だ!このぬいぐるみに憑いていた悪い妖怪は除霊した!――ような気がする!」

初春「えっと……?」

上条「霊装としてはもう使えないから!これからは大事にしてやってくれよ!じゃなっ!」 パタン、タッタッタッタッ……

初春・白井「「……」」

白井「……なんでしたの、今の?」

初春「……なんなんでしょうね−、今の?」



――路上

レッサー『あー……それでですか。だから急にこっちの残機が動き出したと』

上条「『霊装として壊れたぬいぐるみはそのまま預けちまっていいかな?』」

レッサー『それは構いませんが、今の外見はエロゲのマスコットキャラなのでお忘れなく』

上条「『……まぁ初春さんが気に入ってんだし……後からそれとなく言っとくわ』」

上条「『ちなみにマーリンさんはどうだ?あんま責めないでやってな』」

レッサー『分かってます分かってます。苦しまずに一撃で仕留めるように前向きに努力したいと思いますので』

上条「『曖昧な返答だわ処刑前提だわで突っ込む所多すぎるだろ!?』」

レッサー『ともあれそちらさんの情報は伺いました。”何もなかった”のは、あまり嬉しくはないですよねぇ』

上条「『どういう意味?』」

レッサー『本当に何も起きてないのか、それとも巧妙に隠されているのか……難しい所です』

上条「『何事もないなら越した事はない筈だが……!』」

レッサー『そう悠長に構えてても、いざなんかあったら真っ先に巻き込まれてヒドい目にあう上条さんっ流石ですよねっ!』

上条「『言うなよ!俺だって逃げたくなる時だってあるんだからな!』」

レッサー『とーもーあーれー、そちらの事情は把握しました。引き続き自称その筋の専門家さんへコンタクト取ってみて下さいな』

上条「『いいのか?大切な情報は隠されてる可能性もあんだぞ?』」

レッサー『話を聞くに、もし何か大事件が起きていればご友人方とのんびり話す暇もないんじゃないかな、と』

上条「『あー……風紀委員の主力だもんな。駆り出されて当然だし、なんか疲れてる感じもなかったか』」

レッサー『そしてぇぇぇぇぇぇっ!こんな事もあろうかとジャッジなんとかさんへ潜り込ませていた我らのエージェントからも同じ報告が!』

上条「『偶然だよね?君らがマーリンさんをぞんざいに扱ってただけだもんな?』」

レッサー『――おぉっと!電波が――ジジッ――悪い――ジジジッ』

上条「『ノイズ音を口で言って――』」

レッサー『それではではではっ!またアジトにてお目にかかりましょう!アデュー!』 プツッ

上条「『”では”が妙に増量中だが……』って切りやがったよ」 ピッ

上条(ふーむ。”ホウレンソウ”はきちんと果たしたし、もふもふもあっちへ戻ったと)

上条(立場上マーリンさんの中の人は介入するつもりがないみたいだが、まぁこれで落ち着く所へ落ち着いた)

上条(……個人的にもふもふが主犯じゃねぇかなって思ってたはのナイショだ!今も少しは可能性があると疑ってるが!)

上条(……と、ネタはともかく。佐天さんへ連絡をしなきゃいけない)

上条(あの子は間違いなく良い子なんだが、色々な所が残念すぎる!主にフラグ管理とセーブ無しでボスへ突っ込む所がねっ)

上条(「お前が言うなよ、お前だけは言うなよ」ってツッコミが聞こえそうだけども!俺には何の事か分からないなっ!) ピッ

佐天『――もしもし?』

上条「『佐天さん?上条ですがちょっと今話せるかな?』」

佐天『ええっと……はい、大丈夫ですよ?都市伝説の事ですよね?』

上条「『あぁ初春さんから連絡行ってたんだ?』」

佐天『うえ?次の特番の話じゃないんですか?』

上条「『……』」

佐天『……』

上条「『――そうだねっ!次の特番の話かも知れないよねっ!』」

佐天『なーんか面白そうな事隠してませんか?あたしのレーダーに引っかかるんですけど』

上条「『友達!友達が学園都市に来ててさ!それで少し興味あるっていうかね!』」

佐天「『また女の子ですよね?』」

上条「『”また”と女の”子”に悪意しか感じねぇんですがコノヤロー』」

佐天『否定しやがらない所がまた女の敵ですよねっ!』

上条「『緊急事態だから!そのお話は後に回して貰っていいでしょーかねっ!?』」

佐天『今上条さんが置かれている事態に興味津々ですが……まーはい分かりました。お話は初春からもメール受けてますし』

上条「『知ってたじゃねぇか』」

佐天『一週間縛りとなると……あぁありますね。丁度イキのいいのが入ってますよ』

上条「『いやだから、キミ場合によっては犯罪になるんだし不謹慎……』」

佐天『――”客の消えるブティック”って知ってます?』

上条「『なんとなくは……グロい都市伝説でしょ、確か』」

佐天『まぁまぁまとめますと、ある日旅行先であるブティックへ入りました。しかし友達は試着室へ入っていきましたが中々戻って来ません』

佐天『気になって試着室を開けてみると――そこには誰も居なかったのです!』

佐天『現地の警察にも訴えましたが相手にして貰えず、結局友達はそのまま失踪扱いになりました……その数年後』

佐天『別の友人が「消えた友人らしき人が写っている写真」を見つけたという話を聞きつけ、その友人へ詰め寄ったのですが中々見せようとしません』

佐天『「見ない方がいい、絶対に!」と渋る友人から写真を引ったくり、消えた友人は今どうしているのかと写真を覗き込むと――』

佐天『そこには四肢を切断され、ダルマになって見世物にされた友人の姿が写っていたのです……!』

上条「『……やなオチだなぁ、知ってたけどさ』」

佐天『ちなみにこういう怪談では”溜め”を作るのが大切ですんで、余所様で話す時、もしくは聞く時には注意してみるといいですよ』

上条「『誰に向かってなんのアドバイスしてんの――って待て待て。違くね?』」

佐天『あぁ「古い都市伝説じゃないか」、ですよね?いや、そうなんですけど、違うんですよ』

佐天『その、このお話のキモはアレな姿にされちゃうって所なんですが、そっち繋がりで一つ』

上条「『嫌な予感がする!聞きたくねぇ!』」

佐天『あー”その”心配はいらないですよ。ってか”そんな”事件が起きてたら初春達も大忙しですから』

上条「『いやでも噂なんだろ?人が消えるか、改造されっちまう話なんだよな?』」

佐天『それもブッブー!です。ていうか都市伝説というよりかはゴシップ系のお話ですかね』

上条「『話がよく見えないんだが……結論は?』」

佐天『あー、でしたら見た方が早いかも知れません。今どちらに?』

上条「『ちょい前まで初春さん達の支部で話聞いてた所』」

佐天『もっと具体的には?』

上条「『あーっと、向かい側の、一階にファミマ入ってるテナントビル前――って、そこまで詳しい位置情報要る?』」

佐天『そっちは……えぇ、はい、友情的なアレでして――はい、オッケーだそうですよ』

上条「『で、その場所言わせるって事はなんかあるのか?』」

佐天『XX学区にですね、あるんですよ――』

佐天『――”ニホンダルマ”ってお店が……ッ!』

上条「『……はい?』」

佐天『超絶悪趣味だと思いませんかっ!?あたし的にはオッケーですが!』

上条「『店……店、なんだよね?店舗、お店、ショップの、店?』」

佐天『そーですよーっ!なんでも一見コンビニ風でありながら中へ入ると怪しげなオカルトグッズの数々が!』

佐天『噂ではたった昨日まで倉庫だったのに、一夜にして忽然と現れたという未確認情報も!』

佐天『またそのイメージを覆すように!店員さんは可愛らしいラクロス?だかクリケット?だかのユニフォーム着たガイジンさんですって!』

上条「『……ヘー、ソウナンデスカー』」

佐天『しかも”アタリ”の店員さんが居れば、事細か且つフレンドリーにアレコレ相談になってくれるそうですよ!』

上条「『……ふーん?店員さん、店員さんなぁ。他になんか特徴はないのかな?』」

上条「『こう、ヘアバンド着けたりだとか、一部に金髪ウィッグみたいなのつけてたりだとか?』」

佐天『……ありゃ?上条さんどうしてそれをご存じで?』

上条「『知り合いだから、かな?よりぶっちゃけるとソイツらに紹介するために佐天さんへ訊いてんだよ!』」

佐天『ミイラ取りがミイラ、とはよく言いますけど、その子達もまさか都市伝説を生む方へ回るとは……!』

上条「『……うん、まぁ聞けてよかったよ。情報ありがとう』」

佐天『いえいえ、あまりお役に立ちませんでしたが――つてもし良かったら引き続き調べときます?』

佐天『猫の手ぐらいにはお役に立てると思いマスですよ、にゃー』

上条「『佐天さんその鳴き声あんま外で言わない方がいいと思うよ?具体的には変なオブション憑くから』」

上条「『――て、今日はやけに親切だな……?』」

佐天『あー、いややっぱり分かっちゃいますか?実はですねー、隠していた事が一つだけありまして。そのお詫びで、はい』

上条「『隠してた?一体何――』」

???「――見つけた」

上条「ッ!?」

佐天『えっとですねー、あたし的にもARISAさんのDAI・TAN告白は驚きだったんですが――』

佐天『――やっぱりその、きちんと会ってお話ししたいという友達がですね。はい』

バチッ、バチチチチチチチチチチチチチチチチチッ!!!

上条「大気が――周囲の電子機器が帯電している……ッ!?」

佐天『まぁ取り敢えず誘導したんで、後はお若いお二人でって、事で一つヨロシクー!』

上条「『待てよテメェっ!?何俺んトコまで死神ナビゲートしやがってんだァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァッ!?』」

佐天『と、都市伝説については!不肖この佐天涙子の名にかけて調べときますんでっ!それじゃご武運をっ!』 プツッ

上条「あぁクソ切りやがった!?どーすんだよこの状況!出て来いよ責任者――」

???「うん、そういうのいいから、ね?」

上条「ビリビリ、さん……?」

御坂(???)「うん、どうしたのそんなに震えちゃって?まるで猛獣を見るような目で」

上条「いやあの違うんだよ!話を聞いてくれよ!」

御坂「そうよね、話し合いは大事よね――」

御坂「――『最期』になるかも知れないから、しっかり言えばいいと思うわ。悔いのないように」

上条「まず最初に!俺はARISAのEUツアーへ頼まれてついて行ったんだよ!マネージャ的な仕事の一環としてだ!」

御坂「うん。その話は知ってるわよ」

上条「そう思ったらユーロトンネルん中でドロドロネバネバの怪物達に襲撃されたんだ!女の子と一緒に戦ったけどさ!」

御坂「うん?」

上条「そうかと思えばフランスへ着いたらトカゲ人間達と深夜のスタジアムで追い回されたし!別の女の子と一緒に撃退したけども!」

御坂「……うん」

上条「イタリアへ入れば入ったで、夢の中で命を賭けた探偵推理ごっこをさせられる羽目になったよ!また別の女の子と一緒に乗り切ったが!」

御坂「……えっと……」

上条「イギリスへ舞い戻って敵の本拠地へ乗り込めば、変態双子と邪教集団を相手もしたな!違う女の子と一緒に解決したんだけどもだ!」

御坂「……」

上条「頑張って頑張って学園都市へ戻ってみれば、月の海で死して眠っていた魔神が復活して地球は静止するし!」

上条「でもアリサや『新たなる光』の女の子達の力を借りて!俺達は勝ったんだよ!ただそれだけだ!」

御坂「……」

上条「――って話、信じられる?どう?」

御坂「ワケないわよね?」

上条「ですよねー、あはははははははははははっ!」

御坂「……」

上条「はは、はははは……」

御坂「そろそろいいかな?」

上条「良くないですっ!まだ死にたくありません!」

上条(考えろ、俺!何か方法はある筈だ!)

上条(事実をほぼ包み隠さずに言ってもダメ――ほぼ詰んでるが!)

上条(そのためにも今は一端逃げて!ビリビリの怒りが収まるまで隠れれば!)

上条(……けどなんて?どうやってビリビリの気を逸らせようか?下手な言い方をすればオシオキが処刑へ変わるかも知れないし……)

上条(俺が知ってるビリビリのイメージで、なんか気を引けそうなもの――つったらアレか。アレしかないか)

上条「あーーーーーーーーーーーっ!?あんな所に――」

御坂「通じないわよ。てかいつの時代だと」

上条「――可愛い子猫がいるーーーーーーーーーーーーーー!」

御坂「マジでかっ!?どこに!どこに居るのよっ!?」

上条「ダメ元でやったのに食いつきいいな!?今のウチに――」



――路地裏

カツカツカツカツ

御坂「……」

ガタッ

御坂「――誰……ってポリバケツか」

ポリバケツ「……」

御坂「……」

御坂「探さ、ないと――」

カツカツカツカツ……

ポリバケツ「……」 パカッ

上条「……ふう、行ったか……!」

上条「俺を甘く見たなビリビリ!まさか俺がゴミバケツの中に潜んでいたとは分からなかったようだな!!」

上条「ポリバケツはポリ塩化ビニルで作られているから電気を通しにくい――つまり!ビリビリのレーダーからも逃れられるって訳さ!」

上条「生ゴミがスッゲー臭いけど!お嬢様育ちのビリビリにこの発想は見破れまい!」

上条「……」

上条「……うん、臭いよね。何やってんだろ俺……」

上条「ゴミバケツん中で勝利宣言……どう見ても負けてるだろ。コールド的な大差をつけられてだ!」

上条「……まぁいいや。今日はもうどっかでフロでも借りるか、公園で体洗って帰ろ――」ムギュッ

上条「――う。ってかなんだ?さっきから俺なんか踏んでるみたい……?」

女の子「……」

上条「………………屍体だぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!?」

上条「運が悪いのもいい加減にして下さいよもうっ!つーかシチュ的に第一発見者=犯人じゃねぇかっ!」

上条「今度は何か?あ?アズカバンにでもブチ込まれんのかよっ!なあぁっ!?」

上条「……」

上条「……いやしかし、三食メシは出るし家事炊事をしなくていいし」

上条「何よりもラッキースケベで困る事はない………………成程な!」

女の子「何が……ナルホドか、分からない訳……?」

上条「生きてたっ!?」

女の子「勝手に……殺す……な……」

上条「どうしたっ!?どっかケガでもしてんのか!?待ってろ、今救急車呼んぶからな!」

女の子「……おなか……」

上条「痛いのかっ!?」

女の子「………………へった」

上条「……あん?」

女の子「おなか……へった、わけ……」



――夕方 自宅(上条のアパート)

女の子 ガツガツガツガツガツ……

上条「あー……っと、な?メシ食うのはいいし、俺の部屋を占拠するものいいんだけどさ」

上条「半分は俺の分だから、残しといて欲し――」

女の子「グルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルッ!」

上条「オーケー!分かったよ!それはお前の分だから物投げようとスンナ!」

上条(あれから……ゴミバケツの中で女の子を拾ってから、大変だった……)

上条(お互いにカブトムシのような臭いはするわ、しかも公園で洗ったぐらいじゃ取れる筈も無く)

上条(俺は情報収集をさっさと切り上げて自宅へ戻った訳だが……オプション付きで)

上条(ポリバケツ子(仮名)さんをどうしたらいいものか、つーか拾っちまったものは仕方がないんだよ、うん。それは分かるだろ?)

上条(だが!だからといって救急車を呼ぶでもないし、どう見ても訳ありの子をそのまま放置するのも後味が悪いし)

上条(……てか憶えてないんだが、インデックス拾った時の俺もどうして通報しなかったんだろう?普通に考えれば救急車と風紀委員のお仕事なのに)

上条(……はっ!?まさかエロ目的で――って、それはないな。それだけはない)

上条 クンクン

上条(……つーか臭ぇな。公園で軽く洗ったのに落ちる筈もねぇが)

上条(てかこの子、よく食えるなこんな所で――うん?) クンクン

上条(なんの……香料だろう?花っぽい香りが微かに――)

女の子「――おかわりっ!もう一杯っ!」

上条「ねぇよ。ウチにある食材全部食いやがったよ」

上条「……てかインデックス居ないから油断していたけど、こんなトラップが待っていようとはな!」

女の子「ちょっとー、人をトラップ扱いは感じ悪い訳よ?」

女の子「こう、小汚い家へ超絶ぷりちーなあたしが来てやったんだから、五体投地して有り難がるのが筋って訳だし」

上条「ぷりちー()、超絶()」

女の子「半笑いに超ムカツク訳」

上条「てかそもそも小汚いの半分以上はお前のせいだよ」

女の子「あー……暫くお風呂に入ってなかったしねー。そんなに臭う訳?

上条「俺はお前がカブトムシの化身であっても驚かないレベル」

女の子「――お風呂借りる訳ねっ!あ、あと覗いたら殺すから!」

上条「覗くとか()」

女の子「……さっきからちょくちょく見下した笑いが入るけど、それは一体なんなの?」

上条「お前そりゃ現役アイドルや洋タレ顔負けの――って何でもないです!気にしないで!」

女の子「はっきり言うと?」

上条「もつと高いレベルで見慣れてるから、『ちょっと可愛いかな?』ぐらいにしか思わない」

女の子「言いやがった訳ね!こう見えて脱いだら超すっごい訳よ!」

上条「ヘー、ソウナンデスカー」

女の子「むっきーーーーーーーーーーーーーーーっ!信じてない訳!?だったら見せてやろうじゃない!」

女の子「このあ・た・し・のっ!脚線美を!おっぱいは成長途中にあるけども、その将来得るであろう美貌の一部を!」

上条「……」

女の子「……」

上条「どした?」

女の子「ちょ、ちょっと聞きたい訳だけどさ?あんた高校生よね?」

上条「だな」

女の子「夜遅くないとはいえ、オトコの家にか弱いあたしが居る――はっ!?これってピンチが貞操っ訳か!?」

上条「いや、別にそういうつもりは。あとお前の日本語スゲーな」

女の子「近寄らないで!不幸がうつる訳!」

上条「不幸関係ねぇだろうが!お前オレのアイデンティティ否定すんなや!」

女の子「あ、エロい事するのは否定しない訳かっ!?」

上条「だからさ!」

女の子「美人で可愛くてこう同僚からも妬まれて時々シバかれるあたしを!薄い本みたいにエロい事するつもりな訳ねっ!」

女の子「――ハッ!?まさか食事の中に媚薬が混ざって……!?」

上条「ないな。そんな便利な薬あったら実用化されてるわ!つーか欲し――いやいや!俺は紳士だからそんな不埒な事は思わないけども!」

上条「そもそもエロ目的だったらメシなんて食わさねぇだろ!どこの世界に美味いメシ作ってフラグを立てるヤツがい、る……」

上条「……」

上条「ま、まぁ!その話はいいとしてだ!」

女の子「……なんでそこで完全否定しきれない訳……?」

上条「ともかくだ!俺はエロい事なんて考えてないぜ!これは純粋に人助けだ!」

女の子「あたしの同僚の話なんだけどさ」

上条「なんだよ急に」

女の子「まぁ聞くって訳。いいからその子が前に言ってた訳よ」

女の子「『いいですかー?フレンダは超アレンダかも知れませんが、男もまたは超オオカミなのです』」

女の子「『例え道に落ちている超腐った肉でも、スカベンジャー的な超思考を持ったバカが超居ますからね』」

上条「お前100%バカにされてるからな?死肉扱いされてんぞ?」

上条「てかフレンダ……?」

女の子「『どれだけ女の子には超関心がない振りをしていても、心の中では肉食系ですので超注意すべきです』」

上条「オマエら男バカにするのもいい加減にしろ、な?お前らが思ってる程単純じゃねーぞ!」

女の子「『例えば……男が”エロい事なんて考えてない”と宣う時は超注意ですね』」

女の子「『この場合、100%の確率で超エロい事しか考えてはいませんから。ええはい、それはもう超確実に』」

上条「ごめんなさいねっ!男って大体そーゆーもんだからなっ!」

上条「つーかその時空を超えてあの小悪魔から心理的腹パン喰らうとは思ってみなかったよ!どんだけだあのヤロウっ!」

女の子「『あ、ちなみに”エロい事考えてる”と超正直に言っていた場合、それも100%エロい考えを持ってますんで』」

女の子「『――つまり男は200%の確率でエロしか頭にないですねっ!』」 ドヤァッ

上条「間違っちゃーない、つーかそれが世界の真理なような気がするけども。その計算式はウォーズマ○方式、別名死亡フラグだ」

上条「あと野郎代表として言わせて貰えれば、たまーに100にの一人二人の割合で、女の子には興味がないってヤツも居るのは居るわ」

上条「……ただそういう”ポーズ”を取ってるヤツに限って、同性でもドン引きするような性癖を隠してたりするし……」

上条「……や、まぁその、なんだ。警戒する気持ちは分かるけど、取り敢えず俺は暫く外に出てっからさ」

上条「その間にシャワー浴びるなり、服洗濯するなり好きにすれば良い――し」

上条「家を出るんだったら、合鍵置いてくから、鍵閉めてから郵便入れにでも入れといてくれ」

女の子「……手慣れてる、訳?」 ジーッ

上条「訳ありっぽい子を助けるのは慣れてんだよ、一身上の都合で」

上条「だから……いや、だけどか。別に話を無理矢理聞き出そうってつもりはねぇから、まぁ気の済むようにしてくれて構わない」

上条「話を聞いて欲しいってんなら聞くけど強制はしない――って、お前」

女の子「な、何よ!?」

上条「いや、どっかで会ったような……?」

女の子「……やっぱり、ナンパ?」

上条「ナンパ()」

女の子「待ちなさいよっ!さっきからずっとずっとずっと!」

女の子「なんで全部”()”で流されてる訳よ!?それはそれで女としてのプライドがあるって訳だし!」

上条「流石にカブトムシの臭いがする相手は、ない」

女の子「んがーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーっ!」

上条「あー、はいはい――って人様んちの物を投げるな!目覚まし時計は結構したんだぞ!?」

女の子「さっさと出て行く訳よ!このヘンタイっ!チカンっ!不幸っぽい!」

上条「待て!?不幸は構わないだろ!不幸は他人から誹られる憶えはねぇよ!」

女の子「いいから、出てけーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーっ!」 ドンッ

上条「おふっ!?」

ガチャッ、ガチャンッ

上条『あテメ内鍵だけじゃなくてチェーンかけやがったな!?何しやがってんだよ!?』

女の子「ベッドの下、にーはー、何がある訳かなーっと」 ゴソゴソッ

上条『それじゃさよならカブトムシさんっ!比較的速やかに離れるからそこだけはノータッチで頼む!』

カッカッカッカッ……

女の子「………………はぁ」

女の子「どうした訳、よ……」



――近くの公園

上条「……」

上条(……アレだな。こう、テンションってあるよな?)

上条(なんか格好いいっぽい事を言ったために、後々困る時ってないかな?まぁ一般的には後悔って言うんだが)

上条(ノリで出て来たはいいもののですね、行く場所が無いっていうか、えぇはい)

上条(フロ沸かしーの、服洗濯しーの、乾燥機へ放り込んでーの……で、まぁ二時間ぐらいは必要だろう。女の子だし下手すればもっと)

上条(生ゴミん中へ隠れるぐらい悲惨な逃げ方をしなくちゃいけない状況……なんとなく想像はつくが、まぁ碌なもんじゃねぇだろうし)

上条(側に見知らぬ野郎――俺だ――が居て、ゆっくり休めるとも思えない。だったら今晩ぐらいは帰らない方がいいだろうっと)

上条(とはいえ、どこへ行ったもんかな)

上条(土御門不在――最近帰って来たんだけど、雲川先輩の所で働いているらしい――の、土御門家へお邪魔する訳には行かないし)

上条(コンビニか公園、はたまた漫画喫茶で一晩過ごすのが妥当か……ふむ)

上条(”死人”の方をレッサー達(除くもふもふ)が調べてるのに、俺だけが遊んでんのも気が引ける)

上条(歩き回って出くわすなんて偶然、そんなある訳ねぇし。だからってネットでググっても答えは返ってこない)

上条(佐天さんの地雷踏み抜く能力は結構アテに出来るとして、任せっぱなしなのも如何なものかと)

上条(死人……死人ねぇ?科学サイドで、つーか俺の知り合いで詳しそうなのはカエル先生ぐらいか。でも魔術だから明らかに専門外ではある)

上条(他に詳しそうな、且つ魔術師は――って居た!そうだよ!あいつが居たじゃんか!)

ピッ、プルルルルルルルルルッ

???『――はい?』

上条「『もしもし?海原か?』」

海原(???)『えぇはいお疲れ様です――と、あぁARISAさんの記者会見見ましたよ?』

上条「『あー……はい』」

海原『つまりアレですよね?自分との約束を果たされなくなったと言う事で、殺してもいいんですよね?』

上条「『いやあの、約束を破ったつもりはですね?こう、流れっていうかさ?』」

海原『まぁカノジョ持ちでも御坂さんは守れますし、そこは信頼してますから』

上条「『……すまん。あと、ありがとう』」

海原『そもそも上条さんの側に居た方が、より危険性が高まる気がしないでもありませんし』

上条「『ホンットーーーーーーーーーーーにごめんなさいよ!俺が望んでトラブルに巻き込んでるんじゃないんですけどねっ!』」

海原『それでご用件はなんでしょうか?雑談でも構いませんが』

上条「『えぇっと、”そっち”絡みで相談したい事が……なんかゴメンな?頼るばっかりでさ』」

海原『それはお気になさらず。回り回ってプラスになるのであれば、自分は別に』

海原『……ですが、今自分が居る場所が少々特殊でして。あなたがいらっしゃるのは厳しいかと』

上条「『俺今自宅近くなんだが、位置的にキツいって?』」

海原『では、なく……なんて言うんでしょうかね、こう、素人の方にはお勧め出来ない、と申しましょうか』

上条「『あ、ごめん。もしかして潜入捜査中とかなのか?』」

海原『えぇ、ざっくばらんに言えばそのようなものかと――』

ケータイからの声『お待たせしましたセンパイっ!ご注文のストロベリーショートとベリーベリードーナツになりまぁすっ!』

ケータイからの声『ご注文は以上でお決まりでしょうか?ではごゆっくりどうぞー!』

上条「『……』」

海原『――と、言うワケでしてね!自分は今厳しい環境下に置かれているのですよ!』

上条「『確かに厳しいわ−、俺的には難易度ベリーハードだもの』」

上条「『だって俺だったらなんかベリー多すぎて躊躇するもの。もしくは帰るもの』」

海原『いえこれはですね、そういう目的ではなく』

上条「『つーかテメー今メイド喫茶的なものに居るだろ、なあぁっ!?だって今”センパイ”つって注文持ってきたみたいだし?』」

上条「『人が割とマジで相談したいってのに!海原さん的にはそっち優先でいいのか、あぁ?』」

海原『いやでも、素人の方には厳しいかと』

上条「『厳しいの意味が違うだろうがよ!お前が言ってんのはハードじゃなくってルナティックの方だし!』」

海原『一応誤解を解いておきますが、メイド喫茶ではありませんよ』

上条「『どこでも変わらんねーよ!?だってそっち系の店確定してんだから!』」

海原『スゴいんですって!いやホントに!来てみれば上条さんもビックリしますから!』

上条「『……もう既にビックリはしてるさ。お前のキャラの変わりっぷりにな!』」

海原『アドレス、ショートメッセージで送りましたんで。ではっ』 プツッ

上条「『あ、こら話はまだ終って――』……またこの展開か」

上条「……あぁうん、近くはないけど……行けばいいのな、ここに」



――???喫茶

カランコロンッ

上条「えっと……」

海原「あぁ上条さんこっちです、こっち」

上条「あぁうん、お疲れー」

上条(指定された場所は繁華街の裏路地の一角。外観は普通の喫茶店で、中身もまぁアンティーク調のシンプルな店だ)

上条(俺が想像していたような、『お帰りなさいませ、ご主人様!』的な店じゃなかったらしい。というのも――)

上条「常盤台の子、多いなこの店」

上条(品行方正(※例外あり)で通ってる、常盤台中学の女の子が結構な数居る。大体立ったままだけど……なんで?)

上条「なぁ?JC大好きの海原さんがこの店に居着くのは分かるんだが、どうして常盤台の子ばっか居るんだ?」

上条「なんかぱっと見、ウェイトレスさんっぽい事もやってるみたいだし、体験学習――なんて、させる筈はねぇか」

海原「あぁ、それはですね上条さん――」

海原「――ここが『常盤台喫茶』だからですよ」

上条「ふーん……………………え、何?お前今変な事言わなかったか?」

海原「常盤台喫茶ですか?何を今更」

上条「いや知らねぇよ!?何お前が『え?』みたいな顔してんの!?」

海原「あぁっと……メイド喫茶はご存じですよね?」

上条「前に……一緒に行かなかったっけ?いつだったか忘れたけどさ」

海原「最近だと……他にもペット喫茶という変わり種が広がっているのはご存じですか?」

上条「あー聞くなぁ。店内に放し飼いになってるペットをもふもふ出来るんだろ?ドッグカフェは正直行ってみたい」

海原「そのどちらも『店内にあるもので癒やされよう』に、異論はないですよね?」

上条「ツッコミ所はあるが、異論は特に」

海原「犬好きな方はドッグカフェへ、猫好きな方はキャットカフェへ、そしてメイドさんが好きな方はメイド喫茶へ」

上条「……うんまぁ、その三つ並べるのはどうかと思うが。理解は出来るよ」

海原「そして――常盤台中学の子が好きな人間は常盤台カフェへ行くに決まってるじゃないですかっ!」

上条「需要がニッチ過ぎるだろうが!」

上条「なに?それじゃこの子ら全員常盤台の制服着てるだけで、通ってる訳じゃねぇのか!?」

海原「お店の子達は『憧れの常盤台の制服着れてラッキー!』だそうですよ」

上条「ウルセェよ!?そんな動機でバイトするんじゃありません!」

海原「お客の方も、ですね、その……」

上条「……何?なんかあんの?」

海原「常盤台へ不用意に近づくと、問答無用で私設警備員呼ばれて補導されるので、えっと……好評ですよ?」

上条「近づいただけで補導って……それはやり過ぎじゃねぇのか?」

海原「ですよね。ただ風景写真を撮るためだけにバズーカレンズ着けたままだってのに!」

上条「うん、その段階で窃視する気満々だよね?てかその理屈が通ると思っている方が、おかしい」

海原「……と、自分は心の癒やしを求めてここへ来ていた訳ですよ、はい」

上条「個人の趣味に文句つけるつもりはねぇが……てか客結構入ってんな」

海原「プレイであっても常盤台のお嬢様に憧れているだけですよ、きっと」

上条「お前がプレイ言わなきゃいい話だったのにな!……いや、そうでもないか。全然そうじゃなかった」

海原「それで?自分に話があるとは一体――と、ちょっと失礼します」 クンクン

常盤台カフェの店員さん達「「「……!!!?」」」

上条「海原さんちょっといいかな?テメー人の首筋に顔埋めるとBL的な構図になっちゃうからさ?」

上条「てか店員さんがカメラ構えて――」

常盤台カフェの店員さん達「「「……」」」パシャッ、パシャッ、パシャッ……

上条「撮るな撮るな!見せもんじゃねーぞ!」

海原「――成程。アネモネですか。それで自分へお声がかかったと」

上条「はい?」

海原「込み入った話になりそうなので個室を借りましょうか。あまり人に聞かれてもよくないでしょうしね」



――常盤台喫茶 個室

海原「――個人的には○ちゃんと阿良々○君が和解して欲しくなかったですねぇ」

上条「唐突にアニメの話?しかも結構前に終ったよね?」

海原「何と言ってもあのゴミを見るような目つきで蔑まれるのは、やはりご褒美ですよねっ!」

上条「海原海原、テメーいい加減にその外骨格オリジナル海原君へ返してやったらどうだコノヤロー」

上条「確かにご本人はちょい素行に問題があるけど、下手すれば『暗部』に間違われる程悪い事はしてねーぞ」

海原「自分の外見だと少々目立ちますのでね。まぁいいじゃないですか」

上条「……なんかそのウチ俺の所へ、『上条さんドッペルゲンガーが出たそうですよっ取材しまっしょーよ!』って残念な子が来そうなんだが……」

海原「心苦しくはありますから、この姿でこっそり募金でもしましょうか?」

上条「こっそりしてる時点で意味がねぇな!……と、なんか悪いなお楽しみの所」

海原「自分の潜入捜査は後日でもできますからお気になさらず――どうせ緊急の要件だったのでしょう?」

上条「俺が、とある風紀委員ですのさんへ通報するから後日は二度と来ないが、まぁそうだな」

海原「信じてますよ!上条さんは恩に対して義理を忘れない人情味溢れる方だと!」

上条「……まぁ店も客も損してないっつーんだったら止めないが……」

海原「それで?死人のお話でしたよね?」

上条「そうだな――ってお前に言ったっけ?」

海原「結論から申し上げますと、自分は魔術師ですが死霊術士――所謂ネクロマンサーではないため、関連する術式を扱う事は出来ません」

海原「が、得意とする魔術の特性上、知識は持っていますのでご相談には乗れると思いますよ」

上条「すまん、ありがと……う?でもお前のって、アレだよな」

上条「素人考えだけど、アステカって割と死と直結した文化じゃなかったっけ?」

海原「自分の、より正しくはアステカ系魔術師で冥界関係の術者が得意するのは『屍体から霊装を作る』事であり、死人そのものは対象じゃないんですよ」

上条「うん?」

海原「ですからあくまでも自分達が有効利用するのは『屍体』であって、『死人』ではありません」

上条「いやごめん。意味が分からない、どっちも同じじゃねぇの?」

海原「……えーっとですね。順を追ってご説明しますと」

海原「古代アステカではイケニエを捧げてきました。こう、神殿の一部に輪っかを作り、そこへボールを入れたら勝ち、みたいな感じで」

上条「あぁ負けた方が罰ゲームな。文字通りの命を賭けた」

海原「いえ逆です。勝者から生贄が選ばれ、神へ捧げられたんですよ」

上条「……あい?」

海原「具体的には、その神殿の上で黒曜石のナイフで胸を裂かれ、頬骨の間から血の滴る心臓をくぱぁ、と」

上条「詳しく聞きたかったんじゃねぇな!?つーか個室指定した意味はこれかよ!」

海原「言っておきますが人身御供を捧げていたのは自分達だけではありませんよ。EUはドルイド、アフリカではブゥードゥ、アジアではカーリー教団」

海原「日本でも古くは補陀落渡海や人柱という風習が、ついぞ100年ぐらい前まではあったじゃないですか」

上条「否定はしないし前のは聞いた事もないが……でも、何?勝った方がなんで殺されんだよ?」

上条「俺だったら絶対死にたくないし、他の連中も多分そうだからそのデスサッカーいつまでも終りそうにないんだが……」

海原「まさにそこが価値観の違いでしょうね。自分達の文化では『イケニエにされるのは名誉』だとされていましたので」

海原「……まぁやり過ぎて人材不足に陥り、後年はイケニエ欲しさに戦争までしていましたが!」

上条「アレだよね?俺知り合いのイギリス人に『お前らスーツ着た蛮族だよね?』って散々言ってたけど、南アメリカも相当だよね?」

海原「アステカに近いマヤ文明ではイシュタムという自殺を司る女神も居ましたし、やはりそういう土地柄ではないかな、と」

上条「そんなに過酷だったっけ?」

海原「十字教とは違い、自殺が『肯定される”側面”』もありましたからねぇ。そこら辺は現代の価値観でどうこう言うのは間違っています」

上条「あぁだからお前の使ってた年代物のナイフも――って出すな出すな!今の話聞いて直視したいとは思わないから!」

海原「以上を踏まえて話を戻しますが、自分達にとっては『死は神聖なもの』であると分かって頂けたでしょうか?」

海原「だから――そう、”だからこそ死人が甦る”のは禁忌とされています」

上条「えっと……?」

海原「アステカでは優れた戦士であればある程、死して神へ命を捧げるのが尊いとされています。正確にはいました」

海原「でも考えてみて下さいよ。仮に魂なり肉体なりを復活出来てしまえるようならば、その捧げた命、チープになりませんか?」

上条「あー……分かるような」

海原「例えば年間所得が数千ドルに満たない家庭があったとしましょう。まぁ世界には遙かにそちらの方が多いのですが」

海原「その家で100ドル分の供物を買うなり用意したとして、大出費ですよね?文字通りに大枚をはたいた状態です」

海原「同様に。日収数千ドルの人間が、同じ神へ100ドルを捧げたとしましょう。こちらはレストランのチップ感覚で」

海原「さて、同じ百ドルですが、どちらがより信心深く、また神が喜ぶでしょうか?」

上条「……なけなしのお金を出した方だな」

海原「で、ある故に。『死とは絶対的で取り返しのつかないもの』でなければいけないんですよ、それこそホイホイ甦ってしまったりしてはいけない」

海原「そんな事がまかり通ってしまっては、自分達の先祖が捧げてきた命の価値が暴落しますからね」

上条「もしかしてさ」

海原「はい?」

上条「お前らの魔術が、妙に遺体や人骨を使いたがるって……まさか?」

海原「えぇ、誓って言いますが『死者の尊厳を傷付けている』つもりは毛頭ありません。むしろ逆ですね」

海原「優れた戦士の力を後世へ伝え、あやかろうとするのが目的です」

海原「勿論余所様で屍体を傷付けたり、墓を暴いたりするのは冒涜であると考える方や信仰もあるでしょう。それは否定しません」

海原「ですが自分達は決してぞんざいに扱ったり、面白半分でやっているのではありませんから」

上条「……成程。だからお前らん所では『死人』を使った魔術は発展しなかったと」

海原「あなたが今頭を悩ませている『死人の復活』系はありませんが、その代わり先祖霊と交信するのは出来ますね」

海原「女性の舌に穴を開けて紐を通してから、切った髪を血に浸して燃やし――」

上条「だから方法は聞きたくねぇよ!?」

海原「そうすると竜が現れ、その口から先祖の霊が姿を現します」

上条「嫌なシェンロ○ですねっ!」

海原「ただし!繰り返しますが自分が今お話ししたのは古代から近代にかけてのアステカの宗教観です。現代では当然違います」

海原「また同じく死者へ敬意を払ったとしても、十字教とは正反対の弔い方をしていますのでご注意下さい」

上条「南アメリカの……どこだったか、人骨で作った十字教の教会もあったよな。あれもお前ら流の信仰の表れだと」

海原「そうですね」

上条「十字教は最後の最期、審判の日に神様が甦らせて復活させるんだっけ?」

海原「はい。だから遺体を損壊させるのは禁忌ですし、また死人を甦らせるのは神の模倣として大罪にされていますね」

海原「……ただ、歴史的な災禍に度々見舞われ――ペストは知ってますよね?日本語では、えぇっと」

上条「黒死病。ネズミについたノミから人に感染する伝染病だな」

海原「その媒介となったネズミは……まぁやはり屍肉を漁る訳でしてね、えぇ」

海原「だから土葬とは非常に相性が”良”く、また当時の墓地は教会に隣接して造られる事が多いため」

海原「当時は街の中心へ教会が据えられるのが当たり前であり……余計に被害が拡散してしまった背景があります」

上条「流石にそこまで命の危険に関わると、なぁ?」

海原「納骨堂なんかも、一度土葬した遺体を掘り返し後に聖堂の中へ戻して安置する。それ自体は立派な信仰ですが、生憎ペストを野放しには出来ませんでした」

海原「統計学の一つに”世界人口”というものがありまして……大体西暦1年ぐらいに人類は何人ぐらい居たと思います?」

上条「まさに神話の時代だよな。あー……数十万ぐらい?」

海原「研究者によって幅がありますが、まぁ1億7千万〜3億人ぐらいだそうです」

上条「あ、意外と居るんだ?……いやでも、今の日本人の倍ちょっとが世界人口と言われると……少ないか?」

海原「では続いて11世紀、西暦1000年ではどうでしょうか?」

上条「あー、今が大体70億ぐらいだろ?だったら、そこから3億引いて半分にしてーの……33、4億ぐらい?」

海原「外れ。これも約2億6千万〜3億4千万人だと」

上条「……あんま、つーか全然増えてなくね?」

海原「ちなみに10億の大台に乗ったのが19世紀、1800年の産業革命直前ですかね」

海原「以上の事から分かるのは、人類は11世紀ぐらいまでは停滞していたんですよ。単純にね」

海原「人口が増えなかった理由は様々でしょうが、その一つに感染症が大きく寄与しているのではないかと」

上条「信仰深いのは良いと思うが、まぁ……なぁ?」

海原「それだけ十字教圏はアレだった証拠。それ以外も大差ありませんが」

海原「そう言えば負けた国の幹部を指導者の息子の誕生日に処刑し、遺体を家族へ返さずに海へ捨てた国があったような……」

海原「お察しします。いつか倍返ししましょうね?」

上条「なんの話か分からないが!今の季節には一度考えて欲しいですよねっ!」

海原「ま、遺体を大事にするのは、イコール死人の尊厳を大事にする、とも言い換えられまし、自分も否定はしません」

海原「同様の理由で未だにほぼ100%土葬が続けられている国もありますからね」

上条「ギリシャ正教だっけか。もう墓場がなくて困ってる所」

海原「よくご存じで。ある意味棺桶に囲まれて暮らすのもまた悪くはないでしょうか」

上条「……んー、まぁアステカの話――と、十字教の話は理解した、ような気がする」

海原「でも上条さんがお知りになりたい情報とは違うんですよね?」

上条「傾向と対策、かな?思い過ごしだったら、それに越した事はないんだけどさ」

海原「そうですね……他に自分が知ってる知識であれば、死霊術は決して使い勝手の良い魔術ではない事ぐらいでしょうか」

上条「ゲームとかでよくある『不死の軍団!コスパ最強!』じゃね?」

海原「いえ、ですから伝染病は?見た目が悪いので、確実に石を投げられるでしょうし」

上条「ス、スケルトンだったら大丈夫!」

海原「一々屍体を掘り起こして魔術をかけるのですか?それでしたら生きている人を動員し方が早いですよ」

海原「権力者になるなり、取り入るなりすれば人を動かす以外にも力を持てますし。骨の王になっても虚しいだけでしょう」

海原「……というか、上条さん。あなたは魔術がそんなに安いものではないとご存じですよね?」

海原「自分は少し事情が異なりますが、本来であれば持たざる者が持つ者へ復讐するために学ぶ術です」

海原「どうしてわざわざそれを死人を甦らせるんですか?もっと直接的な方法がある筈でしょう?」

上条「まぁな。そりゃ復讐するんだったら火球ぶち込んだり、呪い殺した方が早い――待て待て」

上条「動機だったら『亡くなった人にもう一回逢いたい』なんて普通じゃないか?むしろ日本神話にもあったろ、冥界へ下る神様の話が」

海原「よくご存じで。今日は冴えてますね」

上条「うん……一身上の都合でね、ついこないだ行ってきたばっかっつーかさ」

海原「えぇまぁですから、自分が言ったように『死人を呼び出して喋らせる』程度の術式は有り触れていますよね、割と」

海原「日本でもITAKOと言う専用の巫女さんが居ると聞きますし!」

上条「おいなんで今テンション上がった?巫女か?巫女さんも好きなのか?」

海原「あぁ上条さんはシスター派でしたっけ?」

上条「否定はしないよっ!俺はオトナだからねっ!」

海原「”その程度”は存在するんですよ。死人へ伺いを立てたり、簡単な会話をする程度であれば」

海原「ですが上条さんも仰ったような『死者の蘇生』に関しては、時として神ですら失敗している。違いますか?」

上条「すごーく非効率的だと?」

海原「死人が死人でなくなるのは、それはつまりある種の『永遠の命』と同義ですから。人類の永遠のテーマでしょうかね――と、そうそう」

海原「一つだけご忠告を。少々本題とは逸れますが、まぁこちらのお会計代としてサービスを」

上条「ここ俺のオゴリか!?……い、いや払うけどさ」

海原「詳しくお話は存じませんが、今探しているのは『甦ったかも知れない何か』で、間違いありませんよね?」

上条「ん、そうだな。あくまでも”かも知れない”ってレベルで」

海原「なのに、だというのに、上条さんは何故『死人』と呼んでいるのでしょうか?」

海原「復活を遂げたのであれば、それはもう『死人』とは呼べない筈でしょう?」

上条「あー……考えもしなかったが、なんでだろう?」

海原「その答えは簡単ですね。あなたへ話を持ってきた人間が十字教関係者だから。彼らの言い方をそのまま真似て、違いますか?」

上条「……ノーコメントで」

海原「では、深くツッコミはしませんが……基本的に十字教関係の方々に取っては、どれだけ完全に甦ろうが、それは『死人』と呼び続けるんですよ」

海原「どうしてかと言えば『復活とは神と神の子のみが行なえる奇蹟』である上、その対象も『十字教の洗礼を受けた者限定』」

海原「それ以外は全て偽物であり、まやかしに過ぎないと教会が明言しています」

海原「どれだけ完全に生前のままだと言っても、鼓動があり生きていたとしても、彼らにとっては『死人』なんです」

上条「それは……なんか」

海原「ですから決してその死人とやらに同情しないように。すれば依頼者をそのまま敵に回す事になりますよ、と」

上条「分かった。気をつけるよ」

海原「……あなたが”何も分かっていない事が分かった”のですが、まぁ苦労するのは自分ではありませんし、良しとしましょう」

海原「それよりもそろそろ何か頼んだらどうですか?店い――自分の後輩もやきもきするでしょうしね」

上条「その設定いい加減なんとかしろや――ハッ!?」

海原「どうされました?」

上条「お前”常盤台の理事長の孫”の皮を被ってんのって――まさか……?」

上条「任務どーたらを放棄してまで、尚且つレベル4の大能力者をブチ倒して復讐されるリスクを負いながらも使い続けるメリットとは――」

上条「――もしかして常盤台JCとお近づきなりやすいから、じゃ……?」

海原「企業秘密ですっ☆」

上条「お前いつか刺されるからな?」

海原「いえいえ自分など上条さんの足下にも及びませんよ!」

上条「あれ?その台詞って相手を褒める時に使うんじゃなかったっけ?」



――常盤台喫茶 個室

店員「――ベリーベリーミックスセットベリーは以上となりまーす!宜しいでしょうか、センパーイ?」

海原「はい、お疲れ様です」

店員「ではごゆっくりどーぞ――」 パタンッ

上条「……なんだろうな、これ」

海原「どうされました?」

上条「いや……正直『センパイって呼ばれんの悪くないな』って、ちょっと思った」

海原「でしょう?自分も常盤台カフェを出す場所へ出せば大人気だと思うんですよ!」

海原「ひまカフ○で『リアル?なにそれ新しい食べ物?』と大失敗をカマしてはいますが、是非に実現して欲しい!」

上条「おまひ○とタイアップしたメイド喫茶の話は止めろ。二次元と三次元のギャップに悩む人だって出てくるんだからな!」

海原「ちなみにとある筋から仕入れた情報によれば、裏で風紀委員と闇取引してるという噂も……!」

上条「白井さんじゃねぇかな?きっとみょーに小物しっかりしてんのも、監修やってくれてっからじゃねぇか?」 ズズ

上条「……と、紅茶も良い茶葉使ってんなー。美味しい」

海原「あ、今の間に食べておいた方がいいですよ?」

上条「何?モノ食えなくなるような話に突入すんのか?」

海原「素人さんには少々厳しいかと。スプラッター・ゴア好きな人間でもないと、はい」

上条「聞かなきゃ駄目か?」

海原「それはどうぞ自由に。ただし後悔とは”後になって悔いる”と書きますが」

上条「……あークソ!分かったよ!聞けばいいんだろっお願いしますよっ!」

海原「まぁ多少はマイルドにしますが、決して聞いていて楽しい話ではありません、と前置きはさせて貰いましょう――さて」

海原「先程も言いましたが――言いましたっけ?」

上条「出だしからコケてんぞー」

海原「死霊魔術全般、『死者の蘇生』――『黄泉帰りはコストに合わない』と」

上条「神様でも失敗するっけか?」

海原「えぇ。死者を迎え入れて支配する神も居るんですが、それはあくまでも『死んだままの人』ですから」

海原「例えばオーディンが迎え入れる戦士達は、やはりあの世ですし。冥界から一日の半分だけ帰還するペルセポネーは半死人」

海原「イザナミに至っては神ですら死の運命から逃れられなかった」

海原「また神でもなくとも個人がどうにかしようとしても、ほぼ100%の確率で失敗しているのが現状ですかね」

上条「まぁ理屈はよく分からないけど、言いたい事はなんとなく分かる」

上条「死人が簡単に甦るんだったら、ここまで医療は発達してないよなー、なんて」

海原「……その指摘は魔術師全般にも言える皮肉ですが、まぁそうですね」

海原「『”完全な形”での死者の蘇生』は、賢者の石を造り出すぐらいには難題とされていますね」

上条「妙に強調すんなぁ――つーことはアレか?”完全じゃない形”でなら、そこそこ成功するってか?」

海原「残念ながら……ゾンビはご存じで?」

上条「バイオがバザードする奴だろ?オカルト由来なのにサイエンスフィクションの領域へ入っちまってるし」

海原「あぁそれ元々は科学ルーツらしいですよ」

上条「マジで!?ゾンビだぞ!?」

海原「ブードゥー系の社会的制裁でゾンビパウダーという、物凄い強烈な毒薬を使用される刑があるそうです」

海原「その毒薬を使われると脳の殆どの思考が出来なくなり、『生きた屍体』として人から命令されるままになるとか」

上条「あー聞いた事はあるが……あぁじゃバイオも技術としては間違いじゃないんだ?」

海原「あくまでも系統的な話ですが――まぁその話はさておくとして、『生きた屍体』は誰かが造る物と、自発的に生まれる物の二種類あります」

海原「地域や国によっての細かな差異もありますが、例外なく共通しているのが――」

海原「――『生者を食い物にする』という事ですよ」

上条「……幽霊も?」

海原「幽霊が誰それを取り殺すというお話は有名ですよね?『生きた屍体』もまさにそれが関係します」

海原「ある種の哺乳類である霊長類ヒト科ヒト目を好んで捕食している、というケースが多いと」

上条「あー……それ、いつも思うんだけどさ。他の肉じゃダメなのかな?」

海原「近年に於ける人口問題、上条さんは如何お考えですか?」

上条「はい?」

海原「増えすぎた人口を適当な数にまで少なくするためには――そう、食糧問題と一緒に解決出来る方法があります!」

上条「それ以上言わせねぇよ!俺が悪かったから!魔術に理屈を求める方が悪かったから!」

海原「と、いう冗談はさておき、まぁ実はこれにも――『人間は死人と同居出来ない』という理にも、立派な答えがあるんですよ」

海原「屍体を屍体として適切な方法で弔わないと祟りますから」

上条「……オカルトの話か?」

海原「”発祥はオカルトですが、根本は科学の話”です」

上条「ちょっと何言ってるかわっかんないですよ?」

海原「都市伝説の一つの、『切り落とした腕』というものをご存じでしょうか?」

上条「なんとなく想像はつくが……グロ系だろ?」

海原「えぇまぁ一応お食事処でする話ではないので、要点だけを言いますと、色々あって切断された腕を巡って繰り広げられる都市伝説です」

海原「糖尿病であったり、また交通事故であったり、他には工事現場というパターンもあるらしいですが」

海原「その腕は非常にお食事中の方にはお聞かせ出来ないような最後になります――が、この都市伝説は正確ではありません。少なくともこの日本では」

上条「そうか?お前の話の触りだけ聞いてても、あぁありそうだなって思うんだが」

海原「はい。例えば糖尿病が悪化して切断せざるをえなかった四肢であれば、それは医師立ち会いの下に診断書が書かれ、即火葬にされます」

海原「同都市伝説の派生バージョンとなる『屍体拾いのアルバイト』でも、列車に轢かれたバラバラ屍体をアルバイトが拾う――と、されていますが」

海原「実際に回収するのは警察であり、洗浄の一部も彼らのお仕事となりますね」

上条「それを聞いて少し安心だが、そこまでキッカリする必要あんのか?」

海原「何故ならばそうしないと危険ですから」

上条「霊的な意味で?」

海原「ではなく『感染症という意味で』、です」

上条「……はい?」

海原「人間の体は雑菌の塊なんですよ。それも質量数十キロという肉の塊が抱え、それを媒介により悪い菌が大発生する可能性も高い」

海原「ペストでがヨーロッパが全滅しかかったのも、”それ”が理由です」

上条「あー……成程。死者を俺達が弔って埋葬するってのは、科学的な面から見れば防疫になんのか」

上条「昔の人はそれが『死者の呪い』や『祟り』みたいに解釈してたんだけど、実際にはただのパンデミックだったと?」

海原「仰る通りです」

上条「その延長線の話で、昔の人達は死者……っていうか屍体を怖いモンだと考えていた。正しく処理しないと祟る、みたいに」

上条「その畏怖や、科学的な寓意も込めて生まれたのが――」

上条「――『生者を食い物にする』」

海原「と、自分は解釈しています。実際に遺体から霊装を造るにしろ、きちんとした処理をしないと村や町の共同体が壊滅するレベルの病気が起こりかねません」

海原「また古代から中世にかけて、オリエンタル近辺では大規模な戦争が繰り返し行われてきました」

海原「その多くの戦死者を放置したため、近くの水辺が汚染されて畑や森が死んだケースを見、当時の人間はこう思いました」

海原「『これは死者を弔わなかった呪いだ』と」

上条「それを元に人類は神話や伝承を語り出し、それがまた元になって魔術が出来る……」

海原「どちらが先かは自分には分かりませんが、とにかく人と死人との境は明確に分けられましたね」

上条「お前がさっき言ってた『人口が中々増えなかった』ってのも、関わってそうな感じだよなぁ」

海原「2015年初頭から夏にかけて起きた、南アフリカでのエボラ出血熱の大流行。その原因と一つされているのが『葬式で死者にハグする風習がある』そうですね」

上条「科学が発達してなければ、何をやっていいのか、また何をしてはいけないのかの境は曖昧で」

上条「トライ&エラーで……まぁ言い方は良くないけどさ、誰かが死んだりするのを見て経験値を積まなきゃいけなかった訳か」

海原「人類の歴史はそうやって築いてきましたからね」

上条「でも、さ?その、死人を甦らせるのがそんなに悪いか?ってのも思っちまうんだな」

上条「俺が例えば、父さんなり母さんなりが少しでも生き返るんだったら――とか、迷うもんな」

海原「自分だってそうですよ。ただ善悪ではないだけの話で」

海原「ただただ『共存は出来ない』という一言に集約されるだけかと」

上条「よく――あぁごめん、雑談みたいな話になっちまうけど――道路で車に轢かれた犬猫の屍体ってあるじゃん?」

上条「あれに手を合わせるのも良くないって聞いた事はあるし、やっぱり……なぁ?」

海原「理解されてきた所なのに、お言葉を返すようで恐縮ですが、あれはまた別”かも知れない”ですね」

上条「うん?」

海原「グレイトフルデッド、という単語はご存じで?」

上条「老化させるスタン○、プロシュー○兄貴。アレな敵ばっかの世界で珍しく人格者」

海原「――の、更に元になったバンドさん達曰く、『チベットにある男の霊の話』だそうです」

海原「埋葬されない男のために旅人が自腹で弔った結果、以降旅人は不思議な幸運が続くようになったそうです」

海原「旅人は『あぁあの男の幽霊が感謝して助けてくれているのだろう』と。聖書にも似たような話があるらしいですね。自分は専門外ですが」

海原「あくまでも個人な見解で言えば、更に今までずっとやって来た体験談からすれば」

海原「手を合わせたり心の中で祈る程度でどうにかなるのであれば、それはしてもしなくても”そうなっていた”と思いますよ」

海原「大体その辺の普通の犬猫の屍体程度が祟るというのなら、所謂英雄や偉人の霊廟はどうるんですか?」

海原「キルスコアが万単位のNobu-nagaやHide-yoshiは?」

海原「心霊スポット行って幽霊が憑く話は良く聞きますが、本能寺行って『Nobu-naga憑いてきちゃったよー、やっぱり寺生まれってスゴイ!』とはならないでしょう?」

上条「戦国武将と一緒にすんなや!つーかローマ字にしてハイフンで区切るとなんかカッケーな!」

上条「――いや待て待て、つーか猫?どっかでその話が出たような……」

海原「あと言わせて貰えるのであれば、洒落怖系のお話で”寺生まれの○○君ってスゴイ!”的なのがありますよね」

上条「あぁ肝試しに行ったら、たまたま寺生まれのC君が霊媒先○ゴッコを始めるヤツだな」

海原「ですが原始仏教では血の繋がりは完全否定、むしろ開祖は邪魔になると捨てて出家していますし」

海原「そもそもの本懐としては『生まれに関係なく徳を積めば救われる』であり、あの話を作った人間は仏教の知識をまるでお持ちでないと」

上条「魔術的には遺伝する素質みたいなのはなかったっけか?イギリス王室なんかそうだと思うんだが」

海原「当然ありますね。けれど仏教は選ばれた某かが衆愚を扇動――先導するような話ではないでしょう。ならば資質も限定はされない」

上条「てか長々と話してきてなんなんだが……死人との共存って不可能じゃなくね?」

上条「寺生まれのC君、はさておき、手を合わせれば『あぁこの人は優しいんだな』ぐらいの判断は出来るって事だろ」

上条「少なくともチベットの旅人の話は、誰かの厚意へ感謝する心を持ってんだからさ」

海原「心……心ですか。持っているのでしょうかね」

海原「学習しても記憶するべき器を持たない彼らが、果たして自分達のように学習出来るとは思えませんが」

上条「どういう事?」

海原「よく死んだ後も生前と同じ行動をしている幽霊の話がありますよね?飛び降り自殺したのに、同じ場所からずっと飛び降りている幽霊、みたいな」

海原「人を呪うにしろ、どうしてそんな無駄な事をするんですか?あの世とやらがあるんでしたら、さっさとそちらへ行ってしまった方がいいのに」

海原「『生ける死体』にしてもそうです。過酷な環境で重労働を強いられても唯々諾々と従う。自分だったら逃げ出すでしょうが」

上条「それは――やっぱり死んでるし、もしくは実体も持たないからじゃないのか」

海原「ですね、自分もそう思います。どれだけ経験を積もうが蓄積する場所が無ければ意味は無い」

海原「その延長線上の話で、『死人は約束を破れない』という概念もあります」

上条「あー、なんとなく分かる。幽霊とかって意外と義理堅いようなイメージあるよな」

海原「あ、いえそうじゃなく。約束を破”ら”ないのではなく、破”れ”ないです」

上条「どう違うんだよ。自発的に破棄出来ない?」

海原「そうですね……上条さんがどなたかと約束するじゃないですか?例えば『御坂さんを一生守る』みたいな?」

上条「例えてないよね?具体的にその約束したもんね?」

海原「この約束を果たすのであれば、上条さんがある程度の距離で御坂さんに接し、守るのが最適でしょう」

海原「でも実際の所、上条さんの方がより大きなトラブルに見舞われる確率が高い――よって、逆に御坂さんを遠ざける事で約束を守ろうとした。違います?」

海原「懐かれてると気づいているのに、わざわざ嫌われるような態度を取って――例えば名前を呼ばないなんて意地悪をして」

上条「……優しいストーカーめ」

海原「今の話はあくまでも『最初の約束を守るため、一見反故にしたように思える行動を取る』という例ですが、現実での約束破りはよくある事です」

海原「昔々、『おっきくなったら結婚しようね!』と妹に言われた場合、自分調べでは100%の確率で約束は守られていませんしねっ!」

上条「誰に言ってんの?もしかしてお前遠回りに自分を擁護してねーかな?」

海原「約束破りは一般的には宜しくない事――では、ありますが、時として破る事も大切です」

海原「お土産にケーキを買って帰ると約束したのに、売り切れだった。だから別のお店でもっとお高いケーキにした、といえば大抵喜ばれるでしょうし」

海原「また緊急時や災害時も同じく。まぁ今更言うべき事ではないのかも知れません――が、今のはあくまでも生者の話です」

海原「一般に死者と呼ばれる物達はそれが出来ない。柔軟な思考力が失われているのか、そもそも考える事が出来ないのか」

海原「幽霊だけでなく、それは勿論『生ける死体』も例外ではありませんよ」

上条「体が死んでるからこれ以上記憶の上書きが出来ない、か?」

海原「と、解釈する以外はないと思います。もしくは精神そのものが死んでいるか」

海原「ですから『約束を破るという概念がない』んですよ。ずっと変わらず、学習せず劣化すら出来ない哀れな存在」

上条「……意志の強い人は、てか約束を頑に守る奴だっているだろ?それが悪い事だとは思えない」

海原「電波時計が毎日毎日同じ仕事を休まず繰り返すのを、上条さんは『時間を守って誠実だな』と褒めるのでしょうか?」

上条「……」

海原「個人の意見は尊重致しますが、人類の歴史に於いて死者と生者が共に暮らした事はありません」

海原「それは魔術的な困難さだけではなく、科学的に屍体を処理しないリスクの高さが原因だからですね」

海原「しかもそれらのリスクを負ってまで、言わば常に爆弾を抱えながら魔術の研鑽に励む死霊術士とはやらはクセが強いらしいですよ」

上条「知り合いとか居ないのか?」

海原「自分達は加工が専門ですので。一見近いように見えますが、彼らと相容れる事は有り得ませんね」

上条「お前らそれ五十歩百歩にしか見えねぇが……まぁいいや。なんとなくは分かった」

海原「――というか聞こう聞こうと思っていたのですが、こんな所で油を売っていて宜しいのですか?」

海原「確保してあるとは言え、長時間放置されるとリスクが高まりますよ」

上条「あぁそれは別に大丈夫だろ。俺以外にも探してっから、どっかっつーとサポートだし」

海原「……はい?」

上条「うん?」

海原「会話が噛み合わない気がしますね……どうしたものでしょうか」

上条「だからさ。何でも魔力で追跡出来るらしいんだけど、俺は無理だしって話だ」

海原「……そう、ですか?おかしいですね、それは」

上条「つーと何?」

海原「自分が話を聞いて想像するだに、上条さんプラス上条さんハーレムチームは『死人』の足取りを辿っている最中、ですよね?」

上条「その妙な敬称以外は合ってる」

海原「ならば――どうしてあなたの体からは『死人』の臭いが漂っているのですか?」

上条「――はぁ!?俺から!?なんでだよ!?」

海原「自分に聞かれましても。魔力の残滓等は特に感じられないのですが、こう、自分達のような特殊な人間には分かるんですよ」

海原「肉体が本格的に朽ちる、その直前に放つ花のようなどことなく甘い香りを」

海原「最初にお会いした時からしていたので、てっきりもう話は結構進んでいるものとばかり」

上条「いやぁ……どこですれ違った、つーかそんなに臭いかな?」

海原「何か心当たりはありませんか?例えば電車の中で妙な人と密着したとか、バスを待っている間に、とか」

上条「ないなぁ。特に普通――――――あ」

海原「思い当たる節があって重畳かと。ちなみにどこで?」

上条「……さっき、行き倒れさんをですね、拾った、かな……?」



――夜 路上

タッタッタッタッタッ……

上条(太陽は完全に地平の下へ隠れ、肌寒い冷気が足下から這い上がってくる)

上条(昼間は忘れていたが、その寒さは10月に相応しいもので――と、モノローグごっこしてる場合じゃねぇ)

上条(終電もバスもなくなる――学園都市は夕方に終るって設定、タクシーなんか呼べる金もない――から、全力で道を走ってる訳だが!)

上条(まさか道で拾ったカブトムシ子(仮名)さんアタリかもしんないって!どんだけ引き強いんだよ!もっと別の所でこの運を使って欲しかったけどな!)



――回想 常盤台喫茶(※常盤台非公認)

海原「――ま、取り敢えず落ち着いて下さいよ。焦っても良い事なんかありませんから」

上条「お、おぅ」

海原「まずはこのベリーベリーストロベリーベリーハッピーセットをベリー飲んでですね」

上条「ベリーつけすぎじゃねぇかな?明らかに修飾語の三重苦になってんだけどさ」

海原「えぇとですね。まず自分が嗅いだ『死体の臭い』はあくまでも感覚的なものに過ぎません」

海原「従って上条さんが直接接したのか、間接的に接したのかまでは分かりません――が、まぁ相当薄れていたので、直接ではないと思います」

上条「俺、一回公園で体も洗ったし、家で服も着替えてるのに?」

海原「料理人が臭いを嗅いだだけで使っている香辛料を当ててしまう。その延長線の話だと思ってください」

海原「ですから精度の方もあまり正確ではないのですが、恐らくは、と」

上条「……どうしたもんか」

海原「どうもこうもないでしょうね。成仏させる以外に選択肢がある筈も無く」

海原「自分が行って『分解』するのもいいですし、上条さんの『右手』があれば然程問題なく終るでしょう」

海原「死んだという自覚がない相手の場合ですと、気づかせればとの、言う話もありますが、逆に襲われる事も――」

上条「女の子だぞ、相手は!」

海原「ではもしも屈強な男性であれば即座に始末するのでしょうか?」

上条「そういう話じゃねぇよ!」

海原「あーいえ、お気持ちは分かりますとも。相手がモンスターみたいな形状をしていれば、それだけで排除対象になるのでしょうが」

海原「見るからに人間じみていれば同情するでしょうし、それは感情として正しいとも思いますよ」

海原「ですが、上条さんは知ったでしょう?彼らが人間としてはもう戻っては来られないと。存在するだけで害悪だと」

上条「理解はしたつもりなんだが……」

海原「ま、自分の事件ではありませんし、どんな結論を下すのかは上条さん次第でしょうけど――あぁでは最後に一つだけ」

海原「仮にあなたが『生ける死体』として甦ってきたとしましょう。この世界に何か未練があり、それを晴らしに帰って来ました」

海原「ヒューマニズムに充ち満ちた奇跡が起き、戻ってきたあなたに周囲の方々は戸惑いながらも手を差し伸べ、受け入れる。それはとても素晴らしい事でしょう」

海原「ですが――あなたは、死人故にそんなに親身になってくれた人達を食い殺さなくてはならない。誰よりも親しい身内を手にかけなくてはいけない」

海原「同族殺しの罪を着せるのか、はたまた笑って自身を差し出すのかは分かりませんが」

海原「……あなたに人の心が残っていたら、これ、耐えられますか……?」

上条「……」

海原「あくまでも私見ですが……『死人』とは”加害者であり被害者でもある”と思うんですよ」

上条「……うん?」

海原「人の肉を持ちながら、それでも同じ人を害さなければいけない――これは『加害者』であると言えるでしょう」

海原「時として存在するだけでパンデミックを引き起こしかねず、それはまさに呪われていると言っても過言ではありません」

海原「ですが――同時に『そうしなければいけない躰になってしまった』時点で、ある意味被害者ではないでしょうか?」

海原「大抵の場合ですと、甦る――黄泉帰”らせる”のは第三者であり、死者がそう望んだ訳ではありません」

海原「『死者の意を汲み取って』というチープな台詞は多々聞かれますが、本当にそう望んでいるのかは何とも言えません。ですが」

海原「もし、上条さんがそんな立場になってまで――」

海原「――生きていたいと思いますか?」



――路上

上条「……」

上条(……俺は――もし、俺だったら嫌だ。それは)

上条(誰かに、それも親しい奴らに尋常じゃない迷惑かけてまで生き返りたいとは……幾ら何でも)

上条(……けど、今の話の中心は――そう、主人公は俺じゃない。あの子だわな)

上条(死んだ人がどう思うかなんて、それこそ口寄せしてみても分からないと一緒。生きてる人間だって聞いてみないと分からない)

上条(それに海原が教えてくれたのは『一般的な死人』であって、それが全てのケースに当て嵌まらないとも言ってたっけ……?)

上条(まずは――そう、まずはだ。あの女の子が本当に確かめるのが先だろ、うん)

プップー

上条(……てーか、もうどっかで見たような気がしてるし、他でも会ってるような……?あぁクソ記憶が曖昧になってんな)

プップー、プップー

上条(あの日の出来事――『常夜』前後の事は、当事者である俺やアリサ達も少しずつ――)

プップップ、プッププ、プププ、プップップ、ププッププッ

上条「車のクラクションでB'○!?しかも初期の名曲だなっ!?」

上条(あ、やべ。クセでやばそうな黒塗りのワゴンツッコんじまった――て、窓が開く?) ウィーンッ

クロウ7「――こんばんは上条さん」

上条「あ、はい、こんばん、は……?」

クロウ7「取り敢えずどうぞ中へ。お送りしますので」

上条「あぁどうも――てか、ありがたいんですけど……タイミング、良すぎじゃないんですか……?」

クロウ7「そうでもないですよ。たまたま尾行していた所ですから」

上条「そっかー、それじゃたまたまですよねー――ってと、取り敢えず殴っていいですよね?」

クロウ7「……時間、ないんでしょう?殴りたければ前向きに検討したいのでどうがご乗車下さい」

上条「……日本人的な回答だな……!」



――車内

クロウ7「どちらへ行けば宜しいでしょうか?学内であればどちらへでも」

上条「あ、俺ん家までお願いします。って場所は――」

クロウ7「あぁ知っていますので、というか最初から尾行していました」

上条「どこのストーカーだよ。てかARISAのジャーマネ設定どうなった?」

クロウ7「先週、顔の皮を剥がされたばかりで、少し接合面が残ってるんですよ。ですので人前に出るお仕事は厳しいかと」

上条「あー……結局、セレーネ事件で傷負ったのって一人だけ……ん?だったら会うのはおひさしぶり?」

クロウ7「ですねぇ。自分と魔術結社のボスが入れ替わっていたのに、どなたさんも気づいて貰えませんでしたしねぇ」

上条「相手がプロだからですよねっ!ほら!変装とかのね!」

クロウ7「それにウチは慢性的な人材不足で……!ホームページで社員募集したのですが、応募して下ったのはたった一人だけという大惨事に」

上条「あー、あったなぁ。つーか俺のコメント削除して下さいよ。社員じゃないんですから」

クロウ7「しかもその方、岩○さんとおっしゃる方なんですが、かなり真っ当な方っぽかったので、泣く泣く不採用のお手紙を出せさて頂きました……!」

上条「どうしよう。知り合いの企業がブラック過ぎるんですが」

クロウ7「ま、まぁ詳しくは言えませんが、今日は業務の一環とお答えしましょう」

上条「……大体想像はつくがな。心配性のねーちゃんか、それとももっと心配しぃの妹さんのどっちかだろ?」

上条「俺に疚しい所なんてないから、別にしてくれたっていいんだけどさ」

クロウ7「ちなみに現時刻での最終報告は『常盤台の制服を着たお若い子に接待されるお店へ行った』、ですかね」

上条「あ、そうだよねっ!たった今ものっそいやましい疚しいお店に行ってきたばかりですもんねっ!」

クロウ7「自分はもう少し歳がいってる方が好みです」

上条「うん、知ってた。アリサも含めて多分知ってる」

上条「てゆうか、歳いっ――もとい、大人っぽいけどもシャットアウラは『88の奇蹟』ん時には大体中学生ぐらいだよなぁ?」

上条「あれが三年ぐらい前だって事は、シャットアウラ今高校せ――」

クロウ7「いえ、ですから自分がボスへ寄せる感情は信頼であって、そういうのとは違います――し」

クロウ7「上は子供が中学生の人妻から下は一桁まで幅広い交友関係の上条さんには、いやはやとてもとても」

上条「よしっ!これ以上は痛くない腹の探り合いになるから止めようかっ!痛み分けの内になっ!」

クロウ7「コールドゲーム並の大差がついたような気がしますが……まぁ冗談はこのぐらいにしましょうか。自分がどうして尾行していたのか、ですか」

クロウ7「まぁ指摘されたように、依頼があったからですね。とある筋からの」

上条「……あぁ、なんかすいません」

クロウ7「詳しいお話はまだ伺っていないのですけど、『死人』でしたっけ?」

上条「魔術サイドの話なんだが、首突っ込んで大丈夫ですか?」

クロウ7「殺せば死ぬのでしょう?”物理的にどうにかなる”相手であれば、多脚戦車を使える自分の出番かと」

上条「このバン、みょーにカッチリしてっと思ったら後部座席に積んでんのかよ」

クロウ7「正直、魔神だ結社だ、と言われるよりも分かりやすくていいです」

上条「……」

クロウ7「どうされました?」

上条「いや……何でもない」

上条(『殺すのがいいのか?』とは、聞けなかった……流石に失礼すぎんだろ)

上条(さて……今のウチに整理しちまおう。他に出来る事もないし)

上条(まずはあの子、ウチに居る子が『死人』だって可能性がある。海原曰く絶対ではないらしいが)

上条(確定じゃないし、あの子が接触した時についた香り?死臭?が、俺についたのも否定出来ない)

上条(だから現時点で判断を下せない。とはいえ放置も出来ないし、確保に向かってる最中だ)

上条(次にあの子の身元だ……どっかで会った気がするんだよなぁ。どこだっけか?)

上条(彼女が友達から言われてる話の中で、確かアレンダ?フレンダ?とかって)

上条(珍しい名前だよな。フレッドやフレデリックみたいな名前は聞くが、他じゃ滅多に――)

上条「……」

上条「……フレ、メア……?」

上条(そう――だよ!浜面んトコの女の子!垣根がペドって――もとい、ペタって張り付いてた幼女た!)

上条(特設ステージへ運んで貰う最中、俺は垣根の背中で揺られながらあの子のねーちゃんの話をした!『遠い所にいる』って縁起でもねぇよってさ!)

上条(それは浜面の頭が残念じゃなく、今にして思えばそのまんまの意味で……か!)

上条「……」

上条(それに……それよりか少し前の日に、デパートで買い物してた時にも、遭ってる……よなぁ?)

上条(ちっこいの二人に俺が買い物のお願いをしたのを、どこをどう勘違いしやがったのか蹴りくれやがって――)

上条(――そして、『冥界』で俺とアリサを助けてくれた、と……)

上条「……」

上条(……あぁクソったれ繋がっちまったよ。これで多分『死人』確定か)

上条(しかも俺、伝言を浜面に伝えんの忘れてる――あぁそうか、浜面の知り合いなんだよな、あの子)

上条(感情的には引き合わせた方がいいのか?下手に隠して事情を知らないまま遭遇したら、悲惨な事になるだろうし……よし)

上条「あ、すいません。電話しても良いですか?」

クロウ7「どうぞ」 ピッ

上条「それじゃ――――――待てよ?」

上条(俺があの子とコンタクトを取った、つーか発見したのを知ってるのは誰も居ない。海原も言いふらしたりはしないだろうし、聞かれなきゃ)

上条(ここで浜面に『あ、ウチで珍しいの拾ったんですよー』なんて言えば、柴崎さんからアリサ達に伝わる、よな。やっぱり)

上条(隠すようなこっちゃない。ないんだが……だよな?ない筈だ)

クロウ7「……ご心配なく。余所の女と楽しそうに喋っていた、なんて報告は致しませんから」

上条「話盛る気満々じゃねぇですかコノヤロー……あ、そうだ柴崎さん」

クロウ7「はい」

上条「『死人』の始末なんですが……」

クロウ7「そちらは自分達のコネでどうとでも。最悪の最悪、死体損壊程度には疑われるかも知れませんが、不起訴に持ち込みますから」

上条「た、頼もしいですよねっ!」

上条(……ダメだ。こっちに情報流したら即処分――いや待てよ。レッサー達は?レッサー達だったらきっと良い方法を考えてくれるよ!)

Trrrrrrrrr……

レッサー『――はーいどうもー、今夜もやって来ましたDJレッサーの”LateLateLateRadio☆”のお時間ですっ!』

レッサー『今日も張り切ってご機嫌なソウルを皆さんにお聴かせしちゃうんだぜ!覚悟して下さいなっ!』

レッサー『さぁ、一曲目のリクエストは学園都市にお住まいの、ハンドル”姉の愛情が重すぎて辛い”さんからのナンバーだ!』

レッサー『曲は”そろそろツッコミがないと間が持たない”のニューシングルを――』

上条「……」

レッサー『……最近、上条さん私の扱いに慣れてきてやしませんかね?』

上条「『えぇお陰様で慣れさせられたからなっ!基本ツッコんだら負けだってねっ!」

レッサー『――ちょ……待って……ぅんっ!』

上条「『……うん?どした?また混線ゴッコか?』」

レッサー『ランシス、今上条さんと話――やぁっ、指がエッチぃですってば……!』

上条「『……』」

レッサー『そんなに……強く、されたら聞こえ――ちゃいます……!』

上条「『間違いなく敵の魔術師の攻撃を受けてるなっ!今すぐ行くから場所を教えて下さいっ!さぁ早く!さぁさぁ早くっ!』」

上条「『あと近くに居るであろうベイロープさんとフロリスさん達は写メと動画を頼むっ!俺が行くまで記録プリーズ!』」

クロウ7「ツッコまない言った側からツッコんでんじゃないですか」

レッサー『嘘ですけど。食いつきが良くて逆に引きます』

上条「『騙したなァァァァァァァァァァァァァァァァァァッ!よくも騙してくれたなァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァッ!!!』」

レッサー『ていうか私を含めた全員が、庭の隅で死んでるセミを見るような目をしてますけど、そっちの写メだったら要ります?』

上条「『ごめんなさい。もうおフザケはしませんから』」

レッサー『どこをどう聞いても魂の叫びが夜のシジマに響いた気がするんですが……』

上条「『あー、ごめんな?夜遅く……は、ないけど』」

レッサー『いや構いませんよ。レジ締めも終った所ですし』

上条「『レジ締め?』」

レッサー『えぇ、我らが新アジト”ニホンダルマ日本支店”も中々評判が宜しいようで。なんでもどこぞのローカル番組で取り上げたいとJCが』

上条「『佐天さんには相変わらずバックギアついてないよね?仕様かな?』」

レッサー『ブリテンのおまじないグッズが珍しいらしく、割と稼がせて貰っていますよ』

上条「『へー。ちなみに一番人気は?』」

レッサー『幸運の一ペニーがなんとお値段税込み200円!ご奉仕価格でうっはうっはですなー!』

上条「『オイコラ詐欺師。ペニーって確かポンドの下の通貨で、セントとどっこいどっこいだよね?ぶっちゃけ数円程度の価値しかねぇよな?』」

レッサー『いえ、一応は”ラッキーペニー”というジンクスもありますし、根も葉もない嘘という訳では』

上条「『しかもお前ら確実に消費税の対象外じゃねーか!ぼったくりにも程がある!』」

レッサー『……マジ話だと、ユーロから学園都市までの出張費が結構嵩んでいます……』

上条「『あー……学生だったんだよな、お前ら』」

レッサー『このままだとベイロープが実家に泣きついて、縁談と引き替えに融資をして貰わなくてはいけないハメに!』

上条「『止めて差し上げろ。無駄に分岐していくんだからその手の発言はな!』」

レッサー『――上条さん!』

上条「『はい?』」

レッサー『ペニーってなんか卑猥ですよねっ!』

上条「『お前がイギリスの自虐ネタに走んなや!確かにアメリカじゃチップとして渡すと殴られても文句言えねぇらしいけども!』」

クロウ7「上条さん本題本題。そろそろつきますよ」

上条「『――っと!レッサー、ズバリ聞きたい!”死人”見つかったらどうするつもりだ?』」

レッサー『ズバリ処分しますけど?』

上条「『ですよねー……』」

レッサー『よく正しくはズバリではなく、バッサリですけど』

上条「『――うん分かったよ!それじゃおやすみっ!』」 ピッ

上条「……ふぅ」

上条(分かってた……レッサーさん達が”悪・即・バッサリ”逝く人らだって分かってた……!)

上条(……あ、いや対処としちゃあいつらが正しいのは分かる。俺だって知らない奴だったら、『仕方がないね』で済ませてただろうし)

上条(でも、なぁ?一度知り合った上、何と言っても恩人だし。向こうは憶えてないみたいだけど)

上条(ていうか冥界に居た俺の事も記憶してないみたいだよな?そもそもあそこに居た自覚があったら自分の立ち位置は理解して――)

上条「……」

上条(……それじゃアレか?あの子は『自分が死人だと自覚した瞬間に死ぬ』とか……?)

上条(それは……)

キキィッ

クロウ7「――はい、到着しましたよ」

上条「あ、はい。送ってくれてありがとうございます」 パタンッ

クロウ7「いえいえお気になさらず」

上条「それじゃ、どうも。おやすみなさい」

クロウ7「はい。よい夜を」

上条「……」

クロウ7「……」

上条「……帰らないの?」

クロウ7「……業務ですので、はい」

上条「あー……はい、お疲れ様です」

クロウ7「自分は念のためにマンションの周囲を調べてから帰りますので、どうかご安心下さい」

上条「すいません。なんか色々と」

クロウ7「そう思うのであれば、さっさと彼女さんを誰かに絞って下さると自分の気苦労も減るのですが……」

上条「はいっ!おやすみなさいねっ!また明日っ!」 シュタッ

クロウ7「相変わらず誤魔化すのが……まぁいいですがね」



――上条のアパート 周辺

クロウ7「さて……」

クロウ7(一通り見た感じで不審者、不審物はなし。極々普通の環境でしょうかね)

クロウ7(……というかリーダーも心配しすぎなんですよね。そうそう彼を害する人間が居るとも思えませんし)

クロウ7(不意の事故や、事情を知らない堅気の人間にどうこうされる事はあっても、それ以上に怖い方々から目をつけられるのは必然――と)

クロウ7(……ま、自分には関係な――)

ガサッ

クロウ7(植え込みの中に何か居る……?枝葉が邪魔でよく見えませんね)

クロウ7(素人ならば近寄ってミスするのはよくある話、特にホラー映画では死亡フラグですが。プロは慌てず騒がず機械に頼ると)

クロウ7(臭気感知装置――は、剥がされてから直してないんでしたっけ。でしたら携帯型の集音器を、と) カチッ

クロウ7(感度を上げて、拾った音から雑音を抜き、入力してあるサンプルと照らして合わせて音源がどれに最も近いかを絞る)

クロウ7(視覚と違って音は誤魔化しようがありませんから、人が隠れていれば吐息や心臓の鼓動でそれだけと分かります――と) ピピッ

クロウ7(呼吸音は感知出来ず、しかし心臓の鼓動は検知。パターンは……)

クロウ7(……猫と一致、ですか。まぁ人が隠れるにしてはおかしな場所ですし) クルッ

クロウ7(さてと。さっさと帰ってリペアでも――) ピピピッ、ピピピッ

クロウ7(分析結果の完全なデータが出たようですが……まぁわざわざ目を通す程のものでもな――)

クロウ7「……………………は?」

クロウ7「猫の心臓の鼓動数から推測する個体数――」

クロウ7「――さんじゅ――」

ザシユッ……!!!

クロウ7「か………………は――――――――!?」

…………バタ

???「ナー……ゴロゴロゴロ――」

???「――――――――――――にゃあ」



――上条のアパート 自室

上条「たっだいまー……と」

上条(内鍵はかかってたけど、チェーンはかけられてなかったぜ、と。ついでに合鍵も郵便受けに入ってなかった)

上条(部屋の中に居るのを期待したんだが……隠れるような場所は無いし)

上条(一応、そう一応、風呂場兼俺の寝室を覗いてみても、誰の姿もなかった)

上条(なーんか微かにゴウンゴウン言ってるが……あぁ洗濯機か。シャットアウラに貰った、ほぼ最新式の乾燥機付洗濯機!が、回ってる音だ)

上条(俺が回した憶えはない、から、きっとあの子がやってったんだろうが……うーん?)

上条(見事にどっか行ってるし、しかも戻ってくる気がある、感じだよなぁこれは)

上条(しかも素っ裸で外出る訳はねーから――べ、べつに興味なんてないんだからねっ――俺の服パクってったんだろうが)

上条(まぁ、そのまま戻って来ない可能性もあるが……んー?探しに行ってみるか?)

上条(浜面に連絡取れなきゃだし、表に出るのは――あー、柴崎さん居んだっけか?)

上条(一応そっちの確認もしながら、バレないよーにしてみっかなー。ま、なんとかなんだろ)



――アパート外 路上

上条「……」

上条(あのひぐらしの鳴きそうな黒いバンはどこにも見当たらない。帰ったんかな?……お疲れ様です。いやマジで)

上条(今の内に浜面へ連絡っと――) ピッ

Trrrrrrrrrrr……

浜面『――もしもし?どうしたヅラか?』

上条「『お前こそどうした!?唐突にその語尾なんだ!?』」

浜面『あーごめんごめん。今ちょっとフレメアと”ハピレスプリキュア”ごっこをだな』

上条「『やめなさい!そんな教育に悪いアニメ見ちゃいけませんよ!』」

浜面『俺がハマッヅラ?なんか陽性役で』

上条「『お前ホンットに気をつけろよ?彼女持ちが陽性の国行ったら人生詰むからな?』」

上条「『確かに一見メルヘンっぽく映るけど、実際には素人さんお断りの仁義なき世界だからな?』」

浜面『んでフレメアが――』

上条「『……あーアレだろ?キュアスター(二代目)とかでしょ?だって他に選択肢ないもの』」

浜面『いやキュアサベスだって』

上条「『カ・ツゥーラァァァァァァァァァァァァァァァァァァァ!?』」

上条「『持ち込みやがったな!?シリアスなこの世界にネタを持ち込み……あぁクソ!あのヤロウっ!』」

浜面『んで、どったん大将?こんな時間に珍しい』

上条「『あー……なんつったらいいか、そのさ、お前んトコのフレメアのねーちゃんの話なんだが』」

浜面『……フレンダの?』

上条「『嫌なこと確認するんだが……もう、亡くなってる、んだよな?絶対に?』」

浜面『どういう話だよ?何かの興味本位だったら、お前でも俺は怒るからな?』

上条「『……すまん。そういう茶化した話じゃ一切無いし、ここで――電話口で言っても信じて貰えるか分からない』」

上条「『だから――俺を信じて教えて欲しいんだ、頼むっ!』」

浜面『あー……まぁそこまで言われっちまうと、なぁ。なんつーか、だけど。ちょっと待ってな』 ガタゴト

上条「『浜面?』」

浜面『他の奴らに聞かれたらマズいんだろ?ベランダに出たから、もう大丈夫』

上条「『ん』」

浜面『あー……結論から言っちまうと……フレンダは死んでる』

浜面『俺がこの目で確認したし、他の”アイテム”の奴らも確認した。だからそれは絶対だ。間違いなんてありっこない』

上条「『……そっか……ごめんな』」

浜面『んで、なんでまたそんな話聞きたいんだよ?下手な言い訳したらぶん殴るからな』

上条「『……ウチに居たんだよ。ついさっきまで』」

浜面『お?U-chi?新しい食いモンかなんか?』

上条「『良いから落ち着け、そのまんまの意味だ』」

上条「『誰がどうやったのかは知らない。何のためにかも分からない』」

上条「『でも何らかの魔術を使って、その、フレンダを甦らせた、らしい』」

浜面『ハアァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァッ!?そんなんアリなのかよっ!?反則じゃねーかそっち側は!?』

浜面『甦るってアレだよな?イタコのばーちゃん口寄せ的じゃなくって、生きてた頃そのまんまって意味なんだよな!?なっ!?』

上条「『いいから最後まで聞けよ!でもそのまま、って訳には行かないらしいんだ!』」

浜面『え、どーゆー』

上条「『あくまでも可能性だが、その……死んだ人ってのは、やっぱり死んだ人であってさ?』」

上条「『人を傷付けられずには、いられない、みたいな……』」

浜面『……あぁなんとなく分かった――で、俺はどうすればいい?』

上条「『どうすればって……どう?』」

浜面『その”フレンダっぽい死人”を殺せば……いいのか?その手伝いをしろって?』

上条「『……違う。俺はそんなつもりで連絡したんじゃ――』」

浜面『――フレンダを殺したのはな。ウチ――”アイテム”の奴なんだよ』

上条「『――っ!』」

浜面『内容は言いたくねーが、そいつも死ぬ程――少なくともテメーの生き方見失って自暴自棄になるぐらい、悩んだよ』

浜面『どうしてって、それこそ盛大な八つ当たりで自分を融かすぐらいにはな』

上条「『……』」

浜面『俺は……俺は約束したんだよ。そんな奴でも守るって、もう”アイテム”が二度とバラバラにならないようにするって!』

浜面『……今のさ、大将の話聞いてるとさ?なんだかんだで、その……殺さなくっちゃいけないみたいじゃん?』

浜面『そんな、そんな辛い思い、させたくはねぇんだよ!俺は!もう二度とだ!』

上条「『……あー、うん、浜面。分かった、お前の言いたい事は、理解、した』」

浜面『……悪い。それでは俺は――』

上条「『――大丈夫だ、それは』」

浜面『あん?』

上条「『こっちは俺が”なんとかする”から、そっちは出来る限り、その……見つからないようにしてくれれば、それでいいと思う』」

浜面『――悪い!本当に、悪い!』

上条「『いや――こっちこそゴメン。何か平和にやってんのに、変な話持ち込んじまってさ?』」

上条「『こっちはこっちで何とかするから、うん、大丈夫大丈夫!上手く行くって!』」

浜面『……上条』

上条「『――あ、それじゃな?気をつけろよ、お前顔に出やすいからな?』」

浜面『オイ、まだ――』

上条「『それじゃまたなっ!』」 ピッ

上条「……」 プツッ

上条「……これが――」

上条(――『死人』って事かよ……!)



――上条のアパート 一階出入り口エントランス

上条「……」

上条(アパートの近くを探してみたものの、結局見当たらずと)

上条(ついでに言えば怪しいバンもなく、帰ってくれたのは不幸中の幸い、かな?)

上条「……」

上条(浜面の言葉……いや、俺がどうこう言って良い問題じゃないのか、それは)

上条(仲間を――友達を手にかけて、尚且つ今も仲良くやってるのは、そこにどんだけ葛藤があったのか、想像もつかない)

上条(たまたま首を突っ込んだだけの第三者が、感情に任せて詰っていい訳がねぇ――し。浜面だってだ)

上条(そんだけ大切にしてる仲間を守るために、元の仲間を――っていう”覚悟”がある。それはきっと半端な覚悟ではないに決まってる)

上条「……はぁ」

上条(とはいえ、とはいえだ)

上条(あの子――フレンダを、はいそーですかってさっさと処分する……)

上条(……そんな下らない事は絶対にしたくはないし、させたくもない)

上条(……だってホラ?アレじゃん?まだあの子が危険だって決まってもないし?)

上条(なんかこう、『陽性の国から来ました!』みたいなファンシーな可能性だって――)

上条「……」

上条(ないな、それはないわー。つーか今文字おかしくなかったか?まぁいいや)

上条(まぁまぁそれはいいとしてだよ。俺はこれからどう動くべきかを考えよう)

上条(今日はそろそろ日付が変わっちまうけど、引き続き彼女を探すのは不可能じゃない)

上条(学校もサボっちまえば、見つける可能性は更に高まる――それが雲を掴むような話で、0.01%が0.02%程度に上がるのであっても)

上条(……ただ、強行軍をしちまうとどっかで破綻するだろう)

上条(学校をサボれば土御門や青ピみたいな友達から、そうじゃなくても勘の鋭いレッサー達にバレるリスクが高まる)

上条(そして一回疑われたら、俺が秘密裏にこっそりと探すのは難しくなる……というか)

上条(現段階で俺がリードしているのは、『死人』の姿や顔を知ってるって一点だけ)

上条(レッサー達は……えぇと、何だっけ?魔力の残り香から探す?みたいな感じか)

上条(海原曰く、『魔力は感じ取れない』……らしいが、まぁ……下手に急いで探すのは止めにした方が無難だろう)

上条「……」

上条(『見つかった後』ってのもまた問題だわなぁ、これが)

上条(『新たなる光』だと処刑コース、黒鴉部隊も同じく)

上条(ハマッヅラ――じゃねぇや、同じ『アイテム』だった浜面も……てか、それだけは避けたい)

上条(……でもなー、出来ればなー、仲直りさせたいって言うかさ?)

上条(心情はどうあれ、割り切るかもさておき、あの子は故人の記憶と肉体っぽいものを受け継いでんだしさ)

上条(何とか、こう、せめてだ。妹さんぐらいに挨拶はさせてあげたい。うん)

上条(と、なると――写メかな?あのちっこい子に事情を話してなんかないだろうし、いつか話にしたって今ではないし)

上条(だとすると『お姉ちゃんは頑張ってるわよ!』みたいなメール出したっていい、かな……?そのぐらいは、さ)

上条(……浜面の許可なしにバカやらかすつもりはねぇが、一応写真の一枚二枚ぐらいは撮っておこう)

上条(……ま、捕まえるのが先だし、その間に何事も起こらない事を祈るが)



――上条のアパート 自室の前

上条「鍵、鍵……」 ガチャッ

上条「」 ガチャガチャッ

上条「あれ……?」

上条(鍵、今開けた筈なのに閉ってんな……?もしかして開けたまんまで出かけた、かな?)

上条「――って、まさか!」

上条(あの子が帰って来てる!?他に行く場所も無いだろうし、取り敢えず俺の部屋へ!) ガチャガチャッ

上条「……ただいまー……って居ねぇな」 ギィィッ

上条(台所、ベッドの上、ベランダ……にも居ない) キョロキョロ

上条(つーコトは風呂場か。あぁ洗濯の続きでもしてんのかな――あ、そだ)

上条(本人の安否確認用の写メ撮っちまおう。了解ないけど、後からとればいいし)

ガチャッ

上条「おー、お帰り。お前今までどこほっつき歩いて――」

フレンダ(※シャワー中)「――!?」 シャーッ……

上条 パシャッ、ピロリロリーン

フレンダ(※シャワー中)「……」

上条「――だん、だ……」

フレンダ(※シャワー中)「……」

上条 パシャッ、ピロリロリーン

フレンダ「なんでもう一枚撮った訳っ!?」

上条「ツッコム所そこかっ!?……あ、いや間違ってないけども!」

フレンダ「ていうか何でカメラ下に向けた訳よ!?」

上条「あぁいや『下も金なんだな』って。他意は無いよ?」

フレンダ「えっと――正座」

上条「あの、ここ下、濡れまくってんですけど……」

フレンダ「大声を出されて一生性犯罪者の汚名にビクつきながら生きていくのとどっちがいい訳?」

上条「――よっしゃ任せとけ!正座をさせたら校内一だと言われたこの俺に!」

フレンダ「あ、壁向いたままでね?あと、ケータイはこっちに渡す訳よ」

上条「……はい」

フレンダ「エーっと……あー、それじゃ整理する訳よ。オケ?」 ベキッ

上条「ノーオーケーでありますっ!たった今背後から電子機器をヘシ折った異音が聞こえましたけどっ!?」

フレンダ「あんたの人生が折れる方が好きなら、まぁ止めない訳だし?」

上条「形あるものはいつか壊れますもんねっ!サヨナラっ旅の報酬で貰った最新式のスマフォさんっ!短いお付き合いでしたねっ!」

フレンダ「で、なんだっけ?あー、そうそう、まずあんたは言いました――『俺は紳士だから不埒な事は考えない』と!」

上条「も、勿論だ!俺は誰に恥じる事はない!」

フレンダ「やだー、超カッコイイ訳ー――でねでね、取り敢えず自身の行動を振り返ってほしい訳なのよね?」 シャーッ

上条「あの……すいません?ちょ、ちょっといいですかね?」

フレンダ「あによ?」

上条「あのですね、俺の背後から水しぶきが飛んでくるって言うかですね、冷たいんですが」

上条「具体的にはテメー俺にシャワー浴びせてねぇか?あ?」

フレンダ「……これがシャバ最後のシャワーになる訳ねー」

上条「いやーシャワー好きだなぁ!特に夏は服を着たまま浴びるって最高ですよねっ!今は10月で寒いですけどっ!」

フレンダ「矯正施設のシャワールームで、ムサいオッサン共に後ろから前から……悪くない訳よねっ!」

上条「それだけは!ゴメンナサイするからそれだけは勘弁して下さいっ!」

フレンダ「話を戻す訳だけど、あんた言った訳よね?なんかこう『純粋に人助けだ』みたいな台詞言った訳だよね?」

上条「あー……言いましたねぇ、俺」

フレンダ「で?道で拾ったか弱く可愛い女の子がシャワー浴びてる最中に、カメラ構えて突入してきたのはどこのどなたさんって訳よ?」 カチッ

上条「……俺、かな――って、すんませんっ!緊急のお話があるんですが聞いて下さいっ!」

フレンダ「あ、ごめんちょっと待つ訳よ。今シャワーの温度最高にしてる訳だから」

上条「その話ですねっ!俺が何とかして欲しいのは丁度そのお話なんで――あちちちちちちちちちちちちちちちちっ!?」

フレンダ「この――ヘンタイっ!」

上条「ごめんなさいしますからっ!つーか悪気はなかったんだよ!むしろ善意で!」

フレンダ「善意で女の子の裸を撮る世界があるんだったら、滅びた方がタメになる訳だし!」

上条「まぁ、同感だ――アヂヂヂヂヂヂヂヂヂヂヂヂヂヂッ!?マジで!?熱湯だけは勘弁して下さいっ!」

フレンダ「そんなにあたしの脚線美が好きだった訳か!」

上条「あ、ごめん。そういうのいいから」

フレンダ カチカチカチカチカチカチッ

上条「シャワーの水温を上げんのを止めてくださいっ!?それは高橋名○みたいに連射するもんじゃありませんよっ!」

上条「つーか珍しく俺の生活環境が最新家電に包まれてるのがアダになったな!ほんのちょっぴり嬉しいぜ!」 ドヤァ

フレンダ「微妙に喜んでる訳……?」

上条「お前には――あちちちっ――分からないだろうさ!あちちっ、追い炊きに1時間かかるウチの前時代的なあちちちちちちちっ!」

上条「つーかテメェ人が喋ってんだから熱湯止めろよ!?お約束でしょーが!」

フレンダ「……他に言いたい事はある訳、被告人?」

上条「ブラつける必要無くないかな?」

フレンダ カチカチカチカチカチカチカチカチッ

上条「バカっ!学習しない俺のバカバカバカバカっ!前も似たようなシチュで半殺しになっ――」

フレンダ「はーい、最大熱湯ショー開始って訳――よ!」

上条「だーーーーーーーーーーかーーーーーーーーーーーーらーーーーーーーーーーーーっ!」



――上条の自室

フレンダ「――ふっ、悪は滅びる訳よね」

上条「滅んだっつーか、今まさに俺の背中が大惨事なんですが……」

フレンダ「ていうかそんなに温度上げてない訳だし、ていうか一般家庭用のシャワーがそんな高温になる筈ない訳よ!」

上条「残念!俺んちは今最新家電に包まれてるんだな、これが!」

フレンダ「うっわ、自慢ムカツクー」

上条「まさかリミッター無しのアレな仕様になってるとは思いもしなかったがな!」

上条(……あれから誤解を解いて、どうにか許して貰ったんだが……背中はヒリヒリする)

上条(冷水のシャワーを浴びたが……まぁ、うん)

フレンダ「ていうかあんた、マジで盗撮する気だった訳?」

上条「いやー、だからそれば誤解だって」

フレンダ「どんな誤解って訳よ。まぁ百歩譲ってお風呂中なのは分からないとしても、なんであたしの写メ欲しかった訳?」

上条「そりゃお前、ご家族に安否をだな――」

フレンダ「身代金目的の誘拐っ!?」

上条「――じゃ、ないですねっ!ついこうフラっと!ほら、魔が差した的なカンジで!」

上条「可愛い子が居たから!俺の右手がつい勝手に!みたいな!」

フレンダ「まー、気持ちは分からない訳でもない訳だけどー」

上条「……ちっ、立場が立場だけに何も言い返せない……!」

上条「――まぁ冗談はさておくとしてだ」

フレンダ「うん?」

上条「お前、その危ねーヤツんちでくつろいでる訳だが、そこら辺の事情どうなんだよ?」

上条(拾った直後はブラック過ぎる背景がアレで突っ込めなかったが、今は少しでも話を聞き出すのが大切だな)

フレンダ「あー……」

上条「あ、いや別に出てけって訳じゃないし、何だったら居てくれても構わないんだけども……」

上条「どこでどうトラブってる奴を置くのもなんか気になるし、事情ぐらいは聞いときたいな、と」

フレンダ「そうねー……ま、相手が変質者だとしても、一宿一飯の恩がある訳よね」

上条「誤解が全く解けてないようで恐縮だが、それで?」

フレンダ「……いい?今からあたしが話す事は、絶対に他では言わない事。守れる訳?」

上条「……約束する」

フレンダ「……ん、それじゃ言うけど、あたし――」

フレンダ「――『タイムスリップしてた』訳よ……ッ!!!」

上条「……」

フレンダ「うんその、『何言ってんだコイツ?』的なリアクションになるのは分かってた訳よねっ!」

フレンダ「でも聞いてよ!あたし的には全っ然突拍子もない話じゃないんだから!」

上条「あー……タイムスリップなぁ」

上条(この子にしてみれば当然そう解釈するわなぁ)

上条(『誰かに殺されて、一年以上経ってから黄泉帰った』って思い付いたら、ある意味天才だが)

フレンダ「てかNARUT○が終ってた訳!ネ○兄さんも死んでるし!」

上条「テメェどっか行ったと思ってたら、コンビニで立ち読みしてやがったのかコノヤロー」

フレンダ「あ、でもHUNTER×HUNTE○は終ってなかった訳!むしろ一巻も進んでなくてホッとした訳よねっ!」

上条「あれもなぁ……てかマンガで確認すんなや。テレビか新聞で充分だろ」

フレンダ「……」

上条「どした?」

フレンダ「……オカルトって、信じる?」

上条「タイムスリップした時点で充分にオカルトだと思うが」

フレンダ「そうじゃない訳!そうじゃなくて、その……都市伝説、的なの」

上条「……なんか、あったのか?」

上条(自分が『死人』だって理解してきた、とか……?)

フレンダ「それがね――」



――回想 とある路地の一角

フレンダ『あ、あれ……?あたしどうしてXX学区にいる訳……?』

フレンダ『てかおなか……ついてる訳よね?なんで確認したんだろ……?』

フレンダ『ケータイ……は、ないしお金も無いか。何があった訳?』

フレンダ『多分あれじゃない?精神操作系の能力者とかち合って操作された訳』

フレンダ『んで身ぐるみ剥がれて――って服はちゃんと着てるけど――ほっぽり出された訳よね、うん』

フレンダ『――はっ!?まさか超ぷりちーなあたしの貞操が……ッ!?』

フレンダ『……今、『ぷりちー()』って空耳が聞こえた訳だけど、まぁ大丈夫な訳』

フレンダ『さってと。それじゃどこ行ったら……』

フレンダ『麦野んトコへ行って事情を……あれ?なんか寒気がする訳ね?風邪かな?』

フレンダ『あたしがこんな状況で麦野達が平気だって可能性も少ない、か。『暗部』として巻き込まれてるんだったらば、うんそうって訳』

フレンダ『んー?それじゃ……あぁお腹も空いたし秘密アジトへ行く訳よね』

フレンダ『武器が無いのはまぁ仕方が無い訳だけど、お金と』

フレンダ『念のため麦野達にもナイショで作っといたから、バレる可能性も低い訳だし』



――XX学区 ”元”アジト

フレンダ『……アジトが――無くなってる訳!?』

フレンダ『つーかコンビニ!?何でコンビニ風の建物に……ニホンダルマなんて趣味わっる!?』

女の子『おんやー?いらっしゃいませーお客様ー、そんなとこで見てないで中入ったらどーです』

フレンダ『え、あ、はい、うん?ありが、とう?』

フレンダ『てかちょっといい訳?いつの間にコンビニなんて建った訳よ?』

女の子『……いつでしょうねぇ。私はバイトの身なんでよくは存じませんが』

フレンダ『ま、まぁいい訳だけど――って店員さん、なんであたしに近寄ってきて、る……訳?』

女の子『お客さん――匂いをしてますよねぇ?花ですか、これは』 クンクン

フレンダ『……え?』

女の子『ていうか大分お憑れ――もとい、お疲れのご様子だとお見受けしますし』

女の子『どうです?中へ入ってお茶の一杯でも――』

フレンダ『イヤーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーっ!?』

フレンダ『バラされるーーーーーーーーーーーーっ!?中国の片田舎で見世物にされるーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーっ!?』

女の子『最近では”コンビニのトレイへ入った女子高生が出て来ない”バージョンへと派生してるようですよ?』

フレンダ『シュタッ!』

女の子『あ、ちょっとお客さーん――』



――上条のアパート 現在

フレンダ「――っていう怪奇現象が!」

上条「……」 グッ!

フレンダ「あ、あれ?どうしてあんたDOGEZAしてる訳よ?」

上条「……えっと……うん、気にしないで欲しいな。なんつーか、こう、あぁっと……まぁ、今なんか無性にDOGEZAしたい気分ってだけだから!」

上条(うん、全然理解してなかったな!)

フレンダ「そ、そう?まぁいいけど大変だった訳よ!ヤサにはお金や武器も仕舞って置いたのに!」

フレンダ「――ってあんたのDOGEZAがますます地を這うぐらいに小さくなってんだけど、ホントどうした訳?今頃になってやっちゃった感て訳?」

上条「一身上の都合でねっ!決して身内(バカ)の不始末に誤ってる訳じゃないからなっ勘違いしないでよねっ!」

フレンダ「なんで今更感が漂うツンデレになってる訳……?」

上条「……大変だったな、うん!お前は大変だったよっ!いやマジでねっ!」

フレンダ「信じてくれる、訳?」

上条「勿論さっ!つーかあのバカ――もとい、どっかの俺の知り合いなんかじゃない奴らに代って!いつまでもここに居たら良いし!」

フレンダ「でもすこーし貞操の危機を憶えるような」

上条「貞操の危機()」

フレンダ「えっと、アンチスキルの一番近い詰め所はっと」

上条「いやー俺彼女居ないから!こんなキレーでぷりちーなお嬢さんを泊めるのは緊張しちゃうんですよねっ!」

フレンダ「ていうか怖かった訳よー。何だったんだろ、アレ?心霊現象?」

フレンダ「次行った時、お店が跡形もなくなってそうで怖い訳よね」

上条「いやぁ……うん、まぁ本人達からすればギャグ、つかボケなんだろうが……」

フレンダ「てかガイジンがなんであたしの隠れ家に居た訳……?」

上条「お前も外人だな?なんか日本に長く住む外人は、みんなそういう感覚になるって言うけどもだ」

フレンダ「――あ、そうだ聞いてよ!あたしの不幸はそれだけじゃ終らなかった訳だし!」

フレンダ「隠れ家を追われたあたしは!誰かの家に転がり込もうとした訳よ!」

上条「お前、それものっそい危険だぞ。割と本気で注意すっけどさ」

フレンダ「……まぁ、道を歩いてたら、こんな事があった訳……」



――回想 とある学区の路地裏

フレンダ『あー……』

フレンダ(どうしよう……他のアジトも含めて全滅……っていうかなくなってるし)

フレンダ(こんな短期間に全部潰せるなんて……相当の力を持った組織に狙われる訳か……!)

フレンダ(ってコトは下手に麦野達に連絡したらヤバい訳だし、かといってホームレスになるのはイヤだし)

フレンダ(これはもう、適当な相手をとっ捕まえて転がる込むしかない訳かー。あー気が進まない訳だしー)

フレンダ(脂ぎったオッサンに誘拐されたら人生終る気がする訳。薄い本的な意味で。それだけは何としても避けたい訳よね)

フレンダ(……っと、それっぽいカモ発見っと――)

青髪ピアスの男『……』

フレンダ『あのー――』

青髪ピアスの男『……どっかに女の子落ちてへんかなぁ……』

フレンダ『』 ビクッ!?

青髪ピアスの男『あれやんな?こう、まずは道を歩いてたら「助けて下さい!追われてるんです!」は基本やね。王道っちゅーか』

青髪ピアスの男『もしくは家帰ったらベランダにシスターさんが落ちとるとか、裏路地でリアルロ×を拾ったりせぇへんかなー』

青髪ピアスの男『やっぱ出会い言うたらアレやん?人間第1印象が大切やんな』

青髪ピアスの男『危機を乗り越えて惹かれ合う男と女っ!古きよき時代のボーツミーツガールは守っとかんとアカンで!』

青髪ピアスの男『そりゃ空から女の子降ってきたら世界敵に回しても戦うわ!当たり前ですやん!』

青髪ピアスの男『……ま、今の流行りも――』

青髪ピアスの男『最近は異世界転生チートモンばかりで風情がないっちゅーか、嘆かわしい事やん?……でも流行りは流行りやけど』

青髪ピアスの男『やっぱ転生するんやったらアイン○さん的なのはイマイチやね。楽しいのは楽しいやろうけども、イビルア○はんprprできひんし』

青髪ピアスの男『ロリババ○……ロリバ○アになって賢者の弟子のフリするんは……アリ、やな……っ!』

青髪ピアスの男『TSプラスロ×を兼ねられる……これまさに天才としか言えへんよ!そうやね!』

青髪ピアスの男『……あ、でもあれWEB版の微エロ描写、文庫版ではバッサリ切られとぉな……あれは頂けんわー、ホンマに――って』

青髪ピアスの男『ねーねーそこのカノジョ!』

フレンダ『は、はい?』

青髪ピアスの男『もしかして前世でボクら恋人同士やなかったっけ?』

フレンダ『おまわりさんこの人です』



――上条のアパート 現在

フレンダ「って変質者に絡まれたトラウマで、あたしは不幸な路上生活を余儀なくされた、って訳よ」

フレンダ「本当に、ホンットーに最近は治安が悪い――って、あんたはどうして床に額を擦りつけんばかりに再DOGEZAしてる訳なの?」

上条「……いや……なんつーか、うん、ごめんなさい……ッ!」

フレンダ「ハダカを見られたとは言え、そこまで卑屈になるのはどうかと思う訳だけど」

フレンダ「……ま、あたしはそんなこんなで大っ変な思いをしてきた訳なのよ!」

上条「辛かったんだな……そんな、若い子がカブトムシの臭いをさせるまで頑張るだなんて!」

フレンダ「別に好きでそうした訳じゃないんだけど……」

上条「てかアジトそんなに大切だったのかよ。身動き取れなくなる程に」

フレンダ「あー……っと、どうしよっかな?あんたには話しても良いような気がする訳だけど?」

上条「信用出来ないんだったら、まぁ無理して話す必要はないぜ?……言ってて自分で凹むがなっ!」

フレンダ「覗きは、まぁ何かの事故っぽいのは分かったけど……んー……巻き込んだら悪い訳だし」

上条「お前の能力に関してか?」

フレンダ「そうよ。『兵器庫艦(バックヤードキャロット)』って能力な訳――」

フレンダ「……」

上条「うん?どした?」

フレンダ「――巧みな誘導尋問っ!?あんたその筋のプロって訳か!?」

上条「まずお前の言動を省みろ!つーかどこの世界にここまで失敗しまくる尋問官が居るんだよ!」

フレンダ「ま、そこら辺は信用してる訳。こんなとっぽいニーチャンが『暗部』とは思えないし」

上条「……もうそこまで言ったら、つか拾った時点で巻き込まれてんだからさ、話してくれよ」

上条「まさか聞いたら即死末されるようなヤバい能力じゃないんだろ?」

フレンダ「んー……まぁ知られても問題はない訳だけど……アポート、って聞いた事ある?」

上条「あぽーと?」

フレンダ「超能力――世に知られている一般的な超能力としては、サイコキネシスやテレポートと並んで有名って訳」

フレンダ「なんかこう、遠く離れた場所から物を取り寄せたりする能力なんだけど、見た事ない訳?」

上条「あっ、あー!テレビでよくやってるの!」

フレンダ「そのっホンモノって訳!つーかインチキやマジックと一緒にしないでお願いっ!」

上条「アポート、アポートなぁ……」

フレンダ「なにその微妙な反応は?」

上条「いやー凄いは凄いけどさ?俺みたいなレベル0からすれば」

フレンダ「ふふんっ、どーよって訳!」

上条「でもそれ手品でよくある、『握った手の中にコインが現れました!』みたいに、トリックで代用可能じゃね?」

フレンダ「だからマジックと一緒にしないで!あっちはタネと仕掛けがある訳だから!」

上条「具体的にはどう?」

フレンダ「それは……こう、事前に武器を用意しておく訳!例えばハンドグレネードとか、そーゆーのを!」

上条「持ち運び出来ないような武器――つーか兵器だったら、便利、かな?」

上条「遠くのモンを自由にお取り寄せ出来るんだったらば、盗みなんかも楽勝だろうし」

上条「使いようによっては物流革命も不可能ではない、と」

フレンダ「……」

上条「ど、どした?何で急にテンション下がってんだよ?」

フレンダ「……それがさーあ?あたしはこの能力持ってたから、学園都市にスカウトされた訳なのよね」

フレンダ「ま、身内も一緒に。だから良かったっちゃ良かった訳、そこまではね」

上条「能力を――以前から使えた?」

フレンダ「あーうん。たまにそーゆー能力者も居るらしい訳ね。つーかあたしそうだし」

上条「……へー」

上条(バードウェイから前に聞いてたな。確か――)

上条(――『原石』、だっけ?天然の能力者であり、力を持つ者)

上条(既存の魔術師の成り立ちは、才能の無い者が彼らの力を欲し、魔術でその差を埋めようとした、とかなんとか)

フレンダ「ただいざ実際に来てみれば、『実用的じゃねぇな、次』つってさっさと『暗部』にポイ!ってどーゆーコトな訳よ!?」

フレンダ「確かに!予め決めた座標軸だけとか!アポート出来る武器も近接系”ほぼ”オンリーってイマイチだけど!」

フレンダ「何もそーゆー言い方しなくっていい訳よっあのヤクザ研究者!ねぇ!?思う訳よねっ!?ねっ!?」

上条「まぁしょうがないんじゃ?強い能力程、なんてったっけ?リミッター?みたいなのがついてて、使いづらいって話聞いた事あるし」

上条(その割には一方通行や垣根、ビリビリにあるって話は聞かないが。弱点がないからこそ『レベル5』なんだろうけどさ)

フレンダ「あんた……っ!意外とイイヤツだって訳よね!」

上条「信頼度がだだ下がり状態で今更媚びるつもりはねぇが、その言い方も、なんかな……」

フレンダ「ま、そんな訳であたしの能力の座標軸は、あそこの謎コンビニに固定されてて、移動できない訳」

上条「移動させれば――って、無理か。する意味ないもんな」

フレンダ「武器は……まぁ換金できないから要らない訳だけど、せめて!せめてコツコツ貯めたお金だけは……!」

上条「……あぁうん。多分拾いパクしてるテロリスト共に、返すよう言っとくわ……」

フレンダ「テロリスト?」

上条「もしかしたらっ!ホラッ!親切な人が拾っててくれたかも!」

フレンダ「あんたバカな訳?もっと現実を見なさいよ」

上条「フォローしてる筈がヒドイ言われようだなっ!」

フレンダ「――んーで!最初のタイムスリップの話へ戻る訳だけど!」

上条「あれ?その話は終ったんじゃ?」

フレンダ「終ってない訳!てゆうか今までのが前フリだし!」

フレンダ「あたしの『能力』は物だけだけど、空間移動させる力な訳よ。分かる?」

上条「まぁ、はい」

フレンダ「だ、けども!何をどうしたのか分からない訳だけど!能力が暴走したか成長したのかわっかんない訳だけど!」

上条「……」

フレンダ「だ・け・どっ!」

上条「あ、はい。それで?」

フレンダ「きっと『能力』のせいであたしはタイムスリップしてしまった訳よ……ッ!!!」

上条「ちげーよ!」

フレンダ「はい?」

上条「じゃなかった!見事な推理ですねヌレンダさんっ!流石は脚線美っ!」

フレンダ「フレンダね?もしくはセイヴェルンね?あと脚線美関係ないし」

上条「ですよねっ!」

上条(あー……成程成程。そういう解釈すんのが普通かー……っと待てよ?)

上条「あのー、それじゃ今は能力の方は……?」

フレンダ「タイムスリップした直後に一辺使った訳だけど、なーんか調子悪くて止めちっゃた訳、かな?」

フレンダ「後は暴走って可能性も否定出来ないから、自粛してる訳ね」

上条「……ふむ」

上条(まぁ……いいのかな?猟奇コンビニに置いてある謎商品取り寄せても、混乱するだけだろうし)

上条(話を聞くに、自分で置いた物、もしくは認識した物でないと無理っぽい)

上条(ただ――白井さんと同じレベル4だってのは、少ーし過剰評価過ぎる気がする。なんか隠された力でもあるとか?)

上条「まぁそっちの事情は分かったよ。そういう事だったらば、まぁ暫くは居たらいいんじゃないかな」

上条「カノジョ持ちって訳でもないし。あ、ただ俺は学校行くから、あんま相手してらんないけどな」

フレンダ「学校……そか。今日も平日だった訳か」

上条「ていうかもう寝ようぜ?放課後拉致されてからずっと動きっぱなしで疲れた……」

フレンダ「そうよね、寝ようって訳……よ?」

上条「どったの?」

フレンダ「ベッド一つしか――ハッ!?」

上条「なんとなくお前のそのリアクションでお腹いっぱいだが、言うだけ言ってみ?」

フレンダ「『あ、ベッド一つしかないや。それじゃ仕方がないから一緒に寝ようか?』みたいな展開狙うって訳か!?薄い本みたいに!」

上条「発想が安易すぎるわっ!その流れで『じゃ、一緒に……!』ってなんのはエロいゲームぐらいしかねぇよ!ある意味男の夢ではあるが!」

フレンダ「ほー、あたしに魅力がないとでも?」

上条「魅力()」

フレンダ「てかあんた最初っから何よその態度は!初対面だって訳なのになんか人を小鷹にして!」

上条「あ、その小説も終ったわ」

フレンダ「マジでっ!?アニ○ルートで終った訳っ!?」

上条「そこの棚にあるから読んでいいよ」

フレンダ「あ、ホントだ」

上条「それじゃ俺は先に寝てるから、おやすみー」

フレンダ「うん、んじゃお休みって訳ー」

上条「……」

フレンダ「……」 パラッ

上条「……ぐー……」

フレンダ「……………………あれ?」

フレンダ「なんかこう、イベント一つ不発った気が……?」



――翌朝 自宅

チュンチュン、チュンチュンチュン……

上条「……」

上条(スズメが鳴いてる……まぁよくあるマンガ的表現だが、古式ゆかしいのは嫌いじゃない)

上条(学園都市にスズメいねーだろ的な事も言ってはいけないし、前似たような事を言ってなかったっけ?も禁句だな)

上条(こう、あくまでも男女表現のアレな事が終りましたよー、察して下さいねー、的な意味もあるし!ていうか少女漫画では特にねっ!)

上条(だが残念!一人暮らしの俺には生憎浮いた話なんかこれっぽっちないのさ!なんか最近モテ期……?いやいやそうじゃないけど!)

上条(だからですね、朝チュン的な表現があったとしても、それはこう別にこれと言った深い意味は――)

フレンダ「……くー……すぅ」

上条「」

上条(……よし落ち着こう俺!まず何があったor何が起きたのかを整理しよう!)

上条(こういう時に騒いだらロクな事ぁねぇからなっ!過去の体験から言っても取り敢えずは落ち着こう!)

上条(どう見ても10代前半のロ×好きなおっさんには(※悪い意味で)たまらない女の子と一緒にベッドへ入っていたとしてもだ!)

上条「えっと……」 ペタペタ

フレンダ「……………………ゃ……て訳」

上条「……」

上条(Bカップだな。Aに限りなく近いけど) モミモミ

上条(形はやや小ぶりながら適度な弾力があり、まだまだ将来の期待が持てそうなぐらい、それ相応のむにゅむにゅ感が) モミモミ

上条(むしろこれはこれで、思春期特有の今しか維持できない、あまりにも繊細でなだらかな曲線が控えめな自己主張を遂げている) モミモミ

上条(今はまだワイヤーこそ入ってないインナーに、優しく包まれ保護されているものの、いずれ咲くであろう大輪の花を思わせ――) モミモミ

フレンダ パチッ

上条「」 モミモミ

フレンダ「………………なに、やってる訳……?」

上条「違うんだ!これは――ほら!敵の魔術師の攻撃なんだ……ッ!?」 モミモミ

フレンダ「スネイ○先生だって、就寝中の女の子のおっぱい揉ませたりはしない訳だけど」

上条「ですよねー」 モミモミ

フレンダ「ていうか手ぇ話す訳だしっ!ちょっと気持ちいいから!」

上条「具体的にどこが?」(ゲス顔)

フレンダ「う、うん、中からジンジンして、女の子の大事な――じゃないって訳よ!悪びれもせずにセクハラで畳みかけるって中々やるって訳だし!」

フレンダ「つーかあんた昨日とキャラ違くない!?そんなキャラだったっけ!?」

上条「おっかしいな……?俺も違和感があるような……?」

フレンダ「つーか人が気持ち良く寝てたと思ってたら、朝起きたらおっぱい揉まれて気持ち良く起きるなんてどんな訳よっ!?」

上条「えっと、その……あれだよ!」

フレンダ「何よ?」

上条「この世界にはさ、色々な職業があると思うんだよ。アイドルみたいな芸能人や、弁護士や公務員みたいなお堅い仕事もある」

上条「最近の女の子には永久就職に憧れる――てか、家庭へ入るって願望も強いみたいだし、それはそれで構わないとも思う」

上条「何故ならばお母さんってのも立派な仕事だからだ。最近だと社会進出してる女性が主婦を見下すー、みたいなのはあるけど、それは間違いだと思う」

フレンダ「うん?」

上条「……でも中には、つーか大半がそうだと思うけど、普通は望んだ職に就けるとは限らない」

上条「子供の頃に夢見た職になる……どこかで現実と妥協して、収まりのいい所を選ぶだろう――だが!俺は思うんだよ!」

上条「夢を捨てちゃいけない!絶対に叶うなんて有り得ないし!殆どが無理だって分かる!そんな事は当たり前だろう!」

上条「でも!だからっつって最初から諦めるのが正しいのかよ!?『あの葡萄は酸っぱくてマズい』って食べようとしてもしないで投げ出すな!」

上条「それが困難な夢だからこそ!俺達は少しずつ!這いつくばってでも前に進んでいかなきゃいけないんだろ!?なあっ」

フレンダ「んで?その壮大な話とあたしのおっぱいフニフニしてた件とどう繋がる訳?」

上条「実は俺さ」

フレンダ「うんうん」

上条「将来おっぱいソムリエを目指しててだな、その予行演習を」

フレンダ「歯ぁ食いしばる訳よ」 ニッコリ

上条「……あい」

パシァーーーーーーーーーーーーーーーーンッ



――学校 朝

上条「おはよー」

土御門「おぅ、おっはー――ってカミやん!」

上条「ん、なに?俺の顔になんかついてるか?」

土御門「デッカイ紅葉が左頬に、つーか誰にぶん殴られたん?」

上条「昨今の夢のない世代の話をしてたら、こう、いきなり」

土御門「ラッキースケベで殴られるのは、もう固有特性としか言い様はないし、そもそもいつもの事だ」

上条「おかしいな……?完璧に言いくるめたと思ったんだが……」

土御門「……あれでどうにか誤魔化せると本気で思うのであれば、貴様の頭がバグっている証拠だろうさ」

上条「ん?何か言ったか?」

土御門「いんや別にぃ?なんも言ってないぜぃ?」

上条「……」

土御門「どした?」

上条「ドドえもーーーーーーーーーーーーーんっ!!!」 ギュッ

土御門「あ、こら抱きつくな莫迦者がっ!」

土御門「というか”つちみかど”の土と”みかど”の”ど”を取ってドドえもんは分かりづらいだろうが!」

上条「……土御門……?」

土御門「な、なんだにゃー?」

上条「――問題、中学生と妹、どっちが好き?」

土御門「……知らない相手よりも肉親を選ぶ――だろ?」

上条「……ふー良かった。本物の土御門だった。てっきりまた海原かと」

土御門「……あぁそうか。良かったな」

上条「ていうか土御門さん、ずっと失踪中じゃなかったっけか?何か随分久しぶりな気がするんだけど」

土御門「あぁそりゃカミやんの方じゃないかにゃー?EUくんだりまで出張したりして、たまたまスケジュールが合わなかっただけだぜぃ」

上条「そう、だっけ……か」

土御門「そうだにゅ」

上条「語尾語尾。キャラ設定は守ろうぜ」

土御門「んで、またどんなトラブルに首突っ込んでるんだ?朝一で俺にすがりつくぐらいに」

上条「それが――あぁいや俺じゃないよ?俺の友達の友達がね、ちょっとトラブルにあったらしくてさ」

土御門「”友達の友達”……その時点で都市伝説の条件を満たしてるが、その友達がなんだって?」

上条「実は――と、教室で話すのは、ちょっとマズいっていうか」

土御門「誰も聞いてないぜぃ。というか”こっち”の話してたってゲームかマンガだと思う筈にゃー」

土御門「吹寄や姫神辺りが突っ込んでくるんだったら、それはもう最初っから巻き込まれる運命だぜぃ」

上条「土御門が言うんだったら――で、友達の話なんだが」

土御門「一親等近くなってるぞ」

上条「友達の友達の話なんだがっ!……そのさ、『死人』をうまーく生き返らせる方法は、ない、かな?」

上条「せめて普通の人レベルに落ち着く、みたいな感じに」

土御門「ないな」

上条「即答っ!?」

土御門「『死人』――死んだ人間を”そのまま”甦らせるのは不可能に近い」

土御門「あったとしてもそれはもう人の業ではなく、魔神や神話に謳われる魔女の域にまで達している話だぜぃ」

上条「……オーディン、だったよな?優れた戦士へヴァルキリーを遣わせて、自分の宮殿へ集めるって」

土御門「そりゃ死んだ”後”の話であって、その戦士達が筐体(からだ)を得るのは神々の黄昏の時だけだにゃー」

上条「無理なのかな?」

土御門「北欧神話のような死後の救済案が整ってる世界観であっても、エインヘリャルとして迎え入れられるのは極々一部の梟雄に過ぎないぜぃ」

土御門「その他大勢はヘルヘイムで呪われた死者となり、ラグナロクの日には『ナグルファル(死者の爪船)』に乗ってアスガルドへ攻め入る」

土御門「それまではずっと死人は死人のままだ。それも『異界』でな」

上条(ナグルファル……ランシスの『爪』の霊装と同じ名前だな)

土御門「あの影は病疫神と相性がすこぶる良い。忌々しい程に」

上条「ふーん……ん?今俺口に出して」

土御門「――ま、魔神クラスの魔術が扱えるんだったらともかく、たかが人の身でどうこう出来るモンじゃないぜぃ」

土御門「『死者を生者として蘇らせる事』”は”だが」

上条「……いや、それが出来ないから――」

土御門「そうじゃない、そうではないんだにゃー。発想の展開だ、と言った方がいいのかも知れないが」

土御門「カミやんは何とかしたい訳だろ、その『死人』を」

上条「友達の友達だけどさ」

上条(浜面の仲間なら、文字通りにそういう関係性になるが)

土御門「正攻法は叶わない。不可能じゃないが限りなく無理だ……と言うのであれば」

上条「……あれば?」

土御門「だったら正攻法を避ければいい。何も真っ正面から付き合ってやる必要性すらない」

土御門「ヴァルハラでは魔神が一柱、”隻眼隻影”のオティヌスが死人を招いて軍団を造る」

土御門「同じくここの秀真(ほつま)でも、とある地母神は死人を率いて黄泉戦(よもついくさ)――『死人』の軍隊を造り上げた訳だにゃー」

上条「だから、『死人』じゃ宜しくないって話じゃねぇのか」

土御門「だったら『死人”以外”』にすればいいだろう?」

上条「……………………はぁ?」

土御門「何も魂が――記憶を持っているのであれば、死者に拘る必要は無いさ。精霊にでも妖精にでも仕立て上げればいい」

土御門「そうすれば『死者』の持つリスクの大半は無効化されるだろうよ」

上条「あー……どういう事?」

土御門「『死者』が死者足りうるのは、そのメリット――生者の”延長”であるのを差し引いても、各種病魔のリスクを抱える」

土御門「それは例え神であろうと――それこそ、オティヌスのような生死を司るものでなければ、制御は出来ない。また住み分けるのすら困難だ」

土御門「だったらイカサマすればいいんだよ。何も『死者』だけが魂の残滓とは限らない」

上条「えっと……ごめん。全然分からない」

土御門「だからお前の――友達の友達が抱える問題点は全てが全て『死者』である一点に起因する」

土御門「ならば対象を『死者でない何か』へ造り替えてしまえば話は簡単だ……にゃー」

上条「出来るのかよっ!?そんな事が!」

土御門「やって見せただろう。魔神オティヌスが妖精へと変わっ”た”ように」

土御門「多少は存在が揺らぐかも知れないが、このまま中途半端なまま喜劇を迎えるよりはマシだぜぃ」

上条「でも魂……魂って言ったよな?」

土御門「あぁ。魂の容器を変えればいいと」

上条「けど、その、魂ってのは無いんじゃなかったのか?こう、全部は龍脈に流れている記憶がどうこうしているんであって――」

土御門「莫迦か。それこそがデウス・エクス・マスナではないか」

上条「機械仕掛けの神、だったよな?確かご都合主義って意味の」

土御門「確かに龍脈には全ての存在の記憶と力が流れ、それを自由に操れるかどうかかせ魔術の深淵だという説がある。それは否定はせんよ」

土御門「だがそれはあくまでも『未知の自称に適当な名称をつけ解釈している”だけ”』に過ぎない」

土御門「例えば龍脈じゃなくともオレゴンエネルギー、宇宙からの謎パワーだって良い」

土御門「『万能の謎パワーがあってそれで全てを説明出来る』のは、ただのジョークだよ」

土御門「機械仕掛けの神々が最後に全てを救ってくれるのに対し、そう思い込めばそうなっているだけだ」

上条「魔神は?俺達が戦ったセレーネやその眷属達は?」

土御門「……この世界に於て、この世界”軸”に於いては、それがたまたま真実だったのだろうさ」

土御門「他のどこかで同じ事が通用するとは限らない」

上条「……なぁ土御門」

土御門「残念だがこれ以上は力になれない、というか出来ないが正しいのか」

土御門「こい――ウチの本系筋、高野山には反魂の法が伝わってるらしいが、それはどうにも不十分なシロモノだった訳で」

土御門「実践した西行法師が造り上げたモノには魂は宿らず、未だ吉野の山中を彷徨ってるらしいぜぃ」

上条「そっか……あぁでも少しだけ見えてきた、かな。なんとかなるかも」

上条「……本当にありがとうドドえもん!困った時には頼りなるよなっ!」

土御門「いい。貸し一つにしておく……いや、借り、か?……だが忘れるな」

土御門「秀真において常世と現世の境は酷く曖昧で厄介なモノだ。故に親和性が高く、容易に現実を侵食しかね――」

土御門「この街にはまだ魔力が残っている。あの人類が好きな――の、嘘が本当――――厄介――――」

上条「土御門……?」

土御門「アルビオンより運ばれた――器――――――――――――――――――」

土御門「――――――――――――――断罪――――――――――――――――」

土御門「―――――――――――――――――――――――オールバンズの血統」

上条「おいどう――」

ジジッ、ザァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァッ………………



――教室 朝

上条「――した……?」

青ピ「それでボクは言うてやったんよ!こう、喉が枯れんばかりの勢いで!」

上条「……あれ?」

青ピ「あ、ゴメン。喉が枯れるのは言いすぎやったわ。枯れるんやのぉて、ちょいガラガラする程度やったわー」

上条「ん、あぁいやそういう事じゃねぇんだが……今、土御門居なかった?てか話してなかったか?」

青ピ「あんのボクらに一言も相談なしに歩き回っとぉボケが登校してるん?」

上条「あー、何だろうな……まぁいいか」

上条(今はフレンダの話を聞こう――てか、確かこいつとも遭遇してんだよな。人間不信になるぐらいのトラウマ与えて)

上条(ある意味、警戒心を高めさせて薄い本的な展開になるのを防いでんだから、まぁ良かった……かも?前向きに考えれば、うん)

上条「あーそれより訊きたい事があったんだよ。今から一週間ぐらい前にナンパしなかったか?」

青ピ「一週間ぐらい前……うーむ、憶えとらんわー」

上条「いやいや!忘れないだろ、普通!」

青ピ「なぁカミやん、つーかカミやんさんよっ!」

上条「何だよ」

青ピ「カミやんは今までに食べたパンツの数を憶えてるんかいな……ッ!!!」

上条「ゼロ枚ですね。大抵の人はゼロ枚ですよ?」

青ピ「ボクは――」

上条「いいっ!それ以上言うなっ!台詞噛んで変な事態になったのは理解出来るけども!これ以上話を広げても誰も得をしないからなっ!」

青ピ「ナンパ……なぁ。急に言われても、ボクいつもいつもしてますし。つーかアレ?カミやんの知り合いがボクにナンパされて腹立ったー、みたいな話?」

青ピ「やったらボクちゃうよ。そないに強引なナンパしとっても、女の子引くだけで成功する訳ないし、非効率的やわ」

上条「違う違う。そこら辺を疑ってるつもりもなくてだ。知り合いは知り合いなんだが……あー、怒ったとかそう言うんでもないんだよ」

上条「その、変な臭い――もとい、変な感じとかしなかったか?」

青ピ「エラいまたフワッフワとした聞き方やね」

上条「ちなみに外見は金髪の外人で、大体中学生ぐらいの子だ」

青ピ「の、女の子?」

上条「あぁそうだよ女の子――ってお前イマなんて聞き返したっ!?すっげー危険な内容だった気がするぞ!」

上条「ペンで差別煽るバカどもがまた俺達のせいにしたがってんだから!自制する所は自制しとけ、な?」

青ピ「やー、でも今時の学園都市でパツキンの子ぉて結構居ますやん?ガイジンさん含めても」

上条「居るなぁ。知り合いにも何人か居るし」

青ピ「殆ど挨拶代わりにナンパしとるけども、そんなに変わった子ぉや切羽詰まった感じの子ぉはおらん……かった、筈やね」

青ピ「もし少しでもおかしなカンジやったら憶えとぉ筈やし、なん危険やと思ぉたらその場で首突っ込もぉわ」

上条「だなぁ……うーん」

青ピ「なになに?なんや困り事やったらボクも手ぇ貸すよ?」

上条「お前、知り合いに死霊術士とか居なかったっけ?」

青ピ「ネク、ロ……?なんて?」

上条「いや冗談。思い出してたら教えてくれるだけで充分だよ、ありがとな」

キーンコーンカーンコーン

小萌「――はーい、チャイムは鳴ったのですよー、席について下さいねー」 ガラガラ

青ピ「あぁ小萌センセ今日もキュートやわ……!」

上条「ほれ、吹寄にドツかれる前に座っとけ」



――学校 授業中

上条(青ピからは全然聞き出せなかった訳だが……さて)

上条(幾つか情報は集まった訳で、今のウチに整理をしよう) カキカキ

上条「……」

上条(授業中に授業サボって小説や絵ぇ描いたりするのって、どうして集中出来るんだろうか……?まぁいい)

上条(えっとまず……『死人は危険だ』って事が大前提。科学的な意味ではパンデミック、魔術的な意味では”I Really Like You!”と)

上条(とはいえ、必ずしもその『危険な死者』として甦る訳じゃない……特にギリシャ神話の場合、綺麗な死者として共存出来るかもしれない)

上条(事件のトリガーとなったのは”エンデュミオンの恋人”……魔神セレーネの『常世』の術式の影響か)

上条(この夜とあの世の境が曖昧になり、死者が墓から這い出て生者と共に生き続ける……それは、幸せなのかも知れないが)

上条(実際に俺は”こっち側”へ来たフレンダと遭遇してるしな)

上条(んでもってフレンダの場合……もう既に死んでる人間だってのは確定)

上条(ただ、その、『危険な死者』かどうかは分からない……俺的にはそうでなくて欲しいが)

上条(少なくとも……あん時に数日ぐらい前から境界線は綻び始めてたらしいが、その際に人が襲われた事件は起きてない)

上条(そんな事がありゃ今頃ニュースでやってるだろうし、アングラに近い都市伝説界隈のサイトがお祭り騒ぎになってる筈だからだ……不謹慎だけどな)

上条(まぁ”どこかの誰かが完璧に情報封鎖している”可能性もあるが……そんな『ぼくらをしはいしているやみのせいりょく』の可能性を考慮してたらキリがない)

上条(風紀委員の初春さんと白井も忙しそうじゃなかったし、佐天さんも暇そうにしてたんで、そんな大事件は起きてない――事から)

上条(フレンダは人を害するような、悪い『死人』ではない。俺はそう思う)

上条「……」

上条(……下手したら俺が第一の被害者になってた可能性もあるが、まぁ賭けに勝ったって事で……ありゃ?)

上条(そういや朝ペタペタ触ったが、あん時に『右手』使ってた、よな……?)

上条(つーことは生身――な、筈はないから、あの姿がフレンダにとって”自然”なのか?)

上条(……最近『幻想殺し』の能力もなんかこう、曖昧になって来たような……まぁいいか)

上条(ともあれ”海原から聞いた”ように『死者以外の形態へ変換させる』事で、死人のデメリットはなくせると)

上条(取り敢えずすんのはフレンダの経過観察、平行してなんかこうスッゴイ死霊術士?だかを探すと)

上条(イギリス組に見つからないようにすんのは一苦労かも知れないが、まぁまぁ、フレンダも勘違いしてる分だけ慎重になるだろうから、うん)

上条(少しずつだが情報も集まって来たし、先も見えてきた。これなら何とかなりそうだ!)

上条「……」

上条(情報、そう情報って言えば――佐天さんにここ最近の都市伝説調べて貰ってんだよなー)

上条(喜んで大量のメールが来てそうな感じだが、昨日の夜から何のレスもない――)

上条(――じゃねぇな!最新式のスマフォ折られたんだったよ!昨日の夜にねっ!)

上条(SIMカード抜いてきたから帰りにどっかで契約しねーと……はぁ。短かったよ、俺の最新家電生活……!)

上条(……待てよ?然るべき筋へ頼んだら内蔵メモリの復旧も可、か……?あとで調べとこう……そう!ご家族のためにも!)

上条(決して!やましい気持ちはこれっぽっちも無いさ!)



――放課後 携帯電話ショップ前

ウィーンッ

店員「ありがとうございましたー、またのご来店をお待ちしておりまーす」

上条「……」

上条(以前の機種に戻しておいた。まぁ使えればそれでいいしっと……さて) ピッ

上条(メールは転送されて――る、な。自動的にストレージへバックアップされる設定にしといてホントに助かった……!)

上条(新着はアリサとレッサーだけでー、佐天さんからは特に来ては……ないか。少し期待してたんだけど)

上条(アリサからのはなんだろ?時間的には日付変わるちょい前)



――Title お疲れ様です From【鳴護アリサ】To自分

お疲れ様です。なんか大変そうだけどガンバってね?あたしもお手伝い出来そうな事があったら、頼ってくれると嬉しいかも
あ、あと今度出すジャケ出来ました。感想よろしくねー、じゃあオヤスミナサイ……



上条(なんだろうな、こう癒やされるっていうか)

上条(俺にも心配してくれる人が居るんだ、と思うと嬉しいよなぁやっぱり)

上条(ジャケ?なんだろ、写真集かな?ARISAの……ふーん?写真集ねぇ……出すんだ?)

上条(いや別に興味ないよ?アリサはアイドルっていうよりも友達だからね、うんっ)

上条(でもホラ!礼儀ってあるじゃないかな、こう親しき仲にもー、みたいなの)

上条(だからこう興味はない、あんまりないんだけども、こう――)

上条(――速攻で添付画像を開封する……ッ!!!) ピッ

上条「……あれ?」 ピッ、カチカチッ

上条(開かないな?どーゆーワケ――)

携帯電話の画面【※画像データは破損しています。転送元のスピンドルをアクセス可能な状態にしてください】

上条「嘘ぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!?」

通行人 ビクッ!?

上条「マジかよ!?なんで大事な時に限って消えてやがるんだよ!」

上条「かでなれお○と坂ノ上朝○と河中麻○と杉原杏○と次原か○と鷹羽○と結城舞○と小瀬田麻○のいいとこ取りしてるたゆんたゆんが……ッ!!!」

上条「……なぁ、知ってるか?」

通行人「……」

上条「本当に――そうっ、本当の巨乳ってヤツは――」

上条「タオルが”乗る”んだよ!抵抗があってタオルさんが下に落ちないんだ……っ!」

上条「こうなったらビリビリに土下座して壊れたケータイからサルベージして貰うしか……!」

上条「……」

上条(……ダメだ!怒りのままに襲われる未来図しか……って)

上条(……なんだろ。俺のテンションおかしくねぇかな?深刻な事件だってのにギャグばっかだしさ)

上条(そもそも女の子に『きゃーえっちー、パチーン』的な展開って、日常生活でそうそうないような……?)

上条「……」

上条(あ、うんいつも通りだった。良かったー、気のせいで良かったー)

上条「……次、レッサーさんからのメールはっと。もしかして何か進展あったかも」 カチッ



――Title 『新たなる光』は力強い人材を募集しています! From【レッサー】To自分

うだつの上がらない日々をなんとなく生きてるアナタに朗報です!
私達はストレングスな仕事とベストパートナーをお約束する会社です!
信頼度は全英でナンバーワン!実際信頼出来ます!
今ならば各種死亡保険は完備します!残されたご遺族にも笑顔でハッピー!実際ハッピーです!

たった一度の選択肢で灰色の人生は明るくマゼンダなライフを保証するでしょう!
『新たなる光』はあなたの入会を求めています!



上条「スパムじゃねーか!しかも日本語が胡散臭くて『これ誰が引っかかるんだろう?』って時々見かける類の!」

上条「そりゃ確かに『新たなる光』に入れば良くも悪くも人生変わるだろうさ!旅の間で思い知ったけども、マゼンダっつーか血みどろに決まってんだろ!」

上条(……寝る前に見なくて良かった……こんなメール読んだら突っ込みたくて仕方がな――ん?大量の改行の後に、まだ文章が……?)



P.S.――あなたを下さいな、ってお話。まだお返事貰ってませんよね?



上条「……」

上条(……卑怯だと思うよ、レッサーのこーゆーとこ)

上条(普通に『あ、可愛いな』って思わねぇワケねぇだろうがよ、ったく)

上条「……はぁ」

上条(ま、そっちの話もきちんと考えないとなぁ。このまま全員で、なんつーフザケた話はないんだし――ありゃ?) ピキーン

上条(佐天さんからのメールが届いた、何々……タイトルは無題で、中にもアドレスが一個入ってるだけ)

上条(URLに”stream”入ってるっつー事は何かのLIVE放送かな?)

上条(何かの手がかりになるかも知れないし、一応) ピッ

佐天『ちゃん・らーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーんっ!!!』

上条「」

佐天『全国1千万人の初春愛してるぜーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーっ!いや言わせんなよマジで!』

佐天『そんなこんなでやって来ました三年目!時系列がおかしいようだけど気にスンナ!多分脚本が間違ってるだけだから!』

佐天『今年も来ましたっ!”学園都市七大不思議探訪出張版”!かかってこいや都市伝説!かかってこぉい!』

鳴護『あの、涙子ちゃん?そのテンションでオカルト番組のMCやるのは間違ってるし、タイトルコール――』

佐天『え?時間が無い?マジですかっ!?』

佐天『それはファミ○の新商品、ヨーロビアンポテ○にヨーロッパ要素皆無なのとどっちが大切ですかね?』

鳴護『――はいっ!私達は”いつも皆さんに寄り添う関係、TATARAグループ”の、提供でお送りしますねっ!んねっ!』

佐天『チャンネルはそのままで!今日はスッゴイトコ行くぞーーーーーーーっ!』

上条「……………………えっと」

上条「生放送、なんだよな……?」



――XX学区 夕方 学園都市七大不思議探訪出張版オープニング

佐天『――はい、ってな感じで編集点を作りながらやってますが!あいにくの生放送なんで意味はないんですけどねー!』

鳴護『涙子ちゃん大人になろうよ、ねぇ?ここは取り返しがつかないんだからもう少し、うん』

佐天『さーってそんな訳でやって来ました某学区!下校途中の学生さんがチラホラと居ますねー』

鳴護『あ、うんスルーするんだ……あ、はいありがとうございまーす』

佐天『ちなみに画面には映っていませんが、小学生の女の子達が手を振ってくれてますよー。ありがとーねー』

鳴護『っていうか今日は何なのかな?あたし何も聞かされてないって言うか、お昼ご飯食べてたらメール来ててビックリしちゃったんだけど』

佐天『……ふっふっふ!今日はスゴイですよ、つーかあたしもまさか取材許可が出るとは思いもしませんでしたから!』

鳴護『えっと?』

佐天『都市伝説――そう、”友達の友達”から語られる現代の落とし穴!日常に潜む闇がイマっ!私達の手によって暴かれようとしているのです……っ!!!』

鳴護『いや、あのね?だからあたしの質問には一切答えて貰ってないって言うかさ?』

鳴護『あとさっきも言ったよね、あたし?そのテンションはオカルト番組じゃなくって、川○or藤○探検隊のノリだよねって』

佐天『まーとにもかくにも行ってみれば分かりますって!』

鳴護『ちょっ!?涙子ちゃん走るとパンツ見――』

〜暫くお待ち下さい〜



――YY学区 携帯ショップ前の路上

上条「……」

上条(……青、か)

上条(夕暮れのほの明るくも、やや郷愁を感じさせるような陽射しの中、俺の目に飛び込んできたのは青空だった)

上条(時が逆巻いたのかと錯覚する程、それは蒼穹を連想させながら)

上条(ほんの一瞬でありながら、まぶたに焼き付いたストライプブルーは心臓の早鐘を鳴らすには充分な衝撃だった)

上条(まだ幼く、充分に成長しきっていない肢体を覆い、未だ汚れを知らす……だがこれからはその保証がない少女を守る鎧となって――)

上条「……」

上条(……はっ!?現実逃避してる場合じゃないな!)

上条(……でもありがとうとだけは言っておくよ!他意は無いけども!あぁこれっぽっちも他意なんてないさ!)

上条(ていうか柵中セーラーで堂々番組する低予算っぷりは相変わらずだな!オービットがスポンサーやってる筈なのに!)

上条(……まぁ風評被害で大変なんだろうが――っと、そういや)

上条(レディリー、セレーネの事件が解決してから見てないよなぁ?何やってんだろ?)



――XX学区 路上 学園都市七大不思議探訪出張版Aパート

佐天『――いやー、実はですねぇ。最近とある噂が流れてるんですよっ!』

鳴護『番組の紹介もなく始めるのはどうかと思うんだけど……』

佐天『大丈夫ですっ!こう見えても結構長い事続けてるんで!』

鳴護『あーうん。ご長寿番組だから今更企画の説明しなくても、みたいな?』

佐天『どうせこの番組見てる人、みんな大好きJCなだけですから!』

鳴護『言葉を選ぼうかな、ねぇ?なんとなくその台詞で視聴者層が分かっちゃったけど、もっとこう、うん、オブラートに包もう?』

佐天『視聴率は悪い反面、何故か円盤が2万弱は必ず売れるという、ある意味番組自体オカルトになっちゃってますからねー』

鳴護『あー、カルト的な人気があるのはないよりも良い事、とは思うよ』

佐天『では初見の方にも軽くご説明致しますと、この番組はダラダラッと都市伝説を扱ったり扱わなかったりする番組ですなっ!』

鳴護『扱わないんだ……そっかー……』

佐天『なんとファーストシーズンでは喫茶店でダベってただけの回が二本もありました!』

鳴護『深夜番組ってそういうの多いけど、最近だと逆に珍しいんじゃ?』

佐天『この街のローカルケーブルテレビ、しかも学生がディレクターから編集まで全部やってる局なので、まぁお察し下さいと』

鳴護『採算的なものは取れてるのかな――って、あ、生放送で言っちゃマズいか』

佐天『メインスポンサーのTATARAさんが映像関連のモニタも兼ねて機材を提供して下さってるそうで――あ、そだっ!』

佐天『いつもありがとうございまーすっ!次は局のみんなでお寿司を奢ってくれたら嬉しいかもですよーっ!』

鳴護『自重しよう、ねっ?そろそろ番組的にも本題に入らないとマズいから!』

鳴護『ていうかこんな時に限って当麻君居ないし!相方が出来たのにあたしの負担が増えてるよっ!』

佐天『というかカメラマンの方、いつもARISAちゃんのジャーマネさんがやってましたけど、今日はいらっしゃらないんですね?』

佐天『いつもだったら絶妙のタイミングでカンペが跳んでくるのに、少し物足りないような』

鳴護『んー……そっちはちょっとあった、の、かな?あたしもよく知らないんだよ』

佐天『それじゃーおフザケはここまでにして、本題へ入りたいと思いますが――ARISEさん!』

鳴護『あたしの名前じゃないです。それ攻殻な機動隊さんの最新シリーズだよね?』

佐天『アナタがまず!「都市伝説と言えば?」と聞かれて思い浮かべるのはなんでしょうかっ!?』

鳴護『えぇー……?そうだなー、えっとねー――』

佐天『――人面犬ですよねっ!ありがとうございましたっ!』

鳴護『まだ何も言ってないし!?尺が足りなくなったからってその展開はどうかと思うな!』

鳴護『だから本番前にあれだけ「フリーダムな司会進行だけは自制しようね!」ってお願いしたのに!』

佐天『……この世界には数多の都市伝説があります……!ツチノコ、モスマン、モンゴリアンデスワーム……!』

鳴護『涙子ちゃん、チョイス狭くないかな?てか都市伝説よりかはUMA側の人達だよね?人かどうか分からないけど』

佐天『確かに……そうっ!それは私達の想像の産物、暗がりを嫌う恐怖心を母に持つだけなのかも知れません……ですがっ!』

佐天『時として彼らは奇妙な世○からアナタを虎視眈々と狙っているのですよ……ッ!!!』

鳴護『ねぇなんでUMAから世にも奇妙な○界に話が跳んだの?ベクトルは同じかもだけど、一気に話が深夜ドラマってぼくなるよね?』

佐天『この世には、目には見えないが様々な妖怪変化――』

鳴護『地獄先○のオープニングをここで始める必要はなくないかな?っていうかそのネタ、どうせするんだったら最初で良いよね?』

鳴護『タイムキーパーさんが「もうAパート終りますよ」ってカンペ出してるし……うんっ!』

鳴護『えっと……緊急告知しますっ!てか応募しますっ!』

鳴護『XX学区の近くに居てツッコミスキルをお持ちの方は至急来て下さい!あたしだけじゃツッコミが追い付きません!』

鳴護『ていうか当麻君っ!見てたらタクシーでもなんでも拾って助けに――』

プッ

CM『――TATARAはあなたの生活を応援します』



――YY学区 携帯ショップ前の路上

上条「……」

上条(放送事故、だよね?てか大丈夫か?もうダメだと思うけど)

上条(つーかオープニングから微動だにせず、全く同じ路上で女の子二人が掛け合い漫才やってるだけの番組て!どこに需要があんだよ!)

上条(てかオカルト関係ないしな!……や、まぁこのグダグダ感は嫌いじゃない、嫌いじゃないんだが……)

上条(喉枯らすまでツッコミに行きたいのは山々なんだけども、こっちからXX学区まで……あー、車に乗っても……放送時間内に行けるかは微妙か)

上条(これ、本当にBパートで終るのか……?まだ話のとっかかりしか流してない……)



――XX学区 路上 学園都市七大不思議探訪出張版Bパート

佐天『――あいっ!てなワケで学園都市に起きた様々な事件や噂を検証するこの番組ですがっ!』

鳴護『あー……Aパートの頭にそれ言えば時間押さなかったのに……』

佐天『実はですねー、最近また新しい噂が流れていまして』

鳴護『噂……コワイ系の?』

佐天『じゃなくってジンクス系でしょうか。なんとっ!おまじないで願いが叶うという話ですよっ!やったねっ!』

鳴護『あたしは……うーん、四つ葉のクローバーぐらいしか知らないけど、どんなお話なのかな?』

佐天『以前にもこの学探では”両思いになれる自販機!”や”遊園地のジンクス!”も取り上げましたが、どーやら噂は噂にしか過ぎなかったようです!』

鳴護『や、あのさ?DVD見たけど自販機の方はどう考えても設定に無理があるし、そもそも犯罪だし』

鳴護『遊園地の方も、ある程度仲が良くないと男の子と一緒に観覧車は、正直……うん、考えちゃうと思うんだけどさ』

佐天『で・す・がっ!今度は本物、多分本物、本物だったら良いなという気持ちでTATARAグループの提供でお送りします!』

鳴護『涙子ちゃん涙子ちゃん、スポンサーさんから”社名連呼されると企業好感度下がるから控えてね”って釘刺されてたよね?』

佐天『――さあっ!到着しましたっここがっ!』

佐天『――”ニホンダルマ日本支店”です……ッ!!!』



――YY学区 携帯ショップ前の路上

上条「すいませーんっ!タクシーっ!XX学区まで高速使っていいから全速力で!」



――XX学区 ニホンダルマ日本支店前 学園都市七大不思議探訪出張版Bパート

佐天『先人曰く――虎穴にハイランダー誇示終えず!』

佐天『つまりはイギリスの戦闘民族ことスコットランド人が最強である証明でしょーかっ!?』

鳴護『涙子ちゃん、ちょっとシーで?今カメラマンさんが全体図を撮ってる最中だから』

佐天『やだなぁちゃんと実況しますってば。ほらカンペにもそう指示が』

鳴護『うん、だからね?あれもこれも口に出して良くはないよね?』

佐天『そろそろ怒られそうなので真面目に解説しますと、見た目は……そうですね、普通の白と青色のコンビニっぽい感じです』

佐天『ちょっとアレレなのは正面の自動ドアの上に”ニホンダルマ日本支店”の看板と、10月なのに”冷やし中華始めました”の幟が……』

鳴護『なんかこう、どんな街にも必ず一軒はあるような、やってるのかやってないお店って感じ、かな?』

佐天『もしくは潰れたコンビニの建物を、改修無しでそのまま使ってる雑貨屋さんですかねー?妙に外側が新しい気もしますが』

鳴護『えっと……で、どうするの?てか怪しいお店だとは思うけど……』

佐天『じゃーんっ!これ見て下さい、これっ!』

鳴護『んー……デジカメ?』

佐天『TATARA製の最新式ですよっ!暗視モード搭載でお気軽に盗撮も可となっておりますっ!』

鳴護『涙子ちゃん言ったよね?わたし言ったよね、CM中にもっとしっかりやろうって!』

鳴護『この流れでスポンサーさんのステマにもなってないあからさま過ぎるコマーシャル始めたら、視聴者の人怒ると思うんだよ、うん』

佐天『でわでわっ!時間も押しまくってるそうなので店内へ突撃したいと思うでありますっ!』

鳴護『原因の9割は涙子ちゃんだと思うし、そもそも都市伝説がどんなものなのかすら明らかになってないし……っていうか、ちょ、ちょっと聞いていい?』

佐天『どぞ』

鳴護『まさかとは思うんだけど――このお店、きちんとアポ取ったんだよね……?』

佐天『……』

鳴護『……』

佐天『――ごめんくださーーーいっ!ちょっと取材したいんですけどーーーーーーっ!』 ゥィーンッ

鳴護『ツッコミはっ!?当麻君急いで来てくれないとあたしじゃボケが捌ききれないから早くっ!』

佐天『あ、そうだ。上条さん新しい都市伝説、探したら見っけたんで後からメール出しときますね?』

鳴護『公共の電波だから!あたしもヒトの事言えないけど個人名は出さないであげて!』



――ニホンダルマ日本支店内

佐天『――ごめんくださーーーいっ!ちょっと取材したいんですけどーーーーーーっ!』 ゥィーンッ

レッサー『えーらっしゃいあ……せ?』

佐天『お邪魔しまーすっ!昨日メールで取材をお願いした者ですけ……ど?』

鳴護『ゴメンナサイゴメンナサイゴメンナサイっ!直ぐ連れて帰りますからまた警察呼ぶのだけは!』

鳴護『もう朝までずっとじゃんじゃん言うおねーさんに優しく説教されるのはイヤなんですっ!だからそれだけは堪忍して下さ……い?』

佐天・レッサー・鳴護『……』

鳴護『――って涙子ちゃん関係ないよね?てかなんで見つめ合っ――』

レッサー『そもさんっ!』

佐天『せっぱっ!』

鳴護『うぇ?えっ?えっ?』

レッサー『ある日、スティーブがボクへこう言ったんだ』

レッサー『「Hey, マイコォ!オレのパパは勲章を貰ったんだけど、一体何で貰ったのか分かるかい?」――ってね!』

鳴護『展開間違えてないかな?今の前フリだと、ちょっとトンチっぽい洒落たお話の筈なのに、どうしてアメリカンジョークになってるの?』

佐天『「Oh.,スティーブ!そんな簡単さ!」と、続けてマイコーはこう答えました』

佐天『「――お前のママと寝たからだよ!」ってね……ッ!!!』

鳴護『まさかの下ネタっ!?それも事務所的にNGっぽいし!』

レッサー『……』

佐天『……』

鳴護『ど、どうした、の……?』

レッサー・佐天『親友(トモ)よ……ッ!!!』 ガシッ

鳴護『あー……波長合っちゃったかー、てか、うん、なんかこう、うん……』

佐天『てな訳で取材させて下さいなっ!丁度お客さんも居ませんし!』

レッサー『あー、どうぞどうぞ。見られて困るようなもんはありませんし』

レッサー『(どうせ売り抜けたらドロンしますから)』

鳴護『……や、あの、ちょっとレッ――店員さん、いいかな?』

レッサー『初対面ですけどなんでしょうか、着やせアイドルのARISAさん?』

鳴護『(そういうのいいから、ちょっと、ちょっとこっちへ!)』

佐天『あ、お手洗いですかー?それじゃ今のウチに店内紹介しておきますねっ』

鳴護『違うんだけど……うんまぁ、オネガイシマス……』

佐天『さぁさぁ許可も下りましたしー、店内を見渡せば……あー、なんか”それっぽい”オカルトグッズが所狭しと並べられてますねぇ』

佐天『分かりやすいのだとタロットカードや水晶、蝙蝠の羽根っぽいのですね』

佐天『あっとはー――あ、なんでしょアレ?カメラさんもう少し左左。そう、そこの棚の端っこです』

佐天『何かのぬいぐるみですかね?前に流行ったブサカワイイ系かも?へー』 ツンツン

マーリン『おおきに!ワイはマーリン!アルビオン生まれの大魔術師やで!』

マーリン『ワイと契約して魔法少女なっとぉ!今ならサービスであのアホのかけた666の呪いも解いとぉわ!』

佐天『わースゴイ!ちっちゃいのにお利口さんなんですねー!』

マーリン『なんでも聞きぃよ。ワイ答えとぉわ』

佐天『んー、そーですねー。聞きたいもの聞きたいもの……あ、そだっ!』

佐天『恋愛運っ!あたしの将来の旦那様ってどんなカンジなんでしょうかっ!』

マーリン『そやんなぁ、まずアンタは人の彼氏を好きになるタイプやんなぁ、違ぉ?』

マーリン『親友や友達の彼氏、もしくは好きな相手の話を聞いているウチに、段々気になっとぉて、最後には好きになっとぉ』

マーリン『で、自分の中に生まれた恋心に気づいた時にはもぉ遅ぉて、「ま、いっか」で済ますー、みたいな?』

佐天『エラく具体的に恋愛相談で、むしろ心当たりがあるようなないような、イイ感じにモヤモヤっとしましたが……』

佐天『てかこれ商品、ですよね?他に何体も並んでますし、ちょっと欲しいかも』

マーリン『やったらワイを掴んでレジへゴー!もうフォアグラの刑はカンベ――』

ガシッ

マーリン『え?』

ランシス『……』 フルフル

佐天『あ、店員さんですか?これ一体何の商――』

ランシス『……』 フルフル

佐天『えっと……』

レッサー『はーいどうされましたかっお客さんっ!何か問題でもっ!』

佐天『あ、お帰りなさい。あのですねー、このファービ○モドキをですね』

レッサー『チッ、また脱走謀りましたか』

佐天『はい?』

レッサー『中身がバグってるらしくて、たまーに動作が不安定になるんですよっ!いやー古いIC載せてるからですよねぇっ!』

佐天『いやいや、でもこれだけ流暢に喋れるんですから凄いですって!……あ、でもお値段はそうとうお安いみたいですけど』

レッサー『――それでっ!?どローカルの深夜番組さんがどうしてこんなチンケな小売店までお越しになったんでしょーかねっ!?』

佐天『いえそんなことよりも、この謎マッシーンの中身が気になるって言いま――』

鳴護『なんでも願いが叶うってアクセサリーがあるらしいよっ!涙子ちゃんも言ってたのかせ気になるなぁー!』

佐天『あー、はいはいっ、そうでしたそうでしたっ!取材しに来たんでしたっけ!』

鳴護『そ、そうだよー!全く涙子ちゃんったら!』

佐天『ま、それはさておきその人形をですね――』

鳴護『レッ――店員さんっ!何か話題になっているアクセサリーはありませんか、っていうかあったよねっ!?』

レッサー『はいっそれはもうご用意して御座いますっ!その名も――』

レッサー『――”幸運の一ペニー”っ!』

佐天『わー、すごー……い?ですか?』

レッサー『えぇまぁ大体アメリカへ行ったブリテン移民の間で語られているジンクスですな』

レッサー『早起きし、最初に道に落ちてた1セントを”ラッキーペニー”と呼び、幸運のシンボルだとされています』

佐天『へー……ん?あれでもそのお話、1”セント”なんですよね?』

佐天『てかイギリスあんま関係ないですよね?ペニーもイギリスで使われてる硬貨なのに、なんでアメリカで噂に――』

鳴護『あ、あれじゃないかなっ!?早起きは三文の得、みたいな感じだよきっと!」

レッサー『ちなみにアメリカの東海岸辺りでは、1セントや幾つかの硬化を潰してペンダントにする、って風習があります――が!』

レッサー『日本でそれをやると懲役刑も待ってますので、ダメ!ゼッタイ!……ま、たまーに自称アーティストが、シルバーアクセ造ろうとしてやらかすらしいですが』

佐天『まぁそれは別にいいんですが、例のもふもふが絶望的な顔でバックヤードへ連行されていくのが見えたんですけど』

レッサー『上条さんっ!?上条さんは今いずこに居られるんですかっ!』

レッサー『どうやってこのパンジャンドラムさんを制御出来たのかと小一時間!つーかアータの管轄だから引き取って下さいなっ!』

鳴護『ていうかレッサーちゃんにもツッコミが必要なんじゃないかな、ってちょっと思ったり?』

佐天『あ、あっちの方にエレザー○の鎌が!』

鳴護『涙子ちゃんそろそろ収集がつかなくなって来たから、ねっ!?イイ子だからそろそろ学習しようっ!?』

佐天『――ふっ!このわたしを止めたいのであれば、それ相応の手段が必要ですなっ!』

レッサー『……私が言うのもなんなんですけど、この方重度の中二病を罹患されていますよね、えぇ』

鳴護『ある意味、二人は実行力はハンパなさ過ぎなくて持て余す、っていうか』

???『――たった一度のオンエア捨てて、急いで来たら間に合った――』

レッサー『あれは……まさかっ!?』

???『――ボケにツッコミ叩いて砕く!俺がやらねば誰がやる……ッ!』

佐天『――はいって言うワケでそろそろお別れの時間と相成りましたっ!いやー、残念ですが今日も都市伝説の謎には迫れませんでしたねー!』

???『ねぇ聞いて?タクシー飛ばして貰ってきたのにスルーするってどういう事?』

佐天『それでは皆さんサヨウナラ!いつかやったる第二シーズン!お相手は佐天涙子とっ!』

鳴護『あ、ARISAでっ!』

佐天『で、お送り致しましたっ!』

???『マジか?俺呼ばれたのに声だけで紹介もしないで終るの――ハッ!?』

???『もしかして佐天さん、キミこうなるように最初から時間を調節し――』

佐天『うっいっはっるーーーーーーーーーーーーーーーーーーっ!あいしてーるぞーーーーーーーーーーーーーーーーーーっ!!!』

プツッ

ナレーション『この番組は「残像?違うなこれが本体だ」で未来をお届けする、TATARAグループの提供でお送りしました』



――ニホンダルマ日本支店

上条「つーか今の提供もおかしいだろ!?残像じゃなくて本体に当たったんだったら、それ直撃してるって意味だ!」

上条「可愛いけど残念な子に段々と侵食されてんぞTATARAグループ!もういい加減にしやがれ!」

佐天「あ、ども上条さん、こんにちわー。CASSHE○N似てませんでしたよ?」

上条「いや確かに俺も悪かったけどさ!つーかここまで番組グダグダにしたのは誰のせいだよっ!?」

佐天「あ、すいません。この鎌お幾らですか?」

上条「聞きなさいよっ人の話、は……」

佐天「ていうかこれ超レアですよっ!見て下さい、ほらっ名前っ!」

上条「……あぁうん、名前っつーか、見覚えあるよね、これ」

上条「死神が持ってそうな大きな鎌、あーっと王冠みたいなのがぶら下がってるし……」

佐天「てゆーかあたし、この死神鎌装備した人に路地裏でお会いしたよう、な?」

上条「どれだけ君は引きが強いんだよ!?というかまたどっかで危ない橋を爆走してやがるし!」

佐天「はい?」

上条「フィクションですね、それは多分夢かなんかだと思いますよ?」

佐天「でっすかねぇ……その直後にシスの暗黒○っぽいおじいさんに道を訊かれたり」

上条「HAHAHAHAHA!!!何を言っているのか俺にはサッパリだが、この世にオカルトなんてものは存在しないと思うよ!」

レッサー「ありますけど」

鳴護「――はーい、レッ――店員さん、こっちへ、ね?」

佐天「なーんか割と人見知りするタイプのアリサさんが店員さんと親しげな……?」

上条「細かい事気にしちゃダメだ!感じるんだ!」

マーリン「そぉそぉ。何事もあんま頭固くせぇへんと、気軽に考えんとダメやで?なんや言うても、最後はノリと場の勢いでどぉにかなるモンやし」

佐天「あの上条さん」

上条「訊かないで」

佐天「このぬいぐるみ、空、フワフワ飛んで……?」

上条「い、イリュージョンじゃないかな、きっと多分うんそうに違いないよ!」

マーリン「アンタ魔術に興味あるみたいな事言ぉとぉ?やったらワイが全般教えとぉで?」

マーリン「そぉなぁアンタは……あぁエアリエルと相性エエみたいやし、まずぅあのアホの獣の刻印解除しよぉるから、コナートのワイの墓まで来ぃや」

マーリン「やないてと頭バーン!ってなるやさかい、頭バーン!って」

佐天「はいっ、バーン!」 BANG

マーリン「やーらーれーたー――ってワイに何しさらすのんっ!?ワイは大阪人ちゃうで!」

マーリン「バーン!やろぉてバーン!するんのはバーン!好きなバーン!とミストバーン――」

上条「はいバーン」 タッチ

マーリン「ギぃニャアァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァ……ッ!?」 パキィインッ

マーリン「……」 クテッ

上条「……ふう、これで良し!それじゃっ、俺はこれで!」

鳴護「え!?場を収集しないで帰っちゃうの!?」

佐天「てかこの子大丈夫ですかねー?電池切れちゃいましたか?」

レッサー「あー、今ちょっと修理に出しますんでね、お嬢さんにはこっちの喋らないのをプレゼントします」 ポイッ

佐天「え、マジですか!?ラッキー」

レッサー「だから帰って下さい。出来る限り速やかに、えぇ」

ベイロープ「なんか用事でもあるの?」

レッサー「ちゅー訳ではないんですが、この騒ぎをベイロープに知られたら確実にケツ引っぱたかれますんでね」

鳴護「あのぅ、レッサーちゃん?なんて言うかな、こう、ね?」

レッサー「てか聞いて下さいよ皆さん。こないだもですね、あのいい歳してんのに処女が私のケツを8ビートでぶっ叩きやがりましてね」

レッサー「スカじゃないんですから!危うくもう少しで気持ち良くなる所でしたよ!」

ベイロープ「……へぇ」

ランシス「……シムラー、後ろ後ろ」

レッサー「あい?」

ベイロープ「レッサーはこっちに――で、お客様、大変申し訳ないのですが、アポイント無しでの取材はこれ以上承りかねます」

ベイロープ「どうしてもと仰るのであれば、また後日ご連絡を頂ければ対処したく存じますので」

上条「(あれ?意外に常識人?)」

ランシス「(……対外的には、まぁこんな感じ)」

佐天「そーですかー、それではまたっ!」

鳴護「……はぁ」

佐天「あ、ほらアリサさんも帰りますよー?何お店側の人っぽくなってんですか」

鳴護「気苦労、そう気苦労的な意味でね!」

上条「……いや、なんか流れで来たけど……お前らも程々にしとけよ?」

レッサー「いやぁ楽して金を儲けようとするもんじゃないですねー!あっはっはっはっはっー!」

ベイロープ「あなたはこっち、ね?」

レッサー「……あい」

上条「何やってんだが……まぁレッサーが悪い訳じゃないんだろうし」

上条「あー、もうこれは一度初春さんとビリビリに会って、佐天さんの教員方針について話し合う必要があるよなー」

カメラマン「……」

レッサー「カミジョー、うしろうしろー」

上条「はい?――あぁカメラマ、ン、さん……」

シャットアウラ(カメラマン)「――やっと捕まったな、ん?」

上条「……あれ?シャットアウラ、さん?」

シャットアウラ「まぁ……アレだ。私も色々と君とは話し合いたいとは思っていた所なんだがな」

上条「そ、そうかなー?いやでも俺は別にだな」

シャットアウラ「主に”ARISA”のアイドルイメージを大きく損ねたバカの件について」

上条「……あい」


(以下『胎魔のオラトリオ アフターシナリオ”死者の書” 後編 』へ続く)

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